ゲスト
(ka0000)
丘にそびえる骨巨人
マスター:馬車猪
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 5~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/06/10 22:00
- 完成日
- 2019/06/15 10:28
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●骨の歪虚
灰色の巨人がいる。
至近距離からなら、五体全てが人骨でできているのが分かるだろう。
人間が視界に入り、冷たいマテリアルが虚ろな眼窩に集まった。
そして巨人は動き出す。
片手で掴んだ土は圧縮されて鉄以上の固さを持ち、怨念と負マテリアルに支えられた巨腕が投石機として機能する。
分厚い盾ごと全身鎧の兵が吹き飛び、背後のVolcaniusに圧縮塊ごとめり込んだ。
だがVolcaniusは単独ではない。
大破した個体を除く全機がひたすら炸裂弾を連射して、小高い丘の上にそびえる骨巨人を削る。
「敵増援っ!」
丘からスケルトンが下ってくる。
錆びた大盾と槍を構えた、古臭い密集陣形だ。
知性の薄いスケルトンでは素早い方向変更は不可能。
しかし広範囲殲滅力を持たない兵士では足止め困難で、Volcaniusの一部を迎撃に回さざるを得なくなり骨巨人への圧力が鈍る。
最終的には泥沼の消耗戦にもつれこみ、少数の兵士とVolcaniusだけが生き残った。
●一般的王国領主の足掻き
隣領を滅ぼせるだけの戦力だった。
先陣は薄い革鎧の覚醒者達。
雑魔なら無傷で仕留められる剣技と10中9躱せる回避の技を兼ね備え、強力な部隊を相手にしてもしぶとく持ち堪える。
本陣の中心は真新しいVolcaniusだ。
炸裂弾を山ほど積み込まれ、護衛の重装甲兵に守られている。
ワイバーンのような空中戦力は無いが、全ての隊に通信機と双眼鏡と自転車が行き渡っている。
隣接領主全員が連合しても勝ち目のない戦力だったのだ。
「Volcaniusの下半身が動きません!」
「後回しだ。負傷者最優先で後送しろっ」
「順番ん? 傷が重いのからだ身分など無視せんか!」
なのに半壊した。
隣領との境界が入り組みすぎた土地へ攻め入り、長年そこを占拠している歪虚相手に力を使い尽くした。
「閣下」
累代の家臣が、ママチャリでやって来て主に諫言しようとした。
「分かっている」
鍛え抜かれた体を野戦服で包んだ貴族が、眉間に深い皺を寄せため息を耐える。
幸運にも戦死者0だが重傷者は多数。
Volcaniusもメーカー修理が必要な個体が3割を超えた。
消費した弾薬やポーションの補給にかかる費用で今年の予算が尽きる。
「しかしやらねばならんのだ。私の予想が半分でも当たっていれば……」
少し前、ハンターズソサエティー支部に立ち寄ったときのことを思い出す。
職員にはいつも通りに丁寧に応対されたが、域内政治で培った危機感が人生最大の警鐘を鳴らしていた。
「領民の移送は順調か」
「防壁内への予定通り今月末には完了する見込みです。今回の歪虚討伐で旧道が使えるようになりますので、1週間程度早くなる可能性が……」
「2週間早めろ。王都の資産を売り払って馬車購入に充てるように」
「若っ!」
家臣が顔をあげた。
「何を考えているのです。このままでは次の代に引き継ぐことも」
主君が乱心したなら、影腹を切り押し込めるつもりだった。
「全滅すれば終わりなのだ」
領主の瞳を見た瞬間、家臣の舌が凍り、納得できてしまった。
「初代からの歴史も、領民に苦労を強いて維持してきた物も、全て消えるのだ」
万が一王都が滅んでも生き抜く自信はある。
だが、この後発生するのは大精霊が滅んでもおかしくなく大動乱だ。
「残りの歪虚の始末はハンターに依頼する。お前も妻子は街に避難させておけ」
家臣は、ただうなずくことしかできなかった。
●査問会
「君、情報を売り渡したのかい?」
「ネタは割れてるんだよ。今認めれば情状酌量も……」
圧迫面接より数割増しの圧力を受けているのに、自称美人受付なオフィス職員は鼻で笑って肩をすくめた。
「小芝居は止めて下さいよ。勘や知恵がいけてる人なら気付いて当然です」
王国の領主には鈍いのが多いですけどねと放言しながら、ハンターでも職員でもないのに気付いている者のリストを差し出す。
「あの司祭なんてその日のうちに突入作戦への参加希望出してきましたよ。このリスト以外でも、気付いていないフリをして動いている人は多いと思いますよ」
「やはりそうか」
「いや部長、丸め込まれないでください」
「小芝居は止めて下さいと言いましたよ? 私は王国からの依頼を処理しなきゃいけないんで邪魔しないでください」
うっかり表情に出してばれたことを勢いで誤魔化し、職員は依頼票作成にとりかかった。
●見落とされていた2体目
「あれが依頼の歪虚になります」
案内の兵士が指差す丘に双眼鏡を向けると、CAMを縦に4つ重ねたほどもある巨人が周囲を警戒していた。
「数日前、領主様が同種の歪虚を討伐しました。その時は途中で大量の雑魔が……ええ、写真はこれになります」
スケルトンファランクスという、ファンタジーかつホラーな物が映っている。
「我々は後方支援しかできません。スケルトン2~3体であればどこに逃げても追いついて倒すつもりですが、それ以上のことは……」
写真から顔を上げ双眼鏡を使う。
最初から気になってはいたのだが、丘の奥にある小さな丘に、もう1体の骨巨人が潜んでいることについて説明してくれないのだろうか。
「もう……1体?」
念のため尋ねて見ると、真面目な場面で冗談を言われたときのような戸惑いの表情だった。
「もう1体ですって!?」
真実と分かってからは顔が真っ青だ。
一言断ってから通信機越しに領主に回線を繋ぐ。
「ハンターが偽る理由はない。真実として応対しろ。……報酬の増額は私からソサエティーに伝える」
「了解です。……あの、できれば依頼継続をお願いしたいのですが」
申し訳なさそうに言う兵士に、気にするなとうなずいてみせる。
「そんな……。いえ、ありがとうございます」
この依頼で死ぬつもりのように思われている気がする。
この程度の敵戦力は、最近では珍しくもない。
シェオルがいない分楽とすらいえる。
貴方は同行者と共に、作戦開始前の準備を進めるのだった。
灰色の巨人がいる。
至近距離からなら、五体全てが人骨でできているのが分かるだろう。
人間が視界に入り、冷たいマテリアルが虚ろな眼窩に集まった。
そして巨人は動き出す。
片手で掴んだ土は圧縮されて鉄以上の固さを持ち、怨念と負マテリアルに支えられた巨腕が投石機として機能する。
分厚い盾ごと全身鎧の兵が吹き飛び、背後のVolcaniusに圧縮塊ごとめり込んだ。
だがVolcaniusは単独ではない。
大破した個体を除く全機がひたすら炸裂弾を連射して、小高い丘の上にそびえる骨巨人を削る。
「敵増援っ!」
丘からスケルトンが下ってくる。
錆びた大盾と槍を構えた、古臭い密集陣形だ。
知性の薄いスケルトンでは素早い方向変更は不可能。
しかし広範囲殲滅力を持たない兵士では足止め困難で、Volcaniusの一部を迎撃に回さざるを得なくなり骨巨人への圧力が鈍る。
最終的には泥沼の消耗戦にもつれこみ、少数の兵士とVolcaniusだけが生き残った。
●一般的王国領主の足掻き
隣領を滅ぼせるだけの戦力だった。
先陣は薄い革鎧の覚醒者達。
雑魔なら無傷で仕留められる剣技と10中9躱せる回避の技を兼ね備え、強力な部隊を相手にしてもしぶとく持ち堪える。
本陣の中心は真新しいVolcaniusだ。
炸裂弾を山ほど積み込まれ、護衛の重装甲兵に守られている。
ワイバーンのような空中戦力は無いが、全ての隊に通信機と双眼鏡と自転車が行き渡っている。
隣接領主全員が連合しても勝ち目のない戦力だったのだ。
「Volcaniusの下半身が動きません!」
「後回しだ。負傷者最優先で後送しろっ」
「順番ん? 傷が重いのからだ身分など無視せんか!」
なのに半壊した。
隣領との境界が入り組みすぎた土地へ攻め入り、長年そこを占拠している歪虚相手に力を使い尽くした。
「閣下」
累代の家臣が、ママチャリでやって来て主に諫言しようとした。
「分かっている」
鍛え抜かれた体を野戦服で包んだ貴族が、眉間に深い皺を寄せため息を耐える。
幸運にも戦死者0だが重傷者は多数。
