ゲスト
(ka0000)
【血断】新兵達の戦場
マスター:赤山優牙
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/07/11 07:30
- 完成日
- 2019/07/21 21:37
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
戦場は非情だ。
例えば、一緒に出撃した同期が、基地に帰還する時には“居ない”という事はあり得る。
無事に戻ったとしても、腕や足を失い――あるいは精神面で立ち直れなくなり、後方に送られる事だってあるかもしれない。
ましてや“新兵共”は練度が低く、そうなる可能性は高いだろう。
「まぁ、そんな訳でさ。俺もなんだかんだ言いながら、まだ生きてるけど……」
緊張した顔つきの“新兵共”の前で、リー少尉の話が続いていた。
強化人間としても、覚醒者としても、実戦経験がある彼の話を聞いている、まだ初陣していない兵士達に緊張するなという方が無理があるだろう。
そういうリー少尉自身も、初陣の時はそれは酷いものだったが。
「兎に角、生き残るのが、お前らの最初の仕事だ」
戦術や戦略は偉い人が考えればいい。
一兵卒は与えられた仕事の中で、いかに効率的に、そして損害を最小限に抑えて勝利するかを求めればいいのだ。
「装備は高価で大事だが、まずは任務を達成して、五体満足で帰る事、いいな」
「「「はいっ!」」」
ビシっと姿勢を正して、答える“新兵共”。
本当に分かっているのだろうかと心配になるリー少尉だったが、あまり深く突っ込まない事にした。
ああは言ったが、結局、戦場に立てば何が起こるか分からない。
死ぬ奴は死ぬし、生き残る奴は生き残る。
「お前達の出撃は明朝だ。最後の晩餐にならないようにな」
冗談で言ったつもりだったが、“新兵共”にはマジに受け止めたようだ。
不安になる反応に、リー少尉は心の中で苦笑を浮かべる。
この“新兵共”と亡くなった恩人の息子とでは、なぜ、こうも差があるのだろうと。
●
自室に戻ったリー少尉はベッドで転がりながら明日の作戦について考えていた。
月面基地から出撃し、宙域を不気味な軌道周期で飛来してくる中型狂気――擬人型第三種に対して攻撃、殲滅させる作戦だ。
戦力としてはギリギリだった。幸いな事にリー少尉の上司は“新兵共”の保険としてハンター達を雇ってくれていた。
「……別に、戦力を別々にしておく必要もないか」
セオリーでいえば、精鋭は精鋭で組ませておいた方がいいだろう。
だが、リー少尉の頭の中で、別の事が閃いていた。
「ハンター達に“新兵共”を付けて、一緒に戦ってもらう……その方が、良い刺激になるかも」
初陣で心折れてしまう者もいる。
戦場がどのようなものか想像よりも酷く、心に大きな傷を負ってしまうのだ。
それなら、戦場とは、どういうものなか知りつつ、かつ、『初陣を勝利で飾る』というのは、モチベーション維持にはいいかもしれない。
戦いに臨んだけど、負け戦ばかりで死んだ……と、一度でも良いから勝った事があるでは、気の持ちようが違うはずだ。
「ハンター達には余計な“荷物”を背負う事になるかもしれないけど……」
それでも、彼ら彼女らなら、やってくれる。やり遂げてくれるとリー少尉は思った。
「戦闘経験もハンター達は豊富だろうし、実はすごく良いかもしれない」
そんな訳で、リー少尉は急いで上司の部屋へと向かうのであった。
●
月面基地から出撃したリー少尉と数人の“新兵共”。
行先は、中型狂気の通過ポイントだ。
「彼奴らは自分達が彗星かなにかと勘違いしているようで、大きな楕円軌道を描いて飛んでくる。実害はないが、放置しておく訳にもいかない」
もしかして、虎視眈々と月面基地を狙っているかもしれないからだ。
だったら、倒せる時に倒しておいた方が、憂いが無いというもの。
「各機、打ち合わせ通り、ハンター達の指示下に入れ」
「「「了解」」」
“新兵共”の返しにリー少尉は頷くと、自機を戦列から外した。
そして、CAM用の巨大な望遠レンズを構える。
彼には“新兵共”の初陣の案内役と共に、その戦闘の様子を記録する任務があった。
「さて……悲鳴はいつだって聞きたくはないけど……できれば、誰一人、落とされる事なく無事に帰りたい所だ」
ボソボソと呟くようにリー少尉は言った。
ハンター達の力量は疑う所はない。それでも完全無欠ではない。
守り切れず攻撃を受けてしまう場合もあるだろう。その結果、致命的な事になる場合も。
それでも、他の生き残りが任務を達成するはずだ。
「これは、甘やかしているんじゃない。戦士として立ち上がろうとする奴らの一歩を、促して見守る、大事な事なんだ」
リー少尉のモニターに中型狂気の姿が映ったのはこの直後の事だった。
戦場は非情だ。
例えば、一緒に出撃した同期が、基地に帰還する時には“居ない”という事はあり得る。
無事に戻ったとしても、腕や足を失い――あるいは精神面で立ち直れなくなり、後方に送られる事だってあるかもしれない。
ましてや“新兵共”は練度が低く、そうなる可能性は高いだろう。
「まぁ、そんな訳でさ。俺もなんだかんだ言いながら、まだ生きてるけど……」
緊張した顔つきの“新兵共”の前で、リー少尉の話が続いていた。
強化人間としても、覚醒者としても、実戦経験がある彼の話を聞いている、まだ初陣していない兵士達に緊張するなという方が無理があるだろう。
そういうリー少尉自身も、初陣の時はそれは酷いものだったが。
「兎に角、生き残るのが、お前らの最初の仕事だ」
戦術や戦略は偉い人が考えればいい。
一兵卒は与えられた仕事の中で、いかに効率的に、そして損害を最小限に抑えて勝利するかを求めればいいのだ。
「装備は高価で大事だが、まずは任務を達成して、五体満足で帰る事、いいな」
「「「はいっ!」」」
ビシっと姿勢を正して、答える“新兵共”。
本当に分かっているのだろうかと心配になるリー少尉だったが、あまり深く突っ込まない事にした。
ああは言ったが、結局、戦場に立てば何が起こるか分からない。
死ぬ奴は死ぬし、生き残る奴は生き残る。
「お前達の出撃は明朝だ。最後の晩餐にならないようにな」
冗談で言ったつもりだったが、“新兵共”にはマジに受け止めたようだ。
不安になる反応に、リー少尉は心の中で苦笑を浮かべる。
この“新兵共”と亡くなった恩人の息子とでは、なぜ、こうも差があるのだろうと。
●
自室に戻ったリー少尉はベッドで転がりながら明日の作戦について考えていた。
月面基地から出撃し、宙域を不気味な軌道周期で飛来してくる中型狂気――擬人型第三種に対して攻撃、殲滅させる作戦だ。
戦力としてはギリギリだった。幸いな事にリー少尉の上司は“新兵共”の保険としてハンター達を雇ってくれていた。
「……別に、戦力を別々にしておく必要もないか」
セオリーでいえば、精鋭は精鋭で組ませておいた方がいいだろう。
だが、リー少尉の頭の中で、別の事が閃いていた。
「ハンター達に“新兵共”を付けて、一緒に戦ってもらう……その方が、良い刺激になるかも」
初陣で心折れてしまう者もいる。
戦場がどのようなものか想像よりも酷く、心に大きな傷を負ってしまうのだ。
それなら、戦場とは、どういうものなか知りつつ、かつ、『初陣を勝利で飾る』というのは、モチベーション維持にはいいかもしれない。
