• 血断

【血断】世界を見る瞳

マスター:猫又ものと

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
3日
締切
2019/07/20 15:00
完成日
2019/07/28 08:27

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●決意
 ハンター達は、邪神ファナティックブラッドを殲滅するという決断を下した後。
 ――俺も決断した。
 黙示騎士達とも、ハンター達とも決別しない。
 そして、世界を出来る限り見続ける。

 邪神の願いも、ファーザーの願いも。歪虚の願いも。
 世界に生きる人々の願いに触れて、観ることは、いつかきっと役に立つ。
 この瞳の力になるはずだから……。

 ――それでいいですよね? シュレディンガー様……。

●実行
 ハンター達と対話をした後のテセウスは、結構忙しい毎日を送っていた。
 基本は、黙示騎士達の根城となっているサルヴァトーレ・ネロから世界を眺めているが、黙示騎士の仕事の合間を縫っては、ちょこまかと実際に出向いて、クリムゾンウェストのあちこちを見て回っていたからだ。
 ――元々、持っている能力が『転移』する能力だったのも幸いした。
 ちょっと遠出をしても、すぐ戻れるので。

 そして、観たものを忘れない為に。
 観たものを思い出す為に。
 記憶の整理をする為に――時々こうして、ノートに思い出を書き記している。

 ――最近思い出したのは、以前関わった歪虚達の記憶だ。
 元憤怒王だという、一風変わった歪虚との思い出。
 彼は膨大な力を持っていたが、とても愛想がよく、気さくで……色々な話をした。

「……へえ。あなた、ヒトが好きなんですか?」
「ええ、結構ね。私はヒトを美しいと感じます」
「じゃあ、何で全滅させようとしてるんですか?」
「すべてのヒトが美しいわけではありませんし。それに、私は生粋の歪虚ですから。ヒトとは相容れないのですよ。腐っても憤怒王ですから、ヒトの傍にいれば彼らを殺してしまう。……こうして、地面に咲く花もね」
 彼の足元に目をやるテセウス。
 深い蒼の衣の裾を彩っていた鮮やかな花々は、気付けば見るも無残に枯れ果てていた。
「ああ。一度でいいから、花に触れて、愛でてみたいものですね……」

 ――枯れた花を、切なげに見つめていた端正な顔立ちを思い出す。
 ……そうだ。今日は花を見に行こうかな。
 俺は負のマテリアルを抑えれば、花触れるし。
 どこかであの人に再会した時に、感想を教えてあげられるかも――。
 テセウスは立ち上がると、黙示騎士達に声をかけた。
「すみません! 俺ちょっと出てきます!」

●世界を見る瞳
「……すみません、ハンターさん。テセウスさんから手紙が来ているので確認して貰ってもいいですか?」
 人が多く集まるハンターズソサエティ。手紙を持って歩み寄って来たソサエティ職員、イソラに呼び止められ、ハンター達が振り返る。
「テセウスから手紙? 何かあったのか?」
「いえ、そういう訳ではなさそうなんですけど……見て戴いた方が早いかなって」
 顔を見合わせるハンター達。黙示騎士であるテセウスは、先日の説得により、ひとまずハンター達に協力を示す意向を見せている。
 ――まあ、黙示騎士への協力も続けるという割と無茶な感じではあったのだけれど。
 わざわざ手紙を送って来るなんて何事かあったのだろうか……?
「……ちょっと拝見するわね」
 イソラから手紙を受け取り、ハンターがそれを覗き込む。


 ハンターの皆さんへ

 こんにちは。テセウスです。
 近々そちらに、お花を見に行こうとおもっています。

 皆さんも宜しければ一緒にどうですか?
 黙示騎士のお仕事もあるので、長居はできないんですけど、お茶くらいならできそうです。
 差し入れとかあるとうれしいです。俺、甘いものがすきです。

