ゲスト
(ka0000)
天国の嫁取り
マスター:湖欄黒江

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/02/06 09:00
- 完成日
- 2015/02/13 22:21
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
何度やっても葬儀というのは気の重い行事だ。特に子供のは。
教会付きの司祭は、悲嘆に暮れる子供の父親――
退役軍人らしく礼服に勲章をいくつもぶら下げた威厳ある中年の男と、
礼拝堂のベンチに並んで腰かけて、葬儀の手筈を相談していた。
アンリというその子供は、野遊びの最中に崖から転落、頭を強く打って亡くなったのだという。
父親は綺麗に身なりを整え、口調も至って冷静なふうを装ってはいるが、
幾度となく葬儀を執り行ってきた司祭の目には、彼が心中重い悲しみに囚われていることがありありと分かる。
子供は10を過ぎたばかり。最愛の息子の突然の死、帝国軍人の鋼の精神もそう耐えられるものではなかろう。
彼が必死で胸の奥に仕舞い込んでいるであろう悲痛な感情をぶり返してしまわぬよう、
司祭は平穏に、しかし冷淡に響かないよう慎重に言葉を選びつつ、必要な準備や費用について説明した。
父親は淡々と受け答えをする。家には財産も人手も充分にある、
細かいことはお任せするので、何もかもあの子の一番良いようにしてやってほしい、と。
そうしてすんなりと葬儀の段取りがついた。
この後は、司祭として一体どんな言葉をかけてやるべきだろう。
あまり抹香臭い話ではなく、柔らかい、優しい話が良いだろうか?
いや、むしろエクラの教えから何か適当なものを引用し、
固めの話をぶったほうがかえって心を乱さずにおいてやれるか?
それとも元軍人として、家長としてのプライドを傷つけぬよう、
余計な気遣いはせず、あくまで事務的な態度で接するほうが彼の為だろうか?
沈黙がいよいよ気詰まりになる前に、答えを出さねばならない。
しかしこういうことは何度やってもはっきりとした正解の出ないもので、どうにも――
司祭がかけるべき言葉を考えあぐねていると、父親のほうから不意に切り出した。
「式のことは、こちらとしても今のお話の通りで問題ありません。
しかし、それとは別にご相談させて頂きたいことが」
●
「私は辺境帰りでして、妻もとある部族から連れ帰ってきた女なのですが、
その妻の出身部族には、子供が死んだときに行われる伝統的な供養の方法があるそうで。
それが実に奇妙な風習で……それをすることがあの子の供養に良いのかどうか、
私のような者にはどうも考えがつきかねるのですが、
それで妻が心安らかにあの子の冥福を祈れるというのであれば、やらせてやろうとは思うのです。
しかし、本当に変わった風習でしてね、私としてはどういった方法でそれをしたものか、と……」
父親が語ったところによると、子供の母親が生まれ育った部族では未婚の人物――
多くは乳幼児が亡くなった際、その不幸な魂を鎮める為に『死後結婚』を執り行う風習があるのだという。
そうすることで未婚のまま亡くなった故人の無念を晴らすというのだが、
死者と生者を結婚させる訳にもいかないので、相手には歳の近い異性の死者、
あるいは架空の人物を作り上げてあてがった上で、婚礼の儀式を行うのだそうだ。
架空の結婚相手を作る場合、作り手はできるだけ人数が多く、かつ身内でないほうが良い。
実在の人物と同姓同名をつけたり、実在の人物に似せて作ることは不吉とされるのだが、
辺境部族の狭い身内だとどうしてもモデルが偏ってしまう。名前のレパートリーも少ない。
異邦・異界の客人が一番良い作り手とされるが、これは部族の外からの来客がマレビト、
一種の霊的な存在であり、死者の嫁取り・婿取りに相性が良いと考えられているからだ。
そうして名前、容姿、性格等、架空の結婚相手のプロフィールが作られると、その人物を模した人形や絵画、
その人物が持っているであろうちょっとした道具(衣服や髪留め、調理器具等)を副葬品に添え、
葬儀と同時期に死者の婚礼の儀が行われることとなる。
●
「このような風習は帝国には全くないか、あってもかなり珍しいものでしょう。
ですから、息子の為に架空の花嫁をでっち上げてくれ、などと頼める相手もおりません。
辺境の異教の祭儀についてなど、
由緒正しいエクラの司祭でいらっしゃる貴方に相談するのもどうかとは思うのですが……
息子が死んで以来ずっと家で伏せっている妻の為にも、何か上手くやってやる方法はないでしょうか」
司祭は考え込んだ。そんな儀式はしたことがないし、
異教の風習をエクラの司祭が陣頭立って行うのは何かと差し障りがある。
死者の婚礼は引き受けかねる。が、架空の花嫁を作って、副葬品に一品二品加えるくらいは構わない筈だ。
では、肝心の花嫁『探し』は誰に任せたものか? 身内ではいけないと言うし、父親も頼める当てがない。
