悪意に塗れた小さな戦場

マスター:T谷

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/02/03 12:00
完成日
2015/02/11 06:41

みんなの思い出

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オープニング

「はぁ……」
 何かに腰掛け、女は物憂げに大きなため息を吐く。
 時代錯誤なほどに豪奢な真紅のドレスに、異様に白い陶器のような肌。壁に掛けられた松明の炎だけが彩る薄暗い部屋の中で、女はその光を返す金の髪を退屈そうにくるくると弄っている。刺々しいまでの美貌が、陰鬱な空間に浮かび上がっていた。
「マジ超ヒマなんですけどぉ……オルちゃんも全然一緒に遊んでくんないし、アタシもヘンキョウとかいうとこ行けばよかったかなー」
 真っ赤な紅を施した唇を尖らせる女の口調は、格好と裏腹に酷く軽い。
「ハンターも超集まってたって話じゃん? オルちゃんに付いてったら安全そうだしぃ、そこだったらアタシも……ねえ、聞いてんの?」
 女は視線を下に落とす。正確には、自分の座っているものに。
 そこには人間がいた。
 屈強な体格の男が、女の下で四つん這いになっている。轡を噛まされ、首にはギリギリで息が出来る程度に鎖が巻かれ、よく見れば、手の甲とふくらはぎが楔によって地面に縫い付けられていた。
「聞いてんのかって言ってんの。返事くらいしろよ」
 女の視線も声も、限りなく冷たい。
 呼吸もままならない男は、流す涙も枯れ果てて俯いている。女は再びため息を吐いた。
「……もういいや」
 女が立ち上がる。
 そしてゆっくり振り返ると――無言で、男の腹を思い切り蹴りあげた。
 女の小柄な体格からは考えられないほどの、重い打撃音。そしてぶつりと、湿った、何か致命的なものが千切れる音を伴って、男は壁に叩きつけられた。
 衝撃で轡が外れ、男の口から鼻から、ドス黒い血の塊が吐き出される。酷い血の臭いが部屋の空気と混じり合う。
 悲鳴を上げる気力すらなく、男は呻き声を漏らして床に転がった。
「ちっ、泣き声も出せねえの。ほんっと、この辺りってハズレばっか」
「……も、もう……やめ……助け……」
「……あ? 何つったてめえ」
 イライラと、女は舌打ちとため息を繰り返していた。
 しかし、倒れ伏し、意識も朦朧とした男が絞り出した言葉を聞いた瞬間、限界まで引き伸ばされていた糸がぷつりと切れた。
 次の瞬間に響いたのは、先ほどの打撃とは比べ物にならない轟音だった。
 男の上半身に、巨大な鉄の塊が振り下ろされていた。鉄塊は床を容易く砕き、衝撃は壁を揺らし、天井からはバラバラと木屑が舞い落ちる。
 それを直接受けた男がどうなったのかなど、考えるまでもない。
「その顔で命乞いとか、超ウケルんですけど。……でも、あーあ、やっちゃった。手入れすりゃ、もうちょっとは遊べたのになー」
 それに対し、女の反応は淡白だ。まるで、こんなことなど日常茶飯事だというように。
 買ったばかりのお菓子を、つい一日で食べ切ってしまった。その程度。
 そしてそんな後悔も、ほんの一瞬のことだった。
 女はすぐに頭を切り替え、床に転がる男の下半身、その断面に指を突き刺す。そして引き抜いた指に絡んだ血を、躊躇いなくぺろりと舐めた。
「うえ、ブサイクは血も不味いのな。ってか、あの顔思い出すからか。きゃははは!」
 そうして何が面白いのか、女は耳に障る甲高い声で笑う。
「さーて、キープ君も全部やっちゃったし、また新しいとこ行こうかな。……オルちゃんの下に入って部下貰ったはいいけど、あいつら絶対イケメンとブサイクの区別ついてないよねぇ」
 女はひとしきり笑った後、ぶつぶつと文句を言いながら、じゃらりと地面に横たわる太い鎖をひょいと持ち上げる。その先に繋がれているのは巨大な鉄塊――自作にして愛用の、アイアンメイデンだ。
 ズルズルとアイアンメイデンを引きずって、彼女は部屋を後にする。
「人間対元人間……あはっ、やっぱ堪んないなぁ! かつての仲間と殺し合え、アタシのおもちゃ達」
 最後に一度、部屋の中を見渡して、女はくすりと妖艶に笑った。
 後に残った部屋には山のように、破壊しつくされた死体が転がっている。



