ゲスト
(ka0000)
川の精霊、町の安寧を願う
マスター:狐野径

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/08/12 19:00
- 完成日
- 2019/08/24 18:38
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●撤収
傲慢王を倒した。
喜びもつかの間、邪神との戦いの行方はどうなるのだろうか?
イスルダ島の復興の手伝いの方針を考えてまとめていたリシャール・べリンガーは戻ることが決定した。それだけでなく、その島の住民だったライル・サヴィスとシールの二人も撤収するしかなかった。その二人と共に、リシャールは父の領地に戻ることになった。
その二人の保護者たる人物もそこにいるというので、一緒の行動になる。
ハルトフォートの砦跡を回避しつつ横切り、イスルダ島に出向いていたウィリアム・クリシスの住む町に向かう。そこの転移門を使って町に行くことにした。
それが状況を見ることにつながるし、どこかしこに現れるシェオル型との戦いに協力もできる。
途中で色々あったが、三人は無事、ウィリアムがいる町までやってきた。
町の外でシェオル型と対峙するハンターたちに気づいた。
そのため、リシャールたちは状況を見つつ、近づく。そして、敵に対して攻撃をするとともに、声をかける。
「我々もハンターです! 助太刀いたします!」
背後から攻撃を受けたシェオル型の歪虚は一気に体勢が崩れた。立て直す前に、リシャールたちとハンターたちは殲滅する。
そして、リシャールたちはそのハンターたちと情報交換しながら、町に向かった。
●ダダバダ?
ハンターたちと別れたリシャールたち三人は、領主の屋敷に向かう。
「こういうのって、アポイントいるんだよね」
「ウィリアム様のところだろう? リシャール知り合いだし」
「追い返されたらされだです」
シールの言葉にライルが応じ、リシャールが小さく笑う。
ここは通過する予定の場所であるのだから、もし、会えないなら会えないでかまわなかった。
屋敷の入り口で取り次いでもらう。追い出されはせず、クリシス家に仕えている騎士の青年ジョージ・モースがすぐに応対してくれた。三人は歓待され、湯を使わせてもらい、執務室に通される。
「三人とも、お帰り」
ウィリアム・クリシスに迎えられ、リシャールたちはほっとする。シールとライルにとってみれば、イスルダ島に再上陸で来た時、付き合いが長くなった貴族であり、保護者みたいな感覚もあった。父親にでも迎えられたという気持ちにもなる。
「リシャールさん、お久しぶりです……。初めまして、シールさんとライルさん、ここの領主のイノア・クリシスと言います。父がいつぞやはお世話になりました」
「え? それは、こちらもですよ。ウィリアム様にお世話になりました」
イノア言葉にシールが頭を下げる。
「それより、リシャール君は、東方の行事に詳しかったかな?」
ウィリアムが唐突に言った。
「状況が状況で、東方の知り合いと連絡を取るのも難しいし、精霊の話を聞いているとさっぱり要領が得なくて」
どうやら、ハンターが夏場の行事を教えてくれたらしい。
「七夕とか夏越の祓ですね。うちの町でもやりましたよ……やったときは七月だったような……」
リシャールは以前、ルゥルの発案やらなんやらで町を挙げてやったイベントのことを告げる。
「……わかった。急ごしらえだ、少しでも気持ちを和らげるようなことということでやろう……ということでいいかイノア?」
「はい……そうですわね……」
「町の中でなら大丈夫だ。村からこちらに来ている人も多いし、気を紛らわせるものは必要だよ?」
ウィリアムは少しぼんやりしている娘を心配していた。少し元気がないようにも見える。
「イノア、休息も必要だぞ」
「わ、わかっています!」
「必要なら、リシャール君たちに暫く滞在してもらってもいいし……」
イノアは頬を赤らめた。
「どうかしたのかい?」
「……何でもありません。そうですわね、リ、リシャールさんにリオさんの話を進めてもらえればいいと思います……ただ、ご迷惑ではないでしょうか?」
ウィリアムは不思議そうにイノアを見た後、リシャールたちを見た。
「父のところには先生たちもいるでしょうし……僕たちで役に立つなら少しいます。それに、転移門使えますから、必要なら連絡入れます」
リシャールの言葉にライルとシールはうなずいた。
「では、よろしくお願いします」
イノアの挨拶の後、三人は川の精霊リオがいる場所に向かった。三人で向かう。三人とも精霊とは初対面だ。どうしたらいいのかわからないが、普通に話せばいいと言われてきている。
社で声をかけると、川の水が上がってきた。
「なの?」
「……」
三人はその姿に驚く。簡素な服を着た少女の姿なのだが、すべてが流水であるからだ。
「実は、領主様に依頼されてきたんですよ」
ライルが穏やかに話しかける。
「ダダバダするーの」
そこからリシャールが説明をした。七夕という行事が東方かリアルブルーのどこかにあるということを。
「空の星を眺めたり、川に紙を流したりするそうです」
「川……汚す……?」
「そうとらえられますね……それはやめます?」
「魚さんが、掃除する?」
まあどうにかなるということで、話はまとまった。
「楽しーのがいい……の……」
リオは言う。
「流れて流れて、どこかいくー? でも、水は必要。でー、歪虚はいらない、悲しいーのは嫌ー。みんな、笑うのがいいー」
世界がどうなるのかわからないと不安だ。リオだって不安だ。それだからこそ、ここで皆の不安な気持ちを流し、前を向く力をなりたいと考えたようだった。
傲慢王を倒した。
喜びもつかの間、邪神との戦いの行方はどうなるのだろうか?
イスルダ島の復興の手伝いの方針を考えてまとめていたリシャール・べリンガーは戻ることが決定した。それだけでなく、その島の住民だったライル・サヴィスとシールの二人も撤収するしかなかった。その二人と共に、リシャールは父の領地に戻ることになった。
その二人の保護者たる人物もそこにいるというので、一緒の行動になる。
ハルトフォートの砦跡を回避しつつ横切り、イスルダ島に出向いていたウィリアム・クリシスの住む町に向かう。そこの転移門を使って町に行くことにした。
それが状況を見ることにつながるし、どこかしこに現れるシェオル型との戦いに協力もできる。
途中で色々あったが、三人は無事、ウィリアムがいる町までやってきた。
町の外でシェオル型と対峙するハンターたちに気づいた。
そのため、リシャールたちは状況を見つつ、近づく。そして、敵に対して攻撃をするとともに、声をかける。
「我々もハンターです! 助太刀いたします!」
背後から攻撃を受けたシェオル型の歪虚は一気に体勢が崩れた。立て直す前に、リシャールたちとハンターたちは殲滅する。
そして、リシャールたちはそのハンターたちと情報交換しながら、町に向かった。
●ダダバダ?
