ゲスト
(ka0000)
冬のスライムと奉納祭
マスター:御影堂

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/02/04 07:30
- 完成日
- 2015/02/12 15:30
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
雪が降りしきる山から、一村分の人間が降りてきた。
山の下にある村では、急な訪問にばたついていた。
着の身着のままといった形で降りてきた村人のため、集会所を開け、火をたく。
薪の爆ぜる音が響く中、蓄えからスープを作り提供していく。
「アイエ村、奉納祭の季節じゃねぇべか?」
「んだとも、なして村全員で降りてくる必要があるべ」
彼らがアイエ村から来たことがわかり、村民の間で動揺が広がる。
交流はあれど、積極的に降りてくるわけではない。
ましてや冬山を全員で降りるなど、ありえないことだった。
「アイエの村長はおるか? 話がしてぇ」
鬱々とした空気の漂う集会所に、エーオ村の村長が顔を出した。
髭面の体躯のいい男が立ち上がり、近づく。
「エーオ村長、こげな形での訪問。申し訳ねぇ」
「いうな。事情があるんだろ? 俺んちで聞く」
●
手渡されたカップを机に置き、アイエ村長はゆっくりと口を開いた。
何から話そうか迷うように、低く唸る。
「とりあえず、聞きてぇ。全員で降りてきたんだな?」
見かねたエーオの村長が口火を切る。
アイエの村長は何度も頷き、頼み込むように頭を下げた。
「すまねぇが、しばらくの間、置かせてくれ」
「事情による。春が近いとはいえ、うちも村人を食わさねばならねぇ」
「そうさな……無理言った。オーエの村に異常はねぇか?」
「昨年に比べて、雪が多いように感じるが……それぐらいだ」
そうか、と呟いたアイエの村長はカップを手に取り一口いただく。
落ち着いてきたのか、居住まいを正した。
「アイエの村に化け物が現れおった。不定形のぶよぶよとした化けもんだ」
「最近、よく聞く話だな。それで逃げてきたっちゅうわけだ」
頷くアイエの村長は、化け物の特徴を語る。
ゲル状の不定形の身体に、体毛のような雪をまとっているのだという。
松明の火で追い払おうとしたが、意に介さず襲いかかってきたという。
放り投げた松明へ、化け物はのしかかって炎を消した。
猟銃を撃てども効いている感じがせず、祭の準備をそのままに下山を決めた。
「しかるべきところに任せるしかなかろう」
「だけんど、金はねぇ」
小さな村に払えるものなどたかが知れている。
「金がねぇなら、祭の主賓にすりゃあええ」
「それで……助けてくれるか?」
「俺らの村……いや、雪山のご馳走の魅力を舐めてもらっちゃこまるぜ」
そう豪語するオーエ村村長にほだされ、アイエ村長は依頼書をしたためるのだった。
●
「アイエの奉納祭……チーズ、塩漬け肉のシチュー、熊の丸焼き……熊?」
依頼状に書かれた報酬を読みながらスタッフは、よだれを垂らす。
列挙された山料理は、それぞれアピールポイントが書かれる丁寧っぷりだった。
「報酬は限りなく低いですが、ううむ」
アイエ村長の隠れたコピーライターとしての才能が、開花した瞬間であった。
それはさておき、スタッフの横では一人の男がメガネをクイッと上げていた。
「これは、冬に現れるスライム……そうフュライムだ」
「あなた誰ですか!?」
「私は特殊なスライムが出たと聞きつけ、勝手に来たスライという者だ」
自称スライム博士ことスライ博士は、妙にいい発音で「フュライム」と言い直す。
「私の見立てでは、このフュライムは炎で溶かすことは出来ないだろう」
だが、と語気を強めて宣言する。
「炎あるいは熱源に向かっていく習性がありそうだ!」
「スライさんもこの村に行かれるのですか?」
「……いや、非常に残念だが、私はこちらで重要な職務があるのでね」
残念だなーと白々しくいう。
「寒いからですよね」
「いや、決して違うぞ。寒いからではないぞ」
力強くいうが、目が泳いでいた。
どうせ、この人がいったところで足手まといなのでスタッフは無視することにした。
「とりあえず、この依頼をこなしてくれる方を探さないといけませんね」
雪が降りしきる山から、一村分の人間が降りてきた。
山の下にある村では、急な訪問にばたついていた。
