黄金

マスター:電気石八生

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
6~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/07/20 07:30
完成日
2019/07/25 14:03

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●前置
 ノアーラ・クンタウの片隅に小さな看板を出すバー『二郎』。
 カウンターの裏に立つゲモ・ママ(kz0256)はしかめ面でコーンウイスキーを呷り、その向かいでは黄金の怠惰ゴヴニア(kz0277)が、アイラモルトを舐めつつボクスティ――じゃがいもを混ぜ込んだパンケーキ。肉やチーズ等を巻いて食す――をつついている。
「……いいかげん違和感なくなってきたわねぇ」
 ママの苦いつぶやきに、肩をすくめてみせるゴヴニア。
「案ずるな。もうじきに此の縁も断たれようがゆえ」
 さらりと言われ、ママは引き下げた眉根をさらに絞り下げて。
「縁を繋いどいてぶった切るって、どんな趣味よ」
「始まりゆくものは結するが必定。其を時に任せる心づもり、妾にはない」
 確かにゴヴニアはこれまで、自らが関わる事件を他の歪虚に任せたりはしなかった。ハンターと繋いだ縁を裏切るようなことも。
 歪虚としての思惑は当然あるのだろう。しかし、そればかりではない――深情けと云うよりないものが、黄金の核に宿っているように思えてならないのだ。
 これも結局は感傷、なんだけどね。
 ママは心と表情とを努めて引き締め。
「アンタの手で決着つけたいってのはわかったけど。もちろんルールっていうか縛りっていうかはあるんでしょ?」

●幕間
「昼営業のほう、調子どう?」
 ゴヴニアが姿を消した店の内で、ママは昼営業用の半ズボンを干す天王洲 レヲナ(kz0260)へ問うた。
「とんとんくらい?」
「人件費はともかく、生クリームよねぇ。ま、店の売りだからしょうがねぇけど。サービス増やして客単価上げてみるぅ?」
 帳簿を見て小首を傾げるママ。
 店として成り立つ収支ではないはずなのに、あっさりと見逃す心が痛いほどにわかるから、レヲナはつい言ってしまうのだ。
「……でも、ボクももうすぐだから」
「だからやりてぇことに集中しときなさいってハナシでしょ。化けて出られたってなんにもしたげられねぇんだからね」
 先にレヲナはママに告げている。強化人間である自分は、もうじきに死ぬのだと。
『だったら短い人生、思いっきり楽しんどきなさい』
 ママの平らかな返答に、レヲナは確信する。
 唐突に取り下げられたレヲナの戦場復帰指令、その裏にママの暗躍があったことを。
 彼の他愛ない日常を守るため、ママがどれほどのものを犠牲にしてくれたのかを。
 だから、今は甘えるしかない。
「うん。じゃあそろそろ寝るね。おやすみ、ママ」
 レヲナが噛み締めるように唱えれば。
「はいはい、オヤスミなさいね」
 そっけなさの内に限りない優しさを含めてママが応えた。
 ゴヴニアとの別れを前に、ふたりは万感を振り切って明日へ向かう。

●前夜祭
 翌日の夜。
 昼営業を終えたバー『二郎』に集まったハンターたちへ、カウンターの裏からママが告げる。
「ここにもうすぐゴヴニアが来るわ」
 そして背後に並ぶ酒瓶を示し。
「リアルガチで最後の機会よ。なんかある子は話でもしときなさい。挑発とかは、あんまり効果なさそうだけどね。決戦は次の日の夜になるから、店にある酒なら飲んじまってもいいわよぉ――明日に障らねぇ程度にね」
 押し黙ったハンターたちにため息をついてみせ、ママは外へ向かう。
「いよいよあの怠惰とも縁切りねぇ。アタシもきっちり見届けさせてもらうから」

リプレイ本文

●前夜
 いつもならこれからが稼ぎ時なはずの夜――ただ中。
 バー『二郎』の灯は落とされていて、貸し切りの札がかけられていた。

 カウベルを鈍く鳴らしてドアをくぐってきたのは、ゾファル・G・初火(ka4407)。
「一番槍は汝(なれ)か」
 カウンター席の最奥に腰をかけ、シングルモルトのグラスを手にチャーチワーデン――吸口の長いパイプ――を吹かしていた黄金の怠惰ゴヴニア(kz0277)が艶然とうなずく。
「湿っぽくなっちまう前にぱっぱとすませちまおーってな」
 こちらはカウンター席の最前へどっかと尻を落とし、卓上に並んでいる瓶を物色、割り材用のライムジュースを取り上げた。
「エライ歪虚のお供してるくせにレヲナちゃん助けるチャンス残しちゃってくれたり、部族会議にちょっかいかけといて女王様ちゃんの弔い合戦で人間側についたり……普通の歪虚からしちゃ変わりもんすぎんじゃん?」
 ライムジュースを瓶のまま呷って間を繋ぎ、ゾファルは突きつけた。
「結局んとこ、ゴヴちゃんなにしたかったわけ?」
 対してゴヴニアはかるく肩をすくめ。
「妾は汝ら人の敵(かたき)たるをさだめられ、生まれしもの」
 紫煙に薄笑みを飾らせ、ゴヴニアは言葉を重ねる。
「しかしながら相対とは、対せし相手あってくれてこそ成るものゆえ、妾は汝らとの縁をこそ尊ぶ。……穢されず、侵されず、己の純然を打ちつけ合いて戦うがため」
 聞き終えたゾファルはゆっくり立ち上がり、ドアに手をかけた。そして振り返り。
「なんか回りくでーハナシだけど、めんどくせー事情抜きで、俺様ちゃんたちと真っ向勝負してーってこったろ」
「奇しき縁結びし人なるもの――ゾファル、汝と」
 ち。最後に湿っぽくしてくれんじゃん。ゾファルは口の端を吊り上げ。
「思い出づくりに協力なんてしてやんねー。ぶっ潰してやんぜ、ゴヴちゃん」