母親は辺境出身ということで、こちらには知り合いも少ないだろう。
司祭が個人的に引き受けても良いが、自分ひとりでは荷が重い。
相応しいのはなるべく故人と縁の薄い人間、異邦からの客。ということであれば……
司祭ははたと手を打ち、父親に言った。
「ハンターオフィスに頼んでみましょう。
代金さえ払えばおよそのことは引き受けてくれるそうですし、彼らの中には他国やリアルブルーの出身者も多い。
アンリ君の花嫁を考えてもらうには、うってつけの相談先ですよ」
何度やっても葬儀というのは気の重い行事だ。特に子供のは。
教会付きの司祭は、悲嘆に暮れる子供の父親――
退役軍人らしく礼服に勲章をいくつもぶら下げた威厳ある中年の男と、
礼拝堂のベンチに並んで腰かけて、葬儀の手筈を相談していた。
アンリというその子供は、野遊びの最中に崖から転落、頭を強く打って亡くなったのだという。
父親は綺麗に身なりを整え、口調も至って冷静なふうを装ってはいるが、
幾度となく葬儀を執り行ってきた司祭の目には、彼が心中重い悲しみに囚われていることがありありと分かる。
子供は10を過ぎたばかり。最愛の息子の突然の死、帝国軍人の鋼の精神もそう耐えられるものではなかろう。
彼が必死で胸の奥に仕舞い込んでいるであろう悲痛な感情をぶり返してしまわぬよう、
司祭は平穏に、しかし冷淡に響かないよう慎重に言葉を選びつつ、必要な準備や費用について説明した。
父親は淡々と受け答えをする。家には財産も人手も充分にある、
細かいことはお任せするので、何もかもあの子の一番良いようにしてやってほしい、と。
そうしてすんなりと葬儀の段取りがついた。
この後は、司祭として一体どんな言葉をかけてやるべきだろう。
あまり抹香臭い話ではなく、柔らかい、優しい話が良いだろうか?
いや、むしろエクラの教えから何か適当なものを引用し、
固めの話をぶったほうがかえって心を乱さずにおいてやれるか?
それとも元軍人として、家長としてのプライドを傷つけぬよう、
余計な気遣いはせず、あくまで事務的な態度で接するほうが彼の為だろうか?
沈黙がいよいよ気詰まりになる前に、答えを出さねばならない。
しかしこういうことは何度やってもはっきりとした正解の出ないもので、どうにも――
司祭がかけるべき言葉を考えあぐねていると、父親のほうから不意に切り出した。
「式のことは、こちらとしても今のお話の通りで問題ありません。
しかし、それとは別にご相談させて頂きたいことが」
●
「私は辺境帰りでして、妻もとある部族から連れ帰ってきた女なのですが、
その妻の出身部族には、子供が死んだときに行われる伝統的な供養の方法があるそうで。
それが実に奇妙な風習で……それをすることがあの子の供養に良いのかどうか、
私のような者にはどうも考えがつきかねるのですが、
それで妻が心安らかにあの子の冥福を祈れるというのであれば、やらせてやろうとは思うのです。
しかし、本当に変わった風習でしてね、私としてはどういった方法でそれをしたものか、と……」
父親が語ったところによると、子供の母親が生まれ育った部族では未婚の人物――
多くは乳幼児が亡くなった際、その不幸な魂を鎮める為に『死後結婚』を執り行う風習があるのだという。
そうすることで未婚のまま亡くなった故人の無念を晴らすというのだが、
死者と生者を結婚させる訳にもいかないので、相手には歳の近い異性の死者、
あるいは架空の人物を作り上げてあてがった上で、婚礼の儀式を行うのだそうだ。
架空の結婚相手を作る場合、作り手はできるだけ人数が多く、かつ身内でないほうが良い。
実在の人物と同姓同名をつけたり、実在の人物に似せて作ることは不吉とされるのだが、
辺境部族の狭い身内だとどうしてもモデルが偏ってしまう。名前のレパートリーも少ない。
異邦・異界の客人が一番良い作り手とされるが、これは部族の外からの来客がマレビト、
一種の霊的な存在であり、死者の嫁取り・婿取りに相性が良いと考えられているからだ。
そうして名前、容姿、性格等、架空の結婚相手のプロフィールが作られると、その人物を模した人形や絵画、
その人物が持っているであろうちょっとした道具(衣服や髪留め、調理器具等)を副葬品に添え、
葬儀と同時期に死者の婚礼の儀が行われることとなる。
●
「このような風習は帝国には全くないか、あってもかなり珍しいものでしょう。
ですから、息子の為に架空の花嫁をでっち上げてくれ、などと頼める相手もおりません。
辺境の異教の祭儀についてなど、
由緒正しいエクラの司祭でいらっしゃる貴方に相談するのもどうかとは思うのですが……
息子が死んで以来ずっと家で伏せっている妻の為にも、何か上手くやってやる方法はないでしょうか」
司祭は考え込んだ。そんな儀式はしたことがないし、
異教の風習をエクラの司祭が陣頭立って行うのは何かと差し障りがある。
死者の婚礼は引き受けかねる。が、架空の花嫁を作って、副葬品に一品二品加えるくらいは構わない筈だ。
では、肝心の花嫁『探し』は誰に任せたものか? 身内ではいけないと言うし、父親も頼める当てがない。
