ゲスト
(ka0000)
【王戦】“これまで”と“これから”
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/06/24 07:30
- 完成日
- 2019/06/30 18:02
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
傲慢王との決戦で重要な役目を果たしたフライングシスティーナ号は母港であるガンナ・エントラータに帰港した。
船の損傷は想定の範囲内であり、指揮をした青の隊の騎士ノセヤは、すべての重みから解放されたような表情で甲板に立った。
「……終わりましたよ。ランドル船長、ソルラ先輩」
船の建造や動力源となった秘宝の探索。刻令術や浮遊に必要な魔法の開発など、どれ一つ欠けていても、辿り着かなかった。
ハンター達の協力があって、偉業を成し遂げた事に、ノセヤは深く感謝し、そして、誇らしかった。
「さて、これから先はどうなるのでしょうか」
そんな事を呟いた。
王国復興の為に、フライングシスティーナ号に求められる事は多いだろう。
まだ傲慢の残党が残っているかもしれない。アルテミス小隊の活躍の機会はあるはずだ。
気掛かりなのは、世界情勢についてもだ。王国が一段落したのだから、連合軍に加わって、邪神との戦いに赴くかもしれない。
「……」
騎士であるノセヤは、上司から命令されれば、それに従うだけだ。
復興でも残党討伐でも邪神対応でも、変わりはしない。
だが、ノセヤは悩んでいた。戦場には望めば、おおよその騎士は行けるだろう。しかし、青の隊の隊長を目指せる者は、限られた騎士だけだ。
多くのハンター達の協力があってこそだったが、彼の戦果は大きい。青の隊の隊長を目指す事もできるはずだ。
「あるいは……」
騎士隊長を目指すとなれば、好きではない権力争いに向き合わなければならない。
それぐらいであれば、領地を継いで中央から離れるという選択もある。
決まらない心を抱えながら、ノセヤは爽やかな青空を眺め続けるのであった。
●
強欲の歪虚ティオリオスは王都での戦いの最中、飛び去っている。
目撃情報によると、王国南東部に向かっていったらしいが……リンダールの森は深い為、正確な情報を掴む事はできなかった。
「節制の精霊プラトニスからの試練は果たさなければならない」
そう宣言したのはノセヤだった。
話を聞いているのは、フライングシスティーナ号の刻騎ゴーレム隊のアドバイザーである星加 孝純 (kz0276)だ。
「討伐にはCAMやルクシュヴァリエが必要と思います」
「暫くの間、フライングシスティーナ号は身動きが取れないので、まずはティオリオスの居場所を探す必要がありますね」
「分かりました。それなら、僕も探索に行ってきます」
刻騎ゴーレム隊も機体の調整が必要なので、時間的な余裕がある。
ハンターとして、生身でのフィールドワークの経験がある訳ではないが、何もしないよりかはマシというものだろう。
それに、リアルブルー出身の孝純には異世界をよく見られるいい機会だ。
「くれぐれも無理をしないように。ティオリオスの討伐は万全の準備を行うつもりですので」
「分かりました。でも、ゆっくりはしていられないですよね?」
少年の言葉にノセヤは頷く。
「万が一でも、邪神か、あるいは黙示騎士と接触したら、厄介ですからね。そうなる前には討伐しておきたいです」
ティオリオスの能力である【水棺】は危険極まりないものだ。
王城での戦いでは、大量の水がある場所が中庭にしかなかったので【水棺】を城内では使われなかった。
もし、傲慢王やミュールとの戦いの時に、ティオリオスがその能力を使えたとしたら……想像するだけで、恐ろしい。
「それでは、行ってきます」
意気揚々とした態度で孝純が告げるのであった。
●
王国南東部に広がるリンダールの森。
その深層に近づけば、二度と出られなくなるという噂もある。
まるでおとぎ話のようだと思いながらも、孝純は森の中を通過していた。
「森の中に知られていない湖でもあるかと思ったけど、そんな事はなかったし……」
独り言を呟きながら、考える。
背中に背負った野営の道具がずしりと両肩を押し、一歩進むごとに汗が流れた。
「やっぱり、海岸線がいいかな……でも、突然、遭遇する危険もあるなら……」
遭遇するのはティオリオスだけではない。
傲慢の残党だっているかもしれないし、何かの拍子で出現した雑魔だっているかもしれない。
もしくは……邪神に繋がりがある歪虚も。
「……今日は、この辺りで野営しようかな」
適度な広さのある空間に出た所で、孝純はリュックサックを降ろした。
陽はだいぶと落ちてきていた。辺りは動物や風の音以外は聞こえず、人の気配はない。
「えっと、まずは……」
慣れているとは言い難いが、それでも孝純は野営の準備を進める。
アウトドアが好きだった父の影響で、幼い頃から、教えられてきた事を一つ一つ思い出す少年。