Volcaniusもメーカー修理が必要な個体が3割を超えた。
消費した弾薬やポーションの補給にかかる費用で今年の予算が尽きる。
「しかしやらねばならんのだ。私の予想が半分でも当たっていれば……」
少し前、ハンターズソサエティー支部に立ち寄ったときのことを思い出す。
職員にはいつも通りに丁寧に応対されたが、域内政治で培った危機感が人生最大の警鐘を鳴らしていた。
「領民の移送は順調か」
「防壁内への予定通り今月末には完了する見込みです。今回の歪虚討伐で旧道が使えるようになりますので、1週間程度早くなる可能性が……」
「2週間早めろ。王都の資産を売り払って馬車購入に充てるように」
「若っ!」
家臣が顔をあげた。
「何を考えているのです。このままでは次の代に引き継ぐことも」
主君が乱心したなら、影腹を切り押し込めるつもりだった。
「全滅すれば終わりなのだ」
領主の瞳を見た瞬間、家臣の舌が凍り、納得できてしまった。
「初代からの歴史も、領民に苦労を強いて維持してきた物も、全て消えるのだ」
万が一王都が滅んでも生き抜く自信はある。
だが、この後発生するのは大精霊が滅んでもおかしくなく大動乱だ。
「残りの歪虚の始末はハンターに依頼する。お前も妻子は街に避難させておけ」
家臣は、ただうなずくことしかできなかった。
●査問会
「君、情報を売り渡したのかい?」
「ネタは割れてるんだよ。今認めれば情状酌量も……」
圧迫面接より数割増しの圧力を受けているのに、自称美人受付なオフィス職員は鼻で笑って肩をすくめた。
「小芝居は止めて下さいよ。勘や知恵がいけてる人なら気付いて当然です」
王国の領主には鈍いのが多いですけどねと放言しながら、ハンターでも職員でもないのに気付いている者のリストを差し出す。
「あの司祭なんてその日のうちに突入作戦への参加希望出してきましたよ。このリスト以外でも、気付いていないフリをして動いている人は多いと思いますよ」
「やはりそうか」
「いや部長、丸め込まれないでください」
「小芝居は止めて下さいと言いましたよ? 私は王国からの依頼を処理しなきゃいけないんで邪魔しないでください」
うっかり表情に出してばれたことを勢いで誤魔化し、職員は依頼票作成にとりかかった。
●見落とされていた2体目
「あれが依頼の歪虚になります」
案内の兵士が指差す丘に双眼鏡を向けると、CAMを縦に4つ重ねたほどもある巨人が周囲を警戒していた。
「数日前、領主様が同種の歪虚を討伐しました。その時は途中で大量の雑魔が……ええ、写真はこれになります」
スケルトンファランクスという、ファンタジーかつホラーな物が映っている。
「我々は後方支援しかできません。スケルトン2~3体であればどこに逃げても追いついて倒すつもりですが、それ以上のことは……」
写真から顔を上げ双眼鏡を使う。
最初から気になってはいたのだが、丘の奥にある小さな丘に、もう1体の骨巨人が潜んでいることについて説明してくれないのだろうか。
「もう……1体?」
念のため尋ねて見ると、真面目な場面で冗談を言われたときのような戸惑いの表情だった。
「もう1体ですって!?」
真実と分かってからは顔が真っ青だ。
一言断ってから通信機越しに領主に回線を繋ぐ。
「ハンターが偽る理由はない。真実として応対しろ。……報酬の増額は私からソサエティーに伝える」
「了解です。……あの、できれば依頼継続をお願いしたいのですが」
申し訳なさそうに言う兵士に、気にするなとうなずいてみせる。
「そんな……。いえ、ありがとうございます」
この依頼で死ぬつもりのように思われている気がする。
この程度の敵戦力は、最近では珍しくもない。
シェオルがいない分楽とすらいえる。
貴方は同行者と共に、作戦開始前の準備を進めるのだった。
リプレイ本文
●追い詰められた巨人
無風だ。
水面は一枚の硝子のようで、その下には枯れた植物すらない泥だけがある。
一歩足を踏み出せば柔らかな泥に捕らわれる天然の罠だ。
歪虚も人間も拒む、世界の終わりまで続く無人の領域のはずだった。
「元はスケルトンか」
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)達の猛攻に追い詰められた巨大骨は、膝まで沼にめり込み身動きできない。
全高40メートルの骨巨人と比べれば小人にしか見えないアルトが、巨人よりも速い速度で巨大な足を駆け上がる。
巨大骨を構成する個々の人骨は脆いはずなのに、アルトの走りは精妙を極めていてひびが入ることすらない。
「このあたりだな」
アルトに踏まれた箇所が薄く凹み、凹みの深さと広さから信じられないほど多数のひびわれが上下左右に広がる。
だがそれは余波でしかない。
本命は圧倒的加速で振るわれる深紅の騎士刀だ。
長大かつ分厚い刀身全てが守護者のマテリアルで構成されていて、表面とは正反対に硬く頑丈な骨巨人本体に深く広い切り傷を刻み込む。
1つ2つではない。10回だ。
腰骨から背骨にかけて数パーセントの質量を削られた歪虚が、肉のない髑髏から大気を揺るがす悲鳴を発した。
「かなり頑丈そうではあるな」
肋骨を上に蹴って下へ跳ぶ。
直後、左右に開いた肋骨が直前までアルトのいた場所を殴りつけ、無茶苦茶に振り回された拳がアルトの頭上数メートル行き過ぎ生じた風でアルトの髪が揺れる。
子供のものにしか見えない小さな骨が、地面に向かってぱらぱらと零れていった。
丘の麓が蠢いたときにはアルトは地面にいない。
「今のは召喚能力か?」
もう一度骨巨人の足を走って登り、今度は腰骨から裏にまわって背骨に中心を狙う。
人骨と人骨が離れ、砕けた骨を穂先にした槍衾と化す。
非常に避け辛い。
アルトでも、意識して回避しなければ防具に傷がつく程度には躱し辛いかった。
「頑丈だけが取り柄か」
抉り、砕く。
単独でも必殺技じみた一閃を10繰り出すこの技は、大精霊から特別に授けられた技でもないし守護者のスキルですらない。
アルト自身が鍛え磨いてきた、疾影士の基本的なスキルの発展型である。
要するに後9度は使えるし5連撃ならさらに17度追加可能だ。
「でっかい骨もいたもんだねえ」
巨人対人間の、後者が一方的に責め続ける光景を見下ろす瞳が2対で4つ。
うち1対の瞳に、人間ってなんだっけという哲学的な悩みが浮かんでいる。
「これだけおっきければ、いい魔法の的になってくれるかな?」
もう1対の青の瞳には高い知性と異様なほどの純粋さがある。
むせ返るような負マテリアルの中でのほほんとしているだけでも超人じみているが、小柄な体の中に7つ同時に展開中の術式に気付く者がいれば己の正気を疑うだろう。
夢路 まよい(ka1328)がこほんと咳払い。
錬金杖を得意気に振り上げると、7つの術式がまよいの体から開放され宙へと飛び上がった。
「天空に輝ける星々よ」
術式1つが1つの頂点を担当し7つの頂点を持つ星を創る。
単独でも高度な術式なのにまよいは鼻歌を楽しむ余裕がある。術式は星をつくるだけでは満足せず無数の線と情報を書き加えて美しい陣を宙に描く。
「七つの罪を焼き尽くす業火となれ」
正なのに負よりも重い気配が大気を支配する。
丘から這い上がった人骨がファランクスを形作ったときには、まよいの準備は既に終わっている。
蒼く澄んだ瞳に、無邪気なまま力を振るう心と、深淵あるいは虚空に繋がる闇が同時に浮かんだ。
「ヘプタグラム!」
どこまでも楽しげに杖を振り下ろす。
魔法陣から7つの火球が生み出され、1つ直径6メートルの破壊をそれぞれ別の場所へと送り届ける。
骨のファランクスも巨大な骨の巨人も逃れることはできなかった。
炭と化した骨が吹き飛び地面と空中を汚す。
グリフォン・イケロスは悠々と飛んで躱しながら、よく見えない場所から飛んでくる大きな何かに気付く。
主に知らせる時間も惜しい。
斜め下へ全力へ飛ぶ彼は、グリフォンの雌が見れば即求愛してくる程度に凜々しく力に溢れていた。
なお、イケロス自身は全方位への警戒と回避行動でいっぱいっぱいで余計なことを考える余裕はない。
「すごいよイケロス! まだ立ってる!」
前面の人骨が剥がれ、純粋なマテリアルでできた巨大骨が剥き出しになっている。
超高位魔術師であると同時に子供でもある、倫理からも自由な目で観て歪虚を怯えさせる。
不安定な場所では術を維持することは難しいはずなのに、新たな7つの術式も平然と維持していた。。
「……うん、大きいなあ」
鞍馬 真(ka5819)と真を乗せるイェジド・レグルスは、歪虚の巨大さよりも仲間が振るう力に感じ入っている。
