ゲスト
(ka0000)
嵐に備えよ
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2019/06/27 19:00
- 完成日
- 2019/07/02 01:51
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
賽は投げられた。
これより世界は、邪神討伐の方向に向かう。
●タホ郷
カチャは実家の玄関先で荷造りをしていた。
側には母親のケチャがいる。娘が作った荷を受け取っては、荷車に乗せていく。
「子供は一時ノアーラ・クンタウに避難させることにしたのよ。都市の方が守りが堅いからね」
「避難するのは、子供だけ?」
「いいえ。その子たちの親も避難するの。片方だけね。片方はここに残る。守りの人手は必要だから」
「どうやって行く人と残る人を決めたの?」
「くじ引きよ。ほっといたら皆残るって言うんだもの。乳飲み子がいるか、妊娠している場合は、くじを引くまでもなく母親の方が行くってことになるけど」
最後の荷を固定し終わったケチャは、カチャに問うた。
「ところで、あなたはどうするの? リゼリオの守りに参加する? それとも、郷の守りに参加する?」
カチャは、周囲をぐるりと見回した。高い空や、青い山並みや、郷の家屋や、そこに住む人々を、記憶に止めておこうとするかのように。
「私、グラウンド・ゼロに行くんです。今しか使い時がないと思うから。ずうっと前に買った、あの銀の錫杖」
ケチャは一拍置いてから、ふっと小さく息を吐く。
「そう。じゃあ頑張りなさい。ちゃんと帰ってくるのよ」
そこで家の中から、旅支度を終えた弟のキクルと父親が出てきた。
泣きたいのを堪えているせいでキクルは、変な顔をしていた。
「お母さん、姉ちゃん――後で迎えに来てくれるよね?」
カチャもケチャも何と返したらいいか迷った末、無難なところに落ち着いた。
「もちろん」
「さあ、行ってらっしゃい。荷物は準備出来ているから」
●バシリア刑務所
「囚人たちを一時的に、都市圏へ避難させておくことは出来ませんか」
「出来ない。それとなく各都市に伺いを立ててはみたんだが、どこも難色を示したのだ。『一般人を受け入れるだけで手一杯。前科者を受け入れる余地はない』とな」
「まあ、そう言う気持ちも分からんではないがな……仕方ない。囚人たちにはここにいてもらう。もちろん我々もだ。彼らだけをほっぽり出すわけにはいかん」
「しかし所長、襲撃を受けた際にはどうしますか」
「籠城して助けを待つしかあるまい」
「籠城と言っても、この刑務所がどれだけ持ちますかね。確かに一般の建物よりは、丈夫に作ってありますが」
「それ以前に、もし助けが来なかったら?」
「その時は――枕並べてなんとやらだな」
囚人たちは普段業務をすべて中断し、刑務所の守りを固める作業に従事している。
作業棟、居住棟、運動場、管理棟――さまざまな場所に土のうを積み、杭を打ち、鉄条網を張ってバリケードを築く。
普段やらないような労働をすることが気分転換になったか、皆比較的楽しげだ。
「これから戦争でもやるみてえな騒ぎだな」
「鉄兜でも被るかね」
囚人更生プログラムのため飼われている犬や猫もばたばたした空気を察し、いつもより多めに鳴いたり騒いだり。
そんな中スペットは、刑務所をぐるりと取り囲む結界を作っていた。ブルーチャーと手分けして自作の符をあちらにこちらに、貼ったり埋めたり忙しい。
「スペットの旦那、わしはこの騒ぎが落ち着いたら、ユニゾンへ定期奉仕活動に行くってことになってるんですがね」
「ああ、そう言うとったな。グリーク商会の支所で雑用すんねんな」
「さようで。そこでですなあ、英霊マゴイへの接し方で何か気をつけた方がいいってことってありますかね? 話には色々聞いていますが、わしは、あの人と会うのは初めてなんで」
「せやなあ……とりあえず『母親みたい』とか『お母さんみたい』とかいう譬えだけはすんなや。間違いなく機嫌損ねるからな」
●ペリニョン村
村の広場に置かれた簡易住宅のそばで、跳ねているのは英霊ぴょこ。
『うほ、簡易住宅じゃ簡易住宅じゃ。皆の丈夫な避難場所が出来たのじゃ。貸し出し感謝するぞマゴイよ』
それに相対しているのは、英霊マゴイ。
『……どういたしまして……それでは……』
『おや、もうユニゾンへ帰ってしまうのかの? もっとゆっくりしていってもいいのじゃぞ、じゃぞ』
『……そういうわけにはいかないのよ……簡易住宅の貸し出しを要請して来たのは……ここだけではないから……』
●ポルトワール
今ポルトワールには――いや、ポルトワールに限らずどの国の都市も――田舎にいるより都会にいたほうが安全だと考える人々が移動して来ている。
彼らがまず確保しなければならないのは、住むところ。
しかし、親類親戚など個人的なつてを持たない場合、それがなかなか難しい。どこの宿屋もホテルもすでに満杯となっているのだ。
これを好機と見て個人的な部屋貸しを始めるものも続出している――法外な高値で。それでもまだ、溢れるものが大勢出ている有り様。
なのに後から後から、人が押し寄せてくる。
「あんた、どうすんだよ。泊まれるところが一軒もないじゃないかね」
「さっきあったじゃねえか。それなのにお前がごねて止めるって言ったんだろう」
「当たり前だよ。あんな狭い相部屋で一流ホテル並の宿泊料を取ろうって言うんだよ。おまけに赤ん坊の分まで払えってさ。あんまりにもあこぎじゃないかね」
