月の巫女の演舞

マスター:松尾京

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~7人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/02/03 19:00
完成日
2015/02/10 06:18

みんなの思い出

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オープニング

●少女
 アニカはその夜も、部屋で自分の姿を何度も確認していた。
 着慣れなかった儀式装束は、本番を前にようやく似合うようになってきたと自分でも思う。それでも、自分が巫女にふさわしいのかいまだにわからなかった。
 母が部屋に入ってきて、気遣うように聞いた。
「アニカ、どう? 舞台では、うまくできそう?」
「……うん。私、必ず成功させるわ」
 強く頷くアニカは、それでも緊張がぬぐえなかった。
 村の趨勢を占う儀式まで、もうあと七日に迫っていた。

 月の巫女。
 それは、高山に囲まれた隣接する三つの村に伝わる儀式だ。
 年に一度、『月の楼閣』と呼ばれる村々の中央に位置する舞台で、五穀豊穣の舞いと詩を捧げる。作物に実りをもたらす太陽が休んでいる間――即ち月が出ている約十二時間の間、舞い、同時に詩を謳い続ける、肉体を酷使する演舞だった。
 それでも毎年村の娘から選出される巫女の舞いは美しく――朗朗と謳われる詩は山に染み渡る。
 それらは村の神に届くとされ、儀式が円満に終われば一年、村々の繁栄が約束されるという言い伝えだった。
 時代が下るにつれてそんなものは迷信だと言う人間は増えたが、儀式を中断した年には飢饉が訪れたという記録もあり、いまだ信仰は根強い。
 山々に囲まれた厳しい環境で――儀式が成功すれば、村人の気運がよくなるのは事実だった。
 儀式後の宴会も含め、村人が楽しみとする祭事でもある。
 なれば、月の巫女の儀式は連綿と、現代まで続いていた。
 そうしてこの年も豊穣の責任を負う娘が選ばれた。それが農家の娘である十二歳のアニカであった。

 アニカは今宵も一人、舞いと詩の鍛錬を繰り返す。
 ――月の巫女を経験することで一人前の女になる。それは古い言い伝えだが、村には今も確かにその空気は残り、だからこそアニカは儀式に対して本気だった。

●月の楼閣
 深夜、アニカはその舞台を眺めに行った。
 儀式場である森にある、木造の古めかしいやぐら。儀式を待つそこは静寂に包まれていた。
 今は神に捧げる火をともした燭台だけがあり、儀式が始まるまで何人も近づけない。だから遠くから眺める村人に交じってアニカもそこにいたが……その中にテオもいた。
「アニカ、いたのか」
 笑いかけるテオに、アニカはうん、と恥ずかしげにうつむいた。
 アニカは二つ年上の少年、テオに淡い恋心を抱いている。
 だが以前から巫女候補となっていたアニカは、異性であるテオと仲よくすることは禁じられていた。それは儀式を成功させ、一人前になってからというわけだ。
 アニカはそれを苦に思っているわけではない。
 巫女の舞いが好きだったし、つとめを果たして一人前になるのは目標でもあった。そうして、晴れてテオとたくさん話したかった。
 だから、失敗できない。
 ただ、過去には途中で倒れた巫女もいたという。その場合、儀式は失敗だ。巫女は一生に一度しか経験できないため、次はない。
 自分がそうなればテオは何と思うであろうか……。
 と、そのとき突然、楼閣を遠目に見ていた村人が声を上げた。
「……おい、何かが楼閣に近づいてるぞ」

●忍び寄るは
 それは、どこか禍々しい、足の長い獣だった。
「鹿、か――?」
 否、似て非なるものだった。巨大で、刃物のように尖り、枝分かれした角。肥大した体。妖しく光る目……。全部で三匹現れたそれは、鹿ではあるが、まさしく化け物。
 それはこちらを見ると、ふっと息を吐いた。風の刃が飛び、村人の一人をかすめて血を散らせる。
「ぐあっ!」
「平気か! ……く、逃げろ!」
 這々の体で逃れ、村人たちはひとところに集まった。
「あれは、魔物だ。歪虚だ。俺たちの力では、どうにもできない」
 一人が言うと、村人は青ざめた。
 鹿は、いまだ楼閣の周囲をうろついている。つまりは、儀式場全体が危険にさらされたということだ。
 月の巫女はどうなる、と皆は紛糾した。
 当日までに追い払えればいいのだが、しかし、儀式前は儀式場に近寄れない決まりである。
 前例の破壊は儀式の失敗を意味する――結局、村人たちは魔物に手を出せなかった。そもそも、村の人間では、あんな魔物、どうにもならないのだ。
 村人は魔物が自然にいなくなるのを期待した。
 だが……儀式前日になってもそれは儀式場からいなくならなかった。

