• 血断

【血断】崑崙基地点景

マスター:樹シロカ

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~10人
サポート
0~5人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/08/08 19:00
完成日
2019/08/25 01:57

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 控えめな電子音が、各部門からの報告を知らせてくる。
 アスタリスク(kz0234)はモニターに映し出される情報を順に読み取ると、キーボードをたたき、マイクを握る。
 月面にある崑崙基地は、負傷者と故障したユニットや戦艦であふれかえっていた。
 一応ひところよりは落ち着いたとはいえ、物資の調達、負傷者の管理、住民の保安など、基地職員の仕事は山積みだ。
 しかも戦闘自体、完全に終了したわけではない。
 一応の修理を終えた戦闘用の機材を持ち出し、傷の癒えた兵士がまた出動していくのだ。
 アスタリスクはヘッドセットを外し、椅子を回して立ち上がる。
「……という、ご覧の通りの状況です」
 ハンター達に見せる微笑は相変わらず穏やかなものだったが、蓄積した疲労は隠しようもない。
「皆様も大変な中、誠に申し訳ないのですが。ご協力いただけますでしょうか」

 ハンターへの依頼は、崑崙基地での様々な活動への協力だった。
 例えば、時折現れる、母艦型をはじめとする歪虚への対処。修理しては出す状況で、戦闘用ユニットも満足な状態とはいいがたい。
 あるいは、負傷者の心身両面でのケア。大怪我を負い、自らのふがいなさを責め、不安を募らせる者もある。
 比較的怪我の軽い者は戦闘に出ていくが、度々の出動と閉鎖空間での生活で、精神的に参っているだろう。
 こういった点を把握してはいるのだが、とにかく日々の業務を回すことで基地職員は手いっぱいだ。
「ですので、気が付かれた点について皆様にフォローをお願いしたいのです」
 アスタリスクにそう言われ、ハンター達はそれぞれ基地内を見て回ることにした。

 基地内のドックでは、CAMにトラック、戦闘機など、色々な機体や車両の修理が行われていた。
「あー、せめて動作テストを手伝ってもらえたら助かるかな……」
 鼻の頭に機械油をつけた若い整備兵が頭を掻く。
「あとは廃棄ユニットから、使える部品を取り外す手が欲しいかな?」
 今すぐ困るというわけではないが、将来の部品不足に備えておきたい、ということだった。

 医療エリアでは、年配の女性医師がため息をつく。
「ヒーラーは何人いても足りないね」
 他の戦域から多数の負傷者を受け入れたのだからそれも当然だろう。
「軽い負傷を治すほうが、労力が少なくて済むからね。逆に重傷者には休んでもらってるよ」
 そんな話をしているうちに、医師の携帯端末に連絡が入る。新たな負傷者の到着だ。
 医師は顔を上げると、険しい表情をふっと緩める。
「月を守る勇者の凱旋だよ。今度は私たちが守らなくちゃね」
 ここもまた、ひとつの戦場なのだった。

 住民と軽い負傷者が居住するエリアもまた、困難を抱えていた。
「なんといっても気が滅入ってしまってね」
 住民代表の壮年の男性が肩を落とす。
「こんなに本格的な戦闘が始まるまでは、ここにも娯楽があったんだが」
 そうそう、と男性が付け加える。
「アスタリスク大尉だっけ? あの人の余興は結構面白かったんだがねえ。さすがに今の崑崙じゃなあ」
 不思議な顔をするハンターに、男性が苦笑いを向けた。
「崑崙基地であった本当に怖い話、ってやつでね。今じゃ到底無理なネタだよなあ」