口喧嘩しながら歩いていた夫婦は、港の辺りで足を止める。係留された複数の船に、こんな張り紙がつけられるところを目にしたのだ。
『船室/宿泊可能。個室・相部屋共にあり――ご相談はグリーク商会へ。連絡先は以下――』
「……あんた、もうここにするかね」
「ええ? しかしお前、船だぞこりゃあ」
「船だって何だっていいよ。値段もまあまあ普通じゃないか。早く個室をとらないと」
マルコは、窓の外を眺めているニケに言った。
「修理を控えた船を宿泊所として貸し出す、ですか。他人の弱みにつけこんでませんかね」
「需要と供給の問題ですよ。修理と言ってもマスト部分の話で、本体は傷んでませんから。浮いているだけなら十分出来ます」
と返しながらニケは振り向く。背にした窓枠に手をついて。
「あなたはユニゾンから借り受けた簡易住宅がベレン学院に置かれることが不満なんですか?」
「……いえ、不満じゃありません。でも、それが生徒と学院関係者のみに限って使われるのは問題では、と」
「正論ですね。でも、生徒の保護者はそう思わない。学院はすでに、2度も歪虚に踏み込まれています。そのうち1度は生徒の生死に拘わる事態だった。これ以上失態を演じるわけにはいかないんですよ、あそこも」
「ですが……」
反論しようとして言いよどむマルコ。
そこでニケは、思いがけない提案を差し出す。
「あなた自身がマゴイさんに頼んでみてはどうです? もう1つか2つ簡易住宅を貸してはいただけないかと――承知してくれるかどうかは分かりませんが。彼女は、もうすぐここに来るはずです。私が呼んでおきましたから」
これより世界は、邪神討伐の方向に向かう。
●タホ郷
カチャは実家の玄関先で荷造りをしていた。
側には母親のケチャがいる。娘が作った荷を受け取っては、荷車に乗せていく。
「子供は一時ノアーラ・クンタウに避難させることにしたのよ。都市の方が守りが堅いからね」
「避難するのは、子供だけ?」
「いいえ。その子たちの親も避難するの。片方だけね。片方はここに残る。守りの人手は必要だから」
「どうやって行く人と残る人を決めたの?」
「くじ引きよ。ほっといたら皆残るって言うんだもの。乳飲み子がいるか、妊娠している場合は、くじを引くまでもなく母親の方が行くってことになるけど」
最後の荷を固定し終わったケチャは、カチャに問うた。
「ところで、あなたはどうするの? リゼリオの守りに参加する? それとも、郷の守りに参加する?」
カチャは、周囲をぐるりと見回した。高い空や、青い山並みや、郷の家屋や、そこに住む人々を、記憶に止めておこうとするかのように。
「私、グラウンド・ゼロに行くんです。今しか使い時がないと思うから。ずうっと前に買った、あの銀の錫杖」
ケチャは一拍置いてから、ふっと小さく息を吐く。
「そう。じゃあ頑張りなさい。ちゃんと帰ってくるのよ」
そこで家の中から、旅支度を終えた弟のキクルと父親が出てきた。
泣きたいのを堪えているせいでキクルは、変な顔をしていた。
「お母さん、姉ちゃん――後で迎えに来てくれるよね?」
カチャもケチャも何と返したらいいか迷った末、無難なところに落ち着いた。
「もちろん」
「さあ、行ってらっしゃい。荷物は準備出来ているから」
●バシリア刑務所
「囚人たちを一時的に、都市圏へ避難させておくことは出来ませんか」
「出来ない。それとなく各都市に伺いを立ててはみたんだが、どこも難色を示したのだ。『一般人を受け入れるだけで手一杯。前科者を受け入れる余地はない』とな」
「まあ、そう言う気持ちも分からんではないがな……仕方ない。囚人たちにはここにいてもらう。もちろん我々もだ。彼らだけをほっぽり出すわけにはいかん」
「しかし所長、襲撃を受けた際にはどうしますか」
「籠城して助けを待つしかあるまい」
「籠城と言っても、この刑務所がどれだけ持ちますかね。確かに一般の建物よりは、丈夫に作ってありますが」
「それ以前に、もし助けが来なかったら?」
「その時は――枕並べてなんとやらだな」
囚人たちは普段業務をすべて中断し、刑務所の守りを固める作業に従事している。
作業棟、居住棟、運動場、管理棟――さまざまな場所に土のうを積み、杭を打ち、鉄条網を張ってバリケードを築く。
普段やらないような労働をすることが気分転換になったか、皆比較的楽しげだ。
「これから戦争でもやるみてえな騒ぎだな」
「鉄兜でも被るかね」
囚人更生プログラムのため飼われている犬や猫もばたばたした空気を察し、いつもより多めに鳴いたり騒いだり。
そんな中スペットは、刑務所をぐるりと取り囲む結界を作っていた。ブルーチャーと手分けして自作の符をあちらにこちらに、貼ったり埋めたり忙しい。
「スペットの旦那、わしはこの騒ぎが落ち着いたら、ユニゾンへ定期奉仕活動に行くってことになってるんですがね」
「ああ、そう言うとったな。グリーク商会の支所で雑用すんねんな」
「さようで。そこでですなあ、英霊マゴイへの接し方で何か気をつけた方がいいってことってありますかね? 話には色々聞いていますが、わしは、あの人と会うのは初めてなんで」
「せやなあ……とりあえず『母親みたい』とか『お母さんみたい』とかいう譬えだけはすんなや。間違いなく機嫌損ねるからな」
●ペリニョン村
村の広場に置かれた簡易住宅のそばで、跳ねているのは英霊ぴょこ。
『うほ、簡易住宅じゃ簡易住宅じゃ。皆の丈夫な避難場所が出来たのじゃ。貸し出し感謝するぞマゴイよ』