母親は辺境出身ということで、こちらには知り合いも少ないだろう。
司祭が個人的に引き受けても良いが、自分ひとりでは荷が重い。
相応しいのはなるべく故人と縁の薄い人間、異邦からの客。ということであれば……
司祭ははたと手を打ち、父親に言った。
「ハンターオフィスに頼んでみましょう。
代金さえ払えばおよそのことは引き受けてくれるそうですし、彼らの中には他国やリアルブルーの出身者も多い。
アンリ君の花嫁を考えてもらうには、うってつけの相談先ですよ」
リプレイ本文
●
6人のハンターはその夜、遺族の家へ招かれた。
葬儀に先立って、母親が求める『花嫁探し』をする為だ。
深々と頭を下げる両親にそれぞれ言葉をかけながら、応接間に用意された席へ着く。
父親は振る舞いも落ち着いているが、どことなく不安げだ。
それに付き従う喪服姿の母親は、束ねた長い栗色の髪が解れかけ、泣き腫らした瞼も厚い。
今は客前で粗相があってはならぬと、無表情のままひたすらに悲しみを押し殺しているようだった。
他ふたりの子供は寝かしつけてあるらしく、
静まり返った家の中、暖炉で薪の弾ける音がひどく大きく聴こえた。
「宜しいでしょうか?」
エアルドフリス(ka1856)が喫煙の許可を求める。灰皿を受け取るとパイプに煙草を詰め、火を落とした。
(死後結婚の風習とは非常に興味深い……とでも思わにゃやってられん)
両親はくたびれ切った顔をしていて、暖かな応接間にも少しく重い空気が漂った。
エアルドフリスは紫煙を吐きながら、努めて気軽な雰囲気を作ろうと皆へ微笑みかける。
ガーベラ・M・ベッドフォード(ka2401)が紙をテーブルに置き、ペンを手に取った。
「始めましょう」
皆で予め決めておいた『花嫁』の名前を、麗々と書きつける。
「彼女の名は、イヴリン・アルベマールと言います」
●
まずはアーシュラ・クリオール(ka0226)が、花嫁の出身地を決める。
「イヴリン……イヴはリアルブルーからの転移者なんだ。
とある大陸の、砂漠の街で育った。お義母さんの故郷に雰囲気が似てるかな」
パペットを抱いたマリル&メリル(ka3294)が後を引き継いだ。
「イヴは父、母、弟、妹の5人家族で育ちました。
お父さんは学者で、色々なことを優しく教えてくれました。砂漠に来たのもお父さんの仕事の関係でしょうか?
お母さんは明るくて威勢の良い人で、人や物事との付き合い方は彼女から学んだところが大きいようです。
長女として、弟や妹の世話を良くしていました」
花嫁の出自を、ガーベラがメモしていく――分担が回ってきたと気づいてはたと手を止め、
「イヴは小さい頃から元気が良く、子供同士で駆け回って遊んでいました。良く転び、良く怪我したことでしょう」
一瞬言葉を切った。そういえば亡くなったアンリ少年は、野遊びの途中で事故に遭ったのだ。
思い出させてしまったかと心配になるが、日下 菜摘(ka0881)がさっと間を取り繕う。
「彼女、蜂に刺されたことがあるんです。
何にもあまり物怖じしない子だったけれど、蜂だけはそれ以来怖がるようになってしまって。
大人になってからは多少ましになりましたが、それでもいざ出くわすと身がすくんでしまうようですね」
「……ええ。そんなこんなでご両親も心配なさったでしょうが、子供の頃にたくさん遊んで痛い思いもしたお蔭で、
成長するにつれ物ごとの加減も良く分かるようになっていきました」
ガーベラは喋り終えると、またメモの手を進めた。
『花嫁探し』は続く。活発に育ったイヴは、どうやってクリムゾンウェストにやって来たのだろうか?
●
アーシュラが、転移後のイヴについて物語る。
成長したイヴは、ひとり世界の壁を越えて辺境の地に降り立った。
遥か異邦の地に単身飛ばされてしまった彼女を助けたのは、とある部族。
彼らの世話になり寝食を共にする内、部族が暮らす辺境の某地方は彼女の第2の故郷となった。
その土地の夕焼けはとても綺麗で、どこまでも広く深みのある色をしている。
それは、転移前の彼女が辛い思い――失恋などしたときいつも励まされていた、
あの故郷の砂漠で見る夕空にそっくりだった。
場所は違えど、故郷と同じ美しい夕陽を眺めて暮らす中で、
イヴはこの世界へやって来たことを運命と受け入れ、そこで生きる人々に感謝と愛情の念を抱くようになる。
「だから、彼女はハンターになって皆を守ろうと考えたのかな」
ジュード・エアハート(ka0410)が続きを語る。
どうやらイヴはハンターの職に就き、とある戦場へ赴くことになったようだ。
「一方、冒険に憧れていたアンリ君も、お父上と同じ帝国軍人の道を志した……」
それまでじっと耳を傾けていた父親が、ふと妙な顔をしてみせた。
ジュードは話を止めて父親を見やる――どうやら、別に気分を害したという訳ではなさそうだ。
視線に気づいて、本人が弁解する。
「いや……何だか不思議な気分になってしまいましてね。
今更気づきましたよ。花嫁を娶る為にはアンリも生きて、成長しなければならんのですな。
