ゲスト
(ka0000)
【血断】溺れない海底を照らす歌
マスター:ゆくなが

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/07/30 22:00
- 完成日
- 2019/08/09 10:23
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「もっと、落ち込んでいると思っていました」
アラベラ・クララ(kz0250)が開口一番、グリューエリン・ヴァルファー(kz0050)にそう言った。もちろん、ここ最近グリューエリンが渦中にいた事件のことを知っているからだ。
「……落ち込んでいたら、慰めてくれるんですか?」
「はい。そうするつもりでしたのよ」
「アラベラ殿らくしない。そういう時、思う存分落ち込めば良い、と言う人だと思っていました」
グリューエリンは薄く微笑んでちょっとだけ意地悪に言ったのだが、
「ふふん!」
対してアラベラはより上機嫌に笑っていた。
「何を言っているのです。妾らしくない行いこそ、妾だけの特権ですよ?」
グリューエリンはなんだか面白くて笑ってしまった。これから邪神内部の異界を制圧しに行くと言うのに、炭酸の抜けた炭酸水のような会話が場違いで可笑しかったからだ。
グリューエリンは異界突入に置いても軍属アイドルとして活躍する予定だ。
その異界には見えない敵がいた。ただ、先発隊の調査によって、スキル攻撃などにより他者のマテリアルを受けた時だけ姿を視認できることが確認されている。
この敵が管理者と考えて間違いないだろう。
ただ、姿が見えないモノに攻撃を当てるのは難しいので、グリューエリンは過去の戦いでしたように、歌声をスピーカーで正のマテリアルを持ったものとして拡散させることで特殊な効果を付与し、管理者の姿をあぶり出す役割を担っているのだ。
この役割を果たすために、同行する魔導アーマーに積まれたスピーカーはグリューエリンの歌声に適するように調整されている。他の者の声では、求められるべき効果は得られない。グリューエリンは倒れるわけにはいかなかった。
グリューエリンも今までの戦いで、バトルシンガーとして成長している。歌いながらでも、ある程度なら回避や防御、移動ができるようになった。なので、彼女は今回魔導アーマーのステージには乗らない。むき出しのステージの上にいるより、自身である程度回避行動をした方が良いと判断されたのだ。
魔導アーマーのステージだった部分にはさらにスピーカーを積み込んで、音響の範囲を広めてある。グリューエリンのインカムは無線でスピーカーと繋いである。両者の距離が500m以内なら伝達できる。
●
異界に足を踏み入れると、地面がなくなるような浮遊感の後、群青色の世界が開けた。
先発隊の報告で聞いていたが、そこは海の底のような世界だった。
地面は白い砂でできている。上を見上げればこの世界の光源がゆらゆら漂いながらこちらに光を投げかけている。それは水面を透かした太陽のようなもので、光自体は弱々しく、底であるここは、つまりグリューエリンたちがいる地点では薄く青色に濁っている。明瞭な視界ではないが、グラウンド・ゼロの濁った空と大差ない。視覚のペナルティはないだろう。
周囲を言葉にするのなら、静寂が似合っていた。
いくつもの沈没船が転がっている。帆柱の折れたもの、船体に噛み付かれたような穴が開いたもの。真っ二つに折れているもの。船の構造こそそう変わらないが、それらはクリムゾンウェストにはない、不思議な白いざらざらした鉱物でできているらしい。
だが、そんな死の静寂を打ち壊す音が聞こえてくる。体を芯まで震わせるような鈍い破砕音だ。
「私の声、問題なく聞こえていますよね?」
「大丈夫ですよ。さて……、音の聞こえる方が戦場、でしょうね」
「かなり先でしょうが、恐らくは」
ここは海底にような世界であるが、重力はクリムゾンウェストと変わらない。酸素もあるようなので、呼吸には困らない。風もないのに髪の毛や服がゆらゆら揺蕩うのだが、戦闘には支障はない。
音の方へ一行は進んでいたのだが、その目印となる破砕音が消えた。
一度足を止める。注意深く行く手を観察していると、アラベラは前方に緑色の煙を見たように思った。薄青の世界において、目立たぬ染みに見えたが彼女はグリューエリンを守るように盾を構えた。
「グリューエリン」
アラベラのただそれだけの呼びかけで、グリューエリンも呼吸を瞬間で整えて歌唱を開始する。
彼女が歌うのは希望に向かって進む歌だ。スピーカーで拡散してしまえば歌声の効果は得られるので、気持ちを込めて歌う必要はないのだが、それでもそこに心に響かせるものがあると信じて、歌声を捧げる。
緑の煙、そしてその発信源と思しき点が近づいてくる。
そして、それがスピーカーの効果範囲にようやく入ってきた。歌唱によって、みるみる姿を現した。
それは、真っ白な鯨だった。
「まあ、美しい」
アラベラは彼女らしくいつも通りの優雅自若の態度である。
白鯨の体には刺し傷があり、そこから緑の血液が流れ出ているのだ。あの傷のおかげでスピーカーの効果範囲外でもある程度白鯨の居場所は掴めそうだが──、傷があるということは何者かと戦っていた証。そして、白鯨だけが遊弋していることを見ると、戦っていた者は死んだのだろう。それはきっと、イレギュラーで、だとしたらここで戦う意味はあるのか?
