ゲスト
(ka0000)
【血断】小さな島の、小さな戦い
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2019/08/12 22:00
- 完成日
- 2019/08/18 02:29
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●それは突然に始まる戦い
南海の一角。
おしゃべり好きな人魚たちが海中に群れ集い、世間話をしている。
「ハンターたちや精霊たちは、大勢グラウンド・ゼロに行ってしまっているそうよ」
「それってどんなところ?」
「ずっと乾いた陸地が広がっていて、歪虚しか住んでいないんだって」
「まあ、いやなところね。どうしてそんなところに行ったの?」
「とびきり大きくて、とびきり悪い、ファナティックブラッドという歪虚が出たそうなの。それを退治するためよ。そいつは、この世界を食べてしまおうとしているんですって」
「まあ怖い。食べられたくなんかないわね」
人間が住むところから遠く離れた場所にいるせいか、彼女らの間には、あまり細かい情報が伝わっていないようだ。
「ところでそのファナなんとかっていう歪虚は、どんな姿をしているの?」
「さあ……誰か知っている子はいる?」
「あ、私、イルカから聞いたことがあるわ。そのイルカは港近くを散歩してるとき、人間の話を聞いて知ったそうだけど。なんでも、手が一杯あるんだって」
「あら、じゃあ、タコみたいなのかしら」
「イカかもしれないわよ。手は何本なの?」
「知らないわ。でもそういえば羽も一杯ついているとか言ってたかも」
「ええっ!? と、飛ぶの?」
「じゃない? 羽がついてるんだから。でも足は人間みたいに二本なんだって。それから、体中ごつごつした鱗に覆われているそうよ」
「……ねえ、鱗があるならその歪虚、もしかして泳げるんじゃない?」
「やめてよ、こわい話をするのは」
「大丈夫よ。だってついてるのは足で、私たちみたいな尾びれじゃないんでしょ? じゃあ泳いだとしても間違いなく遅いわ。なら、十分逃げられるわよ。大体泳げない生き物でも、鱗を持ってるものは山ほどいるじゃない」
「そういえばそうね」
「そうね」
人魚たちは不意に話をやめ、海面近くに上昇して行く。急に日が陰ったように思われたのだ。
顔を出してみれば、空はすっかり黒雲で覆われていた。
「やだ、さっきまで晴れてたのにねえ」
と言ったところに大粒の雨がぽつん。続いてぽつん。さらに間をおかずぽつん。
たちまち、しのつくような大降り。
人魚たちは再度海面下に潜り、スコールをやり過ごそうとした。彼女らは水中で生活するいきものであるが、雨に濡れるのはあまり好きではないのだ。
しかしそこで一人の人魚が、豪雨に沸き立つ海面の向こうに、明かりが灯っているのを見つけた。
色は赤。横並びに二つ。
「ねえ、何か向こうで光ってるよ」
「え? あら本当」
「人間の船の明かりではないかしら」
「それにしては、高いところにあり過ぎるような――」
次の瞬間明かりの方向から、強烈な熱線が飛んで来た。
熱戦が当たった海面の箇所は瞬時に煮えたぎり、水蒸気を立ちのぼらせる。
人魚の一人が火傷を負い悲鳴を上げた。
ほかの人魚はその仲間の腕を引き、素早く海中深くへ潜って行く。
それを追いかけるように赤い明かりが動き出す。変に間延びした声を上げて。
ラルーラルーラルーラルー
●雨の中の二人
にわかに空が暗くなり雨が降り出した。
見回り中であったソルジャーのジグとはアスカは港湾地区の軒下で、雨宿り。
「スコールか」
と呟いてジグは、アスカの横顔を見た。
「なあ、ちょっと宿舎に戻って休んできたらどうだ?」
「なんで?」
「いや、疲れてそうだから。体調が優れないときは休憩を取るようにって言ってただろ、マゴイ」
「……大丈夫よ、別に。もしかして歪虚が出たら、あんた1人じゃ困るでしょ?」
そっけなく言ってから彼女は、遠くを眺めた。
しばし沈黙してから、再び話し始める。