そうですか、あの子も軍に入りましたか……どうぞお続け下さい」
ジュードが話を続けようとした。
「ふたりはハンターと帝国軍との共同作戦中に出会います。そこで……、
ん? ちょっと待った。その前に、大人になったイヴがどんな人か改めて考えたほうが良いのかな」
エアルドフリスのほうを見やると、
「俺から簡単に説明させて頂きましょう。
彼女の髪は栗色、短めで、肌は白い。瞳の色は緑で、目が少し下がり気味、優しい印象だ。
それほど目立つ美人じゃあないが――失礼――活気があって良く笑う。
時には遠い故郷を想って憂い顔を見せることもあるが、それはそれで魅力的だ。
身体つきはしっかりしていて健康的で……」
一同、エアルドフリスの身振りを目で追い、中空にイヴの姿を思い浮かべた。
ガーベラと共に、マリル&メリルも熱心にメモを取る。
「一見温厚そうだが、母親譲りの気性や転移後の苦労もあって芯は強い。
聞き上手で、少しばかりそそっかしいアンリ君を冗談めかして柔らかく窘める度量もある。
喧嘩になったときも後腐れがなく……」
「でも、初めて会ったときはあまり上手く行かなかった」
頃合いを見て割り込むジュードへ、エアルドフリスが身振りで続きを促した。
共同作戦で出会ったイヴとアンリはまだ打ち解けておらず、
なかなか自分を曲げられないが為に作戦方針を巡って大喧嘩。初対面の印象は最悪だった。
だが轡を並べて戦う内、段々と惹かれ合うようになっていく。
「イヴさんは料理が特技なんだ。陣中見舞いで彼女の手料理を振る舞われて感動しちゃったりとかね。
一番の得意料理は……自家製ヴルスト! 家庭的な人って魅力的だし、自分の好物を作れる人は更に!」
「イヴ自身、ヴルストが好物だったのよね」
マリル&メリルが、パペットを動かしながら合いの手を入れた。
「故郷や辺境で習った、自然物から手作りのアクセサリーなんかも好きなの。
そういうものを身に着けていたところから、辺境生まれのお義母さんを思い出させることもあったかも。
アンリ君はまだ若くて、軍務で辛いこともあるだろうし……」
「まだ母親に甘えてるのか。しょうがない奴だ」
父親は苦笑するが、決して気を悪くしてはいないようだ。
一方母親は何も言わず、じっとハンターたちの語りに聞き入るままだった。
●
「イヴさんのほうもアンリ君の勇敢さとか、
最初の頃は見えなかった彼の優しい部分に触れて考えが変わっていったんだ。日下さん」
ジュードが菜摘へバトンを渡す。
「さっきお話したように、彼女は蜂が大の苦手なんです。
あるとき、よりにもよって大きな蜂の姿をした雑魔に襲われてしまって……、
そこへ助けに入ったのがアンリ君でした」
喧嘩していた相手に助けられたばつの悪さはありつつも、
窮地を救ってくれた恩人に対し、イヴは素直に礼を言うことができた。
アンリの側も男らしく今までの対立を水に流して、彼女と新しい関係を築こうとする。
「そこからふたりは本格的に打ち解けていきました。
戦友として数々の困難を共に乗り越えながら、合間に互いのこと、
故郷や家族のこと、子供の頃のこと、それぞれの道を志した理由とか、
そんなことを話し合いながら、自然と恋仲になっていったんですね。そして」
遂にアンリとイヴは結ばれた。しかし――
(何かが足りない気がする。
もっとお話を聞ければ、マリルとメリルにもまだできることがあるんじゃないかしら)
そう感じたマリル&メリルがそっと両親の顔色をうかがうと、父親は少し難しい顔をしている。
唐突な結末に対して、気持ちのやり場に困っているらしかった。
母親はゆっくりとハンターたちを見回し、それから夫の膝に手を置いて、
「……皆様、ありがとうございます。
とても良いお嫁さんを頂きました、アンリもきっと幸せになれることでしょう」
柔らかい、しかし寂しげな笑みを浮かべて礼を述べたが、ガーベラもやはり儀式が不完全なままだと考えていた。
(エクラの教会ではそこまで引き受けかねるのでしょうが……人が交われば文化も交わるもの。宗教もまた然り。
そこへ至り、人の心の支えとなる宗教が、ルールによって人の妨げとなっては本末転倒ですわ)
ガーベラがペンを置いて言う。
「この儀式は本来、故人と花嫁との婚礼を以て終わるものと聞いております。
差し出がましいこととは存じますが、どうか我々に、婚礼の儀まで執り行うことをお任せ頂けませんか?」
●
葬儀当日の朝、6人が町の教会の門前へ集う。
当初の依頼である『花嫁探し』を終えた後、
母親から部族で定められた婚礼について記憶に残る限りのことを聞き出した。
その上で、元巫女見習いのエアルドフリスが抜け落ちたであろう部分を補足しつつ、
帝国本土で揃えられるだけの道具を借り集め、葬儀に参列した後でガーベラが司祭代行を務める手筈だ。
「イヴはまだあたしたちの言葉だけで作り出した存在だから、言葉以外の物や気持ちで補ってあげないと……」
そう言うアーシュラが持参したのは、手製のアミュレット。