 こうして一通りの見学を終え、ハンター達はそれぞれにできることを考え始める。



リプレイ本文


 見上げれば、漆黒の夜空。
 愛機であるR7エクスシア・mercenarioのコクピットで、マリィア・バルデス(ka5848)は目を閉じる。
「本当に軍人時代を思い出しちゃうわね……」
 宇宙軍時代のCAMと基本設計を同じくするR7だからこそ、余計に馴染むのかもしれない。
 少なくともマリィアは、このコクピットをそう感じていた。
 シグナルが明滅し、スクリーンには哨戒任務のためのルートが表示される。
 マリィアはR7のブースターを作動させた。
 地上とは違う、繊細な挙動が要求される月面で、マリィアは苦も無く機体をルートに乗せる。
 それからメインブースターを切り、姿勢制御にのみ集中し、R7を慣性移動で進ませる。
「……すごく懐かしい感覚だわ」
 戦闘時に備えて、ブースターパックを温存するのは哨戒任務の基本だった。
 様々な思いが胸にこみあげてくるのを感じながら、マリィアの感覚は、R7の外装を越えて宇宙空間を探るように研ぎ澄まされる。
「最近の交戦ポイント……厄介ね。デブリだらけだわ」
 マリィアのR7と並んで進む崑崙基地所属の機体が、合図を送ってきた。
「わかったわ。打ち合わせ通りにね」
 見張りの1機を残し、2機のペアでデブリの裏側へ回り込んでいく。


 崑崙基地の整備ベースでは、哨戒任務に送り出した部隊を案じつつ、作業が続いていた。
 ミグ・ロマイヤー(ka0665)はまるで自分の庭のようにその中を歩き回る。
「しばらくぶりじゃのう。ここが無事で何よりじゃ」
 ハンガーの前に立ち、ぼろぼろの魔導アーマーを見上げる。
「ふむ。これを部品にするのはちと惜しいのではないか?」
「なんだって?」
 振り返った整備兵が、怪訝な顔でミグを見る。
 今しも、外装を剥がして無事なパーツを取り外そうとしていたところだったのだ。
「どれ見せてみい。動かせる機体は貴重であろう?」
 止める声などどこ吹く風、ミグは勝手に魔導アーマーをいじり始める。
「ちょっと待てって。整備計画があってだな……!」
 そこに別の整備兵が通りかかり、ミグに呼び掛けた。
「あんた、生きてたのか! 久しぶりじゃないか」
 以前、崑崙基地で顔見知りになった男だった。
 ミグを手招きすると、自分の担当エリアに誘う。
 途中、基地の被害が大きかったこと、整備兵も負傷し、入れ替わりが激しいことなどを話してくれた。 
「成程な。そういうことであれば、我が愛機の整備もあるのじゃが、そなたの仕事を多少は楽にしてやれんこともない」
 いい笑顔の裏で、良いパーツがあれば回してもらおうなどと考えつつ。
 それでもミグの技量は、この場では貴重なのだ。


 ミグが離れたハンガーで、解体担当の男は作業に戻る。
 そこに今度は、ルベーノ・バルバライン(ka6752)が現れた。
「こいつからパーツを取り出せばいいのだな? 何、任せておけ。造作もないことだ、ハッハッハ!」
 ルベーノの目が赤く輝く。いきなり外装に手をかけ、木肌を剥ぐようにめりめりと引っぺがす。
「えっ!?」
 整備に「怪力無双」を使う覚醒者に、整備兵が目を丸くした。
「どこが破損している? よしよし、こことここは問題ないな。では残りは貰って行くぞ!」
 勝手に無事な部品をどんどん取り外し、それ以外のガラクタを山盛りに積み上げて担いでいった。

 向かった先は、何やらもう訳が分からない状態に組みあがった、『CAMだった何か』だ。
「爆発しないで動けばよかろう、ハッハッハ」
「おいおい、大丈夫か?」
 トリプルJ(ka6653)が苦笑いで振り返る。
「リメイクでもリミックスでもサンコイチでもなんでもいいが。新人程度じゃ乗りこなせなさそうなほど癖の強い機体になりそうに見えるんだが」
 癖が強いどころの話ではない。だが、ルベーノはノリノリだ。
「人体の限界に挑むピーキーな機体の開発に従事できるなら惜しむものなど何もないわ、ハッハッハ」
 そもそも他の誰かを実験台にする気はない。
「尤も、エース級しか扱えんだろうがそれもまた良し、ハーッハッハッハ」
 ルベーノは新しいパーツをどんどん付け加え、魔改造にいそしむ。実に楽しそうである。
「ま、意外といいものができるかもしれんしな。手伝えることがあったら言ってくれ」
 トリプルJはその場をルベーノに任せ、自分は故障の度合いがましな機体が集められた一角へ向かう。

