ゲスト
(ka0000)
幻獣モケモケ取引断固拒否っ!
マスター:旅硝子

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/06/26 09:00
- 完成日
- 2014/06/29 02:08
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ゾンネンシュトラール帝国の南部、帝国の中では暖かな気候の、人里離れて放牧も行われていない丘陵に、モケモケ達は住んでいる。
真っ直ぐな長毛が、ふわふわと風に舞う。全長30cmほどの真っ白い毛玉、というのが、彼らの第一印象だ。その中から覗く大きな瞳は意外と表情豊かだが、それを知る者は滅多にいない。
幻獣である彼らの生息地を知る者が、まずほとんどいないからだ。
しかし、迷子になった羊を追って偶然その場所を訪れたトレイクの村の青年が、モケモケの一団を発見し、大歓待を受けて帰ってきた。
普段は草原でころころ日の光を浴びて過ごす、のんびりとしていそうなモケモケ達は、実は好奇心旺盛だ。ころころ転がって近くに来て、足元にまとわり着いたり、体に登ろうとしたり、じぃっとつぶらな瞳で見つめてきたりと大忙し。
羊の方もモケモケ達に珍しがられたのか、まとわりつかれて困っていたところを保護できたので青年はほくほくだ。
ちなみに『モケモケ』と名づけたのは青年である。
村に帰って来た青年は、瞳を輝かせて村の人達にその日の出来事を語ったのだ。青年は、無類の可愛い物好きだった。
「遠くの丘に、なんかすっごく可愛い生き物がいたんだ! もふもふもこもこで、毛並みが綺麗だからモケモケって名前付けたらどうだろう!」
――そして、青年とモケモケ達にとっては不幸なことに。
偶然その村に泊まって、その話を聞いていた商人は、金儲けのためなら手段を選ばない男だったのである。
その深夜、武装した商人の護衛達に叩き起こされた村人は、大切な人を人質に取られて、涙ながらに商人の悪行に加担させられたのだった。
「は、ハンターの皆さん、助けてくださいっ!」
ハンターオフィスに駆け込んできた青年は、慌てた拍子に床に転がった木のコップを踏んですっ転んだ。
「あ、だ、大丈夫ですか? えっと、依頼でしたらこちらに……」
「はひ……お、お願いします急ぎなんです!」
慌てて立ち上がる青年の様子にただならぬものを感じて、受付の女性はすぐに動けるハンターがいないかとオフィスに目を走らせる。何人かのハンターが、何事かと顔を上げた。
けれどそんな様子も目に入らないようで、青年が必死に言い募る。
「このままだとモケモケ達が、カラーモケモケにされて売り飛ばされちゃうんです!」
……全員が、言葉の意味を理解するために静止した。
「からー……もけもけ?」
「僕がモケモケ達の居所をうっかり喋ってしまったばっかりに! うわあああああ!」
「お、落ち着いて! 落ち着いて! はい深呼吸! 最初から、1から話してください!」
もはや受付のお姉さんも落ち着いていないという事実を指摘する者は誰もいなかった。
なんだよモケモケって。
そう、みんなの心が一つになったからである。
「というわけで皆さんには、捕らわれたモケモケを帝都に輸送する商人を叩きのめして、モケモケ達を助けてもらいたいんです!」
受付のお姉さんがまとめた青年の話に、ハンター達が頷く。
モケモケがどんなに可愛い幻獣なのかは、青年からたっぷり聞いた。
そのモケモケを、村人達を武力で脅して捕まえさせて。
その真っ白な毛並みを染料でカラフルに染めさせて。
帝都で高く売ろうというのである!
ちなみに幻獣の無許可売買は犯罪だ!
「これが許せますかハンターの皆さん!」
「許せん!!」
頷きあうお姉さんとハンター達。
「トレイクの村からこのハンターオフィスまでは3日ほど、すでに商人は馬車で出発しているでしょう。ですから、皆さんには転送門を使用し、帝都から出発して下さい。トレイクの村と帝都を結ぶ街道のどこかで、馬車と出会えるはずです」
「OK」
「護衛は3人、おそらく剣使いの闇狩人と槍使いの疾影士、銃を持った機導師が1人ずつだろうとのことです。ハンターではなく商人が独自に雇った護衛のようなので戦いは必須でしょうが、数が少なく実力は1人当たり皆さんと同じくらいです! 上手くやれば、ハンターさん達の一部が戦っている間に別働隊がモケモケや商人に対応できるかもです!」
「了解」
「商人は一般人ですがモケモケを人質……モケ質に取るかもしれません!」
「なんたる邪悪!」
「ですが皆さんなら大丈夫と信じています!」
「応!」
「ではお願いします! あ、あとモケモケ達を保護したら、染められた毛を洗ってあげるといいと思います! 備品ですけど石鹸どうぞ!」
「ありがとうございます!」
「では、お願いします!」
「行ってきます!」
一致団結したハンター達は、転送門へと飛び込んで行った。
真っ直ぐな長毛が、ふわふわと風に舞う。全長30cmほどの真っ白い毛玉、というのが、彼らの第一印象だ。その中から覗く大きな瞳は意外と表情豊かだが、それを知る者は滅多にいない。
幻獣である彼らの生息地を知る者が、まずほとんどいないからだ。
しかし、迷子になった羊を追って偶然その場所を訪れたトレイクの村の青年が、モケモケの一団を発見し、大歓待を受けて帰ってきた。
普段は草原でころころ日の光を浴びて過ごす、のんびりとしていそうなモケモケ達は、実は好奇心旺盛だ。ころころ転がって近くに来て、足元にまとわり着いたり、体に登ろうとしたり、じぃっとつぶらな瞳で見つめてきたりと大忙し。
羊の方もモケモケ達に珍しがられたのか、まとわりつかれて困っていたところを保護できたので青年はほくほくだ。
