ゲスト
(ka0000)
【春郷祭】思い出にはしたくない
マスター:大林さゆる

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/06/23 09:00
- 完成日
- 2019/06/29 03:53
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
農耕推進地域ジェオルジから輸送されてきた花々が、ヴァリオス近郊の小さな村に届いた。
オートマトンの少年ディエス(kz0248)は、トパーズの精霊カイゼルの祠に花を飾るための手伝いに来ていた。
「俺様の祠に花を供えるとはな。まあ、良いんじゃねぇの」
カイゼルは、村人たちとディエスが協力して、祠の周辺に花を飾っていく様子を眺めていた。
「今ね、同盟では精霊たちに感謝を捧げるために、お花を飾る行事があるんだって」
「紫色の花が多いな。黄色の花もあるけどよ。あー、もしかして、紫色の花が多いのは、アメンスィ様のためか?!」
花に疎いカイゼルでも、村人たちが花を飾っていく意味が分かり、ご満悦だった。
紫色の花が多いのは、アメンスィをイメージしたものだ。
「カイゼル、久し振り~。今回は、可愛い子も連れてきたよ」
ラキ(kz0002)が、二匹の子犬を抱きかかえて、やってきた。
「ワンコだね。ホント、可愛いな」
ディエスがうれしそうに、子犬たちの頭を撫でていた。
「先日、動物の保護施設で譲渡会があって、この村に住む人が里親になることが決まったらしいよ」
早い話、保護施設から頼まれて、ラキが子犬たちを連れてきたのだ。
村人たちが、広場に集まり、小さなバザーを開いていた。
人々の楽しそうな様子を見て、カイゼルは複雑な気持ちになっていた。
「……俺様は……この世界を守りたい……」
村人たちは知らない。今後、この世界がどうなっていくのかという事実。
「カイゼル、思い出だけにはしたくないよね」
ラキが明るい笑みを浮かべた。
ディエスは少し不安な表情をしていたが、子犬たちを見ると優しい笑顔になっていた。
「ボクね、やっと決心がついたんだ。世界を守るとか、そんな大きなことはできないけど、身近な人たちの役に立ちたいって、今なら、はっきり言えるよ」
「……俺様としたことが、しんみりしちまったな。お前らの顔、見てると、まだやれることがあるんじゃねぇのかと、勘違いしちまうぜ」
カイゼルがそう告げると、ラキが人差し指を立てた。
「それって、勘違いじゃないよ。きっと、カイゼルの中に、そうした願いがあるから、そう思うってことだよ」
希望。それは、とても小さな欠片かもしれない。
だからこそ、拾い集めて、大きな未来へと繋げていきたい。
「さてっと、準備も整ったみたいだし、カイゼルの祠を祝う祭り、始まるよ!」
ラキが拳を上げて、村人たちを鼓舞した。
拍手が鳴り響く中、小さな村の祭りが始まった。
オートマトンの少年ディエス(kz0248)は、トパーズの精霊カイゼルの祠に花を飾るための手伝いに来ていた。
「俺様の祠に花を供えるとはな。まあ、良いんじゃねぇの」
カイゼルは、村人たちとディエスが協力して、祠の周辺に花を飾っていく様子を眺めていた。
「今ね、同盟では精霊たちに感謝を捧げるために、お花を飾る行事があるんだって」
「紫色の花が多いな。黄色の花もあるけどよ。あー、もしかして、紫色の花が多いのは、アメンスィ様のためか?!」
花に疎いカイゼルでも、村人たちが花を飾っていく意味が分かり、ご満悦だった。
紫色の花が多いのは、アメンスィをイメージしたものだ。
「カイゼル、久し振り~。今回は、可愛い子も連れてきたよ」
ラキ(kz0002)が、二匹の子犬を抱きかかえて、やってきた。
「ワンコだね。ホント、可愛いな」
ディエスがうれしそうに、子犬たちの頭を撫でていた。
