ゲスト
(ka0000)
知恵と恐怖
マスター:神宮寺飛鳥

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/01/27 19:00
- 完成日
- 2015/02/04 03:52
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「シュシュ・アルミラ三等兵! 第一師団長オズワルド様の命令に従い、これより第七師団の指揮下に入ります!」
ガチガチの敬礼であった。そんなシュシュの前に腰掛けていた軍服の男は穏やかに微笑みながら立ち上がる。
「第七師団所属、カルガナ・ブアナ兵長だ。これから暫くの間よろしく頼むよ、アルミラ三等」
男は褐色の肌にドレッドヘアーという、一般的にはやや厳つい外見だったが、シュシュには直ぐに分かった。この感じは“同郷”の人間なのだと。
第七師団との合同作戦にシュシュが駆り出されたのは偶然ではなかった。彼女は過去にこの開拓地を訪れた事があったし、開拓地には辺境移民も少なくない。
この開拓地に襲撃を繰り返すコボルドへの対策として、殲滅作戦の決断がくだされたのはむしろ遅すぎるくらいだった。
辺境でのCAM起動実験からこっち、国内はずっとバタバタしていた。ようやくまとまった兵力を最寄りの第七師団と第一師団の合同で用意出来た頃には、すっかり時間が過ぎてしまった。
「失礼。シュシュ君と呼んでも?」
「は。構わないございますです」
「オズワルドさんから聞いたよ。君も辺境移民なのだそうだね。そしてこの国を変えようと努力している……僕は君にとっての先輩という事になるかな」
「では、ブアナ兵長も……?」
「カルガナでいいよ。部下にはそれで通してる」
「……カルガナも帝国を変える為に、帝国軍に入っただか?」
男は頷くとシュシュに椅子にかけるように進めた。
ここ、帝国領内の開拓地には辺境からだけではなく各地からの移民が市民権を得る代わりに労働に従事している。その中には犯罪者さえも含まれる。
彼らは平等に仕事をこなし、平等の危険と労力を対価に自由を得ようとしている。帝国においてそれは自然な流れの一つだ。
「帝国は確かに傲慢なところもあるけれど、こうして僕の働きを評価し、兵長の位をくれた。そういう意味でこの国はどこまでも平等だ。残酷なくらいにね」
「シュシュはまだよくわかんないだよ。この国で戦う事がどういう事なのか……本当にシュシュは前に進んでいるのか……」
「それは僕にもなんとも言えないね。人それぞれなんじゃないかな。ただ一つ今確かな事は、この開拓地を守る事が僕らの未来にもつながっているという事だ」
男は慣れた手つきで帝国製のお世辞にもうまいとは言えないコーヒーを淹れシュシュに差し出した。
確かに全く言う通り。だからこそオズワルドは第七師団への派兵戦力の中にシュシュをまぜたのだから。
「今現在、僕の部下達がコボルドの住処についての調査を進めている。奴らは坑道に網目状の巣を作っているらしく、全貌の把握にはもう少しかかりそうなんだ。シュシュ君には作戦開始までの間、ハンターと協力し開拓村を警備してほしい」
「わかっただよ。でもなんでまたハンターがいるだ?」
「今回は少し大きな捕物になりそうだからね。ハンターが居た方が何かと便利なんだ」
本当はオズワルドがハンターに依頼し、シュシュのおもりとして派遣してきたのだが……それは言わないでおこう。
シュシュが両手で抱えた鉄製のカップからしかめっ面でコーヒーを啜っていると、駐留用に設置されたテントへ第七師団の兵士が飛び込んでくる。
「報告します! 現在、開拓村の付近にコボルドが出現! 複数の地点で戦闘が開始されている模様!」
「奴らも流石にバカじゃない。こっちが攻撃の準備を進めているのを感じ取ったんだろうね。……シュシュ君、対応を頼めるかい? 僕も現場に出たいが、一応指揮を任されていてね」
「にがぃ……はっ!? 了解したでござるですぞ!」
慌てて敬礼するシュシュにカルガナは力強く頷き返した。
「コボルドはどこだべか~?」
片手斧を手にえっちらおっちら走るシュシュ。その後にハンターも続く。
戦闘はあちこちで発生しているようだが、基本的には帝国兵が優位だ。一つの山に救うコボルドの巣を駆逐できるだけの戦力が待機しているのだから、当然であるが。
シュシュと共にハンター達も軽くコボルドの部隊を追い返し、山の麓にある森付近まで走ってきた頃だ。そろそろ引き返そうかと話始めた時、新たなコボルドが出現した。
しかし妙なのは、どうやら一匹のコボルドを複数のコボルドが追い回しているらしい事だ。逃げるコボルドは青いスカーフを巻き、他の個体と異なり軽量の鉄鎧を装備している。
「仲間割れだべか?」
首を傾げるハンター。するとコボルドは進路を変更し、こちらへ近づいてくる。
咄嗟に得物を構えるハンター達だが、コボルドは近づくとハアハアと息を乱しながら言った。
「助ケヲコウ……。我、戦意ナシ。ニンゲン、和平、ノゾム」
「コボルドがしゃべっただよ!?」
