ゲスト
(ka0000)
【血断】ユニオン・ラストリプレイ
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~12人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 7日
- 締切
- 2019/07/30 19:00
- 完成日
- 2019/08/06 23:33
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●ただ一人のマゴイ
邪神との戦いを通じてクリムゾンウェストは、それが一体どういう存在なのかについて、より正確に知るための情報を多々得ることが出来た。
それらをもとにμ・F・92756471・マゴイは、改めて一人会議をした。そして、以下の結論に行き着いた。
反影作戦において消滅した異界は、実のところ本当に消えたのではない。ただ邪神の体内宇宙へ戻って行っただけなのだ――と。
『……ユニオンは……まだ存在している……?』
3世界共同の突入作戦によってハンターたちは、体内宇宙に侵入を果たすという。そしてその中にあるさまざまな異界に、邪神離反への働きかけを行うという。
ということは、もしかしたら彼らが再びユニオンを見つけることもあるかもしれない。ユニオンの人々に会うことがあるかもしれない。
『……ウテルス……α……』
マゴイは自分も行きたいと思った。本当の最後にユニオンを見たかったし、αにも会ってみたかった。
だけどそれは出来ないことだとも理解していた。自分は新しいユニオン――ユニゾンを離れてはいけない。ユニゾンを守らなければならない。今いる市民のために、これからやってくるだろう市民のために、新しく生まれてくるだろう市民のために。
『……仕方が……ないのね……』
ぽつりと呟いて彼女は、再び考える。黒い瞳を潤ませて。
初対面のハンターたちが(彼らの認識ではそうなるはずだ。記憶が持続しないのだから)いきなり訪ねて行ったところで、ユニオンは扉を開かない。彼らを不審者としか見なさない。そこは自分が一番よく分かっている。
今ここにあるユニオンの名において、優良外部者証明書と滞在許可証を作成し、彼らに渡してやらなければなるまい。そうすれば入国だけはすんなり出来るはずだ。
工業地区で作った製品――皿とかカップとか、手軽なものを持って行ってもらおう。それから、市民募集のパンフレットも。
それを見れば皆、ここにユニオンがあることを信じてくれるだろう。
αが新しいユニオンを認めてくれたら、その存在を喜んでくれたら、ほんとうに、ほんとうによかったのだけれど。
●ただ一人のステーツマン
α・M・8658236・ステーツマンはタワーの天辺から町を見下ろしていた。
邪神が倒されるのか、3世界が倒されるのか。
今のところ確率は五分五分だ。
ステーツマン自身は後者に賭けたい気持ちが強い。
もし3世界が敗れたなら、クリムゾンウェストはこの世界同様、ループに飲み込まれる。その際にはμもシェオル化を起こすだろう。であれば自分と同質のものとして、また会うことが可能かもしれない。
(まあ、前者だとして、彼女が消える可能性もなくはないがね……この世界にもあの時死んだ市民が、全員揃っているわけでないし)
倦怠を滲ませながらステーツマンは、この巻き戻しが始まる直前――そう、彼の主観的にはたった今起きたことだ――のことを苦々しく思い起こす。
マゴイたちは自分に従っているのではない。ユニオン法に従っているのだ。法に合致しない行動をする者をステーツマンとは認めない。だから、言うことを聞かなくなる。
彼らは自分という個人を必要としているわけではない。
……もうおぼろげだが、昔死んだとき、同じことを考えたような気がする。
(私も長く生き過ぎて、焼きが回っていたようだ。それを忘れるなんてね)
●ワーカーたちとソルジャーたち
その日、ユニオンは上を下への大騒ぎになっていた。
「えっ!?」
「おっ!?」
「あっ!?」
朝起きてみたら、青空(結界の表面に貼られた偽物の青空だが)に、突如複数の映像が浮かんできたのだ。
彼らは知らなかったが、それは、邪神の体内宇宙に突入したハンターたちが戦う姿だった。
ワーカーたちは大いに困惑し、ソルジャーに尋ねる。
「あれなんや」「どうしたんだ」
しかしソルジャーも分からない。
「さあ……まあ待て、そのうちアナウンスがあるだろう」「なければマゴイに聞いてこよう」
折よく辻辻のウォッチャーが、一斉に喋り始めた。
【市民の皆さん、落ち着いてください。今空に見えている映像は突発的な通信回路混線によるものです。皆さんはどうぞ気にせず、いつも通りでいてください。ユニオンは今日も一日あなたが幸福である権利を保障いたします。】
かくして安心感を得たワーカーとソルジャーたちは日常業務に戻る。
●マゴイたち
マゴイの発行した書簡のお陰でハンターたちは、すんなりユニオンに入ることが出来た。
ウテルスが既に臨終済みであることを知り意気消沈していた彼らは、異世界において新しいユニオンを建設されている話を証拠物件つきで聞かされたことで、おおいに気を取り直していた。
「ユニオンが存続している……」「ウテルスは生きている……」「μ・F・92756471・マゴイはとてもよいことをしてくれている……」
これならすんなり話が進みそうだ……と思ったハンターたちだが、甘かった。
対邪神戦争への協力を要請した途端彼らは、難色を示し始めたのである。
「……私たちは邪神を倒すための戦いに参加すべきでしょうか。このことについて、意見を求めます……」
「……参加は認められません。なぜならそれは、軍事協力になるからです。ユニオン法はそれを禁止しています。法に反することはしてはいけません。このことについて意見を求めます……」
「……確かに法に反することは疑いようがありません。であれば、私たちはそれをなすべきではありません。このことについて意見を求めます……」
「……これは、超法規的措置の範囲内の話となるのではないでしょうか。このことについて意見を求めます……」
「……そのことに異論はありません。まず私たちは手分けして、この件に関する対処について幾つかの案をまとめましょう。それから、ステーツマンに裁定を求めましょう。このことについて意見を求めます……」
「「「……異論はありません、そうしましょう……」」」
意見の一致を見たところでマゴイたちは、それぞれ組に分かれ、数多の会議室に散っていこうとする。
「い……いやちょっと待て、そんなことしている時間はないんだ!」
「今ここで決めてくれ!」
ハンターたちが彼らを引きとめようとしたところで、ステーツマンがやってきた。
「何の騒ぎかね」
マゴイに超法規的措置の許可を出せるのは彼だけだ。
しかし彼本人は、それをする気が全然なかったりした。
……ハンターたちはあずかり知らぬことであるが、実のところユニオン史上、超法規的措置が許可された例はただの一度もない。
文字通り滅びにいたるまで、法に忠実であったのである。
邪神との戦いを通じてクリムゾンウェストは、それが一体どういう存在なのかについて、より正確に知るための情報を多々得ることが出来た。
それらをもとにμ・F・92756471・マゴイは、改めて一人会議をした。そして、以下の結論に行き着いた。
反影作戦において消滅した異界は、実のところ本当に消えたのではない。ただ邪神の体内宇宙へ戻って行っただけなのだ――と。
『……ユニオンは……まだ存在している……?』
3世界共同の突入作戦によってハンターたちは、体内宇宙に侵入を果たすという。そしてその中にあるさまざまな異界に、邪神離反への働きかけを行うという。
ということは、もしかしたら彼らが再びユニオンを見つけることもあるかもしれない。ユニオンの人々に会うことがあるかもしれない。
『……ウテルス……α……』
マゴイは自分も行きたいと思った。本当の最後にユニオンを見たかったし、αにも会ってみたかった。
だけどそれは出来ないことだとも理解していた。自分は新しいユニオン――ユニゾンを離れてはいけない。ユニゾンを守らなければならない。今いる市民のために、これからやってくるだろう市民のために、新しく生まれてくるだろう市民のために。
『……仕方が……ないのね……』
ぽつりと呟いて彼女は、再び考える。黒い瞳を潤ませて。
初対面のハンターたちが(彼らの認識ではそうなるはずだ。記憶が持続しないのだから)いきなり訪ねて行ったところで、ユニオンは扉を開かない。彼らを不審者としか見なさない。そこは自分が一番よく分かっている。
今ここにあるユニオンの名において、優良外部者証明書と滞在許可証を作成し、彼らに渡してやらなければなるまい。そうすれば入国だけはすんなり出来るはずだ。
工業地区で作った製品――皿とかカップとか、手軽なものを持って行ってもらおう。それから、市民募集のパンフレットも。
それを見れば皆、ここにユニオンがあることを信じてくれるだろう。
αが新しいユニオンを認めてくれたら、その存在を喜んでくれたら、ほんとうに、ほんとうによかったのだけれど。
●ただ一人のステーツマン
α・M・8658236・ステーツマンはタワーの天辺から町を見下ろしていた。
邪神が倒されるのか、3世界が倒されるのか。
今のところ確率は五分五分だ。
ステーツマン自身は後者に賭けたい気持ちが強い。
もし3世界が敗れたなら、クリムゾンウェストはこの世界同様、ループに飲み込まれる。その際にはμもシェオル化を起こすだろう。であれば自分と同質のものとして、また会うことが可能かもしれない。
(まあ、前者だとして、彼女が消える可能性もなくはないがね……この世界にもあの時死んだ市民が、全員揃っているわけでないし)
倦怠を滲ませながらステーツマンは、この巻き戻しが始まる直前――そう、彼の主観的にはたった今起きたことだ――のことを苦々しく思い起こす。
マゴイたちは自分に従っているのではない。ユニオン法に従っているのだ。法に合致しない行動をする者をステーツマンとは認めない。だから、言うことを聞かなくなる。
彼らは自分という個人を必要としているわけではない。
