正しき安らぎを

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/02/03 19:00
完成日
2015/02/10 13:37

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「――おや。ベルフラウ、祈りの最中でしたか?」
 ワルプルギス錬魔院に祈りの場などない。だがそれはベルフラウにとって大した問題ではなかった。
 彼女は別に敬虔なエクラ教徒というわけではなかったし、そもそもエクラ教に詳しくもなければ祈りは日課ですらない。
 それでも時折胸から下げたアンクを握り神に祈るのだ。場所はどこでも構わない。こんな錬魔院の廊下だとしても。
「ナサニエル先生、こんにちは」
「ええ、こんにちは。今日は顔色も良さそうですねぇ」
「そう言う先生は疲れてます?」
 明るく親しげな笑顔を向けるベルフラウ。ナサニエルは肩を竦め。
「CAMやら魔導アーマーやらの調整がありまして……その扱いやら何やらについても協議せねばなりません。嫉妬の歪虚は色々と私に問題を残して行きましたよ」
「でも少し楽しそうですね」
「ウフフ……それは勿論。面白い使いっ走りも手に入りそうですし、それなりに良い結果を皆さんに報告できそうですから」
 ベルフラウはぎゅっとアンクを握り締める。それから目を伏せ。
「人を守る為の力が奪われ、人の命を奪う……あってはならない事です」
「そういう事もあります。力というのは常に自分自身に向けられる事も想定しておくべきです」
「……先生。私は聖機剣を扱うに相応しいのでしょうか?」
 首を傾げるナサニエル。ベルフラウは壁に背を預け、肌身離さず持ち歩くその武器を手に取る。
「時折、自分でも理解出来ない行動を取りそうになる時があって……そう、まるでその、私が暴力を望んでいるかのような……」
「はあ」
「力を正しく扱えもしない人間が、試作兵器を運用するのは危険ではないでしょうか」
「ふむ」
「でも、この剣を持つようになってから、凄く落ち着くんです。だから手放すのが怖くもあって……」
「それで神頼みですか?」
 恐る恐る頷くベルフラウ。ナサニエルはいかにもバカバカしいと言わんばかりに頭を掻く。
「先生は神様を信じていないんですよね?」
「え? いるんじゃないですか?」
「ええ!? い、意外です……信心とは無縁かと……」
「神なんて居ると思えばいるし、居ないと思えば居ませんし、そのどちらかを他人に押し付けるものではないでしょう。きみは……訊くまでもありませんか。本気で神を信じるのなら、そんな不安そうにはしないでしょう」
「わ、私は……」
「神が居ても居なくても、きみが見放されていようが愛されていようが、試作兵器のテスターとして適切かどうかさえ、どうでも良い事です。出来ると思うならやらせるし、そうでないなら私はきみに聖機剣を預けませんよ。私そこまで無能じゃありません」
 心底どうでもよさそうなナサニエルだが、ベルフラウは瞳をきらきらさせていた。
 この男にはどこまでも裏表がない。ベルフラウも大概アホだが、この男もかなりアホだ。頭はいいがアホである。
「ありがとうございます、先生!」
「はい?」
「そうですよね。自分を信じて頑張るしかないですよね!」
「そんなの改めて口に出して確認するまでもないのでは?」
「はい! それもこれも先生のお陰です。ちゃんと言いつけは守ってますし、お薬も飲んでます! あのっ、何かお手伝い出来る事はありませんか!?」
 ズイズイと顔を寄せてくるベルフラウにナサニエルはきょとんとしたまま思案する。
「では、以前設置してもらったマテリアル観測装置の改良版があるので、その実験をお願いします。他国にも索敵技術は必要だと言って、開発を迫られてまして」
「わかりました!」
「詳細は追って連絡しますので」
「はい! それでは失礼しますっ!」
 元気よく走り去る背中を眺め、ナサニエルは白衣の袖に両手を突っ込んだままかくりと首を傾ける。
「変な子ですねぇ。まあ、経歴が経歴なので当然ではありますが……薬さえちゃんと飲んでれば問題も起こさないし……」
 ――ベルフラウにはファミリーネームがない。そして本当の名前さえ彼女は知らない。
 革命戦争の時代には珍しくない孤児で、帝国では少ないエクラ教会で一時保護されたという。それ自体は特殊でもなんでもないのだが。
「聖機剣を持ってると落ち着くんじゃなくて、戦っていると落ち着くだけでしょうに」
 “死にたがり”は今に始まった事ではない。
 ずっとずっと、死ぬ為に生きてきた。拙い祈りで自らを誤魔化しながら、綺麗なままで終わる瞬間を待っているのだ。
 薬を飲まなければまともではいられない。だからナサニエルに依存する。彼女にしてみればナサニエルは恩師であり、さしずめ救いの天使と言ったところか。
「――くだらない」