実際に自分一人でやってみて、ある事に気が付いた。
「……父さんは、本当にアウトドアが好きだったのだろうか?」
遊びではなく実戦的なものを父は好んだ。
もしかして“こんな状況”になるのを予見していたのだろうか。
空を見上げると星々の光が見えてきた。きっと、夜には沢山の星が見られるはずだ。
傲慢王との決戦で重要な役目を果たしたフライングシスティーナ号は母港であるガンナ・エントラータに帰港した。
船の損傷は想定の範囲内であり、指揮をした青の隊の騎士ノセヤは、すべての重みから解放されたような表情で甲板に立った。
「……終わりましたよ。ランドル船長、ソルラ先輩」
船の建造や動力源となった秘宝の探索。刻令術や浮遊に必要な魔法の開発など、どれ一つ欠けていても、辿り着かなかった。
ハンター達の協力があって、偉業を成し遂げた事に、ノセヤは深く感謝し、そして、誇らしかった。
「さて、これから先はどうなるのでしょうか」
そんな事を呟いた。
王国復興の為に、フライングシスティーナ号に求められる事は多いだろう。
まだ傲慢の残党が残っているかもしれない。アルテミス小隊の活躍の機会はあるはずだ。
気掛かりなのは、世界情勢についてもだ。王国が一段落したのだから、連合軍に加わって、邪神との戦いに赴くかもしれない。
「……」
騎士であるノセヤは、上司から命令されれば、それに従うだけだ。
復興でも残党討伐でも邪神対応でも、変わりはしない。
だが、ノセヤは悩んでいた。戦場には望めば、おおよその騎士は行けるだろう。しかし、青の隊の隊長を目指せる者は、限られた騎士だけだ。
多くのハンター達の協力があってこそだったが、彼の戦果は大きい。青の隊の隊長を目指す事もできるはずだ。
「あるいは……」
騎士隊長を目指すとなれば、好きではない権力争いに向き合わなければならない。
それぐらいであれば、領地を継いで中央から離れるという選択もある。
決まらない心を抱えながら、ノセヤは爽やかな青空を眺め続けるのであった。
●
強欲の歪虚ティオリオスは王都での戦いの最中、飛び去っている。
目撃情報によると、王国南東部に向かっていったらしいが……リンダールの森は深い為、正確な情報を掴む事はできなかった。
「節制の精霊プラトニスからの試練は果たさなければならない」
そう宣言したのはノセヤだった。
話を聞いているのは、フライングシスティーナ号の刻騎ゴーレム隊のアドバイザーである星加 孝純 (kz0276)だ。
「討伐にはCAMやルクシュヴァリエが必要と思います」
「暫くの間、フライングシスティーナ号は身動きが取れないので、まずはティオリオスの居場所を探す必要がありますね」
「分かりました。それなら、僕も探索に行ってきます」
刻騎ゴーレム隊も機体の調整が必要なので、時間的な余裕がある。
ハンターとして、生身でのフィールドワークの経験がある訳ではないが、何もしないよりかはマシというものだろう。
それに、リアルブルー出身の孝純には異世界をよく見られるいい機会だ。
「くれぐれも無理をしないように。ティオリオスの討伐は万全の準備を行うつもりですので」
「分かりました。でも、ゆっくりはしていられないですよね?」
少年の言葉にノセヤは頷く。
「万が一でも、邪神か、あるいは黙示騎士と接触したら、厄介ですからね。そうなる前には討伐しておきたいです」
ティオリオスの能力である【水棺】は危険極まりないものだ。
王城での戦いでは、大量の水がある場所が中庭にしかなかったので【水棺】を城内では使われなかった。
もし、傲慢王やミュールとの戦いの時に、ティオリオスがその能力を使えたとしたら……想像するだけで、恐ろしい。
「それでは、行ってきます」
意気揚々とした態度で孝純が告げるのであった。
●
王国南東部に広がるリンダールの森。
その深層に近づけば、二度と出られなくなるという噂もある。
まるでおとぎ話のようだと思いながらも、孝純は森の中を通過していた。
「森の中に知られていない湖でもあるかと思ったけど、そんな事はなかったし……」
独り言を呟きながら、考える。
背中に背負った野営の道具がずしりと両肩を押し、一歩進むごとに汗が流れた。
「やっぱり、海岸線がいいかな……でも、突然、遭遇する危険もあるなら……」
遭遇するのはティオリオスだけではない。
傲慢の残党だっているかもしれないし、何かの拍子で出現した雑魔だっているかもしれない。
もしくは……邪神に繋がりがある歪虚も。
「……今日は、この辺りで野営しようかな」
適度な広さのある空間に出た所で、孝純はリュックサックを降ろした。
陽はだいぶと落ちてきていた。辺りは動物や風の音以外は聞こえず、人の気配はない。
「えっと、まずは……」
慣れているとは言い難いが、それでも孝純は野営の準備を進める。
アウトドアが好きだった父の影響で、幼い頃から、教えられてきた事を一つ一つ思い出す少年。
実際に自分一人でやってみて、ある事に気が付いた。
「……父さんは、本当にアウトドアが好きだったのだろうか?」