 静かにバーへ踏み込んだアルバ・ソル(ka4189)は、そのままゴヴニアのとなりへ腰を落ち着けた。
「酒が飲めるのか」
 シングルモルトをなめるゴヴニアを見やり、かすかに目を見開く。
「是。黄金は酒精に侵されぬ」
 黒ずみこそすれ、錆びもしないのだったか。アルバは黄金の特性を思い起こしつつ、同じ酒を口にした。そのスモーキーでケミカルな風味は、麦芽を乾燥させる燃料である泥炭の味だそうだが……
「口に合わねば他の酒を飲むがよい」
「いや、今の気分にはぴったりだ」
 敵である歪虚と、なんともいえない気分を抱えたまま飲むには、ちょうどいい。
 口腔に残る酒のにおいを舌先で転がして息と共に飲み下し、アルバはゴヴニアへ問うた。
「未練とか、ないのかい?」
 努めて平静に訊いたつもりだったが、定めきれなかった心のせいで、もしかすれば音が跳ねてしまったかもしれない。
 ゴヴニアにとって、僕たちはどんな存在だったんだろうな。敵なのはまちがいないが、それだけじゃなかった。だからこそ今、肩を並べて同じ酒を飲んで。
 しかしアルバの万感は、続くゴヴニアの答にあえなく斬り落とされた。
「未練残さぬがために汝らと戦うのだ、アルバ」
 ああ、そうか。そうだな。だから僕たちは戦って、結んだ縁の糸を断ち斬るんだ。
「手は抜かないよ。ただ全力で君と相対しよう――ゴヴニア」
 これまで互いに重ねてきたものに贖うため、君の望みをかなえよう。

 いくらかの時を置き、入ってきたのはボルディア・コンフラムス(ka0796)だった。
 ゴヴニアと自分の間にひとつ空席を挟んで、座す。
「敵味方になったのは何回もあったけどよ。直でやり合うのは、初めてかもな」
 少しためらって、覚悟を決めたようにまた口を開いた。
「おまえには助けられた記憶しかねぇ。レヲナのときも、オーロラのときも」
 グラスを握る手を支えに、継ぐ。
「だから、まぁ……なんだ。おまえのこと、そんな悪いヤツだとは思ってねぇんだ」
 いちおう言っとくぜ。言い添えてゴヴニアの横顔を見て。
「なぁ。オーロラのこと、どう思ってた?」
 その言葉へ含まれた苦みに、ゴヴニアは小首を傾げつつ。
「玉座にあるもの、これ即ち王であろうよ」
 これが促しであることはわかっていた。だから、抵抗せずに乗る。
「俺にはさ、ただのガキにしか見えなかった。できることならアイツの気持ち、もっとわかってやりたかったよ」
 万感を含めたボルディアの言葉に、ゴヴニアは紫煙を吐き、ゆっくりと返した。
「妾はただ願うばかりよ。娘御が騎士の導きもて、彼の岸まで届いたがこと」
「歪虚でも願うことなんてあるんだな」
「逝く先あらぬ身の上なればな」
 ゴヴニアは軽くかぶりを振り、そして。
「盟約は妾を世界に縫い止めし楔。縁は、妾を汝ら人へ繋ぎし錨。楔断たれし妾は錨解き、此の世界より離れるが必定よ」
 ボルディアを真っ向に見据えて告げた。
「其が妾の宿命なれど、人の敵たるをさだめられし妾が本懐。――明日こそは存分に戦おうぞ、ボルディア」
「おう」
 これ以上の野暮は言わねぇ。明日は誰のためでもなく、俺は俺のために、俺を尽くして行くぜ、ゴヴニア。

「こんばんはゴヴニア! 追加報酬、もらいにきましたよ!」
 勢いよくドアを開けて入ってきたのは百鬼 一夏(ka7308)である。
「此はまた賑々しい。水でも酒でも舐めて鎮まるがよかろうよ」
 水差しを取った一夏は、そのままゴヴニアのとなりに座って。
「決戦前に体調崩せませんから」
 これまでとは打って変わった静やかな表情で、言い切る。
「妾が本心であったか。すでに他のものへ語り終えたことなれど」
 果たしてゴヴニアはゾファルとボルディアへ語ったことをそのままに告げ、そして。
「……とどのつまり、妾は汝ら人が好きなのだよ。盟約なくば己が存在を保つことかなわぬ妾に、敵たる汝らばかりがさだめを超えし熱をくれる。冷えし金(かね)なる妾には発することかなわぬ熱を」
 一夏はゴヴニアの言葉の裏に含められた真意を思う。
 ゴヴニアは確かに人の敵だ。しかし、同時に人へ深い情を持ってもいる。オーロラは怠惰王だが、元は不幸を重ねた末に堕ちた少女だった。だからこそハンターに“オーロラ”を討たせようとしたし、“青髯”や“影”と対するハンターを助けもした。
 すべては自分に対してくれる人への情で、仁義で、誠意。だとしたら、ゴヴニアという歪虚は――
「本当、変わり者ですねぇ」
 当のゴヴニアは黄金の喉とくつくつ鳴らし、「相違ない」とだけ応える。
 その様に、一夏はくわっと眉を怒らせて。
「やっぱり私はあなたが好きじゃないですっ!」
 けして友にはなりえぬ敵。そうありながら情をもって縁を繋ぎ、最後には断ち斬って消え失せようとするゴヴニアに、一夏は憤るしかなくて。
 せめて縁くらい繋いだままにしとけばいいのに――そう思わせられちゃう敵なんて、好きじゃないです!
 ゴヴニアは笑みを紫煙で飾り、一夏へ問うた。
「なれば明日は情けに溺れることなく妾と対してくれような、一夏?」
「全力で!!」
 最高の私らしさを燃やして、あなたにぶつけますから!