「先日、動物の保護施設で譲渡会があって、この村に住む人が里親になることが決まったらしいよ」
早い話、保護施設から頼まれて、ラキが子犬たちを連れてきたのだ。
村人たちが、広場に集まり、小さなバザーを開いていた。
人々の楽しそうな様子を見て、カイゼルは複雑な気持ちになっていた。
「……俺様は……この世界を守りたい……」
村人たちは知らない。今後、この世界がどうなっていくのかという事実。
「カイゼル、思い出だけにはしたくないよね」
ラキが明るい笑みを浮かべた。
ディエスは少し不安な表情をしていたが、子犬たちを見ると優しい笑顔になっていた。
「ボクね、やっと決心がついたんだ。世界を守るとか、そんな大きなことはできないけど、身近な人たちの役に立ちたいって、今なら、はっきり言えるよ」
「……俺様としたことが、しんみりしちまったな。お前らの顔、見てると、まだやれることがあるんじゃねぇのかと、勘違いしちまうぜ」
カイゼルがそう告げると、ラキが人差し指を立てた。
「それって、勘違いじゃないよ。きっと、カイゼルの中に、そうした願いがあるから、そう思うってことだよ」
希望。それは、とても小さな欠片かもしれない。
だからこそ、拾い集めて、大きな未来へと繋げていきたい。
「さてっと、準備も整ったみたいだし、カイゼルの祠を祝う祭り、始まるよ!」
ラキが拳を上げて、村人たちを鼓舞した。
拍手が鳴り響く中、小さな村の祭りが始まった。
リプレイ本文
紫色の花に囲まれた精霊の祠。
トパーズの精霊カイゼルは、フィロ(ka6966)に言われたことを、あれこれ考え込んでいた。
(まいったな……俺様には、さっぱり分からねぇ)
フィロ持参のサンドイッチを食べ、彼女がグラスに注いでくれた葡萄酒を一杯、飲み干した。
「カイゼル様、もう一杯、いかがですか?」
フィロは悩みが解決したのか、悪戯っぽく明るい笑みを浮かべていた。
「ん? おお、頼むぜ」
もう一杯、葡萄酒を飲み干すカイゼル。一息ついてから、フィロに話しかけた。
「フィロ、俺様には、お前が言いたいことの半分も理解できなかった。もう一度、噛み砕いて、話してくれ」
フィロは頷くと「かしこまりました」と告げてから、話し始めた。
「私が名前だと思っていたのは型式でした。不審者対応に特化した室内専用オートマトン。意味は刃。何故剣を使わぬ私の名前が刃なのか、何故泣くという機能が私からオミットされているのか……理由が分かりました」
「少しずつ記憶を取り戻したってことかい」
「兵器をより効率よく動かすための疑似感情。ならば泣くなどと言う動作は不要。感情制御の乱れは速やかにオーバーホールして最高のパフォーマンスを保つのが当然。
エバーグリーンが滅びていなければ、順当な処理。オートマトン自体は人類の夢と叡智の賜物だと思います。私のコンセプトが道具であっただけの話です」
フィロがそこまで言うと、カイゼルは「待った」を掛けた。
「あのな、フィロ。俺様は、おまえのことを道具とか思ったことは一度もねぇ。異世界のことは、てんでさっぱりだが、おまえがそう思うのは、『そう学習した』ってことなのか? それすら、俺様の立場からは、分からないことだらけだ」
カイゼルは少し困ったような表情をしていた。
フィロはオートマトンという概念に縛られているように、カイゼルには思えた。
「私は邪神戦争について、考察する機会を得ました。大精霊は代替わりの準備を終えた。後は支えるべき信仰を持つ生殖可能な年齢の人間男女1組以上が残れば私達の勝ちだ。私達は要らないのだ」
機械的に言うフィロではあったが、それでも願うことがあった。
「失った私の名前……カイゼル様が考えて下さいませんか」
これには、カイゼルも驚いた。フィロが自分に対して懇願するのは初めてだったからだ。
