【MN】赤龍軍vsデウス・エクス・マキナ

マスター:葉槻

シナリオ形態
イベント
難易度
難しい
オプション
  • duplication
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
無し
相談期間
7日
締切
2019/08/22 07:30
完成日
2019/10/15 14:37

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


『行け、ヒトの子よ。星を、大精霊を頼んだぞ』
 メイルストロムの咆吼に、全ての龍達が応え、大気が大きく震えた。
 そして龍の軍勢がデウスに向かって一斉に攻撃を再開する。

 ――そう。あの時。
 デウス・エクス・マキナの二つの部位を潰した時点でロッソが到着してしまい、時間切れとなり、後の戦闘は赤龍軍が引き受け、ハンター達は先へと急ぐ事となった。


 ……だから、これは夢なのだ。



「……何故、私はここにいる……!?」
 サヴィトゥール(kz0228)が忌々しげにメイルストロムを見上げ、顔を歪ませる。
 相棒である青のワイバーン、バルゴーの手綱を取り、襲いかかってくるフレイムリアクターを避けつつもきっちりと一撃を与え、戦況の把握に努める。
 おかしい。自分は龍園の留守を預かる身。それが、何故こんなところでバルゴーと共に闘っているのか。
 全く前後が思い出せない。だが、この状況は先日どこかで……そう、報告書で見たのだ。
「……夢か。そうで無ければ説明が付かん。貴様と共闘するなど悪夢以外の何物でもないが……っ!」
 メイルストロムに向かいレーザーを撃とうとしていたフレイムリアクターに氷の矢を見舞う。
「夢の中とはいえ、殺されるのはもちろんだが、貴様を見殺しにしたとあれば青龍様に申し訳が立たん」
『……青龍の神官か』
 メイルストロムもまた口からレーザーを放ち周囲のリアクターを塵へと化すと、ようやくサヴィトゥールを認識した。
『お前が傷付けば青龍が嘆くであろうな。我らの背に隠れておるがいい』
 その一言を聞いて、サヴィトゥールは鼻で嗤った。
「冗談も休み休み言え。赤龍なぞに庇われるなど龍園一の笑い者になるわ。……とっとと片付けてこの悪夢から覚めるのが最優先事項だ。抜かるなよ、赤龍!」
『貴様、メイルストロム様に何という口の利き方を……!!』
『良い、ザッハーク。……それより。覚醒者というのはどうにもお節介な者が多いようだな』
 遠方を見るメイルストロムに、牙をむきかけたザッハークはつられてそちらを見やる。
『……あの、馬鹿共……!』
 そう言うザッハークの声は少し、喜色を帯びていて。
 サヴィトゥールもまた後方から現れた光に眉間のしわを増やした。
 そして、彼らとハンター達との間にある何かを感じ、再度鼻を鳴らしたのだった。

リプレイ本文

●0
 それは光だった。
 無数の光。
 夜空に瞬く星のように小さく頼りない。
 だが、実際にはとんでもない熱量をはらんでいる。

 その光は徐々に近付いて来る。
 強い意思を持って。
 真っ直ぐに。
 流星の如く。

 それは光。

 それは、覚醒者たちだった。


●1
「ははっ。そうか! これは夢か! まいったな。こいつは、どうにも未練だよな!!」
 ペガサスの十束に騎乗したミィリア(ka2689)はイマイチ掴めない現状に目を瞬かせたが、横から聞こえてきた岩井崎 旭(ka0234)明るい笑い声に直ぐ様吹っ切れた。
「なんでかわかんないけど隊長も復活してるし、突撃りべんじ!」
 ワイバーンのロジャックと共に先へと飛び出した旭の背を追って、ミィリアも手綱を握り直し空を駆けた。

「またもや邪神戦か。ミグはクリピクロウズらの支援に回っておったはずじゃからこれは夢じゃな」
 と1人冷静かつ論理的に状況を看破したのはミグ・ロマイヤー(ka0665)。
「……なのに何故、お前なんじゃ……?」
 魔導ヘリであるバウ・キャリアーの操縦桿を握っている自分に首を傾げる。
 夢なら好き勝手出来て良さそうなもので、空中要塞的なダインスレイブの方がいいに決まっているのにと思いつつも、願っても祈っても現状が変わらないらしい事に気付いてミグは一つ息を吐いた。
「まぁ、お前の堅牢さを見せつけてやれ! 行くぞ!」
 操縦桿を倒す。パネルを撃ち込み目標をセットする。ミグは唇に弧を描き空を舞う。

