兵の価値

マスター:まれのぞみ

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/07/24 07:30
完成日
2019/08/01 01:17

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「来ました!?」
 上空に黒い点が見えた。
 ひとつ、ふたつ――三つ?!
 轟音とともに地上に衝撃波が走り、土煙があがる。
 戦士たちは建物につかまって、飛ばされないように体を縮める。
 家々の屋根が吹き飛ぶ。
「街のどまんなかかよ」
 舌打ちをしながら爆心地を睨んだ。
 歪虚、飛来。
 そして、爆心の中からあらわれたのは鉄鎧の歪虚ども。
 クレーターの中から這い出てきた鉄の鎧を着込んだ歪虚どもは、それぞれ別の方向へ向けて歩き始める。
「行かせるか!?」
 戦士たちが突撃をかける。
 戦い、傷つき、それでも街の人々を守ろうと身を削る。
 歪虚に確かに傷を与え、ついに一体の歪虚にとどめをさした。
 その瞬間、視覚をつぶすほどの閃光、耳をつんざくほどの爆音とともに歪虚が爆発した。
「――なんだ、と」
 仲間たちの体が吹き飛ぶ。
 つづいて、もう一体が爆発した。
 周囲の建物ごと、今度は街の一角を消し去ったのだ。
 その時、かれらは自分たちの過ちに気がついた。
 そして、それはあまりにも遅い気づきであった。
 最後の一体がのっそりと、街のシンボルである集会場の扉をたたき割った。
「ひぇぇえ!?」
 逆光に浮かんだ歪虚の姿に悲鳴があがり、建物に隠れていた人々が叫びながら我先に奥へと逃げ出す。
 そして、真っ赤に輝いたたまま建物に乗り込んだ歪虚は――
「やめろぉぉぉぉ――!?」
 建物の中で赤く輝いて破裂した。

 ●

「これで何カ所目だ!?」
 叩きつけた拳に、ハンターオフィスのテーブルが悲鳴をあげる。
 歪虚による遠方からの砲撃と、その後の爆発が、ここ数日でどれほどの被害を出したろうか。正確な資料は現在、別部署がまとめているが、目にするのもいやになるほどのものであろう。
 歪虚に対抗すること自体は問題はない。
 それが、ハンターの仕事だ。
 問題は、その砲弾が歪虚であって、目的地に到着後に自立移動、そして爆発を起こすということである。
「つまり、事前に情報収集の必要のない精密誘導兵器というわけですね」
 秘書が要点を言い直す。
「撃ちっ放しただけで、あとは目的を達成してくれる便利な銃弾さ」
 史上、幾度、流れ弾による将軍の負傷、あるいは暗殺により戦況が混乱したことがあったろうか。とりわけ、現在のような戦争状態にあっては、戦線の危ういバランスが崩れたとき、一気に戦況が悪化する可能性は否定できない。
 しょせん戦いは正と虚の絡め手だ。
 たとえば、今回の敵と同じような存在として人間側にも特殊部隊が存在する。
「ただ、特殊部隊の強襲よりも始末が悪いのは、それだけの価値のある兵を歪虚は爆破テロに使えるということだよ――」
 能力と経験をかねた兵士を育てる時間とコストを考えると、特殊部隊をただの捨て駒にできるような上官は存在しない。その意味において、今回の敵の攻撃は人間では決してできない手である。だからこそ、歪虚は人間でない――その当たり前のことを今更ながらに思い出さずにはいられなかった