「対邪神戦、もう始まっていたっけ」
守護者2人の猛攻は英雄譚を通り越して神話じみている。
「焦らずにいこうレグルス。ないとは思うけど丘に向かって逃げられないように」
イェジドが気配だけでうなずき音もなく走る。
強力な範囲攻撃でも生じてしまう生き残りが、部隊では無くただの雑魔として東に向かって走っている。
この程度無視しても構わない。
地元の兵士が待ち構えているし、兵士が対処する前にCAMに乗ったハンターが仕留めてくれる。
「北端の雑魔は私が」
エルバッハ・リオン(ka2434)のエネルギー弾が数百メートルの距離を瞬く間に駆け抜け、スケルトンの上半身を吹き飛ばした。
ようやく負マテリアルから解放された遺体が、形を保つ力を失い初夏の光に溶けて消える。
「残りはミグが貰うぞ」
長大な滑空砲二門を備えるダインスレイブが、決して速くはないが効率的な動作で向き変更を終える。
「手を抜いて被害が出れば死ぬまで後悔することになるからのぅ」
ミグ・ロマイヤー(ka0665)はオフィス職員の哀願を思い出して肩をすくめる。
地元の兵はハンターとは違うのだ。
雑魔相手に重体以上になる可能性だってある。
「あのでかさがこけおどしなのかはたまたなんなのかはミグ式で検証してやろうぞ」
音声の大部分をカットしても頭蓋を震わせる轟音が発生。
大量の爆薬がブースターに支えられて巨大な弧を描く。
「こればかりじゃと射撃の腕が鈍る気がするわ」
最早射撃ではなく砲撃である。
大盾も槍を捨ててただ走るスケルトンの生き残り3体と等距離の位置に、雑魔に使うものとしては強力過ぎる砲弾と爆薬が着弾した。
威力も凄まじいが特筆すべきはその効果範囲だ。
広がる爆風が丘を削り、沼を押し退ける。
骨巨人は、初見にも関わらず爆風の脅威に気付いて飛び退いた。
ヤクト・バウ・PCのコクピットで、幼くすら見える顔に獰猛な笑みが浮かぶ。
骨巨人は爆風の効果範囲から半ばの逃れるだけでなく、装甲である人骨が残った箇所で受け止め被害をほぼ0にしている。
「ビックマーや、千手観音CAMも相当でかかったがあれもなかなかよ」
だから確実に滅ぼす。
怒りを純粋な戦意に変えて、ミグは次の砲弾の準備と射撃諸元の微修正を同時に行うのだった。
●地の底から
地下からは骸骨の兵団が現れ続け、天をつく骨製の巨人が暴力を撒き散らす。
命の途絶えた丘や沼から土砂が飛び散り歪虚を保護色じみた色に染めた。
「ハッハハハ! いいデカブツじゃねえか、闘りがいがある」
精霊に認められる技も、天に届くほどの気炎も、全ては斧を振り回すために使われる。
全長2.5メートルの斧が2度旋回する。
防御も回避も不可能ではないが、直径6メートルの刃筋を立てた死の円全てを躱し切ることなどできはしない。防御しに成功しても防御ごと切り裂かれて砕かれる。
骨巨人は、斃れない。
本体が飲み込んだ無数の遺体を表面に並べ固めて耐久力を維持する。
老若男女を問わぬ人骨は、気の強い者でも心が砕かれかねない不吉さをまとっている。
強者であるボルディア・コンフラムス(ka0796)にも精神的ダメージががある。
だがこの程度で止まる様ならここまで強くなってはいないしこの場に来ていない。
「おう、すぐにブッ壊れんじゃねえぞ」
遺族の怒りと悲しみを想像すると奥歯が砕けそうになるほど力が入る。
「少しは根性見せろや骨野郎ォ!」
故に倒すのだ。
遺族恨みを晴らすためとか社会正義のためとか言葉を飾るつもりはない。
気に入らないから屠る。
巨大斧による円形範囲攻撃2連撃はアルトの攻撃並によく効き、最初は無尽蔵に見えた歪虚のエネルギーを目に見えるほどの速度で削っていく。
「使うまでもない気もするけど」
真が構えた剣を蒼いオーラが包む。
「もう一戦あるからね」
魔法剣化した魔導剣にさらにマテリアルを削ぎ込む。
強靱な刃を内側から砕きかねない力を繊細な操作して宥め、スケルトンの新手40体が新たに現れたタイミングで刺突を繰り出す。
ただ強いだけではない。
切っ先から80メートル伸びた破壊の力は範囲攻撃らしく避けにくい。
しかも元より高い威力が倍ほどに高められ、一撃の威力でいればアルト達を上回る威力にまで到達している。
その威力に比べれば、人骨も本体の骨も負マテリアルも薄紙未満の脆さと柔らかさだ。
右の太股から反対側へ貫通。そこで止まらず力が突き進み、1列10体の4列横隊を斜めに貫き半数以上の消滅させた。
骨ファランクスの出現頻度が急上昇する。
約10秒に1隊、初回と変わらず40体だ。
この場にいる強者達にとっては雑魚未満の戦力でしかないが、万一人里まで移動すると大量の人死に不可避の脅威になる。
「ここから一気に行くぜ」
アーサー・ホーガン(ka0471)がスキルを使った。
砲撃の生き残りスケルトンが西に向かってきたのをユニットなしの身軽さで躱し、先端だけでなく腰の近くまで傷ついた骨巨人の右脚至近距離へ移動。
四大精霊サンデルマンの力を借り対アンデッド特効の効果を身につけるだけでなく、星神器と蒼機刀を魔法剣化した上で凄まじい連続攻撃を開始する。
「狙わなくても当たるな」
腰から上を狙うならスキルの立体攻撃が欲しいが、足を潰すのを狙うなら地面から攻撃すれば良い。
実際に見てみれば当たり前のことで、アーサーの行動を見た前衛達が右脚へ攻撃を集中し始めた。
「膝まで埋まっちまうほど重いんだ。片方潰せば戦えなくなるんじゃないか?」
骨巨人が不自然に停止した。
負マテリアルに、敵意と殺意ではない、怯えの感情が強く滲む。
「行くぜシャル! 俺とお前の力、最大まで引き出すぞ! こんな骨なんざさっさと砕いちまおうぜェ!」
ボルディアが切り札を使う。
守護者としての力ではなく、調教師としてユニットの力を限界まで引き出す技だ。
「高度はぎりぎりまで下げろ。いいぞ、その調子だ!」
並のワイバーンなら失速確実な、翼を動かすと地面に当たりそうになる高度であらゆる速度が二倍に跳ね上がる。
「シャルは単独でも強かっただろ? 俺と組んで本気を出すとどうなるか」
オーラが炎じみて揺れ、魔斧もボルディアも一瞬見えなくなる。
「見せてやるよ!」
モレクが旋回して止まらない。
力も技も初期同様で、攻撃の頻度だけが単純に倍だ。
つまり4連続広範囲攻撃だ。
歪虚軍将にも達していない歪虚には耐えきることなどできず、長い時間と大量に犠牲によって形作られた巨大骨が1本、文字通り削り取られて骨巨人が体勢を崩した。
●ファランクス氾濫
白と緑で塗装されたエクスシアが、身の丈ほどもあるマテリアルランチャーを滑らかに構えて静止する。
精悍ではあるが細身の体格からは想像し辛いほど機体が頑丈でしかもつ力がある。
粒子加速器が微かに唸り、マテリアルを物理的な力に変換して砲身に供給する。
丘から僅かにみえる巨人に頭に直撃。
これまで無傷だった頭部から大量の白い骨が飛び散った。
「想定外や予想外の出来事は常々起きるものだ」
大気が震える。
はるか遠くとしか認識出来ない場所から、異様な強度と重さの塊が清廉号に向かって飛来する。
「それが作戦開始前に判明しただけでも上等だな」
一方的に攻撃されるというのはかなり面倒だ。
それに不意打ちが加わったとしたら、今のように軽いステップで躱すことはできなかったかもしれない。
ロニ・カルディス(ka0551)はHMDに表示された鳥瞰図を見て敵味方の配置を確認。
大股で斜め前へ進んで次の展開に備える。
骨巨人が跳躍する。
単に駆け出しただけなのだが、全高40メートルが動くと当たり前のように大地を破壊することになる。
乾いた地面から大量の土煙が発生。
前衛達が巻き込まれるのを嫌って一旦距離をとる。
狙いもつけない攻撃に当たるほど鈍くはないとはいえ、全高40メートルの重量に直撃されると万が一がある。
土煙が大きく揺れる。
地面を無残に破戒しながら、巨大歪虚が進行方向の全てを踏みつぶして逃げようとする。
「大きい事はそれだけで利点だが」
骨巨人が足を踏み下ろし終えたタイミングで清廉号が仕掛ける。
攻撃ではない。
巨人により小さいとはいえ人間とは比較にならないサイズの体で、単純に立ち塞がったのだ。
「同様に弱点もあるという事だ」
骨巨人は地面の沈んだ足首を持ち上げられない。CAMが大きく、無視できないのだ。
一度下がって別方向に向かうことはもちろん可能。しかしそんなことをすれば圧倒的武力を持つ守護者に追いつかれて確実に滅ぼさせる。
マテリアルランチャーの砲口から紫色の光が伸びた。
人骨を浄化し負の塊を貫いてもまだ止まらない。
