ゲスト
(ka0000)
白百合の花束を
マスター:一要・香織

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2019/06/16 19:00
- 完成日
- 2019/06/26 15:05
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
爽やかな風が広い平野を駆け抜ける。
豊かな大地に降り注ぐ恵の雨と暖かな太陽の光。
今年もグランツ領は沢山の収穫が期待できるだろう。
畑を耕し種を蒔き、苗を植え、病気や害虫そして雑草が伸びないよう手入れをする。
一連の作業がひと段落ついたこの時期、レイナ・エルト・グランツはどうしてもありたいことがあった。
雨が降る季節の前はレイナの母親、エミリアの誕生日があるのだ。
しかしレイナの母親はレイナが幼い頃亡くなっている。
それでも前領主でありレイナの父であったアイザックは、毎年エミリアの誕生日に決まった花を贈っていた。
エミリアは可憐でとても美しい女性だったようで、その姿をユリの花と例えられていた。
グランツには特定の場所にだけ咲くとても綺麗な大振りのユリがあり、アイザックは必ず自らそのユリを摘みに行っていたのだった。
「ねえ、サイファー。今年は私が採りに行きたいと思っているの」
執務室の机に座り書類を届けにきたサイファーと誕生日の事を話す。今年はユリの花をどうするのかという質問に、レイナは小さな笑みを浮かべながら答えた。
「しかし、ユリが咲く場所までは険しい道が続きます」
「ええ、知っているわ。お父様にも何度も聞いたし、どんな道かも教えてもらったもの」
屋敷から馬車で3時間ほど走り、そこから森に入って1時間山道を歩く。渓谷に沿ってしばらく歩くと崖のような場所に着く。そのあたりがユリの群生地。ただ毎年咲く場所は決まっておらず、平坦な場所の時もあれば、崖の斜面に咲く時もある。
昨年は色々と忙しくレイナがユリを用意できなかったため、執事のジルが手配してくれた。
だから今年は、自分で採りに行きたい。その強い想いをサイファーは理解しているが、
「日取り、なんとかなりませんか? その日は俺、領内の警邏なんですよ。他に変われる奴が居なくて」
「ふふふ。あら、大丈夫よ。ハンターの皆さんにお願いするつもりだから」
その言葉にサイファーは唇を噛んで、ガックリと肩を落とした。
分かってはいた。だが、一緒に行けないのが悔しいのだろう。
「我儘言ってごめんなさい、サイファー。でも私、ハンターの皆さんの迷惑にならなよう、ちゃんと出来るわ」
少し冗談めかして話すレイナにサイファーも小さな笑みを浮かべた。
「分かってます。では、今日の巡回の際にオフィスに寄って依頼を出しておきますね」
「あっ、ううん。後で私が行くから」
「そ、そうですか……」
部屋を出て行く背中を見つめながら、レイナは少し申し訳なく思った。
自分の力だけで……など無理な話だ。だけど、せめて屋敷の皆の力に頼らずにやりたい……。
我が儘を突き通すのだから絶対にユリの花を摘んで帰らなくちゃ。そう自分に言い聞かせ、まずは目の前の書類の束を片付けるべく気合を入れ直した。
豊かな大地に降り注ぐ恵の雨と暖かな太陽の光。
今年もグランツ領は沢山の収穫が期待できるだろう。
畑を耕し種を蒔き、苗を植え、病気や害虫そして雑草が伸びないよう手入れをする。
一連の作業がひと段落ついたこの時期、レイナ・エルト・グランツはどうしてもありたいことがあった。
雨が降る季節の前はレイナの母親、エミリアの誕生日があるのだ。
しかしレイナの母親はレイナが幼い頃亡くなっている。
それでも前領主でありレイナの父であったアイザックは、毎年エミリアの誕生日に決まった花を贈っていた。
エミリアは可憐でとても美しい女性だったようで、その姿をユリの花と例えられていた。
グランツには特定の場所にだけ咲くとても綺麗な大振りのユリがあり、アイザックは必ず自らそのユリを摘みに行っていたのだった。
「ねえ、サイファー。今年は私が採りに行きたいと思っているの」
執務室の机に座り書類を届けにきたサイファーと誕生日の事を話す。今年はユリの花をどうするのかという質問に、レイナは小さな笑みを浮かべながら答えた。
「しかし、ユリが咲く場所までは険しい道が続きます」