 最後にゴヴニアの元を訪れたのはメンカル(ka5338)である。
「来やったか、仏頂面」
「ああ。せっかくの機会だ。酒も刃も両方交わそう」
 先ほどまで一夏がいたゴヴニアのとなりに座し、前に置かれたシングルモルトの瓶を取ってゴヴニアのグラスと自分のグラスへ注ぐ。
 その後、ぽつりぽつりと言葉を交わし、メンカルはゴヴニアが他の者へ語ったことを知った。
「明日で全部終わるか」
「是。すべての盟約が断たれし今、妾を此の世界へ繋ぎ止める楔も断たれたがゆえに」
 世界を渡り、人の敵であり続ける宿命を負う黄金。
 奇しきものだ。この世界に顕れたときから付き合いを重ねてきた、敵でありながら敵と言い切れぬ不可思議な怠惰は。
「ここまで来て言葉を飾るつもりはない。おまえは最後をどうしたい?」
 ゴヴニアは迷うことなく言葉を返した。
「汝らと戦い、結びし縁の糸断つ。未練を引くは無粋ゆえな」
「わかった。おまえの最後にふさわしい戦いをしよう」
 たとえ戦わずに済ませたとしても、この世界での存在理由を失くしたゴヴニアは結局消え失せるのだろう。その前に、縁を結んだ者たちと存分に戦いたいというならば、全力で応えるだけだ。
 と。ここでメンカルはかぶりを振って。
「だが、ひとつ思い違いをしてる。一度結んだ縁は、たとえ切れても消え失せるものじゃない。形を変えるだけだ……生涯の思い出ってやつに」
 ゴヴニアは眉根を上げ、そして噛み締めるように目を閉ざした。
 こういう奴だから、俺も飾りたくなくなる。メンカルは胸中で息をつき、言葉を継いだ。
「仏頂面じゃなく、名前で呼んでくれないか。メンカル――いや、俺の本当の名、ザウラクと」
 目を開いたゴヴニアは、静かにうなずき、応える。
「明日まみえるが楽しみぞ、ザウラク」
「俺もだよ、ゴヴニア」


 一方、別の酒場の片隅で安いコーンウイスキーを舐めているゲモ・ママ(kz0256)。
 その片脇に立ったのは星野 ハナ(ka5852)だった。
「なによアンタ。ゴヴニアんとこ行かなくていいわけぇ?」
 ママの問いにハナは鼻柱へ皺を寄せて「うぇ」。
「殺る前に変な縁作ってやりにくくなったら困りますからぁ」
 パスですぅと言いながら、ママの向かいに腰を下ろした。
 普通に見えるママの顔。しかしその端には隠しきれない影が浮かんでいて……
 よし。ハナはこっそり気合を入れてママにわーっと迫る。
「ところでママ、好きな食べ物とかお花とかあったら教えてください!」
 ママは顔をしかめつつもあれこれ考えて。
「食べ物ったら、そりゃニャマチョマ(焼き肉)とかピラウ(ピラフ)よねぇ。好きな花はぁ、今の時期ならグラジオラスぅ? 花言葉は勝利だしね」
 遠い目をして、言葉を切る。
 占いと縁深い符術師にして恋の狩人であるハナだからこそ、その裏に秘められた真意に気づいた。
 ママが思い浮かべてる花言葉は「忘却」、ですよねぇ。
 しかし表では屈託なさを演じた笑みを傾げてみせる。
「お花はわかりましたけどぉ、ニャマチョマって英語ですぅ?」


 エルバッハ・リオン(ka2434)はふけゆく夜の内、愛機であるR7エクスシア“ウィザード”の脚部装甲に手を置く。
 ゴヴニアと結んだ縁はない。だからこそ、明日はただ力を尽くして戦おう。


 ディーナ・フェルミ(ka5843)もまた、ただひとりで夜を越している。
 私は好きで歪虚になるモノはいない、不幸な状況が重なった結果だと思っているの。
 ほんの少し縁を結んだだけの仲だけど、あなたは私たちと戦って終わりたいって望んでいる。そう思うから。
「私は――私たちは、あなたを滅して解放するの」
 きっと明日は言えないだろう言葉を唱え、目を閉ざした。

●10秒
 戦場となる荒野は月灯に照らされて、視界を遮る影すらない。
「あれ?」
 踏み入ろうとしたハナが首を傾げた。共連れてきたユグディラの“グデちゃん”が、壁に遮られたように尻餅をついたからだ。
「ルールって物理的に守らされんのねぇ。この子はアタシが預かっとくから」
「うう、お願いしますぅ」
 仲間の後を追いかけるハナを見送り、ママはグデちゃんに苦笑を見せた。
「ご主人様が帰ってくるまで店で待ちましょ」