 追伸
 今回も武器はおいて行きます。

 黙示騎士テセウス より


「……何だ。ただ単に遊びに誘ってるだけじゃないか」
「テセウスらしいわね……」
「というか、手紙が進歩してますよ!? 前はひらがなばっかりだったのに!!」
 短い手紙にそれぞれ反応を返すハンター達。イソラも苦笑しながら続ける。
「えっと、テセウスさんは一応こちらに協力の姿勢を示しているので、排除対象ではありません。ですが、一応黙示騎士なので監視の必要はあるかなと思います」
「了解。いつもの通りに同行してやればいいのかな」
「はい。くれぐれも街中での戦闘などがないよう、ご注意ください。それから……今、紫陽花が綺麗に咲いているので……良かったらテセウスさんに見せてあげてください」
「あら。素敵ね。場所は分かってるの?」
「はい! 地図をお渡ししますね」
 イソラの言葉に頷くハンター達。

 二度目の予告状を寄越した黙示騎士を迎える為、ハンター達は準備を開始した。

リプレイ本文

「……随分手紙が読みやすくなったわね。すごいじゃない」
「うん! あれから記録とか読んで、色々覚えたんだ!」
 アルスレーテ・フュラー(ka6148)に褒められ、えっへんと胸を張るテセウス。
 その様子に、彼女はなるほどなー、と目を細める。
 ――確かに子供の成長を見るのは楽しい。
 私も今後、子供を産んだりするのかしら。
 そうなったら……当然、その……彼と……。
「うがーーー!!!」
「姉さん、どうかした?」
「ごめん。何でもない!」
 突然叫んだアルスレーテを訝し気に見るテセウス。
 彼女はぶんぶんと頭を振って、脳内を過る妄想を振り払う。
「さぁて、それじゃ花見という名の宴会に行きますかぁ」
「花見と言うにはちょっと季節外れだけどね……って、その荷物どうしたのさ」
 アイスボックスにレジャーシート、その他もろもろを抱え、まるでキャンプに行くような装備のトリプルJ(ka6653)に目を丸くするラミア・マクトゥーム(ka1720)。
 そんな彼女に、トリプルJは当然、と言った様子で答える。
「ん? 野外で宴会じゃこんなもんじゃね?」
「おや。今日は宴会だったのかい?」
「おう。宴会つっても酒はなしだけどなー。甘味にゃ苦い酒しか合わねえし、アイツにゃまだ早いだろ」
 テセウスに美味しいものを食べさせてやろうという彼の気持ちが伝わって来て、くすくすと笑うルシオ・セレステ(ka0673)。
 その少し前を、キヅカ・リク(ka0038)とテセウスが話しながら歩いている。
「……それにしても、テセウスは何で花を見たいと思ったの?」
「俺の知り合いの歪虚が『一度花を愛でてみたい』って言ってたんだ。その人はもう消えちゃったんだけど……いつかどこかで再会した時に、感想を教えてあげられるかもしれないって思って」
「そっかー。そういうことかー。お前いい奴だなー!」
 バシバシと新米黙示騎士の肩を叩くリク。
 何を隠そう……全然隠せていないが、リクはこの手の話に弱い。
 全力で花を見せてやろう! と心に誓う。
 そしてテセウスはちょっと離れたところでこちらを見ているシアーシャ(ka2507)をに気づくと、とても嬉しそうに駆け寄ってギュッと抱きついた。
「シアーシャさん! 何でこっちこないの! 一緒に歩こ!」
「わっ。ちょっ。テセウス……!?」
「前は会うとぎゅっとしてくれてたのに、最近はしてくれないんだね」
「えっ。えっ」
「だから俺からすることにした!」
 と慌てるシアーシャを気にする様子もない彼。その頭にスパーン! とアルスレーテの手刀が決まった。
「はいはい、ストップ。セクハラ禁止!」
「いった!! 何で姉さん邪魔するの!? もしかしてヤキモチ?」
「んなワケないでしょ馬鹿なの!? 成長したと思ったけど前言撤回! あんたもうちょっと女子に対する振る舞いを覚えなさい!!」
「はいはい。姉弟喧嘩はそこまでなー。ほら、着いたぞ」
 2人を制止するトリプルJ。ふと目線を映すと、目の前に色とりどりの紫陽花が空に向けて誇らしげに胸を張っていた。
「わあ、すごい! 綺麗だ……! ねえねえ、この花の名前は何て名前?」
「これは紫陽花って言うんだ。雨の季節に咲く花だよ」
「へー」
 ルシオの説明に何度も頷くテセウス。
 彼女はそっと、丸い紫陽花の花に触れる。
「……綺麗だろう? 花はね、美しく咲いて虫を呼び、手伝って貰いながら種を残して枯れて行くんだよ。短い生を繰り返し種を残す」
「花はそうやって、次に繋いでいくの?」
「そうだよ。人はその花に言葉や物語を乗せる。花言葉は知っているかな?」
