ゲスト
(ka0000)
【血断】荷台より見ゆるもの
マスター:三田村 薫

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/07/27 09:00
- 完成日
- 2019/08/03 02:27
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●ハンドアウト
あなたたちは、グラウンド・ゼロで歪虚の群を減らしていたハンターです。
不幸な偶然(味方のファンブル)ややばい偶然(敵のクリティカル)が重なり、あなたたちは窮地に立たされてしまいました。
スキルの回数は元々ある回数の半分くらい残っていますが、問題は別にあります。不幸な偶然とやばい偶然が重なったため、現在全員の生命力が残り二割になってしまったのです。
この不幸な偶然とやばい偶然がここまで重なった辺り、「回避すれば大丈夫!」とか「防御すれば大丈夫!」とか言ってる場合ではありません。
重傷者が出る……口には出しませんでしたがあなたたちの間に、そんな嫌な確信が広がりました。
その時です。魔導トラックのエンジン音がしました。バイクの排気音も混ざっています。
「お迎えだよ!!!」
トラックとバイクが二台ずつ、あなたたちめがけて走ってきました。片方はアジア系の女性が、もう片方はヨーロッパ系の少年が運転しています。
「荷台に二人ずつ乗れ!」
荷台に乗った金髪の符術師が荷台を開けました。そうこうしている内に、バイクの片方がファイアーボールで、もう片方がファイアスローワーであなたたちに迫る歪虚を焼き払いました。その隙に、あなたたちはトラックの荷台に乗り込みます。
「大丈夫ですか?」
聖導士の男の子があなたたちに手を貸します。もう一人、眼鏡の魔術師が電撃を歪虚に向けて放ちました。
「エド、出せ!」
「曹長、出発してくれ!」
トラックが急発進しました。
●ハンドアウト2
あなたは、アジア系の女性が運転するトラックに乗り込んだハンターです。
体格の良い、亜麻色の髪をした、恐らく司祭の聖導士が、転げそうになるあなたの体を支えます。
「大丈夫ですか? ああ、酷いお怪我をされていますね、今回復を……あ、ちょっと待って。ヴィル! マシューさん! 七時の方向から近づいてる!」
『了解。私が行きましょう。爆破します』
ファイアーボールが飛びました。クラゲに似た歪虚の脚が千切れて飛び散り、
「うわあ」
亜麻色の聖導士の顔にべっちゃりと貼り付きました。彼はそれを引きはがして荷台の外に放り出します。
「いや、失礼しました。今回復しますね」
「おいハンク! そっちの防御大丈夫か!? 瑞鳥符ならどうにか届くかもしれねぇ!」
「どうにかします!!!! ジョンが!!!」
「僕か!? ていうかエド! もっと安全運転できないのか!?」
『ナンシーにも言えよな!』
『安全運転すると追いつかれるよ』
「……諦めます」
『おい、ジョン、何で俺とナンシーでそんなに態度違うんだよテメェ!!!』
「自分の胸に聞いてみろ!」
あなたの近くではそんなやりとりが交わされています。ひとまず危機は脱したんだ……と思ったあなたは、荷台から後ろを見ました。たくさんの小型狂気が追い掛けてきます。
「ご無理がなければ、一緒に戦って頂けませんか?」
亜麻色の聖導士があなたに囁きます。あなたは頷きました。
さあここからが本番。撤退戦の始まりです。
あなたたちは、グラウンド・ゼロで歪虚の群を減らしていたハンターです。
不幸な偶然(味方のファンブル)ややばい偶然(敵のクリティカル)が重なり、あなたたちは窮地に立たされてしまいました。
スキルの回数は元々ある回数の半分くらい残っていますが、問題は別にあります。不幸な偶然とやばい偶然が重なったため、現在全員の生命力が残り二割になってしまったのです。
この不幸な偶然とやばい偶然がここまで重なった辺り、「回避すれば大丈夫!」とか「防御すれば大丈夫!」とか言ってる場合ではありません。
重傷者が出る……口には出しませんでしたがあなたたちの間に、そんな嫌な確信が広がりました。
その時です。魔導トラックのエンジン音がしました。バイクの排気音も混ざっています。
「お迎えだよ!!!」
トラックとバイクが二台ずつ、あなたたちめがけて走ってきました。片方はアジア系の女性が、もう片方はヨーロッパ系の少年が運転しています。