「むー、おまえの言ったことが『学習した』結果、そういう結論に至った……と解釈できるが、これは、あくまでも俺様が『そう感じた』ってだけのことだからな。俺様はお前が出会った時から、ずっとフィロと呼んでたし、その名前が「型式だった」ってことを思い出したのか? それでお前は、名前を失ったと思ったのか?」
カイゼルは、しばらく考え込んでいた。
フィロが、何故、そういう結論に至ったのか、推測の余地はあまりなかった。
「なんつーか、俺様はフィロって呼び方が馴染みやすいし、これからも、フィロと呼びたいと思う。それじゃ、ダメか?」
カイゼルにとって、フィロという呼び方は名前であって、型式ではない。
出会った時から、彼女はフィロ以外の何者でもないからだ。
「それからよ、自分のことは要らないとか、寂しいこと言うんじゃねぇよ」
カイゼルが、フィロの肩を軽く叩いた。
「……寂しい、ですか?」
「当たり前だろ。フィロは、俺様にとって命の恩人だからな。『私達は要らないのだ』とか言われてもよ、俺様は納得しないぜ。いいか、フィロ、おまえという存在は、この世界で一つしかいないんだから、もっと自分を大切にしろよ。でないと、困るからな」
カイゼルは、少し不機嫌になっていた。
「……困りますか?」
フィロが首を傾げた。
「ああ、困るな。俺様に黙って、いなくなったら、困るからな。覚えとけ」
踏ん反り返るカイゼルに、フィロは自然と微笑んでいた。
「覚えておきます。カイゼル様」
「おお、その笑顔だ。フィロ」
カイゼルが、うれしそうに笑っていた。
●
アティエイル(ka0002)は、ヴァリオス近郊の小さな村にて春郷祭があると聞きつけ、久し振りに人と関わりたくなり、気が付けば、広場のバザーに紛れ込んでいた。
賑やかな祭りの雰囲気に、アティエイルは心地よくなり、楽しそうに微笑んでいた。
薬草の出店はなかったが、お花屋さん、果物屋さんを見つけることができた。
「紫色の花が多いですね」
アティエイルが花の香りを楽しんでいると、店主が教えてくれた。
「大精霊アメンスィ様に捧げる花が、この村にも届いたんだよ」
「アメンスィ……地と知恵を司る大精霊のことですね」
行き交う人々を眺めると、歩きながら林檎飴を舐めている子供たちがいた。
アティエイルは思い切って、林檎飴を買い、真似て歩いてみることにした。
最初は戸惑っていたアティエイルだったが、林檎飴の仄かな甘さが口の中に広がり、新しい発見をしたような気持ちになった。
と、同時に、自由になったことに対する安堵感と、支配されてきた悪夢との狭間で、言いようのない気持ちが心の奥底に、小さな燈火のように揺らめいていた。
(ここは……どこ? 私は……)
アティエイルが立ち止ると、豪快な笑い声が聴こえてきた。
柊羽(ka6811)が、タパスを売っている出店の近くにある休憩所で人々と楽しそうに話し込んでいた。
「こりゃ、うめェな。タパスっていう料理かい? 初めて食べたが、イカの弾力が噛みごたえ良いしよ、オリーブ・ソースってのも、良いモンだなァ。おっさん、隠し味っつーモン、あるかい?」
笑みを浮かべる柊羽の姿に、屋台の親父は楽しそうに笑っていた。
「ははっ、隠し味ってのは、隠し味だからよ、こいつは企業秘密ってやつだな。そう簡単には教えられねえな」
「イイねイイねェ、そうきたかい。言われてみりゃあ、隠し味がすぐに分かっちまったら、隠し味にはならねェよな。これまた、一本取られたぜェ」
柊羽は頷きながらも、タパスを平らげていく。
「これで、酒でもありゃ……」
「兄さん、良い食べっぷりだな。酒は俺の奢りだ。好きなだけ飲め」
同席していた同年代らしき男性が、柊羽に酒を勧めていた。
人々との生き生きしたやり取りに、アティエイルも穏やかな笑みを浮かべていた。
その頃、オートマトンのディエス(kz0248)は、野良猫を見つけて、少し離れた場所にいた。
「ネコさん、お腹すいてたんだね」
ディエスは、出店の親父から売り物にならない小魚を貰い、野良猫に与えていた。
