ゲスト
(ka0000)
爺ちゃん先生、無茶すんな!
マスター:樹シロカ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/02/02 19:00
- 完成日
- 2015/02/12 05:22
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●来訪者
窓の外には灰色の空が広がっている。その下は冬枯れの少し寂しい光景だ。
農耕推進地域の若き領主セスト・ジェオルジ(kz0034)は、いつも通りの感情に乏しい顔で乾いた茶色の土地を眺めている。
だが今は執務の合間の気晴らしであり、意外と頭の中は春だった。
いつあそこを耕そうか。あそこに何を植えようか。
そのような楽しい考えに浸るセストを、控え目なノックの音が現実に引き戻した。
「どうぞ」
使用人頭が丁寧にお辞儀をした。至急の用件でセストを訪ねて来た者があるという。
勿論、セストは約束のない相手と誰とでも会うという訳ではない。使用人頭が取り次ぎに来るということは、何らかの理由がある。
「アニタさん……どなたでしたでしょうか」
首を傾げながら応接間に入ったセストだったが、扉が開くや否や腰を上げた若い女の顔には見覚えがあった。
「おや、珍しいお客様ですね。その後は如何ですか」
「おかげさんで皆、元気に暮らしてるよ。そこはあんたにお礼言っとかなきゃね」
少しはすっぱな口のきき方だが、悪い感じはしない。
「でもうーん……一応努力はしてるんだけどねえ? やっぱあの色、何とかする方が早いと思うんだよね」
アニタは以前、ジェオルジ産の荷物を配送途中で少しばかり失敬して子供達を養っていた。その事件の解明に関わったハンター達の助力もあって、ジェオルジ領の小さな村で仕事を与えられて平穏に暮らしている。
この仕事、セストや父が開発した新種の植物の有効利用を模索する、といえば聞こえはいいが。それは『ヒスイトウモロコシ』という真緑に輝くトウモロコシで、味は良いが見た目が悪く、家畜の餌にしかならないという代物だった。
「駄目ですか? 綺麗な色だと思うのですが」
大真面目な顔のままのセストに、アニタが溜息をつく。
「あのさ。ホウレンソウの味がするとか、そういう理由もないのにさ。真緑のケーキやパンなんて誰が食べたがるんだい? ……って、今日はそんな話をしに来たんじゃないんだ! ちょっと領主サマ、助けてよ!!」
アニタが今住んでいるのはエディッタ村という、ここ領主の館からもそう遠くない場所にある。
その村では今年、性質の悪い風邪が流行していた。
子供や年寄りが次々とかかり、高熱を発して倒れている。
「その話は聞き及んでいます。ですが、ボッティ先生が行かれて少しは治まったと聞いていたのですが」
セストが眉をひそめた。
「大変なのは、その先生なんだよ!」
ボッティ先生というかなり高齢の医者が診療に駆けつけ、一時は確かに患者が持ち直した。だが余りにも人数が多く、直ぐに手持ちの薬が尽きてしまったという。
「先生、皆が止めたのに、薬を探しにひとりで山に行っちゃったんだよ! あの山、猟師らの間じゃ、ケモノ道じゃない所に何かでっかい物が通った後があったり、ウサギや野ネズミを全く見なくなったってもっぱらの噂なんだ」
「つまり……何かがいる、と予想される訳ですね」
「そうなんだよ。でも先生、どうしても薬が必要だってんで、カンシャク玉だけ持って行っちゃってさ……!」
セストは少し考え込むようにしていたが、やがて居住いを正した。
「判りました。至急何とかしましょう」
●依頼
集まったハンター達の前で、セストは丁寧にこれまでの事を説明した。
「もし本当に怪物がいるのでしたら、ボッティ先生が危険です。一刻も早く後を追わなければなりません」
そう言うセスト自身が、山歩きの服装を整えていた。
「本来なら私がいては足手まといになると思うのですが、今回に関してはボッティ先生の目的がはっきりしていますし、私がご一緒した方が早く見つけられるでしょう。お手数をおかけしますが、同行させてください」
確かに道案内はどうせ必要だ。
一般人2人を護衛しつつの戦闘となると困難ではあるが、仕方がない。
直ぐに詳細な打ち合わせが始まった。
窓の外には灰色の空が広がっている。その下は冬枯れの少し寂しい光景だ。
農耕推進地域の若き領主セスト・ジェオルジ(kz0034)は、いつも通りの感情に乏しい顔で乾いた茶色の土地を眺めている。
だが今は執務の合間の気晴らしであり、意外と頭の中は春だった。
