• 王戦

【王戦】後日譚 不屈の砦兵

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/06/24 19:00
完成日
2019/06/30 18:11

みんなの思い出

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オープニング

 それは王国歴1019年、春の某日。今から数週間前の事──
 長らく歪虚の侵攻を阻み続けて来たハルトフォート砦は、この日、ダンテ・バルカザール率いる空前の大軍勢を前に、遂に『陥落』の日を迎えようとしていた。
 砦の周囲へ築かれた星型城塞部分も、下ベイリー(二の丸)部分も、戦況の悪化に伴って順次、放棄されていった。無限に湧き続けるかのような敵の大軍を相手に消耗し、防衛線を維持できなくなっていったからだ。
 兵たちは後退し、上ベイリー(本丸)の城壁に拠って戦った。戦線を縮小することで火力の密度を維持しつつ、二の丸に敵を引き込んで出血を強いることで、押し寄せる敵に対抗しようとした。砦の本丸は小さな高台の上に建っており、その主城門へ辿り着くにはその丘の周りの斜路をグルリと一周しなければならない構造になっていた。その間、守兵は上から一方的に矢玉を浴びせ掛けることが出来、そこで少なくない敵戦力を削れる……はずだった。
 だが、その構造を知るダンテは、歪虚たちに直接、その丘と城壁を登らせ始めた。通常ならあり得ぬ攻略法──だが、その無理無茶無謀をやり通すだけの身体能力と兵力が敵にはあった。
 事前に用意してあった岩や油はすぐに尽きた。兵たちは危険を顧みずに胸壁から身を乗り出して、城壁を上って来る敵を直接、銃や弓で狙い撃ちにした。