ハンターたちと別れたリシャールたち三人は、領主の屋敷に向かう。
「こういうのって、アポイントいるんだよね」
「ウィリアム様のところだろう? リシャール知り合いだし」
「追い返されたらされだです」
シールの言葉にライルが応じ、リシャールが小さく笑う。
ここは通過する予定の場所であるのだから、もし、会えないなら会えないでかまわなかった。
屋敷の入り口で取り次いでもらう。追い出されはせず、クリシス家に仕えている騎士の青年ジョージ・モースがすぐに応対してくれた。三人は歓待され、湯を使わせてもらい、執務室に通される。
「三人とも、お帰り」
ウィリアム・クリシスに迎えられ、リシャールたちはほっとする。シールとライルにとってみれば、イスルダ島に再上陸で来た時、付き合いが長くなった貴族であり、保護者みたいな感覚もあった。父親にでも迎えられたという気持ちにもなる。
「リシャールさん、お久しぶりです……。初めまして、シールさんとライルさん、ここの領主のイノア・クリシスと言います。父がいつぞやはお世話になりました」
「え? それは、こちらもですよ。ウィリアム様にお世話になりました」
イノア言葉にシールが頭を下げる。
「それより、リシャール君は、東方の行事に詳しかったかな?」
ウィリアムが唐突に言った。
「状況が状況で、東方の知り合いと連絡を取るのも難しいし、精霊の話を聞いているとさっぱり要領が得なくて」
どうやら、ハンターが夏場の行事を教えてくれたらしい。
「七夕とか夏越の祓ですね。うちの町でもやりましたよ……やったときは七月だったような……」
リシャールは以前、ルゥルの発案やらなんやらで町を挙げてやったイベントのことを告げる。
「……わかった。急ごしらえだ、少しでも気持ちを和らげるようなことということでやろう……ということでいいかイノア?」
「はい……そうですわね……」
「町の中でなら大丈夫だ。村からこちらに来ている人も多いし、気を紛らわせるものは必要だよ?」
ウィリアムは少しぼんやりしている娘を心配していた。少し元気がないようにも見える。
「イノア、休息も必要だぞ」
「わ、わかっています!」
「必要なら、リシャール君たちに暫く滞在してもらってもいいし……」
イノアは頬を赤らめた。
「どうかしたのかい?」
「……何でもありません。そうですわね、リ、リシャールさんにリオさんの話を進めてもらえればいいと思います……ただ、ご迷惑ではないでしょうか?」
ウィリアムは不思議そうにイノアを見た後、リシャールたちを見た。
「父のところには先生たちもいるでしょうし……僕たちで役に立つなら少しいます。それに、転移門使えますから、必要なら連絡入れます」
リシャールの言葉にライルとシールはうなずいた。
「では、よろしくお願いします」
イノアの挨拶の後、三人は川の精霊リオがいる場所に向かった。三人で向かう。三人とも精霊とは初対面だ。どうしたらいいのかわからないが、普通に話せばいいと言われてきている。
社で声をかけると、川の水が上がってきた。
「なの?」
「……」
三人はその姿に驚く。簡素な服を着た少女の姿なのだが、すべてが流水であるからだ。
「実は、領主様に依頼されてきたんですよ」
ライルが穏やかに話しかける。
「ダダバダするーの」
そこからリシャールが説明をした。七夕という行事が東方かリアルブルーのどこかにあるということを。
「空の星を眺めたり、川に紙を流したりするそうです」
「川……汚す……?」
「そうとらえられますね……それはやめます?」
「魚さんが、掃除する?」
まあどうにかなるということで、話はまとまった。
「楽しーのがいい……の……」
リオは言う。
「流れて流れて、どこかいくー? でも、水は必要。でー、歪虚はいらない、悲しいーのは嫌ー。みんな、笑うのがいいー」
世界がどうなるのかわからないと不安だ。リオだって不安だ。それだからこそ、ここで皆の不安な気持ちを流し、前を向く力をなりたいと考えたようだった。
リプレイ本文
●到着
七夕があるという話はささやかに広がった。
戦いのさなかと言うこともあり、大々的ではなかった。
それでも、一時の平穏や休息を求め、また、色々と目的をもってハンターはやってくる。
星野 ハナ(ka5852)は社の近くに東方風茶屋を出すためやってきた。
用意したのはそうめん、笹団子、麻花兒、薄茶糖、冷やし飴そして冷やし甘酒。そうめんはいっぱいずつ汁を入れ、そこに断面が星形のオクラとネギ、刻みのりにすりおろしショウガが添えてある。
よくそろえたということを感心したくなるメニューだ。
店を開く前に、一通りは領主のイノア・クリシスと前領主ウィリアム・クリシス、川の精霊リオに提供することにしていた。まずは川の社近くに向かった。
ディーナ・フェルミ(ka5843)はハンターオフィスに小さく記載されていた告知を見て感心する。
「この時期にお祭りを開催してみんなの心を安らかにする……なかなかできることではないと思うの。イノア様にはきっとエクラさまのご加護があるの」
川の精霊のリオが言い出したとはいえ、オフィスや町への呼びかけは領主のイノアの名において行われることになる。
邪神との戦いの隙間を縫い、ディーナは向かった。息抜きは大切である。
町に到着したハンス・ラインフェルト(ka6750)と穂積 智里(ka6819)はオフィスから出て、町を歩く。
「こんなところで夏越の祓に遭遇するとは思いませんでしたね……」
ハンスがウキウキしているのは隣にいる智里はわかる。
「ここの領主はずいぶん、東方びいきな方でしょうか?」
「お会い出来たら聞いてみてもいいですね」
ハンスも智里もそれを聞いたことはない。ならば、会ったら世間話の一環として聞けばいい。
「さて……丘に向かいながら、のんびり町を見ましょうか」
「そうですね。急ぐ必要はありませんし」
ハンスは智里の手を取る。
智里は手のぬくもりに、頬が赤くなる。懐かしいという感覚が同居する不思議な喜びと嬉しさだった。
●脱線
マリィア・バルデス(ka5848)は町に出たところで、見覚えのある少年・青年と会う。