 ゴヴニアは姿を見せたハンターたちへ黄金の眼を巡らせ、薄笑んだ。
「ゾファル、そして今はメンカルと呼びおこうか。彼の夜は曇天であったな」
 初めて両者と対した夜を語る。
『あんときゃ10秒で、今夜は30秒。ケチくせーこと言ってくれんじゃん』
 ガルガリン“ガルちゃん・改”の野太いアイドリング音を押し退けてゾファルが吐き捨てれば、ゴヴニアは笑みを深め。
「別れを惜しむは性に合わぬ。時尽きるまでに、この胸に収めし妾が核を貫かば、汝らの勝ちよ」
「充分とは言い難いが、いいだろう」
 メンカルが身構える前で、ボルディアはワイバーン“シャルラッハ”へ飛び立つことを指示し、あらためてゴヴニアへ向き合った。
「いつ始めるんだ?」
「汝らが支度を済ませたその時より」
 果たして、戦いが幕を開ける。

『行きます!』
 黒き装甲をまとうウィザードを駆り、エルバッハがゴヴニアの前へ出た。
 充分に暖気した魔導エンジンはすでに、最高出力へ達している。その熱をもって展開した後光さながらのマジックエンハンサーが、さらにエンジンの回転数を上げ――機体が強く踏みとどまると同時、“後光”の円よりブラストハイロゥの光翼が伸べられた。
 ポジショニングは最前よりもわずかに手前。後衛であるアルバとハナ、そして奇貨の役割を担うシャルラッハの盾となり、さらには続く前衛陣の動きを覆い隠すカーテンとして機能する、いわば先制防御の初手である。
 ゴヴニアはそれを見上げたまま動かない。まるでやれるだけのことをやり抜いてみろとでも言うように、薄笑みを傾げて立ち尽くしている。
 余裕ということではなく、あくまで全力で向かってこいということなのでしょうか。……あなたの思惑がどうあれ、最初の1秒は私が抑えさせてもらいましたよ、ゴヴニア。

 その守りの影から跳び出したのは、リーリーに騎乗したディーナである。人馬一体によって愛獣と、手綱ならぬ意志で繋がった彼女は、すでに駆け出している他のハンターの歩を阻害せぬよう細かに軌道を変えながらゴヴニアへと駆け込み。
 これが! 私の最初の一手なの!
 フォースクラッシュを乗せた星神器「ウコンバサラ」を叩きつけた。
 封印を解かれたトールハンマーがゴヴニアの浮遊盾を打ち据え、グワン! 濁った音をあげさせたが、届かない。
 まだまだ! なの!
 弾かれたウコンバサラを引き戻し、もう一度、フォースクラッシュを振り込む。リーリーから預かった力を使った二連撃である。
 果たしてこの一撃はもう1枚の盾に弾かれたが、これもまたディーナの計算の内だ。
 盾2枚、“浮かせた”の!
 と。彼女の体がリーリーごと高く跳ね上がる。原因はそう、足元から迫り上がった石壁だ。
「っ!」
 ダメージこそなかったものの、2メートルまで伸び出した壁は、その上に足をかけていたリーリーを4メートルも跳ね上げ、体勢を崩させる。
 着地お願いなの、リーリー!!
 繋がった愛獣の心へ告げた彼女は、羽をばたつかせてバランスを取り戻すリーリーの上で護身剣「ルクス・レディ」を握り、ホーリーヴェールを発動した。
 高めた魔力と行動回数が自らを含めた6人のハンターへマテリアルの守りを与え、追撃に対する備えを完了させる。
 私の10秒、全部使い切ったの! あとは任せたの!

『おおおおおお!!』
 ディーナの思いに応えるがごとく、土壁を跨ぎ越え、機重のすべてを込めて踏み込んだガルちゃん・改は、高く振りかざした斬艦刀「天翼」を握る手に渾身を込める。
 性能だけで言えば、けしてゾファルが所有するユニット内で最強ならぬ機体だが、しかし。ゾファルという操縦士の“魂”をもっとも体現する機体こそがこのガルちゃん・改であり、そして天翼だ。
 常の二刀流を封印し、ただひと振りを携えてきたのもまた、ひたぶる戦いを求めたゴヴニアへ彼女が用意した、無二の答だった。
 思いっきりの俺様ちゃんらしさで、ゴヴちゃんのことぶっ潰してやんじゃん!?
 かくてスーパーオラツキモードの炎を透かして見据えた黄金へ、まっすぐにマテリアルオーラまといし絶対勝利剣を振り下ろした。
『俺様ちゃんを見ろぉぉぉ!!』
 ディーナの連撃で浮かされた盾の狭間をすり抜けた刃が、ゴヴニアの脳天を打つ――と思った瞬間、それは黄金の指先によって地より引き出された石壁に食い止められ、ガルちゃん・改は壁に押されて後じさった。
 ま、簡単にゃやらせてくんねーよなぁ!

 ゾファルの逆から跳び出すのはなく、飛び出したのはボルディアだ。
 祖霊の幻翼を力強く羽ばたかせ、星神器「ペルナクス」をもってゴヴニアへ突貫する。
 それに合わせ、ウィザードが拡げたブラストハイロゥの裏からシャルラッハが滑り出し、ディープインパクトの衝撃で支援したが。
 動きを取り戻した盾の一枚がそれを弾き、もう一枚がボルディアのペルナクスの軌道を塞いだ。
「便利で結構だけどよ! ちょいと邪魔だよなぁ!!」
 轟と吼えたボルディアはかまわず、ペルナクスの重刃を盾へ叩きつけた。さらに傾いだその盾へ膝を引っかけ、体を振り回しながらもう一撃、シャルラッハの攻撃を抑えた盾を打つ。敵を噛み砕く災禍の牙――砕火による二連撃である。
 しかしながら、揺らぎはすれど盾はその攻めを受け切り、続いてゴヴニアが噴き上げた毒がボルディアを巻き取った。
 真っ先に解放していたトールハンマーの護りで毒から逃れたボルディアは、地へ転がりながら仲間へ告げる。
「盾が動く前にっ!!」

