城塞での戦い ~騎士アーリア~

マスター:天田洋介

シナリオ形態
シリーズ(続編)
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,800
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2019/07/11 15:00
完成日
2019/07/24 19:08

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

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オープニング

 グラズヘイム王国の南部に広がる伯爵地【ニュー・ウォルター】を覆っていた暗い闇は、振り払われた。
 黒伯爵を名乗る歪虚軍長アスタロトが率いていた敵は壊滅。討伐が一段落して、少なくとも戦の状況からは脱したといえる。
 差し迫る危機は去ったものの、懸案は残った。畑が荒らされただけでなく、灌漑関連の破壊が顕著。そして各地では戦いの残照が残っていた。


 城塞都市マール上空を飛ぶ鳥の群れ。見あげていた子供が、ヒラヒラと舞い落ちてきた何かを追いかける。石畳の通りに着地したのは歪虚側からの警告書であった。
 ばらまかれたのは数百枚にのぼり、そのうちの城庭へと落ちてきた一枚が、執務室のアーリアとミリアへと届けられた。
 記されていた文章は『親愛なるアーリア』の書きだしで始まっていた。
 まずはドスガを囲むように配置されたアーリアの部隊に対しての、皮肉交じりの褒め言葉が並べられている。
 本題はドスガ進攻への強い批難と警告だ。そして多数の雑魔『スノーラ』についてが言及されていた。アーリアが察するに、ハンター達が戦った氷ゴーレムを指しているようである。最後には大商人カミネテのサインが記されていた。
「今一、要領を得ない内容ですの」
 ミリアが首を傾げていると、執務室のドアがノックされる。入室した騎士が敬礼をしてから、報告を行う。
「ドスガ周辺に氷のようなゴーレムが多数出没。ドスガと後方の二正面に現れて、挟み撃ちになりました。また一部の個体が、こちらマールへと進攻しています」
 伝令によるとマールへ向かっているスノーラの個体数は、百数十。現在の速度が維持されたとすると、二時間後にはマールの城塞付近まで到達する。
「私が騎士団を率いて、それらに対処する。それに丁度よいタイミングで、心強い味方が近くにいる。協力を頼んでみよう」
 アーリアはドスガ攻略の意見を述べてもらうために、ハンター達を城に招いていたのである。
 今のところ攻撃を仕掛けない限り、スノーラの群れは領民に危害を加えていない。但し、真冬のような寒気を漂わせているようだ。一刻でも早い掃討が望まれていた。

リプレイ本文


 マールの城塞門北周辺には、多数の兵や騎士が集まっていた。
 領主でもある騎士団長アーリアと共に、ハンター一行も辿り着く。彼彼女達の耳にも聞こえる行進の響き。さらに強烈な肌寒さは覚えがあった。
「遠くのすべて、あれが全部雑魔なのか?」
 南護 炎(ka6651) は身を震わせながら呟いた。
 『スノーラ』は街道を埋め尽くすほどの数がいた。まだ遠方にいるにもかかわらず、普通の七月ではあり得ない冷たい空気を漂わせている。
「ほら、簡易カイロ。沢山あるから持ってきな。回りの兵士や騎士にも分けてやってくれ。前のことがあったから、アーリアに頼んでおいたんだよ」
 ボルディア・コンフラムス(ka0796)は抱えていた木箱からカイロを取りだして、分けていく。自らは手足の部分に忍びこませておいた。
「う~寒い……。まさか、今役に立つか自身で試すことになるなんてね」
 カーミン・S・フィールズ(ka1559)は、防寒のためにホワイトスノーコートを羽織る。パイロットインカムも装着して、仲間達との通信手段を整えていく。
「ほら、私も防寒マントを準備したから、少しは寒くても戦えるかなって思ったの、属性はついていないけど」
 ディーナ・フェルミ(ka5843)がドラグーンマントを纏ったすぐ傍らで、鳳凰院ひりょ(ka3744)が空中へと浮かんだ。
 魔箒で急上昇した鳳凰院は、眼下を見渡す。そして無線で『スノーラの個体数は、大凡百数十。距離は城塞壁まで五百mといったところだ』と仲間達に報告を行う。
「さあて、ビラの狙いはなんだろね。ただの宣戦布告? だとしたらよっぽど自軍に自信があるのかなんなのか……。そういえばミリアがいってたな――」
 歩夢(ka5975)は、城での相談の際にアーリアからビラを見せてもらっていた。同席していたミリアが、かなり的を射ていたことを思いだす。
 スノーラの首魁である『ナアマ』は、傲慢のアイテルカイトだ。つまり全力で事を成すのは恥だと考える。余裕を見せつけたかったからこその行動だろうと推測していたのであった。ただそれだけではなさそうだと、アーリアが話しだしたところで、襲撃の報が入ったのである。
 歩夢は「当たるも八卦当たらぬも八卦」と言葉にしながら、凶なる方角を占う。でた方角は南。スノーラの群れは、城塞都市マールから南の位置。つまりはマールに足を踏みいれられたのなら負けだと、占いは示していた。
「懲りない奴らだ。歪虚なのだから当たり前、なのだろうか? どちらにせよ、襲ってくるというのであれば殲滅あるのみだ。覚悟しているがいい」
 レイア・アローネ(ka4082)はあきれ顔を浮かべながら、スノーラの群れを望んだ。彼女の近くにいたゾファル・G・初火(ka4407)は、早速戦闘態勢に入っていた。
(武者震いっ! これこれ、こう来なくっちゃねー!)
 片方の拳でグローブをバンバンと叩きながら、ゾファルは心の中で呟く。とにもかくにも死にそうな気配がBINBIN伝わってこないと、本気にはなれない彼女である。
「スノーラの群れを絶対に城塞内へ入れるな! その前に侵入を阻止、殲滅せよ!」
 アーリアの号令によって、戦端が開かれた。真っ先に飛びだしたのはハンター達。敵の最中へと飛びこんでいった。

