ゲスト
(ka0000)
【血断】大好きだ 大好きだ 大好きだよ
マスター:凪池シリル

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~100人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 7日
- 締切
- 2019/07/12 19:00
- 完成日
- 2019/07/25 09:01
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
闇の中、光が生まれ。ぶわり、音がするように震え、膨張し鮮やかな模様を描く。
幾何学に粋という粋を詰め込んで叩きつけてくるモノクロームから始まる映像美術、斜めにそれが斬り裂かれる、乱入する、刃、人、淡く弾け行く映像と共に、着地!
複雑な軌道を描く映像と共に刃が翻る。下から斬り上げる型で右、大きく腕を振り上げるその勢いで左、そのままくるりと回転、鮮やかに。刃が振るわれるその度に、切っ先に合わせて映像が弾け変化していく。
瞬間の静止、直後頭上よりギロチンの様に落下するオブジェクト映像、背後から襲うそれが直撃すると思える寸前、振り向きもせず後方に掲げた刃で受け止めて。
転調。
映像の雰囲気も変わる。褪せた赤を基調とした映像はデフォルメながらどこかクリムゾンウェストの大地、広野を思わせる。
音のリズムと雰囲気は明らかに独特の空気を持つ──モチーフは辺境部族の文化。ズヴォー族、その戦士の祈りである『斬々舞』。
テクノの音楽と音響、そしてプロジェクトマッピングを組み合わせた殺陣のパフォーマンス。蒼の技術と紅の文化を交えて。
映像と知りつつも息を飲み、音に映像に、そして刃に熱狂していく。
決戦を前にしての崑崙で行われることになったライブステージ、伊佐美 透(kz0243)がそこでメインで披露したのはそんな舞台だった。
演者を交代して、歌に、演奏に、パフォーマンスに。
初めは所詮一時の慰みとして消沈気味に参加していた人たちも、やがて純粋にその魅力に、楽しさに飲み込まれただただ目の前の熱気に惹き付けられていく。
その時々にアンサンブルとしても出演しながら、やがてステージは前半の大きな山場を迎える。
多くの出演者を登場させてのソングミュージック。ここぞという最大の盛り上がりではやはりコール・アンド・レスポンス!
何度も唱和される。ステージ上からも客席からも。
透もコーラーとして一度呼び掛ける──その曲で繰り返されるフレーズは、【大好き】。
この時点での最高の盛り上がりを迎える、曲が終わりを迎えるとこの一時の終わりに寂しさを覚えるほどに。
これが終われば一度休憩。その空気が生まれつつある、曲の締めで。
「皆さん、大好きなもの、人、ありますか!」
透は声を上げた。
「──これから本公演は休憩に入ります。その前に一つ。今皆で叫んだ気持ち。胸に今こみ上がってるものはありませんか? ……それ、今すぐ何かに変えませんか」
今こうして歌いあったことで。閉じ込めておけなくなった想いがあるなら、動かして。言葉に、形に残しませんか、と。
「……今この状況で。言っておかなきゃと思ってること、でも上手く言えずにいたこと、ありませんか? 今なら、言えそうじゃないですか?」
ざわり。会場に動揺が波打った。
「縁起でもない、と思われたのなら、違います。一人一人が、誤りなくこの状況に向かい合うその為にこそ、気持ちを蟠りなく整頓しておくことは必要だと、そう思います」
静かに、だが力強く。声には最大限に気を付ける。不安を煽るためのものではない。それを伝えるために、透は全霊を持って『穏やか』を『作る』。
「【大好き】は、希望です。でも、今、それこそが【不安】になっていませんか。もしそうなら、それは見つめ直すべきものではありませんか。今苦境に向かうその時に、その気持ちは、今その形で良いものか、整えておきませんか。すでに迷いがないのであれば、なおのこと躊躇わずそれは口にしておきませんか」
全ての力を出しきるために。
生きることを諦めていなくても、覚悟をもって立ち向かうんでも。
そのどちらにおいても、それは必要なことじゃないだろうか。
僅かな心のしこりが明暗を分けかねないし、正しく持つことが出来ればやはりそれは強い心の支えだ。
最期になるなら──その心は少しでも晴れやかなものにしておきたいじゃないか。
……綺麗事ばかりではないことなど、良く分かっているのだ。むしろまさに自分が良く分かってる。ここ最近ですら本気で死にかけたのが一度じゃない。
けど、お陰でもう散々自分の無力には凹み尽くし終えている。
先の戦いについてはだから、透としては特に引きずるものも無かった。だってもう今の戦局は彼にとっては『死ななきゃ大したもん』なのだ。生きて戻ってきた。そして、どうせ今やどこに居たって安全は保証されない。なら、生きている限り力を尽くして、ただその結果を少しでも受け入れられるようにしておくこと、すべきことはそれだけだ。それだけの存在。戦局に大きく作用するだけの力が無いからこその逆に気楽な立場。
そして、力が足りない、英雄にはなれない存在と分かっているからこそ。だからこそ言える。今、この目の前の一人一人、覚醒者では無い人たちにも。
「大好きなものがあれば、それにまた会いたい、触れたいと願えます。気になってる話の続き、ゲームの発売日……友人との食事の約束! それが希望で、それが未来だ。誰だって願える、誰だって創れる」
世界を守りきる、誰もを安心させるような、大きな光にはなれなくても。
「──誰だって、誰かの希望になれる!」
誰にだって今やれる精一杯はあるのだと。
だからその為に……互いに大切な存在を思いだそう。
「勿論このステージもだからその為です! 精一杯やっていきます。また観たい、会いたい、ここの誰かと誰かがそんな光になれるように!」
そしてこれこそが──自分が生きてきた世界の持つ力だと、知っているから。
だってかつて観る側だったとき確かに思ったじゃないか。チケットを手に入れたその時から。その日付──『この日までは絶対死ねない』。半ば冗談でも、そう思わせるだけの力は、希望は確かにそこにあるのだ。
そうして。
「急にすいませんでした! ご清聴有難うございます! 後半も頑張りますよろしくお願いします! 色々言ったけど皆今はここをどうか楽しんで!」
締めと共に透は勢い良くも優雅に一礼する。
ステージの明かりが降りていく。ざわつく会場、その中ではそれから……──
幾何学に粋という粋を詰め込んで叩きつけてくるモノクロームから始まる映像美術、斜めにそれが斬り裂かれる、乱入する、刃、人、淡く弾け行く映像と共に、着地!
複雑な軌道を描く映像と共に刃が翻る。下から斬り上げる型で右、大きく腕を振り上げるその勢いで左、そのままくるりと回転、鮮やかに。刃が振るわれるその度に、切っ先に合わせて映像が弾け変化していく。
瞬間の静止、直後頭上よりギロチンの様に落下するオブジェクト映像、背後から襲うそれが直撃すると思える寸前、振り向きもせず後方に掲げた刃で受け止めて。
転調。
映像の雰囲気も変わる。褪せた赤を基調とした映像はデフォルメながらどこかクリムゾンウェストの大地、広野を思わせる。
音のリズムと雰囲気は明らかに独特の空気を持つ──モチーフは辺境部族の文化。ズヴォー族、その戦士の祈りである『斬々舞』。
テクノの音楽と音響、そしてプロジェクトマッピングを組み合わせた殺陣のパフォーマンス。蒼の技術と紅の文化を交えて。
映像と知りつつも息を飲み、音に映像に、そして刃に熱狂していく。
決戦を前にしての崑崙で行われることになったライブステージ、伊佐美 透(kz0243)がそこでメインで披露したのはそんな舞台だった。
演者を交代して、歌に、演奏に、パフォーマンスに。
初めは所詮一時の慰みとして消沈気味に参加していた人たちも、やがて純粋にその魅力に、楽しさに飲み込まれただただ目の前の熱気に惹き付けられていく。
その時々にアンサンブルとしても出演しながら、やがてステージは前半の大きな山場を迎える。
多くの出演者を登場させてのソングミュージック。ここぞという最大の盛り上がりではやはりコール・アンド・レスポンス!
何度も唱和される。ステージ上からも客席からも。
透もコーラーとして一度呼び掛ける──その曲で繰り返されるフレーズは、【大好き】。
この時点での最高の盛り上がりを迎える、曲が終わりを迎えるとこの一時の終わりに寂しさを覚えるほどに。
これが終われば一度休憩。その空気が生まれつつある、曲の締めで。
「皆さん、大好きなもの、人、ありますか!」
透は声を上げた。
「──これから本公演は休憩に入ります。その前に一つ。今皆で叫んだ気持ち。胸に今こみ上がってるものはありませんか? ……それ、今すぐ何かに変えませんか」
今こうして歌いあったことで。閉じ込めておけなくなった想いがあるなら、動かして。言葉に、形に残しませんか、と。
「……今この状況で。言っておかなきゃと思ってること、でも上手く言えずにいたこと、ありませんか? 今なら、言えそうじゃないですか?」
ざわり。会場に動揺が波打った。
「縁起でもない、と思われたのなら、違います。一人一人が、誤りなくこの状況に向かい合うその為にこそ、気持ちを蟠りなく整頓しておくことは必要だと、そう思います」
静かに、だが力強く。声には最大限に気を付ける。不安を煽るためのものではない。それを伝えるために、透は全霊を持って『穏やか』を『作る』。
「【大好き】は、希望です。でも、今、それこそが【不安】になっていませんか。もしそうなら、それは見つめ直すべきものではありませんか。今苦境に向かうその時に、その気持ちは、今その形で良いものか、整えておきませんか。すでに迷いがないのであれば、なおのこと躊躇わずそれは口にしておきませんか」
全ての力を出しきるために。
生きることを諦めていなくても、覚悟をもって立ち向かうんでも。
そのどちらにおいても、それは必要なことじゃないだろうか。
僅かな心のしこりが明暗を分けかねないし、正しく持つことが出来ればやはりそれは強い心の支えだ。
最期になるなら──その心は少しでも晴れやかなものにしておきたいじゃないか。
……綺麗事ばかりではないことなど、良く分かっているのだ。むしろまさに自分が良く分かってる。ここ最近ですら本気で死にかけたのが一度じゃない。
けど、お陰でもう散々自分の無力には凹み尽くし終えている。
先の戦いについてはだから、透としては特に引きずるものも無かった。だってもう今の戦局は彼にとっては『死ななきゃ大したもん』なのだ。生きて戻ってきた。そして、どうせ今やどこに居たって安全は保証されない。なら、生きている限り力を尽くして、ただその結果を少しでも受け入れられるようにしておくこと、すべきことはそれだけだ。それだけの存在。戦局に大きく作用するだけの力が無いからこその逆に気楽な立場。
そして、力が足りない、英雄にはなれない存在と分かっているからこそ。だからこそ言える。今、この目の前の一人一人、覚醒者では無い人たちにも。
「大好きなものがあれば、それにまた会いたい、触れたいと願えます。気になってる話の続き、ゲームの発売日……友人との食事の約束! それが希望で、それが未来だ。誰だって願える、誰だって創れる」
世界を守りきる、誰もを安心させるような、大きな光にはなれなくても。
「──誰だって、誰かの希望になれる!」
誰にだって今やれる精一杯はあるのだと。
だからその為に……互いに大切な存在を思いだそう。
「勿論このステージもだからその為です! 精一杯やっていきます。また観たい、会いたい、ここの誰かと誰かがそんな光になれるように!」
そしてこれこそが──自分が生きてきた世界の持つ力だと、知っているから。
だってかつて観る側だったとき確かに思ったじゃないか。チケットを手に入れたその時から。その日付──『この日までは絶対死ねない』。半ば冗談でも、そう思わせるだけの力は、希望は確かにそこにあるのだ。
そうして。
「急にすいませんでした! ご清聴有難うございます! 後半も頑張りますよろしくお願いします! 色々言ったけど皆今はここをどうか楽しんで!」
締めと共に透は勢い良くも優雅に一礼する。
ステージの明かりが降りていく。ざわつく会場、その中ではそれから……──
リプレイ本文
扉を開けると 一斉に視線がこちらを向いた。
らしくなく。
足音を立ててここにやってきて、乱暴に扉を開け放ったのだと自覚しながら周囲の視線をまだどこかふわふわとした意識の中で見返す。
そこは何処か静謐で、だけど暖かさに満ちた空間だった。
透の言葉でここもまた、「そういう雰囲気」になっていたのだろう。彼らは必要な言葉を交わし、握手し、緩く腕を回して肩を叩き合っていた……そんな空気の残滓が、光景に残っている。
だから彼らは、スタッフ及び警備として、今はここに来る必要が無いはずの鞍馬 真(ka5819)みて、咎めもせずに迎え入れる。
真はそうして、透の前に立った。
「後半が控えているのに、急に押し掛けてごめん。えっと、……」
こぼれ出た言葉がそこで一瞬停止する。上手く纏まらない。心より、思考より先に身体が飛び出てここまで来てしまった感じだった。
「……好きだよ。大好きだ。何度曲がっても、折れなくて、真っ直ぐで、格好良くて。こんな状況でも、自分らしく人を励ますことができて……そんなきみが、大好きなんだ」
まだ何か、口が勝手に動いているような状態で、とりとめのない言葉をしかし止めようとは思わなかった。
「……私は、きみみたいに強くなれない。空っぽで、無力で。でも、それを割り切ることすらできない、とても弱い人間なんだ。消えてしまいたいって思いも、未だに残ってる」
ゆっくり一つ。深呼吸。
「だけど、」
先んじていた身体と口に、感情と理性が追い付いて重なっていくのを感じた。
「死ぬために戦ってる訳じゃないって、今なら言える」
この言葉は。
慰めのために作ったものではなく本心からのもので。
一時の衝動により刹那で砕け散るような物でもない。
「──だって、生きて、またきみの舞台を見たいから」
心で真摯に思っても頭で冷静に考えても、今自分は間違いなく、そう願えているのだと。
「……ありがとう。きみが居て、良かった」
真っ直ぐ透を見て、伝えた。
透は真が全てを言い終えるまで、ただ黙って、真剣な表情でそれを受け止めていた。
「きみみたいに強くなれない……か」
そうして……今、その言葉だけじゃない、今までの事を振り返って。
「んー……まあ確かに。江の島のころとかの印象と比べると、君思ったよりメンタル凹むし引き摺るよな」
つい、という感じで、気の抜けるような間延びした声でそう言うのだった。
「ず、ズバリ言われると思ってたよりきついよ!?」
真は思わずガクリと脱力して、そして。
「でもまあ、」
そうして透は、懐かしそうに目を細めて、続けた。
「君がいつも。常に失敗なんてしない完璧な。あるいは闘いさえあればそれでいいって、直ぐに割り切れるようなそんな『強い』ハンターだったなら。『真って呼んで良いか』なんてなれなれしく話しかけることは一生無くて。ずっと遠い憧れの『鞍馬さん』だったんだろうなって」
「──……」
「傷ついて。弱って。無理しているのを感じた。だからもっと近づいてみたいと思った。世話になるばかりじゃなく、力になれるかもって思ったから」
だからって別に死にかけて良かったとは、そりゃ思ってはいないが。いつでもなんにでも強くあれなんて、そんな必要は無いんじゃないか。
「『俺みたいに』強くない、か、うん。君の言葉はたまに、なんだかんだ分かってんじゃないかって思うような絶妙さがあるよな。君には君の強さがあって、それが必要な場面ではいつでも助けてくれたじゃないか。だったら俺の方が強いと思う場面では……頼ってくれればそれでいいじゃないか」
そう言って、透は微笑む。
「真、俺は──格好良くない時の真だって、大好きだよ。俺だって弱くて情けないところも散々君に見せた。でも君はこうして今も俺に会いに来てくれるじゃないか」
……透が言葉を終えると、暫く、沈黙があった。
お互い、掛け合った言葉をゆっくり飲み込むための沈黙。
何故伝えようと思ったのか。今伝えようと思ったのか。
分かっている。もう──これが言葉を交わせる最後の機会になるかもしれないからだ。
だから今、伝えなきゃいけなかった。
伝えなかった後悔だけはしないように。
それから。
「前半、格好良かったよ。後半も応援してる!」
「うん、見ててくれ。ステージではいつだって今が最高と言えるものに挑んでいくから!」
──とびきりの笑顔で、別れておけるように。
●
事前に調査しておいたロビー内のその一角は、出入り口からは少し見え辛い位置にあって、騒めく会場内でも比較的落ち着いた場所だった。
初月 賢四郎(ka1046)はそこにあるベンチに腰掛けて、静かに誰かを待っている。
約束の時間まで一、二分。待ちぼうけも覚悟していた相手はしかし、几帳面さを感じられるそんな時刻に姿を現した。
「……どうも」
微笑し軽く片手を上げて挨拶すると、相手──高瀬 康太(kz0274)は、警戒するような顔のまましかし軽く会釈を返す。
「それで一体、何の用ですか?」
「何、決戦前です。戦友と水杯でも、と思ったまでですよ」
事もなげに賢四郎が言うと、康太の表情が変わる。戸惑い、というか……。
「拍子抜け、みたいな顔ですな」
「……。貴方には。かつて言い負かされたきりですから。今日は負けないつもりでした」
賢四郎の言葉に、康太は正直に告げると、賢四郎は思わずははっと笑っていた。
嗚呼成程。それで彼は己の誘いに応じたわけか!