 ●

「それで、これは?」
 数枚の写真を見ながら別の一室では会議が行われていた。
「情報部がもたらしたものだ。それで、これが、例のミサイル型の歪虚を打ち出している本体だ」
「本体?」
「いや、発射装置といった方が正しいな。歪虚といっても、別々の存在かもしれんしな」
 写真に写った歪虚は、戦艦に似ているだろうか。
 巨大な砲門らしきものが全身をつつみ、まるで剣山か海胆である。
 これが海上を移動しながら、地上へ向かって砲撃を行っているらしい。
 海上移動の可能な、巨大な砲台。
 まず、それがどこにあるのかを発見しなくてはならない。だからこそ、各国もギルドも爆弾歪虚の対応が遅れてしまっている。
 それにしても写真ごとに、その砲門の数が違っているのはどういうことだろうか。
「成長中だそうだ」
 つまらなそうに上司が言う。
 成長中――とは、まるで生き物のような物言いだ。もっとも、これは歪虚なのだから、人間の技術で考えるのはおかしいことかもしれない。
「――まだ未完成ということですか?」
「わからん。ただ、事実を述べたまでだ。評価は――これから、でるさ」
 書類をテーブルに投げつける。
「これは攻撃作戦ですか?」
「作戦書類といっても検討段階に入ったという程度ものだがな。まだ、作戦の内容自体が決まってない」
「難題ですね」
「いつものことだ。だが、この成長スピードを考えると、少数のハンターを使っての作戦としては今回が最初で最後のチャンスだろうな。こんなデカ物が成長しきったら相当の覚悟をもってあたらなくてはならん。それこそ、戦争レベル……特攻か――」
「なにか?」
「むかし、戦史の授業で習った戦闘――と呼んでいいのかもわからんがな――のことを思い出しただけだ」
 ああ、そうかと記憶の古い層にあった知識を思い出した。
「我が方が攻める側になれるのが唯一の強みですか? 覚悟が必要ですね」
 戦史の教科書であったろうか、戦艦へ襲いかかる、多数の敵国の航空兵器の写真が頭に浮かぶ。
「ああ、生半可な戦力では話にならん。外から正攻法で攻めるか……絡め手として内部潜入を試みるか……――。こんなトゲトゲしい銃器で固められた化け物が相手となると、それこそ、かつての海戦なはやかりし時代の大乱戦が予想されるだろうな。中に入っての破壊工作は動力源に達して爆弾でも設置することができればいいのだが――残念なことに、この化け物船の中身の情報なしだ。かなりリスクのある作戦となるな」
 いらただしげにタバコをくわえ、ポケットを探り、相手を見る。
「あ、火はないですよ」
 禁煙世代は、さらりと返し、ふと、こんなことを口にした。
「おや、まってください――これから打ち出される歪虚というのは――」
 くわえかけたタバコが口から落ちた。
「爆発物の集団だ!」

リプレイ本文

 夏の海に白い雲――
 もはや季節は灼熱の季節である。
 そんな中、同盟領の外洋に鎮座する歪虚の戦艦は、まるで海に浮かぶ鉄の島のように沈黙している。
 まるで、夏のけだるい午後の微睡みのように静謐の夢の中にある。
 白い夏の雲に鳥が舞い、波もない凪いだ青い海には海洋に進出した哺乳類が遊んでいる。
 夏の午後――