遊びではなく実戦的なものを父は好んだ。
もしかして“こんな状況”になるのを予見していたのだろうか。
空を見上げると星々の光が見えてきた。きっと、夜には沢山の星が見られるはずだ。
リプレイ本文
●
盤面の争いを十色 エニア(ka0370)はぼんやりと眺めていた。
真剣な表情で指しているのは、Uisca Amhran(ka0754)と青の隊騎士ノセヤだった。
「ノセヤさん、悩み事ですか? 迷いが出てますよ」
「それは、Uiscaさんが強いからです」
「これまで負けてばかりでしたけれど……あの子が好きだったものですから。“姉”の私が、負けるわけにはいきません」
襲撃ルールも味方につけてUiscaは優勢だ。
もっとも、ノセヤに迷いの心があるからだと、Uiscaは感じ取っていた。
ゲームの流れを変えようとノセヤが話題を変える。
「そういえば、皆さんはソルラ先輩と出逢ってどれ位になりますかね?」
「出会ってから4年半位かな……ようやく、傲慢との縁が切れそうって感じだし」
エニアが肘を付きながら答えた。
「そんなに経つのですね……早いものです」
「時の流れってそんなものよね」
口元を僅かに緩めるエニア。時の流れは残酷なようで――優しい所もあるのかもしれない。
傲慢との戦いは多くの犠牲や哀しい別れを経て終結したが、新しい出逢い、絆もできた。
「ノセヤさんとも、これまでも何度か関わってるし……いっそ、すべてをぶちまけるくらいに喋ってくれると嬉しいな」
「そうですよ、ノセヤさん」
エニアとUiscaの二人に責められるように言われ、気まずそうになるノセヤ。
「色々と迷うものです。国に残るのも、故郷に帰るのも……邪神と戦うのも……」
沢山の選択肢が、ノセヤの前に広がっていた。
今までは最善だと思うものを選んでいたのに、自分の事になると、どうも決められないのだ。
「わたし達がノセヤさんの運命を保障できるわけじゃないから、思うままに動いていいと思うよ」
エニアのアドバイスにノセヤは頷きながら項垂れる。
指す駒が無く次の一手に悩んでいるというのもあるが。
「フライングシスティーナ号も戦場には行くだろうし。あれだけ優秀な船なんだから」
空も飛べてCAMも運用できて転移門も備えているとなると、それだけ期待される事は多いだろう。
もっとも、先の戦いでドッグ入りとなったので、戦場に出てくるまでは、もう少し時間が掛かるようだ。
「まぁ、邪神との決戦後なら身を引くのも一つの道だし。あるいは、全てを『知らん』で一蹴する事も……意地悪な事を言っててごめんね」
「いえいえ、そんな事はありませんよ。故郷も心配ですから」
溜め込んだ息を吐き出すノセヤに追い打ちを掛けるように、Uiscaが駒を進めた。
「私は、ノセヤさんは青の隊の隊長を目指されたら……と思います」
「Uiscaさんは、何かと手厳しい」
「権力争いが嫌なら、争う必要もないほど、多くの人を味方につけるか、後継者を早く育てればよいのです。それに、私達も影ながらバックアップしますよ」
チラリと向けてきたUiscaの視線にエニアは頷いた。
「踊りで鼓舞出来るなら、いつだって応援するよ~」
この二人共、先の戦いの功労者だ。
名誉貴族だったとしても、その存在自体が、ある程度の影響力を持つだろう。
権力争いに巻き込まれても、蹴落とされる心配は、意外と少ないのかもしれない。
盤面をジッと見つめていたノセヤが頭を下げた。投了という事だろう。終始優勢に押したUiscaも応じるように頭を下げると、ゲームが終わった盤の駒を動かした。
「邪神との戦いの後になりますが、絶望している人を救い希望を広げるような組織を、ノゾミちゃん達と創りたいと思っているのです」
思わぬ提案にノセヤが顎元に手を当てた。
「……それは頼もしいですね。アルテミス小隊の今後の運用の在り方も検討しなければならないので」
「恋人に話したらリアルブルーには“セキジュウジ”という組織があるのだとか。概ねそのような組織を考えています」
当然、治安や衛生上、公的な機関との連携は必要だ。
ノセヤが青の隊隊長であれば、その辺りの連携は取りやすいかもしれない。アルテミス小隊をそのまま流用できれば、尚の事だろう。
ただ、問題があるとすれば、これまでの慣例にない事だ。何かと反対意見も予想されるし、それとノセヤは戦わなければならない。
「…………」
真剣な表情を浮かべる痩せた騎士に、いっぱい空気を吸い込んだUiscaが声を大きくして告げる。
「『しっかりしなさい、ノセヤくん! できることは今しておかないと後悔するわよ!』って言われますよ」
「……ソルラさんの物真似、似すぎだよ、イスカさん」
エニアの感想にUiscaは笑顔で頷くと、ノセヤを見つめる。
「私達にも言えることですが……邪神との戦いでいつ死んでもおかしくないです。今できる事はできる内にしておきたいのです」
「そうですね……やるだけ、やってみましょうか!」