……もうおぼろげだが、昔死んだとき、同じことを考えたような気がする。
(私も長く生き過ぎて、焼きが回っていたようだ。それを忘れるなんてね)
●ワーカーたちとソルジャーたち
その日、ユニオンは上を下への大騒ぎになっていた。
「えっ!?」
「おっ!?」
「あっ!?」
朝起きてみたら、青空(結界の表面に貼られた偽物の青空だが)に、突如複数の映像が浮かんできたのだ。
彼らは知らなかったが、それは、邪神の体内宇宙に突入したハンターたちが戦う姿だった。
ワーカーたちは大いに困惑し、ソルジャーに尋ねる。
「あれなんや」「どうしたんだ」
しかしソルジャーも分からない。
「さあ……まあ待て、そのうちアナウンスがあるだろう」「なければマゴイに聞いてこよう」
折よく辻辻のウォッチャーが、一斉に喋り始めた。
【市民の皆さん、落ち着いてください。今空に見えている映像は突発的な通信回路混線によるものです。皆さんはどうぞ気にせず、いつも通りでいてください。ユニオンは今日も一日あなたが幸福である権利を保障いたします。】
かくして安心感を得たワーカーとソルジャーたちは日常業務に戻る。
●マゴイたち
マゴイの発行した書簡のお陰でハンターたちは、すんなりユニオンに入ることが出来た。
ウテルスが既に臨終済みであることを知り意気消沈していた彼らは、異世界において新しいユニオンを建設されている話を証拠物件つきで聞かされたことで、おおいに気を取り直していた。
「ユニオンが存続している……」「ウテルスは生きている……」「μ・F・92756471・マゴイはとてもよいことをしてくれている……」
これならすんなり話が進みそうだ……と思ったハンターたちだが、甘かった。
対邪神戦争への協力を要請した途端彼らは、難色を示し始めたのである。
「……私たちは邪神を倒すための戦いに参加すべきでしょうか。このことについて、意見を求めます……」
「……参加は認められません。なぜならそれは、軍事協力になるからです。ユニオン法はそれを禁止しています。法に反することはしてはいけません。このことについて意見を求めます……」
「……確かに法に反することは疑いようがありません。であれば、私たちはそれをなすべきではありません。このことについて意見を求めます……」
「……これは、超法規的措置の範囲内の話となるのではないでしょうか。このことについて意見を求めます……」
「……そのことに異論はありません。まず私たちは手分けして、この件に関する対処について幾つかの案をまとめましょう。それから、ステーツマンに裁定を求めましょう。このことについて意見を求めます……」
「「「……異論はありません、そうしましょう……」」」
意見の一致を見たところでマゴイたちは、それぞれ組に分かれ、数多の会議室に散っていこうとする。
「い……いやちょっと待て、そんなことしている時間はないんだ!」
「今ここで決めてくれ!」
ハンターたちが彼らを引きとめようとしたところで、ステーツマンがやってきた。
「何の騒ぎかね」
マゴイに超法規的措置の許可を出せるのは彼だけだ。
しかし彼本人は、それをする気が全然なかったりした。
……ハンターたちはあずかり知らぬことであるが、実のところユニオン史上、超法規的措置が許可された例はただの一度もない。
文字通り滅びにいたるまで、法に忠実であったのである。
リプレイ本文
●ようこそユニオンへ
ひりつく乾ききった風。
巻き上げられる多量の土埃。
遠い所から地鳴りが響いてくる。それは大地が崩落し、奈落に飲み込まれていく音だ。
ユメリア(ka7010)は土埃の入った目をしばたたかせ、遠方を見やる。
そこには巨大な真四角の箱があった。
「あれがユニオン……なのですか?」
彼女の問いにルベーノ・バルバライン(ka6752)が答える。
「そうだ。あの結界の中に町がある」
「入り口などはございますか?」
「いや、そういうものはない。総じて警戒心が強い国だからな」
シガレット=ウナギパイ(ka2884)が付け加えた。
「一見さんはお呼びじゃないって感じだなあ、基本的に」
それを聞いてユメリアは、少々不安になってくる。
「私たちを受け入れてくれますでしょうか」
「そこは問題ないと思うぜ。なんたって優良外部者証明書と滞在許可証があるんだから。なあルベーノ?」
「ああ。他ならぬマゴイの一員が身分保障をするのだ。入国許可を出さぬわけがない」
ひときわ強い風が吹き付けてきた。
エーミ・エーテルクラフト(ka2225)が口の中に入った土ぼこりを咳と一緒に吐き出す。
「入るまでは問題なしとして、難しいのはそこからなのよね。特にステーツマン。管理者である彼は、私たちのことを確実に覚えているはずだし」
ミグ・ロマイヤー(ka0665)はうーむと唸る。彼女にはステーツマンの人となりが、いまいちよく分からない。
一度会うには会ったこともあるのだが、その際相手は人間でなく蟻であった。特に会話をしたこともないし……。
「スターツマンといえば以前のアリ野郎じゃな。あれは難物じゃなー」
エルバッハ・リオン(ka2434)は嘆息した。
可能ならそうならないで欲しい。自分たちにはここでゆっくり戦闘している余裕など無いのだ。全ての力は可能な限り温存しておきたい。邪神本体との戦いのために
「……もし説得が失敗したら、すぐに撤退できるようにしておかないといけませんね」
レイア・アローネ(ka4082)は頭を悩ませる。彼女はステーツマンについてほとんど知らない。マゴイにとって大変思い入れ深い相手である、ということ以外は。
(説得……と言っても難しいだろうな。情に訴えた交渉は厳しいだろうし、かといって理詰めの説得をしても本人が納得しなければ意味はないし……)
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)もまた考えあぐねている。知恵熱が出そうな勢いで。
(ユニオンをこのまま只滅びの運命を、受け入れるだけのものにはしたくないもの、だから、だから)
天竜寺 詩(ka0396)とトリプルJ(ka6653)は、その後ろで会話をしていた。
「なんだ、スペットの元の顔の資料はもう手に入っているのか?」
「うん。前に来たときにね。でもほんの一枚か二枚だけだから……今日また改めて資料とってきてくれるっていうなら、すごく有難いよ」
「市民撮影の許可は、すんなりもらえた感じだったか?」
「私は許可なしで撮影したけど、特に注意とかされなかったよ。まあ、マゴイと一緒にいたからかも知れないけど……」
星野 ハナ(ka5852)とディーナ・フェルミ(ka5843)も言葉を交わし合っている。
「世界がたった1人で回されてるってのもどうなんでしょぉ。特にその1人が全く報われていない場合にはぁ」
「不毛だし不幸なの。もうそういうことは、やめさせなきゃいけないの」
結界の間近まできた。
知っている人にはお馴染みである男女一対のマゴイが出てくる。
どっちも英霊マゴイそっくりな顔立ち。
(前見たときより随分しおたれているような……)
ルベーノがそう思ったところで、お約束の問答が始まる。
「……あやしい人達ね……」
「……どう見ても市民じゃないね……」
「……人に偽装した歪虚ではないかしら……」
「……オートマトンかも……」
詩がこほんと咳払いし、書類を呈示した。
「私たちあやしいものじゃないよ。ほらこの通り、優良外部者証明書と滞在許可証を持ってるんだ。確認してみて」
マゴイたちは驚きを示した。
書類が本物であると確認するや、非常にゆるゆるした動作で互いの両手を握りあい、上下に振る。どうやら喜びを表現しているらしい。
「……これは間違いなく、ユニオンによって発行された正式の書簡……」
「……μ・F・92756471・マゴイが生きている……」
「……ウテルスも生きている……どうぞお入りなさい外部者……あなたがたから今の話を聞ければ……きっと皆喜ぶ……」
かくしてハンターたちはすんなり入国することが出来た。
ゆったり広々した通り。こんもり茂る街路樹と花盛りの花壇。建築物のどれもこれも差異が無く、判で押したように四角く白い。住人自体の容姿は被り気味だ。服装も。
町の中心にそびえ立つのは、方形を組み合わせて出来た螺旋状の巨大な建築物、タワー。
訪問経験者には、どれもこれも見慣れたものばかり。
だがこの前来たときとは明らかに異なっている点がある。
結界の内側に広がっている空だ――多数の映像が浮かんでいる。全て、体内宇宙にある異世界の光景だ。どの世界でも人間が「終末」と戦っている。
しかし道行くユニオン市民は、それらをほぼ気に止めていない様子。
(普通あんなものがいきなり空に浮かんできたら、パニックが起きてもおかしくないと思うのじゃが)
疑問を抱いたミグは、マゴイたちに聞いた。
「のう、あれが何なのかを知っておるか?」
「……あれは邪神の中にある」
「他の世界の映像……」
「あ、分かっておるのじゃな。ならいいが……民には何と説明しているのじゃ?」
「……危険なものではないから大丈夫」
「気にしないようにと……」
たったそれだけでこうも素直に気にしなくなるあたりがユニオン最大の問題では無かろうか、とシガレットは思う。
「見事に揃った町だな、色々と」
「……そうでしょう……きれいに揃っているでしょう……」
「……均等な環境を安定して共有出来る……こんなよいところは他にない……」
彼の皮肉はほめ言葉と受け取られてしまったようだ。
Jはいち早くユニオン見学の申請をした。簡単な事情説明を交えて。
「――あちらでのウテルス再建に貢献したということで元の顔に戻すことになったらしいのに、元の顔が分からなくなっていて大変だ、とか言う話を小耳に挟んだんでな。ここならその資料がありそうだから、確認できたらと思ったんだ。何しろ滅多にこれない場所だろう」
マゴイたちは彼の話を聞いた後、顔を見合わせた。
「……追放者の頭部復元手術に関しての条項は……ユニオン法に記載されていないわね……」
「……ないね……だからそれについては十分に会議を経て書類を整えないと……」
「……でもμ・F・92756471・マゴイのところには……まだ彼女以外のマゴイはいないそうだから……」
