懲りた団長とお茶会を~in魔術師協会~

マスター:菊ノ小唄

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~5人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/02/07 09:00
完成日
2015/02/23 12:38

このシナリオは3日間納期が延長されています。

みんなの思い出

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オープニング

 同盟領、極彩色の街ヴァリオス。
 大衆商店街の片隅に小さな拠点を持つ小さな盗賊団があった。名を『アモレア盗賊団』といい、魔術師協会の会長職に縛り付けられたジルダ・アマートを解放し、協会を壊滅に追い込まんとする、壮大な勘違い目標を掲げていた。
 しかしその旗頭である団長は、ハンターらの尽力により真実をようやく把握。自分の勘違いと、長年の恋が失恋に終わったことを知り、泣きに泣いて泣き崩れた。
 そして、弟とその腹心と共に帰ってきたアジト兼自宅で一晩ぐっすり眠った団長は今、後悔と悲しみの中から立ち上がろうとしているところであった。

「兄さん、どこいくの? それ、兄さんの一張羅じゃなかったっけ」
 アジト兼自宅の玄関を出て行こうとする団長、ビブリオ・ボッコは弟に告げる。
「魔術師協会本部だ。ジルダに謝りに行く」
 昨日の大泣きでその両目は腫れぼったく、まだ少し鼻声だが、その意思は曲がりそうにない。弟、ジュール・ボッコはとても聡明で芯のある青年だが、この兄の強い意志にだけはどうにも弱かった。はぁ、とため息をつくジュール。
「兄さん一人で行ったら、本部に一歩入る前にヴァリオスの外まで放り出されそうだから、僕も行くよ」
 ちょっと待ってて、上着取ってくるから、と行ってジュールは部屋へ戻る。……ふりをして、腹心の団員が居る部屋へ。
「おはよう。兄さんが今から会長に謝りに行きたいって。門前払いだけでも避けられるように、先にドメニコ・カファロ広報部長と会ってこのことを伝えてくれないか」
「団長も大人しくなりましたね。了解です、なんとかやってみましょう」
「頼む。時間は僕が稼ぐから」
「わかりました。じゃあ行ってきます」

 ジュールは玄関に戻り、兄・ビブリオと共に外へ出た。
「あ、そうだ。朝ごはん食べてから行こうよ」
「いや、今は急ぎたい」
「腹が減って元気が出なかったら、伝えたい気持ちも伝え損ねるよ。そんなの嫌でしょ」
「うーむ、確かに。それはいかん」
 二人は行きつけの食堂へ足を運び、その後も、ジュールの提案で準備を整えるという名目で、近所の大衆商店街を巡るのだった。


 魔術師協会、広報部。
 広報部長ドメニコ・カファロは、盗賊団の一連の騒動が解決しつつあることに今朝まではほっと安堵の息を吐いていた。……のだが、安堵するにはまだ少し早かったことがわかり、深いため息を吐いたところであった。
 そして広報部の応接室……という名の、衝立で区切られただけのスペースへ、波乱の先触れが到着する……。

 魔術師協会、会長室。
 つい先ほど副団長の腹心と会ったドメニコは、しかめっ面がおさまらないジルダ・アマートを前に、事の顛末を伝え終えた。
「……と、いうわけでな。これから小僧が来る」
「正直、すごく、嫌です」
 昔、嫌気が差すほどしつこく好意を押し付けられたことや、色々あって遂に怒り心頭になった彼女が(若気の至りもあり)酷い嵐を起こしたことは、ドメニコもよく覚えている。
「わかっとるわかっとる。しかし、きちんと事態を理解した状態で来るわけじゃからな、邪険にはできん」
「……ええ、そうですね」
 でも、とても、嫌です、とジルダ。頭が痛いドメニコ。少し考えて、提案した。
「ではハンターを呼んでの茶会にする、というのはどうかね?」
「ハンターですか」
「うむ。彼らがおれば、ジルダ、おぬしもそう簡単には荒れずにおれるじゃろう。恩も縁もある」
 広報部長の自分としてもハンターに協会本部や会長を知ってもらえる良い機会だと思う、と静かに話すドメニコ。ジルダはお気に入りのソファに深く身を沈め、しばらくテーブルの上の、白くきらきら光る花器に生けられた花を見つめた。
 ややあって、流石は先生ですねと呟いてから体を起こす。
「わかりました、会います。ハンターも呼ぶお茶会なら、なんとかなるでしょう」
「良かった。では……小僧はそろそろ到着するはずだが少し待たせておいて、茶会の準備をしよう」
「私はハンターオフィスに募集を出してきます」
「忙しいところすまんな」
「お互い様です。それに、私を誰だとお思いで?」
 神出鬼没のジルダ・アマートですよ、と艶やかに笑い、部屋を出ていった。

