• 血断

【血断】サード・リスタート

マスター:大林さゆる

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~7人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2019/07/12 07:30
完成日
2019/07/21 03:23

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 私は、独りだった。
 街中を歩くと、すれ違う人々の声が浮遊するように、私の心を過ぎていく。
 ある日、私は見つけた。
 演劇という素晴らしいものに。
 私の心は、炎が舞い上がるように高揚した。
 これが、私のやるべきことだと……。
 そろそろ、準備を始めるとしよう。
 世界は、私の手で作り上げていくのだ。




 朝、目覚めると、台所から母親の声が聴こえてきた。
 そうだな。
 そろそろ、起きないと遅刻してしまう。
 明日は、期末テストだ。
 ここ最近は、あまり寝た気がしないが、体調は良いな。
 朝食を済ませたら、出かけよう。
 いつもの場所で、アイツが待っているからな。
 




 グラウンド・ゼロ。
 オート・パラディンの集団が、黒いマスティマを狙い、マテリアルレーザーで攻撃を仕掛けていた。
『しつこい!』
 黒いマスティマは全ての攻撃を回避すると、すぐさまマテリアルライフルを解き放った。
 直線上にいたオート・パラディンは多大なダメージにより爆発して消滅していく。
「……そう簡単にはいかないようだが、だからこそ、お前は私の脚本に相応しいのだよ」
 黒いシルクハットを被り、白い仮面を付けた男……カッツォ・ヴォイ(kz0224)が、愛用の杖を振るい、さらにオート・パラディンたちを出現させ、黒いマスティマを取り囲んでいく。
『……断わると、言ったはずだ。いや、何度でも言う……あんたの思うようにはならない』
 黒いマスティマに搭乗していたのは、クドウ・マコトであった。
 カッツォは、滑稽だとでも言うように小さく笑っていた。
「ククク、お前も忘れた訳ではあるまい? 覚醒者たちの多くは、お前を裏切り者だと思っているのだぞ? そんなお前に、戻るところなど皆無。さあ、私の元へ来るのだ……クドウ・マコトよ」
『……あんた、本当にムカつくな。たとえ、堕ちた身だとしても、俺は、俺の意思で別の道を探し出す』
 クドウがそう告げた後、黒いマスティマはショートワープし、オート・パラディンたちを擦り抜け、後方へと移動していく。
「我が配下たちよ、黒いマスティマの中にいるクドウ・マコトを引き摺りだせ。決して、殺してはならぬ……奴は、使えるからな」
 オート・パラディンの集団は、カッツォの指示で、黒いマスティマを四方に陣取り、胴部を狙ってマテリアルブレードを叩き付けるが、破壊することまではできなかった。
『……うんざりだ』
 クドウは、ここ数日、カッツォに狙われ続けて、体力を消耗していた。
 黒いマスティマも、連日の戦闘で、残っている銃弾も残りわずかであった。
 おそらく、カッツォは長期戦でクドウの体力を消耗させ、力尽きたクドウを捕まえるつもりなのだろう。作戦としては単純だが、生け捕りにするにはカッツォにとっては、地味に効率が良かった。



 黒いマスティマが、オート・パラディンの集団と戦っている姿を目撃したというハンターたちが日に日に増えていった。
 さすがに連日、目撃証言が続くのは妙だと感じたマクシミリアン・ヴァイス(kz0003)は、現場へと向かった。
「……間違いない。あのオート・パラディンは、カッツォの手下だ。おそらく黒いマスティマを操縦できるクドウ・マコトを自分の戦力として取り込むつもりなのだろう。ヤツが考えそうなことだ。できれば、俺は……クドウ・マコトを助けたい」
 マクシミリアンの意見に共感したハンターたちが、ここに集結した。
 今後こそ、クドウ・マコトを救出する。
 そして、できれば、仲間として迎え入れたい。
 その願いを実現する時が、ようやく来たのだ。


