ゲスト
(ka0000)
偶然に似たイントロダクター
マスター:紺堂 カヤ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/07/15 12:00
- 完成日
- 2019/07/26 06:11
このシナリオは3日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●これは、現実
浮遊大陸が、消滅する前のことである。
混乱する王都を抜け出し、セブンス・ユング(kz0232)は故郷の街へやってきた。以前、調査のために訪れたときには賑わっていた大通りは閑散としており、とても同じ場所だとは思えなかった。
(まあ、当然ではある、か……)
直接の被害は出ていないとはいえ、王都があの状態なのだ、いつどんな脅威が自分たちの街を襲うかわからない……、街はそうした不安に満ちている。
「これでは、宿を見つけられるかどうかもわからないな……」
セブンスは、かたく扉を閉ざした商店や民家を眺めつつ呟いた。眺めた先に、ひときわ、大きな屋敷が見える。
その屋敷こそが、セブンスの目的地であった。
「そもそも有事に無理をして駆けつけたんだからな……、しばらく様子を見てから、などと悠長なことを言っているのもおかしな話か」
自嘲気味に唇の端を持ち上げて、セブンスは屋敷に足を向けた。ひと思いに、目的を果たしてしまおう、と決めたのだ。
セブンスは屋敷の正面……、重々しい雰囲気を醸し出している門の前に立った。この規模の屋敷の門であれば門番が立っていそうなものだがその気配はなく、門は固く閉ざされている上、そこから伺うことのできる屋敷の庭もしん、と静まり返っていた。
「どなたか、いらっしゃいませんか!」
門の向こうに声をかけたが、返事はない。誰かが出てくる気配もなかった。騒乱を恐れて閉じこもっているのか、もしくは他の地へ移ってしまったのか。
「裏口へ行ってみるか……」
できれば忍び込むような真似はしたくないが、と思いつつ、セブンスは門を離れ、屋敷の外壁に沿って裏へと向かった。すると。
「こんなときに外を歩き回っていては、危ないですよ……?」
ひとりの娘が、セブンスに声をかけた。一六、七歳くらいであろうか、セブンスと同じ年頃に見える。
「あなたは?」
「私は、この近くに住んでいる者で……、サラといいます。あなたは……?」
「俺は……」
セブンスは、少しだけ迷った。これまでは必要以上に、名前を名乗らないようにしてきたからだ。何もかもをすぐに忘れてしまう自分が、唯一、忘れたいのに忘れられないこの名前を。だが、この期に及んで隠す必要も、もうないだろう。
「セブンス。セブンス・ユングといいます」
「ユング?」
サラの眼が見開かれた。
「ユング家の方なのですか? この、お屋敷の?」
「ああ、ではやはり……、この屋敷はユング家の屋敷なのですね」
「え?」
会話が上手くかみ合わず、サラは怪訝そうに眉をひそめた。
「混乱させてすみません。俺は、ユング家の者です。ただ、この屋敷で過ごした記憶は、ほとんどありません。幼い頃から家族と離れて育ったというのもありますが……、俺は……、すぐ、忘れてしまうので……」
ひとまず自分の家に、という厚意に甘え、セブンスはサラの家に腰を落ち着けた。そこでセブンスは「現実に起きること・起きたこと」を夢に見る特性を持っていること、その代わりなのかどうかわからないが記憶をあまり保てないこと、育ててくれた「先生」が何者かに殺されてしまい、その犯人を捜し続けていることなどを話した。
「自分の夢に出てくる事実を追い、手がかりを探すうちに、俺の夢や道中に「玉虫色の目をした男」がさかんに関わっていることに気がついたんです。そいつはどうも俺の実家であるユング家に関係があるらしい、というところまでは、わかったんですが」
話しながらセブンスは、実に不確かな情報にすがるしかない自分の状況を自覚して暗澹たる気持ちになった。
「なるほど、それは随分と大変な境遇でいらっしゃるんですね……」
サラは、セブンスの話をすべて、真剣な面持ちで聞いてくれた。
「ユング家のお屋敷は、普段からあまり賑やかではありませんけど、それでも呼びかけても誰も出てこないというようなことはなかったはずです。今の王国はどこもかしこも混乱していますから、用心しているのかも……。少し、様子を見られてはいかがですか。その間、ここにいてくださって構いませんから」
「え、いや、しかし」
サラの申し出は有難いが、さっき会ったばかりの見ず知らずの人間に、どうしてそう親切にしてくれるものか、とセブンスは戸惑った。サラはそれを察して微笑む。
「大切な人を奪われた気持ちは、私にもわかるんです。私も、両親の顔をを覚えていませんし」
「そう、ですか」
サラにも、一言では語れない事情があるようだと感じたセブンスは、深くは問わずに頷き、彼女の親切を受け取ることに決めた。
●これは、夢
薄暗い部屋の中に、ひとりの男が佇んでいる。表情は見えないが、なぜだか、笑っているのだろうと予想がついた。男は、笑いながら、足元を指差した。
指差された、足元には。
ロープでぐるぐる巻きにされ、猿ぐつわを噛まされた人々がいた。