清廉号を足止めしようと向かってきたファランクスを貫き、分厚い大盾が存在しないかのように骨を焼き尽くしファランクスを半壊させた。
進路を妨害した骨兵士が大きな足にはね飛ばされた。
「この距離で連携してきますか」
槍と盾を構えた兵をはね飛ばすと表現すると歪虚や強盗のようだが、兵はスケルトンであり蹴飛ばすのは白銀の騎士だ。
「両方相手にしたくはないですし、まずは手前から倒していきましょうか……」
サクラ・エルフリード(ka2598)が機体内のマテリアルを精密に操作する。
中小の精霊が自発的に従い聖機槍に力を与える。
サクラのルクシュヴァリエを止めようと新手のファランクスが立ち塞がり、しかしサクラは槍を選ばず自分自身の術を使う。
「この機体、1対1よりも対複数の方が得意なのですよ……? 数が多いからといって好きにさせません……。纏めて光に消えなさい……光あれ……!」
使い慣れたセイクリッドフラッシュを放つ。
元から強力な槍と比べると牽制程度の威力しかなく、つまり雑魔でしかない武装スケルトンを倒すならこれで十分だ。
円に広がる波動は非常に避けづらく、構えた盾ごと骨を焼いて歪虚としての生から開放する。
「きりがありません」
ファランクスの新手が土から這い上がる。
ルクシュヴァリエはそれには付き合わず、輝く聖機槍を手に思い切り良く真正面へ飛び出した。
当然巨大歪虚も反撃する。
左手は防御にまわし、右手を高速で突き出し弾き戻しを繰り返す。
鋼より強靱な装甲でも耐えきれない威力があるけれども、サクラ機の分厚い防御の前ではさほど強くもないし人機一体に能力を引き出されたルクシュヴァリエにはそもそも当たらない。
ただ、サクラは微かに表情を曇らせていた。
今回は回避できたが、骨の拳が比較的装甲が薄い頭部すれすれを通過した。
今度巨大な敵と戦うなら頭部にも装甲を増やすか受け防御のための盾を使うのもいいかもしれない。
「全力全開で行きます……」
北からもファランクスが到着し、時折岩も飛んでくるので全方位への警戒は怠れない。
その上で複数のスキルを適切なタイミングで用い、機体に攻撃的なマテリアルを集中させる。
「人機一体、万象の器……全てを注いだ一撃を食らわせます……!」
気力体力マテリアルが容赦なく消費され、コクピットにいるサクラ本体が微かにあえぐ。
だが機体の動きは乱れない。
CAM並の巨体でサクラの槍術を完全に再現。
光輝を背負い限界まで正に傾けた槍を、骨巨人の膝へと突き立てた。
骨と負マテリアルが内側から弾けるがそれが始まりでしかない。
中小精霊の後押しと機体による増幅に加え、聖機槍「フースピール」がマテリアルを集束させることで魔を祓う力が力強く直進する。
骨巨人の右脚を砕いただけでは終わらず、密集したファランクス3つを蹂躙して死んだ沼を切り裂いた。
「これで倒れないの?」
骨が砕け焼かれても倒れない骨巨人に、ディーナ・フェルミ(ka5843)は呆れ8割困惑2割のため息を吐いた。
攻撃しているのはルクシュヴァリエやCAMだけではない。
生身の守護者達も壮絶な威力の攻撃を続けている。
「ここはリアルブルーの古戦場か。どれだけ骸を食らったのじゃ」
ミグの近くに歪虚はいない。
丘にいるハンターが大小の骨を抑えきっていることも大きいが、ヤクト・バウ・PCの広範囲攻撃が効果も非常に大きい。
10秒に1回広範囲攻撃可能、しかもそれを50回以上使用可能というのは依頼の難易度を1つは下げる効果がある。
「だいぶん崩れたのぅ」
その分周囲への影響も大きい。
連絡は密にしているので友軍誤射だけはないが、地形へのダメージは深刻で丘1つか半分ほど抉れてしまっている。
「まあリアルブルーの戦に比べればこの程度の破壊はお遊戯よ。でかいだけが取り柄の骸骨め、徹底的にやってやるわ」
超高速で動き回るハンターの動きを予測。
事前に予告した上でグランドスラムをぶっ放し、残りの丘と骨巨人の左脚に止めを刺した。
●骨が砕ける
高さと重さが破壊力に変換される。
脚を無くした腰から上が、剥き出しの土に当たって衝撃を吸収できずに多くの骨に巨大なひびが入る。
歓声の1つも響きそうな場面だが、東にいる兵士の視力ではよく見えないし北からの気配を感じ取れるハンターには喜んでいる余裕はない。
「このっ……。東は任すの先に北に行くの」
ディーナが単機で北へと向かった。
北の負の気配が徐々に強くなっていて、新たなファランクスが切れ目無く徒歩で接近中だ。
「了解しました。通常サイズのスケルトンは任せてください」
南の丘から出現したファランクス全てが機能を失い、生き残りのわずかな……全てあわせるとかなりの数のスケルトンが勝手気ままに戦いあるいは散り始めた。
おそらく骨巨人の強制力が低下したのだ。
「この場に留まった甲斐がありました」
エルバッハはマテリアルキャノンへのエネルギー供給を止める。
半壊骨巨人に射撃が届かなくなるが、ロングレンジライフル「ルギートゥスD5」があれば通常スケルトンの大部分に弾が届く。
「そちらに向かわないスケルトンを優先して狙います。武運を祈ります」
「ここまで御膳立てされて失敗したら末代まで笑われます。生き残りをこっちに追い込んでも構いませんよ!」
地元兵達は意気軒昂だ。
多少の対抗意識はあるが歪虚への敵意はそれよりずっと大きい。
強力凶悪な歪虚を痛快にぶっ飛ばすハンターを見て、浮かれすぎかと思えるほど士気が上がっている。
エルバッハは多少の危機感を抱いたが、戦意がなくなるよりマシと判断してスケルトンへの対処を本格的に始める。
「やることは単純です」
再装填可能な長射程銃が最大最高の武器だ。
射程外に出ようとするスケルトンに確実に当てて砕き、発射直後には少し体勢を崩して機体操作が苦手なふりまでしてみせる。
最初はスケルトンの行動に変化はなかった。
あるスケルトンは沼に入ってほぼ身動きがとれなくなり、あるスケルトンは右往左往しているうちに砲撃やユニットの範囲攻撃に巻き込まれて地上から消滅する。
しかし時間が経つにつれ、エルバッハ機の至近だけが安全地帯ではないかと勘違いして槍と盾を捨てて走り出す。
向かって来る十数……新たに出現したファランクスも加わり100近いスケルトンを倒しきる手数は銃にはない。
その頃には遠くのスケルトンは全滅しているが、エルバッハのエクスシア・ウィザードが対単体でしかない風刃を放った瞬間、スケルトン達は己の勝利を確信した。
「結局これになりますか」
火球が破裂した。
最近実用化されたスキルに比べると地味ですらあるが、込められた力も破壊力の広がる速度も負担の軽さも芸術的だった。
「南側から数体雑魔がそちらに行くかもしれません」
念のため兵士に伝えるが多分1体もいかない。
ウィザードは大きさに似合わぬ機敏さでスケルトンの白兵攻撃を躱し、淡々と炎による浄化を続けていった。
●第2の丘へ
アルトのVolcaniusによる炸裂弾がわずかに残った人骨を歪虚から開放する。
未だ壮絶な攻撃力を維持したアルトが、丘の残骸から全ての負マテリアルを吸い出した骨巨人を切り刻む。
「今は巨人を優先しろ。倒せばここからのスケルトンは止まる」
ロニはCAMの大きさを活かして骨巨人に対する壁を続けながら、大地と大気の負マテリアル濃度を感じ取り正確な予測を口にした。
生身で巨人とやり合ってきたアーサーが、性懲りもなく現れた骨ファランクスを一瞥する。
北からのファランクスも合流し、決して無視できない数になっていた。
「俺のお目当ては、お前らじゃねぇんだ」
純白の槍がレッドゴールドの光に包まれる。
負のマテリアルが意思があるかのように怯えてアーサーの近くから離れる。
「退け!」
星神器が空間ごと全てを貫いた。
元が負だったか正だったか関係無く力を吸い上げ、これまでの戦いで深刻な傷を負ったアーサーの体を瞬く間に修復する。
「いくよー!」
まよいは相変わらず絶好調だ。
北からの巨大投石はゲイルランパートを使った相棒に任せ、巨人の全てを包み込む炎を天より降らす。
骨本体に巨大なひびが生じて、両肩から先が同時に脱落した。
「無傷とはいかないが」
傷だらけで片膝をついた清廉号が立ち上がる。
機体に直接生命力を注ぎ込むロニは強烈な痛みに襲われているのに、厳しく己を律して他のハンターに悟らせない。
「お前達を倒すには十分だ」
転がり沼に逃げようとしたした巨人を真正面から受け止める。
重さ勝負では完敗でもロニには聖導士としての技術がある。
回避しようのない至近距離から光の波動を連射し腰から胸にかけて骨の芯まで焼いた。