 その刹那。
 オート・パラディンの集団を目掛けて走り抜けようとした時だった。
 錆びた骨のような装甲を持った四本足の巨体が姿を現した。
『我ハ……執行人ナリ。全テノ……人間ヲ、滅ボス……ソレガ、使命……』
 右手には大鎌を持ち、その立ち姿は、まるで死神にも似ていた。
 全ての人類を憎むような眼差しで、執行人と名乗った異形の者が、大鎌を振るった。
 炎のようなオーラが飛来して、ハンターたちの行く手を阻む。
「まずは、こいつを倒した方が良さそうだな」
 マクシミリアンは愛用の刀を構えて、攻撃態勢に入った。


 果たして、本当にクドウを救うことができるのか?
 そもそも、何が正しいことなのか?
 渦巻く感情の中、ただひたすらに立ち向かうしかなかった。
 多くのハンターたちは、邪神討伐を決意したのだから。

リプレイ本文

 執行人と名乗った死神のようなシェオル歪虚が、ハンターたちの前方に立ち塞がっていた。
 ユメリア(ka7010)は執行人と戦う前に、クドウ・マコトの様子を確認したかったが、黒いマスティマはオート・パラディンの集団に囲まれており、クドウの反応を見ることはできなった。
 黒いマスティマに乗っているクドウは、オート・パラディンとの度重なる戦闘により疲労しながらも、相手の攻撃を全て回避していたが、突如、出現した執行人に対応する余力はなかった。
 ハンターたちが自分の意思を明確にして、シェオル歪虚を倒すと決めたならば、クドウには異論はなかった。
 クドウは、ただひたすら、力ある限り、いや、たとえ力尽きたとしても、カッツォの捨て駒になる気は全くなかった。
 カッツォが、クドウに対して「覚醒者の多くは、お前のことを裏切り者だと思っている」と誘惑していたことは、駆けつけたハンターたちには知る由もなかった。
 共に邪神を、多くの人達の運命を救いたい…と、ユメリアは願っていた。
「クドウ様を助けたい気持ちはありますが……執行人を見過ごす訳にはいきません。この方もきっと、生前は正義を貫く想いをお持ちだったのでしょう。それ故に、『今』も自らを執行人と……ヒトであった頃の想いが、本能として残っているのかもしれません」
 ペガサスのシェーンに騎乗したリーベ・ヴァチン(ka7144)は、シェオル歪虚とは会話が成立しないことは分かっていた。
「お前達とお前達を救いたいと願い続けるあの子を、自分の駒としか見ない奴の為に戦って自分を貶めるな。自分の敵を間違えるな。マコトは、お前も救いたいと願っているはずだ」
 執行人と向き合うリーベ。
 戦闘は避けられないとしても、これだけは伝えたかった。
「ここは任せて、行ってこい!」
 岩井崎 旭(ka0234)は、イェジドのウォルドーフと隣接して占有スクエアを発生させ、『縛鎖の籠手』による巨大な幻影の腕を伸ばして、巨体の執行人を鷲掴みにした。
「時間との勝負だ! 脇を抜けて行け! マクシミリアン、頼むぜ!」
 イェジドのフォーコに騎乗したジャック・エルギン(ka1522)が『ソウルトーチ』のオーラを纏うと、執行人はジャックに引き寄せられていたが、旭が放った縛鎖の籠手によって、移動不能になっていた。
 マクシミリアン・ヴァイス(kz0003)は、執行人を倒すこと以外、救う術を知らなかった。
 シェオル歪虚が、元人間だったことは分かっている。だからこそ、延々と続く苦しみから解放させてやりたかった。
 マクシミリアンは『踏込』からの『強打』を繰り出し、愛用の刀を執行人の胴部に叩き込む。かなりのダメージを与えていたが、傷口は見る見るうちに再生していく。
「パラディンを攻撃するには、この位置からだと距離が足りないな。僕は、マコトを助けることを優先する。久我さん、フィロさん、リーベさん、一緒に飛ぼう」
 キヅカ・リク(ka0038)が搭乗したマスティマのエストレリア・フーガが『プライマルシフト』を発動させた。久我・御言(ka4137)が搭乗したコンフェッサーが身構え、フィロ(ka6966)の乗ったコンフェッサーはスキルトレースLv15の『金剛』を発動、ペガサスに騎乗したリーベが頷き、エストレリア・フーガは仲間と共にオート・パラディンの集団がいる近くまで転移していた。
「おお、キヅカ君。さすだな」
 御言が感嘆の言葉を告げ、コンフェッサーの『マテリアルライン』を起動させた。
「クドウ君、聞こえるかね? 私は、久我・御言だ。苦戦しているようじゃないか。疲れているなら休んでいても良いのだよ」
 繋げた機体は、クドウが搭乗する黒いマスティマだ。マテリアルラインが繋がると『クロスマインド』を発動させ、互いに繋がり合った機体の能力が強化されるのだ。
『……久我か……生憎と、休む暇はないな』
 オート・パラディンたちが、黒いマスティマに狙いを定めてマテリアルブレードを振り下ろすが、ディフェンダーを駆使したフィロのコンフェッサーが、敵の攻撃を受け流していく。
「クドウ様、確かに私達は一時道を違えたかもしれません。それでも私は、貴方が自分の正道のために行動した結果だと信じております。それが今そちらにいることで侵されるなら、どうかお戻りを。未来を憂い行動する者を全て締め出すほど、私達は、世界は、狭量ではありませんよ?」
 フィロはカッツォの動向を警戒して、搭乗しているコンフェッサーの『マテリアルバルーン』を駆使して疑似機体を出現させ、隣接しているオート・パラディン目掛けてスキルトレースLv15による『落燕』を繰り出した。
 