アティエイルがそのことに気付き、ディエスに話しかけた。
「あの、初めまして。アティエイルと申します。よろしかったら、これもどうぞ」
ミルクを差し出すアティエイル。
ディエスが、ニッコリと微笑む。
「はじめまして。ボクは、ディエスです。ありがとうございます」
ミルクを受け取り、御辞儀をするディエス。それから、小皿にミルクを注ぐと、野良猫はペロペロと舌で嘗めるように飲んでいた。
その時、二人の若い男性が、互いに殴り合い、喧嘩になっていた。
「お願いです。誰か止めてください!」
若い女性が、叫ぶ。原因はどうやら、女性を取り合っているうちに、興奮した若い男性二人が言い争いになり、ついには殴り合いにまで発展していたのだ。
「さすがに女性を泣かすのはなァ」
柊羽が若い男性二人の間に入り、軽く腕を掴んだ。
「喧嘩なんか知るかィ、俺のが強ェ!」
軽々と若い男性二人の腕を取って、投げ飛ばした。地面に倒れた男性たちは、ようやく我に返った。
「おっと、逃げる前に、理由くらい聞いてやろうじゃァねェか。祭りで浮ついた時ァ喧嘩なんざよく有る事だ」
男性たちは、恐る恐る喧嘩になった理由を話し始めた。聞き終えた柊羽は、腹を抱えて笑っていた。
「そういうことかい、同じ女性を好きになっちまったてか。そんで、肝心の彼女は放っておいて、殴り合いかい? 本末転倒だぜェ」
柊羽は「後のことは、しらねェ」と言いながら、席に戻り、酒を飲み始めた。
アティエイルが、男性たちの元へと駆け寄り、救急セットを使って手当てをしていた。
「軽い怪我で、良かったです。お気持ちは分かりますが、怪我をしてしまったら、お目当ての相手も心配なさると思いますよ」
アティエイルが優しく諭すと、男性たちは「すみません」と項垂れていた。
そこへ、紫陽花模様の浴衣を着た女性がやってきた。
「助けてくださって、ありがとうございます」
まずはアティエイルに礼を述べてから、男性たちに向き合った。
「あのね、私……二人のことは、今まで幼馴染だと思ってたの。これからも、三人で仲良くできたら良いなと思ってた。それなのに、皆に迷惑かけて、殴り合いまでして……もう、知らないから」
そう言って、女性は足早に去っていった。
男性二人は、互いに顔を見合わせたかと思うと、気まずくなったのか、立ち上がると、それぞれ別の場所へと歩いていった。
アティエイルは、黙って見送ることにした。人の恋路を…ということもあるから。
ディエスが心配そうに駆け寄ってきた。
「アティエイルさん、大丈夫ですか?」
「はい、平気です。……あら?」
アティエイルは、ディエスが大事そうに抱えている猫の口元に気付いた。
「猫の口元にミルクがついてますよ」
そっと猫の口元を拭うアティエイル。
ニャーと鳴く猫。
ディエスは安堵の溜息をついた。
●
ラキ(kz0002)は子犬二匹を連れて、里親になってくれた村人に礼を告げた後、待ち合わせ場所まで走っていった。
「アリアちゃん、お待たせ~♪」
「ラキちゃん、今回の春郷祭、思いっきり楽しもうね」
アリア(ka2394)が、元気いっぱいに微笑む。
「カモメさんも連れてきたんだね」
「シエロって言うんだ。いつも、あたしと一緒にいてくれた。大切な友達だよ」
アリアは肩に乗っているシエロの頭を愛おしそうに撫でていた。
(今日は楽しんで、これが最後なんて勿体無く思える様に、厳しい戦いでもちゃんと生き残れる様に)
哀しい時も、辛い時も、いつもアリアの傍にいてくれたシエロ。
アリアという名前。誰が付けてくれたのか、アリア自身にも分からなかった。
意味を調べて知った。
独唱。
一人で歌う事。
(あたしらしいなって思った)
それでも、アリアはこの世界が好きだった。
悲しい事ばかりだったけど、それでも嬉しい事だってあったから。
(あたしが死んでしまっても、この世界を守れるなら、あたしが居たっていう証はできるのかな…?)