「マゴイにさ、検査してもらったのよ。そしたら私、免疫機能が急激に落ちているらしいの。そのため今後身体機能に、故障が出ることがあるだろうって。まあ、あれよ、あんたも遅かれ早かれそうなるとは思うけどさ」
ジグは言葉に詰まった。何か言いたいのに何も言えない。そんな顔で。
そこでバシャンと大きな水音。人魚たちが大挙して、水路を遡上してくる。
「精霊様、精霊様はいらっしゃいますか!」
●脅威は排除する
ソルジャーから、巨大な歪虚がユニゾン近海に出没したらしいという連絡を受けたマゴイは、急ぎユニゾンのセキュリティレベルを最高値に引き上げた。
島内に設置されたウォッチャーがいっせいに喋りだす。
【緊急災害警報が発令されました。緊急災害警報が発令されました。ワーカーの皆さん、日常業務を一時停止してください。全員最寄りの指定避難所に避難しましょう。避難訓練の通りに、ヘルメットを被り、押さないで、ゆっくり、列を作って避難しましょう。そうすれば何も危ないことはありませんので、安心してください。繰り返します――】
コボルドと人間の市民は言われた通り、大急ぎで避難所に向かう。
それを確認してマゴイは、出現したという歪虚の現在位置を確かめ、焦燥に駆られた。
歪虚はユニゾンのすぐ近くにいるのだ。しかも島の領海を取り巻く結界柱を攻撃している。
『……排除しなくては……』
彼女は急いで何をしたらいいか考えた。
とりあえずソルジャーたちのもとへ行かねばならない。
歪虚のサイズを考えるに、彼らだけでは対処が難しい。
自分はマゴイなので直接戦えないが、敵の動きを抑えることは出来る。海の上に結界を張り、足場を作ってやることも。
『……あ……その前に……ええと……そう……ハンターオフィスに連絡して……外部者であるハンターにも来てもらうことが出来れば……彼らの負担が軽減される……』
しかし今はほとんどの人手がグラウンドゼロに裂かれているはずだ。
来てくれるだろうか。そんな不安も抱きながら彼女は、とりあえず依頼を出してみることにした。
幸いカチャと何名かのハンターが、それに反応してくれた。
●開けゴマ
海面にぬっと突き出ているのは、巨大な柱。高さはざっと60メートルといったところか。1つだけではない。横一直線に間隔を置いて、無数に並んでいる。
表面に記されているのは、クリムゾンウェストで使用されている共通文字と見慣れない文字。
『この先ユニゾンの領海。オートマトンの持ち込みは禁止されています。なお所有者がおらず自立し動いているオートマトンに関しては、原則領海外での待機を求めます。』
ラルーラルーラルーラルー
シェオル「トライポッド」は間の抜けた声を上げながら、頭部から出た10本の触手を柱に巻き付けた。
彼(実際の性別は不明だが、仮にそう呼ぼう)は、ここに人為的な結界があることを理解している。
結界の中に人間が隠れていることを理解している。
攻撃したくてたまらない。その意志のもと柱に頭突きし、至近距離からビームを放つ。
これが壊れれば結界に穴が空くはずだ。そこから中に割り込めるはずだ。
南海の一角。
おしゃべり好きな人魚たちが海中に群れ集い、世間話をしている。
「ハンターたちや精霊たちは、大勢グラウンド・ゼロに行ってしまっているそうよ」
「それってどんなところ?」
「ずっと乾いた陸地が広がっていて、歪虚しか住んでいないんだって」
「まあ、いやなところね。どうしてそんなところに行ったの?」
「とびきり大きくて、とびきり悪い、ファナティックブラッドという歪虚が出たそうなの。それを退治するためよ。そいつは、この世界を食べてしまおうとしているんですって」
「まあ怖い。食べられたくなんかないわね」
人間が住むところから遠く離れた場所にいるせいか、彼女らの間には、あまり細かい情報が伝わっていないようだ。
「ところでそのファナなんとかっていう歪虚は、どんな姿をしているの?」
「さあ……誰か知っている子はいる?」
「あ、私、イルカから聞いたことがあるわ。そのイルカは港近くを散歩してるとき、人間の話を聞いて知ったそうだけど。なんでも、手が一杯あるんだって」
「あら、じゃあ、タコみたいなのかしら」
「イカかもしれないわよ。手は何本なの?」
「知らないわ。でもそういえば羽も一杯ついているとか言ってたかも」