「……きっと、とても困っているね……このことについては後で会議をしよう……」
お定まりの台詞でまとめた後彼らは、近くの壁にはまりこんでいるウォッチャーに話しかけた。
「……ウォッチャー」
「……外部者がユニオン見学をしたいそうなので、ついていってあげなさい」
ウォッチャーが押し出されるように壁から出てきて、挨拶する。
【ハロー、外部者。私はあなたの案内役です。あなたの行動を見守ります。法に触れると思われる行動には警告を発し注意を喚起します。お止めいただけない場合は制止、通報いたします】
英霊マゴイと何度か接触した経験があるJにはなんとなく分かった。彼らが悪意をもってこうしているのではないということを。
だからまあ、突っ込みは控えておく。
「おーい、んじゃ俺は町の中回って大雑把に意見聞いてくるぜ」
そう仲間に告げ別行動を取る。
ルンルンはそれを追いかけた。
「あ、待ってください、私も一緒にユニオン観光しますうー!」
●真打登場
タワーのロビーに姿を現したステーツマンは、ハンターたちを一瞥し、マゴイたちに尋ねる。穏やかな口調で。
「一体どこの誰なんだね。この外部者たちは?」
自分たちのことを忘れているのか?なんて、エーミは全然思わなかった。
ステーツマンらしからぬ振舞いをしたが最後、マゴイたちは彼に従わなくなる。恐らくそれを警戒し、何事も無かったかのようにしらばっくれた演技をしているのだろう。
(法はαに個人であることを許さない――それが前回、勝てた理由よね)
マゴイたちはステーツマンへ順を追って説明する。
ユニオンはすでに邪神に飲まれ、滅びてしまっていること。
しかしクリムゾンウェストという別の世界にユニオンが再建されていること。
再建したのはμ・F・92756471・マゴイであること。
そのクリムゾンウェストが対邪神戦争への参戦要請をしてきていること――。
それらが一段落したところでユメリアが、首を振った。
「戦争? いいえ、これは災害です。ユニオンの皆様、同邦者」
同邦者――彼女はユニオンの人々をそう呼ぶ。彼らをクリムゾンウェストという星の同居人と見なして。
「あなたがたも私たちも、星の土地を間借りしています。その土地が毀損されようとしているのです。間借りしたもの同士の喧嘩というなら不関与は大変素晴らしい法です。ですが、今起きていることはそうではない」
この戦いにもし負けるようなことがあれば、土地そのものが失われるのだと力を込めて説く。邪神自身も暴走状態にあるのだということと併せて。
「これは星が地震や嵐を起こし、自らの環境を傷つける行為に等しい行為ではありませんか? 隕石などの天災、自他共に損害を被っている、またユニオンにも被害が想定される場合、ユニオンの法律はどうなっていますか? 私達は命を賭けています。既に失った命もある。あなた達は何を供出できますか?」
マゴイたちはこの提案を受け、順繰りに話し始めた。
「……自然災害の際における他国への働きかけは……」
「……被災者の生活支援……そして復旧復興支援……に限られる」
「……支援物資は……」
「……軍事転用にならないよう厳重に規制をかけた上で……」
ハナはじれったげに頭をかいた。
「いや、今私たちが欲しいのは物資とかなんとかそういうモノじゃなくて、ヒトなんです、ヒト。こちらに人員派遣とかはしてくれないんですかぁ?」
「「……ユニオン労働基準法第112条 【ユニオン外部者との間における契約についての適用】を根拠として……派遣者に対し……完全にユニオン法に従った扱いをするという条約を、ユニオンと正式締結するならば可能……」」
詩は唐突に思い出した。マゴイがコボルド・ワーカーを初めて郷祭に派遣してきたときのことを。
(そういえばあの時マゴイは、ワーカーの保護についてこまごました契約文書を作ってきていたような……)
ミグは頭を抱えたくなってきた。
ステーツマンの説得が難しいだろうということは予想していたのだが、もしかするとこのマゴイたち、それ以上に手ごわいのではないだろうか。
「ミグらはおぬしらに変化を与えたいんじゃが、おぬしらは法を守りたいんじゃろ?」
「……守らなくてはユニオンではない……」
「それはこの世界を守ることに通じると信じているからじゃな?」
「世界というか……市民の幸福を守る……」
「しかし、ここ以外でもつぎつぎとミグらの味方は増えて居る。このままだとミグらが勝つやもしれん」
「……そういうこともあるかもしれない」
「邪神が負けたらこの世界も消えてしまうな?」
「……とても残念だけどそのとおり……でも、ウテルスは別の場所でちゃんと生きているので大丈夫……ユニオンは不滅……」
「……そ、そうか。まあそれはさておき、ならば、勝ち組にのるのも悪くはないと思うが、ユニオン法では加勢は許されていない?」
「……軍事協力ということであれば先に述べたとおり許されていない」
「ところで話は変わるがユニオンにも祭りとかはあるじゃロウ?」
「……いいえ」
「そうじゃろそうじゃ――え? な、ないのか? 祭りが?」
「……週二日の休日と、年に二カ月の長期休暇以外……これといって特にない」
そういえば以前マゴイもそう言ってたな、とルベーノは改めて思い出す。
そこでステーツマンが口を開く。マゴイたちに命じる。
「なるほど、確かにそれは容易ならざる事態だね。マゴイ階級は全員会議に赴きたまえ。この問題に対する所見を最速でまとめ、この場に戻って提出すること」
「「……了解しましたステーツマン」」
マゴイたちはいっせいに散って行く。
彼らが一人もいなくなったところでステーツマンは、改めてハンターたちに視線を向けた。
先ほどとは打って変わって、ものすごく忌々しげな表情だ。
エーミはそれを恐れることなく話しかける。
「αさん、でいいかしら? これはかつて貴方が口にした願いからそう呼ぶのだけど」
「かつて? 妙な言い方をするね。ついさっきのことだろう」
その言葉によってルベーノは、彼の時間感覚が自分たちの時間間隔と大きくずれていることに気づいた。
腕組みし相手を見据える。
「久しぶりだな、ステーツマン。……俺達にとってはお前と会ったのは1年以上前だが、お前にとっては違うようだな」
ディーナはすいと前に出て、ステーツマンに手を差し出す。
「こんにちはなの、αさん。私は聖導士のディーナ・フェルミと言うの。この世界と貴方を救うお手伝いが出来るかもしれないと思って話合いに来たの。少しで良いの、話を聞いてほしいの」
ステーツマンはその手を取ろうとしなかった。
だが彼女は、かまわず続ける。
「前回の周回から、私達は正確には15か月経っているの。それはこの前の戦闘で貴方が消耗したことが大きいかもしれないけど。それでもこの周回が終わった時、次の周回が始まるまでに、私達と邪神との決着はついている可能性が高いと思うの。だから……貴方が意思表明をして、世界と貴方自身を救う可能性は、この1回を逃せば失われると思う。だから来たの」
●ユニオン世論調査
Jとルンルンはウォッチャーを伴い大通りを行く。資料写真を撮り溜めながら。
通りに面した建物の一階は、全て商店となっていた。
商品の並べ方は分かりやすいけど画一的で、POPらしきものも見当たらない。
「あんまり「売ってる」という感じがしませんねえ」
「まあ、競争原理とか働きようがないだろうからなあ」
ブティックを覗けば、品が全て「緑系統」「赤系統」「白系統」「青系統」に色分けされていた。
ユニオン市民は階級毎に色分けされた制服を着ているとは聞いていたが、私服に対してもそのルールは適用されるものらしい。
何とも窮屈なことだとJは思う。
とはいえ、買い物に来ている市民は楽しんでいる。品物を手にとってみたり、鏡の前で体に合わせてみたりしている。
Jはワーカーの客に近づき、質問してみた。
「ユニオンには『超法規的措置』と言うものがあるらしいな?」
「おう、あんな」「な」
「それは、どういうものなんだ?」
「いや、知らん」「俺らワーカーやさかい、内容まで習わへんで。そういうことはマゴイに聞いてみいな」
Jは内心ため息をついた。
そういう趣旨の返事が戻ってくるんじゃないかなあと、なんとなく予想していただけに。
「そうか、それなら、ユニオンが他者からその生存を侵害された時どういう事をすることになっているのか知っているか」
「そらもうマゴイが考えて、ステーツマンが決めて、ソルジャーが戦うねん」「な」
その後ソルジャーの客にも聞き取りしてみたが、返ってきた答えはほぼ一緒だった。
「マゴイが考えて、ステーツマンが決めて、わしらが戦うのだ。そしてユニオンを守るのだ」「その通り」
……こんなことでいいのだろうか。
いや、よくないからこうなっているのか。
悶々としつつレストランらしき店を覗けば、肉野菜穀類。焼く煮る揚げる蒸すの違いはありそうだが、ブロック状に整形された食べ物ばかりであった。
ルンルンはそれに、ちょっとがっかり。
「ユニゾンの外部者宿泊所で出てくるものと一緒ですねえ……」
●まずはテーブルに
「そうか、随分間が空いたものだね」
苦々しげに吐くステーツマンにリオンは、改めて挨拶をした。
「エルバッハ・リオンと申します。よろしくお願いします」
いつもの愛称呼び願いを省略したのは、相手の機嫌を損ねることを憂慮したからだ。
エーミはステーツマンに対し、最も効果があるだろう人物の名を出すことにする。
「μの手土産を出したいから、少し怠惰の力は抑えてくれる?」
沈黙があった。
蠢いていた負のマテリアルが、不承不承といった具合に弱まっていく。
詩は横笛を取り出し、吹き始めた。サルヴェイションを使って相手を落ち着かせようと。
しかし、そこでステーツマンが鋭い声を出した。
「止めてくれるかね、妙な音を鳴らすのは」
怒らせては本末転倒なので、直ちに止める。
(彼の説得は無理そうですね)
リオンはひそかにそう思ったが、口には出さなかった。
エーミは険悪なムードを一切気にしていない素振りで、再度ステーツマンに言う。
「よければ、テーブルなんかあるといいんだけど。お土産の中にはね、ユニゾンで作られたティーセットがあるのよ。ドライフルーツのお菓子もね。ちょっとお話ししましょう。そうしたって、あなたの損にはならないでしょう?」
「どうだかね」