そう言えばそんな初対面だった。賢四郎にとっては言われてみればそんなことも有ったな、程度の事だがしかし、確かに向こうにとっては忘れがたき屈辱だったのだろう。
先の戦いで康太が見せた覚悟は確かに、全ての者が肯定しうるものでは無い。
だがしかし……確信する。まさに。今日彼の言葉を否定しようとすれば、己は敗北しただろう。
「──行き詰った者の行き当たりの言葉と、終点を前に真に覚悟を決めたものの言葉の差ぐらい分かるつもりですよ」
だから賢四郎はそれをただ、称賛する。餞になればいい、と。
「そんなに意外ですか? 貴方とは何度か手を組もうとも持ち掛けていましたがね。……生憎とまるで期待できない相手の手を引っ張って教育してやろうと思うほどのお人好しでもないですよ」
そうして零れた言葉に。ほんの少しの未練があることも賢四郎は自覚した。済んだ後で組んで何か出来ればと思ってもいたが……覚悟を決めた相手に言うのは無粋だ。
「……。そう、ですか」
そうして康太は、それに……これで一つ、思い残すことが無くなったという風に、微かに表情を軽くしていた。
「向こう(あの世)で会ったらその時は誘わせて貰いますよ。お互い、邪魔にならない限りは協力者で……ね」
「あの世なんてものがあるのか僕には分かりかねますが……まあ、そうなったら検討には値するかもしれませんね」
そう言って。
認めあった者同士、これが最後になるだろうその瞬間を分かち合って。
「さて、私の用事は以上ですので、『別の予定』があるのならば遠慮なくどうぞ」
賢四郎がそういうと、康太はぶふぉ、と激しくむせ返った。
キリ、と睨み付けるような康太の目が問う──やはりそれが目的か、と。
……賢四郎より先に『別の人間』から呼び出されていた康太にとって、賢四郎からの呼び出しは『一先ずここに来る』ことへのハードルを引き下げる物だった。来てみてやはり気まずさが勝るようだったら、『これ』を言い訳にここで帰ればいい。
それを狙っていたのかまでは計り知れないが……──。
「会えとは言わないが手紙ぐらいは残してあげたらどうですかね。顔を会わせる事だけが再会でもなし、覚悟を決めているなら──拒絶であれ──答えを出すべきではないかと」
老婆心ですがね、と、そう言い残して、賢四郎はそうして、そこで立ち上がり、手をひらひらと振りながら立ち去っていく。
それ以上は、促されることもなく。
一人残されて座る康太は、暫く考え続けていた。
●
休憩のアナウンスが聞こえて。ステージの照明が落ちて、変わりに座席の明かりが灯されていく。
騒めく会場、ポツリポツリと立ち上がる人たち。夢から醒まされるように、先ほどまであった会場の空気が霧散していく。
「はあーー…………」
そうして隣から聞こえてきたのは、「今息を吐くことを思いだした」といった感じの、深く長い吐息だった。
「姉さん、大丈夫?」
思わず氷雨 柊羽(ka6767)は、その、吐息の主だろう隣の存在──氷雨 柊(ka6302)に顔を向けて尋ねていた。
「疲れてない? どっかで休もうか」
「大丈夫ー……といいたい所ですけど、そうですねぇ。ちょっと休みましょうか」
言われて、若干のぼせている自分を自覚したのだろう。柊は柊羽の言葉に素直に答えて、一度ライブ会場から出ることにした。首尾よく一息つける場所を確保すると、柊は「何か飲み物買ってくるね」と一旦その場を離れていく。
……少し、一人でぼぅっとする間。
(それにしても、大好き……か)
ぐるり、柊羽の中を巡るものが在った。ライブステージ、その最中に少しずつ己の内に溜まっていった何か。行き場の無いようなそれはしかし、前半、最期の言葉で明確に一つの方法に向かいつつあって、しかしあと少しのところでまだ滞留している。そんな感覚に──どれほど浸っていたのだろうか。
「はいこれ。しゅーちゃんの」
「え?」
いつの間にか柊は戻ってきていて、柊羽に買ってきたという飲み物を差し出してくる。「ありがとう」と受け取って、一口。
……知らず自分も結構消耗していたのだろう、染み渡っていくその味に。
──きっと姉は、何の気なしに「これ」を自分のために買ってこれたんだろう。そういうところ。
喉元まで出かかっていたものを押し出したのは、飲み込んだそれだったのかもしれない。
「……ねえ、姉さん。大好きだよ」
「はにゃっ? な、なんですか、急に」
「ん? そうだなぁ……なんとなく、なんて」
苦笑交じりに柊羽が言うと、柊は困惑気味の笑みを浮かべた。
考えてみれば。
兄弟姉妹というものは、始まりの「大好き」なのかもしれない。
親から離れることの出来ない期間というのは、世界というのは家族が全てと言っても過言では無くて。その中で、最も年齢が──すなわち経験が、感性が──近しい存在。
もっとも親しみを覚えるのはごく自然なことで、その時期を、何時も一緒がいい、何でもお揃いがいい、と過ごした兄弟姉妹は多いのではないだろうか。
「言わなくったってわかりますよぅ? ずぅーっと一緒でしたから」
「……うん、知ってる。昔から変わらないよ」
ずっと共に育ってきた姉妹。だからこその「大好き」は、互いにとって当たり前すぎるもので──だからこそ、敢えて口に出す機会も中々ない。
それを、だから、今。
口に出してみた、のは。
「たださ……さっきのあれ、聞いて。言いたくなったんだ」
「さっきの……ああ、そうですねぇ。ちょっと、考えちゃいます」
意識させられてしまえば、二人にも否定しようもなく存在する、「大好き」が駆り立てる、その気持ち。
(──私の『大好き』は段々増えていって、両手だけじゃ抱えられなくて、そこから零れ落ちてしまうのが酷く怖かった)
(──死にに行くわけじゃないけれど。……死にたいわけじゃないけれど。それでも、死なない保証はない)
喪う事への、不安。
気付けばお互い、互いを見ていた。
親から離れることのできる時間が増えるほどに、世界は広がっていく。違うものを見て、それぞれに違う「大好き」を見つけていく。
同じ家で、同じ親に育てられたはずの二人は、気が付くとこんなに違っていて。
それはつまり、外の世界を知って増えた「大好き」の違いであるかもしれない。
でも、それでも。
これが、ここが。
沢山増えた大好きの中で、変わらずにあり続けた──始まりの「大好き」。
今、「大好き」が揺らぐこの時だからこそ、そこから見つめ直して、想うのは。
(──でも、大好きな人たちと一緒にいるために決めた道だから。もう怖がってはいられない)
(──でも、だからこそ。これは生きて未来へ進むための決意だ)
揺れる心の中で決意を探し当てて、固めていく。
見ている未来は、同じかもしれない。違うかもしれない。それでも……その中で、互いが共に在りたい。その想いは、きっと一緒だと。
「さ、しゅーちゃん! そろそろステージの休憩も終わりみたいですよぅ? 見に行きましょうっ!」
だから笑顔で。柊は迷うことなく柊羽の手を取る。
零しなどしない。しっかりとこの手に掴んでおく。その願いを、決意を秘めて。
「うん。いこうか姉さん」
柊羽も迷うことなく柊の手を握り返して、歩き出す。
悲しませないために。悲しむ顔を見たくないから。未来へ進む。その意志で。
手を取りあって。
歩調を合わせて。
二人、共に歩いていく。
●
時刻はまた、休憩時間が告げられた直後。
同じように、空気にのぼせ上った同行者に声をかけているものが居た。
「……大丈夫? 想」
「……あ、はい。その、なんか……凄くて……」
目をチカチカさせているように言う想に、まだ刺激が強かったかな、とユリアン(ka1664)は苦笑する。
「その、楽しんでる? 急に誘っちゃったけど、合わないなら無理に最後まで付き合う事も無いけど……」
想にもこの場の熱と想いが届けば。そう思って手紙を出して……二人で来た。
「あ、いえ! 楽しいですよ!? 初めて見ることばっかりで……ドキドキします、けど……」
言葉の前半、そこに無理や偽りは無いように思えた。が、次第に、自信なさそうに想は肩身を狭めていく。
「あの。すいません。あまり、皆さんと同じように声、出せなくて……」
「ああ。あはは。そうだよね、ああいうのもいきなりは難しいよね。……良いんだよ、それぞれの楽しみ方で。想が『こうしたい』って思った時にそうすれば」
「そういう、ものでしょうか……」
ユリアンの言葉に、想は一応納得はしたものの、やはりどこか不安げではあった。
「ちょっと、外の空気でも吸ってこようか。ちょっと酸欠気味だよね」
「あ、はい」
一度気分を切り替えた方が良いかな、と、ユリアンも想を連れて一度場外に出ることにする。
互いに一度、大きく深呼吸。して。
「……大好きって、どういう気持ちでしょうか」
そうして想が、ぽつりと言った。そんなつもりは無かったのだろうが、ふいに心の柔らかいところを掴まれた気がして、ユリアンの心臓がドキリと跳ねる。
「……あの。俺には。最後の話が……良く分からなくて。マスターも、ユリアンさんも、大切な方です。居なくなってほしくないと思う……けど、何か違うのかなって」
ユリアンには……すぐには答えられない。想の、そういう思いが。大好き、と言えるものであるかと言えば。そうだよ、とも、違うよ、とも、安易に言えるものではない。
じゃあどう言えばいいのか……。
(大好き、か)
自分にはあるのだろう。そう言うに値する想いが。しかしそれもまた……上手く言葉にして説明できるようなものでは無くて──と、そこまで考えたとき。
「兄様!」
聞こえてくる声に、はっと顔を上げた。
なんてタイミングだ──と、少し、思った。そこには、妹のエステル・クレティエ(ka3783)と、それから。
ルナ・レンフィールド(ka1565)が居た。
「やあ……まだ前半で言うのもおかしいかもだけど、お疲れ様」
「はい! 兄様は差し入れもありがとう。前半も舞台に上がる前に一舐めしましたけど……いつもと少し味が違いました?」
「ああ、……今日のは師匠のレシピだから」
「兄様の先生のレシピはうちのレシピと少し違う……ふむふむ」
ユリアンとエステルが言うのは彼が持たせたハーブの蜂蜜漬けの事だ。そんな話をしながらも、ユリアンの意識は僅かにずれていることに、エステルは気付いていた。
少し後ろでは、順番を待つようにルナがユグディラのミューズを抱きしめて毛繕いしてやるように撫でている。
「……あ! 想さん、ですよね。初めまして。兄がお世話になってます」
「え!? お世話にだなんて、そんな……俺が迷惑かけ通しで……。あ、えっと、初めまして……想です」
「この前の依頼でも兄様と一緒だったんですよね。お話、聞きたいです。ちょっといいですか?」
「え、ええ……? あ、はい、ユリアンさんはそれは活躍されていて……その……」
くいくいとさり気なく少しずつ想を引っ張っていくエステルに、ユリアンは二重の意味で「あいつめ……」と思いながら、苦笑して……そうしてしかし、一度ルナへと視線を向ける。
ユリアンの視線に気づくと、ルナは少し視線を下げた。ミューズと視線を合わせるようにして、一層抱きしめるようにして、そうして、
「──これからの戦い、頑張りましょうね」
呟くように。だけどはっきりと意志を込めて、ルナはそう言った。
「戦う場所は離れていても、声が届くように力いっぱい歌いますから……ユリアンさん無理だけはしないで下さいね?」
どこか儚げにすら見える笑みでそう言われて、どう応えればよかっただろう。
そんなユリアンの前で、ルナの笑顔がまた変化する。より鮮やかに、明るいものへ。
「ふふふ、まずは、ライブ頑張ってきます! 見てて下さいね!」
今はそれだけが言いたかったのだろう。ルナは特に返事は待たず、そこでくるりと身を翻した。
そのまま、行ってしまう──かと思いきや。
暫く進んだところで、彼女は不意に、振り向いた。
振り向いたその顔は、笑顔で。
先ほどのよりももっともっと、花が咲くような笑顔で。そうして。
「──大好き!」
そう叫んで、手を振りながら……今度こそ、走り去っていった。
これには、完全に不意を打たれた。ルナがそう来るとは完全に予測できなくて──実際彼女も、前半の興奮でテンションが上がってたからこそなのだろうが──ユリアンは暫く、立ち尽くすしかできない。
(大好き……か……)
先ほども過った想いが、より深く、まざまざとユリアンの心の内を占めていく。
「……ユリアンさん?」
声に、慌てて我に返った。エステルも同じく準備に向かったのだろう。想が不思議そうにユリアンを見ていた。
「あ、ああうん、何でもない。……俺たちも席に戻ろうか」
「……? はい」
取り繕うユリアンに、想はやっぱり、まだよく分かっていない様子で。
その事にユリアンは今は、こっそりほっとしていた。
●
そうして、後半部の幕が開ける。
「此処が私のもう一つの戦場、だね♪ ん、頑張っていくんだよ♪」
狐中・小鳥(ka5484)はそうして、飛び出るようにステージへと踊り立つ。
迎える、観客たちの圧倒的な熱気。歓声が、拍手が、期待が面となって圧してくるような──!