いや、一応喋れる個体もいるみたいだよとハンターが解説している内に追手が近づいてくる。
「決断ヲコウ。我、裏切リノ徒ナリ。コノママ死ヌ、戦イ、止マラヌ。悔恨、ツキズ」
「……………………こいつなにいってるかよくわかんないだよ?」
真剣な表情で眉を潜めるシュシュ。そうですね。もう少しわかりやすく喋って欲しいですね。
青いスカーフのコボルドへと矢が放たれた。シュシュはそれを盾で弾き、片手でくるりと斧を回す。
「あ! つい助けてしまっただよ! これからどうすればいいだべか? こういう時どうしたらいいのか、聞いてないだよぅ!」
すっかり困り果てた様子のシュシュ。確かにこんな状況への指示は受けていなかった。
さてどうしたものかと考える間もなくコボルド達が迫る。どうやら青スカーフのコボルドも剣を抜いて戦うようだった。
ガチガチの敬礼であった。そんなシュシュの前に腰掛けていた軍服の男は穏やかに微笑みながら立ち上がる。
「第七師団所属、カルガナ・ブアナ兵長だ。これから暫くの間よろしく頼むよ、アルミラ三等」
男は褐色の肌にドレッドヘアーという、一般的にはやや厳つい外見だったが、シュシュには直ぐに分かった。この感じは“同郷”の人間なのだと。
第七師団との合同作戦にシュシュが駆り出されたのは偶然ではなかった。彼女は過去にこの開拓地を訪れた事があったし、開拓地には辺境移民も少なくない。
この開拓地に襲撃を繰り返すコボルドへの対策として、殲滅作戦の決断がくだされたのはむしろ遅すぎるくらいだった。
辺境でのCAM起動実験からこっち、国内はずっとバタバタしていた。ようやくまとまった兵力を最寄りの第七師団と第一師団の合同で用意出来た頃には、すっかり時間が過ぎてしまった。
「失礼。シュシュ君と呼んでも?」
「は。構わないございますです」
「オズワルドさんから聞いたよ。君も辺境移民なのだそうだね。そしてこの国を変えようと努力している……僕は君にとっての先輩という事になるかな」
「では、ブアナ兵長も……?」
「カルガナでいいよ。部下にはそれで通してる」
「……カルガナも帝国を変える為に、帝国軍に入っただか?」
男は頷くとシュシュに椅子にかけるように進めた。
ここ、帝国領内の開拓地には辺境からだけではなく各地からの移民が市民権を得る代わりに労働に従事している。その中には犯罪者さえも含まれる。
彼らは平等に仕事をこなし、平等の危険と労力を対価に自由を得ようとしている。帝国においてそれは自然な流れの一つだ。
「帝国は確かに傲慢なところもあるけれど、こうして僕の働きを評価し、兵長の位をくれた。そういう意味でこの国はどこまでも平等だ。残酷なくらいにね」
「シュシュはまだよくわかんないだよ。この国で戦う事がどういう事なのか……本当にシュシュは前に進んでいるのか……」
「それは僕にもなんとも言えないね。人それぞれなんじゃないかな。ただ一つ今確かな事は、この開拓地を守る事が僕らの未来にもつながっているという事だ」
男は慣れた手つきで帝国製のお世辞にもうまいとは言えないコーヒーを淹れシュシュに差し出した。
確かに全く言う通り。だからこそオズワルドは第七師団への派兵戦力の中にシュシュをまぜたのだから。
「今現在、僕の部下達がコボルドの住処についての調査を進めている。奴らは坑道に網目状の巣を作っているらしく、全貌の把握にはもう少しかかりそうなんだ。シュシュ君には作戦開始までの間、ハンターと協力し開拓村を警備してほしい」
「わかっただよ。でもなんでまたハンターがいるだ?」
「今回は少し大きな捕物になりそうだからね。ハンターが居た方が何かと便利なんだ」
本当はオズワルドがハンターに依頼し、シュシュのおもりとして派遣してきたのだが……それは言わないでおこう。
シュシュが両手で抱えた鉄製のカップからしかめっ面でコーヒーを啜っていると、駐留用に設置されたテントへ第七師団の兵士が飛び込んでくる。
「報告します! 現在、開拓村の付近にコボルドが出現! 複数の地点で戦闘が開始されている模様!」
「奴らも流石にバカじゃない。こっちが攻撃の準備を進めているのを感じ取ったんだろうね。……シュシュ君、対応を頼めるかい? 僕も現場に出たいが、一応指揮を任されていてね」
「にがぃ……はっ!? 了解したでござるですぞ!」
慌てて敬礼するシュシュにカルガナは力強く頷き返した。
「コボルドはどこだべか~?」
片手斧を手にえっちらおっちら走るシュシュ。その後にハンターも続く。
戦闘はあちこちで発生しているようだが、基本的には帝国兵が優位だ。一つの山に救うコボルドの巣を駆逐できるだけの戦力が待機しているのだから、当然であるが。
シュシュと共にハンター達も軽くコボルドの部隊を追い返し、山の麓にある森付近まで走ってきた頃だ。そろそろ引き返そうかと話始めた時、新たなコボルドが出現した。
しかし妙なのは、どうやら一匹のコボルドを複数のコボルドが追い回しているらしい事だ。逃げるコボルドは青いスカーフを巻き、他の個体と異なり軽量の鉄鎧を装備している。
「仲間割れだべか?」
首を傾げるハンター。するとコボルドは進路を変更し、こちらへ近づいてくる。