 まるで時が止まったように……――永遠につづくかのように――まどろむままに夢見たり――なにもかもがまどろんだ夏の午後――

 時の止まったような世界にきしみが生まれる。
 羽を休めていた白い鳥たちが一斉に飛び立つと、すさまじい轟音が巨艦を襲い、右舷で爆発が起きた。
 警告のサイレンが鳴り出し、鉄の歪虚たちが船の甲板に昇ってくる。
 つづいて遠方から攻撃がつづき、剣山や海胆のような姿であった鉄の塊は――ハンターたちの間断のない攻撃により――報告の時よりもさらに形を変えていた。
 見えた!?
 人間のハンターたちだ。
 潮風の中を滑空し、夏のきらめく海の爽やかさの中を、ヒンメルゴーグルで遮光や水しぶき対策をして、鐙をしっかり嵌めたワイバーンを駆るGacrux(ka2726)がサマースポーツ感覚、水しぶきを浴びながら先陣をきる。
 先ほどの強烈な一撃を放った男の顔には笑みが浮かび、これから始まる戦いを楽しんでいるようだ。
 なぜ接近に気がつかなかったのか――
 歪虚の艦にレーダーが設置されているかどうかわからないが、それが人類の誇るサルヴァトーレ・ロッソのレーダーであったとしても、水平線ぎりぎりで突っ込んできた小さな物体など、それを監視者が鳥やイルカの類と判断して見落していたかもしれない。
 だが、同じ過ちは繰り返さない。
 海上の戦艦の周囲に骨でできたドームのような囲いが生まれ、トンボの羽のような骨と骨の間には七色のオーロラのような輝きが浮かんできた。
 防御タイプへと姿を変えたのだろうか。
(成長する巨大戦艦?)
 ワイバーンのロジャックに騎乗した岩井崎 旭(ka0234)は眉をひそめた。
 話には聞いていたが、これはなかなかの難物だ。
「そんな物騒なの、放っとく訳には行かねぇもんな!」
 そして、さすがにこれは歪虚には聞かれないよう――音声感知センサーがないと、誰が言うことができるだろうか――口を閉ざして、
(そんじゃ、ドンパチ撃ち合ってる間に、乗り込んで切った張ったの海賊戦法と行くか!)
 仲間のヘリに目で合図を送った。
「もっと敵さんが陸地に近ければダインスレイブのグランドスラムで撃沈できたものを、小賢しいのう」
 などとぼやくのは魔導ヘリ、バウ・キャリアーで出撃中のミグ・ロマイヤー(ka0665)。もともと砲撃屋なので大砲対艦砲の撃ち合いができると思って依頼に参加したものの、彼女曰く、
「敵さんが海上の遠くに布陣しているというチート野郎にがっかり感が半端ない感じ」
 だそうだ。
 そうは文句を並べてみたところで、こうは見えても彼女は子、孫あわせて二桁は誇る人生の達人であるし、ハンターとしてもプロだ。早々に頭を切り換えて次善の策して魔導ヘリでの出撃を選択した。
 そんな彼女に轡を並べるのはGacruxと星野 ハナ(ka5852)。
 陽動担当として連携して囮として時間稼ぐ。
 敵を攻撃するとみせかけて海上へも爆弾を巻くと、海上での爆風によってあがった波に隠れて艦内へ突入する部隊が垣間見える。
 まあ、すこし心残りもある。
「残念じゃのぅ」
 装備の中にカタパルトシュートがあるので希望者は同乗してもらったうえで、直接歪虚に撃ち込んでやることも可能だと提案したが、誰もが目をあわせずに辞退を申し出たのだ。
 まあ、過ぎたことはいい、それよりも、
「なんともぶかっこうな戦艦よのう、正直ださい」
 変形を終えたらしい歪虚の船は、もはや艦船というよりも、写真だけで見知ったリアルブルーの石油プラットフォーム状態だ。
「まあ、やるだけのことはするよ」
 バウ・キャリアーが海上から急上昇をする。
 戦艦外周をスモークカーテンで姿を隠しつつ、周回。敵さんの近接攻撃を避けつつ、無数にある砲塔をミサイルで丁寧に破壊していく。
「決戦仕様のFB装備なのでそんじょそこいらのミサイルよりは格段に効くはず」
 との御大の弁である。
 ヘリコプターが機関銃の攻撃をひらりとかわす。
「拠点破壊には有効な南斗歪虚砲弾な奴なんかにはあたるもんかい!? けっして油断はせずに十分な警戒をもって戦艦を忙しくさせてやる」