着の身着のままといった形で降りてきた村人のため、集会所を開け、火をたく。
薪の爆ぜる音が響く中、蓄えからスープを作り提供していく。
「アイエ村、奉納祭の季節じゃねぇべか?」
「んだとも、なして村全員で降りてくる必要があるべ」
彼らがアイエ村から来たことがわかり、村民の間で動揺が広がる。
交流はあれど、積極的に降りてくるわけではない。
ましてや冬山を全員で降りるなど、ありえないことだった。
「アイエの村長はおるか? 話がしてぇ」
鬱々とした空気の漂う集会所に、エーオ村の村長が顔を出した。
髭面の体躯のいい男が立ち上がり、近づく。
「エーオ村長、こげな形での訪問。申し訳ねぇ」
「いうな。事情があるんだろ? 俺んちで聞く」
●
手渡されたカップを机に置き、アイエ村長はゆっくりと口を開いた。
何から話そうか迷うように、低く唸る。
「とりあえず、聞きてぇ。全員で降りてきたんだな?」
見かねたエーオの村長が口火を切る。
アイエの村長は何度も頷き、頼み込むように頭を下げた。
「すまねぇが、しばらくの間、置かせてくれ」
「事情による。春が近いとはいえ、うちも村人を食わさねばならねぇ」
「そうさな……無理言った。オーエの村に異常はねぇか?」
「昨年に比べて、雪が多いように感じるが……それぐらいだ」
そうか、と呟いたアイエの村長はカップを手に取り一口いただく。
落ち着いてきたのか、居住まいを正した。
「アイエの村に化け物が現れおった。不定形のぶよぶよとした化けもんだ」
「最近、よく聞く話だな。それで逃げてきたっちゅうわけだ」
頷くアイエの村長は、化け物の特徴を語る。
ゲル状の不定形の身体に、体毛のような雪をまとっているのだという。
松明の火で追い払おうとしたが、意に介さず襲いかかってきたという。
放り投げた松明へ、化け物はのしかかって炎を消した。
猟銃を撃てども効いている感じがせず、祭の準備をそのままに下山を決めた。
「しかるべきところに任せるしかなかろう」
「だけんど、金はねぇ」
小さな村に払えるものなどたかが知れている。
「金がねぇなら、祭の主賓にすりゃあええ」
「それで……助けてくれるか?」
「俺らの村……いや、雪山のご馳走の魅力を舐めてもらっちゃこまるぜ」
そう豪語するオーエ村村長にほだされ、アイエ村長は依頼書をしたためるのだった。
●
「アイエの奉納祭……チーズ、塩漬け肉のシチュー、熊の丸焼き……熊?」
依頼状に書かれた報酬を読みながらスタッフは、よだれを垂らす。
列挙された山料理は、それぞれアピールポイントが書かれる丁寧っぷりだった。
「報酬は限りなく低いですが、ううむ」
アイエ村長の隠れたコピーライターとしての才能が、開花した瞬間であった。
それはさておき、スタッフの横では一人の男がメガネをクイッと上げていた。
「これは、冬に現れるスライム……そうフュライムだ」
「あなた誰ですか!?」
「私は特殊なスライムが出たと聞きつけ、勝手に来たスライという者だ」
自称スライム博士ことスライ博士は、妙にいい発音で「フュライム」と言い直す。
「私の見立てでは、このフュライムは炎で溶かすことは出来ないだろう」
だが、と語気を強めて宣言する。
「炎あるいは熱源に向かっていく習性がありそうだ!」
「スライさんもこの村に行かれるのですか?」
「……いや、非常に残念だが、私はこちらで重要な職務があるのでね」
残念だなーと白々しくいう。
「寒いからですよね」
「いや、決して違うぞ。寒いからではないぞ」
力強くいうが、目が泳いでいた。
どうせ、この人がいったところで足手まといなのでスタッフは無視することにした。
「とりあえず、この依頼をこなしてくれる方を探さないといけませんね」
リプレイ本文
●
冬山の雪を踏み固め、小さな村にハンターたちは辿り着いた。
静寂を通り過ごして、一面の雪に音が吸収されるような気分すら感じさせる。
アイエの村は、まさにそんな状態だった。
「これは……」
まさしく破棄されたような状態に、一同息を呑む。
おずおずと日憐(ka2813)が前へと進む。
「このような緊急の状況。きっと、この村の方々は救いをお求めでしょう」
エーオ村で、村長と会合したが、実際に人気のない村を目にしてより心にしみる。
祈るように手を合わせ、日燐は続けて言う。
「私が仏の教えを説き、是非ともお救いしなければ……」
「その前に、だ」