「テメェ等みてぇなガラクタが何百体集まろうが、俺は倒せねぇよ!」
 駆けるボルディアが魔斧でスノーラを次々と弾いた。
 部位を少々切りとったとしても、粘土のように他の部分が移動して補修してしまう。そこで完全なる切断が求められる。
 『禍狗』で犬神を憑依させたボルディアの魔斧が、巨躯のスノーラを粉砕した。雪煙のような瘴気を散らしながら前へ。その姿は狂うが如くで、鬼神のような出で立ちを漂わせる。
「俺の炎で全部燃え尽きやがれぇ!」
 引き続いて、彼女は悪鬼の獣を全身に宿した。天焔と名づけられた獣と共に、ボルディアは戦う。自身よりも巨体のスノーラをものともせずに、ひたすらに。
 一撃で仕留め損なった敵は、騎士や兵士に止めを任せることもある。さすがにアーリアの部下達は優秀で、怯むことなく練度が高かった。

「アーリア、マールの街は守り抜いて見せるぜ。安心しな!」
 混戦の最中、叫んだ南護炎は聖罰刃を大上段に構える。
 スノーラの懐へと入り込みながら、斧が握られていた片腕を肩の根元から切断。姿勢を崩して路上に転げたスノーラの首を跳ねて、止めを刺した。
(なるほど、不安なく戦えるのだな)
 スノーラの全数は鳳凰院からの報告で知っているが、直中での印象では無数に感じられる。それ故に情報の正しさが身に染みた。必要以上の恐怖を感じることなく、戦いに没頭できるからだ。
 一息つく暇もなく、次の個体を目標に一歩踏みだす。
 避けた氷柱が、地面へと突き刺さっていく。近場のスノーラだけが敵ではなかった。南護炎は真っ白な息を吐き、額に汗を滲ませながら戦いを続行した。

「お前たちの相手は私がしてやろう。来るがいい!」
 レイアは魔導剣の一振りで、スノーラの部位を宙高く舞いあがらせる。腕や胴の一部、頭部などがまとめて薙ぎ払われることで、スノーラの一集団に躊躇いが生じていた。
 こうなると、戦いは有利になる。それはレイア自身だけでなく、周囲で戦っている騎士や兵士達にとっても同様だ。奮起した兵士達が一斉に斬りかかって、スノーラ数体の止めが刺されていった。
「負けていられないな」
 ソウルエッジを纏わせたレイアの刃は、氷の塊のような敵を容易く屠ることができる。まるで雪だるまを爆砕させているような、そんな戦いが続いた。
 スノーラが振り回す斧刃をわずかな動きで避けつつ、攻撃の手は緩めない。巨大ななりをしている特殊個体や多数のスノーラと対するときは、二刀流だけに留まらないアスラトゥーリによる斬撃を施す。
 一瞬で粉みじんとなって、周囲が真っ白な瘴気で満ちる。そうやってレイアは、味方の活路を拓いていった。