何度も頷きながらノセヤはそう答えた。
彼の表情には、もう、迷いはなさそうであった。
●
「竜の姿のままだと流石に目立ちすぎるから、人の姿に戻ってるとは思うんだけど……」
大雑把な地図と睨めっこしながら、レベッカ・アマデーオ(ka1963)がそう呟いた。
地図というよりかは、大空から眺めたものを適当に描いたような絵といっても違和感ないだろう。
それを覗き込んだ鹿東 悠(ka0725)が苦笑を浮かべた。
「逃げ延びたのがこの方面のようですが……いかんせん、中々にアバウトですねぇ」
ティオリオスの居場所を探る必要があるとの事だが、これでは手掛かりを得るのも一苦労だろう。
「かと言って、ティオリオスを捨て置くのもどうかと思いますから、これは貧乏籤でもやるしかないですね」
「ぜってぇ、見つけてやる」
キッと強い視線を森の奥へと向けるレベッカ。
彼女には、あの水竜を倒さなければならない想いがあるからだろうかと、そんな風に星加 孝純(kz0276)は感じた。
「まだ、時間はありますから、もう少し探索してみますか?」
少年は視線を龍崎・カズマ(ka0178)とヘルヴェル(ka4784)へと向けて尋ねる。
「そうだな。野営場所を探しつつ、探索を続けても良い状況だ」
「このリンダールの森は“深層に近づけば、二度と出られなくなる”と言われています。逆に言えば、人目に触れる事のない場所が多いという事。そういう所を重点的に探すのも一つかもしれません」
二人の言葉に孝純は力強く返事をすると周囲の地形を注意深く観察する。
周囲は樹木だけではなく、水も豊富のようだった。
水辺に近づいた孝純に対してカズマが後ろから声を掛ける。
「奴が追っ手を意識しているかはわからないが、得意分野が水ならば、それを介した索敵、探索が逆にされないとも限らない」
「なるほどです。確かに、安易には近づけませんね」
それに野営場所に水場近くは好ましくない。そもそも地盤も強固でないし、突然の増水や鉄砲水に襲われる危険もある。
カズマの台詞に何か思う事があったのか、ヘルヴェルが地表に手を当てた。
「何か見つけましたか、ヘルヴェルさん?」
「いえ……水があるのは地表だけ、とは限らないのですから」
水が湧き出る場所や、地底湖なんてものも存在するのかもしれない。
先頭を行く鹿東が蔦葉を払う手を止めて振り返った。
「そうですね、ティオリオスの特性から水場、特に纏まった量の水が留まる場所等に潜んでいる可能性はありますね」
水竜という程なのだから、水と無縁の場所にいるとは思えない。
「ティオリオスの故郷に似た風景の場所がありそうなのは、海岸線か……」
役に立ちそうにない大雑把な地図を懐にしまいながらレベッカは言った。
リンダールの森から海岸線には南側のはずだ。ただ、海岸線には適度に漁村もあったりするから、人目はある。
「……となると、森から海に流れ込んでいる川が怪しいか」
「明日は、その辺りを重点的に行きましょう」
孝純の宣言に一行は頷いて応えたのであった。
森の夜は早い。設営を終えたカズマは大木を見上げた。
適度に枝葉が生い茂っているので、これなら、上空から発見される恐れも少ないだろう。
「照明もできるだけ絞った方がいいかもな」
警戒に越した事はないし、ティオリオスを夜間探す訳ではない以上、照明は最低限でいいだろう。
「夜空も明るいですしね」
月を見上げてヘルヴェルが言った。全くの暗闇ではない。
設営場所から僅かに距離を取った場所で孝純が鹿東と一緒に夕食の準備をしていた。
探索では経験不足な感は否めなかったが、こういった所では手慣れた感じがする。
「……父さんに教わったので」
「いい動きですよ」
必要以上に手を出さずに見守る鹿東。
「小さい頃に見た冒険映画の主人公に憧れて、考古学者や歴史学者を目指していたんです……まるで、今、その映画の一面みたいな状況ですけど」
照れるように言った少年に鹿東は頷いた。
リアルブルー、しかも、日本で生活していたのならば、異世界での冒険など想像も出来ない事だっただろう。
「どの時代を専攻するかにもよるでしょうけど……歴史学者も視野に入れてハンターを続けるなら、フィールドワークも覚えておいた方が何かと便利でしょう」
「思っていた以上に肉体労働なんですね」
「遺跡の類は、常に安全な場所にあると限りませんしね」
特にこの世界なら雑魔や歪虚だっている。
もっとも、明らかに敵だと分かる方が、下手に人間を相手するよりかは楽でしょうけど……と鹿東は心の中で呟いた。
そこへ、燻製を作っていたレベッカが戻ってきた。
「此処には長居はしたかないけどね。いざって時にあればあったで便利なモンができたさ」
「美味しそうですね」
「アイツの寝床の一つや二つは、絶対に見つける為にも、体調管理は大事だからね」
適度な場所にあった切株に腰を下ろすレベッカ。
炎の灯りに照らされた表情は怒りにも哀しみにも見て取れた。
「随分とご執心のようですね」
聖堂教会の印が入った水袋を投げ渡しながら鹿東が尋ねる。