まるでハンターたちを品定めするように迫る白鯨が、途端体をくねらせた。苦しんでいるようだが、全く咆哮を上げないのでその姿は神々しくすらあった。
白鯨の胴体に一本の銛が突き刺さっていた。アラベラたちがさっと銛が投擲されたであろう地点を確認する。そこには沈没船があり、その陰に青い人型を確認した。
彼こそがこの異界の住人であり、同時にイレギュラーなのだろう。まだイレギュラーは存在している。何より彼には戦う気概がある。ただ、銛では致命傷には程遠い。
戦う意味がまだここにはある。
白鯨は憎しみを白い肌に埋もれた瞳に映して、イレギュラーのいる沈没船へと突進を開始した。
イレギュラーは沈没船の奥へ逃げ込み、更に珊瑚のように連なる沈没船に隠れるように移動して白鯨から逃れる。
白鯨は突進しつつも体を海底に擦り付けて突き刺さった銛を無理やり取り払った。傷口からはやはり緑の血液が噴出する。
「さあ、あの怪物を討ち取りましょうか」
そう言うアラベラと、イレギュラーを見失った白鯨の視線が交錯した。
アラベラ・クララ(kz0250)が開口一番、グリューエリン・ヴァルファー(kz0050)にそう言った。もちろん、ここ最近グリューエリンが渦中にいた事件のことを知っているからだ。
「……落ち込んでいたら、慰めてくれるんですか?」
「はい。そうするつもりでしたのよ」
「アラベラ殿らくしない。そういう時、思う存分落ち込めば良い、と言う人だと思っていました」
グリューエリンは薄く微笑んでちょっとだけ意地悪に言ったのだが、
「ふふん!」
対してアラベラはより上機嫌に笑っていた。
「何を言っているのです。妾らしくない行いこそ、妾だけの特権ですよ?」
グリューエリンはなんだか面白くて笑ってしまった。これから邪神内部の異界を制圧しに行くと言うのに、炭酸の抜けた炭酸水のような会話が場違いで可笑しかったからだ。
グリューエリンは異界突入に置いても軍属アイドルとして活躍する予定だ。
その異界には見えない敵がいた。ただ、先発隊の調査によって、スキル攻撃などにより他者のマテリアルを受けた時だけ姿を視認できることが確認されている。
この敵が管理者と考えて間違いないだろう。
ただ、姿が見えないモノに攻撃を当てるのは難しいので、グリューエリンは過去の戦いでしたように、歌声をスピーカーで正のマテリアルを持ったものとして拡散させることで特殊な効果を付与し、管理者の姿をあぶり出す役割を担っているのだ。
この役割を果たすために、同行する魔導アーマーに積まれたスピーカーはグリューエリンの歌声に適するように調整されている。他の者の声では、求められるべき効果は得られない。グリューエリンは倒れるわけにはいかなかった。
グリューエリンも今までの戦いで、バトルシンガーとして成長している。歌いながらでも、ある程度なら回避や防御、移動ができるようになった。なので、彼女は今回魔導アーマーのステージには乗らない。むき出しのステージの上にいるより、自身である程度回避行動をした方が良いと判断されたのだ。
魔導アーマーのステージだった部分にはさらにスピーカーを積み込んで、音響の範囲を広めてある。グリューエリンのインカムは無線でスピーカーと繋いである。両者の距離が500m以内なら伝達できる。
●
異界に足を踏み入れると、地面がなくなるような浮遊感の後、群青色の世界が開けた。
先発隊の報告で聞いていたが、そこは海の底のような世界だった。
地面は白い砂でできている。上を見上げればこの世界の光源がゆらゆら漂いながらこちらに光を投げかけている。それは水面を透かした太陽のようなもので、光自体は弱々しく、底であるここは、つまりグリューエリンたちがいる地点では薄く青色に濁っている。明瞭な視界ではないが、グラウンド・ゼロの濁った空と大差ない。視覚のペナルティはないだろう。
周囲を言葉にするのなら、静寂が似合っていた。
いくつもの沈没船が転がっている。帆柱の折れたもの、船体に噛み付かれたような穴が開いたもの。真っ二つに折れているもの。船の構造こそそう変わらないが、それらはクリムゾンウェストにはない、不思議な白いざらざらした鉱物でできているらしい。
だが、そんな死の静寂を打ち壊す音が聞こえてくる。体を芯まで震わせるような鈍い破砕音だ。
「私の声、問題なく聞こえていますよね?」
「大丈夫ですよ。さて……、音の聞こえる方が戦場、でしょうね」
「かなり先でしょうが、恐らくは」
ここは海底にような世界であるが、重力はクリムゾンウェストと変わらない。酸素もあるようなので、呼吸には困らない。風もないのに髪の毛や服がゆらゆら揺蕩うのだが、戦闘には支障はない。
音の方へ一行は進んでいたのだが、その目印となる破砕音が消えた。
一度足を止める。注意深く行く手を観察していると、アラベラは前方に緑色の煙を見たように思った。薄青の世界において、目立たぬ染みに見えたが彼女はグリューエリンを守るように盾を構えた。
「グリューエリン」
アラベラのただそれだけの呼びかけで、グリューエリンも呼吸を瞬間で整えて歌唱を開始する。
彼女が歌うのは希望に向かって進む歌だ。スピーカーで拡散してしまえば歌声の効果は得られるので、気持ちを込めて歌う必要はないのだが、それでもそこに心に響かせるものがあると信じて、歌声を捧げる。
緑の煙、そしてその発信源と思しき点が近づいてくる。
そして、それがスピーカーの効果範囲にようやく入ってきた。歌唱によって、みるみる姿を現した。
それは、真っ白な鯨だった。
「まあ、美しい」
アラベラは彼女らしくいつも通りの優雅自若の態度である。
白鯨の体には刺し傷があり、そこから緑の血液が流れ出ているのだ。あの傷のおかげでスピーカーの効果範囲外でもある程度白鯨の居場所は掴めそうだが──、傷があるということは何者かと戦っていた証。そして、白鯨だけが遊弋していることを見ると、戦っていた者は死んだのだろう。それはきっと、イレギュラーで、だとしたらここで戦う意味はあるのか?
