川の精霊、イアンを考える

マスター:狐野径

シナリオ形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2019/06/24 07:30
完成日
2019/07/04 16:45

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●川の精霊は考えた
 グラズヘイム王国の西寄りにある地域にある町の川に精霊が住んでいる。名前はリオ、それ以外もいろいろ呼ばれる。
 精霊として長いことここにいて、時々見える人間がいて、話すことはあった。その中の一人が、現領主イノア・クリシスの兄だったニコラス・クリシスだった。歌声がきれいだし、色々話をしてくれて嬉しかった。いい領主になると言われていたニコラスは、歪虚に殺されたと聞いた。
 当時のリオは寂しいと思うと同時に、歪虚は怖いと思っていた。
 しばらく経って、また魔法生物が現れた。その時、ニコラスが歪虚の手を取っていたということを知った。人間というものがよくわからなくなり、人間を追い出したいと考え始めた。
 よく分からないだけでなく、川を汚すものだから。
 なお、ハンターたちの説得もあり、人間と関わってみることにした。
 歪虚となったニコラスとも会った。リオは歪虚が怖いと思っていたが、向こうのほうが恐れていたようだった。その理由はよく分からないけれども、ニコラスは歪虚になってしまったということははっきりしたのだった。
 結局、歪虚となったあの子も、もういない。
 それでいいのだ。
 年月は流れ、町の人との交流は進む。
 ハンターも時々現れて話し相手になってくれる。
 傲慢王の浮遊大陸が近くを通ったときは、川の側から離れられないため、威嚇だけしかできなかった。自分より無力だと思っていた、近所の人間の年寄りたちがリオを心配してくれたり、色々興味深かった。
 それらも収まって穏やかになるのかと思っていたけれども、ハンターたちが邪神のことを伝えてきた。
 怖いというより、ハンターたちの気持ちが不思議だった。
 なぜ、戦えるのだろうかと。
 この町に人たちは恐怖を覚えたりしないのだろうか。
 このあたりにいた歪虚より強い存在が来ていることがあるというのに。
 リオはここの人間たちが好きだった。
 だからこそ、何かあったら守りたいと思うようになった。隣の町も仲良くなってきたということは良いことだと思った。
 ふと、隣も同じ川に住んでいるということに気づいた。たまたま、リオはこちら側に住んでいるだけなんだということに。
 人を守るにはどうすればいいのかわからない。
 ぼんやりと朝日を見ながら考えていると、毎朝掃除に来る老人たちがやってきていた。
「川の精霊さん、今日もいい天気だねぇ」
「この町に何もないのは領主さんや隠居さんや、精霊さんのおかげじゃ」
 雨だと来ないから、毎回同じ会話をしている。
 それでもリオは幸せだった。
 何か役に立ちたいと考える。魚と仲良くなったり、水を飛ばしたり、あふれさせるしかできない。
 そういえば、一度、楽しげなことがあった記憶がある。
「じー、ハンターの親分を呼んでなのーじゃー」
 掃除に来ていた老人たちは了解したといって、日課が終わった後、ハンターオフィスに向かった。
 それから、その伝言を聞いたところで要領を得ないため、夕方にオフィスの職員がやってくる。
「えっとー、川の精霊さん?」
 呼びかけられると、川から水っぽい少女が現れる。流れる水が人の姿をとっているのだ。
「なのー」
「なの?」
 リオに言われて首をかしげる職員。
「ハンターも、町の人もー、次々大変なのー」
「そうですね」
「でーなのーじゃー、イアンもかねて、一日楽しむといいのじゃ!」
 職員はコロコロ変わるリオの口調と間延びする言い方の二つに苦しみつつ、話を理解しようとする。
「えっと……イアンとは?」
「イーアン? イアーン?」
「……う!?」
 リオは発音が間違っているか単語が間違っているのかと言い直す。
 職員はより一層混乱する。
「精霊さんは『慰安』といいたいのじゃよ」
 通りすがりの老人が口をはさんだ。リオは「それー」と告げる。
 職員は理解した。
「つまり、色々忙しいのだから、隙を見て、一日くらいみんなで楽しむ日を作ればいいじゃない? という提案ですね!」
 リオは大きくうなずいた。
「分かりました、領主様に掛け合います」
「あとー、あっちもねー」
「……え?」
「仲良くなのー」
 リオは川の反対側の岸を見た。
「……分かりました、相談しておきます」
 職員は請け負った。別に隣ともめる必要もないし、楽しいことは一緒にすべきだという精霊の考えも理解できたからだった。