「!」
セブンスは、夢の中で息を飲んだ。
そんなセブンスの姿が、まるで見えているかのように、男はさらに笑った。
「待っているぞ、セブンス。ユング家の屋敷で、な」
開かれた男の眼が、玉虫色に、光った。
●これは、現実
夢を見てすぐ、セブンスはサラの制止もきかずに飛び出した。未来のことか過去のことかはわからないが、セブンスの夢はすべて「現実のこと」だ。
明らかな罠だとはわかっていたが、それでも、行かないわけにはいかなかった。門をこじ開け、窓を割ってでも、ユング家の屋敷に入り込むつもりだった。
そうしてセブンスがサラのもとを飛び出して行ってから、数日が経った。王都の上空を侵していた浮遊大陸が消滅し、人々の顔に活気が少しずつ戻ってくる頃になっても、セブンスは、帰ってくることがなかった。ユング家の屋敷もまた、しんと静まり返ったままだ。
「お願いです、どうしているかわからないけれど、放ってはおけないんです。屋敷の中を、調べに行っていただけませんか」
サラは、ハンターたちに、セブンスの捜索を依頼した。出会ったばかりの他人とはいえ、放っておけないと思ったのだ。そこには、罪悪感も、含まれていたかもしれなかった。思いつめた顔でハンターに頼むサラの手の中には、緑色の宝石がひとつ、握られていた。
浮遊大陸が、消滅する前のことである。
混乱する王都を抜け出し、セブンス・ユング(kz0232)は故郷の街へやってきた。以前、調査のために訪れたときには賑わっていた大通りは閑散としており、とても同じ場所だとは思えなかった。
(まあ、当然ではある、か……)
直接の被害は出ていないとはいえ、王都があの状態なのだ、いつどんな脅威が自分たちの街を襲うかわからない……、街はそうした不安に満ちている。
「これでは、宿を見つけられるかどうかもわからないな……」
セブンスは、かたく扉を閉ざした商店や民家を眺めつつ呟いた。眺めた先に、ひときわ、大きな屋敷が見える。
その屋敷こそが、セブンスの目的地であった。
「そもそも有事に無理をして駆けつけたんだからな……、しばらく様子を見てから、などと悠長なことを言っているのもおかしな話か」
自嘲気味に唇の端を持ち上げて、セブンスは屋敷に足を向けた。ひと思いに、目的を果たしてしまおう、と決めたのだ。
セブンスは屋敷の正面……、重々しい雰囲気を醸し出している門の前に立った。この規模の屋敷の門であれば門番が立っていそうなものだがその気配はなく、門は固く閉ざされている上、そこから伺うことのできる屋敷の庭もしん、と静まり返っていた。
「どなたか、いらっしゃいませんか!」
門の向こうに声をかけたが、返事はない。誰かが出てくる気配もなかった。騒乱を恐れて閉じこもっているのか、もしくは他の地へ移ってしまったのか。
「裏口へ行ってみるか……」
できれば忍び込むような真似はしたくないが、と思いつつ、セブンスは門を離れ、屋敷の外壁に沿って裏へと向かった。すると。
「こんなときに外を歩き回っていては、危ないですよ……?」
ひとりの娘が、セブンスに声をかけた。一六、七歳くらいであろうか、セブンスと同じ年頃に見える。
「あなたは?」
「私は、この近くに住んでいる者で……、サラといいます。あなたは……?」
「俺は……」
セブンスは、少しだけ迷った。これまでは必要以上に、名前を名乗らないようにしてきたからだ。何もかもをすぐに忘れてしまう自分が、唯一、忘れたいのに忘れられないこの名前を。だが、この期に及んで隠す必要も、もうないだろう。
「セブンス。セブンス・ユングといいます」
「ユング?」
サラの眼が見開かれた。
「ユング家の方なのですか? この、お屋敷の?」
「ああ、ではやはり……、この屋敷はユング家の屋敷なのですね」
「え?」
会話が上手くかみ合わず、サラは怪訝そうに眉をひそめた。
「混乱させてすみません。俺は、ユング家の者です。ただ、この屋敷で過ごした記憶は、ほとんどありません。幼い頃から家族と離れて育ったというのもありますが……、俺は……、すぐ、忘れてしまうので……」
ひとまず自分の家に、という厚意に甘え、セブンスはサラの家に腰を落ち着けた。そこでセブンスは「現実に起きること・起きたこと」を夢に見る特性を持っていること、その代わりなのかどうかわからないが記憶をあまり保てないこと、育ててくれた「先生」が何者かに殺されてしまい、その犯人を捜し続けていることなどを話した。
「自分の夢に出てくる事実を追い、手がかりを探すうちに、俺の夢や道中に「玉虫色の目をした男」がさかんに関わっていることに気がついたんです。そいつはどうも俺の実家であるユング家に関係があるらしい、というところまでは、わかったんですが」
話しながらセブンスは、実に不確かな情報にすがるしかない自分の状況を自覚して暗澹たる気持ちになった。
「なるほど、それは随分と大変な境遇でいらっしゃるんですね……」
サラは、セブンスの話をすべて、真剣な面持ちで聞いてくれた。
「ユング家のお屋敷は、普段からあまり賑やかではありませんけど、それでも呼びかけても誰も出てこないというようなことはなかったはずです。今の王国はどこもかしこも混乱していますから、用心しているのかも……。少し、様子を見られてはいかがですか。その間、ここにいてくださって構いませんから」