 歪虚が湧いている建物があると、ハンターズソサエティに連絡が入った。深い森の中、打ち捨てられた狩猟小屋から現れた歪虚が、近隣の村を襲ったという。
 歪虚を殲滅し、安全を確保して欲しい。
 オフィスの受付嬢の言葉に、ハンター達は応と頷いた。

リプレイ本文


 鬱蒼とした森を抜けたハンター達を待っていたのは、思った以上に古ぼけた小屋だった。
 薄い木の板を組み合わせた壁は苔むし、腐り、所々には小さな穴が開いている。小屋は村の共有財産であったが、あっさりとハンター達に破壊の許可が出たのも頷ける有様だった。
「ふむ、扉の破壊は容易なようだな」
 アシフ・セレンギル(ka1073)の視線の先には、既に半壊している扉があった。何か大きなものが無理矢理通ったかのように扉枠の下半分がへし折れ、蝶番も外れてしまっているのか全体が傾いていた。
 辛うじて扉としての機能は残っているようだが、強めの衝撃を加えれば簡単に破壊可能に見える頼りなさだ。
「なら、扉はアシフに任せようか。あたしはいつでも飛び込めるように準備しておくよ」
 キャメリア(ka2992)は背負った剣と盾を手にする。
「濃い、血の臭いを感じます」
「血って言っても、ゾンビなんて朽ちたものに興味ないけど。まあ、仕事だからね」
 フランシスカ(ka3590)が表情なく呟けば、サナトス=トート(ka4063)は詰まらなそうにため息をついた。
「どれだけのゾンビが潜んでいるか分かりません。気を付けていきましょう」
「……うん、解放……してあげよう」
 リリティア・オルベール(ka3054)とシェリル・マイヤーズ(ka0509)もまた、それぞれに刀を構えた。



 シェリル、キャメリア、リリティア、サナトス。四人の近接組は、扉のすぐ脇に待機する。それを見守るように少し離れた場所でフランシスカは両手に二本の剣を構え、最後列のアシフは静かにマテリアルを集中させた。
「準備はいいか?」
 アシフの問いに、全員が頷く。
 それを見届けて、アシフはマテリアルを解き放つ。風が渦を巻き、刃と化す。
 ひゅるんと音を立て放たれた刃は、過たず壊れかけの扉を強く打ち据えた。響いた音は衝撃に応じて大きく、中にいるであろうゾンビを刺激するに充分なものだった。
 残った蝶番は呆気なく砕ける。そして一拍置いて、扉は力なく二つに割れて地面に落ちた。
 同時に中から漂ってきたのは、強烈な屍臭だ。血と臓物、その腐り果てた得も言われぬ悪臭が屋外にも関わらず立ち込める。風に流されても尚染み付くほどの臭いだ。
 近接組は強く獲物の柄を握りしめ、全身に力を込める。
 狭い室内での戦闘を避け、まず屋外にゾンビをおびき出す作戦だった。息を潜めず、音に釣られたゾンビが現れるのを待つ。