ちなみに『モケモケ』と名づけたのは青年である。
村に帰って来た青年は、瞳を輝かせて村の人達にその日の出来事を語ったのだ。青年は、無類の可愛い物好きだった。
「遠くの丘に、なんかすっごく可愛い生き物がいたんだ! もふもふもこもこで、毛並みが綺麗だからモケモケって名前付けたらどうだろう!」
――そして、青年とモケモケ達にとっては不幸なことに。
偶然その村に泊まって、その話を聞いていた商人は、金儲けのためなら手段を選ばない男だったのである。
その深夜、武装した商人の護衛達に叩き起こされた村人は、大切な人を人質に取られて、涙ながらに商人の悪行に加担させられたのだった。
「は、ハンターの皆さん、助けてくださいっ!」
ハンターオフィスに駆け込んできた青年は、慌てた拍子に床に転がった木のコップを踏んですっ転んだ。
「あ、だ、大丈夫ですか? えっと、依頼でしたらこちらに……」
「はひ……お、お願いします急ぎなんです!」
慌てて立ち上がる青年の様子にただならぬものを感じて、受付の女性はすぐに動けるハンターがいないかとオフィスに目を走らせる。何人かのハンターが、何事かと顔を上げた。
けれどそんな様子も目に入らないようで、青年が必死に言い募る。
「このままだとモケモケ達が、カラーモケモケにされて売り飛ばされちゃうんです!」
……全員が、言葉の意味を理解するために静止した。
「からー……もけもけ?」
「僕がモケモケ達の居所をうっかり喋ってしまったばっかりに! うわあああああ!」
「お、落ち着いて! 落ち着いて! はい深呼吸! 最初から、1から話してください!」
もはや受付のお姉さんも落ち着いていないという事実を指摘する者は誰もいなかった。
なんだよモケモケって。
そう、みんなの心が一つになったからである。
「というわけで皆さんには、捕らわれたモケモケを帝都に輸送する商人を叩きのめして、モケモケ達を助けてもらいたいんです!」
受付のお姉さんがまとめた青年の話に、ハンター達が頷く。
モケモケがどんなに可愛い幻獣なのかは、青年からたっぷり聞いた。
そのモケモケを、村人達を武力で脅して捕まえさせて。
その真っ白な毛並みを染料でカラフルに染めさせて。
帝都で高く売ろうというのである!
ちなみに幻獣の無許可売買は犯罪だ!
「これが許せますかハンターの皆さん!」
「許せん!!」
頷きあうお姉さんとハンター達。
「トレイクの村からこのハンターオフィスまでは3日ほど、すでに商人は馬車で出発しているでしょう。ですから、皆さんには転送門を使用し、帝都から出発して下さい。トレイクの村と帝都を結ぶ街道のどこかで、馬車と出会えるはずです」
「OK」
「護衛は3人、おそらく剣使いの闇狩人と槍使いの疾影士、銃を持った機導師が1人ずつだろうとのことです。ハンターではなく商人が独自に雇った護衛のようなので戦いは必須でしょうが、数が少なく実力は1人当たり皆さんと同じくらいです! 上手くやれば、ハンターさん達の一部が戦っている間に別働隊がモケモケや商人に対応できるかもです!」
「了解」
「商人は一般人ですがモケモケを人質……モケ質に取るかもしれません!」
「なんたる邪悪!」
「ですが皆さんなら大丈夫と信じています!」
「応!」
「ではお願いします! あ、あとモケモケ達を保護したら、染められた毛を洗ってあげるといいと思います! 備品ですけど石鹸どうぞ!」
「ありがとうございます!」
「では、お願いします!」
「行ってきます!」
一致団結したハンター達は、転送門へと飛び込んで行った。
リプレイ本文
「モケモケ……?」
依頼の説明を聞いた時、白水 燈夜(ka0236)は呟いて首を傾げたものである。
その語感に惹かれたのか、依頼を請けたハンター達は、馬車が通る森を訪れていた。
「もけもけさんを返してもらいます、です……せーが? これで良いのです?」
ピロー・クラースヌィ(ka1435)と一緒に道をしっかり塞ぐように倒木の位置を調整し、氷蒼 雪月花(ka0235)が高嶺 瀞牙(ka0250)に声をかける。
「おう、いい感じだな! んじゃ、こっちにこの石を置いて……」
「もう少し、そちらの方が馬車を邪魔できるかもしれませんね」
「じゃあ、こっちに」
瀞牙が燈夜と共に運んできた石を、少し離れたところから全体を見ていたこなゆき(ka0960)の案内ですとんと落とす。
ふ、とこなゆきが息を吐いた。その表情は、ひどく冷静に見える。
けれどその心に息づくのは、かえってその表情を硬いものにさせているのは、モケモケと村人達への非道に対する激しい怒り。
(ああ、今なら躊躇いもせずにばっさりやってしまえそうですよ)
薙刀を持つ手が筋が浮かぶほど強く握られ、唇が軽く弧を描く。微笑の奥で、金の瞳に炎の如く怒りが揺れる。
「さーってと。脅しすかして盗んで売って……そんなん商売人のすることちゃうで」
ぱしん、とイブリース・ヴァルフェ(ka2327)が片掌に拳を叩き付ける。身を隠すために集めておいた木の枝は、しっかりと潜伏班の役に立ってくれそうだ。
「ちょいと懲らしめてやらんとあかんよな?」
「なんにせよ幻獣の密、猟? は犯罪だよな。手厚く保護してあげよう」
「せやね! モケモケ救出、あと悪党はオシオキや!」
威勢よく笑って木の枝を手に取るイブリースに頷いて、燈夜は待ち伏せのために藪の陰に隠れる。そろそろ、馬車がやって来てもおかしくない頃だ。
「モケモケをもふも……じゃなくて解放するために、皆で頑張りましょう」
ピローが思わず本音を言いそうになって、慌てて訂正する。
実際彼女の思いはモケモケをもふもふしたいに尽きるのだが。
そのためにはモケモケを助けて、悪徳商人をぶっ飛ばす!