 廊下の角を曲がった所で、吐き捨てるようなナサニエルの呟きを少女は聞いていた。
 知っている。彼が自分をどう思っているのか。だが救われたのは事実であり、そして彼が居なければ文字通り自分は生きていけない。
 ふと両手に目を落とす。白く、たくさんの傷跡がある両手。人の命を奪った手。沢山の血に染まった手……。
 毎晩の様にうなされた悪夢をナサニエルは取り除いてくれた。人としての生活を取り戻してくれた。
「私は悪い子じゃない。もう改心したんだから。懺悔したんだから。神様もきっと許してくれる。だって私は……悪くない」
 不安になるなら笑おう。もっと良い事をしよう。悪者を倒し、正義の味方として。
 祈りが足りないのならば幾らでも祈ろう。悪を倒すという祈り。悲劇に涙するという祈り。誰かの代わりに傷つくという祈り。
 呆れ返る程の祈りを、信じるという祈りを重ね、いつか許される日を夢見る。もう覚えていない自らの罪から解き放たれるその時を。
「だから私は――悪くない」
 冷たいアンクが体温に染まるまで握り締め、深呼吸と共に少女は歩き出した。

リプレイ本文

「マテリアル観測装置ですか。要は歪虚にのみ反応するレーダーのようなものでしょうか?」
 帝都の広場に集まったハンター達はベルフラウが背負ってきた装置に目を向ける。
 水城もなか(ka3532)は元CAMパイロット。リアルブルーにはVOIDを探知する広域レーダーも存在していた。
「ふむ。……新しい発明か。中々に興味深い。情報を正しく把握する事が、勝利への第一歩である故な」
「特に宇宙戦では、敵の位置がわからないと戦いようもありませんでしたから」
 ロイド・ブラック(ka0408)の言葉に頷くもなか。シェラリンデ(ka3332)はベルフラウに軽く頭を下げ。
「はじめまして、ボクはシェラリンデ。今回の依頼、よろしくお願いするね?」
「イルリヒト機関のベルフラウです。こちらこそ」
「ところで、それは一先ず降ろしてはどうかな?」
 装置を背負ったベルフラウの足は小刻みに振動していた。シェラリンデの言葉に甘え、装置を地べたに置く。
「それで、これはどういった構造になっているんですか?」
「えーと、歪虚が発する負のマテリアルを探知して、この丸い真空管の中に小さな光として表示するそうです」
 ファティマ・シュミット(ka0298)の問いにマニュアルを眺めながらたどたどしく答えるベルフラウ。結局面倒なので皆で囲んでマニュアルを覗き込んだ。
「ベルフラウ……剣機との遭遇戦で味方を庇った奴か」
「前々から危うい感じのある子だったけどね~。なんかこう、やや不健全な感じ?」
 噴水の縁に腰掛けヒース・R・ウォーカー(ka0145)はそんな仲間達に目を向ける。オキクルミ(ka1947)も彼も、過去にベルフラウと関わりのある人物だ。
「仲間思いなのか、自己犠牲精神の塊なのか、あるいは単なる死にたがりか」
 ヒースは腕を組み小さく息を吐く。オキクルミは苦笑を浮かべ、明るく声をかける。
「ベル君、お久しぶり~!」
 振り返ったベルフラウはオキクルミの顔を見つめ暫し固まる。その後曖昧な笑みを浮かべた。
 違和感に首を傾げるオキクルミだが、続き近づいてきたヒースへの反応が余計にそれを加速させる。
「あなたが最後ですね? はじめまして、ベルフラウです。よろしくお願いします」
 ぴたと足を止めるヒース。二人は驚きを隠して顔を見合わせる。
 何の変哲もない挨拶。だが何か不穏な事が起きているような、拭い切れない薄気味悪さが混じっていた。