「総員着剣! これより城壁に取りついた歪虚どもに銃撃を敢行する! 銃撃は1度のみ。俺の合図で一斉に行え! 3秒以上は姿を晒すな!」
 城壁の守備を担当する1小隊を率いる士官、ジャスパー・ダービーが、周囲の部下たちに向かって命令を発した。すっかり枯れ果てた自身の声に(水が欲しいな……)などと場違いなことを思考しつつ、まるで他人事のように口から指示は出続けた。
「用意……今!」
 号令と同時に、ジャスパーたちは一斉に胸壁から身を乗り出し、城壁を上って来る敵らに一斉射撃を浴びせて、すぐに引っ込んだ。
 銃弾を受けた敵兵がバタバタと地面へ落ちていく音がして、ジャスパーはマスケット(滑腔銃)の装填を命じながら、「よくやった!」「その調子だ!」と部下らを褒めてやった。その賞賛を受け、泥だらけ、煤塗れになった若い部下たちがはにかみ、喜んだ。
 ジャスパーの胸がチクリと痛んだ。元々、彼らはジャスパーの部下ではなかった。
 彼の本来の任地は西海岸──イスルダ島からの大規模襲撃を警戒する『防人』だった。が、今回の傲慢軍襲来に際しては、早々に任地の放棄が命じられ、砦の守備に就いていた。
 だが、長い激戦を経て砦の兵力は損耗し、ジャスパーの仲間たちも一人、また一人と失われていった。そんな小隊に宛がわれた若い補充兵──それが、元々は工廠区画で職人見倣いをしていたという、彼らだった。
 まだ若い彼らを戦場に出す事に抵抗がないわけではなかった。だが、自分たちの明日すら知れぬこの状況下、彼らだけを特別扱いして守ってやることなどできようはずもない。ジャスパーが彼らに対して出来ることは……腐らず、自棄にならず、最後まで責任を以って指揮を執り続ける──それくらいがせいぜいだ。
「よし、もう一度いくぞ!」
 狙い撃ちされぬよう、先程とはタイミングを変えて、ジャスパーは再度、銃撃の指示を出した。
「用意…………いまッ……!」
 兵らが身を乗り出すより早く、城壁を駆け上って来た『何か』が胸壁を跳び越えた。自身の命と引き換えにリミッターを外した異界の兵たちが倍速を発揮しての事だった。
 身を乗り出そうというタイミングで機先を制せられた兵たちが城壁の下で身を竦ませる。一方、その兵たちごと城壁を跳び越えて来た歪虚たちも、敵兵の姿を探してキョロキョロと周囲を見渡し……ようやく互いの視線が交差する。
 沈黙は数秒──後、雄叫びと共に期せずして放たれる一斉射撃。その銃撃を受けて生き残った化け物たちが怒号と共にこちらへ飛び掛かろうとして、直前…… 敵の背後へ突入して来た『抜刀隊』が、銃剣で化け物たちを槍衾にした。
「完全に動かなくなるまで止めを刺して! ……ふー、危ない所でしたね、タイチョー? 褒めてくれても良いんですよ?」
 今では抜刀隊の隊長に収まった元の部下、ノエラ・ソヌラがジャスパーに駆け寄り、えへん、と胸を逸らした。命を助けられた若い兵たちが、彼女を見て憧憬に目を輝かせる。……共に戦うようになって日の浅い彼らには、ノエラの普段のポンコツぶりはまだ知れ渡ってはいなかった。
「隊長……」
 もう一人の若い部下、ルイ・セルトンが深刻な表情で呼び掛けた。
「ここはもうダメです。一刻も早く防衛線を下げるべきです」
 ……ルイは自他ともに認める『臆病者』だった。だが、これまで任務を放棄して逃げ出したことは一度もなかった。
 ジャスパーは周囲へ視線を振って状況を確認した。……塔を挟んで向こう側の城壁部は、こちらと違って敵の突入を阻むことが出来ずに、既に虐殺の場と化していた。今、こちらに対する敵の圧力が小さいのは、敵がそちらを突破口に定めたからだ。橋頭保を確保し終えれば、すぐにこちらへも雪崩れ込んで来る。
(だが、退がると言ったって、これ以上、どこへ……)
 ジャスパーが奥歯を噛み締めていると、司令部のあるタワーハウス(主塔)から発煙弾が打ち上げられた。主塔への集結を促す信号弾──攻城戦の最終局面で打ち上げられることになっていたものだった。
「これより攻囲を突破し、脱出する」
 集まった生き残りの兵らに対し、砦司令ラーズスヴァンが宣言した。
 絶望的なはずのその宣言に、兵らの士気は逆に上がった。不敗の猛将、生ける伝説──異種族でありながら、その腕っぷし一つで王国の将軍にまで上り詰めた男が、遂に戦場に出ようというのだ。
「お供します……!」
 昔から戦歴を共にして来た将兵たちが、むしろ瞳を輝かせて志願した。彼らと指揮官を殿軍に残し、兵らはあらかじめ用意されていた地下トンネル(Gnomeの手による)から砦の外に出た。

 ジャスパーは部下たちと共に生き残った。数多の犠牲を出しつつ敵の後陣を突破し、砦からの脱出を果たした。彼は彼の率いる若い部下たちへ、責任を果たしたのだ。

 殿軍に残ったラーズスヴァンらは、最後まで敵を曳き付け、奮闘し…… 最後は砦の主塔を爆破して、諸共に敵を瓦礫に圧し潰したという……


 そして、現在── イヴを倒した王国軍に、奇妙な報告がもたらされた。破壊された砦の跡に、なぜか未だに傲慢軍の戦力が張り付いているのだという。
 王国はすぐに討伐隊を兼ねた調査隊を派遣することにした。その中に、自ら志願したジャスパーたちもいた。
「ハルトフォートは聖なる墓だ。あの場で戦い、死んでいった者たちの── それをいつまでも歪虚どもに『汚染』させておくわけにはいかない──」