 ●

「ははは! 気持ちいいですねえ。さあ、遊びましょうか、どこを狙っているんです?」
 Gacruxもワイバーンとともに奮戦している。
 敵からの集中狙いを低減するため、
 他人よりも鋭敏で遠くまで目で砲台の挙動や発射を警戒しながら、
「狙い撃つ!?」
 砲塔をたたきつぶすと爆風があがる。
(敵の砲撃の弱点探りたい。砲塔同士の間等は安全地帯か?)
 次の獲物を探す。
 予測外の挙動がある可能性は意識しながら空を駆る。
 しかし、先ほどとは違い、展開したトンボの羽のような防御壁にはバリアが張られハンターたちの攻撃を防ぎ、時にバリアが消えたかと思うと、その隙間から砲撃が襲ってくる。
 ただ、敵の攻撃は散漫だ。
「おっと、今のは危なかったですよ」
 あくまで注意を引き続ける事が目的だ。敵の攻撃が時間稼ぎができていると考えることができる。
 みれば、突入部隊がうまい具合に敵に近づいた。
 同時に敵の砲撃を警戒し、街のある方角では無く、沖の方に注意引くように立ち回っている。クレバーな戦い方だ。
 ここまで順調だ。
 順調すぎて――ミグが、勝利を確信しながら思う。
(どんだけ頑丈な戦艦歪虚といえどもグランドスラムを百発発も打ち込めば撃破可能じゃったな)と――そういえば、誰かが、作戦会議中に、こんなことを言っていた。
「正直……この面子なら力押しでも外から落とせた気もしますね……」
 その声を、もしも歪曲の神なる存在が聞き届けたのならば、嘲笑とともにかようなる褒美を異教徒に下賜したかもしれない。

 ●

 あはははは――
 笑い声がした。
 不規則な動きで、戦艦歪虚へ特攻するモノがある。
 機銃の攻撃を左右のジグザグ走行入れつつ回避しつつ、戦艦歪虚へ特攻していく刻騎ゴーレム。
 それを操る星野 ハナ(ka5852)の視野に歪虚の艦船が目にはいった。
 彼女の刻騎ゴーレムは、ルクシュヴァリエ。
 だから、
「はーい、それじゃルクちゃん、ガッツガッツ陽動と行きましょぉかぁ」
 ここにも、前のめりで突撃してきた娘が、ひとり。
 本人曰く、前のめりでGOタイプ。
 巨大な目標物が目の前にあるのだから、テンションが上がらないわけがない。
「あはははは、ははははは! それじゃ五色80発祭り、行きますよぅ!」
 操縦席の星野とルクシュヴァリエの眼前に、符が浮かび上がる。
 歪虚の艦船を円陣状態で展開した複数の符が加工
 五色光符陣――
 これだけ巨大な敵であってもサイズの違う敵に対してすることは同じ。
 結界で敵を囲い、これで敵を光で焼く!?
「光あれぇぇ!?」
 戦艦の周囲が揺れた。
 空間が歪む。
 蜃気楼のようにゆらいだ空間に見知らぬ――そして、見知った景色が映える。
 星野の瞳に、彼女らしくない輝きがゆたう。
 見た。
 それは、自分たちの足下
(!?)
 さっと背中に冷気が走る。
 本能的な緊張――そして恐怖――
 眼前で展開した術は、もはや止めることはできない。
 眼前が光る。
 足下が光った。
「うっ――」
 星野の目が自然と閉じる
 そして、それは、ハンターたちにとって完全な不意打ちとなった。
 あるはずのなの攻撃。
 しかも、それは敵からではない。
「目、目がぁぁぁ――」
 自分たちの攻撃が、自分たちに降り注いできたのだ。

 傷ついた戦艦の周囲には、ゆがんだ空間があった。

 ●

 ――この面子なら力押しでも外から落とせた気もしますね……

 作戦会議中に、そんなことを言った者がいた。

 たしかに純粋な打撃力だけならばハンターたちは容易に歪虚を屠ったかもしれない。
 しかし、もとより青と赤の世界に存在する歪虚が同一の存在であるのだから空間を移動し、超越する手立てもなにかしらあるはずなのである。
 ならば、これはその技術の応用と考えることができないか。
「くそ」
 予想外の攻撃で、ヘリに大きなダメージを喰らってしまった。
 見れば歪虚の艦船も相応のダメージを喰らい、各所の壁や砲台ボロボロとなり、煙があがり、炎もあがっている箇所も確認できるが……
「これでは、こちらがもたんぞ」
 一定の確率で攻撃の流れ弾が、自分たちに当たるとなれば、あのデカ物と、自分たちの体力を比べたとき、どちらが生き残りやすいかなど考えるまでもない。
 自分たちのレベルが高く、また強力なダメージをだせることができるだけに、ヘタな攻撃は命取りになる。
 やはり、侵入部隊の成果のいかんが勝敗を決する。