(街の人達を助けるためにも、スノーラ、ぶっ倒せなの)
 ディーナは躊躇うことなく敵の直中へと身を投じていた。その姿は自然体。あまりの素っ気なさにスノーラの群れが、迷うほどの大胆さだった。
「200体を8人なら、1人25体倒せば問題ないの」
 聖なる輝きを放つことで、スノーラをまとめて倒していく。幸いなことにセイクリッドフラッシュの衝撃が伝わるのは敵のみだ。混戦の中、頼りになるスキルである。
 当然、近場にはアーリア配下の味方兵士や騎士がたくさんいた。聖なる光のみでは消滅に至らなかったスノーラに対して、止めを刺してくれる。
(問題は凍傷どうしようって思うだけなの)
 ディーナの危惧は、現実になりかかっていた。歪虚に急襲されたので、全員に防寒具は行き届いていない。ボルディアが用意したカイロも一部の者のみだ。
 主にハンター仲間に使うものの、緊急の負傷を見かけたときにはフルリカバリーを使う。
 聖なる光を連打しつつ状況を見守り、ゴッドブレスも使用した。負のマテリアルの影響を考えての一手だ。自身に対しては、ウコンバサラのトールハンマーを活用するディーナであった。

 ドラグウーンマントを翻させながら、ゾファルは武器で覆った拳をスノーラへと叩きつけた。
 一瞬でひび割れて砕け散り、氷の山が築かれていく。やがて瘴気に還元していくのだろうが、それにはしばしの時間が必要なようだった。
「対策、バッチリジャーン! 腹冷えも安心だぜ!」
 防寒対策のみならず、ゾファルが使っていたガントレットは土属性である。その絶大な効果は、すでに証明済みだ。
 飛んできた氷柱を拳で砕いてから、わずかな間だけ周囲を見渡す。仲間や騎士・兵士も頑張っていて、スノーラの群れは凄まじい勢いで減っている。
 それでも元々の群れの隊列が長いせいで、戦闘が発生していない場所もあった。
「ちょいと、ひとっ飛びじゃんよ!」
 ゾファルは街道沿いの建物の屋根上を移動。敢えてまだ戦闘が発生しないスノーラの直中へと飛び降りる。
「そうそう、この感じじゃん♪」
 ゾファルは口の端をあげて、より激しい戦いの場へと身を投じていった。

(順調ね。このままスノーラを殲滅できれば、いいのだけれど)
 カーミンは構えた蒼機弓で、味方の打ちもらしを一体ずつ処理していく。ネモフィラで狙い澄まして、立ちあがって暴れようとしていたスノーラの額に、魔矢を突き立てていった。ときにカランコエで多くのスノーラを足止めして、味方の支援も行う。千日紅や胡蝶蘭、極楽鳥花も活用する。素速く動いたり、身体能力の底上げをした。
「これでいい?」
 上空の鳳凰院だけでなく、全体の指揮を執るアーリアとも連絡を密にとった。軍の戦術を蔑ろにするのは得策ではない。
(敵はどうでるつもりなの?)
 戦いは全体的に味方の有利で進んでいた。問題なのは歪虚側を指揮しているのは誰なのか。カミネテが指揮している可能性は、わずかながらある。但し、彼は大商人で戦いには疎い。カーミンの脳裏に浮かんだのは「ナアマ」であった。

 鳳凰院の活躍は、魔箒で浮かんで鳥の目として俯瞰するだけではなかった。
 アーリア側や仲間達が戦いやすいように、ソウルトーチを発動。自らがいるところにスノーラを誘導して囮となる。
「大丈夫だったか?」
「は、はい!」
 それだけではなく、マジックアローでの直接的な攻撃も忘れない。追い詰められた兵士を助けて、感謝されることもあった。
(この様子なら、問題ない。三十分もかからずに、スノーラの群れすべてを倒しきるだろう。それぐらいなら、この冷気の影響も大事には至らない、いや……まてよ)
 高空から眺める限り、歪虚側であるスノーラの群れは無策といってよかった。行進という目立つ形で、わざわざ城塞都市マールを襲おうとしているにもかかわらず。
「工夫が感じられないのが、そもそもおかしいとは思わないか?」
『私も変だと思っていたところなの』
 鳳凰院は無線でカーミンと相談した。スノーラの群れの出方に、嫌らしい含みが感じられる。二人の意見は大方同じ。搦め手があるのではないかとの意見が交わされて、それについては指揮官であるアーリアに伝えられた。
 鳳凰院とカーミンの危惧は当たる。それを最初に目の当たりにしたのは、歩夢であった。