いつあそこを耕そうか。あそこに何を植えようか。
そのような楽しい考えに浸るセストを、控え目なノックの音が現実に引き戻した。
「どうぞ」
使用人頭が丁寧にお辞儀をした。至急の用件でセストを訪ねて来た者があるという。
勿論、セストは約束のない相手と誰とでも会うという訳ではない。使用人頭が取り次ぎに来るということは、何らかの理由がある。
「アニタさん……どなたでしたでしょうか」
首を傾げながら応接間に入ったセストだったが、扉が開くや否や腰を上げた若い女の顔には見覚えがあった。
「おや、珍しいお客様ですね。その後は如何ですか」
「おかげさんで皆、元気に暮らしてるよ。そこはあんたにお礼言っとかなきゃね」
少しはすっぱな口のきき方だが、悪い感じはしない。
「でもうーん……一応努力はしてるんだけどねえ? やっぱあの色、何とかする方が早いと思うんだよね」
アニタは以前、ジェオルジ産の荷物を配送途中で少しばかり失敬して子供達を養っていた。その事件の解明に関わったハンター達の助力もあって、ジェオルジ領の小さな村で仕事を与えられて平穏に暮らしている。
この仕事、セストや父が開発した新種の植物の有効利用を模索する、といえば聞こえはいいが。それは『ヒスイトウモロコシ』という真緑に輝くトウモロコシで、味は良いが見た目が悪く、家畜の餌にしかならないという代物だった。
「駄目ですか? 綺麗な色だと思うのですが」
大真面目な顔のままのセストに、アニタが溜息をつく。
「あのさ。ホウレンソウの味がするとか、そういう理由もないのにさ。真緑のケーキやパンなんて誰が食べたがるんだい? ……って、今日はそんな話をしに来たんじゃないんだ! ちょっと領主サマ、助けてよ!!」
アニタが今住んでいるのはエディッタ村という、ここ領主の館からもそう遠くない場所にある。
その村では今年、性質の悪い風邪が流行していた。
子供や年寄りが次々とかかり、高熱を発して倒れている。
「その話は聞き及んでいます。ですが、ボッティ先生が行かれて少しは治まったと聞いていたのですが」
セストが眉をひそめた。
「大変なのは、その先生なんだよ!」
ボッティ先生というかなり高齢の医者が診療に駆けつけ、一時は確かに患者が持ち直した。だが余りにも人数が多く、直ぐに手持ちの薬が尽きてしまったという。
「先生、皆が止めたのに、薬を探しにひとりで山に行っちゃったんだよ! あの山、猟師らの間じゃ、ケモノ道じゃない所に何かでっかい物が通った後があったり、ウサギや野ネズミを全く見なくなったってもっぱらの噂なんだ」
「つまり……何かがいる、と予想される訳ですね」
「そうなんだよ。でも先生、どうしても薬が必要だってんで、カンシャク玉だけ持って行っちゃってさ……!」
セストは少し考え込むようにしていたが、やがて居住いを正した。
「判りました。至急何とかしましょう」
●依頼
集まったハンター達の前で、セストは丁寧にこれまでの事を説明した。
「もし本当に怪物がいるのでしたら、ボッティ先生が危険です。一刻も早く後を追わなければなりません」
そう言うセスト自身が、山歩きの服装を整えていた。
「本来なら私がいては足手まといになると思うのですが、今回に関してはボッティ先生の目的がはっきりしていますし、私がご一緒した方が早く見つけられるでしょう。お手数をおかけしますが、同行させてください」
確かに道案内はどうせ必要だ。
一般人2人を護衛しつつの戦闘となると困難ではあるが、仕方がない。
直ぐに詳細な打ち合わせが始まった。
リプレイ本文
●
たかが風邪、されど風邪。
(時に病魔や自然災害によってひとつの部族が滅びることもある)
リュカ(ka3828)の一族は、歪虚の災禍により愛する故郷を失った。
それは自然の摂理とも言えるかもしれない。だが抗うこともまた生だ。そうして生き延びた者だけが、未来を語ることができる。
小さな村の小さな戦いに、リュカは共感を覚えた。
「けれどカンシャク玉だけとは、少し楽観的で後先を考えない所もあるのかな」
考え深げな眼を伏せ、ジェールトヴァ(ka3098)がボッティという医者の事を思う。
恐らくは患者の為、いても立っても居られず飛び出した。責任感の強い御仁なのだろう。
「それもありますが……」
セスト・ジェオルジ(kz0034)が珍しく言い淀み、言葉を飲みこむ。その肩をルトガー・レイヴンルフト(ka1847)が軽く叩く。
「よぅ、セスト、久しいな」
「レイヴンルフトさん、その節は有難うございました。またお世話になります」
「あっらー、あの時の『お父さん』じゃない?」