「崑崙基地で人手が足りない日が来るたぁ思わなかったぜ……」
 寂寥感の混じる呟きを耳にしたものは誰もいない。
 多少修理すれば問題なく動く機体がある。なのに、それを修理する人間が足りないというのだ。
 かつて宇宙軍の基幹基地として、最新鋭の設備と最高の人材を誇った崑崙基地が、だ。
 トリプルJはひとつ頭を振り、担当の技官に声をかける。
「話は聞いてるか? 手伝えることがあったら言ってくれ」
 技官はトリプルJが技術士官だと思ったらしい。そうではない、と笑って否定した。
「どっちかと言えば強襲用の陸戦部隊だったが、もちろんCAMにも乗ったからなぁ。多少の補修ならおやっさん達に怒鳴られつつやってたもんだぜ」
 その経験から、動作テストで具合の悪い箇所や理由を推測できると言うと、技官はまだ外装が外されたままの機体を示した。
「ではこちらをお願いします」
 ややぎこちない様子の技官。彼らも不本意なのだ。
 本来なら誇りをもって、この基地の機体を整えていた連中だ。
「任せろ。俺も全力を尽くすぜ」
 トリプルJは敢えて明るい調子でそう言うと、コクピットに乗り込んでいく。

 一方で、ルベーノは自ら組み上げた機体を満足そうに見上げている。
「よし。次は動作テストだな! こういう依頼は大好物だぞ、ハッハッハ!」
「いやちょっと待ってください、流石にジャンクからの組み上げですし、出力計算ぐらいはしないと……」
 止める技術者の声など、ルベーノには届かない。
「この情勢では、時間は何より貴重であろうが。実地テストこそ最良の手段! 俺に任せておけ!!」
 いきなりコクピットに乗り込むと、エンジン始動、そのまま飛び出して行く。
 ……直後、やたら明るい星が月面に輝いたが、ルベーノ自身は負傷しつつも自力で戻って来たという。
 魔改造機体の性能はとにかく、血まみれで笑う男のおかげで、解体作業が早く済んだことだけは確かなようだ。


 医療エリアに着いた玲瓏(ka7114)は、ほんの一瞬目を伏せ、すぐに傍らの医師に声をかけた。
「こちらまで搬送されている時点で、初期対応は済んでいるということですよね」
「基本的にはね。患者を症状によって振り分けたほうが、こちらも診やすいしね。ただ急患が来ることもあるよ」
 玲瓏は天王寺茜(ka4080)、そして鞍馬 真(ka5819)と互いに頷きあうと、重傷者対応を申し出る。
「戦線復帰は難しくても、せめて日常生活の不自由を軽減してさしあげたいのです」
 前線では玲瓏は自身の力不足を感じていた。
 だがここなら、目の前の何人かを救うことぐらいはできるかもしれない。
「私もヒーラーです。そちらへ伺っていいですか?」
 茜は、連れてこられたのが「中程度」の負傷者のエリアだと察していた。
 重傷者のほうはもっと切羽詰まっているだろう。負傷者も、医療スタッフもである。
 真はユグディラのシトロンを伴っていた。
「一応、癒し手としての心得もあるんだ。シトロンも回復術を使えるからね。頑張って手伝うよ」
 医師が微笑んだ。
「ありがとう。とても助かる」
 
 重傷者のエリアは、話に聞いていた以上に大変だった。
 最先端の医療設備を備えた基地とはいえ、ベッド数は無限ではない。
 真は片手を握り締める。
 戦闘で大怪我した友の助けになりたくて、伸ばした手。この力をここで役立てられるなら、少しは慰められる。
「力仕事があれば任せてほしい」
 そこに新たな患者が運び込まれてきた。
 真は患者を診療台に移す為に手を貸し、精霊に祈りを捧げると「翠雨の唄」で表面の傷を癒す。
(……全員を全力で癒したい気持ちはあるけど)
 スキルは本人の治癒力を高めるもの、治癒できない程の負傷に効果はない。
 時間もスキルの回数も限られている以上、情に流されるわけにはいかなかった。
 それでも真は笑顔を忘れない。
「お疲れ様。ここまで戦ってくれてありがとう」
 労いの言葉に、ベッドの負傷兵が奥歯を強くかみしめるのが分かった。
 ユグディラのシトロンが奏でるリュートの音が、苦しみに寄り添うように優しく響き渡る。