リプレイ本文

●団長にブレーキを
 魔術師協会本部。その広報部の一室に、『アモレア盗賊団』ビブリオ・ボッコ団長は待機していた。レザージャケットを着て、小さな花束を膝に置き座っている。隣は弟であり、副団長でもあるジュール・ボッコ。
 そこへ十名近いハンターたちが到着。ビブリオが知っている顔もある。その一人、ルーエル・ゼクシディア(ka2473)が、ああ居た居た、と手を振った。
「会長とお茶会だとか。つまみ出されなくて良かったね」
「今日はジュールと来たからな。こいつが居ると大体のことはうまくいくんだ」
 どうだすごいだろう、と胸を張るビブリオ。
「すごい苦労をかけている、の間違いでしょうが」
 軽くツッコミを入れてから、ルーエルは他のハンターたちにビブリオやとジュールを紹介する。
「はじめましてなんじゃもん。だんいんのにーちゃんたちにはせわになったんじゃもん」
 泉(ka3737)が元気良く挨拶し、ロウザ・ヴィレッサーナ(ka3920)や残る面々も挨拶を交わした。

 団長と面識のあるもう一人、天央 観智(ka0896)が今日の目的を確認する。
「成る程、成る程……ちなみに、これまでのことを謝る、の『これまで』の中に、昔の誘拐事件のことも入っていますか?」
「……うむ、入っている。その時の勘違いに勘違いが重なってしまったようだしな」
「そうですね。それにたとえ当時から優秀でも、まだ自立もしてないであろう一人の女の子。気付いたら突然知らない場所、では怖がって当然だと思います」
 と、観智は丁寧に解説するように話す。ビブリオは、ああそっか、そうだよなと頷きながら聞いていた。
 その後、謝罪以外に用事はと尋ねられる。
「今回、協会宛の荷物を奪ったことについて、団員は許してほしい、と頼むのだ」
 彼らは応援してくれただけで、と説明するビブリオ。それを聞いたフェリア(ka2870)が、軽く目を見開く。
「団員をかばうとは。殊勝な心がけ、見直しました」
「家族も同然だからな」
 そこで白藤(ka3768)が、ひょっこりビブリオの前に顔を出す。
「せやわ。茶葉についてもきっちり謝ってぇな?」
「あれは、その、代わりに届けるつもりで……」
 言葉を濁したビブリオ。白藤はびしりと言う。
「知らんわ。道端で拾ったモンは軍人さんに届けぇな」
 返答に窮した三十路男に、ふぅん、と腕組みして冷たい眼差し。
「別にうちはえぇんやで、ごめんを言われへん器の小さい男にジルダが愛想つかして嫌われても」
 嫌われた様を想像したらしくしょぼんとするビブリオ。
「……うむ、わかった、きちんと謝る」
 誤魔化してはいけないな、と素直な返事。の、後に。
「あとな、その、今日は、このビブリオ・ボッコのジルダに対する深い愛を伝えたくてな」
 その瞬間、隣のジュールがそっと目を逸らした。そんな副団長の頬を、こらっと言って泉がぷにゅっと指で突く。驚くジュール。
「おにいちゃんのダメなとこ、ちゃんといってあげないとダメなんじゃもん」
「う、うん、ごめん……頑張るよ」
 ジュールの返事ににっこりしてから、泉は団長に向き直った。
「だんちょ、ジルダすきなんじゃもん?」
「大好きだぞ、世界で一番大好きだ!」
 ぐっと握ったビブリオの拳を、泉は人差し指でつんつん。
「すき、だけじゃなくて、だいじにしたいんじゃもん?」
「勿論」
 拳を解いて膝に置き、深く頷いたビブリオに、白藤が静かに言った。
「……せやったらな、ジルダの言葉はちゃんと聞きーよ?」
 愛に溢れる男はキョトンとする。
「自分の意見と違うからって目ぇ逸らすのんは、ジルダを信用してへん事になるんやからな」
 信用、と口の中で言葉を繰り返したビブリオ。
 そんな彼に七夜・真夕(ka3977)が、
「今日は許して貰うのがメインと思って、それ以上を望むのはやめておきませんか」
 と声をかける。エステル・クレティエ(ka3783)も、
「告白するにも順序って大事なんですよ?」
 と続き、最上 風(ka0891)が、
「そうそう。一番大事な用件の他に余計な事を言うと、誠意が薄れて嫌われてしまいますからね」
 と畳み掛けた。ジュールもそれに頷いている。フェリアも、
「まずは信頼を勝ち得てからです。何はともあれきちんと謝罪しましょう」
 と今日の目標を掲げる。エステルも、
「まずは、お友達からです。頑張りましょうね」
 そう言って、ぐっと小さくガッツポーズ。横からロウザもガッツポーズ。
「でも、ジルダが良いって言うまで側に近づいたらダメだぞ! ロウザ噛みつくぞ!」
 がう!
「わ、わかった。きちんと謝る。今日はそれを頑張ろう」