●依頼
 儀式前最後の夜。楼閣を遠くに見ながら村長が言った。
「……あれを退治できるもの――ハンターを外から呼ぶしかない」
「儀式前に退治させると? しかし、儀式場に立ち入るのは――」
「前ではない。儀式の最中だ。儀式が始まれば、人は近寄れる。そこで儀式を邪魔しようとした動物を追い払った事実は、過去の記録にもある」
「では、舞いと詩を行わせながら……?」
 不安げな村人に、村長は頷いた。
 儀式の慣例を崩さずに魔物に対処するには、こうするしかない。慣習より命が大事、とは誰も言えなかった。儀式は村人にとって、そういうものなのだ。
「アニカよ。魔物との戦いの中で、舞うことになる。その覚悟はあるか」
「……もちろんです」
 アニカは頷いた。
 本音では、怖かった。しかしそのとき、テオが少年らしい声で真摯に言った。
「アニカ、無理はしないで。儀式は大事だけど……君の方が、もっと大事だから」
 その言葉に、アニカは――むしろ決心がついたのだった。
 巫女として立派に舞ってみせる、と。その姿を見て欲しい、と。

リプレイ本文

●夕刻の戦い
 山に囲われた森深い村――。
 柊 真司(ka0705)は儀式を前に村人に作戦を説明していた。
「儀式場では全員、中央に集まっていてくれ」
「危険時でも、こちらの指示に従うようにして欲しい。何より――命を大事にしてくれ」
 レイス(ka1541)も語る。すると村人は、段々と顔に緊張を浮かべていた。
 ただ、この場でもっとも不安を持つのは、一人の少女であろう。外に出てきて着々と準備を進める儀式装束の、アニカ。
 無限 馨(ka0544)はそちらに近づく。頭を下げるアニカに、言った。
「アニカちゃんは――単刀直入に聞くっすけど、無理強いされてはないっすか?」
 え? とはじめ、アニカはきょとんとする。
 だが彼女は、言わんとするところを理解すると、笑顔になった。
「無理強いじゃ、ないです。私、これを夢見てました。だから儀式をやりきりたいんです」
 その顔は、前向きだった。馨は……それで理解した。
「よし、その覚悟があるなら俺達に任せるっすよ。あんなVOIDOちょちょいと退治してやるっすから! ただ、危なくなったら命を優先するっすよ」
「まあ、十二時間ぶっ通しで、雑魔も居るってのに踊るのはやっぱり正気の沙汰とは思えねえけどな」
 ロロ・R・ロベリア(ka3858)はぶっきらぼうに言った。だからやめろ、とは言わず、棒のついた飴を口の中でころころ鳴らすだけだったが。
 ルナ・レンフィールド(ka1565)は合図してからアニカに空砲を聞かせる。
「こんな風に大きな音とかが聞こえるかもしれないけど……惑わされず、アニカさんはアニカさんのお仕事を頑張って下さいね」
 はい、とアニカは頷く。月護 紫苑(ka3827)は優しくアニカに語った。
「村人さんたちのことも、アニカさんも、私たちが守ります。だから、安心してください」
 覚醒者としての力はこういうことのためにも意味があるのだ、と紫苑は思っていた。
 儀式開始が迫り、皆で移動するが……道中、アニカの顔はそれでも固まっていた。
「緊張しているのかい?」
 壬生 義明(ka3397)の言葉にアニカは首肯する。真司は気遣うように声をかけた。
「雑魔は俺達に任せてアニカは儀式の事だけ考えれば良い。見せたい奴とかいるんだろ?」
 アニカはそれで、照れたようになる。そのあたりの事情は、皆も察していた。
 儀式場の前に来たとき……レイスは離れたところにいたテオに、言った。
「少年。……何よりも、君がいる事が彼女の力になる筈だ。だから、想いを込めて彼女に声をかけてやれ。ここにいる。共にいる、と」
 テオは少々驚いたようだが、はい、と真剣に頷いていた。
「だから、あとは任せておけ。君達全員、俺達が護り抜いてみせる」
 レイスの言葉に……テオは、アニカの前に立ち、頑張って、と言っていた。
 その言葉に、アニカの表情はまっすぐなものになった。