「最後はそう動くと思っていたぜ」
北向きに猛烈に転がった巨体を出迎えたのは、アーサーの1刀1槍と攻撃的マテリアルだ。
接触時の衝撃で負傷はしても、直前に回復していたため重傷にも遠い。
「どこにも行かせねぇよ」
星神器とマテリアルの刀身が肋骨一本を両側から砕く。
その巨大骨が地面に落ちるよりも早く3撃目の斬撃がオーラとして放たれ、電柱以上の太さの背骨を斜めに抉る。
巨人が震えた。
負マテリアルの循環が絶たれて傷口から漏れていく。
骸骨は、今際の言葉も骨の欠片を残すことすらできず、全てこの世から消滅した。
●浄化された丘で
一歩足を踏み入れると、己の手足が見えないほどの濃霧があった。
「そこかぁ!」
だがそんな程度で惑わされるハンターは、少なくともこの戦場にはいない。
「マテリアルがほとんど水だな。そら」
骨巨人が身じろぎしただけでも吹き飛ばされそうな位置で、負に傾きすぎた大気内を泳ぐ様にして魔斧を大地に突き込み浄化のプロセスを実行した。
「なぬ?」
浄化した瞬間全方向から負マテリアルが押し寄せ元の汚染状態に戻り、負マテリアルと一緒にやって来た風に空高く跳ね上げられる。
「参ったな。足りなかったか?」
シャルラッハにはそのまま攻撃を続ける様伝えて、数十メートル先に平然と着地し己の頬をかいた。
「ボルディアさんの献身と犠牲は忘れないの」
「聖導士ってのはイイ性格した奴ばかりかよ」
ボルディアのツッコミを右から左に聞き流し、ディーナはルクシュヴァリエに乗ったまま浄化の陣を展開しつつフライトシールドを上昇させた。
「デバフが強烈なの」
回避と命中が鈍っている。
南の丘なら軽々躱せたはずのを躱しきれずに盾で受け止めるしかない。
「つまり」
球形イニシャライザーが熱を持つ。
通常時でも強力なディーナの法術が、常人には理解も知覚も不可能な水準まで急上昇する。
「しつこくこびりついてるからしっかり洗うの!」
ディーナのマテリアルが大地にエクラの印を刻み込む。
間近で見れば一般的に知られている印とは違いがあるのに、負を退け人類の領域を回復させる働きは本家の印以上だ。
「お願い!」
いいのですよ、という意思が遙か高みから届いた気がした。
「なっ」
イェジドと共に到着した真が絶句する。
負マテリアルで構成された天然の結界に、一箇所致命的な空白が生じる。
微かな負マテリアルすら残らない完璧な浄化だ。
正の属性が強すぎて周囲の負も穴埋めに向かえず、結界の中央に穿たれたままの空白が最初は徐々にやがて加速度的に広がり結界からただのマテリアル塊に変化を強いる。
「エクラありがとうなの!」
メイスを元気に振るディーナのルクシュヴァリエ。
その背後では負マテリアルが丘を覆い尽くす規模の武装スケルトンの群れに変わり、直後に降り注いだ火炎と爆撃により9割以上が消し飛んだ。
「覚悟するの」
柔らかな雰囲気なのに目のセンサだけは冷たい。
恐怖に襲われた骨巨人が前に倒れる形でディーナ機を押し潰そうとして、斜め前にただ歩くだけの動きで回避される。
「頑丈な分苦しみが長く続くの。抵抗を諦めて光を受け入れるのを個人的にはお勧めするの」
光の波動が止まらない。
長いときを自己強化に当てた強大な歪虚が、自負も野望も全て忘れて悲鳴をあげた。
「冒涜だな」
真が吐き捨てるように言う。
悲鳴の正体は擦れあう人骨だ。
起き上がった骨巨人が全ての力を振り絞って手足を振り回し、その動きと力に晒された表面の骨が砕けて異形の雪として降り注ぐ。
「むぅ結構手強いの」
盾を構えたディーナ機は傷だらけだ。
巨大な四肢はただ振り回すだけでも凄まじい範囲攻撃であり、回避成功に成功し続けるのは不可能だ。
「中から法術を使う余裕もない……強敵なの」
泣き言じみた台詞の割に機体を包んだ癒やしの力は強烈で、中破状態から無傷同然にまで極短時間で回復させた。
「だがこれで終わりだ」
真の瞳が蒼さを増し、心身に漲る力が骨巨人の撒き散らす瘴気を寄せ付けない。
「歪虚の支配は今この時を以て終わる」
それは宣言だ。
「邪悪の手にかかった人々よ。君達を縛る鎖はもうない」
そして歌だ。
「自由な青い空へ、懐かしい故郷の土に帰りたまえ!」
敵に対する呪いであると同時に、犠牲者への手向けでもある歌が丘から空へと広がる。
骨巨人を構成する人骨だけでなく負マテリアルの一部も雑魔の支配下から外れ、骨が土の上へ落ち魂の残滓が空に向かって浮かび上がる。
巨体の動きが目に見えて鈍った。
最早歪虚の攻撃に当たる者はいない。
大小の骨はただの障害物にしかならず、砲撃や斬撃の威力と効率を確認するための材料だ。
「苦しませた分苦しめとは言わない。……消えろ」
魔導剣による刺突が極限の技量を以て繰り出され、骨巨人の腰骨を砕いて斜めに抜けた。
「闘志だけは認めてやろう」
アルトは足を止めずに地面から跳んで巨大大腿骨へ着地。
そのまま速度を落とさず胸部まで駆け上がる。
肋骨を砕きながら頭部へ。
髑髏が噛み砕こうとしてきたので、左の頬骨から右の頬骨まで砕いて頭の中身を剥き出しにする。
「だがそれだけだ」
どす黒い氷に似た負マテリアルの塊を最後の一撃が両断する。
負マテリアルが拡散し、抑えつけられていた大地が活力が復活した。
「あ」
「まずい」
「なの」
蜘蛛の子を散らすようにハンターと幻獣が丘から駆け下りる。
巨人の滅びに築かぬスケルトン達が、倒れてきた巨大な骨によって押し潰された。
「かくしてミグらの活躍によりかの地よりスケルトンどもは一掃されたり……じゃな」
砲撃機を背に格好をつけるミグ。
それが滑稽にならないだけの戦果は上げているので、兵士や土木関係者から向けられる視線は崇拝に近い。
「そこにも40体いました」
真は淡々と戦闘の経過を説明している。長く歪虚に使われていた骨は1本も残っていない。
それでも、簡単な慰霊程度はしてやりたかった。
無風だ。
水面は一枚の硝子のようで、その下には枯れた植物すらない泥だけがある。
一歩足を踏み出せば柔らかな泥に捕らわれる天然の罠だ。
歪虚も人間も拒む、世界の終わりまで続く無人の領域のはずだった。
「元はスケルトンか」
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)達の猛攻に追い詰められた巨大骨は、膝まで沼にめり込み身動きできない。
全高40メートルの骨巨人と比べれば小人にしか見えないアルトが、巨人よりも速い速度で巨大な足を駆け上がる。
巨大骨を構成する個々の人骨は脆いはずなのに、アルトの走りは精妙を極めていてひびが入ることすらない。
「このあたりだな」
アルトに踏まれた箇所が薄く凹み、凹みの深さと広さから信じられないほど多数のひびわれが上下左右に広がる。
だがそれは余波でしかない。
本命は圧倒的加速で振るわれる深紅の騎士刀だ。
長大かつ分厚い刀身全てが守護者のマテリアルで構成されていて、表面とは正反対に硬く頑丈な骨巨人本体に深く広い切り傷を刻み込む。
1つ2つではない。10回だ。
腰骨から背骨にかけて数パーセントの質量を削られた歪虚が、肉のない髑髏から大気を揺るがす悲鳴を発した。
「かなり頑丈そうではあるな」
肋骨を上に蹴って下へ跳ぶ。
直後、左右に開いた肋骨が直前までアルトのいた場所を殴りつけ、無茶苦茶に振り回された拳がアルトの頭上数メートル行き過ぎ生じた風でアルトの髪が揺れる。
子供のものにしか見えない小さな骨が、地面に向かってぱらぱらと零れていった。
丘の麓が蠢いたときにはアルトは地面にいない。
「今のは召喚能力か?」
もう一度骨巨人の足を走って登り、今度は腰骨から裏にまわって背骨に中心を狙う。
人骨と人骨が離れ、砕けた骨を穂先にした槍衾と化す。
非常に避け辛い。
アルトでも、意識して回避しなければ防具に傷がつく程度には躱し辛いかった。
「頑丈だけが取り柄か」
抉り、砕く。
単独でも必殺技じみた一閃を10繰り出すこの技は、大精霊から特別に授けられた技でもないし守護者のスキルですらない。
アルト自身が鍛え磨いてきた、疾影士の基本的なスキルの発展型である。
要するに後9度は使えるし5連撃ならさらに17度追加可能だ。
「でっかい骨もいたもんだねえ」
巨人対人間の、後者が一方的に責め続ける光景を見下ろす瞳が2対で4つ。
うち1対の瞳に、人間ってなんだっけという哲学的な悩みが浮かんでいる。
「これだけおっきければ、いい魔法の的になってくれるかな?」
もう1対の青の瞳には高い知性と異様なほどの純粋さがある。
