ゲスト
(ka0000)
【血断】アンナの訓練日誌F
マスター:のどか

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~4人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/06/28 07:30
- 完成日
- 2019/07/12 01:13
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
その日、アンナ=リーナ・エスト(kz0108)はヴァリオスのとある喫茶店を訪れていた。
ここ1年ほど人気のスイーツカフェは、某受付嬢の友人が好きそうだなと思いながらも、自分にはやや縁遠い場所だなとも感じていた。
甘い物が嫌いというわけではないが、テイクアウトして自分なりに茶葉を宛てながらつつきたいなと考えてしまう。
ではなぜここに居るかと言うと、呼び出されたからだ。手紙で。
その送り主“たち”は、女性客に囲まれた店内で居心地悪そうにしながらアンナの向かいに座っていた。
「お久しぶりですエスト曹ちょ……エストさん」
「アンナで良い。ピーノもバンも元気そうでなによりだ」
名前を呼ばれ、2人の青年は条件反射で姿勢を正す。
アンナが咳払いで諫めると、眼鏡の青年――ピーノは軍服の襟を正しながら、表情を隠すように咳払いを真似た。
その隣ではツンツン頭の青年――バンがこれまた軍服の襟を、こっちは緩めてながらぱたぱたと扇いでいた。
軍服の青年2人というのは洒落た店内ではなかなかのミスマッチ。
心なしか、周りのお客の目線を感じる。
「フィオーレは来ていないんだな。彼女の方が、こういうお店は興味がありそうだ」
「あいつは士官コースっすから、毎日勉強っすね」
「そうか。大変そうだが息災ならよかった」
「それなんですがアンナさん、実はバンとフィオーレ――」
「だーッ!? いらんことは言わんでいいッ!」
バンが無理やりピーノの口を押さえつけると、ピーノは降参とばかりに彼の腕をタップする。
周りからの視線がどこか色めいた。
「そういうこいつだって、わざわざヴァリオス中の口コミ集めまくって今日の場所決めたんすから」
「それは関係ない話だと思うが!?」
今度はピーノがバンの開いた襟元をぐっと掴み上げる。
周りの視線が熱を持つ。
これ以上は店の迷惑になりそうなので、アンナはなあなあに2人を宥めた。
「2人は歩兵部隊に配属されていたな。次の戦地は決まっているのか?」
「はい。グラウンド・ゼロです」
あまりにさらりと答えるものだから、アンナは面食らってしまった。
「連合軍に合流して、以降はあちらの指示に従います」
「兵階級の俺たちなら配属だけで1階級。帰還したらもう1階級の昇進。美味い任務だぜ」
合わせて2階級昇進分の任務――その意味するところを、アンナも察しがつかないわけではない。
「目先の昇進に釣られたわけではないよな」
「もちろん。この昇進が意味するところも理解しています」
「こんな時に剣を振らずにいられるかって感じっすよ」
彼らは自分の意思で向かうのだ。
それが分かっただけで心の底から安心できた。
「フィオーレはジェオルジ駐在軍の司令官補佐――てか雑用を命じられてるから、こっちに残るんすけどね」
「アンナさんも、ハンターとしてグラウンド・ゼロに?」
「ああ、そのつもりだ」
その言葉を聞いて、2人の青年兵士は何かを確かめ合うように見つめ合い、そして頷き合う。
再びアンナに向けられた視線は、ある種の覚悟を持ったものだった。
「アンナさん……軍に戻ってくる気はありませんか?」
突然の申し出に、アンナは思わず眉をひそめる。
「同盟軍は連合軍に合流する一方で、領土も守らなければなりません。人手が欲しい状況です。僕たちが評価しても失礼でしょうが、アンナさんなら申し分ない。だから――」
「――連れ戻してこい、と言われたんだな。大佐あたりに」
「かー! 流石に見抜かれてっか」
バンがぴしゃりと額を打った。
「まあ実際は『聞いてみて』くらいのものでしたが」
ピーノが謙遜するように頬を掻く。
アンナはそれを本心と受け止めておいて、はっきりと首を横に振った。
「悪いが、それはできない」
すると2人の表情に明らかに落胆の色が見えた。
「いえ……こちらこそ、すみません」
無理に苦笑するピーノの隣で、バンが眉間に皺を寄せながら目を伏せる。
やがてパッと表情を明るくすると、テーブルに乗り上がる勢いでアンナへ迫った。
「じゃあ、選別に訓練つけてくださいよ! なーんか最近甘っちょろくて、鍛えられてる気がしないんすよね」
「おい、いきなり何を……」
止めようとしたピーノの二の腕をバンが鋭く小突く。
意外と痛かったのかピーノは腕をおさえながら涙目を浮かべていた。
「そ、そうですね。アンナさんにも僕たちの成長をみせたいですし、手合わせして貰いたいです」
「それで選別になるのなら」
「もちのろんっすよ!」
バンがぐっと拳を握りしめ、鍛えられた力こぶをアピールした。
●
数日後、アンナはオフィスで何人かのハンターに声をかけ、せっかくだからと付き合ってもらうことにした。
だが実際に陸軍の訓練用グラウンドに着いてみると、そこに居たのは総勢20余名の青年兵士たちの姿だった。
「アンナさんに訓練付けて貰うって大佐に報告したら、じゃあ希望者を募って一緒に扱いて貰えって言われまして……」