ざくっと雪を踏みしめ、ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)が皆を振り返る。
「神聖な儀式を邪魔するものは、如何なるものとて許すわけにはいかんな」
拳を突き上げ、堂々たる宣言を発した。
「これは大王たるボク直々に鉄槌を下すことにしよう!」
そして、目指すのは村の中央。奉納祭の会場にもなる広場だった。
辺りを警戒しつつ、エリス・カルディコット(ka2572)が口を開く。
「フュライムでしたっけ」
初めて耳にした名前を思い出すように、口にする。
自称スライム博士の命名ゆえ、他で使われるかは不明だ。
「村の方達が困っている以上、放ってはおけません」
「ええ、よくわらないものは早々と退場してもらおうか」
ロニ・カルディス(ka0551)もエリスに同意するように頷く。
点在する家や小屋の影、木々の隙間……白く染められた場所に隠れている可能性はある。
「そろそろあるはずだが……っと、あれか?」
手にした地図から顔を上げて、藤堂研司(ka0569)が指差す先に、囲いがあった。
その中央には、キャンプファイアーをするような木組みがなされていた。
「村長の言葉通りだな!」
「これなら、余程のことがない限り、燃え続けてくれる」
ディアドラとロニが、目の前に現れたそれにほくそ笑む。
村長に事前に焚き火が可能な場所を聞いていた。
合わせてミオレスカ(ka3496)が、燃料の話も持ち込んでいた。
「湿気ってなければいいのですけど……」
フュライムをおびき寄せるべく、熱源を作る。
村長が教えてくれたのは、奉納祭用に組まれた木組みだった。
どうせ燃やすものだから、先に燃やしても問題ない。
「焚き火はサバイバルキッチンの華だ! 燃えるぜ!」
研司は意気揚々と準備にとりかかる。
「では、火がつくまでの間。周囲を見てこよう」
クローディア(ka3392)が淡々と告げ、周囲を見渡す。
怪しい、隠れられるような場所など、いくらでもありそうだった。
「わ、私もついていきます」
一人では危険という判断から、ミオレスカも続く。
二人を見送り、着火準備が着々と始まるのだった。
●
クローディアは時折、松明をおきながら広場の周辺を探っていた。
熱源で誘いこむために、広場から離れすぎないように心がける。
「さて、どこからくるか」
ぐるりと見渡せど、雪、雪、雪の群れが続いている。
中にはこんもりと降り積もっている箇所がある。
「これだけ白いと、わかりにくいかもしれませんね」
やや後ろでミオレスカが告げる。
フュライムは全身に雪をまとっているらしい。この状況では、自然と擬態になるのだろう。
警戒を強め、再度、視線をめぐらした時、視界の端で雪の塊が蠢いた。
「出たぞ。気を緩めるな」
しゃっと雪を踏みしめ、抜刀。
特殊モーターの仕込まれた刃が、低く唸り声を上げる。
「これは、中々……わかりにくいですね」
苦笑が漏れるほど、フュライムは保護色だった。
だが、蠢けばそれがスライムの一種であることがはっきりする。
ミオレスカはその場で立ち止まり、狙いをつける。
クローディアが斬りかかるのが見えた。邪魔をしないよう、集中し、引き金を引く。
銃声は、準備に勤しむロニたちにも聞こえた。
閑散とした村の中で、その音はよく響くのだ。
「よし、着いたぜ」
丁度、研司が着火を終える。湿気った木々は火の周りが鈍い。
火種を絶やさぬように空気を送り、持ち寄った薪を足す。
「暖かいな」
ロニは、低く近くに置かれた資材で風よけを作っていた。
その内側は、暖められた空気が溜まりやすいのか暖かい。
「野宿ばかりの旅をしていた頃を思い出しますね」
遠い目のエリスの脚元では、にわかに雪が溶け始めていた。
それは、焚き火がおびき寄せる熱源としては、十全であることを示唆する。
「よし、こんなところであろう」
少し離れた場所で、得心したように告げるディアドラ。
囲いの周囲に松明を設置し終えたところだった。
「熱のベール……ですね」
やや外側で、日燐がいう。
冷ややかな風が、肌を擦る。
日は出ているのに、どうしてこんなに寒いのだろう。
「火がついたみたいですよ」
「そうか。だが、まずはこいつを仕留める!」
ミオレスカの報告を聞き流す。
クローディアの視線は目の前のフュライムに注がれていた。
焚き火の方を気にするミオレスカは、距離を取り、いつでも戻れる位置に動く。