「ええっ!? と、飛ぶの?」
「じゃない? 羽がついてるんだから。でも足は人間みたいに二本なんだって。それから、体中ごつごつした鱗に覆われているそうよ」
「……ねえ、鱗があるならその歪虚、もしかして泳げるんじゃない?」
「やめてよ、こわい話をするのは」
「大丈夫よ。だってついてるのは足で、私たちみたいな尾びれじゃないんでしょ? じゃあ泳いだとしても間違いなく遅いわ。なら、十分逃げられるわよ。大体泳げない生き物でも、鱗を持ってるものは山ほどいるじゃない」
「そういえばそうね」
「そうね」
人魚たちは不意に話をやめ、海面近くに上昇して行く。急に日が陰ったように思われたのだ。
顔を出してみれば、空はすっかり黒雲で覆われていた。
「やだ、さっきまで晴れてたのにねえ」
と言ったところに大粒の雨がぽつん。続いてぽつん。さらに間をおかずぽつん。
たちまち、しのつくような大降り。
人魚たちは再度海面下に潜り、スコールをやり過ごそうとした。彼女らは水中で生活するいきものであるが、雨に濡れるのはあまり好きではないのだ。
しかしそこで一人の人魚が、豪雨に沸き立つ海面の向こうに、明かりが灯っているのを見つけた。
色は赤。横並びに二つ。
「ねえ、何か向こうで光ってるよ」
「え? あら本当」
「人間の船の明かりではないかしら」
「それにしては、高いところにあり過ぎるような――」
次の瞬間明かりの方向から、強烈な熱線が飛んで来た。
熱戦が当たった海面の箇所は瞬時に煮えたぎり、水蒸気を立ちのぼらせる。
人魚の一人が火傷を負い悲鳴を上げた。
ほかの人魚はその仲間の腕を引き、素早く海中深くへ潜って行く。
それを追いかけるように赤い明かりが動き出す。変に間延びした声を上げて。
ラルーラルーラルーラルー
●雨の中の二人
にわかに空が暗くなり雨が降り出した。
見回り中であったソルジャーのジグとはアスカは港湾地区の軒下で、雨宿り。
「スコールか」
と呟いてジグは、アスカの横顔を見た。
「なあ、ちょっと宿舎に戻って休んできたらどうだ?」
「なんで?」
「いや、疲れてそうだから。体調が優れないときは休憩を取るようにって言ってただろ、マゴイ」
「……大丈夫よ、別に。もしかして歪虚が出たら、あんた1人じゃ困るでしょ?」
そっけなく言ってから彼女は、遠くを眺めた。
しばし沈黙してから、再び話し始める。
「マゴイにさ、検査してもらったのよ。そしたら私、免疫機能が急激に落ちているらしいの。そのため今後身体機能に、故障が出ることがあるだろうって。まあ、あれよ、あんたも遅かれ早かれそうなるとは思うけどさ」
ジグは言葉に詰まった。何か言いたいのに何も言えない。そんな顔で。
そこでバシャンと大きな水音。人魚たちが大挙して、水路を遡上してくる。
「精霊様、精霊様はいらっしゃいますか!」
●脅威は排除する
ソルジャーから、巨大な歪虚がユニゾン近海に出没したらしいという連絡を受けたマゴイは、急ぎユニゾンのセキュリティレベルを最高値に引き上げた。
島内に設置されたウォッチャーがいっせいに喋りだす。
【緊急災害警報が発令されました。緊急災害警報が発令されました。ワーカーの皆さん、日常業務を一時停止してください。全員最寄りの指定避難所に避難しましょう。避難訓練の通りに、ヘルメットを被り、押さないで、ゆっくり、列を作って避難しましょう。そうすれば何も危ないことはありませんので、安心してください。繰り返します――】
コボルドと人間の市民は言われた通り、大急ぎで避難所に向かう。
それを確認してマゴイは、出現したという歪虚の現在位置を確かめ、焦燥に駆られた。
歪虚はユニゾンのすぐ近くにいるのだ。しかも島の領海を取り巻く結界柱を攻撃している。
『……排除しなくては……』
彼女は急いで何をしたらいいか考えた。
とりあえずソルジャーたちのもとへ行かねばならない。
歪虚のサイズを考えるに、彼らだけでは対処が難しい。
自分はマゴイなので直接戦えないが、敵の動きを抑えることは出来る。海の上に結界を張り、足場を作ってやることも。