ルベーノがずいと前に出る。真剣な面持ちで。
「話がある。この世界たった1人のステーツマン、たった1人のαに。……お前以外に聞かせる話ではないとも思うぞ。世界の周回を認識できるお前以外には」
ステーツマンは、顎でロビーの片隅を示した。そこにはテーブルと椅子が置いてある。
とりあえず話をする気にはなってくれたようだ。
シガレットは思い出す。この世界の崩壊に立ち会ったときのことを。
あの時感じた無力感を二度も味わいたくはない。どうにか超法規的措置を引き出したい。
今回は正真正銘、最後のチャンスだ。
それを生かせるかどうかは、ステーツマン次第。ステーツマンを納得させられるかどうかは、ハンター次第。
●未来のかげろう
Jとルンルンは、町の中にある緑地帯を訪れていた。
どうやら公園的な施設らしい。
3、4歳くらいの子供たちが群れていた。青服、白服、赤服、緑服のグループに分かれ、遊具で遊んでいる。
一番数が多いのが緑。次に赤。白になるとぐっと少なくなり、青は一握り。
エプロンをつけたワーカーの男女が多数いて、それらの相手をしてやっている。
Jはそこへ無造作に彼らに近づき、話しかけようとした。
「よう、ちょっといいか?」
その途端エプロンをつけたワーカーたちが、首に下げていた笛を吹いた。
公園周辺にいた無関係なワーカーたちがこぞって立ち止まり、心配そうな顔で集まってくる。
反対側の通りを巡回していた赤服ソルジャーの一団が急に方向を変え、足早に近づいてくる。
ウォッチャーがJの前に割り込んだ。
【外部者、あなたは幼児期の市民に対し、突発的に一定の距離を越え急接近してはいけません。それは彼らに不安を与える行為です。各階級における児童保護のための反射行動も喚起します。離れてください。】
Jは急いで下がった。敵意がないことを示そうと両手を挙げる。
「分かった、悪かった。いや、脅かすつもりはなかったんだ」
それで納得したのかウォッチャーは退き、引率のワーカーに声をかける。
【どうぞ、仕事を続けてください。ナニー・ワーカー】
周辺のワーカーたちが安堵したように再び散っていく。
ソルジャーの一団も足を止め、方向を変えた。
ナニー・ワーカーは子供たちを促し、場所を移動させる。
そのとき数人の子供が立ち止まって振り向き、Jたちのほうを見た。見慣れない人間が気になったらしい。
ルンルンはにこっと笑顔を浮かべ、小さく手を振った。
子供たちの顔がうっすら緩んだ。特に何か言うわけではなかったけれど、それでも彼らは同じように手を振りかえした。
そのことに彼女とJは感銘を覚える。
ユニオンの子供も結局は、自分たちが知っている子供と一緒なのだ。好奇心というものがあるのだ。
「こんな風に日々の暮らしを送っている人達を、何時までも滅びのループに囚われさせたくないな」
「ああ、そうだな……」
●交渉
エーミが出してきたユニゾン製のカップに、詩がコーヒーを注ぐ。ドライフルーツを沿え、めいめいの前に置く。
最初に話の口火を切ったのは、ディーナだった。
「この世界はステーツマンα、貴方を中心に再生と崩壊を繰返しているの。邪神は貴方を乾電池代わりにして、ユニオン最後の日を延々繰返して――」
ステーツマンはうるさそうに話を遮る。
「知っているよ、そんなことは」
「なら、話が早いの。私達は邪神を倒して、その力で取り込まれた世界を再生する方法を探しているの。貴方がもう1度、貴方だけの自分として力を振るえる時間を取り戻す、その世界を作るために。反逆の意志を持つだけでいいの。協力してもらえないかな」
「邪神が倒されたとしても、この世界は再生されないよ」
「じゃあ、どうなると思うの?」
「どうなるって、消えるだけさ。私ごと跡形もなくね。ほかの世界に関しても、そこは全く一緒だと思うが?」
身も蓋も無い認識にハナが異議を唱える。
「私達の世界で力が強いものは英霊に転化したりますよぅ。そういう意味ではぁ、貴方は世界が変わったら英霊に転化する可能性は高いと思いますぅ」
ステーツマンは薄笑いを浮かべた。
相手が言うことを全く信じていないこと確実な表情である。
「へえ、そうかい。そうなれたら本当に素晴らしいね。でも現実にそういうことは起きないね」
ハナは話題を変えようとした。
世界の再誕について論じあっても、埒が明かないと。
「……ものすっごくぶっちゃけますとぉ、ループの間に超法規的措置で他の世界や邪神に攻め込むってぇ、時間が短すぎて凄く難しいと思うんですぅ。貴方がもしも今をこの前私達と戦ってからの時間が少し前にしか感じられていないとしたらぁ、この世界のループは数週間どころか数日しかないことになりですからぁ」
「初めから数日単位で動いているんだよ、この世界は。前回の訪問から間もないように感じられていることについては、実際にそれだけの期間停止した状態だったからだろうよ。何しろ随分あちこち壊されたものだからね……」
シガレットは葉巻を口からはずし、コーヒーをひとすすりした。
「惰性に流されてリプレイを繰り替えているわけではなかろう。俺たちと遭遇する前から、幾星霜と正攻法から邪道まで試行錯誤をしてきたのだろう? ここ数回分、俺たちが邪魔しているのはどうしようもない事実で怒るのも仕方ないことだが……」
ステーツマンは頬杖をつき、どんよりした眼差しを宙に泳がせる。
「さあ、どうだったかね。もう結構前に、そういうことは止めていた気がするがね。何をどうやったって同じ結果にしか行き着かないんだよ。ユニオンにおいては」
エーミはコーヒーを匙でかき回した。とろみのある渦を眺めながら猛烈な速度で思考を巡らせる。ステーツマンが何を考えているのかを察しようと。
「貴方は記憶を保ち輪廻する。確かに『神様』は的を射た説明の仕方だったわね。前言は撤回ね、必要なら謝罪もするけど――でも、ユニオンは、その神様の上に『法』を置いた国なのね」
「そうだ。ここは法治国家だからね。神さえも法に服しなければならないのさ、服した結果がどうあろうとも」
そこでレイアが疑問を呈した。
「ステーツマンは超法規的措置を取れる権限を持っているのではないのか? それを使えば法を超越出来たのではないのか?」
「理論上はね。だがそれをやったステーツマンはユニオン史上ただの一人もいないよ。私を含めてね」
「何故そうしなかったのだ。使わずして、なんの為のものだ。ただ単に形骸化している法に意味はあるのか」
ステーツマンは、はは、とまるで気がないふうに笑った。
「法の形骸化とは、法があっても守られない状態を言うんだよ。逆だ。ユニオンでは法は、形骸化ではなく血肉化しているんだ。超法規的措置を命じたところで、誰もまともに動けやしないよ。ユニオンでは誰も彼も――特にマゴイは――法が命じる通りにしか行動しないようになっているんだからね」
マゴイが教条主義のかたまりである事は確かに疑いようがない。
だけにステーツマンのこの言葉は、ハンターたちにも一定の説得力を持って聞こえた。
だが同時にハンターたちは、そのマゴイの一員であったμ・マゴイが英霊化の後紆余曲折しながらユニゾンを作り上げたことを知っている。同じく英霊となったθ・ソルジャーが村の守り神となっていることも、スペットと名を変えたβ・ワーカーが刑務所で更正の道を歩んでいることも。
だから、ユニオンの市民たちも、あるいは、もしかして、全部ではないにしても幾人かは――新しい状況に適応出来たのではないだろうかという思いを抱く。
エーミはドライフルーツを齧り、夢想した。
(もしあの日、μさんの存在があれば、αさんは超法規的措置を講じたのかしら? たった一人の彼女を守るために)
それに連動するかのように、詩が口を開く。
「ねぇ、ステーツマン。違ってたら御免。貴方はマゴイを、こちらのマゴイを愛してた、そうなんじゃないかな?」
ステーツマンの表情から怠惰が抜けた。
聞いてはならぬことを聞かされたかのような口ぶりで言う。
「それはここで出すべき種類の話なのかね」
出すべき話題だ。詩はそう確信している。
「少なくとも彼女は貴方を愛してた。私はそう思う。自分では気づいてなかったかもしれないし、絶対に認めないだろうけど。それは貴方も一緒かもしれないけどね」
ステーツマンの表情がますます気詰まりなものになってきた。
「何を根拠にそういう事を言ってるのかね」
「何って、色々だよ。これまでのあなたの言動とか、マゴイの言動とか。貴方に私達に協力する義理も義務もない。でもマゴイの為なら協力できるんじゃないかな。一人の為じゃなく多数の為に尽くすのがユニオンの法なら、それを超えて一人の為に動けるのが超法規的措置って事じゃない?」
詩の脳裏に浮かぶのは、マゴイが負のマテリアルに汚染された時の姿だ。
ただ大勢のステーツマンのうちの一人、友愛の対象としてだけ相手を見ているものなら、あそこまで落ち込むことがあるものか。諦めだってすぐにつくはずだ。
「それに今のままじゃマゴイは貴方に対して悲しい思い出しかない。彼女に貴方に対して良い思い出を作ってあげたい。それが出来るのは貴方自身だけじゃないかな。一度位理由も理屈も無く誰かの為に動いてもいいと思う。それが人を好きになるって事だと思うから」
ステーツマンは椅子の背に体をもたれかけさせた。
「邪神が倒されこのユニオンと私が消えることが、μのためになると言いたいのかね」
ユメリアが静かに割って入る。
「私たちは邪神に飲み込まれた世界を消そうとしているのではありません。終わらせようとしているのです。また、新しく始めるために」
「終わるということは、消えるということだろう」
シガレットは手のひらを下にして、まあまあ、というジェスチャーをする。
「世界の新生がどういう形のものになるのかは、正直俺たちにもよくわからん。だけどこのままループを繰り返したところで、何一つ変わらないのは確実だろう。マゴイはな、お前と共にありたいと願って許可証を用意したんだ。だから、俺たちが来た」
そこで一区切りして大仰に頭を振る。ちらちら相手を見やりながら。
「俺たちとしては、そこまで期待してくれた相手を泣かせたくはないなー。ステーツマンとてマゴイが故郷を救えなくて悲壮に打ちのめされるような、そんな悲劇で終わらせたくないだろう?」