「ええ、知っているわ。お父様にも何度も聞いたし、どんな道かも教えてもらったもの」
屋敷から馬車で3時間ほど走り、そこから森に入って1時間山道を歩く。渓谷に沿ってしばらく歩くと崖のような場所に着く。そのあたりがユリの群生地。ただ毎年咲く場所は決まっておらず、平坦な場所の時もあれば、崖の斜面に咲く時もある。
昨年は色々と忙しくレイナがユリを用意できなかったため、執事のジルが手配してくれた。
だから今年は、自分で採りに行きたい。その強い想いをサイファーは理解しているが、
「日取り、なんとかなりませんか? その日は俺、領内の警邏なんですよ。他に変われる奴が居なくて」
「ふふふ。あら、大丈夫よ。ハンターの皆さんにお願いするつもりだから」
その言葉にサイファーは唇を噛んで、ガックリと肩を落とした。
分かってはいた。だが、一緒に行けないのが悔しいのだろう。
「我儘言ってごめんなさい、サイファー。でも私、ハンターの皆さんの迷惑にならなよう、ちゃんと出来るわ」
少し冗談めかして話すレイナにサイファーも小さな笑みを浮かべた。
「分かってます。では、今日の巡回の際にオフィスに寄って依頼を出しておきますね」
「あっ、ううん。後で私が行くから」
「そ、そうですか……」
部屋を出て行く背中を見つめながら、レイナは少し申し訳なく思った。
自分の力だけで……など無理な話だ。だけど、せめて屋敷の皆の力に頼らずにやりたい……。
我が儘を突き通すのだから絶対にユリの花を摘んで帰らなくちゃ。そう自分に言い聞かせ、まずは目の前の書類の束を片付けるべく気合を入れ直した。
リプレイ本文
「今日は、どうぞよろしくお願いします」
レイナ・エルト・グランツは強い意思と冒険や探検に心躍らせる子供のような輝きを宿す瞳を弓なりに細めた。
「ああ、今日はよろしくね」
レイナの隠しきれないソワソワした気持ちを察した鞍馬 真(ka5819)は小さく微笑む。
「今回もよろしくな、レイナ」
その隣でレイア・アローネ(ka4082)が軽く手を上げると、レイアの美しい黒髪がフワリと揺れた。
「私の名前は久我・御言。諸君、よろしくしてくれたまえ」
レイナの後ろから一歩前に出た久我・御言(ka4137)がスッと手を突きだした。
友好的なその挨拶に合わせるようレイナが手を差し出すと御言はヒラリと手首を返す。握られた手のひらがパッと開かれると、先程まで何もなかった手のひらには小さな真紅の薔薇の造花が乗っていた。
「まあ! いったいどうやって?」
驚きと歓喜にレイナが目を瞬くと、
「御言もいるのか」
友人の師を名乗る男の姿にレイアが苦笑いを浮かべて呟く。
御言はそんなレイアにチラリと視線を向け小さく唇に弧を描いた。
「レイナ、久しぶりだね。元気だったかな?」
優しい笑みを浮かべ時音 ざくろ(ka1250)が尋ねると、レイナは深くお辞儀をした。
「ざくろさん、先日はありがとうございました。今日もどうぞよろしくお願いしますね」
「ああ、もちろんだよ。ユリの花、絶対持って帰ろうね」
一通りの挨拶と準備を済ませ、一行は村の外に停めてある馬車へと移動した。
その途中、
「なぁレイナ。今日はサイファーは居ないのか? お前らワンセットかと思ってたぜ」
辺りを見回しながらトリプルJ(ka6653)が小声で尋ねる。
「え? あ、その……」
レイナは少し恥ずかしそうに下を向く。それは思い合っているから一緒に居たいとかそう言うのではなく、ただ単純にサイファーが居ないと何もできないと思い込んでいるが故の恥ずかしさからだ。そんなレイナの姿に目を細め、
「レイナ、ちょっと手を出せ」
そう言ってトリプルJはレイナの手のひらに淡い色合のキラキラ光る二つの貴石を乗せた。
「同盟のジェオルジ領のキアーラ川上流にリアルブルーの開拓村があって、俺もよく行くんだが。その更に上流の山に精霊が居て、気に入った人間にはこのキアーラ石を分けてくれるって話があるんだ。……まぁ実際には探して拾うんだがな。で、これを貰った人間は幸せになるって話がある。拾った人間じゃなくな。だからこれは、お前とサイファーに、だ」
茶目っ気たっぷりにウインクしたトリプルJは咥えた煙草を燻らせた。
「いいのですか? ありがとうございます」
嬉しそうに微笑んだレイナは大切に石をしまう。
交代で見張りを行いながら、カタカタとそして時折ガタリと車体を揺らし馬車は進んだ。