アニタが悪びれもせず、ひらひらと手を振る。
「ああ、あの時のお嬢さんか。子供たちは元気にしているのかな?」
ルトガーがニヤリと笑う。何を隠そう、アニタが以前色仕掛けで籠絡しようとした相手なのだ。
「怪しいトウモロコシのお陰でね」
「怪しいトウモロコシ?」
ビスマ・イリアス(ka1701)が反応した。家事万能主夫としては、食材の話題は気になるところである。
件の緑色のトウモロコシを一掴み受け取り、しげしげと眺めた。
「成程、変わっているな」
一方で、ビスマの手元を覗き込んだルピナス(ka0179)はこともなげに言う。
「緑だろうが青だろうが、食べれるなら問題ないと思うけどな」
「僕もそう思います」
頷くセストに、アニタは心底呆れた様に溜息をつく。
「うむ……これなら豆のようにして使ってみるとどうだろう?」
「豆だって?」
「そうだ。グリーンピースのように玉子料理などの彩りにいいと思うが……」
ビストはそこではっと思い出す。今日の依頼は料理ではない。
「えっと! 提案!」
超級まりお(ka0824)が片手の拳を突き上げ、飛び跳ねた。
「ボクは噂の元の猟師さんから話を聞きたいんだけど! ボクら以上の洞察力で異常を判断出来ると思うよ」
いわば山のプロである。普段と違うことがあれば直ぐに気付くはずだ。
帽子をぐっと被り直すまりおに、一同が賛成した。
猟師たちの話によると、化け物は昼夜関係なく行動するようだった。
そいつはかなり大きいらしく、獣道を横断するように草や灌木が薙ぎ倒されている現場もある。獲物は目に見えて減ったが、食い残しなどは全く見つからないそうだ。
エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)はその話を聞きながら、スケッチブックに図を描いた。時に絵は言葉でよりも雄弁に状況を語る。
山の略図、そして化け物の目撃情報を纏めると、猟師たちににっこり笑って会釈した。
●
村の出口で、エヴァは愛馬の鼻面を優しく撫でてやる。想像以上に山道は険しく、猟師たちに預かってもらうことにしたのだ。
(ごめんね、ここで待っててね)
「では行きましょう」
改めて靴の具合を確かめ、セストを先頭に全員で山に入っていく。
すぐに道らしい道はなくなり、木の根、草のツルを掴みながらの行程となった。
「こんな山に薬草を取りに単身で行っちゃうなんて……ボッティさんて、なんかガンコそうな人物だねぇ」
こんな山といいながらも、まりおは元気いっぱい、岩や切り株を飛び越えて行く。
ジェールトヴァが苦笑いを浮かべ、長身を屈めるようにして枝をくぐる。
「年齢については、私自身、口を出せる立場ではないけれど……さすがに不用心なところは、今後は気をつけてもらわなければね」
「だが尊敬に値する人物であるようだ。必ずや無事に助け出して見せようではないか」
ビスマの言葉に、ルトガーも同意する。
「なかなか気骨溢れる人物のようだ。俺も嫌いじゃないな」
「とても良い先生です」
セストが口を開いた。
「……ボッティ先生はお考えがあってひとりで山に入ったのだと思います」
「どういうことかな?」
ルピナスが興味を示した。
人の生死そのものは自然の営みであり、頓着しない。だが老人の物語には多少心惹かれる物があった。
「今は冬ですよね」
踏みしめる足元に緑の草は少ない。つまり、薬自体が手に入りにくい時期なのだ。
「風邪が流行すると皆がパニックになって、必要以上に薬草を採ってしまうんです。今回もおそらくそれで、人里近くの薬草を採り尽くしたのだと思います」
薬草のある場所へ村人を連れて行くと、今度はそこの草も採りつくしてしまう。そこで医師は単身乗り込んだという訳だ。
「成程な。ならば、次からはハンターに護衛を依頼してもらうとしよう」
ルトガーが敢えて明るい調子で言った。
踏み込むごとに、山は厳しい表情を見せる。
「私は少し先を確認して来る」
リュカは森に慣れている。先行して、危険な兆候が無いか探ることにした。
エヴァがスケッチブックを苦労して広げ、ビスマをつついた。振り向いたビスマに、画面の一点を指し示す。
「ああ、この辺りにも出たんだな。有難うな」
猟師たちが薙ぎ倒されたようになっている草木を見つけた場所だ。まだその痕跡は何となくわかる。
「この様子では、四足の獣ではなさそうだな」
「……猟師さんの話。そして噂。……居なくなった小動物。死体無し?」
まりおが腕組みしながら、倒れた草を睨む。
「何かが這った跡……わかった! 正体はスライムだよ、きっと!!」
ピコーン!