「奇跡の続き……夢なれば……妾が引く道理は無いぞ?」
 ニィと赤い唇の端を持ち上げて蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)は笑んだ。
 前を飛ぶ飛龍に乗るのがサヴィトゥール(kz0228)と気付いてその笑みは更に深くなる。
 追いつき、追い越すその瞬間。
「サヴィも調子が良い様で何よりじゃ」
 蜜鈴の声にサヴィトゥールは眉間のしわを険しくすることで返事を返す。
 くつくつと声を立てて笑い、蜜鈴はそのままワイバーンの天禄と共にメイルストロムに向かって飛んでいった。
(堕ちる身を救えず滅ぼすしか出来なんだ龍よ。此度は……せめて夢の中では……おんし達の心を救いたい。共に護らせてくれるか? ヒトと、星を……おんし等の望む全てを)

「ザッハークさん、よろしくお願いしますね」
 ペガサスに騎乗したマリエル(ka0116)が微笑み、その横をワイバーンのシエルに乗ったリュー・グランフェスト(ka2419)すり抜けていく。
「頼む、一緒にやろうぜ」
 メイルストロムやザッハーク、マシュ・マロに親指を立て笑い、そして前を見る。
 進路を邪魔し、今にも爆ぜそうになっていたリアクターへと、エクスカリバーによる一撃を与えていった。

「こうやって赤龍達と一緒に飛べるのは、何だか感慨深いね」
 ワイバーンのカトゥールに騎乗した鞍馬 真(ka5819)は、途中のリアクターを無視してただ真っ直ぐにデウスへと向かって行く。
 

「おぉ!? マジか!? え? 何で!? 夢? マジか!? すげぇな、おい!!」
 グリフォンのキャリアーの上で気がついたシガレット=ウナギパイ(ka2884)は周囲を見て感嘆の声を上げ、次いで悲鳴を上げた。
「あァ、なんで涼風居ないんだァ!?」
 前方に見える敵は間違いなくデウス・エクス・マキナだ。
 それならポロウである涼風が一緒に居た方が断然有利な筈なのに。
 しかし、居ないものは仕方が無い。
 ここからではこのグリフォンの主が誰かは分からないが、空中戦となる以上、一緒に行動するしかないだろうと腹を括る。
 一方、その隣で目覚めたアーサー・ホーガン(ka0471)は無言のまま前方を睨む。
 どうやら赤龍軍が戦っているらしい事は分かった。
 自分の手持ちの装備を見て、どうやら短時間であれば空中戦に耐えられそうであることも分かった。
 その上で、どうにかして飛龍に乗れないか、それを思案し続けていた。
「……なんだか下から声が聞こえる……?」
 グリフォンの主であるユリアン・クレティエ(ka1664)はまさか無断乗車(?)が2人も居るとは思わず、首を傾げつつ前方を見る。
 巨大なデウスと、メイルストロムの姿を目にしてユリアンは小さく息を呑んだ。
「……ラファル、また、頼む。出来る事は少ないけどやれるだけやろう」
 そんなユリアンに近付くポロウと1人――ボルディア・コンフラムス(ka0796)。
 いや、ユリアンというより、ラファルに、いや、さらにその下。
「……お前らそんなところで何してんだ?」
 呆れたようにボルディアに声を掛けられ、シガレットとアーサーは顔を見合わせて肩を竦めた。
「誰かいるんですか?」
 ユリアンに問われ、ボルディアは顔を上げた。
「あぁ。アーサーとシガレットだ」
「……何でまた」
 困惑したように問うユリアンに、ボルディアは「気がついたら此処に居たらしい」と伝言を伝える。
「とはいえ、空飛べる奴がなきゃ、落ちて死ぬだけだしな……まぁ、お前らここでやるしかねぇんじゃね?」
 容赦無いボルディアの言葉に、デスヨネーと嘆息するシガレット。
「どうしたんです? 何か相談事ですか?」
 そんな集団を見て寄ってきたのはユリアンと同じくグリフォンのアストラに騎乗したグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)だった。
 アーサーとシガレットの現状を聞いて、「なるほど」と頷いたグリムバルドは赤龍軍の飛龍へと目を向ける。
「……ダメ元で聞いてみるか……ちょっと待っててください」
 グリムバルドはアストラの手綱を取ると一足飛びに赤龍軍の中へと向かって行った。