「亡くなったエミリア様の誕生日に花を贈るのはアイザック様のお役目とお聞きしましたが、此度レイナ殿がそれをやられるというのも貴殿が前に進んでいく事の意志と関わりが?」
ツィスカ・V・アルトホーフェン(ka5835)は真っ直ぐな瞳を隣に座るレイナに向けた。
「いえ、そんな大それたものでは……。私のお母様の誕生日なのですから、お父様の代わりに、私がやりたいと……。今まで何もしてこなかったのに我が儘ですよね」
レイナは眉尻を下げ少し困ったような寂しげな表情を浮かべた。そんなレイナをジッと見つめていたツィスカは目元を和らげ、小さく唇の端を持ち上げる。
「聞くだけ野暮な話でしたね……。自分なりの我儘、結構な事です。一歩一歩歩む事で己の五感で世界を広げていく……。出来る事が増えていけば我儘の重さも増す事でしょう」
「ありがとうございます。皆様は、最近如何されているのですか? ご家族とはお会いになりまして?」
レイナの質問に腕を組み首を傾げながらざくろが答える。
「地球の家族とは、何年も会えてないんだよねぇ。少し寂しく思うけど、でも、こっちで大事な仲間であり家族でもあるお嫁さんも出来たし、もうすぐ子供も生まれるし、なんとしても生きて邪神に勝って未来を切り開かなくちゃなぁって」
「わぁ、素敵! おめでとうございます。お子様、楽しみですね」
自分の事のように喜ぶレイナの姿にざくろの胸が温かくなった。
「……家族か……」
複雑な表情を浮かべ瞳を閉じるレイアはあまり語りたくはないようだ。それでも、
「……まあ今では仲間が家族の様なものだな。気心が知れ、酒を酌み交わし語り合える家族、さ。たまに変な家族もいるが、まあ、そういう事を言い合えるのも家族の様なもの、と言う事だろう。あまり面白い話が出来なくて申し訳ないな」
心当たりあるその人物に視線を向けていたレイアは、そう言って口を閉じた。
「いいえ、レイアさんのお話が聞けて嬉しいです」
寡黙とまではいかないが自分の事をあまり話さなかったレイアが、己の事を話してくれたことにレイナは嬉しさを覚えた。
「私には姓の違う弟が一人いるよ」
そう話し始めたのは、レイアのチクリとした視線もどこ吹く風と受け流す御言だ。
「向こうに居た時は弟を養うのが最大の仕事でね、そんな弟には常日頃から言ってきた事があるんだ。兄より優れた弟などいないってね」
御言は思い出すように瞳を細め続けて口を開いた。
「だから彼には私よりも大きな『漢』になって欲しいのだ。そう易々と抜かせはしないがね? 人は何時だって簡単に失われてしまう。だから強くなければならない。失われ、相手を悲しませる事の無いように。あと頼る事も必要だ。自分が必要とされないのは少し寂しいからね。私の弟も富に生意気になって……」
思い出を話していたはずが、自分に言い聞かせるような口調になっている事に気付いた御言はフッと小さく笑った。
その様子を眺めながら、真は考えていた。
(家族に関して話せることはないし、邪心との決戦とか最近は色々あるけど、こういう重い話はレイナさんには似合わないよね)
ハンターとして戦線を駆け抜け熾烈な戦いに身を投じる真の姿はレイナの想像も及ばぬものだ。血飛沫や悲鳴の絶えないその戦いの話をすれば、目の前の若い領主はきっと胸を痛める。そう考え聞き役に徹していたが、強く興味を引かれる質問を口にした。
「そう言えば……最近サイファーさんとはどう?」
突然の質問に目を瞬いたレイナは、
「え? えっと、そうですね、まだまだ頼ってばかりで……自分の至らなさに辟易してしまいます」
(予想していたけど……関係性に全く進展がなかった)
落ち込むレイナとは逆に真はクツクツと喉の奥で笑い、つられるようにトリプルJも笑いを堪えて小さく肩を震わせた。
やがて街道を走っていた馬車は森の近くで止まった。
「ここから森の中に入っていくのですね?」
ツィスカの問いにレイナは頷く。
「はい。ここから南南西に一時間ほど進みます」
「疲れたら無理せず言って下さいね。それじゃあ行きましょうか」
ツィスカはそう言って促すようにレイナの背中をポンっと押す。
先行して森に入った御言が歩きやすいよう藪を払い低い枝を落とし道を確保してくれている。
生命溢れる森の中を一行は進む。美しい羽根を広げる鳥や樹から樹へと飛び移るリスの姿を見つけては喜んでいたレイナも、次第に肩で息をし始めた。
「疲れたかな? 少し休憩しようか?」