●イアンのイベント?
 領主のイノア・クリシスは職員から話を聞き驚いた。
「……わかりました」
 あの川の精霊には迷惑も掛けた。隣の領地には歪虚が発端とはいえ魔法公害で迷惑をかけたり、一方的に競い合われたり……結局はお互い様という部分もなくはなかった。基本的に領民たちは行き来自由なのはあちらの領主の考えかたも感じ取れる。
 イノアはペンをとる。
 状況が落ち着くまで領地の縁に行ける位置にいる父と、そこにいる隣の領地の領主ユリアン・メトーポンに手紙を書くために。
 隣で代行をしているはずのリアン・メトーポンにも書いておく。
「最終的な決断は領主のユリアン様でしょうけれども、リアン様にも出しておくといい気がするのですよね……」
 イノアの兄が生きていたころ、散々比べられていたためどこか卑屈なところがあると噂で聞いている。話を聞けば普通にできる人らしいけれども。
「もちろん、お兄様はあんなことにならければ、すごく素敵な殿方になっていたはずだもの」
 文武両道に秀で、優しい兄。
 想像の兄は年を取るけれども、記憶の兄は十四歳のまま。
 外を見た。
 暗い闇に街の明かりが浮かぶ。
「……早く書いてしまいましょう」
 イノアは微笑んだ。

 二つの街を使ったイベントが開催されることになった。
 イベントと言っても大がかりなことがあるわけではない。
 店は屋台を出し、有志が出し物をする。互いに今後も仲良くできるようにと。周囲の町や村の人も来られるように道の状況は注意しておくということ。
 ハンターたちにも目に留まるところに掲示が出される。
 よろしければ、一息つきませんか、と。

リプレイ本文

●朝
 町の中は平和的な非日常ということで活気に満ちている。
 直接または間接的に戦闘が続いていた。それが一段落ついたということで、人々も安堵して外に出る。
 二つの町は住民達は仲が悪いわけでもないし、行き来を普通にしていた。領主一家のあれこれや状況によっては交流が止まっても、一般の人は隣人と必要以上にもめることはない。
 今回の祭りは互いに気持ち良く、楽しめる。それにハンターだけでなく、近くの町や村でも来られるならばと声はかけてある。

 ピアレーチェ・ヴィヴァーチェ(ka4804)は気合いが入っている。
「楽しむぞーっ、オー! 盛り上げるぞーっ、オー!」
 街の中に出ると、元気よく、第一目的である丘に向かった。

 マリィア・バルデス(ka5848)は荷馬車にどこかで入手した猫足のバスタブを載せていた。どこで仕入れたのか分からないが、それを馬にひかせてやってくる。
「リオがみんなに仲良くしてほしいと気を使ったんだもの、私たちも少しくらい気を使ってもいいんじゃないかと思うのよ」
 川の精霊がいる場所に向かう。馬車を見ると子どもたちは何かしらと興味を引かれて集まってきた。

 ルベーノ・バルバライン(ka6752)は領主であるイノア・クリシスの下を訪れる。
 祭りに向かわないのではないかという危惧があるからだった。窓から飛び込んで怒られたこともあるため、さすがに玄関で取次を頼む。
 対応した騎士はルベーノを一瞬にらみつけたが、すぐに人当たりの良い対応で部屋に案内してくれたのだった。