 首を振るテセウスに、ルシオは言葉を重ねる。
 紫陽花の花言葉は移り気。そして家族の団らん――。
「花の色によっても花言葉は変わる。こうやって、思いを花に託すんだね。興味があったら本を読んでみると良い」
「そんなこともあろうかと、本持ってきてるぜー。ホレ」
 微笑むルシオ。トリプルJから本を渡されて、テセウスは興味津々で読み始める。
 その様子をちらりと横目で見て、ラミアが口を開く。
「で? あんたはどんな花が好きなのさ」
「俺、花良く知らないんだ。センセイにちょっと教えてもらったくらいで」
「あー。確かに僕も花ってちゃんと見たことなかったかもだ」
「えぇ……?」
 テセウスとリクの言葉に困惑するラミア。
 顔が同じだし、己の想い人と趣味が似通ってるかもしれないから参考にしようと思っていたのに。
 花のなんたるかも知らないとは……これだから男は……!
 そんなことを考えていたラミア。そこに香ばしい匂いが漂って来た。
「ほれ、準備できたぞー。お兄さんが美味しいもの食わせてやっからこっち来な」
「トリプルJさん、何してんの?」
「料理してんだよ。人間は花見ながら物食って騒いだりするんだぜ?」
 テセウスの問いに答えながら持ってきたフライパンを火にかけるトリプルJ。小麦粉を薄く伸ばして焼いて、間に果物やクリームを挟んで、あっという間にクレープを作り上げた。
「ほいほい。全員分あるぜ。皆そこ座んな」
「さあ、冷たい紅茶をどうぞ。プリンもあるよ」
 クレープを勧めるトリプルJ。ルシオの声に、仲間達も集まって来る。
「作りたてクレープなんて気が利くじゃない。じゃあ、私からはチョコとケーキね。ツナサンドもあるわよ」
「あたしは実家のレストランで作ってるケーキ持ってきた。味は保証するよ」
「あ、あたしからパイとティラミスね! はい、どうぞ」
「僕はスコーン持ってきた。ジャムとかつけて食べると美味しいよ」
 それに続くアルスレーテとラミア、シアーシャとリク。
 仲間達から出されたお菓子で、レジャーシートはあっという間にいっぱいになり、テセウスが目を輝かせる。
「うわあ。美味しそう! これ全部食べていいの?」
「おう。沢山あるから慌てず食えよ」
「やったー!」
 頷くトリプルJに大喜びするテセウス。クレープに齧りつきながら、ハンター達を見る。
「ねえねえ、リアルブルーはアイスクリームが美味しかったんだけど、こっちにはないの?」
「あると思うよ。というか、リアルブルーの食べ物好きなの?」
 こくりと頷くテセウスにそっか……と呟くリク。
 ちょっと前までタピオカが流行してたなぁ、とか。
 故郷の甘い物を思い出しながら口を開く。
「リアルブルーには色々甘いものがあるよ。行けるようになったら教えてあげるよ」
「やった! その為にも早く封印から解いてあげないとだね!」
 リクの言葉ににこにこするテセウス。
 リアルブルーの封印を解くと聞いて、真剣な表情になったシアーシャに、テセウスが首を傾げる。
「シアーシャさん、どうかした?」
「……黙示騎士の皆には、テセウスの気持ちを知らせたの?」
「うん。話したよ」
 さらりと答えた彼に目を見開くシアーシャ。
 ハンターに協力するだなんて言ったら酷い目に遭わされるんじゃないか……。
 そんな風に心配していた彼女は、思わずテセウスの身体をぺたぺた触って確認する。
「えっ。怪我とかしてない? 大丈夫だった? 叱られたりしなかった?」
「大丈夫。喧嘩とかしてないよ。自分達も好きにするから、お前も好きにすればいいって言われた」
「……そう。以外と物分かりがいいのね、黙示騎士って。もっと早くそうしてくれれば良かったのに」
 目を伏せるアルスレーテ。
 テセウスに対してそんな風に理解を示すなら、どうしてこちらと敵対したりしたのだろう。
 この子をもう少し早く引き込んでいたら違う道もあったのだろうか?
「……今更言っても仕方のないことだし、もう彼らと戦う以外の道はないけどね」
 吐き出すように言うアルスレーテに、ラミアも眉根を寄せる。
「……この世界は私の大事な人が居る世界。だから壊したくない。守りたい。あたしが闘う理由はそれ。……テセウスはどうなの? 戦う理由って何?」
「んー。俺、そもそも戦わなくてもいいのかなって思ってて」
「へっ? どういうこと……?」
 テセウスから飛び出した言葉にキョトンとするラミア。
 彼は上手い言い方を探しているのか、考え込みながら、ゆっくりと言葉にしていく。
「邪神もファーザーも、黙示騎士も、ハンター達も……俺たちみんな、争わなきゃいけない理由なんてないと思うんだ」