それに相対しているのは、英霊マゴイ。
『……どういたしまして……それでは……』
『おや、もうユニゾンへ帰ってしまうのかの? もっとゆっくりしていってもいいのじゃぞ、じゃぞ』
『……そういうわけにはいかないのよ……簡易住宅の貸し出しを要請して来たのは……ここだけではないから……』
●ポルトワール
今ポルトワールには――いや、ポルトワールに限らずどの国の都市も――田舎にいるより都会にいたほうが安全だと考える人々が移動して来ている。
彼らがまず確保しなければならないのは、住むところ。
しかし、親類親戚など個人的なつてを持たない場合、それがなかなか難しい。どこの宿屋もホテルもすでに満杯となっているのだ。
これを好機と見て個人的な部屋貸しを始めるものも続出している――法外な高値で。それでもまだ、溢れるものが大勢出ている有り様。
なのに後から後から、人が押し寄せてくる。
「あんた、どうすんだよ。泊まれるところが一軒もないじゃないかね」
「さっきあったじゃねえか。それなのにお前がごねて止めるって言ったんだろう」
「当たり前だよ。あんな狭い相部屋で一流ホテル並の宿泊料を取ろうって言うんだよ。おまけに赤ん坊の分まで払えってさ。あんまりにもあこぎじゃないかね」
口喧嘩しながら歩いていた夫婦は、港の辺りで足を止める。係留された複数の船に、こんな張り紙がつけられるところを目にしたのだ。
『船室/宿泊可能。個室・相部屋共にあり――ご相談はグリーク商会へ。連絡先は以下――』
「……あんた、もうここにするかね」
「ええ? しかしお前、船だぞこりゃあ」
「船だって何だっていいよ。値段もまあまあ普通じゃないか。早く個室をとらないと」
マルコは、窓の外を眺めているニケに言った。
「修理を控えた船を宿泊所として貸し出す、ですか。他人の弱みにつけこんでませんかね」
「需要と供給の問題ですよ。修理と言ってもマスト部分の話で、本体は傷んでませんから。浮いているだけなら十分出来ます」
と返しながらニケは振り向く。背にした窓枠に手をついて。
「あなたはユニゾンから借り受けた簡易住宅がベレン学院に置かれることが不満なんですか?」
「……いえ、不満じゃありません。でも、それが生徒と学院関係者のみに限って使われるのは問題では、と」
「正論ですね。でも、生徒の保護者はそう思わない。学院はすでに、2度も歪虚に踏み込まれています。そのうち1度は生徒の生死に拘わる事態だった。これ以上失態を演じるわけにはいかないんですよ、あそこも」
「ですが……」
反論しようとして言いよどむマルコ。
そこでニケは、思いがけない提案を差し出す。
「あなた自身がマゴイさんに頼んでみてはどうです? もう1つか2つ簡易住宅を貸してはいただけないかと――承知してくれるかどうかは分かりませんが。彼女は、もうすぐここに来るはずです。私が呼んでおきましたから」
リプレイ本文
●一人で決めるな
タホ郷からリゼリオに戻ったカチャは、リナリス・リーカノア(ka5126)に言った。彼女に郷の現状を告げた後で。
「――それでね、グラウンド・ゼロに行くんです、私」
「……本気で言ってるの?」
「はい」
リナリスは激しく狼狽する。
彼女はリゼリオ防衛に参加する予定であった。むろんカチャもそうするものだと思っていた。何といっても二人の愛の巣がここにあるのだから。
それなのに、どうして。
「ものすごく危険で、帰ってこれないかもしれないんだよ?」
「そう聞いてます」
だったら、とリナリスは声を張り上げる。相手が考え直してくれないかという、一縷の望みを抱いて。
「カチャが行く事ないじゃん! もっと強い人たちに任せようよ!」
カチャは下げ気味にしていた目線を上げた。真っすぐリナリスの顔を見る。
「行かないわけにはいかないんです。私も一応、『強い人たち』の中に入ってますから。もっともっと強い人達はたくさんいますけど、でも、その人たちだけでは足りないんです」
リナリスは奥歯を噛んだ。カチャを睨むように見返した。
「……どうしても行くなら、あっ、あたしも行く……」
カチャは焦りを滲ませた。反射的に叫んだ。
「駄目です!」
リナリスも負けじと声を張り上げる。
「なんでさ!」
「なんでって、危ないからですよ! リナリスさんはリゼリオ防衛に回ってください!」
「しない! あたしもグラウンドゼロに行くんだもん! カチャが帰ってこなくなったら嫌だし!」
「そんなことない、帰ってきますから!」
「へー? 悪いけど全然信用出来ないね。いつだったかエテ歪虚にやられてあたしに断りもなく死にかけてたの、どこの誰さ!」
「そ、その話今関係あります!?」
「あるもん!」
お互い段々、売り言葉に買い言葉みたいになってくる。
その後小一時間彼女らは揉めに揉めたおした。
カチャの拒否を最後に翻させたのは、平手打ちの応酬でもなく技のかけあいでもなく、しゃくり上げながらのリナリスの言葉だった。
「……本当はすごく怖いけど、カチャに会えなくなるの絶対に嫌だし……っ!」
●守るということ
人込みでごった返すポルトワールには避難民だけでなく、軍関係者の姿も多数見受けられる。
商社の本部が並ぶ通りには特にその人数が多い。銃を手にした兵士らが、まるで守衛のように佇んでいる。
その一角にグリーク商会がある。
受付係が扉を開き、マゴイに向かって礼をする。
「お待ちしておりました。どうぞお通りください」
マゴイに付き添っているルベーノ・バルバライン(ka6752)は、素早く建物内部に視線を走らせる。
