ゲスト
(ka0000)
【血断】爆心の79
マスター:三田村 薫

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/07/10 07:30
- 完成日
- 2019/07/20 23:36
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●再会の79
その日、ナナ・ナイン(kz0081)は唐突にグランド・ゼロに転移していた。
「あれー?」
人里を歩いていたと思っていたのに、突然の殺風景。人間より歪虚の方が多い。
「ナナの新しいステージなの?」
「……貴様か」
「あっ☆ ノーフェースだ☆ やっほー久しぶり☆」
カッツォ・ヴォイ(kz0224)の姿に、ナナはひらひらと手を振った。ナナからしたら、カッツォはマネージャーというべき存在である。長いこと会っていなかった。久しぶりの再会である。
その「久しぶり」の間に、カッツォの方はクラーレ・クラーラ(kz0225)と火花を散らしたり、嫉妬王に見捨てられたり、クドウ・マコトと出会ったりと色々あったわけで、大分事情が変わっているのだが、ナナ・ナインにそれを察しろと言うのは無理である。ダチョウに空を飛べと言うようなものだ。
「なんでナナはこんなところにいるのー?」
「私を探していたのか」
「そうだよ☆」
「恐らくそれをテセウスが見付けたのだろう」
「誰☆」
「……忘れろ」
どうせ紹介しても次の瞬間には忘れているだろう。カッツォは仮面の位置を整えると、ナナに背を向けた。
「どこ行くの☆」
「私にもやることがある」
「やること?」
「ああ。やること、だ。貴様はそうだな……まだ血に飢えていると言うなら、ここにはハンターしか来ない」
「そうなの?」
「ああ。ここに転移してくる眷属を屠るために。貴様が殺したい弱者は来ない」
カッツォは上着の裾を翻して去って行く。その後ろ姿を、ナナは首を傾げながら眺めていた。その頭の角度が戻ると、彼女はカッツォを追い掛け、襟首を掴んで引き留めた。
「ノーフェース待って☆」
「……どうした」
「ハンターが屠る眷属ってどれくらいいるの?」
「山のよう、だ。ハンターも後から後から来るだろう。最初に来た一団だけで対応するのは現実的ではないからな」
「オッケー☆」
何かに納得したのか、ナナはぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「このステージすっごく広いから、ナナも演出頑張っちゃうぞ☆」
●撤退直前の災難
その時、グランド・ゼロの一角では、大量に転移してくる歪虚を相手に、シフト制での討伐作戦が組まれていた。
「撤退!」
敵の数をある程度減らしたのを見て、金髪の符術師がトラックに乗り込んだ。他の仲間も、三々五々、バイクや馬に乗って来た方向に向けて走り出す準備をしている。
「乗れ!」
別のトラックでは、まだ若い聖導士が、戻って来る友人の疾影士と魔術師に声を掛けている。あとは荷台に乗り込むだけ。その筈だった。
「あれ?」
魔術師の少年は、自分の服の裾を引く力に振り返る。少女の形をした、小さな人形が貼り付けた様な笑みでこちらを見ていた。銀色に塗装されている。
「これ、誰かのユニット? それかロボットかな?」
「え? 今日は誰もユニット持って来てなかったと思うが……とりあえず乗せ……」
運転席から聖導士が振り返った。彼はその人形に見覚えがある。オフィスの資料で見ていたから。彼は顔を強ばらせると、叫んだ。
「ハンク離れろ! 災厄の十三魔だ!」
「えっ?」
「離れるんだよ!」
危険を察知した疾影士が友人の腕を引く。しかし遅かった。
人形が爆発した。疾影士は回避したが、魔術師の彼は回避し損なった。
「どうした!?」
向こうのトラックから符術師が怒鳴っている。
「おい、大丈夫か!?」
「だ、大丈夫……」
衝撃を覚悟していた魔術師は、思ったよりもダメージがないことに安堵しつつ眼鏡を外した。レンズになにか貼り付いている。
「……ラメ?」
どうやら、ラメ爆弾とも言える人形だったらしい。しかし、何故?
「みーつけた☆」
次の瞬間、陽気で可愛らしい声がした。
「え?」
前を見る。今の人形と同じ顔、カラフルな少女が、自分の胸郭を手刀で貫くのを、彼は見てしまった。
●ハンドアウト
あなたたちは、グラウンド・ゼロに歪虚討伐に来ているハンターです。交代制で二十五人ずつが一度に戦っています。
先に出発したメンバーとそろそろ交替です。あなたたちは、交替地点に向かいました。
するとどうでしょう。向こうから、ものすごいスピードで先発部隊が逃げてきます。トラックに乗っている金髪の男の人は、あなたたちを見付けると大声で怒鳴りました。
「おい! 災厄の十三魔がいるぞ! ピンクの奴!」
それを聞いて、あなたたちはすぐにそれがナナ・ナインであることに思い至りました。別のトラックで、血まみれの男の子が、別の一人を抱きかかえています。出血は抱えられている方からの様でした。
「一人やられた。まだ死んでないが……ひとまず安全なところに連れて行く。奴は頼んだ」
そう言って、トラックはまた出発。バイクや馬、徒歩の人たちも全力で走って後に続きます。
あなたたちは先に進みました。すると、見えました。ナナの姿が。
「みんなー☆ 今日はナナのステージに来てくれてありがとう☆ すっごく広いステージだから、ナナも張り切っちゃうよ☆」
その周囲には銀のナナ人形が鎮座していました。ざっと見て、十はいるでしょうか。他にも、いつもの小型ナナ人形がたくさんいます。
「キラッキラのライブステージで、皆のハートをぶち抜いちゃうぞ☆」
その右手はすでに赤く、先発隊の一人に怪我を負わせたのは彼女で間違いないようです。
その後ろから、シェオル歪虚が二体、現れたのをあなたたちは見ました。
ナナ・ナイン with シェオル・ノド。災厄のライブステージの始まりです。
その日、ナナ・ナイン(kz0081)は唐突にグランド・ゼロに転移していた。
「あれー?」
人里を歩いていたと思っていたのに、突然の殺風景。人間より歪虚の方が多い。
「ナナの新しいステージなの?」
「……貴様か」
「あっ☆ ノーフェースだ☆ やっほー久しぶり☆」
カッツォ・ヴォイ(kz0224)の姿に、ナナはひらひらと手を振った。ナナからしたら、カッツォはマネージャーというべき存在である。長いこと会っていなかった。久しぶりの再会である。
その「久しぶり」の間に、カッツォの方はクラーレ・クラーラ(kz0225)と火花を散らしたり、嫉妬王に見捨てられたり、クドウ・マコトと出会ったりと色々あったわけで、大分事情が変わっているのだが、ナナ・ナインにそれを察しろと言うのは無理である。ダチョウに空を飛べと言うようなものだ。
「なんでナナはこんなところにいるのー?」
「私を探していたのか」
「そうだよ☆」
「恐らくそれをテセウスが見付けたのだろう」
「誰☆」
「……忘れろ」
どうせ紹介しても次の瞬間には忘れているだろう。カッツォは仮面の位置を整えると、ナナに背を向けた。
「どこ行くの☆」
「私にもやることがある」
「やること?」
「ああ。やること、だ。貴様はそうだな……まだ血に飢えていると言うなら、ここにはハンターしか来ない」
「そうなの?」
「ああ。ここに転移してくる眷属を屠るために。貴様が殺したい弱者は来ない」
カッツォは上着の裾を翻して去って行く。その後ろ姿を、ナナは首を傾げながら眺めていた。その頭の角度が戻ると、彼女はカッツォを追い掛け、襟首を掴んで引き留めた。
「ノーフェース待って☆」
「……どうした」
「ハンターが屠る眷属ってどれくらいいるの?」
「山のよう、だ。ハンターも後から後から来るだろう。最初に来た一団だけで対応するのは現実的ではないからな」
「オッケー☆」
何かに納得したのか、ナナはぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「このステージすっごく広いから、ナナも演出頑張っちゃうぞ☆」
●撤退直前の災難
その時、グランド・ゼロの一角では、大量に転移してくる歪虚を相手に、シフト制での討伐作戦が組まれていた。
「撤退!」
敵の数をある程度減らしたのを見て、金髪の符術師がトラックに乗り込んだ。他の仲間も、三々五々、バイクや馬に乗って来た方向に向けて走り出す準備をしている。
「乗れ!」
別のトラックでは、まだ若い聖導士が、戻って来る友人の疾影士と魔術師に声を掛けている。あとは荷台に乗り込むだけ。その筈だった。
「あれ?」
魔術師の少年は、自分の服の裾を引く力に振り返る。少女の形をした、小さな人形が貼り付けた様な笑みでこちらを見ていた。銀色に塗装されている。
「これ、誰かのユニット? それかロボットかな?」
「え? 今日は誰もユニット持って来てなかったと思うが……とりあえず乗せ……」
運転席から聖導士が振り返った。彼はその人形に見覚えがある。オフィスの資料で見ていたから。彼は顔を強ばらせると、叫んだ。
「ハンク離れろ! 災厄の十三魔だ!」
「えっ?」
「離れるんだよ!」
危険を察知した疾影士が友人の腕を引く。しかし遅かった。
人形が爆発した。疾影士は回避したが、魔術師の彼は回避し損なった。
「どうした!?」
向こうのトラックから符術師が怒鳴っている。
「おい、大丈夫か!?」
「だ、大丈夫……」
衝撃を覚悟していた魔術師は、思ったよりもダメージがないことに安堵しつつ眼鏡を外した。レンズになにか貼り付いている。
「……ラメ?」
どうやら、ラメ爆弾とも言える人形だったらしい。しかし、何故?