「荷台に二人ずつ乗れ!」
荷台に乗った金髪の符術師が荷台を開けました。そうこうしている内に、バイクの片方がファイアーボールで、もう片方がファイアスローワーであなたたちに迫る歪虚を焼き払いました。その隙に、あなたたちはトラックの荷台に乗り込みます。
「大丈夫ですか?」
聖導士の男の子があなたたちに手を貸します。もう一人、眼鏡の魔術師が電撃を歪虚に向けて放ちました。
「エド、出せ!」
「曹長、出発してくれ!」
トラックが急発進しました。
●ハンドアウト2
あなたは、アジア系の女性が運転するトラックに乗り込んだハンターです。
体格の良い、亜麻色の髪をした、恐らく司祭の聖導士が、転げそうになるあなたの体を支えます。
「大丈夫ですか? ああ、酷いお怪我をされていますね、今回復を……あ、ちょっと待って。ヴィル! マシューさん! 七時の方向から近づいてる!」
『了解。私が行きましょう。爆破します』
ファイアーボールが飛びました。クラゲに似た歪虚の脚が千切れて飛び散り、
「うわあ」
亜麻色の聖導士の顔にべっちゃりと貼り付きました。彼はそれを引きはがして荷台の外に放り出します。
「いや、失礼しました。今回復しますね」
「おいハンク! そっちの防御大丈夫か!? 瑞鳥符ならどうにか届くかもしれねぇ!」
「どうにかします!!!! ジョンが!!!」
「僕か!? ていうかエド! もっと安全運転できないのか!?」
『ナンシーにも言えよな!』
『安全運転すると追いつかれるよ』
「……諦めます」
『おい、ジョン、何で俺とナンシーでそんなに態度違うんだよテメェ!!!』
「自分の胸に聞いてみろ!」
あなたの近くではそんなやりとりが交わされています。ひとまず危機は脱したんだ……と思ったあなたは、荷台から後ろを見ました。たくさんの小型狂気が追い掛けてきます。
「ご無理がなければ、一緒に戦って頂けませんか?」
亜麻色の聖導士があなたに囁きます。あなたは頷きました。
さあここからが本番。撤退戦の始まりです。
リプレイ本文
●意志があれば道がある
レオーネ・ティラトーレ(ka7249)は動かない片腕と見え辛い視界に諦めたりはしなかった。
攻撃は回避したものの、その余波まではどうしようもなかった。飛散した破片は、こめかみを掠って出血を起こした。流れた血が目に入り、視界を塞ぐ。
そこまでならまだ良かったが、別の破片が勢いよく回転して迫った。まるでレオーネの腕を最初から狙っていたかのように、ざっくりと突き刺さる。肉を裂かれる感触に、自分の手段が減らされたことを察した。
(オフィスの落ち度はない)
数が少ないだろうと言われていた戦域。だが、あり得ないことがあり得てしまう。
(昨今の情勢で全てを把握するのは不可能だろ)
動く方の腕で、血を拭う。これではライフルは扱えない。
「ヴィル、心配なのはわかるけど脇見運転しないで」
聖導士アルトゥーロが相方に無線を入れている。見れば、赤毛をなびかせるフルフェイスヘルメットのバイザーが幾度かこちらを向いているようだった。魔術師ヴィルジーリオ(kz0278)はレオーネと友人関係でもある。
『ものすごく心配です。それとこれは脇見じゃなくて周囲確認です』
「反対側も見てね」
「死゛……死゛ぬがと思゛った~~」
ラスティ・グレン(ka7418)は荷台に乗り込むや泣き出した。無理もない。彼は自分でも進んで公言するようにまだ経験が浅い。経験が浅いことと恐怖を感じることはイコールではないが、危険な目に遭った経験が他のハンターより少ないことは間違いない。つまり危険慣れしていないのだ。
「よしよし、怖かったな! そりゃ怖いに決まってる。大丈夫か?」
結界を張り終えた符術師ヴィクターがそのラスティの背中を撫でた。恐怖からか、ラスティの呼吸はどこかおかしい。ひゅー、ひゅー、と細い呼吸を繰り返していた。
「落ち着け。大丈夫だ。ゆっくり呼吸しろ。聞こえるか?」
「うっ、うっ……」
『負傷者の具合は?』
猟撃士ナンシーが無線で尋ねた。レオーネはそれを聞きながら、無線の周波数をアルトゥーロに聞いて合わせる。
「レオーネは片腕負傷。ラスティはパニック状態だ」
『神城さんとアルマさんも傷が酷いです』
隣のトラックからも報告が上がる。
『よろしくないね』
「リロードができないな」