つまりやる気は十分だ!
「悪徳商人、許すまじ!」
その言葉にあるいは拳を突き上げ、あるいは力強く頷き、決意を固める一同だった。
馬車の揺れる音に、ハンター達の心が引き締まる。燈夜とイブリース、そしてピローは姿勢を低くして様子を見守り、こなゆきと雪月花、瀞牙は、ちらりと視線を交わし合い、目で頷き合ってから馬車に向かって振り向いた。
「おい、危ないぞっ!」
御者台で手綱を握っていた男が、馬車の速度をやや落としながら大声を上げる。
けれどそれに負けないよう、雪月花が道をどかぬまま声を上げた。
「ヴォイド居るの、です。気を付けてください、です」
「あぁ!? ヴォイド!?」
慌てた様子で男が馬車を止める。剣を腰に差しているから、恐らくは彼が闘狩人だろう。
「どうしたの?」
「ヴォイドって言ったか?」
馬車の荷台から、男女2人が顔を出す。さらに馬車の中から、かんしゃくじみた怒鳴り声が聞こえた。
「おい、勝手に馬車を止めるな! 今日中には帝都に……」
「なんかヴォイドですってよ?」
「はぁ!?」
闘狩人が後ろに向かって言うと、叫びが一瞬押し黙る。その後も何かもごもごと聞こえたが、護衛達は気にしないことにしたらしい。
「で、ヴォイドって? 数は?」
「小型だが結構な数だ、ありゃ馬車を飛ばしても数に呑まれて捕まっちまうな」
「厄介だなー……」
馬車からひらりと飛び降りて、銃を持った機導師らしき女が肩を竦める。それにこなゆきは、安心させるようにふわりと微笑んで。
「ご安心ください、仲間達が既に討伐を開始しています。私達は新人で、危ない目に遭う方が出ないように、ここで注意する役目なのです」
(もちろん嘘ですけど)
心の中は敵意に満ち溢れている彼女だが、普段は戦いを好むわけではないのだ。
ただ、何かを守るためにのみ、力を振るう。今回は、モケモケ達と村の人の心を守るために。
――顔を覗かせていたもう1人は、馬車から出てこない。
だが、彼と商人以上の人間は、もういないようだ。そこまで確認して燈夜は左右に視線を送る。イブリースとピローが、視線を受けて素早く頷いた。
その間にも、雪月花と瀞牙の援護を受けて、こなゆきが弁舌を揮う。
「其方の護衛の方々……お手伝い頂ければ早く片が付くと思うのですけれど如何でしょう?」
「えー、その間にこっちにヴォイド来たら困るし……」
「もちろん報酬もお出しできます」
「本当っ!?」
興味を持ったらしい護衛2人に、馬車の中からまた怒鳴り声。
「駄目だ駄目だ、ワシを置いていくんじゃない! ワシと、ワシの一財産をな!」
「ちぇー」
上手く決まれば引き離せたのになぁ、と瀞牙と雪月花は視線を合わせ、肩を竦めて。
「ご主人の意向でしたら、致し方ありませんよね」
――人の良さそうな笑顔を深くしたこなゆきは、計略の不発よりもモケモケを『ワシの一財産』と言った商人への怒りを深めたようであったが。
けれど、商人や護衛の注意が一気に前に向いたのは、最高の好機だった。
さっと伸ばした燈夜の杖先に、マテリアルの輝きが宿る!