 星野 ハナ(ka5852)は屋台を出すつもりであった。
「……何かメトーポン側の屋台の方が気合入っている気がしますぅ。あっちで屋台を出そうかと思ってましたけどぉ、こっちで出さないとバランス悪そうですぅ」
 クリシス側の川沿い、船着き場のところで屋台を出すことにした。荷車で売るのは、もしも怒られたときに移動販売に切り替えるためだという。

 ディーナ・フェルミ(ka5843)は食べ歩くためまず丘に登る。
「これは行楽日和なのー」
 屋台の準備中だった。なんとなくチェック後、丘の上に登る。眺めがいいそこは川の精霊のための社と大きな木がある。
「メトーポンのところに行く途中で、川に寄っていくの」
 本日の計画を立てた。

●教会へ
 サクラ・エルフリード(ka2598)はエクラ教会の手伝いのためにやってきた。本当は友人も一緒であったが、都合がつかなくなったようだった。
 サクラが到着すると、エクラ教の聖職者と信者の手伝いや子どもたちで教会内はにぎやかだった。
「ああ、いい匂いです」
 お菓子の販売があるというのだから、作っているのは今なのだ。
「販売は出来立て……いえ、むしろ、私も手伝えるということです!」
 お菓子なら刃物は使わないはずだし、指示に従って作れば問題が発生するとは思えない。そのため司祭を呼び止め問う。
「あの……作るの手伝えることありますか?」
「お菓子は冷えてから袋に詰めて販売します。あとは、合唱隊の公演の手伝いですね」
「歌……楽器で手伝えますか?」
「歌で参加されてもかまいませんよ? 子どもたちが一部は一般の人でも十分知っている歌を歌いますし」
 にこりと微笑む司祭にサクラは考える。
 歌は好きでも人前で歌うのは抵抗があった。合唱ならば一人ではないという気安さもあるかもしれない。
「どうしよう……」
「まだお時間はありますし。むしろ、なんでも手伝っていただけるだけで幸いです」
 司祭は神に祈る仕草をして立ち去った。
「そうですね、詰める手伝いくらいは……料理ではないですし……」
 サクラは手伝いがいる方に向かった。

 北谷王子 朝騎(ka5818)は初めての街を見渡して興味を引くものを探した。
「一番のメーンは精霊でちゅね」
 そのため川に向かう。川の精霊リオ、その他呼び方いっぱいあってなが、社の側にいる。社の側には町の人や小さな子もいた。
「賑やかでちゅ……あれはっ」
 川の精霊を見ると、肌も服も流水という異形とも異装ともとれる様子だ。
「そんなパンツで大丈夫でちゅか?」
 精霊は物に対して物は試しとばかりに行動に移したが、そのあと、記憶は途絶える。
 なぜなら、リオは何をされたか理解していないが、何か不穏な動作を察知し、反撃したのだった。

 ルベーノはイノアの執務室に入る。
「なんだ、まだ行かんのか?」
「いえ、ちょうど行こうとしたところです」
 にこりと微笑むと帽子をかぶった。
「なるほど、こちらの行動を読んでいたということか」
「そういうことにしておきます」
 イノアは意地悪そうに笑う。そのような顔をすると、歪虚であったとはいえ、兄にどこか似ている。
「さあ、行くつもりだったのならどこから行くか? 今回はニア……リオの声掛けによるクリシスとメトーポン合同の祭りなのだろう? 領主はどこから顔出しをするのか?」
「まずはリオさんのところに行き、そのあと、メトーポン側に伺います」
 ルベーノはその意見に否応はない。イノアが顔を出すことが重要であり、どのように向かうかを考えたのは彼女だ。行かないという選択をするならば言うことはあるが、行くというならば口だすことはない。
「では行こうか? お望みなら今回も窓から飛ぶか?」
「それは悪目立ちです! 普通に、玄関から出て歩いていきます」
 イノアは顔を真っ赤にして拒否した。
「残念だ。時間がないといって急ぐなら背負っていこうかと……」
「それはもっといりません!」
 激しく拒否をしてきた。必死そうな顔を見て、ルベーノは呵々大笑した。
 ふてくされた顔を見て、思わず、帽子の上から撫でた。