後ろを歩くレイナを振り返った真が提案すると、レイナは明らかにホッとしたように頷いた。
「はい。お気遣いありがとうございます」
「少しペースが速かったでしょうか?」
座り込んだレイナの顔を覗きこんだツィスカが心配そうに尋ねる。
「いえ、すみません体力が無く……」
「まあ、仕方がないだろう。本来領主の仕事は森の中を歩くことじゃないからな」
申し訳なさそうにするレイナを元気づけるようにレイアが明るく声を掛けた。
するとその声に反応したのはレイナではなく、
「そうなんだけど……私の記憶では一度や二度じゃないなぁ」
「そうだな。知るだけでもその倍はあるだろうな」
真とトリプルJが苦笑いを浮かべながら頷いていた。
「ざくろも一緒に森に入ったことがあったよ。ざくろはこれで二度目だな」
「随分と行動力に溢れた領主様のようですね」
ざくろと御言もクスクスと笑い出す。
木々の間を縫って風が駆け抜け、恥ずかしさに顔を赤く染めたレイナの頬を優しく擽る。
疲れた気持ちがフッと軽くなる和やかな雰囲気だったのだが、ガサガサっと前方の茂みで何かが動く気配を察知しハンター達の表情が強張った。
森に入ってから目にしてきた動物達よりも更に大きな気配に、誰かがゴクリと息を飲む。
直後、姿を見せたのは大きな牡鹿。ハンター達をジッと見つめ動こうとしない。
「なんだ、鹿か」
レイアがポツリと呟くと、
「熊とか猪とかじゃなくて良かったですね」
ツィスカが詰めていた息を吐きながら応えた。
「向かってきても厄介だし、威嚇して追い払った方がいいよね?」
森を荒らすことが本意でない真は振り返りレイナを窺う。レイナがコクコクと頷いているのを確認すると、
「じゃあ、ざくろがやるよ」
一歩進んだざくろがデルタレイを唱えると、薄暗い森の中で三角形に輝く光が木々のそして鹿の陰影を浮かび上がらせた。目が眩むほどの光に怖じ気付いたのか、鹿はすぐさま逃げ出す。
「もう大丈夫なようだね」
素早く周囲を確認した御言が小さく息を吐きだした。
「んじゃ、もうちょっと休憩したら先に進もうぜ。今、半分くらいまで来てるからな」
モフロウと視覚共有して上空からユリを探していたトリプルJがそう言って新しい煙草に火を付けた。
休憩後休まず足を進めた一行は森を抜け崖へと辿りついた。
「この辺がアイザック様が言っていたユリの群生地ですか?」
「はい。この辺りだと思います」
ツィスカの問いに応えたレイナはキョロキョロと辺りを見回した。崖の斜面に咲いていたこともあったと言っていたのを思いだし、レイナが崖下を覗こうと身を乗り出すと、
「危ないぞ、気を付けろ」
近くにいたレイアがレイナの腕を掴んだ。
「っ! あ、ありがとうございます」
驚きに飛び上がった心臓をなだめながら、レイナはゆっくりと崖下を覗く。
「あ! ありました!」
「本当だね、いっぱい咲いてる。しかし……どうやって採ろうか?」
同じように崖下を覗き込んだ真が困ったように眉尻を下げた。
煌めく日差しに照らされ、川面を走り崖下から吹き上げた風に揺れるユリを眺めていると、サッと大きな影が過ぎった。刹那、ギャッギャという鋭い鳴き声が聞こえ影は風車のようにクルクルと回りながら徐々にその色を濃く変えていく。
「雑魔だ!」
ざくろの声を合図に空を見上げれば、太陽を背に巨大な鷲が旋回しながら飛んでいた。
その大きさは優に大人を越える。鳴きながらハンター達を威嚇し獲物を狙うかのように目を光らせる。
「せっかくユリが見つかったと言うのに、邪魔が入ったな」
御言はレイナに護衛がいる事を確認するとその場から少し離れ、アルケミックパワーで強化した蒼機杖でデルタレイを唱えた。三角形の頂上から延びる閃光が大鷲の羽を貫くが、大鷲はヒラリと体勢を戻し弾丸の如く御言に飛び掛かる。
御言と同時に走り出したレイアはガウスジェイルで御言に飛び掛かろうとする大鷲の気を引きつけ、強化した愛剣のカオスウィースで向きを変え突っ込んでくる大鷲の爪を受け止めた。
掴みながらバランスをとるように翼を広げバサバサと動かしていた大鷲が、刹那その大きな翼をレイアに叩き付ける。まるで棍棒で打たれたかのような衝撃にレイアは後ずさった。
レイアと大鷲との間に僅かな距離が生まれた瞬間、トリプルJのファントムハンドが大鷲を拘束する。
「そのまま捕まえておいてくださいますか?」