イヴの故郷に住む先住民の伝統工芸を模して、青い石のビーズで小さな腕輪を作った。
「これが例の、イヴの手作りアクセサリーね。お祝いの花もあると良いって聞いたから、用意してきたよ」
マリル&メリルも、普段抱えているパペットとは別な人形を取り出した。
栗色の短い髪、白い肌、緑の目。一目でイヴその人を表したものだと分かる。菜摘が、
「可愛い! 素敵な花嫁さんになりましたね」
「どっちも良くできてる、これならアンリ君も寂しい思いをしないで済むね……っと」
礼拝堂の中から出てきたアンリの両親へ、ジュードが手を振る。
両親は門まで駆けつけると、挨拶もそこそこに父親のほうから、
「司祭様も許して下さいました。先に、副葬品を棺の中へ」
薄暗い礼拝堂。蓋の開いた棺に納められているのは、まだあどけない少年。
化粧で血色を整えられてはいても、その肌に触れれば冷たく、硬い感触がするものだと誰もが知っていた。
マリル&メリルが介添人のようにしずしずと歩み出ると、
横合いからアーシュラが、アミュレットを彼女が持つ人形の首にかけてやった。
目を閉じて永遠の眠りを眠るアンリ少年の、胸元に組んだ手の上へ人形を置きながら、
(君も、イヴも、『あたし』も、住む世界は違うけれど今も存在し続けているのよ。
だから……『ふたり』ともどうか幸せに)
マリル&メリルは一瞬、棺へ落とさぬよう自身のパペットを抱いた胸が不思議に痛むのを感じた。
●
エクラ式の葬儀の最中、大勢の参列者に囲まれながら、エアルドフリスはそれとなく母親の横に立つようにした。
アンリにそっくりな弟ふたりは乳母が面倒を見ているが、
その分異教の祭儀に不慣れな母親を助け、故人への祈りに集中できるようしてやりたかった。
粛々と進められる葬儀の手順を、相当する辺境部族の儀式の様々なジェスチャーで翻訳してみせる。
(俺にとっちゃ、今は亡き俺の部族の弔いにしか使えない代物だが)
出身部族の違いで完全に伝わらないこともあったが、多少なりとも安心感を与え、
手順ひとつひとつに込められた大まかな意味を教えることはできたようだ。
両親は目を赤くしながらも、決して取り乱さずじっと頭を垂れていた。
葬儀の後、ガーベラが司祭に許可を取り、アンリの墓の土を用意した杯で少しすくった。
本当は遺灰か遺体そのものを使うのだが、今回は土葬だった為、墓所の土で代用する。
(残された者が死者に別れを告げることができれば、少々葬礼の方法が違っても宜しいでしょう)
ガーベラの先導でアンリの家族と乳母、ハンターたちが連れ立って、水の綺麗な小川へ向かう。
アンリの弟たちには母親から、花嫁と一緒に旅立つアンリを見送るのだと言い含めた。
「アンリは私たちの手を離れた。大人にならなくてはいけない。
だから、彼は結婚して遠いところで生きていくんだ」
父親のその言葉は、むしろ自分自身に言い聞かせるような響きを持っていた。
弟たちは、幼いながらにこの儀式が兄との死別に対する見立てなのだと悟ったようで、
乳母と分担してひとりの手を引いていた菜摘へ無邪気に尋ねる。
「お兄ちゃんのお嫁さんって、どんな人?」
「お嫁さん――イヴは、私たちのハンター仲間なんです。私と同じでリアルブルーから来た人。
アンリ君を好きになったときのこととか、よく話してもらってました。
照れ臭そうだけどとっても幸せそうで……本当に彼のことが好きなんですね」
「ハンター? じゃあ強いの? 歪虚もやっつけらちゃうような人!?」
「蜂だけは苦手だから、アンリ君に代わりにやっつけてもらってるだろうな」
エアルドフリスが菜摘に言ってみせた。
結婚と旅立ちを祝うガーベラの祈祷の後、墓所の土が杯からこぼされた。
黒い土は光る川面にはらはら落ちて、やがて緩やかな流れの中に溶け込んでいった。
後を追うように、アーシュラが投げたひとかたまりの青い花びらが解けて流れていく。
それを見て、今まで堪えていた両親も目頭を押さえてすすり泣く。
「お別れは、どんな形でもやっぱり寂しいね」
川に向かって手を振る弟たちの後ろで、ジュードがそっとエアルドフリスの手を握る。
(ハンターの俺たちにも、こんな別れが遠くない未来にあるかも知れない。
……エアさん、俺や貴方は、どうやってその先の長い別れを受け入れていけば良いんだろう)
もう片方の手は、胸元で揺れる割れた銀貨のペンダントに。
片割れのペンダントを持つエアルドフリスは、ただジュードの手を優しく握り返した。
●
アンリの葬儀から数日後。マリル&メリルより、両親の元へ荷物が送られた。
それは辺境の郷土料理、トウモロコシ粉から作られた揚げ菓子の包みで、
添えられたメッセージカードには、イヴリンよりハネムーン土産、と書かれていた。
包みを開いた母親は少しの間泣いて、それから夫とふたりの子供を呼んだ。
「アンリのお嫁さんがお土産を送ってくれたの。皆で頂きましょう」
母親は想像する。美しい夕陽に染まる辺境の砂漠を、アンリと花嫁が手を取り合って歩いていく。
どこまでも遠く、遠くへ――
6人のハンターはその夜、遺族の家へ招かれた。