「えっ……な、何だ!?」
馬車のすぐ後方で弾けた輝きに、疾影士が素早く馬車から下りて戦闘態勢を取る。御者なき馬がその衝撃に驚き、浮足立ったところにピローが駆けた。
「何事っ!?」
慌てて馬車の後ろへと意識を向けた護衛達が、また前へと向き直った時にはもう遅い。
ピローのナイフの一閃で、手綱を切られた一頭の馬がぱしんと尻を叩かれ走り出す。もちろん、馬車を置いて。
「あああああ、ワシの馬が! 貴様ら、何をする! ええい止めろ無能共!」
「ちっ!」
商人の罵倒にか、それともハンター達の手際にか。
舌打ちしながら闘狩人が、さらにもう一頭の手綱を断とうとしたピローの進路を塞ぐ。けれど彼を囲むように、瀞牙と雪月花が息を合わせて武器を構えた。
ふわり、と雪月花が蒼の霧を纏ったのと、両手の甲に緑と紫の陰陽太極図を露わにし、手に紫を、足に緑を纏った瀞牙が深く踏み込んだのは同時。
普段とは違う金に輝く雪月花の瞳が、瀞牙の緑の瞳と合った次の瞬間、ロッドと剣の一撃をしたたかに受けた闘狩人は、ぐっと空気を吐いて体をくの字に曲げていた。
「ったく、不意打ちやめてよねっ……!」
闘狩人を援護すべく、機導師が銃の引き金を引く。トン、と軽く雪月花の肩を押して距離を離した瀞牙が、剣を斜めにして銃弾を軽く逸らして傷を最小限にとどめる。
そして機導師の視界は、一瞬で横転した。
薙刀の背を使い、こなゆきがその脚を薙いだのだ。
「抵抗しないでくださいませんか?」
「ひぃっ……」
ふわりと手足、そして狐の耳と尾の形に白いオーラを揺らめかせたこなゆきが、薙刀を喉元に突きつける。
銀狐を思わせる姿と堂々とした態度は、銃を落とさぬまでも機導師に息を呑ませるに十分であった。
その間に、ピローが素早く前線を離脱する。お願いします、と目で伝えれば、仲間達の頷きが返ってくる。
す、と馬車の前に屈んで、ピローが馬車の中の様子を伺う。――死闘が、繰り広げられていた。
「ええい、そのモケモケを渡せ! これはワシの財産だ!」
「何が財産や! 野生の幻獣を売り飛ばすんは犯罪やで! は・ん・ざ・いっ!!」
しっかりと握りしめたマテリアルデバイスから、一条の光が放たれ一瞬馬車の中を輝かせる。
「っとぉ!?」
輝きの主、イブリースに掴みかかろうとしていた商人は、慌ててまた何歩も後ろに下がる。イブリースが威嚇になりかつ本人には当たらないよう丁寧に狙いを調整しているのだが、覚醒者ならぬ商人には知る由もない。
「くそっ! 商売の邪魔しやがって!」
何とかイブリースの横をすり抜けようとする商人。再び弾ける閃光。
「ま、おとなしくしといたら帝国軍に突き出すだけで許しといたるわ」
しっかりと腕を広げてモケモケ達の檻を守りながら、イブリースはきっと商人を睨む。
「うちはあんまり気の長いほうや無いから、さっさと諦めた方が賢明やろうなー」
「くっ! おい、お前達! そんな奴らに関わってないで、ワシと財産を守りに来んか!」
商人の叫びに、機導師を助けに行こうとしていた疾影士が慌てて振り向く――瞬間、事態が一気に動いた。
疾影士の足元を、咄嗟にこなゆきの薙刀が掬い上げる。その間に動こうとした機導師には、瀞牙がしっかりと剣先を突き付けていた。既にかなりの傷を負って動きの鈍った闘狩人は、雪月花がロッドに強くマテリアルの力を込めながら、上手くあしらっている。
疾影士が、無様に転ぶ。そして一瞬、馬車を轟音が襲った。
雪の幻影が轟音を立てたロッドの周りにちらつく。すっとピローの身体から、大きな力を彼女に与えたマテリアルの加護が抜ける。
そして馬車の中では、音の源を探した商人に、燈夜が一気に距離を詰め――がし、とその太い首に、腕を回した。
「ぐうっ!」
呻き声を上げた商人に、燈夜がロープを回す。馬車の側面から前に回って身軽に乗り込んだピローが、その先端を受け取って商人の身体に巻き付ける。
「ひいぃぃぃ! 助けてくれぇ!」
情けない声を上げる商人をぐるぐる巻きにし、馬車の外へと引きずり出す。
それを確かめた瀞牙が、大声を上げた。
「さぁ、お前たちの雇い主は捕まえた……大人しくしないと、幻獣取引に加担した罪が重くなるぜ?」
一旦武器を止め、けれど油断なく構えて、ハンター達は護衛の3人を見渡す。
目を見合わせた後、3人は武器を地面に捨て、両手を上げて降参の意を示した。
「良かった……」
馬車の中を覗き込み、モケモケ達が詰め込まれてはいるが無事なのを確認して、ほうとこなゆきが息を吐く。ようやく、彼女本来の柔らかな笑みが現れた。
雪月花とピローが協力して、敵味方全員の傷を癒してから。
「よし、ちゃっちゃと帝国の人に預けちゃおうぜ」
まずは馬車を走らせて、そのまま最寄の帝国軍詰所に向かって。
「あー、えっと、幻獣の密売? そりゃいけませんねぇ」
「はい、いけないの、です。どぞどぞ、です」