それでも、放たれた弾丸は真っ直ぐにフュライムを穿っていた。
「そんなものか?」
フュライムの放つ強力な酸を浴びつつ、クローディアはさらなる一撃を切り入れる。
防備を固めれば、酸の性質のみが脅威となる。
体当たりを避け、やや距離を離す。
「あちらも始まったようだな」
ミオレスカの耳に、さらに遠くからの銃声が聞こえてきた。
●
動き始めたのは、屋根の上、壁の影、そして堂々たる地面の雪山が2つ。
融けだした雪のように、ドロリと蠢きだす。
だが、恣意的な動きはあからさまに、熱源を目指していた。
自然な擬態に、ハンターの動きが一歩遅れた。しかし、問題はない。
「情報通りだね」
「松明を食べているようであるぞ」
研司やディアドラたちは、フュライムが吸われるように松明の火をもみ消すのが見えた。
中には、一直線に最も強い熱源――つまりは焚き火を目指すものもいる。
「さっさと退場してもらわねばな」
速力の早い一体に、ロニが牽制を仕掛ける。
黒い塊が、砲弾のようにフュライムに襲いかかる。だが、それしきのことで止まる相手ではない。
熱源を壊さんと、スライムがおおよそ出せる最大の速度で迫ろうとする。
「押し留めるより他にないか」
意を決して、融けだした雪に踏み込む。かんじきを借りていたため、難なく進む。
盾を前面に、ロニはフュライムと肉薄した。
ほぼ同時に、ディアドラもフュライムへの接近を果たす。
焚き火を守るように位置取り、身長以上はあろうかという盾でどっしりと構える。
「大王たるボクの鉄壁の防御をみせてやろうではないか!」
堂々たる様で、剣も構える。盾を中心に強く踏み込み、斬りこむ。
フュライムが次なる熱源を目指し、ディアドラを煩わしそうに叩く。
「その程度では、ボクは崩れはしないぞ」
がっちりと受け止め、返す刀を叩き込む。
しかし、フュライムは雪を吸収しているかのように傷を再生させる。
機が熟するのを、ディアドラは王の如く待っているのだ。
残る二匹のうち、一匹は研司が受けもつ。
フュライムの動きは、単純だ。一直線へ、こちらへ向かう。
「他の! 邪魔はさせねーぞ!」
狙いすました一撃が、フュライムの前方に放たれる。
雪が跳ね、フュライムの移動を阻害する。
「……っと、村のものには注意しないとな」
開けた場所とはいえ、なにもないわけではない。
放置されたリアカーや、何か入っていそうな樽や木箱も散見できる。
もっとも、地面の雪を狙って撃てばさほど問題ではない。
「目指すは、被害ゼロ! 美味しくご馳走をいただくことだ!」
残る一匹は、攻撃班が一気に削りにかかる。
クローディアとミオレスカは、まだ戻っていないがやれることをやるだけだ。
フュライムの進行方向、焚き火の近くではエリスがアサルトライフルを構えていた。
「雪に覆われたスライム……」
視線の先では大きな雪の塊が動いているようだった。
こぼれた笑みを引き締め、銃口を向ける。
「幻想的に見えますが、村人たちのためです。覚悟してください」
「貴方たちはこの村の人々を恐怖に陥れました」
反対側では、日燐が挟みこむように立つ。
万が一、家屋や物を破壊しないよう、日燐は精神を集中する。
魔法でなく、デリンジャーを選択したのも、念のためである。
「さぁ、その咎を仏の元で請うのです」
力強く説き伏せるように、日燐は告げる。同時に、銃声が響いた。
両面からの攻撃に、フュライムは身を捩る。
確かに聞いているようだったが、雪を溶け込ますように再生もする。
長丁場になりそうな予感がするのだった。
●
「これで、終わりだ!」
渾身の力を込め、クローディアは刃を振り下ろす。
この一撃で、フュライムは再生が完全に間に合わなくなっていた。
そこへミオレスカの弾丸が飛来する。
消え入りそうなフュライムの身体を散り散りに吹き飛ばした。
「まずは一体……。すぐ合流、しましょう」
ミオレスカは気持ちを切り替えて、焚き火周りの仲間を見やる。
視界に映ったのは、不用意に焚き火に近づいてしまった日燐とそれに迫るフュライム。
そして、分裂したフュライムを好機とばかりに強撃を仕掛けるディアドラの姿だった。
「先行する」とクローディアが告げ、先を行く。
ミオレスカは射程の届く位置まで行くと、攻撃態勢に入る。
「そう、咎を増やそうというのね」
強酸を浴び、日燐の口調が一瞬変わる。
だが、それに気づくより先に、銃声が続いた。