リプレイ本文

 陥落したハルトフォートに古代兵器が屯している──その調査の為に王国兵らと共に砦へ向かったハンターたちは、その現場に到着する前──何も無い荒野の中を隠れるように走る小さな河岸段丘の端で『鉄のマネキン』たちを発見。すぐさまこれを撃破した。
「……この敵、見たことがありやがるです。球形関節によるトリッキーな格闘動作と怪光線が厄介な強敵だった……のですが」
 幸先の良い勝利──だが、破壊したマネキンの首をガッと踏み付け、シレークス(ka0752)が疑問を呈した。
「……なんで穴掘りをしてやがりますかね、こいつらは。作業用の廉価版か何かですかねぇ……?」
 そう、シレークスたちが以前に遭遇した同種と比べて、ここのマネキンたちは弱かった。それでも、穴掘り中を奇襲されなければ、これほど脆くはなかったはずだ。
「何故に、拠点としては価値の無くなったハルトフォートで歪虚がぐずぐずしているのか……」
「命令者がいなくなって暴走している……? それとも何か理由が……?」
 小首を傾げるミグ・ロマイヤー(ka0665)とエルバッハ・リオン(ka2434)。近衛 惣助(ka0510)が冗談めいた口調で返す。
「探し物でもあるのかね?」
 その言葉にサクラ・エルフリード(ka2598)は反応した。
「何か地面の下に埋まってる物を……? 埋まっている物……者……?」
 ……ハンターたちは互いに顔を見合わせた。……まさかねぇ? いやいや、まさか。いくら何でも、それは流石に……
「そう言えば、たいちょー。この辺りだったよねー、私たちが出て来たトンネルの出口」
 防人隊のノエラがあっけらかんと宣った。惣助は慌ててラーズスヴァンの『最期』をジャスパーに再確認した。
「いや、しかし、ラーズスヴァンは砦に残ったんだよな? タワーハウス(天守塔)を崩して敵を道連れにしたんだよな?」
「……ああ。司令たちは殿軍として、脱出トンネル入り口のある天守塔に籠った。俺たちがトンネルを抜けた時、自爆して崩れ去る塔が見えた」
 惣助とジャスパーのやり取りを聞いて、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は気付かれぬほど小さく溜め息を吐いた。──まったく、軍人という奴は。最後には自分の命を使うのにも躊躇が無い。私の友人もそうだったが……
「だが、直接、戦死を確認したわけではない。あの人のことだから、地下に避難用のスペースを用意していても不思議じゃないな」
 ハンターたちは暫し言葉を失い……すぐに付近の調査を始めた。歩夢(ka5975)は符を一枚引いて、即決『占術』を試みた。結果は『抑圧』と『解放』──勿論、占いは占いではあるが。
 ……調査の結果、脱出トンネルの崩落は爆破による人為的なものだと分かった。しかも、徹底して破壊する意図が窺えた。
「もしかしたら、司令たちは生きてここから脱出しようとしたのかも。けど、逆に侵入されそうになって、爆弾で封鎖した……?」
 防人隊ルイの推察──ハンス・ラインフェルト(ka6750)が冷静にそれを補強する。
「木偶人形に複雑な命令が分かるはずがない──せいぜい、砦の人間──生き残りを殲滅しろ、程度の命令だったのではないかと思います。そして、木偶人形たちはいまだ作業中……ということは、自分たちに与えられた命令は達せられていない、と認識していることになりませんか?」
 エルが両手を上げて落ち付く様に皆に告げた。
「なんにせよ、まずは砦に屯するマネキンたちを排除しなければ確認もできません」