(……警備員の数を増やしているな)
万一の事態に対する備えはちゃんとしているらしい。そのことに幾らか安堵しつつ、傍らのマゴイに言う。
「ユニゾンでも、他国を訪問する時は護衛のソルジャーを連れてこれるよう、将来的には法改正なり条文なりを作った方が良いと思うぞ、他のマゴイやステーツマンのためにも」
『……その条文なら……すでに存在するけど……』
「何。それでは何故連れてこない」
『……ソルジャーの仕事は……第一にワーカーの保護……世界全体の危険度が上がっている現状を鑑みれば……ユニゾンから連れ出すことは出来ないわ……』
ルベーノは、心中ため息をついた。彼女は守ることばかりに熱心だ。自分が守られる必要性について無頓着過ぎる。
「……命だけではなく、もっと各階層の幸せを守り追求する国作りを目指さんか、μ」
『……?……それが……まさにユニオンなのだけど……ユニオン法に従って……ワーカーを守って……全ての階級が幸福……』
「μ、それではまたαのように守れぬ市民が出てしまう」
久々に出たαの名が心に響いたらしい。マゴイは悲しげに呟いた。
『……α……』
今だにこうも惜しまれるとは果報な奴。
そう思いながらルベーノは、言葉を探し続ける。
「これからのユニゾンは所属する全ての市民を守りその幸せを追究する共同体であるべきではないのか。ワーカーが、マゴイの、ソルジャーの、あるいはステーツマンの手助けをする――そういうことがあってもいいのではないか? 彼らが自分で自分の幸福を守れない状態に陥っているのであれば」
マゴイは目を丸くした。
『……ワーカーが……守る?……ステーツマンを……マゴイを……ソルジャーを……どうやって?……それは……無理……』
「無理ではなかろう。確かにワーカーにはソルジャーのような力はないし、マゴイのような知識もない。その二つを統括するステーツマンには及ぶべくもない。しかし、思い出してくれ。お前が異界で傷つき戻ってきたとき、彼らはお前を元気づけようと歌を歌っただろう? それはお前が力を取り戻す一助となっただろう?――無理ということはないのだ。彼らにも、他の階級の手助けは出来るのだ。励ましという形で」
●バシリア強化作戦
「はーい、この下に居る作業員さん達を、一気にあの上まで上げちゃいますから皆さん注意してください……ジュゲームリリカルクルクルマジカル、ルンルン忍法吃驚大魔術☆ワープです」
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)が大量の資材と囚人たちを、建物の上に転移させる。
天竜寺 詩(ka0396)は突貫工事の土木作業現場を巡回。
そこに、声。
「おーい嬢ちゃん、ちょっと来てくれや。怪我人が出たんだ」
「あ、はーい」
要請に応じ向かえば、腕を押さえ、顔をしかめている囚人。押さえた所から血が出ている。
詩がヒールをかけるとその傷は、たちまち塞がり消えてしまった。
「はい、治ったよ」
「おー、聖導士ってなあすげえもんだな。ありがとうよ」
「どういたしまして。また怪我しないように、気をつけてね――あ、スペット、ブルーチャー。結界作業は終わったの?」
「一応な。しかし今日は暑いでほんまに」
「そう? 日なたはともかく日陰は涼しい方だと思うけど……」
「スペットの旦那は顔中毛だらけだからな、その分人間より暑いんだ」
「おいこら、俺が人間やないみたいなこと言うなや」
スペットとブルーチャーのやり取りに苦笑しつつ詩は、好きな人の顔を思い浮かべた。
死んだと思われていた彼は生きていた。
だけど……記憶を失っていた。今この瞬間も、失ったまま。
(――でもスペットもΘさんも失った記憶を取り戻したんだ。あの人もきっと)
「何や詩、ボーっとしてからに」
スペットの声で我に返った彼女は、あわてて取り繕う。
「何でもないの。そういえばブルーチャー、ユニゾンへ行くんでしょ? コボルド達が休憩時間に遊べるようなおもちゃを作ってあげたら喜ぶんじゃないかな。マゴイの受けも良くなるかもしれないよ」
「犬のおもちゃですかい。はて、何がいいんでしょうな」
「骨ちゃうか。もしくはボール」
「フリスビーもいいかも」
など話している所に、カチャとリナリスがやってきた。どうやら彼女たちも手伝いに来てくれたらしい。
しかしその格好ときたら、今崖から転がり落ちてきたかのよう。
ルンルンが呆れた顔で聞く。
「喧嘩するほどなんとかって言いますけど、また派手にやりましたねー。原因は何です?」
「まあ、色々」
「雨降って地固まるって感じ♪ にしても、刑務所すごいことになってない? 凶悪な忍び返しとか堀とか二重壁とか。なんかもう要塞みたいだよ」
「その通り、今からこの刑務所は、未来へ生きる為の砦、科学要塞刑務所に生まれ変わるのです!」
●選ばれるのは誰ですか
『……孤児というのは……何……?』
「両親から離れ個人又は公の施設で集団養育されている子供のことです。その子供たちを守るために簡易住宅を新しく2棟、お貸しいただけませんか?」
ディーナ・フェルミ(ka5843)は、感心した。マルコの話の持っていきかたは実に巧みだと。
父親や母親といった関係性を持たない子供。集団養育されている子供。そのイメージにマゴイが好感を示さない訳がない。
『……そういう施設があることは……とてもよい……』
などと感じ入ったように述べ、貸し出しを承諾した。
ディーナはすかさずマゴイの両手を握りぶんぶん振る。