「ライルとシールにリシャールじゃない、珍しいわね。ご隠居様にイスルダ島の報告かしら」
リシャール・ベリンガーとライル・サヴィス、シールの三人組は異口同音にその通りと言う。
「結局、あれ以上いることは現状では難しいので仕方がありません」
「焦ったって仕方がないしね」
ライルとシールは大きく息を吐いたが、気負った風もない。
「あら、そうなの? 意外と落ち着いているわね」
「歪虚がいついなくなるかだって分からなかったし」
ライルは告げた。
「確かにね、国や地域の人全体のことだものね」
マリィアは理解した。
「……ところで、ちょっと賑やかよね?」
「あ、はい。急なことですが、川の精霊のリオさんが、ダダバタ……七夕に興味を持っており、不安があふれるなら少しでも気持ちを和らげたいと言っていたので」
リシャールが行事のことを言う。緊急だったし、地区をまたいでの移動はシェオル型の襲撃等を考えると難しいから、町の人だけの楽しみとなっている。それでも、比較的大きなこの町に避難してきている人も多いため、重要なイベントだった。
「ふふっ、そういうの喜びそうな子知っているわ。ちょっと出かけてくるわね」
サイドカー付きのトライクに乗る。
「……父の領地に行くんですか?」
リシャールが慌てて声をかける。
「よくわかったわね。ルゥル(kz0210)がいるとこ知っているから」
「……これまで、転移門で移動していますね……マリィアさん」
リシャールが説明した。クリシス家とべリンガー家の治めている領地の位置を。大雑把に言って、王都を挟んで西と東になっている。それも、距離が意外とある。
「転移門で行けばいいのね」
「そうなりますね……」
マリィアは解説と聞いて理解した。三人と別れてオフィスに戻るのだった。
転移門を使って、ルゥルがいるはずの場所に向かう。
●三人組
トリプルJ(ka6653)は町を歩く三人組を見つける。
「ライルにシールにリシャールか。ウィリアム様に報告にでも来たのか」
三人は挨拶をした後、「すぐみんなそういう」という顔をする。
「いや、お前ら三人が雁首揃えてりゃ、イスルダ島絡みかと思うじゃねぇか、なあ」
三人は仕方がないというような顔をした。
「で、今回のこの催しは何だい?」
リシャールが説明をする。
「なるほど……確かにエトファリカにゃ何度か足を運んだことあはあるが……俺はもともとリアルブルーの北アメリカ出身だからなぁ、東方の風趣なんざ、お前ら並みに詳しくないぜ」
「いえ、俺も詳しくないです」
「僕だってわかりません」
ライルとシールがトリプルJに同意する。
「でも、リゼリオにいたとき、客として来てくれていたリアルブルー出身のハンターさんからは聞いたことはあったよ」
シールが説明する。
「私が知っているのも、ハンターから聞いたり、ルゥルさんが仕入れるリアルブルー情報からです」
「全員がよくわかっていないってわけか」
トリプルJの言葉に三人がうなずいていた。
「ま、それはそれで、楽しもう。で、お前さんたちはどこに行くんだ?」
「リオさんのところに行った後なので、丘に行ってこようかと思ってます」
「でも、どこかに食べに行きたい」
リシャールとシールがどこに行くか相談を始めた。
「なら、俺は川の所に行ってくる。また会うかもな」
トリプルJは手を振って別れた。
レイア・アローネ(ka4082)は町を歩くライルたちを発見した。
「三人とも元気か」
「はい」
近況報告とともにどこかで酒を飲もうと誘う。
「そういえば飲んでない……」
「え、ライルって酒飲むの!?」
「……」
付き合いが長いはずのライルとシールだが、意外と互いを知らないのだと感じられる。
「レイアさん、私は夕食をとりませんか?」
リシャールが申し訳なさそうに言う。
「うむ、すきっ腹の酒は良くないし、どこにいく?」
「丘も見てきたいので」
レイアと三人組は丘に向かった。
酒類があるかはわからないが、一緒に飲食すると考えれば楽しいことだろうとレイアは考える。未成年や酒が苦手なものに対して無理に勧めることもないのだから。
●丘
ディーナは丘の入り口でイノアの姿を見つけた。
「イノア様、こんばんはなのー」
「ディーナさん、こんばんは」
「今日は精一杯食べて楽しむの」
「ぜひ、そうしてください」
ディーナはイノアの手を握ると激しくぶんぶんと振る。握手なはずだが、妙に振り回す結果となる。
イノアは困ったような顔はしているが、口元は微笑んでいる。全体的に信頼していくれているのだ。
「それに、何かあったら『ぽかり』で応急手当するの、おまかせなの」
イノアの手を離した後、ディーナはこぶしを振るう仕草をした。
「食べるの、食べつくすのー」
ディーナは笑顔で丘を登り、屋台に向かう。
近くにある七夕飾りのところで、短冊に願い事を書いていく。
「……鑑さんのお嫁さんになれますように」
イ寺鑑(kz0175)の名前を書いたとき、頬が赤かったかもしれない。そして、短冊を笹に飾り、店舗を回り始めた。
ルベーノ・バルバライン(ka6752)はイノアを丘の下で見つける。
「どうかしたのか?」
「あ、こんばんは」
イノアはどこかしおれている雰囲気がした。だから、ルベーノは挨拶をし直した後、再度どうしたのかと問う。
「いえ……ここには何度も来てはいます。ただ、日が落ちてからは初めてです……」
「そうか」
ルベーノはこの領と関わったとき、イノアの兄が歪虚となる経緯は調べていた。事件はこの丘にあった領主の屋敷に、夜にあったはずだ。
「ならば、一緒に行こう」
ルベーノはイノアの返答を待たずに、抱き上げると【縮地瞬動】と【縮地瞬動・虚空】を用いた。
「きゃああ」
「ははは」
イノアはしがみつく。
「空が近くはなる。しかし、落ちたりせぬから下を見てみろ」
ルベーノは促した。イノアは恐る恐る下を見る。
「これがお前のクリシス領、人々にぎわう地上の星だ。おまえが親から受け継ぎ、誰かと手を携え守り育てるお前の土地……善き領主にな」
イノアは黙って眼下を見る。