まるでハンターたちを品定めするように迫る白鯨が、途端体をくねらせた。苦しんでいるようだが、全く咆哮を上げないのでその姿は神々しくすらあった。
白鯨の胴体に一本の銛が突き刺さっていた。アラベラたちがさっと銛が投擲されたであろう地点を確認する。そこには沈没船があり、その陰に青い人型を確認した。
彼こそがこの異界の住人であり、同時にイレギュラーなのだろう。まだイレギュラーは存在している。何より彼には戦う気概がある。ただ、銛では致命傷には程遠い。
戦う意味がまだここにはある。
白鯨は憎しみを白い肌に埋もれた瞳に映して、イレギュラーのいる沈没船へと突進を開始した。
イレギュラーは沈没船の奥へ逃げ込み、更に珊瑚のように連なる沈没船に隠れるように移動して白鯨から逃れる。
白鯨は突進しつつも体を海底に擦り付けて突き刺さった銛を無理やり取り払った。傷口からはやはり緑の血液が噴出する。
「さあ、あの怪物を討ち取りましょうか」
そう言うアラベラと、イレギュラーを見失った白鯨の視線が交錯した。
リプレイ本文
「モビーディックのご登場か」
デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)は顎を撫でながら、この異界の管理者の色に唸る。
「黒鯨なら丁重にもてなした上で、お帰り頂いても良かったが……。白いっつーのが何よりダメだ。こいつは世界の敵だからな。悪ぃがここで仕留めさせてもらうぜ、グーハハハ!」
歌唱しているグリューエリン・ヴァルファー(kz0050)へは、ことここに及んでアドバイスすることもない。
(トバし過ぎず、されどハートは常に熱く、それが長丁場のライヴの肝だ)
(古今東西、巨鯨相手は忍耐力の勝負と相場が決まってる。要は、やろうとしてることはそんなに変わりはねぇってことよ)
「本当に海の中みたいだな……って、言ってられる場合でもないのか」
不思議な感覚だと、輝羽・零次(ka5974)は思った。
薄青に塗られた世界。髪も服も揺らめいているのに、時間は止まっているような感覚。
白鯨はスピーカーで拡散されマテリアルに変換された音の効果範囲内にいる。普段、不可視の体を持つ彼は体が晒されることをどう捉えたのだろう。
「どこにいようと、『視える』ようにする」
キヅカ・リク(ka0038)が重機関銃に装填しているのはペイント弾だ。敵を着色して、歌の効果以外で不可視を打ち破るのだ。
またデスドクロも射撃を開始する。
2人の弾丸がそれぞれ白鯨の体に撃ち込まれた。どちらも命中し、体には黄色いペイント弾の弾痕と、弾創から緑色の血液が立ち上っている。
白鯨の巨体においては、ペイントした箇所は随分小さいとキヅカは思った。遠くへ行かれてしまえば、認識するのは困難だろう。
「もっと色が必要みたいですね」
すでに超覚醒を終えていたUisca Amhran(ka0754)は覇者の剛勇を味方に施した後、心技体、鋼の如しを発動した。
「今回は守護者として目立たせてもらいますよ!」
白鯨が、Uiscaの輝きから視線が外せなくなる。
「イレギュラーの皆さん、私の言葉がわかりますか!?」
先ほど、沈没船の陰から銛を投げたイレギュラーの姿をハンターたちは確認している。彼は再び沈没船のどれかに隠れてしまったので、どこにいるかはわからない。
「貴方達に敵意はありません! あの白鯨を倒すために、協力はできないでしょうか!?」
「私たちも、この世界の外の話は知っている。だから、戦っている」
ある沈没船の陰から、イレギュラーの声がした。
「我々もこうして武器を持ち立ち上がったんだ」
さらに別の沈没船の陰から別のイレギュラーの声がした。
そして3人目の声が喋った。
「私たちは決して強くはないけれど、できることをするよ」
すでに意思表示はされている。イレギュラーたちはそう言っていた。
「なら、僕たちの元へ来て欲しい」
キヅカが言った。
「守る手段はあるんだ。イスカさんが敵の気を引いている。今のうちに──」
「それは……無理だ」
最初に喋ったイレギュラーが返事をした。
「私たちには、こうして隠れながら戦う他に、やり方がないんだ。沈没船に隠れられることが怪物に対する唯一のアドバンテージなんだ。あの怪物についている刺し傷は、私たちの仲間が自分の命と引き換えに突き刺したものだ。……わかってくれるかい」
「なるほどな。なら俺様たちがすべきことは、あのモビーディックを倒すこと。意志を行動で示すことだろうな」
デスドクロは射撃を続けている。
「姿が見えていれば、銛を当てることは難しくない。小さな傷しかつけられないけれど、支援はするよ」
が、しかし、その声がしていた沈没船に白鯨が突進してきた。白鯨はBS注視によりUiscaから目を逸らすことができない。だから、彼女を巻き込む形でイレギュラーを殺そうとしたのだ。だが、それでもやはりBS注視によりUiscaを中心に不自然な周回軌道を描いて白鯨の突進は止まった。
「目印を付けさせていただきます!」
Uiscaは樽に入ったジュースを白鯨に向かって放り投げた。
白い巨体に着弾して樽が砕けて、中から飛び出したオレンジ色の液体が肌に付着する。