兵士達に両脇を抑えられ、商人は無事に逮捕されていった。
というわけで、面倒事は終わり。
「驚かせてしまってごめんなさい、モケモケ」
ピローが馬車で大きな音を立てたことに謝ると、気にしてないよと言うようにモケモケ達はぴょこんと飛んで彼女へとじゃれついた。
檻から解放されて熱心にまとわりついてくるカラーモケモケ達を連れて彼らの故郷に戻って来たハンター達は、泉のほとりで彼らを真っ白モケモケに戻すべく石鹸を手に取った。
「んー、ええ泉があって良かったわ。日当たりもええなぁ」
イブリースが石鹸の泡を作りながら、辺りを見渡して目を細める。目の前には、みるみる泡立つ石鹸に興味津々でぽよぽよ飛び跳ねているモケモケ(黄色)。
「しっかり洗っておかんと、色が残ったら可哀想やからな~」
泡をすくって、丁寧に全体に広げていく。目を細めたモケモケは、石鹸が垂れて来たので慌てて目を閉じた。
「ふんっふふんふふーん♪ ふんふふーん♪」
いい気分で、イブリースは鼻歌を歌いながらモケモケを丁寧に洗う。
「ごーしごしごし、なのです。汚れちゃってます、ね」
石鹸を泡立てて、丁寧に毛並みをこすっていく。染料でしんなりしていた毛が、石鹸の下でふかふかさを取り戻していくのがわかって、雪月花は楽しそうに目を細めた。
「ぴっかぴかしちゃうです、よ」
石鹸が入らないようにモケモケはぎゅっと目をつぶっている。けれど、ゆらゆら揺れる体は何だか心地よさそうだ。
色がついていても可愛いから、ちょっと惜しいのだけれど。
でもこのままだと可哀想だから。
「もふもふもふもふもふもふもふもふ」
ピローはカラーモケモケに別れを告げて、石鹸でしっかりと染料を落としていく。大人しく揺れているモケモケの毛並みがつやを取り戻していくのに、洗ってよかったと笑みが浮かんだ。
こなゆきの頬も、ふわふわと毛並みを泡立てながらほんのりと笑んでいる。
もふもふで気持ちよさそうでああもう可愛い。
「お客さん流しますよ~」
瀞牙が川の水を桶で掬って、洗い終わったモケモケにざばりとかける。石鹸がしっかり落ちるように、何回か。
「はい、終わりましたよモケモケさん」
まるで床屋のように言ってぽんぽんと瀞牙が頭を撫でれば、ぷるぷるとモケモケが体を震わせて水を飛ばす。輝くような真っ白な毛並みが復活し、モケモケの目が嬉しそうににこっと笑った。
「乾かすのはお天道様の力を借りる、です」
ぴかぴかのお日様に照らされて、モケモケ達の毛は白くつやつや輝く。
そして、元の気持ちのいいもふもふに、戻りつつあった。
「モケモケっていうか、もふもふ……」
お日様を浴びてふかふかさを取り戻してきたモケモケを、燈夜がそっと撫でる。もふもふとした手触りと共に、くるんと振り向いたモケモケが嬉しそうに突進してきた。
あんな目に遭っても、心底構ってもらえるのが好きらしい。
「可愛いな、一匹欲しいかも……ああでも、猫が毛玉と間違って遊ぶかも」
キャッチアンドリリース、大事だな、と呟いて、燈夜は一瞬連れて帰りたくなった心をそっと押しとどめる。その気持ちを抑えたのは、やはりモケモケ大好きなピローも同じだ。
「っつーかなんか、弱ってない?」
燈夜の言葉に、きょとんとモケモケが首を傾げる。
確かに、しばらく日光に当たれなかった生活は、モケモケ達の元気を結構奪っていて。
解放されてハンター達を相手にはしゃいで、さらにお風呂も済ませて疲れてしまったのかもしれない。
「休憩して行こうか……俺が眠いってわけじゃ、ないよ」
そう言いながら、お日様のあったかさに燈夜がうとうと。モケモケもその膝の上に収まって、うとうと。
すっかり乾いたモケモケにじゃれつかれる瀞牙に、さらにモケモケと一緒にじゃれ付く人影一人。
もちろん雪月花だ。
「せーが、せーが、疲れたです。豆乳の力が切れた、です。豆乳くれないと動けないの、です。おんぶー、だっこー」
「はいはい、ほれお待ちかねの豆乳ですよ、お嬢さん」
まだ床屋っぽいモード継続で差し出された豆乳に、雪月花が飛び付く。
「お疲れさま、でした。やりました、ね」
にっこり笑ってみんなに言った言葉に、ハンター達は笑顔で応える。
やがて――そろそろ日も沈む頃。
モケモケ達は、名残惜しそうに仲間達の元へ戻っていく。
「モケモケ……また会いたいものです。モケモケ」
ピローがじっとそれを見守り、静かに呟く。
きっと遊びに来たならば、モケモケ達はまた大歓迎してくれるだろう。
お日様でぽかぽかの、この草原で仲間達と一緒に。
依頼の説明を聞いた時、白水 燈夜(ka0236)は呟いて首を傾げたものである。
その語感に惹かれたのか、依頼を請けたハンター達は、馬車が通る森を訪れていた。
「もけもけさんを返してもらいます、です……せーが? これで良いのです?」