アルトゥーロの回復を使っても、やはり腕は上手く動かない。クイックリロードどころか、普通のリロードも難しいだろう。その負荷に腕が耐えられない。何より、レオーネは自分から腕を潰すつもりもなかった。きちんとした手当を受けるまで動かさない方が良いと判断する。今装填されている弾丸を使ったらそれっきりだ。
「A chi vuole, non mancano modi」
彼はライフルを荷台に置いた。白色の魔導拳銃を取り出す。少数で行動する時こそ、備えは用意しておくものだ。軍属経験のあるレオーネにとって、それは定石とも言える支度だった。ライフルが使えなくなった時の為に──ライフルの故障も、自分の負傷もあり得ることだったから──彼は他に二挺、拳銃の用意があったのだ。
意志があれば道がある。
「おい、お前さん下手に動かすとマジで復帰に支障出るぞ」
「こっちは動かさないさ」
ヴィクターの苦言に苦笑を返す。
「ヴィオ、援護する」
『大丈夫なんですか?』
「ああ、問題ないさ」
動く方の腕で引き金を引いた。弾幕が張られる。小型狂気が落ちた。
●覇者の剛勇
「……くっ……どうやら、不覚を取ったようだ……」
神城・錬(ka3822)はトラックの荷台に乗り込むやがっくりと膝を突いた。気が抜けたらしい。
「だ、大丈夫ですか! エド! ほんとにお前運転荒いぞ!」
聖導士のジョンが慌てて抱き起こす。
『うるせー! お前運転してみろ!!!! フェンダーとバックミラーにアホほどクラゲが映ってんだよこっちはよぉ!!!!』
「エドさんっ。喧嘩だめですー。おちついてください、ですー!」
外套を真っ赤にしたアルマ・A・エインズワース(ka4901)が慌てて仲裁に入る。返り血ではなく、すべて自分の血である。
『アルマ大丈夫?』
「大丈夫じゃなさそうだ。回復します」
「わうっ、僕なら大丈夫ですー! それより神城さんのお怪我治してあげてくださいですっ」
アルマはふるふると首を横に振る。
「……いよいよ剛勇でゾンビ戦法、とか考えてましたです……! もうあと一回限りですけど!」
生命力が最も高いということでアルマは前に出て盾になろうとしていたらしい。どのみち、超覚醒の負担でこの後動けなくなるから……という考えもある。
「傷ついているのは同じだから……」
錬が消え入りそうな声で言う。彼もまた、仲間をかばおうとしていたのである。
「それは神城さんも同じですっ」
「とりあえず回復しますね!」
錬に膝を貸して、ジョンがヒールを掛ける。
『負傷者の具合は?』
無線からナンシーの気遣わしげな声がする。
『レオーネは片腕負傷。ラスティはパニック状態だ』
ヴィクターが隣で即答していた。ジョンも無線を取り、
「神城さんとアルマさんも結構傷が酷いです」
『よろしくないね』
「わふふ……。僕はまだ、もう少しなら平気です。だから」
アルマは立ち上がった。血の匂いが風に乗る。覇者の剛勇が、このトラックに乗る全員に付与された。最後の一回だ。
『アルマ何してんの!?』
エドが口を挟む。隣の荷台で、レオーネがフォールシュートを放った。
「覇者の剛勇お裾分けですっ! だいじょうーぶですっ! 戦う分には問題ないですっ!」
「それって僕たちも大丈夫と言うことでは?」
魔術師ハンクが杖を持ったまま閃いた様に言う。ジョンもはっとしたように顔を上げる。
「そうか! 一回までなら大怪我しても死なない!?」
『ばかー!!!!! そう言うスキルじゃねぇから!!!! いやそう言うスキルなのか!?!?! とにかく積極的に死にに行くなー!!!!!! 自分が運転してる荷台で人に死なれたくねぇんだよ!!!!!』
無線からエドの絶叫が聞こえた。
●ラスティのパニック
ラスティはヴィクターの膝の上で抑えられている。パニックだったので危ない、と言うことで半ば拘束だ。ヴィクターも覚醒者の端くれであり、覚醒していれば腕力はかなり出る。
「よーしよし! 泣いても良いが暴れるんじゃねぇ」
「な゛……泣゛いでねえ! 汗゛だ、汗゛が止ま゛んねえだけな゛んだよ゛っ」
ドカドカと自分の心臓の上を叩く。ヴィクターは肩を抑えていたのを離して、両手首を掴んだ。
「おい、戦場でごまかすな。手当を誤るぞ。汗が止まらないのもそれはそれでまずい。アルトゥーロ、診れるか?」
「僕は医師ではないので診察は難しいですがとりあえず回復しましょう。汗をかいているのは事実だと思いますが」
アルトゥーロも真剣な顔でラスティの様子を観察した。ひとまずフルリカバリーを使用する。それで身体の元気は取り戻しただろうか。