むせ返るような負マテリアルの中でのほほんとしているだけでも超人じみているが、小柄な体の中に7つ同時に展開中の術式に気付く者がいれば己の正気を疑うだろう。
夢路 まよい(ka1328)がこほんと咳払い。
錬金杖を得意気に振り上げると、7つの術式がまよいの体から開放され宙へと飛び上がった。
「天空に輝ける星々よ」
術式1つが1つの頂点を担当し7つの頂点を持つ星を創る。
単独でも高度な術式なのにまよいは鼻歌を楽しむ余裕がある。術式は星をつくるだけでは満足せず無数の線と情報を書き加えて美しい陣を宙に描く。
「七つの罪を焼き尽くす業火となれ」
正なのに負よりも重い気配が大気を支配する。
丘から這い上がった人骨がファランクスを形作ったときには、まよいの準備は既に終わっている。
蒼く澄んだ瞳に、無邪気なまま力を振るう心と、深淵あるいは虚空に繋がる闇が同時に浮かんだ。
「ヘプタグラム!」
どこまでも楽しげに杖を振り下ろす。
魔法陣から7つの火球が生み出され、1つ直径6メートルの破壊をそれぞれ別の場所へと送り届ける。
骨のファランクスも巨大な骨の巨人も逃れることはできなかった。
炭と化した骨が吹き飛び地面と空中を汚す。
グリフォン・イケロスは悠々と飛んで躱しながら、よく見えない場所から飛んでくる大きな何かに気付く。
主に知らせる時間も惜しい。
斜め下へ全力へ飛ぶ彼は、グリフォンの雌が見れば即求愛してくる程度に凜々しく力に溢れていた。
なお、イケロス自身は全方位への警戒と回避行動でいっぱいっぱいで余計なことを考える余裕はない。
「すごいよイケロス! まだ立ってる!」
前面の人骨が剥がれ、純粋なマテリアルでできた巨大骨が剥き出しになっている。
超高位魔術師であると同時に子供でもある、倫理からも自由な目で観て歪虚を怯えさせる。
不安定な場所では術を維持することは難しいはずなのに、新たな7つの術式も平然と維持していた。。
「……うん、大きいなあ」
鞍馬 真(ka5819)と真を乗せるイェジド・レグルスは、歪虚の巨大さよりも仲間が振るう力に感じ入っている。
「対邪神戦、もう始まっていたっけ」
守護者2人の猛攻は英雄譚を通り越して神話じみている。
「焦らずにいこうレグルス。ないとは思うけど丘に向かって逃げられないように」
イェジドが気配だけでうなずき音もなく走る。
強力な範囲攻撃でも生じてしまう生き残りが、部隊では無くただの雑魔として東に向かって走っている。
この程度無視しても構わない。
地元の兵士が待ち構えているし、兵士が対処する前にCAMに乗ったハンターが仕留めてくれる。
「北端の雑魔は私が」
エルバッハ・リオン(ka2434)のエネルギー弾が数百メートルの距離を瞬く間に駆け抜け、スケルトンの上半身を吹き飛ばした。
ようやく負マテリアルから解放された遺体が、形を保つ力を失い初夏の光に溶けて消える。
「残りはミグが貰うぞ」
長大な滑空砲二門を備えるダインスレイブが、決して速くはないが効率的な動作で向き変更を終える。
「手を抜いて被害が出れば死ぬまで後悔することになるからのぅ」
ミグ・ロマイヤー(ka0665)はオフィス職員の哀願を思い出して肩をすくめる。
地元の兵はハンターとは違うのだ。
雑魔相手に重体以上になる可能性だってある。
「あのでかさがこけおどしなのかはたまたなんなのかはミグ式で検証してやろうぞ」
音声の大部分をカットしても頭蓋を震わせる轟音が発生。
大量の爆薬がブースターに支えられて巨大な弧を描く。
「こればかりじゃと射撃の腕が鈍る気がするわ」
最早射撃ではなく砲撃である。
大盾も槍を捨ててただ走るスケルトンの生き残り3体と等距離の位置に、雑魔に使うものとしては強力過ぎる砲弾と爆薬が着弾した。
威力も凄まじいが特筆すべきはその効果範囲だ。
広がる爆風が丘を削り、沼を押し退ける。
骨巨人は、初見にも関わらず爆風の脅威に気付いて飛び退いた。
ヤクト・バウ・PCのコクピットで、幼くすら見える顔に獰猛な笑みが浮かぶ。
骨巨人は爆風の効果範囲から半ばの逃れるだけでなく、装甲である人骨が残った箇所で受け止め被害をほぼ0にしている。
「ビックマーや、千手観音CAMも相当でかかったがあれもなかなかよ」
だから確実に滅ぼす。
怒りを純粋な戦意に変えて、ミグは次の砲弾の準備と射撃諸元の微修正を同時に行うのだった。
●地の底から
地下からは骸骨の兵団が現れ続け、天をつく骨製の巨人が暴力を撒き散らす。
命の途絶えた丘や沼から土砂が飛び散り歪虚を保護色じみた色に染めた。
「ハッハハハ! いいデカブツじゃねえか、闘りがいがある」
精霊に認められる技も、天に届くほどの気炎も、全ては斧を振り回すために使われる。
全長2.5メートルの斧が2度旋回する。
防御も回避も不可能ではないが、直径6メートルの刃筋を立てた死の円全てを躱し切ることなどできはしない。防御しに成功しても防御ごと切り裂かれて砕かれる。
骨巨人は、斃れない。
本体が飲み込んだ無数の遺体を表面に並べ固めて耐久力を維持する。
老若男女を問わぬ人骨は、気の強い者でも心が砕かれかねない不吉さをまとっている。
強者であるボルディア・コンフラムス(ka0796)にも精神的ダメージががある。
だがこの程度で止まる様ならここまで強くなってはいないしこの場に来ていない。
「おう、すぐにブッ壊れんじゃねえぞ」
遺族の怒りと悲しみを想像すると奥歯が砕けそうになるほど力が入る。
「少しは根性見せろや骨野郎ォ!」
故に倒すのだ。
遺族恨みを晴らすためとか社会正義のためとか言葉を飾るつもりはない。
気に入らないから屠る。
巨大斧による円形範囲攻撃2連撃はアルトの攻撃並によく効き、最初は無尽蔵に見えた歪虚のエネルギーを目に見えるほどの速度で削っていく。
「使うまでもない気もするけど」
真が構えた剣を蒼いオーラが包む。
「もう一戦あるからね」
魔法剣化した魔導剣にさらにマテリアルを削ぎ込む。
強靱な刃を内側から砕きかねない力を繊細な操作して宥め、スケルトンの新手40体が新たに現れたタイミングで刺突を繰り出す。
ただ強いだけではない。
切っ先から80メートル伸びた破壊の力は範囲攻撃らしく避けにくい。
しかも元より高い威力が倍ほどに高められ、一撃の威力でいればアルト達を上回る威力にまで到達している。
その威力に比べれば、人骨も本体の骨も負マテリアルも薄紙未満の脆さと柔らかさだ。
右の太股から反対側へ貫通。そこで止まらず力が突き進み、1列10体の4列横隊を斜めに貫き半数以上の消滅させた。
骨ファランクスの出現頻度が急上昇する。
約10秒に1隊、初回と変わらず40体だ。
この場にいる強者達にとっては雑魚未満の戦力でしかないが、万一人里まで移動すると大量の人死に不可避の脅威になる。
「ここから一気に行くぜ」
アーサー・ホーガン(ka0471)がスキルを使った。
砲撃の生き残りスケルトンが西に向かってきたのをユニットなしの身軽さで躱し、先端だけでなく腰の近くまで傷ついた骨巨人の右脚至近距離へ移動。
四大精霊サンデルマンの力を借り対アンデッド特効の効果を身につけるだけでなく、星神器と蒼機刀を魔法剣化した上で凄まじい連続攻撃を開始する。
「狙わなくても当たるな」
腰から上を狙うならスキルの立体攻撃が欲しいが、足を潰すのを狙うなら地面から攻撃すれば良い。
実際に見てみれば当たり前のことで、アーサーの行動を見た前衛達が右脚へ攻撃を集中し始めた。
「膝まで埋まっちまうほど重いんだ。片方潰せば戦えなくなるんじゃないか?」
骨巨人が不自然に停止した。
負マテリアルに、敵意と殺意ではない、怯えの感情が強く滲む。
「行くぜシャル! 俺とお前の力、最大まで引き出すぞ! こんな骨なんざさっさと砕いちまおうぜェ!」
ボルディアが切り札を使う。
守護者としての力ではなく、調教師としてユニットの力を限界まで引き出す技だ。
「高度はぎりぎりまで下げろ。いいぞ、その調子だ!」
並のワイバーンなら失速確実な、翼を動かすと地面に当たりそうになる高度であらゆる速度が二倍に跳ね上がる。
「シャルは単独でも強かっただろ? 俺と組んで本気を出すとどうなるか」
オーラが炎じみて揺れ、魔斧もボルディアも一瞬見えなくなる。
「見せてやるよ!」
モレクが旋回して止まらない。
力も技も初期同様で、攻撃の頻度だけが単純に倍だ。
つまり4連続広範囲攻撃だ。
歪虚軍将にも達していない歪虚には耐えきることなどできず、長い時間と大量に犠牲によって形作られた巨大骨が1本、文字通り削り取られて骨巨人が体勢を崩した。