説得のフォロー役に徹しているリオンは、やきもきしていた。
最速で行われる会議というのは、いかほどの時間を想定しているのだろう。
マゴイたちが戻ってくれば、ステーツマン一人を相手にした説得は中断せざるを得なくなる。
(それまでに、片がつけられそうですかね……まあ、態度は軟化してきているみたいですし……)
そんなことを思っていたとき、ルベーノが口を開いた。
「……お前、μにとってのただ1人のαを目指すつもりはないか?」
「は?」
「お前がただ歪虚として負のマテリアルのうちにμを連れ込もうとするなら、何度でも俺達は立ち向かう。だがお前が別の道を模索してμの傍に立とうとするなら、俺達は、俺は……お前の手伝いをしたいと思う」
「一体何様のつもりでものを言ってるのかね原人」
最初からだが、ステーツマンは彼に対し明らかに好意的でない。これまでの経緯を考えれば、無理もないが。
「俺はユニゾンに遺伝子登録した」
「 あ ?」
負マテリアルの気配が急激に高まっていく。今の発言で感情を害したのは明白であった。
「……それはあれかね、市民になったということかね?」
リオンは腰を浮かせた。まずくなったらすぐに撤退出来るよう、ファイアーボールを打ち込めこむために。
そうしながらルベーノに向け、手を振る。頼むからこれ以上の発言をストップするようにと。
しかし当のルベーノはリオンの焦りもステーツマンの怒りも一切意に介さない。そのまま会話を続ける。
「いいや、市民にはなっていない。今後なるつもりもない。ユニオンの理念に殉じることは、俺には無理だ」
ステーツマンの周囲でうごめく負の気配がいったん落ち着いた。
リオンはほっとし、腰を下ろす。
「……へえ、そうかい。なら何故登録したんだね」
「英霊のμを1人にしたくなかったからだ。俺は世界を敵に回してもユニオンを再建したかったμの反骨精神を愛した。だがユニゾンで生まれる俺が俺のままなら、制度の守護者であるμには反抗しかせんだろう。100人もいれば1人くらい恋に狂う俺もいるかもしれんが……それではあまりに意味がない。俺はあと15年もすれば消えよう。μの傍に永遠に居られる可能性があるのは、今力があるお前だけだ」
「そこまで理解しているなら、なんで私の行動を悉く邪魔をしようとするんだ?」
「勘違いするな。お前がμにとって無害なものとなる気があるなら手伝おうと言っているだけだ。そうでないならお前は俺にとって敵でしかないわ」
説得とは別の話になってきてないかと汗をかくレイア。
これも恋のさや当てという奴なのだろうか。
思いながらエーミは、ステーツマンに耳打ちする。
「これはコンサルタントよ。確かめたいんだけど、μの描く、ステーツマンらしさって何かしら」
怪訝な顔をする相手に、続けて一言。
「貴方、復活後一度もステーツマンらしいって言われてないわよ?」
ステーツマンはいやそうな顔をして言った。
「ユニオン法に基づき、公平公正な裁定を下すこと。ユニオンのために働くこと――それだけだ。だが私はもう、そんなものにはうんざりなんだ」
「そう。分かるわ。ずっとそれだけ求められてきたんだものね。だけどもう一度だけやってみたら? ステーツマンとしての仕事を」
ディーナがそこに付け加えた。
「きっと、今がそれをやる最後の機会なのステーツマン。このまま何もしなければあなたは、この宇宙の中で、いつか擦り減って消えてしまうの。そしたら、もう何の望みもなくなってしまうの」
シガレットは紫煙をくゆらせる。
「実際問題、ユニオンの外は邪神の内部宇宙で危険だからな……自衛手段として武力は必要になるから、どのみち超法規的措置が必要だと思うがな」
そこで、マゴイたちが戻ってきた。
●結論は
タワーに向かったJとルンルンを待っていたのは、マゴイの大移動であった。
「α・ステーツマン、承認を!」「α・ステーツマン、許可を!」「α・ステーツマン、裁定を!」
「おおーい、色々聞いてき……なんだあ!?」
「あわわわ、マゴイさんが、マゴイさんがいっぱいすぎますう!」
気おされはしたものの、ステーツマンの元へ行くというならひとまず行き先は同じ。
ということで白い波に加わる。
「ステーツマン、どこだー」
「返事してくださーい」
ついた先はロビーだ。
ステーツマンとハンター仲間がそこにいた。
Jはとりあえず、集めてきた資料をステーツマンに渡す。
「各階層の回答はこんな感じでな……俺は今回の邪神の行動がユニオンへの侵害にあたるので協調しなくても断固として立ち上がる、で良いんじゃないかと思うんだが」
ルンルンはJが取りだめてきた画像を彼に見せた。
選んだのは公園で遊んでいる子供たちの姿。
「市民を護れる可能性があるなら、それをしないのは市民の安全を守る義務違反になる気がします」
それを見たステーツマンは心底驚いた顔をする。
「――幼児期の市民が、まだユニオンにいたのかね?」
と近くのマゴイに聞く。マゴイは不思議そうに、はい、と答えた。
「……ウテルスの健康状態が悪化していることから……生産作業は一時中断されていますが……それ以前に出生した市民はもちろんいます」
そういうことも長い繰り返しの中で忘れてしまっていたのかな、と詩は思った。だとしたら悲しい事だとも。
「……資料を作成しましたので確認してください」「こちらも……」「こちらも……」
ステーツマンは渡された書類を確認し、テーブルの上に置く。
その口から出たのは以下の言葉だった。
「超法規的措置を承認する。ユニオンの防衛に必要な最低限の人数を割りだしたまえ。それを差し引いた残りの人員が、今回の支援要請に応じることを認める」
マゴイたちの間に衝撃が走った。
「超法規……」「超……」「これは、これまでにないこと……」「ないこと……これが初めて……」「前例がない……」
ユメリアはおろおろする彼らをなだめて回る。
「不安になることはありません。ユニオン法がいかなる精神性を持って立法されたか――それを思い出しさえすればいいのです」
ステーツマンはハンターたちに告げる。
「μに伝えておいてくれ。次のステーツマンが出来るまでの間は、君がユニオンにおける決定権を行使してもいいと。私はそれを許可すると」
ルベーノは言った。
「お前は来ないのか?」
ステーツマンは数秒間を置き、苦笑した。
「行かないよ。私はユニオンと一体だからね――μと同じで」
こうして一部のマゴイとソルジャーは、ハンターたちと共に旅立った。
そして、他の異界からの協力者と同じように燃え尽きた。彼らをジュデッカに送り込む礎となって。
ありがとう、運命共同体。
素敵な物語をありがとう。
ひりつく乾ききった風。
巻き上げられる多量の土埃。
遠い所から地鳴りが響いてくる。それは大地が崩落し、奈落に飲み込まれていく音だ。
ユメリア(ka7010)は土埃の入った目をしばたたかせ、遠方を見やる。
そこには巨大な真四角の箱があった。
「あれがユニオン……なのですか?」
彼女の問いにルベーノ・バルバライン(ka6752)が答える。
「そうだ。あの結界の中に町がある」
「入り口などはございますか?」
「いや、そういうものはない。総じて警戒心が強い国だからな」
シガレット=ウナギパイ(ka2884)が付け加えた。
「一見さんはお呼びじゃないって感じだなあ、基本的に」
それを聞いてユメリアは、少々不安になってくる。
「私たちを受け入れてくれますでしょうか」
「そこは問題ないと思うぜ。なんたって優良外部者証明書と滞在許可証があるんだから。なあルベーノ?」
「ああ。他ならぬマゴイの一員が身分保障をするのだ。入国許可を出さぬわけがない」
ひときわ強い風が吹き付けてきた。
エーミ・エーテルクラフト(ka2225)が口の中に入った土ぼこりを咳と一緒に吐き出す。
「入るまでは問題なしとして、難しいのはそこからなのよね。特にステーツマン。管理者である彼は、私たちのことを確実に覚えているはずだし」
ミグ・ロマイヤー(ka0665)はうーむと唸る。彼女にはステーツマンの人となりが、いまいちよく分からない。
一度会うには会ったこともあるのだが、その際相手は人間でなく蟻であった。特に会話をしたこともないし……。
「スターツマンといえば以前のアリ野郎じゃな。あれは難物じゃなー」
エルバッハ・リオン(ka2434)は嘆息した。
可能ならそうならないで欲しい。自分たちにはここでゆっくり戦闘している余裕など無いのだ。全ての力は可能な限り温存しておきたい。邪神本体との戦いのために
「……もし説得が失敗したら、すぐに撤退できるようにしておかないといけませんね」
レイア・アローネ(ka4082)は頭を悩ませる。彼女はステーツマンについてほとんど知らない。マゴイにとって大変思い入れ深い相手である、ということ以外は。
(説得……と言っても難しいだろうな。情に訴えた交渉は厳しいだろうし、かといって理詰めの説得をしても本人が納得しなければ意味はないし……)
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)もまた考えあぐねている。知恵熱が出そうな勢いで。
(ユニオンをこのまま只滅びの運命を、受け入れるだけのものにはしたくないもの、だから、だから)
天竜寺 詩(ka0396)とトリプルJ(ka6653)は、その後ろで会話をしていた。
「なんだ、スペットの元の顔の資料はもう手に入っているのか?」
「うん。前に来たときにね。でもほんの一枚か二枚だけだから……今日また改めて資料とってきてくれるっていうなら、すごく有難いよ」
「市民撮影の許可は、すんなりもらえた感じだったか?」
「私は許可なしで撮影したけど、特に注意とかされなかったよ。まあ、マゴイと一緒にいたからかも知れないけど……」
星野 ハナ(ka5852)とディーナ・フェルミ(ka5843)も言葉を交わし合っている。
「世界がたった1人で回されてるってのもどうなんでしょぉ。特にその1人が全く報われていない場合にはぁ」
「不毛だし不幸なの。もうそういうことは、やめさせなきゃいけないの」
結界の間近まできた。
知っている人にはお馴染みである男女一対のマゴイが出てくる。
どっちも英霊マゴイそっくりな顔立ち。
(前見たときより随分しおたれているような……)