戦いに臨んだけど、負け戦ばかりで死んだ……と、一度でも良いから勝った事があるでは、気の持ちようが違うはずだ。
「ハンター達には余計な“荷物”を背負う事になるかもしれないけど……」
それでも、彼ら彼女らなら、やってくれる。やり遂げてくれるとリー少尉は思った。
「戦闘経験もハンター達は豊富だろうし、実はすごく良いかもしれない」
そんな訳で、リー少尉は急いで上司の部屋へと向かうのであった。
●
月面基地から出撃したリー少尉と数人の“新兵共”。
行先は、中型狂気の通過ポイントだ。
「彼奴らは自分達が彗星かなにかと勘違いしているようで、大きな楕円軌道を描いて飛んでくる。実害はないが、放置しておく訳にもいかない」
もしかして、虎視眈々と月面基地を狙っているかもしれないからだ。
だったら、倒せる時に倒しておいた方が、憂いが無いというもの。
「各機、打ち合わせ通り、ハンター達の指示下に入れ」
「「「了解」」」
“新兵共”の返しにリー少尉は頷くと、自機を戦列から外した。
そして、CAM用の巨大な望遠レンズを構える。
彼には“新兵共”の初陣の案内役と共に、その戦闘の様子を記録する任務があった。
「さて……悲鳴はいつだって聞きたくはないけど……できれば、誰一人、落とされる事なく無事に帰りたい所だ」
ボソボソと呟くようにリー少尉は言った。
ハンター達の力量は疑う所はない。それでも完全無欠ではない。
守り切れず攻撃を受けてしまう場合もあるだろう。その結果、致命的な事になる場合も。
それでも、他の生き残りが任務を達成するはずだ。
「これは、甘やかしているんじゃない。戦士として立ち上がろうとする奴らの一歩を、促して見守る、大事な事なんだ」
リー少尉のモニターに中型狂気の姿が映ったのはこの直後の事だった。
リプレイ本文
●
「それじゃ、よろしくお願いします。俺は後方から通信担当しますんで」
リー少尉がハンター達に言った。今回は新兵の教練を兼ねた討伐依頼だ。
彼が積極的に前に出るのは主旨に反するし、もっと正確に言うと、彼の力量なら出て来ない方が、まぁやりやすいなと内心、アニス・テスタロッサ(ka0141)は思う。
オリアス・マーゴ(R7エクスシア)(ka0141unit004)のコックピット内で随伴する新兵達の機体をモニターで確認しながら、アニスは言った。
「リー、此奴ら、編隊を組む程度の訓練は当然、受けてるって事でいいんだな?」
「そりゃ、それ位できないと危なっかしいから大丈夫だぜ……シミュレーション上の話だけど」
「マジかよ……」
衝撃的な事実にアニスは絶句する。
質の悪い冗談ならいいのだが……ゆらりゆらりと位置が定まらない新兵の機体を見ていると不安だ。
アニスの下には魔法適正とサクラメントでカスタムされたR7エクスシアが2機同行している。
兵装はマテリアル武器と弾兵装のマシンガンの携帯していた。
「あの……アニスさん。このカスタムなのに実弾兵装を持って来てよかったのでしょうか?」
如何にも新兵ですって雰囲気を全身から発している若い女性――カズミ カワモト――が尋ねてきた。
カスタマイズの方向性上、実弾兵装は似合わないので疑問を抱くのも無理はないし、そこに気が付くだけ、まだ、“マシ”というものだ。
「死にたくなきゃ必ず持ってくんだな。理由は……その内、分かる」
「ヒュー。可愛い声してるけど俺らの教官はクールだぜ」
「ジェラード、てめぇは真っ先に死ぬから、簡単に死なねぇようにケツの穴、引き締めて操縦桿握れよ」
くだらない事をいう青年の新兵――ジェラード・モーリ――にスラングで返すと、アニスはスロットルを回し機体を加速させた。
その動きは洗練された弧を描く。
単に加速して進んだだけだが、動作一つ一つが熟練したCAM乗りだからこそのものだろう。
「ついてこい。それと、フィールドの展開忘れんな。動けなくなっても助けねぇぞ」
「わかってるって! 気の強い女は、俺は好きだぜ」
「……私、このままでいいや」
新兵カズミがボソっとそんな言葉を呟いた。
意外と面倒見が良いな――と、内心でキヅカ・リク(ka0038)は思いしつつ、コホンと咳払いする。
そんな事、当の本人に言ったら悪態ついた返事が来そうだし、折角、やる気になっている所に水を差す訳にもいかない。
「それにしても、このタイミングで初陣っていうのは……なかなか運が悪いのかな」
「いや、まぁ、運が良い方なんじゃないかな。多分、俺も含め、この隊は月面基地の防衛に回されるだろうし」
リー少尉がそう説明した。
それでも、それが“運が良い”とは限らないのだが。
「今日の面子は結構充実してる。だから、僕も……少しは良い所見せますか!」
「守護者の機体……なだけに、期待しちゃていますよ!」
気合を入れたキヅカの想いをぶったぎるようなリー少尉のくだらないダジャレに通信がお通夜状態となる。
その沈黙が、新兵達の不安を如実に表していた。
「だーいじょうぶ。皆、死なないよ。テッサやミグさん、龍崎さんも居るしね」
「そうだ。何だって良い、下らねーことでも、我欲がある奴が意外と残るからな」
含みがあるような言い方でKoias(コンフェッサー)(ka0178unit005)に乗る龍崎・カズマ(ka0178)が言う。
そういえば、リー少尉はなんだかんだ言いながら生き残っている。もっとも、彼を見習うのはどうかとは思うが。
「でもあれだ、フラグは立てるなよ? 基地に彼女がいるとか、帰ったら告白するとか、花束も準備してあるとか、そういったやつはいねーか?」
雰囲気がこれ以上、重くならないようにカズマが軽い感じで新兵達に呼び掛けた。
戦場には謎のジンクスがあったりする。いつ、誰が言い出したかも分からないが、ゲン担ぎみたいなもの……なのかもしれない。
「彼女とか入る訳ないし、いや、というか死ぬ前に彼女が欲しかったです!」
活気の良い少年兵――ハインツ・グラフ――のある意味必死な声が通信機から響いた。
この隊の中では彼が最年少だ。カズマはふと、よく知っている少年の姿を頭に思い浮べた。
「カ、カズマ隊長は、そ、そんな人、居るんですか?」
照れるような声でカズマ機に随伴しているフリア・ヘラルドが尋ねる。
知らないという事は時として残酷というものだ。またもや、通信が沈黙するかと思ったが、すぐにカズマが返した。
「大切な人はいるさ」
「はぁ~。そうなんですね……」
少し残念そうなもの言いでフリアが感想をもらす。
所詮はジンクスだ。信じるのも信じないにも勝手な事――と思いきや、時音 ざくろ(ka1250)が魔動冒険王『グランソード』(刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」)(ka1250unit008)の中から声を発した。
「カズマさん、その話、本当なんですか? 拠点に彼女が待ってるとか、帰ったら(愛の)告白するとか、花束も準備してあるとかって!」
どうやら、ハーレム王であるざくろには、思い当たる節が幾つかあるようだ。
フラグが乱立している――と言っても過言ではないだろう。
「あくまでも、そういう戦場での小話だ。気にするな」
苦笑を浮かべながら答えるカズマ。
すかさず、刻騎ゴーレムに乗るサクラ・エルフリード(ka2598)が新兵達に補足するように伝えた。