ピロー・クラースヌィ(ka1435)と一緒に道をしっかり塞ぐように倒木の位置を調整し、氷蒼 雪月花(ka0235)が高嶺 瀞牙(ka0250)に声をかける。
「おう、いい感じだな! んじゃ、こっちにこの石を置いて……」
「もう少し、そちらの方が馬車を邪魔できるかもしれませんね」
「じゃあ、こっちに」
瀞牙が燈夜と共に運んできた石を、少し離れたところから全体を見ていたこなゆき(ka0960)の案内ですとんと落とす。
ふ、とこなゆきが息を吐いた。その表情は、ひどく冷静に見える。
けれどその心に息づくのは、かえってその表情を硬いものにさせているのは、モケモケと村人達への非道に対する激しい怒り。
(ああ、今なら躊躇いもせずにばっさりやってしまえそうですよ)
薙刀を持つ手が筋が浮かぶほど強く握られ、唇が軽く弧を描く。微笑の奥で、金の瞳に炎の如く怒りが揺れる。
「さーってと。脅しすかして盗んで売って……そんなん商売人のすることちゃうで」
ぱしん、とイブリース・ヴァルフェ(ka2327)が片掌に拳を叩き付ける。身を隠すために集めておいた木の枝は、しっかりと潜伏班の役に立ってくれそうだ。
「ちょいと懲らしめてやらんとあかんよな?」
「なんにせよ幻獣の密、猟? は犯罪だよな。手厚く保護してあげよう」
「せやね! モケモケ救出、あと悪党はオシオキや!」
威勢よく笑って木の枝を手に取るイブリースに頷いて、燈夜は待ち伏せのために藪の陰に隠れる。そろそろ、馬車がやって来てもおかしくない頃だ。
「モケモケをもふも……じゃなくて解放するために、皆で頑張りましょう」
ピローが思わず本音を言いそうになって、慌てて訂正する。
実際彼女の思いはモケモケをもふもふしたいに尽きるのだが。
そのためにはモケモケを助けて、悪徳商人をぶっ飛ばす!
つまりやる気は十分だ!
「悪徳商人、許すまじ!」
その言葉にあるいは拳を突き上げ、あるいは力強く頷き、決意を固める一同だった。
馬車の揺れる音に、ハンター達の心が引き締まる。燈夜とイブリース、そしてピローは姿勢を低くして様子を見守り、こなゆきと雪月花、瀞牙は、ちらりと視線を交わし合い、目で頷き合ってから馬車に向かって振り向いた。
「おい、危ないぞっ!」
御者台で手綱を握っていた男が、馬車の速度をやや落としながら大声を上げる。
けれどそれに負けないよう、雪月花が道をどかぬまま声を上げた。
「ヴォイド居るの、です。気を付けてください、です」
「あぁ!? ヴォイド!?」
慌てた様子で男が馬車を止める。剣を腰に差しているから、恐らくは彼が闘狩人だろう。
「どうしたの?」
「ヴォイドって言ったか?」
馬車の荷台から、男女2人が顔を出す。さらに馬車の中から、かんしゃくじみた怒鳴り声が聞こえた。
「おい、勝手に馬車を止めるな! 今日中には帝都に……」
「なんかヴォイドですってよ?」
「はぁ!?」
闘狩人が後ろに向かって言うと、叫びが一瞬押し黙る。その後も何かもごもごと聞こえたが、護衛達は気にしないことにしたらしい。
「で、ヴォイドって? 数は?」
「小型だが結構な数だ、ありゃ馬車を飛ばしても数に呑まれて捕まっちまうな」
「厄介だなー……」
馬車からひらりと飛び降りて、銃を持った機導師らしき女が肩を竦める。それにこなゆきは、安心させるようにふわりと微笑んで。
「ご安心ください、仲間達が既に討伐を開始しています。私達は新人で、危ない目に遭う方が出ないように、ここで注意する役目なのです」
(もちろん嘘ですけど)
心の中は敵意に満ち溢れている彼女だが、普段は戦いを好むわけではないのだ。
ただ、何かを守るためにのみ、力を振るう。今回は、モケモケ達と村の人の心を守るために。
――顔を覗かせていたもう1人は、馬車から出てこない。
だが、彼と商人以上の人間は、もういないようだ。そこまで確認して燈夜は左右に視線を送る。イブリースとピローが、視線を受けて素早く頷いた。
その間にも、雪月花と瀞牙の援護を受けて、こなゆきが弁舌を揮う。
「其方の護衛の方々……お手伝い頂ければ早く片が付くと思うのですけれど如何でしょう?」
「えー、その間にこっちにヴォイド来たら困るし……」
「もちろん報酬もお出しできます」
「本当っ!?」
興味を持ったらしい護衛2人に、馬車の中からまた怒鳴り声。
「駄目だ駄目だ、ワシを置いていくんじゃない! ワシと、ワシの一財産をな!」
「ちぇー」
上手く決まれば引き離せたのになぁ、と瀞牙と雪月花は視線を合わせ、肩を竦めて。
「ご主人の意向でしたら、致し方ありませんよね」
――人の良さそうな笑顔を深くしたこなゆきは、計略の不発よりもモケモケを『ワシの一財産』と言った商人への怒りを深めたようであったが。
けれど、商人や護衛の注意が一気に前に向いたのは、最高の好機だった。
さっと伸ばした燈夜の杖先に、マテリアルの輝きが宿る!