 その頃。
 荒れ果てた大地に、ユメリアの凛とした歌声が響く。
(正義は、諸刃の剣……故に、自らを戒め、守るべきものの為に立ち向かってゆきましょう)
 死神のような姿をしたシェオル歪虚の動きを阻害するため、ユメリアが『レクイエム』を唄っていたのだ。
「執行人とか言ったな。行かせねぇよ。人間を滅ぼす? そいつは無理ってもんだぜ。俺の仲間が、クドウ・マコトを助けたいって言ってんだ。ここで引く訳にはいかねーんだよっ」
 旭が『超覚醒』によって、守護者の力を解放……大精霊は相応しき時、相応しき想いにのみ行使を許すのだ。旭の全身に守護者の力が漲っていく。
「旭の言う通りだぜ。ここまで懸命にクドウを説得してきた仲間たちがいる……その想いを踏みにじることだけは、絶対にさせねーからな!」
 ジャックはバスタードソード「アニマ・リベラ」を構え、『チャージング』の勢いを活かした『衝撃波』を繰り出し、執行人の巨体を斬り裂いていく。
 マクシミリアンも愛用の刀で『衝撃波』を放つ。執行人の全身に、ジャックとマクシミリアンの衝撃波が迸り、多大なダメージを与えていたが、やはり執行人の身体は、次第に傷口が回復してしまう。
「予想以上に、再生が早えな」
 ジャックが固唾を飲む。執行人は大鎌を振るうと、炎のオーラを旭たちに狙いを定めて放ってきた。
 フォーコが、自分の背に乗っているジャックを守るように『スティールステップ』で回避。旭とウォルドーフは軽々と敵の攻撃を回避し、ペガサスのエーテルは地上にいたこともあり回避することができた。ユメリアは、敵の炎を幻盾「ライトブロッカー」で受け流すことができた。
 ユメリアが先手を取り、『プルガトリオ』の刃を解き放つ。無数の闇の刃によって、執行人は空間に縫い付けられるように移動不能になっていた。
「クドウ様の元へはいかせません」
「野心だとか利害だとか知ったことか。人を滅ぼす使命なんてのはお断りだ。俺たちは、前に進む! 手を伸ばし続ける! ただの善意が、そんなもんをブチ砕いてくのを見せてやる!」
 旭が魔槍「スローター」を振るい、『踊り狂う乱気流』の連撃を繰り出す。執行人の胴部に見事に命中し、多大なダメージを与え、さらに『縛鎖の籠手』を伸ばして執行人の身体を掴み、引き寄せる。
 イェジドのウォルドーフが、旭を援護するように『ブロッキング』を駆使して執行人を移動不能にしていた。
 すかさず、フォーコは狼牙「イフティヤージュ」による『ウォークライ』の咆哮によって敵を威圧し、ジャックがバスタードソード「アニマ・リベラ」と星神器「ヴァジュラ」の『二刀流』を執行人に繰り出し、続け様、腕輪「コリトゥリア」を使用した『アスラトゥーリ』の斬撃を放った。
 積み重なった連撃は、敵の胴部を貫き、再生する余裕もなく、執行人の身体は砕け散り、破片が砂のように飛び散ると、一瞬のうちに消滅していった。
「次は、パラディン対応に当たってるキヅカたちの援護にいこうぜ。カッツォの野郎、俺らが自滅するトコを見物したいとか言ってたからな」
 ジャックがそう告げると、旭が応えた。
「そういうことなら、善は急げだな。いくぞ、ウォルドーフ!」
 旭はイェジドのウォルドーフに騎乗して、オート・パラディンの集団を目掛けて駆けていこうとするが……。
「ジャック、俺は念の為、ここに残る。他にもシェオル歪虚が出没するかもしれんからな」
 マクシミリアンの危惧は、尤もだ。
「分かった。この場は、任せるぜ。人助けも良いが自分のことも大事にしろよ。お前が無茶すると、心配するヤツもいるからな」
 ジャックが意味ありげに言うと、マクシミリアンは無言で頷き、微かに笑っていた。
「その笑顔、誰かさんにも見せてやれよ!」
 少し茶化すようにジャックが言うと、彼を乗せたフォーコが走り出した。
「フォーコ、お前のことも頼りにしてるぜ」
 オート・パラディンが放つマテリアルレーザーを受け流しながら、フォーコはジャックを背に乗せ、エストレリア・フーガが居る場所まで駆け抜けていく。
 旭と言えば、マクシミリアンがシェオル対応として残ると聞いて、戻ってきた。
「言われてみりゃ、その可能性もあるよな。シェオル歪虚を引き付けるのは、俺に任せてくれよな」
 心強い笑みを浮かべる旭に対して、マクシミリアンは「助かる」とだけ呟いた。
 ユメリアは、飛翔の翼で飛行するペガサスのエーテルに騎乗していたこともあり、エストレリア・フーガが居る近くまで移動することができた。