零次が拳を突き出して放った青龍翔咬波が白鯨の体に突き刺さる。
同じく、デスドクロやキヅカの弾丸も命中した。これだけ白い面積を汚されれば、見失うことはないだろう。
また、イレギュラーの銛も突き刺さり、ハンターを支援する。
「もうこれで大丈夫そうですね」
Uiscaは、心技体、鋼の如く効果時間の終了を待たず解除しようとした。白鯨に目印をつける時だけに使うつもりだからだ。しかし、このスキルはGSではないので解除はできない。また、白鯨に付与されたBS注視の効果はBSとして付与された以上、付与対象が抵抗判定に成功するなどしない限り効果は続く。
(エリンさんの元に戻った方が支援はしやすいのですが……)
しかし、敵の注視が解けていない状態で戻っても範囲攻撃によってグリューエリンも攻撃されるだけだ。Uiscaは盾を構えて、敵がBSを解除するまでは攻撃を耐えることを選んだ。
白鯨は地面に体を回転させながらを擦り付け、Uiscaに突進した。
盾で受けたが、Uiscaは衝撃で腕に痺れるような痛みを覚えた。それでもUiscaには仰ぎし福音による回復がある。
振り向いて白鯨を視線で追うが、突進前と突進後では白鯨の姿が違っていた。
「あれ……? 塗料は……!?」
白鯨の体には白さが戻っていた。いや、よく見れば薄っすら体は黄色いのだが、明確な黄色いシミではなくなっていた。
白鯨の突進の際に体を擦った地面を見たキヅカは理解した。
「沈没船にぶつかることで銛を抜いた時と一緒だ。地面に体を擦り付けて、ペイントをそこに擦りつけたんだ……!」
ジュースの跡はない。おそらく粘性のある塗料の方がそれでも体に残りやすかったのだろう。
「だが、傷跡だけは隠せねぇらしいな」
と、デスドクロの言うように、白鯨はデスドクロの弾丸や、イレギュラーたちの銛によってできた傷は隠せていない。
あの流血だけが目印だ。
「ガンガン撃ち込んだ分だけこっちが有利になるってことだな。存分にバトルを支えてやろうじゃねぇの」
派手さはないが、気付いたら土台となり演奏を引き締めるベースのように。
「素直に攻撃した方がいいか……」
キヅカは重機関銃からマグダレーネに持ち替えて、キュクロープスで照準を合わせる。
「近くに来たら殴れるんだけどな……」
零次が彼我の距離を計算する。
「アラベラさん!」
そして、Uiscaが白鯨から目をそらさずアラベラ・クララ(kz0250)に言った。
「今回もゆにっと組んでくれますか?」
「もちろんです!」
白鯨が、ついにUiscaから視線を逸らした。BS注視を解除したのだ。
注視さえなければ問題ないと、Uiscaはグリューエリンたちのところへ戻っていく。
白鯨はハンターたちめがけて突進した。サイズ5の巨体を生かしハンターたちが固まっているところ目掛けて進む。
キヅカやUisca、零次、グリューエリンにアラベラ、そして魔導アーマーはほぼ同じような場所にいた。故に同時に攻撃に晒されてしまう。
デスドクロは射程の関係か、彼らとは距離を取っていたのですぐには巻き込まれない。
(やっぱ、あの突進攻撃はやべぇな……)
白鯨と魔導アーマーのぶつかる鈍い音が聞こえた。しかし防御を厚くしていたので簡単には壊れなかった。
「グリューエリン、無事ですか!?」
アラベラは、グリューエリンの盾になっていた。
グリューエリン自身も、歌ながらでもある程度動けるようになっていたので、無傷だ。ピッチもブレてはいない。
(沈没船を遮蔽物に使うか?)
デスドクロは考えていた。
沈没船はいくつか転がっている。しかし、白鯨の動きを制限できるほど狭い場所はないし、いざとなったら逃げ込むには距離がある。そして、今までの攻撃を見るに白鯨は、突進の末沈没船にぶつかるとしても問答無用で突っ込んでくるだろう。
白鯨がこの世界を自由に動き回る以上、遠距離攻撃などを使って動きを制限することが肝要だった。それがグリューエリンや魔導アーマーを守ることにもなる。また、白鯨が近接攻撃しかしない以上、攻撃時にはハンターに接近する。そのタイミングで白鯨を引っ張りこむなどの工夫があると盤石だっただろう。
「アラベラさん、回復……!」
「ありがとうございます、Uisca!」
Uiscaは仰ぎし福音で、まとめてハンターを癒した。同時に守りの障壁を付与するのだが、それも悉く突進によって打ち壊される。
その間も、デスドクロが絶え間なく弾丸を撃ち込んでいるが、白鯨の止まる気配はない。
白鯨は泳いで3次元的な動きをする。そこで最も気をつけるべきものは、上からの攻撃だった。横からならば、占有スクエアをつくって突進を止められるが、上からは飛行状態にならない限り難しい。
魔導アーマーのパイロットも攻撃を避けようとはしているが、絶対に避けられるわけではない。攻撃によりスピーカーの一部が損傷して音響効果範囲が狭まっていた。
白鯨が、その音響効果範囲を飛び出した。不可視になった後、ソレはグリューエリンたちを押し潰すように真上から猛突進を開始する。
そんな中、アラベラはイレギュラーの戦いを見てちょっと思うところがあった。
──銛が投げられるなら、槍も投げられるのでは?