「マゴイさん、人道支援ありがとうなの。こういう時にユニゾンの空間拡張技術はとってもありがたいの。それでね、刑務所にいるスペットさんの所にも、ジェオルジのマリーさんの所にも、1軒ずつお願いできないかな」
『……かまわないわ……そもそもジェオルジには……ユニゾン親善大使がいるから……その身の安全は図らなければならないし……βについても……顔の復元という契約がまだ履行されていないので……放置しておくわけにはいかない……』
すこぶる好感触。ディーナは大満足だ。
そこでマリィア・バルデス(ka5848)が口を挟む。
「マゴイ、結局簡易住宅は後いくつあるの?」
『……後9棟よ……』
……都市同盟全体をカバーするには全然足りない。
思いながらディーナは続ける。
「全ての都市に配れる数がないなら、まずユニゾンと関係がある場所を優先するべきだと思うの、関係を途切れさせないために。その上で質問なんだけど……ユニゾンのワーカーさんに頑張って貰えたら、このおうちは増産できるのかな」
『……簡易住宅を作るには……大規模な専門製造プラントが必要……今のユニゾンにはそれがない……まったく同じものを作るのは……不可能……無理に組み立てたとしても……あれだけの強度は出せない……』
「そっかあ……」
そううまくはいかないかと、残念に思うディーナ。
マリィアがマゴイに言った。
「最後の配布をジェオルジ支部にして。それ以降の交渉は、マリーたちが居るジェオルジ支部が有効性を確認したためと言う形をとって、ユニゾンが供給する物をハンターズソサエティを通じて各都市に配布する方が安全だと思う」
マゴイは首を傾げた。
『……何故……』
「今がもう、暴動一歩手前の状態だと思うからよ。RBではね、災害の時にこれは敵性国民が起こしたテロだって風評が流れて、罪もない外国人が一挙に殺された例なんて、いくらでもあるのよ。マルコ、ベレン学院内だから、あそこの簡易住宅は貴族の力で守られてるの。グリーク商会の伝手で配布されたなんて噂がこれ以上広がったら、ここもユニゾンの保養施設も焼き討ちされかねないわよ」
ベレン学院を守っているのは、正確には貴族ではない。RB風に言えばブルジョワだ。
それはともかく彼女の台詞の後半部分にマゴイが反応した。
表情が硬くなる。マテリアルがざわつく。
『……保養所に危害を加える外部者は……ユニオン法に基づいて……排除する……』
ルベーノは彼女を落ち着かせようとハグをし、背中を軽く叩いた。
そして頭に口づけを落とす。
「人はな、自分の大事なものが蔑ろにされたと思えば、際限なく理不尽で暴力的な存在になれるのだ。俺達ですら、何故間に合わなかった、何故助けてくれなかったと揶揄されることがある。不満は容易く暴力に変わる……こうやって触れられるようになったお前に、何かあったら悔やんでも悔やみきれん」
ざわついていたマテリアルが収束して行く。
マリィアは話を続けた。
「もちろん借主が孤児だけなんていうのも拙いわね。報復も出来ないガキしか居ないじゃないかと、下手したら全員殺されて打ち棄てられかねない」
「そういうことが起きないように俺は、簡易住宅を借りたいんです」
と返すマルコに、星野 ハナ(ka5852)が近づく。
「ちょっとだけぇ、マルコくんに失礼なこと言いますよぅ。……司祭さまが殺された時ぃ、ニケさんにどのくらいの怒りを感じましたぁ? 家に入れなかった人達はぁ、多分それ以上の怒りを感じますよぅ。その上でぇ、誰か一人でも怒りに任せて物を蹴り上げたりしたらぁ、一気に暴徒化するかもしれないんですぅ。それも考えに入れてくださいねぇ」
「……入れます。その上で俺は、彼らを優先したいんです」
ニケが間髪入れず聞いた。
「マルコさん、彼らを収容する際の方便は考えてありますか? あるなら言ってみてください」
「市の要請という形で、孤児とその関係者には孤児院を明け渡してもらいます。邪神戦争が終わるまでの間、避難者の宿泊所として利用するために。その間の仮住居という形で、全員簡易住宅に移ってもらいます」
「なるほど。強制移動という形をとるわけですか。なら同情されてもやっかまれはしませんね。移動先のほうが安全だと知られることさえなければ」
「知られてませんよね実際。住居の詳細な性能を一般に広報するつもりはないんでしょう、あなたも学院も、行政も」
「ええ、そうですね」
●ユニゾンからの贈り物
刑務所の補強作業も一段落して、遅めなお昼の時間。
囚人たちは炊き立てごはんに詩が作ったアスパラと豚の生姜焼きを乗せ、オクラとエノキのみそ汁をぶっかけ、がつがつと食べている。屋外の日陰で。
彼らの目は、運動場のど真ん中で繰り広げられているリナリスとカチャの馬上模擬戦に釘付けだ。
「私は考え直して欲しいんですけど!」
カチャの手にした錫杖から光と衝撃波が飛び散り砂を巻き上げる。
「もー、まだそんなこと言ってる! 錫杖鑑定してもらって、錬成強化もしたんだからね、もうこっからは本番までひたすらスキル上げするのみだよ! ずっとずっと、カチャとこうやって幸せに暮らしたい。だから……勝って帰ってこようね♪」
リナリスの錬金杖から風の刃が迸る。互いの馬は鼻孔を膨らませ後足で立ち、乗り手を背にしたまま前足で蹴りあう。
「そのへん護符埋めたんやから、あまり無茶すんなー!」
というスペットの声も彼女らには、まるで聞こえてない様子だった。
ルンルンは手を後ろに組み観戦する所長と、話し中。