 ――やがて少しだけ時間を置いて、低く響くうなり声と、何かを引きずるような湿った音が聞こえてきた。
「……やけに、出てくるのが遅いですね」
 リリティアが呟く。
 確かに、音に反応したにしては、初動が遅く感じられた。しかし、それが何故だかは、奥から現れたゾンビの姿を目撃した瞬間に理解する。
「合わない、パーツ……無理矢理つけて……子供の人形遊び、みたい」
 四肢の一部、もしくは感覚器などが傍目から見て分かるほどに破壊されている。ここまで破壊されれば脱げてしまうであろう鎧を、縫い付けられたように着ているのは何かの冗談なのだろうか。
 しかし、たとえ歪虚となり、腐れた死体に成り果てたとしても、不自由な体で不自然な鎧を引きずれば遅くもなろうと。
 ほぼ全員が、それを見た瞬間にざわつくような嫌悪感を背筋に感じた。
「あれ、欠陥品ばかりだね。もがれたのかな?」
 ただ一人、飄々としたサナトスの大剣は、既に腰だめに構えられていた。小屋から続々と湧き出すゾンビの群れに、自ら飛び込んでいく。
「待ってください! 彼らが元人間だとしたら、首元を……!」
「分かってるよ」
 サナトスの凶刃は唸りを上げ、横薙ぎにゾンビの胸元を払った。
 両腕の無いゾンビと、眼窩に暗闇を湛えたゾンビが、まとめて二つに千切れて小屋の壁に叩き付けられた。
 さらに大剣の遠心力と、切っ先が地面に衝突した反動を利用しての蹴撃へと流れるように移行する。
「弄ばれた……の?」
 シェリルの瞳伏せられ、影以上に暗く濁っているように見えた。
 そんなシェリルに、両足の無いゾンビが狙いを付けた。驚異的な腕力で、地面を素早く這いずって近寄る。
「……悔しかったね」
 シェリルは顔を上げる。そこには何の表情も浮かんでいない。
 ただ単純に、ゾンビが飛び掛かるに合わせて、手にした刀で無数の刺突を繰り出していた。顔へは決して攻撃を加えず、その攻撃は的確にゾンビの胸元を抉る。
 ぐちゃりと、嫌な音を残し墜落したゾンビは、もう動く気配がない。
「墓場でもないというに、こんなところから死体がゾロゾロと出てくるものかね。さすがに異常だ」
 キャメリアはこの状況を訝しむ。これが自然発生したものとは、とても思えない。
 だがとにかく、小屋の中を調べるためにもゾンビの殲滅は急務だろう。
 キャメリアは剣を振る。マテリアルを込め強く踏み込んで放たれた剣先は、直撃の瞬間に赤熱し腐肉を焼き切り、貫く。
 異臭が漂う。
 ただ、その熱はゾンビに効果が高いらしく、彼女は次々にゾンビに引導を渡していく。
「私も、彼らに慈悲を」
 その後ろから光球を放ったのはフランシスカだ。光球は炸裂し、光を撒き散らしてゾンビの体を吹き飛ばす。
 次いで彼女は一息に飛び込んで、聖なる力を込めた刃を繰り出す。
 ゾンビの鎧はちぐはぐで、その隙間を探すのは難しくない。フランシスカの放った攻撃は、いとも容易くゾンビを薙ぎ、その動きを止めていった。
「あれ、死体が……」
 そこで違和感を感じたのは、特に巨大な刃を振り回していたリリティアだった。数体のゾンビをまとめて薙ぎ払い、胸元を失ってゾンビはごろりと地面に転がる。
 だが、そこから先の様子が違った。
 死体が消えないのだ。
 肉は腐り落ち、苦悶の表情を浮かべているように見える相貌に、残った皮膚は爛れて見る影もない。しかし、空気に溶けて消えるはずの死体は、まだそこにある。始めにサナトスが斬った個体も、板壁に体液の跡を残しながら傾いた首を預けている。
 まだ生きていた、などということは有り得ない。
「細かいことを考えるのは、いつでもできる」
 一瞬、考えに耽りそうになったリリティアに向け、アシフは、前線よりも奥にいるゾンビに炎の矢を放ちながら言う。矢はゾンビの胴体を貫き、たたらを踏んだゾンビは片足が失われている所為でバランスを崩し腐りかけた椅子を押し潰しながら倒れ込む。
「何にせよ、出てくるモノの始末が先だ。違うか?」
 次々に紡ぎ出された魔法は、ゾンビに抵抗を許さない。
「……確かに、そうですね」
 リリティアは気を取り直し、振り上げるだけで轟音を上げる刃で以て、再びゾンビに向き直った。



 阿鼻叫喚という言葉が、この上なく似合う場となった。
 無惨に引き千切れた死体が、小屋の周りに散乱している。足の踏み場もないと言えば過言だが、どす黒い血に濡れていない地面を探すのは難しい。
 ハンター達は息をつく。
 戦いが始まってどれくらいの時間が経ったのか、ようやく小屋からのゾンビは収まった。
「小屋の中には、もういないようですね。しかし、地下室がある、ということでしたが……」
「調べるべきだろうな……この分だと、地下にまだいるかもしれん」
 フランシスカとアシフは入り口から小屋の中に目をやる。血や肉片が散らばっている以外に、特におかしなところのない室内だ。
 ハンター達は、慎重に屋内へと足を踏み入れる。古びた木材の軋む音と、ぐちゃりと粘ついた音が重なって響く。
「……はぁ、朽ちた材料ばっかりだ。でも、臭いは確実に強くなってるね」
 少々うんざりとした表情を浮かべながら、サナトスは鼻を鳴らす。小屋の外からでも感じていた臭いは、中に入ってより強烈に鼻を刺すほどになっていた。
 それは確実に、小屋の奥にぽっかりと口を開けた円形の穴から漂ってきている。
「……壊され、てる……の?」
 ぎゅっと胸元で拳を握り、シェリルが抑揚のない声で呟く。
 地下への入り口は、小屋の扉と同じように、何か大きなものを無理矢理通したかのように破壊されていた。
 それが円形。
 ゾンビが這い出てくるために破壊した、というのは、説明として通らないように思えた。