咄嗟に得物を構えるハンター達だが、コボルドは近づくとハアハアと息を乱しながら言った。
「助ケヲコウ……。我、戦意ナシ。ニンゲン、和平、ノゾム」
「コボルドがしゃべっただよ!?」
いや、一応喋れる個体もいるみたいだよとハンターが解説している内に追手が近づいてくる。
「決断ヲコウ。我、裏切リノ徒ナリ。コノママ死ヌ、戦イ、止マラヌ。悔恨、ツキズ」
「……………………こいつなにいってるかよくわかんないだよ?」
真剣な表情で眉を潜めるシュシュ。そうですね。もう少しわかりやすく喋って欲しいですね。
青いスカーフのコボルドへと矢が放たれた。シュシュはそれを盾で弾き、片手でくるりと斧を回す。
「あ! つい助けてしまっただよ! これからどうすればいいだべか? こういう時どうしたらいいのか、聞いてないだよぅ!」
すっかり困り果てた様子のシュシュ。確かにこんな状況への指示は受けていなかった。
さてどうしたものかと考える間もなくコボルド達が迫る。どうやら青スカーフのコボルドも剣を抜いて戦うようだった。
リプレイ本文
「なんかよくわかんねえ状況だなおい」
青スカーフを見下ろしながら腕を組むカルス(ka3647)。イェルバート(ka1772)も困った様子で頬を掻き。
「まるで予想外の展開だよね。普通のコボルド退治のつもりだったのに」
「あら、難しく考える必要なんてありませんわよ? 手を差しのべるか否かなど話を聞かねばわかりませんし、そのためには今目の前のアレ等は邪魔なだけですもの」
ベアトリス・ド・アヴェーヌ(ka0458)の言う通り、まずは眼前に迫る敵に対処せねばならない。勿論カルスもイェルバートも重々承知だ。
「こういう混乱しそうな時は、わかりやすい所から片付けていけって、爺ちゃん言ってたっけ」
「だな。まあ、整理は後回しだ。先ずは団体さんをもてなしてやろうぜ」
「ところで貴方。お名前、うかがっても良いかしら?」
喜屋武・D・トーマス(ka3424)の問いに青スカーフのコボルドは頷き。
「我ガ師ヨリ賜リシ、名、ホロン」
「ホロンちゃんね。ちゃんと自己紹介できるなんて、偉いわねぇ」
「ではホロン殿。その話を信じる為にも、まずは安全を第一に考えて欲しい」
クリスティン・ガフ(ka1090)の言葉にホロンは首を横に振る。
「我、安全域ニテ待機? 出来ヌ。人、血ヲ流サヌヲ信ジズ。我傷ツク、故ニ我ラ友ナリ得ル」
「一緒に戦って身の証を立てたいって事か。はあ……賢いんだなあ。だけど命は大事にな。ここで死んだら元も子もない」
ザレム・アズール(ka0878)に深々と頭を下げるホロン。神楽(ka2032)はわしわしと頭を掻き。
「皆本気でそいつを信じるつもりっすか? たく、お人よしのバカばかりっすね。嫌いじゃないけど巻き込まれるのは勘弁っすね~」
「俺達の敵はヴォイドだ。亜人達と仲良く出来るならそれに越した事はないさ。もしもコボルドと和平が結べれば、帝国内の治安も改善するだろう」
近衛 惣助(ka0510)は落ち着いた様子でホロンを見つめている。一方シュシュは相変わらずで、ザレムは苦笑を浮かべる。
「シュシュ、とりあえず他のを退けようよ」
「だ、だべか?」
「ホラ、バカ! 俺と一緒に前に出るっす! 俺達で敵を止めるっすよ! でも深追いはするなっす! 攻撃は後衛に任せて俺達は足止めっす!」
シュシュの背中を叩く神楽。こうしてハンター達はホロンと名乗る青スカーフと共に闘う事になった。
「警告する、それ以上進むな。青スカーフは俺達が保護する」
近づく敵に威嚇射撃と共に呼びかける惣助だが、全く意に介さずコボルドが突っ込んでくる。
「そも、言葉が通じていないようですわね。敵の陣地にも近いですから、迎撃に徹し速やかに場を乗り切りますわよ」
ベアトリスの言葉に頷く仲間達。このコボルド達はホロンと違って人間の言葉を理解していない。話し合う事は不可能のようだ。
「よくわかんないけんど、やる!」
「思い切り行って来なさい、シュシュちゃん!」
喜屋武はシュシュに風の加護を施しウィンクする。シュシュは頷き返し、矢の様に飛び出した。
「相変わらず威勢だけはいいっすね~。敵もそれなりの数っす、まともに相手をせず翻弄するっすよ!」
神楽は突撃するシュシュの背中をカバーするように立ちまわる。一方ホロンも剣を抜き、前進を開始していた。
「おい、あんま無理すんじゃねェぞ」
走りながら声をかけるカルス。クリスティンはホロンへ飛んでくる矢を盾でいなすように弾き飛ばす。
「やはり連中はホロン殿を狙ってくるつもりか」
「我、囮トナル」
ホロンの言う通り、敵はみんなホロンを見ているので、シュシュと神楽が側面から一方的に攻撃し隊列を乱しているようだ。
「背面ニ誘導スル」
「あ、おい!」
剣を収め四本足で移動開始したホロンは敵集団を迂回し背後へ向かう。すると敵はそのまま反転する為、弓持ちがハンター達の方に近づいて背を向ける事になった。
「奴ら、すっかり周りが見えてないな」
「これなら狙いたい放題だね!」
猟銃で狙いをつけ引き金を引く惣助。イェルバートは拳銃に電撃を流し、雷を纏った銃弾を放つ。