 一方。
 リクが搭乗するエストレリア・フーガが『ブレイズウィング』を噴射し、射程に入ったオート・パラディン一体が抵抗する術もなく、三回攻撃による多大なダメージを受けて消滅したかと思うと、その場で爆発が起こった。幸い、フィロのコンフェッサーが作り出したマテリアルバルーンが楯となり、巻き込まれた者はいなかったが、油断は禁物だ。爆発を喰らった疑似機体が、消滅しているからだ。
「ふむ、やはり、フィロ君の行動に間違いはない」
 そう確信した御言は、自身が搭乗するコンフェッサーもまたシールド「スプートニク」を発動体とした『マテリアルバルーン』を駆使して、黒いマスティマを守るため、疑似機体を三体、作り出した。そして、隣接するパラディンに至近距離からの『マテリアルフィスト』を繰り出す。衝撃と同時にマテリアルを流し込み、相手の防御力を貫通してダメージを与え、パラディン一体が粉々に砕け散り、爆発すると消え去った。
 御言のコンフェッサーは爆発に巻き込まれたが、黒いマスティマは疑似機体一つが盾となり、ダメージを喰らうことはなかった。
「クドウくん、無事のようだね、例え君がどんな選択をしようとも、私は君の戦友だ。黒いマスティマに乗ろうが、強化人間だろうが関係は無い。私は、クドウくん。君だからいまこうやって声をかけている」
 御言がマテリアルラインの通信で、黒いマスティマに搭乗しているクドウに話しかける。
『……すまない……』
 クドウは、この時、初めて……いや、ヒトだった頃の感情が芽生え始めていた。
 あんなに、酷いことを言ってしまったのに……御言は今でも変わらず、戦友として接してくれる。
「ほほう、美しい友情というものは、戦場でも花開くものなのだな」
 カッツォ・ヴォイ(kz0224)が、オート・パラディンの肩に乗り、愛用の杖を構えていた。
「やっぱり出てきやがったな、カッツォ!」
 ジャックがフォーコから飛び降り、星神器「ヴァジュラ」を構え、『兵主神』の力を解放させた。
 コンフェッサーに搭乗しているフィロが、『マテリアルフィスト』を繰り出し、カッツォを肩に乗せたオート・パラディンの胴部に自機の拳を叩き込み、衝撃と共にマテリアルを流し込むと、パラディンの防御力を貫通して多大なダメージを与えていた。
 カッツォが素早く飛び降りた瞬間、パラディン一体が爆発して消え去っていった。御言のコンフェッサーが作り出した疑似機体2体が爆発に巻き込まれ、消滅していく。
 フィロがコンフェッサーの簡易スピーカーを使って、カッツォに呼びかける。
「伺いたいことがあったのです、カッツォ様。貴方はよく演出家を名乗られる。貴方はどんな演出を望まれているのでしょう。その演出が成ったとして、その後何を望むのでしょう。貴方からは、誰かに自分の望みを演じさせる、その望みしかないように見受けられます。先を考えず手段のみを目的にしているように思います。演出に、その演出の先に、何を望むのか。答えることすらできませんか、カッツォ様」