まりおの目がキラキラ光っていた。
「まあ……色々な可能性は考えておかねばならないからね」
ジェールトヴァが穏やかに頷く。
ルピナスは地面に耳をつけ、何かの気配を探ろうとしていた。
薬が無ければ多くの物語が終わってしまう。
そして今、ひとりの老人の物語も終わりかねないのだ。
「誰かの物語の幕を引いていいのは、自身の物語の幕を下ろす覚悟がある者だけだよ」
その覚悟がない者は、そいつの幕を吊るす糸を切ってやらねばなるまい。
「……あの音は」
ルピナスが顔を上げる。
火薬のはじける音が木々の間に木霊した。
音は反響し、その元を判らなくしてしまう。
「あちらです。この先に日当たりの良い斜面がある筈です」
セストが指さす方から、リュカが戻ってくる。
「こちらにまだ新しい、人の足跡が残っていた。恐らく年配の男性で間違いないだろう」
無事であることを祈りつつ、一同は先を急ぐ。
冬も枯れることのない針葉樹林は空を覆い、足元はぬかるんでいる。
「ここで襲われてはひとたまりもないよね」
ルピナスがランタンに火を灯した。
目の利くリュカ、ビスマ、ルピナス、まりおはここから分担して周囲を警戒に当たることにした。
「じゃあセスト、行こうか」
ルトガー、ジェールトヴァ、エヴァ、そして藤田 武(ka3286)がセストの前後を固めた。
落ちた枝葉が湿って滑りやすい道には、所々何かが滑ったような跡が残っていた。
やがて木々が開け、薄明るい場所に出る。
「先生、良くご無事で!」
地面に屈みこんでいた、がっしりした体格の年輩の男がこちらを振り向く。
「おう、若。良くここがわかりましたな!」
日に焼けた皺だらけの顔が、笑いを浮かべていた。
●
「流石にこの季節は、葉は少ないくてなあ……仕方が無いから、少し根も持って帰ろうかと思ってな」
ぶつぶつ呟きながら、ボッティはハンター達の存在には全く無頓着だった。
「持ち帰るのはこれでいいんですね?」
「どれ、私も手伝おうか」
セストとジェールトヴァが屈みこみ、土を掘るボッティを手伝う。
「あの調子じゃ先生、必要な薬草が手に入るまで帰りそうもないね」
まりおは少し離れた場所で警戒に当たっていた。
森よりは開けた場所とはいえ、岩陰や草むらなど、厄介な障害物は沢山ある。
「ん……?」
その一角が、不自然に揺れた。一同に緊張が走る。
ルピナスが地面に耳をつけ、気配を探る。
「招かれざる客の登場かな」
何かをこするような音は少しずつ近付いてきた。
がさり。
「えー、蛇!?」
まりおが声を上げた。草むらを掻きわけて出てきたのは、巨大な蛇の頭だ。
「スライムじゃないのー! しかもデカイ蛇だったんだねぇ……」
感心している場合ではない。
巨大な蛇はちろちろと舌を覗かせながら、突然現れた大量の獲物を値踏みしているようだ。
「ま、取り合えずっ! まずはこいつに狙い定めていくんだよー!」
まりおの振動刀が低い唸りを上げる。
「いっくよー!!」
ひと際高くジャンプし、まりおが蛇の胴へ獲物を突き立てた。蛇は狂ったように身体をのたうちまわらせる。
「おおっと、冬なのに元気な蛇って何っ!?」
ルピナス、ビスマ、そしてリュカが続いた。
猟師の情報や現場の状況から、敵の姿は予想がついていた。ルピナスは火を入れたランタンを腰につるしている。
歪虚になった動物が、本来の性質を残しているかどうかは分からないが、蛇であれば熱を感知して生物の位置を知ると言われている。その為、ルピナスはランタンの熱で敵の意識を自分に引き付けようと考えたのだ。
「先生、ちょっと急いでもらえるかな」
ルトガーが背に医師とセストを庇うように動く。それに武も合わせ、神経を研ぎ澄ませる。
敵が一体とは限らない以上は下手に動けないが、それでもいざというときには離脱できるよう準備が必要だ。
「ほい、もうええぞ。……おや、こりゃまたでかいのが来たもんじゃな」
まるで他人事という口ぶりで、ボッティは蛇を眺めた。
●
蛇に接近したリュカが『動かざる者』を使い、守りを固める。
(単体とは限らないが……こいつを接近させるわけにはいかない)
まりおが下がると、蛇は狙い通りルピナスに意識を向けた。ついさっきまで飄々とした面差しだったルピナスの目に、狩人の光を帯びる。ファルシオンの刃先を敢えて見せつけるように振りかざすと、蛇は大きな牙を剥いた。その鼻先にバックラーを突き出し、刃を振るう。『フェイントアタック』の動きについてこれず、蛇の鼻先にはルピナスの刃が。
だが、その鱗は余りに硬かった。
「これはどうだ」
ビスマが続けて『スラッシュエッジ』で切り込むが、怒ったように振り回す尻尾は攻撃をかわし、逆にビスマの身体を強かに打つ。
「ぐ……!」
レザーアーマーの上からでもその衝撃は伝わってきた。ビスマは痛みに耐え、体勢を立て直すために下がる。
「今だ」