レベッカは音を立てて蓋を外すと、ぐいっと水を呷った。
ティオリオスは“全ての滅び”を目的にしている。それは、海龍だった頃の、とある青年からの願いを叶える為だ。
「……別に復讐がいけないなんて言う気はないよ? 落とし前つけるのは当然だし、やり返すっていう動機は正当だからね」
青年は願ったのだ。
最愛の人を奪った憎き者達に。奴等が生きている世界そのものに。
「だけど、落とし前つけるのなら、やった奴等に対してやるのがスジってもんさ」
「確かに昔の事を今、責められてもどうしようもないですね」
少年の言葉に、レベッカは頷いた。
「だから、止めなきゃ。正当な復讐なら、あたしらが首突っ込む話じゃないけど、アレはもう八つ当たりの類だよ」
行き場のない感情を当たり散らしているようなものだ。
水袋を返されながら鹿東が応える。
「人の手で決着を付けて然るべきでしょうがね。万が一でも邪神の勢力と合流すると冗談では済まされない事態になりかねないのは容易に想像できますし」
「明日の探索、僕も頑張ります!」
孝純は詳しい話を聞いて、使命感に燃えているようだった。
こういう話の繋がりが、大切な想いを紡いでいく大事な事なのかもしれない。
夜も更け、交代での見張りを続けている中、孝純がもそもそと起きてきた。
まだ、交代まで時間があるはずだ。
「見張りの時に寝ぼけていても仕方ありませんので」
そう言って少年はヘルヴェルの脇に座る。
ヘルヴェルは沸かしていたお湯をカップに注ぐと、孝純に渡した。
「孝純くん、少し聞きたいのですが、お父さんとアウトドアって昔から実践的でしたか?」
「はい。物心ついた時から」
「そう……なのね」
少なくとも数年以上前という事だ。
その頃から孝純の父親は何か計画――家族で逃亡する事――を考えていたのだろうか。
だが、話に聞くと、リアルブルーは文明が発達しているという。幼い子供を文明から急に引き離すというのもリスクがあるようにも思えた。
「おかげで、今、凄く助かっていますけど」
「教えって知らず知らずに身について、そして、身を助けますよね」
意図していた事かどうかは分からないが、少年の父親から受け継いで、役に立っている。
きっと、天国で知ったら、喜ぶ事だろう。
「あたしも、亡くなった母から受け継ぐ戦い方ですし、孝純くんに教えれば、それはまた孝純くんの中で生きて続く……何か嬉しいですよね、引き継げるものがあるというのは」
「……邪神との戦いで死んだりしないで下さいね」
「ハンターとして活動する以上、絶対は無いですよ。あたしも、孝純くんも」
「よく、母が言ってました。戦場では何が起こるか分からないと」
少年の頭をヘルヴェルは引き寄せた。
これから先、強大な敵との決戦が訪れようとしている。孝純はティオリオスとの戦いが、そして、ハンター達は邪神に立ち向かう。どちらも、危険であり、避けては通れない事だ。
設営場所の周囲を回って安全を確認したカズマが戻ってきた。
孝純は直立不動で迎えると異常が無かった事を報告する。
「そうか……だが、油断はできない。警戒を疎かにはするな」
「はいっ!」
威勢よく返事をした少年の肩をカズマはポンと叩いた。
「力の入りすぎもよくない」
「こういう事はあまりやった事がなくて……カズマさん、父さんは僕に何をさせたかったのでしょうか?」
本格的なアウトドアを学ばせていた理由だ。
カズマには何となくだが、その“答え”が分かる気がしていた。
「そんな難しい事じゃねえのかもしれねえぞ」
「え?」
あっさりとしたカズマの台詞に孝純はキョトンとなった。
カズマは焚火を弱めると、どういう事かと質問しようとする少年に対して、鼻の前で人差し指を立てた。
訪れる静寂と暗闇。
「此処はあっちの世界よりも、分り易いはずだ。耳を澄ませて、周りを見てみろ。何が見えて、何が聞こえる?」
「…………」
月や星の明かりに目が馴染んできた。
何か物音がする。動物が大地を走る音と、それで草木が揺れて重なり合う音。
宙を何かが飛翔した。風をきって静かに降り立つと、捕らえられたのか、虫の鳴き声が響いた。
「……見えなくても、聞こえなくても、確かに紡がれて存在する生命が“視えた”か?」
「とても沢山……」
「親父さんは、ヒトもその中の一つにしか過ぎないということを、忘れて欲しくなかったのかもな」
焚火の灯りを元に戻すとカズマはそう告げた。
それはきっと大事な事だ。
「生命は紡がれて存在する。どれだけ技術が進もうが、手の延ばせる長さは変わらないんだ」
カズマの言葉に孝純は自身の両手を見つめた。
「僕も紡ぐ事ができるでしょうか?」
「自分で難しいなら、色んな人の手を掴んで協力するんだ」
少年はグッと拳を握ると大きく頷いた。
この探索行で少年が得た事は、きっと、この先、大きな意味を持つ事になるだろう。
おしまい。
盤面の争いを十色 エニア(ka0370)はぼんやりと眺めていた。
真剣な表情で指しているのは、Uisca Amhran(ka0754)と青の隊騎士ノセヤだった。