 ――今までで最悪の仕事だ。始める前は、そう思ってたんだがな。
 仲間と現状2枚の石壁、そしてゴヴニアのポジショニング、その隙を縫い、ゴヴニアの死角を突いて15メートルを滑り抜けたメンカル。
 今はそう、最悪の気分だ。おまえの意図があからさますぎて、な。
 竜尾刀「ディモルダクス」を解いて刃鞭と化し、地へ叩きつける。刃先は跳ねてまた地を叩き、跳ねては地を叩き……蛇のごとくにゴヴニアへと向かってその足首を巻き取る。
 と、そのとき。ゴヴニアの黄金が溶け落ちて消え失せた。
 ゴヴニアの能力は事前に知らされている。つまりはリアクションを惜しんで移動したということだ。強力な攻めを携えてさえいれば、そのような必要もなかったはずなのに。
 これはゲームだ。守りを固めたおまえの心臓を制限時間内に俺たちが貫けるかどうか、それを競うだけの。
 赤光放つ蛇眼で再び沸き出したゴヴニアを捕らえ、メンカルはそちらへ駆け出す。そうするために無駄な動きを抑え、備えてきたのだから。
 おまえのしかけた最後のゲームだ。俺たちの手でかならずクリアしてみせる。

 ゴヴニアが形を取り戻したことを確かめたハナは、詰めていた息と共に、ワイルドカードで強度を高めた黒曜封印符を投げ放った。
 やっとこの前宣言したとおり、アンタのこと殺れますぅ。
「全ブッコロですよぅ、ゴヴニアっ!!」
 10枚の符が描き出した封印陣が、その黄金に不可視の呪縛をもってゴヴニアを捕らえた――そう思いきや。
 ゴヴニアは艶然と笑み、黄金の肌を舐めた呪いを指先で払い落としてみせた。
 ……ブッコロしたきゃ、肚くくれってことですかぁ。いいですよぉ。固結びでくくったげますからぁ。

 あらん限りの力を込めて地を蹴りつけ、一夏がゴヴニアへ跳んだ。
「ゴヴニア!!」
 ――言ってくれた人がいるんです。私の髪と目は、燃える炎みたいに綺麗だって。
 武神到来拳「富貴花」に火の精霊が力を与え、赤光を噴き上げさせる。
 ――ヒーローを目ざす私の心は、炎みたいに熱いって。
 体を思いきり捻り込みながら引き倒し、繰り出したオーバーハンドフックに乗せて、赤く燃え立つ富貴花を叩きつけた。
 ――まだヒーローになれたなんて思い上がれないけど! 今の私が燃やせる精いっぱいの“炎”であなたを送ります!!
 この炎は去りゆくゴヴニアのための送り火。
 果たして万感を赤で塗り潰した一撃が、ゴヴニアへ食い込んだ瞬間。

 練り上げたマテリアルのすべてを込めたアルバのマジックアローが、ゴヴニアの黄金へ突き立った。
 ゴヴニアがわずかに揺らぎ、その隙間を埋めるように石壁を呼び出す。吹っ飛ばされて転がった一夏が起き上がろうとするのにかまわず、ゴヴニアの手からアルバへと電撃が飛んだ。
 その軌道はブラストハイロゥによってわずかに曲げられるが、周囲に伸び出した電撃の糸がアルバの構えた聖盾「コギト」を舐め、神経を引きちぎられるような痛みをもたらした。
 歯を食いしばってそれに耐えたアルバは、止まりかけた思考を必死で取り戻す。
 ――リアクションを残しながら、僕の魔法にそれは使わなかった。連携が功を奏したということか。
 しかし、ゴヴニアが魔法に備えている以上、絶対の効力を備えたグングニルを撃ち込むことは相当に難しい。ここは支援に徹するべきか?
 ありえないな。僕は霊闘士たる騎士だ。父母……祖先から受け継いだ誇りを、業を、想いを受け止め、次代へ繋げることこそが僕の務め。その意志を君に見せよう。誓ったとおり、全力で。

 この結果に、エルバッハは眉根を引き絞り、奥歯を噛み締めた。
 あの雷は太いばかりでなく、重いということですか! この翼では止めきれない――頭を振り、差し込んでくる弱気を振り払ったエルバッハは、未だ幼さの色濃い面を鋭く引き締めた。
 私がみなさんの守りの要! 担った役割を、なんとしても果たしてみせます!

 と。
「よい攻めだ。されども妾を貫くにはまだ足りぬよ」
 黄金を輝かせ、ゴヴニアがハンターたちを誘う。
「心重ね、技併せ、此の黄金の縁、断ってみせよ」

●20秒
 逃がしません!
 ブラストハイロゥを収めさせると同時、ウィザードのアクティブスラスターへ点火したエルバッハは、その爆発的な機動力でゴヴニアを追った。
 黄金の重さもあってか、ゴヴニアの動きは遅く、だからこそ先手を譲ることはありえない。
 電撃の射線を機体で塞ぎ、あらためてブラストハイロゥを伸べて後衛を守ったエルバッハは、ここへ到るまでに何度もシミュレーションしてきたポジショニングが最上のものであることをさらにもう一度確かめた。
 複数のリアクションに加えて2枚の浮遊盾で守られた黄金。そして勝負は30秒に限定されている。普通に考えるなら、守るばかりで勝利できるゴヴニアが有利のはずだが……
 この場の初手は私。そして防御に徹していることを、制限時間のほとんどを使って印象づけてきました。勝負をかけるのは最後の10秒です。
 だから、それまでは演じ抜く。担った役割を必死に全うしようとする操縦士を、必死の演技で。