ザレムは銃口から機導砲の光を放ち、喜屋武はナイフに風を纏わせる。
「行くわよゼファー、貴方の風で切り裂いて!」
切っ先から風の刃がコボルド達の背中に迫る。背後から一斉射撃を受けた弓持ちが一瞬で倒れ、更に他のコボルドも傷つき倒れていく。
「間抜けですわね……申し訳ありませんけど、コボルド相手に容赦するつもりはありませんわ!」
引き金を引くベアトリスの声にハンター達も続く。一方前線ではホロンへ三体のコボルドが迫りつつあった。
「うお、なんか一瞬で半分くらい倒れたぞ」
驚くカルス。近づくコボルドに足を止め弓を構える。
「まだやんのかよ。さっさと逃げてくれりゃこっちの腹も減らずに済むのによ」
近づく一体を矢で射抜く。残り二体、片方は剣を振り上げ跳躍するが、クリスティンはそれを盾で受け、そのまま大地へ組み伏せた。
すかさずホロンがコボルドを剣で貫く。続くもう一体、ホロンは手斧の一撃を盾で受け、背後に回ると体当たりでクリスティンの方へ転ばせる。
今度はクリスティンが大地を擦るように奔らせたルーンソードの一撃でコボルドを切り裂いた。
「貴殿……人間と連携する事に慣れているのか?」
残るコボルドはたったの二体。シュシュと神楽がそれぞれ呆気無く撃破し、戦闘は無事に終了するのであった。
戦いを終えたハンター達。しかし彼らは直ぐに村には戻らず森の側でホロンの話を聞いてみる事にした。
「俺はザレム。ホロン、先ずは武器を置いて話しあおう」
「悪いようにはしねェよ、ちょいと預かるだけだ」
ホロンは特に抵抗もなくカルスに剣と盾を渡す。同じようにザレムも武器をカルスに渡した。
「よろしくな」
「救援感謝スル」
ザレムの握手に問題なく応じるホロン。背の低いホロンが腰を下ろすと、同じくザレムも草の上に胡座をかく。
「それで、どうして人間と争いたくないんだ?」
「我、人ト共ニ旅セシ。見聞広メ、種ノ生存模索シ、ハンターニ武ヲ学ビシ者」
「やはりそうか。先ほどの立ち回り、ただのコボルドではあり得ない事だ」
「師、闘狩人ノ女ナリ。貴殿、良ク似テイル」
クリスティンは見上げる視線になんとも言えない表情を浮かべる。ちょっと可愛い。が、咳払い。
「ハンターならば在り得ない話ではないか」
「じゃあもしかして人間と和平を望んでいるのはホロンの個人的な理由って事かな?」
「他にきみに賛同するような仲間は集落にはいないのか?」
頷くホロン。イェルバートと惣助は顔を見合わせ小さく息を吐く。喜屋武はホロンの隣に屈んで。
「人間との和平だなんて、凄い事を考えるわね。下手したら両方が敵になるわよ?」
「人ハ知恵ヲ持ツ。可能性ヲ想像スル力コソ生存能力。言語交渉ニハ価値アリ」
「私としては歓迎したいのだけれどもね……で、具体的に言うと貴方はどうしたいわけ?」
「貴方が人間と分かり合えた事も、貴方が人間と戦いたくない事も理解はしましたわ。けれど、これは想いだけでどうにかなる問題ではないのですよ?」
喜屋武に続きベアトリスが口を開く。
「和平の意思が本物でも、他に賛同者もないようでは使者としての体裁を成せていない。相応の利を示せねばそれこそお話にもなりませんわよ?」
残念だがベアトリスの言葉が全てだ。
ハンター達もホロンの意思は汲み取ってやりたいが、それがただの理想論ではどうしようもない。
「いっそ、この話は聞かなかったことにしたらどうっすか? それがシュシュの為でもあるっす」
神楽に注目するハンター達。神楽は腰に両手を当て。
「お前が昇進するには戦闘で活躍するしかねっす。でも和平じゃ戦闘が起らねっす。だから聞かなかった事にして殺っちゃえっす」
「シュシュは手柄の為にそんな事しないだよ」
「前にも言った筈っす。シュシュが移民を救うなんて無茶な夢を叶えたいなら、嫌な事だってしなきゃダメなんすよ。全く昇進せずまだ三等兵じゃないっすか。そんなんじゃ師団長になる前に婆さんになっちまうっすよ」
ぐぬぬという表現がぴたりと当てはまるシュシュと向かう神楽。その時、ホロンが声をあげた。
「貴殿ハ正シイ。理想論ニ救済ナシ。故ニ我、戦イヲ止メル為ノ戦イヲ望ム」
「戦いを止める為の……戦い?」
きょとんとしたイェルバート。惣助は頷き。
「詳しく聞かせてくれるかい?」
「集落ハ、長ヲ頂点トシタピラミッド型社会。人ヘノ抵抗ハ、大長ノ指示」
鉱山に巣を張り巡らせた大量のコボルド達。それは幾つかの集落が合併して形成されているという。
それらの集落にはそれぞれの長が存在し、それら長を最大勢力の集落の長、“大長”と呼ばれるコボルドが支配している。
「故ニ我、全テノ長討チ、争イ止メル」
「……待て。それはつまり、一人でクーデターを起こすって事か?」
「えぇ!? 和平の話をしに来たんじゃないの? またわけわかんなくなってきたよ!」
眉間に皺を寄せる惣助、慌てるイェルバート。無理もない。和平の為の戦い……即ち、それはコボルド社会への反乱を意味している。
「種族の為に裏切り者扱いされても行動しようという覚悟は見事だよ。だが、それで本当にいいのか?」