アリアには、世界を壊したいという思いは分からなかった。
(自分が死んでも好きな人が幸せに暮らすこの世界を守りたいって思うあたしとは、真逆。
けど、尽くして、捨てられて、変な所は似てる…。
あたしは本当にわからないのかな? そんな気持がないのかなって、それが知りたくて追いかける。
あたしとあの歪虚と何が違うのかを)
自分の気持ちを咀嚼するアリア。
(だから決着をつけたいし、そうでなくても見届けたい。今度こそ本気で死ぬ気で頑張ろうと思う。
頑張って、この世界を、ラキちゃんとか友達がいるこの世界を守りたい。
その上で、あたしは…自分もその世界で生きて居たいって思えるのかな。
思えたら……いいなぁ……)
アリアは、ラキの手を取ると、一緒に広場へと向かった。
「どうしたの? アリアちゃん?」
ラキが少し心配そうに声をかけると、アリアは気持ちが落ち着いたのか、微笑んでいた。
「ラキちゃん、見てて。この世界が大好きだって、皆が大好きだって、歌うから」
深く息を吸って、皆の前で丁寧にお辞儀をするアリア。
想いを込めて、歌う。
世界の隅々まで届く様に……。
ただ懸命に、歌う。
ラキは静かに瞳を閉じて、アリアの歌声に聴き入っていた。
「ん? 歌か。聴いてっと、こっちまで気持ちが落ち着くなァ」
杯を片手に、歌に耳を澄まして、酒を飲んでいたのは、柊羽だった。
隣の席に座っていた村人が「アメンスィ様に捧げる歌だろうかね?」と尋ねてきた。
「人も精霊も神さんも変わんねェ。好きなもん信じりゃァいいさ…。俺ァ誰かの信じるソイツを護ってやるだけだかんなァ。いつかは全部思い出になるんだ。要はその思い出をどう使うかだろ? テメェの信じた思いなら、ソレ『だけ』になんざなんねェよ」
柊羽がそう応えると、隣にいた男性は納得したように頷いていた。
水鉄砲を持ちながら、走り回る子供たち。
アティエイルは、何気ない日常に包まれて、いつしか微笑んでいた。
そして、気付く。
こうして、笑ったのは、随分と久しぶりのような気がした。
笑顔ではしゃいでいる子供たちの姿を見て、アティエイルは改めて思った。
(……人の笑顔が好き……自分も、皆を……誰かを、笑顔にしたかった)
アティエイルの笑顔につられて、村の子供たちが集まってきた。
「ねえねえ、せっかく、この村に来たんだったらさ、一緒に遊ぼうよ」
突然の誘いに、アティエイルは目を丸くしたが、次第に小さく、クスクスと笑っていた。
「さあて、なにして遊びましょうか?」
子供たちは、それぞれ遊びたいことを言い合っていた。
「そうね。皆で楽しめる遊びにしましょう」
アティエイルに促されて、子供たちは互いに手を取り、広場へと歩いていった。
祭りとは、不思議なものだ。
ただ、一緒にいて、同じものを見て、笑い合って……。
私は、皆に感謝の言葉を捧げよう。
ありがとう。
また、お会いしましょうね。
トパーズの精霊カイゼルは、フィロ(ka6966)に言われたことを、あれこれ考え込んでいた。
(まいったな……俺様には、さっぱり分からねぇ)
フィロ持参のサンドイッチを食べ、彼女がグラスに注いでくれた葡萄酒を一杯、飲み干した。
「カイゼル様、もう一杯、いかがですか?」
フィロは悩みが解決したのか、悪戯っぽく明るい笑みを浮かべていた。
「ん? おお、頼むぜ」
もう一杯、葡萄酒を飲み干すカイゼル。一息ついてから、フィロに話しかけた。
「フィロ、俺様には、お前が言いたいことの半分も理解できなかった。もう一度、噛み砕いて、話してくれ」
フィロは頷くと「かしこまりました」と告げてから、話し始めた。
「私が名前だと思っていたのは型式でした。不審者対応に特化した室内専用オートマトン。意味は刃。何故剣を使わぬ私の名前が刃なのか、何故泣くという機能が私からオミットされているのか……理由が分かりました」
「少しずつ記憶を取り戻したってことかい」
「兵器をより効率よく動かすための疑似感情。ならば泣くなどと言う動作は不要。感情制御の乱れは速やかにオーバーホールして最高のパフォーマンスを保つのが当然。
エバーグリーンが滅びていなければ、順当な処理。オートマトン自体は人類の夢と叡智の賜物だと思います。私のコンセプトが道具であっただけの話です」
フィロがそこまで言うと、カイゼルは「待った」を掛けた。