ピーノが言うには、集まったのはすべて後日連合軍へと派兵される兵士たちとのこと。
もちろんこれで全員ではないが――普段の訓練とは違う何かが得られるのでは、と集まった向上心ある若者たちである。
「……助っ人を連れてきて良かった」
「軍の正式な依頼ってことになったので、報酬も出ますから」
なんとも言えない気分のまま、アンナは兵士たちの姿を見渡した。
笑顔で軽口を叩き合っている姿は、とても激戦地に向かう前とは思えない。
それが蛮勇ではなく、程よい自信と緊張を持ったものであることはひしひしと伝わって来た。
「そうそう、アンナさんに渡すものあったんすよ」
突然、バンが大きなアタッシュケースを抱えてやってくる。
アンナの前でそれを開くと、中には巨大な銃型魔導機械が入っていた。
「これは……」
軍にいたころ愛用の大型射杭機――パイルバンカー。
「まともに扱えるヤツがいないんで、とりあえず俺が借りてたんすけど馴染まなくって――返します」
「いや、備品だろう」
「訓練中に破壊、即廃棄したことにします!」
バンが過去最高に美しい敬礼で応える。
それを受けてアンナは、思わず噴き出したように笑みを浮かべていた。
「誉れ高い戦士諸君、並んでくれ!」
アンナはいつかの顔になって声を張る。
途端に兵士たちは縦横乱れなく整列し胸を張った。
「我々は今日の特別訓練を引き受けるハンターだ! 諸君にはこれから、我々の指示するメニューをこなしてもらう! 場合によっては普段の訓練よりも過酷で、凄惨なものであるかもしれない! 覚悟はできているか!」
「はい!」
気持ちの良い返事。
肌にピリピリと伝わるその覇気だけで、気持ちが幾重にも引き締まった。
「まず軽く20km! 汗と共に甘えを捨ててくるように!」
「はい!」
兵士たちは隊列を乱さぬまま、グラウンド周回へと駆けていく。
晴天の下、陸軍式ケイデンスコールが高らかに響いた。
その日、アンナ=リーナ・エスト(kz0108)はヴァリオスのとある喫茶店を訪れていた。
ここ1年ほど人気のスイーツカフェは、某受付嬢の友人が好きそうだなと思いながらも、自分にはやや縁遠い場所だなとも感じていた。
甘い物が嫌いというわけではないが、テイクアウトして自分なりに茶葉を宛てながらつつきたいなと考えてしまう。
ではなぜここに居るかと言うと、呼び出されたからだ。手紙で。
その送り主“たち”は、女性客に囲まれた店内で居心地悪そうにしながらアンナの向かいに座っていた。
「お久しぶりですエスト曹ちょ……エストさん」
「アンナで良い。ピーノもバンも元気そうでなによりだ」
名前を呼ばれ、2人の青年は条件反射で姿勢を正す。
アンナが咳払いで諫めると、眼鏡の青年――ピーノは軍服の襟を正しながら、表情を隠すように咳払いを真似た。
その隣ではツンツン頭の青年――バンがこれまた軍服の襟を、こっちは緩めてながらぱたぱたと扇いでいた。
軍服の青年2人というのは洒落た店内ではなかなかのミスマッチ。
心なしか、周りのお客の目線を感じる。
「フィオーレは来ていないんだな。彼女の方が、こういうお店は興味がありそうだ」
「あいつは士官コースっすから、毎日勉強っすね」
「そうか。大変そうだが息災ならよかった」
「それなんですがアンナさん、実はバンとフィオーレ――」
「だーッ!? いらんことは言わんでいいッ!」
バンが無理やりピーノの口を押さえつけると、ピーノは降参とばかりに彼の腕をタップする。
周りからの視線がどこか色めいた。
「そういうこいつだって、わざわざヴァリオス中の口コミ集めまくって今日の場所決めたんすから」
「それは関係ない話だと思うが!?」
今度はピーノがバンの開いた襟元をぐっと掴み上げる。
周りの視線が熱を持つ。
これ以上は店の迷惑になりそうなので、アンナはなあなあに2人を宥めた。
「2人は歩兵部隊に配属されていたな。次の戦地は決まっているのか?」
「はい。グラウンド・ゼロです」
あまりにさらりと答えるものだから、アンナは面食らってしまった。
「連合軍に合流して、以降はあちらの指示に従います」
「兵階級の俺たちなら配属だけで1階級。帰還したらもう1階級の昇進。美味い任務だぜ」
合わせて2階級昇進分の任務――その意味するところを、アンナも察しがつかないわけではない。
「目先の昇進に釣られたわけではないよな」
「もちろん。この昇進が意味するところも理解しています」
「こんな時に剣を振らずにいられるかって感じっすよ」
彼らは自分の意思で向かうのだ。
それが分かっただけで心の底から安心できた。
「フィオーレはジェオルジ駐在軍の司令官補佐――てか雑用を命じられてるから、こっちに残るんすけどね」
「アンナさんも、ハンターとしてグラウンド・ゼロに?」
「ああ、そのつもりだ」
その言葉を聞いて、2人の青年兵士は何かを確かめ合うように見つめ合い、そして頷き合う。
再びアンナに向けられた視線は、ある種の覚悟を持ったものだった。
「アンナさん……軍に戻ってくる気はありませんか?」
突然の申し出に、アンナは思わず眉をひそめる。
「同盟軍は連合軍に合流する一方で、領土も守らなければなりません。人手が欲しい状況です。僕たちが評価しても失礼でしょうが、アンナさんなら申し分ない。だから――」
「――連れ戻してこい、と言われたんだな。大佐あたりに」