葬儀に先立って、母親が求める『花嫁探し』をする為だ。
深々と頭を下げる両親にそれぞれ言葉をかけながら、応接間に用意された席へ着く。
父親は振る舞いも落ち着いているが、どことなく不安げだ。
それに付き従う喪服姿の母親は、束ねた長い栗色の髪が解れかけ、泣き腫らした瞼も厚い。
今は客前で粗相があってはならぬと、無表情のままひたすらに悲しみを押し殺しているようだった。
他ふたりの子供は寝かしつけてあるらしく、
静まり返った家の中、暖炉で薪の弾ける音がひどく大きく聴こえた。
「宜しいでしょうか?」
エアルドフリス(ka1856)が喫煙の許可を求める。灰皿を受け取るとパイプに煙草を詰め、火を落とした。
(死後結婚の風習とは非常に興味深い……とでも思わにゃやってられん)
両親はくたびれ切った顔をしていて、暖かな応接間にも少しく重い空気が漂った。
エアルドフリスは紫煙を吐きながら、努めて気軽な雰囲気を作ろうと皆へ微笑みかける。
ガーベラ・M・ベッドフォード(ka2401)が紙をテーブルに置き、ペンを手に取った。
「始めましょう」
皆で予め決めておいた『花嫁』の名前を、麗々と書きつける。
「彼女の名は、イヴリン・アルベマールと言います」
●
まずはアーシュラ・クリオール(ka0226)が、花嫁の出身地を決める。
「イヴリン……イヴはリアルブルーからの転移者なんだ。
とある大陸の、砂漠の街で育った。お義母さんの故郷に雰囲気が似てるかな」
パペットを抱いたマリル&メリル(ka3294)が後を引き継いだ。
「イヴは父、母、弟、妹の5人家族で育ちました。
お父さんは学者で、色々なことを優しく教えてくれました。砂漠に来たのもお父さんの仕事の関係でしょうか?
お母さんは明るくて威勢の良い人で、人や物事との付き合い方は彼女から学んだところが大きいようです。
長女として、弟や妹の世話を良くしていました」
花嫁の出自を、ガーベラがメモしていく――分担が回ってきたと気づいてはたと手を止め、
「イヴは小さい頃から元気が良く、子供同士で駆け回って遊んでいました。良く転び、良く怪我したことでしょう」
一瞬言葉を切った。そういえば亡くなったアンリ少年は、野遊びの途中で事故に遭ったのだ。
思い出させてしまったかと心配になるが、日下 菜摘(ka0881)がさっと間を取り繕う。
「彼女、蜂に刺されたことがあるんです。
何にもあまり物怖じしない子だったけれど、蜂だけはそれ以来怖がるようになってしまって。
大人になってからは多少ましになりましたが、それでもいざ出くわすと身がすくんでしまうようですね」
「……ええ。そんなこんなでご両親も心配なさったでしょうが、子供の頃にたくさん遊んで痛い思いもしたお蔭で、
成長するにつれ物ごとの加減も良く分かるようになっていきました」
ガーベラは喋り終えると、またメモの手を進めた。
『花嫁探し』は続く。活発に育ったイヴは、どうやってクリムゾンウェストにやって来たのだろうか?
●
アーシュラが、転移後のイヴについて物語る。
成長したイヴは、ひとり世界の壁を越えて辺境の地に降り立った。
遥か異邦の地に単身飛ばされてしまった彼女を助けたのは、とある部族。
彼らの世話になり寝食を共にする内、部族が暮らす辺境の某地方は彼女の第2の故郷となった。
その土地の夕焼けはとても綺麗で、どこまでも広く深みのある色をしている。
それは、転移前の彼女が辛い思い――失恋などしたときいつも励まされていた、
あの故郷の砂漠で見る夕空にそっくりだった。
場所は違えど、故郷と同じ美しい夕陽を眺めて暮らす中で、
イヴはこの世界へやって来たことを運命と受け入れ、そこで生きる人々に感謝と愛情の念を抱くようになる。
「だから、彼女はハンターになって皆を守ろうと考えたのかな」
ジュード・エアハート(ka0410)が続きを語る。
どうやらイヴはハンターの職に就き、とある戦場へ赴くことになったようだ。
「一方、冒険に憧れていたアンリ君も、お父上と同じ帝国軍人の道を志した……」
それまでじっと耳を傾けていた父親が、ふと妙な顔をしてみせた。
ジュードは話を止めて父親を見やる――どうやら、別に気分を害したという訳ではなさそうだ。
視線に気づいて、本人が弁解する。
「いや……何だか不思議な気分になってしまいましてね。
今更気づきましたよ。花嫁を娶る為にはアンリも生きて、成長しなければならんのですな。
そうですか、あの子も軍に入りましたか……どうぞお続け下さい」
ジュードが話を続けようとした。
「ふたりはハンターと帝国軍との共同作戦中に出会います。そこで……、
ん? ちょっと待った。その前に、大人になったイヴがどんな人か改めて考えたほうが良いのかな」
エアルドフリスのほうを見やると、
「俺から簡単に説明させて頂きましょう。
彼女の髪は栗色、短めで、肌は白い。瞳の色は緑で、目が少し下がり気味、優しい印象だ。
それほど目立つ美人じゃあないが――失礼――活気があって良く笑う。