 歩夢は魔法の宝石で形作られたストーンサークルの中心に立ち、ククルカンによる精霊宝術の直線攻撃を試みる。
 混み合っていたスノーラの群れが次々と貫かれていく。崩れていく際に、まるで雪煙のような瘴気が辺りに漂いだした。やがて風に流されて、視界は元通りになるが、それには数分の時間を要す。
 そんな状況で、歩夢は気づいた。綺麗にスノーラが消えた往来に、一人の女性が立っていることを。
「まさか、敵の御大将自らか?」
 歩夢は即座に歪虚の首領『ナアマ』だと呟く。
「おーおー、派手にやってくれたようじゃの。せっかくの紳士淑女達が、土塊に混じってしまったのじゃよ。どうじゃ、愉快な晩餐の席は? じゃが、戯れの前菜はここまで。ここから先のメインディッシュ、存分に味わうがよいぞ!」
 ナアマが高笑いをしたと同時に、地面から氷の塊が現れた。それはわずかな間に分裂して、複数のスノーラを象っていく。
「何が起きている? 負のマテリアルは感じられるが」
 歩夢が攻撃を仕掛けても、スノーラの数は一向に減らない。気づいた騎士や兵士達も加勢してくれたものの、増殖の度合いが遙かに勝っている。倒されずに残っていたスノーラも集結して、あらためて巨大な塊へと変化していった。
 大地から湧きだした霧のような瘴気を、巨体はまるで衣のように纏う。城塞壁を越えられそうな巨大なスノーラが街道に出現した。
 そしていつの間にか、ナアマは姿を消していた。