「かー! 流石に見抜かれてっか」
バンがぴしゃりと額を打った。
「まあ実際は『聞いてみて』くらいのものでしたが」
ピーノが謙遜するように頬を掻く。
アンナはそれを本心と受け止めておいて、はっきりと首を横に振った。
「悪いが、それはできない」
すると2人の表情に明らかに落胆の色が見えた。
「いえ……こちらこそ、すみません」
無理に苦笑するピーノの隣で、バンが眉間に皺を寄せながら目を伏せる。
やがてパッと表情を明るくすると、テーブルに乗り上がる勢いでアンナへ迫った。
「じゃあ、選別に訓練つけてくださいよ! なーんか最近甘っちょろくて、鍛えられてる気がしないんすよね」
「おい、いきなり何を……」
止めようとしたピーノの二の腕をバンが鋭く小突く。
意外と痛かったのかピーノは腕をおさえながら涙目を浮かべていた。
「そ、そうですね。アンナさんにも僕たちの成長をみせたいですし、手合わせして貰いたいです」
「それで選別になるのなら」
「もちのろんっすよ!」
バンがぐっと拳を握りしめ、鍛えられた力こぶをアピールした。
●
数日後、アンナはオフィスで何人かのハンターに声をかけ、せっかくだからと付き合ってもらうことにした。
だが実際に陸軍の訓練用グラウンドに着いてみると、そこに居たのは総勢20余名の青年兵士たちの姿だった。
「アンナさんに訓練付けて貰うって大佐に報告したら、じゃあ希望者を募って一緒に扱いて貰えって言われまして……」
ピーノが言うには、集まったのはすべて後日連合軍へと派兵される兵士たちとのこと。
もちろんこれで全員ではないが――普段の訓練とは違う何かが得られるのでは、と集まった向上心ある若者たちである。
「……助っ人を連れてきて良かった」
「軍の正式な依頼ってことになったので、報酬も出ますから」
なんとも言えない気分のまま、アンナは兵士たちの姿を見渡した。
笑顔で軽口を叩き合っている姿は、とても激戦地に向かう前とは思えない。
それが蛮勇ではなく、程よい自信と緊張を持ったものであることはひしひしと伝わって来た。
「そうそう、アンナさんに渡すものあったんすよ」
突然、バンが大きなアタッシュケースを抱えてやってくる。
アンナの前でそれを開くと、中には巨大な銃型魔導機械が入っていた。
「これは……」
軍にいたころ愛用の大型射杭機――パイルバンカー。
「まともに扱えるヤツがいないんで、とりあえず俺が借りてたんすけど馴染まなくって――返します」
「いや、備品だろう」
「訓練中に破壊、即廃棄したことにします!」
バンが過去最高に美しい敬礼で応える。
それを受けてアンナは、思わず噴き出したように笑みを浮かべていた。
「誉れ高い戦士諸君、並んでくれ!」
アンナはいつかの顔になって声を張る。
途端に兵士たちは縦横乱れなく整列し胸を張った。
「我々は今日の特別訓練を引き受けるハンターだ! 諸君にはこれから、我々の指示するメニューをこなしてもらう! 場合によっては普段の訓練よりも過酷で、凄惨なものであるかもしれない! 覚悟はできているか!」
「はい!」
気持ちの良い返事。
肌にピリピリと伝わるその覇気だけで、気持ちが幾重にも引き締まった。
「まず軽く20km! 汗と共に甘えを捨ててくるように!」
「はい!」
兵士たちは隊列を乱さぬまま、グラウンド周回へと駆けていく。
晴天の下、陸軍式ケイデンスコールが高らかに響いた。
リプレイ本文
●
晴天の訓練場に、兵士たちの汗が光る。
丘を柵で囲った緑色のグラウンドには、彼らのケイデンスコールが響いていた。
「みんな頑張れなの~」
軍人たちに並走する形でママチャリにまたがるディーナ・フェルミ(ka5843)が声援を送っていた。
動力付きのタイプだが、なんだかんだ20km漕ぎ続けるというのはそれはそれで足腰の良い運動になる。
「甘えを捨ててこい、か。確かに必要にちげぇねぇ」
一方、ジャック・エルギン(ka1522)は集団のケツを持つ形で一緒に汗を流している。
自分も甘さを捨てていかなきゃな――と、何周か繰り返されたケイデンスコールを共になぞっていた。
「ふふっ、退役したとはいえまだまだ様になっているね」
グラウンドの片隅には、そんな彼らを見守るハンター達の姿もある。
隣でクスリと笑ったイルム=ローレ・エーレ(ka5113)に、アンナ=リーナ・エスト(kz0108)は苦笑しながら首を振った。
「そう茶化さないでくれ。軍にいたころとは違うんだ」
教えることもな――と、彼女は最後に言い添える。
慣らしの屈伸運動をしていたキヅカ・リク(ka0038)が、眩しそうに目を細めた。
「みんな気合が入ってるね。半端な訓練をしたら逆に怒られそうだ」
「毛頭ないくせに、よく言う」
「そりゃまあね」
アンナはやる気十分な彼を見て小さく鼻を鳴らす。
「コールをけん引している男性は一番の上官なのかな。中腹あたりで周りの子に目配せしている女の子も、いい刺激になってるみたいだね」
イルムは兵士たちの姿を遠巻きに見つめながら、1人1人の様子を吟味する。
それから、これからの訓練の内容を思って、めぼしい兵士の顔を瞳に刻み込んだ。
やがて既定の周回が終わって、兵士たちはハンターの前に再整列する。
みな大きく息を弾ませているが、疲れそのものは表情に浮かべていない。
「ふ~。確かにこりゃ、いい訓練になるわ」
ジャックは汗を拭いながら、やや大げさに息をついてみせた。