(だから、うまくやってくれよ――)

 ●

 周囲が炎と煙で視界不良になっている。
 仲間たちが、やり過ぎたといってもいい。
 すでに砲撃やなにやらで敵の戦艦は、そうとう傷ついているように見える。
 ただ、これは内部へ侵入するチャンスだ。
 黒い煙の中に猛スピードで突っ込みながら、突入できるポイントを探す。
 ワイバーンに騎乗した岩井崎 旭(ka0234)も海上の戦艦までは、空から向かっていた。陽動組の砲撃に合わせて突っ込んできた。
「おっと」
 まだ生きている機銃が撃ってきた。
 潜入ポイントが見えた。
 煙と炎。ロジャックのブレスを目隠しにする。
「あそこか!?」
 自身は飛翔の翼で下に飛び、戦艦に移乗する。
 それを確認するとワイバーンは、そのまま飛び回ってブレスやら砲撃やらで爆撃して、空へ向かう。

(陽動部隊の手伝いを頼むぞ)

 ●

 クリスティア・オルトワール(ka0131)も穴に飛び込んだ。
 目の前に近づく突入点。
 みるみる大きくなってくるポイント。
 このような無理な練習もハンターオフィスの訓練としてやったことはあるが緊張しないといえばウソになるし、やはり最後は、
 神よ――……
 聖導士は、祈り言葉を心の中で繰り返す。
 突風に吹かれ、体の一部が穴の端に当たったか。
 バランスをすこし崩し、二転、三転、壁に叩きつけられ、ようやく動きを止めることができた。
 幻獣が悲鳴をあげる。
 片手をあげ、静まるようにジェスチャーをすると、主人はグリフォンのガスティに侵入口を守るようにと告げた。
 態勢を立て直す。
「いたぁぁ」
 勢いをつけすぎたか。
 痛感はあるが、骨や筋肉は傷ついてはいないようだ。
 左右を見る。
 これは――
「人の艦船、そのものですね」
 フィロ(ka6966)が冷静に応えると、おんぶ紐で背負われた幻獣のユグディラが、にゃあと同意を声をあげ、うんうんと顔を縦にふった猫のイリュージョンがあらわれる。
「それでは頑張りましょうか」
 メイド型オートマトンが、仲間たちを促す。
 さて、どうやって攻めるべきだろうか。
 仲間とは二、三人で班作り分かれて攻略していくのだろうと考えていたのだが、これだけ大きいとなると闇雲に動いても危険だ。
「ここは私にまかせてもらおうか」
 アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が進み出る。
 口笛を吹くと穴から巨大なフクロウが艦内に飛び込んできた。
 幻獣、ポロウに何事かささやく。
 ふわりと浮かぶ。
「頼んだぞ、パウル」
 天井のあたりを数回まわったかと思うと、突然――
「消えた?」
 パウルの姿が消失した。
「大丈夫、見えなくなっただけだ」
 アルトが案ずるなと応じる。
 そして、みずからはオーラをまとい消える。
「しばらく待っていて行くれ――」