『……あ……その前に……ええと……そう……ハンターオフィスに連絡して……外部者であるハンターにも来てもらうことが出来れば……彼らの負担が軽減される……』
しかし今はほとんどの人手がグラウンドゼロに裂かれているはずだ。
来てくれるだろうか。そんな不安も抱きながら彼女は、とりあえず依頼を出してみることにした。
幸いカチャと何名かのハンターが、それに反応してくれた。
●開けゴマ
海面にぬっと突き出ているのは、巨大な柱。高さはざっと60メートルといったところか。1つだけではない。横一直線に間隔を置いて、無数に並んでいる。
表面に記されているのは、クリムゾンウェストで使用されている共通文字と見慣れない文字。
『この先ユニゾンの領海。オートマトンの持ち込みは禁止されています。なお所有者がおらず自立し動いているオートマトンに関しては、原則領海外での待機を求めます。』
ラルーラルーラルーラルー
シェオル「トライポッド」は間の抜けた声を上げながら、頭部から出た10本の触手を柱に巻き付けた。
彼(実際の性別は不明だが、仮にそう呼ぼう)は、ここに人為的な結界があることを理解している。
結界の中に人間が隠れていることを理解している。
攻撃したくてたまらない。その意志のもと柱に頭突きし、至近距離からビームを放つ。
これが壊れれば結界に穴が空くはずだ。そこから中に割り込めるはずだ。
リプレイ本文
●ちっちゃな宇宙戦争
マゴイは海面に次々とブロック状の結界を出現させていく。
ソルジャーとハンターたちはそれを足場にして、トライポッドの出現場所に向かう。
結界は水面に浮いているわけではないので、揺れることはない。地上を行くのと同じ感覚で進むことが出来る。
天気は悪い。
激しく雨が降っている。
覆い付きのフライングスレッドに乗ったエルバッハ・リオン(ka2434)がぼやいた。
「今日は本当に天気が悪いですね」
マゴイはウォッチャーに乗りハンターたちのすぐ脇を飛んでいる。髪が波打ち表情が引きつっているのは、侵入行為に対する怒りからか。
魔導鎧で全身を固めたディーナ・フェルミ(ka5843)は、彼女に声をかける。
「マゴイさんは巻き込まれないよう気を付けてなの!」
それから、ソルジャーとして同行しているジグとアスカにも。
「ジグさんとアスカさんも無茶はしないでほしいの」
ルベーノ・バルバライン(ka6752)もまた、マゴイたちに呼びかける。
「これが最後のシェオルでもあるまい。無理をするなよ、μ、ジグ、アスカ」
結界柱とトライポッドが見えてきた。
天竜寺 舞(ka0377)はゴーグルごしに目を細め、相手の大きさを推し量る。
「でかっ! 一体だけなのが救いかな」
マゴイは周囲一面に、足場の結界を張り巡らせた。
トライポッドが首を伸ばすように頭部を持ち上げる。間延びした鳴き声を上げる。
ラルーラルーラルーラルー
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は驚愕の声を上げる。
「あれは火星人の侵略兵器!」
カチャはリナリス・リーカノア(ka5126)から貸してもらった笠のひさしを上げ、ルンルンに聞き返す。
「ルンルンさん、あのシェオル知ってるんですか?」
「そりゃもう、リアルブルーでは超有名なのです!」
リナリスが話に参加した。
「あ、それあたしも知ってるー。リアルブルーのオーサカで何体か倒されたんだよね。だから、オーサカ弁使えば怯むかも! おんどりゃどつき廻すぞコラー! スッゾスッゾオラー!」
錬金杖「ヴァイザースタッフ」をたかだかと掲げ、メテオスウォームを発動する。
トライポッドの頭上に3つの火球が生まれ、降り注ぎ爆発する。
この攻撃によってトライポッドの意識は、全てハンターたちに向いた。柱から触手を離し、再び鳴く。
ラルーラルーラルーラルー
リオンは脚部に向け、重機関銃「ラワーユリッヒNG5」での銃撃を試みた。
リズミカルな爆音と銃弾が飛び出す
トライポッドは倒れない。かなりの強度があるようだ。
足の1本がふわあと持ち上がった。
その場から動く気だ。
そうはさせじとルンルンは、フォトンバインダー「フロックス」を構える。