距離を取りながら、銃を撃つ。フュライムは松明の火をもみ消していた。
エリスが弾丸を撃つまでのラグに、クローディアが跳び込む。
フュライムを弾き飛ばすような、強烈な一撃を叩き込み、日燐との距離をひらかせた。
「攻撃班も揃いましたね」
目の前で分裂したフュライムを前に、ディアドラは剣を持つ手に力を込める。
そして、盾を構えながら大きく踏み込んだ。
「今が、攻勢に出るとき!」
白色のレイピアが、牙のように突き立てられる。
強力な刺突に、フュライムの身体が綻ぶ。
「行かせもしないぞ」と行く手を阻むように、盾を押し込む。
抜かせはしないと勇むが、そこは一対二。いや、さらにフュライムは分裂しようとしていた。
分裂した瞬間、フュライムは黒い弾にはじけた。
「牽制のつもりだったが。よしとしよう」
盾を携え、ロニが接近してくる。
飛びかかってきたフュライムは、盾で弾くように押し返した。
べちゃりと地面に押しやられ、一瞬動きを止める。
「ロニの相手はどうしたのだ?」
ディアドラの問いに視線で応える。
見れば、攻撃班が囲っていた。それで、二体目が潰えたのだと知る。
ディアドラも踏み込みを強めていく。
松明に気が取られた隙に、一気に叩き斬るのだった。
一方の研司は、抑えている間に通常攻撃に切り替えていた。
弾幕を張り、焚き火に接近しようとするフュライムを阻む。
「地面すれすれなら、外れてもっ」
接地面を狙い、誤射の可能性を減らす。
雪が跳ね、フュライムの身も削る。
このフュライムも多分にもれず、松明が多くなるにつれ、分裂し始めた。
松明を消される速度があがるが、研司の銃撃で雪上に消えるものもいる。
「とはいっても、抑えきれないぞ」
小さくなるといっても、連続で飛びかかられたら溜らない。
苦笑いが浮かんだところで、クローディアが射線の先に現れた。
「後は掃討戦だけだ」
「一気に片付けましょう」
見れば、フュライムも散り散りになったものばかり。
松明や焚き火に誘われる様は、飛んで火に入る夏の虫ならぬ冬のスライム。
「もう、いないです、よね?」と最後の一体をミオレスカが片付けるまで、時間はかからなかった。
●
松明を用いての哨戒も終わり、ハンターたちは完了報告を終えた。
アイエの村人はすぐさま片付けを行い、ミオレスカやエリスを始めとして薪割り等を手伝う。
続けざまに奉納祭の準備と慌ただしく、行事が続いた。
猟師の取ってきた熊や鹿、うさぎが調理されていく。
「食べたい。むしろ作りたい! 手伝わせてくださいっ!」
「熊は、珍しいですね」
積極的に手伝いに入る研司と、おずおずと様子を見に来るミオレスカの姿があった。
二人の手もあって、肉が捌かれ、煮こまれ、配られていく。
素朴な肉と野菜だけのスープや焼き物の匂いが、村中に立ち込める。
「それでは、腹がはちきれるまでいただこう」
うんと頷き、クローディアが肉を口に放り込む。
肉汁は野性味が強く、いささか癖がある。
鉄分が多いためか、レバーのような味わいだ。
「この熊の丸焼き、とても美味しいですね」
エリスも存分に、肉の味を楽しむ。
その隣では、ディアドラが満足そうにしていた。
「大王たるボクを満足させるとは、中々やるのだ」
「土地ならではの味……たまんねぇ」
「まさに、千金の価値のある、美味です」
手伝っていた研司やミオレスカも口々に感想を述べる。
ロニもそれでは、と十字を切っていた。
一方で、日燐は各卓を回って、仏の教えを説き回っていた。
精霊を奉納するこの祭で、その教えがどこまで響いたのかはわからない。
だが、感謝の心はハンターにも、そして、山にも向けられていることは確かだ。
「精霊への感謝も忘れてはならんからな」
時折聞こえる楽箏にも耳を傾け、ディアドラはそう呟くのだった。
冬山の雪を踏み固め、小さな村にハンターたちは辿り着いた。
静寂を通り過ごして、一面の雪に音が吸収されるような気分すら感じさせる。
アイエの村は、まさにそんな状態だった。
「これは……」
まさしく破棄されたような状態に、一同息を呑む。
おずおずと日憐(ka2813)が前へと進む。
「このような緊急の状況。きっと、この村の方々は救いをお求めでしょう」
エーオ村で、村長と会合したが、実際に人気のない村を目にしてより心にしみる。
祈るように手を合わせ、日燐は続けて言う。
「私が仏の教えを説き、是非ともお救いしなければ……」