「あのな、フィロ。俺様は、おまえのことを道具とか思ったことは一度もねぇ。異世界のことは、てんでさっぱりだが、おまえがそう思うのは、『そう学習した』ってことなのか? それすら、俺様の立場からは、分からないことだらけだ」
カイゼルは少し困ったような表情をしていた。
フィロはオートマトンという概念に縛られているように、カイゼルには思えた。
「私は邪神戦争について、考察する機会を得ました。大精霊は代替わりの準備を終えた。後は支えるべき信仰を持つ生殖可能な年齢の人間男女1組以上が残れば私達の勝ちだ。私達は要らないのだ」
機械的に言うフィロではあったが、それでも願うことがあった。
「失った私の名前……カイゼル様が考えて下さいませんか」
これには、カイゼルも驚いた。フィロが自分に対して懇願するのは初めてだったからだ。
「むー、おまえの言ったことが『学習した』結果、そういう結論に至った……と解釈できるが、これは、あくまでも俺様が『そう感じた』ってだけのことだからな。俺様はお前が出会った時から、ずっとフィロと呼んでたし、その名前が「型式だった」ってことを思い出したのか? それでお前は、名前を失ったと思ったのか?」
カイゼルは、しばらく考え込んでいた。
フィロが、何故、そういう結論に至ったのか、推測の余地はあまりなかった。
「なんつーか、俺様はフィロって呼び方が馴染みやすいし、これからも、フィロと呼びたいと思う。それじゃ、ダメか?」
カイゼルにとって、フィロという呼び方は名前であって、型式ではない。
出会った時から、彼女はフィロ以外の何者でもないからだ。
「それからよ、自分のことは要らないとか、寂しいこと言うんじゃねぇよ」
カイゼルが、フィロの肩を軽く叩いた。
「……寂しい、ですか?」
「当たり前だろ。フィロは、俺様にとって命の恩人だからな。『私達は要らないのだ』とか言われてもよ、俺様は納得しないぜ。いいか、フィロ、おまえという存在は、この世界で一つしかいないんだから、もっと自分を大切にしろよ。でないと、困るからな」
カイゼルは、少し不機嫌になっていた。
「……困りますか?」
フィロが首を傾げた。
「ああ、困るな。俺様に黙って、いなくなったら、困るからな。覚えとけ」
踏ん反り返るカイゼルに、フィロは自然と微笑んでいた。
「覚えておきます。カイゼル様」
「おお、その笑顔だ。フィロ」
カイゼルが、うれしそうに笑っていた。
●
アティエイル(ka0002)は、ヴァリオス近郊の小さな村にて春郷祭があると聞きつけ、久し振りに人と関わりたくなり、気が付けば、広場のバザーに紛れ込んでいた。
賑やかな祭りの雰囲気に、アティエイルは心地よくなり、楽しそうに微笑んでいた。
薬草の出店はなかったが、お花屋さん、果物屋さんを見つけることができた。
「紫色の花が多いですね」
アティエイルが花の香りを楽しんでいると、店主が教えてくれた。
「大精霊アメンスィ様に捧げる花が、この村にも届いたんだよ」
「アメンスィ……地と知恵を司る大精霊のことですね」
行き交う人々を眺めると、歩きながら林檎飴を舐めている子供たちがいた。
アティエイルは思い切って、林檎飴を買い、真似て歩いてみることにした。
最初は戸惑っていたアティエイルだったが、林檎飴の仄かな甘さが口の中に広がり、新しい発見をしたような気持ちになった。
と、同時に、自由になったことに対する安堵感と、支配されてきた悪夢との狭間で、言いようのない気持ちが心の奥底に、小さな燈火のように揺らめいていた。
(ここは……どこ? 私は……)
アティエイルが立ち止ると、豪快な笑い声が聴こえてきた。
柊羽(ka6811)が、タパスを売っている出店の近くにある休憩所で人々と楽しそうに話し込んでいた。
「こりゃ、うめェな。タパスっていう料理かい? 初めて食べたが、イカの弾力が噛みごたえ良いしよ、オリーブ・ソースってのも、良いモンだなァ。おっさん、隠し味っつーモン、あるかい?」
笑みを浮かべる柊羽の姿に、屋台の親父は楽しそうに笑っていた。
「ははっ、隠し味ってのは、隠し味だからよ、こいつは企業秘密ってやつだな。そう簡単には教えられねえな」
「イイねイイねェ、そうきたかい。言われてみりゃあ、隠し味がすぐに分かっちまったら、隠し味にはならねェよな。これまた、一本取られたぜェ」
柊羽は頷きながらも、タパスを平らげていく。
「これで、酒でもありゃ……」