「ニンジャVS火星人とか、なんかB級映画のタイトルみたいなのです……相手が水面を歩いてくるなら、私だってルンルン忍法水走りで対抗なんだからっ!」
マゴイが作った足場をニンジャらしく横走りしながら、地縛符。
「ジュゲームリリカル……ルンルン忍法土蜘蛛の術!! これ以上の立ち入りは、禁止なんだからっ」
持ち上がったトライポッドの足は再び海面を踏むや、泥濘に捕らわれた。
トライポッドは他2本の足を踏ん張り引き抜こうとする。
そこへディーナが一直線に走り寄った。
トールハンマーとフォースクラッシュを発動し、星神器「ウコンバサラ」をトライポッドの足目がけ叩きつけられた。
火花が散る。鎚の形そのままに足が凹む。
黄金のオーラを帯びたルベーノがそれとほぼタイミングを同じくし、別の足を攻撃した。
武神到来拳「富貴花」による白虎神拳。
マテリアルのカギ爪が滑らかな金属を抉る。
トライポッドがバランスを崩し巨体を傾がせた。
舞は空渡によって宙を駆けトライポットの臑に取り付き、よじ登る。ナイトカーテンを用い姿を隠して。
しかしトライポッドは、彼女の存在にすぐ気づいた。複数の触手を持ち上げ、その先端についた針で突きかかる。
その直前舞は、雲散霧消を発動した。
「くたばれアメンボ野郎!」
絶火剣「ティトゥレル」がトライポッドの顎部分――ビーム砲の射出口に突き刺さる。
直後彼女の体を複数の針が貫通した。
「――!!」
ちょっと声が出ないほどの激痛で、咄嗟の身動きが取れない。針を伝って血が吸われていく。
カチャがセイクリッドフラッシュをトライポッドに向け放つ。
ジグとアスカが残りの触手に攻撃を仕掛ける。電流を帯びた警棒のようなもので。
触手が一瞬たじろいだ。
その隙に舞はトライポッドの体を蹴り、離れる。
空渡で体勢を立て直そうとしたが、今度は発動がうまくいかなかった。そのまま結界の上に落ちてしまう。
リナリスは再度メテオスウォームを放った。注意を引き付けようと。
トライポッドは頭を左右に振り回しながらビームを乱射し始める。同時に触手での攻撃も続ける。
最初から両方の射程外にいる面々は問題ないが、前衛はもろにその攻撃にさらされた。
ジグがビームを食らう。
ルベーノは触手での攻撃を食らった。
ディーナは、その両方の攻撃を食らった。
しかしそのことは、トライポッドへの攻撃を緩めることにはならなかった。
ディーナはジグと舞に回復を施した後で、ひたすら殴り続ける。
金剛不壊のスキルを持つルベーノにとってみれば、攻撃を受けること自体歓迎すべきことだ。
「ご親切にありがとうよ、おかげで力が増した!」
彼は受けたダメージを上乗せした打撃を、トライポッドにお返しする。
トライポッドの足が3本とも折れ曲がり、動くこともままならないような有り様になって行く。
ここまで来れば新たに地縛符を仕掛ける必要は無さそうだ。そう判断したルンルンは、行動を攻撃に切り替えることにした。
まずは修祓陣で、周囲の仲間の防御力を上げる。
「ルンルン忍法、ニンジャバリアー!」
そこから流れるような動きで、風雷神を発動する。
稲妻が走った。
トライポッドは引き付けを起こしたように触手を痙攣させた。
「あ、やっぱりあいつ「雷坊や」の攻撃に弱いんだ」
訳知り顔なリナリスは、自分もまたライトニングボルトを仕掛けた。熱線の出る位置と触手が生えている位置を確認して、ルンルンに言った。
「ねえ、ルンルンさん八卦灯籠流し出来るよね? それならちょっと頼みたいことが――」
そうしてハンターたち戦っている間にマゴイは、トライポッドが攻撃していた結界柱を二重三重に結界で包んだ。これ以上壊されないようにと。
それからジグとアスカに向け、はらはらとした視線を注ぐ。彼らが攻撃を受けるたび、身を乗り出すようにする。
『……ソルジャー……ソルジャー……』
そんな彼女の様子を見て取ったルベーノは、トライポッドの足をへし折りつつ声を上げた。
「近くに来てはいかんぞ、μ! お前が攻撃を受けては何にもならんからな!」
舞は背の低くなったトライポッドに、再び挑みかかった。
立体機動を駆使し頭部にまで駆け上がり、先程切りつけた箇所へ再度剣を差し込む。
火花が吹き出した。外殻に大きな亀裂が走る。