続けてリュカが突進。ビスマを追うことに意識の向いた蛇の顎目がけて、ナイフを繰り出した。
蛇にとっては蚊が刺した程度の感覚だろうか、それでも不愉快そうにリュカに牙を剥きだす。続いて巨体がいきなりたわむと、思わぬスピードでリュカに接近した。
「……ッ!!」
リュカの顔が僅かに歪む。蛇の尾が身体を捕らえ、ギリギリと締め上げる。
「おい、大丈夫か」
ルピナスが巻きついた尾に取りつこうとするのを、リュカが制止する。
「私は、暫く耐えられる。今のうちに攻撃を」
「分かった、でも逃げられる隙があったら逃げるんだよ」
ルピナスはビスマと頷き合うと、蛇の頭部を狙って集中的に攻撃を仕掛ける。
エヴァが片手を上げ、素早く動かした。
「どうした嬢ちゃん?」
ルトガーが気付いて声をかけるが、その時にはエヴァは燃え盛る魔法の火矢を近くの藪に打ち込んでいた。
「そっちからも来たか!」
もう一体のそっくりな蛇が姿を現し、狂ったようにエヴァ目がけて飛びかかる。
ルトガーは『防御障壁』でエヴァを守ろうとした。
「嬢ちゃん、踏ん張れよ!」
悲鳴を上げることのできないエヴァは、きっと口元を引き締め気丈に蛇を睨みつけ、次の火矢を番えた。
だが蛇の皮膚は、その火矢も受け付けない。逆に蛇の突進で、エヴァの身体が吹き飛ぶ。
「おい爺さん、頼む」
「この場合は私のことかな」
ジェールトヴァがそう言うより早く飛び出した武が、エヴァを抱えて戻ってくる。
蛇の追撃を阻もうと、ルトガーが銀色の銃の狙いを定めた。
「お前の相手はこっちだ」
電撃を帯びた銃弾は、蛇の身体の側面の柔らかい部分を抉った。蛇は苦しげに巨体をうねらせる。
「かなり効いているようだね。暫くそちらは頼むよ」
屈みこんだジェールトヴァは武からエヴァを受け取ると手をかざし、ひとまずは簡易的に傷を治しておいた。
「これで痛みは治まるはずだね。動けるかな?」
エヴァは大きく頷くと、唇の動きで『有難う』と告げて微笑んだ。
●
リュカは隙を見て刃を立てつつ、自分に巻きついた蛇の身体と格闘を続ける。鱗はなかなかにしぶといが、こうしている限り蛇は自分を離すわけにはいかない。そしてリュカも防御力が上がっている為、蛇の締め上げにも耐え続けられた。
そうしているうちに、多勢に無勢。次第に蛇の鱗ははがれ落ち、やわらかい肉が剥き出しになる。
ルピナスは息を整え、刃に力を籠めた。
「そろそろ糸の切れた人形にはご退場願おうか。……finale!」
「これでとどめ!」
ルピナスに続いて、まりおの振動刀が蛇の喉元を切り裂いた。
一体に続き、もう一体の蛇も倒れた。
「やったか!」
ルトガーが額を拭う目の前で、大蛇の身体がさらさらと崩れ、黒い粉状になっていずこへかと消えていった。
「あ~あ、勿体ないの。蛇は良い薬になったんじゃが」
「先生、歪虚は多分薬にはなりませんよ」
ボッティを支えて立ちあがりながら、セストは飽くまでも真面目な顔でそう言った。
「何とか薬は確保できたか? なら直ぐに村に戻ろう」
ビスマがボッティの目線に合わせて屈みながら、言い聞かせる。
「事情は伺ったよ。薬の調達も大事だが、これはいざとなれば誰かに頼むこともできる。だが先生の代わりはいない。それは自覚して欲しいな」
ジェールトヴァが頷く。治療も薬草集めも自分でということは、医者が足りていないのだろう。
「先生の身に何かがあっては、患者を診る人がいなくなってしまうからね」
そう言って、セストの背中をそっと押す。
「年を取るとせっかちになりがちだが。この優しい領主さんが、きっとハンターを雇ってくれるから、ね」
「……面目ない。確かにあんたらの言うとおりじゃな。今度からはそうさせて貰おう」
年老いた医師は、そう言って頭を掻いた。
ボッティが持ち帰った薬草は、直ぐに煎じて患者に処方された。これで暫くは大丈夫だろう。
村に安堵の空気が満ちて行く。
(……今回の病のように、歪虚に取りつかれた生き物も治癒できればいいんだが)
リュカは今は遠い故郷を思い、静かに祈るように目を伏せた。
いつかその術が見つかり、歪虚の災禍に苦しむ人が居なくなる日が来る様に……。
<了>
たかが風邪、されど風邪。
(時に病魔や自然災害によってひとつの部族が滅びることもある)
リュカ(ka3828)の一族は、歪虚の災禍により愛する故郷を失った。
それは自然の摂理とも言えるかもしれない。だが抗うこともまた生だ。そうして生き延びた者だけが、未来を語ることができる。
小さな村の小さな戦いに、リュカは共感を覚えた。
「けれどカンシャク玉だけとは、少し楽観的で後先を考えない所もあるのかな」
考え深げな眼を伏せ、ジェールトヴァ(ka3098)がボッティという医者の事を思う。
恐らくは患者の為、いても立っても居られず飛び出した。責任感の強い御仁なのだろう。
「それもありますが……」