「兄さん、良い食べっぷりだな。酒は俺の奢りだ。好きなだけ飲め」
同席していた同年代らしき男性が、柊羽に酒を勧めていた。
人々との生き生きしたやり取りに、アティエイルも穏やかな笑みを浮かべていた。
その頃、オートマトンのディエス(kz0248)は、野良猫を見つけて、少し離れた場所にいた。
「ネコさん、お腹すいてたんだね」
ディエスは、出店の親父から売り物にならない小魚を貰い、野良猫に与えていた。
アティエイルがそのことに気付き、ディエスに話しかけた。
「あの、初めまして。アティエイルと申します。よろしかったら、これもどうぞ」
ミルクを差し出すアティエイル。
ディエスが、ニッコリと微笑む。
「はじめまして。ボクは、ディエスです。ありがとうございます」
ミルクを受け取り、御辞儀をするディエス。それから、小皿にミルクを注ぐと、野良猫はペロペロと舌で嘗めるように飲んでいた。
その時、二人の若い男性が、互いに殴り合い、喧嘩になっていた。
「お願いです。誰か止めてください!」
若い女性が、叫ぶ。原因はどうやら、女性を取り合っているうちに、興奮した若い男性二人が言い争いになり、ついには殴り合いにまで発展していたのだ。
「さすがに女性を泣かすのはなァ」
柊羽が若い男性二人の間に入り、軽く腕を掴んだ。
「喧嘩なんか知るかィ、俺のが強ェ!」
軽々と若い男性二人の腕を取って、投げ飛ばした。地面に倒れた男性たちは、ようやく我に返った。
「おっと、逃げる前に、理由くらい聞いてやろうじゃァねェか。祭りで浮ついた時ァ喧嘩なんざよく有る事だ」
男性たちは、恐る恐る喧嘩になった理由を話し始めた。聞き終えた柊羽は、腹を抱えて笑っていた。
「そういうことかい、同じ女性を好きになっちまったてか。そんで、肝心の彼女は放っておいて、殴り合いかい? 本末転倒だぜェ」
柊羽は「後のことは、しらねェ」と言いながら、席に戻り、酒を飲み始めた。
アティエイルが、男性たちの元へと駆け寄り、救急セットを使って手当てをしていた。
「軽い怪我で、良かったです。お気持ちは分かりますが、怪我をしてしまったら、お目当ての相手も心配なさると思いますよ」
アティエイルが優しく諭すと、男性たちは「すみません」と項垂れていた。
そこへ、紫陽花模様の浴衣を着た女性がやってきた。
「助けてくださって、ありがとうございます」
まずはアティエイルに礼を述べてから、男性たちに向き合った。
「あのね、私……二人のことは、今まで幼馴染だと思ってたの。これからも、三人で仲良くできたら良いなと思ってた。それなのに、皆に迷惑かけて、殴り合いまでして……もう、知らないから」
そう言って、女性は足早に去っていった。
男性二人は、互いに顔を見合わせたかと思うと、気まずくなったのか、立ち上がると、それぞれ別の場所へと歩いていった。
アティエイルは、黙って見送ることにした。人の恋路を…ということもあるから。
ディエスが心配そうに駆け寄ってきた。
「アティエイルさん、大丈夫ですか?」
「はい、平気です。……あら?」
アティエイルは、ディエスが大事そうに抱えている猫の口元に気付いた。
「猫の口元にミルクがついてますよ」
そっと猫の口元を拭うアティエイル。
ニャーと鳴く猫。
ディエスは安堵の溜息をついた。
●
ラキ(kz0002)は子犬二匹を連れて、里親になってくれた村人に礼を告げた後、待ち合わせ場所まで走っていった。
「アリアちゃん、お待たせ~♪」
「ラキちゃん、今回の春郷祭、思いっきり楽しもうね」
アリア(ka2394)が、元気いっぱいに微笑む。
「カモメさんも連れてきたんだね」
「シエロって言うんだ。いつも、あたしと一緒にいてくれた。大切な友達だよ」
アリアは肩に乗っているシエロの頭を愛おしそうに撫でていた。
(今日は楽しんで、これが最後なんて勿体無く思える様に、厳しい戦いでもちゃんと生き残れる様に)
哀しい時も、辛い時も、いつもアリアの傍にいてくれたシエロ。
アリアという名前。誰が付けてくれたのか、アリア自身にも分からなかった。
意味を調べて知った。
独唱。
一人で歌う事。
(あたしらしいなって思った)
それでも、アリアはこの世界が好きだった。
悲しい事ばかりだったけど、それでも嬉しい事だってあったから。
(あたしが死んでしまっても、この世界を守れるなら、あたしが居たっていう証はできるのかな…?)