「ノセヤさん、悩み事ですか? 迷いが出てますよ」
「それは、Uiscaさんが強いからです」
「これまで負けてばかりでしたけれど……あの子が好きだったものですから。“姉”の私が、負けるわけにはいきません」
襲撃ルールも味方につけてUiscaは優勢だ。
もっとも、ノセヤに迷いの心があるからだと、Uiscaは感じ取っていた。
ゲームの流れを変えようとノセヤが話題を変える。
「そういえば、皆さんはソルラ先輩と出逢ってどれ位になりますかね?」
「出会ってから4年半位かな……ようやく、傲慢との縁が切れそうって感じだし」
エニアが肘を付きながら答えた。
「そんなに経つのですね……早いものです」
「時の流れってそんなものよね」
口元を僅かに緩めるエニア。時の流れは残酷なようで――優しい所もあるのかもしれない。
傲慢との戦いは多くの犠牲や哀しい別れを経て終結したが、新しい出逢い、絆もできた。
「ノセヤさんとも、これまでも何度か関わってるし……いっそ、すべてをぶちまけるくらいに喋ってくれると嬉しいな」
「そうですよ、ノセヤさん」
エニアとUiscaの二人に責められるように言われ、気まずそうになるノセヤ。
「色々と迷うものです。国に残るのも、故郷に帰るのも……邪神と戦うのも……」
沢山の選択肢が、ノセヤの前に広がっていた。
今までは最善だと思うものを選んでいたのに、自分の事になると、どうも決められないのだ。
「わたし達がノセヤさんの運命を保障できるわけじゃないから、思うままに動いていいと思うよ」
エニアのアドバイスにノセヤは頷きながら項垂れる。
指す駒が無く次の一手に悩んでいるというのもあるが。
「フライングシスティーナ号も戦場には行くだろうし。あれだけ優秀な船なんだから」
空も飛べてCAMも運用できて転移門も備えているとなると、それだけ期待される事は多いだろう。
もっとも、先の戦いでドッグ入りとなったので、戦場に出てくるまでは、もう少し時間が掛かるようだ。
「まぁ、邪神との決戦後なら身を引くのも一つの道だし。あるいは、全てを『知らん』で一蹴する事も……意地悪な事を言っててごめんね」
「いえいえ、そんな事はありませんよ。故郷も心配ですから」
溜め込んだ息を吐き出すノセヤに追い打ちを掛けるように、Uiscaが駒を進めた。
「私は、ノセヤさんは青の隊の隊長を目指されたら……と思います」
「Uiscaさんは、何かと手厳しい」
「権力争いが嫌なら、争う必要もないほど、多くの人を味方につけるか、後継者を早く育てればよいのです。それに、私達も影ながらバックアップしますよ」
チラリと向けてきたUiscaの視線にエニアは頷いた。
「踊りで鼓舞出来るなら、いつだって応援するよ~」
この二人共、先の戦いの功労者だ。
名誉貴族だったとしても、その存在自体が、ある程度の影響力を持つだろう。
権力争いに巻き込まれても、蹴落とされる心配は、意外と少ないのかもしれない。
盤面をジッと見つめていたノセヤが頭を下げた。投了という事だろう。終始優勢に押したUiscaも応じるように頭を下げると、ゲームが終わった盤の駒を動かした。
「邪神との戦いの後になりますが、絶望している人を救い希望を広げるような組織を、ノゾミちゃん達と創りたいと思っているのです」
思わぬ提案にノセヤが顎元に手を当てた。
「……それは頼もしいですね。アルテミス小隊の今後の運用の在り方も検討しなければならないので」
「恋人に話したらリアルブルーには“セキジュウジ”という組織があるのだとか。概ねそのような組織を考えています」
当然、治安や衛生上、公的な機関との連携は必要だ。
ノセヤが青の隊隊長であれば、その辺りの連携は取りやすいかもしれない。アルテミス小隊をそのまま流用できれば、尚の事だろう。
ただ、問題があるとすれば、これまでの慣例にない事だ。何かと反対意見も予想されるし、それとノセヤは戦わなければならない。
「…………」
真剣な表情を浮かべる痩せた騎士に、いっぱい空気を吸い込んだUiscaが声を大きくして告げる。
「『しっかりしなさい、ノセヤくん! できることは今しておかないと後悔するわよ!』って言われますよ」
「……ソルラさんの物真似、似すぎだよ、イスカさん」
エニアの感想にUiscaは笑顔で頷くと、ノセヤを見つめる。
「私達にも言えることですが……邪神との戦いでいつ死んでもおかしくないです。今できる事はできる内にしておきたいのです」
「そうですね……やるだけ、やってみましょうか!」
何度も頷きながらノセヤはそう答えた。
彼の表情には、もう、迷いはなさそうであった。
●
「竜の姿のままだと流石に目立ちすぎるから、人の姿に戻ってるとは思うんだけど……」
大雑把な地図と睨めっこしながら、レベッカ・アマデーオ(ka1963)がそう呟いた。
地図というよりかは、大空から眺めたものを適当に描いたような絵といっても違和感ないだろう。