セスト・ジェオルジ(kz0034)が珍しく言い淀み、言葉を飲みこむ。その肩をルトガー・レイヴンルフト(ka1847)が軽く叩く。
「よぅ、セスト、久しいな」
「レイヴンルフトさん、その節は有難うございました。またお世話になります」
「あっらー、あの時の『お父さん』じゃない?」
アニタが悪びれもせず、ひらひらと手を振る。
「ああ、あの時のお嬢さんか。子供たちは元気にしているのかな?」
ルトガーがニヤリと笑う。何を隠そう、アニタが以前色仕掛けで籠絡しようとした相手なのだ。
「怪しいトウモロコシのお陰でね」
「怪しいトウモロコシ?」
ビスマ・イリアス(ka1701)が反応した。家事万能主夫としては、食材の話題は気になるところである。
件の緑色のトウモロコシを一掴み受け取り、しげしげと眺めた。
「成程、変わっているな」
一方で、ビスマの手元を覗き込んだルピナス(ka0179)はこともなげに言う。
「緑だろうが青だろうが、食べれるなら問題ないと思うけどな」
「僕もそう思います」
頷くセストに、アニタは心底呆れた様に溜息をつく。
「うむ……これなら豆のようにして使ってみるとどうだろう?」
「豆だって?」
「そうだ。グリーンピースのように玉子料理などの彩りにいいと思うが……」
ビストはそこではっと思い出す。今日の依頼は料理ではない。
「えっと! 提案!」
超級まりお(ka0824)が片手の拳を突き上げ、飛び跳ねた。
「ボクは噂の元の猟師さんから話を聞きたいんだけど! ボクら以上の洞察力で異常を判断出来ると思うよ」
いわば山のプロである。普段と違うことがあれば直ぐに気付くはずだ。
帽子をぐっと被り直すまりおに、一同が賛成した。
猟師たちの話によると、化け物は昼夜関係なく行動するようだった。
そいつはかなり大きいらしく、獣道を横断するように草や灌木が薙ぎ倒されている現場もある。獲物は目に見えて減ったが、食い残しなどは全く見つからないそうだ。
エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)はその話を聞きながら、スケッチブックに図を描いた。時に絵は言葉でよりも雄弁に状況を語る。
山の略図、そして化け物の目撃情報を纏めると、猟師たちににっこり笑って会釈した。
●
村の出口で、エヴァは愛馬の鼻面を優しく撫でてやる。想像以上に山道は険しく、猟師たちに預かってもらうことにしたのだ。
(ごめんね、ここで待っててね)
「では行きましょう」
改めて靴の具合を確かめ、セストを先頭に全員で山に入っていく。
すぐに道らしい道はなくなり、木の根、草のツルを掴みながらの行程となった。
「こんな山に薬草を取りに単身で行っちゃうなんて……ボッティさんて、なんかガンコそうな人物だねぇ」
こんな山といいながらも、まりおは元気いっぱい、岩や切り株を飛び越えて行く。
ジェールトヴァが苦笑いを浮かべ、長身を屈めるようにして枝をくぐる。
「年齢については、私自身、口を出せる立場ではないけれど……さすがに不用心なところは、今後は気をつけてもらわなければね」
「だが尊敬に値する人物であるようだ。必ずや無事に助け出して見せようではないか」
ビスマの言葉に、ルトガーも同意する。
「なかなか気骨溢れる人物のようだ。俺も嫌いじゃないな」
「とても良い先生です」
セストが口を開いた。
「……ボッティ先生はお考えがあってひとりで山に入ったのだと思います」
「どういうことかな?」
ルピナスが興味を示した。
人の生死そのものは自然の営みであり、頓着しない。だが老人の物語には多少心惹かれる物があった。
「今は冬ですよね」
踏みしめる足元に緑の草は少ない。つまり、薬自体が手に入りにくい時期なのだ。
「風邪が流行すると皆がパニックになって、必要以上に薬草を採ってしまうんです。今回もおそらくそれで、人里近くの薬草を採り尽くしたのだと思います」
薬草のある場所へ村人を連れて行くと、今度はそこの草も採りつくしてしまう。そこで医師は単身乗り込んだという訳だ。
「成程な。ならば、次からはハンターに護衛を依頼してもらうとしよう」
ルトガーが敢えて明るい調子で言った。
踏み込むごとに、山は厳しい表情を見せる。
「私は少し先を確認して来る」
リュカは森に慣れている。先行して、危険な兆候が無いか探ることにした。
エヴァがスケッチブックを苦労して広げ、ビスマをつついた。振り向いたビスマに、画面の一点を指し示す。
「ああ、この辺りにも出たんだな。有難うな」
猟師たちが薙ぎ倒されたようになっている草木を見つけた場所だ。まだその痕跡は何となくわかる。
「この様子では、四足の獣ではなさそうだな」
「……猟師さんの話。そして噂。……居なくなった小動物。死体無し?」
まりおが腕組みしながら、倒れた草を睨む。
「何かが這った跡……わかった! 正体はスライムだよ、きっと!!」
ピコーン!