「愛する人が、何人もいれば……フラグが、相殺しあう、かもしれません……」
「えぇー。時音さんは、女ったらしだったの!? 意外ぃー!」
わざとらしい驚きの声をあげたのは、ざくろ機に随伴している新兵――オリーヴァ・リエル――だった。
「人は、見た目で判断しては、ダメという事です……」
「うぅ……フォローになっているのか、なっていないのか、分からないよ、サクラ。と、とにかく、一緒に頑張ろうね、オリーヴァさん」
「はーいっ」
聞いているのか聞いていないのか軽すぎる返事に心配になる。
これがユニット戦でなければラキスケ案件だったかもしれないと思うと、ざくろは身震いした。これ以上、フラグを立たせては危ないと。
シュバリエ(R7エクスシア)(ka2651unit003)の機体調整を確認しつつ、ヴァルナ=エリゴス(ka2651)は、受け持った新兵の機体をモニターに映した。
不慣れな操縦がやや怖い所がある。
「こちらから討って出るのは、備えて待つよりか、気は楽ですね」
邪神の勢力は強大だ。圧倒的な物量に押され、何がなんだか分からないという事は、この戦場にはない。
「こちらの準備は万全です」
青年――トゥリオ・グエリーニ――の真面目な声が聞こえてきた。
ヴァルナが見るに、青年は優等生タイプのようだ。確りと自分の言葉も聞き、復唱も忘れない。
「敵を討ち、無事に帰る。それが出来るよう力添えしましょう……どうか、何事も無く終わりますように」
「ご教授、よろしくお願いします」
新兵は緊張しているようだが、後は戦場に出て……からだろう。
張り詰めたものを解すようにキヅカが全機に伝えた。
「焦ってもいい。慌ててもいい。その時“助けて”とだけいうことだけ覚えてれば、後は、僕らがどうにかするから」
頼もしい言葉は普段なら気休めに聞こえるが、守護者たる特別な機体を目の前にすると妙に納得するのは何故だろうか。
助けを求めれば、彼は文字通り、どうにかしてくれるはずだ。
「キヅカの言う通りじゃ。危ないと感じたことを素直に言えるのは大事じゃからな」
ヤクト・バウ・PC(ダインスレイブ)(ka0665unit008)のコックピットの中で、ミグ・ロマイヤー(ka0665)がうんうんと何度も頷きながら言った。
自称ロリババアな婆さんだが、初々しい新兵は好きだ。新兵は練度という点において熟達者と比べれば劣っているかもしれない。
だが、この先、居なくてはならない戦力であるのは間違いない。誰しも“新兵”という道を通っているのだから。
「だから、遠慮はいらん。恐ろしくも頼もしい女海賊みたいな婆さんを、ミグは目指しているからの」
「もう、どこまでも付いていきますよ! ロリっ子大好きですから、オレ!」
「ルスタン・ゴルブノフじゃったか? 言っておくが、ミグはロリっ子ではなく、ロリババアじゃ!」
筋肉隆々のその新兵は、隊の中では年長者というが……精神年齢的には、大分と低いかもしれない。
通信に流れたミグの叫び声に応じるように、甲高い女性の声が返ってきた。マルグレット・ハグベリというのが彼女の名前だ。
ミグは事前に渡された資料の内容を思い出した。彼女は以前“アプリの使用者”だったらしい。その後の経過は黒く塗りつぶされていたが、覚醒者に上書きしているはずだ。
「この男に何言っても無駄ですよ。むしろ、後ろから撃ち抜いた方が後々の為に良いと思います」
「そりゃないぜ! オレはロリっ子が好きなんじゃなくて、ロリ以外も好きなんだぜ」
「……気持ち悪い。キヅカさん、ミグさん、この人からの助けには応じなくていいですからね」
その言葉に悲鳴を上げるルスタンの声に、新兵達の笑い声が続いた。
少しは場の空気も和んだ――かもしれない。
瀬崎・統夜(ka5046)は黒騎士(魔導型デュミナス)(ka5046unit001)のモニターに敵影が映ったのを確認した。
いよいよ、戦闘開始だ。各機の警報アラームが通信機を通して聞こえてくる。
(この時期に新兵の引率とはまた……死なせたくはないな。昔を思い出しちまう……)
黙するように統夜は軽く目を瞑った。
自身に受け持ちの新兵はいないが、だからといって手を抜いて言い訳ではない。
むしろ、戦場全体を見渡し、フォローしていく大事な役目があるのだ。
「じゃあ、少しでも楽になるように、してやるか!」
眼を見開くとスロットルを一気に限界まで回す。
魔導エンジンの轟音がコックピットに響くと同時に、機体は一気に加速したのであった。
●
先行したのは統夜の機体だった。
デブリを物ともせずに複雑な軌道を描いて、黒き機体はマテリアルの光を残す。
ブースターをパージする音がコックピット内に響いた。ハイパーブーストと機動用スラスターを併用しての高速移動だ。
(見本となるべきこっちが、基礎を疎かにするのは格好がつけねえもんな)
間違ってもデブリと衝突しようものなら恥さらしだろう。
後続の位置を確認しつつ、4連カノン砲を構えた。十分に射程内だ。
巨大な廃船の甲板に降り立つと、覚醒者としての能力を発動させて射撃を試みる。
「……チッ。どうやら、そう簡単にはいかないか……ならっ!」
制圧射撃で足止めを狙ったが、強度が不足していたのか狙った効果を出せなかった。
もっとも、その強度で効果がないのであれば、普通に射撃を繰り返せばいいという事だ。
「落ち着いて周りを見ろよ。言われただろう? 生き抜くのが仕事だ。その上で、ちっとはいい所も見せたいよな? 力まず、無理せずだ」
「へへへ。良い所をアニス教官に見せつけてやるぜ!」
懲りてないジェラードの返事。
「無駄口叩いている暇があったら、列を乱すな。それと、お前らは常に二人で動け。互いをカバーできる距離を保つんだ」
淡々とアニスが告げた。
新兵から冗談が出るのはまだ余裕があるからだろう。
「俺が前に出る。弱った奴を叩け。ただし、無理に全部落とす必要はねぇ。死なねぇことをまず考えろ」
「「了解」」
赤と黒にカラーリングされたエクスシアを加速させてアニスは随伴機よりも前に出ると腹部のマテリアルキャノンの発射口が装甲を開いて姿を現す。
背部のマジックエンハンサーが最大限に唸り、機体全体がマテリアルの光を放った。
「……相変わらず数だきゃ多いな!」
マテリアルが集束し、巨大な紫色のビームが放たれた。
複数の敵を巻き込むが、それで簡単には墜ちないようだ。思った以上に耐久力があるのかもしれない。
ミグは両脇に控えるルスタンとマルグレットに呼び掛けた。
「無理に交戦するな。そして、死ぬな」
邪神戦は過酷だろう。大勢の兵士が死ぬはずだ。
最終決戦までにどれだけの兵士が生き残るかが、大事な事ではないのかとミグは考えていた。ハンター達が邪神本体との戦いに挑むのに、残った新兵達が全滅してしまっては故郷を守り切れない。
「序盤で命を無為にすり減らす愚行は看過できん。だから、貴様らにはさっさと、一人前になってもらうぞ」
そう言ってミグは引き金を引いた。
機体に備え付けられている滑空砲――プラネットキャノン――が火を噴く。
大型の追加爆薬がセットされた射撃は、敵味方間の距離を瞬く間に飛び越して、大爆発を起こした。
広範囲を焼き払った攻撃から敵がフラフラと出て来る。
そこを狙ってCAM用のスナイパーライフルを構えた随伴機が射撃を繰り出した。