そう言ってツィスカは大鷲に向けてグリムイーターの引き金を引いた。間髪空けず、トリプルJがワイルドラッシュを叩き込むが、分厚い羽毛に守られダメージはさほど届かない。
拘束から解かれた大鷲が大きく翼を羽ばたかせれば、砂塵がまるで羽虫のように舞い上がりトリプルJの視界を閉ざす。好機とばかりに大鷲が鋭い爪を振り下ろすと顔を顰めたトリプルJの腕を掠めた。
一度上空まで飛び上がり距離を取った大鷲は再び旋回しながら、狙いを定め直す。そして嘲笑うかのように一度鳴くと、レイナを目掛け急降下した。自分が狙われているとは思っていないレイナは当然急に動けるはずもない。
羽を広げた姿が目で捉えきれなくなるほど近付いた瞬間、ざくろがレイナの周りにポゼッションで結界を張る。
「超機導結界! この空間はもうざくろの領域だ。レイナは傷付けさせないよ」
見えない壁に激突した大鷲はドサリと地面に落ちた。間髪入れずに起き上がるが、その一瞬を見落とす訳も無くレイナを背にしていた真が強く踏込み刺突一閃の一撃を放つ。胴体に刺さった剣を振り払いようにヨロヨロと飛び上がるが、御言が再び唱えたデルタレイが矢のように身体を貫いた。アイコンタクトで御言とタイミングを計ったレイアの衝撃波が続けて大鷲を襲う。パラパラと抜け落ちる羽、それに混じり大鷲の身体も塵となり、やがて崩れて消えた。
そしてしばらくたった頃、レイナの腕の中には美しく咲き誇るユリの姿があった。
崖下に咲いているが、やはり自分で採りに行きたいと言うレイナと、本人が採りに行く事に意味があると考えていたハンターの意見が一致した為に、レイナはロープを腰に結びハンターに手伝ってもらいながらなんとかユリを採ることが出来た。もちろん、滑落などが無いよう細心の注意を払い、トリプルJは天駆けるもののスキルで万が一に備えてくれた。
崖上に戻ってくる時には顔が真っ青になっていたレイナも程なくして落ち着き、思い出のユリをしばし眺めた。
「二株程貰っていってレイナの家で育ててみたらどうだ? お前は領主だ、替えが効かねぇ。どうしたって行くのが難しい時だってある。アンタの両親も精霊も怒りゃしねぇよ。お前が育てた分、喜ぶと思うぜ?」
その提案に笑顔で頷き、目的を果たしたレイナはその場を後にした。
帰りの馬車の中でもレイナはユリを眺めていた。
純粋、無垢、威厳。ユリの花言葉は母を表すのにぴったりの花なのだと改めて感じた。
自分もいつか、そうなりたいと……。聖母に捧げられた花のように凛とした女性になりたいと……。
そしてレイナは馬車の中を見回す。出自も性格も様々な目の前のハンター達は、どんな花が好きだろう。花に喩えるなら? 贈るなら? 鮮やかに咲き誇る花と心優しきハンター達を思い描き、レイナの緩んだ頬はしばらくの間元に戻ることはなかった。
レイナ・エルト・グランツは強い意思と冒険や探検に心躍らせる子供のような輝きを宿す瞳を弓なりに細めた。
「ああ、今日はよろしくね」
レイナの隠しきれないソワソワした気持ちを察した鞍馬 真(ka5819)は小さく微笑む。
「今回もよろしくな、レイナ」
その隣でレイア・アローネ(ka4082)が軽く手を上げると、レイアの美しい黒髪がフワリと揺れた。
「私の名前は久我・御言。諸君、よろしくしてくれたまえ」
レイナの後ろから一歩前に出た久我・御言(ka4137)がスッと手を突きだした。
友好的なその挨拶に合わせるようレイナが手を差し出すと御言はヒラリと手首を返す。握られた手のひらがパッと開かれると、先程まで何もなかった手のひらには小さな真紅の薔薇の造花が乗っていた。
「まあ! いったいどうやって?」
驚きと歓喜にレイナが目を瞬くと、
「御言もいるのか」
友人の師を名乗る男の姿にレイアが苦笑いを浮かべて呟く。
御言はそんなレイアにチラリと視線を向け小さく唇に弧を描いた。
「レイナ、久しぶりだね。元気だったかな?」
優しい笑みを浮かべ時音 ざくろ(ka1250)が尋ねると、レイナは深くお辞儀をした。
「ざくろさん、先日はありがとうございました。今日もどうぞよろしくお願いしますね」
「ああ、もちろんだよ。ユリの花、絶対持って帰ろうね」
一通りの挨拶と準備を済ませ、一行は村の外に停めてある馬車へと移動した。
その途中、
「なぁレイナ。今日はサイファーは居ないのか? お前らワンセットかと思ってたぜ」
辺りを見回しながらトリプルJ(ka6653)が小声で尋ねる。