「都会の刑務所を避難所として使うのは、難しいですか」
「難しいな。まあ、屋外の敷地を提供することくらいは出来るだろうが……混乱に紛れ逃走をはかる囚人が出ないとも限らんんからな」
詩が出来立てのヌガーを盆に山盛りして、調理場から出てくる。
「みんなー。おやつだよー」
その目の前へ唐突に扉が現れた。
扉が開きマゴイが出てきた。ルベーノも。
何事かと聞けば、このような答え。
『……簡易住宅を……貸与しようと思ってね……』
●簡易住宅貸与の内訳
グリーク商会のあるポルトワールに4つ。
魔術師協会のあるヴァリオスに1つ。
ハンターオフィスのあるリゼリオに1つ。
ハンターオフィス・ジェオルジ支局のあるジェオルジに1つ。
バシリア刑務所に1つ。
タホ郷に1つ。
保養所のある某山間地に2つ。
合計11の簡易住宅は以上の場所に割り振られた。
人口流入著しい都市圏ではポルトワール同様「誰が入るか」で揉めることを警戒。
住宅を病院敷地内に設置し「動けない重傷患者や重病患者を収容する施設」と位置づけることにした。
タホ郷からリゼリオに戻ったカチャは、リナリス・リーカノア(ka5126)に言った。彼女に郷の現状を告げた後で。
「――それでね、グラウンド・ゼロに行くんです、私」
「……本気で言ってるの?」
「はい」
リナリスは激しく狼狽する。
彼女はリゼリオ防衛に参加する予定であった。むろんカチャもそうするものだと思っていた。何といっても二人の愛の巣がここにあるのだから。
それなのに、どうして。
「ものすごく危険で、帰ってこれないかもしれないんだよ?」
「そう聞いてます」
だったら、とリナリスは声を張り上げる。相手が考え直してくれないかという、一縷の望みを抱いて。
「カチャが行く事ないじゃん! もっと強い人たちに任せようよ!」
カチャは下げ気味にしていた目線を上げた。真っすぐリナリスの顔を見る。
「行かないわけにはいかないんです。私も一応、『強い人たち』の中に入ってますから。もっともっと強い人達はたくさんいますけど、でも、その人たちだけでは足りないんです」
リナリスは奥歯を噛んだ。カチャを睨むように見返した。
「……どうしても行くなら、あっ、あたしも行く……」
カチャは焦りを滲ませた。反射的に叫んだ。
「駄目です!」
リナリスも負けじと声を張り上げる。
「なんでさ!」
「なんでって、危ないからですよ! リナリスさんはリゼリオ防衛に回ってください!」
「しない! あたしもグラウンドゼロに行くんだもん! カチャが帰ってこなくなったら嫌だし!」
「そんなことない、帰ってきますから!」
「へー? 悪いけど全然信用出来ないね。いつだったかエテ歪虚にやられてあたしに断りもなく死にかけてたの、どこの誰さ!」
「そ、その話今関係あります!?」
「あるもん!」
お互い段々、売り言葉に買い言葉みたいになってくる。
その後小一時間彼女らは揉めに揉めたおした。
カチャの拒否を最後に翻させたのは、平手打ちの応酬でもなく技のかけあいでもなく、しゃくり上げながらのリナリスの言葉だった。
「……本当はすごく怖いけど、カチャに会えなくなるの絶対に嫌だし……っ!」
●守るということ
人込みでごった返すポルトワールには避難民だけでなく、軍関係者の姿も多数見受けられる。
商社の本部が並ぶ通りには特にその人数が多い。銃を手にした兵士らが、まるで守衛のように佇んでいる。
その一角にグリーク商会がある。
受付係が扉を開き、マゴイに向かって礼をする。
「お待ちしておりました。どうぞお通りください」
マゴイに付き添っているルベーノ・バルバライン(ka6752)は、素早く建物内部に視線を走らせる。
(……警備員の数を増やしているな)
万一の事態に対する備えはちゃんとしているらしい。そのことに幾らか安堵しつつ、傍らのマゴイに言う。
「ユニゾンでも、他国を訪問する時は護衛のソルジャーを連れてこれるよう、将来的には法改正なり条文なりを作った方が良いと思うぞ、他のマゴイやステーツマンのためにも」
『……その条文なら……すでに存在するけど……』
「何。それでは何故連れてこない」
『……ソルジャーの仕事は……第一にワーカーの保護……世界全体の危険度が上がっている現状を鑑みれば……ユニゾンから連れ出すことは出来ないわ……』
ルベーノは、心中ため息をついた。彼女は守ることばかりに熱心だ。自分が守られる必要性について無頓着過ぎる。
「……命だけではなく、もっと各階層の幸せを守り追求する国作りを目指さんか、μ」
『……?……それが……まさにユニオンなのだけど……ユニオン法に従って……ワーカーを守って……全ての階級が幸福……』
「μ、それではまたαのように守れぬ市民が出てしまう」
久々に出たαの名が心に響いたらしい。マゴイは悲しげに呟いた。
『……α……』
今だにこうも惜しまれるとは果報な奴。
そう思いながらルベーノは、言葉を探し続ける。
「これからのユニゾンは所属する全ての市民を守りその幸せを追究する共同体であるべきではないのか。ワーカーが、マゴイの、ソルジャーの、あるいはステーツマンの手助けをする――そういうことがあってもいいのではないか? 彼らが自分で自分の幸福を守れない状態に陥っているのであれば」
マゴイは目を丸くした。
『……ワーカーが……守る?……ステーツマンを……マゴイを……ソルジャーを……どうやって?……それは……無理……』