後方からの的確な砲撃支援の中、ざくろは新兵の機体と足並みを揃えていた。
「魔動冒険王『グランソード』を駆って、オリーヴァさんと一緒に中型狂気を殲滅するよ!」
「ぎったぎったんにしてやるじゃん!」
威勢は良いが、動きは慎重そのものだ。
おかげでざくろにとっては動きやすかった。敵からの攻撃を庇いながら戦えるからだ。
ショートジャンプを繰り返し、眼前に現れた敵に慌てる事なく、ざくろは機体を操作する。
「吸い込め電磁の力……超機導パワーオン!弾け跳べっ」
攻性防壁で敵を弾き飛ばす。幸運にも敵の動きを阻害させる効果も生んだ。
敵機の動きが鈍った所でCAM用の長大なカタナを突き立てるオリーヴァ機。
「余裕じゃん!」
「油断大敵、です……」
スっと脇から機体を突撃させた、サクラの刻騎ゴーレムがマテリアルバーストの障壁でカタナが突き刺さった敵を後退させた。
直後に敵機の掌から放たれたビームがオリーヴァ機のコックピット横を飛んだ。
「最初から全力全開で行きます……」
サクラ機はそのまま敵陣の中へと駆け抜けていく。
刻騎ゴーレムだからこそできる芸当と言えるだろう。
「突撃こそ私のルクシュバリエの本領発揮です……。とはいえ、流石に突出しすぎるわけにもいかないですね……」
「戻って来るサクラを援護するよ、オリーヴァさん!」
「もっちー!」
不退の駆を用いて戻って来るサクラ機をざくろとオリーヴァがフォローする。
いくら強力な能力でも使用後に隙が生じる。敵から集中攻撃を受ければ、刻騎ゴーレムとて、無事では済まない。
「グランソード連続斬り……今だよ!」
ざくろ機が敵に連続攻撃を繰り出した直後、側面からオリーヴァの機体が武器を振り回す。
なかなか戦闘センスがあるかもしれない。あるいは、相性が良いか。
戦況は数的な不利があったが、組織的に戦うハンター&新人達が有利に進めていけそうであった。
「周囲の反応を確認するように。あとは味方……特に後方の砲兵の射線に被らないように」
ヴァルナの忠告にトゥリオは落ち着いた様子で返事をする。
「分かりました」
「自分にとって危険な攻撃を仕掛けてくる敵がいないか、大事ですからね」
二機はヴァルナが先行する形で、トゥリオは必死に機体を操作させて付かず離れずを維持している。
攻撃も同様だ。下手に散開すると守り切れない場合があるので、可能な限り同一目標を狙う。
その時、唐突に敵影が消えた。
「て、敵が!? ど、どこに?」
「慌てないで。深追いは止めて、まずは周囲の確認を」
「そうでした」
ショートジャンプで空間を飛び越した敵機を再度捉え、二機が攻撃を繰り出す。
騎士見習いを指導しているような、そんな風にヴァルナは思い、クスっと口元を緩めた。
あの人も、きっとこんな気持ちで新人の騎士や兵士に訓練していたのかなと思う。
「行きます!」
背部のエンハンサーを起動し、渾身のマテリアルハルバードをヴァルナの機体が振るった。
爆発する敵機の後方をカズマの機体と2機のエクスシアが3機一組となって飛翔する。
「……以上だ。よく把握しておけ」
カズマは戦闘機動を描きながら、ハインツとフリアの二人に戦闘技術を伝えていた。
特に敵機のショートジャンプは互いで背をカバーする事等、生き残る為の実戦的なものだ。
「“お前達自身が”学習し、成長できる。CAMは使う者の腕次第で大きく変わる、肉体の延長だ」
「肉体の延長ね……そういえば、なんか愛着沸いてきたし!」
思いっ切りが良いのはハインツだ。カズマの指摘した事を忠実に守りながら機体を操作させている。
「だ、大丈夫でしょうか……少し怖くて」
一方、どうも動きにキレが見られないのはフリアだ。
これは性格的なものが大きいかもしれない――そんな風にカズマは思った。だが、怖がる事は悪い事ではない。
むしろ、怖いからこそ、周囲をよく見えるようになる可能性を秘めているのだ。
「無事に帰るまでが兵士の戦場だぜ? 気を確り持て。俺達が付いている」
「は、はいっ!」
機体のモニターに映る二機の詳細な状況をカズマは真剣に分析する。
コンフェッサーの特別な能力にマテリアルラインという力がある。機体同士をマテリアルで直接繋ぐものだ。
更にカズマは機能を拡張させていた。互いの機体情報を共有する事で、様々な利点が発生する。
(星加女史が目指していたのは……)
マテリアルラインの発想はある技術者が考えたものだ。究極的にはリモートコントロールすらも可能とした技術だが、新人教育という視点でいえば、優れた可能性を持つ技術だ。
「3時方向の孤立している敵機を狙う!」
「「了解」」
先導するカズマ機の機動コースをトレースして二機が続く。
味方達の戦闘の様子を慎重に確認しつつ、単機で戦っていたキヅカは戦況の行く末に満足そうに頷いた。
「……最終決戦が始まった。本来はこういう時間で少しでも機体の調整をしなきゃいけないんだけど……フーガは気軽に持ち出せないからなぁ」
グッと操縦桿を持つ手に力を込める。
守護者の機体――マスティマ――は強力無比な存在であるが、その代償も大きいからだ。
「敵のショートジャンプは要注意だけど、障害物がある“場所”には飛べないから」
「確かに、何もない空間に跳んでいますね!」
アニス機の下、戦っていたカズミがハッとして、言葉を返してきた。
「戦場では使えるものは何でも使うんだ。味方はどこにでもいる」
「そういう事か!」
嬉々とした様子で再少年のハインツがアサルトライフルを放って巨大なデブリを破壊した。
その大きな破片が飛び散って、ショートジャンプしようとした敵の動きが止まる。
「良い機転だ、よ!」
「そういうゲームは得意だったから!」
「……そっか。ハインツ君だっけ……実は、僕もだよ!」
急加速していた機体を急ブレーキで強引に停止する――襲ってくるGに耐えながら、キヅカはコンパネを叩いた。
「これでもぉ!」
ブレイズウィングが展開すると、それぞれが超高速で飛翔して敵機を貫いていった。
●
序盤からの勢いが優勢のままに進むとは限らない。
数的な有利をもって、出来るだけ弱そうなCAMを敵が狙ってきたのだ。新人達のフォローにハンター達が入るとその分、攻撃のチャンスが減る。
「た、弾切れ……」
カズミはモニターに表示された警報に絶望的な声を発した。
「くっそ。こんな所で!」
どうやら、ジェラードも状況は同様のようだった。
慌てて兵装を切り替える。迫りくる敵機に狙いを定めず銃弾を放った。敵の勢いが少しは衰える。
そこへ赤黒の機体がガンポッドを展開しつつ敵機との間に割り込んだ。
「他アラートも見逃すんじゃねぇぞ。それと相棒の位置は常に把握しろ。それが結果的に自分を守ることに繋がる」
アニス機がマテリアルカーテンを広げて、他方向からの攻撃を軽減した。ここが踏ん張りどころだ。
また、オリーヴァとトゥリオも若干押され気味だった。
「このままじゃやばいじゃん!」
「敵機の攻撃が熾烈になってきている」
それぞれ、ざくろ機とヴァルナがフォローに入っているので、今すぐの危機ではないが、新人二人は敵の攻撃を避けるので精いっぱいだ。
「攻撃に出ないと押されてやられるっ! チャージアップ……横一文字斬り! 超重剣・真っ向唐竹割!!」
「慌てずに敵の攻撃に集中して下さい、トゥリオさん。大丈夫ですよ。貴方なら、避けられるはずです」