 ――そして、ハンター達はうっすらと、幾つものくぐもった呻き声を耳にした。
 音は間違いなく、穴の奥から聞こえてくる。
 何が待ち受けているか分からない。一行は、より警戒を強めて穴の奥に広がる暗闇を見つめた。



「う……これ、は……」
 地下への梯子を下りた先、足下に水の感触があった。ほんの一瞬、その感触に躊躇った後、ゆっくりと足を下ろせば、液体の奥に柔らかなものが沈んでいることに気づく。
 呻き声に、途轍もない悪臭……思ったよりも広い地下室を照らすランタンの淡い光に嫌な予感を感じながらも目を凝らしたリリティアは、思わず口元を押さえていた。
「死は見慣れているつもりだけれど、これは……」
 傭兵を生業にしてきたキャメリアでさえも、その光景と悪臭に顔をしかめる。
 部屋にはいくつも、黒い山が聳えていた。暴虐の限りを尽くされた死体の山だ。乱雑に、適当に、人としての尊厳を踏みにじるように、ただ積み上げられている。
 壁には飾るように、鎖で人だったものが括り付けられ、天井から吊り下げられている個体も少なくない。
 部屋に充満するのは、死そのものだった。
「汚い部屋だなぁ」
 軽く言って、サナトスは部屋に積まれた黒い山に刃を落とす。湿った斬撃音と共に、呻き声が一つ減った。
 絶え間なく、そこかしこから声は聞こえている。生きている人間がいるとは思えない。だが、襲ってくるゾンビも殆どいなかった。
 黒い山に挟まれ、壁に磔にされ、天井から吊られ……ゾンビとなってもその破壊衝動を埋めることができずに蠢いているのだ。
「……これは、酷いな」
 ライトで部屋を照らしながら、アシフは呟く。
「なるほど、濃い臭いがするわけです。……おや」
 フランシスカは、床の一部に目を落とす。その視線の先には、円形に砕かれ凹んだ石畳にどす黒い液体が波を打っている。
「この砕けた床と死体……使われたのは巨大な鈍器ですね。そこの引き千切られた手足といい、生身の人間では、この死体は作れません。ならば恐らくこの惨状、歪虚の仕業でしょう」
「血で足跡が残ってるね、これはハイヒールかな? ついでに、死体が山積みなところを見るに飽き性。これだけ派手に壊すくらいには短気……いや、この死体の作り方、殺す目的じゃないのかな」
 転がった死体の一つを剣先で転がし、サナトスはじろじろとその無惨な姿を眺めている。
「致命傷になる傷が殆ど無いね。巨大な武器を持った、ハイヒールの歪虚。嗜虐的な愉快犯、って感じかな。ここで、玩具で遊んでたんだろうね」
「人間業じゃない……というよりも、人間にこんなことができると思いたくないね。首謀者の武器は巨大な鈍器……ハンマー、にしても破壊痕がでかいな」
「相手が歪虚となれば、常識が通用するのかも分からん。見たこともない武器を使っていたとしても、不思議ではないな」
 キャメリアとアシフも、鼻を押さえ悪臭に耐えながら部屋を見て回る。
「……ご、ごめんなさい。私、ちょっと気分が……」
 服の袖で顔を覆ったリリティアは、せり上がる吐き気に耐え顔を青ざめさせていた。
「まあ、無理もない。あたしもちょっと胸が悪くなってきたところだ、そろそろ探索を切り上げて――」
「あ、ちょっと待って。この死体、目の奥に何かあるみたいだね」
 キャメリアが、リリティアの言葉を切欠に全員に提案しようとした時だ。サナトスが、ある死体の眼窩に指を突っ込み、何かを引きずり出した。
「……指輪、ですか?」
 それは、石の付いていないシンプルな銀の指輪だった。
「ふむ、名前が彫り込んであるのか」
 内側に書かれているのは、男の名前のようだ。
 それからサナトスは、別の死体にも目を向け、その骸を調べ回す。そうすれば、個々の死体にいくつかの物品が埋め込まれていることが分かった。
「手製のお守り、子供の書いた絵、装飾品……」
 それらが埋められたのは、眼窩、口内、耳、鼻、肋骨の奥。少し細かく調べれば、すぐに分かるような場所ばかりだ。
「悪趣味だねぇ」
「遺品、か」
「でも、なんでこんなことを……」
 リリティアが眉をひそめる。
「きっと、教えたかったんだね。行方不明になっているあなたの大切な人は、こんな辛くて惨い死に方をしましたよーって」
 事も無げに言い、サナトスは鼻で笑う。
「これを見つけさせるまでが全部、遊びなんだろうね」