それを覗き込んだ鹿東 悠(ka0725)が苦笑を浮かべた。
「逃げ延びたのがこの方面のようですが……いかんせん、中々にアバウトですねぇ」
ティオリオスの居場所を探る必要があるとの事だが、これでは手掛かりを得るのも一苦労だろう。
「かと言って、ティオリオスを捨て置くのもどうかと思いますから、これは貧乏籤でもやるしかないですね」
「ぜってぇ、見つけてやる」
キッと強い視線を森の奥へと向けるレベッカ。
彼女には、あの水竜を倒さなければならない想いがあるからだろうかと、そんな風に星加 孝純(kz0276)は感じた。
「まだ、時間はありますから、もう少し探索してみますか?」
少年は視線を龍崎・カズマ(ka0178)とヘルヴェル(ka4784)へと向けて尋ねる。
「そうだな。野営場所を探しつつ、探索を続けても良い状況だ」
「このリンダールの森は“深層に近づけば、二度と出られなくなる”と言われています。逆に言えば、人目に触れる事のない場所が多いという事。そういう所を重点的に探すのも一つかもしれません」
二人の言葉に孝純は力強く返事をすると周囲の地形を注意深く観察する。
周囲は樹木だけではなく、水も豊富のようだった。
水辺に近づいた孝純に対してカズマが後ろから声を掛ける。
「奴が追っ手を意識しているかはわからないが、得意分野が水ならば、それを介した索敵、探索が逆にされないとも限らない」
「なるほどです。確かに、安易には近づけませんね」
それに野営場所に水場近くは好ましくない。そもそも地盤も強固でないし、突然の増水や鉄砲水に襲われる危険もある。
カズマの台詞に何か思う事があったのか、ヘルヴェルが地表に手を当てた。
「何か見つけましたか、ヘルヴェルさん?」
「いえ……水があるのは地表だけ、とは限らないのですから」
水が湧き出る場所や、地底湖なんてものも存在するのかもしれない。
先頭を行く鹿東が蔦葉を払う手を止めて振り返った。
「そうですね、ティオリオスの特性から水場、特に纏まった量の水が留まる場所等に潜んでいる可能性はありますね」
水竜という程なのだから、水と無縁の場所にいるとは思えない。
「ティオリオスの故郷に似た風景の場所がありそうなのは、海岸線か……」
役に立ちそうにない大雑把な地図を懐にしまいながらレベッカは言った。
リンダールの森から海岸線には南側のはずだ。ただ、海岸線には適度に漁村もあったりするから、人目はある。
「……となると、森から海に流れ込んでいる川が怪しいか」
「明日は、その辺りを重点的に行きましょう」
孝純の宣言に一行は頷いて応えたのであった。
森の夜は早い。設営を終えたカズマは大木を見上げた。
適度に枝葉が生い茂っているので、これなら、上空から発見される恐れも少ないだろう。
「照明もできるだけ絞った方がいいかもな」
警戒に越した事はないし、ティオリオスを夜間探す訳ではない以上、照明は最低限でいいだろう。
「夜空も明るいですしね」
月を見上げてヘルヴェルが言った。全くの暗闇ではない。
設営場所から僅かに距離を取った場所で孝純が鹿東と一緒に夕食の準備をしていた。
探索では経験不足な感は否めなかったが、こういった所では手慣れた感じがする。
「……父さんに教わったので」
「いい動きですよ」
必要以上に手を出さずに見守る鹿東。
「小さい頃に見た冒険映画の主人公に憧れて、考古学者や歴史学者を目指していたんです……まるで、今、その映画の一面みたいな状況ですけど」
照れるように言った少年に鹿東は頷いた。
リアルブルー、しかも、日本で生活していたのならば、異世界での冒険など想像も出来ない事だっただろう。
「どの時代を専攻するかにもよるでしょうけど……歴史学者も視野に入れてハンターを続けるなら、フィールドワークも覚えておいた方が何かと便利でしょう」
「思っていた以上に肉体労働なんですね」
「遺跡の類は、常に安全な場所にあると限りませんしね」
特にこの世界なら雑魔や歪虚だっている。
もっとも、明らかに敵だと分かる方が、下手に人間を相手するよりかは楽でしょうけど……と鹿東は心の中で呟いた。
そこへ、燻製を作っていたレベッカが戻ってきた。
「此処には長居はしたかないけどね。いざって時にあればあったで便利なモンができたさ」
「美味しそうですね」
「アイツの寝床の一つや二つは、絶対に見つける為にも、体調管理は大事だからね」
適度な場所にあった切株に腰を下ろすレベッカ。
炎の灯りに照らされた表情は怒りにも哀しみにも見て取れた。
「随分とご執心のようですね」
聖堂教会の印が入った水袋を投げ渡しながら鹿東が尋ねる。
レベッカは音を立てて蓋を外すと、ぐいっと水を呷った。
ティオリオスは“全ての滅び”を目的にしている。それは、海龍だった頃の、とある青年からの願いを叶える為だ。
「……別に復讐がいけないなんて言う気はないよ? 落とし前つけるのは当然だし、やり返すっていう動機は正当だからね」
青年は願ったのだ。
最愛の人を奪った憎き者達に。奴等が生きている世界そのものに。