そこに立って。
「皆こんにちわっ♪ 狐中・小鳥だよっ♪」
小鳥は堂々と、元気に大きく手を振って、それに応える。
……かつては大観衆の前に感じていた緊張や気後れは、少なくとも表には出ていない。。
「大好きな人達へ、大好きな皆へ、私の出来る限り、精一杯の愛を届けるよ♪ 皆、大好きだよー!!」
今はただ。皆に元気を届けたいと。その気持ちだけが、いっぱいに出ている。
小鳥の呼び掛けにやはり大歓声が応えると、彼女の曲が始まる。
いつもの、彼女らしい、元気いっぱいの歌と踊り!
大地と空とパラソルと。鮮やかに光で演出されるステージの中を、目一杯駆けて、鮮やかに回って。
常にアップテンポのリズムに、観客も気持ちよさそうに身体を、ライトを揺らしている。
2番まで歌い終わり、ラストサビに向けての長い間奏──ここで。
客席通路を、駆け抜ける! 悲鳴のような歓声、浴びせかけられるような「小鳥ちゃん」コール!
右の通路から駆けていって、客席中央の通路を横切り、左の通路から戻……らない!
リハーサルの時とは違う動き。そのまま、最奥の通路目掛けて速度を上げて彼女は駆け抜けていく。
(だって、だって、凄いんだもん。お客さんが居て、一杯声かけてくれて……止まらないんだよ!)
もっともっと。皆に届けたい。
元気を、大好きを。
ファンに。
此処に来てくれている人に。
遠くで聞いてくれる人に。
聞けない人にも。
全ての人へ愛をっ!
この気持ち、届けられるように!
想いと、それから、会場の熱気が、彼女の身体をさらに加速させる。
走りぬきながらそれでも、聞こえてくる声には極力、手を振り笑顔を返して。
勿論、身体は無理を訴える。限界だよって、悲鳴が聞こえそうになる。
だけど、この場に居ると、皆の笑顔を見ていると、どんどん力が沸いてきて。
……けど、予定外は予定外だ。
彼女の予定外の動きは、ステージに戻り切る前に歌唱パートを迎えてしまうというハプニングを呼ぶ。
彼女は、歌った。
全力で走りながら、全力で歌った。
時折、上がってしまった息が漏れて。だけど。
皆がそれを見守っていた。ステージに戻る彼女を、手を振って、声を上げて見送る。
──彼女の与えた元気が、何倍にもなって彼女に返ってくる!
きっと、だから大好きなんだよね。
ここが。皆が。この世界が。
中央に立つ。
最後まで歌いきる。
「皆、どうも有難うーーー♪ 大好きだよーーーーー♪」
最後まで、大きく動いて全身で手を振って。
ステージ袖に戻って、彼女はぶっ倒れた。
慌てて駆け寄ってくるスタッフに、彼女は弱弱しくもやっぱり笑顔で。
「あはは……気持ちよかった……」
そう言った。
●
盛り上がるライブステージ。そこに霧雨 悠月(ka4130)も登場する。
彼の登場と共に、プロジェクションで映し出される背景は夜空のような煌きへと変わっていた。
静かな足取り。ゆっくりだが目を惹く姿に、客も静まって彼を注目する。
熱気からの鎮静。だがそこから何を魅せてくれるのかという期待が、音をたてずだが確実に場内へと積もっていく。
ある種の緊張が。閾値へと達した瞬間を見計らうように──イントロ。
優しく、美しく歌われる声。
陶酔が会場に満ちていく。
(うん、楽しみは重要だね。愛せる人や場所だって……僕にもある)
その空気を肌で感じながら、悠月もまた満たされていく。
(こうして歌って踊ることで、誰かの生きる力になるのならば、いくらでも)
先ずは、あまり激しくは動かない。だけど滑らかに、大きく。顔を上げて、視線は遠く、一番向こうの座席まで。
全員と視線を合わせる。勿論そんなのは理想論だが、しかし。観客はそうすれば「今自分を見た」と感じることを知っている。
そうして特に自分に熱視線を送る者を目ざとく見つけては、狙い打つようにファンサービス。
曲に、歌詞に合わせて、甘い声と共に客席を区切る手すりにしなだれかかる様にして視線を流して、一部から悲鳴のような歓声が漏れる。
小鳥が、ただ精一杯、がむしゃらさとひたむきさで人を惹きつけるならば。
彼は徹底的にアイドルというものを理解し、実現することで魅了するタイプと言えた。
(僕も……これが自分の見つけた戦い方だからね。舞台でも戦場でも何処でも歌ってるよ)
アイドル、とは偶像だ。
見せているのは虚像。所詮、ステージの上だけの夢。
……だけど。
だからこそ大事なのは、「どんな夢を見せたいのか」をしっかりと理解する事。
その為に見せるもの。見せてはいけないもの。それをしっかり押さえさえすれば。
──解けない魔法だって、かけられる。
『悩んでるなら、聴いてあげる』
『愛されたいなら抱擁しよう』
彼の歌は、姿は、今場内を間違いなくその夢で包んでいた。
この歌は、私の悩みに共感してくれる。
この歌は、私を愛して包んでくれる。
思い出させる。辛くなったって、励ましてくれる歌が、愛するものが、あるんだよと。
だから。
──ゆっくりでいい、歩こうよ。だって僕らは此処に在るんだから。
(良い感じにみんなの熱がこもってきたね! じゃ、盛り上がって行こうか)
少しずつ動いていた映像は、やはり知らず少しずつ上げられていたテンポの最高潮に合わせて、流れる流星へ。
最後は明るく、晴れやかに締める。
伝えたいのは希望。また歩き出すための。でもきっと、その形は。
──当たり前の明日を望んでるんだよ、きっとね。
想いに応えるために。最後まで堂々、彼は隙の無いアイドルとしてこの場を戦い抜いて見せた。
●
そうして。ルナとエステルの出番となる。
どこか素朴な雰囲気のままの二人、共に中央に歩み出て、お辞儀を一つ。
暖かな拍手が二人を包む。顔を合わせ、にこりと微笑むと、ルナはリュートを爪弾き始める……。
震える弦が奏でる心地よい旋律と共に歌われるのはしっとりした曲調のバラード。
乗せたい想いが伝わる様に強弱を、響きを、伸びを。技術も精いっぱいのものを込めて。
そんなルナの奏でる音に、エステルは自分の音を添えていく。
……添える、で、良いと思った。
エステルにとってルナは、幾度となく一緒に音を奏でてきた大切な親友。
だけど、一番近くで彼女の音に触れるから、自分と彼女の音楽の重みや占める割合は違っていると分かっていた。
ああ、それでも。
ルナの音色は、そんなエステルの奏でる音を一つ一つ丁寧に。包み込むように掬い上げるのだ。
演奏中、時折。目を合わせる。微笑みあう。音の重なりは更に深まって──聴衆がしんみりと耳を澄ませる中、エステルの音も確かに、そこにある。
真摯に楽しそうに歌い奏でるルナに、優しく洗い流す水の流れに居るようだ、とユリアンは思った。
これまでの熱気とは異なる。だけど霧散させるものでもない。
今まで与えられてきたもの、溜まって来たものが磨かれていくような。
あふれ出て零しそうだったエネルギーがピタリ、胸に納まっていく、そんな感覚。
──想いが、確かな一つの形を取って。心が透き通っていく。
二人の演奏を心待ちにしていた者が、ユリアンたちの他にもここに居た。
高瀬 未悠(ka3199)はステージで歌うルナとエステルを姉のように見つめている。
耳で、目で、全身で。心地よい音に浸り、想い浮かぶ──『大好き』。
(やっぱり貴女達の音が好きだわ。それぞれの音も二人で奏でる音も)
自然と思い出されていく二人との思い出に。優しい記憶は連鎖して色んなものを呼び覚ましていく。
──この世界は私にとって大好きで溢れてる。大切なもので溢れてる。
だから守りたい。
……生き残りたい。
そこまで思って、掌は知らず不安で握り込まれた。
心を探れば不安はいつだってそこにある。記憶をたどれば後悔のそれも忘れられるわけがない。
だけど。
歌が耳を撫でていく。
大好きなものが優しく自分を包んでいく。
この音色をずっと聴いていたい。
二人をずっと見ていたい。
幸せになって欲しい。
生きていて欲しい。
願いはやまない。消えはしない。諦められないって分かるから、何度でもまた立ち上がる。
わあっと、歓声の波が生まれた。
顔を上げる。
曲調が、変わっていた。
明るく、リズミカルに、アップテンポで!
一番の盛り上がりに向けて、ルナは想いも、技術もさらに高みへと研ぎ澄ませていく。
大好き──その気持ちを届けるために込めるのは、『彼』への大好きという気持ち。
指先に、喉にとより技術を望むのは、絶対勝つんだ、私の歌、演奏でみんなを援護して勝つんだ。という意志。
──ああ、彼女がもっと高くへ上がっていく。
そのことは隣で歌うエステルが一番はっきり感じていた。クリスタルの螺旋階段を上がるその背中を見ている、そんな光景すら幻視する。
その隣で、私は何をすべきなのか?
手を挙げて、左右に揺れて。さぁリズムをご一緒に。導こう、より深く。共に彼女の歌の世界へ。
──高らかに在るだけが全てじゃない。
未悠はそんな二人を客席から瞬きもせずに見つめ続けて──ふと感じた。目が、合った?
錯覚かもしれない。一瞬のそんな想いは、だけど。ルナとエステル、二人同時に、微笑んで。
……こちらに向けて、手招きしてきて。
胸いっぱいまで高まっていたナニカがその時、弾け飛ぶ!
──貴女達って本当に最高っ!
エステル、ルナ、大好きよ!!
客席を蹴って、駆け出す。ステージを目指す彼女に一瞬会場がざわつくが、舞台上の二人の態度にすぐ演出と納得したか。
奏でられる歌に、未悠の声も重なる。
ラブソング。
聴いた人が恋したくなるような。
表情に、歌声に込めるのは……恋人への、想い。
(私はあなたと過ごすありふれた毎日を、普通だけれどもとびきり幸せな未来を守りたい)
じんわり胸の奥まで届かせるような、蕩ける、そして震える声。
最後のキー、響かせる、その為に想う。強く、強く
(愛してるわ、────!)
ただそれだけを、その名前と共に。
●
央崎 遥華(ka5644)は登場と共にギターをかき鳴らし注目を引くと、観客に向けて語りかける。
「みんなの中にも一人で来たって人もいるよね?」
とたんに上がるのはブーイング。だけど、どこか暖かい。
程よくテンションの高まった会場でこんなのはじゃれ合いだ。
先ほどの流れを受けて。恋人の居ない身、その見通しが立たないものだって当然いるだろう。これは、そんな彼らを笑うものか? 否。そんな自分たちも拾ってくれる人が居る。だれ一人置いて行かない。その呼び掛けだ。
「でも周りを見て。あなたと同じく楽しみに来た人がいっぱいいるでしょ?」
だから今度の声には歓声で。口笛。Yeah! の掛け声。
遥華の声に皆各々に盛り上がり、顔を見合わせ、手を叩き合う。
演者として。発信するだけじゃない。こうして観客と交わし合える──だからこその『ライブ』!
一方的に伝えるだけじゃない。遠くから見るだけじゃない。
お互い、ここに居る。一人一人、私たちは、ここに居る! こっちからだって、ちゃんと見てるよ。知ってるよ。
「心強いよね!」
戦う私たちにとっても。あなたたち、一人一人が。
また、わあ、と会場が歓声で沸く。
それに遥華は、一度不敵に笑って首を振る。
「叫んでこー!!」
まだまだでしょ?
さらに呼びかければ場内を揺るがさんほどの大歓声!
叩きつけられる! ステージ全面を圧してくるような歓声の塊に、肌全体がビリビリと弾けていく。
──……いいね!