「みーつけた☆」
次の瞬間、陽気で可愛らしい声がした。
「え?」
前を見る。今の人形と同じ顔、カラフルな少女が、自分の胸郭を手刀で貫くのを、彼は見てしまった。
●ハンドアウト
あなたたちは、グラウンド・ゼロに歪虚討伐に来ているハンターです。交代制で二十五人ずつが一度に戦っています。
先に出発したメンバーとそろそろ交替です。あなたたちは、交替地点に向かいました。
するとどうでしょう。向こうから、ものすごいスピードで先発部隊が逃げてきます。トラックに乗っている金髪の男の人は、あなたたちを見付けると大声で怒鳴りました。
「おい! 災厄の十三魔がいるぞ! ピンクの奴!」
それを聞いて、あなたたちはすぐにそれがナナ・ナインであることに思い至りました。別のトラックで、血まみれの男の子が、別の一人を抱きかかえています。出血は抱えられている方からの様でした。
「一人やられた。まだ死んでないが……ひとまず安全なところに連れて行く。奴は頼んだ」
そう言って、トラックはまた出発。バイクや馬、徒歩の人たちも全力で走って後に続きます。
あなたたちは先に進みました。すると、見えました。ナナの姿が。
「みんなー☆ 今日はナナのステージに来てくれてありがとう☆ すっごく広いステージだから、ナナも張り切っちゃうよ☆」
その周囲には銀のナナ人形が鎮座していました。ざっと見て、十はいるでしょうか。他にも、いつもの小型ナナ人形がたくさんいます。
「キラッキラのライブステージで、皆のハートをぶち抜いちゃうぞ☆」
その右手はすでに赤く、先発隊の一人に怪我を負わせたのは彼女で間違いないようです。
その後ろから、シェオル歪虚が二体、現れたのをあなたたちは見ました。
ナナ・ナイン with シェオル・ノド。災厄のライブステージの始まりです。
リプレイ本文
●ハロー、ディザスター
(実はナナ・ナインとは初交戦なんだよね)
キヅカ・リク(ka0038)は超覚醒状態に移行すると、眼鏡の位置を整えた。同行しているハンターたちの中には、ナナとこれまでに交戦を重ねた者も少なくない。
「今回でお前との因縁を終わらせるぞ、ナナ・ナイン!!」
その内の一人、南護 炎(ka6651)はターミナー・レイを振りかざしてナナに宣告するように言い放つ。
「因縁? 誰だっけ☆」
しかし、ナナは覚えている気配はない。ハンターたちの感情だけが積み重なっている。
「人気アイドルだったナナちゃん……なんで嫉妬の歪虚になったのかずっと考えてた」
Uisca Amhran(ka0754)もまた、ナナのことを追い続けていた一人だ。【龍護】白龍が守りし千年の刻が如く──龍の固さをもたらす魔法を施しながら、彼女はナナを見つめている。
「もうそろケリ付けたいんだけど……」
時折金が煌めく赤い衣装をはためかせながら、十色 エニア(ka0370)が呟いた。彼もまた、浅からぬ因縁がある一人。いい加減に決着を付けたい。そう思うほどの回数、戦闘を重ねている。
「ここで彼女の、ナナ・ナインのステージを終わらせましょう」
大剣を背負い、鞭を手にしたユウ(ka6891)もまた、これまでのことを思い起こしているようだ。龍血覚醒で伸びた龍角が、その想いの強さを表して居るようにも見える。
「いっぱい殺して……いっぱい死んで……どれだけ長く……そうして来たんだろう、ね……ナナ」
シェリル・マイヤーズ(ka0509)がナイトカーテンで姿を隠しながら接近する。その言葉からは、ナナとの戦いを通して蓄積した気持ちがにじみ出ていた。
(何となく空気を読んでいくしかない)
リクは気を引き締めた。活を入れるように、腹から声を出す。
「こんにちは、シネェ!!」
前に出ていた幾人かが振り返った。
「キヅカさん……?」
ユウが恐る恐るといった風に声を掛ける。リクは目を瞬かせ、
「あ、そうじゃない?」
当のナナはかくっと首を傾げるとポーズを決めた。
「こんにちは☆ ナナのステージに来てくれたから特別に殺しちゃうぞ☆」
「こういうのを売り言葉に買い言葉って言うのかしらね……」
エニアが目を細めた。
●人形遊び
「あれは……この前、ふてくされて帰って行ったナナさんですね」
レオナ(ka6158)は先日の事件で見た覚えのある歪虚を見て目を瞬かせた。
「こんな場所まで出張とはご苦労な事だ、観客を減らしすぎたんじゃあないのかね?」
雨雲と一緒に移動するかのようなエアルドフリス(ka1856)がバイクに跨がりながら首を横に振る。レオナは符の順番を入れ替え、結界を張った。そして微笑む。
「そうですね。でも、すぐに全滅しちゃったら彼女も面白くないでしょう? 楽しいことは少しでも長く、とね?」
雨音とは違った、葉のざわめき。雨宿りのようでもある。
「私もナナさんのステージを楽しませていただきましょう」
「危急存亡の秋なんだ、あの手のに構っている暇は無いんだがなあ。誰もお座敷掛けちゃあいないだろう。だがやむを得まい」
バイクが唸った。
「立ち塞がるならば排除するのみだ」
白い巫女装束をなびかせながら彼は発進した。木の下から、土砂降りの中へ出て行くように。
「お子様な人形遊びには興味無いのですがねぇ……」
Gacrux(ka2726)はピンクと銀の人形をまとめて薙ぎ払いながら呟いた。
銀人形を叩き割った瞬間、爆発が起きる。シールドに、槍に、装甲にラメが貼り付いた。それを見るや、何体かのナナ人形がGacruxの方を見る。ナナも、ラメを被った彼に気が付いた様だ。
「……なるほどね?」
避けられず、ラメを被ってしまう、回避の低いハンターをあぶり出すためのものなのだろう。当たらなければダメージは永遠にゼロだが、当たればいつかは殺せる。そう気付いて、Gacruxはラメを落とそうとはしなかった。ラメを払い落とし損ねるハンターの練度が低いとは限らないが、練度の低いハンターはラメ落としに失敗することの方が多いだろう。
「殺せる奴をピックアップするため、ということですか」
「残念だったねナナ。ここにはあなたの玩具はいないよ!」
「そう言うこと。さっさと退場なさいな」
夢路 まよい(ka1328)がマジックアローとともに挑発の言葉を放つ。エニアもそれに合わせた。全部で十五本。魔法の矢が飛んで行く。人形が矢を受けて次々と倒れていった。どうやら耐久がすごく高い訳ではないらしい。
「また出たか、飽きない上に懲りないやつだな」
カイン・A・A・マッコール(ka5336)は狂乱せしアルコルを構えると、姿勢を低くしてナナ人形を狙撃した。
借りは先日返した。だから今日は露払いだ。人形の肩口に着弾する。腕が吹き飛んだが、ナナ人形の顔もまた笑顔のまま崩れなかった。
「銀の人形、減らすわよ」
マリィア・バルデス(ka5848)はGacruxがラメまみれになっているのを見て、リトリビューションを放った。覚醒者ならいずれ振り落とせるとは言え、同時に十人がラメを浴びてしまってはこちらの動きに影響が出るだろう。
既にエニアやエアルドフリスの魔術で弱っていた個体が、懲罰の雨を受けて次々と消滅して行く。
「良い調子よ! どんどん弱らせて!」
リロードしながら、マリィアは声を張り上げた。
「グリッターつこうがそれで襲ってくる奴らが居なくなっちゃえば無問題ですぅ」
星野 ハナ(ka5852)は敢えてマリィアが破壊した銀人形の傍に立ち、グリッターを浴びた。ポニーテールの中にラメが入り込み、動く度に髪の中が煌めく。
五枚の符で結界を張る。得意の五色光符陣だ。使い慣れた術式で、ナナ人形を手際よく範囲に収めて焼き払っていく。
「星野さんのラメは……落とさない方が良さそうですね……」
サクラ・エルフリード(ka2598)は、ポニーテールをキラキラさせながら、堂々と符術を展開するハナを見て頷いた。
「では、私もまずは人形の相手をしましょうか……」