二機が覚醒者としてのスキルを行使して敵機に猛攻を加える。
その間、新人達の機体を守るようにフォローしたサクラ機から暖かく淡い光が放たれた。
「被害が増えているようなら言ってください……ある程度までは回復出来ますので……」
機体が回復するというのは不可思議な現象だが、今、この場においてはありがたい力だ。
敵の攻撃を防ぎつつ、回復魔法で支援していくサクラ機に敵が厄介だと思ったのか、敵機が突っ込んでくる。
「此処が正念場、でしょうかね……」
「これ以上は好き勝手にさせないっ!」
ドーンと大きな衝撃音と共に瀬崎の機体が敵機を蹴り飛ばした。
ハイパーブーストで加速してからの衝突だ。彼の機体も大きな損傷となるが、ぶつけられた方がダメージは大きかっただろう。
「無対策にこんな事はしねぇよ」
すぐさまダメージコントロールを効かして機体を調整する。
その時、後方からの援護射撃が取り囲もうとした敵機共を文字通り薙ぎ払った。
「砲撃は撃破狙いより、敵の足並みを乱して、各個撃破を狙うのじゃ!」
ミグの言葉にルスタンは、絡み合うように飛び回る敵機と味方機をモニターで追い続ける。
「だからって……くっ……」
「仲間に当たる心配しているのなら、ミグさんの背後に隠れていた方が邪魔にならないわよ」
マルグレットが冷静に射撃を繰り返しながら淡々と告げた。
長距離射撃の怖い所は、味方に当たってしまうかもしれないという恐怖だろう。
「一番楽かと思ったら、こんなにもツラいなんて、な……」
「しっかりせい! そういう時は、あれじゃ、一番上手な奴を援護せぇ。向こうが避ける」
「そういう事だ! 遠慮せず俺に撃って援護しな!」
戸惑うルスタンにアニスが叫んだ。
「……これが、戦場……なんですね」
フリアが通信機を行き交う言葉に生唾を飲み込む。
操縦桿を握る手が震えている事を、カズマは察した。
(サクラが言った通り、ここが“正念場”だ)
勿論、カズマとしては見放している訳ではない。ギリギリの所まで見極めて、必要なら支えるつもりだった。
通信機からは新兵達の弱気な声が聞こえだした。そろそろか、と思ったその時だった。
カズマ機に必死に付いてきていたハインツがシールドを敵機に投げ飛ばすと叫ぶ。
「こんなんでどうするんだよ! おんぶにだっこでさ! 僕達だって、戦えるだ!!」
敵に機体を掴まされながらも、少年は続ける。
「みんな、戦う理由があって、今、ここにいるんだろ!」
「よく言った、ハインツ」
体内のマテリアルを消費しつつ、カズマが機体を操作させた。
ハインツ機に組み付いた敵を強引に剥がす。
「ここからは、あまり参考にはならない。けれど、目標として見ていろ」
「援護、任せたよ、みんな」
「トゥリオさん、キヅカさんのフォローに入りますよ!」
ヴァルナがいち早く応じると新兵に声を掛ける。
大技は隙が多いのだ。仲間の援護に、キヅカが覚悟を決めて意識を集中させる。
機体と自身の感覚を一体化させると同時に、背面が次々に展開、放熱機構が露わになる。
編隊を組むように飛ぶ敵機の群れに対して圧倒的なマテリアルが虹色の煌めきと共に放たれた。
世界の破滅の名を冠するこの魔法は、超強力な攻撃方法だが、同時に、機体に恐ろしいほどの負荷を掛ける。
「冷却時間はどれ位だ?」
「今の調整なら10秒も掛からないかも」
心配する瀬崎にキヅカはモニターを見つめながら答えた。
エストレリア・フーガも日々の調整や成長を続けているのだ。
「よし、これなら行ける!」
各部の異常がない事を確認し、キヅカは機体のメインスラスターを最大に上げて加速した。
文字通り、白き流星のように飛翔するマスティマを新兵達は見つめる。
もはや勝敗は決しただろう。勢いが完全にハンター達側に移っている上に、敵の数的有利もなくなった。
敵機に追撃を仕掛けるハンターと新兵達の中、一つの会話が通信機を通じて聞こえてきた。
「どうだった? 初陣は」
「なんか勝ったという実感はないですが、戦い抜いたっていう自信がついたような、そんな気がします」
初陣というのは、そんなものなのかも……しれない。
ハンター達は、それぞれの初陣を思い出しながら、あるいは、勇敢に戦い続ける新兵達の姿に自分を重ねるのであった。
おしまい。
「それじゃ、よろしくお願いします。俺は後方から通信担当しますんで」
リー少尉がハンター達に言った。今回は新兵の教練を兼ねた討伐依頼だ。
彼が積極的に前に出るのは主旨に反するし、もっと正確に言うと、彼の力量なら出て来ない方が、まぁやりやすいなと内心、アニス・テスタロッサ(ka0141)は思う。
オリアス・マーゴ(R7エクスシア)(ka0141unit004)のコックピット内で随伴する新兵達の機体をモニターで確認しながら、アニスは言った。
「リー、此奴ら、編隊を組む程度の訓練は当然、受けてるって事でいいんだな?」
「そりゃ、それ位できないと危なっかしいから大丈夫だぜ……シミュレーション上の話だけど」
「マジかよ……」
衝撃的な事実にアニスは絶句する。
質の悪い冗談ならいいのだが……ゆらりゆらりと位置が定まらない新兵の機体を見ていると不安だ。
アニスの下には魔法適正とサクラメントでカスタムされたR7エクスシアが2機同行している。
兵装はマテリアル武器と弾兵装のマシンガンの携帯していた。
「あの……アニスさん。このカスタムなのに実弾兵装を持って来てよかったのでしょうか?」
如何にも新兵ですって雰囲気を全身から発している若い女性――カズミ カワモト――が尋ねてきた。
カスタマイズの方向性上、実弾兵装は似合わないので疑問を抱くのも無理はないし、そこに気が付くだけ、まだ、“マシ”というものだ。
「死にたくなきゃ必ず持ってくんだな。理由は……その内、分かる」
「ヒュー。可愛い声してるけど俺らの教官はクールだぜ」
「ジェラード、てめぇは真っ先に死ぬから、簡単に死なねぇようにケツの穴、引き締めて操縦桿握れよ」
くだらない事をいう青年の新兵――ジェラード・モーリ――にスラングで返すと、アニスはスロットルを回し機体を加速させた。
その動きは洗練された弧を描く。
単に加速して進んだだけだが、動作一つ一つが熟練したCAM乗りだからこそのものだろう。
「ついてこい。それと、フィールドの展開忘れんな。動けなくなっても助けねぇぞ」
「わかってるって! 気の強い女は、俺は好きだぜ」
「……私、このままでいいや」
新兵カズミがボソっとそんな言葉を呟いた。
意外と面倒見が良いな――と、内心でキヅカ・リク(ka0038)は思いしつつ、コホンと咳払いする。
そんな事、当の本人に言ったら悪態ついた返事が来そうだし、折角、やる気になっている所に水を差す訳にもいかない。
「それにしても、このタイミングで初陣っていうのは……なかなか運が悪いのかな」
「いや、まぁ、運が良い方なんじゃないかな。多分、俺も含め、この隊は月面基地の防衛に回されるだろうし」
リー少尉がそう説明した。
それでも、それが“運が良い”とは限らないのだが。
「今日の面子は結構充実してる。だから、僕も……少しは良い所見せますか!」
「守護者の機体……なだけに、期待しちゃていますよ!」
気合を入れたキヅカの想いをぶったぎるようなリー少尉のくだらないダジャレに通信がお通夜状態となる。
その沈黙が、新兵達の不安を如実に表していた。