「グゾッ……ぐぞがぁ、グゾガァ~~」
隣のトラックからデルタレイが飛んで行く。ラスティは自分の脚が震えているのを自覚していた。
呪いたいのは自分なのか歪虚なのか状況なのか。
わからないけど、悔しい。
周りがこれだけ戦っているのに、自分だけが戦っていない……。実際には錬も戦闘できる状態ではなくジョンの介抱を受けているのだが、そんなことを知る由もないラスティは無力感に苛まれている。
『ちょっと大丈夫!? すごい叫び声してない!?』
ヴィクターの無線からナンシーの声がする。
(こんなとこにも女の人がいるんだ……)
泣き叫びながらも、女性の声に安心感を覚える。
(ねえちゃん天使マヂ天使)
バストサイズが平均を超えていなくても良い。
(俺今ならねえちゃんに全財産貢げる気がする)
パニックが持続する頭で考えた。
バイクに乗った赤毛がクラゲに向かって杖を振りかぶった。同じ荷台に乗ったレオーネが二挺目のリボルバーで牽制射撃を飛ばし、それが回避妨害になってクラゲの頭に杖が当たった。
「魔術師って何?」
アルトゥーロがジト目で相方を眺めている。
「母ち゛ゃん……母ち゛ゃん」
ラスティは身体を伏せると、腕と膝を突いて荷台の縁にずるずると這っていく。
(ここからじゃ魔法が届かないな……)
迫ってくる歪虚は、元気な応援が片付けている。ラスティの出る幕はない。いや、そのために助けに来たのだから、周囲としては戦わずにいてくれた方が良いのだが。
(だって俺は家族を守りたくてここに来たはずなんだ)
母親も父親もも妹も弟も兄も。
(だから俺は)
怖かろうが痛かろうが戦わなきゃならない筈なんだ。
「ラスティ、乗り出しすぎるな」
ヴィクターに引き戻された。
●受傷八割の意味
アルマはレオーネが弾幕を張っているのを見て、しれっと自分もデルタレイで参戦した。当たった傍から狂気の装甲が割れて中身ごと飛び散っていく。
『今のマシューじゃねぇよな!?』
『自分あんなに威力出ないですね』
「エドさんっ、僕なら大丈夫ですー! 戦意はありますです。無理にやってるわけじゃないですー!」
怪我をしたからと言って威力が落ちるわけではない。高い火力は健在で、当たった傍からクラゲが四散する。残りのスキルをばらまくくらいの勢いだ。
(僕、いつから怪我をすることに慣れてしまったのでしょうか……)
エドのわめき声を聞きながら、ぼんやりと思う。傷から血が溢れた。厚着のおかげで、ジョンやハンクにはバレていない。
「神城さん大丈夫ですか」
ジョンはアルマの進言もあって錬の治療に専念している。
彼はアルマが倒れるなんて考えていない。想像ができないのだ。あの強いアルマが倒れるなんて。それは他者の治療を優先してほしいアルマにとっては都合の良い思い込みだった。
受傷八割。重傷と判断される傷である。
「大丈夫だ……緊張の糸が切れてしまったようだ……助かったんだな」
「はい! 助かりましたよ。あとは任せてください」
練度の高くないジョンでは回復するのに時間がかかる。だが、少しずつ錬の傷は塞がって行く。
「もう、俺も大丈夫だ。彼のことも治してくれ」
「はい。アルマさん、治しますよ」
「最低限で大丈夫ですっ」
「何言ってんですか! スキルありったけ使いますからね」
ハンクのアイスボルトが飛んだ。
マシューとアルマのデルタレイが重なって、その周辺が明るくなった。
●逃走成功
一行は無事に逃げ切った。歪虚が見えなくなると、アルマが崩れるように座り込む。安全を確信して、気が抜けたのだ。
「……いろんなとこが痛いです……」
トラックも減速した。エドの運転も安定する。
ナンシーが運転する方に、ヴィルジーリオのバイクが近寄る。バイザー越しに、レオーネの様子を窺った。
「チャオ、ヴィオ」
動く方の腕を上げる。
「心配しました。大丈夫なんですか?」
「治療されるまで片腕動かないから優しくしろよ」
苦笑してみせる。ヘルメットの中で、ヴィルジーリオがちょっとすました気配がした。、
「私があなたに優しくなかったこと、ありました?」
レオーネは肩を竦めた。
「ほら、もう泣き止め。あとは戻るだけだからよ」
一方、ラスティのことはヴィクターが宥めていた。
「な……泣゛いてねえし痛くねえし平気゛だじ~~」
「平気じゃない時は平気じゃないってちゃんと申告しろ。そうじゃねぇとお前不本意に死ぬぞ」