「ククク、貴様の言うことは、半分当たっているが、半分は異なる。全てを理解しようなどとは、たとえ神でさえできないのだよ。現に、エバーグリーンは、自分の世界を犠牲にしているではないか」
 カッツォが皮肉交じりに応えた。
 フィロは冷静を装っていた。カッツォと会話することで、自分に注意を向けさせ、クドウに毒を含んだ甘言を告げる機会を奪うのが狙いだった。
 だが、カッツォの言い分は、フィロの脳裏に浮かび上がる記憶に、重く圧し掛かるように強く突き刺さった。
 怒りを隠せなかったのは、ジャックだった。
「カッツォ! 俺らの足掻きが自滅となるか、光明を見出すか、大人しく見てろ!」
「ジャック・エルギン、この私が、ただ黙って見ているだけかと思っていたのかね?」
 カッツォは激しく地を蹴ると、その反動を活かしてジャックの前方へと飛び込み、愛用の杖を突き刺す。が……兵主神の鉄壁の防御により、ジャックにダメージを与えることができなかった。
「今のは、カウンターじゃねーな。お前も自分から攻撃をしかけることがあるんだな」
 ジャックは、カッツォのカウンター対策として兵主神の力を発動させていたが、カッツォからの攻撃も無としていた。
「反撃に備えた力が、私の攻撃を封じるとは……貴様も、ついに守護者になったということか。これは、面白いことになってきたな、ククク」
 カッツォは楽しくて仕方がないとでもいうように、低く笑っていた。
「何が言いたい?」
 眉を顰めるジャック。
 カッツォが、頷く。
「フフフ、貴様ほどの人間が、守護者になるのは当然だと思っていたところだよ」
「知った風に、言うんじゃねぇよ。お前が大人しくできねーのなら、ヒトの……心の守護者として、俺は戦うぜ」
 ジャックは、正面からカッツォと対峙していた。
 この機を逃すな!
 ジャックの想いと共鳴するように、リクが搭乗するエストレリア・フーガが、インジェクションによってスキルチャージした『プライマルシフト』を発動させた。
「マコトは、僕の……オレたちの仲間だ!」
 誰がなんと言おうとも、リクにとって、マコトは大切な仲間だった。
 いや、過去形ではない。現在進行形だ。
「この介入は依頼じゃない。僕個人の意思だ!」
 エストレリア・フーガのプライマルシフトによって、クドウが搭乗した黒いマスティマが転移。
 カッツォから離れた場所まで、黒いマスティマを転移させることができたのだ。
 これには、カッツォも驚きを隠せなかった。
「クドウの黒いマスティマが転移だと?」
 この連日、カッツォは黒いマスティマを執拗に狙っていたが、すでにプライマルシフトは使い切ったはずだ。
「誰が、黒いマスティマを転移させたのだ?!」
「僕のエストレリア・フーガも、マスティマだよ。マコトは僕の仲間だからね」
 リクが、簡易スピーカーを使い、応えた。
「これは、計算外だったな。だが、劇にはアドリブが付き物。実に、素晴らしい演出だ」
 カッツォは、感慨深く言うと、指を鳴らし、何者かの力によって瞬間移動して、その場から姿を消していた。