「えっ……な、何だ!?」
馬車のすぐ後方で弾けた輝きに、疾影士が素早く馬車から下りて戦闘態勢を取る。御者なき馬がその衝撃に驚き、浮足立ったところにピローが駆けた。
「何事っ!?」
慌てて馬車の後ろへと意識を向けた護衛達が、また前へと向き直った時にはもう遅い。
ピローのナイフの一閃で、手綱を切られた一頭の馬がぱしんと尻を叩かれ走り出す。もちろん、馬車を置いて。
「あああああ、ワシの馬が! 貴様ら、何をする! ええい止めろ無能共!」
「ちっ!」
商人の罵倒にか、それともハンター達の手際にか。
舌打ちしながら闘狩人が、さらにもう一頭の手綱を断とうとしたピローの進路を塞ぐ。けれど彼を囲むように、瀞牙と雪月花が息を合わせて武器を構えた。
ふわり、と雪月花が蒼の霧を纏ったのと、両手の甲に緑と紫の陰陽太極図を露わにし、手に紫を、足に緑を纏った瀞牙が深く踏み込んだのは同時。
普段とは違う金に輝く雪月花の瞳が、瀞牙の緑の瞳と合った次の瞬間、ロッドと剣の一撃をしたたかに受けた闘狩人は、ぐっと空気を吐いて体をくの字に曲げていた。
「ったく、不意打ちやめてよねっ……!」
闘狩人を援護すべく、機導師が銃の引き金を引く。トン、と軽く雪月花の肩を押して距離を離した瀞牙が、剣を斜めにして銃弾を軽く逸らして傷を最小限にとどめる。
そして機導師の視界は、一瞬で横転した。
薙刀の背を使い、こなゆきがその脚を薙いだのだ。
「抵抗しないでくださいませんか?」
「ひぃっ……」
ふわりと手足、そして狐の耳と尾の形に白いオーラを揺らめかせたこなゆきが、薙刀を喉元に突きつける。
銀狐を思わせる姿と堂々とした態度は、銃を落とさぬまでも機導師に息を呑ませるに十分であった。
その間に、ピローが素早く前線を離脱する。お願いします、と目で伝えれば、仲間達の頷きが返ってくる。
す、と馬車の前に屈んで、ピローが馬車の中の様子を伺う。――死闘が、繰り広げられていた。
「ええい、そのモケモケを渡せ! これはワシの財産だ!」
「何が財産や! 野生の幻獣を売り飛ばすんは犯罪やで! は・ん・ざ・いっ!!」
しっかりと握りしめたマテリアルデバイスから、一条の光が放たれ一瞬馬車の中を輝かせる。
「っとぉ!?」
輝きの主、イブリースに掴みかかろうとしていた商人は、慌ててまた何歩も後ろに下がる。イブリースが威嚇になりかつ本人には当たらないよう丁寧に狙いを調整しているのだが、覚醒者ならぬ商人には知る由もない。
「くそっ! 商売の邪魔しやがって!」
何とかイブリースの横をすり抜けようとする商人。再び弾ける閃光。
「ま、おとなしくしといたら帝国軍に突き出すだけで許しといたるわ」
しっかりと腕を広げてモケモケ達の檻を守りながら、イブリースはきっと商人を睨む。
「うちはあんまり気の長いほうや無いから、さっさと諦めた方が賢明やろうなー」
「くっ! おい、お前達! そんな奴らに関わってないで、ワシと財産を守りに来んか!」
商人の叫びに、機導師を助けに行こうとしていた疾影士が慌てて振り向く――瞬間、事態が一気に動いた。
疾影士の足元を、咄嗟にこなゆきの薙刀が掬い上げる。その間に動こうとした機導師には、瀞牙がしっかりと剣先を突き付けていた。既にかなりの傷を負って動きの鈍った闘狩人は、雪月花がロッドに強くマテリアルの力を込めながら、上手くあしらっている。
疾影士が、無様に転ぶ。そして一瞬、馬車を轟音が襲った。
雪の幻影が轟音を立てたロッドの周りにちらつく。すっとピローの身体から、大きな力を彼女に与えたマテリアルの加護が抜ける。
そして馬車の中では、音の源を探した商人に、燈夜が一気に距離を詰め――がし、とその太い首に、腕を回した。
「ぐうっ!」
呻き声を上げた商人に、燈夜がロープを回す。馬車の側面から前に回って身軽に乗り込んだピローが、その先端を受け取って商人の身体に巻き付ける。
「ひいぃぃぃ! 助けてくれぇ!」
情けない声を上げる商人をぐるぐる巻きにし、馬車の外へと引きずり出す。
それを確かめた瀞牙が、大声を上げた。
「さぁ、お前たちの雇い主は捕まえた……大人しくしないと、幻獣取引に加担した罪が重くなるぜ?」
一旦武器を止め、けれど油断なく構えて、ハンター達は護衛の3人を見渡す。
目を見合わせた後、3人は武器を地面に捨て、両手を上げて降参の意を示した。
「良かった……」
馬車の中を覗き込み、モケモケ達が詰め込まれてはいるが無事なのを確認して、ほうとこなゆきが息を吐く。ようやく、彼女本来の柔らかな笑みが現れた。
雪月花とピローが協力して、敵味方全員の傷を癒してから。
「よし、ちゃっちゃと帝国の人に預けちゃおうぜ」
まずは馬車を走らせて、そのまま最寄の帝国軍詰所に向かって。
「あー、えっと、幻獣の密売? そりゃいけませんねぇ」
「はい、いけないの、です。どぞどぞ、です」
兵士達に両脇を抑えられ、商人は無事に逮捕されていった。
というわけで、面倒事は終わり。
「驚かせてしまってごめんなさい、モケモケ」