町の明かりがぽつりぽつりと浮かんでいる。川は暗く沈んでいるが、町の明かりも映り込み輝いているところもあった。
「そうですね」
しばらくルベーノはこのまま町を見下ろせるようにしていた。
眼下を見ていると、屋台のところに見覚えのあるハンターなどがいた。
そこにイノアを連れて降りる。
「ベリンガーの、お前の家はここと仲がいいのだろう?」
ルベーノの問いかけにリシャールはうなずく。突然の問いかけにリシャールもイノアも内心首を傾げている。
「イノア、領主の社交の練習だ。ハンターなら多少の無礼も気に戦でいい。お互いにこういう練習もよかろうよ」
ぽかーんとするイノアとリシャール。
そのイノアの手をリシャールの腕にポンと置き、呵々大笑して去った。行先は領主の屋敷だった。
「で、一体何の話なんだ?」
レイアの問いかけに二人は首を横に振る。
「……あ、すみません」
「あ、いえ」
イノアはリシャールから手をどける。どこか頬が赤い。
「……ん?」
シールが首を傾げる。
「まさかと思うけど、イノア様って、リシャールさんのこと?」
「違いますっ!」
シールのつぶやきをイノアが聞きつけ、バッサリと切り捨てる。
「……あ、いえ、そういう……なんというか……兄やらエリオット様やら思い出してしまいました」
「……え?」
兄はともかく微妙な話が出てきた。
レイアたちはリシャールとエリオット・ヴァレンタイン(kz0025)のつながりを模索する。
「黒髪かな……」
「黒髪ですね……」
レイアとライルたちがぽつりと言う。共通項は王国在中とそれくらいしかなかった。
「はい」
イノアは肯定した。
「イノア様、どうです? これから、僕たち、ご飯食べたり、お酒飲めたりするんですけど」
シールが何事もなかったかのように提案した。
「せっかくなら、一緒にどうだ?」
レイアの言葉に、イノアがついて行く。
残されたのはリシャールとライル。
「……リシャールさん……?」
「何か腑に落ちないのですが……」
「落ちなくて当たり前だと思いますけどねぇ……まあ、イノア様の話聞く分には、仕方がないのかなと」
笑いをこらえたライルはリシャールを連れて、先行した人たちと合流した。
トリプルJが丘にやってきたころ、屋台の回りはにぎわっていた。そこにあの三人組や見覚えのあるハンターや領主のイノアがいる。それに加えて、町の住民も集まっていた。
まず、すべきことをしておくため、短冊に願い事を書く。
「仲間と無事にリアルブルーに帰れるように」
空を見上げる。周りが明るくとも星は多く見える。
邪神との戦いが激化していた昨今、星をじっくり見る機会がなかったかもしれない。
「あそこに寄ってくか」
リシャールたちにはまた会うだろうといっていたし、話す機会があることは互いに良いことだった。
そして、飲み食いをしてしばらくとどまった。遅くならないうちに、リオのところに向かう。
●川
ハナは出店の準備が終わった後、領主の屋敷に寄り丘を経由して戻る。そこで七夕飾りに短冊をしたためる。
「シャンカラさんと結婚できますように」
シャンカラ(kz0226)のことを思いながら、お付き合いのいくつもの関門を吹き飛ばした内容だという自覚はあるが、短冊のだいご味だろう。
川に急いで戻ると本日のメニューを一通り持って、リオのところに向かった。社の側で輪っかを通る人を不思議そうに眺めたりしている。
「リオ様、お祭りありがとうございますぅ」
「なのー」
「ぜひ、お納めください」
お盆に乗った一通りを見て不思議そうな顔をする。そして、つまみやすい麻花兒を食べる。おいしかったようで目が丸くなっている。
「ここは物を冷やすのにいいんですよぅ。それに皆さんのお詣りも眺められますしぃ」
「なの?」
「茅の輪潜りも用意するなんてすごいですよねぇ……まあ、巨大リースぽさ全開ですけど」
それはそれで面白いだろう。
ハナは今のうちにくぐることにした。祓いの最中、心の中で祝詞も唱える。
ディーナはいろいろ食べながら、飲みながら移動していく。
エクラ教会の前を通ると、集まる人々から不安を感じる。ただ、教会から出た人たちはどこか穏やかな表情をしていた。
この祭り自体が、不安を少しでも消せるようにという思いの塊でもあるのだ。
社のところに到着すると、茅の輪ではなく、もみの木の輪であるがを通り、紙の人形に名前を書いて体を撫でた後、水に流すということもした。
川でお盆を脇に置き、のんびりと人を見つめるリオを見つける。時々、盆に乗っている物を食べている。
「リオ様、ありがとうなの」
「なのー? みーな、ありがとーなのー」
逆に礼を言われる。
「来年も、再来年もずっとみんなの笑顔を守りましょうなの」
「……うん」
リオはうなずいた。
ディーナはしばらくリオと話した後、帰るのだった。
川の側の涼し気な空気が、満腹と一緒に眠気も連れてきた。
●二人
ハンスと智里は丘まで到着して気づいたが、ここの領主、そこまで七夕に興味があった風ではないということに。
「妙にパンと焼き菓子はありましたね」
「特産というにしては特徴的ではないですけれど、種類は豊富でした」
興味が惹かれたものは買って二人で食べてみた。
小さな笹と短冊があるところに行く。
「詩天で生きる」
「詩天の人が幸せになりますように」
ハンスと智里はそれぞれ書いた。未来と今を見据えたものだった」
「そういえば、この世界にも天の川にあたる星はあるんでしょうか」
「どうなんでしょうか? 星はあるのはわかりますが」
智里とハンスは見上げた。
星はたくさんあった。
「本当……なぜ、この行事を選んだのでしょう。ミルヒ・シュトラーセ(天の川)が見えるわけでもないのに、同じ行事を行う。今回はリアルブルーからの輸入でしょうが」
「確かに……そんな感じですよね」
ハンスの分析を聞きながら、智里は相槌を打った。
「違う神の下で同じ進化する。収斂進化や平行進化を起草させて面白いと思いませんか?」
「えっと? サメとフグ、翼竜と取りでしたか? どうなんでしょう。同じ空間を占めているとはいいがたいような……」