セイクリッドフラッシュでまとめて吹き飛ばす。先に仲間が弱らせていたものはそれだけで弾け飛んだが、一部はまだ持ちこたえた。
そこに、北谷王子 朝騎(ka5818)の風雷陣が飛んでくる。持ちこたえた人形たちはそれで塵になった。
レオナに人形が殴り掛かって来た。木漏れ日の下で、人形から攻撃を受けたくらいでは大したダメージにはならないが……。
「ああっ」
彼女は大袈裟にダメージを受けたように見せかけた。腕を押さえ、座り込む。俯いて、呻くように呟いた。
「なんと言うことでしょう……これでは……」
他にも数体の人形が集まってきた。レオナはそれらを見回し、
「これでは……結界がなければ大変なことになっていましたね」
符を五枚、抜いて放つ。自らも結界に入れて、集まってきた人形を焼き尽くした。
「レオナさぁん! 私めちゃくちゃびっくりしましたからねぇ!!! ほんとにやられちゃったかと思ったじゃないですかぁ!」
ハナが叫んでいる。確かにあのグリッターはよく目立つ。レオナはそれを見て微笑みながら、
「ご心配をおかけして申し訳ありません」
手を振った。
●グリッターパーティ
「ハートをぶち抜かれるのはお前のほうだ! 俺の刀でぶち抜いてやるぜ!!」
深呼吸をした炎が、一気にナナへ肉薄した。その場で獲物を振り下ろす。
神速の一撃。ナナが回避に出るよりも先に、その刀身がナナに斬撃を与えた。同時に、爆発。巻き込まれた銀人形が破壊されてラメが飛び出したのだ。炎の鎧や刀にもラメが付着するが、彼は気にしない。
ナナが反撃に出た。鋭い回し蹴りを、低い位置で放つ。
「甘く見るなよ!」
炎が吼える。足にナナの蹴りを受けたが、その攻撃で彼が怯むことはなかった。
リクが眼鏡から機導砲を放つ。赤く色づいたレンズがまた晴れるとき、その目は油断なくナナを見つめている。鋭く飛んだ光線だったが、ナナには避けられた。その代わり、その向こうにいた人形は弾き飛ばす。
(やっぱり動きをどうにかしないとダメか)
飛びついてきた人形を攻性防壁で弾き飛ばしながら、彼は機会を窺った。
ルベーノ・バルバライン(ka6752)とフィロ(ka6966)は縮地移動でナナを挟み撃ちにした。
フィロは角力のスキル・鹿島の剣腕を解放している。ルベーノは黄龍神楽舞の素早い動きで翻弄。そこにシェリルとユウが鞭を持って近寄り、チャンスを伺っている。
フィロが白虎神拳と鎧通しを、ルベーノが白虎神拳を仕掛けた。
フィロに合わせてシェリルが、ルベーノに合わせてユウが鞭を振るう。エンタングルだ。
「そこです!」
レオナが桜幕符を放つ。ナナの挙動がわずかにぎこちなくなったが、それでもナナは辛うじて二人の拳を回避する。
その勢いのまま、ナナが間合いを取るように後ろへ跳び退った。ラメを付けたGacruxが盾を持って前に出る。
「燃えて来たね~☆ それじゃナナもいっくよー! 『殺戮☆ 全滅☆ ジェノサイド☆』」
「まだそれ歌ってたの?」
エニアが無機質な雰囲気をそのままに、呆れ顔を作った。それに構わず、ナナは歌い出す。空気が動くのを、ハンターたちは肌で感じた。各々身構える。
「これが有効なのは実証されてるんですよ」
その空気が刃となって撃ち出されようとしたまさにその瞬間、Gacruxがラストテリトリーを発動した。全ての音の刃が、彼に吸い込まれるように飛んで行く。そして、前に構えられた盾が、本人へのダメージを全て防いだ。
ナナがじろりとGacruxを見た。表情は変わっていないものの、どことなくジト目にも見える。
「……あれー?」
どう見てもラメまみれだ。弱いハンターの筈なのに、何故この男は自分の歌を聴いても死なないのか、訝しんでいるようにも思えた。
そう言えば、同じくラメを被っている炎も、自分の蹴りに全然動じていない……。
しかし、それ以上深くナナが考えることもなかった。再びぱっと笑顔を明るくさせ、
「ま、いっか☆ 殺してればその内死ぬよね☆」
「そう上手く行くと思ってんの」
エニアが、ナナ人形の攻撃を踊るように避けながら間髪入れずに言い放った。
「ハッハッハ! 随分とどんぶり勘定だな!」
ルベーノが高らかに笑う。
「相変わらずだこと……それじゃ踊ろう、ナナ。わたしだって、伊達に踊り子やってないよ」
人形の刺突を避ける度に、エニアのドレスが蠱惑的に光った。
向こうではシェオル・ノドの雄叫びが高く響いている。
●分断を狙って
クレール・ディンセルフ(ka0586)は災厄の十三魔とシェオル・ノドの同時出現に警戒していた。
「シェオル……! 引き連れたのか、偶然か……! 何にせよ、ナナは気を散らせて戦える相手じゃない!」
それでなくても、今までに大量の重体者を出したナナ・ナインだ。シェオルと一緒に相手取れば、敗北の可能性も視野に入る。
「シェオルはこちらで引き受けます! 皆さんは、ナナを!!」
「お願いします……私たちはナナを押さえます……」
サクラに送り出されて、クレールを筆頭にしたシェオル対応のハンターたちは行動を開始した。
「位置が悪い……! シェオルに向かうのにナナの射程に入れば即、死……!」
コートの裾をはためかせながら、クレールは操牙で剣と盾を展開した。
「仕込みが必要かな?」
久我・御言(ka4137)が多重性強化を、前衛に立つであろう仲間たちに施していく。
「ありがとうございます! ヤツをこっちに引きます!」
カリスマリスを構え、八咫爪を放った。まずはシェオルを、ナナから引き離さないといけない。
「了解した。隠密に動こうか」
ユリアン(ka1664)がナイトカーテンで姿を隠す。彼は迂回して、反対側から回り込むように移動した。次のチャンスで不意打ちを狙う。
「来い! こっちだ化物!!」
クレールの八咫爪は片方のシェオルを挑発することに成功した。人間から攻撃されたことで、怒りの雄叫びを上げながら接近してくる。もう片方は当たらなかったにせよ注意は引けている。
「おっと、そっちには行かせないっす!」
そのもう片方を、神楽(ka2032)が幻影触手で縛り上げた。対ナナの戦場へ行かせるわけにも行かないが、クレールに二体同時に相手取らせる訳にもいかない。その一方で、彼はイルダーナの雷をナナ人形の集団に向けた。射雷撃が弾けるように人形をなぎ倒していく。
「早くこっちも片を付けないと……!」
穂積 智里(ka6819)もデルタレイを叩き込んだ。クレールが挑発した方は、不注意なのか単に回避能力が低いのか、神楽から足止めを食らっている方よりも自由である割に、攻撃を食いやすい。更に怒り狂っているようにも見える。
「いきます! ここからは通しません!!」
クリスタルブーツを鳴らして、リラ(ka5679)が間合いを詰めた。朱雀連武。リラの実力なら四度は拳を打ち込める。これにはシェオルも全て回避するというわけにはいかなかった。なおかつこのシェオル、やはり鈍い。
「はっ!」
最後の一発を叩き込むと、リラは反撃に備えて身構えた。そこにユリアンが姿を隠したまま接近する。
「んー合流されたらやだねー」
フューリト・クローバー(ka7146)はシェオルの近くに位置取った。エンジェルフェザーで幻影を見せる。その上で引きつけて攻撃させれば、そう簡単には当たらない。当たらない攻撃は脅威とは言わない。
シェオルは御言に目を付けた。バックに咲き乱れる薔薇に注意でも惹かれたか。あるいは、痛い目に遭わされたリラには近づきたくないのかもしれない。
だがそれは甘い見通しと言うもの。振り下ろされた腕は、攻性防壁に弾かれた。本体ごと後ろに吹き飛ぶ。
●影を縫うが如く
一方、神楽に縛られた方は身動きが取れない。距離を取った神楽に腕が届かないのだ。だが、他にも自由な敵はいた。
ナナ人形だ。ピンクのもの、銀のものが神楽を見つけて寄ってくる。
その内一つが爆発した。
「ぶふっ!」