 黒いマスティマは、連日の戦闘で機体が傷ついていた。
 ユメリアが近寄り『フルリカバリー』を施すと、黒いマスティマが回復していく。
「良かった……機体も治癒することができたようです」
 安堵するユメリア。
「クドウ様、一方的に触れること、ご容赦ください」
 黒いマスティマに搭乗しているクドウは、コックピットから降りてくることはなかった。
 ジャックは、カッツォの動向を警戒して、周囲に注意を払っていた。消えたと思っても、ここに黒いマステイマがいる限り、再びカッツォが現れる恐れもあった。
「今度こそ、邪魔はさせねーからな」
 あの時の……二の舞だけは避けたかった。クドウの説得にいかないのは、ジャックの気遣いなのだろう。
 リーベは、飛行するペガサスに騎乗して、黒いマスティマの前方に移動した。
「マコト、無事か?」
『……平気だ』
「気に障ったらすまない。お前は歪虚になりたいと願ったのではなく、結果としてそうなってしまった……違うか?」
『……望んで、こうなった訳ではないと問われたら、そういうことになる。俺自身、何故、こうなってしまったのか、あまり覚えていないんだ』
 クドウは、どこか寂しそうな声をしていた。
 御言が、コンフェッサーのマテリアルラインを使い、クドウと通信を取った。
「クドウ君。答えは見つかったのかね? 先日、シェオルを庇った君を見て、確信したのだよ。君はやはり信じるに足る存在だとね」
『……。……俺も、今なら、あんたらの言うことも、信じられる気がする』
 クドウがそう告げると、エストレリア・フーガに搭乗したリクが、簡易スピーカーを使い、懸命に話しかけた。
「マコト、お前はヒトだ。温かかった思い出も、心の痛みも解る……だだの人間だ!
 僕はね、マコト……家族の温もりが、解らないんだ。受験戦争に負けて、期待されなくなって、唯一の繋がりはテーブルにある食費の千円だけ。だからマコトが羨ましかったんだ」
『……羨ましい? どうしてだ?』
「だって、マコトは家族のこと、今でも大切な存在なんだろう? こんな僕にヒトの暖かさを教えてくれたクリムゾンウェストを諦めたくない。マコトが大事にしていた想い出があったリアルブルーを、あの日々を無かった事になんかしたくない!」
『ああ、俺だって、そうだ』
 クドウは、想いを噛みしめるように応えた。
 ペガサスのエーテルが飛翔の翼で飛び上がると、その背に乗っていたユメリアが、クドウに声をかけた。黒いマスティマのモニター越しには、ユメリアの姿が映っていた。
「変わりたいと想う心。その願いは、私もクドウ様も心を持つという同じ存在の証左。
 共に変わり、未来を変えましょう。幸せで平凡な毎日は胸の中にある。その光景が今はもうないとしても、誰かの為にその光景を作り出すことはできる。
 街角で学友が待つ、そんな街を。その温かい思い出が明日を創ることができるんです。
 その道を閉ざさない為にも」
『……そんな未来も、悪くはないな。普通に暮らしていた頃が……懐かしいな』
 どことなく、クドウの声が優しくなっていた。
 リーベは、想いの丈を告げた。
「私は、お前と共にシェオルを救いたい。邪神から解放された世界の再誕……少しでも可能性があるのなら、その道も模索していきたいんだ。
 前から思ってたが、強いというのは、痛みに鈍いという事でもある。痛みが解らない者は本当に強いか? 個々を知りもせず勝手に決める奴が考えた救いなんか欲しいか? 私は嫌だね。この中で物理的に最弱で簡単に死ぬ私だが! 血濡れの悲劇を綴るより救いの歌劇で覆したい。
 私はお前を信じている。信じるとは、自分が望んだ結果になるのを望む事ではなく、その選択を否定しない事……お前だからいい」
 そして、リクが言った。
「僕はファナティックブラッドも救いたいと思ってる。マコトは仲間だと思うから、僕は…オレは今ここにいる!
 もう家族を護ることは出来ない。けど、想い出を護ってやれるのはこの世界で証明できるのは誰でもない、お前自身なんだよ!
 世界は…神は僕らを救わない。だから…救うんだ。
 俺が、お前が…俺たちが! その為に、迎えに来たんだ。ヴォイドだって良いじゃん。光と闇が合わされば……最強にみえるだろ?」
『そうか。そこまで言うのならば、それは黙示騎士たちを救うことも含まれているのか?』
 クドウが、皆に問いかけた。
 しばらく沈黙が続いたが、御言がマテリアルラインで、クドウに話しかけた。
「シェオルを庇った君ならば、そう考えていても不思議ではないな。クドウくん、私は君を尊重し、君の意思を尊敬する。例えどうなろうともそれだけは変わらない。
 間違っていると感じたなら止めてあげよう。
 君がこちらに帰ると言うなら、世界が君に死ねと言おうが、そんな輩はぶんなぐってでも抗おう」
『久我、そう言ってもらえると助かる。俺にとって、黙示騎士たちも仲間だ。カッツォは、俺と覚醒者たちを切り離そうとしていたが、俺には他にも戻る場所があるんだ』
 クドウがそう告げると、ユメリアは察した。
「黙示騎士たち……ですね。分かりました」
 本当は、自分たちの元へと来てほしかった。だが、クドウには、他にも戻る場所があったのだ。
 ここで強引に引き止めたら、カッツォと同じことになってしまう。
「クドウ様が、そう望むのであれば、黙示騎士たちの元へと戻ってください」
『……ありがとう』
 そう一言、告げた後、クドウはテセウスに呼びかけ、次の瞬間、ワープして、その場から黒いマスティマが消え去った。