 ハンターたちはすぐに行動へと移った。『慰霊』の為に持って来ていた酒樽などの荷物を残し、覚醒者たちのみで砦へ走った。そして、辿り着いた工廠区画の瓦礫の陰に身を隠すと砦の様子を窺った。
「本丸に敵が集中しているな……奴さん達、やはり何か探しているような動きだ」
 ライフルのスコープで確認して惣助が告げる。
「あの辺りの地下に生存者がいるのかもしれない」
 ハンターたちは別行動を取るというミグとその場で別れ、砦内へと侵入していった。辺りは砦が陥落した日のまま──戦死者の遺体が埋葬もされずに野晒のまま放置されていた。
「今は生きている連中が最優先でやがります。……待っていてください。すぐに歪虚どもを蹴散らしてやりますから……!」
 サクラとシレークス、ハンスの3人は正規ルートで本丸への進路を取った。残る4人は崖を登って本丸へと入り、そこをうろつく敵(見回りだろうか)に対して陽動を仕掛けることにした。
「こちらの体力(スキル)にも限界がある。まずは集めて纏めて倒そう」
 アルトを先頭に、歩夢、エルの順番で突進を開始する突撃班。一人その場に残った惣助は瓦礫を台座に狙撃銃を構え、スコープのレンジ内に収まった3体のマネキンを『同時に照準』した。
 敵が何かを感知したのか、見えぬ場所を走っているはずの突撃班に気付いた。惣助は引き金を引き、戦闘開始を告げる嚆矢を放った。
 放たれた銃弾は、まるで鷹か鳶の如きあり得ない軌跡を描いて飛び、3体のマネキンを正確に2回ずつ貫いた。狙撃に気付いたマネキンがぐりんと頸を曲げて惣助の方を見やり……そこへ第二射の『凍結弾』を発射。マテリアルの冷気で敵を地面に縫い付ける。
 その敵らの只中へ突っ込んで行く突撃班。中衛の歩夢がまず何より先に『生命完治』を使用して、周囲に自分たち以外の人間がいないかを確認した。
「反応なし……思いっきり暴れてくれて構わんぞ」
「了解です」
 エルは歌う様に『エクステンドレンジ』で射程を拡張した『グラビティフォール』の詠唱を終え、紫色の重力波を前方へと解き放った。それを受けたマネキンたちの身体がミシリと音を立て、動きが重く、鈍くなる。そこへ炎の如きオーラを纏ったアルトがダンッと踏み込み、炎の花弁舞い散らせる一陣の風と化して敵陣を駆け抜けて……直後、マネキンたちがまるで華が散る様にバラバラと崩れ落ちた。
 襲撃に気付いた周囲のマネキンたちがけたたましく鳴り響かせる警報。それに呼ばれて集まって来た球形関節のマネキンの群れ──その人型に囚われない動きは中々にホラーで気持ち悪い。
「共に踊るにはこちらも蛸か何かにならなきゃ無理そうですね」
「ここでその感想が出るってのは、中々に心強いぜ」
 言いながら、エルと歩夢が同時に符を投げ上げて。宙を舞ったそれらがそれぞれ3筋の雷と化して敵を撃ち貫いた。
 更に別方向から戦場へと突入して来る複数の敵──アルトはナイフと法術刀を構えて再び加速した。──まるで時を置き去りにしたかの様な、目にも止まらぬ超加速。5体中、4体の敵が一瞬後に砕け散り、1体だけが回避した。アルトは驚きつつも止まらなかった。目にも止まらぬ動きの中に立体機動を織り交ぜ、アクロバティックな動きで敵の背後へ──人であれば完璧に入ったその一撃を、鉄マネキンは球形関節故のあり得ない動きで受け止めた。
「──気を付けろ。廉価版の中に歯ごたえのある奴が交じっている」
 目の前の敵をガードごと押し断ちに掛かりつつ、アルト。更に後方から複数の敵が後衛のエルに向かって突っ込んで来て……それらの前に立ちはだかった歩夢ががっしと受け止め、星神器「カレトヴルッフ」を振るって敵と切り結ぶ。球形関節でそれこそ凧の様に絡みついて来ようとするマネキンたちを文字通り「嬉しくないね」と足蹴にして一歩跳び退さる歩夢。そこへエルの放った炎の矢が敵の顔面を直撃する。
 この時、ただ一人孤立する位置にいたはずの惣助の姿は既に無い。彼は最初の狙撃後にすぐに崖を下り、先行したサクラら4人の後を追っていた。
「今です。陽動班の皆が敵を引き離してくれてる内に……!」
 サクラはハンス、シレークスと共に本丸へと侵入。マネキンたちが瓦礫を掘り返していた天守塔跡へと到着した。
「あのマネキンに眼が有るようには見えませんでした。恐らく振動か熱源かマテリアル辺りを感知しているんじゃないでしょうか。だとしたら──」
 ハンスの言葉に頷いて、サクラは『生命感知』を使用した。その探知範囲は半径15m──普通の地下空間であれば十分過ぎる距離だ。
「反応なし……次です」
 サクラは敵が掘り返していた地面を中心に捜索範囲を広げていった。だが、結果は芳しくなく、次第に焦りの色が滲んだ。
「傲慢連中のアレは無意味なことはしない。連中がここを掘り返しているなら、それには理由があるはずです」
 シレークスの励ましに、再び気合を入れて臨むサクラ。そこへ、ハンターたちに気付いたマネキンたちが近づいて来て、ハンターたちは捜索活動を一旦中止し、迎撃を行った。
「ゆっくりと捜索する為にも、全部倒してしまいましょう…… 防御は私に任せてください。その分、攻撃に集中を」
 サクラは『ミレニアム』──圧倒的な防御効果を誇る光の障壁を味方へ付与し、その加護の維持に集中した。それを受け、ハンスは刀も抜かずに無造作に敵の方へと歩いて行って……
 そのハンスに向かってマネキンたちが放つレーザー光。瞬間、ハンスは目にも止まらぬ速さで星神器『天叢雲』を抜刀し、彼我の距離を切り裂いた。突然、自分たちの只中に現れたハンスに敵が反応するより早く、守りを棄てた攻めの構えで縦横無尽に敵を切り刻む金髪碧眼のサムライ── そこへ到着した惣助がリボルバーを抜き、敵の背後から凍結弾を速射して支援する。
「此処はもう、てめぇらの居場所じゃねぇです! 散りやがれっ!!」
 最後の1体をシレークスが両の拳鎚で叩き潰し、ハンターたちは再び捜索活動へと戻った。惣助もまた僅かな違和感も見逃すまいと、発掘現場の周囲へ視線を飛ばした。
 やがて、全ての敵を破壊し終えて来た陽動班の3人が合流した。サクラはエルに式神による探索を要請した。
「『生命完治』で見つからないのです……思ったより深い場所か、或いは遠くにいるのかもしれません……」
 疲れて汗まみれになったサクラにエルは頷くと瓦礫の隙間から式神を侵入させ、ジャスパーたちからトンネル入口のあった場所を聞いて、そちらへ向かわせた。
「トンネル……恐らくこれですね」
 崩落した建築材の隙間を縫って奥へ奥へと進む式神──
 やがて、式神は地下の開けた空間へと辿り着き。そこにマテリアル照明の灯りと、壁際や床に蹲った大勢の人影を見出した。
「見つけました!」
 歓喜とも焦燥ともつかぬ声で皆に報せるエル。地下空間の人影に、動く者が一人も無かったからだ。
 ハンターたちはすぐに瓦礫の撤去作業へ移った。
「おらぁ! いるなら返事しやがれ! 返事しねえと、ぶっとばしやがります!!」
 シレークスは剛力を発現させると、邪魔な瓦礫(大)を放り投げつつ、掘って掘って掘り捲った。
 別行動をしていたミグがそこに到着した。ゴゴゴ……と重低音を響かせ、迫る異様な機械の塊にハンターたちは応戦態勢を取ったが、慌てて飛び出して来たミグが、これは古代兵器ではなく自作した土木機械だと告げた。
「ジャーン、『ミグ式瓦礫撤去マッシーン』!」
 なぜかダミ声で機械を披露するミグ。所謂、パワーショベルの様なものだった。工廠区画の廃墟に埋まった刻令術式工作機械群の、まだ動く部分を組み合わせてでっち上げた代物だ。
 ガリガリと発掘作業を始めるミグと瓦礫撤去マッシーン。
 ハンスは作業を続けながら、地下に閉じ込められているであろう砦司令に呼び掛けた。
「ラーズスヴァン司令……上の古代兵器は片付けましたよ。酒を大樽で持ち込んだんです。祝杯をあげませんか……」
 ……周囲の警戒に当たっていた歩夢が、カタカタと何かの振動を感知した。地面に手を当て、それが気のせいで無いことを確認し、『生命感知』を使ってみる。
 反応があった。地中を移動していた。
「え?」
 サクラと歩夢がそちらを振り返った瞬間。どか~ん! という轟音と共に何かが地面の中から飛び出した。
 ……もうもうと立ち込める砂塵の中から現れたのは1体のGnome──そして、それに後続するドワーフ技師長3人と。ゴーレムの背に立ち、肩部に片脚を乗っけた砦司令ラーズスヴァンの姿──
「じ、自分たちで出てきおった、じゃと……?」
「なに、お前たちが人形どもを片付けてくれたお陰じゃよ」
 戦慄するミグに、ラーズスヴァンが事も無げに宣った。シレークスはその言葉が終わるより早く、笑顔で彼らを引っ叩きに行った。
「色々と、台無しです……」
 呟きながら、サクラが笑った。
「でも、お酒、無駄にならなそうで良かったです……」