 こうして、ハンターたちの尽力により、ビブリオ・ボッコはある程度落ち着いた状態でパーティへ臨むことになった。

●会長に冷静さを
 ハンターたちが九人がかりで団長にブレーキをかけている頃、ジル・ティフォージュ(ka3873)は一人で会長室へ通されていた。
 初対面のジルが述べた丁寧な挨拶に、会長室の主、魔術師協会会長ジルダ・アマートは微笑む。
「今日はよろしく、困った客を迎えることになってしまって」
「その客についてだが、聞けばなかなか使い勝手の良さそうな者たちではないか」
「使えるとしても、気が進まないわ」
 スパッと即答。それを聞いた紳士は微笑みながら頷く。
「感情として許しがたいならば仕方はあるまい。貴婦人を怒らせるとはそういうことさ」
 何も言わずソファへ身を沈めたジルダ。
「しかし、彼は謝りに来ようとしている」
 そこで漸く、ジルダが口を開く。
「……あの大暴走少年が、変われると思う?」
 ジルダからすれば、十余名を率いる三十路男もほんの少年と変わらないようだ。或いはそれは、記憶の中の、人の話を聞かない少年を思い返しているせいかもしれない。その『少年』が話の通じる人間に変わるだろうか。その問いにジルは、わからない、と答えてから続ける。
「だが、謝意を踏みにじるのは礼を失すると同義……貴女の品格が問われる所だ」
 静かに聞くジルダ。
「儀礼だけは尽くしてやっていただけないだろうか、レディ」
 どうか、と嘆願する騎士然とした男。ジルダは長い長い息を吐いた。
「……そうね。付き合ってくれだのなんだのと言い出さない限りきちんと接する。約束するわ」

 そこへ、ルーエル、泉、白藤、エステル、ロウザの五人が団長の所からやってきた。
 挨拶を交わし、ルーエルと泉は、団長とそれなりに会話が成立したことや謝罪の気持ちがあるのは明らかだと報告する。また、だからこそ、言葉にして伝えるべきことはきちんと伝えてほしいと白藤が言い、ジルダを応援する、とロウザが約束。