「え、いや、しかし」
サラの申し出は有難いが、さっき会ったばかりの見ず知らずの人間に、どうしてそう親切にしてくれるものか、とセブンスは戸惑った。サラはそれを察して微笑む。
「大切な人を奪われた気持ちは、私にもわかるんです。私も、両親の顔をを覚えていませんし」
「そう、ですか」
サラにも、一言では語れない事情があるようだと感じたセブンスは、深くは問わずに頷き、彼女の親切を受け取ることに決めた。
●これは、夢
薄暗い部屋の中に、ひとりの男が佇んでいる。表情は見えないが、なぜだか、笑っているのだろうと予想がついた。男は、笑いながら、足元を指差した。
指差された、足元には。
ロープでぐるぐる巻きにされ、猿ぐつわを噛まされた人々がいた。
「!」
セブンスは、夢の中で息を飲んだ。
そんなセブンスの姿が、まるで見えているかのように、男はさらに笑った。
「待っているぞ、セブンス。ユング家の屋敷で、な」
開かれた男の眼が、玉虫色に、光った。
●これは、現実
夢を見てすぐ、セブンスはサラの制止もきかずに飛び出した。未来のことか過去のことかはわからないが、セブンスの夢はすべて「現実のこと」だ。
明らかな罠だとはわかっていたが、それでも、行かないわけにはいかなかった。門をこじ開け、窓を割ってでも、ユング家の屋敷に入り込むつもりだった。
そうしてセブンスがサラのもとを飛び出して行ってから、数日が経った。王都の上空を侵していた浮遊大陸が消滅し、人々の顔に活気が少しずつ戻ってくる頃になっても、セブンスは、帰ってくることがなかった。ユング家の屋敷もまた、しんと静まり返ったままだ。
「お願いです、どうしているかわからないけれど、放ってはおけないんです。屋敷の中を、調べに行っていただけませんか」
サラは、ハンターたちに、セブンスの捜索を依頼した。出会ったばかりの他人とはいえ、放っておけないと思ったのだ。そこには、罪悪感も、含まれていたかもしれなかった。思いつめた顔でハンターに頼むサラの手の中には、緑色の宝石がひとつ、握られていた。
リプレイ本文
依頼を受けて駆け付けたハンターたちは、依頼内容を聞くとそれぞれ神妙な面持ちになった。その中で、ため息まじりに嘆いたのはレイア・アローネ(ka4082)である。
「いつもながら無茶をするな、セブンス氏は……!」
鞍馬 真(ka5819)も同意を示して頷いた。このふたりは、セブンス・ユング (kz0232)のことをよく知っているのである。
「まあ、セブンスさんが私たちを覚えているかどうかはわからないけれどね」
真が肩をすくめて見せる。真の言うとおり、セブンスは人の顔も名前もあまり覚えられない……、正確には、夢以外のことを覚えておくのが難しい、という特徴を持つ人物だった。しかし、それ以上の最大の特徴、は。
「実は彼は、必ず現実を夢にみるという特異な能力を持っているのだ」
レイアと真がセブンスについて説明すると、ハンターたちは驚いたり考え込んだりと様々な反応を示した。
「夢で見たものを追う男性ですか……。それは本当に夢? どんな形であれ、見たものが現実として存在し、起きてるのならばそれは……。……何であれば彼はまた夢で何かを見て、恐らく屋敷に向かったのでしょうね……」
クリスティア・オルトワール(ka0131)が考えをそのまま声に出すと、レイアは大きく頷いた。
「おそらくは誰かの身に危険が迫っているのだろう。向かった場所から考えてユング家の家人である可能性が高いと考える」
レイアの予測に、誰もが同意を示した。捜索はペアで行うのがよいのではないかという方針が素早くまとめられ、動き出そうとしたハンターたちの行動は二分した。すなわち、サラに事情を訊こうとする者と、屋敷へ向かおうとする者である。
「ふむ。我々は先に屋敷へ行っておるぞ」
そう言い置いて、ミグ・ロマイヤー(ka0665)と、その相棒となったクリスティアは一足先に屋敷を目指した。その場に残った六名のハンターたちを前にして、サラが身を硬くする。
「サラさんにお伺いしたいことがありますぅ」
口火を切ったのは、星野 ハナ(ka5852)だった。ハナも彼の事情については知っていることがある。ハナはサラの手を、すっと指差した。
「その手の中の宝石、どうやって手に入れたんですかぁ? 誰かからもらったんじゃないですぅ? 誰からもらったのか……、名前はわからなくてもいいですけどぉ、背格好とかぁ、渡すときに言われたこととかぁ、教えてくれません?」
「ど、どうして……」
サラの顔が、さっと青くなった。両目を大きく見開いて、体を震わせる。
「気分を悪くされたら申し訳ないんですけどぉ、その宝石はユング家の人がセブンスさんを自分の思い通りに動かそうとする時にぃ、その道標に残していくものとそっくりなんですぅ。今後のためにも何か手がかりを得られないかと思いましてぇ。それとぉ、行く前にセブンスさんは何か言ってませんでしたかぁ」
「宝石のことは知らなかったが、セブンス・ユングという人が去り際に何と言っていたのかは、私も尋ねたいと思っていた。それに、そのユングという家は何をしている家なのだろうか?」