 丘の上にあるリオの分社を建設主のピアレーチェは掃除する。
「せっかくのお祭りだしね、きれいにしておこう」
 川の水があれば来られるらしいが、丘はなかなか難しいようだった。いつか来てもらいたい。
「景色はいいし……うっ、おなかが空いてきた!」
 ピアレーチェは掃除を終えると屋台に向かった。
 その屋台ではディーナが食べ歩きをしていた。持っていけそうなものは持っていき、川沿いで食べるつもりだった。
「それにしても、焼き菓子とかパンとかが多いの」
 理由は不明でも、様々な種類があり、美味しいから構わない。
「そろそろ、川に行くの」
 ディーナは丘を下りていく。持ち帰り以外屋台で販売の物すべて胃袋に収めた。

●川の側
 リオはぷりぷり怒っていた。正しくは困惑だったかもしれない。
 そこに荷馬車を引いたマリィアがやってきた。
「リオ、どうかしたの?」
「あー、こう?」
「え?」
 リオは動作でよくわからないことを告げる。状況を見ていた人が、何が起こったか話してくれた。
「スカート……まくれるの?」
 疑問に対して、皆首を傾げた。
「それは、そうと、この前は木の樽で運んじゃったでしょ? せっかくリオが企画してくれたお祭りだもの、これを神輿代わりにリオがロ由豊の街を練り歩ければ、町のみんながもっと喜ぶと思うのよ」
 リオは手をポンとたたく。
「それは考えつきませんでした」
 答えたのはリオではなくルベーノと来たイノアだった。
「川から離れられないのは水との縁だし、この水を入れておけば、町を見て回ることはできるわ」
 水を入れるのは町の人たちが楽しんでやってくれそうだ。
 主催者ということだけでなく、祭りとなると精霊のところに人が集まる。クリシス側の人たちは慣れているけれども、メトーポン側の人はなかなか来る機会がないため、このタイミングで見に来る。話すということはなかなかできずとも、ひとまずここにいる必要はありそうだった。
「時間はあるもの」
 マリィアはのんびりとリオが中心にいる情景を眺めていた。

 人がたくさん集まっている。
 ハナは腕まくりをする。こちらでも商機はあるのだ。荷車に「精霊祭り」という幟を立てる。
 第一声の前に、社にいるリオに声をかけておいた。
「リオ様、これをどうぞ」
 クッキーを一通り入れたものを差し出した。
「おーさかなー」
「そうですぅ、リオ様が好きな魚の形をしたクッキーですぅ」
「ほー」
 袋を開けて食べてみている。流水であるため持った瞬間湿気そうだが、見ている分にはわからなかった。
「へー」
「どうですぅ?」
「うん」
 よくわからなかったが、機嫌はよさそうだった。
「あちらで販売するのですぅ」
「うん」
 とりあえず、リオ自体は却下しなかったし、周りで止める人もいなかった。
 そのあと、ハナは第一声を上げる。
「精霊祭りー、リオさまが大好きなお魚のクッキーいかがですかぁ。リオさまのお友達の魚さんへの餌もありますよぅ」
 子どもを中心に人が来る。
「精霊様が好きなの?」
「はいですぅ」
 クッキーは魚の形をした型抜きクッキーであり、バター、抹茶、チョコ味を用意していた。魚用は小さな練餌、小麦粉だんごある。
 なお、リオが大好き、がどこにかかっているかは確信犯である。
「お魚さんにあげてもいいの?」
「こっちはいいですぅ」
 子どもが食いついたところ、親は祭りということで許可が出た。その子どもは自分用と魚用を買ってもらった。
「わーい」
 子どもが早速、川で餌を撒く。魚影が近づいてきたのを見て、より一層歓声が上がる。
 魚の餌もクッキーも適度に売れていくのだった。