「あの大きさ……、とてつもないな。これならマールの城塞を楽に乗り越えられそうだ」
 上空の鳳凰院は、冷静になるよう自らに言い聞かせながら、状況を確かめていく。
 巨体スノーラから城塞壁まで距離は、おおよそ二百m。ただしスノーラの巨躯故に、もっと近くまで寄られているように感じられた。
 合体しなかったスノーラ単体の数はわずかだ。騎士や兵士のみで充分に倒しきれる数しか残っていない。ハンター仲間の攻撃対象は巨大スノーラへと移っていたので、鳳凰院も合流することにした。
 マールの城塞外にも、人々が住む建物が数多く建てられている。高い建物の屋上に降りてから、鳳凰院は巨大スノーラに戦いを挑む。振りおろされた左腕が屋根へと叩きつけられて、辺りに破片をまき散らした。
 鳳凰院は試作怨讐刀にソウルエッジの魔力を宿らせて、さらにリバースエッジの連撃を放つ。それによって巨大スノーラの表面が剥がれていく。ごく単純に瘴気に還るのではなく、小型のスノーラに戻ってから散っていくのがよくわかった。
「奇怪な……。だが、そういうことなのか」
 鳳凰院は知り得た情報を無線で仲間達へと伝える。さらに大声を張りあげて、騎士や兵士達にも告げた。「巨大スノーラは二人三脚のような集合体。複雑な行動は難しくて、単純な動きしかできないはず」だと。
「なるほど。それなら、これはどうですかね?」
 歩夢は巨大スノーラを中心へと置くように、五色光符陣を発動させる。光で焼くことで行動を阻害したところ、極端に動きが鈍くなった。一つ一つの個体の連携が、うまくできていない様子である。
 さらにもう一度、ククルカンによる翼を持つ蛇の精霊を顕現させた。蛇の精霊が放った攻撃によって、巨大スノーラの腹に直線上の大穴が空く。
 もだえ苦しむ巨大スノーラへの追い込みは、まだまだ続いた。
「左足、左足に集中よ! この辺りだからなの!」
 カーミンはスキルを存分に使いながら、仲間達との無線連絡を欠かさない。魔矢を次々と巨大スノーラの左膝へと命中させることで、破壊すべき部位を味方に示し続けた。
「さすがだな! この作戦、乗った!」
 レイアは歩夢のククルカンが、巨大スノーラの左足を抉った瞬間に動く。
 星神器「天羽羽斬」に秘められたオロチアラマサの連撃は凄まじい。非常に太い巨大スノーラの左足背部が大きく抉れて、瞬く間に半分ほどの細さにまで削られる。使ったレイア自身が、呆気にとられるほどの強烈さであった。
「大樹だと思えば、やりやすいってもんだ! なんせ、得物は斧だからな!」
 ボルディアは白い息を吐きながら、魔斧を巨大スノーラの左足へと叩きつける。魔斧に纏わり付いているのは、紅蓮の炎だ。攻撃を仕掛けるうちに、氷の左足へと纏わり付くように踊りだす。まるで大きな氷を溶かすかのように、巨大スノーラの左足がさらに削られていった。
 狂うようにもだえる巨大スノーラ。痛みを感じているかのような仕草だ。左足が一度持ちあげられて、再び地面に足裏がつく。それからはゾファルの出番である。
「超ご機嫌じゃん! いいぜ、すごくいい♪ 絶好調だ! もっと、もっとだッ!」
 乱舞の如く、ゾファルは巨大スノーラの左足に拳を叩きつけて、抉っていく。二刀流からの、スターブラストプラチナム。超高速の幻影。ゾファルは「オラオラッ!」と叫びながら無数のオーラの拳を放ち続ける。
 ゾファルとほぼ同時に、ディーナによるセイクリッドフラッシュの輝きも、巨大スノーラの左足にダメージを与えていた。
「無防備になるから、とっても助かるの」
「護りは俺に任せておけ!」
 ディーナへと降り注ごうとしている氷柱を弾いたのは、南護炎だ。その鋭さと勢いは、石積みの壁を簡単に貫通するほどのもの。彼は聖罰刃による弾きだけでなく、自らの身体をも張って、ディーナを守りきった。
 何度も繰り返されるディーナによる、聖なる輝き。やがて巨大スノーラの身体が、大きく揺らいだ。街道の地面へと前のめりに倒れこんで、激しい土煙が立つ。
「これで一網打尽さ」
 歩夢の五色光符陣によって、巨大スノーラの残る右足の周辺が行動阻害にされた。
 ここぞとばかりにハンター全員が集中攻撃。右足の膝下が千切り取られようとしたときに、巨大スノーラの全身が激しく波打った。いきなり両腕が太くなって、何故か両足のように変化する。巨大スノーラは逆立ちするように立ちあがって、歩きだした。目指す方角は変わらず、マールの城塞門に向けて。

 そのとき、どこから高笑いが響き渡った。
「こそこそと、どこに隠れていやがった。まったくこれだから歪虚はよ……」
 ボルディアの叫びは巨大スノーラではなく、再び現れたナアマへと注がれた。
「どうしてこんなバカな真似をしたんだ? 暇つぶしか? もう少し待っていれば、ドスガまで、こっちが出向いてやったのによ」
「その減らず口、楽しいのう」
 ナアマがいる屋根の上まで、壁を蹴ってあがる。ボルディアは会話を試みたものの、ふざけた物言いしか返ってこなかった。埒があかないと感じて、魔斧で攻撃を仕掛ける。ナアマは上半身を反らして、ボルディアの攻撃を躱す。
「あら、お散歩なの? わざわざ、マールくんだりまで? とってもお暇なのね」
「ふんっ♪」
 さらにカーミンの矢を躱したナアマが、不敵な笑いを浮かべていた。
 カーミンはアーリアと連絡をとり、ナアマが得意とする槍の雨降らせを警戒させる。案の定、周囲には奇妙な槍が降り注いだ。それでも兵士達に盾を傘代わりにさせて、難を逃れさせた。
「ここまで来ると思っていたの。理由は訊くまでもないの」
「大層な物言いじゃな」
 ディーナはウコンバサラの封印を開放した。雷神の力を得た上で大きく跳ねて、ナアマの背後へと棍の部分を振りおろす。掠めた装身具が砕け散って、ナアマの顔に険が浮かびあがる。
 ナアマが奇怪な叫び声をあげながら上空へと飛翔して、再び辺りへと槍の雨を降らす。敵味方関係なく、そこら中がハリネズミの背のように槍が突き刺さった。