まりおの目がキラキラ光っていた。
「まあ……色々な可能性は考えておかねばならないからね」
ジェールトヴァが穏やかに頷く。
ルピナスは地面に耳をつけ、何かの気配を探ろうとしていた。
薬が無ければ多くの物語が終わってしまう。
そして今、ひとりの老人の物語も終わりかねないのだ。
「誰かの物語の幕を引いていいのは、自身の物語の幕を下ろす覚悟がある者だけだよ」
その覚悟がない者は、そいつの幕を吊るす糸を切ってやらねばなるまい。
「……あの音は」
ルピナスが顔を上げる。
火薬のはじける音が木々の間に木霊した。
音は反響し、その元を判らなくしてしまう。
「あちらです。この先に日当たりの良い斜面がある筈です」
セストが指さす方から、リュカが戻ってくる。
「こちらにまだ新しい、人の足跡が残っていた。恐らく年配の男性で間違いないだろう」
無事であることを祈りつつ、一同は先を急ぐ。
冬も枯れることのない針葉樹林は空を覆い、足元はぬかるんでいる。
「ここで襲われてはひとたまりもないよね」
ルピナスがランタンに火を灯した。
目の利くリュカ、ビスマ、ルピナス、まりおはここから分担して周囲を警戒に当たることにした。
「じゃあセスト、行こうか」
ルトガー、ジェールトヴァ、エヴァ、そして藤田 武(ka3286)がセストの前後を固めた。
落ちた枝葉が湿って滑りやすい道には、所々何かが滑ったような跡が残っていた。
やがて木々が開け、薄明るい場所に出る。
「先生、良くご無事で!」
地面に屈みこんでいた、がっしりした体格の年輩の男がこちらを振り向く。
「おう、若。良くここがわかりましたな!」
日に焼けた皺だらけの顔が、笑いを浮かべていた。
●
「流石にこの季節は、葉は少ないくてなあ……仕方が無いから、少し根も持って帰ろうかと思ってな」
ぶつぶつ呟きながら、ボッティはハンター達の存在には全く無頓着だった。
「持ち帰るのはこれでいいんですね?」
「どれ、私も手伝おうか」
セストとジェールトヴァが屈みこみ、土を掘るボッティを手伝う。
「あの調子じゃ先生、必要な薬草が手に入るまで帰りそうもないね」
まりおは少し離れた場所で警戒に当たっていた。
森よりは開けた場所とはいえ、岩陰や草むらなど、厄介な障害物は沢山ある。
「ん……?」
その一角が、不自然に揺れた。一同に緊張が走る。
ルピナスが地面に耳をつけ、気配を探る。
「招かれざる客の登場かな」
何かをこするような音は少しずつ近付いてきた。
がさり。
「えー、蛇!?」
まりおが声を上げた。草むらを掻きわけて出てきたのは、巨大な蛇の頭だ。
「スライムじゃないのー! しかもデカイ蛇だったんだねぇ……」
感心している場合ではない。
巨大な蛇はちろちろと舌を覗かせながら、突然現れた大量の獲物を値踏みしているようだ。
「ま、取り合えずっ! まずはこいつに狙い定めていくんだよー!」
まりおの振動刀が低い唸りを上げる。
「いっくよー!!」
ひと際高くジャンプし、まりおが蛇の胴へ獲物を突き立てた。蛇は狂ったように身体をのたうちまわらせる。
「おおっと、冬なのに元気な蛇って何っ!?」
ルピナス、ビスマ、そしてリュカが続いた。
猟師の情報や現場の状況から、敵の姿は予想がついていた。ルピナスは火を入れたランタンを腰につるしている。
歪虚になった動物が、本来の性質を残しているかどうかは分からないが、蛇であれば熱を感知して生物の位置を知ると言われている。その為、ルピナスはランタンの熱で敵の意識を自分に引き付けようと考えたのだ。
「先生、ちょっと急いでもらえるかな」
ルトガーが背に医師とセストを庇うように動く。それに武も合わせ、神経を研ぎ澄ませる。
敵が一体とは限らない以上は下手に動けないが、それでもいざというときには離脱できるよう準備が必要だ。
「ほい、もうええぞ。……おや、こりゃまたでかいのが来たもんじゃな」
まるで他人事という口ぶりで、ボッティは蛇を眺めた。
●
蛇に接近したリュカが『動かざる者』を使い、守りを固める。
(単体とは限らないが……こいつを接近させるわけにはいかない)
まりおが下がると、蛇は狙い通りルピナスに意識を向けた。ついさっきまで飄々とした面差しだったルピナスの目に、狩人の光を帯びる。ファルシオンの刃先を敢えて見せつけるように振りかざすと、蛇は大きな牙を剥いた。その鼻先にバックラーを突き出し、刃を振るう。『フェイントアタック』の動きについてこれず、蛇の鼻先にはルピナスの刃が。
だが、その鱗は余りに硬かった。
「これはどうだ」
ビスマが続けて『スラッシュエッジ』で切り込むが、怒ったように振り回す尻尾は攻撃をかわし、逆にビスマの身体を強かに打つ。
「ぐ……!」
レザーアーマーの上からでもその衝撃は伝わってきた。ビスマは痛みに耐え、体勢を立て直すために下がる。
「今だ」
続けてリュカが突進。ビスマを追うことに意識の向いた蛇の顎目がけて、ナイフを繰り出した。