 その後、新たなシェオル歪虚が出没したが、クドウには知る術がなかった。
『我ハ……執行人ノ秘書ナリ……正義ノ元ニ……人類ヲ……滅スル』
「執行人の秘書だと? 仲間たちの邪魔するなら、叩き潰すだけだっ!」
 旭が『精霊纏化』で巨大化し、魔槍「スローター」を構えて『踊り狂う乱気流』を繰り出すと、四本足のシェオル歪虚が砕け散り、粉々になって消滅していった。
 振り向くと、黒いマスティマの姿はなかった。
「いっちまったか、クドウ。自分の世界を守りたい……そういうことだろ? だったら、根っ子は俺たちと一緒だ」
 旭は、クドウとは分かり合える……そんな想いが過っていた。


 その頃。
 ジャックは、黒いマスティマが消えた場所を見遣ると、暗いどんよりとした空を見上げた。
「クドウ……また会えるよな?」
 誰にでも、戻れる場所がある。
 黒いマスティマは、黙示騎士たちの元へと戻っていった。
 それが、クドウ自身の意思ならば、いつかきっと、互いに笑い合える日が来てほしい。
 そう願わずにはいられなかった。

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MVP一覧

  • 戦地を駆ける鳥人間
    岩井崎 旭ka0234
  • 未来を示す羅針儀
    ジャック・エルギンka1522
  • ゴージャス・ゴスペル
    久我・御言ka4137

重体一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸ka0038
  • 戦地を駆ける鳥人間
    岩井崎 旭ka0234

参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    エストレリア・フーガ
    エストレリア・フーガ(ka0038unit012
    ユニット|CAM
  • 戦地を駆ける鳥人間
    岩井崎 旭(ka0234
    人間(蒼)|20才|男性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    ウォルドーフ
    ウォルドーフ(ka0234unit001
    ユニット|幻獣
  • 未来を示す羅針儀
    ジャック・エルギン(ka1522
    人間(紅)|20才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    フォーコ
    フォーコ(ka1522unit001
    ユニット|幻獣
  • ゴージャス・ゴスペル
    久我・御言(ka4137
    人間(蒼)|21才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    コンフェッサー
    コンフェッサー(ka4137unit005
    ユニット|CAM
  • ルル大学防諜部門長
    フィロ(ka6966
    オートマトン|24才|女性|格闘士
  • ユニットアイコン
    コンフェッサー
    コンフェッサー(ka6966unit004
    ユニット|CAM
  • 重なる道に輝きを
    ユメリア(ka7010
    エルフ|20才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    エーテル
    エーテル(ka7010unit001
    ユニット|幻獣
  • 負けない強さを
    リーベ・ヴァチン(ka7144
    ドラグーン|22才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    シェーン
    シェーン(ka7144unit002
    ユニット|幻獣

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/07/10 08:28:39
アイコン 【相談卓】撃退し、手にする値
ユメリア(ka7010
エルフ|20才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2019/07/11 20:29:07