• 戦闘

月の巫女の演舞

マスター:松尾京

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
参加費
1,000
参加人数
現在7人 / 4~7人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
プレイング締切
2015/02/03 19:00
リプレイ完成予定
2015/02/12 19:00

オープニング

●少女
 アニカはその夜も、部屋で自分の姿を何度も確認していた。
 着慣れなかった儀式装束は、本番を前にようやく似合うようになってきたと自分でも思う。それでも、自分が巫女にふさわしいのかいまだにわからなかった。
 母が部屋に入ってきて、気遣うように聞いた。
「アニカ、どう? 舞台では、うまくできそう?」
「……うん。私、必ず成功させるわ」
 強く頷くアニカは、それでも緊張がぬぐえなかった。
 村の趨勢を占う儀式まで、もうあと七日に迫っていた。

 月の巫女。
 それは、高山に囲まれた隣接する三つの村に伝わる儀式だ。
 年に一度、『月の楼閣』と呼ばれる村々の中央に位置する舞台で、五穀豊穣の舞いと詩を捧げる。作物に実りをもたらす太陽が休んでいる間――即ち月が出ている約十二時間の間、舞い、同時に詩を謳い続ける、肉体を酷使する演舞だった。
 それでも毎年村の娘から選出される巫女の舞いは美しく――朗朗と謳われる詩は山に染み渡る。
 それらは村の神に届くとされ、儀式が円満に終われば一年、村々の繁栄が約束されるという言い伝えだった。
 時代が下るにつれてそんなものは迷信だと言う人間は増えたが、儀式を中断した年には飢饉が訪れたという記録もあり、いまだ信仰は根強い。
 山々に囲まれた厳しい環境で――儀式が成功すれば、村人の気運がよくなるのは事実だった。
 儀式後の宴会も含め、村人が楽しみとする祭事でもある。
 なれば、月の巫女の儀式は連綿と、現代まで続いていた。
 そうしてこの年も豊穣の責任を負う娘が選ばれた。それが農家の娘である十二歳のアニカであった。

 アニカは今宵も一人、舞いと詩の鍛錬を繰り返す。
 ――月の巫女を経験することで一人前の女になる。それは古い言い伝えだが、村には今も確かにその空気は残り、だからこそアニカは儀式に対して本気だった。

●月の楼閣
 深夜、アニカはその舞台を眺めに行った。
 儀式場である森にある、木造の古めかしいやぐら。儀式を待つそこは静寂に包まれていた。
 今は神に捧げる火をともした燭台だけがあり、儀式が始まるまで何人も近づけない。だから遠くから眺める村人に交じってアニカもそこにいたが……その中にテオもいた。
「アニカ、いたのか」
 笑いかけるテオに、アニカはうん、と恥ずかしげにうつむいた。
 アニカは二つ年上の少年、テオに淡い恋心を抱いている。
 だが以前から巫女候補となっていたアニカは、異性であるテオと仲よくすることは禁じられていた。それは儀式を成功させ、一人前になってからというわけだ。
 アニカはそれを苦に思っているわけではない。
 巫女の舞いが好きだったし、つとめを果たして一人前になるのは目標でもあった。そうして、晴れてテオとたくさん話したかった。
 だから、失敗できない。
 ただ、過去には途中で倒れた巫女もいたという。その場合、儀式は失敗だ。巫女は一生に一度しか経験できないため、次はない。
 自分がそうなればテオは何と思うであろうか……。
 と、そのとき突然、楼閣を遠目に見ていた村人が声を上げた。
「……おい、何かが楼閣に近づいてるぞ」

●忍び寄るは
 それは、どこか禍々しい、足の長い獣だった。
「鹿、か――?」
 否、似て非なるものだった。巨大で、刃物のように尖り、枝分かれした角。肥大した体。妖しく光る目……。全部で三匹現れたそれは、鹿ではあるが、まさしく化け物。
 それはこちらを見ると、ふっと息を吐いた。風の刃が飛び、村人の一人をかすめて血を散らせる。
「ぐあっ!」
「平気か! ……く、逃げろ!」
 這々の体で逃れ、村人たちはひとところに集まった。
「あれは、魔物だ。歪虚だ。俺たちの力では、どうにもできない」
 一人が言うと、村人は青ざめた。
 鹿は、いまだ楼閣の周囲をうろついている。つまりは、儀式場全体が危険にさらされたということだ。
 月の巫女はどうなる、と皆は紛糾した。
 当日までに追い払えればいいのだが、しかし、儀式前は儀式場に近寄れない決まりである。
 前例の破壊は儀式の失敗を意味する――結局、村人たちは魔物に手を出せなかった。そもそも、村の人間では、あんな魔物、どうにもならないのだ。
 村人は魔物が自然にいなくなるのを期待した。
 だが……儀式前日になってもそれは儀式場からいなくならなかった。