 茜は看護士について回り、治りの悪い傷をヒールで治療していた。
「火傷ですね……もう少しの我慢ですから」
 怪我の程度によって使い分け、ひとりでも多く苦痛を軽くしようと気を配る。
「ありがとう、随分と楽になったよ」
 さっきまで呻いていた負傷兵が穏やかな表情でそう言うと、目を閉じて寝息を立て始めた。
 茜はほっとしながら、また次のベッドへ。
 だが負傷者は多く、いつかスキルも尽きる。
「あの、すみません。……洗濯モノとか溜まっていませんか? お手伝いできることなら何でも言ってください」
 看護する側の疲労も明らかだった。茜は彼らにも少し休んでもらいたいと思う。
「専門知識は無いですけれど、お掃除なら得意ですから!」
 その一生懸命な訴えに、看護士も本音で応える。
「じゃあ交換したものを運んでもらえますか。洗濯は自動でできますから」
「はい! 勿論です!」
 カートに積み上げた汚れたシーツを、茜は嫌な顔もせずに運んでいった。

 玲瓏はスキルを使い終えた後、談話室へ向かう。
 腕を釣った人、松葉杖をついた人、車いすの人などが言葉もなく集まっていた。
 重症者の姿を見ていると余計に疲れるのだろう。
 そこに、玲瓏の狛犬こまが駆け込み、尻尾を振る。
 犬好きらしい人が手を出すと、こまは愛想よくじゃれついた。
 沈んでいた空気が少し軽くなる。
「犬はお好きですか」
 玲瓏はそれを切欠に、静かな声で話しかける。
 戦闘で疲弊し、心身とも傷ついた兵士たち。基地の人間に吐き出せない思いも、他人になら話せるかもしれない。
 こまは優秀なカウンセラーだった。温かい身体を撫でているうちに、兵士の表情が穏やかになっていく。
 そして誰にともなくこぼれる言葉に、玲瓏はただ相槌を打つ。
 心が元気にならなければ、傷も治らない。今は英気を養い、心安らかに過ごしてほしいのだ。


「いいですかぁ、グデちゃん。終わったらオヤツいっぱい張り込みますしぃ、明日もグデちゃんの言うこと聞いてあげますからぁ、今日は全力でお手伝いして下さいよぅ。いいですねぇ?」
 星野 ハナ(ka5852)がユグディラに言い聞かせている。
「じゃあ御用聞きに行きますよぅ」
 ハナとグデちゃんは、居住エリアへ向かった。
 いつもの笑顔、ハナは手近な集合住宅の近くで声を上げた。
「ハンターですぅ。お料理やお掃除の手が足りないお宅のお手伝いに来ましたぁ」
 避難所にはある程度手が回っているはずだ。
 だが敢えて避難所に行かず、住宅に残っている人には様々な事情があるだろう。
「ほらグデちゃん、何か楽しい曲を演奏するですよぅ」
 陰でオヤツを渡しつつ催促すると、グデちゃんはちゃんと明るい……曲を演奏しながら、オヤツをばりっばりっと合いの手のようにかじる。
「食べるか演奏するか、どっちかにするですよぅ!」
 ハナがツッコミを入れると、すぐ近くで笑い声が起こる。
 振り向くと、大きな荷物を背負った子供だった。
 聞けば、足の不自由な老人がいて、皆で家に残ったのだという。
「わかりましたぁ。それじゃ、ご飯作りをお手伝いしちゃいますよぅ」
 ハナは子供の笑顔が消えないよう、グデちゃんを連れて歩き出す。
 ひとりでできることは限られていると、ハナにはわかっている。それでもこうして笑ってくれる人がひとりでも増えたなら、世界は変わるだろう。