 ファーストエイドによるフルリカバリーをアルバへ送ったディーナは、リーリーを石壁の狭間に駆け込ませてゴヴニアを惑わしつつ接近する。
 ちなみにゴヴニアの脇を駆け抜けた後、一度リーリーから降り、もう一度騎乗して人馬一体を発動しなおしてきていた。
 ゴヴニアの攻撃の手は多くないの。でも、守りはすごく固いから。今の10秒を使って少しでも崩さなくちゃいけないの。
 魔力を集中させたウコンバサラの斧刃を、駆け抜け様に叩きつける。
 当然のごとく浮遊盾に弾かれたが、そのまま駆け抜ける。
 先のように連撃を繰り出すことをしなかったのは、自らを奇貨とするため。たとえ防御は固くとも、意識までを全方位へ振り向けられるほどゴヴニアは万能ではない。
 ヒット&アウェイ全力版、絶対決めてみせるの!

『俺様ちゃんを見ろっつってんじゃーん!?』
 戦場に残された石壁を蹴りつけたアサルトダイブに、ガルちゃん・改のサスペンションが甲高くきしみ、しかしその超重量と前進力とをしっかり受け止め、そして。
『レッツ、ショーダウン!! お互い死ぬまで踊り明かそうぜ!!』
 天翼をただ思いきり振り下ろす。
 それはただの斬撃だったが、しかし。ゾファルの技と気合のすべてが込められた、なによりも重い一閃だ。
 その渾身の斬り下ろしを真っ向から受け止めた盾の後ろでゴヴニアは笑み。
「其の意気に絆(ほだ)されるも愉しかろうがな」
 雷を投げ、ガルちゃん改の腹部装甲を焼き割った。
 ディーナが割り込ませたホーリーヴェールと自らのマテリアルカーテンに軽減され、なおこの威力。
 死ぬ気BINBINじゃん!? 口の端を吊り上げて笑みを返し、ゾファルが無理矢理に踏みとどまらせた機体。
 その裏から舞い上がったシャルラッハが、再びのディープインパクトで突撃をかける。
 幻獣がこの機を突いたのは、連携をもってゴヴニアのリアクションを阻害するためだ。
「主の意をよう心得ておる」
 衝撃波に肩口を削られながら、ゴヴニアは自らの背後へ石壁を呼び出した。
 足先を壁にとられてバランスを崩すシャルラッハだったが、超低空バレルロールでなんとかすり抜けていく。
「ブッ壊させてもらうぜぇ!!」
 その石壁の端を掴み、体を振り回して踏み込んできたボルディアが、魔斧「モレク」をゴヴニアへフルスイング。
 が、この一閃はディーナの攻撃を抑えた盾に阻まれた。
 ギジギ……刃と盾とが押しつけ合い、削り合う高い濁音が絞り出され、空気を揺らす。
 ボルディアの凄絶な膂力とゴヴニアの底知れぬ業とが拮抗し……その寸毫が、戦いに紛れて駆け戻り、石壁を踏んで跳んだディーナに機を与えた。
「併せるの!」
 彼女がフォースクラッシュで振り込んだウコンバサラ、その斧刃ならぬ鎚が叩いたものは、ゴヴニアでも盾でもない、ボルディアのモレクだ。
 ボルディアの意図は悟っていた。そして1枚でも盾を損なえば、ゴヴニアの防御陣は大きく崩れることとなる。
 鉄壁だってヒビひとつで壊れるの!
 結果、ふたりの全力を乗せた一打が拮抗を一気に崩し。
「もうひとつです!!」
 モレクの柄を、縮地瞬動の一歩で跳び込んだ一夏の富貴花が突き上げた。腕を伸ばすにつれ手首を、肘を、肩までもを内へひねり込んだ螺旋突で。
 そして。ふたつに割れた盾の向こうで待ち受けていたゴヴニアの薄笑みと対峙し、一夏は会心の笑みを返した。

「これが私の固結びですぅ!」
 先と同じワイルドカードで強化した符を投げ放つハナ。
 それが描き出したのは封印陣ではなく、光符陣だ。
 ゴヴニアは符の種別を確認するより早く、肢体より石英を溢れ出させ、レンズを為した。
 押し寄せる光はレンズに吸われ、集められ、術者であるハナへと弾き返される――
 ここだ。
 アルバのマジックアローが、横合いからゴヴニアを弾く。
 ただ1本とはいえ、エクステンドキャストを乗せた光矢である。その密度は黄金の重さを揺らがせて軌道を逸らし。
 さらにはウィザードの光翼がこれを絡め取り、空へと弾き上げた。
 それを見送ることなくゴヴニアを見据え、アルバは仲間たちへ告げる。
「連携の間を空けるな! 互いの攻撃を寄せて、厚みを増すんだ!」
 この間にハナは、次の攻撃の準備を進めていた。
 やっぱり魔法はきっちりマークされてますねぇ。でも、これで終わりじゃないですよぉ。

 役目を終えて割れ落ちるゴヴニアのレンズをウィザードの内より見やり、エルバッハは息をつく。
 盾1枚を損なった今、ゴヴニアの守りの手数は5。いや、電撃を加えるなら6か。次が最後の10秒である以上は、ゴヴニアも手を惜しまず攻め立ててくるだろう。
 ――だとすれば、私がやるべきことはひとつですね。
 先に据えていた心を、さらに強く据えた。
 初手だからこそできることを、全うする。その“初手”として見せてきた役割を覆して、皆の先を拓いてみせる。
 胸元に浮き上がった薔薇紋をドレス越しに掌で押さえ、エルバッハはウィザードへ命じた。行きましょう、待ち受ける怠惰を目ざして――