 かくして、ジルダ・アマートは朝よりずっと冷静な心持ちで、会場へ赴くことができた。

●パーティ会場へ
 協会本部の小ホールで、今日のパーティが行われる。
 ホールは、入って正面に見える大きな窓から暖かい陽光が差し込み、中央には円形のテーブルが置かれ、クッションのきいた白い椅子が人数分。
「今日は、急な催しに足を運んでくれてありがとう」
 会長室からハンターたちと共に移動していたはずのジルダが、いつの間にかテーブルの傍に立っている。にこやかに客を出迎えていたが、ビブリオを見ると笑顔を引っ込めた。
「お久しぶりね……?」
 悠然、且つ艶やかなジルダの物腰に呑まれ、ビブリオは緊張でぎくしゃくする。
「そ、その、会えて嬉しい。あの、今日は、ジルダ……・アマート会長に、謝ろうと」
 隣のエステルから丁寧な呼び方をするよう囁かれ、姓と肩書を付け加えている。ジルダが意外そうな顔をした。以前のままであれば呼び捨てを訂正することも無かったことだろう。
 反対隣からフェリアがビブリオをつつき、お花を、と思い出させる。また愛の告白でも始まるのだろうかと身構えたジルダだったが、お詫びの印、と小さな花束を差し出され肩の力を抜いた。
「……頂いておくわ」
 花束を少し見つめてから、それを受け取った。

 着席する際、ビブリオの後ろを通ったジルが話しかける。
「……理由はどうあれ、謝る為に訪れたというのは素晴らしいな」
「そ、そうか?」
「それすらできん男が、この世に幾人いると思う?」
 礼儀に貴賎も男女も無いのさ、と返すジル。
「故に、俺は貴殿を高く評価しよう」
 しかし、と彼は声に低めた。その高い背丈で団長を見下ろす。
「レディに迷惑を掛けた事実は変わらん。それについて擁護はせん」
 と釘を刺す。言葉に冷たさは無い。ビブリオはしっかり頷き返し、二人は各自の席に向かった。

 テーブルの両端の席には片方に不思議な多色の花、もう片方に小さな白い花が置かれている。多色の花は出入口側、白い花は窓側だ。
 白い花の席を勧められ座った団長を挟む形で、エステルとフェリアが座る。
 フェリア側には、風、ロウザ、泉、白藤が並び、エステル側には、ジュール、ルーエル、観智、ジル、真夕がそれぞれ着席。
 そして反対側の多色の花の席に、ジルダが座った。