 事前にいた鹿の雑魔は、開始時刻には森に潜んだようだった。
 油断はせず、七人はアニカらと同時に、儀式場へ踏み入った。
 ルナと真司は楼閣上の南北につき、紫苑、レイス、義明、馨、ロロは村人を囲う。
「通信は良好かい?」
 義明がトランシーバーに聞き、順次、所持者の応答を得た。
 義明は出てきた月を見上げた。
「さて。……十二時間とは、過酷だね。しっかり、守ってあげなきゃねぇ」
 楼閣に上がったアニカは儀式を始めていた。天にいるという村の神をたたえ、豊穣を祈る詩と――儀式装束を扇のように操る幽玄な踊り。村人も、息を呑んでいた。
 七人は、敵に集中する。
 からから、と音が鳴っている。馨が木で作った簡易の鳴子だ。
「来たっすよ」
 馨の声と同時、南から、比較的小さい一頭の鹿の雑魔が現れていた。
 すた、と脚を動かす鹿は……即座には襲ってこず、まずは様子を見ていた。
 そして最初に目をつけたのは、非覚醒状態のロロだ。
 ロロはというと――それを見て、悲鳴を上げていた。
「きゃ~! 怖~い!」
 そんなふうに、おびえた振る舞いをする。それが効いたかどうか、結果的に鹿は誘導された。
 するとロロは表情を変え、瞬時に覚醒。
「……なんつってな」
 踏み込むと、ずんっ、と斧での強打を見舞った。
 鹿はヒュォッ、と高い声をあげ、反対方向に駆ける。そこに楼閣から降りたルナがいた。
 無防備に立ちすくむルナに、鹿は突っ込もうとする。だがそれも、意図されたものだ。
「――さあ、奏でましょう」
 瞬間、様々な音楽記号が光の螺旋となってルナを包み込む。
 精神を集中して放つのはスリープクラウド。鹿の意識を、夢の中へと飛ばした。
 その場にくずおれる鹿に、戦槍で確実にダメージを与えるのはレイスだ。覚醒の証である黒い炎が全身を覆い、残滓を散らせていた。
 鹿はその攻撃で、ぶる、と目覚めるが……タイミングを合わせた義明が迫っていた。
 髪を金色に輝かせ、瞳を紅くし――義明がたたき込んだのは、エレクトリックショック。
 麻痺した鹿に、最後にウィップを唸らせてとどめを刺したのは、馨だった。

●迎撃
 真司も楼閣上から、鹿に弓を絞っていた。が――東から、もう一頭の鹿が侵入するのが見えた。
 狙っている一頭を仕留めたいところだったが、村人の安全が第一だ。
 ターゲットを変更、そちらに矢を放つ。命中すると、鹿は素速く森へ消えた。
 同時、紫苑も、逆側の森に鹿の影を見ていた。
 ただ、こちらの影は大きい。突撃されれば、一気に最悪の状況に陥ってもおかしくない。
「きっと……迷ってる暇はありませんね」
 紫苑は覚醒。儀式場に姿を現した大鹿に、いち早くホーリーライトを撃ち込んだ。
 他の面々も気づき、大鹿に接近。すると大鹿は身を翻して、森へと逃げていった。
 紫苑は皆に近づく。
「皆さん、おけがはありませんか?」
「……現状では皆無事なようだ」
 レイスが見回し、トランシーバーでも確認しつつ言った。
 楼閣上――アニカは、この戦いにも詩と舞いを中断していなかった。
 雑魔が一頭消滅し、村人も少し、明るい顔だ。
 だが、ハンター七人にはいまだ予断を許さぬ状況だ。