 ハンターたちの報せを受けて、待機していた救出隊が砦跡地に入った。が、その到着を待たずして、ドワーフたちは自らの無事救出を祝う宴会の準備を手ずから進めていた。馳走の材料は「こんなこともあろうかと」と籠城用に地下空間に備蓄していた保存食と酒である。
「なぜこんな大量の酒が軍事施設に……」
「何を言うか。酒は水と違って腐らないのじゃぞ? 籠城にはもってこいではないか!」
 ガハハと笑いながら酒に強いドワーフらしい理屈を語るラーズスヴァンらドワーフたち。あと一か月は籠城で来たな、とうそぶく彼らに、救出された幕僚たちや兵らが「勘弁してください」と笑った。
「お帰りなさい、司令以下皆さんの奮戦に敬意を表します」
「おめー達は、立派に王国の守護者としての役目を果たしやがりました。今日は飲んで飲んで、飲みまくりやがるです!」
 惣助とシレークスの音頭で『宴会』が始まった。長い地下生活で兵らの視力が光に弱くなっていたので、時間は夜。幸い、食べるものにはまだ余裕があったようで、胃腸はそこまで弱ってなかった。
「いや、別にね、決してね、予想していたわけじゃないのじゃよ? 撤退戦の折も王都の攻防戦の折も忘れてい……いや、げふんげふん。殺しても死なんようなドワーフどもじゃし、生きていても不思議はないと……え? 生きているんじゃよな?(足、あるし……)」
 ドワーフたちと酒を胃に流し込みながら語らうミグ。歩夢は「すげーな……」と素直に言った。それが生き残った事に対してか、それとも酒量に対してかは判然としていない。