ルベーノがそう思ったところで、お約束の問答が始まる。
「……あやしい人達ね……」
「……どう見ても市民じゃないね……」
「……人に偽装した歪虚ではないかしら……」
「……オートマトンかも……」
詩がこほんと咳払いし、書類を呈示した。
「私たちあやしいものじゃないよ。ほらこの通り、優良外部者証明書と滞在許可証を持ってるんだ。確認してみて」
マゴイたちは驚きを示した。
書類が本物であると確認するや、非常にゆるゆるした動作で互いの両手を握りあい、上下に振る。どうやら喜びを表現しているらしい。
「……これは間違いなく、ユニオンによって発行された正式の書簡……」
「……μ・F・92756471・マゴイが生きている……」
「……ウテルスも生きている……どうぞお入りなさい外部者……あなたがたから今の話を聞ければ……きっと皆喜ぶ……」
かくしてハンターたちはすんなり入国することが出来た。
ゆったり広々した通り。こんもり茂る街路樹と花盛りの花壇。建築物のどれもこれも差異が無く、判で押したように四角く白い。住人自体の容姿は被り気味だ。服装も。
町の中心にそびえ立つのは、方形を組み合わせて出来た螺旋状の巨大な建築物、タワー。
訪問経験者には、どれもこれも見慣れたものばかり。
だがこの前来たときとは明らかに異なっている点がある。
結界の内側に広がっている空だ――多数の映像が浮かんでいる。全て、体内宇宙にある異世界の光景だ。どの世界でも人間が「終末」と戦っている。
しかし道行くユニオン市民は、それらをほぼ気に止めていない様子。
(普通あんなものがいきなり空に浮かんできたら、パニックが起きてもおかしくないと思うのじゃが)
疑問を抱いたミグは、マゴイたちに聞いた。
「のう、あれが何なのかを知っておるか?」
「……あれは邪神の中にある」
「他の世界の映像……」
「あ、分かっておるのじゃな。ならいいが……民には何と説明しているのじゃ?」
「……危険なものではないから大丈夫」
「気にしないようにと……」
たったそれだけでこうも素直に気にしなくなるあたりがユニオン最大の問題では無かろうか、とシガレットは思う。
「見事に揃った町だな、色々と」
「……そうでしょう……きれいに揃っているでしょう……」
「……均等な環境を安定して共有出来る……こんなよいところは他にない……」
彼の皮肉はほめ言葉と受け取られてしまったようだ。
Jはいち早くユニオン見学の申請をした。簡単な事情説明を交えて。
「――あちらでのウテルス再建に貢献したということで元の顔に戻すことになったらしいのに、元の顔が分からなくなっていて大変だ、とか言う話を小耳に挟んだんでな。ここならその資料がありそうだから、確認できたらと思ったんだ。何しろ滅多にこれない場所だろう」
マゴイたちは彼の話を聞いた後、顔を見合わせた。
「……追放者の頭部復元手術に関しての条項は……ユニオン法に記載されていないわね……」
「……ないね……だからそれについては十分に会議を経て書類を整えないと……」
「……でもμ・F・92756471・マゴイのところには……まだ彼女以外のマゴイはいないそうだから……」
「……きっと、とても困っているね……このことについては後で会議をしよう……」
お定まりの台詞でまとめた後彼らは、近くの壁にはまりこんでいるウォッチャーに話しかけた。
「……ウォッチャー」
「……外部者がユニオン見学をしたいそうなので、ついていってあげなさい」
ウォッチャーが押し出されるように壁から出てきて、挨拶する。
【ハロー、外部者。私はあなたの案内役です。あなたの行動を見守ります。法に触れると思われる行動には警告を発し注意を喚起します。お止めいただけない場合は制止、通報いたします】
英霊マゴイと何度か接触した経験があるJにはなんとなく分かった。彼らが悪意をもってこうしているのではないということを。
だからまあ、突っ込みは控えておく。
「おーい、んじゃ俺は町の中回って大雑把に意見聞いてくるぜ」
そう仲間に告げ別行動を取る。
ルンルンはそれを追いかけた。
「あ、待ってください、私も一緒にユニオン観光しますうー!」
●真打登場
タワーのロビーに姿を現したステーツマンは、ハンターたちを一瞥し、マゴイたちに尋ねる。穏やかな口調で。
「一体どこの誰なんだね。この外部者たちは?」
自分たちのことを忘れているのか?なんて、エーミは全然思わなかった。
ステーツマンらしからぬ振舞いをしたが最後、マゴイたちは彼に従わなくなる。恐らくそれを警戒し、何事も無かったかのようにしらばっくれた演技をしているのだろう。
(法はαに個人であることを許さない――それが前回、勝てた理由よね)
マゴイたちはステーツマンへ順を追って説明する。
ユニオンはすでに邪神に飲まれ、滅びてしまっていること。
しかしクリムゾンウェストという別の世界にユニオンが再建されていること。
再建したのはμ・F・92756471・マゴイであること。
そのクリムゾンウェストが対邪神戦争への参戦要請をしてきていること――。
それらが一段落したところでユメリアが、首を振った。
「戦争? いいえ、これは災害です。ユニオンの皆様、同邦者」
同邦者――彼女はユニオンの人々をそう呼ぶ。彼らをクリムゾンウェストという星の同居人と見なして。
「あなたがたも私たちも、星の土地を間借りしています。その土地が毀損されようとしているのです。間借りしたもの同士の喧嘩というなら不関与は大変素晴らしい法です。ですが、今起きていることはそうではない」
この戦いにもし負けるようなことがあれば、土地そのものが失われるのだと力を込めて説く。邪神自身も暴走状態にあるのだということと併せて。
「これは星が地震や嵐を起こし、自らの環境を傷つける行為に等しい行為ではありませんか? 隕石などの天災、自他共に損害を被っている、またユニオンにも被害が想定される場合、ユニオンの法律はどうなっていますか? 私達は命を賭けています。既に失った命もある。あなた達は何を供出できますか?」
マゴイたちはこの提案を受け、順繰りに話し始めた。
「……自然災害の際における他国への働きかけは……」
「……被災者の生活支援……そして復旧復興支援……に限られる」
「……支援物資は……」
「……軍事転用にならないよう厳重に規制をかけた上で……」
ハナはじれったげに頭をかいた。
「いや、今私たちが欲しいのは物資とかなんとかそういうモノじゃなくて、ヒトなんです、ヒト。こちらに人員派遣とかはしてくれないんですかぁ?」
「「……ユニオン労働基準法第112条 【ユニオン外部者との間における契約についての適用】を根拠として……派遣者に対し……完全にユニオン法に従った扱いをするという条約を、ユニオンと正式締結するならば可能……」」
詩は唐突に思い出した。マゴイがコボルド・ワーカーを初めて郷祭に派遣してきたときのことを。
(そういえばあの時マゴイは、ワーカーの保護についてこまごました契約文書を作ってきていたような……)
ミグは頭を抱えたくなってきた。
ステーツマンの説得が難しいだろうということは予想していたのだが、もしかするとこのマゴイたち、それ以上に手ごわいのではないだろうか。
「ミグらはおぬしらに変化を与えたいんじゃが、おぬしらは法を守りたいんじゃろ?」
「……守らなくてはユニオンではない……」
「それはこの世界を守ることに通じると信じているからじゃな?」
「世界というか……市民の幸福を守る……」
「しかし、ここ以外でもつぎつぎとミグらの味方は増えて居る。このままだとミグらが勝つやもしれん」
「……そういうこともあるかもしれない」
「邪神が負けたらこの世界も消えてしまうな?」
「……とても残念だけどそのとおり……でも、ウテルスは別の場所でちゃんと生きているので大丈夫……ユニオンは不滅……」
「……そ、そうか。まあそれはさておき、ならば、勝ち組にのるのも悪くはないと思うが、ユニオン法では加勢は許されていない?」
「……軍事協力ということであれば先に述べたとおり許されていない」
「ところで話は変わるがユニオンにも祭りとかはあるじゃロウ?」
「……いいえ」
「そうじゃろそうじゃ――え? な、ないのか? 祭りが?」
「……週二日の休日と、年に二カ月の長期休暇以外……これといって特にない」
そういえば以前マゴイもそう言ってたな、とルベーノは改めて思い出す。
そこでステーツマンが口を開く。マゴイたちに命じる。
「なるほど、確かにそれは容易ならざる事態だね。マゴイ階級は全員会議に赴きたまえ。この問題に対する所見を最速でまとめ、この場に戻って提出すること」
「「……了解しましたステーツマン」」
マゴイたちはいっせいに散って行く。
彼らが一人もいなくなったところでステーツマンは、改めてハンターたちに視線を向けた。
先ほどとは打って変わって、ものすごく忌々しげな表情だ。
エーミはそれを恐れることなく話しかける。
「αさん、でいいかしら? これはかつて貴方が口にした願いからそう呼ぶのだけど」
「かつて? 妙な言い方をするね。ついさっきのことだろう」
その言葉によってルベーノは、彼の時間感覚が自分たちの時間間隔と大きくずれていることに気づいた。
腕組みし相手を見据える。
「久しぶりだな、ステーツマン。……俺達にとってはお前と会ったのは1年以上前だが、お前にとっては違うようだな」
ディーナはすいと前に出て、ステーツマンに手を差し出す。
「こんにちはなの、αさん。私は聖導士のディーナ・フェルミと言うの。この世界と貴方を救うお手伝いが出来るかもしれないと思って話合いに来たの。少しで良いの、話を聞いてほしいの」
ステーツマンはその手を取ろうとしなかった。
だが彼女は、かまわず続ける。
「前回の周回から、私達は正確には15か月経っているの。それはこの前の戦闘で貴方が消耗したことが大きいかもしれないけど。それでもこの周回が終わった時、次の周回が始まるまでに、私達と邪神との決着はついている可能性が高いと思うの。だから……貴方が意思表明をして、世界と貴方自身を救う可能性は、この1回を逃せば失われると思う。だから来たの」
●ユニオン世論調査
Jとルンルンはウォッチャーを伴い大通りを行く。資料写真を撮り溜めながら。