実際のところラスト数Kmはほぼ無心で走っていたような気がする。
「隣で見ていて魔導ママチャリの有用性を分かってもらえたと思うの。下手な馬以上の機動力が秘められているの」
「は、はい」
ママチャリについて熱く語るディーナに、兵士たちからはやや困惑気味の返事が返ってくる。
とはいえある程度の有用性は確かで、中には熱心に頷く顔もちらほら見受けられた。
「さてと……5年前にこの辺りにも現れた狂気は記憶にあるヤツもいると思う。一方でシェオル型の経験があるヤツはいるか?」
ジャックの問いに、ほんの数人が手を挙げる。
「シェオルで一番気を付けるべきなのは、人間に対する尋常じゃねぇ殺意だ。同盟近辺に現れた“嫉妬”なんかは殺すだけが目的じゃないヤツもいたのは知ってのとおりだろうが、奴らは違う。それこそ死に物狂いで、俺らを殺しに来る」
兵士たちが静かに息を飲んだ。
彼らが戦い慣れた“嫉妬”は、他の眷属と比べても異質な相手ではあった。
だがシェオルの厄介さはそれと全くの正反対。
慣れない相手というのはそれだけで士気に影響する。
「これから模擬戦式でやるわけだが俺、そしてイルムは、ヒット状況に関わらず攻撃の手を緩めることはしない。仮想シェオルになるってわけだ」
名前を呼ばれてイルムがひらひらと笑顔で手を振る。
「私はみんなの方について、味方として動きを見て回るの。とくに聖導士さんの動きを見て回りたいと思ってるの」
ディーナが兵士たちの後方から声を掛けて、その背中を押す。
訓練の大まかな流れを把握して、それぞれ準備のために散開した。
●
「さて、それじゃこっちも始めようか」
リクは分解されていた聖機剣を剣状に組み上げながら目の前の2人へ視線を投げる。
「遠慮しなくて良いっすからね」
鼻を鳴らすバンの後方で、ピーノはペイント弾の装填を確認する。
準備ができたのを見計らって、パイルを抱えたアンナが腰を落とした。
「はじめるぞ」
4人の気が交じり合って、どちらからともなく戦闘は開始した。
真っ先に動いたのはピーノ。
僅かな予備動作で照準をつけるとペイント弾を掃射する。
しかし出方を読んでいたリクがアンナの壁になるように盾剣を構えて立ちふさがった。
「流石に足を止めさせることはできないか……だけど」
ピーノの視線の先でバンがリクへ突貫する。
彼は盾剣を踏み台にして飛び越えると、そのまま後方のアンナへと剣を振りかぶった。
「行くぜおらぁ!」
マテリアルを纏った大剣が地面に叩きつけられ、めくれ上がった土ごと雑草が舞う。
悠々攻撃をかわしていたアンナは、パイルの銃口を彼へと目掛けた。
射出された杭をバンは半身開いて回避する。
リクが放ったデルタレイが2人の兵士をにそれぞれ襲い掛かるが、彼らはそれも危なげなく避けてみせた。
ピーノは光線を潜り抜けながら、マテリアルを身に纏い加速する。
あっという間にリクとの距離を詰めるとレイピアの鋭い連撃を放った。
難なく受け止めたリクだったが、相手はそのまま肉薄の距離を保ち続ける。
「ずいぶん思いきるようになったね?」
「機導師2人相手なら『当たらない』自信はありますから」
「言ってくれる……!」
咄嗟にリクが地面に突き立てた聖機剣からドーム状にまばゆいマテリアルが放出される。
「っ!?」
「うおっ!?」
バンとピーノが輝きに弾き飛ばされると、リクはすぐさま起動したポゼッションを解除した。
「思ってたより動けてて安心したよ、アンナさん」
「会わないところでなら戦闘依頼もこなしていたからな。もっとも“これ”のカンは今しがた取り戻してきたところだ」
「なるほど、それじゃあ――」
パイルを見やるアンナに、リクは納得したように頷く。
彼が機導術で盾剣を周囲に浮遊させ、アンナがその身に紫電を纏う。
「ここから先はマジで行こうか」
「望むところ」
対峙する2人の兵士は嫌な汗が頬を伝うのを感じていた。
●
広いフィールドの中で、光の刃が振われる。
鋼と光、2つの剣を構えたジャックを大勢の兵士たちがぐるりと隊列を組んで囲っていた。
集まった人数のおおよそ半数ずつ、順番に対シェオル戦のレクチャーを受けていく。
「グラウンド・ゼロじゃたった1匹がうろうろしてることなんてめったにねぇぞ! もっとかかって来い!」
「はい!」
後衛の兵士が魔導銃で牽制する中、前衛の兵士たちが剣や槍で一斉にかかる。
ジャックはそのすべてをあえて受け止めて、思わず自分で笑ってしまうくらい強引に2刀の刃を振り回した。
「さっき甘えは捨てたんだろ!? シェオルは俺たちだって1対1じゃまともに戦えねぇ!」
そのままアスラトゥーリの衝撃波までつなげて、中距離の兵士までも容赦なく狙い撃つ。
一時、隊列に大きな穴が開く。
しかし、超特急で駆け付けたディーナが要所に回復術をかけると、持ちこたえるくらいの壁が復活する。
「大規模戦闘なら、聖導士は余計なことしないで回復係一択だと思うの。ところで、ミレニアムを使える人はいるの……?」
ディーナがレクチャーのために連れている聖導士組からは誰一人手が挙がらない。
「そのレベルのスキルですと、下士官や兵階級の私たちではまだ……小隊長レベルになれば使える方もいるのですが。中隊長以上ならさらに」
「だとしたら、ますます仕事は回復一択なの」
言ってる傍からジャックに吹き飛ばされた前衛の兵士たちへ、一斉に回復スキルを乱れ撃つ。