頭から被って、むせた。向こうで、グリッターを浴びた炎やGacruxがナナの気を引いているのを見て、神楽は閃いた。
「それ! 仲間割れしろっす!」
レセプションアークでグリッターを転化したのだ。これでナナやナナ人形からの攻撃に晒されてしまえば良い。
「ナナ……! 来るか……!?」
クレールが身構えた。もしナナがシェオルでも狙うことがあるならば、自分たちが被弾する可能性もある。
だが、ナナはおろかナナ人形ですら、悪趣味なオブジェと化したシェオルに向かって行くことはなかった。どうやら歪虚とそれ以外はわかるらしい。
「こっちはこっちでってことだねー」
エクラ・ソードを掲げたフューリトは、ジャッジメントで動けるシェオルを足止めすることに成功していた。
「動けない間にーよろしくねぇ」
「助かるよ」
ユリアンが姿を現した。隠密を解き、不意打ちの漆蒼刃で斬り伏せる。御言が攻性防壁で付与した麻痺が効いているようだ。
その御言が、超重錬成で強化した富貴花で殴りつけた。転倒には至らないが、かなりダメージがあるのは間違いない。
「羽刃操牙・大切断!!」
クレールはレヴェヨンサプレスを振り上げた。それでなくても子供の背丈ほどある盾。
「死ぬまで叩き斬る!!」
振り下ろし、マテリアルを流し込む。同時に、操牙で浮遊していた羽刃が、太陽の軌跡を描いて突き刺さった。盾が横に広がり、傷口が拡大していく。ぶちぶちと音を立てながら、シェオルの体が引きちぎられていく。
苦痛か、怒りか、シェオルは暴れた。その気迫を封じるように、クレールは渾身の力を込めて盾を押し込んでいく。
ぶつっ。
何もないときに聞けば嫌な音だっただろうが、今のクレールたちには、一つの目標達成を知らせる音だった。塵の山に盾の先が埋まっている。クレールはそれを引き抜くと、神楽の方を向いた。彼はその視線を受けて、
「まだ足止め効いてるっす! 今のうちっす!」
「やりましょう! 早期決着!」
身動きの取れないシェオルを、ハンターたちが囲んだ。
●あなたの理想は叶わない
再び、炎がナナに迫る。その磨かれた高速の斬撃を、ナナは避けられない。
「確かにお前の過去は辛く悲しいものだっただろう……けど、それでお前の犯してきた罪が赦されるわけでは無い。その命で、これまでの罪を償うがいい!!」
一喝。しかし、ナナに言葉が刺さっているようにはとても見えず、どちらかと言えば、同じハンターから二度も同じ手を食ったことが気に入らないらしい。
「えー☆ 罪ってなんのこと☆」
「貴女は誰に、何に嫉妬してたんです……?」
イスカがネプチューンを放った。シェリルが鞭を絡めるが、バランスを崩しながらもナナは体を反らして水流を避けた。エアルドフリスが隙を狙ってライトニングを、エニアがブリザードを放つが、あともう少しのところで見切られる。
「惜しい! もう少しだと思うんだがなぁ!」
「でも注意散漫なのは間違いないみたいよ」
その時、イスカの傍で銀人形が爆発した。ラメが貼り付く。
「ナナちゃん」
煌めく自分にナナの視線を感じる。イスカはその瞳を、殺意の目を正面から見返した。
「私が見えますか?」
「くっ……払い落とすのは比較的簡単なようですね……」
「これ、落としたくても落とせない人は結構困るよね……当たりたくない人は避けた方が良いかも」
サクラとまよいがラメを落としながら距離を取る。まよいの心配ももっともだったが、幸い、銀人形はもう残っていなかった。これで現在グリッターに掛かっているのは、Gacrux、炎、イスカ、ハナになる。
ハンターたちの攻撃を器用にかわし続けるナナを見て、叫んだのは朝騎だった。
「なんであんなに走って跳びまわってるのにパンチラしてないでちゅか!? 見えそうで全然見えないでちゅよ!! 楽しみにしてたのに詐欺でちゅ!! インチキでちゅ!! 騙されたでちゅ!! ナナさんは十三魔イチの歌って踊れるパンチラアイドルじゃなかったんでちゅか!?」
「ナナはアイドルだもん☆ パンチラなんて見せないぞ☆」
「ぐぬぬ」
悔しがる朝騎。そんな彼女を、ナナはそれ以上気に掛けることはない。目の前にいて、邪魔なルベーノの胴体に拳を叩き込む。ルベーノは金剛不壊で、その衝撃を気功に転化した。赤く光る瞳が、笑みの形に細められる。
「殺戮人形などと御大層な二つ名の割に大したことがないな、ナナナイン! お前の信念のない拳など子供の拳にも劣るわ、ハッハッハ」
「ナナそんな呼ばれ方知らないもん☆」
「随分と余裕ですね」
Gacruxが連断で打ちかかった。ナナは姿勢を低くし、腰を捻って繰り出される攻撃を回避する。
「チッ……予想はしていたが、これでは当たらないか……それなら」
シェリルが走り出し、Gacruxは槍を引いた。
「これならどうです」
アスラトゥーリ。先の二撃から、動きを引き取ったオーラの第三撃だ。シェリルは姿を隠したまま、その軌道を避けて滑り込む。同時に鞭を放った。エンタングルだ。
「あれっ☆」
突然身体が引っ張られる感覚に戸惑ったのだろう。その時には、もうGacruxの放つオーラは眼前に迫っていた。
鞭をほどいたシェリルは振り返る。ナナのカウンターパンチを回避するGacruxの後ろ姿が見えた。
●合流
要領は掴んだ。シェオル対応のハンターたちは、二体目もその場に釘付けにしたまま袋叩きにした。こちらは少々素早い個体だったが、移動させなければ脅威でもない。
振り上げられた腕を、再び御言が攻性防壁で受けた。しびれたように動きがぎこちなくなる。それを、ユリアンが不意打ちで斬り、リラが正面から朱雀連武で打ちかかる。
フューリトはエンジェルフェザーを智里にも施した。距離を取ってデルタレイで応戦しているとは言え、万が一に備える必要があると感じたのだ。
神楽が射雷撃を撃ち込んだ。
「シェオル相手じゃ下心もへったくれもないっす……」
女性相手ではピンクになったりまとわりついたりするという電撃も、今は特別な動きも色も見せずにただ相手にダメージを与えるだけだ。
「行きます! 羽刃操牙・大切断!!」
クレールが再び大切断を試みた。
まごう事なき袋叩きだ。全ての攻撃を避けられるわけもなく、二体目のシェオルも塵になる。
「よし! ナナの方に合流しましょう!」
クレールの掛け声に応えて、シェオル班はナナが暴れる戦場へ合流した。リクが仰ぎし福音で、前衛を回復しているのが見える。
「皆さん無事ですか!」
智里が呼びかける。
「どうにかね」
ハイペリオンでナナを狙撃するマリィアが応じた。
「人形は順調に減っている」
右半身を黒炎で覆ったカインが、斬魔刀でナナ人形を薙ぎ払いながら言った。彼の言うとおり、ナナ人形の数もかなり減っている。
「奴はジリ貧だな」
「このままどん底に落としたいところよね」
マリィアの連続射撃は凄まじい勢いで飛んで行く。次々と飛来する弾丸に、ナナの対応も限界があるようだった。
それでもナナはまだ笑っている。
笑ったまま、ハナに蹴りを放った。
「うわこっち来ましたぁ!?」
ギリギリのところで避ける。そこにバイクのエンジン音がした。エアルドフリスだ。闘志が高まっているのか、礼装が水気で重たくなっているように見える。エンジン音に混ざる雨音は土砂降りだ。
「援護してくれ!」
「はい!」
ユウが応じた。鞭を振るう。ナナはまだ、ラメで髪の毛をキラキラさせているハナに気を取られている。好機だ。
「──退け!」
轢殺を狙っているとも取れる気迫だった。青い蛍が飛び交う。ナナの背中にぶつかった。バイクは振り返るナナを追い越す。
間髪入れず、ユウが天誅殺を敢行した。バルムンクを急所に向かって繰り出す。ナナはその刀身を弾き飛ばす形で回避した。
そのナナに、オレンジの影が肉薄した。フィロだ。白虎神拳で行動不能を狙う。
だが、ナナはそれを軽く避けた。そして反撃へ──。
オートマトンボディの軋む音がした。