「え? あ、その……」
レイナは少し恥ずかしそうに下を向く。それは思い合っているから一緒に居たいとかそう言うのではなく、ただ単純にサイファーが居ないと何もできないと思い込んでいるが故の恥ずかしさからだ。そんなレイナの姿に目を細め、
「レイナ、ちょっと手を出せ」
そう言ってトリプルJはレイナの手のひらに淡い色合のキラキラ光る二つの貴石を乗せた。
「同盟のジェオルジ領のキアーラ川上流にリアルブルーの開拓村があって、俺もよく行くんだが。その更に上流の山に精霊が居て、気に入った人間にはこのキアーラ石を分けてくれるって話があるんだ。……まぁ実際には探して拾うんだがな。で、これを貰った人間は幸せになるって話がある。拾った人間じゃなくな。だからこれは、お前とサイファーに、だ」
茶目っ気たっぷりにウインクしたトリプルJは咥えた煙草を燻らせた。
「いいのですか? ありがとうございます」
嬉しそうに微笑んだレイナは大切に石をしまう。
交代で見張りを行いながら、カタカタとそして時折ガタリと車体を揺らし馬車は進んだ。
「亡くなったエミリア様の誕生日に花を贈るのはアイザック様のお役目とお聞きしましたが、此度レイナ殿がそれをやられるというのも貴殿が前に進んでいく事の意志と関わりが?」
ツィスカ・V・アルトホーフェン(ka5835)は真っ直ぐな瞳を隣に座るレイナに向けた。
「いえ、そんな大それたものでは……。私のお母様の誕生日なのですから、お父様の代わりに、私がやりたいと……。今まで何もしてこなかったのに我が儘ですよね」
レイナは眉尻を下げ少し困ったような寂しげな表情を浮かべた。そんなレイナをジッと見つめていたツィスカは目元を和らげ、小さく唇の端を持ち上げる。
「聞くだけ野暮な話でしたね……。自分なりの我儘、結構な事です。一歩一歩歩む事で己の五感で世界を広げていく……。出来る事が増えていけば我儘の重さも増す事でしょう」
「ありがとうございます。皆様は、最近如何されているのですか? ご家族とはお会いになりまして?」
レイナの質問に腕を組み首を傾げながらざくろが答える。
「地球の家族とは、何年も会えてないんだよねぇ。少し寂しく思うけど、でも、こっちで大事な仲間であり家族でもあるお嫁さんも出来たし、もうすぐ子供も生まれるし、なんとしても生きて邪神に勝って未来を切り開かなくちゃなぁって」
「わぁ、素敵! おめでとうございます。お子様、楽しみですね」
自分の事のように喜ぶレイナの姿にざくろの胸が温かくなった。
「……家族か……」
複雑な表情を浮かべ瞳を閉じるレイアはあまり語りたくはないようだ。それでも、
「……まあ今では仲間が家族の様なものだな。気心が知れ、酒を酌み交わし語り合える家族、さ。たまに変な家族もいるが、まあ、そういう事を言い合えるのも家族の様なもの、と言う事だろう。あまり面白い話が出来なくて申し訳ないな」
心当たりあるその人物に視線を向けていたレイアは、そう言って口を閉じた。
「いいえ、レイアさんのお話が聞けて嬉しいです」
寡黙とまではいかないが自分の事をあまり話さなかったレイアが、己の事を話してくれたことにレイナは嬉しさを覚えた。
「私には姓の違う弟が一人いるよ」
そう話し始めたのは、レイアのチクリとした視線もどこ吹く風と受け流す御言だ。
「向こうに居た時は弟を養うのが最大の仕事でね、そんな弟には常日頃から言ってきた事があるんだ。兄より優れた弟などいないってね」
御言は思い出すように瞳を細め続けて口を開いた。
「だから彼には私よりも大きな『漢』になって欲しいのだ。そう易々と抜かせはしないがね? 人は何時だって簡単に失われてしまう。だから強くなければならない。失われ、相手を悲しませる事の無いように。あと頼る事も必要だ。自分が必要とされないのは少し寂しいからね。私の弟も富に生意気になって……」
思い出を話していたはずが、自分に言い聞かせるような口調になっている事に気付いた御言はフッと小さく笑った。
その様子を眺めながら、真は考えていた。
(家族に関して話せることはないし、邪心との決戦とか最近は色々あるけど、こういう重い話はレイナさんには似合わないよね)
ハンターとして戦線を駆け抜け熾烈な戦いに身を投じる真の姿はレイナの想像も及ばぬものだ。血飛沫や悲鳴の絶えないその戦いの話をすれば、目の前の若い領主はきっと胸を痛める。そう考え聞き役に徹していたが、強く興味を引かれる質問を口にした。