「そうですか? まあ、色々考え方があるわけです。リアルブルーの人間が来て教えるということもあり得ますから」
「それに、ハンター同士で情報交換もありますし」
「一層複雑怪奇になるわけです」
ハンスは苦笑する。
「さて、つぎは川の方に行きましょう」
「リオ様にも挨拶したいですしね」
ハンスと智里が川に到着すると、リオが何やら食べている所だった。
先に茅の輪潜りや人形流しを体験する。
「おおっ! クリスマスですね……笹生えてませんしね……」
ハンスはなんとも言えない顔になった。
勢いは重要で、三度通ることはした。
人の形に切った紙に名前等を書いて、自分の体を撫で川に流すという人形流しについては、下で回収するとのこと。
「確かに……精霊流しも今は河口で回収しますね」
智里は妙に現代風なそれを見て感想が漏れた。
「いつも思いますけど、ハンスさんは私より行事に詳しいです。私はこの時期、茅の輪くぐりも流しびなもしたことなかったです」
「東方には興味がありますからね。やったことなくともおかしくはないでしょう。あまりやっていないのでしょうから」
ハンスは情報をいろいろ持っていた。
二人は社に向かう。そして、手を合わせた。リオは目の前にいるので、面白がって二人を見ている。
「楽しいひとときをありがとうございます。来年は東方の夏越の祓を各地で体験して、リオ様のところに報告に来ますよ」
「あるの?」
「ある、と思いますよ?」
実は確証がない。エトファリカは色々な文化がありそうだからないことはないだろう。
「行ってきます、リオ様」
「?」
「この地を守ってくださいね。でも、危なくなったらリオ様もきちんと逃げてください」
「あー、なの」
リオは理解してうなずく。少し寂しそうな顔をしている。
「私たち、邪神戦争が終わったら東方に引っ越しますけど……また必ず会いに来ますから」
「ええ、勝って戻ってきますとも」
智里とハンスは力強い笑顔で告げる。リオはそれに応じた。
手をつなぎ、オフィスに戻っていく二人を、リオは手を振って見送ったのだった。
●帰宅へ
マリィアはルゥルの寝顔を見て戻ってきた。
「街の手伝いをして疲れてすでに寝てるとは……」
それはそれで褒めてあげるべきなのだろう。珍しいものがあれば手紙をつけて贈ってもいい。
丘のある場所につくと、満天の星空。明かりも少ないため、瞬く星が良く見える。
「ま、仕方がないわね」
マリィアは短冊に願いを書く。
「ジェイミーと幸せになりたい」
戦いがどうなるのか、そして、未来がどうなるのかはわからない。だからこそ、苦難が合っても最良の未来のために願い、進むのだった。
「七夕由来の縁起物にぃ、夏におすすめドリンクいかがですかぁ」
ハナは川に涼みに来る人に声をかける。
花火があるとかそういう行事ではないため、自然と人がはけていく感じだった。
「明かりがあっても、星はたくさん見えるんですよねぇ」
町の明かりはあっても強くはない。人の波が途切れたところで、星を眺める。
お盆を戻しに来たリオに、ハナは礼を述べた。
トリプルJはハナのところから戻ってきたリオに声をかける。
「イベントの提案あんがとな」
「あんがとー?」
リオは首を傾げて疑問符を浮かべる。
「ありがとう、だ」
「いえいえー」
「来年もやれるといいなぁ」
「やれるーよ」
リオは力強く言う。
「そうだな、やれるな」
思いは重要だ。邪神との戦いが終わるにも、その先への思いがないと進めない。
「じゃ、またな!」
「またーな」
リオに見送られ、トリプルJは帰宅するのだった。
ルベーノはウィリアム・クリシスと話をした。酒とともに、これまでのこと、これからのこと。
「人生は続くのだから、色々あったというのもおかしいがね」
ウィリアムは苦笑する。
「いたし方あるまい。ニコラスがプエル(kz0127)になり、責をとり、隠居した……まだ、領主でもおかしくないのだから」
「……イノアを路頭に迷わすことにならず、ハンターたちには感謝している」
「……?」
「そこまで深刻な部分があったのだ。ハンターの助力、ここのエクラ教会の助力……様々な力があった。ひどい目には合わされた。しかし、良いことにも巡り合えた」
ウィリアムは笑う。
「そうか……ならいい。今後もイノアに助力すると誓おう」
「……ありがとう……心強い」
ルベーノの言葉に、ウィリアムはうなずいた。
丘ではレイアは領民と接するイノアを見ていた。
「本当に、恋愛というのが見えないなぁ」
リシャールとイノアは話をしているが、上下関係や友人関係は見えても、それ以上でもそれ以下でもない。
「そろそろ、遅いし……」
屋台の方が片付けに入っている。
「俺たちは帰ります。レイアさん、ありがとうございました」
ライルが礼を述べる。
「いや、別に……楽しかったからこちらこそな」
レイアは礼を返す。三人組とイノアがレイアに挨拶をして立ち去るのを見送った。
そしれ、レイアも帰宅の途につくのだった。
七夕があるという話はささやかに広がった。
戦いのさなかと言うこともあり、大々的ではなかった。
それでも、一時の平穏や休息を求め、また、色々と目的をもってハンターはやってくる。
星野 ハナ(ka5852)は社の近くに東方風茶屋を出すためやってきた。
用意したのはそうめん、笹団子、麻花兒、薄茶糖、冷やし飴そして冷やし甘酒。そうめんはいっぱいずつ汁を入れ、そこに断面が星形のオクラとネギ、刻みのりにすりおろしショウガが添えてある。
よくそろえたということを感心したくなるメニューだ。
店を開く前に、一通りは領主のイノア・クリシスと前領主ウィリアム・クリシス、川の精霊リオに提供することにしていた。まずは川の社近くに向かった。
ディーナ・フェルミ(ka5843)はハンターオフィスに小さく記載されていた告知を見て感心する。
「この時期にお祭りを開催してみんなの心を安らかにする……なかなかできることではないと思うの。イノア様にはきっとエクラさまのご加護があるの」
川の精霊のリオが言い出したとはいえ、オフィスや町への呼びかけは領主のイノアの名において行われることになる。