通りに面した建物の一階は、全て商店となっていた。
商品の並べ方は分かりやすいけど画一的で、POPらしきものも見当たらない。
「あんまり「売ってる」という感じがしませんねえ」
「まあ、競争原理とか働きようがないだろうからなあ」
ブティックを覗けば、品が全て「緑系統」「赤系統」「白系統」「青系統」に色分けされていた。
ユニオン市民は階級毎に色分けされた制服を着ているとは聞いていたが、私服に対してもそのルールは適用されるものらしい。
何とも窮屈なことだとJは思う。
とはいえ、買い物に来ている市民は楽しんでいる。品物を手にとってみたり、鏡の前で体に合わせてみたりしている。
Jはワーカーの客に近づき、質問してみた。
「ユニオンには『超法規的措置』と言うものがあるらしいな?」
「おう、あんな」「な」
「それは、どういうものなんだ?」
「いや、知らん」「俺らワーカーやさかい、内容まで習わへんで。そういうことはマゴイに聞いてみいな」
Jは内心ため息をついた。
そういう趣旨の返事が戻ってくるんじゃないかなあと、なんとなく予想していただけに。
「そうか、それなら、ユニオンが他者からその生存を侵害された時どういう事をすることになっているのか知っているか」
「そらもうマゴイが考えて、ステーツマンが決めて、ソルジャーが戦うねん」「な」
その後ソルジャーの客にも聞き取りしてみたが、返ってきた答えはほぼ一緒だった。
「マゴイが考えて、ステーツマンが決めて、わしらが戦うのだ。そしてユニオンを守るのだ」「その通り」
……こんなことでいいのだろうか。
いや、よくないからこうなっているのか。
悶々としつつレストランらしき店を覗けば、肉野菜穀類。焼く煮る揚げる蒸すの違いはありそうだが、ブロック状に整形された食べ物ばかりであった。
ルンルンはそれに、ちょっとがっかり。
「ユニゾンの外部者宿泊所で出てくるものと一緒ですねえ……」
●まずはテーブルに
「そうか、随分間が空いたものだね」
苦々しげに吐くステーツマンにリオンは、改めて挨拶をした。
「エルバッハ・リオンと申します。よろしくお願いします」
いつもの愛称呼び願いを省略したのは、相手の機嫌を損ねることを憂慮したからだ。
エーミはステーツマンに対し、最も効果があるだろう人物の名を出すことにする。
「μの手土産を出したいから、少し怠惰の力は抑えてくれる?」
沈黙があった。
蠢いていた負のマテリアルが、不承不承といった具合に弱まっていく。
詩は横笛を取り出し、吹き始めた。サルヴェイションを使って相手を落ち着かせようと。
しかし、そこでステーツマンが鋭い声を出した。
「止めてくれるかね、妙な音を鳴らすのは」
怒らせては本末転倒なので、直ちに止める。
(彼の説得は無理そうですね)
リオンはひそかにそう思ったが、口には出さなかった。
エーミは険悪なムードを一切気にしていない素振りで、再度ステーツマンに言う。
「よければ、テーブルなんかあるといいんだけど。お土産の中にはね、ユニゾンで作られたティーセットがあるのよ。ドライフルーツのお菓子もね。ちょっとお話ししましょう。そうしたって、あなたの損にはならないでしょう?」
「どうだかね」
ルベーノがずいと前に出る。真剣な面持ちで。
「話がある。この世界たった1人のステーツマン、たった1人のαに。……お前以外に聞かせる話ではないとも思うぞ。世界の周回を認識できるお前以外には」
ステーツマンは、顎でロビーの片隅を示した。そこにはテーブルと椅子が置いてある。
とりあえず話をする気にはなってくれたようだ。
シガレットは思い出す。この世界の崩壊に立ち会ったときのことを。
あの時感じた無力感を二度も味わいたくはない。どうにか超法規的措置を引き出したい。
今回は正真正銘、最後のチャンスだ。
それを生かせるかどうかは、ステーツマン次第。ステーツマンを納得させられるかどうかは、ハンター次第。
●未来のかげろう
Jとルンルンは、町の中にある緑地帯を訪れていた。
どうやら公園的な施設らしい。
3、4歳くらいの子供たちが群れていた。青服、白服、赤服、緑服のグループに分かれ、遊具で遊んでいる。
一番数が多いのが緑。次に赤。白になるとぐっと少なくなり、青は一握り。
エプロンをつけたワーカーの男女が多数いて、それらの相手をしてやっている。
Jはそこへ無造作に彼らに近づき、話しかけようとした。
「よう、ちょっといいか?」
その途端エプロンをつけたワーカーたちが、首に下げていた笛を吹いた。
公園周辺にいた無関係なワーカーたちがこぞって立ち止まり、心配そうな顔で集まってくる。
反対側の通りを巡回していた赤服ソルジャーの一団が急に方向を変え、足早に近づいてくる。
ウォッチャーがJの前に割り込んだ。
【外部者、あなたは幼児期の市民に対し、突発的に一定の距離を越え急接近してはいけません。それは彼らに不安を与える行為です。各階級における児童保護のための反射行動も喚起します。離れてください。】
Jは急いで下がった。敵意がないことを示そうと両手を挙げる。
「分かった、悪かった。いや、脅かすつもりはなかったんだ」
それで納得したのかウォッチャーは退き、引率のワーカーに声をかける。
【どうぞ、仕事を続けてください。ナニー・ワーカー】
周辺のワーカーたちが安堵したように再び散っていく。
ソルジャーの一団も足を止め、方向を変えた。
ナニー・ワーカーは子供たちを促し、場所を移動させる。
そのとき数人の子供が立ち止まって振り向き、Jたちのほうを見た。見慣れない人間が気になったらしい。
ルンルンはにこっと笑顔を浮かべ、小さく手を振った。
子供たちの顔がうっすら緩んだ。特に何か言うわけではなかったけれど、それでも彼らは同じように手を振りかえした。
そのことに彼女とJは感銘を覚える。
ユニオンの子供も結局は、自分たちが知っている子供と一緒なのだ。好奇心というものがあるのだ。
「こんな風に日々の暮らしを送っている人達を、何時までも滅びのループに囚われさせたくないな」
「ああ、そうだな……」
●交渉
エーミが出してきたユニゾン製のカップに、詩がコーヒーを注ぐ。ドライフルーツを沿え、めいめいの前に置く。
最初に話の口火を切ったのは、ディーナだった。
「この世界はステーツマンα、貴方を中心に再生と崩壊を繰返しているの。邪神は貴方を乾電池代わりにして、ユニオン最後の日を延々繰返して――」
ステーツマンはうるさそうに話を遮る。
「知っているよ、そんなことは」
「なら、話が早いの。私達は邪神を倒して、その力で取り込まれた世界を再生する方法を探しているの。貴方がもう1度、貴方だけの自分として力を振るえる時間を取り戻す、その世界を作るために。反逆の意志を持つだけでいいの。協力してもらえないかな」
「邪神が倒されたとしても、この世界は再生されないよ」
「じゃあ、どうなると思うの?」
「どうなるって、消えるだけさ。私ごと跡形もなくね。ほかの世界に関しても、そこは全く一緒だと思うが?」
身も蓋も無い認識にハナが異議を唱える。
「私達の世界で力が強いものは英霊に転化したりますよぅ。そういう意味ではぁ、貴方は世界が変わったら英霊に転化する可能性は高いと思いますぅ」
ステーツマンは薄笑いを浮かべた。
相手が言うことを全く信じていないこと確実な表情である。
「へえ、そうかい。そうなれたら本当に素晴らしいね。でも現実にそういうことは起きないね」
ハナは話題を変えようとした。
世界の再誕について論じあっても、埒が明かないと。
「……ものすっごくぶっちゃけますとぉ、ループの間に超法規的措置で他の世界や邪神に攻め込むってぇ、時間が短すぎて凄く難しいと思うんですぅ。貴方がもしも今をこの前私達と戦ってからの時間が少し前にしか感じられていないとしたらぁ、この世界のループは数週間どころか数日しかないことになりですからぁ」
「初めから数日単位で動いているんだよ、この世界は。前回の訪問から間もないように感じられていることについては、実際にそれだけの期間停止した状態だったからだろうよ。何しろ随分あちこち壊されたものだからね……」
シガレットは葉巻を口からはずし、コーヒーをひとすすりした。
「惰性に流されてリプレイを繰り替えているわけではなかろう。俺たちと遭遇する前から、幾星霜と正攻法から邪道まで試行錯誤をしてきたのだろう? ここ数回分、俺たちが邪魔しているのはどうしようもない事実で怒るのも仕方ないことだが……」
ステーツマンは頬杖をつき、どんよりした眼差しを宙に泳がせる。
「さあ、どうだったかね。もう結構前に、そういうことは止めていた気がするがね。何をどうやったって同じ結果にしか行き着かないんだよ。ユニオンにおいては」
エーミはコーヒーを匙でかき回した。とろみのある渦を眺めながら猛烈な速度で思考を巡らせる。ステーツマンが何を考えているのかを察しようと。
「貴方は記憶を保ち輪廻する。確かに『神様』は的を射た説明の仕方だったわね。前言は撤回ね、必要なら謝罪もするけど――でも、ユニオンは、その神様の上に『法』を置いた国なのね」
「そうだ。ここは法治国家だからね。神さえも法に服しなければならないのさ、服した結果がどうあろうとも」
そこでレイアが疑問を呈した。
「ステーツマンは超法規的措置を取れる権限を持っているのではないのか? それを使えば法を超越出来たのではないのか?」
「理論上はね。だがそれをやったステーツマンはユニオン史上ただの一人もいないよ。私を含めてね」
「何故そうしなかったのだ。使わずして、なんの為のものだ。ただ単に形骸化している法に意味はあるのか」
ステーツマンは、はは、とまるで気がないふうに笑った。
「法の形骸化とは、法があっても守られない状態を言うんだよ。逆だ。ユニオンでは法は、形骸化ではなく血肉化しているんだ。超法規的措置を命じたところで、誰もまともに動けやしないよ。ユニオンでは誰も彼も――特にマゴイは――法が命じる通りにしか行動しないようになっているんだからね」
マゴイが教条主義のかたまりである事は確かに疑いようがない。
だけにステーツマンのこの言葉は、ハンターたちにも一定の説得力を持って聞こえた。