●ファランクス氾濫
白と緑で塗装されたエクスシアが、身の丈ほどもあるマテリアルランチャーを滑らかに構えて静止する。
精悍ではあるが細身の体格からは想像し辛いほど機体が頑丈でしかもつ力がある。
粒子加速器が微かに唸り、マテリアルを物理的な力に変換して砲身に供給する。
丘から僅かにみえる巨人に頭に直撃。
これまで無傷だった頭部から大量の白い骨が飛び散った。
「想定外や予想外の出来事は常々起きるものだ」
大気が震える。
はるか遠くとしか認識出来ない場所から、異様な強度と重さの塊が清廉号に向かって飛来する。
「それが作戦開始前に判明しただけでも上等だな」
一方的に攻撃されるというのはかなり面倒だ。
それに不意打ちが加わったとしたら、今のように軽いステップで躱すことはできなかったかもしれない。
ロニ・カルディス(ka0551)はHMDに表示された鳥瞰図を見て敵味方の配置を確認。
大股で斜め前へ進んで次の展開に備える。
骨巨人が跳躍する。
単に駆け出しただけなのだが、全高40メートルが動くと当たり前のように大地を破壊することになる。
乾いた地面から大量の土煙が発生。
前衛達が巻き込まれるのを嫌って一旦距離をとる。
狙いもつけない攻撃に当たるほど鈍くはないとはいえ、全高40メートルの重量に直撃されると万が一がある。
土煙が大きく揺れる。
地面を無残に破戒しながら、巨大歪虚が進行方向の全てを踏みつぶして逃げようとする。
「大きい事はそれだけで利点だが」
骨巨人が足を踏み下ろし終えたタイミングで清廉号が仕掛ける。
攻撃ではない。
巨人により小さいとはいえ人間とは比較にならないサイズの体で、単純に立ち塞がったのだ。
「同様に弱点もあるという事だ」
骨巨人は地面の沈んだ足首を持ち上げられない。CAMが大きく、無視できないのだ。
一度下がって別方向に向かうことはもちろん可能。しかしそんなことをすれば圧倒的武力を持つ守護者に追いつかれて確実に滅ぼさせる。
マテリアルランチャーの砲口から紫色の光が伸びた。
人骨を浄化し負の塊を貫いてもまだ止まらない。
清廉号を足止めしようと向かってきたファランクスを貫き、分厚い大盾が存在しないかのように骨を焼き尽くしファランクスを半壊させた。
進路を妨害した骨兵士が大きな足にはね飛ばされた。
「この距離で連携してきますか」
槍と盾を構えた兵をはね飛ばすと表現すると歪虚や強盗のようだが、兵はスケルトンであり蹴飛ばすのは白銀の騎士だ。
「両方相手にしたくはないですし、まずは手前から倒していきましょうか……」
サクラ・エルフリード(ka2598)が機体内のマテリアルを精密に操作する。
中小の精霊が自発的に従い聖機槍に力を与える。
サクラのルクシュヴァリエを止めようと新手のファランクスが立ち塞がり、しかしサクラは槍を選ばず自分自身の術を使う。
「この機体、1対1よりも対複数の方が得意なのですよ……? 数が多いからといって好きにさせません……。纏めて光に消えなさい……光あれ……!」
使い慣れたセイクリッドフラッシュを放つ。
元から強力な槍と比べると牽制程度の威力しかなく、つまり雑魔でしかない武装スケルトンを倒すならこれで十分だ。
円に広がる波動は非常に避けづらく、構えた盾ごと骨を焼いて歪虚としての生から開放する。
「きりがありません」
ファランクスの新手が土から這い上がる。
ルクシュヴァリエはそれには付き合わず、輝く聖機槍を手に思い切り良く真正面へ飛び出した。
当然巨大歪虚も反撃する。
左手は防御にまわし、右手を高速で突き出し弾き戻しを繰り返す。
鋼より強靱な装甲でも耐えきれない威力があるけれども、サクラ機の分厚い防御の前ではさほど強くもないし人機一体に能力を引き出されたルクシュヴァリエにはそもそも当たらない。
ただ、サクラは微かに表情を曇らせていた。
今回は回避できたが、骨の拳が比較的装甲が薄い頭部すれすれを通過した。
今度巨大な敵と戦うなら頭部にも装甲を増やすか受け防御のための盾を使うのもいいかもしれない。
「全力全開で行きます……」
北からもファランクスが到着し、時折岩も飛んでくるので全方位への警戒は怠れない。
その上で複数のスキルを適切なタイミングで用い、機体に攻撃的なマテリアルを集中させる。
「人機一体、万象の器……全てを注いだ一撃を食らわせます……!」
気力体力マテリアルが容赦なく消費され、コクピットにいるサクラ本体が微かにあえぐ。
だが機体の動きは乱れない。
CAM並の巨体でサクラの槍術を完全に再現。
光輝を背負い限界まで正に傾けた槍を、骨巨人の膝へと突き立てた。
骨と負マテリアルが内側から弾けるがそれが始まりでしかない。
中小精霊の後押しと機体による増幅に加え、聖機槍「フースピール」がマテリアルを集束させることで魔を祓う力が力強く直進する。
骨巨人の右脚を砕いただけでは終わらず、密集したファランクス3つを蹂躙して死んだ沼を切り裂いた。
「これで倒れないの?」
骨が砕け焼かれても倒れない骨巨人に、ディーナ・フェルミ(ka5843)は呆れ8割困惑2割のため息を吐いた。
攻撃しているのはルクシュヴァリエやCAMだけではない。
生身の守護者達も壮絶な威力の攻撃を続けている。
「ここはリアルブルーの古戦場か。どれだけ骸を食らったのじゃ」
ミグの近くに歪虚はいない。
丘にいるハンターが大小の骨を抑えきっていることも大きいが、ヤクト・バウ・PCの広範囲攻撃が効果も非常に大きい。
10秒に1回広範囲攻撃可能、しかもそれを50回以上使用可能というのは依頼の難易度を1つは下げる効果がある。
「だいぶん崩れたのぅ」
その分周囲への影響も大きい。
連絡は密にしているので友軍誤射だけはないが、地形へのダメージは深刻で丘1つか半分ほど抉れてしまっている。
「まあリアルブルーの戦に比べればこの程度の破壊はお遊戯よ。でかいだけが取り柄の骸骨め、徹底的にやってやるわ」
超高速で動き回るハンターの動きを予測。
事前に予告した上でグランドスラムをぶっ放し、残りの丘と骨巨人の左脚に止めを刺した。
●骨が砕ける
高さと重さが破壊力に変換される。
脚を無くした腰から上が、剥き出しの土に当たって衝撃を吸収できずに多くの骨に巨大なひびが入る。
歓声の1つも響きそうな場面だが、東にいる兵士の視力ではよく見えないし北からの気配を感じ取れるハンターには喜んでいる余裕はない。
「このっ……。東は任すの先に北に行くの」
ディーナが単機で北へと向かった。
北の負の気配が徐々に強くなっていて、新たなファランクスが切れ目無く徒歩で接近中だ。
「了解しました。通常サイズのスケルトンは任せてください」
南の丘から出現したファランクス全てが機能を失い、生き残りのわずかな……全てあわせるとかなりの数のスケルトンが勝手気ままに戦いあるいは散り始めた。
おそらく骨巨人の強制力が低下したのだ。
「この場に留まった甲斐がありました」
エルバッハはマテリアルキャノンへのエネルギー供給を止める。
半壊骨巨人に射撃が届かなくなるが、ロングレンジライフル「ルギートゥスD5」があれば通常スケルトンの大部分に弾が届く。
「そちらに向かわないスケルトンを優先して狙います。武運を祈ります」
「ここまで御膳立てされて失敗したら末代まで笑われます。生き残りをこっちに追い込んでも構いませんよ!」
地元兵達は意気軒昂だ。
多少の対抗意識はあるが歪虚への敵意はそれよりずっと大きい。
強力凶悪な歪虚を痛快にぶっ飛ばすハンターを見て、浮かれすぎかと思えるほど士気が上がっている。
エルバッハは多少の危機感を抱いたが、戦意がなくなるよりマシと判断してスケルトンへの対処を本格的に始める。
「やることは単純です」
再装填可能な長射程銃が最大最高の武器だ。
射程外に出ようとするスケルトンに確実に当てて砕き、発射直後には少し体勢を崩して機体操作が苦手なふりまでしてみせる。
最初はスケルトンの行動に変化はなかった。
あるスケルトンは沼に入ってほぼ身動きがとれなくなり、あるスケルトンは右往左往しているうちに砲撃やユニットの範囲攻撃に巻き込まれて地上から消滅する。
しかし時間が経つにつれ、エルバッハ機の至近だけが安全地帯ではないかと勘違いして槍と盾を捨てて走り出す。
向かって来る十数……新たに出現したファランクスも加わり100近いスケルトンを倒しきる手数は銃にはない。
その頃には遠くのスケルトンは全滅しているが、エルバッハのエクスシア・ウィザードが対単体でしかない風刃を放った瞬間、スケルトン達は己の勝利を確信した。