圧力を真っ向から全身に浴びる遥華の指先が、ギターサウンドが疾る。
鋭い連符が波動を真っ二つに切り拓いて、『遥華』の音を見せつける。
ストレートなロックを叩きつけ凛と立つ遥華の姿はクールで、スタイリッシュで、一人立つその姿に力強さがあった。
切り裂くような音に、合わせられるのは稲妻のようなイメージのプロジェクション。
激しく。眩く。焼き付ける。刻み付ける。
歌いかけるのは希望じゃない、情熱でもない。ただありのままの己。
──誰だって最初は別世界への恐れを抱いていた。それが当然だし、それでいい。
だけどいつの間にか歩み寄れてたでしょ?
トクベツ、なんてなくたって、少しずつ、強くなれるよ、誰だって。
前向きな気持ちを歌詞に乗せて、ビートを刻む。
ステージの上から、音と一体となって心が会場に拡散していく。
リズムに揺れて観客が生み出す音と混ざり合ってく。
一人じゃない。
もう、一人じゃない。
腕をぶん回すようにしてかき鳴らば、呼応するように観客がどんどんと沸き立っていく。
「サンキュー――!」
曲の終わり。こぶしを突き上げて叫んだ。
●
アルマ・A・エインズワース(ka4901)らの登場はキャリコ・ビューイ(ka5044)による輝紅士の魔法のとりどりの光に包まれてだった。
……が、その登場と共に一部から特異な盛り上がりが見られたのはそのせいでは無いだろう。
「わふーっ! 皆さんお久しぶりです! 『Alcalion』ですー!」
アルマが声を上げると、やはり期待を込めた手拍子と歓声が彼らを知っている者たちから上がる。……そして、初見の者たちからもすでにくすくすと笑い声が上がりつつある。
「それじゃ、初めましての方にお友達を紹介するですよー! シオンー!」
アルマの声と共に、仙堂 紫苑(ka5953)にスポットライトが当たる。今回もヴィジュアル系を意識した彼らの衣装の中で、紫苑のそれはパープルのYシャツとブラックスーツ。
本人的には、『まあ、リアルブルーにもこういうバンドたしか居たし問題ないだろ』くらいに思っているようだが、中々に決まっている。
「キャリコさーーーん!」
そして。
声とともにスポットライト移動。
爆笑。
彼は今日もワンピースドレスに顔上面を覆う黒の金属マスク、だが体格はしっかり男。そして今日は、地毛と同じ色のエクステで髪を伸ばしている。
すっとキャリコが一歩前に歩み出る。そして。
「こっちで、ライブするのは2回目のきゃりこでーす。猟撃士でハンターを殺ってまーす♪」
キラッとまた片手でポーズを取ると共にまた輝紅士の魔法で小さな明かりをともす。
……無抑揚だった前回と違い、今回は練習したのか女声。
「……キャリコさん? なんかトーン違うです!? 具体的に『やってます』あたりが物騒な気がするです!?」
アルマのツッコミに、笑っていいところなのだと観客の笑いのトーンがさらに上がる。
そして。
スポットライトが今度は別の場所を照らす。誰もいない? と思うのも束の間、アルマがツツツ……と移動するとメンカル(ka5338)をそこに引っ張ってくる。
「あぁ、そうか。お客様に挨拶位するべきだな……」
引っ張り出され、メンカルは戸惑ったように周囲を見回した。
「いつも弟がお世話になっている。正式なAlcalionのメンバーではないが、本日は助っ人として来させてもらった」
メンカルらしいが、どこか堅苦しいだろうか。観客から合いの手のように声援は返ってくるが、これで良いのか……やはり若干ぎこちない。
「気分、どーすか」
紫苑が、慣れない様子のメンカルを気遣うように振って見せる。いつもは収拾を付ける役の紫苑が興は多少は気楽に見えるのはメンカルの存在あって故か。
「気分、か。そうだな……」
言われてメンカルは改めて状況を認識する。大観衆。舞台。仲間。弟……。
「中々に、奇妙なものだな……」
しみじみとしたメンカルの言葉に、一同続きに意識を集めて。そして。
「……弟がツッコミに回っている……」
これには紫苑が軽く吹いて、観客もまた小さく笑う。
メンカルはそのまま、ある種畏敬の視線をキャリコへと向けると、それが振りだと思ったか。
「皆のハート(ツボ)をハイペリオンしちゃうNE!」
キャリコが指を銃の形にして客席を撃ちながら言った。やっぱり女声で。
「ぐぉっ……!」
「うぐっ……!」
客席大爆笑。不意打ちに、紫苑とメンカルは地獄の形相で笑いをこらえることになった。不味い、これは一度笑ったらツボに入って止まらなくなるやつ……耐えろ、耐えろと必死でこらえるが、目の前で皆思い切り笑っているだけに辛い……! って。
「アルマお前が何遠慮なく笑い転げてんだ!? 歌えなくなるだろーがっ!」
そこで紫苑がツッコミを入れて我に返った。
「だって……だって……いくら何でもずるっ……待って……」
完全に呼吸もままならない様子で笑っているアルマ。
「おい、ほらしっかりしろ……客を待たせるな」
メンカルもそれでどうにか己を取り戻し……、
「わふ……お兄ちゃんが振ったです……」
「待て! 俺か!? 俺のせいなのか!?」
「お兄ちゃんにお笑いの才能があるとは意外でした……今度からもっとネタ振りするですー」
「違う待て! 何無茶振りを企んでる!?」
もはやこの時客席は腹筋地獄と化していた。
アルマはと言えばそんなメンカルとの会話でようやっと波が引いたのか立ち上がった。
「それじゃそろそろおうたに入るですー……というわけで、はい」
そして、流れるようにヴォーカル用マイクをメンカルに手渡した。
「……待て。俺も歌うのか?」
同様の呟きを漏らすメンカルをさておいて、アルマは完全にスタンバイ体勢に入った。
「いや歌そのものは覚えてはいるが、アル。待て」
抗議の声。まるでそれを合図にするかのように、イントロが始まる。
メンカルが次に視線を送るのは紫苑だった。視線を受けて彼は、楽器を構え一つ、肩を竦める。意図は明白だった──諦めた方が早いっすよ。
「……メインはお前達だからな」
結局メンカルは、曲の邪魔にならないようにそう呟くしかないのだった。
──そんな騒ぎの後で始まったのは。
『♪君の手を引き 連れ去った夏祭りの喧騒――』
ギャグっぽさもなく。ヴィジュアル系とも違う、どこかしっとりとした曲だった。
聴衆はまず落差に目を丸くして……だからこそまじまじとアルマを見て、そして、引き込まれていく。
前見たのと、これまでと異なる雰囲気。だけど──これもまた、彼らしさなのだということが、じわじわと浸透していく。
何を想っているのか。
誰を思っているのか。
変わるものが在るだろう。変わらないものもあるだろう。
その中で、自分たちは、これからは、どうなるのか。
紫苑は己の音をアルマに重ねる。深く考えなどしない。ただ、流れで。互いにとっての自然な形。今、こうあるべきと思うのは、これが最適と思うからか。
(これで最期……にする気は全くないんだが、そうなる可能性がないわけでもないからな……)
四人。互いに想い、重ね合わせて。
じわり、じわり、染み入る様に曲は進み、そしてラストパートへ。
『♪夜空に想いの光
灯して伝える打ち上げ花火
見えなくなっても
思い出の中に――』
合わせて、マテリアル花火が打ち上がった。キャリコが皆の花火を一括で預かり、タイミングで皆に投げ放ち、そしてそれぞれが打ち上げていく。
客席のボルテージは益々上がっていく。
熱狂の内に、歌が終わり。
照明も落とされて、暗くなったステージを前に静まり返る……。
のを、見計らって、紫苑から一際光の強い花火が二発!
不意打ちの盛り上がりで、彼らのステージは締めとなった。
●
そうして。順番に、演目が消化されていく。
最後のアーティストが、やはり締めに相応しい最高の技術、盛り上がりを見せて場内は拍手に包まれる。
やがてカーテンコール、全ての出演者がステージへと順に登場し、一言の礼を述べながら並んでいく。
揃っての礼。退散し、本日の主役と言えるトップアーティスト一組が残り、やはりもう一度礼をして退場。
照明が、落ちる。
鳴りやまぬ拍手。
再度、華々しくライトが照らされ、鮮やかに変化していくプロジェクションと共に再集合したアーティストたちが、今度はそれぞれ手にしてやってきた楽器を一斉に鳴らす。
「──さあ、奏でましょう。歌いましょう……共に!」
高らかな宣言と共に流れる曲。
アーティストたちの仕草で起立を促される観客たちは、この曲、ここからがグランドフィナーレなのだと理解する。
……皆で歌うために。その為に準備されてきた曲。
未悠が高らかに歌いながら胸に手を当てれば、追従する観客は同じくらいに愛する誰かを想うのだろうか。
ルナとエステルが視線を合わせ、手を繋ぎ、それぞれの手を観客へと向けて広げて示して見せる。共に在りましょうと。
それを見てユリアンも歌えば、想も躊躇いがちに、でも少しずつ声を合わせて共に歌う。
透の歌声もそこに重なっているのを耳を澄ませて聞きつけて、真も警備の場から静かに歌声を乗せる。
柊と柊羽は、顔も合わせず、何も言わずに共に歌いながら、全く同じタイミングで互いに手を出して繋いていた。
タイミングを合わせて、小鳥が高く元気よくジャンプすれば、観客もそれに続いて、フロアが揺れた。
悠月はやはり絶妙なファンサービスで存在感を放って、今この場で皆にかかる魔法を更に強くしていく。
遥華もまた客席に降り立って、観衆のすぐそばで弾いて歌って。こうして皆の傍で歌えて弾ける、その楽しさを間近で伝えた。
キャリコは相変わらず何処まで狙ってか分からない動きで、アルマが率先して笑いに行くものだから観客も遠慮なしに爆笑を巻き起こして。
収拾を付けるために奔走する紫苑とメンカルに同情の視線が集中する。
様々な感情が、個性が、一体となって混ざり合って。
でもそこに、一つ一つの顔がある。
そんな熱気を、天央 観智(ka0896)は初めから終わりまで、余すことなく堪能して。
(色々な人はいますけれど……希望という一点、のみでは……この一団は、共通していて……それは、未来を眺めていく上で、大切なもの……なんですよね。周囲を眺めていれば、未来が明るく……思えますね)
誰もが明るく、この場を楽しんだ、その結果を見届けて、思う。
共に歌い、身体を動かし、盛り上がりと一体化しながら観智は盛り上がる人達の意志を観察して、一人一人の主張を、心強く眺めて過ごした。
演者の意志に、誰もがそれぞれに愛を、希望を、意志を抱いたように見えた。
皆、顔を上げ、声を上げてステージに向けて拳を振り上げている。躍動。エネルギー。ここにあるのは間違いのない、人類の持つ力強さ。
「好き……って、強い感情ですしね……原動力として。歪んでさえいなければ、負の方向性に働くモノでもない……ですし」
呟きながら。
それは正に今日見た、一瞬の花火のようなものでもあると……思う。
きっと世の中そう単純では無くて。
ここに居るどれ程が、明日、今この感情を、熱気を覚えているだろうか。
希望はまたすぐにでも不安に塗りつぶされるだろう。
意志はまたすぐにでも欲望に負けるのだろう。
それでも。
奥底にしまわれて見えなくなってしまっても、それは決してなくなったわけでは無いと。
この瞬間はきっとその証左なのだ。
忘れてしまっても。
思い出せる。揺さぶり起せる。何度でも。
だから観智もこの場で、歌った。叫んだ。揺れ動いた。
──この日を、この熱気を、この感情を刻みつけるように。
きっとこれが、戦う力。戦う祈り。
僕たちの希望は、意志はここにある。
絶望に閉じ込められた人たちを解放する、光となれ……──
たとえ一瞬の、閃光のような思い出でも。
●
チケットの半券を手に、康太はぼんやりと座り続けている。
何日根気よくそうしてオフィスを訪れたのだろう。そうして目の前に現れたメアリ・ロイド(ka6633)から渡されたものだ。
「貴方の覚悟については、余計な事は言いません。お別れと感謝を伝えたいから、来てほしい」
その言葉と共に。
そうして、賢四郎からの声掛けもあってやって来たライブの、休憩時間。
座り続けていた康太を、とうとうメアリは見つけていた。
まばらに皆、客席へと戻っていく時刻。緊張しながら近づいてくるメアリを、康太も覚悟を決めて迎えることにする。
メアリは、康太の正面に立って。
「──最初は出会った頃みたいに自棄になってると思ってた」
挨拶も無しに、そう切り出した。
「でも違った。惚れ直すぐらいに迷いがなかった。私は貴方の死から目を背け、向き合うと言いながら逃げてた。もう逃げません」
その言葉に。