「仕事を終えたら足を止めないこと。負傷者はあちこちにいるだろうし、次々駆けつけてあげるの。それと……」
強調するように、ディーナは間を置いて語った。
「聖導士は自分で自分の身を守るのも仕事なの。守られていたら本末転倒なの」
「は、はい、善処します」
幾分緊張した趣きで聖導士たちは頷く。
一方、もうひとりのシェオル役イルムは、暴れまわるジャックとは逆に伸びやかに訓練戦闘を楽しんでいた。
(さて、さっきの子たちは……と)
混戦の中でペイント弾を丁寧に躱しながら、ランニングの時に目をつけていた2人を探す。
真っ先に探した女の子の方は――なるほど聖導士。
だとしたら今回はディーナに任せておけばいいだろう。
とても残念だけれども。
(じゃあ……ボクの目標はあっちの猟撃士君の方だね)
ハンドサインで仲間たちに指示を送る男性士官に目をつけて、イルムは一気に足を速めた。
前衛の間を縫うようにしながら、中衛後方に陣取る彼の元へと迫る。
当然彼もそれに気づいてアサルトライフルで応戦。
周りの兵士たちもイルムを止めるべく立ちはだかる。
「慌てないのは流石だね。だけど、身に危険が迫れば指示どころではないよね」
舞踏のような身のこなしから放たれる剣閃乱舞。
士官は銃身を盾に何とか耐えてはいるが、周囲に指示を出すような余裕は流石にない。
連携が崩れたのを良いことに、ジャックが前衛の脆弱なところめがけて邁進する。
「反応が鈍くなったぞ! お前ら、背中に好きな女を抱えててもそんな戦いを続けるつもりか!?」
状況に振り回される中でさらに叱責の言葉が飛んで、兵士たちは歯を食いしばって吠えるように雄たけびを上げた。
「はいっ、すぐあそこの穴を回復するの! けが人は待ってくれないの!」
「はい!」
ディーナの指示が出るころには既に聖導士たちが動き出している。
頭で考えるより先に身体が動くようになってきたようだ。
ある程度練度が高まって来たようなところで、イルムが大きく両手を挙げる。
「よし、一旦ここまでにしようか! 休憩してからもう1回はじめから! あと、細かい部分を確認したい人はいつでも相談に来てね」
「はい!」
気持ちのいい返事に、こっちもなんだか気分が清々しくなってくる。
イルムはほほ笑んで額に光る汗をハンカチで拭った。
●
大剣のスイングを飛翔する盾剣が受け止める。
獣のようなバンの勢いにやや気圧されながら、リクは後続のアンナに叫んだ。
「ピーノを任せる!」
「わかった」
2人の横を抜けていくと、バンがその後を追おうとする。
しかしリクの機導砲が行く手を遮るように走って、その足を止めさせた。
迫りくるアンナに、ピーノは持ち前の俊敏さで応戦する。
彼女は増強された反応速度で追い縋ると、ついにパイルの銃口が彼を捉えた。
インパクト。
レイピアの柄で受け止めたピーノは衝撃で吹き飛ばされる。
「あいつ!」
アンナとの距離を詰めたバンが、ピーノが立て直すまでの時間を稼ぐ。
しかし背中からリクのデルタレイをもろに受けてしまい、彼は一度大きく距離を取った。
「僕が前に出る! サポートしてくれ!」
「ちっ、仕方ねーな……!」
先ほどリクとアンナがそうしたように、バンが大剣を盾にしてピーノを背に庇う。
「アンナさん、フォワード!」
「ああ」
バンの壁にアンナがぶちあたる。
大剣とパイルがぶつかり合い、鈍い金属音が響いた。
「受け止められるくらいにはなったんすよ……!」
バンが衝撃に耐えきってみせると、その背後からピーノが飛び出す。
アンナを捉える銃口。
だがその引き金が引かれるよりも前に、リクの機動砲が2人をまるごと飲み込んだ。
「ふぅ……奇襲は予見できないから奇襲っていうんだよ」
「なるほど……勉強になります」
地面でよろりと立ち上がって、ピーノは頬についた煤を払う。
そして不敵な笑みを浮かべると、バンと共に再び距離を取った。
「まだ動けるぜ。もういっちょ!」
「もちろん」
意気揚々と叫ぶバンにリクは快く頷き返す。
これくらいでヘタレて貰っては逆に困るというものだ。
●
空が赤く染まり始めて、その日の訓練は終了となった。
なんだかんだで朝からずっと動きっぱなしだった兵士もハンターも、流石にへばってよろよろと整列した。
アンナがひとり、涼しい顔で前に立つ。
「1日ご苦労だった。少しでも何かを掴んで帰ってもらえれば、私たちも来たかいがある」
「はい、ありがとうございます!」
兵士たちは疲れこそありつつ、声量だけは十二分に発揮して答えた。
「はは……流石にこういうところは負けるなぁ」
リクが苦笑する。
普段の訓練で叩きこまれているところもあるのだろうが、規律や指示に対して決して音をあげないのは「集団」である彼らならではの意志の強さなのだろう。
「聖導士のみんなは、みんなを支えられるよう頑張って下さいなの」
「強いお前らと一緒に戦えること、すげえ心強いぜ。あっちじゃよろしくな」
「はい!」
ディーナとジャックの激励に、兵士たちの気持ちも一層引き締まったようだった。
会は解散となって、兵士たちはそれぞれに撤収を始める。
その間、ハンター達の元に不本意ながら発起人となってしまったバンとピーノが改めてお礼にやってきた。
「お前らもずいぶん成長したなぁ」
「うん。あまり見ない間に、ちゃんと力を付けていたのは嬉しく思ったよ」
「ありがとうございます。それなりに死線は抜けてきましたからね」