 ナアマと対峙していた三人とは別に、他のハンター五人は、両足なし逆立ち状態の巨大スノーラの阻止に動いていた。
「こっちだ。デカブツ! 聞こえているのなら、返事でもしたらどうだ?」
 鳳凰院は塔の上でソウルトーチの炎オーラを纏う。そうやって、巨大スノーラの注意を引きつける。
 それまで城塞門を目指して歩んでいた巨大スノーラの両足が止まった。
 塔へと体当たりをしようとする巨大スノーラ。ぶつかる直前、鳳凰院は魔箒で浮かんで攻撃をやり過ごす。
 その生じた隙を仲間達が突いた。
「この符の効果、受けてみな」
 歩夢は護法籠手「防壁」で、修祓陣による結界を展開する。城塞壁から三十mほど離れた先で立ちのぼる美しい光の範囲がそれであった。巨大スノーラを取り囲んで、味方に有利な空間が構築された。
「いまだ!」
 歩夢の叫びを合図にして、レイアが真っ先に動く。わずかな突起に足をかけて、顔の位置まで足のような腕を駆けのぼり、戦いを仕掛ける。
「お前の横暴はここまでだ。私が許さん!」
 集合体に過ぎないので、複数のスノーラに薙ぎ払いによる攻撃が命中した。目の部分を構成していた個体が剥がれて、巨大スノーラが苦しみだす。
「街中に入ろうなんて、一億万年、早いんだぜ!」
 そしてゾファルによる、二回目のスターブラストプラチナムが発動する。無数のオーラの拳が展開して、巨大スノーラの左腕が拉げていく。
「そうだ! マールの街に一歩たりとも、いや、一指たりとも触れさせはしない!」
 南護炎が放った終之太刀を切っ掛けにして、各部位が分裂した。巨大スノーラは、数十の個体スノーラへと分かれていく。
「一気に押せ!」
 アーリアの号令によって、騎士や兵士達が個体スノーラに戦いを挑んだ。形勢はすでに決まっており、程なくアーリア側の勝ちで終わる。
 ナアマは「試すには、ちょうどよかったのじゃ」との言葉を残して、大空へと消えていく。
「ここまでか」
 途中まで魔箒で追いかけた鳳凰院だったが、深追いは諦めて仲間の元へと帰還するのだった。


 マール城塞門の外側はそれなりの被害を被る。しかし破壊が回避不可能な状況だったので、問題にはされなかった。被害の補償はアーリアが受け持つことになる。
「おそらく、こちらの戦力を削ぐための、スノーラ進攻だったのであろう」
 マール城の一室。アーリアは推測したナアマの意図を、ハンター一行に説明した。いつでもマールに仕掛けられると、牽制するための策であったのだろうと。
 今回のことでアーリア側は、マール防衛にかなりの兵力を割かなくてはならなくなった。
 事前に想定していたことなのだが、領民の恐れは一言で説得できるものではない。その分だけドスガに投入できる兵力は減ってしまうが、致し方ないことである。
「みなさんの力添え、とても助かっている。ドスガ攻略に手を貸してもらえたのなら、心強い」
 ハンター一行は、アーリアからあらためて願われる。せめてもの感謝の印として、豪華な晩餐の席へと招かれた。
 美味しい食事に舌鼓を打ち、ゆっくりと湯船へと浸かり、そして柔らかなベッドで睡眠をとる。それからリゼリオへの帰路についたのだった。

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MVP一覧

  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミka5843

重体一覧

参加者一覧

  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • 花言葉の使い手
    カーミン・S・フィールズ(ka1559
    人間(紅)|18才|女性|疾影士
  • うら若き総帥の比翼
    ひりょ・ムーンリーフ(ka3744
    人間(蒼)|18才|男性|闘狩人
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • ゾファル怠極拳
    ゾファル・G・初火(ka4407
    人間(蒼)|16才|女性|闘狩人
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • 真実を照らし出す光
    歩夢(ka5975
    人間(紅)|20才|男性|符術師
  • 覚悟の漢
    南護 炎(ka6651
    人間(蒼)|18才|男性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 【質問卓】
ボルディア・コンフラムス(ka0796
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2019/07/08 14:38:06
アイコン 【相談卓】
ボルディア・コンフラムス(ka0796
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2019/07/11 14:49:32
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/07/08 07:57:40