アルバ・ソル(ka4189)がハナの問いかけに真剣な表情で頷き、サラに質問を重ねた。サラは血の気の失せた顔でこわごわとハンターたちを見返していた。ハナやアルバは単に質問をしているだけなのだが、サラは詰問のように感じているらしい。その様子を見て、真がサラの前で身をかがめた。視線の高さを合わせ、穏やかな笑顔で、サラを落ち着かせようと試みる。
「ここまでの私たちの話を聞いていてわかっているとは思うけれど、私たちはセブンスさんの知り合いで、これまでの経緯や能力も知っているんだ。ハナさんも言っていたとおり、玉虫色の眼の男と「幸運の石」と称する石が彼に何度も関わってきたんだ。だから、その石を手に入れた経緯を話してくれたら、何か手がかりになるかもしれないんだ。私たちは、とにかくセブンスさんを助けたいんだよ」
真は、サラに威圧感を与えないよう気をつけて言葉を選んだ。証拠があるわけではなかったが、サラは玉虫色の眼の男とグルであるわけではないだろうと考えていたし、怯えの正体は罪悪感ではないかと思われたため、それが気がかりでもあったのだ。
「セブンスさんだけでなく、あなたも、ね。何か抱えていることがあるのなら、それも話して欲しい」
「……は、はい」
真の穏やかな笑顔と思いのこもった言葉を受け、サラは顔色はいまだ蒼白ながら、ゆっくりと事情を話し始める。
緑色の宝石は、ハンターらの予想通り「玉虫色の眼の男」から渡されたとのことだった。突然彼女の前にやってきたその男は、「持っているだけで幸運が訪れる石だ」と言った。胡散臭い、とサラは思ったが、男のある言葉を聞いて、受け取ることにしたという。
「お前が恨んでいるユング家が不幸な目に遭うこともあるかもしれないよ、と」
サラはそう告げると、両手で顔を覆った。握っていた宝石が、キン、と音を立てて床に落ちた。安心させるべく、サクラ・エルフリード(ka2598)がサラに寄り添う。
「私の両親はユング家で働いていましたが、あるとき、屋敷の財宝を盗んだと濡れ衣を着せられて解雇され、それを苦にして亡くなりました。だから私は、ずっとユング家を恨んでいたんです。でも、セブンスさんに出会ったのは偶然です! 彼がユング家の人間だとは知りませんでした、本当です! 出会ったときに彼がユング家の人間だと知り、彼にも事情があるみたいでしたから、もしかしたらユング家に復讐するために何か手を貸してもらえないかとは思いましたけど、こんな、こんなことになるとは……」
そう言って、サラは泣き崩れた。
「嘘を言っているわけじゃなさそうだぜ」
様子を静かに見守っていたアーサー・ホーガン(ka0471)が呟くように言い、全員がそれに同意した。
一方、先にユング家の屋敷へと向かったミグとクリスティアは、屋敷の外観をしっかりと観察したのち、戦闘の可能性も考え、慎重に敷地内へと足を踏み入れていた。
「屋敷の中で人探しとは、はて面妖な」
人気がなく、入って行った人物が帰ってこない屋敷は、どう考えても異常である。
「人探しといえば、この名探偵ミグにおまかせじゃ」
ふふん、と笑ったミグに穏やかに微笑んで、クリスティアが提案する。
「順当に、一階から捜索しましょうか」
「そうしよう。勝手口からの侵入がよかろう。おそらくキッチンへ入れるであろうよ」
忘れず仲間と通信するための準備も整え、ふたりは勝手口の扉の鍵を壊して中へと入った。ミグの予想に反し、そこはキッチンではなく細い廊下だった。突き当りに扉がひとつ見える。薄暗かったが距離は短く、人気はまったくない。それでも油断することなく、物音に注意しながら進んだ。
「地下へ続く通路や隠し扉などは、ここにはないようですね……」
クリスティアは地下室の存在を疑っており、足元にも注目していた。ミグが扉にべたーっ、と張り付いて聞き耳を立て、扉の向こうの様子を伺う。
「何もいなさそうじゃの。よし、開くぞ」
「はい」
不気味なほどに静かだ、と思いながら、ふたりは扉を開いた。と、ガタリ、と物音がした。
「!」
サッと身構えたふたりの前に立っていたのは。
「おおっと、敵じゃないぜ」
アーサーとサクラだった。廊下の突き当たりの扉は玄関ホールに繋がっていたらしく、正面玄関から入ってきたアーサーとサクラに出くわしたというわけだった。
「今、通信も入れようかと思っていたところだ。レイアとアルバは今、屋敷の外側を調査してるし、あとの奴らもすぐ来ると思うぜ。とりあえず、一階を手分けして捜索するか」
「簡単にわかるような部屋とかに隠れてたりはしないですよね、こういう場合のお約束としては……」
サクラの言葉に、アーサーはまあな、と頷いた。
「玄関の扉は鍵が開いていた……、セブンスは正面から入って行ったんだな」
アーサーは、今まさに自分たちが入ってきた玄関の扉を調べた。鍵はすでに壊されていて、おそらくはセブンスが行ったものだろうと思われた。
「セブンスが進んだであろうルートを辿って、途切れたところを探すべきだろう」
「そうですね。でも、先に食堂の様子を探りましょう。ハナさんの占術で、そこが怪しいと出たようですから」
サラの話を聞きつつ、ハナは屋敷内を対象にして占い、いくつか怪しい場所を見出していたのだ。サクラはその結果を受け取っていたのであった。