惣助だけではなく全ての者が懸念した。このコボルドは人間を利用し、自分が長になるつもりなのではないか、と。
「人ハ容赦シナイ。ソシテ人は強イ。コノママ衝突スレバ、一族皆殺シ。ソレダケハ回避シタイ」
「確かにもう鉱山の攻略作戦は動き始めてる。開拓民もコボルドには恨みを持っているだろうし、事件再発を防ぐ為には本当に殲滅するだろうね……」
イェルバートは寂しげにそう呟く。
「大長、ソシテ長アル限リ、一族ハ決シテ退カズ。故ニ、長ダケヲ討滅。一族ヲ離散サセ、別ノ集落ヘ移住サセル」
「ヘェ。大胆な事考えんだなあ」
肩を竦め笑うカルス。ベアトリスは口元に手を当て。
「……成程。それが貴方の言う所の和平。即ち、絶滅を回避する為の戦いという事ですわね?」
「我、情報ヲ提供シ共ニ戦ウ。我ト共ニ長ヲ討チ、一族ヲ救ッテ欲シイ……」
人間の土下座を真似てか平服するホロン。ハンター達は顔を見合わせる。
「確かに、亜人との共存共栄はかなりハードル高いわ。私達の権限で解決できる事でもない。だけど、目先の全面衝突を回避する手段として、これは現実的なんじゃないかしら?」
「それにお互いにとって悪い話ではありませんわね。全面衝突に陥れば、人間側も多大な犠牲を支払う事になる……それをお互い最小限の犠牲で事を収められるのなら、帝国軍に取り次ぐ価値はありそうかしら」
喜屋武とベアトリスは冷静に判断を下す。が、イェルバートは腑に落ちない様子だ。
「だけどさ、本当に戦いは避けられないのかな? 僕は力で潰し合う以外の方法があればいいと思うんだ。コボルドとの和平とか前代未聞だし、甘い考えだっていうのはわかってるけど……最初から理解しあう事を諦めてしまっていいの?」
「いや。そいつの言う通り、戦いはもう避けられないっす。そもそも俺達はその為にここに呼ばれたし、あれだけの軍が動いて準備を進めている以上、やっぱりナシとはいかないっすよ」
神楽の声に肩を落とすイェルバート。確かに今直ぐ戦いを停止させるアイデアもないのだ。
開拓民とコボルドは水と油。帝国軍は間違いなく殲滅戦を実施し、そして勝利するだろう。
穴蔵には大量のコボルドの血が流れる事になる。それはそう遠くない、確実な未来だった。
「ホロン、お前は大勢が生き延びる為に仲間を裏切り少数を殺そうって心算なんすね」
「理想ヲ叶エル為ニ、手段ハ選ベナイ」
「……それでいいんだべか? それは本当に“和平”なんか?」
シュシュは悲しげに俯く。ザレムはそれを横目に頷き。
「話はわかった。どちらにせよ帝国軍は殲滅戦を行うだろう。その為の情報提供者としてなら、ホロンを受け入れてくれるはずだ」
「本当にいいんだな? きみは正真正銘の裏切り者になるんだぞ?」
惣助の言葉にホロンは迷いなく答える。
「我、煉獄ノ炎ニ焼カレ、罪ヲ償ウダロウ。人モコボルドモ、裏切リヲ決シテ許サヌ」
ホロンは空を見上げ、それから少し寂しげに呟く。
「師ハ、我ヲ友ト呼ビ、人ノ手ニヨリ討タレ。裏切リヲ人ハ容認セズ。貴殿ラガ我ヲ嫌悪スルモ当然。故ニ、情ハ不要ナリ」
その言葉はまるで人間の口から語られたかのようで、ハンター達は戸惑いを隠せなかった。
ホロンを駐屯地のカルガナの元へ移送する事にしたハンター達。だがそのままでは開拓村で目立ちすぎると、人間の服を着せる事にした。
「悪いな。俺達もスカーフがないと見分けがつかないんだ。なんとかしないと間違って攻撃されちゃうからな」
笑いかけるザレム。人間の服は無理矢理着たので、その上からマントを羽織って身体を隠す事にした。
協力したクリスティンもその完成度の頷く。なんかこう、犬に服着せてるような感じでちょっと楽しかったし。
「これで村にもとりあえず入れるだろっす」
「神楽ちゃん、なんだかんだでちゃんと協力するのね?」
「こいつの決断はどっかのバカと違って現実的っすからね」
喜屋武に笑い返す神楽。シュシュは相変わらず判断を迷っているようだった。
「やっぱりシュシュも簡単には納得できないよね」
「イェルバートもだべか? 帝国軍にとっては都合のいい話なんだけんど……」
「うん……。ホロンは人間を諦めてるようにも見えるんだ。それが少し悲しくてね」
「現実的な解決策を提示し自ら率先して行動しているのですから、評価しても良いと思いますわよ?」
ベアトリスの言葉に二人は同時に苦笑を浮かべる。それはわかるのだが、気持ちの問題だった。
「種族の違いはあれど、辺境部族の戦士と青スカーフの本質は近い。それを重ねてしまうんだろう」
二人の肩を叩く惣助。喜屋武も励ますように言葉をかける。だがそれが正しいのか、大人な二人にもまだわからなかった。
「さて、これからどうする?」
「コボルド側にはあの様子じゃもう戻れないだろうし、ブアナ兵長に相談するしかないね」
相談するクリスティンとザレムの前でカルスはナッツをホロンの口に投げ入れている。
「はは、うまいうまい。しっかし食い方きたねェな、おまえ」
「……カルス、犬じゃないんだから」
「そ、そうだな」
ザレムの声に頷くクリスティン。カルスは自らも指先で弾いたナッツを口に入れ。