なので、アラベラは槍を、槍投げのように持ち替えて、白鯨に投げ飛ばした。
槍が突き刺さった白鯨は体をくねらせて軌道を変えて再び音響領域外に去っていった。
「……はっ、しまりました!」
白鯨はどこかの沈没船に擦り付けて槍を振り落とした。取りに行く余裕はハンターたちにはない。
キヅカはポゼッションを発動した。流石に、ここで態勢を立て直さなければまずいと思ったからだ。
「どうにかして、あいつを止めるしかないんだけど……」
キヅカが横目で魔導アーマーを確認する。次に損傷したら大破の恐れがある。
「受け止めるってんなら俺がやる」
と、言うのは零次だ。彼は金剛不壊と白虎神拳を使えるので、敵の攻撃に耐えられるし、行動不能も付与できる。
「だが……俺だけを白鯨が狙うとは考えられない」
「では、妾が囮になります」
零次の言葉にアラベラが答えた、アラベラもソウルトーチに似た敵の注目を浴びるスキルを持っているからだ。
「でも、アラベラさん。私も……」
と、Uiscaが言うのを、アラベラが「妾の方が良いと思いますよ」と制した。
「ほら、槍がどこかへ行ってしまったので、今の妾が攻撃するには心もとないでしょう? ですので、Uiscaたちは攻撃すればいいのです」
心技体、鋼の如くは強力だが、続く攻撃行動のことを考えると自分の方が適役だとアラベラは言いたいのだ。
「そういうわけで、零次。準備は良いですか?」
「言われなくても、こっちも戦う以上、覚悟はしてきている」
強気な笑みを零次は見せた。
「絶対止める。倒れるのは、戦いの後でいくらでもできるからな」
零次とアラベラがポゼッションの中から飛び出した。
白鯨はしかし、歌声こそが自分の不可視を打ち破っているらしいとあたりをつけていたので、2人を無視する。
「妾を無視するとはよい度胸ですね!」
アラベラは旗のように盾を掲げ、ソウルトーチに似たスキルを発動した。
白鯨の視線がアラベラに引きつけられてしまう。
──白鯨は、その2人から叩き潰そうと牙をむき出しにした。
「いい気分ですね。感情が叩きつけられるというのは」
アラベラは白鯨に向かって盾を構え、姿勢を低くしそれを両手で支えた。
零次はアラベラの背後にいる。占有スクエアをつくり、まず、アラベラが盾で敵の衝撃を殺し、さらに後ろの零次が両腕で白鯨そのものを受け止めるための構えだ。
白鯨は尾鰭で空気を蹴って加速、2人に向かって突進する。
「耐えろよ、英霊!」
「当たり前です!」
白鯨の砦のような頭がアラベラの盾にぶつかった。
そして零次がその頭を、両手で抑え込む。金剛不壊でどんなダメージにも耐えてみせる。
「いい加減止まりやがれ──!」
受けたダメージの流れを自分の中のマテリアルに流し込み、白虎神拳の一撃として転用する。
「もう一撃だ!!」
すでに発動されていた阿修羅の構えから青龍翔咬波で同じ打点を貫いた。
白鯨の動きが停止する。白虎神拳のBS行動不能が付与されたからだ。
「今のうちに決めねぇとか」
デスドクロも好機を悟る。
「俺様の後に続けるんだろうな!?」
「もちろんです!」
「今の僕の……いや、オレの全力を叩き込む!」
「上等だ。──行くぜ、暗黒太陽!」
フラガラッハからラヴァダの光条が展開される。
白鯨の体を覆うように小太陽が現れて、その白き肌を焼き焦がした。
「喰らい尽くします!」
Uiscaが【龍獄】黒龍擁く煉獄の檻を、白鯨の体内を喰い破るように発動する。黒龍の牙や爪に貫かれ引き裂かられ、白い肌から緑色の血液が噴出した。
キヅカがマグダレーネを振ると、その軌跡にはいくかの暗い星。それらが強烈な光を放った。
(”凡人”を理由に退くわけにはいかない。もう、退く気はないんだ。この道を選ぶと決めたあの日から)
(これは誓いだ)
(六等星だった自分の精一杯、一瞬だけ生まれる流れ星)
星の救恤者。命を削って輝く、白色矮星。
「祈りを背負う。この痛みとともに」
輝きは流星となって白鯨に突き刺さった。
白鯨の体に穴が空いた。そこから流れ出す緑色の血液。そして今までずっと浮いていた白鯨の体が静かに地に落ちる。ぐったりと、自分の血に濡れて動かなくなった。
「終わったか」
零次は言った途端、膝をついた。
「零次殿、それにアラベラ殿、皆様……!」
グリューエリンは戦闘が終了したので歌唱をやめた。もう白鯨の体が不可視になることはない。
零次は金剛不壊によって耐えていたが、それでも生命力をダメージが上回っていた。
アラベラも限界を超えており、盾はひしゃげていた。
キヅカとUiscaには超覚醒の代償がやってきた。
しかし、倒れこむハンターたちをイレギュラーたちが駆け寄って支えた。
「こんなんじゃかっこ悪いけど、言わせてほしい」
キヅカがグリューエリンに話しかける。