 前回……というか、あの時。王がいる、という予感はあった。
 だが、まさか他の竜達までいるとは思わなかった。
 そして今回。夢だろうということは分かっている。
 だが、夢ならば。
 繋がっているようで繋がっていない、過去の夢の延長戦にあるのならば。
 その一縷の望みに賭けて、グリムバルドは赤龍軍へと飛ぶ。
 胸の辺りが熱い。
 思わず手をやり、その質感に驚いて目をやる。
 以前、夢の中で貰った燃える様な王龍の鱗が胸元で輝いていた。
「ワティ! メティ!! 居たら力を貸して欲しい!!」
 叫び、名を呼ぶ。暫くすると二つの羽音がグリムバルドへと近寄ってきた。
『我が名を呼ぶか』
『逢った覚えはない。が、王の鱗を持つ人間か。珍しい』
 二頭の飛龍は値踏みするようにグリムバルドを見る。
「あぁ、ずっと昔、昔、ここじゃないところで逢ったんだ。助けてもらった。あの時は有り難うございました」
 懐かしい二頭の声に、グリムバルドは万感の思いを込めながら頭を下げた。
「頼みがあるんだ。人を乗せて貰えないだろうか」
 青龍の飛龍達と違い、赤龍の飛龍は人と共に共闘したことは正式な歴史上恐らく無い。だが――
『王の鱗を持つ者の願いならば』
『然り。が、乗りこなせるかは知らぬぞ』
「あぁ! そこはワティとメティを信じてる」
 そう笑うグリムバルドを見て、二頭の飛龍は顔を見合わせ首を傾げた。

 飛龍を二頭連れてグリムバルドが戻ってくると、アーサーとシガレットは早速飛龍の背に乗った。
 鞍もなければ手綱もない。王の鱗を持たない2人は飛龍達との直接のやり取りも出来ない。ないないづくしではあるが、幸いなことは飛龍達は人間の言葉をある程度は理解出来るという点だろう。
「サンキューなァ! んで、メティだっけ? よろしくな、相棒」
「頼む、ワティ」
 シガレットとアーサーの声に応えるようにそれぞれの飛龍が鳴き、そして羽ばたく。
 しかし、その不安定さに2人は咄嗟に身を屈める。
「最初は無理しない方がいいです。赤龍の飛龍は人を乗せる事になれていないので」
「えぇっと……少し慣れるまでこの辺りを飛んでみたらどうかな?」
 グリムバルドとユリアンの言葉に、シガレットとアーサーは顔を見合わせて頷いた。
「お疲れさん」
 そうグリムバルドを労ったボルディアは次の瞬間、獰猛な笑みを浮かべる。
「んじゃあ、行くぜ!」
 ボルディアの声にそれぞれ呼応し、そして飛び立った。


●5
「リアクターが来るよ!」
 何度目かの交戦。
 最前線に躍り出た真の声に全員が距離を取り始める。
 三つ首は奇妙な動きをしながら消え、次いで皮膚の下から突き破るようにしてフレイムリアクターが現れ始める。
 流石に腕が届くような場所からは全員が退避していたが、代わりにメギドフレイムが放たれ、翼を焼かれた飛龍が地へと堕ちていく。
「私は本体を狙う!」
 真はカートゥルの急加速に合わせ、蒼い炎を纏わせたカオスウィースを構えると刺突と共に放出する。蒼い炎は花弁のように周囲に舞い踊り、そして一直線上にある全てを、デウスの巨体を焼き払い、穿つ。
 その様子を楽しげに見ていた蜜鈴もまた、呪を唱える。
「『広がる枝葉、囲むは小さき世界、大地に跪き、己が手にした罪を識れ。』」
 荘厳――グラビティフォールそのものは直径7スクエアまで範囲があり、その範囲内にいた全ての物を圧壊させてしまう。
 ゆえに、周囲に人や龍が居ないことがこの呪の発動条件でもある。
 なるべく多くのリアクターを巻き込めるようにと狙いを定めるが、そも、30スクエア四方ほどの巨体であるデウスの表皮から現れるため、巻き込めたのは数体に留まった。
 一方で球状に広がるグラビティフォールはむしろ本体へとダメージを叩き込んだのだった。
 方々に散らばったリアクター達は竜達の方へ、そして覚醒者達の方へと一直線に向かってくる。
 そのリアクター達はデウスの灼熱地獄により真っ直ぐに吹き飛ばされてくる。
 赤龍達と覚醒者達はそれを撃ち返すかのように攻撃を繰り出す。