 挨拶が済み、主催のジルダが立って手ずから紅茶を用意し始める。隣の真夕が手伝いに立ち、残る面々は談笑する。
「今日の紅茶は本当に楽しみで……先日参加した街コンでも振舞われていたと思います」
 気になっていたから嬉しい、とエステル。あら良かった、とジルダが微笑んだ。
「私もこのお茶、お披露目の時以来で。やーっと飲めるの」
「どっかの誰かさんがお茶の箱持ってってもうて、待ちくたびれたやろ」
 白藤が『どっかの誰かさん』をちらりと見遣りつつ言う。ビブリオがそれに気付いて、ガタンと蹴り立った。エステルはその袖をくいと引いて囁く。
「紳士ですよ」
 そうだった、と静かに椅子を戻し、副団長のジュールと共に、茶が出るのを待っているジルダの所へ。その途中、椅子に後ろ前に座ってギランと目を光らせているロウザが居て立ち止まったビブリオは、そこから話し始める。
「紅茶の茶葉についてなんだが、うちの団員が拾ってきて、大事な物だからと思って預かろうとして……」
「だんちょ、『ごめんなさい』じゃもん?」
 嫌味の無い純粋無垢な泉の言葉が、話の腰を気持ち良く叩き折る。
 ビブリオは泉の言葉を受けて言い直した。
「つまり、つまり、茶葉の箱を持って行ってすまなかった! それから昔、誘拐などして迷惑をかけたことも、すまなかった!」
 頭を下げた団長、そして副団長。
 ジルダが息を吐く。床を見つめるビブリオは必死な表情だ。それを知っているのは、椅子の上で背もたれに掴まり落っこちそうな姿勢で彼の顔を覗き込んでいたロウザだけ。だが、その必死さは他の面々にも、そしてジルダにも伝わった様子。
「次に拾ったらきちんと軍に届け出て。あと、二度と私のことで騒ぎを起こさないでちょうだい」
 最初より若干柔らかい雰囲気で返された言葉に、団長はばっと顔を上げ、わかった、と答えた。
 そしてもう一度勢い良く頭を下げ、団員を許してほしい旨を頼み込む。副団長のジュールも同じく請願し、一緒に頭を下げた。魔術師協会の頂点に立つ女性は二人を数秒見つめてから、団員について魔術師協会側からは追及しない、と宣言する。そして、席に着いている顔を見回し、
「同席されているハンターの皆さんが、この言葉の証人です。……さて、堅苦しい話は終わり。そろそろお茶が」
 と普段の口調に戻ったジルダに団長が勢い付いて、話を遮ってしまう。
「そうだ、ジルダ、ジルダにどうしても伝えたい気持ちが……アイタッ!?」
「おーっと団長さんすみません、手が滑って風のスプーンが! 拾ってもらえますか?」
 風(がわざと投げ飛ばし、彼の頭に直撃したスプーン)が素早く阻止。驚きつつも律儀に拾って返そうとするビブリオ。落ちたやつそのまま返してどーするのさ、とルーエルがつっこみ、ビブリオはおろおろあわあわ。
「ええと、俺は何の話を……」
 と考え出すと次はエステルが「素敵!」と両手を軽やかに打ち鳴らす(話の内容を察したジルダは、既に背を向けて紅茶を人数分のカップに注いでいた)。
「ジルダさん、紅茶を淹れる手つきも綺麗です……ね? 団長さん」
「そりゃそうだ、彼女は全てがパーフェクト!」
 話は変わったものの彼の声には熱がこもり、無表情だったジルダの眉間に渓谷のような皺が寄る。お茶の準備を手伝っていた真夕がそれに気付き、フェリアへ目配せ。合図されたフェリアは、ビブリオを呼び元の隣の席に着かせ、遂に囁き声で宣告した。
「彼女のことはきっぱり諦めなさい。脈無し。火を見るより明らかだわ」
 しょぼーんとするビブリオ。
 真夕は、注がれた紅茶の芳香を楽しみながら、少々機嫌の悪そうなジルダへ声をかける。
「良い香り……素敵なお茶ですね。それに都市も……」
 明るくて素敵な場所、と窓から外を眺めつつ言う真夕。今日のヴァリオスは少し賑やか過ぎると苦笑いしたジルダに真夕も笑って頷き返し、紅茶を配るのを手伝った。
「ほな、ジェオルジよかずーっと遠い辺境の、ドワーフ集落近くの酒場の歌はいかがやろ?」
 同盟の農耕推進地域で作られた紅茶『ジェオルジの風』。それを受け取り、その爽やかな香りを楽しみながら白藤が問うた。ロウザが、熱くて飲めない紅茶のカップをそーっとソーサーに戻し、椅子から飛び降りる。
「ロウザ、お茶会のお礼に踊るぞ! ジルダ、見てて!」
 白藤、歌って!と言って手拍子を取り始めると隣に座っていた泉が飛び込んできた。
「いっしょにおどるんじゃもん!」
 ジルダが初めて聞くテンポの速いエキゾチックな歌も、ドワーフの少女たちにとっては聞き慣れた楽しい曲調。白藤の張りのある弾むような歌声に、息の合った踊りを披露する泉とロウザ。手拍子が沸き、笑顔が弾ける。
 泉が跳ねるように踊りながらジルダに近付き、その手を引いた。いいの?と尋ねるジルダに満面の笑みを返し、ダンスの輪に招待。泉は、ジルも、観智も、ルーエルも、と次々呼んで、そして最後にはビブリオも招き、ティーパーティは暫くダンスパーティとなった。

 大盛り上がりのダンスが終わり、一同は笑いさざめきながら席に着く。歌い終わった白藤が、胸に掛かった十字架をきゅっと握って微笑んだ。
「紅を旅したうちの時間も、無駄やなかったっちゅう事やな……」
 どこか切ないその呟きと微笑を、一輪の多色の花が静かに見守っていた。