「世界を変えるために必要なのは意思なんだって……結構最近気がついた。だから……もうちょっと無茶してみようと思う。この世界の中心で、僕にしかできない事があると思うから。その時、もし気が向いたら歌ってよ。世界の為に、僕なんかの為に」
「いくらでも、歌いますわ」
「うん、ありがと」
ハンターもイレギュラーも一緒に異界を脱出する。
海底世界には白鯨が横たわるだけ。やっと静かな世界となったのだった。
デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)は顎を撫でながら、この異界の管理者の色に唸る。
「黒鯨なら丁重にもてなした上で、お帰り頂いても良かったが……。白いっつーのが何よりダメだ。こいつは世界の敵だからな。悪ぃがここで仕留めさせてもらうぜ、グーハハハ!」
歌唱しているグリューエリン・ヴァルファー(kz0050)へは、ことここに及んでアドバイスすることもない。
(トバし過ぎず、されどハートは常に熱く、それが長丁場のライヴの肝だ)
(古今東西、巨鯨相手は忍耐力の勝負と相場が決まってる。要は、やろうとしてることはそんなに変わりはねぇってことよ)
「本当に海の中みたいだな……って、言ってられる場合でもないのか」
不思議な感覚だと、輝羽・零次(ka5974)は思った。
薄青に塗られた世界。髪も服も揺らめいているのに、時間は止まっているような感覚。
白鯨はスピーカーで拡散されマテリアルに変換された音の効果範囲内にいる。普段、不可視の体を持つ彼は体が晒されることをどう捉えたのだろう。
「どこにいようと、『視える』ようにする」
キヅカ・リク(ka0038)が重機関銃に装填しているのはペイント弾だ。敵を着色して、歌の効果以外で不可視を打ち破るのだ。
またデスドクロも射撃を開始する。
2人の弾丸がそれぞれ白鯨の体に撃ち込まれた。どちらも命中し、体には黄色いペイント弾の弾痕と、弾創から緑色の血液が立ち上っている。
白鯨の巨体においては、ペイントした箇所は随分小さいとキヅカは思った。遠くへ行かれてしまえば、認識するのは困難だろう。
「もっと色が必要みたいですね」
すでに超覚醒を終えていたUisca Amhran(ka0754)は覇者の剛勇を味方に施した後、心技体、鋼の如しを発動した。
「今回は守護者として目立たせてもらいますよ!」
白鯨が、Uiscaの輝きから視線が外せなくなる。
「イレギュラーの皆さん、私の言葉がわかりますか!?」
先ほど、沈没船の陰から銛を投げたイレギュラーの姿をハンターたちは確認している。彼は再び沈没船のどれかに隠れてしまったので、どこにいるかはわからない。
「貴方達に敵意はありません! あの白鯨を倒すために、協力はできないでしょうか!?」
「私たちも、この世界の外の話は知っている。だから、戦っている」
ある沈没船の陰から、イレギュラーの声がした。
「我々もこうして武器を持ち立ち上がったんだ」
さらに別の沈没船の陰から別のイレギュラーの声がした。
そして3人目の声が喋った。
「私たちは決して強くはないけれど、できることをするよ」
すでに意思表示はされている。イレギュラーたちはそう言っていた。
「なら、僕たちの元へ来て欲しい」
キヅカが言った。
「守る手段はあるんだ。イスカさんが敵の気を引いている。今のうちに──」
「それは……無理だ」
最初に喋ったイレギュラーが返事をした。
「私たちには、こうして隠れながら戦う他に、やり方がないんだ。沈没船に隠れられることが怪物に対する唯一のアドバンテージなんだ。あの怪物についている刺し傷は、私たちの仲間が自分の命と引き換えに突き刺したものだ。……わかってくれるかい」
「なるほどな。なら俺様たちがすべきことは、あのモビーディックを倒すこと。意志を行動で示すことだろうな」
デスドクロは射撃を続けている。
「姿が見えていれば、銛を当てることは難しくない。小さな傷しかつけられないけれど、支援はするよ」
が、しかし、その声がしていた沈没船に白鯨が突進してきた。白鯨はBS注視によりUiscaから目を逸らすことができない。だから、彼女を巻き込む形でイレギュラーを殺そうとしたのだ。だが、それでもやはりBS注視によりUiscaを中心に不自然な周回軌道を描いて白鯨の突進は止まった。
「目印を付けさせていただきます!」
Uiscaは樽に入ったジュースを白鯨に向かって放り投げた。
白い巨体に着弾して樽が砕けて、中から飛び出したオレンジ色の液体が肌に付着する。
零次が拳を突き出して放った青龍翔咬波が白鯨の体に突き刺さる。
同じく、デスドクロやキヅカの弾丸も命中した。これだけ白い面積を汚されれば、見失うことはないだろう。
また、イレギュラーの銛も突き刺さり、ハンターを支援する。
「もうこれで大丈夫そうですね」