 「ミグ回路」とミグ自身は総称して止まないが、その実内容は違う。そも名付けたその後ろには「カートリッジフェアリー」、「リィンカネーションフェアリー」など素となった技よりも長い名称が付いていたりする。
 だが、戦場でいちいちそんな名前を読み上げたりはしないし、そも、ミグだけが分かれば良いのだから、結局総称である「ミグ回路」で事が足りる。
 その回路はいずれも極限まで手を入れてあり、まさに人機一体とする術に他ならない。
 じつは少し前まで「魔導ヘリは火力が微妙なんで単騎運用は好きじゃないんじゃがなぁ」とか「なんか味方が少なすぎね? あの戦もっとおったじゃろ、あ、夢か、まじかー!?」と頭を抱えていたりしたのだが、それはそれ、と開き直るのも早かった。
「もともと負け戦は戦の花道、展開に不足なし。さすが夢じゃな!」
 ミグ回路と連結したプラズマスフィアを展開し、リアクターのビーム攻撃を無効化。さらにリズミカルにパネルを叩き、プラズマランチャーをぶっ放す。
「何度でも殺しつくしてくれようぞ」
 三日月のように細められたその視線の先では近付こうとしていたリアクターが爆発四散していた。

 周囲を見渡す。これだけの赤龍達がいるのだから、もう一頭、自分の知る強欲竜が居ないかとユリアンは周囲を見るが、その姿を目に捉えることは未だ出来ていない。
「ラファル、行こう」
 ユリアンの指示を明確に受け取ったラファルは眼前のリアクターへと迫り、ユリアンが真星を振り下ろすと同時にアルテウォラーレで斬り付けていく。
 グリムバルドはフロックスを構え、符を高らかに投げた。そこから発生した稲妻が複数のリアクターを貫いた。
「俺の周りに控えろ!!」
 ボルディアの鋭い叫びと同時にポロウがホーゥと鳴いた。放たれたはずのメギドは霧散し消え、被害は出ずに終わった。

「よし、反撃だ!」
 リューの声にマリエルが頷き、共に闘うザッハークを見る。
 ――少し、前の事だ。
『そんなに信用ならないか』
 何故、戻ってきたのだと恨めしそうな目で見られてマリエルは首を横に振った。
「勿論ザッハークさん達を疑うつもりはありません。その強さは私達が一番良く知っているのですから。でも、私達がいた方が確実です」
 その言葉に、ザッハークが鼻を鳴らした。
「それに……私が皆さんと一緒にいたいんです」
 その言葉に、ザッハークは再度鼻を鳴らした。
『……好きにしろ』
 ――そんなやり取りをして、それからザッハークは言葉をかけてこなくなった。
 怒っているのだろうか、と最初こそ気に病んだものの、そうでは無いと気付く。
 光の翼はマリエル達を護るように広げられ、マリエルの支援が届く範囲から攻撃をしようとする姿勢が見て取れて、マリエルは歓びに笑む。
「マリエル!!」
「はい!」
 リューの声にマリエルは即時に対応してペガサスに願う。ペガサスは嘶き、その嘶きは周囲の味方の行動の精度を上昇させる。
 その恩恵を受けたリューはマルドゥックを高く掲げ、大精霊が司る「勇気」の力を解放し、さらに周囲の味方に加護を与える。
『……見事な技だな』
 ザッハークの呟きに、マリエルは「はい」と笑顔で応えた。