「その前に、だ」
ざくっと雪を踏みしめ、ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)が皆を振り返る。
「神聖な儀式を邪魔するものは、如何なるものとて許すわけにはいかんな」
拳を突き上げ、堂々たる宣言を発した。
「これは大王たるボク直々に鉄槌を下すことにしよう!」
そして、目指すのは村の中央。奉納祭の会場にもなる広場だった。
辺りを警戒しつつ、エリス・カルディコット(ka2572)が口を開く。
「フュライムでしたっけ」
初めて耳にした名前を思い出すように、口にする。
自称スライム博士の命名ゆえ、他で使われるかは不明だ。
「村の方達が困っている以上、放ってはおけません」
「ええ、よくわらないものは早々と退場してもらおうか」
ロニ・カルディス(ka0551)もエリスに同意するように頷く。
点在する家や小屋の影、木々の隙間……白く染められた場所に隠れている可能性はある。
「そろそろあるはずだが……っと、あれか?」
手にした地図から顔を上げて、藤堂研司(ka0569)が指差す先に、囲いがあった。
その中央には、キャンプファイアーをするような木組みがなされていた。
「村長の言葉通りだな!」
「これなら、余程のことがない限り、燃え続けてくれる」
ディアドラとロニが、目の前に現れたそれにほくそ笑む。
村長に事前に焚き火が可能な場所を聞いていた。
合わせてミオレスカ(ka3496)が、燃料の話も持ち込んでいた。
「湿気ってなければいいのですけど……」
フュライムをおびき寄せるべく、熱源を作る。
村長が教えてくれたのは、奉納祭用に組まれた木組みだった。
どうせ燃やすものだから、先に燃やしても問題ない。
「焚き火はサバイバルキッチンの華だ! 燃えるぜ!」
研司は意気揚々と準備にとりかかる。
「では、火がつくまでの間。周囲を見てこよう」
クローディア(ka3392)が淡々と告げ、周囲を見渡す。
怪しい、隠れられるような場所など、いくらでもありそうだった。
「わ、私もついていきます」
一人では危険という判断から、ミオレスカも続く。
二人を見送り、着火準備が着々と始まるのだった。
●
クローディアは時折、松明をおきながら広場の周辺を探っていた。
熱源で誘いこむために、広場から離れすぎないように心がける。
「さて、どこからくるか」
ぐるりと見渡せど、雪、雪、雪の群れが続いている。
中にはこんもりと降り積もっている箇所がある。
「これだけ白いと、わかりにくいかもしれませんね」
やや後ろでミオレスカが告げる。
フュライムは全身に雪をまとっているらしい。この状況では、自然と擬態になるのだろう。
警戒を強め、再度、視線をめぐらした時、視界の端で雪の塊が蠢いた。
「出たぞ。気を緩めるな」
しゃっと雪を踏みしめ、抜刀。
特殊モーターの仕込まれた刃が、低く唸り声を上げる。
「これは、中々……わかりにくいですね」
苦笑が漏れるほど、フュライムは保護色だった。
だが、蠢けばそれがスライムの一種であることがはっきりする。
ミオレスカはその場で立ち止まり、狙いをつける。
クローディアが斬りかかるのが見えた。邪魔をしないよう、集中し、引き金を引く。
銃声は、準備に勤しむロニたちにも聞こえた。
閑散とした村の中で、その音はよく響くのだ。
「よし、着いたぜ」
丁度、研司が着火を終える。湿気った木々は火の周りが鈍い。
火種を絶やさぬように空気を送り、持ち寄った薪を足す。
「暖かいな」
ロニは、低く近くに置かれた資材で風よけを作っていた。
その内側は、暖められた空気が溜まりやすいのか暖かい。
「野宿ばかりの旅をしていた頃を思い出しますね」
遠い目のエリスの脚元では、にわかに雪が溶け始めていた。
それは、焚き火がおびき寄せる熱源としては、十全であることを示唆する。
「よし、こんなところであろう」
少し離れた場所で、得心したように告げるディアドラ。
囲いの周囲に松明を設置し終えたところだった。
「熱のベール……ですね」
やや外側で、日燐がいう。
冷ややかな風が、肌を擦る。
日は出ているのに、どうしてこんなに寒いのだろう。
「火がついたみたいですよ」
「そうか。だが、まずはこいつを仕留める!」
ミオレスカの報告を聞き流す。
クローディアの視線は目の前のフュライムに注がれていた。