大泣きしている少年をあやすヴィクターは苦笑しながらその頭を撫で続けていた。
●病院へ
「アルマ!」
安全地帯に戻ると、運転席を降りたエドがアルマに飛びついた。
「わう!」
「おまえ、おまえ、彼女いるのになんでそんな死ぬかもしれない無茶するんだよ~!」
もう彼女じゃなくて妻になったし結婚指輪(プラチナ)まで持っているのだが、エドが気付くはずないのである。
「わ、わぅぅ……!? ご、ごめんなさいですっ!?」
「馬鹿馬鹿~!」
どむどむと胸板を叩く。怪我した本人よりも慌てているように見えた。
「だ、だって僕ならまだこれくらいなら我慢でき……」
「死んだらどうする!!!」
「ハイ」
エドがあまりにも取り乱す為、アルマも二の句が継げなかった。
「エド、アルマさんも危ないかもって話になったら、運転役買って出たんですよ。絶対間に合わせるって」
ハンクがくすくすと笑った。ジョンはエドの取り乱しっぷりにドン引きしている。
「すみませんアルマさん……こいつ不安になると当たり散らすタイプなんです……」
「エド、駄目ですよ、怪我人を叩いたら。負傷者の方はこちらに。今度は自分が病院にお送りします」
機導師マシューが、待たせていた別の魔導トラックに乗り込み、運転席から手を振った。万が一撤退中にトラックが壊れても良いように支度してあったのだ。
「ほら、病院行くよ。立ちな」
ナンシーが、泣いているラスティの手を引いて立たせた。ちなみに、ラスティが密かに求めていた、バストサイズが標準以上の女性は今回助けに来たメンバーにはいない。胸囲の数値ならアルトゥーロとマシューがツートップだろう。
「レオ、立てますか?」
ヴィルジーリオがレオーネに手を差し出した。レオーネは微笑んで、
「脚は大丈夫だよ」
「腕が動かないとバランス取るのも難しいでしょう」
「神城さん、大丈夫ですか?」
錬にはジョンが手を貸した。
「ああ、大丈夫だ……感謝する」
「お疲れ様でした。病院に行ったらゆっくりしてください」
「アルマも乗って」
「はいですー」
負傷者たちをトラックに乗せる。ナンシーとヴィルジーリオはこの後護衛としてバイクで同行する。以前、搬送中に歪虚に襲われたことがあるので念のためだ。
トラックは出発した。道中に特に大きなトラブルはなく、負傷者たちは無事に病院で手当を受けてその日のうちに帰宅した。
●救出の報酬
「あ」
その夜、病院で手当を受け、帰宅したラスティは寝床に入ってから気が付いた。
「……お礼言うの忘れてた……」
だが、彼らにとっては無事でいてくれることが何よりの報酬。
次会ったときに活躍を見せれば喜ばれることだろう。
生きて、一日を終えようとしていた。
レオーネ・ティラトーレ(ka7249)は動かない片腕と見え辛い視界に諦めたりはしなかった。
攻撃は回避したものの、その余波まではどうしようもなかった。飛散した破片は、こめかみを掠って出血を起こした。流れた血が目に入り、視界を塞ぐ。
そこまでならまだ良かったが、別の破片が勢いよく回転して迫った。まるでレオーネの腕を最初から狙っていたかのように、ざっくりと突き刺さる。肉を裂かれる感触に、自分の手段が減らされたことを察した。
(オフィスの落ち度はない)
数が少ないだろうと言われていた戦域。だが、あり得ないことがあり得てしまう。
(昨今の情勢で全てを把握するのは不可能だろ)
動く方の腕で、血を拭う。これではライフルは扱えない。
「ヴィル、心配なのはわかるけど脇見運転しないで」
聖導士アルトゥーロが相方に無線を入れている。見れば、赤毛をなびかせるフルフェイスヘルメットのバイザーが幾度かこちらを向いているようだった。魔術師ヴィルジーリオ(kz0278)はレオーネと友人関係でもある。
『ものすごく心配です。それとこれは脇見じゃなくて周囲確認です』
「反対側も見てね」
「死゛……死゛ぬがと思゛った~~」
ラスティ・グレン(ka7418)は荷台に乗り込むや泣き出した。無理もない。彼は自分でも進んで公言するようにまだ経験が浅い。経験が浅いことと恐怖を感じることはイコールではないが、危険な目に遭った経験が他のハンターより少ないことは間違いない。つまり危険慣れしていないのだ。
「よしよし、怖かったな! そりゃ怖いに決まってる。大丈夫か?」
結界を張り終えた符術師ヴィクターがそのラスティの背中を撫でた。恐怖からか、ラスティの呼吸はどこかおかしい。ひゅー、ひゅー、と細い呼吸を繰り返していた。