労うジャックとイルムに、ピーノは謙遜するでなく、確かな自信をもって答える。
その様子を満足そうに眺めて、リクは思い出したように持ってきた荷物を漁った。
「そうそう、2人と……あとアンナさんにも、渡そうと思ってたものがあったんだ」
そう言って取り出したのはそれぞれに当てたアクセサリ。
どれも覚醒者として貴重な資材を使ったものだった。
「4年前――一緒に雑魔退治の競争をしたときからここまで一緒に成長してきた仲間だから、こんなとこでお別れなんてしないように」
「あー懐かしいっすね。まだクソガキだったころだ」
「今だって十分クソガキだろう?」
「んだと!?」
いがみ合う2人の姿がまだ子供だった彼らの姿に重なって、リクは思わず笑みを拭き溢す。
アンナの方は居たたまれない様子で頭を抱えていた。
「相変わらずだな……」
「変わらないって、場合によっては良いことだと思うの」
ディーナがクスリと笑う。
それに釣られるように、アンナも小さく笑みを浮かべた。
音頭を取るようにリクが拳を前に突き出す。
倣って、おのずと皆も拳を突き出した。
そして誓いを胸に、一斉に空高く突き上げる。
――世界を救って、またこの場所で会おう。
晴天の訓練場に、兵士たちの汗が光る。
丘を柵で囲った緑色のグラウンドには、彼らのケイデンスコールが響いていた。
「みんな頑張れなの~」
軍人たちに並走する形でママチャリにまたがるディーナ・フェルミ(ka5843)が声援を送っていた。
動力付きのタイプだが、なんだかんだ20km漕ぎ続けるというのはそれはそれで足腰の良い運動になる。
「甘えを捨ててこい、か。確かに必要にちげぇねぇ」
一方、ジャック・エルギン(ka1522)は集団のケツを持つ形で一緒に汗を流している。
自分も甘さを捨てていかなきゃな――と、何周か繰り返されたケイデンスコールを共になぞっていた。
「ふふっ、退役したとはいえまだまだ様になっているね」
グラウンドの片隅には、そんな彼らを見守るハンター達の姿もある。
隣でクスリと笑ったイルム=ローレ・エーレ(ka5113)に、アンナ=リーナ・エスト(kz0108)は苦笑しながら首を振った。
「そう茶化さないでくれ。軍にいたころとは違うんだ」
教えることもな――と、彼女は最後に言い添える。
慣らしの屈伸運動をしていたキヅカ・リク(ka0038)が、眩しそうに目を細めた。
「みんな気合が入ってるね。半端な訓練をしたら逆に怒られそうだ」
「毛頭ないくせに、よく言う」
「そりゃまあね」
アンナはやる気十分な彼を見て小さく鼻を鳴らす。
「コールをけん引している男性は一番の上官なのかな。中腹あたりで周りの子に目配せしている女の子も、いい刺激になってるみたいだね」
イルムは兵士たちの姿を遠巻きに見つめながら、1人1人の様子を吟味する。
それから、これからの訓練の内容を思って、めぼしい兵士の顔を瞳に刻み込んだ。
やがて既定の周回が終わって、兵士たちはハンターの前に再整列する。
みな大きく息を弾ませているが、疲れそのものは表情に浮かべていない。
「ふ~。確かにこりゃ、いい訓練になるわ」
ジャックは汗を拭いながら、やや大げさに息をついてみせた。
実際のところラスト数Kmはほぼ無心で走っていたような気がする。
「隣で見ていて魔導ママチャリの有用性を分かってもらえたと思うの。下手な馬以上の機動力が秘められているの」
「は、はい」
ママチャリについて熱く語るディーナに、兵士たちからはやや困惑気味の返事が返ってくる。
とはいえある程度の有用性は確かで、中には熱心に頷く顔もちらほら見受けられた。
「さてと……5年前にこの辺りにも現れた狂気は記憶にあるヤツもいると思う。一方でシェオル型の経験があるヤツはいるか?」
ジャックの問いに、ほんの数人が手を挙げる。
「シェオルで一番気を付けるべきなのは、人間に対する尋常じゃねぇ殺意だ。同盟近辺に現れた“嫉妬”なんかは殺すだけが目的じゃないヤツもいたのは知ってのとおりだろうが、奴らは違う。それこそ死に物狂いで、俺らを殺しに来る」
兵士たちが静かに息を飲んだ。
彼らが戦い慣れた“嫉妬”は、他の眷属と比べても異質な相手ではあった。
だがシェオルの厄介さはそれと全くの正反対。
慣れない相手というのはそれだけで士気に影響する。
「これから模擬戦式でやるわけだが俺、そしてイルムは、ヒット状況に関わらず攻撃の手を緩めることはしない。仮想シェオルになるってわけだ」
名前を呼ばれてイルムがひらひらと笑顔で手を振る。
「私はみんなの方について、味方として動きを見て回るの。とくに聖導士さんの動きを見て回りたいと思ってるの」
ディーナが兵士たちの後方から声を掛けて、その背中を押す。
訓練の大まかな流れを把握して、それぞれ準備のために散開した。
●
「さて、それじゃこっちも始めようか」
リクは分解されていた聖機剣を剣状に組み上げながら目の前の2人へ視線を投げる。
「遠慮しなくて良いっすからね」
鼻を鳴らすバンの後方で、ピーノはペイント弾の装填を確認する。
準備ができたのを見計らって、パイルを抱えたアンナが腰を落とした。
「はじめるぞ」
4人の気が交じり合って、どちらからともなく戦闘は開始した。
真っ先に動いたのはピーノ。
僅かな予備動作で照準をつけるとペイント弾を掃射する。
しかし出方を読んでいたリクがアンナの壁になるように盾剣を構えて立ちふさがった。