 席に戻ったロウザが、
「ジルダの髪綺麗だぞ! それどうなってるの? 魔法か?」
 踊りながらカラフルに揺らめく髪に興味津々だった様子。
「正解、私の秘密の魔法なの。ロウザの髪もとっても素敵」
 元気の色だわ、とジルダ。
 観智が、魔法といえば、と話を繋いだ。
「良かったら、魔法について何かお話をしていただけませんか」
「それじゃ、基礎の基礎から……講義題『マテリアルに関する考察』」
 少年少女が首を傾げる。難しい話はしないわと笑い、魔術師ジルダは話し始めた。
「『マテリアル』は不思議なものに感じるかもしれない。でも、皆が持っているものでもある」
 赤ちゃんの成長を見たことがあるかしらとジルダ。
「言葉を持たず生まれ、次々に新しいことへ『挑戦』していく赤ちゃんは不思議ね。誰にも言われないのに『挑戦』するの」
 魔術師の指先で、小さな花束がふわりと浮き上がる。そして母親の胎に守られた子のようにくるりと回った。
「『マテリアル』と、赤ちゃんの『挑戦』は同じ。生きとし生けるもの全て、それを持ってこの世にやってきた」
 私はそう考えるわ、皆がこれから何に挑戦するのかとても楽しみ、と言ってそっと下りてきた花束を受け止め、話がとても短いことを観智に謝ってから、講義を終えたのだった。
「普段からこんな話が聴けたら楽しそう……あの、魔術学院は何歳からでも入れますか?」
 ジルダが学院で時折教鞭を執ることを知っているエステルの問いに、
「学ぼうと『挑戦』する気持ちがあるならば」
 とジルダは微笑み頷く。脇でビブリオが、さすがジルダ、良い話だった、と騒ぎ始め、急いで合言葉「紳士」で宥めるエステル。風が団長に話を振った。
「団長は、普段どんな活動を? 団員の方々の話とか、是非お聞きしたいです」
 ジルダさんも興味ありますよね?と振り向けばジルダも頷く。団長は、人々からの頼まれ事をこなし謝礼を貰っていると説明。団は謝礼の内容に口を出さないというルールで皆一生懸命。報われるのが常ではないが、励まし合い仲良くやっているとのこと。

 そこまで聞いて、遂に。
 ジルダが自ら、ビブリオに話しかけた。

「団長。アモレア盗賊団は、私の為に働く気、無いかしら?」
 思考停止してしまった団長・ビブリオの口がパッカーンと開き、紅茶を啜っていたジルがカップの陰で微笑む。ルーエルがこれで一件落着かなと呟き、副団長ジュールは素早く立ち上がって団長の口をパチンと閉めさせ、きびきびと答えた。
「是非、働かせてください。お願いします」
 ガッと兄の首根っこを掴んで頭を一緒に下げさせたの見てジルダが頷き、ハンターたちが見守る中、てきぱきと相談が進んでいった。

 ジルダの怒りは、お茶会が終わるまで終始爆発しなかった。加えて、アモレア盗賊団はジルダ個人の手駒として存続することが決まる。
 そう。
 ハンターたちの努力は見事に実を結び、お茶会は無事に幕を閉じることができたのであった。

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MVP一覧

  • 星の音を奏でる者
    エステル・クレティエka3783

重体一覧

参加者一覧


  • 最上 風(ka0891
    人間(蒼)|10才|女性|聖導士
  • 止まらぬ探求者
    天央 観智(ka0896
    人間(蒼)|25才|男性|魔術師
  • 掲げた穂先に尊厳を
    ルーエル・ゼクシディア(ka2473
    人間(紅)|17才|男性|聖導士
  • 【Ⅲ】命と愛の重みを知る
    フェリア(ka2870
    人間(紅)|21才|女性|魔術師
  • もぐもぐ少女
    泉(ka3737
    ドワーフ|10才|女性|霊闘士
  • 天鵞絨ノ空木
    白藤(ka3768
    人間(蒼)|28才|女性|猟撃士
  • 星の音を奏でる者
    エステル・クレティエ(ka3783
    人間(紅)|17才|女性|魔術師
  • 亡郷は茨と成りて
    ジル・ティフォージュ(ka3873
    人間(紅)|28才|男性|闘狩人
  • わんぱく娘
    ロウザ・ヴィレッサーナ(ka3920
    ドワーフ|10才|女性|霊闘士
  • 轟雷の巫女
    七夜・真夕(ka3977
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/02/07 08:20:42
アイコン 相談卓
最上 風(ka0891
人間(リアルブルー)|10才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2015/02/07 02:43:30