康太は重いものを吐き出すように息を零して、目を閉じた。
「貴方に恋し続けますよ。私の事少しでも好きなら、私の寿命つきるまであの世で待っていて」
「……」
メアリのその言葉に、康太の反応は……無言、だった。
「……貴方が私の事好きなのは分かってる。だって名前を呼んでくれないし。素直な気持ち聞きたいですよ、生きてる間心の支えになりますから」
そこで引くメアリではなくて。更に語気を強めて押すと。
「素直な気持ち、ですか」
康太はそこでやっと口を開いた。硬い声に、やはりメアリは身体が強張るのを覚える。心臓が跳ねて、嫌な冷たさを覚えた。あり得るだろう。全部自分の勘違い、とか、また怒らせることを言ったかも……と。
「……覚悟を受け入れてもらったことについては。感謝していますし、安堵しています。……意外でも、ある」
それは確かに、どこかほっとしたような声だった。
「最後に戦った時の貴女の物言いでは。あくまで在り方を変えた僕を否定されるとも思いました。あるいは、『貴方が死ぬつもりでも私が勝手に助ける』とか、僕の認識とはかけ離れた夢想を吐かれるかとも。そうなったならば、僕は貴女とはやはり分かり合えない者同士なのだと、全てを叩き切るつもりでした。貴女の気持ちも……これまで僕の中で芽生えていた気持ちも」
素直な気持ちを、と言われるならば。
実際、危ういところではあったのだ。これは決してただ絆されたわけでも根負けしたわけでもない。康太の感情は直前まで危うい綱渡りの上にあって、メアリは最後の最期でギリギリでそれを渡り切った。違う結末は、有り得た。
「その上で、まあ、待っていて、というのは、あまりあてにはしません。生きている限り、人は変わりうるものです。お互いに覚えのある事でしょう」
「……今度の気持ちは、間違いなく本物だから、違えることは有り得ない」
「何が起こるか分からないのが人生です。例えばその見通しには、『貴女が一生誰の補助も必要としないほど心身財産が健全である』という前提が無意識に有りませんか」
「それは……」
「そうなった際に貴女が差し伸べられる手をすべて振りほどくことを、或いは差し伸べられた手に不義理で応えることを僕があの世で喜ぶと。僕は貴女を縛る呪いとなることを望みません」
素直な気持ちをと言われるならば。
己にとって自然な在り方で答えるならば。
「僕は。貴女がこの先。その時の貴女にとってこれが最も幸せと言えるように在ってもらえることを、望みます」
彼が、そういうと、暫くの後。
「──貴方を好きでいることが、私の一番の幸せだと言ったら?」
掠れるような声で、メアリは尋ねた。
「今そうであることは、否定しませんよ」
事もなげに、康太は答えた。そう……それは、否定しない。康太の覚悟を彼女が受け入れたのであれば。『死を受け入れるな、諦めるな』というのが所詮一般的な価値観で己にとってはそうでは無いと言うのであれば。『死人を想い続けるなど不毛だ』というのもまた一般的な見方からの勝手な言い分ではあるだろう。認めてくれたのであれば、認める。
「ねえ、言ってよ。それって結局、私の事……──」
「『その時の貴女が幸せになれるように解釈してください』」
でも。
ここまで。
そこで康太は、これ以上ははっきりはいわないとぴったりと口を閉ざした。
この人は本当にもう、と思いながらも……しかし、順に、腑に落ちていった。
今回の決断も。
初めて会った【空蒼】の時も。
メアリは知らないが、ハンターたちの前に初めて姿を現し、透に行った事だって、結局はそうなのだ。
──己にとって最善と考えられる結果の為には。個の存在よりも優先されるものがあると。
考えてみればこの人の判断基準はそういうものだった。
そういう人だったと、受け入れて──
メアリはゆっくりと手を握手の形に差し出した。
「私に恋と夢を与えてくれてありがとう」
康太はそれに手を重ねて応じる……と、ふいに身体を引き寄せられた。
「──次は決戦の後か、いつかあの世で会いましょう」
温もりが密着して。声は、耳元で聞こえた。
そうして。
次にメアリが覚えたのは、肩に回る腕の感覚。ポンポン、とかるく叩かれ、離れていく。
「……そうですね。貴女の人生がどのようなものであったか、聞くために待っているのでしたら」
それは、抱擁というよりは──見送りのようなそれであったと思う。
呆然とするメアリから……温もりが離れていく。
そのまま、二人の距離が。
ライブが再開する。そのざわめきだけを、やけに遠くに残して。
この場での二人の時間は、そうして終わった。
●
「……これは一体、何なんでしょうか」
困り果てたように想はユリアンに聞いていた。
「すみません。おかしいですよね。どうして俺は……悲しくないのに泣いているんでしょうか」
そんな彼に、ユリアンも少し涙目になりながら頷いていた。ああそうか、彼はこういう事も初めて知るのか。
「間違ってないよ。それでいいんだ。きっとこれから……君はそれをたくさん知る」
「……?」
そうしてユリアンは、そんな想を見て静かに己の心を鎮めていった。冷静に、それでも……やっぱり、素直さは忘れてはいけないものだと、思い知らされて。
「ごめん……俺、二人に会ってこないと」
そう告げて、二人を迎えに走っていく。
「はい……あの、今日は誘っていただきありがとうございました!」
そういう、想の声に送られて。
「兄様! どうだった?」
「二人ともお疲れ様。最高だったよ……ほら、お土産あるから離れて」
飛びついてくるエステルに苦笑しながらユリアンは答える。
エステルはと言えばルナさんもこれくらいしても大丈夫だと思うの、と言いたげな視線を彼女に送っていて。
気付いてか気付かずか、ユリアンはルナへと近づいていく。
「お疲れ様。紅茶のゼリー、良かったら」
「あ……ありがとうございます」
瓶に入れられた緩めのそれを差し出されて、ルナはまだ火照った様子でそれを受け取る。
直前まで井戸水で冷やしていたそれは程よく冷たくて、美味しいというだけでなく気持ちよさそうにそれに口を付ける彼女。
ぼんやり、その様子を眺めて。
(こう言う時だけ迎える側に立つのは狡いのは解ってる)
ユリアンは自覚していた。
家を出て、旅に出て、力足らずでも前線に出て……明確な答えを出せてもいない、自分。
それでも。
ルナの。力を出し切って充足した高揚に包まれて、ほっと少し気が抜けた姿を見ていると。
(……うん)
固まっていく想い、腑に落ちていくものを、どうしようもなく感じる。
……何時か、君に伝えられるだろうか。
●
この日の熱気は。
暫く熱病のように今日の観客たちの中でわだかまっただろう。
その熱が引いていくと、焼き入れられた刃のように研ぎ澄まされて一人一人の中に静かに形を成していく。
何をすべきか。
何が出来るか。
誰にとも言わず人々は崑崙にある神霊樹へと集まっていく。
祈りの力が大精霊へと届き、世界を守る力となると。異界を導く標となると。
磨かれた思いを人は真摯に樹へ、そしてハンターたちへと向ける。
透も皆で歌った歌を浮かべて集中を高めながら、その輪の中に居た。
皆で同じように神霊樹へ向けて歌を重ねた。
一つになった心が。
どうか、過酷な戦いに向かう者たちへと届きますように。
らしくなく。
足音を立ててここにやってきて、乱暴に扉を開け放ったのだと自覚しながら周囲の視線をまだどこかふわふわとした意識の中で見返す。
そこは何処か静謐で、だけど暖かさに満ちた空間だった。
透の言葉でここもまた、「そういう雰囲気」になっていたのだろう。彼らは必要な言葉を交わし、握手し、緩く腕を回して肩を叩き合っていた……そんな空気の残滓が、光景に残っている。
だから彼らは、スタッフ及び警備として、今はここに来る必要が無いはずの鞍馬 真(ka5819)みて、咎めもせずに迎え入れる。
真はそうして、透の前に立った。
「後半が控えているのに、急に押し掛けてごめん。えっと、……」
こぼれ出た言葉がそこで一瞬停止する。上手く纏まらない。心より、思考より先に身体が飛び出てここまで来てしまった感じだった。
「……好きだよ。大好きだ。何度曲がっても、折れなくて、真っ直ぐで、格好良くて。こんな状況でも、自分らしく人を励ますことができて……そんなきみが、大好きなんだ」
まだ何か、口が勝手に動いているような状態で、とりとめのない言葉をしかし止めようとは思わなかった。
「……私は、きみみたいに強くなれない。空っぽで、無力で。でも、それを割り切ることすらできない、とても弱い人間なんだ。消えてしまいたいって思いも、未だに残ってる」
ゆっくり一つ。深呼吸。
「だけど、」
先んじていた身体と口に、感情と理性が追い付いて重なっていくのを感じた。
「死ぬために戦ってる訳じゃないって、今なら言える」
この言葉は。
慰めのために作ったものではなく本心からのもので。
一時の衝動により刹那で砕け散るような物でもない。
「──だって、生きて、またきみの舞台を見たいから」
心で真摯に思っても頭で冷静に考えても、今自分は間違いなく、そう願えているのだと。
「……ありがとう。きみが居て、良かった」
真っ直ぐ透を見て、伝えた。
透は真が全てを言い終えるまで、ただ黙って、真剣な表情でそれを受け止めていた。
「きみみたいに強くなれない……か」
そうして……今、その言葉だけじゃない、今までの事を振り返って。
「んー……まあ確かに。江の島のころとかの印象と比べると、君思ったよりメンタル凹むし引き摺るよな」
つい、という感じで、気の抜けるような間延びした声でそう言うのだった。
「ず、ズバリ言われると思ってたよりきついよ!?」
真は思わずガクリと脱力して、そして。
「でもまあ、」
そうして透は、懐かしそうに目を細めて、続けた。
「君がいつも。常に失敗なんてしない完璧な。あるいは闘いさえあればそれでいいって、直ぐに割り切れるようなそんな『強い』ハンターだったなら。『真って呼んで良いか』なんてなれなれしく話しかけることは一生無くて。ずっと遠い憧れの『鞍馬さん』だったんだろうなって」
「──……」
「傷ついて。弱って。無理しているのを感じた。だからもっと近づいてみたいと思った。世話になるばかりじゃなく、力になれるかもって思ったから」
だからって別に死にかけて良かったとは、そりゃ思ってはいないが。いつでもなんにでも強くあれなんて、そんな必要は無いんじゃないか。
「『俺みたいに』強くない、か、うん。君の言葉はたまに、なんだかんだ分かってんじゃないかって思うような絶妙さがあるよな。君には君の強さがあって、それが必要な場面ではいつでも助けてくれたじゃないか。だったら俺の方が強いと思う場面では……頼ってくれればそれでいいじゃないか」
そう言って、透は微笑む。
「真、俺は──格好良くない時の真だって、大好きだよ。俺だって弱くて情けないところも散々君に見せた。でも君はこうして今も俺に会いに来てくれるじゃないか」
……透が言葉を終えると、暫く、沈黙があった。
お互い、掛け合った言葉をゆっくり飲み込むための沈黙。
何故伝えようと思ったのか。今伝えようと思ったのか。
分かっている。もう──これが言葉を交わせる最後の機会になるかもしれないからだ。
だから今、伝えなきゃいけなかった。
伝えなかった後悔だけはしないように。
それから。
「前半、格好良かったよ。後半も応援してる!」
「うん、見ててくれ。ステージではいつだって今が最高と言えるものに挑んでいくから!」
──とびきりの笑顔で、別れておけるように。
●
事前に調査しておいたロビー内のその一角は、出入り口からは少し見え辛い位置にあって、騒めく会場内でも比較的落ち着いた場所だった。
初月 賢四郎(ka1046)はそこにあるベンチに腰掛けて、静かに誰かを待っている。
約束の時間まで一、二分。待ちぼうけも覚悟していた相手はしかし、几帳面さを感じられるそんな時刻に姿を現した。
「……どうも」
微笑し軽く片手を上げて挨拶すると、相手──高瀬 康太(kz0274)は、警戒するような顔のまましかし軽く会釈を返す。
「それで一体、何の用ですか?」
「何、決戦前です。戦友と水杯でも、と思ったまでですよ」
事もなげに賢四郎が言うと、康太の表情が変わる。戸惑い、というか……。
「拍子抜け、みたいな顔ですな」
「……。貴方には。かつて言い負かされたきりですから。今日は負けないつもりでした」
賢四郎の言葉に、康太は正直に告げると、賢四郎は思わずははっと笑っていた。
嗚呼成程。それで彼は己の誘いに応じたわけか!