「そう言えば……最近サイファーさんとはどう?」
突然の質問に目を瞬いたレイナは、
「え? えっと、そうですね、まだまだ頼ってばかりで……自分の至らなさに辟易してしまいます」
(予想していたけど……関係性に全く進展がなかった)
落ち込むレイナとは逆に真はクツクツと喉の奥で笑い、つられるようにトリプルJも笑いを堪えて小さく肩を震わせた。
やがて街道を走っていた馬車は森の近くで止まった。
「ここから森の中に入っていくのですね?」
ツィスカの問いにレイナは頷く。
「はい。ここから南南西に一時間ほど進みます」
「疲れたら無理せず言って下さいね。それじゃあ行きましょうか」
ツィスカはそう言って促すようにレイナの背中をポンっと押す。
先行して森に入った御言が歩きやすいよう藪を払い低い枝を落とし道を確保してくれている。
生命溢れる森の中を一行は進む。美しい羽根を広げる鳥や樹から樹へと飛び移るリスの姿を見つけては喜んでいたレイナも、次第に肩で息をし始めた。
「疲れたかな? 少し休憩しようか?」
後ろを歩くレイナを振り返った真が提案すると、レイナは明らかにホッとしたように頷いた。
「はい。お気遣いありがとうございます」
「少しペースが速かったでしょうか?」
座り込んだレイナの顔を覗きこんだツィスカが心配そうに尋ねる。
「いえ、すみません体力が無く……」
「まあ、仕方がないだろう。本来領主の仕事は森の中を歩くことじゃないからな」
申し訳なさそうにするレイナを元気づけるようにレイアが明るく声を掛けた。
するとその声に反応したのはレイナではなく、
「そうなんだけど……私の記憶では一度や二度じゃないなぁ」
「そうだな。知るだけでもその倍はあるだろうな」
真とトリプルJが苦笑いを浮かべながら頷いていた。
「ざくろも一緒に森に入ったことがあったよ。ざくろはこれで二度目だな」
「随分と行動力に溢れた領主様のようですね」
ざくろと御言もクスクスと笑い出す。
木々の間を縫って風が駆け抜け、恥ずかしさに顔を赤く染めたレイナの頬を優しく擽る。
疲れた気持ちがフッと軽くなる和やかな雰囲気だったのだが、ガサガサっと前方の茂みで何かが動く気配を察知しハンター達の表情が強張った。
森に入ってから目にしてきた動物達よりも更に大きな気配に、誰かがゴクリと息を飲む。
直後、姿を見せたのは大きな牡鹿。ハンター達をジッと見つめ動こうとしない。
「なんだ、鹿か」
レイアがポツリと呟くと、
「熊とか猪とかじゃなくて良かったですね」
ツィスカが詰めていた息を吐きながら応えた。
「向かってきても厄介だし、威嚇して追い払った方がいいよね?」
森を荒らすことが本意でない真は振り返りレイナを窺う。レイナがコクコクと頷いているのを確認すると、
「じゃあ、ざくろがやるよ」
一歩進んだざくろがデルタレイを唱えると、薄暗い森の中で三角形に輝く光が木々のそして鹿の陰影を浮かび上がらせた。目が眩むほどの光に怖じ気付いたのか、鹿はすぐさま逃げ出す。
「もう大丈夫なようだね」
素早く周囲を確認した御言が小さく息を吐きだした。
「んじゃ、もうちょっと休憩したら先に進もうぜ。今、半分くらいまで来てるからな」
モフロウと視覚共有して上空からユリを探していたトリプルJがそう言って新しい煙草に火を付けた。
休憩後休まず足を進めた一行は森を抜け崖へと辿りついた。
「この辺がアイザック様が言っていたユリの群生地ですか?」
「はい。この辺りだと思います」
ツィスカの問いに応えたレイナはキョロキョロと辺りを見回した。崖の斜面に咲いていたこともあったと言っていたのを思いだし、レイナが崖下を覗こうと身を乗り出すと、
「危ないぞ、気を付けろ」
近くにいたレイアがレイナの腕を掴んだ。
「っ! あ、ありがとうございます」
驚きに飛び上がった心臓をなだめながら、レイナはゆっくりと崖下を覗く。
「あ! ありました!」
「本当だね、いっぱい咲いてる。しかし……どうやって採ろうか?」
同じように崖下を覗き込んだ真が困ったように眉尻を下げた。
煌めく日差しに照らされ、川面を走り崖下から吹き上げた風に揺れるユリを眺めていると、サッと大きな影が過ぎった。刹那、ギャッギャという鋭い鳴き声が聞こえ影は風車のようにクルクルと回りながら徐々にその色を濃く変えていく。
「雑魔だ!」