 後日。遺体の埋葬を終えハルトフォートで戦死者の慰霊が行われた。
 戦死者たちの遺体はエクラの名の下に浄化され、歩夢を初めとする聖職者たちによって浄化された土地へと埋葬された。
「感傷にすぎないかもしれないがな。少しでも清らかに葬ってやりたかった」
 歩夢の言葉に頷き返し、シレークスはこの地で散った全ての将兵に祈りと報告を捧げた。
(傲慢王との戦にはようやく終わりやがりました。あの野郎の玉座はぶっ壊してやりましたです。おめーたちが作った貴重な時間のお陰です)
 歩夢もまた心に誓った。
「皆が死力を尽くして戦ったその意味を、決して無駄にはしない。だから、今はゆっくり休んでくれ。な?」

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重体一覧

参加者一覧

  • 双璧の盾
    近衛 惣助(ka0510
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士
  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤー(ka0665
    ドワーフ|13才|女性|機導師
  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • 真実を照らし出す光
    歩夢(ka5975
    人間(紅)|20才|男性|符術師
  • 変わらぬ変わり者
    ハンス・ラインフェルト(ka6750
    人間(蒼)|21才|男性|舞刀士

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/06/20 00:29:45
アイコン 相談です・・・
サクラ・エルフリード(ka2598
人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2019/06/23 17:27:00