そう言えばそんな初対面だった。賢四郎にとっては言われてみればそんなことも有ったな、程度の事だがしかし、確かに向こうにとっては忘れがたき屈辱だったのだろう。
先の戦いで康太が見せた覚悟は確かに、全ての者が肯定しうるものでは無い。
だがしかし……確信する。まさに。今日彼の言葉を否定しようとすれば、己は敗北しただろう。
「──行き詰った者の行き当たりの言葉と、終点を前に真に覚悟を決めたものの言葉の差ぐらい分かるつもりですよ」
だから賢四郎はそれをただ、称賛する。餞になればいい、と。
「そんなに意外ですか? 貴方とは何度か手を組もうとも持ち掛けていましたがね。……生憎とまるで期待できない相手の手を引っ張って教育してやろうと思うほどのお人好しでもないですよ」
そうして零れた言葉に。ほんの少しの未練があることも賢四郎は自覚した。済んだ後で組んで何か出来ればと思ってもいたが……覚悟を決めた相手に言うのは無粋だ。
「……。そう、ですか」
そうして康太は、それに……これで一つ、思い残すことが無くなったという風に、微かに表情を軽くしていた。
「向こう(あの世)で会ったらその時は誘わせて貰いますよ。お互い、邪魔にならない限りは協力者で……ね」
「あの世なんてものがあるのか僕には分かりかねますが……まあ、そうなったら検討には値するかもしれませんね」
そう言って。
認めあった者同士、これが最後になるだろうその瞬間を分かち合って。
「さて、私の用事は以上ですので、『別の予定』があるのならば遠慮なくどうぞ」
賢四郎がそういうと、康太はぶふぉ、と激しくむせ返った。
キリ、と睨み付けるような康太の目が問う──やはりそれが目的か、と。
……賢四郎より先に『別の人間』から呼び出されていた康太にとって、賢四郎からの呼び出しは『一先ずここに来る』ことへのハードルを引き下げる物だった。来てみてやはり気まずさが勝るようだったら、『これ』を言い訳にここで帰ればいい。
それを狙っていたのかまでは計り知れないが……──。
「会えとは言わないが手紙ぐらいは残してあげたらどうですかね。顔を会わせる事だけが再会でもなし、覚悟を決めているなら──拒絶であれ──答えを出すべきではないかと」
老婆心ですがね、と、そう言い残して、賢四郎はそうして、そこで立ち上がり、手をひらひらと振りながら立ち去っていく。
それ以上は、促されることもなく。
一人残されて座る康太は、暫く考え続けていた。
●
休憩のアナウンスが聞こえて。ステージの照明が落ちて、変わりに座席の明かりが灯されていく。
騒めく会場、ポツリポツリと立ち上がる人たち。夢から醒まされるように、先ほどまであった会場の空気が霧散していく。
「はあーー…………」
そうして隣から聞こえてきたのは、「今息を吐くことを思いだした」といった感じの、深く長い吐息だった。
「姉さん、大丈夫?」
思わず氷雨 柊羽(ka6767)は、その、吐息の主だろう隣の存在──氷雨 柊(ka6302)に顔を向けて尋ねていた。
「疲れてない? どっかで休もうか」
「大丈夫ー……といいたい所ですけど、そうですねぇ。ちょっと休みましょうか」
言われて、若干のぼせている自分を自覚したのだろう。柊は柊羽の言葉に素直に答えて、一度ライブ会場から出ることにした。首尾よく一息つける場所を確保すると、柊は「何か飲み物買ってくるね」と一旦その場を離れていく。
……少し、一人でぼぅっとする間。
(それにしても、大好き……か)
ぐるり、柊羽の中を巡るものが在った。ライブステージ、その最中に少しずつ己の内に溜まっていった何か。行き場の無いようなそれはしかし、前半、最期の言葉で明確に一つの方法に向かいつつあって、しかしあと少しのところでまだ滞留している。そんな感覚に──どれほど浸っていたのだろうか。
「はいこれ。しゅーちゃんの」
「え?」
いつの間にか柊は戻ってきていて、柊羽に買ってきたという飲み物を差し出してくる。「ありがとう」と受け取って、一口。
……知らず自分も結構消耗していたのだろう、染み渡っていくその味に。
──きっと姉は、何の気なしに「これ」を自分のために買ってこれたんだろう。そういうところ。
喉元まで出かかっていたものを押し出したのは、飲み込んだそれだったのかもしれない。
「……ねえ、姉さん。大好きだよ」
「はにゃっ? な、なんですか、急に」
「ん? そうだなぁ……なんとなく、なんて」
苦笑交じりに柊羽が言うと、柊は困惑気味の笑みを浮かべた。
考えてみれば。
兄弟姉妹というものは、始まりの「大好き」なのかもしれない。
親から離れることの出来ない期間というのは、世界というのは家族が全てと言っても過言では無くて。その中で、最も年齢が──すなわち経験が、感性が──近しい存在。
もっとも親しみを覚えるのはごく自然なことで、その時期を、何時も一緒がいい、何でもお揃いがいい、と過ごした兄弟姉妹は多いのではないだろうか。
「言わなくったってわかりますよぅ? ずぅーっと一緒でしたから」
「……うん、知ってる。昔から変わらないよ」
ずっと共に育ってきた姉妹。だからこその「大好き」は、互いにとって当たり前すぎるもので──だからこそ、敢えて口に出す機会も中々ない。
それを、だから、今。
口に出してみた、のは。
「たださ……さっきのあれ、聞いて。言いたくなったんだ」
「さっきの……ああ、そうですねぇ。ちょっと、考えちゃいます」
意識させられてしまえば、二人にも否定しようもなく存在する、「大好き」が駆り立てる、その気持ち。
(──私の『大好き』は段々増えていって、両手だけじゃ抱えられなくて、そこから零れ落ちてしまうのが酷く怖かった)
(──死にに行くわけじゃないけれど。……死にたいわけじゃないけれど。それでも、死なない保証はない)
喪う事への、不安。
気付けばお互い、互いを見ていた。
親から離れることのできる時間が増えるほどに、世界は広がっていく。違うものを見て、それぞれに違う「大好き」を見つけていく。
同じ家で、同じ親に育てられたはずの二人は、気が付くとこんなに違っていて。
それはつまり、外の世界を知って増えた「大好き」の違いであるかもしれない。
でも、それでも。
これが、ここが。
沢山増えた大好きの中で、変わらずにあり続けた──始まりの「大好き」。
今、「大好き」が揺らぐこの時だからこそ、そこから見つめ直して、想うのは。
(──でも、大好きな人たちと一緒にいるために決めた道だから。もう怖がってはいられない)
(──でも、だからこそ。これは生きて未来へ進むための決意だ)
揺れる心の中で決意を探し当てて、固めていく。
見ている未来は、同じかもしれない。違うかもしれない。それでも……その中で、互いが共に在りたい。その想いは、きっと一緒だと。
「さ、しゅーちゃん! そろそろステージの休憩も終わりみたいですよぅ? 見に行きましょうっ!」
だから笑顔で。柊は迷うことなく柊羽の手を取る。
零しなどしない。しっかりとこの手に掴んでおく。その願いを、決意を秘めて。
「うん。いこうか姉さん」
柊羽も迷うことなく柊の手を握り返して、歩き出す。
悲しませないために。悲しむ顔を見たくないから。未来へ進む。その意志で。
手を取りあって。
歩調を合わせて。
二人、共に歩いていく。
●
時刻はまた、休憩時間が告げられた直後。
同じように、空気にのぼせ上った同行者に声をかけているものが居た。
「……大丈夫? 想」
「……あ、はい。その、なんか……凄くて……」
目をチカチカさせているように言う想に、まだ刺激が強かったかな、とユリアン(ka1664)は苦笑する。
「その、楽しんでる? 急に誘っちゃったけど、合わないなら無理に最後まで付き合う事も無いけど……」
想にもこの場の熱と想いが届けば。そう思って手紙を出して……二人で来た。
「あ、いえ! 楽しいですよ!? 初めて見ることばっかりで……ドキドキします、けど……」
言葉の前半、そこに無理や偽りは無いように思えた。が、次第に、自信なさそうに想は肩身を狭めていく。
「あの。すいません。あまり、皆さんと同じように声、出せなくて……」
「ああ。あはは。そうだよね、ああいうのもいきなりは難しいよね。……良いんだよ、それぞれの楽しみ方で。想が『こうしたい』って思った時にそうすれば」
「そういう、ものでしょうか……」
ユリアンの言葉に、想は一応納得はしたものの、やはりどこか不安げではあった。
「ちょっと、外の空気でも吸ってこようか。ちょっと酸欠気味だよね」
「あ、はい」
一度気分を切り替えた方が良いかな、と、ユリアンも想を連れて一度場外に出ることにする。
互いに一度、大きく深呼吸。して。
「……大好きって、どういう気持ちでしょうか」
そうして想が、ぽつりと言った。そんなつもりは無かったのだろうが、ふいに心の柔らかいところを掴まれた気がして、ユリアンの心臓がドキリと跳ねる。
「……あの。俺には。最後の話が……良く分からなくて。マスターも、ユリアンさんも、大切な方です。居なくなってほしくないと思う……けど、何か違うのかなって」
ユリアンには……すぐには答えられない。想の、そういう思いが。大好き、と言えるものであるかと言えば。そうだよ、とも、違うよ、とも、安易に言えるものではない。
じゃあどう言えばいいのか……。
(大好き、か)
自分にはあるのだろう。そう言うに値する想いが。しかしそれもまた……上手く言葉にして説明できるようなものでは無くて──と、そこまで考えたとき。
「兄様!」
聞こえてくる声に、はっと顔を上げた。
なんてタイミングだ──と、少し、思った。そこには、妹のエステル・クレティエ(ka3783)と、それから。
ルナ・レンフィールド(ka1565)が居た。
「やあ……まだ前半で言うのもおかしいかもだけど、お疲れ様」
「はい! 兄様は差し入れもありがとう。前半も舞台に上がる前に一舐めしましたけど……いつもと少し味が違いました?」
「ああ、……今日のは師匠のレシピだから」
「兄様の先生のレシピはうちのレシピと少し違う……ふむふむ」
ユリアンとエステルが言うのは彼が持たせたハーブの蜂蜜漬けの事だ。そんな話をしながらも、ユリアンの意識は僅かにずれていることに、エステルは気付いていた。
少し後ろでは、順番を待つようにルナがユグディラのミューズを抱きしめて毛繕いしてやるように撫でている。
「……あ! 想さん、ですよね。初めまして。兄がお世話になってます」
「え!? お世話にだなんて、そんな……俺が迷惑かけ通しで……。あ、えっと、初めまして……想です」
「この前の依頼でも兄様と一緒だったんですよね。お話、聞きたいです。ちょっといいですか?」
「え、ええ……? あ、はい、ユリアンさんはそれは活躍されていて……その……」
くいくいとさり気なく少しずつ想を引っ張っていくエステルに、ユリアンは二重の意味で「あいつめ……」と思いながら、苦笑して……そうしてしかし、一度ルナへと視線を向ける。
ユリアンの視線に気づくと、ルナは少し視線を下げた。ミューズと視線を合わせるようにして、一層抱きしめるようにして、そうして、
「──これからの戦い、頑張りましょうね」
呟くように。だけどはっきりと意志を込めて、ルナはそう言った。
「戦う場所は離れていても、声が届くように力いっぱい歌いますから……ユリアンさん無理だけはしないで下さいね?」
どこか儚げにすら見える笑みでそう言われて、どう応えればよかっただろう。
そんなユリアンの前で、ルナの笑顔がまた変化する。より鮮やかに、明るいものへ。
「ふふふ、まずは、ライブ頑張ってきます! 見てて下さいね!」
今はそれだけが言いたかったのだろう。ルナは特に返事は待たず、そこでくるりと身を翻した。
そのまま、行ってしまう──かと思いきや。
暫く進んだところで、彼女は不意に、振り向いた。
振り向いたその顔は、笑顔で。
先ほどのよりももっともっと、花が咲くような笑顔で。そうして。
「──大好き!」
そう叫んで、手を振りながら……今度こそ、走り去っていった。
これには、完全に不意を打たれた。ルナがそう来るとは完全に予測できなくて──実際彼女も、前半の興奮でテンションが上がってたからこそなのだろうが──ユリアンは暫く、立ち尽くすしかできない。
(大好き……か……)
先ほども過った想いが、より深く、まざまざとユリアンの心の内を占めていく。
「……ユリアンさん?」
声に、慌てて我に返った。エステルも同じく準備に向かったのだろう。想が不思議そうにユリアンを見ていた。
「あ、ああうん、何でもない。……俺たちも席に戻ろうか」
「……? はい」
取り繕うユリアンに、想はやっぱり、まだよく分かっていない様子で。
その事にユリアンは今は、こっそりほっとしていた。
●
そうして、後半部の幕が開ける。
「此処が私のもう一つの戦場、だね♪ ん、頑張っていくんだよ♪」
狐中・小鳥(ka5484)はそうして、飛び出るようにステージへと踊り立つ。
迎える、観客たちの圧倒的な熱気。歓声が、拍手が、期待が面となって圧してくるような──!
そこに立って。
「皆こんにちわっ♪ 狐中・小鳥だよっ♪」
小鳥は堂々と、元気に大きく手を振って、それに応える。
……かつては大観衆の前に感じていた緊張や気後れは、少なくとも表には出ていない。。
「大好きな人達へ、大好きな皆へ、私の出来る限り、精一杯の愛を届けるよ♪ 皆、大好きだよー!!」
今はただ。皆に元気を届けたいと。その気持ちだけが、いっぱいに出ている。
小鳥の呼び掛けにやはり大歓声が応えると、彼女の曲が始まる。
いつもの、彼女らしい、元気いっぱいの歌と踊り!
大地と空とパラソルと。鮮やかに光で演出されるステージの中を、目一杯駆けて、鮮やかに回って。
常にアップテンポのリズムに、観客も気持ちよさそうに身体を、ライトを揺らしている。
2番まで歌い終わり、ラストサビに向けての長い間奏──ここで。
客席通路を、駆け抜ける! 悲鳴のような歓声、浴びせかけられるような「小鳥ちゃん」コール!
右の通路から駆けていって、客席中央の通路を横切り、左の通路から戻……らない!
リハーサルの時とは違う動き。そのまま、最奥の通路目掛けて速度を上げて彼女は駆け抜けていく。
(だって、だって、凄いんだもん。お客さんが居て、一杯声かけてくれて……止まらないんだよ!)
もっともっと。皆に届けたい。
元気を、大好きを。
ファンに。
此処に来てくれている人に。
遠くで聞いてくれる人に。
聞けない人にも。
全ての人へ愛をっ!
この気持ち、届けられるように!
想いと、それから、会場の熱気が、彼女の身体をさらに加速させる。
走りぬきながらそれでも、聞こえてくる声には極力、手を振り笑顔を返して。
勿論、身体は無理を訴える。限界だよって、悲鳴が聞こえそうになる。
だけど、この場に居ると、皆の笑顔を見ていると、どんどん力が沸いてきて。
……けど、予定外は予定外だ。
彼女の予定外の動きは、ステージに戻り切る前に歌唱パートを迎えてしまうというハプニングを呼ぶ。
彼女は、歌った。
全力で走りながら、全力で歌った。
時折、上がってしまった息が漏れて。だけど。
皆がそれを見守っていた。ステージに戻る彼女を、手を振って、声を上げて見送る。
──彼女の与えた元気が、何倍にもなって彼女に返ってくる!