その場の全員が息を呑む。
「そんな……」
レオナが絶句した。
ナナの手刀は、フィロの急所を貫いていた。
●青ざめた馬
「フィロさん!?」
智里が悲鳴を上げる。しかし、フィロは倒れない。
「穂積様、心配には及びません」
金剛不壊だ。膝をついていてもおかしくない、渾身の一撃を受けても、フィロは持ちこたえている。何もなければ死すらありえた一撃を。
「絶対に、倒れません」
フィロの言葉には決意や意思、覚悟の色があった。瀕死の声ではない。その様を見て、その声を聞いて、ナナは明らかに機嫌を損ねていた。フィロから手を離すと、
「……つまんない」
くるりと後ろを向いた。逃げるつもりか。
それはそうだろう。簡単に死なないハンターをふるいに掛ける筈だったグリッターも、「あえて落とさない」ことで死なないハンターが掛かってしまう。それを狙ったところで死なないし、当たらないし、つまらないことこの上ない。
おまけに……折角急所までぶち抜いたのに、死ぬどころか倒れない。つまらない。
全然上手く行かない。ナナは殺したいだけなのに。邪魔ばっかり入る。
「──ユウさん!」
リクがユウに合図する。
「はい! キヅカさん、いきます!」
光の雨が降り始めた。望みの白雨だ。
「ナナ・ナイン、まだ帰すわけにはいかない──!」
智の聖域が展開された。ナナの足が止まる。上手く行った様だ。リクは叫んだ。
「今だ! 畳み掛けて!」
「行くよ!」
「了解しましたぁ!」
まよいとハナが正義の光でナナを灼く。まばゆい光が災厄のアイドルを包んだ。
「──ナナちゃん」
そのナナを、背後から抱きしめる影があった。自分の後ろにストーンサークルを展開しているイスカだ。
「ナナの前から離れて!」
まよいが合図した。宝術:ティストリヤを使うとイスカが話していたから。よろけるフィロにはルベーノが手を貸して離脱する。
永遠の舞台はない。それを象徴する魔術。
ステージに上がり続け、降りたがらないナナ・ナインへぶつけるには相応しい。
サークルにため込んだ魔力が放出された。
「──っ!」
そのイスカの息が詰まった。ナナが、その腹に肘打ちを叩き込んでいたからだ。それでも、回した腕はほどかない。イスカはナナを離さない。想いの強さを伝えるように、強く抱きしめたまま、叫ぶ。
「貴女の感情を取り戻したいっ」
「そこまでです、ナナ・ナイン様」
体勢を立て直したフィロが、縮地移動で迫り、鎧徹しを叩き込んだ。シェリルが鞭を振るって逃げようとする足を絡め取る。先ほど自分が与えたダメージが、全て跳ね返ることになるのだ。
「ねぇ、ナナ………そろそろ、フィナーレ……だよ……?」
その上で自らも手裏剣を投擲。シェリルは強い瞳でナナを見据えた。
「殺しつくした先に……アナタのファンも誰もいない……誰にも届く事のない歌声……誰も魅せることのない……ダンス……それで、ナナは……幸せ?」
たくさんの言葉が重なって、ナナに届けられる様を、リクは見つめていた。このままいけば、倒せる。かなりダメージが入っている。それでも、ナナの顔は笑ったままだ。
その時、ナナがゆっくりと首を傾げ、リクと目が合った。その口が開く。
「誰」
「僕の事? 覚えなくていいよ、只の凡人だから」
「……だっけ☆」
……「誰だっけ」?
リクは戸惑った。自分と彼女はこれが初対面の筈だ。
しかし、その戸惑いは別のものになった。ナナがイスカの腕の中からかき消えたのだ。
「ナナちゃん!」
「はぁ!? ワープとか超ずるいっす!」
物理的に振り切られた時のために、幻影触手をスタンバイしていた神楽が目を剥いている。リクはユウと顔を見合わせて、
「僕、初対面の筈なんだけど……」
「誰かと間違えていたんでしょうか?」
ユウも困り顔だ。
「それか……」
シェリルが仮面を外して、思案げに頭を傾ける。乱れた赤毛がぱらりと落ちた。
「別の人のことを……考えていたか……だね……」
「何がバックについてたんだか……」
エニアがやれやれと首を横に振った。
ナナに逃げられはしたが、ハンターたちは確かな手応えを感じていた。
次にまみえることがあれば……決着がつくだろう。
ハンターたちは撤収を始めた。金剛不壊で持ちこたえたとは言え、フィロの傷は深い。傷を負わなかったハンターたちだって、災厄の十三魔の後に連戦がきくわけではない。ここで他のシェオルや歪虚に囲まれれば苦戦を強いられる。
戻る道すがら、カインはグラウンド・ゼロを振り返った。
飽きない上に、懲りない奴、ナナ・ナイン。
負のマテリアルが渦巻く中に、少女の高い声はもう聞こえなかった。
(実はナナ・ナインとは初交戦なんだよね)
キヅカ・リク(ka0038)は超覚醒状態に移行すると、眼鏡の位置を整えた。同行しているハンターたちの中には、ナナとこれまでに交戦を重ねた者も少なくない。
「今回でお前との因縁を終わらせるぞ、ナナ・ナイン!!」
その内の一人、南護 炎(ka6651)はターミナー・レイを振りかざしてナナに宣告するように言い放つ。
「因縁? 誰だっけ☆」
しかし、ナナは覚えている気配はない。ハンターたちの感情だけが積み重なっている。
「人気アイドルだったナナちゃん……なんで嫉妬の歪虚になったのかずっと考えてた」
Uisca Amhran(ka0754)もまた、ナナのことを追い続けていた一人だ。【龍護】白龍が守りし千年の刻が如く──龍の固さをもたらす魔法を施しながら、彼女はナナを見つめている。
「もうそろケリ付けたいんだけど……」
時折金が煌めく赤い衣装をはためかせながら、十色 エニア(ka0370)が呟いた。彼もまた、浅からぬ因縁がある一人。いい加減に決着を付けたい。そう思うほどの回数、戦闘を重ねている。
「ここで彼女の、ナナ・ナインのステージを終わらせましょう」
大剣を背負い、鞭を手にしたユウ(ka6891)もまた、これまでのことを思い起こしているようだ。龍血覚醒で伸びた龍角が、その想いの強さを表して居るようにも見える。
「いっぱい殺して……いっぱい死んで……どれだけ長く……そうして来たんだろう、ね……ナナ」
シェリル・マイヤーズ(ka0509)がナイトカーテンで姿を隠しながら接近する。その言葉からは、ナナとの戦いを通して蓄積した気持ちがにじみ出ていた。
(何となく空気を読んでいくしかない)
リクは気を引き締めた。活を入れるように、腹から声を出す。
「こんにちは、シネェ!!」
前に出ていた幾人かが振り返った。
「キヅカさん……?」
ユウが恐る恐るといった風に声を掛ける。リクは目を瞬かせ、
「あ、そうじゃない?」
当のナナはかくっと首を傾げるとポーズを決めた。
「こんにちは☆ ナナのステージに来てくれたから特別に殺しちゃうぞ☆」
「こういうのを売り言葉に買い言葉って言うのかしらね……」
エニアが目を細めた。
●人形遊び
「あれは……この前、ふてくされて帰って行ったナナさんですね」
レオナ(ka6158)は先日の事件で見た覚えのある歪虚を見て目を瞬かせた。
「こんな場所まで出張とはご苦労な事だ、観客を減らしすぎたんじゃあないのかね?」
雨雲と一緒に移動するかのようなエアルドフリス(ka1856)がバイクに跨がりながら首を横に振る。レオナは符の順番を入れ替え、結界を張った。そして微笑む。
「そうですね。でも、すぐに全滅しちゃったら彼女も面白くないでしょう? 楽しいことは少しでも長く、とね?」
雨音とは違った、葉のざわめき。雨宿りのようでもある。
「私もナナさんのステージを楽しませていただきましょう」
「危急存亡の秋なんだ、あの手のに構っている暇は無いんだがなあ。誰もお座敷掛けちゃあいないだろう。だがやむを得まい」
バイクが唸った。
「立ち塞がるならば排除するのみだ」
白い巫女装束をなびかせながら彼は発進した。木の下から、土砂降りの中へ出て行くように。