 世界を見たからこそ思う。世界には数限りない可能性がある。
 それを夢見た者がいて。それを喜ぶ者がいて。それを憂いた者がいて。それを嘆いた者がいて。
 だからすれ違ったり、思い違いもしたりするのだと――。
「だから喧嘩になっちゃうんだろうね。でも、俺は一つも諦めるつもりないんだ。この世界も、邪神のことも全部」
「あんた時々とんでもないこと言うよね」
「そうか。なかなかいい心意気だな」
 呆れたように言うラミアにカラカラと笑うトリプルJ。シアーシャはテセウスの手を握る。
「そうだね。あたし、テセウスの言う通りだとおもう。戦わないで済むならその方がいいよ」
 今までは彼に色々なことを教える立場だったけれど。
 『どれも諦めない』という姿勢は、逆にテセウスに教えられたように思う。
「やりたいこと、大切なもの、ぜんぶ諦めないっていう決断はすごいことだと思うし、協力したいな」
 シアーシャの言葉に、ルシオはくすりと笑う。
「そんなことを言うなんて、テセウスは随分立派になったね」
「そうかな?」
「そうだよ。もう私達が教える必要は無いのかなと思ってる」
「えっ。母さん、もう教えてくれないの?」
「そうじゃないよ。君が知りたいことは教える。ただ……君はもう、知りたいと思う事の為に動き、したいと思う事をしているだろう? それは、自立の証だと思うよ」
 よしよしとテセウスの頭を撫でるルシオ。
 真面目になった空気を、アルスレーテがズバンと断ち切った。
「あーもー。難しい話ばっかりしててもしょーがないじゃない。花見ましょ、花!」
「お花も見てるよ?」
「あー! そうだ! 花で思い出した! これあげる!」
 リクはごそごそとポケットを探ると、ハイ、と花の折り紙をテセウスの手に載せる。
「何これ、紙の花?」
「そ。むっかーし婆ちゃんに教えてもらったんだけどね。これならたぶん枯れる事が無いから、テセウスのお友達も触れるんじゃないかな」
「紙の花ね、考えたわねー」
 リクが手にした折り紙の花を一つ取って、くるくると弄ぶアルスレーテ。リクは人懐こい笑みを浮かべて心配黙示騎士を見る。
「テセウスが良ければ折り方教えるよ」
「えっ。これ自分で折れるの?」
「うん。出来る出来る。簡単だよ」
「紫陽花と折り紙の花もいいけど、他のお花も見たいんじゃない? この後花屋行ってみましょうか」
「えっ。姉さん、いいの?」
「ええ。なんなら、ついでに甘いもの食べ歩きでもする? 50万までなら奢るわよ?」
「……それはちょっと大盤振る舞い過ぎやしないか?」
「なんだかんだ、アルスレーテもテセウスに甘いよね」
 テセウスの姉貴分の提案にでっかい冷や汗を流すトリプルJ。
 苦笑するルシオの横で、リクがぽん、と手を打った。
「いいこと思いついた! ねえ、テセウス。花がどうやって咲くか、見てみたくない? ついでに花の種を買って育ててみようよ!」
「わあ。それ素敵だね! じゃあ早速花屋さんに行ってみよ!」
 リクの提案に顔を綻ばせたシアーシャ。
 立ち上がろうとしたものの、テセウスにぐいっと腰を引き寄せられて、彼の膝の上に着地する。
 そのまま両腕に閉じ込められて、彼女の頬がみるみる赤くなっていく。
「ギャアアア!!?」
「シアーシャさん、耳元で叫ばないでよ」
「テセウスが急に変なことするからでしょ!?」
「前もしたじゃん!」
「良いって言ってない!!」
「じゃあしてもいい?」
「確認が遅ーい! というか、テセウスのそれは……お母さんと結婚するー! 的な感覚でしょ?」
「何で? ルシオ母さんは母さんだけど、そういう風に思ったことない。この間センセイに言われて、シアーシャさんが何で他の人と違うのか考えたよ」
 この気持ちをどう表現していいのか分かんないけど……と。テセウスは続ける。
「シアーシャさんのことは大事だよ」
「そ……そういうのはズルいよ、テセウス」
 その言葉にシアーシャはいよいよ耳まで赤くなる。
 テセウスのことは好きだけど、それは友達とか、弟みたいな感じで……。だけど成長スピードが早くて……どうしたらいいのか分からない。
「テセウス、その気持ちは……」
 呟くラミア。彼の抱えている感情の名前を、彼女は知っている。
 自分の胸にも宿っているものだ。
 でも……それは、人から教えてもらうようなものではないような気がする。
「今後に期待なのかねえ」
「シアーシャ、あまりにもこの子がしつこかったら言いなさい。ぶん殴ってあげるから」
「姉さん言う前にぶん殴るじゃん!」
「日頃の行いが悪いからでしょ!?」
 ギャーギャーやり合う姉弟を、トリプルJは止めるでもなくニヤニヤと見守って――。