「流石に足を止めさせることはできないか……だけど」
ピーノの視線の先でバンがリクへ突貫する。
彼は盾剣を踏み台にして飛び越えると、そのまま後方のアンナへと剣を振りかぶった。
「行くぜおらぁ!」
マテリアルを纏った大剣が地面に叩きつけられ、めくれ上がった土ごと雑草が舞う。
悠々攻撃をかわしていたアンナは、パイルの銃口を彼へと目掛けた。
射出された杭をバンは半身開いて回避する。
リクが放ったデルタレイが2人の兵士をにそれぞれ襲い掛かるが、彼らはそれも危なげなく避けてみせた。
ピーノは光線を潜り抜けながら、マテリアルを身に纏い加速する。
あっという間にリクとの距離を詰めるとレイピアの鋭い連撃を放った。
難なく受け止めたリクだったが、相手はそのまま肉薄の距離を保ち続ける。
「ずいぶん思いきるようになったね?」
「機導師2人相手なら『当たらない』自信はありますから」
「言ってくれる……!」
咄嗟にリクが地面に突き立てた聖機剣からドーム状にまばゆいマテリアルが放出される。
「っ!?」
「うおっ!?」
バンとピーノが輝きに弾き飛ばされると、リクはすぐさま起動したポゼッションを解除した。
「思ってたより動けてて安心したよ、アンナさん」
「会わないところでなら戦闘依頼もこなしていたからな。もっとも“これ”のカンは今しがた取り戻してきたところだ」
「なるほど、それじゃあ――」
パイルを見やるアンナに、リクは納得したように頷く。
彼が機導術で盾剣を周囲に浮遊させ、アンナがその身に紫電を纏う。
「ここから先はマジで行こうか」
「望むところ」
対峙する2人の兵士は嫌な汗が頬を伝うのを感じていた。
●
広いフィールドの中で、光の刃が振われる。
鋼と光、2つの剣を構えたジャックを大勢の兵士たちがぐるりと隊列を組んで囲っていた。
集まった人数のおおよそ半数ずつ、順番に対シェオル戦のレクチャーを受けていく。
「グラウンド・ゼロじゃたった1匹がうろうろしてることなんてめったにねぇぞ! もっとかかって来い!」
「はい!」
後衛の兵士が魔導銃で牽制する中、前衛の兵士たちが剣や槍で一斉にかかる。
ジャックはそのすべてをあえて受け止めて、思わず自分で笑ってしまうくらい強引に2刀の刃を振り回した。
「さっき甘えは捨てたんだろ!? シェオルは俺たちだって1対1じゃまともに戦えねぇ!」
そのままアスラトゥーリの衝撃波までつなげて、中距離の兵士までも容赦なく狙い撃つ。
一時、隊列に大きな穴が開く。
しかし、超特急で駆け付けたディーナが要所に回復術をかけると、持ちこたえるくらいの壁が復活する。
「大規模戦闘なら、聖導士は余計なことしないで回復係一択だと思うの。ところで、ミレニアムを使える人はいるの……?」
ディーナがレクチャーのために連れている聖導士組からは誰一人手が挙がらない。
「そのレベルのスキルですと、下士官や兵階級の私たちではまだ……小隊長レベルになれば使える方もいるのですが。中隊長以上ならさらに」
「だとしたら、ますます仕事は回復一択なの」
言ってる傍からジャックに吹き飛ばされた前衛の兵士たちへ、一斉に回復スキルを乱れ撃つ。
「仕事を終えたら足を止めないこと。負傷者はあちこちにいるだろうし、次々駆けつけてあげるの。それと……」
強調するように、ディーナは間を置いて語った。
「聖導士は自分で自分の身を守るのも仕事なの。守られていたら本末転倒なの」
「は、はい、善処します」
幾分緊張した趣きで聖導士たちは頷く。
一方、もうひとりのシェオル役イルムは、暴れまわるジャックとは逆に伸びやかに訓練戦闘を楽しんでいた。
(さて、さっきの子たちは……と)
混戦の中でペイント弾を丁寧に躱しながら、ランニングの時に目をつけていた2人を探す。
真っ先に探した女の子の方は――なるほど聖導士。
だとしたら今回はディーナに任せておけばいいだろう。
とても残念だけれども。
(じゃあ……ボクの目標はあっちの猟撃士君の方だね)
ハンドサインで仲間たちに指示を送る男性士官に目をつけて、イルムは一気に足を速めた。
前衛の間を縫うようにしながら、中衛後方に陣取る彼の元へと迫る。
当然彼もそれに気づいてアサルトライフルで応戦。
周りの兵士たちもイルムを止めるべく立ちはだかる。
「慌てないのは流石だね。だけど、身に危険が迫れば指示どころではないよね」
舞踏のような身のこなしから放たれる剣閃乱舞。
士官は銃身を盾に何とか耐えてはいるが、周囲に指示を出すような余裕は流石にない。
連携が崩れたのを良いことに、ジャックが前衛の脆弱なところめがけて邁進する。
「反応が鈍くなったぞ! お前ら、背中に好きな女を抱えててもそんな戦いを続けるつもりか!?」
状況に振り回される中でさらに叱責の言葉が飛んで、兵士たちは歯を食いしばって吠えるように雄たけびを上げた。
「はいっ、すぐあそこの穴を回復するの! けが人は待ってくれないの!」
「はい!」
ディーナの指示が出るころには既に聖導士たちが動き出している。
頭で考えるより先に身体が動くようになってきたようだ。
ある程度練度が高まって来たようなところで、イルムが大きく両手を挙げる。
「よし、一旦ここまでにしようか! 休憩してからもう1回はじめから! あと、細かい部分を確認したい人はいつでも相談に来てね」
「はい!」
気持ちのいい返事に、こっちもなんだか気分が清々しくなってくる。