 ●

 しばらくするとアルトが戻ってきた。
 ニンジャのような仕事を終えてくると、その手元には手書きのマップが完成していた。
「あまり遠くまではいけなかったが――」
 兵器庫や休憩室等、銃弾歪虚が多数発見された箇所や、それぞれの場所からの脱出の経路まで記されている。
「なるほどね」
 岩井崎が、まじまじと地図をのぞき込み、うむうむとうなずいている。
 実は、ここに取り付いて侵入するまでの間に、急所になりそうな場所には辺りをつけてきていたのだ。
(特に大型の砲台は位置が分かりやすいだろうから、困ったらその直下辺りを狙うのがよさそう?)
 と考えていたのだが、弾薬の補充の都合で、砲台の真下の部屋が火薬庫――つまり、銃弾歪虚の休憩室――となっている。
 戦斧を手にした獣が、舌舐めずりのような笑みが口元に浮かぶ。
 内部構造は分からないならば、基本的には侵入したら出たとこ勝負でそれっぽいのを片っ端から破壊するつもりだったが、そこまではする必要なないようだ。
 ただ、これだけ順調だと欲もでる。
「戦艦からの長距離砲撃、いくら打ち出す砲弾が自律移動するヴォイドだって、どこら辺を狙うか目標を観測するための『目』はあるはず? 艦橋だとかそれっぽいのが分かりやすくあるのであれば、潰してしまえば、残るのは闇雲に打ち出すだけのハリネズミ。長距離砲撃が得意な連中からしたら、敵じゃないぜ!?」
 いつしか岩井崎は、自分の考えを力説していたが、まわりの考えは否定的であった。
 クリスティアが反論を述べる。
「私も外観から内部構造をある程度推測しました。乾山のように砲台が多いだけで土台は戦艦なら大体似た構造をしていると思われますが……」
 すこし、言葉が澱む。
「歪虚ですから全てが同じとは限らないですよね」
「見た目にだまさぬ事だな」
 姿を消していた女に言われると、妙な説得力を感じる。
「これは?」
 位置的には、そう考えるより他にない。
 そして、階段がある。
「動力源?」
「機関室か……」
 策は決まった。

 ●

 輝羽・零次(ka5974)が足元を灯火の水晶球で照らしている。
 忍んで船の中をゆく。
 アルトの地図から読み取れたことは、フィロの推測したように人間の戦艦を模した姿をしている以上、歪虚の船も通常の軍艦と似た位置に重要施設があるようであった。だが、ちょうど彼女が人に似ていながら、人間とは根本的には違っているのと同じように、この戦艦は違うところもある。
 遠くで轟音がして、船がゆれる。
 外の仲間が戦いをつづけているのだ。
「しっ」
 先を進んでいたクリスティアが唇に指を重ね、止まるようにと無言で告げる。
 輝羽が無言でうなずく。
 見張りをしている歪虚たちがいる。
「戦うか?」
「いや――」
「まだ戦闘は、できるだけやり過ごしたい」
「そうだ」
(それに、やりすごせたらそのまま歪虚の後を追うようにつけてみるのも手か。敵の集まっているところを探すのに外からの攻撃で慌ただしくしている歪虚を追跡する機会が訪れるかもしれない――いやいや、目的を忘れるな)
 輝羽は邪念を払って、地図を見る。
 目標の階段までは、あとすこしか。
 しばらく歩くとクリスティアが満足げにうなずいた。
 階段には歪虚の姿はなかった。