触手がいっせいに彼女目がけ襲いかかってきた。
それをリオンがウィンドスラッシュで、ルンルンが風雷神で、リナリスがアイスボルトで撃つ。
ディーナとルベーノから継続的な激しい攻撃を受け続けていたこともあって、機体自体が弱ってきていたのだろう。触手が次々千切れ落ちて行く。
カチャは武器を錫杖から斧に持ち替え、千切れていない残りの触手を削ぎ取ることにした。
そこでリナリスが待ったをかける。
「あっ、ちょっと待って! あたしも一緒に行く!」
「駄目ですよ、危ない――なんですかそのゴミ袋」
「とっておきの秘策♪ ルンルンさんお願-い♪」
「はい。それでは――ジュゲームリリカルクルクルマジカル……ニンジャワープで、ダイレクトアタック!!」
八卦が発動された。
カチャとリナリスは一気に相手との距離を詰める。
ショットアンカー「スピニット」をトライポッドの体に打ち込み、駆け上がる。
頭部の亀裂の中目がけ生ゴミを突っ込もうとしたところで、残っていた触手が一斉に集まってきた。リナリスに向けて。
カチャはとっさに彼女の腰を抱き、トライポッドから転がり落ちた。
本当は飛び降りようと思ったのだが、足を刺されたことでバランスが崩れたのだ。
「~~~!!」
あまりの痛さに立てなくなっているところへ、ディーナが来て治癒。
リナリスはトライポッドに向かい、ライトニングボルトを炸裂させる。
「あたしのカチャになにすんのさー!」
ビームが彼女目がけ炸裂した。
幸いギリギリで当たらなかったが、笠が燃え吹き飛んだ。
その間にもほかのハンターたち並びにソルジャーは、攻撃をし続けている。
トライポッドが急にガクっと傾いた。横倒しに倒れた。
それから水没し始める。どうやら足がないと、水面に立てないものらしい。
頭部が開いた。そこから丸みを帯びた灰色のタコ……みたいなものがのろのろもがき出ようとしている。
ディーナは瞳を輝かせ走り寄る。
「大きなタコさんなの! これはもう塩で揉んで熱湯で茹でてぶつ切りにするしかないの!」
次の瞬間タコは緑色の液体を吐きバタリと前のめりに倒れ、溶けるように消えて行った。沈みゆくトライポッドと一緒に。
ディーナはとても悲しげに呟いた。
「今回も海産物と思わせて食べられないの……夏の海なら食べられる歪虚が出てきても良いと思うの」
こうしてシェオルは倒された。
リナリスはカチャに、くどいほど尋ね回る。
「大丈夫? 怪我してない? 謎の声が頭に響いたりしない?」
「大丈夫ですよ、それよりリナリスさんの方こそ……」
「よかったよーカチャ―!」
彼女の脳裏に去来しているのは、つい最近まで意識を取り戻さぬままいた相手の姿。
胸に競り上がってくる思いのたけを、ここぞとばかりぶちまける。
「もう、あんな思いは嫌だからね!」
嘆息と一緒にカチャは、自分が借りていた笠をリナリスの頭に被せた。
「風邪引きますよ」
リオンがカチャへ、苦笑交じりに話しかける。
「お熱いですねえ」
ルンルンは視線をジグたちに移した。
腕を押さえしゃがみこむアスカに、ジグが話しかけている。
「アスカ、大丈夫か?」
「……大丈夫よ」
押さえた箇所から血が滲み続けている。ディーナからリザレクションを受けたというのに。
マゴイがせかせか(あまりそうは見えないが)歩み寄り、心配そうにアスカを見やる。
何事か知っていると見たディーナは、彼女に尋ねた。
「マゴイさん、アスカさんはどうしたの?」
『……体内に蓄積されていた負マテリアルの影響によって……全般の免疫機能が低下しているの……そのために血が止まりにくくなっている……医務室で……凝血処置を施さないと……』
彼らは強化人間なのだということを、舞は改めて強く認識する。
だけど『かわいそう』とは思わないように努めた。最終的にこの道を選んだのがこの子達自身なら、同情など失礼でしかないから。
(あたしに出来るのは、この子達の生きる姿を心に刻むこと――それだけだ)
だけどディーナはあきらめ切れない。マゴイに尋ねる。遺伝子治療はできないのかと。
対しマゴイはこう答えた。