 一方、メンカルは仲間たちの戦いの影でナイトカーテンを発動させ、気配を消して戦場の裏へと回り込んでいた。
 もっとも俺らしい技でおまえを討つ。次に顔を合わせるときが、どちらかの最期だ。
 人を保つ右眼に万感の翳りをたゆたわせ、彼は音もなく歩を踏み出していく。

 二撃を打ち終えたディーナはゴヴニアから距離を取り、戦場を見渡す。最後の10秒が始まる前に、癒すべき傷ついた仲間を見つけておこうという意図だったのだが。
 その最中、彼女の目はゴヴニア、いや、そこから散り落ちる無数の輝きに吸い寄せられて。
 もしかして、あれ――

●30秒
「そろそろ時が尽きる。ゆえに、攻め手の数ばかりは増させてもらおうぞ」
 ゴヴニアが全方位に雷を放ち、ハンターたちを穿つ。
 ウィザードの光翼は貫かれ、ディーナが送ったホーリーヴェールの守りは発現と同時に割れ砕けて散り落ちた。
「さあ、己を尽くせ。妾に汝らの汝たるを見せよ」

 雷の衝撃に乱された鼓動をスタッカットの呼吸で整え、エルバッハは光翼を収めたウィザードを突撃させる。
 聞いたとおりにゴヴニアが嘘をつかないなら……攻めの手はとにかく、守りの手数は変わらない。
 アクティブスラスターの加速で最短距離を突き抜け、ゴヴニアの眼前で踏みとどまった。ここまでは、先の20秒と同じ。
 しかし、続いて伸べられたものは光翼ではなく、ウィンドスラッシュの“風”だった。
 ゴヴニアからすれば唐突に映るだろう。だからこそ。
 使わずにはいられませんよね、守りの手を。
 かくてエルバッハの思惑は果たされた。
 刃と化した風がゴヴニアのレンズに弾かれ、それを機体の腹部に受けたウィザードが、先に受けた電撃のダメージに回路を爆ぜさせ、がくりと崩れ落ちる。
 もう少し! あと、1秒だけ――!
 片脚で踏ん張り、本当に1秒を稼いだウィザードはついに倒れたが、その1秒の価値はまさに千金。
 初手の務め、確かに果たしましたよ。あとはお願いします。

 ウィザードの装甲を越えて前に出たハナは、鼻の頭に皺を寄せて符を投げ放った。
 私がブッコロしてやる気だったんですけどぉ……それより優先しなくちゃいけないこと、あるんですよねぇ。
 だから。
 全力の五色光符陣をゴヴニアに突きつける。案の定跳ね返ってきた光に薄笑み。
 はいぃ、これでアンタの守りの手、あとふたつですぅ。

 そしてアルバは、光に飲まれたハナの逆側からゴヴニアへ駆けた。
「これが、僕だ!!」
 父母より教えられたとおりに踏み込み、上段に構えたスタッフ「クレマーティオ」を、自重と勢いとをもって振り下ろす。ソル家に伝わる戦技とアルバの心を併せたスタンピードが、衝撃波となって眼前のゴヴニアへ食らいつく。
 が、それは石壁に阻まれ、アルバもまた突き退けられると同時、黄金刃の追撃を受けた。
 墜ちながら、彼は胸中でゴヴニアに問う。届かなかったが、見せるくらいはできたか。この僕の、騎士の一分を。
 本隊であるハンターたちの逆から踏み込むことで、ゴヴニアの後方の視界を塞ぐ。騎士として守った“次”の行方を見るより早く、彼は地へと投げ出された。

 リーリーに首を低く下げさせ、自らもその背に頬を預けたディーナが、最高速度でゴヴニアへ向かう。
 雷に焦がされながら、今の今まで耐え忍んできた。ゴヴニアの守りを崩すべくその身を投げ出してくれた仲間たちへ贖うため、奥歯を噛み締めて。
 フォースクラッシュで残る盾を打ち、弾かれたウコンバサラを引き抜くようにその場を離脱。反転してもう一度盾を叩く。
 撓んだ盾の向こうにはゴヴニアの薄笑みがあり、そして。
 その端々からは、ゴヴニアを形作る黄金がこぼれ落ちていた。
 やっぱり……あなたはもう、終わるんだね。
 勝負を30秒に限定した意味が、けして保身のためなどではなかったことを、今さらながらに思い知る。
 ゴヴニアはきっと、盟約の終わりを戦いで締めくくって逝きたいの。だったら――
「みんな、このまま攻め切るの!」
 最初に決めたとおり、ゴヴニアを滅しよう。黄金に秘められた思いを解き放つために。

ディーナが駆け抜けた軌道を交差して飛ぶシャルラッハが、飛来した雷に対して体をひねりながら回避し、三度のディープインパクトで超加速する。
 衝撃波にまかれたゴヴニアはそれをかわさず、ボルディアのチェイスアタックに備えて身構えたが。
『残念、俺様ちゃんじゃーん!?』
 電撃に複数の回路を焼かれながらも確かな歩を刻み、ゴヴニアへ迫るガルちゃん・改。その豪壮と頑強がゾファルの不屈を支え、さらに際立たせる。
「最後に来やるかと思うておったが」
『言ったろ!? 死ぬまで踊り明かそうぜってよ!』
 ゴヴニアの石壁がガルちゃん・改の足をすくうが――だからどーよ!? 尻を落とし込みながら天翼を斬り下ろす。
 長大な刀身は壁を割り、威力を大きく減じながらもゴヴニアへ届き、その左腕を引きちぎった。
「してやられたわ」
 電撃でガルちゃん・改の胸部装甲を焼き切ったゴヴニアは溶け失せることなく一歩を踏み出し、ボルディアへ向かう。
「さて、遅れて来やった汝が見せるはなんぞ?」
 かくてボルディアが放った炎獣の顎が噛み合うがごとしの砕火に、盾は大きくひしゃげながら、なお斧刃を押し止め続ける。
 だめなのか!? 俺の全部をぶっ込んでも、届かねぇのか!?
 黄金刃で腹を抉られながら、ボルディアは口の端を吊り上げた。
 いや、まだぶっ込みきってねぇ。
「俺の、必死!!」
 残された命のすべてをくべたモレクをさらに捻り上げ、ついに盾を両断したボルディアは、自らの作った血だまりへ伏す。
 やるだけやった。次は、おまえらの番だぜ――