「落ち着け。大丈夫だ。ゆっくり呼吸しろ。聞こえるか?」
「うっ、うっ……」
『負傷者の具合は?』
猟撃士ナンシーが無線で尋ねた。レオーネはそれを聞きながら、無線の周波数をアルトゥーロに聞いて合わせる。
「レオーネは片腕負傷。ラスティはパニック状態だ」
『神城さんとアルマさんも傷が酷いです』
隣のトラックからも報告が上がる。
『よろしくないね』
「リロードができないな」
アルトゥーロの回復を使っても、やはり腕は上手く動かない。クイックリロードどころか、普通のリロードも難しいだろう。その負荷に腕が耐えられない。何より、レオーネは自分から腕を潰すつもりもなかった。きちんとした手当を受けるまで動かさない方が良いと判断する。今装填されている弾丸を使ったらそれっきりだ。
「A chi vuole, non mancano modi」
彼はライフルを荷台に置いた。白色の魔導拳銃を取り出す。少数で行動する時こそ、備えは用意しておくものだ。軍属経験のあるレオーネにとって、それは定石とも言える支度だった。ライフルが使えなくなった時の為に──ライフルの故障も、自分の負傷もあり得ることだったから──彼は他に二挺、拳銃の用意があったのだ。
意志があれば道がある。
「おい、お前さん下手に動かすとマジで復帰に支障出るぞ」
「こっちは動かさないさ」
ヴィクターの苦言に苦笑を返す。
「ヴィオ、援護する」
『大丈夫なんですか?』
「ああ、問題ないさ」
動く方の腕で引き金を引いた。弾幕が張られる。小型狂気が落ちた。
●覇者の剛勇
「……くっ……どうやら、不覚を取ったようだ……」
神城・錬(ka3822)はトラックの荷台に乗り込むやがっくりと膝を突いた。気が抜けたらしい。
「だ、大丈夫ですか! エド! ほんとにお前運転荒いぞ!」
聖導士のジョンが慌てて抱き起こす。
『うるせー! お前運転してみろ!!!! フェンダーとバックミラーにアホほどクラゲが映ってんだよこっちはよぉ!!!!』
「エドさんっ。喧嘩だめですー。おちついてください、ですー!」
外套を真っ赤にしたアルマ・A・エインズワース(ka4901)が慌てて仲裁に入る。返り血ではなく、すべて自分の血である。
『アルマ大丈夫?』
「大丈夫じゃなさそうだ。回復します」
「わうっ、僕なら大丈夫ですー! それより神城さんのお怪我治してあげてくださいですっ」
アルマはふるふると首を横に振る。
「……いよいよ剛勇でゾンビ戦法、とか考えてましたです……! もうあと一回限りですけど!」
生命力が最も高いということでアルマは前に出て盾になろうとしていたらしい。どのみち、超覚醒の負担でこの後動けなくなるから……という考えもある。
「傷ついているのは同じだから……」
錬が消え入りそうな声で言う。彼もまた、仲間をかばおうとしていたのである。
「それは神城さんも同じですっ」
「とりあえず回復しますね!」
錬に膝を貸して、ジョンがヒールを掛ける。
『負傷者の具合は?』
無線からナンシーの気遣わしげな声がする。
『レオーネは片腕負傷。ラスティはパニック状態だ』
ヴィクターが隣で即答していた。ジョンも無線を取り、
「神城さんとアルマさんも結構傷が酷いです」
『よろしくないね』
「わふふ……。僕はまだ、もう少しなら平気です。だから」
アルマは立ち上がった。血の匂いが風に乗る。覇者の剛勇が、このトラックに乗る全員に付与された。最後の一回だ。
『アルマ何してんの!?』
エドが口を挟む。隣の荷台で、レオーネがフォールシュートを放った。
「覇者の剛勇お裾分けですっ! だいじょうーぶですっ! 戦う分には問題ないですっ!」
「それって僕たちも大丈夫と言うことでは?」
魔術師ハンクが杖を持ったまま閃いた様に言う。ジョンもはっとしたように顔を上げる。
「そうか! 一回までなら大怪我しても死なない!?」
『ばかー!!!!! そう言うスキルじゃねぇから!!!! いやそう言うスキルなのか!?!?! とにかく積極的に死にに行くなー!!!!!! 自分が運転してる荷台で人に死なれたくねぇんだよ!!!!!』
無線からエドの絶叫が聞こえた。
●ラスティのパニック
ラスティはヴィクターの膝の上で抑えられている。パニックだったので危ない、と言うことで半ば拘束だ。ヴィクターも覚醒者の端くれであり、覚醒していれば腕力はかなり出る。
「よーしよし! 泣いても良いが暴れるんじゃねぇ」