邪神との戦いの隙間を縫い、ディーナは向かった。息抜きは大切である。
町に到着したハンス・ラインフェルト(ka6750)と穂積 智里(ka6819)はオフィスから出て、町を歩く。
「こんなところで夏越の祓に遭遇するとは思いませんでしたね……」
ハンスがウキウキしているのは隣にいる智里はわかる。
「ここの領主はずいぶん、東方びいきな方でしょうか?」
「お会い出来たら聞いてみてもいいですね」
ハンスも智里もそれを聞いたことはない。ならば、会ったら世間話の一環として聞けばいい。
「さて……丘に向かいながら、のんびり町を見ましょうか」
「そうですね。急ぐ必要はありませんし」
ハンスは智里の手を取る。
智里は手のぬくもりに、頬が赤くなる。懐かしいという感覚が同居する不思議な喜びと嬉しさだった。
●脱線
マリィア・バルデス(ka5848)は町に出たところで、見覚えのある少年・青年と会う。
「ライルとシールにリシャールじゃない、珍しいわね。ご隠居様にイスルダ島の報告かしら」
リシャール・ベリンガーとライル・サヴィス、シールの三人組は異口同音にその通りと言う。
「結局、あれ以上いることは現状では難しいので仕方がありません」
「焦ったって仕方がないしね」
ライルとシールは大きく息を吐いたが、気負った風もない。
「あら、そうなの? 意外と落ち着いているわね」
「歪虚がいついなくなるかだって分からなかったし」
ライルは告げた。
「確かにね、国や地域の人全体のことだものね」
マリィアは理解した。
「……ところで、ちょっと賑やかよね?」
「あ、はい。急なことですが、川の精霊のリオさんが、ダダバタ……七夕に興味を持っており、不安があふれるなら少しでも気持ちを和らげたいと言っていたので」
リシャールが行事のことを言う。緊急だったし、地区をまたいでの移動はシェオル型の襲撃等を考えると難しいから、町の人だけの楽しみとなっている。それでも、比較的大きなこの町に避難してきている人も多いため、重要なイベントだった。
「ふふっ、そういうの喜びそうな子知っているわ。ちょっと出かけてくるわね」
サイドカー付きのトライクに乗る。
「……父の領地に行くんですか?」
リシャールが慌てて声をかける。
「よくわかったわね。ルゥル(kz0210)がいるとこ知っているから」
「……これまで、転移門で移動していますね……マリィアさん」
リシャールが説明した。クリシス家とべリンガー家の治めている領地の位置を。大雑把に言って、王都を挟んで西と東になっている。それも、距離が意外とある。
「転移門で行けばいいのね」
「そうなりますね……」
マリィアは解説と聞いて理解した。三人と別れてオフィスに戻るのだった。
転移門を使って、ルゥルがいるはずの場所に向かう。
●三人組
トリプルJ(ka6653)は町を歩く三人組を見つける。
「ライルにシールにリシャールか。ウィリアム様に報告にでも来たのか」
三人は挨拶をした後、「すぐみんなそういう」という顔をする。
「いや、お前ら三人が雁首揃えてりゃ、イスルダ島絡みかと思うじゃねぇか、なあ」
三人は仕方がないというような顔をした。
「で、今回のこの催しは何だい?」
リシャールが説明をする。
「なるほど……確かにエトファリカにゃ何度か足を運んだことあはあるが……俺はもともとリアルブルーの北アメリカ出身だからなぁ、東方の風趣なんざ、お前ら並みに詳しくないぜ」
「いえ、俺も詳しくないです」
「僕だってわかりません」
ライルとシールがトリプルJに同意する。
「でも、リゼリオにいたとき、客として来てくれていたリアルブルー出身のハンターさんからは聞いたことはあったよ」
シールが説明する。
「私が知っているのも、ハンターから聞いたり、ルゥルさんが仕入れるリアルブルー情報からです」
「全員がよくわかっていないってわけか」
トリプルJの言葉に三人がうなずいていた。
「ま、それはそれで、楽しもう。で、お前さんたちはどこに行くんだ?」
「リオさんのところに行った後なので、丘に行ってこようかと思ってます」
「でも、どこかに食べに行きたい」
リシャールとシールがどこに行くか相談を始めた。
「なら、俺は川の所に行ってくる。また会うかもな」
トリプルJは手を振って別れた。
レイア・アローネ(ka4082)は町を歩くライルたちを発見した。
「三人とも元気か」
「はい」
近況報告とともにどこかで酒を飲もうと誘う。
「そういえば飲んでない……」
「え、ライルって酒飲むの!?」
「……」
付き合いが長いはずのライルとシールだが、意外と互いを知らないのだと感じられる。
「レイアさん、私は夕食をとりませんか?」
リシャールが申し訳なさそうに言う。
「うむ、すきっ腹の酒は良くないし、どこにいく?」
「丘も見てきたいので」
レイアと三人組は丘に向かった。
酒類があるかはわからないが、一緒に飲食すると考えれば楽しいことだろうとレイアは考える。未成年や酒が苦手なものに対して無理に勧めることもないのだから。
●丘
ディーナは丘の入り口でイノアの姿を見つけた。
「イノア様、こんばんはなのー」
「ディーナさん、こんばんは」
「今日は精一杯食べて楽しむの」
「ぜひ、そうしてください」
ディーナはイノアの手を握ると激しくぶんぶんと振る。握手なはずだが、妙に振り回す結果となる。
イノアは困ったような顔はしているが、口元は微笑んでいる。全体的に信頼していくれているのだ。
「それに、何かあったら『ぽかり』で応急手当するの、おまかせなの」
イノアの手を離した後、ディーナはこぶしを振るう仕草をした。
「食べるの、食べつくすのー」
ディーナは笑顔で丘を登り、屋台に向かう。
近くにある七夕飾りのところで、短冊に願い事を書いていく。
「……鑑さんのお嫁さんになれますように」
イ寺鑑(kz0175)の名前を書いたとき、頬が赤かったかもしれない。そして、短冊を笹に飾り、店舗を回り始めた。
ルベーノ・バルバライン(ka6752)はイノアを丘の下で見つける。