ざくろの声を合図に空を見上げれば、太陽を背に巨大な鷲が旋回しながら飛んでいた。
その大きさは優に大人を越える。鳴きながらハンター達を威嚇し獲物を狙うかのように目を光らせる。
「せっかくユリが見つかったと言うのに、邪魔が入ったな」
御言はレイナに護衛がいる事を確認するとその場から少し離れ、アルケミックパワーで強化した蒼機杖でデルタレイを唱えた。三角形の頂上から延びる閃光が大鷲の羽を貫くが、大鷲はヒラリと体勢を戻し弾丸の如く御言に飛び掛かる。
御言と同時に走り出したレイアはガウスジェイルで御言に飛び掛かろうとする大鷲の気を引きつけ、強化した愛剣のカオスウィースで向きを変え突っ込んでくる大鷲の爪を受け止めた。
掴みながらバランスをとるように翼を広げバサバサと動かしていた大鷲が、刹那その大きな翼をレイアに叩き付ける。まるで棍棒で打たれたかのような衝撃にレイアは後ずさった。
レイアと大鷲との間に僅かな距離が生まれた瞬間、トリプルJのファントムハンドが大鷲を拘束する。
「そのまま捕まえておいてくださいますか?」
そう言ってツィスカは大鷲に向けてグリムイーターの引き金を引いた。間髪空けず、トリプルJがワイルドラッシュを叩き込むが、分厚い羽毛に守られダメージはさほど届かない。
拘束から解かれた大鷲が大きく翼を羽ばたかせれば、砂塵がまるで羽虫のように舞い上がりトリプルJの視界を閉ざす。好機とばかりに大鷲が鋭い爪を振り下ろすと顔を顰めたトリプルJの腕を掠めた。
一度上空まで飛び上がり距離を取った大鷲は再び旋回しながら、狙いを定め直す。そして嘲笑うかのように一度鳴くと、レイナを目掛け急降下した。自分が狙われているとは思っていないレイナは当然急に動けるはずもない。
羽を広げた姿が目で捉えきれなくなるほど近付いた瞬間、ざくろがレイナの周りにポゼッションで結界を張る。
「超機導結界! この空間はもうざくろの領域だ。レイナは傷付けさせないよ」
見えない壁に激突した大鷲はドサリと地面に落ちた。間髪入れずに起き上がるが、その一瞬を見落とす訳も無くレイナを背にしていた真が強く踏込み刺突一閃の一撃を放つ。胴体に刺さった剣を振り払いようにヨロヨロと飛び上がるが、御言が再び唱えたデルタレイが矢のように身体を貫いた。アイコンタクトで御言とタイミングを計ったレイアの衝撃波が続けて大鷲を襲う。パラパラと抜け落ちる羽、それに混じり大鷲の身体も塵となり、やがて崩れて消えた。
そしてしばらくたった頃、レイナの腕の中には美しく咲き誇るユリの姿があった。
崖下に咲いているが、やはり自分で採りに行きたいと言うレイナと、本人が採りに行く事に意味があると考えていたハンターの意見が一致した為に、レイナはロープを腰に結びハンターに手伝ってもらいながらなんとかユリを採ることが出来た。もちろん、滑落などが無いよう細心の注意を払い、トリプルJは天駆けるもののスキルで万が一に備えてくれた。
崖上に戻ってくる時には顔が真っ青になっていたレイナも程なくして落ち着き、思い出のユリをしばし眺めた。
「二株程貰っていってレイナの家で育ててみたらどうだ? お前は領主だ、替えが効かねぇ。どうしたって行くのが難しい時だってある。アンタの両親も精霊も怒りゃしねぇよ。お前が育てた分、喜ぶと思うぜ?」
その提案に笑顔で頷き、目的を果たしたレイナはその場を後にした。
帰りの馬車の中でもレイナはユリを眺めていた。
純粋、無垢、威厳。ユリの花言葉は母を表すのにぴったりの花なのだと改めて感じた。
自分もいつか、そうなりたいと……。聖母に捧げられた花のように凛とした女性になりたいと……。
そしてレイナは馬車の中を見回す。出自も性格も様々な目の前のハンター達は、どんな花が好きだろう。花に喩えるなら? 贈るなら? 鮮やかに咲き誇る花と心優しきハンター達を思い描き、レイナの緩んだ頬はしばらくの間元に戻ることはなかった。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 鞍馬 真(ka5819) 人間(リアルブルー)|22才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2019/06/15 22:53:32 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/06/13 18:33:18 |