「無理ではなかろう。確かにワーカーにはソルジャーのような力はないし、マゴイのような知識もない。その二つを統括するステーツマンには及ぶべくもない。しかし、思い出してくれ。お前が異界で傷つき戻ってきたとき、彼らはお前を元気づけようと歌を歌っただろう? それはお前が力を取り戻す一助となっただろう?――無理ということはないのだ。彼らにも、他の階級の手助けは出来るのだ。励ましという形で」
●バシリア強化作戦
「はーい、この下に居る作業員さん達を、一気にあの上まで上げちゃいますから皆さん注意してください……ジュゲームリリカルクルクルマジカル、ルンルン忍法吃驚大魔術☆ワープです」
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)が大量の資材と囚人たちを、建物の上に転移させる。
天竜寺 詩(ka0396)は突貫工事の土木作業現場を巡回。
そこに、声。
「おーい嬢ちゃん、ちょっと来てくれや。怪我人が出たんだ」
「あ、はーい」
要請に応じ向かえば、腕を押さえ、顔をしかめている囚人。押さえた所から血が出ている。
詩がヒールをかけるとその傷は、たちまち塞がり消えてしまった。
「はい、治ったよ」
「おー、聖導士ってなあすげえもんだな。ありがとうよ」
「どういたしまして。また怪我しないように、気をつけてね――あ、スペット、ブルーチャー。結界作業は終わったの?」
「一応な。しかし今日は暑いでほんまに」
「そう? 日なたはともかく日陰は涼しい方だと思うけど……」
「スペットの旦那は顔中毛だらけだからな、その分人間より暑いんだ」
「おいこら、俺が人間やないみたいなこと言うなや」
スペットとブルーチャーのやり取りに苦笑しつつ詩は、好きな人の顔を思い浮かべた。
死んだと思われていた彼は生きていた。
だけど……記憶を失っていた。今この瞬間も、失ったまま。
(――でもスペットもΘさんも失った記憶を取り戻したんだ。あの人もきっと)
「何や詩、ボーっとしてからに」
スペットの声で我に返った彼女は、あわてて取り繕う。
「何でもないの。そういえばブルーチャー、ユニゾンへ行くんでしょ? コボルド達が休憩時間に遊べるようなおもちゃを作ってあげたら喜ぶんじゃないかな。マゴイの受けも良くなるかもしれないよ」
「犬のおもちゃですかい。はて、何がいいんでしょうな」
「骨ちゃうか。もしくはボール」
「フリスビーもいいかも」
など話している所に、カチャとリナリスがやってきた。どうやら彼女たちも手伝いに来てくれたらしい。
しかしその格好ときたら、今崖から転がり落ちてきたかのよう。
ルンルンが呆れた顔で聞く。
「喧嘩するほどなんとかって言いますけど、また派手にやりましたねー。原因は何です?」
「まあ、色々」
「雨降って地固まるって感じ♪ にしても、刑務所すごいことになってない? 凶悪な忍び返しとか堀とか二重壁とか。なんかもう要塞みたいだよ」
「その通り、今からこの刑務所は、未来へ生きる為の砦、科学要塞刑務所に生まれ変わるのです!」
●選ばれるのは誰ですか
『……孤児というのは……何……?』
「両親から離れ個人又は公の施設で集団養育されている子供のことです。その子供たちを守るために簡易住宅を新しく2棟、お貸しいただけませんか?」
ディーナ・フェルミ(ka5843)は、感心した。マルコの話の持っていきかたは実に巧みだと。
父親や母親といった関係性を持たない子供。集団養育されている子供。そのイメージにマゴイが好感を示さない訳がない。
『……そういう施設があることは……とてもよい……』
などと感じ入ったように述べ、貸し出しを承諾した。
ディーナはすかさずマゴイの両手を握りぶんぶん振る。
「マゴイさん、人道支援ありがとうなの。こういう時にユニゾンの空間拡張技術はとってもありがたいの。それでね、刑務所にいるスペットさんの所にも、ジェオルジのマリーさんの所にも、1軒ずつお願いできないかな」
『……かまわないわ……そもそもジェオルジには……ユニゾン親善大使がいるから……その身の安全は図らなければならないし……βについても……顔の復元という契約がまだ履行されていないので……放置しておくわけにはいかない……』
すこぶる好感触。ディーナは大満足だ。
そこでマリィア・バルデス(ka5848)が口を挟む。
「マゴイ、結局簡易住宅は後いくつあるの?」
『……後9棟よ……』
……都市同盟全体をカバーするには全然足りない。
思いながらディーナは続ける。
「全ての都市に配れる数がないなら、まずユニゾンと関係がある場所を優先するべきだと思うの、関係を途切れさせないために。その上で質問なんだけど……ユニゾンのワーカーさんに頑張って貰えたら、このおうちは増産できるのかな」
『……簡易住宅を作るには……大規模な専門製造プラントが必要……今のユニゾンにはそれがない……まったく同じものを作るのは……不可能……無理に組み立てたとしても……あれだけの強度は出せない……』
「そっかあ……」
そううまくはいかないかと、残念に思うディーナ。
マリィアがマゴイに言った。
「最後の配布をジェオルジ支部にして。それ以降の交渉は、マリーたちが居るジェオルジ支部が有効性を確認したためと言う形をとって、ユニゾンが供給する物をハンターズソサエティを通じて各都市に配布する方が安全だと思う」
マゴイは首を傾げた。
『……何故……』