「だーいじょうぶ。皆、死なないよ。テッサやミグさん、龍崎さんも居るしね」
「そうだ。何だって良い、下らねーことでも、我欲がある奴が意外と残るからな」
含みがあるような言い方でKoias(コンフェッサー)(ka0178unit005)に乗る龍崎・カズマ(ka0178)が言う。
そういえば、リー少尉はなんだかんだ言いながら生き残っている。もっとも、彼を見習うのはどうかとは思うが。
「でもあれだ、フラグは立てるなよ? 基地に彼女がいるとか、帰ったら告白するとか、花束も準備してあるとか、そういったやつはいねーか?」
雰囲気がこれ以上、重くならないようにカズマが軽い感じで新兵達に呼び掛けた。
戦場には謎のジンクスがあったりする。いつ、誰が言い出したかも分からないが、ゲン担ぎみたいなもの……なのかもしれない。
「彼女とか入る訳ないし、いや、というか死ぬ前に彼女が欲しかったです!」
活気の良い少年兵――ハインツ・グラフ――のある意味必死な声が通信機から響いた。
この隊の中では彼が最年少だ。カズマはふと、よく知っている少年の姿を頭に思い浮べた。
「カ、カズマ隊長は、そ、そんな人、居るんですか?」
照れるような声でカズマ機に随伴しているフリア・ヘラルドが尋ねる。
知らないという事は時として残酷というものだ。またもや、通信が沈黙するかと思ったが、すぐにカズマが返した。
「大切な人はいるさ」
「はぁ~。そうなんですね……」
少し残念そうなもの言いでフリアが感想をもらす。
所詮はジンクスだ。信じるのも信じないにも勝手な事――と思いきや、時音 ざくろ(ka1250)が魔動冒険王『グランソード』(刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」)(ka1250unit008)の中から声を発した。
「カズマさん、その話、本当なんですか? 拠点に彼女が待ってるとか、帰ったら(愛の)告白するとか、花束も準備してあるとかって!」
どうやら、ハーレム王であるざくろには、思い当たる節が幾つかあるようだ。
フラグが乱立している――と言っても過言ではないだろう。
「あくまでも、そういう戦場での小話だ。気にするな」
苦笑を浮かべながら答えるカズマ。
すかさず、刻騎ゴーレムに乗るサクラ・エルフリード(ka2598)が新兵達に補足するように伝えた。
「愛する人が、何人もいれば……フラグが、相殺しあう、かもしれません……」
「えぇー。時音さんは、女ったらしだったの!? 意外ぃー!」
わざとらしい驚きの声をあげたのは、ざくろ機に随伴している新兵――オリーヴァ・リエル――だった。
「人は、見た目で判断しては、ダメという事です……」
「うぅ……フォローになっているのか、なっていないのか、分からないよ、サクラ。と、とにかく、一緒に頑張ろうね、オリーヴァさん」
「はーいっ」
聞いているのか聞いていないのか軽すぎる返事に心配になる。
これがユニット戦でなければラキスケ案件だったかもしれないと思うと、ざくろは身震いした。これ以上、フラグを立たせては危ないと。
シュバリエ(R7エクスシア)(ka2651unit003)の機体調整を確認しつつ、ヴァルナ=エリゴス(ka2651)は、受け持った新兵の機体をモニターに映した。
不慣れな操縦がやや怖い所がある。
「こちらから討って出るのは、備えて待つよりか、気は楽ですね」
邪神の勢力は強大だ。圧倒的な物量に押され、何がなんだか分からないという事は、この戦場にはない。
「こちらの準備は万全です」
青年――トゥリオ・グエリーニ――の真面目な声が聞こえてきた。
ヴァルナが見るに、青年は優等生タイプのようだ。確りと自分の言葉も聞き、復唱も忘れない。
「敵を討ち、無事に帰る。それが出来るよう力添えしましょう……どうか、何事も無く終わりますように」
「ご教授、よろしくお願いします」
新兵は緊張しているようだが、後は戦場に出て……からだろう。
張り詰めたものを解すようにキヅカが全機に伝えた。
「焦ってもいい。慌ててもいい。その時“助けて”とだけいうことだけ覚えてれば、後は、僕らがどうにかするから」
頼もしい言葉は普段なら気休めに聞こえるが、守護者たる特別な機体を目の前にすると妙に納得するのは何故だろうか。
助けを求めれば、彼は文字通り、どうにかしてくれるはずだ。
「キヅカの言う通りじゃ。危ないと感じたことを素直に言えるのは大事じゃからな」
ヤクト・バウ・PC(ダインスレイブ)(ka0665unit008)のコックピットの中で、ミグ・ロマイヤー(ka0665)がうんうんと何度も頷きながら言った。
自称ロリババアな婆さんだが、初々しい新兵は好きだ。新兵は練度という点において熟達者と比べれば劣っているかもしれない。
だが、この先、居なくてはならない戦力であるのは間違いない。誰しも“新兵”という道を通っているのだから。
「だから、遠慮はいらん。恐ろしくも頼もしい女海賊みたいな婆さんを、ミグは目指しているからの」
「もう、どこまでも付いていきますよ! ロリっ子大好きですから、オレ!」
「ルスタン・ゴルブノフじゃったか? 言っておくが、ミグはロリっ子ではなく、ロリババアじゃ!」
筋肉隆々のその新兵は、隊の中では年長者というが……精神年齢的には、大分と低いかもしれない。
通信に流れたミグの叫び声に応じるように、甲高い女性の声が返ってきた。マルグレット・ハグベリというのが彼女の名前だ。
ミグは事前に渡された資料の内容を思い出した。彼女は以前“アプリの使用者”だったらしい。その後の経過は黒く塗りつぶされていたが、覚醒者に上書きしているはずだ。
「この男に何言っても無駄ですよ。むしろ、後ろから撃ち抜いた方が後々の為に良いと思います」
「そりゃないぜ! オレはロリっ子が好きなんじゃなくて、ロリ以外も好きなんだぜ」
「……気持ち悪い。キヅカさん、ミグさん、この人からの助けには応じなくていいですからね」
その言葉に悲鳴を上げるルスタンの声に、新兵達の笑い声が続いた。
少しは場の空気も和んだ――かもしれない。
瀬崎・統夜(ka5046)は黒騎士(魔導型デュミナス)(ka5046unit001)のモニターに敵影が映ったのを確認した。
いよいよ、戦闘開始だ。各機の警報アラームが通信機を通して聞こえてくる。
(この時期に新兵の引率とはまた……死なせたくはないな。昔を思い出しちまう……)
黙するように統夜は軽く目を瞑った。
自身に受け持ちの新兵はいないが、だからといって手を抜いて言い訳ではない。
むしろ、戦場全体を見渡し、フォローしていく大事な役目があるのだ。
「じゃあ、少しでも楽になるように、してやるか!」
眼を見開くとスロットルを一気に限界まで回す。
魔導エンジンの轟音がコックピットに響くと同時に、機体は一気に加速したのであった。
●
先行したのは統夜の機体だった。
デブリを物ともせずに複雑な軌道を描いて、黒き機体はマテリアルの光を残す。
ブースターをパージする音がコックピット内に響いた。ハイパーブーストと機動用スラスターを併用しての高速移動だ。
(見本となるべきこっちが、基礎を疎かにするのは格好がつけねえもんな)
間違ってもデブリと衝突しようものなら恥さらしだろう。