Uiscaは、心技体、鋼の如く効果時間の終了を待たず解除しようとした。白鯨に目印をつける時だけに使うつもりだからだ。しかし、このスキルはGSではないので解除はできない。また、白鯨に付与されたBS注視の効果はBSとして付与された以上、付与対象が抵抗判定に成功するなどしない限り効果は続く。
(エリンさんの元に戻った方が支援はしやすいのですが……)
しかし、敵の注視が解けていない状態で戻っても範囲攻撃によってグリューエリンも攻撃されるだけだ。Uiscaは盾を構えて、敵がBSを解除するまでは攻撃を耐えることを選んだ。
白鯨は地面に体を回転させながらを擦り付け、Uiscaに突進した。
盾で受けたが、Uiscaは衝撃で腕に痺れるような痛みを覚えた。それでもUiscaには仰ぎし福音による回復がある。
振り向いて白鯨を視線で追うが、突進前と突進後では白鯨の姿が違っていた。
「あれ……? 塗料は……!?」
白鯨の体には白さが戻っていた。いや、よく見れば薄っすら体は黄色いのだが、明確な黄色いシミではなくなっていた。
白鯨の突進の際に体を擦った地面を見たキヅカは理解した。
「沈没船にぶつかることで銛を抜いた時と一緒だ。地面に体を擦り付けて、ペイントをそこに擦りつけたんだ……!」
ジュースの跡はない。おそらく粘性のある塗料の方がそれでも体に残りやすかったのだろう。
「だが、傷跡だけは隠せねぇらしいな」
と、デスドクロの言うように、白鯨はデスドクロの弾丸や、イレギュラーたちの銛によってできた傷は隠せていない。
あの流血だけが目印だ。
「ガンガン撃ち込んだ分だけこっちが有利になるってことだな。存分にバトルを支えてやろうじゃねぇの」
派手さはないが、気付いたら土台となり演奏を引き締めるベースのように。
「素直に攻撃した方がいいか……」
キヅカは重機関銃からマグダレーネに持ち替えて、キュクロープスで照準を合わせる。
「近くに来たら殴れるんだけどな……」
零次が彼我の距離を計算する。
「アラベラさん!」
そして、Uiscaが白鯨から目をそらさずアラベラ・クララ(kz0250)に言った。
「今回もゆにっと組んでくれますか?」
「もちろんです!」
白鯨が、ついにUiscaから視線を逸らした。BS注視を解除したのだ。
注視さえなければ問題ないと、Uiscaはグリューエリンたちのところへ戻っていく。
白鯨はハンターたちめがけて突進した。サイズ5の巨体を生かしハンターたちが固まっているところ目掛けて進む。
キヅカやUisca、零次、グリューエリンにアラベラ、そして魔導アーマーはほぼ同じような場所にいた。故に同時に攻撃に晒されてしまう。
デスドクロは射程の関係か、彼らとは距離を取っていたのですぐには巻き込まれない。
(やっぱ、あの突進攻撃はやべぇな……)
白鯨と魔導アーマーのぶつかる鈍い音が聞こえた。しかし防御を厚くしていたので簡単には壊れなかった。
「グリューエリン、無事ですか!?」
アラベラは、グリューエリンの盾になっていた。
グリューエリン自身も、歌ながらでもある程度動けるようになっていたので、無傷だ。ピッチもブレてはいない。
(沈没船を遮蔽物に使うか?)
デスドクロは考えていた。
沈没船はいくつか転がっている。しかし、白鯨の動きを制限できるほど狭い場所はないし、いざとなったら逃げ込むには距離がある。そして、今までの攻撃を見るに白鯨は、突進の末沈没船にぶつかるとしても問答無用で突っ込んでくるだろう。
白鯨がこの世界を自由に動き回る以上、遠距離攻撃などを使って動きを制限することが肝要だった。それがグリューエリンや魔導アーマーを守ることにもなる。また、白鯨が近接攻撃しかしない以上、攻撃時にはハンターに接近する。そのタイミングで白鯨を引っ張りこむなどの工夫があると盤石だっただろう。
「アラベラさん、回復……!」
「ありがとうございます、Uisca!」
Uiscaは仰ぎし福音で、まとめてハンターを癒した。同時に守りの障壁を付与するのだが、それも悉く突進によって打ち壊される。
その間も、デスドクロが絶え間なく弾丸を撃ち込んでいるが、白鯨の止まる気配はない。
白鯨は泳いで3次元的な動きをする。そこで最も気をつけるべきものは、上からの攻撃だった。横からならば、占有スクエアをつくって突進を止められるが、上からは飛行状態にならない限り難しい。
魔導アーマーのパイロットも攻撃を避けようとはしているが、絶対に避けられるわけではない。攻撃によりスピーカーの一部が損傷して音響効果範囲が狭まっていた。
白鯨が、その音響効果範囲を飛び出した。不可視になった後、ソレはグリューエリンたちを押し潰すように真上から猛突進を開始する。
そんな中、アラベラはイレギュラーの戦いを見てちょっと思うところがあった。
──銛が投げられるなら、槍も投げられるのでは?