ピローが馬車で大きな音を立てたことに謝ると、気にしてないよと言うようにモケモケ達はぴょこんと飛んで彼女へとじゃれついた。
檻から解放されて熱心にまとわりついてくるカラーモケモケ達を連れて彼らの故郷に戻って来たハンター達は、泉のほとりで彼らを真っ白モケモケに戻すべく石鹸を手に取った。
「んー、ええ泉があって良かったわ。日当たりもええなぁ」
イブリースが石鹸の泡を作りながら、辺りを見渡して目を細める。目の前には、みるみる泡立つ石鹸に興味津々でぽよぽよ飛び跳ねているモケモケ(黄色)。
「しっかり洗っておかんと、色が残ったら可哀想やからな~」
泡をすくって、丁寧に全体に広げていく。目を細めたモケモケは、石鹸が垂れて来たので慌てて目を閉じた。
「ふんっふふんふふーん♪ ふんふふーん♪」
いい気分で、イブリースは鼻歌を歌いながらモケモケを丁寧に洗う。
「ごーしごしごし、なのです。汚れちゃってます、ね」
石鹸を泡立てて、丁寧に毛並みをこすっていく。染料でしんなりしていた毛が、石鹸の下でふかふかさを取り戻していくのがわかって、雪月花は楽しそうに目を細めた。
「ぴっかぴかしちゃうです、よ」
石鹸が入らないようにモケモケはぎゅっと目をつぶっている。けれど、ゆらゆら揺れる体は何だか心地よさそうだ。
色がついていても可愛いから、ちょっと惜しいのだけれど。
でもこのままだと可哀想だから。
「もふもふもふもふもふもふもふもふ」
ピローはカラーモケモケに別れを告げて、石鹸でしっかりと染料を落としていく。大人しく揺れているモケモケの毛並みがつやを取り戻していくのに、洗ってよかったと笑みが浮かんだ。
こなゆきの頬も、ふわふわと毛並みを泡立てながらほんのりと笑んでいる。
もふもふで気持ちよさそうでああもう可愛い。
「お客さん流しますよ~」
瀞牙が川の水を桶で掬って、洗い終わったモケモケにざばりとかける。石鹸がしっかり落ちるように、何回か。
「はい、終わりましたよモケモケさん」
まるで床屋のように言ってぽんぽんと瀞牙が頭を撫でれば、ぷるぷるとモケモケが体を震わせて水を飛ばす。輝くような真っ白な毛並みが復活し、モケモケの目が嬉しそうににこっと笑った。
「乾かすのはお天道様の力を借りる、です」
ぴかぴかのお日様に照らされて、モケモケ達の毛は白くつやつや輝く。
そして、元の気持ちのいいもふもふに、戻りつつあった。
「モケモケっていうか、もふもふ……」
お日様を浴びてふかふかさを取り戻してきたモケモケを、燈夜がそっと撫でる。もふもふとした手触りと共に、くるんと振り向いたモケモケが嬉しそうに突進してきた。
あんな目に遭っても、心底構ってもらえるのが好きらしい。
「可愛いな、一匹欲しいかも……ああでも、猫が毛玉と間違って遊ぶかも」
キャッチアンドリリース、大事だな、と呟いて、燈夜は一瞬連れて帰りたくなった心をそっと押しとどめる。その気持ちを抑えたのは、やはりモケモケ大好きなピローも同じだ。
「っつーかなんか、弱ってない?」
燈夜の言葉に、きょとんとモケモケが首を傾げる。
確かに、しばらく日光に当たれなかった生活は、モケモケ達の元気を結構奪っていて。
解放されてハンター達を相手にはしゃいで、さらにお風呂も済ませて疲れてしまったのかもしれない。
「休憩して行こうか……俺が眠いってわけじゃ、ないよ」
そう言いながら、お日様のあったかさに燈夜がうとうと。モケモケもその膝の上に収まって、うとうと。
すっかり乾いたモケモケにじゃれつかれる瀞牙に、さらにモケモケと一緒にじゃれ付く人影一人。
もちろん雪月花だ。
「せーが、せーが、疲れたです。豆乳の力が切れた、です。豆乳くれないと動けないの、です。おんぶー、だっこー」
「はいはい、ほれお待ちかねの豆乳ですよ、お嬢さん」
まだ床屋っぽいモード継続で差し出された豆乳に、雪月花が飛び付く。
「お疲れさま、でした。やりました、ね」
にっこり笑ってみんなに言った言葉に、ハンター達は笑顔で応える。
やがて――そろそろ日も沈む頃。
モケモケ達は、名残惜しそうに仲間達の元へ戻っていく。
「モケモケ……また会いたいものです。モケモケ」
ピローがじっとそれを見守り、静かに呟く。
きっと遊びに来たならば、モケモケ達はまた大歓迎してくれるだろう。
お日様でぽかぽかの、この草原で仲間達と一緒に。
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- アイドルの優しき導き手
こなゆき(ka0960)
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 白水 燈夜(ka0236) 人間(リアルブルー)|21才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2014/06/25 22:09:34 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/06/24 08:31:39 |