 そして、花屋を巡ってハンターオフィスに戻って来た彼らは、その一角に植木鉢を設置して、花の種を植えた。
「テセウス。この花は、僕らヒトと歪虚とが共に何かを成せるという可能性の形だよ」
「可能性の形?」
「そう。僕達が戦わないで、共に何かを生み出せるっていう、可能性の可視化」
 リクの言葉に何度も頷くテセウス。待ちきれないというように、植木鉢を覗き込む。
「……花、いつ咲くのかな。明日には咲く?」
「そんなにすぐには咲かないよ。花が育つのは時間がかかる。ヒトの縁を育むのがそうであるようにね」
「そっか。じゃあ、時々植木鉢見に来ないとね」
「おう。いつでも来い。次来るまでに、さっき渡した本読んで花の勉強でもしときな」
 微笑むルシオ。トリプルJの言葉に、テセウスは解った、と頷き返す。
「……ねえ、また会える?」
「んー。ちょっと暫く忙しくなりそうだけど……」
「そっか。あたしが大切だとおもうものに、あんたもちょこっとは入ってるんだ。自分を大事にしてよ」
 想い人と同じ姿をした歪虚をじっと見つめるラミア。
 憎んだ事もあった。けど、今は……『テセウス』という存在と、友達くらいにはなりたいと思っている。
 テセウスはもう一度頷くと、満面の笑みでシアーシャに向き直った。
「……ねえねえ、シアーシャさん。暫く会えないからお別れのキスして」
「だーーかーーらーー!! そういうのは駄目!!」
「あなたも懲りないわね……」
 慌ててテセウスの口を押さえこむシアーシャに、呆れたようにため息をつくアルスレーテ。
 ルシオは彼の背中をぽんぽん、と叩いて微笑む。
「またね、テセウス。……行ってらっしゃい」
「うん。行って来ます、母さん」
 笑顔のルシオにひらひらと手を振るテセウス。
 そのまま振り返らずに――彼は帰って行った。

 その時。新米黙示騎士を待ち受ける運命を、ハンター達は知る由もなかった。

依頼結果

依頼成功度大成功
面白かった! 21
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 杏とユニスの先生
    ルシオ・セレステ(ka0673
    エルフ|21才|女性|聖導士
  • ずっとあなたの隣で
    ラミア・マクトゥーム(ka1720
    人間(紅)|15才|女性|霊闘士
  • 力の限り前向きに!
    シアーシャ(ka2507
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人
  • お約束のツナサンド
    アルスレーテ・フュラー(ka6148
    エルフ|27才|女性|格闘士
  • Mr.Die-Hard
    トリプルJ(ka6653
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言