「な゛……泣゛いでねえ! 汗゛だ、汗゛が止ま゛んねえだけな゛んだよ゛っ」
ドカドカと自分の心臓の上を叩く。ヴィクターは肩を抑えていたのを離して、両手首を掴んだ。
「おい、戦場でごまかすな。手当を誤るぞ。汗が止まらないのもそれはそれでまずい。アルトゥーロ、診れるか?」
「僕は医師ではないので診察は難しいですがとりあえず回復しましょう。汗をかいているのは事実だと思いますが」
アルトゥーロも真剣な顔でラスティの様子を観察した。ひとまずフルリカバリーを使用する。それで身体の元気は取り戻しただろうか。
「グゾッ……ぐぞがぁ、グゾガァ~~」
隣のトラックからデルタレイが飛んで行く。ラスティは自分の脚が震えているのを自覚していた。
呪いたいのは自分なのか歪虚なのか状況なのか。
わからないけど、悔しい。
周りがこれだけ戦っているのに、自分だけが戦っていない……。実際には錬も戦闘できる状態ではなくジョンの介抱を受けているのだが、そんなことを知る由もないラスティは無力感に苛まれている。
『ちょっと大丈夫!? すごい叫び声してない!?』
ヴィクターの無線からナンシーの声がする。
(こんなとこにも女の人がいるんだ……)
泣き叫びながらも、女性の声に安心感を覚える。
(ねえちゃん天使マヂ天使)
バストサイズが平均を超えていなくても良い。
(俺今ならねえちゃんに全財産貢げる気がする)
パニックが持続する頭で考えた。
バイクに乗った赤毛がクラゲに向かって杖を振りかぶった。同じ荷台に乗ったレオーネが二挺目のリボルバーで牽制射撃を飛ばし、それが回避妨害になってクラゲの頭に杖が当たった。
「魔術師って何?」
アルトゥーロがジト目で相方を眺めている。
「母ち゛ゃん……母ち゛ゃん」
ラスティは身体を伏せると、腕と膝を突いて荷台の縁にずるずると這っていく。
(ここからじゃ魔法が届かないな……)
迫ってくる歪虚は、元気な応援が片付けている。ラスティの出る幕はない。いや、そのために助けに来たのだから、周囲としては戦わずにいてくれた方が良いのだが。
(だって俺は家族を守りたくてここに来たはずなんだ)
母親も父親もも妹も弟も兄も。
(だから俺は)
怖かろうが痛かろうが戦わなきゃならない筈なんだ。
「ラスティ、乗り出しすぎるな」
ヴィクターに引き戻された。
●受傷八割の意味
アルマはレオーネが弾幕を張っているのを見て、しれっと自分もデルタレイで参戦した。当たった傍から狂気の装甲が割れて中身ごと飛び散っていく。
『今のマシューじゃねぇよな!?』
『自分あんなに威力出ないですね』
「エドさんっ、僕なら大丈夫ですー! 戦意はありますです。無理にやってるわけじゃないですー!」
怪我をしたからと言って威力が落ちるわけではない。高い火力は健在で、当たった傍からクラゲが四散する。残りのスキルをばらまくくらいの勢いだ。
(僕、いつから怪我をすることに慣れてしまったのでしょうか……)
エドのわめき声を聞きながら、ぼんやりと思う。傷から血が溢れた。厚着のおかげで、ジョンやハンクにはバレていない。
「神城さん大丈夫ですか」
ジョンはアルマの進言もあって錬の治療に専念している。
彼はアルマが倒れるなんて考えていない。想像ができないのだ。あの強いアルマが倒れるなんて。それは他者の治療を優先してほしいアルマにとっては都合の良い思い込みだった。
受傷八割。重傷と判断される傷である。
「大丈夫だ……緊張の糸が切れてしまったようだ……助かったんだな」
「はい! 助かりましたよ。あとは任せてください」
練度の高くないジョンでは回復するのに時間がかかる。だが、少しずつ錬の傷は塞がって行く。
「もう、俺も大丈夫だ。彼のことも治してくれ」
「はい。アルマさん、治しますよ」
「最低限で大丈夫ですっ」
「何言ってんですか! スキルありったけ使いますからね」
ハンクのアイスボルトが飛んだ。
マシューとアルマのデルタレイが重なって、その周辺が明るくなった。
●逃走成功
一行は無事に逃げ切った。歪虚が見えなくなると、アルマが崩れるように座り込む。安全を確信して、気が抜けたのだ。
「……いろんなとこが痛いです……」
トラックも減速した。エドの運転も安定する。
ナンシーが運転する方に、ヴィルジーリオのバイクが近寄る。バイザー越しに、レオーネの様子を窺った。
「チャオ、ヴィオ」
動く方の腕を上げる。