イルムはほほ笑んで額に光る汗をハンカチで拭った。
●
大剣のスイングを飛翔する盾剣が受け止める。
獣のようなバンの勢いにやや気圧されながら、リクは後続のアンナに叫んだ。
「ピーノを任せる!」
「わかった」
2人の横を抜けていくと、バンがその後を追おうとする。
しかしリクの機導砲が行く手を遮るように走って、その足を止めさせた。
迫りくるアンナに、ピーノは持ち前の俊敏さで応戦する。
彼女は増強された反応速度で追い縋ると、ついにパイルの銃口が彼を捉えた。
インパクト。
レイピアの柄で受け止めたピーノは衝撃で吹き飛ばされる。
「あいつ!」
アンナとの距離を詰めたバンが、ピーノが立て直すまでの時間を稼ぐ。
しかし背中からリクのデルタレイをもろに受けてしまい、彼は一度大きく距離を取った。
「僕が前に出る! サポートしてくれ!」
「ちっ、仕方ねーな……!」
先ほどリクとアンナがそうしたように、バンが大剣を盾にしてピーノを背に庇う。
「アンナさん、フォワード!」
「ああ」
バンの壁にアンナがぶちあたる。
大剣とパイルがぶつかり合い、鈍い金属音が響いた。
「受け止められるくらいにはなったんすよ……!」
バンが衝撃に耐えきってみせると、その背後からピーノが飛び出す。
アンナを捉える銃口。
だがその引き金が引かれるよりも前に、リクの機動砲が2人をまるごと飲み込んだ。
「ふぅ……奇襲は予見できないから奇襲っていうんだよ」
「なるほど……勉強になります」
地面でよろりと立ち上がって、ピーノは頬についた煤を払う。
そして不敵な笑みを浮かべると、バンと共に再び距離を取った。
「まだ動けるぜ。もういっちょ!」
「もちろん」
意気揚々と叫ぶバンにリクは快く頷き返す。
これくらいでヘタレて貰っては逆に困るというものだ。
●
空が赤く染まり始めて、その日の訓練は終了となった。
なんだかんだで朝からずっと動きっぱなしだった兵士もハンターも、流石にへばってよろよろと整列した。
アンナがひとり、涼しい顔で前に立つ。
「1日ご苦労だった。少しでも何かを掴んで帰ってもらえれば、私たちも来たかいがある」
「はい、ありがとうございます!」
兵士たちは疲れこそありつつ、声量だけは十二分に発揮して答えた。
「はは……流石にこういうところは負けるなぁ」
リクが苦笑する。
普段の訓練で叩きこまれているところもあるのだろうが、規律や指示に対して決して音をあげないのは「集団」である彼らならではの意志の強さなのだろう。
「聖導士のみんなは、みんなを支えられるよう頑張って下さいなの」
「強いお前らと一緒に戦えること、すげえ心強いぜ。あっちじゃよろしくな」
「はい!」
ディーナとジャックの激励に、兵士たちの気持ちも一層引き締まったようだった。
会は解散となって、兵士たちはそれぞれに撤収を始める。
その間、ハンター達の元に不本意ながら発起人となってしまったバンとピーノが改めてお礼にやってきた。
「お前らもずいぶん成長したなぁ」
「うん。あまり見ない間に、ちゃんと力を付けていたのは嬉しく思ったよ」
「ありがとうございます。それなりに死線は抜けてきましたからね」
労うジャックとイルムに、ピーノは謙遜するでなく、確かな自信をもって答える。
その様子を満足そうに眺めて、リクは思い出したように持ってきた荷物を漁った。
「そうそう、2人と……あとアンナさんにも、渡そうと思ってたものがあったんだ」
そう言って取り出したのはそれぞれに当てたアクセサリ。
どれも覚醒者として貴重な資材を使ったものだった。
「4年前――一緒に雑魔退治の競争をしたときからここまで一緒に成長してきた仲間だから、こんなとこでお別れなんてしないように」
「あー懐かしいっすね。まだクソガキだったころだ」
「今だって十分クソガキだろう?」
「んだと!?」
いがみ合う2人の姿がまだ子供だった彼らの姿に重なって、リクは思わず笑みを拭き溢す。
アンナの方は居たたまれない様子で頭を抱えていた。
「相変わらずだな……」
「変わらないって、場合によっては良いことだと思うの」
ディーナがクスリと笑う。
それに釣られるように、アンナも小さく笑みを浮かべた。
音頭を取るようにリクが拳を前に突き出す。
倣って、おのずと皆も拳を突き出した。
そして誓いを胸に、一斉に空高く突き上げる。
――世界を救って、またこの場所で会おう。
依頼結果
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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質問卓 鬼塚 陸(ka0038) 人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2019/06/25 11:52:29 |
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相談?雑談?卓 鬼塚 陸(ka0038) 人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2019/06/27 22:57:27 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/06/23 11:02:33 |