「どうかしたのか?」
「あ、こんばんは」
イノアはどこかしおれている雰囲気がした。だから、ルベーノは挨拶をし直した後、再度どうしたのかと問う。
「いえ……ここには何度も来てはいます。ただ、日が落ちてからは初めてです……」
「そうか」
ルベーノはこの領と関わったとき、イノアの兄が歪虚となる経緯は調べていた。事件はこの丘にあった領主の屋敷に、夜にあったはずだ。
「ならば、一緒に行こう」
ルベーノはイノアの返答を待たずに、抱き上げると【縮地瞬動】と【縮地瞬動・虚空】を用いた。
「きゃああ」
「ははは」
イノアはしがみつく。
「空が近くはなる。しかし、落ちたりせぬから下を見てみろ」
ルベーノは促した。イノアは恐る恐る下を見る。
「これがお前のクリシス領、人々にぎわう地上の星だ。おまえが親から受け継ぎ、誰かと手を携え守り育てるお前の土地……善き領主にな」
イノアは黙って眼下を見る。
町の明かりがぽつりぽつりと浮かんでいる。川は暗く沈んでいるが、町の明かりも映り込み輝いているところもあった。
「そうですね」
しばらくルベーノはこのまま町を見下ろせるようにしていた。
眼下を見ていると、屋台のところに見覚えのあるハンターなどがいた。
そこにイノアを連れて降りる。
「ベリンガーの、お前の家はここと仲がいいのだろう?」
ルベーノの問いかけにリシャールはうなずく。突然の問いかけにリシャールもイノアも内心首を傾げている。
「イノア、領主の社交の練習だ。ハンターなら多少の無礼も気に戦でいい。お互いにこういう練習もよかろうよ」
ぽかーんとするイノアとリシャール。
そのイノアの手をリシャールの腕にポンと置き、呵々大笑して去った。行先は領主の屋敷だった。
「で、一体何の話なんだ?」
レイアの問いかけに二人は首を横に振る。
「……あ、すみません」
「あ、いえ」
イノアはリシャールから手をどける。どこか頬が赤い。
「……ん?」
シールが首を傾げる。
「まさかと思うけど、イノア様って、リシャールさんのこと?」
「違いますっ!」
シールのつぶやきをイノアが聞きつけ、バッサリと切り捨てる。
「……あ、いえ、そういう……なんというか……兄やらエリオット様やら思い出してしまいました」
「……え?」
兄はともかく微妙な話が出てきた。
レイアたちはリシャールとエリオット・ヴァレンタイン(kz0025)のつながりを模索する。
「黒髪かな……」
「黒髪ですね……」
レイアとライルたちがぽつりと言う。共通項は王国在中とそれくらいしかなかった。
「はい」
イノアは肯定した。
「イノア様、どうです? これから、僕たち、ご飯食べたり、お酒飲めたりするんですけど」
シールが何事もなかったかのように提案した。
「せっかくなら、一緒にどうだ?」
レイアの言葉に、イノアがついて行く。
残されたのはリシャールとライル。
「……リシャールさん……?」
「何か腑に落ちないのですが……」
「落ちなくて当たり前だと思いますけどねぇ……まあ、イノア様の話聞く分には、仕方がないのかなと」
笑いをこらえたライルはリシャールを連れて、先行した人たちと合流した。
トリプルJが丘にやってきたころ、屋台の回りはにぎわっていた。そこにあの三人組や見覚えのあるハンターや領主のイノアがいる。それに加えて、町の住民も集まっていた。
まず、すべきことをしておくため、短冊に願い事を書く。
「仲間と無事にリアルブルーに帰れるように」
空を見上げる。周りが明るくとも星は多く見える。
邪神との戦いが激化していた昨今、星をじっくり見る機会がなかったかもしれない。
「あそこに寄ってくか」
リシャールたちにはまた会うだろうといっていたし、話す機会があることは互いに良いことだった。
そして、飲み食いをしてしばらくとどまった。遅くならないうちに、リオのところに向かう。
●川
ハナは出店の準備が終わった後、領主の屋敷に寄り丘を経由して戻る。そこで七夕飾りに短冊をしたためる。
「シャンカラさんと結婚できますように」
シャンカラ(kz0226)のことを思いながら、お付き合いのいくつもの関門を吹き飛ばした内容だという自覚はあるが、短冊のだいご味だろう。
川に急いで戻ると本日のメニューを一通り持って、リオのところに向かった。社の側で輪っかを通る人を不思議そうに眺めたりしている。
「リオ様、お祭りありがとうございますぅ」
「なのー」
「ぜひ、お納めください」
お盆に乗った一通りを見て不思議そうな顔をする。そして、つまみやすい麻花兒を食べる。おいしかったようで目が丸くなっている。
「ここは物を冷やすのにいいんですよぅ。それに皆さんのお詣りも眺められますしぃ」
「なの?」
「茅の輪潜りも用意するなんてすごいですよねぇ……まあ、巨大リースぽさ全開ですけど」
それはそれで面白いだろう。
ハナは今のうちにくぐることにした。祓いの最中、心の中で祝詞も唱える。
ディーナはいろいろ食べながら、飲みながら移動していく。
エクラ教会の前を通ると、集まる人々から不安を感じる。ただ、教会から出た人たちはどこか穏やかな表情をしていた。
この祭り自体が、不安を少しでも消せるようにという思いの塊でもあるのだ。
社のところに到着すると、茅の輪ではなく、もみの木の輪であるがを通り、紙の人形に名前を書いて体を撫でた後、水に流すということもした。
川でお盆を脇に置き、のんびりと人を見つめるリオを見つける。時々、盆に乗っている物を食べている。
「リオ様、ありがとうなの」
「なのー? みーな、ありがとーなのー」
逆に礼を言われる。
「来年も、再来年もずっとみんなの笑顔を守りましょうなの」
「……うん」
リオはうなずいた。
ディーナはしばらくリオと話した後、帰るのだった。
川の側の涼し気な空気が、満腹と一緒に眠気も連れてきた。
●二人
ハンスと智里は丘まで到着して気づいたが、ここの領主、そこまで七夕に興味があった風ではないということに。
「妙にパンと焼き菓子はありましたね」
「特産というにしては特徴的ではないですけれど、種類は豊富でした」