 転移門やトラックを乗り継ぎハンター達がやってきたのは帝国領北部、辺境との境にあるノアーラ・クンタウ付近であった。
 北の方が歪虚も出現しようと考えたのだが、意外と治安がいいのか歩いていても中々歪虚に遭遇しない。
「こうして歩いてみると、意外と雑魔に遭遇しないんですね」
「ボク達が現場に向かうのは、基本的に問題が起きた後だからねぇ。こちらから能動的に探すとこんなものさぁ」
「いい事だと思いますよ」
 双眼鏡を下ろしながら微笑むもなか。彼女はレインウォーカーと共に本体から先行し敵影を探していた。
 敵を見つけたら本体に連絡するつもりだ。勿論歪虚がいないのは良い事なのだが、実験にはならない。
「……偵察に出ている二人からの連絡はないな」
「装置にも反応はありませんね」
 眼鏡を光らせるロイドと装置とにらめっこするファティマ。かれこれ二時間くらいこんな感じである。
「偵察隊の二人はずっと走り回ってるんですよね? 戻してもいいんじゃないでしょうか?」
「いや。この装置自体が正常に稼働するかどうかという試験を行っているのだ。万が一対象を察知出来ない可能性を考慮すると、やはり人の目による偵察は必要であろう」
「それはそれとして、休憩は必要だね」
 シェラリンデの視線の先には装置を背負って歩くオキクルミの姿がある。ずっと覚醒しっぱなしというわけにも行かないのだから、相当の重労働だ。
 こうしてハンター達は適時休憩を挟む事にした。オキクルミの足も既にぷるぷるしている。
「大丈夫かい? 次からボクと交互に運ぼうか。女の子が背負い続けるには重すぎるよ」
 装置の重量はオキクルミの体重と大差ないので、そりゃそうである。
「ありがとうシェラリンデ君。無理せずそうさせてもらうね」
 荒涼とした人気のない大地。岩の側に腰を下す一行の元へもなかが歩いてくる。
「お疲れ様です!」
「ヒースの方はどうしたのだ?」
「ヒースさんは偵察しながら休むというので、あたしだけこっちに」
「休憩時間も働いているなんて、とっても男らしいですね……」
 頬に手を当てしみじみ呟くファティマ。ロイドはかちゃりと眼鏡のブリッジを持ち上げ。
「……先程から俺に装置を担げという流れが生まれつつあるような気がするのだが」
「え? 気のせいですよ?」
 きょとんとした様子のファティマ。もなかはオキクルミ達に声をかけ、ベルフラウから水筒を受け取るのであった。
「なるほど、帝国で聖機剣のテスターをやっているんだね?」
 丁度そこでは雑談が盛り上がっている所だった。シェラリンデはベルフラウの身の上話を聞いている。
「武器の発展は……望ましくないのかもしれないけれど、歪虚相手には有効だろうし、観測装置ももっと身近になれば襲われる人も減るだろうから。まずはこの依頼は無事成功させないとね」
 これから先、観測装置が量産された暁には歪虚の早期警戒が可能になるだろう。
 初動対応が早まればそれだけ被害を減らす事が出来る。歪虚の犠牲者を救う事が出来るのだ。
「こうして実際に使ってみて、後でいろいろ調節できるようになるといいよね? 例えば、商人用に馬車に乗せるとかならもう少し大きめで性能重視でもいいだろうし……」
「魔導アーマーに詰んで、偵察用の種類を作る話もあるそうですよ」
「電子戦機ですか? それは興味ありますね!」
 シェラリンデとベルフラウの話に身を乗り出すもなか。一方、ファティマはワインを呑んでいた。
「中々豪胆な休憩であるな」
「酔わない程度にしてますから」
「止めはせんよ。何事も個人の自由である。仕事さえきちんとこなせれば文句もなかろう」
 腕を組み頷くロイド。ファティマはベルフラウにボトルを差し出し。
「ベルフラウさんも如何ですか? アンクからしてエクラの人ですよね?」
「そういえばベル君はエクラ教徒なのかな? それとも別の所?」
「私はエクラ教徒ってほどではなくて、これはお守りみたいなものなので……」
 ファティマとオキクルミの疑問にアンクを握り締める。
「神様に祈っていると、私みたいな人間でも生きている事を許されるような気がして安心するんです」
「許して欲しいの? ボクには罰して欲しいようにしか見えないんだけど?」
 オキクルミの言葉に目を見開き、首を傾げる。
「そう……なんでしょうか? 確かに私は、自分の事が嫌いです。覚醒者としても兵士としてもテスターとしても不甲斐ない自分が……」
「力を振るうかを決めるのは他の誰でもない、自分である」
 遠巻きに会話を眺めていたロイドが少しずつ歩み寄る。
「簡単なニ択だ。力を振るえば何か間違いを起こす可能性がある。だが振るわなければ、大切な物が破壊されるのをただ見ているだけの可能性がある。どちらがより悪いのか、決めるのは自分だ」
 何か胸に刺さる物があったのか、ベルフラウは僅かに俯いた。表情はない。何を考えているのかはよくわからなかった。
「自分の事が嫌いだとしても、その生命は大切にすべきです。世界には死にたくなくないのに死んでしまう人もいますからね」
 もなかはリアルブルーの過酷な世情で戦っていた兵士だ。LH044の戦いがそうであったように、人類は劣勢に立たされている。
「あたしも元の世界に戻ったらおそらく生きて終戦は迎えられないと思いますから。その分、他の方には生きていて欲しいですよ」
 うんうんと頷き、しかしもなかは苦笑を浮かべる。
「何だか皆でお説教するような空気になってしまいましたね。話題変えましょうか。エクラ教徒じゃないなら、そうですね……帝国……の、革命戦争の話とか。ベルフラウさん、詳しいですか?」
「当時は私も幼かったですから、イルリヒト機関で教わった事くらいだけですけど」
 話しながらベルフラウは取り出した錠剤をさっと飲み込む。飲みづらそうな薬を水も無くあっさり飲み込むその様子が、何となくオキクルミの目には印象的だった。