焚き火の方を気にするミオレスカは、距離を取り、いつでも戻れる位置に動く。
それでも、放たれた弾丸は真っ直ぐにフュライムを穿っていた。
「そんなものか?」
フュライムの放つ強力な酸を浴びつつ、クローディアはさらなる一撃を切り入れる。
防備を固めれば、酸の性質のみが脅威となる。
体当たりを避け、やや距離を離す。
「あちらも始まったようだな」
ミオレスカの耳に、さらに遠くからの銃声が聞こえてきた。
●
動き始めたのは、屋根の上、壁の影、そして堂々たる地面の雪山が2つ。
融けだした雪のように、ドロリと蠢きだす。
だが、恣意的な動きはあからさまに、熱源を目指していた。
自然な擬態に、ハンターの動きが一歩遅れた。しかし、問題はない。
「情報通りだね」
「松明を食べているようであるぞ」
研司やディアドラたちは、フュライムが吸われるように松明の火をもみ消すのが見えた。
中には、一直線に最も強い熱源――つまりは焚き火を目指すものもいる。
「さっさと退場してもらわねばな」
速力の早い一体に、ロニが牽制を仕掛ける。
黒い塊が、砲弾のようにフュライムに襲いかかる。だが、それしきのことで止まる相手ではない。
熱源を壊さんと、スライムがおおよそ出せる最大の速度で迫ろうとする。
「押し留めるより他にないか」
意を決して、融けだした雪に踏み込む。かんじきを借りていたため、難なく進む。
盾を前面に、ロニはフュライムと肉薄した。
ほぼ同時に、ディアドラもフュライムへの接近を果たす。
焚き火を守るように位置取り、身長以上はあろうかという盾でどっしりと構える。
「大王たるボクの鉄壁の防御をみせてやろうではないか!」
堂々たる様で、剣も構える。盾を中心に強く踏み込み、斬りこむ。
フュライムが次なる熱源を目指し、ディアドラを煩わしそうに叩く。
「その程度では、ボクは崩れはしないぞ」
がっちりと受け止め、返す刀を叩き込む。
しかし、フュライムは雪を吸収しているかのように傷を再生させる。
機が熟するのを、ディアドラは王の如く待っているのだ。
残る二匹のうち、一匹は研司が受けもつ。
フュライムの動きは、単純だ。一直線へ、こちらへ向かう。
「他の! 邪魔はさせねーぞ!」
狙いすました一撃が、フュライムの前方に放たれる。
雪が跳ね、フュライムの移動を阻害する。
「……っと、村のものには注意しないとな」
開けた場所とはいえ、なにもないわけではない。
放置されたリアカーや、何か入っていそうな樽や木箱も散見できる。
もっとも、地面の雪を狙って撃てばさほど問題ではない。
「目指すは、被害ゼロ! 美味しくご馳走をいただくことだ!」
残る一匹は、攻撃班が一気に削りにかかる。
クローディアとミオレスカは、まだ戻っていないがやれることをやるだけだ。
フュライムの進行方向、焚き火の近くではエリスがアサルトライフルを構えていた。
「雪に覆われたスライム……」
視線の先では大きな雪の塊が動いているようだった。
こぼれた笑みを引き締め、銃口を向ける。
「幻想的に見えますが、村人たちのためです。覚悟してください」
「貴方たちはこの村の人々を恐怖に陥れました」
反対側では、日燐が挟みこむように立つ。
万が一、家屋や物を破壊しないよう、日燐は精神を集中する。
魔法でなく、デリンジャーを選択したのも、念のためである。
「さぁ、その咎を仏の元で請うのです」
力強く説き伏せるように、日燐は告げる。同時に、銃声が響いた。
両面からの攻撃に、フュライムは身を捩る。
確かに聞いているようだったが、雪を溶け込ますように再生もする。
長丁場になりそうな予感がするのだった。
●
「これで、終わりだ!」
渾身の力を込め、クローディアは刃を振り下ろす。
この一撃で、フュライムは再生が完全に間に合わなくなっていた。
そこへミオレスカの弾丸が飛来する。
消え入りそうなフュライムの身体を散り散りに吹き飛ばした。
「まずは一体……。すぐ合流、しましょう」
ミオレスカは気持ちを切り替えて、焚き火周りの仲間を見やる。
視界に映ったのは、不用意に焚き火に近づいてしまった日燐とそれに迫るフュライム。
そして、分裂したフュライムを好機とばかりに強撃を仕掛けるディアドラの姿だった。
「先行する」とクローディアが告げ、先を行く。
ミオレスカは射程の届く位置まで行くと、攻撃態勢に入る。
「そう、咎を増やそうというのね」
強酸を浴び、日燐の口調が一瞬変わる。