「似たようなモンじゃないの。ナッツ好きに悪い奴はいねえってのが俺の持論でな。一緒に飯が食えるなら、ダチにもなれるんじゃねェか?」
な? と同意を求めるように頷くカルス。
こうしてハンター達はホロンを連れ、開拓村へ戻る事にした。
それから先の事はカルガナに相談し、帝国軍にホロンの処遇を問う事になるだろう……。
青スカーフを見下ろしながら腕を組むカルス(ka3647)。イェルバート(ka1772)も困った様子で頬を掻き。
「まるで予想外の展開だよね。普通のコボルド退治のつもりだったのに」
「あら、難しく考える必要なんてありませんわよ? 手を差しのべるか否かなど話を聞かねばわかりませんし、そのためには今目の前のアレ等は邪魔なだけですもの」
ベアトリス・ド・アヴェーヌ(ka0458)の言う通り、まずは眼前に迫る敵に対処せねばならない。勿論カルスもイェルバートも重々承知だ。
「こういう混乱しそうな時は、わかりやすい所から片付けていけって、爺ちゃん言ってたっけ」
「だな。まあ、整理は後回しだ。先ずは団体さんをもてなしてやろうぜ」
「ところで貴方。お名前、うかがっても良いかしら?」
喜屋武・D・トーマス(ka3424)の問いに青スカーフのコボルドは頷き。
「我ガ師ヨリ賜リシ、名、ホロン」
「ホロンちゃんね。ちゃんと自己紹介できるなんて、偉いわねぇ」
「ではホロン殿。その話を信じる為にも、まずは安全を第一に考えて欲しい」
クリスティン・ガフ(ka1090)の言葉にホロンは首を横に振る。
「我、安全域ニテ待機? 出来ヌ。人、血ヲ流サヌヲ信ジズ。我傷ツク、故ニ我ラ友ナリ得ル」
「一緒に戦って身の証を立てたいって事か。はあ……賢いんだなあ。だけど命は大事にな。ここで死んだら元も子もない」
ザレム・アズール(ka0878)に深々と頭を下げるホロン。神楽(ka2032)はわしわしと頭を掻き。
「皆本気でそいつを信じるつもりっすか? たく、お人よしのバカばかりっすね。嫌いじゃないけど巻き込まれるのは勘弁っすね~」
「俺達の敵はヴォイドだ。亜人達と仲良く出来るならそれに越した事はないさ。もしもコボルドと和平が結べれば、帝国内の治安も改善するだろう」
近衛 惣助(ka0510)は落ち着いた様子でホロンを見つめている。一方シュシュは相変わらずで、ザレムは苦笑を浮かべる。
「シュシュ、とりあえず他のを退けようよ」
「だ、だべか?」
「ホラ、バカ! 俺と一緒に前に出るっす! 俺達で敵を止めるっすよ! でも深追いはするなっす! 攻撃は後衛に任せて俺達は足止めっす!」
シュシュの背中を叩く神楽。こうしてハンター達はホロンと名乗る青スカーフと共に闘う事になった。
「警告する、それ以上進むな。青スカーフは俺達が保護する」
近づく敵に威嚇射撃と共に呼びかける惣助だが、全く意に介さずコボルドが突っ込んでくる。
「そも、言葉が通じていないようですわね。敵の陣地にも近いですから、迎撃に徹し速やかに場を乗り切りますわよ」
ベアトリスの言葉に頷く仲間達。このコボルド達はホロンと違って人間の言葉を理解していない。話し合う事は不可能のようだ。
「よくわかんないけんど、やる!」
「思い切り行って来なさい、シュシュちゃん!」
喜屋武はシュシュに風の加護を施しウィンクする。シュシュは頷き返し、矢の様に飛び出した。
「相変わらず威勢だけはいいっすね~。敵もそれなりの数っす、まともに相手をせず翻弄するっすよ!」
神楽は突撃するシュシュの背中をカバーするように立ちまわる。一方ホロンも剣を抜き、前進を開始していた。
「おい、あんま無理すんじゃねェぞ」
走りながら声をかけるカルス。クリスティンはホロンへ飛んでくる矢を盾でいなすように弾き飛ばす。
「やはり連中はホロン殿を狙ってくるつもりか」
「我、囮トナル」
ホロンの言う通り、敵はみんなホロンを見ているので、シュシュと神楽が側面から一方的に攻撃し隊列を乱しているようだ。
「背面ニ誘導スル」
「あ、おい!」
剣を収め四本足で移動開始したホロンは敵集団を迂回し背後へ向かう。すると敵はそのまま反転する為、弓持ちがハンター達の方に近づいて背を向ける事になった。
「奴ら、すっかり周りが見えてないな」
「これなら狙いたい放題だね!」
猟銃で狙いをつけ引き金を引く惣助。イェルバートは拳銃に電撃を流し、雷を纏った銃弾を放つ。
ザレムは銃口から機導砲の光を放ち、喜屋武はナイフに風を纏わせる。
「行くわよゼファー、貴方の風で切り裂いて!」
切っ先から風の刃がコボルド達の背中に迫る。背後から一斉射撃を受けた弓持ちが一瞬で倒れ、更に他のコボルドも傷つき倒れていく。
「間抜けですわね……申し訳ありませんけど、コボルド相手に容赦するつもりはありませんわ!」
引き金を引くベアトリスの声にハンター達も続く。一方前線ではホロンへ三体のコボルドが迫りつつあった。
「うお、なんか一瞬で半分くらい倒れたぞ」
驚くカルス。近づくコボルドに足を止め弓を構える。
「まだやんのかよ。さっさと逃げてくれりゃこっちの腹も減らずに済むのによ」
近づく一体を矢で射抜く。残り二体、片方は剣を振り上げ跳躍するが、クリスティンはそれを盾で受け、そのまま大地へ組み伏せた。