きっと、だから大好きなんだよね。
ここが。皆が。この世界が。
中央に立つ。
最後まで歌いきる。
「皆、どうも有難うーーー♪ 大好きだよーーーーー♪」
最後まで、大きく動いて全身で手を振って。
ステージ袖に戻って、彼女はぶっ倒れた。
慌てて駆け寄ってくるスタッフに、彼女は弱弱しくもやっぱり笑顔で。
「あはは……気持ちよかった……」
そう言った。
●
盛り上がるライブステージ。そこに霧雨 悠月(ka4130)も登場する。
彼の登場と共に、プロジェクションで映し出される背景は夜空のような煌きへと変わっていた。
静かな足取り。ゆっくりだが目を惹く姿に、客も静まって彼を注目する。
熱気からの鎮静。だがそこから何を魅せてくれるのかという期待が、音をたてずだが確実に場内へと積もっていく。
ある種の緊張が。閾値へと達した瞬間を見計らうように──イントロ。
優しく、美しく歌われる声。
陶酔が会場に満ちていく。
(うん、楽しみは重要だね。愛せる人や場所だって……僕にもある)
その空気を肌で感じながら、悠月もまた満たされていく。
(こうして歌って踊ることで、誰かの生きる力になるのならば、いくらでも)
先ずは、あまり激しくは動かない。だけど滑らかに、大きく。顔を上げて、視線は遠く、一番向こうの座席まで。
全員と視線を合わせる。勿論そんなのは理想論だが、しかし。観客はそうすれば「今自分を見た」と感じることを知っている。
そうして特に自分に熱視線を送る者を目ざとく見つけては、狙い打つようにファンサービス。
曲に、歌詞に合わせて、甘い声と共に客席を区切る手すりにしなだれかかる様にして視線を流して、一部から悲鳴のような歓声が漏れる。
小鳥が、ただ精一杯、がむしゃらさとひたむきさで人を惹きつけるならば。
彼は徹底的にアイドルというものを理解し、実現することで魅了するタイプと言えた。
(僕も……これが自分の見つけた戦い方だからね。舞台でも戦場でも何処でも歌ってるよ)
アイドル、とは偶像だ。
見せているのは虚像。所詮、ステージの上だけの夢。
……だけど。
だからこそ大事なのは、「どんな夢を見せたいのか」をしっかりと理解する事。
その為に見せるもの。見せてはいけないもの。それをしっかり押さえさえすれば。
──解けない魔法だって、かけられる。
『悩んでるなら、聴いてあげる』
『愛されたいなら抱擁しよう』
彼の歌は、姿は、今場内を間違いなくその夢で包んでいた。
この歌は、私の悩みに共感してくれる。
この歌は、私を愛して包んでくれる。
思い出させる。辛くなったって、励ましてくれる歌が、愛するものが、あるんだよと。
だから。
──ゆっくりでいい、歩こうよ。だって僕らは此処に在るんだから。
(良い感じにみんなの熱がこもってきたね! じゃ、盛り上がって行こうか)
少しずつ動いていた映像は、やはり知らず少しずつ上げられていたテンポの最高潮に合わせて、流れる流星へ。
最後は明るく、晴れやかに締める。
伝えたいのは希望。また歩き出すための。でもきっと、その形は。
──当たり前の明日を望んでるんだよ、きっとね。
想いに応えるために。最後まで堂々、彼は隙の無いアイドルとしてこの場を戦い抜いて見せた。
●
そうして。ルナとエステルの出番となる。
どこか素朴な雰囲気のままの二人、共に中央に歩み出て、お辞儀を一つ。
暖かな拍手が二人を包む。顔を合わせ、にこりと微笑むと、ルナはリュートを爪弾き始める……。
震える弦が奏でる心地よい旋律と共に歌われるのはしっとりした曲調のバラード。
乗せたい想いが伝わる様に強弱を、響きを、伸びを。技術も精いっぱいのものを込めて。
そんなルナの奏でる音に、エステルは自分の音を添えていく。
……添える、で、良いと思った。
エステルにとってルナは、幾度となく一緒に音を奏でてきた大切な親友。
だけど、一番近くで彼女の音に触れるから、自分と彼女の音楽の重みや占める割合は違っていると分かっていた。
ああ、それでも。
ルナの音色は、そんなエステルの奏でる音を一つ一つ丁寧に。包み込むように掬い上げるのだ。
演奏中、時折。目を合わせる。微笑みあう。音の重なりは更に深まって──聴衆がしんみりと耳を澄ませる中、エステルの音も確かに、そこにある。
真摯に楽しそうに歌い奏でるルナに、優しく洗い流す水の流れに居るようだ、とユリアンは思った。
これまでの熱気とは異なる。だけど霧散させるものでもない。
今まで与えられてきたもの、溜まって来たものが磨かれていくような。
あふれ出て零しそうだったエネルギーがピタリ、胸に納まっていく、そんな感覚。
──想いが、確かな一つの形を取って。心が透き通っていく。
二人の演奏を心待ちにしていた者が、ユリアンたちの他にもここに居た。
高瀬 未悠(ka3199)はステージで歌うルナとエステルを姉のように見つめている。
耳で、目で、全身で。心地よい音に浸り、想い浮かぶ──『大好き』。
(やっぱり貴女達の音が好きだわ。それぞれの音も二人で奏でる音も)
自然と思い出されていく二人との思い出に。優しい記憶は連鎖して色んなものを呼び覚ましていく。
──この世界は私にとって大好きで溢れてる。大切なもので溢れてる。
だから守りたい。
……生き残りたい。
そこまで思って、掌は知らず不安で握り込まれた。
心を探れば不安はいつだってそこにある。記憶をたどれば後悔のそれも忘れられるわけがない。
だけど。
歌が耳を撫でていく。
大好きなものが優しく自分を包んでいく。
この音色をずっと聴いていたい。
二人をずっと見ていたい。
幸せになって欲しい。
生きていて欲しい。
願いはやまない。消えはしない。諦められないって分かるから、何度でもまた立ち上がる。
わあっと、歓声の波が生まれた。
顔を上げる。
曲調が、変わっていた。
明るく、リズミカルに、アップテンポで!
一番の盛り上がりに向けて、ルナは想いも、技術もさらに高みへと研ぎ澄ませていく。
大好き──その気持ちを届けるために込めるのは、『彼』への大好きという気持ち。
指先に、喉にとより技術を望むのは、絶対勝つんだ、私の歌、演奏でみんなを援護して勝つんだ。という意志。
──ああ、彼女がもっと高くへ上がっていく。
そのことは隣で歌うエステルが一番はっきり感じていた。クリスタルの螺旋階段を上がるその背中を見ている、そんな光景すら幻視する。
その隣で、私は何をすべきなのか?
手を挙げて、左右に揺れて。さぁリズムをご一緒に。導こう、より深く。共に彼女の歌の世界へ。
──高らかに在るだけが全てじゃない。
未悠はそんな二人を客席から瞬きもせずに見つめ続けて──ふと感じた。目が、合った?
錯覚かもしれない。一瞬のそんな想いは、だけど。ルナとエステル、二人同時に、微笑んで。
……こちらに向けて、手招きしてきて。
胸いっぱいまで高まっていたナニカがその時、弾け飛ぶ!
──貴女達って本当に最高っ!
エステル、ルナ、大好きよ!!
客席を蹴って、駆け出す。ステージを目指す彼女に一瞬会場がざわつくが、舞台上の二人の態度にすぐ演出と納得したか。
奏でられる歌に、未悠の声も重なる。
ラブソング。
聴いた人が恋したくなるような。
表情に、歌声に込めるのは……恋人への、想い。
(私はあなたと過ごすありふれた毎日を、普通だけれどもとびきり幸せな未来を守りたい)
じんわり胸の奥まで届かせるような、蕩ける、そして震える声。
最後のキー、響かせる、その為に想う。強く、強く
(愛してるわ、────!)
ただそれだけを、その名前と共に。
●
央崎 遥華(ka5644)は登場と共にギターをかき鳴らし注目を引くと、観客に向けて語りかける。
「みんなの中にも一人で来たって人もいるよね?」
とたんに上がるのはブーイング。だけど、どこか暖かい。
程よくテンションの高まった会場でこんなのはじゃれ合いだ。
先ほどの流れを受けて。恋人の居ない身、その見通しが立たないものだって当然いるだろう。これは、そんな彼らを笑うものか? 否。そんな自分たちも拾ってくれる人が居る。だれ一人置いて行かない。その呼び掛けだ。
「でも周りを見て。あなたと同じく楽しみに来た人がいっぱいいるでしょ?」
だから今度の声には歓声で。口笛。Yeah! の掛け声。
遥華の声に皆各々に盛り上がり、顔を見合わせ、手を叩き合う。
演者として。発信するだけじゃない。こうして観客と交わし合える──だからこその『ライブ』!
一方的に伝えるだけじゃない。遠くから見るだけじゃない。
お互い、ここに居る。一人一人、私たちは、ここに居る! こっちからだって、ちゃんと見てるよ。知ってるよ。
「心強いよね!」
戦う私たちにとっても。あなたたち、一人一人が。
また、わあ、と会場が歓声で沸く。
それに遥華は、一度不敵に笑って首を振る。
「叫んでこー!!」
まだまだでしょ?
さらに呼びかければ場内を揺るがさんほどの大歓声!
叩きつけられる! ステージ全面を圧してくるような歓声の塊に、肌全体がビリビリと弾けていく。
──……いいね!
圧力を真っ向から全身に浴びる遥華の指先が、ギターサウンドが疾る。
鋭い連符が波動を真っ二つに切り拓いて、『遥華』の音を見せつける。
ストレートなロックを叩きつけ凛と立つ遥華の姿はクールで、スタイリッシュで、一人立つその姿に力強さがあった。
切り裂くような音に、合わせられるのは稲妻のようなイメージのプロジェクション。
激しく。眩く。焼き付ける。刻み付ける。
歌いかけるのは希望じゃない、情熱でもない。ただありのままの己。
──誰だって最初は別世界への恐れを抱いていた。それが当然だし、それでいい。
だけどいつの間にか歩み寄れてたでしょ?
トクベツ、なんてなくたって、少しずつ、強くなれるよ、誰だって。
前向きな気持ちを歌詞に乗せて、ビートを刻む。
ステージの上から、音と一体となって心が会場に拡散していく。
リズムに揺れて観客が生み出す音と混ざり合ってく。
一人じゃない。
もう、一人じゃない。
腕をぶん回すようにしてかき鳴らば、呼応するように観客がどんどんと沸き立っていく。
「サンキュー――!」
曲の終わり。こぶしを突き上げて叫んだ。
●
アルマ・A・エインズワース(ka4901)らの登場はキャリコ・ビューイ(ka5044)による輝紅士の魔法のとりどりの光に包まれてだった。
……が、その登場と共に一部から特異な盛り上がりが見られたのはそのせいでは無いだろう。
「わふーっ! 皆さんお久しぶりです! 『Alcalion』ですー!」
アルマが声を上げると、やはり期待を込めた手拍子と歓声が彼らを知っている者たちから上がる。……そして、初見の者たちからもすでにくすくすと笑い声が上がりつつある。
「それじゃ、初めましての方にお友達を紹介するですよー! シオンー!」
アルマの声と共に、仙堂 紫苑(ka5953)にスポットライトが当たる。今回もヴィジュアル系を意識した彼らの衣装の中で、紫苑のそれはパープルのYシャツとブラックスーツ。
本人的には、『まあ、リアルブルーにもこういうバンドたしか居たし問題ないだろ』くらいに思っているようだが、中々に決まっている。
「キャリコさーーーん!」
そして。
声とともにスポットライト移動。
爆笑。
彼は今日もワンピースドレスに顔上面を覆う黒の金属マスク、だが体格はしっかり男。そして今日は、地毛と同じ色のエクステで髪を伸ばしている。
すっとキャリコが一歩前に歩み出る。そして。
「こっちで、ライブするのは2回目のきゃりこでーす。猟撃士でハンターを殺ってまーす♪」
キラッとまた片手でポーズを取ると共にまた輝紅士の魔法で小さな明かりをともす。
……無抑揚だった前回と違い、今回は練習したのか女声。
「……キャリコさん? なんかトーン違うです!? 具体的に『やってます』あたりが物騒な気がするです!?」
アルマのツッコミに、笑っていいところなのだと観客の笑いのトーンがさらに上がる。
そして。
スポットライトが今度は別の場所を照らす。誰もいない? と思うのも束の間、アルマがツツツ……と移動するとメンカル(ka5338)をそこに引っ張ってくる。
「あぁ、そうか。お客様に挨拶位するべきだな……」
引っ張り出され、メンカルは戸惑ったように周囲を見回した。
「いつも弟がお世話になっている。正式なAlcalionのメンバーではないが、本日は助っ人として来させてもらった」
メンカルらしいが、どこか堅苦しいだろうか。観客から合いの手のように声援は返ってくるが、これで良いのか……やはり若干ぎこちない。
「気分、どーすか」
紫苑が、慣れない様子のメンカルを気遣うように振って見せる。いつもは収拾を付ける役の紫苑が興は多少は気楽に見えるのはメンカルの存在あって故か。
「気分、か。そうだな……」
言われてメンカルは改めて状況を認識する。大観衆。舞台。仲間。弟……。
「中々に、奇妙なものだな……」
しみじみとしたメンカルの言葉に、一同続きに意識を集めて。そして。
「……弟がツッコミに回っている……」
これには紫苑が軽く吹いて、観客もまた小さく笑う。
メンカルはそのまま、ある種畏敬の視線をキャリコへと向けると、それが振りだと思ったか。
「皆のハート(ツボ)をハイペリオンしちゃうNE!」
キャリコが指を銃の形にして客席を撃ちながら言った。やっぱり女声で。
「ぐぉっ……!」
「うぐっ……!」
客席大爆笑。不意打ちに、紫苑とメンカルは地獄の形相で笑いをこらえることになった。不味い、これは一度笑ったらツボに入って止まらなくなるやつ……耐えろ、耐えろと必死でこらえるが、目の前で皆思い切り笑っているだけに辛い……! って。
「アルマお前が何遠慮なく笑い転げてんだ!? 歌えなくなるだろーがっ!」
そこで紫苑がツッコミを入れて我に返った。
「だって……だって……いくら何でもずるっ……待って……」
完全に呼吸もままならない様子で笑っているアルマ。
「おい、ほらしっかりしろ……客を待たせるな」
メンカルもそれでどうにか己を取り戻し……、
「わふ……お兄ちゃんが振ったです……」
「待て! 俺か!? 俺のせいなのか!?」
「お兄ちゃんにお笑いの才能があるとは意外でした……今度からもっとネタ振りするですー」
「違う待て! 何無茶振りを企んでる!?」
もはやこの時客席は腹筋地獄と化していた。
アルマはと言えばそんなメンカルとの会話でようやっと波が引いたのか立ち上がった。
「それじゃそろそろおうたに入るですー……というわけで、はい」
そして、流れるようにヴォーカル用マイクをメンカルに手渡した。
「……待て。俺も歌うのか?」
同様の呟きを漏らすメンカルをさておいて、アルマは完全にスタンバイ体勢に入った。
「いや歌そのものは覚えてはいるが、アル。待て」
抗議の声。まるでそれを合図にするかのように、イントロが始まる。
メンカルが次に視線を送るのは紫苑だった。視線を受けて彼は、楽器を構え一つ、肩を竦める。意図は明白だった──諦めた方が早いっすよ。
「……メインはお前達だからな」
結局メンカルは、曲の邪魔にならないようにそう呟くしかないのだった。
──そんな騒ぎの後で始まったのは。
『♪君の手を引き 連れ去った夏祭りの喧騒――』
ギャグっぽさもなく。ヴィジュアル系とも違う、どこかしっとりとした曲だった。
聴衆はまず落差に目を丸くして……だからこそまじまじとアルマを見て、そして、引き込まれていく。
前見たのと、これまでと異なる雰囲気。だけど──これもまた、彼らしさなのだということが、じわじわと浸透していく。
何を想っているのか。
誰を思っているのか。
変わるものが在るだろう。変わらないものもあるだろう。
その中で、自分たちは、これからは、どうなるのか。
紫苑は己の音をアルマに重ねる。深く考えなどしない。ただ、流れで。互いにとっての自然な形。今、こうあるべきと思うのは、これが最適と思うからか。
(これで最期……にする気は全くないんだが、そうなる可能性がないわけでもないからな……)
四人。互いに想い、重ね合わせて。
じわり、じわり、染み入る様に曲は進み、そしてラストパートへ。
『♪夜空に想いの光
灯して伝える打ち上げ花火
見えなくなっても
思い出の中に――』
合わせて、マテリアル花火が打ち上がった。キャリコが皆の花火を一括で預かり、タイミングで皆に投げ放ち、そしてそれぞれが打ち上げていく。
客席のボルテージは益々上がっていく。
熱狂の内に、歌が終わり。
照明も落とされて、暗くなったステージを前に静まり返る……。
のを、見計らって、紫苑から一際光の強い花火が二発!