食堂へ向かいつつも、その間にも床や壁を調べて歩く。アーサーとサクラも、ミグ・クリスティア組と同じく隠し部屋の存在を疑っていた。
「このあたりには、特に何もねえようだな」
アーサーが、壁や床を叩いてチェックしていく。空洞があれば、音の変化でわかるからだ。
「この向こうが、食堂であるようですね。ここで『生命感知』を使用します」
両開きになるタイプの大きな扉の前で、サクラは立ち止まった。範囲内に自分達以外の生きている人間がいないか、確認するのだ。
「……! 食堂に、誰かいます! セブンスさんでは、ないようです!」
サクラの言葉を聞いて、アーサーの顔に緊張が走った。無言で頷き合い、慎重に食堂の扉を開こうとした、そのとき。
「ここかなぁ? ここかなぁ? ……ここにいたぁ?! ってホラーかよおまぇぇぇぇ!!!」
ミグの声が、響き渡った。
ミグとクリスティアが踏み入ったのは、アーサーとサクラが扉を開けようとしていた食堂だった。アーサーたちとは反対側……、キッチンを通って入る通路で食堂へ入ったらしい。そしてその、食堂には。縛り上げられた五人の男女が、いた。
「ユング家の者たちだな?」
アーサーの問いかけに、猿轡をはめられたまま、こくこくと人々は頷く。ひとまずは縄を解こう、と四人がその作業に取りかかっている間に、レイア、アルバ、真、ハナが合流した。
「……言いたいことはいろいろあるけれど、とりあえず、セブンスさんがどこにいるか知っているなら教えてもらえるかな」
真が、静かではありながら厳しい口調で、ユング家の人々に問いかけた。
「二階……、おそらく、図書室にいるはずだ……、あの男……、シグモンドと共に」
「シグモンド? それが、玉虫色の眼の男だな?」
レイアもまた、厳しい表情で確認した。
「ともかく二階へ急ごう。セブンスさんの安否が心配だ」
真の言葉に全員が頷いた。ユング家の人々の面倒は、クリスティアが引き受けることとなり、他のハンターは全員で、二階へ上がった。
「図書室へ直行するとして、だ。何か罠などがないとも限らない。警戒は怠らぬようにな」
アルバがレイアに声をかけた。レイアはハッと顔を上げる。とにかくセブンスを、という思いにとらわれて、そうした考えが抜け落ちていた。
「そうだな」
レイアはアルバに頷き返して、視線で感謝の意を伝えた。
「道すがら、情報を交換しておきましょぉ」
ハナがそう提案し、ハンターたちは別々に行動していた間の情報を互いに共有した。一階のどの部分を捜索したか、ということや、アルバがモフロウに探らせたところ、屋敷の外側には特に怪しい点がなかったことを報告し合い、サラから聞き出した話なども共有する。
「さて。ここが図書室のようだぜ」
先頭を歩いていたアーサーが、扉の前に立ち、指し示した。ハナが素早く扉を調べると、しっかり鍵がかかっている。
「セブンスさん、確かにこの中にいるようです。それと、もうひとり」
すかさず『生命感知』を使用したサクラがはっきりと言う。
「扉をぶち破り、一斉に突入して、まずは男を取り押さえる、ということでどうかの?」
「そうしよう。セブンス氏に危害が及ばないよう、それだけは気をつけて」
ミグの言葉に真が頷き、全員、同意した。
「では、行くぞ」
アルバの合図で、一斉に、扉にぶつかり、レイアが鍵を叩き壊した。ドンッ、という音をさせて突入した部屋の中には。
「……もう、ここまでだ」
両手を縛られたセブンスと。
「そのようだ。私の負け、かな」
セブンスを悠々と見下ろす、男がいた。
「捕らえろ!」
男は抵抗する様子がなかったが、レイアは構わず叫び、アルバと共に彼を拘束した。おとなしくそれに従う男を、レイアは正面から睨みつけた。
「お前が、ユング家の家庭教師だな。目的は、セブンス氏のみ、というわけだったのか」
「ええ」
男は、あっさりと頷いた。セブンスが、驚いたような目でレイアを見る。レイアがずいぶんと、状況や事態の真相について考えているらしいことが、今の言葉でわかったからだ。
「怪我はないですか?」
サクラに気遣われ、セブンスは頷いた。確かに怪我はないようだが、セブンスの両目が真っ赤に充血していることに、真が気がついた。
「セブンスさん、もしかして、寝ていないのでは?」
「……はい。寝てしまえば、夢を見ますから。この男の狙いは、俺の、夢だったんです」
セブンスは、真に向かってそう答えた。どうやら、捕まっていた間に男から行動の意図を聞き出していたらしい。
「緑色の宝石を使って、俺に意図的に夢をみさせたのは、俺をこのユング家の屋敷まで徐々に呼び寄せるため。最終的には、このような強行手段を取ることになったようですが……」
「宝石を媒介にした、精神系バッドステータス付与ってところか?」
「まあ、そのようなものでしょうね」
口を挟んだアーサーの言葉に、セブンスが頷く。
「セブンス。お前の能力は実に珍しい。珍しいものを解明し、そして手に入れること……、それを望んで何が悪い?」
玉虫色の両目を光らせて、男……、シグモンドが言う。そこに、失意の色は見えず、まだ何か考えがあるようにも見えた。だが、それを汲み取ってやる必要は、今は、ない。