蛇にとっては蚊が刺した程度の感覚だろうか、それでも不愉快そうにリュカに牙を剥きだす。続いて巨体がいきなりたわむと、思わぬスピードでリュカに接近した。
「……ッ!!」
リュカの顔が僅かに歪む。蛇の尾が身体を捕らえ、ギリギリと締め上げる。
「おい、大丈夫か」
ルピナスが巻きついた尾に取りつこうとするのを、リュカが制止する。
「私は、暫く耐えられる。今のうちに攻撃を」
「分かった、でも逃げられる隙があったら逃げるんだよ」
ルピナスはビスマと頷き合うと、蛇の頭部を狙って集中的に攻撃を仕掛ける。
エヴァが片手を上げ、素早く動かした。
「どうした嬢ちゃん?」
ルトガーが気付いて声をかけるが、その時にはエヴァは燃え盛る魔法の火矢を近くの藪に打ち込んでいた。
「そっちからも来たか!」
もう一体のそっくりな蛇が姿を現し、狂ったようにエヴァ目がけて飛びかかる。
ルトガーは『防御障壁』でエヴァを守ろうとした。
「嬢ちゃん、踏ん張れよ!」
悲鳴を上げることのできないエヴァは、きっと口元を引き締め気丈に蛇を睨みつけ、次の火矢を番えた。
だが蛇の皮膚は、その火矢も受け付けない。逆に蛇の突進で、エヴァの身体が吹き飛ぶ。
「おい爺さん、頼む」
「この場合は私のことかな」
ジェールトヴァがそう言うより早く飛び出した武が、エヴァを抱えて戻ってくる。
蛇の追撃を阻もうと、ルトガーが銀色の銃の狙いを定めた。
「お前の相手はこっちだ」
電撃を帯びた銃弾は、蛇の身体の側面の柔らかい部分を抉った。蛇は苦しげに巨体をうねらせる。
「かなり効いているようだね。暫くそちらは頼むよ」
屈みこんだジェールトヴァは武からエヴァを受け取ると手をかざし、ひとまずは簡易的に傷を治しておいた。
「これで痛みは治まるはずだね。動けるかな?」
エヴァは大きく頷くと、唇の動きで『有難う』と告げて微笑んだ。
●
リュカは隙を見て刃を立てつつ、自分に巻きついた蛇の身体と格闘を続ける。鱗はなかなかにしぶといが、こうしている限り蛇は自分を離すわけにはいかない。そしてリュカも防御力が上がっている為、蛇の締め上げにも耐え続けられた。
そうしているうちに、多勢に無勢。次第に蛇の鱗ははがれ落ち、やわらかい肉が剥き出しになる。
ルピナスは息を整え、刃に力を籠めた。
「そろそろ糸の切れた人形にはご退場願おうか。……finale!」
「これでとどめ!」
ルピナスに続いて、まりおの振動刀が蛇の喉元を切り裂いた。
一体に続き、もう一体の蛇も倒れた。
「やったか!」
ルトガーが額を拭う目の前で、大蛇の身体がさらさらと崩れ、黒い粉状になっていずこへかと消えていった。
「あ~あ、勿体ないの。蛇は良い薬になったんじゃが」
「先生、歪虚は多分薬にはなりませんよ」
ボッティを支えて立ちあがりながら、セストは飽くまでも真面目な顔でそう言った。
「何とか薬は確保できたか? なら直ぐに村に戻ろう」
ビスマがボッティの目線に合わせて屈みながら、言い聞かせる。
「事情は伺ったよ。薬の調達も大事だが、これはいざとなれば誰かに頼むこともできる。だが先生の代わりはいない。それは自覚して欲しいな」
ジェールトヴァが頷く。治療も薬草集めも自分でということは、医者が足りていないのだろう。
「先生の身に何かがあっては、患者を診る人がいなくなってしまうからね」
そう言って、セストの背中をそっと押す。
「年を取るとせっかちになりがちだが。この優しい領主さんが、きっとハンターを雇ってくれるから、ね」
「……面目ない。確かにあんたらの言うとおりじゃな。今度からはそうさせて貰おう」
年老いた医師は、そう言って頭を掻いた。
ボッティが持ち帰った薬草は、直ぐに煎じて患者に処方された。これで暫くは大丈夫だろう。
村に安堵の空気が満ちて行く。
(……今回の病のように、歪虚に取りつかれた生き物も治癒できればいいんだが)
リュカは今は遠い故郷を思い、静かに祈るように目を伏せた。
いつかその術が見つかり、歪虚の災禍に苦しむ人が居なくなる日が来る様に……。
<了>
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
---|
面白かった! | 11人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
- 不撓の森人
リュカ(ka3828)
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談卓 リュカ(ka3828) エルフ|27才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/02/02 03:10:20 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/01/31 23:27:32 |