「結局これになりますか」
火球が破裂した。
最近実用化されたスキルに比べると地味ですらあるが、込められた力も破壊力の広がる速度も負担の軽さも芸術的だった。
「南側から数体雑魔がそちらに行くかもしれません」
念のため兵士に伝えるが多分1体もいかない。
ウィザードは大きさに似合わぬ機敏さでスケルトンの白兵攻撃を躱し、淡々と炎による浄化を続けていった。
●第2の丘へ
アルトのVolcaniusによる炸裂弾がわずかに残った人骨を歪虚から開放する。
未だ壮絶な攻撃力を維持したアルトが、丘の残骸から全ての負マテリアルを吸い出した骨巨人を切り刻む。
「今は巨人を優先しろ。倒せばここからのスケルトンは止まる」
ロニはCAMの大きさを活かして骨巨人に対する壁を続けながら、大地と大気の負マテリアル濃度を感じ取り正確な予測を口にした。
生身で巨人とやり合ってきたアーサーが、性懲りもなく現れた骨ファランクスを一瞥する。
北からのファランクスも合流し、決して無視できない数になっていた。
「俺のお目当ては、お前らじゃねぇんだ」
純白の槍がレッドゴールドの光に包まれる。
負のマテリアルが意思があるかのように怯えてアーサーの近くから離れる。
「退け!」
星神器が空間ごと全てを貫いた。
元が負だったか正だったか関係無く力を吸い上げ、これまでの戦いで深刻な傷を負ったアーサーの体を瞬く間に修復する。
「いくよー!」
まよいは相変わらず絶好調だ。
北からの巨大投石はゲイルランパートを使った相棒に任せ、巨人の全てを包み込む炎を天より降らす。
骨本体に巨大なひびが生じて、両肩から先が同時に脱落した。
「無傷とはいかないが」
傷だらけで片膝をついた清廉号が立ち上がる。
機体に直接生命力を注ぎ込むロニは強烈な痛みに襲われているのに、厳しく己を律して他のハンターに悟らせない。
「お前達を倒すには十分だ」
転がり沼に逃げようとしたした巨人を真正面から受け止める。
重さ勝負では完敗でもロニには聖導士としての技術がある。
回避しようのない至近距離から光の波動を連射し腰から胸にかけて骨の芯まで焼いた。
「最後はそう動くと思っていたぜ」
北向きに猛烈に転がった巨体を出迎えたのは、アーサーの1刀1槍と攻撃的マテリアルだ。
接触時の衝撃で負傷はしても、直前に回復していたため重傷にも遠い。
「どこにも行かせねぇよ」
星神器とマテリアルの刀身が肋骨一本を両側から砕く。
その巨大骨が地面に落ちるよりも早く3撃目の斬撃がオーラとして放たれ、電柱以上の太さの背骨を斜めに抉る。
巨人が震えた。
負マテリアルの循環が絶たれて傷口から漏れていく。
骸骨は、今際の言葉も骨の欠片を残すことすらできず、全てこの世から消滅した。
●浄化された丘で
一歩足を踏み入れると、己の手足が見えないほどの濃霧があった。
「そこかぁ!」
だがそんな程度で惑わされるハンターは、少なくともこの戦場にはいない。
「マテリアルがほとんど水だな。そら」
骨巨人が身じろぎしただけでも吹き飛ばされそうな位置で、負に傾きすぎた大気内を泳ぐ様にして魔斧を大地に突き込み浄化のプロセスを実行した。
「なぬ?」
浄化した瞬間全方向から負マテリアルが押し寄せ元の汚染状態に戻り、負マテリアルと一緒にやって来た風に空高く跳ね上げられる。
「参ったな。足りなかったか?」
シャルラッハにはそのまま攻撃を続ける様伝えて、数十メートル先に平然と着地し己の頬をかいた。
「ボルディアさんの献身と犠牲は忘れないの」
「聖導士ってのはイイ性格した奴ばかりかよ」
ボルディアのツッコミを右から左に聞き流し、ディーナはルクシュヴァリエに乗ったまま浄化の陣を展開しつつフライトシールドを上昇させた。
「デバフが強烈なの」
回避と命中が鈍っている。
南の丘なら軽々躱せたはずのを躱しきれずに盾で受け止めるしかない。
「つまり」
球形イニシャライザーが熱を持つ。
通常時でも強力なディーナの法術が、常人には理解も知覚も不可能な水準まで急上昇する。
「しつこくこびりついてるからしっかり洗うの!」
ディーナのマテリアルが大地にエクラの印を刻み込む。
間近で見れば一般的に知られている印とは違いがあるのに、負を退け人類の領域を回復させる働きは本家の印以上だ。
「お願い!」
いいのですよ、という意思が遙か高みから届いた気がした。
「なっ」
イェジドと共に到着した真が絶句する。
負マテリアルで構成された天然の結界に、一箇所致命的な空白が生じる。
微かな負マテリアルすら残らない完璧な浄化だ。
正の属性が強すぎて周囲の負も穴埋めに向かえず、結界の中央に穿たれたままの空白が最初は徐々にやがて加速度的に広がり結界からただのマテリアル塊に変化を強いる。
「エクラありがとうなの!」
メイスを元気に振るディーナのルクシュヴァリエ。
その背後では負マテリアルが丘を覆い尽くす規模の武装スケルトンの群れに変わり、直後に降り注いだ火炎と爆撃により9割以上が消し飛んだ。
「覚悟するの」
柔らかな雰囲気なのに目のセンサだけは冷たい。
恐怖に襲われた骨巨人が前に倒れる形でディーナ機を押し潰そうとして、斜め前にただ歩くだけの動きで回避される。
「頑丈な分苦しみが長く続くの。抵抗を諦めて光を受け入れるのを個人的にはお勧めするの」
光の波動が止まらない。
長いときを自己強化に当てた強大な歪虚が、自負も野望も全て忘れて悲鳴をあげた。
「冒涜だな」
真が吐き捨てるように言う。
悲鳴の正体は擦れあう人骨だ。
起き上がった骨巨人が全ての力を振り絞って手足を振り回し、その動きと力に晒された表面の骨が砕けて異形の雪として降り注ぐ。
「むぅ結構手強いの」
盾を構えたディーナ機は傷だらけだ。
巨大な四肢はただ振り回すだけでも凄まじい範囲攻撃であり、回避成功に成功し続けるのは不可能だ。
「中から法術を使う余裕もない……強敵なの」
泣き言じみた台詞の割に機体を包んだ癒やしの力は強烈で、中破状態から無傷同然にまで極短時間で回復させた。
「だがこれで終わりだ」
真の瞳が蒼さを増し、心身に漲る力が骨巨人の撒き散らす瘴気を寄せ付けない。
「歪虚の支配は今この時を以て終わる」
それは宣言だ。
「邪悪の手にかかった人々よ。君達を縛る鎖はもうない」
そして歌だ。
「自由な青い空へ、懐かしい故郷の土に帰りたまえ!」
敵に対する呪いであると同時に、犠牲者への手向けでもある歌が丘から空へと広がる。
骨巨人を構成する人骨だけでなく負マテリアルの一部も雑魔の支配下から外れ、骨が土の上へ落ち魂の残滓が空に向かって浮かび上がる。
巨体の動きが目に見えて鈍った。
最早歪虚の攻撃に当たる者はいない。
大小の骨はただの障害物にしかならず、砲撃や斬撃の威力と効率を確認するための材料だ。
「苦しませた分苦しめとは言わない。……消えろ」
魔導剣による刺突が極限の技量を以て繰り出され、骨巨人の腰骨を砕いて斜めに抜けた。
「闘志だけは認めてやろう」
アルトは足を止めずに地面から跳んで巨大大腿骨へ着地。
そのまま速度を落とさず胸部まで駆け上がる。
肋骨を砕きながら頭部へ。
髑髏が噛み砕こうとしてきたので、左の頬骨から右の頬骨まで砕いて頭の中身を剥き出しにする。
「だがそれだけだ」
どす黒い氷に似た負マテリアルの塊を最後の一撃が両断する。
負マテリアルが拡散し、抑えつけられていた大地が活力が復活した。
「あ」
「まずい」
「なの」
蜘蛛の子を散らすようにハンターと幻獣が丘から駆け下りる。
巨人の滅びに築かぬスケルトン達が、倒れてきた巨大な骨によって押し潰された。
「かくしてミグらの活躍によりかの地よりスケルトンどもは一掃されたり……じゃな」
砲撃機を背に格好をつけるミグ。
それが滑稽にならないだけの戦果は上げているので、兵士や土木関係者から向けられる視線は崇拝に近い。
「そこにも40体いました」
真は淡々と戦闘の経過を説明している。長く歪虚に使われていた骨は1本も残っていない。
それでも、簡単な慰霊程度はしてやりたかった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 夢路 まよい(ka1328) 人間(リアルブルー)|15才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2019/06/10 18:24:45 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/06/07 08:17:54 |