「少なくとも」
真が、怒りを抑えた静かな声で、しかし抑えきれない怒りを滲ませて、言った。
「たくさんの人を傷つけたことは、まぎれもなく罪だ。……サラさんを含めて、ね」
セブンスは、大きく頷いた。
男……、シグモンドの処遇は、王国の司法に委ねられることとなった。長きに渡り自分をかき乱してきた存在の正体が明らかになり、セブンスはホッとすると同時に、単に安心するわけにもいかないのだと、考えていた。シグモンドが解明したがっていた自分の「必ず現実を夢にみる」という能力に、今まで以上に真剣に向きあわなければならないと、そう感じたのである。
「……これから、どうするか。考えなければ」
セブンスは、呟いた。そして、瞼を閉じた。ずっと寝ることを我慢していたための眠気が、極限に達したのである。
未来について考えるのは、夢から、さめてからになるだろう。
「いつもながら無茶をするな、セブンス氏は……!」
鞍馬 真(ka5819)も同意を示して頷いた。このふたりは、セブンス・ユング (kz0232)のことをよく知っているのである。
「まあ、セブンスさんが私たちを覚えているかどうかはわからないけれどね」
真が肩をすくめて見せる。真の言うとおり、セブンスは人の顔も名前もあまり覚えられない……、正確には、夢以外のことを覚えておくのが難しい、という特徴を持つ人物だった。しかし、それ以上の最大の特徴、は。
「実は彼は、必ず現実を夢にみるという特異な能力を持っているのだ」
レイアと真がセブンスについて説明すると、ハンターたちは驚いたり考え込んだりと様々な反応を示した。
「夢で見たものを追う男性ですか……。それは本当に夢? どんな形であれ、見たものが現実として存在し、起きてるのならばそれは……。……何であれば彼はまた夢で何かを見て、恐らく屋敷に向かったのでしょうね……」
クリスティア・オルトワール(ka0131)が考えをそのまま声に出すと、レイアは大きく頷いた。
「おそらくは誰かの身に危険が迫っているのだろう。向かった場所から考えてユング家の家人である可能性が高いと考える」
レイアの予測に、誰もが同意を示した。捜索はペアで行うのがよいのではないかという方針が素早くまとめられ、動き出そうとしたハンターたちの行動は二分した。すなわち、サラに事情を訊こうとする者と、屋敷へ向かおうとする者である。
「ふむ。我々は先に屋敷へ行っておるぞ」
そう言い置いて、ミグ・ロマイヤー(ka0665)と、その相棒となったクリスティアは一足先に屋敷を目指した。その場に残った六名のハンターたちを前にして、サラが身を硬くする。
「サラさんにお伺いしたいことがありますぅ」
口火を切ったのは、星野 ハナ(ka5852)だった。ハナも彼の事情については知っていることがある。ハナはサラの手を、すっと指差した。
「その手の中の宝石、どうやって手に入れたんですかぁ? 誰かからもらったんじゃないですぅ? 誰からもらったのか……、名前はわからなくてもいいですけどぉ、背格好とかぁ、渡すときに言われたこととかぁ、教えてくれません?」
「ど、どうして……」
サラの顔が、さっと青くなった。両目を大きく見開いて、体を震わせる。
「気分を悪くされたら申し訳ないんですけどぉ、その宝石はユング家の人がセブンスさんを自分の思い通りに動かそうとする時にぃ、その道標に残していくものとそっくりなんですぅ。今後のためにも何か手がかりを得られないかと思いましてぇ。それとぉ、行く前にセブンスさんは何か言ってませんでしたかぁ」
「宝石のことは知らなかったが、セブンス・ユングという人が去り際に何と言っていたのかは、私も尋ねたいと思っていた。それに、そのユングという家は何をしている家なのだろうか?」
アルバ・ソル(ka4189)がハナの問いかけに真剣な表情で頷き、サラに質問を重ねた。サラは血の気の失せた顔でこわごわとハンターたちを見返していた。ハナやアルバは単に質問をしているだけなのだが、サラは詰問のように感じているらしい。その様子を見て、真がサラの前で身をかがめた。視線の高さを合わせ、穏やかな笑顔で、サラを落ち着かせようと試みる。
「ここまでの私たちの話を聞いていてわかっているとは思うけれど、私たちはセブンスさんの知り合いで、これまでの経緯や能力も知っているんだ。ハナさんも言っていたとおり、玉虫色の眼の男と「幸運の石」と称する石が彼に何度も関わってきたんだ。だから、その石を手に入れた経緯を話してくれたら、何か手がかりになるかもしれないんだ。私たちは、とにかくセブンスさんを助けたいんだよ」
真は、サラに威圧感を与えないよう気をつけて言葉を選んだ。証拠があるわけではなかったが、サラは玉虫色の眼の男とグルであるわけではないだろうと考えていたし、怯えの正体は罪悪感ではないかと思われたため、それが気がかりでもあったのだ。
「セブンスさんだけでなく、あなたも、ね。何か抱えていることがあるのなら、それも話して欲しい」
「……は、はい」
真の穏やかな笑顔と思いのこもった言葉を受け、サラは顔色はいまだ蒼白ながら、ゆっくりと事情を話し始める。