「お子様な人形遊びには興味無いのですがねぇ……」
Gacrux(ka2726)はピンクと銀の人形をまとめて薙ぎ払いながら呟いた。
銀人形を叩き割った瞬間、爆発が起きる。シールドに、槍に、装甲にラメが貼り付いた。それを見るや、何体かのナナ人形がGacruxの方を見る。ナナも、ラメを被った彼に気が付いた様だ。
「……なるほどね?」
避けられず、ラメを被ってしまう、回避の低いハンターをあぶり出すためのものなのだろう。当たらなければダメージは永遠にゼロだが、当たればいつかは殺せる。そう気付いて、Gacruxはラメを落とそうとはしなかった。ラメを払い落とし損ねるハンターの練度が低いとは限らないが、練度の低いハンターはラメ落としに失敗することの方が多いだろう。
「殺せる奴をピックアップするため、ということですか」
「残念だったねナナ。ここにはあなたの玩具はいないよ!」
「そう言うこと。さっさと退場なさいな」
夢路 まよい(ka1328)がマジックアローとともに挑発の言葉を放つ。エニアもそれに合わせた。全部で十五本。魔法の矢が飛んで行く。人形が矢を受けて次々と倒れていった。どうやら耐久がすごく高い訳ではないらしい。
「また出たか、飽きない上に懲りないやつだな」
カイン・A・A・マッコール(ka5336)は狂乱せしアルコルを構えると、姿勢を低くしてナナ人形を狙撃した。
借りは先日返した。だから今日は露払いだ。人形の肩口に着弾する。腕が吹き飛んだが、ナナ人形の顔もまた笑顔のまま崩れなかった。
「銀の人形、減らすわよ」
マリィア・バルデス(ka5848)はGacruxがラメまみれになっているのを見て、リトリビューションを放った。覚醒者ならいずれ振り落とせるとは言え、同時に十人がラメを浴びてしまってはこちらの動きに影響が出るだろう。
既にエニアやエアルドフリスの魔術で弱っていた個体が、懲罰の雨を受けて次々と消滅して行く。
「良い調子よ! どんどん弱らせて!」
リロードしながら、マリィアは声を張り上げた。
「グリッターつこうがそれで襲ってくる奴らが居なくなっちゃえば無問題ですぅ」
星野 ハナ(ka5852)は敢えてマリィアが破壊した銀人形の傍に立ち、グリッターを浴びた。ポニーテールの中にラメが入り込み、動く度に髪の中が煌めく。
五枚の符で結界を張る。得意の五色光符陣だ。使い慣れた術式で、ナナ人形を手際よく範囲に収めて焼き払っていく。
「星野さんのラメは……落とさない方が良さそうですね……」
サクラ・エルフリード(ka2598)は、ポニーテールをキラキラさせながら、堂々と符術を展開するハナを見て頷いた。
「では、私もまずは人形の相手をしましょうか……」
セイクリッドフラッシュでまとめて吹き飛ばす。先に仲間が弱らせていたものはそれだけで弾け飛んだが、一部はまだ持ちこたえた。
そこに、北谷王子 朝騎(ka5818)の風雷陣が飛んでくる。持ちこたえた人形たちはそれで塵になった。
レオナに人形が殴り掛かって来た。木漏れ日の下で、人形から攻撃を受けたくらいでは大したダメージにはならないが……。
「ああっ」
彼女は大袈裟にダメージを受けたように見せかけた。腕を押さえ、座り込む。俯いて、呻くように呟いた。
「なんと言うことでしょう……これでは……」
他にも数体の人形が集まってきた。レオナはそれらを見回し、
「これでは……結界がなければ大変なことになっていましたね」
符を五枚、抜いて放つ。自らも結界に入れて、集まってきた人形を焼き尽くした。
「レオナさぁん! 私めちゃくちゃびっくりしましたからねぇ!!! ほんとにやられちゃったかと思ったじゃないですかぁ!」
ハナが叫んでいる。確かにあのグリッターはよく目立つ。レオナはそれを見て微笑みながら、
「ご心配をおかけして申し訳ありません」
手を振った。
●グリッターパーティ
「ハートをぶち抜かれるのはお前のほうだ! 俺の刀でぶち抜いてやるぜ!!」
深呼吸をした炎が、一気にナナへ肉薄した。その場で獲物を振り下ろす。
神速の一撃。ナナが回避に出るよりも先に、その刀身がナナに斬撃を与えた。同時に、爆発。巻き込まれた銀人形が破壊されてラメが飛び出したのだ。炎の鎧や刀にもラメが付着するが、彼は気にしない。
ナナが反撃に出た。鋭い回し蹴りを、低い位置で放つ。
「甘く見るなよ!」
炎が吼える。足にナナの蹴りを受けたが、その攻撃で彼が怯むことはなかった。
リクが眼鏡から機導砲を放つ。赤く色づいたレンズがまた晴れるとき、その目は油断なくナナを見つめている。鋭く飛んだ光線だったが、ナナには避けられた。その代わり、その向こうにいた人形は弾き飛ばす。
(やっぱり動きをどうにかしないとダメか)
飛びついてきた人形を攻性防壁で弾き飛ばしながら、彼は機会を窺った。
ルベーノ・バルバライン(ka6752)とフィロ(ka6966)は縮地移動でナナを挟み撃ちにした。
フィロは角力のスキル・鹿島の剣腕を解放している。ルベーノは黄龍神楽舞の素早い動きで翻弄。そこにシェリルとユウが鞭を持って近寄り、チャンスを伺っている。
フィロが白虎神拳と鎧通しを、ルベーノが白虎神拳を仕掛けた。
フィロに合わせてシェリルが、ルベーノに合わせてユウが鞭を振るう。エンタングルだ。
「そこです!」
レオナが桜幕符を放つ。ナナの挙動がわずかにぎこちなくなったが、それでもナナは辛うじて二人の拳を回避する。
その勢いのまま、ナナが間合いを取るように後ろへ跳び退った。ラメを付けたGacruxが盾を持って前に出る。
「燃えて来たね~☆ それじゃナナもいっくよー! 『殺戮☆ 全滅☆ ジェノサイド☆』」
「まだそれ歌ってたの?」
エニアが無機質な雰囲気をそのままに、呆れ顔を作った。それに構わず、ナナは歌い出す。空気が動くのを、ハンターたちは肌で感じた。各々身構える。
「これが有効なのは実証されてるんですよ」
その空気が刃となって撃ち出されようとしたまさにその瞬間、Gacruxがラストテリトリーを発動した。全ての音の刃が、彼に吸い込まれるように飛んで行く。そして、前に構えられた盾が、本人へのダメージを全て防いだ。
ナナがじろりとGacruxを見た。表情は変わっていないものの、どことなくジト目にも見える。
「……あれー?」
どう見てもラメまみれだ。弱いハンターの筈なのに、何故この男は自分の歌を聴いても死なないのか、訝しんでいるようにも思えた。
そう言えば、同じくラメを被っている炎も、自分の蹴りに全然動じていない……。
しかし、それ以上深くナナが考えることもなかった。再びぱっと笑顔を明るくさせ、
「ま、いっか☆ 殺してればその内死ぬよね☆」
「そう上手く行くと思ってんの」
エニアが、ナナ人形の攻撃を踊るように避けながら間髪入れずに言い放った。
「ハッハッハ! 随分とどんぶり勘定だな!」
ルベーノが高らかに笑う。
「相変わらずだこと……それじゃ踊ろう、ナナ。わたしだって、伊達に踊り子やってないよ」
人形の刺突を避ける度に、エニアのドレスが蠱惑的に光った。
向こうではシェオル・ノドの雄叫びが高く響いている。
●分断を狙って
クレール・ディンセルフ(ka0586)は災厄の十三魔とシェオル・ノドの同時出現に警戒していた。
「シェオル……! 引き連れたのか、偶然か……! 何にせよ、ナナは気を散らせて戦える相手じゃない!」
それでなくても、今までに大量の重体者を出したナナ・ナインだ。シェオルと一緒に相手取れば、敗北の可能性も視野に入る。
「シェオルはこちらで引き受けます! 皆さんは、ナナを!!」
「お願いします……私たちはナナを押さえます……」
サクラに送り出されて、クレールを筆頭にしたシェオル対応のハンターたちは行動を開始した。
「位置が悪い……! シェオルに向かうのにナナの射程に入れば即、死……!」