「歪虚発見っとぉ……。スケルトンが三体かぁ」
「本隊に連絡しますね」
 そうして休憩を挟みつつ探索を続けた結果、二時間後にハンター達は荒野を彷徨うスケルトンを発見した。
 先ずはヒースともなかが双眼鏡で視認。その情報を元に観測装置を背負い、ハンター達は近づいていく。
「装置に反応はまだありませんね……いえ、なんか凄く小さい反応が……」
「とりあえずこの地点に印をつけておこう」
 シェラリンデは足元にサーベルで印をつける。ここから目標までの距離は後で数え直しておくとしよう。
「なんか、光がぼやけててよくわかりませんね」
 目を細めるファティマ。オキクルミは歩きながら真空管を見つめる。
「9時の方向距離200かな? 数まではわかんないや」
「恐らく雑魔同士の距離が近すぎて、かつこちらからの距離も遠い為、一つの大きな塊と認識されてしまっているのだろうな」
 そんな事を話し合いながら距離を詰めていく。
「あ、光が三つになりました。ロイドさんの言う通りだったみたいですね」
「反応の調子はぁ?」
 ヒースともなかが敵を迂回しつつ走ってくる。そして装置を眺め。
「ちゃんと三体いるようですね。付近に他の敵は居ませんから、装置は正常に稼働しているという事になります」
「敵が弱いからか反応が小さくて見づらいなぁ」
「先程までもう少し大きかったのだ。まあ、一つに重なっていて観測結果としては不正確であったがな」
 そんな事を話し合いながら歩いているといよいよスケルトンが此方に気付き接近してくる。
「敵が近づいてきたら反応が大きくなったようだね?」
「距離が迫ってくると大きくなって……こんな風に音が鳴るってマニュアルに書いてありましたよ?」
 シェラリンデの横でマニュアルを広げるファティマ。装置が何やらブザー音も鳴らしだした。
「ところでもう敵は眼と鼻の先ですが……」
「ふむ……まあ、この反応が装置の誤作動で、あれらスケルトンが実は強力な個体であるという可能性もある。警戒はしておこう」
 冷や汗を流すもなかにロイドは眼鏡を光らせる。錆びた剣を振り上げるスケルトンの一撃を障壁で防ぎ、強さを確認。
「通しはせんよ。尤も、その程度で通れる道理もなかろうがな」
「行こうか。赦されない罪を重ねに。この血に罪を刻みに。ここがボクらの舞台だ」
 蝙蝠の精霊から得た契約の光がヒースの両足に光の翼を成す。
「嗤え」
 刀の一撃がスケルトンを両断。やはり所詮は雑魔、強さは大した事はない。
「皆さん、ここはわたしに任せて早く倒しちゃってください!」
 両腕を広げ前に出るファティマ。その横をすり抜けロイドが電撃を放ち、シェラリンデがサーベルを振るい、もなかが刀を振るう。スケルトンは為す術無く倒れていった。
「終わったぞ、ファティマ」
 ぽんとその肩を叩くロイド。ファティマは目をつむり、ふっと笑う。
「どうやら私が犠牲になる必要すらない相手だったようですね……」
「その通りだが、なぜ偉そうなのだ? そしてオキクルミは何をしている?」
「一応負荷テストもしておこうと思って……うああ~! 目が回るぅ!」
「もう戦闘は終わってるぞぉ」
 オキクルミは装置を背負ったまま回転している。装置がとても重いので、もう装置に振り回されているような状態だ。
「あれって転んだら装置壊れるんじゃないですか?」
 指差しながらもなかが呟くと一同は頷く。シェラリンデはいち早く駆け出し、オキクルミを支えるのであった。