●依頼
 儀式前最後の夜。楼閣を遠くに見ながら村長が言った。
「……あれを退治できるもの――ハンターを外から呼ぶしかない」
「儀式前に退治させると? しかし、儀式場に立ち入るのは――」
「前ではない。儀式の最中だ。儀式が始まれば、人は近寄れる。そこで儀式を邪魔しようとした動物を追い払った事実は、過去の記録にもある」
「では、舞いと詩を行わせながら……?」
 不安げな村人に、村長は頷いた。
 儀式の慣例を崩さずに魔物に対処するには、こうするしかない。慣習より命が大事、とは誰も言えなかった。儀式は村人にとって、そういうものなのだ。
「アニカよ。魔物との戦いの中で、舞うことになる。その覚悟はあるか」
「……もちろんです」
 アニカは頷いた。
 本音では、怖かった。しかしそのとき、テオが少年らしい声で真摯に言った。
「アニカ、無理はしないで。儀式は大事だけど……君の方が、もっと大事だから」
 その言葉に、アニカは――むしろ決心がついたのだった。
 巫女として立派に舞ってみせる、と。その姿を見て欲しい、と。

解説

●目的
月の巫女の儀式の成功。

●儀式について
月が出ている間(夕刻から朝までの約十二時間)、巫女であるアニカが舞台上で演舞し、同時に詩を歌い続ける。
ハンターは鹿の雑魔が村人やアニカを襲わないように対処、撃退することを依頼されている。
アニカの演舞が中断したり、詩が途切れたりすると儀式の成功に影響するであろう。

●場所
儀式場:30×30スクエアの野原。周囲数スクエア程度の外縁が薄い雑木林で、その外は森。
月の楼閣:儀式の舞台であり、儀式場内の北端に隣接する(東西の位置は中央)。3×10スクエア、高さ2mの木造のやぐら。端であれば(演舞の邪魔にならなければ)楼閣の上に上がってもよい。
照明として、燭台が舞台の南西端と南東端に二本ずつ、また儀式場の四隅近くにそれぞれ二本ずつある。
約五十人の村人が見物を望むが、儀式場の外からでも舞いは見えるので、儀式場をアニカ以外無人にすることは可能。ただしその際も、儀式場外縁には人が集まるとする。

●敵
『鹿の雑魔』×3
巨大化した鹿の雑魔。
動きが速く、夜目が利く。儀式場内をうろついているが、森に入る場合もあるようである。
攻撃法:角で刺す(射程1)/風の刃を飛ばす(射程30、直線上を飛ぶ)
弱いものと見たら襲うことが多く、逆に攻撃されようとすると距離を取ることが多い。
3頭ともサイズ2だが、うち1頭は比較的大きく、戦闘力も高い。

●ハンターの覚醒について
覚醒状態の持続時間は最大1時間で、一日に行える回数は1+Lvの10分の1回(端数切り上げ)まで(ワールドガイドに準拠)。
覚醒回数は日付変更にて回復する。

マスターより

体力的にも精神的にも過酷な儀式は、しかし、少女にとっては青春でもあるようです。その成功は、ハンターの皆さんの手によって可能になることでしょう。美しい舞いと共に鮮烈な戦闘を、よろしくお願いします。
今回は人びとを守りながらの戦いです。少女だけでなく、儀式を見たい村人たちの対処も必要になってきます。長丁場で覚醒時間の限界もありますので、注意してみてください。
リプレイ公開中

リプレイ公開日時 2015/02/10 06:18

参加者一覧

  • スピードスター
    無限 馨(ka0544
    人間(蒼)|22才|男性|疾影士
  • オールラウンドプレイヤー
    柊 真司(ka0705
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 愛しい女性と共に
    レイス(ka1541
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • 光森の奏者
    ルナ・レンフィールド(ka1565
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • Entangler
    壬生 義明(ka3397
    人間(蒼)|25才|男性|機導師

  • 月護 紫苑(ka3827
    人間(蒼)|15才|女性|聖導士

  • ロロ・R・ロベリア(ka3858
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 【相談】儀式成功の為に!
ルナ・レンフィールド(ka1565
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2015/02/03 12:23:18
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/01/30 09:39:39