 仲間たちが拓いた道を、一夏は縮地瞬動で跳び越える。
 本当は盾破壊や支援に徹してボルディアやハナの攻撃へ繋げるつもりだったのが、最後を託されることとなった。
 ボルディアさんたちがゴヴニアへ送り出してくれた。
 私はそれに応えたい。
 そして。
 無事を保っていたはずのゴヴニアの右手が、指の先から砕け落ちていく。もうじきに、体そのものが崩壊を始めるのだろう。
「だからって! そのまま逝かせたりなんてしませんよ、ゴヴニア!!」
「重畳」
 すべての守りを失ったゴヴニアが、ひび割れた黄金刃を一夏へ突き込んだ。それを肩口で受け止めて一歩押し込めば、刃は一夏の踏み込みを抑えきれずに割れ砕け。
 私がずっと使い続けてきたこの技で、送ります。
 腰だめに構えた拳を最速で突き出し、インパクトの瞬間、強く握り込んで最大の衝撃を打ち込む白虎神拳を。
 打たれた胸に亀裂を刻んだゴヴニアはのけぞりながら一歩下がり――メンカルの胸に、その背を受け止められた。
「このゲーム、詰みだ」
 後ろから抱え込んだゴヴニアの傷口へ、逆手に握り込んだディモルダクスの切っ先をこじ入れる。切っ先は容易く、黄金の奥に隠された核へまで届き。
「来世があるなら今度は味方として――いや、敵じゃないだけで、いい」
 やさしく、貫いた。
「またな、ゴヴニア」
「末永く息災たれ、ザウラク」
 塵のごとくに崩れ去り、かき消えた黄金へ、メンカルは声ならぬ思いを投げかける。
 忘れてなどやるものか。いつかまた遭うときまで、な。

 かくて荒野に、癒しの黄金雨が降る。
 エルバッハはウィザードの内で静かに目を閉ざし。
 ディーナは足を止めたリーリーの首をやさしく叩いて労り。
 アルバは雨の内で己の思いと向き合い。
 ゾファルはガルちゃん・改のハッチを開けて雨を見上げ。
 ボルディアは心配そうに鼻を寄せてきたシャルラッハへうなずきを返し。
 一夏は開いた右手を再びゆっくりと握り込み。
 メンカルは雨の向こうにすがめた目線を据え、息をついた。
 そして――

●心
「なんでアタシが締め出されてんのよぉ」
 仲間に先んじてバー『二郎』まで戻ったハナ。
 グデちゃんとドア前に座り込んでいたママを押し退けて鍵を開ければ、カウンターには山盛りの料理が並んでいて。
「これアンタの仕込みぃ?」
 驚くママにニャマチョマと称する角煮を勧めたハナはそして。
「私たち、ゴヴニアをブッコロしましたぁ。ママのお友だちを――」
 言い淀んでかぶりを振って、心を定めたハナは続く言葉を紡ぎ出す。
「人と友情を育める歪虚はいると思いますぅ。でも。私は深紅ちゃんに、人が死ぬとき歪虚に脅かされない場所を作る努力をするって、そう誓って守護者になりましたぁ」
 だからこそ、守護者として戦場に立った。情けも容赦もなく戦い、ゴヴニアを滅した。だが、しかし。
「でもそれは、ママには関係ない誓いなのでぇ……」
 ハナはママの顔を見上げ、隠していたグラジオラスの花束を差し出した。
「アンタが気にすることねぇわ。でも、アリガトね」
 花束と共にハナの思いを抱いたママはやわらかく微笑み、ゴヴニアがいつも座していた最奥の席に腰かけた。
「じゃあ、乾杯ですぅ」

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参加者一覧

  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    ワイバーン
    シャルラッハ(ka0796unit005
    ユニット|幻獣
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    ウィザード
    ウィザード(ka2434unit003
    ユニット|CAM
  • 正義なる楯
    アルバ・ソル(ka4189
    人間(紅)|18才|男性|魔術師
  • ゾファル怠極拳
    ゾファル・G・初火(ka4407
    人間(蒼)|16才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    アサルトガルチャン
    ガルちゃん・改(ka4407unit004
    ユニット|CAM
  • 胃痛領主
    メンカル(ka5338
    人間(紅)|26才|男性|疾影士
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    リーリー
    リーリー(ka5843unit001
    ユニット|幻獣
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • ユニットアイコン
    グデチャン
    グデちゃん(ka5852unit004
    ユニット|幻獣
  • ヒーローを目指す炎娘
    百鬼 一夏(ka7308
    鬼|17才|女性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
エルバッハ・リオン(ka2434
エルフ|12才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2019/07/19 02:49:26
アイコン 質問卓
ボルディア・コンフラムス(ka0796
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2019/07/19 07:26:28
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/07/18 07:58:15