なので、アラベラは槍を、槍投げのように持ち替えて、白鯨に投げ飛ばした。
槍が突き刺さった白鯨は体をくねらせて軌道を変えて再び音響領域外に去っていった。
「……はっ、しまりました!」
白鯨はどこかの沈没船に擦り付けて槍を振り落とした。取りに行く余裕はハンターたちにはない。
キヅカはポゼッションを発動した。流石に、ここで態勢を立て直さなければまずいと思ったからだ。
「どうにかして、あいつを止めるしかないんだけど……」
キヅカが横目で魔導アーマーを確認する。次に損傷したら大破の恐れがある。
「受け止めるってんなら俺がやる」
と、言うのは零次だ。彼は金剛不壊と白虎神拳を使えるので、敵の攻撃に耐えられるし、行動不能も付与できる。
「だが……俺だけを白鯨が狙うとは考えられない」
「では、妾が囮になります」
零次の言葉にアラベラが答えた、アラベラもソウルトーチに似た敵の注目を浴びるスキルを持っているからだ。
「でも、アラベラさん。私も……」
と、Uiscaが言うのを、アラベラが「妾の方が良いと思いますよ」と制した。
「ほら、槍がどこかへ行ってしまったので、今の妾が攻撃するには心もとないでしょう? ですので、Uiscaたちは攻撃すればいいのです」
心技体、鋼の如くは強力だが、続く攻撃行動のことを考えると自分の方が適役だとアラベラは言いたいのだ。
「そういうわけで、零次。準備は良いですか?」
「言われなくても、こっちも戦う以上、覚悟はしてきている」
強気な笑みを零次は見せた。
「絶対止める。倒れるのは、戦いの後でいくらでもできるからな」
零次とアラベラがポゼッションの中から飛び出した。
白鯨はしかし、歌声こそが自分の不可視を打ち破っているらしいとあたりをつけていたので、2人を無視する。
「妾を無視するとはよい度胸ですね!」
アラベラは旗のように盾を掲げ、ソウルトーチに似たスキルを発動した。
白鯨の視線がアラベラに引きつけられてしまう。
──白鯨は、その2人から叩き潰そうと牙をむき出しにした。
「いい気分ですね。感情が叩きつけられるというのは」
アラベラは白鯨に向かって盾を構え、姿勢を低くしそれを両手で支えた。
零次はアラベラの背後にいる。占有スクエアをつくり、まず、アラベラが盾で敵の衝撃を殺し、さらに後ろの零次が両腕で白鯨そのものを受け止めるための構えだ。
白鯨は尾鰭で空気を蹴って加速、2人に向かって突進する。
「耐えろよ、英霊!」
「当たり前です!」
白鯨の砦のような頭がアラベラの盾にぶつかった。
そして零次がその頭を、両手で抑え込む。金剛不壊でどんなダメージにも耐えてみせる。
「いい加減止まりやがれ──!」
受けたダメージの流れを自分の中のマテリアルに流し込み、白虎神拳の一撃として転用する。
「もう一撃だ!!」
すでに発動されていた阿修羅の構えから青龍翔咬波で同じ打点を貫いた。
白鯨の動きが停止する。白虎神拳のBS行動不能が付与されたからだ。
「今のうちに決めねぇとか」
デスドクロも好機を悟る。
「俺様の後に続けるんだろうな!?」
「もちろんです!」
「今の僕の……いや、オレの全力を叩き込む!」
「上等だ。──行くぜ、暗黒太陽!」
フラガラッハからラヴァダの光条が展開される。
白鯨の体を覆うように小太陽が現れて、その白き肌を焼き焦がした。
「喰らい尽くします!」
Uiscaが【龍獄】黒龍擁く煉獄の檻を、白鯨の体内を喰い破るように発動する。黒龍の牙や爪に貫かれ引き裂かられ、白い肌から緑色の血液が噴出した。
キヅカがマグダレーネを振ると、その軌跡にはいくかの暗い星。それらが強烈な光を放った。
(”凡人”を理由に退くわけにはいかない。もう、退く気はないんだ。この道を選ぶと決めたあの日から)
(これは誓いだ)
(六等星だった自分の精一杯、一瞬だけ生まれる流れ星)
星の救恤者。命を削って輝く、白色矮星。
「祈りを背負う。この痛みとともに」
輝きは流星となって白鯨に突き刺さった。
白鯨の体に穴が空いた。そこから流れ出す緑色の血液。そして今までずっと浮いていた白鯨の体が静かに地に落ちる。ぐったりと、自分の血に濡れて動かなくなった。
「終わったか」
零次は言った途端、膝をついた。
「零次殿、それにアラベラ殿、皆様……!」
グリューエリンは戦闘が終了したので歌唱をやめた。もう白鯨の体が不可視になることはない。
零次は金剛不壊によって耐えていたが、それでも生命力をダメージが上回っていた。
アラベラも限界を超えており、盾はひしゃげていた。
キヅカとUiscaには超覚醒の代償がやってきた。
しかし、倒れこむハンターたちをイレギュラーたちが駆け寄って支えた。
「こんなんじゃかっこ悪いけど、言わせてほしい」
キヅカがグリューエリンに話しかける。
「世界を変えるために必要なのは意思なんだって……結構最近気がついた。だから……もうちょっと無茶してみようと思う。この世界の中心で、僕にしかできない事があると思うから。その時、もし気が向いたら歌ってよ。世界の為に、僕なんかの為に」
「いくらでも、歌いますわ」
「うん、ありがと」
ハンターもイレギュラーも一緒に異界を脱出する。
海底世界には白鯨が横たわるだけ。やっと静かな世界となったのだった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 鬼塚 陸(ka0038) 人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2019/07/30 12:49:12 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/07/26 00:16:37 |