後続の位置を確認しつつ、4連カノン砲を構えた。十分に射程内だ。
巨大な廃船の甲板に降り立つと、覚醒者としての能力を発動させて射撃を試みる。
「……チッ。どうやら、そう簡単にはいかないか……ならっ!」
制圧射撃で足止めを狙ったが、強度が不足していたのか狙った効果を出せなかった。
もっとも、その強度で効果がないのであれば、普通に射撃を繰り返せばいいという事だ。
「落ち着いて周りを見ろよ。言われただろう? 生き抜くのが仕事だ。その上で、ちっとはいい所も見せたいよな? 力まず、無理せずだ」
「へへへ。良い所をアニス教官に見せつけてやるぜ!」
懲りてないジェラードの返事。
「無駄口叩いている暇があったら、列を乱すな。それと、お前らは常に二人で動け。互いをカバーできる距離を保つんだ」
淡々とアニスが告げた。
新兵から冗談が出るのはまだ余裕があるからだろう。
「俺が前に出る。弱った奴を叩け。ただし、無理に全部落とす必要はねぇ。死なねぇことをまず考えろ」
「「了解」」
赤と黒にカラーリングされたエクスシアを加速させてアニスは随伴機よりも前に出ると腹部のマテリアルキャノンの発射口が装甲を開いて姿を現す。
背部のマジックエンハンサーが最大限に唸り、機体全体がマテリアルの光を放った。
「……相変わらず数だきゃ多いな!」
マテリアルが集束し、巨大な紫色のビームが放たれた。
複数の敵を巻き込むが、それで簡単には墜ちないようだ。思った以上に耐久力があるのかもしれない。
ミグは両脇に控えるルスタンとマルグレットに呼び掛けた。
「無理に交戦するな。そして、死ぬな」
邪神戦は過酷だろう。大勢の兵士が死ぬはずだ。
最終決戦までにどれだけの兵士が生き残るかが、大事な事ではないのかとミグは考えていた。ハンター達が邪神本体との戦いに挑むのに、残った新兵達が全滅してしまっては故郷を守り切れない。
「序盤で命を無為にすり減らす愚行は看過できん。だから、貴様らにはさっさと、一人前になってもらうぞ」
そう言ってミグは引き金を引いた。
機体に備え付けられている滑空砲――プラネットキャノン――が火を噴く。
大型の追加爆薬がセットされた射撃は、敵味方間の距離を瞬く間に飛び越して、大爆発を起こした。
広範囲を焼き払った攻撃から敵がフラフラと出て来る。
そこを狙ってCAM用のスナイパーライフルを構えた随伴機が射撃を繰り出した。
後方からの的確な砲撃支援の中、ざくろは新兵の機体と足並みを揃えていた。
「魔動冒険王『グランソード』を駆って、オリーヴァさんと一緒に中型狂気を殲滅するよ!」
「ぎったぎったんにしてやるじゃん!」
威勢は良いが、動きは慎重そのものだ。
おかげでざくろにとっては動きやすかった。敵からの攻撃を庇いながら戦えるからだ。
ショートジャンプを繰り返し、眼前に現れた敵に慌てる事なく、ざくろは機体を操作する。
「吸い込め電磁の力……超機導パワーオン!弾け跳べっ」
攻性防壁で敵を弾き飛ばす。幸運にも敵の動きを阻害させる効果も生んだ。
敵機の動きが鈍った所でCAM用の長大なカタナを突き立てるオリーヴァ機。
「余裕じゃん!」
「油断大敵、です……」
スっと脇から機体を突撃させた、サクラの刻騎ゴーレムがマテリアルバーストの障壁でカタナが突き刺さった敵を後退させた。
直後に敵機の掌から放たれたビームがオリーヴァ機のコックピット横を飛んだ。
「最初から全力全開で行きます……」
サクラ機はそのまま敵陣の中へと駆け抜けていく。
刻騎ゴーレムだからこそできる芸当と言えるだろう。
「突撃こそ私のルクシュバリエの本領発揮です……。とはいえ、流石に突出しすぎるわけにもいかないですね……」
「戻って来るサクラを援護するよ、オリーヴァさん!」
「もっちー!」
不退の駆を用いて戻って来るサクラ機をざくろとオリーヴァがフォローする。
いくら強力な能力でも使用後に隙が生じる。敵から集中攻撃を受ければ、刻騎ゴーレムとて、無事では済まない。
「グランソード連続斬り……今だよ!」
ざくろ機が敵に連続攻撃を繰り出した直後、側面からオリーヴァの機体が武器を振り回す。
なかなか戦闘センスがあるかもしれない。あるいは、相性が良いか。
戦況は数的な不利があったが、組織的に戦うハンター&新人達が有利に進めていけそうであった。
「周囲の反応を確認するように。あとは味方……特に後方の砲兵の射線に被らないように」
ヴァルナの忠告にトゥリオは落ち着いた様子で返事をする。
「分かりました」
「自分にとって危険な攻撃を仕掛けてくる敵がいないか、大事ですからね」
二機はヴァルナが先行する形で、トゥリオは必死に機体を操作させて付かず離れずを維持している。
攻撃も同様だ。下手に散開すると守り切れない場合があるので、可能な限り同一目標を狙う。
その時、唐突に敵影が消えた。
「て、敵が!? ど、どこに?」
「慌てないで。深追いは止めて、まずは周囲の確認を」
「そうでした」
ショートジャンプで空間を飛び越した敵機を再度捉え、二機が攻撃を繰り出す。
騎士見習いを指導しているような、そんな風にヴァルナは思い、クスっと口元を緩めた。
あの人も、きっとこんな気持ちで新人の騎士や兵士に訓練していたのかなと思う。
「行きます!」
背部のエンハンサーを起動し、渾身のマテリアルハルバードをヴァルナの機体が振るった。
爆発する敵機の後方をカズマの機体と2機のエクスシアが3機一組となって飛翔する。
「……以上だ。よく把握しておけ」
カズマは戦闘機動を描きながら、ハインツとフリアの二人に戦闘技術を伝えていた。
特に敵機のショートジャンプは互いで背をカバーする事等、生き残る為の実戦的なものだ。
「“お前達自身が”学習し、成長できる。CAMは使う者の腕次第で大きく変わる、肉体の延長だ」
「肉体の延長ね……そういえば、なんか愛着沸いてきたし!」
思いっ切りが良いのはハインツだ。カズマの指摘した事を忠実に守りながら機体を操作させている。
「だ、大丈夫でしょうか……少し怖くて」
一方、どうも動きにキレが見られないのはフリアだ。
これは性格的なものが大きいかもしれない――そんな風にカズマは思った。だが、怖がる事は悪い事ではない。
むしろ、怖いからこそ、周囲をよく見えるようになる可能性を秘めているのだ。
「無事に帰るまでが兵士の戦場だぜ? 気を確り持て。俺達が付いている」
「は、はいっ!」
機体のモニターに映る二機の詳細な状況をカズマは真剣に分析する。
コンフェッサーの特別な能力にマテリアルラインという力がある。機体同士をマテリアルで直接繋ぐものだ。
更にカズマは機能を拡張させていた。互いの機体情報を共有する事で、様々な利点が発生する。
(星加女史が目指していたのは……)
マテリアルラインの発想はある技術者が考えたものだ。究極的にはリモートコントロールすらも可能とした技術だが、新人教育という視点でいえば、優れた可能性を持つ技術だ。
「3時方向の孤立している敵機を狙う!」
「「了解」」
先導するカズマ機の機動コースをトレースして二機が続く。
味方達の戦闘の様子を慎重に確認しつつ、単機で戦っていたキヅカは戦況の行く末に満足そうに頷いた。
「……最終決戦が始まった。本来はこういう時間で少しでも機体の調整をしなきゃいけないんだけど……フーガは気軽に持ち出せないからなぁ」