だが、それに気づくより先に、銃声が続いた。
距離を取りながら、銃を撃つ。フュライムは松明の火をもみ消していた。
エリスが弾丸を撃つまでのラグに、クローディアが跳び込む。
フュライムを弾き飛ばすような、強烈な一撃を叩き込み、日燐との距離をひらかせた。
「攻撃班も揃いましたね」
目の前で分裂したフュライムを前に、ディアドラは剣を持つ手に力を込める。
そして、盾を構えながら大きく踏み込んだ。
「今が、攻勢に出るとき!」
白色のレイピアが、牙のように突き立てられる。
強力な刺突に、フュライムの身体が綻ぶ。
「行かせもしないぞ」と行く手を阻むように、盾を押し込む。
抜かせはしないと勇むが、そこは一対二。いや、さらにフュライムは分裂しようとしていた。
分裂した瞬間、フュライムは黒い弾にはじけた。
「牽制のつもりだったが。よしとしよう」
盾を携え、ロニが接近してくる。
飛びかかってきたフュライムは、盾で弾くように押し返した。
べちゃりと地面に押しやられ、一瞬動きを止める。
「ロニの相手はどうしたのだ?」
ディアドラの問いに視線で応える。
見れば、攻撃班が囲っていた。それで、二体目が潰えたのだと知る。
ディアドラも踏み込みを強めていく。
松明に気が取られた隙に、一気に叩き斬るのだった。
一方の研司は、抑えている間に通常攻撃に切り替えていた。
弾幕を張り、焚き火に接近しようとするフュライムを阻む。
「地面すれすれなら、外れてもっ」
接地面を狙い、誤射の可能性を減らす。
雪が跳ね、フュライムの身も削る。
このフュライムも多分にもれず、松明が多くなるにつれ、分裂し始めた。
松明を消される速度があがるが、研司の銃撃で雪上に消えるものもいる。
「とはいっても、抑えきれないぞ」
小さくなるといっても、連続で飛びかかられたら溜らない。
苦笑いが浮かんだところで、クローディアが射線の先に現れた。
「後は掃討戦だけだ」
「一気に片付けましょう」
見れば、フュライムも散り散りになったものばかり。
松明や焚き火に誘われる様は、飛んで火に入る夏の虫ならぬ冬のスライム。
「もう、いないです、よね?」と最後の一体をミオレスカが片付けるまで、時間はかからなかった。
●
松明を用いての哨戒も終わり、ハンターたちは完了報告を終えた。
アイエの村人はすぐさま片付けを行い、ミオレスカやエリスを始めとして薪割り等を手伝う。
続けざまに奉納祭の準備と慌ただしく、行事が続いた。
猟師の取ってきた熊や鹿、うさぎが調理されていく。
「食べたい。むしろ作りたい! 手伝わせてくださいっ!」
「熊は、珍しいですね」
積極的に手伝いに入る研司と、おずおずと様子を見に来るミオレスカの姿があった。
二人の手もあって、肉が捌かれ、煮こまれ、配られていく。
素朴な肉と野菜だけのスープや焼き物の匂いが、村中に立ち込める。
「それでは、腹がはちきれるまでいただこう」
うんと頷き、クローディアが肉を口に放り込む。
肉汁は野性味が強く、いささか癖がある。
鉄分が多いためか、レバーのような味わいだ。
「この熊の丸焼き、とても美味しいですね」
エリスも存分に、肉の味を楽しむ。
その隣では、ディアドラが満足そうにしていた。
「大王たるボクを満足させるとは、中々やるのだ」
「土地ならではの味……たまんねぇ」
「まさに、千金の価値のある、美味です」
手伝っていた研司やミオレスカも口々に感想を述べる。
ロニもそれでは、と十字を切っていた。
一方で、日燐は各卓を回って、仏の教えを説き回っていた。
精霊を奉納するこの祭で、その教えがどこまで響いたのかはわからない。
だが、感謝の心はハンターにも、そして、山にも向けられていることは確かだ。
「精霊への感謝も忘れてはならんからな」
時折聞こえる楽箏にも耳を傾け、ディアドラはそう呟くのだった。
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【相談卓】美味しいご飯のため ミオレスカ(ka3496) エルフ|18才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/02/04 00:34:06 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/02/01 23:45:21 |