コートの裾をはためかせながら、クレールは操牙で剣と盾を展開した。
「仕込みが必要かな?」
久我・御言(ka4137)が多重性強化を、前衛に立つであろう仲間たちに施していく。
「ありがとうございます! ヤツをこっちに引きます!」
カリスマリスを構え、八咫爪を放った。まずはシェオルを、ナナから引き離さないといけない。
「了解した。隠密に動こうか」
ユリアン(ka1664)がナイトカーテンで姿を隠す。彼は迂回して、反対側から回り込むように移動した。次のチャンスで不意打ちを狙う。
「来い! こっちだ化物!!」
クレールの八咫爪は片方のシェオルを挑発することに成功した。人間から攻撃されたことで、怒りの雄叫びを上げながら接近してくる。もう片方は当たらなかったにせよ注意は引けている。
「おっと、そっちには行かせないっす!」
そのもう片方を、神楽(ka2032)が幻影触手で縛り上げた。対ナナの戦場へ行かせるわけにも行かないが、クレールに二体同時に相手取らせる訳にもいかない。その一方で、彼はイルダーナの雷をナナ人形の集団に向けた。射雷撃が弾けるように人形をなぎ倒していく。
「早くこっちも片を付けないと……!」
穂積 智里(ka6819)もデルタレイを叩き込んだ。クレールが挑発した方は、不注意なのか単に回避能力が低いのか、神楽から足止めを食らっている方よりも自由である割に、攻撃を食いやすい。更に怒り狂っているようにも見える。
「いきます! ここからは通しません!!」
クリスタルブーツを鳴らして、リラ(ka5679)が間合いを詰めた。朱雀連武。リラの実力なら四度は拳を打ち込める。これにはシェオルも全て回避するというわけにはいかなかった。なおかつこのシェオル、やはり鈍い。
「はっ!」
最後の一発を叩き込むと、リラは反撃に備えて身構えた。そこにユリアンが姿を隠したまま接近する。
「んー合流されたらやだねー」
フューリト・クローバー(ka7146)はシェオルの近くに位置取った。エンジェルフェザーで幻影を見せる。その上で引きつけて攻撃させれば、そう簡単には当たらない。当たらない攻撃は脅威とは言わない。
シェオルは御言に目を付けた。バックに咲き乱れる薔薇に注意でも惹かれたか。あるいは、痛い目に遭わされたリラには近づきたくないのかもしれない。
だがそれは甘い見通しと言うもの。振り下ろされた腕は、攻性防壁に弾かれた。本体ごと後ろに吹き飛ぶ。
●影を縫うが如く
一方、神楽に縛られた方は身動きが取れない。距離を取った神楽に腕が届かないのだ。だが、他にも自由な敵はいた。
ナナ人形だ。ピンクのもの、銀のものが神楽を見つけて寄ってくる。
その内一つが爆発した。
「ぶふっ!」
頭から被って、むせた。向こうで、グリッターを浴びた炎やGacruxがナナの気を引いているのを見て、神楽は閃いた。
「それ! 仲間割れしろっす!」
レセプションアークでグリッターを転化したのだ。これでナナやナナ人形からの攻撃に晒されてしまえば良い。
「ナナ……! 来るか……!?」
クレールが身構えた。もしナナがシェオルでも狙うことがあるならば、自分たちが被弾する可能性もある。
だが、ナナはおろかナナ人形ですら、悪趣味なオブジェと化したシェオルに向かって行くことはなかった。どうやら歪虚とそれ以外はわかるらしい。
「こっちはこっちでってことだねー」
エクラ・ソードを掲げたフューリトは、ジャッジメントで動けるシェオルを足止めすることに成功していた。
「動けない間にーよろしくねぇ」
「助かるよ」
ユリアンが姿を現した。隠密を解き、不意打ちの漆蒼刃で斬り伏せる。御言が攻性防壁で付与した麻痺が効いているようだ。
その御言が、超重錬成で強化した富貴花で殴りつけた。転倒には至らないが、かなりダメージがあるのは間違いない。
「羽刃操牙・大切断!!」
クレールはレヴェヨンサプレスを振り上げた。それでなくても子供の背丈ほどある盾。
「死ぬまで叩き斬る!!」
振り下ろし、マテリアルを流し込む。同時に、操牙で浮遊していた羽刃が、太陽の軌跡を描いて突き刺さった。盾が横に広がり、傷口が拡大していく。ぶちぶちと音を立てながら、シェオルの体が引きちぎられていく。
苦痛か、怒りか、シェオルは暴れた。その気迫を封じるように、クレールは渾身の力を込めて盾を押し込んでいく。
ぶつっ。
何もないときに聞けば嫌な音だっただろうが、今のクレールたちには、一つの目標達成を知らせる音だった。塵の山に盾の先が埋まっている。クレールはそれを引き抜くと、神楽の方を向いた。彼はその視線を受けて、
「まだ足止め効いてるっす! 今のうちっす!」
「やりましょう! 早期決着!」
身動きの取れないシェオルを、ハンターたちが囲んだ。
●あなたの理想は叶わない
再び、炎がナナに迫る。その磨かれた高速の斬撃を、ナナは避けられない。
「確かにお前の過去は辛く悲しいものだっただろう……けど、それでお前の犯してきた罪が赦されるわけでは無い。その命で、これまでの罪を償うがいい!!」
一喝。しかし、ナナに言葉が刺さっているようにはとても見えず、どちらかと言えば、同じハンターから二度も同じ手を食ったことが気に入らないらしい。
「えー☆ 罪ってなんのこと☆」
「貴女は誰に、何に嫉妬してたんです……?」
イスカがネプチューンを放った。シェリルが鞭を絡めるが、バランスを崩しながらもナナは体を反らして水流を避けた。エアルドフリスが隙を狙ってライトニングを、エニアがブリザードを放つが、あともう少しのところで見切られる。
「惜しい! もう少しだと思うんだがなぁ!」
「でも注意散漫なのは間違いないみたいよ」
その時、イスカの傍で銀人形が爆発した。ラメが貼り付く。
「ナナちゃん」
煌めく自分にナナの視線を感じる。イスカはその瞳を、殺意の目を正面から見返した。
「私が見えますか?」
「くっ……払い落とすのは比較的簡単なようですね……」
「これ、落としたくても落とせない人は結構困るよね……当たりたくない人は避けた方が良いかも」
サクラとまよいがラメを落としながら距離を取る。まよいの心配ももっともだったが、幸い、銀人形はもう残っていなかった。これで現在グリッターに掛かっているのは、Gacrux、炎、イスカ、ハナになる。
ハンターたちの攻撃を器用にかわし続けるナナを見て、叫んだのは朝騎だった。
「なんであんなに走って跳びまわってるのにパンチラしてないでちゅか!? 見えそうで全然見えないでちゅよ!! 楽しみにしてたのに詐欺でちゅ!! インチキでちゅ!! 騙されたでちゅ!! ナナさんは十三魔イチの歌って踊れるパンチラアイドルじゃなかったんでちゅか!?」
「ナナはアイドルだもん☆ パンチラなんて見せないぞ☆」
「ぐぬぬ」
悔しがる朝騎。そんな彼女を、ナナはそれ以上気に掛けることはない。目の前にいて、邪魔なルベーノの胴体に拳を叩き込む。ルベーノは金剛不壊で、その衝撃を気功に転化した。赤く光る瞳が、笑みの形に細められる。
「殺戮人形などと御大層な二つ名の割に大したことがないな、ナナナイン! お前の信念のない拳など子供の拳にも劣るわ、ハッハッハ」
「ナナそんな呼ばれ方知らないもん☆」
「随分と余裕ですね」
Gacruxが連断で打ちかかった。ナナは姿勢を低くし、腰を捻って繰り出される攻撃を回避する。
「チッ……予想はしていたが、これでは当たらないか……それなら」
シェリルが走り出し、Gacruxは槍を引いた。
「これならどうです」
アスラトゥーリ。先の二撃から、動きを引き取ったオーラの第三撃だ。シェリルは姿を隠したまま、その軌道を避けて滑り込む。同時に鞭を放った。エンタングルだ。
「あれっ☆」
突然身体が引っ張られる感覚に戸惑ったのだろう。その時には、もうGacruxの放つオーラは眼前に迫っていた。