グッと操縦桿を持つ手に力を込める。
守護者の機体――マスティマ――は強力無比な存在であるが、その代償も大きいからだ。
「敵のショートジャンプは要注意だけど、障害物がある“場所”には飛べないから」
「確かに、何もない空間に跳んでいますね!」
アニス機の下、戦っていたカズミがハッとして、言葉を返してきた。
「戦場では使えるものは何でも使うんだ。味方はどこにでもいる」
「そういう事か!」
嬉々とした様子で再少年のハインツがアサルトライフルを放って巨大なデブリを破壊した。
その大きな破片が飛び散って、ショートジャンプしようとした敵の動きが止まる。
「良い機転だ、よ!」
「そういうゲームは得意だったから!」
「……そっか。ハインツ君だっけ……実は、僕もだよ!」
急加速していた機体を急ブレーキで強引に停止する――襲ってくるGに耐えながら、キヅカはコンパネを叩いた。
「これでもぉ!」
ブレイズウィングが展開すると、それぞれが超高速で飛翔して敵機を貫いていった。
●
序盤からの勢いが優勢のままに進むとは限らない。
数的な有利をもって、出来るだけ弱そうなCAMを敵が狙ってきたのだ。新人達のフォローにハンター達が入るとその分、攻撃のチャンスが減る。
「た、弾切れ……」
カズミはモニターに表示された警報に絶望的な声を発した。
「くっそ。こんな所で!」
どうやら、ジェラードも状況は同様のようだった。
慌てて兵装を切り替える。迫りくる敵機に狙いを定めず銃弾を放った。敵の勢いが少しは衰える。
そこへ赤黒の機体がガンポッドを展開しつつ敵機との間に割り込んだ。
「他アラートも見逃すんじゃねぇぞ。それと相棒の位置は常に把握しろ。それが結果的に自分を守ることに繋がる」
アニス機がマテリアルカーテンを広げて、他方向からの攻撃を軽減した。ここが踏ん張りどころだ。
また、オリーヴァとトゥリオも若干押され気味だった。
「このままじゃやばいじゃん!」
「敵機の攻撃が熾烈になってきている」
それぞれ、ざくろ機とヴァルナがフォローに入っているので、今すぐの危機ではないが、新人二人は敵の攻撃を避けるので精いっぱいだ。
「攻撃に出ないと押されてやられるっ! チャージアップ……横一文字斬り! 超重剣・真っ向唐竹割!!」
「慌てずに敵の攻撃に集中して下さい、トゥリオさん。大丈夫ですよ。貴方なら、避けられるはずです」
二機が覚醒者としてのスキルを行使して敵機に猛攻を加える。
その間、新人達の機体を守るようにフォローしたサクラ機から暖かく淡い光が放たれた。
「被害が増えているようなら言ってください……ある程度までは回復出来ますので……」
機体が回復するというのは不可思議な現象だが、今、この場においてはありがたい力だ。
敵の攻撃を防ぎつつ、回復魔法で支援していくサクラ機に敵が厄介だと思ったのか、敵機が突っ込んでくる。
「此処が正念場、でしょうかね……」
「これ以上は好き勝手にさせないっ!」
ドーンと大きな衝撃音と共に瀬崎の機体が敵機を蹴り飛ばした。
ハイパーブーストで加速してからの衝突だ。彼の機体も大きな損傷となるが、ぶつけられた方がダメージは大きかっただろう。
「無対策にこんな事はしねぇよ」
すぐさまダメージコントロールを効かして機体を調整する。
その時、後方からの援護射撃が取り囲もうとした敵機共を文字通り薙ぎ払った。
「砲撃は撃破狙いより、敵の足並みを乱して、各個撃破を狙うのじゃ!」
ミグの言葉にルスタンは、絡み合うように飛び回る敵機と味方機をモニターで追い続ける。
「だからって……くっ……」
「仲間に当たる心配しているのなら、ミグさんの背後に隠れていた方が邪魔にならないわよ」
マルグレットが冷静に射撃を繰り返しながら淡々と告げた。
長距離射撃の怖い所は、味方に当たってしまうかもしれないという恐怖だろう。
「一番楽かと思ったら、こんなにもツラいなんて、な……」
「しっかりせい! そういう時は、あれじゃ、一番上手な奴を援護せぇ。向こうが避ける」
「そういう事だ! 遠慮せず俺に撃って援護しな!」
戸惑うルスタンにアニスが叫んだ。
「……これが、戦場……なんですね」
フリアが通信機を行き交う言葉に生唾を飲み込む。
操縦桿を握る手が震えている事を、カズマは察した。
(サクラが言った通り、ここが“正念場”だ)
勿論、カズマとしては見放している訳ではない。ギリギリの所まで見極めて、必要なら支えるつもりだった。
通信機からは新兵達の弱気な声が聞こえだした。そろそろか、と思ったその時だった。
カズマ機に必死に付いてきていたハインツがシールドを敵機に投げ飛ばすと叫ぶ。
「こんなんでどうするんだよ! おんぶにだっこでさ! 僕達だって、戦えるだ!!」
敵に機体を掴まされながらも、少年は続ける。
「みんな、戦う理由があって、今、ここにいるんだろ!」
「よく言った、ハインツ」
体内のマテリアルを消費しつつ、カズマが機体を操作させた。
ハインツ機に組み付いた敵を強引に剥がす。
「ここからは、あまり参考にはならない。けれど、目標として見ていろ」
「援護、任せたよ、みんな」
「トゥリオさん、キヅカさんのフォローに入りますよ!」
ヴァルナがいち早く応じると新兵に声を掛ける。
大技は隙が多いのだ。仲間の援護に、キヅカが覚悟を決めて意識を集中させる。
機体と自身の感覚を一体化させると同時に、背面が次々に展開、放熱機構が露わになる。
編隊を組むように飛ぶ敵機の群れに対して圧倒的なマテリアルが虹色の煌めきと共に放たれた。
世界の破滅の名を冠するこの魔法は、超強力な攻撃方法だが、同時に、機体に恐ろしいほどの負荷を掛ける。
「冷却時間はどれ位だ?」
「今の調整なら10秒も掛からないかも」
心配する瀬崎にキヅカはモニターを見つめながら答えた。
エストレリア・フーガも日々の調整や成長を続けているのだ。
「よし、これなら行ける!」
各部の異常がない事を確認し、キヅカは機体のメインスラスターを最大に上げて加速した。
文字通り、白き流星のように飛翔するマスティマを新兵達は見つめる。
もはや勝敗は決しただろう。勢いが完全にハンター達側に移っている上に、敵の数的有利もなくなった。
敵機に追撃を仕掛けるハンターと新兵達の中、一つの会話が通信機を通じて聞こえてきた。
「どうだった? 初陣は」
「なんか勝ったという実感はないですが、戦い抜いたっていう自信がついたような、そんな気がします」
初陣というのは、そんなものなのかも……しれない。
ハンター達は、それぞれの初陣を思い出しながら、あるいは、勇敢に戦い続ける新兵達の姿に自分を重ねるのであった。
おしまい。
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依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
相談卓 アニス・テスタロッサ(ka0141) 人間(リアルブルー)|18才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2019/07/11 07:26:11 |
||
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/07/10 10:58:00 |