 ディーナはちょうど賑やかな時にやってきた。
 リオに向かって行くが、餌をもらってビチビチはねる魚たちが視界に入る。
「リオちゃん、遊びに来たの、魚料理……うわっぷ」
 手に持っているサンドイッチや菓子は守ったが、魚たちから水をかぶらされた。
「イノアさまもいるの」
 イノアは船着き場に向かおうとしていたが足を止める。
「気になっていたから丁度良かったの。最近は邪神戦争への対応が忙しくてなかなか安全なところに行く暇がなかったから」
 それを聞くとイノアは深々と頭を下げる。
「情勢はハンターたちから聞いていましたが……わたくしたちなどただ日常生活を送るだけで……」
「そうでもないだろう。元領主や隣の領主は歪虚対応に追われている。ここだって何があるかわからない。適材適所だ」
 ルベーノがイノアに指摘した。
「あちこち大変なのー。安全な所があることは重要なのー。こうして、色々できるのー」
 ディーナは屈託ない笑顔を向けた。
「だから、今日はここでのんびりするのー。これを食べたら、次はあっちの屋台を制覇するの」
「では、わたくしたちはあちらにうかがってきますので、またお会いするかもしれませんね」
「そうなの!」
 イノアが立ち去るとリオが来た。
「みんながお社のことも気にかけてくれているみたいだし……そういえばお屋敷跡のお社も行ってみた? もうすぐ七夕だし、そういうお祭りもあるといいと思うの」
 提案を受けてリオは首をかしげる。
「たーな?」
「そうなの。七夕は星を見る行事だけど、川も関わるの」
「なーるほど」
 リオは何か考えるようなしぐさをした。そして、ディーナが食事に入ったところで、離れた。
 ディーナは川べりに座り、足をプラプラさせる。魚影が見えるが、何か事件が起こることもなかった。
 食べ終わった後、ディーナもメトーポンの街に向かうことにした。

 エクラ教会の礼拝堂に子どもたちの澄んだ声が響く。
 サクラは楽器の演奏で華を添えていた。
 演奏の順番を知っているし、司祭にも話を聞いていたため、歌い手を募り、みんなで楽しくというところがあるのは知っている。演奏しながらも悩んでいた。
「う。人前で歌うのは苦手なのですが、大勢の中の一人なら目立たないしいいですかね……」
 そのタイミングになったとき、せっかくなので合唱隊の列に入る。観客がいるのは否応なく目に入る。サクラはは緊張してきた。
 合唱隊や参加者それだけでなく観客も含めての大合唱になる。そうなってくると緊張は消える。一人ではない。だから、楽しく歌えた。
 礼拝堂でピアレーチェは歌を聞く。ふと口元がほころぶ。
 ここで歌うことが好きだったものがここで滅びんだ。歪虚だから倒す必要はあったとはいえ、悼む気持ちは別である。
 歌が終わるころ、片隅で、プエル(kz0127)の冥福を祈った。

●精霊とともに
 ピアレーチェが川べりに行くと、事件が起こっていた。
「リオちゃんがいない!?」
「先ほど、山車状態で出て行きましたよぅ」
 驚いているところにハナが状況を教えてくれた。
「えー。まあ、仕方がないよね。あとで会えばいいか。お魚は元気かな」
 川を覗くと、子どもたちが楽しんで撒く餌につられてあっちこっちに泳いでいた。
「すっごく元気だ」
 飛んでくる餌をジャンプして取る個体もいるくらいだった。
「あっちの町見てこよう」
 ピアレーチェはメトーポン側のメーン会場ともいえるところにむかったのだった。