「だけど、落とし前つけるのなら、やった奴等に対してやるのがスジってもんさ」
「確かに昔の事を今、責められてもどうしようもないですね」
少年の言葉に、レベッカは頷いた。
「だから、止めなきゃ。正当な復讐なら、あたしらが首突っ込む話じゃないけど、アレはもう八つ当たりの類だよ」
行き場のない感情を当たり散らしているようなものだ。
水袋を返されながら鹿東が応える。
「人の手で決着を付けて然るべきでしょうがね。万が一でも邪神の勢力と合流すると冗談では済まされない事態になりかねないのは容易に想像できますし」
「明日の探索、僕も頑張ります!」
孝純は詳しい話を聞いて、使命感に燃えているようだった。
こういう話の繋がりが、大切な想いを紡いでいく大事な事なのかもしれない。
夜も更け、交代での見張りを続けている中、孝純がもそもそと起きてきた。
まだ、交代まで時間があるはずだ。
「見張りの時に寝ぼけていても仕方ありませんので」
そう言って少年はヘルヴェルの脇に座る。
ヘルヴェルは沸かしていたお湯をカップに注ぐと、孝純に渡した。
「孝純くん、少し聞きたいのですが、お父さんとアウトドアって昔から実践的でしたか?」
「はい。物心ついた時から」
「そう……なのね」
少なくとも数年以上前という事だ。
その頃から孝純の父親は何か計画――家族で逃亡する事――を考えていたのだろうか。
だが、話に聞くと、リアルブルーは文明が発達しているという。幼い子供を文明から急に引き離すというのもリスクがあるようにも思えた。
「おかげで、今、凄く助かっていますけど」
「教えって知らず知らずに身について、そして、身を助けますよね」
意図していた事かどうかは分からないが、少年の父親から受け継いで、役に立っている。
きっと、天国で知ったら、喜ぶ事だろう。
「あたしも、亡くなった母から受け継ぐ戦い方ですし、孝純くんに教えれば、それはまた孝純くんの中で生きて続く……何か嬉しいですよね、引き継げるものがあるというのは」
「……邪神との戦いで死んだりしないで下さいね」
「ハンターとして活動する以上、絶対は無いですよ。あたしも、孝純くんも」
「よく、母が言ってました。戦場では何が起こるか分からないと」
少年の頭をヘルヴェルは引き寄せた。
これから先、強大な敵との決戦が訪れようとしている。孝純はティオリオスとの戦いが、そして、ハンター達は邪神に立ち向かう。どちらも、危険であり、避けては通れない事だ。
設営場所の周囲を回って安全を確認したカズマが戻ってきた。
孝純は直立不動で迎えると異常が無かった事を報告する。
「そうか……だが、油断はできない。警戒を疎かにはするな」
「はいっ!」
威勢よく返事をした少年の肩をカズマはポンと叩いた。
「力の入りすぎもよくない」
「こういう事はあまりやった事がなくて……カズマさん、父さんは僕に何をさせたかったのでしょうか?」
本格的なアウトドアを学ばせていた理由だ。
カズマには何となくだが、その“答え”が分かる気がしていた。
「そんな難しい事じゃねえのかもしれねえぞ」
「え?」
あっさりとしたカズマの台詞に孝純はキョトンとなった。
カズマは焚火を弱めると、どういう事かと質問しようとする少年に対して、鼻の前で人差し指を立てた。
訪れる静寂と暗闇。
「此処はあっちの世界よりも、分り易いはずだ。耳を澄ませて、周りを見てみろ。何が見えて、何が聞こえる?」
「…………」
月や星の明かりに目が馴染んできた。
何か物音がする。動物が大地を走る音と、それで草木が揺れて重なり合う音。
宙を何かが飛翔した。風をきって静かに降り立つと、捕らえられたのか、虫の鳴き声が響いた。
「……見えなくても、聞こえなくても、確かに紡がれて存在する生命が“視えた”か?」
「とても沢山……」
「親父さんは、ヒトもその中の一つにしか過ぎないということを、忘れて欲しくなかったのかもな」
焚火の灯りを元に戻すとカズマはそう告げた。
それはきっと大事な事だ。
「生命は紡がれて存在する。どれだけ技術が進もうが、手の延ばせる長さは変わらないんだ」
カズマの言葉に孝純は自身の両手を見つめた。
「僕も紡ぐ事ができるでしょうか?」
「自分で難しいなら、色んな人の手を掴んで協力するんだ」
少年はグッと拳を握ると大きく頷いた。
この探索行で少年が得た事は、きっと、この先、大きな意味を持つ事になるだろう。
おしまい。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/06/19 22:22:02 |
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【相談卓】 Uisca=S=Amhran(ka0754) エルフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2019/06/23 20:53:29 |