「心配しました。大丈夫なんですか?」
「治療されるまで片腕動かないから優しくしろよ」
苦笑してみせる。ヘルメットの中で、ヴィルジーリオがちょっとすました気配がした。、
「私があなたに優しくなかったこと、ありました?」
レオーネは肩を竦めた。
「ほら、もう泣き止め。あとは戻るだけだからよ」
一方、ラスティのことはヴィクターが宥めていた。
「な……泣゛いてねえし痛くねえし平気゛だじ~~」
「平気じゃない時は平気じゃないってちゃんと申告しろ。そうじゃねぇとお前不本意に死ぬぞ」
大泣きしている少年をあやすヴィクターは苦笑しながらその頭を撫で続けていた。
●病院へ
「アルマ!」
安全地帯に戻ると、運転席を降りたエドがアルマに飛びついた。
「わう!」
「おまえ、おまえ、彼女いるのになんでそんな死ぬかもしれない無茶するんだよ~!」
もう彼女じゃなくて妻になったし結婚指輪(プラチナ)まで持っているのだが、エドが気付くはずないのである。
「わ、わぅぅ……!? ご、ごめんなさいですっ!?」
「馬鹿馬鹿~!」
どむどむと胸板を叩く。怪我した本人よりも慌てているように見えた。
「だ、だって僕ならまだこれくらいなら我慢でき……」
「死んだらどうする!!!」
「ハイ」
エドがあまりにも取り乱す為、アルマも二の句が継げなかった。
「エド、アルマさんも危ないかもって話になったら、運転役買って出たんですよ。絶対間に合わせるって」
ハンクがくすくすと笑った。ジョンはエドの取り乱しっぷりにドン引きしている。
「すみませんアルマさん……こいつ不安になると当たり散らすタイプなんです……」
「エド、駄目ですよ、怪我人を叩いたら。負傷者の方はこちらに。今度は自分が病院にお送りします」
機導師マシューが、待たせていた別の魔導トラックに乗り込み、運転席から手を振った。万が一撤退中にトラックが壊れても良いように支度してあったのだ。
「ほら、病院行くよ。立ちな」
ナンシーが、泣いているラスティの手を引いて立たせた。ちなみに、ラスティが密かに求めていた、バストサイズが標準以上の女性は今回助けに来たメンバーにはいない。胸囲の数値ならアルトゥーロとマシューがツートップだろう。
「レオ、立てますか?」
ヴィルジーリオがレオーネに手を差し出した。レオーネは微笑んで、
「脚は大丈夫だよ」
「腕が動かないとバランス取るのも難しいでしょう」
「神城さん、大丈夫ですか?」
錬にはジョンが手を貸した。
「ああ、大丈夫だ……感謝する」
「お疲れ様でした。病院に行ったらゆっくりしてください」
「アルマも乗って」
「はいですー」
負傷者たちをトラックに乗せる。ナンシーとヴィルジーリオはこの後護衛としてバイクで同行する。以前、搬送中に歪虚に襲われたことがあるので念のためだ。
トラックは出発した。道中に特に大きなトラブルはなく、負傷者たちは無事に病院で手当を受けてその日のうちに帰宅した。
●救出の報酬
「あ」
その夜、病院で手当を受け、帰宅したラスティは寝床に入ってから気が付いた。
「……お礼言うの忘れてた……」
だが、彼らにとっては無事でいてくれることが何よりの報酬。
次会ったときに活躍を見せれば喜ばれることだろう。
生きて、一日を終えようとしていた。
依頼結果
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- フリーデリーケの旦那様
アルマ・A・エインズワース(ka4901)
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相談卓 レオーネ・ティラトーレ(ka7249) 人間(リアルブルー)|29才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2019/07/24 02:39:52 |
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質問卓 レオーネ・ティラトーレ(ka7249) 人間(リアルブルー)|29才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2019/07/27 00:36:43 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/07/25 08:45:39 |