興味が惹かれたものは買って二人で食べてみた。
小さな笹と短冊があるところに行く。
「詩天で生きる」
「詩天の人が幸せになりますように」
ハンスと智里はそれぞれ書いた。未来と今を見据えたものだった」
「そういえば、この世界にも天の川にあたる星はあるんでしょうか」
「どうなんでしょうか? 星はあるのはわかりますが」
智里とハンスは見上げた。
星はたくさんあった。
「本当……なぜ、この行事を選んだのでしょう。ミルヒ・シュトラーセ(天の川)が見えるわけでもないのに、同じ行事を行う。今回はリアルブルーからの輸入でしょうが」
「確かに……そんな感じですよね」
ハンスの分析を聞きながら、智里は相槌を打った。
「違う神の下で同じ進化する。収斂進化や平行進化を起草させて面白いと思いませんか?」
「えっと? サメとフグ、翼竜と取りでしたか? どうなんでしょう。同じ空間を占めているとはいいがたいような……」
「そうですか? まあ、色々考え方があるわけです。リアルブルーの人間が来て教えるということもあり得ますから」
「それに、ハンター同士で情報交換もありますし」
「一層複雑怪奇になるわけです」
ハンスは苦笑する。
「さて、つぎは川の方に行きましょう」
「リオ様にも挨拶したいですしね」
ハンスと智里が川に到着すると、リオが何やら食べている所だった。
先に茅の輪潜りや人形流しを体験する。
「おおっ! クリスマスですね……笹生えてませんしね……」
ハンスはなんとも言えない顔になった。
勢いは重要で、三度通ることはした。
人の形に切った紙に名前等を書いて、自分の体を撫で川に流すという人形流しについては、下で回収するとのこと。
「確かに……精霊流しも今は河口で回収しますね」
智里は妙に現代風なそれを見て感想が漏れた。
「いつも思いますけど、ハンスさんは私より行事に詳しいです。私はこの時期、茅の輪くぐりも流しびなもしたことなかったです」
「東方には興味がありますからね。やったことなくともおかしくはないでしょう。あまりやっていないのでしょうから」
ハンスは情報をいろいろ持っていた。
二人は社に向かう。そして、手を合わせた。リオは目の前にいるので、面白がって二人を見ている。
「楽しいひとときをありがとうございます。来年は東方の夏越の祓を各地で体験して、リオ様のところに報告に来ますよ」
「あるの?」
「ある、と思いますよ?」
実は確証がない。エトファリカは色々な文化がありそうだからないことはないだろう。
「行ってきます、リオ様」
「?」
「この地を守ってくださいね。でも、危なくなったらリオ様もきちんと逃げてください」
「あー、なの」
リオは理解してうなずく。少し寂しそうな顔をしている。
「私たち、邪神戦争が終わったら東方に引っ越しますけど……また必ず会いに来ますから」
「ええ、勝って戻ってきますとも」
智里とハンスは力強い笑顔で告げる。リオはそれに応じた。
手をつなぎ、オフィスに戻っていく二人を、リオは手を振って見送ったのだった。
●帰宅へ
マリィアはルゥルの寝顔を見て戻ってきた。
「街の手伝いをして疲れてすでに寝てるとは……」
それはそれで褒めてあげるべきなのだろう。珍しいものがあれば手紙をつけて贈ってもいい。
丘のある場所につくと、満天の星空。明かりも少ないため、瞬く星が良く見える。
「ま、仕方がないわね」
マリィアは短冊に願いを書く。
「ジェイミーと幸せになりたい」
戦いがどうなるのか、そして、未来がどうなるのかはわからない。だからこそ、苦難が合っても最良の未来のために願い、進むのだった。
「七夕由来の縁起物にぃ、夏におすすめドリンクいかがですかぁ」
ハナは川に涼みに来る人に声をかける。
花火があるとかそういう行事ではないため、自然と人がはけていく感じだった。
「明かりがあっても、星はたくさん見えるんですよねぇ」
町の明かりはあっても強くはない。人の波が途切れたところで、星を眺める。
お盆を戻しに来たリオに、ハナは礼を述べた。
トリプルJはハナのところから戻ってきたリオに声をかける。
「イベントの提案あんがとな」
「あんがとー?」
リオは首を傾げて疑問符を浮かべる。
「ありがとう、だ」
「いえいえー」
「来年もやれるといいなぁ」
「やれるーよ」
リオは力強く言う。
「そうだな、やれるな」
思いは重要だ。邪神との戦いが終わるにも、その先への思いがないと進めない。
「じゃ、またな!」
「またーな」
リオに見送られ、トリプルJは帰宅するのだった。
ルベーノはウィリアム・クリシスと話をした。酒とともに、これまでのこと、これからのこと。
「人生は続くのだから、色々あったというのもおかしいがね」
ウィリアムは苦笑する。
「いたし方あるまい。ニコラスがプエル(kz0127)になり、責をとり、隠居した……まだ、領主でもおかしくないのだから」
「……イノアを路頭に迷わすことにならず、ハンターたちには感謝している」
「……?」
「そこまで深刻な部分があったのだ。ハンターの助力、ここのエクラ教会の助力……様々な力があった。ひどい目には合わされた。しかし、良いことにも巡り合えた」
ウィリアムは笑う。
「そうか……ならいい。今後もイノアに助力すると誓おう」
「……ありがとう……心強い」
ルベーノの言葉に、ウィリアムはうなずいた。
丘ではレイアは領民と接するイノアを見ていた。
「本当に、恋愛というのが見えないなぁ」
リシャールとイノアは話をしているが、上下関係や友人関係は見えても、それ以上でもそれ以下でもない。
「そろそろ、遅いし……」
屋台の方が片付けに入っている。
「俺たちは帰ります。レイアさん、ありがとうございました」
ライルが礼を述べる。
「いや、別に……楽しかったからこちらこそな」
レイアは礼を返す。三人組とイノアがレイアに挨拶をして立ち去るのを見送った。
そしれ、レイアも帰宅の途につくのだった。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/08/12 10:13:37 |