 こうして調査は続けられ、日が暮れるまでの間に三回の遭遇があった。
 ハンター達は「じゃあ背面から装置を背負ったまま近づいてみよう」とか何やら色々試行錯誤しつつ、装置を検証。レポートをまとめ帝都へ戻る事になった。
「ここまでで良いかい?」
「はい、ありがとうございました!」
 錬魔院の前に装置を降ろすシェラリンデ。ファティマもマニュアルと一緒に報告書をベルフラウに手渡す。
「早く装置が使えるようになって、歪虚被害が減らせるといいね」
 優しく笑いかけるシェラリンデ。こうしてハンター達は仕事を終え引き返す事になったのだが……。
「ベル君、ちょっといい?」
「はい?」
 オキクルミはベルフラウを呼び止める。何か色々気になる事もあるのが。
「うちの氏族だと誓いの聖句が悪なんだけどさ」
 咳払いを一つ、オキクルミは人差し指を立て唱える。
「“誓いを此処に。我は常世総ての悪を為す者。我は常世一人の君とある者。祖霊に誓って”……この世の誰もが自分の正義を持ってる。だからこそたった一人の誰かの為に立つならありとあらゆる悪をなす。それがボクら白のフクロウの氏族。もっとも暗くて寒くて寂しい夜に飛び立つ者」
 ベルフラウは不思議そうな顔をしている。
「何が言いたいかって言うとね。中途半端な事をするなら、悪を名乗った方がまだいいんじゃないかなって。神様は鎮痛剤じゃないよ」
「私は、そんな……」
「正義の味方になるならもっと覇気覇気とね。寒いだけなんならボクが抱きしめてあげるよ?」
 両腕を広げるオキクルミだが、ベルフラウは視線を泳がせ、装置を背負うと錬魔院に駆け込んでいった。
「あいつ、何を背負ってるんだろうねぇ?」
「彼女はあまり心を表情に出さないタイプなんだろうね。本心には他人を踏み込ませないような、壁を感じるよ」
 レインウォーカーの言葉にシェラリンデは溜息混じりに呟く。
「背負うモノが罪で、赦されたいが為にああいう事をしているなら哀れだな。罪から目を逸らす者が赦しを得られるはずもないのに、ねぇ」
「心の支えは必要ですよ。信じるものはいっぱいあればそれだけ良いものです」
 この暗く大きな塔と光の神様は正反対に思える。一貫性のない信仰心だが、それだけ逃げ道があるという事だ。
 背を向けるファティマに続き、ハンター達も引き返して行く。仕事は無事に完了した。思い残す事は、もうない筈だった。

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MVP一覧

  • 答の継承者
    オキクルミka1947
  • 【魔装】花刀「菖蒲正宗」
    シェラリンデka3332

重体一覧

参加者一覧

  • 真水の蝙蝠
    ヒース・R・ウォーカー(ka0145
    人間(蒼)|23才|男性|疾影士
  • 理の探求者
    ファティマ・シュミット(ka0298
    人間(紅)|15才|女性|機導師
  • フェイスアウト・ブラック
    ロイド・ブラック(ka0408
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 答の継承者
    オキクルミ(ka1947
    エルフ|16才|女性|霊闘士
  • 【魔装】花刀「菖蒲正宗」
    シェラリンデ(ka3332
    人間(紅)|18才|女性|疾影士
  • 特務偵察兵
    水城もなか(ka3532
    人間(蒼)|22才|女性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/01/29 23:07:18
アイコン 作戦相談所
ヒース・R・ウォーカー(ka0145
人間(リアルブルー)|23才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/02/03 12:30:14