不意打ちの盛り上がりで、彼らのステージは締めとなった。
●
そうして。順番に、演目が消化されていく。
最後のアーティストが、やはり締めに相応しい最高の技術、盛り上がりを見せて場内は拍手に包まれる。
やがてカーテンコール、全ての出演者がステージへと順に登場し、一言の礼を述べながら並んでいく。
揃っての礼。退散し、本日の主役と言えるトップアーティスト一組が残り、やはりもう一度礼をして退場。
照明が、落ちる。
鳴りやまぬ拍手。
再度、華々しくライトが照らされ、鮮やかに変化していくプロジェクションと共に再集合したアーティストたちが、今度はそれぞれ手にしてやってきた楽器を一斉に鳴らす。
「──さあ、奏でましょう。歌いましょう……共に!」
高らかな宣言と共に流れる曲。
アーティストたちの仕草で起立を促される観客たちは、この曲、ここからがグランドフィナーレなのだと理解する。
……皆で歌うために。その為に準備されてきた曲。
未悠が高らかに歌いながら胸に手を当てれば、追従する観客は同じくらいに愛する誰かを想うのだろうか。
ルナとエステルが視線を合わせ、手を繋ぎ、それぞれの手を観客へと向けて広げて示して見せる。共に在りましょうと。
それを見てユリアンも歌えば、想も躊躇いがちに、でも少しずつ声を合わせて共に歌う。
透の歌声もそこに重なっているのを耳を澄ませて聞きつけて、真も警備の場から静かに歌声を乗せる。
柊と柊羽は、顔も合わせず、何も言わずに共に歌いながら、全く同じタイミングで互いに手を出して繋いていた。
タイミングを合わせて、小鳥が高く元気よくジャンプすれば、観客もそれに続いて、フロアが揺れた。
悠月はやはり絶妙なファンサービスで存在感を放って、今この場で皆にかかる魔法を更に強くしていく。
遥華もまた客席に降り立って、観衆のすぐそばで弾いて歌って。こうして皆の傍で歌えて弾ける、その楽しさを間近で伝えた。
キャリコは相変わらず何処まで狙ってか分からない動きで、アルマが率先して笑いに行くものだから観客も遠慮なしに爆笑を巻き起こして。
収拾を付けるために奔走する紫苑とメンカルに同情の視線が集中する。
様々な感情が、個性が、一体となって混ざり合って。
でもそこに、一つ一つの顔がある。
そんな熱気を、天央 観智(ka0896)は初めから終わりまで、余すことなく堪能して。
(色々な人はいますけれど……希望という一点、のみでは……この一団は、共通していて……それは、未来を眺めていく上で、大切なもの……なんですよね。周囲を眺めていれば、未来が明るく……思えますね)
誰もが明るく、この場を楽しんだ、その結果を見届けて、思う。
共に歌い、身体を動かし、盛り上がりと一体化しながら観智は盛り上がる人達の意志を観察して、一人一人の主張を、心強く眺めて過ごした。
演者の意志に、誰もがそれぞれに愛を、希望を、意志を抱いたように見えた。
皆、顔を上げ、声を上げてステージに向けて拳を振り上げている。躍動。エネルギー。ここにあるのは間違いのない、人類の持つ力強さ。
「好き……って、強い感情ですしね……原動力として。歪んでさえいなければ、負の方向性に働くモノでもない……ですし」
呟きながら。
それは正に今日見た、一瞬の花火のようなものでもあると……思う。
きっと世の中そう単純では無くて。
ここに居るどれ程が、明日、今この感情を、熱気を覚えているだろうか。
希望はまたすぐにでも不安に塗りつぶされるだろう。
意志はまたすぐにでも欲望に負けるのだろう。
それでも。
奥底にしまわれて見えなくなってしまっても、それは決してなくなったわけでは無いと。
この瞬間はきっとその証左なのだ。
忘れてしまっても。
思い出せる。揺さぶり起せる。何度でも。
だから観智もこの場で、歌った。叫んだ。揺れ動いた。
──この日を、この熱気を、この感情を刻みつけるように。
きっとこれが、戦う力。戦う祈り。
僕たちの希望は、意志はここにある。
絶望に閉じ込められた人たちを解放する、光となれ……──
たとえ一瞬の、閃光のような思い出でも。
●
チケットの半券を手に、康太はぼんやりと座り続けている。
何日根気よくそうしてオフィスを訪れたのだろう。そうして目の前に現れたメアリ・ロイド(ka6633)から渡されたものだ。
「貴方の覚悟については、余計な事は言いません。お別れと感謝を伝えたいから、来てほしい」
その言葉と共に。
そうして、賢四郎からの声掛けもあってやって来たライブの、休憩時間。
座り続けていた康太を、とうとうメアリは見つけていた。
まばらに皆、客席へと戻っていく時刻。緊張しながら近づいてくるメアリを、康太も覚悟を決めて迎えることにする。
メアリは、康太の正面に立って。
「──最初は出会った頃みたいに自棄になってると思ってた」
挨拶も無しに、そう切り出した。
「でも違った。惚れ直すぐらいに迷いがなかった。私は貴方の死から目を背け、向き合うと言いながら逃げてた。もう逃げません」
その言葉に。
康太は重いものを吐き出すように息を零して、目を閉じた。
「貴方に恋し続けますよ。私の事少しでも好きなら、私の寿命つきるまであの世で待っていて」
「……」
メアリのその言葉に、康太の反応は……無言、だった。
「……貴方が私の事好きなのは分かってる。だって名前を呼んでくれないし。素直な気持ち聞きたいですよ、生きてる間心の支えになりますから」
そこで引くメアリではなくて。更に語気を強めて押すと。
「素直な気持ち、ですか」
康太はそこでやっと口を開いた。硬い声に、やはりメアリは身体が強張るのを覚える。心臓が跳ねて、嫌な冷たさを覚えた。あり得るだろう。全部自分の勘違い、とか、また怒らせることを言ったかも……と。
「……覚悟を受け入れてもらったことについては。感謝していますし、安堵しています。……意外でも、ある」
それは確かに、どこかほっとしたような声だった。
「最後に戦った時の貴女の物言いでは。あくまで在り方を変えた僕を否定されるとも思いました。あるいは、『貴方が死ぬつもりでも私が勝手に助ける』とか、僕の認識とはかけ離れた夢想を吐かれるかとも。そうなったならば、僕は貴女とはやはり分かり合えない者同士なのだと、全てを叩き切るつもりでした。貴女の気持ちも……これまで僕の中で芽生えていた気持ちも」
素直な気持ちを、と言われるならば。
実際、危ういところではあったのだ。これは決してただ絆されたわけでも根負けしたわけでもない。康太の感情は直前まで危うい綱渡りの上にあって、メアリは最後の最期でギリギリでそれを渡り切った。違う結末は、有り得た。
「その上で、まあ、待っていて、というのは、あまりあてにはしません。生きている限り、人は変わりうるものです。お互いに覚えのある事でしょう」
「……今度の気持ちは、間違いなく本物だから、違えることは有り得ない」
「何が起こるか分からないのが人生です。例えばその見通しには、『貴女が一生誰の補助も必要としないほど心身財産が健全である』という前提が無意識に有りませんか」
「それは……」
「そうなった際に貴女が差し伸べられる手をすべて振りほどくことを、或いは差し伸べられた手に不義理で応えることを僕があの世で喜ぶと。僕は貴女を縛る呪いとなることを望みません」
素直な気持ちをと言われるならば。
己にとって自然な在り方で答えるならば。
「僕は。貴女がこの先。その時の貴女にとってこれが最も幸せと言えるように在ってもらえることを、望みます」
彼が、そういうと、暫くの後。
「──貴方を好きでいることが、私の一番の幸せだと言ったら?」
掠れるような声で、メアリは尋ねた。
「今そうであることは、否定しませんよ」
事もなげに、康太は答えた。そう……それは、否定しない。康太の覚悟を彼女が受け入れたのであれば。『死を受け入れるな、諦めるな』というのが所詮一般的な価値観で己にとってはそうでは無いと言うのであれば。『死人を想い続けるなど不毛だ』というのもまた一般的な見方からの勝手な言い分ではあるだろう。認めてくれたのであれば、認める。
「ねえ、言ってよ。それって結局、私の事……──」
「『その時の貴女が幸せになれるように解釈してください』」
でも。
ここまで。
そこで康太は、これ以上ははっきりはいわないとぴったりと口を閉ざした。
この人は本当にもう、と思いながらも……しかし、順に、腑に落ちていった。
今回の決断も。
初めて会った【空蒼】の時も。
メアリは知らないが、ハンターたちの前に初めて姿を現し、透に行った事だって、結局はそうなのだ。
──己にとって最善と考えられる結果の為には。個の存在よりも優先されるものがあると。
考えてみればこの人の判断基準はそういうものだった。
そういう人だったと、受け入れて──
メアリはゆっくりと手を握手の形に差し出した。
「私に恋と夢を与えてくれてありがとう」
康太はそれに手を重ねて応じる……と、ふいに身体を引き寄せられた。
「──次は決戦の後か、いつかあの世で会いましょう」
温もりが密着して。声は、耳元で聞こえた。
そうして。
次にメアリが覚えたのは、肩に回る腕の感覚。ポンポン、とかるく叩かれ、離れていく。
「……そうですね。貴女の人生がどのようなものであったか、聞くために待っているのでしたら」
それは、抱擁というよりは──見送りのようなそれであったと思う。
呆然とするメアリから……温もりが離れていく。
そのまま、二人の距離が。
ライブが再開する。そのざわめきだけを、やけに遠くに残して。
この場での二人の時間は、そうして終わった。
●
「……これは一体、何なんでしょうか」
困り果てたように想はユリアンに聞いていた。
「すみません。おかしいですよね。どうして俺は……悲しくないのに泣いているんでしょうか」
そんな彼に、ユリアンも少し涙目になりながら頷いていた。ああそうか、彼はこういう事も初めて知るのか。
「間違ってないよ。それでいいんだ。きっとこれから……君はそれをたくさん知る」
「……?」
そうしてユリアンは、そんな想を見て静かに己の心を鎮めていった。冷静に、それでも……やっぱり、素直さは忘れてはいけないものだと、思い知らされて。
「ごめん……俺、二人に会ってこないと」
そう告げて、二人を迎えに走っていく。
「はい……あの、今日は誘っていただきありがとうございました!」
そういう、想の声に送られて。
「兄様! どうだった?」
「二人ともお疲れ様。最高だったよ……ほら、お土産あるから離れて」
飛びついてくるエステルに苦笑しながらユリアンは答える。
エステルはと言えばルナさんもこれくらいしても大丈夫だと思うの、と言いたげな視線を彼女に送っていて。
気付いてか気付かずか、ユリアンはルナへと近づいていく。
「お疲れ様。紅茶のゼリー、良かったら」
「あ……ありがとうございます」
瓶に入れられた緩めのそれを差し出されて、ルナはまだ火照った様子でそれを受け取る。
直前まで井戸水で冷やしていたそれは程よく冷たくて、美味しいというだけでなく気持ちよさそうにそれに口を付ける彼女。
ぼんやり、その様子を眺めて。
(こう言う時だけ迎える側に立つのは狡いのは解ってる)
ユリアンは自覚していた。
家を出て、旅に出て、力足らずでも前線に出て……明確な答えを出せてもいない、自分。
それでも。
ルナの。力を出し切って充足した高揚に包まれて、ほっと少し気が抜けた姿を見ていると。
(……うん)
固まっていく想い、腑に落ちていくものを、どうしようもなく感じる。
……何時か、君に伝えられるだろうか。
●
この日の熱気は。
暫く熱病のように今日の観客たちの中でわだかまっただろう。
その熱が引いていくと、焼き入れられた刃のように研ぎ澄まされて一人一人の中に静かに形を成していく。
何をすべきか。
何が出来るか。
誰にとも言わず人々は崑崙にある神霊樹へと集まっていく。
祈りの力が大精霊へと届き、世界を守る力となると。異界を導く標となると。
磨かれた思いを人は真摯に樹へ、そしてハンターたちへと向ける。
透も皆で歌った歌を浮かべて集中を高めながら、その輪の中に居た。
皆で同じように神霊樹へ向けて歌を重ねた。
一つになった心が。
どうか、過酷な戦いに向かう者たちへと届きますように。
依頼結果
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最終発言 2019/07/12 18:41:11 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/07/12 18:38:37 |