『どうした? 迷ったか?』
 メイルストロムの含みのある言い方に、旭はカラリと笑って応える。
「わりぃな、わりぃな、戻ってきちまった! 知らなかったのか? 俺はお節介な上に方向音痴なんだ」
「迷子ついでにみんな揃っての大勝利! 掴むでござるよー!」
 ミィリアの明るい声に、メイルストロムはその瞳の色を和らげたように旭には見えた。
「戦果の大半は追撃から生まれる。明日っつー、最高の勝ちは得た。なら。ここで心の報酬を、強欲に勝ち取ることにするか!!」
「あいよ、たいちょー!」
 旭がスローターを掲げれば、周囲から恐怖や不安といった感情が鎮まり、前へと進む勇気がが湧く。
 その力を得たミィリアが十束を駆り、メイルストロムのブレスを受けてなおまだ消えないリアクターへと刺突を叩き込んだ。

 赤龍の飛龍に乗ったアーサーとシガレットは最初こそそのバランス取りに苦労したものの、コツさえ掴み、飛龍との呼吸を合わせる事を知れば無茶な回転などしなければ十分戦える程度には乗りこなせるようになっていた。
「よォ、アーサー、そっちはどうだい?」
「問題ない、行ける」
 そう言いつつも明らかに自分より早くコツを掴んだようなシガレットを見て、アーサーは密かに臍を噛む。
「んじゃァ、遅れた分、取り返しにいきますかねェ!」
 シガレットの言葉に呼応するようにメティが力強く羽ばたく。
 それに負けじとアーサーもまたワティにその後を追うよう指示を出した。


●11
「ようやく追いついた」
 シガレットがボルディアの名を呼べば、リアクターを叩き斬ったボルディアが呵々と笑った。
「よぉ、飛べるようになったかよ」
 ボルディアの声に、アーサーとシガレットはサムズアップで応える。
「うん、よかった」
 先行する際には不安気に2人を見ていたユリアンも、安堵したように微笑む。
「現状は?」
「こっちは何とかリアクター対処は出来てますが、肝心の本体へのダメージが足りない……といったところです」
 シガレットの問いにグリムバルドが口惜しそうに前を睨み……そして「あぁ、ネフェルティだ」と呟いた。
「ネフェルティ……?」
 グリムバルドの示した先。
 腐竜との激戦を終えた、あのとき見た光と同じ赤銅色の鱗を持つ龍が戦っていた。
「それが本来の姿か……その姿、目覚めた後も覚えておきてぇな」
 呟き零れた言葉は、恐らく彼女には届いていない。
「あんな有り様だったんだ、覚えてやしねぇだろうな」
 アーサーはそっとドラゴンクレストの飾りへと手を伸ばしひと撫ですると、飛龍を駆ってネフェルティの前へと躍り出た。
「よぉ、久しぶり」
 一方的な再会の挨拶に、ネフェルティはまなじりを決したのち、すぐにその目を伏せた。
『私を討ったものですか』
「わかるのか?」
『疵痕の臭いで』
「すごいな」
 そういえば、マシュとマロにも初めて会った時に“おばちゃんの臭いがする”と言われた事を思い出した。
 しかし、腐竜を討った後、その傷口は始めからなかったように快癒したというのに分かるというのか。
 アーサーの後を追ってやってきた4人を見て、ネフェルティは叩頭した。
『その節は愚かな私の蛮行を止めていただき、有り難うございました』
 あぁ、とユリアンは周りを見回して思い出す。
 そういえば、此処に居る5人、そして今は前衛に近い所で戦っている蜜鈴は腐竜討伐に関わった者だと。
「……なんだよ、お前、元々はそんなキレーな体してたのか。ったくもったいねぇ」
 ボルディアは珍しく目を丸くしてネフェルティを見ていたが、うん、と一つ頷くと破顔した。
「なんだか知らねぇがお前と肩を並べて戦えるなんざ夢みてぇだな! 存分に暴れるとしようぜ!」
 ボルディアの言葉にネフェルティは静かに頷き返し、そして一同はデウスへと視線を移した。

 ミグの張った弾幕が一瞬にしてリアクターの視界を奪う。
 その間に狙われていた飛龍が体勢を整え反撃に向かう。
 時に退きながらもほぼ前に出続けていた真は肩で息をしていた。
「「がんばれ!」」
 マシュ・マロから届く癒しの力が真の傷を癒やしていく。
「……場所が悪いの」
 唱えかけた詠唱を中断し、代わりに天禄に移動を命じる。
 リアクター達が、そしてデウスが、射線上に必ず龍がいるように立ち回り始めていた。
 そして、一気に距離を詰めてくると灼熱地獄、またはウィルスバーストで襲いかかってくる。