 ●

「わかった」
 岩井崎はトランシーバーで別働隊から情報を得た。
 目標の階段を降りたらしい。
 ならば――
 こちらは場所のわかっている火薬庫を強襲する。
 班を分けるのは危険だが、これも保険の為だ。
 火薬庫と機関室。
 どちらか――あるいは、そしてもちろん両方が――成功すれば、この戦いは勝利となる。
 アルトに引きつられ、だが自分も周囲を見回し、もしものことを考えて、移動経路を覚えながら遭遇する。
「あの扉だ」
 岩井崎が狙いに定めていた大型の砲台の直下の部屋だ。
 アルトがナイフを抜いた。
 目的は――
「殲滅!?」
 岩井崎が戦斧をふりあげて、その扉を守るように立っていた歪虚に向かって襲いかかっていた。アルトが援護の為に飛び上がり、船の壁と天井を賭けて歪虚の目を困惑させると、そのまま太ももで首を絞め、動きの止まった鎧の隙間にナイフを突き立てる。
「まず一体」
「うゎ……こわ――」
「お互い様」
 歪虚を斬り倒した岩井崎を一瞥し、はっと気がつくと、何事か言うよりも早く彼を蹴り倒し、自分もその反動で通路の反対側に跳んだ。
 危ない。
 その瞬間、ふたりの倒した二体の歪虚が爆発した。
 煙と破片で視線が遮られ、吹き飛んできた壁や天井の破片が体を直撃する。出血、捻挫、打撲――だが、まだ戦える――煙で咳き込み、涙でぬれた双眸で見た。
 扉の向こう側が見えたものは、古代の神殿のような清逸な空間と、そこでベッドのようなものに背をつけ、眠るように存在する鎧の歪虚たちであった。
「これは……」
 気がつくと、足が部屋に入っていた。
 目が赤くひかり、歪虚たちが目を覚ます。
「あら、眠りの国のむさ苦しい姫騎士様たちを起こしてしまいましたかしら?」
 守護者たちは、この侵入者たちを許すつもりは毛頭ないようであった。
「行く」
 もはや躊躇も惑いもない。
 見敵必戦。
 煙にまぎれて敵に近づく。
 岩井崎の戦斧が踊る。
 目の前につぎつぎと顕れる歪虚の群れを相手にするには、制圧を目的にもってきたデカ物が役に立つ。
 つぎつぎとなぎ払い、
「奥に飛ばして」
「わかった」
 爆発の被害を受けないように、力任せに吹き飛ばす。
 そして、先ほどの戦いで間合いはわかった。
 アルトが、まだ残る煙幕を隠れ蓑に敵に近づき、駆け抜けざま、剣先は鎧の隙間、隙間を見事に突き刺していく。
 壁と天井、そして、ポロウとも連携して敵との間合いを計りながら、こちらは暗殺者のように敵を仕留めていく
 そして、最後の一体を倒すと、それをそのまま奥へ蹴り飛ばし、背後へ跳ぶ、叫ぶ。
「逃げる!?」
 ハンターたちが、その場から立ち去った時、歪虚の鎧の山は、まぶしいばかりの赤い閃光をあげていた。

 そして――

 ●

 激しい喧騒がして、扉をたたきつぶしてハンターたちが乗り込んできた。
「……さすが歪虚ですね」
 フィロは人のようなため息、幻獣も猫のようなにゃあの声。
 機関室。そう考えていた場所にあったものはエンジンに似た何かではなく――あるいは同じようなものなのかもしれないが――鼓動する心臓のような何かであった。
 やはり、こうなるか。
 クリスティアの事前の予想は、この時、確信に変わった。
(船体後部か、中央くらいに何かしらの重要部分があると予想しそこを目指してみます。あれだけの爆弾歪虚をどこかで補充してるとは考えにくいので、内部で生み出してると考えられます)
 会議の時の自分の言葉を、心の中で繰り返す。
 床がすこし揺れながら、ゴーレム数体分のサイズの巨大な心臓が大きく音をたてている。そして、まるで工場のように、生き物がうごめくようにうねうねと動き、そこから弾丸の歪虚が生み出している。
 そして、ハンガーのようなものにつかまえられると歪虚は、モノレールのように各線路へと運ばれ、それぞれの持ち場へと運ばれていく。
「これを壊せばいいのか?」
 輝羽が確認をとるように言うと、
「壊したいから壊すまでだな」
 全身のマテリアルを込めた一撃を心臓に加えた。
 大きく心臓がえぐられ、血のような液体が吹き上がり、モノレールのハンガーにかかっていた歪虚たちが、一斉に目を覚まし、降下を始めたかと思うと、ハンターたちの排除にかかる。
 そして、それはもとより覚悟の上である。
 にゃあにゃあにゃあと応援するように唄うユグディラを背負って、フィロは剣をふるう。マテリアルを込めた、その一撃、一撃は強烈で、まるで鎧の効果などないかのような激烈なものであった。
 足も止めず、人であらざる人工のモノたちが戦う。
 そして、敵が仲間たちの手により足止めされているのを確認して、クリスティアは大きく息をついた。
 爆弾歪虚を排除する為の策として、
(単体であれば距離を取ったままマジックアロ―、複数であればライトニングボルト、広い部屋、大型施設に対してはファイアーボール)
 と決めていた。