すかさずホロンがコボルドを剣で貫く。続くもう一体、ホロンは手斧の一撃を盾で受け、背後に回ると体当たりでクリスティンの方へ転ばせる。
今度はクリスティンが大地を擦るように奔らせたルーンソードの一撃でコボルドを切り裂いた。
「貴殿……人間と連携する事に慣れているのか?」
残るコボルドはたったの二体。シュシュと神楽がそれぞれ呆気無く撃破し、戦闘は無事に終了するのであった。
戦いを終えたハンター達。しかし彼らは直ぐに村には戻らず森の側でホロンの話を聞いてみる事にした。
「俺はザレム。ホロン、先ずは武器を置いて話しあおう」
「悪いようにはしねェよ、ちょいと預かるだけだ」
ホロンは特に抵抗もなくカルスに剣と盾を渡す。同じようにザレムも武器をカルスに渡した。
「よろしくな」
「救援感謝スル」
ザレムの握手に問題なく応じるホロン。背の低いホロンが腰を下ろすと、同じくザレムも草の上に胡座をかく。
「それで、どうして人間と争いたくないんだ?」
「我、人ト共ニ旅セシ。見聞広メ、種ノ生存模索シ、ハンターニ武ヲ学ビシ者」
「やはりそうか。先ほどの立ち回り、ただのコボルドではあり得ない事だ」
「師、闘狩人ノ女ナリ。貴殿、良ク似テイル」
クリスティンは見上げる視線になんとも言えない表情を浮かべる。ちょっと可愛い。が、咳払い。
「ハンターならば在り得ない話ではないか」
「じゃあもしかして人間と和平を望んでいるのはホロンの個人的な理由って事かな?」
「他にきみに賛同するような仲間は集落にはいないのか?」
頷くホロン。イェルバートと惣助は顔を見合わせ小さく息を吐く。喜屋武はホロンの隣に屈んで。
「人間との和平だなんて、凄い事を考えるわね。下手したら両方が敵になるわよ?」
「人ハ知恵ヲ持ツ。可能性ヲ想像スル力コソ生存能力。言語交渉ニハ価値アリ」
「私としては歓迎したいのだけれどもね……で、具体的に言うと貴方はどうしたいわけ?」
「貴方が人間と分かり合えた事も、貴方が人間と戦いたくない事も理解はしましたわ。けれど、これは想いだけでどうにかなる問題ではないのですよ?」
喜屋武に続きベアトリスが口を開く。
「和平の意思が本物でも、他に賛同者もないようでは使者としての体裁を成せていない。相応の利を示せねばそれこそお話にもなりませんわよ?」
残念だがベアトリスの言葉が全てだ。
ハンター達もホロンの意思は汲み取ってやりたいが、それがただの理想論ではどうしようもない。
「いっそ、この話は聞かなかったことにしたらどうっすか? それがシュシュの為でもあるっす」
神楽に注目するハンター達。神楽は腰に両手を当て。
「お前が昇進するには戦闘で活躍するしかねっす。でも和平じゃ戦闘が起らねっす。だから聞かなかった事にして殺っちゃえっす」
「シュシュは手柄の為にそんな事しないだよ」
「前にも言った筈っす。シュシュが移民を救うなんて無茶な夢を叶えたいなら、嫌な事だってしなきゃダメなんすよ。全く昇進せずまだ三等兵じゃないっすか。そんなんじゃ師団長になる前に婆さんになっちまうっすよ」
ぐぬぬという表現がぴたりと当てはまるシュシュと向かう神楽。その時、ホロンが声をあげた。
「貴殿ハ正シイ。理想論ニ救済ナシ。故ニ我、戦イヲ止メル為ノ戦イヲ望ム」
「戦いを止める為の……戦い?」
きょとんとしたイェルバート。惣助は頷き。
「詳しく聞かせてくれるかい?」
「集落ハ、長ヲ頂点トシタピラミッド型社会。人ヘノ抵抗ハ、大長ノ指示」
鉱山に巣を張り巡らせた大量のコボルド達。それは幾つかの集落が合併して形成されているという。
それらの集落にはそれぞれの長が存在し、それら長を最大勢力の集落の長、“大長”と呼ばれるコボルドが支配している。
「故ニ我、全テノ長討チ、争イ止メル」
「……待て。それはつまり、一人でクーデターを起こすって事か?」
「えぇ!? 和平の話をしに来たんじゃないの? またわけわかんなくなってきたよ!」
眉間に皺を寄せる惣助、慌てるイェルバート。無理もない。和平の為の戦い……即ち、それはコボルド社会への反乱を意味している。
「種族の為に裏切り者扱いされても行動しようという覚悟は見事だよ。だが、それで本当にいいのか?」
惣助だけではなく全ての者が懸念した。このコボルドは人間を利用し、自分が長になるつもりなのではないか、と。
「人ハ容赦シナイ。ソシテ人は強イ。コノママ衝突スレバ、一族皆殺シ。ソレダケハ回避シタイ」
「確かにもう鉱山の攻略作戦は動き始めてる。開拓民もコボルドには恨みを持っているだろうし、事件再発を防ぐ為には本当に殲滅するだろうね……」
イェルバートは寂しげにそう呟く。
「大長、ソシテ長アル限リ、一族ハ決シテ退カズ。故ニ、長ダケヲ討滅。一族ヲ離散サセ、別ノ集落ヘ移住サセル」
「ヘェ。大胆な事考えんだなあ」
肩を竦め笑うカルス。ベアトリスは口元に手を当て。
「……成程。それが貴方の言う所の和平。即ち、絶滅を回避する為の戦いという事ですわね?」
「我、情報ヲ提供シ共ニ戦ウ。我ト共ニ長ヲ討チ、一族ヲ救ッテ欲シイ……」