「このままじゃジリ貧だな。どうする?」
 望みの白雨を振り注がせ、荒い呼吸を零したリューが旭に問う。
 この場にいる覚醒者は12人。飛龍はまだ50以上は居るだろうが、その数は徐々にメギドフレイムによって削らされていた。
 メイルストロムとザッハークは文句なしに強いが、エジュダハは中の上。マシュ・マロとネフェルティは攻撃出来ない訳では無いが一撃がさほど強くない。そのほかにもネームドであろう龍はいれど、リアクターに手間取っているのが現状だ。
 そして意外なことに、削っても削ってもあちらこちらから生えてくる羽でデウス自身も良く動く。
 結果、仲間を巻きこむような大技を出しづらくなっている現状があった。
「一か八か賭けるか」
「何か、同じ事考えてそうな気がするな」
 旭が苦笑して零れる汗を拭った。
『ほぅ? 何だ、悪企みか?』
 ザッハークが面白そうだと首を突っ込む。
「メイルストロム、協力してもらえるか?」
 リューが問えばブレスを吐き終えたメイルストロムが『聞こう』と頷く。

「……なるほど。案は分かった。私は大丈夫だよ、合わせよう」
 真がヘッドセット越しに聞こえる声に頷き返す。
「妾も異論はないぞ。サヴィ殿も了承済みじゃ」
 蜜鈴がサヴィトゥールを見て、彼が頷き返すのを見て微笑み返す。
「あぁ、了解じゃ。では存分に花火を打ち上げよう」
 ミグが楽しそうに応え、またスマートフォン越しに会話を聞いていたボルディアが犬歯を見せて笑う。
「さぁ、ここからだ」


●16
「ウィルスバースト!!」
 黒いカビのような煙がメイルストロムを中心に広がり、瞬時に周囲にいた覚醒者や龍達を飲み込んでいく。
「十束!」
「こちらへ!」
「大丈夫かァ!?」
『癒やします』
「「任せろー!」」
 四方に散り、広範囲の状態回復術を持った十束とマリエル、シガレット。ネフェルティとマシュ・マロがウィルスに喘ぐ仲間達を癒やしていく。
「メグ!!」
「全く、待たせおって!」
 旭の声に呼応したメグは三つ首の本体に向かって下方からプラズマランチャーを撃ち込む。
「『猛る光、静かなる嵐、苛烈な静寂…最期の光をその魂に刻め、誰そ彼の想いに触れる吐息すら無く』」
 次いで撃ち込まれるのは蜜鈴の練り上げられた紫電の大魔法、グングニル。その暴風に飲まれたものは回避すら取る事が難しくなる。
 間髪入れず、同じく練り上げられた雷撃がサヴィトゥールから放たれる。
 グリムバルドの風雷陣が三つ首それぞれと体部を焼き、人馬一体となったユリアンとラファルが同時攻撃を仕掛け、赤龍軍の一斉ブレスが三つ首を焼く。
「まだ落ちないとは……恐れ入るよ」
 カートゥルの急下降中、真は蒼い炎を纏わせた魔法剣を向かって1番右側の首目がけて突き入れた。
 鈍い手応えと共についに一つの首が飛ぶ。
 真と入れ替わりに今度は下からリューが剣を構えていた。
 エクスカリバーを掲げ、その力を解放する。
「騎士王の剣よ! 権能を示せ! 共に戦い、勝つ為に!!」
 傷を癒やし、周囲の仲間やユニットの近接威力が書き換わっていく。
「我が最強を以って、倒す!!」
 刀身に宿ったマテリアルが陽炎の如く立ち上り、人としての意地を貫く一撃を解き放つ。
 難しい角度からの一撃だったが、リューは見事に真が貫いたのとは反対側の首を突き穿ち、そして切断した。
「おー! リュー、ナイスアタックー! これは助太刀せんとでござる!」
 実は密かに5年間練習を積み上げてきていた大弓を手に取る。
(……いやだって、弓っておサムライさんの基本武装って聞いたしね)
(…………あ、あんまり成果が出なかったのは内緒だけど……っ)
 生体マテリアルを吼天に注ぎながら、ミィリアは誰にともなく言い訳をして。
「くらえ、貫徹の矢! でござるっ!!」
 引き絞り、手放した矢は見事、首の根元へと突き刺さった。
「わ、わー! 当たったー!! 筋肉バンザーイ!」
 ミィリアは1人この5年の努力が実った事に感激したのだった。
 その間、ボルディアは祖霊と対峙していた。
「『禍狗』……『猛紅狗天焔』」
 ――闘イ狂エ! 命尽キルマデ!
 ――燃エ尽キロ。
 暴れる祖霊を己が裡に取り込んだその身体をポロウが三つ首の前まで運ぶ。
「烽火、連天っ!!!!」
 ボルディアの全身が身に纏うマテリアルの奔流に逆巻く赤い髪は炎のように揺れ、その身体は一回り、いや二回り大きく見える。
 その肉体から放たれる大回転による連撃。
 ――それでもなお、中央の首はちぎれない。
「そう来なくっちゃなぁ」
 アーサーの口角が歓びに持ち上がる。瞬きの間に倒しきれなかったと分かったボルディアがポロウごと空中へと飛んだ。その刹那にアーサーの刺突とともに勢い良く繰り出されるオーラが、美しい赤銅色の龍の姿を取って一直線に駆け抜ける。
「実物を見た後なら、再現度も上がるってもんだぜ」
 三つ首の最後の首が、飛んだ。