 セシア・クローバー(ka7248)は、模造紙を抱えて避難所へ向かった。
 連れてきた虎猫のソオローグを放すが、自由気ままに歩かせてほしいと念を押す。
 疲れ切った人間の集団は、猫にも負担がかかる。嫌いな人でなければ、ふわふわの生き物がうろついているだけで楽しめるだろう。
 とはいえ、子供にそんなことは理解できない。
 今にも猫を掴もうとするので、セシアは電光楽器「パラレルフォニック」を抱えて明るい曲を奏でつつ、歌うように呼び掛けた。
「さて、画伯の皆、ここで作品を作らないか?」
 広げた模造紙にペンを添える。
「なんでもいい。好きなことを描いてみよう。描くのが苦手な子は、一緒に歌おう」
 子供達は少し考え、それぞれに好きなことを始める。
 模造紙には可愛い絵が並んでいたが、中にはとても怖い絵があった。人が血を流しているような絵だ。
「怖いお化けがいた? なら、倒しちゃえばいいだろう? 倒せないなら友達になるのもいいかもしれないな」
 セシアは子供達が怖い気持ちを抱え続けないで済むように、紙にぶつけさせることにしたのだ。
「それでももし怖いなら、倒しちゃおう。倒せるようなお話を作るんだ。どんなものでもいい、自分がこうだと思った結末を描いてくれ」
 セシアはそれを子供達から、大人達をも巻き込むように広げていく。
 未来を考える力を取り戻せば、また歩き出すことができるだろうから。


 マリィアが哨戒任務から戻ってきた。
「規定時間だけ休息したら、また出るわ」
「お疲れさん。だが機体はそれまでに直らんぞ」
 トリプルJは、外装に傷がついたR7を見上げる。
 結局、デブリに潜んでいた小型歪虚を発見し撃退したのだが、無傷という訳にはいかなかった。
「大したことはないわ。貴重な資源だもの、この機体に使っている場合じゃないでしょう」
 申し訳なさそうに、だが修理不要という言葉に助かったという思いをにじませ、崑崙の技術者が礼を述べる。
「古巣への御奉公だもの、気にしないでちょうだい」
 マリィアの言葉に、トリプルJがぽつりとつぶやく。
「古巣……か。顔見知りに逢いに行かないのか?」
「会いたい相手がここに居ればいいんだけど……今ちょうどいないのよ。それなら仕事してる方が落ちつくわ」
 マリィアはフッと微笑むと、手首に巻いたミサンガを眺める。
 逢えるものなら、すぐにでも飛んでいきたい人の面影が目に浮かんだ。
 トリプルJはそれ以上聞かず、帽子のつばを軽く上げる。
「そうか。じゃあ次の哨戒任務から上がったら、ちょっと付き合えよ」
「付き合う?」
「ここの連中と、軽く基地のバーで飲もうと思ってな。最近の軍の様子も聞けるだろう、俺がおごるぜ?」
 トリプルJもまた、古巣に思い入れがあるのだろう。
 マリィアは軽く手を振った。
「いいわよ。でも後悔しても知らないわよ?」
「お手柔らかに頼むぜ」

「……想像以上に大変でした。いつもお疲れ様です」
 真は仮眠室に現れた医師たちに、温かいお茶を淹れて渡す。
「私も戦場に出るとよく怪我をするので……何というか、頭が上がらないです」
「ここが私たちの戦場だからね。お互いがお互いの仕事を全うしていこうじゃないか」
 守り、守られている。互いにそれを忘れないでいようと。
 真はシトロンを抱きしめた。
「シトロンもお疲れ様。いつも癒してくれてありがとうね」
 頬ずりすれば、温かさが心の中までしみとおるようだ。
 