鞭をほどいたシェリルは振り返る。ナナのカウンターパンチを回避するGacruxの後ろ姿が見えた。
●合流
要領は掴んだ。シェオル対応のハンターたちは、二体目もその場に釘付けにしたまま袋叩きにした。こちらは少々素早い個体だったが、移動させなければ脅威でもない。
振り上げられた腕を、再び御言が攻性防壁で受けた。しびれたように動きがぎこちなくなる。それを、ユリアンが不意打ちで斬り、リラが正面から朱雀連武で打ちかかる。
フューリトはエンジェルフェザーを智里にも施した。距離を取ってデルタレイで応戦しているとは言え、万が一に備える必要があると感じたのだ。
神楽が射雷撃を撃ち込んだ。
「シェオル相手じゃ下心もへったくれもないっす……」
女性相手ではピンクになったりまとわりついたりするという電撃も、今は特別な動きも色も見せずにただ相手にダメージを与えるだけだ。
「行きます! 羽刃操牙・大切断!!」
クレールが再び大切断を試みた。
まごう事なき袋叩きだ。全ての攻撃を避けられるわけもなく、二体目のシェオルも塵になる。
「よし! ナナの方に合流しましょう!」
クレールの掛け声に応えて、シェオル班はナナが暴れる戦場へ合流した。リクが仰ぎし福音で、前衛を回復しているのが見える。
「皆さん無事ですか!」
智里が呼びかける。
「どうにかね」
ハイペリオンでナナを狙撃するマリィアが応じた。
「人形は順調に減っている」
右半身を黒炎で覆ったカインが、斬魔刀でナナ人形を薙ぎ払いながら言った。彼の言うとおり、ナナ人形の数もかなり減っている。
「奴はジリ貧だな」
「このままどん底に落としたいところよね」
マリィアの連続射撃は凄まじい勢いで飛んで行く。次々と飛来する弾丸に、ナナの対応も限界があるようだった。
それでもナナはまだ笑っている。
笑ったまま、ハナに蹴りを放った。
「うわこっち来ましたぁ!?」
ギリギリのところで避ける。そこにバイクのエンジン音がした。エアルドフリスだ。闘志が高まっているのか、礼装が水気で重たくなっているように見える。エンジン音に混ざる雨音は土砂降りだ。
「援護してくれ!」
「はい!」
ユウが応じた。鞭を振るう。ナナはまだ、ラメで髪の毛をキラキラさせているハナに気を取られている。好機だ。
「──退け!」
轢殺を狙っているとも取れる気迫だった。青い蛍が飛び交う。ナナの背中にぶつかった。バイクは振り返るナナを追い越す。
間髪入れず、ユウが天誅殺を敢行した。バルムンクを急所に向かって繰り出す。ナナはその刀身を弾き飛ばす形で回避した。
そのナナに、オレンジの影が肉薄した。フィロだ。白虎神拳で行動不能を狙う。
だが、ナナはそれを軽く避けた。そして反撃へ──。
オートマトンボディの軋む音がした。
その場の全員が息を呑む。
「そんな……」
レオナが絶句した。
ナナの手刀は、フィロの急所を貫いていた。
●青ざめた馬
「フィロさん!?」
智里が悲鳴を上げる。しかし、フィロは倒れない。
「穂積様、心配には及びません」
金剛不壊だ。膝をついていてもおかしくない、渾身の一撃を受けても、フィロは持ちこたえている。何もなければ死すらありえた一撃を。
「絶対に、倒れません」
フィロの言葉には決意や意思、覚悟の色があった。瀕死の声ではない。その様を見て、その声を聞いて、ナナは明らかに機嫌を損ねていた。フィロから手を離すと、
「……つまんない」
くるりと後ろを向いた。逃げるつもりか。
それはそうだろう。簡単に死なないハンターをふるいに掛ける筈だったグリッターも、「あえて落とさない」ことで死なないハンターが掛かってしまう。それを狙ったところで死なないし、当たらないし、つまらないことこの上ない。
おまけに……折角急所までぶち抜いたのに、死ぬどころか倒れない。つまらない。
全然上手く行かない。ナナは殺したいだけなのに。邪魔ばっかり入る。
「──ユウさん!」
リクがユウに合図する。
「はい! キヅカさん、いきます!」
光の雨が降り始めた。望みの白雨だ。
「ナナ・ナイン、まだ帰すわけにはいかない──!」
智の聖域が展開された。ナナの足が止まる。上手く行った様だ。リクは叫んだ。
「今だ! 畳み掛けて!」
「行くよ!」
「了解しましたぁ!」
まよいとハナが正義の光でナナを灼く。まばゆい光が災厄のアイドルを包んだ。
「──ナナちゃん」
そのナナを、背後から抱きしめる影があった。自分の後ろにストーンサークルを展開しているイスカだ。
「ナナの前から離れて!」
まよいが合図した。宝術:ティストリヤを使うとイスカが話していたから。よろけるフィロにはルベーノが手を貸して離脱する。
永遠の舞台はない。それを象徴する魔術。
ステージに上がり続け、降りたがらないナナ・ナインへぶつけるには相応しい。
サークルにため込んだ魔力が放出された。
「──っ!」
そのイスカの息が詰まった。ナナが、その腹に肘打ちを叩き込んでいたからだ。それでも、回した腕はほどかない。イスカはナナを離さない。想いの強さを伝えるように、強く抱きしめたまま、叫ぶ。
「貴女の感情を取り戻したいっ」
「そこまでです、ナナ・ナイン様」
体勢を立て直したフィロが、縮地移動で迫り、鎧徹しを叩き込んだ。シェリルが鞭を振るって逃げようとする足を絡め取る。先ほど自分が与えたダメージが、全て跳ね返ることになるのだ。
「ねぇ、ナナ………そろそろ、フィナーレ……だよ……?」
その上で自らも手裏剣を投擲。シェリルは強い瞳でナナを見据えた。
「殺しつくした先に……アナタのファンも誰もいない……誰にも届く事のない歌声……誰も魅せることのない……ダンス……それで、ナナは……幸せ?」
たくさんの言葉が重なって、ナナに届けられる様を、リクは見つめていた。このままいけば、倒せる。かなりダメージが入っている。それでも、ナナの顔は笑ったままだ。
その時、ナナがゆっくりと首を傾げ、リクと目が合った。その口が開く。
「誰」
「僕の事? 覚えなくていいよ、只の凡人だから」
「……だっけ☆」
……「誰だっけ」?
リクは戸惑った。自分と彼女はこれが初対面の筈だ。
しかし、その戸惑いは別のものになった。ナナがイスカの腕の中からかき消えたのだ。
「ナナちゃん!」
「はぁ!? ワープとか超ずるいっす!」
物理的に振り切られた時のために、幻影触手をスタンバイしていた神楽が目を剥いている。リクはユウと顔を見合わせて、
「僕、初対面の筈なんだけど……」
「誰かと間違えていたんでしょうか?」
ユウも困り顔だ。
「それか……」
シェリルが仮面を外して、思案げに頭を傾ける。乱れた赤毛がぱらりと落ちた。
「別の人のことを……考えていたか……だね……」
「何がバックについてたんだか……」
エニアがやれやれと首を横に振った。
ナナに逃げられはしたが、ハンターたちは確かな手応えを感じていた。
次にまみえることがあれば……決着がつくだろう。
ハンターたちは撤収を始めた。金剛不壊で持ちこたえたとは言え、フィロの傷は深い。傷を負わなかったハンターたちだって、災厄の十三魔の後に連戦がきくわけではない。ここで他のシェオルや歪虚に囲まれれば苦戦を強いられる。
戻る道すがら、カインはグラウンド・ゼロを振り返った。
飽きない上に、懲りない奴、ナナ・ナイン。
負のマテリアルが渦巻く中に、少女の高い声はもう聞こえなかった。
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相談卓 カイン・A・A・カーナボン(ka5336) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2019/07/10 07:10:36 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/07/08 10:15:59 |