『オオオオオオオオオオオオオオ………』

 悲鳴とも地響きとも取れる“音”がデウスから漏れ、「病んだ三つ首」が消えていく。

「よぉっし!!」
 それでも仕留められなかった時に備えていた旭が思わずガッツポーズで皆の健闘を讃える。

「全く、無茶をしよる」
「アレの巻き添えを食うよりはマシだろ?」
 アーサーの刺突を避けるために空中へと舞ったボルディアとポロウは飛龍にそれぞれ回収され、ミグのヘリへと移された。
「付き合わせて悪かったな」
 ボルディアは怯えたポロウをしっかりと抱いて宥めてやった。

 そう、ここは空の上だ。
 地面は無く。翼やジェットが無ければ墜落してオサラバだ。
 だが、逆に言えば、足元すらない。上下左右360度、身を隠せる場所がない。
 ならば、それを利用する。
 四方八方からの攻撃。
 それを仕掛けられるのは、邪魔なリアクターの居ない、三つ首の時だけだった。

『オオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!!!!』

 デウスの咆吼が響く。
 その音は、怨嗟の声とも恐怖に怯える声とも聞こえた。

「さあ、もうひと踏ん張りだ!」
 もうここからは「爆ぜ猛るもの」のみ。


●19
 アーサーの制圧射撃の弾幕がリアクターを足止めし、墜落させていく。
「ほー、上手いもんじゃのー」
 モニター越しにそれを見ていたミグは感嘆の声を上げるが「じゃが、わしはやっぱり撃ち落とす方がいいのう」と独りごちながら、ランチャーを発射する。

「っち。もうちょっと密集してくれりゃぁな」
「何にしろ本体がデカすぎるからのぅ。しかも見苦しい」
 舌打ちしたアーサーの横で蜜鈴がうんざりした口調で愚痴れば、「違いない」とアーサーも同意してみせる。

「ただ、本体がデカいということは的もデカいということだ。悪い事じゃない……だろ?」
 メギドの直撃を受けた真にリザレクションを施しながらシガレットが、前に立ちリアクターに対応しているボルディアに告げる。
「あぁ。だが、遠くからチマチマ撃っててもそれこそラチがあかねぇ」

「一般的に眷属を生成する場合、その多くは己の生命力を消費する」
 氷の矢を放ちながら紡がれたサヴィトゥールの言葉の意味を取りあぐねてユリアンは目を瞬かせた。
「一度に20体。体力を数値化してみた場合、明らかに我々より体力があるのを見て、私を500とした場合、リアクターはまぁ、1000としよう。すると1回につき20000の消費ということになる」
「……もうデウスは回復手段がない……つまり、デウスの総HPからすれば微々たるモノかも知れない。けど、確実に毒に蝕まれているかの如く、体力は削られている……?」
 ユリアンの言葉にサヴィトゥールは頷きで応える。

「かといってこのまま消耗戦になるのはあまり得策じゃない。それこそこっちのスキルがなくなる」
 グリムバルドがエナジーショットをアストラに撃ち込む。
「回復手段が限られているのはこっちも一緒だ」