だが同時にハンターたちは、そのマゴイの一員であったμ・マゴイが英霊化の後紆余曲折しながらユニゾンを作り上げたことを知っている。同じく英霊となったθ・ソルジャーが村の守り神となっていることも、スペットと名を変えたβ・ワーカーが刑務所で更正の道を歩んでいることも。
だから、ユニオンの市民たちも、あるいは、もしかして、全部ではないにしても幾人かは――新しい状況に適応出来たのではないだろうかという思いを抱く。
エーミはドライフルーツを齧り、夢想した。
(もしあの日、μさんの存在があれば、αさんは超法規的措置を講じたのかしら? たった一人の彼女を守るために)
それに連動するかのように、詩が口を開く。
「ねぇ、ステーツマン。違ってたら御免。貴方はマゴイを、こちらのマゴイを愛してた、そうなんじゃないかな?」
ステーツマンの表情から怠惰が抜けた。
聞いてはならぬことを聞かされたかのような口ぶりで言う。
「それはここで出すべき種類の話なのかね」
出すべき話題だ。詩はそう確信している。
「少なくとも彼女は貴方を愛してた。私はそう思う。自分では気づいてなかったかもしれないし、絶対に認めないだろうけど。それは貴方も一緒かもしれないけどね」
ステーツマンの表情がますます気詰まりなものになってきた。
「何を根拠にそういう事を言ってるのかね」
「何って、色々だよ。これまでのあなたの言動とか、マゴイの言動とか。貴方に私達に協力する義理も義務もない。でもマゴイの為なら協力できるんじゃないかな。一人の為じゃなく多数の為に尽くすのがユニオンの法なら、それを超えて一人の為に動けるのが超法規的措置って事じゃない?」
詩の脳裏に浮かぶのは、マゴイが負のマテリアルに汚染された時の姿だ。
ただ大勢のステーツマンのうちの一人、友愛の対象としてだけ相手を見ているものなら、あそこまで落ち込むことがあるものか。諦めだってすぐにつくはずだ。
「それに今のままじゃマゴイは貴方に対して悲しい思い出しかない。彼女に貴方に対して良い思い出を作ってあげたい。それが出来るのは貴方自身だけじゃないかな。一度位理由も理屈も無く誰かの為に動いてもいいと思う。それが人を好きになるって事だと思うから」
ステーツマンは椅子の背に体をもたれかけさせた。
「邪神が倒されこのユニオンと私が消えることが、μのためになると言いたいのかね」
ユメリアが静かに割って入る。
「私たちは邪神に飲み込まれた世界を消そうとしているのではありません。終わらせようとしているのです。また、新しく始めるために」
「終わるということは、消えるということだろう」
シガレットは手のひらを下にして、まあまあ、というジェスチャーをする。
「世界の新生がどういう形のものになるのかは、正直俺たちにもよくわからん。だけどこのままループを繰り返したところで、何一つ変わらないのは確実だろう。マゴイはな、お前と共にありたいと願って許可証を用意したんだ。だから、俺たちが来た」
そこで一区切りして大仰に頭を振る。ちらちら相手を見やりながら。
「俺たちとしては、そこまで期待してくれた相手を泣かせたくはないなー。ステーツマンとてマゴイが故郷を救えなくて悲壮に打ちのめされるような、そんな悲劇で終わらせたくないだろう?」
説得のフォロー役に徹しているリオンは、やきもきしていた。
最速で行われる会議というのは、いかほどの時間を想定しているのだろう。
マゴイたちが戻ってくれば、ステーツマン一人を相手にした説得は中断せざるを得なくなる。
(それまでに、片がつけられそうですかね……まあ、態度は軟化してきているみたいですし……)
そんなことを思っていたとき、ルベーノが口を開いた。
「……お前、μにとってのただ1人のαを目指すつもりはないか?」
「は?」
「お前がただ歪虚として負のマテリアルのうちにμを連れ込もうとするなら、何度でも俺達は立ち向かう。だがお前が別の道を模索してμの傍に立とうとするなら、俺達は、俺は……お前の手伝いをしたいと思う」
「一体何様のつもりでものを言ってるのかね原人」
最初からだが、ステーツマンは彼に対し明らかに好意的でない。これまでの経緯を考えれば、無理もないが。
「俺はユニゾンに遺伝子登録した」
「 あ ?」
負マテリアルの気配が急激に高まっていく。今の発言で感情を害したのは明白であった。
「……それはあれかね、市民になったということかね?」
リオンは腰を浮かせた。まずくなったらすぐに撤退出来るよう、ファイアーボールを打ち込めこむために。
そうしながらルベーノに向け、手を振る。頼むからこれ以上の発言をストップするようにと。
しかし当のルベーノはリオンの焦りもステーツマンの怒りも一切意に介さない。そのまま会話を続ける。
「いいや、市民にはなっていない。今後なるつもりもない。ユニオンの理念に殉じることは、俺には無理だ」
ステーツマンの周囲でうごめく負の気配がいったん落ち着いた。
リオンはほっとし、腰を下ろす。
「……へえ、そうかい。なら何故登録したんだね」
「英霊のμを1人にしたくなかったからだ。俺は世界を敵に回してもユニオンを再建したかったμの反骨精神を愛した。だがユニゾンで生まれる俺が俺のままなら、制度の守護者であるμには反抗しかせんだろう。100人もいれば1人くらい恋に狂う俺もいるかもしれんが……それではあまりに意味がない。俺はあと15年もすれば消えよう。μの傍に永遠に居られる可能性があるのは、今力があるお前だけだ」
「そこまで理解しているなら、なんで私の行動を悉く邪魔をしようとするんだ?」
「勘違いするな。お前がμにとって無害なものとなる気があるなら手伝おうと言っているだけだ。そうでないならお前は俺にとって敵でしかないわ」
説得とは別の話になってきてないかと汗をかくレイア。
これも恋のさや当てという奴なのだろうか。
思いながらエーミは、ステーツマンに耳打ちする。
「これはコンサルタントよ。確かめたいんだけど、μの描く、ステーツマンらしさって何かしら」
怪訝な顔をする相手に、続けて一言。
「貴方、復活後一度もステーツマンらしいって言われてないわよ?」
ステーツマンはいやそうな顔をして言った。
「ユニオン法に基づき、公平公正な裁定を下すこと。ユニオンのために働くこと――それだけだ。だが私はもう、そんなものにはうんざりなんだ」
「そう。分かるわ。ずっとそれだけ求められてきたんだものね。だけどもう一度だけやってみたら? ステーツマンとしての仕事を」
ディーナがそこに付け加えた。
「きっと、今がそれをやる最後の機会なのステーツマン。このまま何もしなければあなたは、この宇宙の中で、いつか擦り減って消えてしまうの。そしたら、もう何の望みもなくなってしまうの」
シガレットは紫煙をくゆらせる。
「実際問題、ユニオンの外は邪神の内部宇宙で危険だからな……自衛手段として武力は必要になるから、どのみち超法規的措置が必要だと思うがな」
そこで、マゴイたちが戻ってきた。
●結論は
タワーに向かったJとルンルンを待っていたのは、マゴイの大移動であった。
「α・ステーツマン、承認を!」「α・ステーツマン、許可を!」「α・ステーツマン、裁定を!」
「おおーい、色々聞いてき……なんだあ!?」
「あわわわ、マゴイさんが、マゴイさんがいっぱいすぎますう!」
気おされはしたものの、ステーツマンの元へ行くというならひとまず行き先は同じ。
ということで白い波に加わる。
「ステーツマン、どこだー」
「返事してくださーい」
ついた先はロビーだ。
ステーツマンとハンター仲間がそこにいた。
Jはとりあえず、集めてきた資料をステーツマンに渡す。
「各階層の回答はこんな感じでな……俺は今回の邪神の行動がユニオンへの侵害にあたるので協調しなくても断固として立ち上がる、で良いんじゃないかと思うんだが」
ルンルンはJが取りだめてきた画像を彼に見せた。
選んだのは公園で遊んでいる子供たちの姿。
「市民を護れる可能性があるなら、それをしないのは市民の安全を守る義務違反になる気がします」
それを見たステーツマンは心底驚いた顔をする。
「――幼児期の市民が、まだユニオンにいたのかね?」
と近くのマゴイに聞く。マゴイは不思議そうに、はい、と答えた。
「……ウテルスの健康状態が悪化していることから……生産作業は一時中断されていますが……それ以前に出生した市民はもちろんいます」
そういうことも長い繰り返しの中で忘れてしまっていたのかな、と詩は思った。だとしたら悲しい事だとも。
「……資料を作成しましたので確認してください」「こちらも……」「こちらも……」
ステーツマンは渡された書類を確認し、テーブルの上に置く。
その口から出たのは以下の言葉だった。
「超法規的措置を承認する。ユニオンの防衛に必要な最低限の人数を割りだしたまえ。それを差し引いた残りの人員が、今回の支援要請に応じることを認める」
マゴイたちの間に衝撃が走った。
「超法規……」「超……」「これは、これまでにないこと……」「ないこと……これが初めて……」「前例がない……」
ユメリアはおろおろする彼らをなだめて回る。
「不安になることはありません。ユニオン法がいかなる精神性を持って立法されたか――それを思い出しさえすればいいのです」
ステーツマンはハンターたちに告げる。
「μに伝えておいてくれ。次のステーツマンが出来るまでの間は、君がユニオンにおける決定権を行使してもいいと。私はそれを許可すると」
ルベーノは言った。
「お前は来ないのか?」
ステーツマンは数秒間を置き、苦笑した。
「行かないよ。私はユニオンと一体だからね――μと同じで」
こうして一部のマゴイとソルジャーは、ハンターたちと共に旅立った。
そして、他の異界からの協力者と同じように燃え尽きた。彼らをジュデッカに送り込む礎となって。
ありがとう、運命共同体。
素敵な物語をありがとう。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/07/28 17:50:48 |
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相談卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2019/07/28 18:01:14 |