人間の土下座を真似てか平服するホロン。ハンター達は顔を見合わせる。
「確かに、亜人との共存共栄はかなりハードル高いわ。私達の権限で解決できる事でもない。だけど、目先の全面衝突を回避する手段として、これは現実的なんじゃないかしら?」
「それにお互いにとって悪い話ではありませんわね。全面衝突に陥れば、人間側も多大な犠牲を支払う事になる……それをお互い最小限の犠牲で事を収められるのなら、帝国軍に取り次ぐ価値はありそうかしら」
喜屋武とベアトリスは冷静に判断を下す。が、イェルバートは腑に落ちない様子だ。
「だけどさ、本当に戦いは避けられないのかな? 僕は力で潰し合う以外の方法があればいいと思うんだ。コボルドとの和平とか前代未聞だし、甘い考えだっていうのはわかってるけど……最初から理解しあう事を諦めてしまっていいの?」
「いや。そいつの言う通り、戦いはもう避けられないっす。そもそも俺達はその為にここに呼ばれたし、あれだけの軍が動いて準備を進めている以上、やっぱりナシとはいかないっすよ」
神楽の声に肩を落とすイェルバート。確かに今直ぐ戦いを停止させるアイデアもないのだ。
開拓民とコボルドは水と油。帝国軍は間違いなく殲滅戦を実施し、そして勝利するだろう。
穴蔵には大量のコボルドの血が流れる事になる。それはそう遠くない、確実な未来だった。
「ホロン、お前は大勢が生き延びる為に仲間を裏切り少数を殺そうって心算なんすね」
「理想ヲ叶エル為ニ、手段ハ選ベナイ」
「……それでいいんだべか? それは本当に“和平”なんか?」
シュシュは悲しげに俯く。ザレムはそれを横目に頷き。
「話はわかった。どちらにせよ帝国軍は殲滅戦を行うだろう。その為の情報提供者としてなら、ホロンを受け入れてくれるはずだ」
「本当にいいんだな? きみは正真正銘の裏切り者になるんだぞ?」
惣助の言葉にホロンは迷いなく答える。
「我、煉獄ノ炎ニ焼カレ、罪ヲ償ウダロウ。人モコボルドモ、裏切リヲ決シテ許サヌ」
ホロンは空を見上げ、それから少し寂しげに呟く。
「師ハ、我ヲ友ト呼ビ、人ノ手ニヨリ討タレ。裏切リヲ人ハ容認セズ。貴殿ラガ我ヲ嫌悪スルモ当然。故ニ、情ハ不要ナリ」
その言葉はまるで人間の口から語られたかのようで、ハンター達は戸惑いを隠せなかった。
ホロンを駐屯地のカルガナの元へ移送する事にしたハンター達。だがそのままでは開拓村で目立ちすぎると、人間の服を着せる事にした。
「悪いな。俺達もスカーフがないと見分けがつかないんだ。なんとかしないと間違って攻撃されちゃうからな」
笑いかけるザレム。人間の服は無理矢理着たので、その上からマントを羽織って身体を隠す事にした。
協力したクリスティンもその完成度の頷く。なんかこう、犬に服着せてるような感じでちょっと楽しかったし。
「これで村にもとりあえず入れるだろっす」
「神楽ちゃん、なんだかんだでちゃんと協力するのね?」
「こいつの決断はどっかのバカと違って現実的っすからね」
喜屋武に笑い返す神楽。シュシュは相変わらず判断を迷っているようだった。
「やっぱりシュシュも簡単には納得できないよね」
「イェルバートもだべか? 帝国軍にとっては都合のいい話なんだけんど……」
「うん……。ホロンは人間を諦めてるようにも見えるんだ。それが少し悲しくてね」
「現実的な解決策を提示し自ら率先して行動しているのですから、評価しても良いと思いますわよ?」
ベアトリスの言葉に二人は同時に苦笑を浮かべる。それはわかるのだが、気持ちの問題だった。
「種族の違いはあれど、辺境部族の戦士と青スカーフの本質は近い。それを重ねてしまうんだろう」
二人の肩を叩く惣助。喜屋武も励ますように言葉をかける。だがそれが正しいのか、大人な二人にもまだわからなかった。
「さて、これからどうする?」
「コボルド側にはあの様子じゃもう戻れないだろうし、ブアナ兵長に相談するしかないね」
相談するクリスティンとザレムの前でカルスはナッツをホロンの口に投げ入れている。
「はは、うまいうまい。しっかし食い方きたねェな、おまえ」
「……カルス、犬じゃないんだから」
「そ、そうだな」
ザレムの声に頷くクリスティン。カルスは自らも指先で弾いたナッツを口に入れ。
「似たようなモンじゃないの。ナッツ好きに悪い奴はいねえってのが俺の持論でな。一緒に飯が食えるなら、ダチにもなれるんじゃねェか?」
な? と同意を求めるように頷くカルス。
こうしてハンター達はホロンを連れ、開拓村へ戻る事にした。
それから先の事はカルガナに相談し、帝国軍にホロンの処遇を問う事になるだろう……。
依頼結果
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相談卓 神楽(ka2032) 人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/01/27 12:40:38 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/01/22 21:47:35 |