 茜は休憩時間に、アスタリスクに連絡を入れた。
『ああ、天王寺さん。ずいぶん助けていただいたそうですね。本当にありがとうございます』
「いいえ、大丈夫です。ところでアスタリスク大尉、ちょっと探したい人がいて…」
 茜はクリムゾンウェストから帰還した人々の消息を尋ねると、大急ぎで彼らが住むエリアへ向かう。
 果たしてそこには、浅黒い肌に優しい目をした見覚えのある青年がいた。
「アルジュナさん! 無事だったんですね!」
「アカネさんですか? お久しぶりです!」
 クリムゾンウェストの移住地から、リアルブルーを目指して帰還した人々が次々と顔を出す。
 皆、茜の無事を喜び、口々に仲間の消息を尋ねた。
「あの、アルジュナさん、これから時間と他に人が集まる場所ありませんか?」
 かつての仲間がどうしているのか、どんな苦労を乗り越えて生きているのか、伝えたかった。
 娯楽にはならないかもしれない。
 けれど仲間が元気でいて、崑崙の人々の無事を祈っているとわかれば、自分たちも頑張ろうと思えるだろう。
「色々あったんですよ。最初は……サイモンさんが苦労した『命の水』とか……」
 語りつくすには時間が足りないほどの思い出を、茜はアルジュナ達にも共有してほしかったのだ。

 仕事を終えたメンバーがアスタリスクの所へ戻ってくる。
「アスタリスクさんもお疲れさまでしたぁ」
「星野さん! 色々助けてもらったと報告を受けています、ありがとうございます」
「喜んでもらえてよかったですぅ。結局、軍人さん達がふっと住民の皆さんを見かけた時にぃ、笑顔が返って来るのが1番元気付けられるかなぁって思いましてぇ」
 ハナは、最終戦に参加できないことも、崑崙基地の現状も、一番悔しいと感じているのは、外ならぬこの基地の軍人なのだと思う。
 自分たちが住民の笑顔を守っている。そう思えれば、力が湧いてくるだろう。
「ところで、この戦争が終わったらぁ、みんなで打ち上げでもしませんかぁ。アスタリスクさんは軍人さんに伝手があるでしょうしぃ、ハンターも軍人さんも住民の方もぉ、ぱあっとお祭り騒ぎ出来たら素敵だと思いますぅ」
 そう言って、自分とグデちゃん用の予備のおやつを差し出した。
 直接の知り合いもいないこの基地で、せめて目の前のひとりでも、明るい未来を信じてくれるように。
「打ち上げか、いいじゃないか。大丈夫だ、きっと崑崙基地はこんな感じになるからね」
 セシアが広げた模造紙には、子供達が描いた明るい絵がいっぱいだった。
(この基地の軍人にとって、子供たちを守れたことが良き勲章になればいい)
 セシアは壁に絵を貼り付けた。
 覗き込んだ玲瓏が、怖いお化けをやっつけているらしい絵を指さす。
「そういえば大尉の持ちネタというのも気になりますね」
「……どこでそれを……」
「私も病棟で遭った本当に怖い話というネタがあります。おはなし会でもしてみませんか? 疲れも吹き飛ぶかもしれませんよ」
 アスタリスクは困ったように眉を寄せていたが、やがて表情を緩めた。
「そうですね。この戦いが良い結果を迎えたら。……きっとその日はじきにやってくるでしょう」
 今はそれを信じられる。
 そして信じる心はきっと力になる。

<了>

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重体一覧

参加者一覧

  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤー(ka0665
    ドワーフ|13才|女性|機導師
  • 語り継ぐ約束
    天王寺茜(ka4080
    人間(蒼)|18才|女性|機導師

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    シトロン
    シトロン(ka5819unit004
    ユニット|幻獣
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    メルセナリオ
    mercenario(ka5848unit002
    ユニット|CAM
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • ユニットアイコン
    グデチャン
    グデちゃん(ka5852unit004
    ユニット|幻獣
  • Mr.Die-Hard
    トリプルJ(ka6653
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士
  • 我が辞書に躊躇の文字なし
    ルベーノ・バルバライン(ka6752
    人間(紅)|26才|男性|格闘士
  • 風雅なる謡楽士
    玲瓏(ka7114
    人間(蒼)|18才|女性|聖導士
  • レオーネの隣で、星に
    セシア・クローバー(ka7248
    人間(紅)|19才|女性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン お手伝いスタッフ控室(相談卓)
天王寺茜(ka4080
人間(リアルブルー)|18才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2019/08/07 07:25:17
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/08/07 07:22:03