緑色の宝石は、ハンターらの予想通り「玉虫色の眼の男」から渡されたとのことだった。突然彼女の前にやってきたその男は、「持っているだけで幸運が訪れる石だ」と言った。胡散臭い、とサラは思ったが、男のある言葉を聞いて、受け取ることにしたという。
「お前が恨んでいるユング家が不幸な目に遭うこともあるかもしれないよ、と」
サラはそう告げると、両手で顔を覆った。握っていた宝石が、キン、と音を立てて床に落ちた。安心させるべく、サクラ・エルフリード(ka2598)がサラに寄り添う。
「私の両親はユング家で働いていましたが、あるとき、屋敷の財宝を盗んだと濡れ衣を着せられて解雇され、それを苦にして亡くなりました。だから私は、ずっとユング家を恨んでいたんです。でも、セブンスさんに出会ったのは偶然です! 彼がユング家の人間だとは知りませんでした、本当です! 出会ったときに彼がユング家の人間だと知り、彼にも事情があるみたいでしたから、もしかしたらユング家に復讐するために何か手を貸してもらえないかとは思いましたけど、こんな、こんなことになるとは……」
そう言って、サラは泣き崩れた。
「嘘を言っているわけじゃなさそうだぜ」
様子を静かに見守っていたアーサー・ホーガン(ka0471)が呟くように言い、全員がそれに同意した。
一方、先にユング家の屋敷へと向かったミグとクリスティアは、屋敷の外観をしっかりと観察したのち、戦闘の可能性も考え、慎重に敷地内へと足を踏み入れていた。
「屋敷の中で人探しとは、はて面妖な」
人気がなく、入って行った人物が帰ってこない屋敷は、どう考えても異常である。
「人探しといえば、この名探偵ミグにおまかせじゃ」
ふふん、と笑ったミグに穏やかに微笑んで、クリスティアが提案する。
「順当に、一階から捜索しましょうか」
「そうしよう。勝手口からの侵入がよかろう。おそらくキッチンへ入れるであろうよ」
忘れず仲間と通信するための準備も整え、ふたりは勝手口の扉の鍵を壊して中へと入った。ミグの予想に反し、そこはキッチンではなく細い廊下だった。突き当りに扉がひとつ見える。薄暗かったが距離は短く、人気はまったくない。それでも油断することなく、物音に注意しながら進んだ。
「地下へ続く通路や隠し扉などは、ここにはないようですね……」
クリスティアは地下室の存在を疑っており、足元にも注目していた。ミグが扉にべたーっ、と張り付いて聞き耳を立て、扉の向こうの様子を伺う。
「何もいなさそうじゃの。よし、開くぞ」
「はい」
不気味なほどに静かだ、と思いながら、ふたりは扉を開いた。と、ガタリ、と物音がした。
「!」
サッと身構えたふたりの前に立っていたのは。
「おおっと、敵じゃないぜ」
アーサーとサクラだった。廊下の突き当たりの扉は玄関ホールに繋がっていたらしく、正面玄関から入ってきたアーサーとサクラに出くわしたというわけだった。
「今、通信も入れようかと思っていたところだ。レイアとアルバは今、屋敷の外側を調査してるし、あとの奴らもすぐ来ると思うぜ。とりあえず、一階を手分けして捜索するか」
「簡単にわかるような部屋とかに隠れてたりはしないですよね、こういう場合のお約束としては……」
サクラの言葉に、アーサーはまあな、と頷いた。
「玄関の扉は鍵が開いていた……、セブンスは正面から入って行ったんだな」
アーサーは、今まさに自分たちが入ってきた玄関の扉を調べた。鍵はすでに壊されていて、おそらくはセブンスが行ったものだろうと思われた。
「セブンスが進んだであろうルートを辿って、途切れたところを探すべきだろう」
「そうですね。でも、先に食堂の様子を探りましょう。ハナさんの占術で、そこが怪しいと出たようですから」
サラの話を聞きつつ、ハナは屋敷内を対象にして占い、いくつか怪しい場所を見出していたのだ。サクラはその結果を受け取っていたのであった。
食堂へ向かいつつも、その間にも床や壁を調べて歩く。アーサーとサクラも、ミグ・クリスティア組と同じく隠し部屋の存在を疑っていた。
「このあたりには、特に何もねえようだな」
アーサーが、壁や床を叩いてチェックしていく。空洞があれば、音の変化でわかるからだ。
「この向こうが、食堂であるようですね。ここで『生命感知』を使用します」
両開きになるタイプの大きな扉の前で、サクラは立ち止まった。範囲内に自分達以外の生きている人間がいないか、確認するのだ。
「……! 食堂に、誰かいます! セブンスさんでは、ないようです!」
サクラの言葉を聞いて、アーサーの顔に緊張が走った。無言で頷き合い、慎重に食堂の扉を開こうとした、そのとき。
「ここかなぁ? ここかなぁ? ……ここにいたぁ?! ってホラーかよおまぇぇぇぇ!!!」
ミグの声が、響き渡った。
ミグとクリスティアが踏み入ったのは、アーサーとサクラが扉を開けようとしていた食堂だった。アーサーたちとは反対側……、キッチンを通って入る通路で食堂へ入ったらしい。そしてその、食堂には。縛り上げられた五人の男女が、いた。
「ユング家の者たちだな?」
アーサーの問いかけに、猿轡をはめられたまま、こくこくと人々は頷く。ひとまずは縄を解こう、と四人がその作業に取りかかっている間に、レイア、アルバ、真、ハナが合流した。