『……その可能性については現在模索しているところだけれど……なかなか難しいの……生殖細胞の段階での治療なら比較的容易なのだけれども……』
ユニオンの力をもってしても、強化人間を元の体に戻すことは不可能に違いない。そもそもそれが可能なら、とうの昔に試みられているはずだ。紅の、あるいは青の世界で。
そう思いながらルベーノは、ジグたちの肩を叩く。
「今はお前達だけがユニゾンのソルジャーだ。身体をいとえよ」
一同はひとまず島に戻る。
すると港に幾人ものワーカーが集まっていた。
戻ってきたハンターたちの姿を見、うれしそうに声を上げる。
「まごーいもどうた」「ハンターもいるぞ」「そーうじゃー」「うべーの」
人魚たちもいた。
「歪虚がいなくなったわ」「よかったわ」
マゴイは困惑し、咎めるように言う。
『……市民……災害警報が出ている最中なので……避難所から出てはいけない……ユニオン法においては……』
ディーナがそれを止める。
「マゴイさん、少しだけ感情とユニオン法についても考えて貰えるかな。ユニオン法を全ての感情の上に置いたら今度こそ誰も幸せになれなくなると思うの――」
舞はジグとアスカに言った。きっと島の皆は、二人の事を忘れないだろうと信じて。
「ほら、手を振ってやりな」
ジグとアスカは手を振った。照れ臭そうに、ぎこちなく。
●後日談
「これは俺とステーツマンαからの贈り物だ、μ」
ルベーノは可愛らしい白の飾りリボンがついた青いベレー帽を、マゴイに手渡した。
ステーツマンから託された言葉を、一言一句間違いなく伝えた。
「――『μに伝えておいてくれ。次のステーツマンが出来るまでの間は、君がユニオンにおける決定権を行使してもいいと。私はそれを許可すると』」
マゴイは息を飲み、ベレー帽を握り締める。細い指で。
『……ユニオンの決定権を……αが……私に任せると言ったの……?』
そうだ、と頷いてルベーノは、残りの言葉を口にする。
「『……行かないよ。私はユニオンと一体だからね――μと同じで』――ユニオンのマゴイ達はユニオンを継ぐ者があることを殊の外喜んでいた。これが最後の周回になるかもしれない事、ユニオンにまだ幼年期の市民が居る事を思い出したαは、ステーツマンらしい選択をして、未来をお前に託した」
マゴイの顔が紅潮して行く。口元は笑っているのに眉が下がっている。両の目からぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。ベレーを顔に当て嗚咽を漏らす。
『……α・ステーツマンが……ステーツマンに戻ってくれた……エバーグリーンにおけるユニオンは……ようやく終わることが出来た……』
ルベーノはマゴイを抱き締めた。愛を込めて。
自分と相手が所有する時間の差を思いやりながら、寂しげに微笑む。
「αはお前を認め、信頼し……愛していたぞ。もしもお前が何千年もαを待てるなら、会う方法自体はないわけではない。本気でそれを望むなら……次に会う時に、その方法を教えよう」
『結婚生活? 特に不満はないですよ。あ、でも、もう少し私の戦闘力について信用してくれてもって思わなくも……リナリスさんには内緒ですよ、これ』
リオンは小さな録音装置を耳から外し、笑む。
今のは依頼の後、カチャからこっそり聞き取ったものだ。
さあ、これを今後どう使おうか。
あれこれ思案をめぐらせながら、鼻歌を歌う。青空のもと、そよぐ木陰の下で。
「……さすがにカチャさんの結婚生活を壊すのはまずいですね。なので、誰にもばれないようにしないといけないです」
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
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相談卓 エルバッハ・リオン(ka2434) エルフ|12才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2019/08/12 11:06:56 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/08/12 20:21:52 |