時には遠い故郷を想って憂い顔を見せることもあるが、それはそれで魅力的だ。
身体つきはしっかりしていて健康的で……」
一同、エアルドフリスの身振りを目で追い、中空にイヴの姿を思い浮かべた。
ガーベラと共に、マリル&メリルも熱心にメモを取る。
「一見温厚そうだが、母親譲りの気性や転移後の苦労もあって芯は強い。
聞き上手で、少しばかりそそっかしいアンリ君を冗談めかして柔らかく窘める度量もある。
喧嘩になったときも後腐れがなく……」
「でも、初めて会ったときはあまり上手く行かなかった」
頃合いを見て割り込むジュードへ、エアルドフリスが身振りで続きを促した。
共同作戦で出会ったイヴとアンリはまだ打ち解けておらず、
なかなか自分を曲げられないが為に作戦方針を巡って大喧嘩。初対面の印象は最悪だった。
だが轡を並べて戦う内、段々と惹かれ合うようになっていく。
「イヴさんは料理が特技なんだ。陣中見舞いで彼女の手料理を振る舞われて感動しちゃったりとかね。
一番の得意料理は……自家製ヴルスト! 家庭的な人って魅力的だし、自分の好物を作れる人は更に!」
「イヴ自身、ヴルストが好物だったのよね」
マリル&メリルが、パペットを動かしながら合いの手を入れた。
「故郷や辺境で習った、自然物から手作りのアクセサリーなんかも好きなの。
そういうものを身に着けていたところから、辺境生まれのお義母さんを思い出させることもあったかも。
アンリ君はまだ若くて、軍務で辛いこともあるだろうし……」
「まだ母親に甘えてるのか。しょうがない奴だ」
父親は苦笑するが、決して気を悪くしてはいないようだ。
一方母親は何も言わず、じっとハンターたちの語りに聞き入るままだった。
●
「イヴさんのほうもアンリ君の勇敢さとか、
最初の頃は見えなかった彼の優しい部分に触れて考えが変わっていったんだ。日下さん」
ジュードが菜摘へバトンを渡す。
「さっきお話したように、彼女は蜂が大の苦手なんです。
あるとき、よりにもよって大きな蜂の姿をした雑魔に襲われてしまって……、
そこへ助けに入ったのがアンリ君でした」
喧嘩していた相手に助けられたばつの悪さはありつつも、
窮地を救ってくれた恩人に対し、イヴは素直に礼を言うことができた。
アンリの側も男らしく今までの対立を水に流して、彼女と新しい関係を築こうとする。
「そこからふたりは本格的に打ち解けていきました。
戦友として数々の困難を共に乗り越えながら、合間に互いのこと、
故郷や家族のこと、子供の頃のこと、それぞれの道を志した理由とか、
そんなことを話し合いながら、自然と恋仲になっていったんですね。そして」
遂にアンリとイヴは結ばれた。しかし――
(何かが足りない気がする。
もっとお話を聞ければ、マリルとメリルにもまだできることがあるんじゃないかしら)
そう感じたマリル&メリルがそっと両親の顔色をうかがうと、父親は少し難しい顔をしている。
唐突な結末に対して、気持ちのやり場に困っているらしかった。
母親はゆっくりとハンターたちを見回し、それから夫の膝に手を置いて、
「……皆様、ありがとうございます。
とても良いお嫁さんを頂きました、アンリもきっと幸せになれることでしょう」
柔らかい、しかし寂しげな笑みを浮かべて礼を述べたが、ガーベラもやはり儀式が不完全なままだと考えていた。
(エクラの教会ではそこまで引き受けかねるのでしょうが……人が交われば文化も交わるもの。宗教もまた然り。
そこへ至り、人の心の支えとなる宗教が、ルールによって人の妨げとなっては本末転倒ですわ)
ガーベラがペンを置いて言う。
「この儀式は本来、故人と花嫁との婚礼を以て終わるものと聞いております。
差し出がましいこととは存じますが、どうか我々に、婚礼の儀まで執り行うことをお任せ頂けませんか?」
●
葬儀当日の朝、6人が町の教会の門前へ集う。
当初の依頼である『花嫁探し』を終えた後、
母親から部族で定められた婚礼について記憶に残る限りのことを聞き出した。
その上で、元巫女見習いのエアルドフリスが抜け落ちたであろう部分を補足しつつ、
帝国本土で揃えられるだけの道具を借り集め、葬儀に参列した後でガーベラが司祭代行を務める手筈だ。
「イヴはまだあたしたちの言葉だけで作り出した存在だから、言葉以外の物や気持ちで補ってあげないと……」
そう言うアーシュラが持参したのは、手製のアミュレット。
イヴの故郷に住む先住民の伝統工芸を模して、青い石のビーズで小さな腕輪を作った。
「これが例の、イヴの手作りアクセサリーね。お祝いの花もあると良いって聞いたから、用意してきたよ」
マリル&メリルも、普段抱えているパペットとは別な人形を取り出した。
栗色の短い髪、白い肌、緑の目。一目でイヴその人を表したものだと分かる。菜摘が、
「可愛い! 素敵な花嫁さんになりましたね」
「どっちも良くできてる、これならアンリ君も寂しい思いをしないで済むね……っと」
礼拝堂の中から出てきたアンリの両親へ、ジュードが手を振る。
両親は門まで駆けつけると、挨拶もそこそこに父親のほうから、