 ルベーノはイノアと隣町に行った。建物の様式などは同じだが、どこか違う。
「精霊があちらに住んでいるということは町としてはクリシスが先か」
「はい、そうです。こちらの方が交通の便などがよいので、発展したんです」
 イノアは言う。
「リアン殿がどこにいるか……ですが……」
「挨拶をしたいというわけだな」
「はい」
 領主がいるとしたらメーンの会場か屋敷だと目星をつけて歩む。
 会場に着くと、貴人がいるようだった。
 近づくと、騎士を見ると領主家に仕える側近だと分かる。互いにやり取りをする際見ることがあるからわかるのだった。
「わざわざ、イノア様がいらっしゃるとは」
「せっかくですので、ご挨拶はいたしたいと思いました。リアン殿はいらっしゃるのですよね?」
 その席で人が動く。体格のいい父親やひょろっと高い弟に比べると平均的な外見のリアン・メトーポンが進み出る。表情が固いが、できる限りの礼儀正しい行動をとろうとしていることは、ルベーノにも分かった。
「本来なら、父がここにいるべきですが……」
「いたし方がありませんわ。リアン殿もユリアン様も、リオ様の言葉に賛同してくだりありがとうございます。むろん、わたくしが礼を述べるのもおかしなことですけれど」
「それはそうだな。川を挟んでこの町もある。なのに、私たちの方が恩恵を受けないのはおかしい」
「恩恵はあるのかわかりませんが、怒りは買いました」
「そうか……」
 リアンは何か気づいたらしく黙った。
「あ……私もそちらにうかがってみたいのだが……」
「ぜひ」
 いずれは領主になるだろうリアンとの対面は意義があるはずだった。
 ルベーノは静かにそれを見守っていた。年齢的にイノアの兄と同じくらいなため、比べ易い。
「さて、何か食べて帰るか?」
「そうですね。舞台も見てみたいです」
 その時、年相応の目の輝きがあった。

 ディーナは川を渡ると、そこにある屋台を覗く。そのあと、メトーポン側のメーン会場に向かった。近づくにつれて音楽が聞こえる。
 クリシス側の街との作りの違いがよくわかる。ここまで広い広場はあちらにはない。
「丘がすぐにあるの」
 建物があるためあまり見えないが、丘の上の木が少し見えた。
「あっちはのんびり、こっちはわいわい……すごく違うの。そして、食べることには変わりがないの」
 ディーナはうきうきと片っ端から店を覗き、飲食したいものを購入していった。

 ピアレーチェはにぎやかさに驚きつつ、店を回る。
 ふいに舞台を見る歓声と違う声が沸き上がった。そちらを見ると、水に浸かったリオだった。
「あ、リオちゃん!」
 声をかけたところで人だかりで見えない。
「そうだよね、あっちは結構自由にあってるけど、こっちだとなかなか会わないんだね」
 隣町だから会えそうだが、日常生活を送っているとなかなか行く余裕はないと感じた。
「夕方ならゆっくり話せるかな?」
 混乱や騒ぎがあるなら対応するが、特に問題ないと感じて、ピアレーチェは自分がしたいことをするのだった。すなわち、食べ歩くことだった。