 部屋の隅でシェリルは一人、仲間達の言葉を聞いていた。
 ――目の前の光景と記憶が交差し、フラッシュバックを起こす。鮮やかな赤は、両親の作った血の海だ。至る所に転がるのは、人々の遺体。苦しげに歪む表情。
 泣くことも、叫ぶことも、全て飲み干してシェリルはゆっくりと黒い山に手を伸ばす。
 粘ついた血が付くことも厭わない。遺体を一つ、引きずり出す。遺品はすぐに見つかった。優しげな女性の写真が入った、ペンダントだ。
 それを見つめるシェリルの口からは、知らず歌が漏れていた。幼い自分を包んでくれた、優しい音色。
 遺体を一つ一つ並べ、埋められた遺品を探しながら、怒りと憎悪を呼び起こす。
 ――心を奥に仕舞い込み、蓋を閉め、鍵をかける。
 簡単な作業だった。一度通った道だから、その工程は心に刻まれている。
 そうして彼女は、狂気に身を浸す。生きる為、守る為、目深に被ったフードはその心を押し隠す。弱い自分を、誰の目にも届かないところへと。
 そして残ったのは、戦う意思だけ。それで、充分だった。



 フランシスカとリリティアの提案した小屋ごとの火葬は、あっさりとソサエティの許可を得た。
 すぐさま近隣のオフィス職員が駆けつけ、ハンター達と共に準備を行った。完全に燃やし尽くす為に屋内には油が撒かれ、延焼を防ぐ為に周りの枝葉を切り落とし、数人の魔術師が風を操り炎を制御する。
「……いずれ、あの惨状を作り上げた者が、我々の前に現れるでしょう」
 轟々と立ち上る火柱を前に、フランシスカは祈りを捧げる。
「人間をおもちゃにするような奴だ。あまり真面目に取り合わないほうがいいと思うぞ」
 そんな彼女の横顔を何となしに見つめ、キャメリアは肩を竦めた。
「いいえ。必ず、必ず討たせて頂きます」
 声も表情も無感情に、フランシスカは言葉を紡ぐ。
 だが、そこには何か強い感情、例えば怒りが含まれているのではないか。キャメリアの目には、そう映ってならなかった。
「……ああ、このツケは、いつか払わせてやろう。必ずな」
 炎を前に、集まった全員が様々な感情を巡らせていた。
 天に還った魂が、どうか安寧へと導かれますように。心が、大事な人の元へと帰れますように。

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  • 身中の薔薇
    サナトス=トートka4063

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  • 約束を重ねて
    シェリル・マイヤーズ(ka0509
    人間(蒼)|14才|女性|疾影士
  • 魔弾
    アシフ・セレンギル(ka1073
    エルフ|25才|男性|魔術師
  • 静かに燃える誓い
    キャメリア(ka2992
    エルフ|20才|女性|闘狩人
  • The Fragarach
    リリティア・オルベール(ka3054
    人間(蒼)|19才|女性|疾影士
  • 幸福な日々を願う
    フローラ・ソーウェル(ka3590
    人間(紅)|20才|女性|聖導士
  • 身中の薔薇
    サナトス=トート(ka4063
    人間(紅)|24才|男性|聖導士

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アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/01/29 20:10:09
アイコン 相談卓
シェリル・マイヤーズ(ka0509
人間(リアルブルー)|14才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/02/02 19:09:22