「今がもう、暴動一歩手前の状態だと思うからよ。RBではね、災害の時にこれは敵性国民が起こしたテロだって風評が流れて、罪もない外国人が一挙に殺された例なんて、いくらでもあるのよ。マルコ、ベレン学院内だから、あそこの簡易住宅は貴族の力で守られてるの。グリーク商会の伝手で配布されたなんて噂がこれ以上広がったら、ここもユニゾンの保養施設も焼き討ちされかねないわよ」
ベレン学院を守っているのは、正確には貴族ではない。RB風に言えばブルジョワだ。
それはともかく彼女の台詞の後半部分にマゴイが反応した。
表情が硬くなる。マテリアルがざわつく。
『……保養所に危害を加える外部者は……ユニオン法に基づいて……排除する……』
ルベーノは彼女を落ち着かせようとハグをし、背中を軽く叩いた。
そして頭に口づけを落とす。
「人はな、自分の大事なものが蔑ろにされたと思えば、際限なく理不尽で暴力的な存在になれるのだ。俺達ですら、何故間に合わなかった、何故助けてくれなかったと揶揄されることがある。不満は容易く暴力に変わる……こうやって触れられるようになったお前に、何かあったら悔やんでも悔やみきれん」
ざわついていたマテリアルが収束して行く。
マリィアは話を続けた。
「もちろん借主が孤児だけなんていうのも拙いわね。報復も出来ないガキしか居ないじゃないかと、下手したら全員殺されて打ち棄てられかねない」
「そういうことが起きないように俺は、簡易住宅を借りたいんです」
と返すマルコに、星野 ハナ(ka5852)が近づく。
「ちょっとだけぇ、マルコくんに失礼なこと言いますよぅ。……司祭さまが殺された時ぃ、ニケさんにどのくらいの怒りを感じましたぁ? 家に入れなかった人達はぁ、多分それ以上の怒りを感じますよぅ。その上でぇ、誰か一人でも怒りに任せて物を蹴り上げたりしたらぁ、一気に暴徒化するかもしれないんですぅ。それも考えに入れてくださいねぇ」
「……入れます。その上で俺は、彼らを優先したいんです」
ニケが間髪入れず聞いた。
「マルコさん、彼らを収容する際の方便は考えてありますか? あるなら言ってみてください」
「市の要請という形で、孤児とその関係者には孤児院を明け渡してもらいます。邪神戦争が終わるまでの間、避難者の宿泊所として利用するために。その間の仮住居という形で、全員簡易住宅に移ってもらいます」
「なるほど。強制移動という形をとるわけですか。なら同情されてもやっかまれはしませんね。移動先のほうが安全だと知られることさえなければ」
「知られてませんよね実際。住居の詳細な性能を一般に広報するつもりはないんでしょう、あなたも学院も、行政も」
「ええ、そうですね」
●ユニゾンからの贈り物
刑務所の補強作業も一段落して、遅めなお昼の時間。
囚人たちは炊き立てごはんに詩が作ったアスパラと豚の生姜焼きを乗せ、オクラとエノキのみそ汁をぶっかけ、がつがつと食べている。屋外の日陰で。
彼らの目は、運動場のど真ん中で繰り広げられているリナリスとカチャの馬上模擬戦に釘付けだ。
「私は考え直して欲しいんですけど!」
カチャの手にした錫杖から光と衝撃波が飛び散り砂を巻き上げる。
「もー、まだそんなこと言ってる! 錫杖鑑定してもらって、錬成強化もしたんだからね、もうこっからは本番までひたすらスキル上げするのみだよ! ずっとずっと、カチャとこうやって幸せに暮らしたい。だから……勝って帰ってこようね♪」
リナリスの錬金杖から風の刃が迸る。互いの馬は鼻孔を膨らませ後足で立ち、乗り手を背にしたまま前足で蹴りあう。
「そのへん護符埋めたんやから、あまり無茶すんなー!」
というスペットの声も彼女らには、まるで聞こえてない様子だった。
ルンルンは手を後ろに組み観戦する所長と、話し中。
「都会の刑務所を避難所として使うのは、難しいですか」
「難しいな。まあ、屋外の敷地を提供することくらいは出来るだろうが……混乱に紛れ逃走をはかる囚人が出ないとも限らんんからな」
詩が出来立てのヌガーを盆に山盛りして、調理場から出てくる。
「みんなー。おやつだよー」
その目の前へ唐突に扉が現れた。
扉が開きマゴイが出てきた。ルベーノも。
何事かと聞けば、このような答え。
『……簡易住宅を……貸与しようと思ってね……』
●簡易住宅貸与の内訳
グリーク商会のあるポルトワールに4つ。
魔術師協会のあるヴァリオスに1つ。
ハンターオフィスのあるリゼリオに1つ。
ハンターオフィス・ジェオルジ支局のあるジェオルジに1つ。
バシリア刑務所に1つ。
タホ郷に1つ。
保養所のある某山間地に2つ。
合計11の簡易住宅は以上の場所に割り振られた。
人口流入著しい都市圏ではポルトワール同様「誰が入るか」で揉めることを警戒。
住宅を病院敷地内に設置し「動けない重傷患者や重病患者を収容する施設」と位置づけることにした。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/06/27 01:30:35 |
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質問卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2019/06/27 02:11:38 |
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相談卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2019/06/27 01:32:46 |