 マリィアに連れられてリオは町を行く。
「ん? ……来られるじゃ」
 リオは気付いた。町の中はともかく、川沿いなどは行こうと思えば行けるということに。
「どうしたのリオ?」
「あー、うん」
 マリィアの好意を考えると、それは言えなかった。
「揺れたりしません?」
「じょーぶ」
 リオはマリィアの頭を撫でた。
「え?」
「いいこ」
 マリィアは目を丸くする。マリィアからすれば、リオは外見上いたいけな少女なのだ。
(考えてみれば、精霊の年齢なんてわからないし、私の方が子供なのかもしれないわね)
 なんとも言えない気持ちになったが、リオが喜んでくれているのはわかった。
「ありがとうございます」
「どーいたしましーて」
 マリィアは笑う。
「え? おかしー?」
「おかしいけれどリオがおかしいのではないのよ。状況が、私の考えていたことが。ふふっ」
「そう?」
「ええ。さ、行きましょう」
 メトーポンのところでは、見世物みたいな気もした。
 しかし、精霊を見たことがないから仕方がないのだろうし、別に悪さをしてくるわけではない。これで、互いに仲良くなればいいのだ。
 会場を回ると、リアンにも会った。非常に驚いていたが、丁寧に、ちょっと慇懃無礼に、今回のことをリオに礼を述べていた。
 それに対して、リオは頭を撫でてあげているのだった。それを見た側近が驚き、リアンはどうしていいかわからない表情になる。
「精霊様の愛情表現だと思っていいわよ」
 マリィアは伝えておいた。
 それから、いつもの社のように戻る。丘の上に行くにはちょっと時間もかかりそうだった。
 リオは戻ったところでマリィアをねぎらって、また頭を撫でたのだった。

●花火
 花火が始まるころ、リオは川の縁に座る。その横にディーナが座り、反対側にはピアレーチェが座っている。
「リオちゃん、二つの町一周コースはどうだったの?」
 ディーナが不意に問う。
「おもしろかたー」
「良かったわ」
 マリィアが微笑む。
「最後のクッキーどうですぅ」
 ハナは店仕舞いしながら問う。リオがそれを受け取り、食べ始めた。
 朝騎が通り過ぎたが、幸いリオは気付かなかった。
「そうだ、この荷車、イノアに預けようと思うの。今後もリオの移動に使ってちょうだい」
「ですが、これはそれなりの費用がかかっていますよね、おいそれといただくわけにいは……」
 荷車と風呂となるとある程度値段はかかっている。イノアはもらえないから費用は払うと言い始める。
 そこで押し問答していると花火が始まった。
「よーし、私も参加するよー。【ワンダーフラッシュ】を使って! 紋章も見たし、それを打ち上げるよー」
 ピアレーチェが立ち上がった。そして、空き地でぴかーと光るのだった。
 花火を見る。この辺りではあまりないことだった。
 イノアは見上げる。
「少しばかりクリシス側の活気が少ない気がするのだが……イノアは感じなかったか」
「これからです」
 ルベーノに問われてイノアは多くは語らないが、卑屈でもなく先を考えているのが分かる口調で言う。
「つまり、これからということだな」
「はい、わたくしたちはわたくしたちです」
「……なるほどな。まあ、あちらの活気の一部はリオに声をかけられて、メトーポン側は嬉しかったのだろうよ。領主代行の肝いりだろうしな」
 ルベーノは言う。
 空には花火が上がる。川に映り、美しさが増す。
「邪神戦争が終われば、これも毎年の風物詩だ。期待しているぞ」
「そうですね。皆さまに来てもらえるよう、わたくしたちも頑張ります」
 イノアはが微笑んだ。

 サクラは合唱隊の子らに引きずられるように、花火を見に来た。
 歌以外も手伝っていたサクラに対して、子どもなりに親近感やねぎらいがあるのかもしれないと感じる。
(この子たち元気です)
 教会を出たあと、丘に行って、この子らの家族と夕食をとり、花火に繰り出す。
(一日のんびりできました)
 人前で歌ったり、手伝ったりはしたが、緊張感はない。
「きれいですね」
 空を見上げると大輪の花が咲く。
 平和な時が続くように誰もが願う。

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  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • 本家・名付け親
    ピアレーチェ・ヴィヴァーチェ(ka4804
    ドワーフ|17才|女性|聖導士
  • 丘精霊の配偶者
    北谷王子 朝騎(ka5818
    人間(蒼)|16才|女性|符術師
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • 我が辞書に躊躇の文字なし
    ルベーノ・バルバライン(ka6752
    人間(紅)|26才|男性|格闘士

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