「そっちの方は、敵の姿はどう?」
「今のところ、見えないねぇ」
 ルナの言葉に、トランシーバー越しに義明が答える。他のメンバーも同様の答えだった。
 鹿は少しの間現れなかった。
 朗々と響くアニカの歌声の中、それでも七人は警戒を続ける。
 と、儀式開始から二時間を過ぎ、夜となった頃だった。
 ――ばさっ! 森から大音がした。
 一瞬、誰もがどこから鳴ったのかわからなかった。それは北方だ。
 木々を抜け、小さい方の鹿が現れると――楼閣の北端に飛び乗った。
 村人達は息が止まったようになる。
 だが、鋭敏な視覚でそれを捉えていた真司は、通さない。既に拳銃を突きつけていた。
「一世一代の大勝負を邪魔するんじゃねぇよ!」
 どうっ! 正面から狙撃すると、鹿は舞台から落下。
 村人達は、一瞬、安堵しかけた。だがほぼ同時。ざんっ! 木々を縫って、今度は東から大鹿が飛び出した。
「っと! そうは、させないっすよ」
 がぎっ、と武器の柄で大鹿の攻撃を受け止めるのは、馨。マテリアルを集中し、即座に村人との間に飛び込んでいた。
 村人はそれでも、混乱に陥るが――ロロが、叱咤する。
「守ってやっから怯えんな! てめぇらの大事な儀式っつうなら、背筋伸ばして巫女がしっかり舞い終わるまで祈って見てろ! ――あの若そうな巫女のが肝据わってんぞ」
 見れば、アニカはいまだ、楼閣で気丈に舞っていた。迫った雑魔にもひるまずに。
 村人達は、自らがやるべきことを理解したように、静まった。
 その間に、馨が大鹿の脚を攻撃していた。ヒュォッ! と高い声でわななく大鹿に、次いで、紫苑が覚醒し魔法を放つ。
 さらに義明とレイスが武器で大鹿を牽制。楼閣から落ちた方の鹿は、ルナが銃撃して追い立てる。
 二頭はまた、森へと逃げ去っていった。

●守護者達
 紫苑は、傷ついた仲間を回復して回った。
「大丈夫ですか?」
「ありがとうっす。助かるっすよ」
 馨は腕を曲げ伸ばしし、回復を確かめるようにする。
 ただ、長時間の戦闘に、七人に精神的な疲労はたまっていた。
 レイスは楼閣を見上げる。
「彼女は、もっときついだろうな」
「真司。ルナ。彼女の様子はどうだい」
 義明がトランシーバーに語ると――真司の声が返る。
「詩も舞いも続いている。だが……楽じゃなそうだ」
「アニカさん、平気そうにはしてるけど、汗だくだよ」
 ルナの声もそう言った。
「たりめぇだろ。ただでさえしんどいのに、雑魔までいんだから」
 ロロが言うと、皆はそれぞれ見合う。そこから出る結論は一つだ。
 これ以上、長引かせない。追い込みをかけ――深夜のうちに襲ってくれば、そのときに叩く、と。
 そして時間が経過し――日付が変わる直前。
 レイスのランタンが南から出る影を捉えた。
「小さい方だ、来るぞ」
 レイスの声に、覚醒済みのルナとロロが向かった。大鹿の気配もあったが、まずは消耗している小鹿からだ。
 この敵を確実に、倒す。ルナは鹿に迫り、手をのばした。
「――風の音よ、眠りに誘え!」
 生み出したのは、スリープクラウド。青白い煙霧に包まれた鹿は、夢幻に誘われその場に倒れた。
 続いてロロがそこへ踏み込み、強打。すぐに、目覚めた鹿に反撃を喰らうが――
「うっ……すげえキモい気配がしやがる……!」
 突如、謎の粘着質な気配がして、鳥肌が立った。
 誰かが祈っている、という表現では生ぬるく……ロロは怒りでそれを振り払うように、斧を振り下ろす。力の増幅された一撃は、ぐしゃっ、と小鹿の命を奪った。
 と、その直前から、近くに大鹿が現れていた。村人へ突っ込もうとするところへ、しかし義明が立ちはだかっていた。
「悪いけど、通せないんだよねぇ」
 大鹿はわなないて、ふっ! と風の刃を放つ。
 だが――義明はそれも、防御障壁で受け止める。今度は自分から近づいてエレクトリックショックを喰らわせた。
 強烈な雷撃に包まれた鹿は、痺れて反撃もままならない。
 そこにウィップで襲いかかるのは馨だ。
「これ以上は、もう邪魔させないっすよ!」
 部位狙いで、脚へ的確な一撃。鹿をふらつかせる。
 鹿はそれでも、風の刃を放つが――きぃん! レイスが武器ではじき飛ばす。
「邪魔は、させないさ。彼女達の祈りは、完遂させてみせる」
 レイスも、日付が変わり覚醒している。そのまま距離を詰め、槍での攻撃を直撃させた。
 後退した鹿は、別の方向から弱者を狙おうとする。
 だが、走り出した先で、光の魔法が撃ち込まれた。
 覚醒した紫苑の、ホーリーライトだ。
「誰にも、触れさせません。身をもってでもお守りすると、決めましたから」
 鹿は悲鳴を上げて、止まる。
 その隙を逃しはしない。楼閣上から、真司は弓を強く引いていた。
「この儀式、成功させてやるさ」
 謳う少女を間近に見ながら、全力で放った。
 穿たれた鹿は――体液をしたたらせ、おののいた。そして最後の気力とばかり、森へ走り、消える。