「……言いたいことはいろいろあるけれど、とりあえず、セブンスさんがどこにいるか知っているなら教えてもらえるかな」
真が、静かではありながら厳しい口調で、ユング家の人々に問いかけた。
「二階……、おそらく、図書室にいるはずだ……、あの男……、シグモンドと共に」
「シグモンド? それが、玉虫色の眼の男だな?」
レイアもまた、厳しい表情で確認した。
「ともかく二階へ急ごう。セブンスさんの安否が心配だ」
真の言葉に全員が頷いた。ユング家の人々の面倒は、クリスティアが引き受けることとなり、他のハンターは全員で、二階へ上がった。
「図書室へ直行するとして、だ。何か罠などがないとも限らない。警戒は怠らぬようにな」
アルバがレイアに声をかけた。レイアはハッと顔を上げる。とにかくセブンスを、という思いにとらわれて、そうした考えが抜け落ちていた。
「そうだな」
レイアはアルバに頷き返して、視線で感謝の意を伝えた。
「道すがら、情報を交換しておきましょぉ」
ハナがそう提案し、ハンターたちは別々に行動していた間の情報を互いに共有した。一階のどの部分を捜索したか、ということや、アルバがモフロウに探らせたところ、屋敷の外側には特に怪しい点がなかったことを報告し合い、サラから聞き出した話なども共有する。
「さて。ここが図書室のようだぜ」
先頭を歩いていたアーサーが、扉の前に立ち、指し示した。ハナが素早く扉を調べると、しっかり鍵がかかっている。
「セブンスさん、確かにこの中にいるようです。それと、もうひとり」
すかさず『生命感知』を使用したサクラがはっきりと言う。
「扉をぶち破り、一斉に突入して、まずは男を取り押さえる、ということでどうかの?」
「そうしよう。セブンス氏に危害が及ばないよう、それだけは気をつけて」
ミグの言葉に真が頷き、全員、同意した。
「では、行くぞ」
アルバの合図で、一斉に、扉にぶつかり、レイアが鍵を叩き壊した。ドンッ、という音をさせて突入した部屋の中には。
「……もう、ここまでだ」
両手を縛られたセブンスと。
「そのようだ。私の負け、かな」
セブンスを悠々と見下ろす、男がいた。
「捕らえろ!」
男は抵抗する様子がなかったが、レイアは構わず叫び、アルバと共に彼を拘束した。おとなしくそれに従う男を、レイアは正面から睨みつけた。
「お前が、ユング家の家庭教師だな。目的は、セブンス氏のみ、というわけだったのか」
「ええ」
男は、あっさりと頷いた。セブンスが、驚いたような目でレイアを見る。レイアがずいぶんと、状況や事態の真相について考えているらしいことが、今の言葉でわかったからだ。
「怪我はないですか?」
サクラに気遣われ、セブンスは頷いた。確かに怪我はないようだが、セブンスの両目が真っ赤に充血していることに、真が気がついた。
「セブンスさん、もしかして、寝ていないのでは?」
「……はい。寝てしまえば、夢を見ますから。この男の狙いは、俺の、夢だったんです」
セブンスは、真に向かってそう答えた。どうやら、捕まっていた間に男から行動の意図を聞き出していたらしい。
「緑色の宝石を使って、俺に意図的に夢をみさせたのは、俺をこのユング家の屋敷まで徐々に呼び寄せるため。最終的には、このような強行手段を取ることになったようですが……」
「宝石を媒介にした、精神系バッドステータス付与ってところか?」
「まあ、そのようなものでしょうね」
口を挟んだアーサーの言葉に、セブンスが頷く。
「セブンス。お前の能力は実に珍しい。珍しいものを解明し、そして手に入れること……、それを望んで何が悪い?」
玉虫色の両目を光らせて、男……、シグモンドが言う。そこに、失意の色は見えず、まだ何か考えがあるようにも見えた。だが、それを汲み取ってやる必要は、今は、ない。
「少なくとも」
真が、怒りを抑えた静かな声で、しかし抑えきれない怒りを滲ませて、言った。
「たくさんの人を傷つけたことは、まぎれもなく罪だ。……サラさんを含めて、ね」
セブンスは、大きく頷いた。
男……、シグモンドの処遇は、王国の司法に委ねられることとなった。長きに渡り自分をかき乱してきた存在の正体が明らかになり、セブンスはホッとすると同時に、単に安心するわけにもいかないのだと、考えていた。シグモンドが解明したがっていた自分の「必ず現実を夢にみる」という能力に、今まで以上に真剣に向きあわなければならないと、そう感じたのである。
「……これから、どうするか。考えなければ」
セブンスは、呟いた。そして、瞼を閉じた。ずっと寝ることを我慢していたための眠気が、極限に達したのである。
未来について考えるのは、夢から、さめてからになるだろう。
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相談卓 クリスティア・オルトワール(ka0131) 人間(クリムゾンウェスト)|22才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2019/07/15 10:43:28 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/07/13 11:20:56 |