アリアには、世界を壊したいという思いは分からなかった。
(自分が死んでも好きな人が幸せに暮らすこの世界を守りたいって思うあたしとは、真逆。
けど、尽くして、捨てられて、変な所は似てる…。
あたしは本当にわからないのかな? そんな気持がないのかなって、それが知りたくて追いかける。
あたしとあの歪虚と何が違うのかを)
自分の気持ちを咀嚼するアリア。
(だから決着をつけたいし、そうでなくても見届けたい。今度こそ本気で死ぬ気で頑張ろうと思う。
頑張って、この世界を、ラキちゃんとか友達がいるこの世界を守りたい。
その上で、あたしは…自分もその世界で生きて居たいって思えるのかな。
思えたら……いいなぁ……)
アリアは、ラキの手を取ると、一緒に広場へと向かった。
「どうしたの? アリアちゃん?」
ラキが少し心配そうに声をかけると、アリアは気持ちが落ち着いたのか、微笑んでいた。
「ラキちゃん、見てて。この世界が大好きだって、皆が大好きだって、歌うから」
深く息を吸って、皆の前で丁寧にお辞儀をするアリア。
想いを込めて、歌う。
世界の隅々まで届く様に……。
ただ懸命に、歌う。
ラキは静かに瞳を閉じて、アリアの歌声に聴き入っていた。
「ん? 歌か。聴いてっと、こっちまで気持ちが落ち着くなァ」
杯を片手に、歌に耳を澄まして、酒を飲んでいたのは、柊羽だった。
隣の席に座っていた村人が「アメンスィ様に捧げる歌だろうかね?」と尋ねてきた。
「人も精霊も神さんも変わんねェ。好きなもん信じりゃァいいさ…。俺ァ誰かの信じるソイツを護ってやるだけだかんなァ。いつかは全部思い出になるんだ。要はその思い出をどう使うかだろ? テメェの信じた思いなら、ソレ『だけ』になんざなんねェよ」
柊羽がそう応えると、隣にいた男性は納得したように頷いていた。
水鉄砲を持ちながら、走り回る子供たち。
アティエイルは、何気ない日常に包まれて、いつしか微笑んでいた。
そして、気付く。
こうして、笑ったのは、随分と久しぶりのような気がした。
笑顔ではしゃいでいる子供たちの姿を見て、アティエイルは改めて思った。
(……人の笑顔が好き……自分も、皆を……誰かを、笑顔にしたかった)
アティエイルの笑顔につられて、村の子供たちが集まってきた。
「ねえねえ、せっかく、この村に来たんだったらさ、一緒に遊ぼうよ」
突然の誘いに、アティエイルは目を丸くしたが、次第に小さく、クスクスと笑っていた。
「さあて、なにして遊びましょうか?」
子供たちは、それぞれ遊びたいことを言い合っていた。
「そうね。皆で楽しめる遊びにしましょう」
アティエイルに促されて、子供たちは互いに手を取り、広場へと歩いていった。
祭りとは、不思議なものだ。
ただ、一緒にいて、同じものを見て、笑い合って……。
私は、皆に感謝の言葉を捧げよう。
ありがとう。
また、お会いしましょうね。
依頼結果
依頼成功度 | 普通 |
---|
面白かった! | 5人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
- ふたりで歩む旅路
アティエイル(ka0002)
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/06/22 21:19:32 |