「司祭様も許して下さいました。先に、副葬品を棺の中へ」
薄暗い礼拝堂。蓋の開いた棺に納められているのは、まだあどけない少年。
化粧で血色を整えられてはいても、その肌に触れれば冷たく、硬い感触がするものだと誰もが知っていた。
マリル&メリルが介添人のようにしずしずと歩み出ると、
横合いからアーシュラが、アミュレットを彼女が持つ人形の首にかけてやった。
目を閉じて永遠の眠りを眠るアンリ少年の、胸元に組んだ手の上へ人形を置きながら、
(君も、イヴも、『あたし』も、住む世界は違うけれど今も存在し続けているのよ。
だから……『ふたり』ともどうか幸せに)
マリル&メリルは一瞬、棺へ落とさぬよう自身のパペットを抱いた胸が不思議に痛むのを感じた。
●
エクラ式の葬儀の最中、大勢の参列者に囲まれながら、エアルドフリスはそれとなく母親の横に立つようにした。
アンリにそっくりな弟ふたりは乳母が面倒を見ているが、
その分異教の祭儀に不慣れな母親を助け、故人への祈りに集中できるようしてやりたかった。
粛々と進められる葬儀の手順を、相当する辺境部族の儀式の様々なジェスチャーで翻訳してみせる。
(俺にとっちゃ、今は亡き俺の部族の弔いにしか使えない代物だが)
出身部族の違いで完全に伝わらないこともあったが、多少なりとも安心感を与え、
手順ひとつひとつに込められた大まかな意味を教えることはできたようだ。
両親は目を赤くしながらも、決して取り乱さずじっと頭を垂れていた。
葬儀の後、ガーベラが司祭に許可を取り、アンリの墓の土を用意した杯で少しすくった。
本当は遺灰か遺体そのものを使うのだが、今回は土葬だった為、墓所の土で代用する。
(残された者が死者に別れを告げることができれば、少々葬礼の方法が違っても宜しいでしょう)
ガーベラの先導でアンリの家族と乳母、ハンターたちが連れ立って、水の綺麗な小川へ向かう。
アンリの弟たちには母親から、花嫁と一緒に旅立つアンリを見送るのだと言い含めた。
「アンリは私たちの手を離れた。大人にならなくてはいけない。
だから、彼は結婚して遠いところで生きていくんだ」
父親のその言葉は、むしろ自分自身に言い聞かせるような響きを持っていた。
弟たちは、幼いながらにこの儀式が兄との死別に対する見立てなのだと悟ったようで、
乳母と分担してひとりの手を引いていた菜摘へ無邪気に尋ねる。
「お兄ちゃんのお嫁さんって、どんな人?」
「お嫁さん――イヴは、私たちのハンター仲間なんです。私と同じでリアルブルーから来た人。
アンリ君を好きになったときのこととか、よく話してもらってました。
照れ臭そうだけどとっても幸せそうで……本当に彼のことが好きなんですね」
「ハンター? じゃあ強いの? 歪虚もやっつけらちゃうような人!?」
「蜂だけは苦手だから、アンリ君に代わりにやっつけてもらってるだろうな」
エアルドフリスが菜摘に言ってみせた。
結婚と旅立ちを祝うガーベラの祈祷の後、墓所の土が杯からこぼされた。
黒い土は光る川面にはらはら落ちて、やがて緩やかな流れの中に溶け込んでいった。
後を追うように、アーシュラが投げたひとかたまりの青い花びらが解けて流れていく。
それを見て、今まで堪えていた両親も目頭を押さえてすすり泣く。
「お別れは、どんな形でもやっぱり寂しいね」
川に向かって手を振る弟たちの後ろで、ジュードがそっとエアルドフリスの手を握る。
(ハンターの俺たちにも、こんな別れが遠くない未来にあるかも知れない。
……エアさん、俺や貴方は、どうやってその先の長い別れを受け入れていけば良いんだろう)
もう片方の手は、胸元で揺れる割れた銀貨のペンダントに。
片割れのペンダントを持つエアルドフリスは、ただジュードの手を優しく握り返した。
●
アンリの葬儀から数日後。マリル&メリルより、両親の元へ荷物が送られた。
それは辺境の郷土料理、トウモロコシ粉から作られた揚げ菓子の包みで、
添えられたメッセージカードには、イヴリンよりハネムーン土産、と書かれていた。
包みを開いた母親は少しの間泣いて、それから夫とふたりの子供を呼んだ。
「アンリのお嫁さんがお土産を送ってくれたの。皆で頂きましょう」
母親は想像する。美しい夕陽に染まる辺境の砂漠を、アンリと花嫁が手を取り合って歩いていく。
どこまでも遠く、遠くへ――
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
---|
面白かった! | 4人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
花嫁考察(相談卓) ジュード・エアハート(ka0410) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/02/07 01:32:25 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/02/02 08:46:14 |