●明けの空
 鹿は瀕死だった。だが、逃げ去りもしなかった。
 森にいれば、強い者たちも飽きていなくなるとでも思ったか。
 魔物にとっては、あるいは悲劇。
 どこか清浄な気配のする儀式を、壊したい。そんな本能しか、残っていなかったのだろう。
 一時間程経ってから、鹿は――森との境に姿を現した。
 どす、と一瞬。
 その鹿の命を奪ったのは、レイスの放った矢であった。倒れた鹿は、塵のように、空気に溶けて消えた。
「終わったぞ」
 レイスがトランシーバーに語ると、ルナの声が応答した。
「アニカさんは、順調に続けてるよ」
 夜の中、アニカは神に捧げる詩を繰り返している。
 それでもいっときより、汗は引いていた。
 テオが楼閣の前で、アニカをまっすぐ見つめていた。それがアニカを、支えているようでもあった。
 七人はようやく、その儀式をゆっくりと眺めた。

 日が変わってから六時間。ちょうど、月の姿も見えなくなった時刻。
 村々から鐘の音が聞こえた。儀式の終わりの合図だ。
 楼閣の上で最後、深々と頭を下げたアニカは――ふっ、と倒れるようにバランスを崩した。
「っと、大丈夫か?」
 とっさに真司が支える。ルナも彼女を起こした。
「あ……、平気です。少しふらついただけです。歩けますから」
 アニカは疲労の浮かんだ顔で、笑った。立派に儀式を済ませたことが、嬉しくてたまらないというように。
「儀式が、無事終わったぞ! これで今年も、村は大丈夫だ!」
 村人達は、一気に騒がしく声をあげ、口々に祝いの言葉を言いはじめていた。
 アニカが降りると、皆は彼女に近づいた。村人達も取り囲む。
「お疲れ様でした! アニカさんも。みんなも」
 ルナが明るく言うと、アニカは頭を下げた。
「ありがとうございました。皆さんのおかげで、うまくいきました」
「おっさんたちは、雑魔を追い払っただけ。最後まで踊ったのは君の力だと思うけどねぇ」
 義明は飄々と言った。それにアニカはまた、頭を下げるのだった。
 彼女は元気そうだったが……同時に、他に気にしていることがあるのも、見て取れた。
「あー……人の恋路を邪魔する奴は、鹿に蹴られて死んじまえってな」
 ロロは呟きつつ、村人にそれとなく村に戻るよう促し、アニカから引き離した。
 他の皆も、少年と少女、離れたところで何となく視線を交わす二人を見て……先に歩くことにした。
 テオが、アニカに歩みよる。
 最後に聞こえたのは、テオの、すごく綺麗だったよ、という声。そして見えたのは、アニカの照れたような顔。
 七人はそれを背にして……このあとの宴会も見ていくか、という気分になる。
 何せ、村人は早速酒を運び出し、宴の準備を始めていた。
「村の皆さん、明るいっすねえ。最初、儀式のことを聞いたときは、どうかと思ったっすけど」
 馨が眺めながら言うと、レイスは頷いた。
「きっと、あの儀式は、ここの人びとに必要なものなのだろう」
「そうですね。アニカさん自身も、幸せそうでした。だから、よかったと思います」
 紫苑は言って、ほほえんだ。彼らのために、少しでもやることをやれたろうかと、胸の中で父に語りかけていた。
 きっと今年も、村が豊かに実ればいい。
 祈りが届いたかのように、太陽が昇りはじめ、空を明るくさせていた。

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    柊 真司ka0705
  • 光森の奏者
    ルナ・レンフィールドka1565

重体一覧

参加者一覧

  • スピードスター
    無限 馨(ka0544
    人間(蒼)|22才|男性|疾影士
  • オールラウンドプレイヤー
    柊 真司(ka0705
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 愛しい女性と共に
    レイス(ka1541
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • 光森の奏者
    ルナ・レンフィールド(ka1565
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • Entangler
    壬生 義明(ka3397
    人間(蒼)|25才|男性|機導師

  • 月護 紫苑(ka3827
    人間(蒼)|15才|女性|聖導士

  • ロロ・R・ロベリア(ka3858
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 【相談】儀式成功の為に!
ルナ・レンフィールド(ka1565
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2015/02/03 12:23:18
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/01/30 09:39:39