 この状況ならば――


 ●

「いやになるですよぅ!?」
 目は青くなり、髪は水にゆたうように拡がった状態にある星野はぶーと、頬を膨らませた。すっかり見た目はボロボロになっているのに、まだまだこれからという態度だ。
 最初の自分の一撃で、自らに手痛いダメージをくらい、作戦を確実に砲塔を叩く策に変えた。
 ただ、ハンター三人と、他の仲間のワイバーンなどと総がかりでやっているのに砲撃の数が減らない――どころか増えているのは、敵の砲塔が壊す以上に砲塔が生えてくるのだ!?
 対応するのにも限界というものがある。
「焼け石に水じゃな」
 煙の出ていくヘリを、それでも無難に操りながらミグは呆れたように呻く。
「あと、どれくらいもつ?」
 Gacruxが、苛立つような声をあげる。
 すでに戦線を維持できるかどうかも怪しい。
「あと少しでも状況が悪化したら――」
「言うでない」
 ミグが諭すように言う。
「そう、仲間を信じなくっちゃダメですぅ」
 きっと目を見開き、再び星野は符を展開させた。
「また攻撃を転移されて、ダメージを喰らうぞ」
「でも、あいつにもダメージは通ります。ならば、いつまでもちまちまやるよりも――」
 修羅の国の女が覚悟を決めた時、歪虚の艦船の二カ所で大爆発が起きた。

 ●

「走ってください」
 艦内の、あちらこちら爆発が起きている。
 全力で走ると、やがて二つのチームは合流した。
「うぉ」
 爆発が起きて、目の前の壁が吹き飛んだ。
 通常、リアルブルーの空母クラスのダメージコントロールがあるのならば艦船が一気に沈むということはない。
 しかし、形だけを模した歪虚の艦船には、そこまで力を求めるのは酷だ。
 しかも、爆薬だけでできた兵の価値など爆発物でしかない。それが、いちいち爆発してるのだ。
 もはや、それは災害ではなく天災と呼んでよい規模になっている。
 炎と煙に、目と喉をやられ、涙を流し、咳き込みながらもハンターたちは走り、跳び、駆け抜け、目的のポイントに向かった。
 見えた。
 しかし、最後の関門。
 突然、床が崩れる。
 ええぃ、ままよ。
 跳んだ。
 外へ向かってダイブした。
 壁が崩れていく。
 青い水平線が目に入った。
 そして、そのまま落下していく。
 
 そこには青い海と、仲間たちの差し出した手があった。

依頼結果

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MVP一覧

  • 古塔の守り手
    クリスティア・オルトワールka0131
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニka3109
  • ルル大学防諜部門長
    フィロka6966

重体一覧

参加者一覧

  • 古塔の守り手
    クリスティア・オルトワール(ka0131
    人間(紅)|22才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    ガスティ
    ガスティ(ka0131unit002
    ユニット|幻獣
  • 戦地を駆ける鳥人間
    岩井崎 旭(ka0234
    人間(蒼)|20才|男性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    ロジャック
    ロジャック(ka0234unit002
    ユニット|幻獣
  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤー(ka0665
    ドワーフ|13才|女性|機導師
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    マドウヘリコプター「ポルックス」
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    ユニット|飛行機
  • 見極めし黒曜の瞳
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    人間(紅)|25才|男性|闘狩人
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    ワイバーン
    ワイバーン(ka2726unit004
    ユニット|幻獣
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
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    ユニット|幻獣
  • 命無き者塵に還るべし
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    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • ユニットアイコン
    ルクチャン
    ルクちゃん(ka5852unit008
    ユニット|CAM
  • 拳で語る男
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    人間(蒼)|17才|男性|格闘士
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クリスティア・オルトワール(ka0131
人間(クリムゾンウェスト)|22才|女性|魔術師(マギステル)
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2019/07/24 00:12:33
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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/07/22 23:53:30