「さっきみたいにレッツゴー! する?」
 ミィリアが斬り付けたリアクターを逃すまいと旭が追い、背後から斬り付け……それでもなお打ち出される反撃のビームを旭とミィリアは紙一重で避けた。
「そうしたいのは山々だけど、リアクターを引き付けるか全滅させた直後とかじゃないと、みんなが危ない」
 ミィリアの提案に旭が苦く笑う。

「何とか被害が少なく道が作れる方法を探さないと……」
 逃げて流れてきたリアクターに止めをさしたリューの言葉にマリエルも深く頷き、ザッハークの傷を癒やす。

『ならば、我らが道を作ろう』
 メイルストロムの言葉にそれぞれが、それぞれの場所からメイルストロムを見た。
『あの爆発のような炎が出た直後、そこが好機であろう』

「でも、あの炎を浴びた後にメギドが来たら……」
 旭は首を横に振る。
 事実、真は灼熱地獄を浴びた直後のメギドによって生死の境を彷徨う結果になったのだ。なお、カートゥルは間に合わずそのまま地上へと消えていってしまった。

『見くびって貰っては困る。私は赤の王龍。星の守護者の一柱として存在し、そして強欲竜の王』
 メイルストロムの言葉に全員が息を呑んだ。

『お伴します』
「ザッハークさん!」
 真を貫いたメギドはザッハークの横腹をも同時に抉っていったのだ。幸いにしてフルリカバリーで回復出来る程度ではあったが。

『では私たちは二方向からリアクター達の……出来れば本体の注意を引けるよう立ち回りましょう』
「「りょーかーい」」
『んじゃぁ、僕がもう一方を受け持つよ』
「「ひとりでだいじょうぶ? エジュダハ」」
『お前達に心配されたくないね! お前達こそしっかりやれよ?』

「待って、待っておくれ」
 思わず引き留めようと声を掛けた蜜鈴にアーサーが首を横に振る。
「代案があるのか?」
 その言葉に蜜鈴は唇を噛んだ。その様子を見て、アーサーは小さく息を吐くと、スマートフォン越しに「真は目が覚めたか?」と問うた。

「……あぁ、酷い頭痛がするけど……大丈夫、戦えるよ」
「無理はするもんじゃないぜェ。無理矢理蘇生したようなもんなんだから、しんどくって当たり前、ってな」

「真。お前何があと何回出来る?」

「……刺突一閃があと2回」

「よし。俺が乗せて貰っていた赤の飛龍にお前が乗せて貰え。俺は制圧射撃が出来ればいい……ユリアン、もう一度乗せて貰ってもいいだろうか?」

「え? あぁもちろん。……ラファル、お願いするね」

「……作戦開始は今居るリアクターの対処が終わって、次のリアクターが出てきたら、でいいか?」
 旭の緊張をはらんだ固い声が響いた。

「あぁ」「了解」「良いぜェ」「分かった」「はい」
 一斉にそれぞれが同意を示す言葉を口にして、動き始めた。


●22
 メギドフレイムとは、長距離高出力レーザー攻撃だ。横幅5スクエアを埋める一直線範囲攻撃。射程は果てしなく長い。この攻撃は障害物を無視するため、魔法そのものを止める以外の方法(射線の妨害、障害物の設置など)では防げない。
 また、フレイムリアクターも厄介な敵であった。
 何しろ3ラウンドが経過すると自爆する。どうやらそのダメージは残り生命力に左右されているらしいと分かってきた。とはいえ、火属性攻撃を自分中心半径5スクエア内の全員という決して小さくない攻撃だ。それを防ぐにはその前に倒す必要があった。
 そして、灼熱地獄。
 毎ターン終了時に自分と隣接する5スクエア以内に存在しているすべてのキャラクターを、真っすぐ遠ざかるように10スクエア移動させる。
 それだけなら良かったのだが、この攻撃で移動させられた次のターン中、全身の防御点はすべて半減してしまう。そこにメギドが来ればひとたまりもないし、それ以外の攻撃だったとしても深手を負いかねない。
 近寄らず、遠距離からの攻撃で倒せるならそれでも良かった。
 しかし、この人数では3ターンかけてようやくリアクターを倒すのがやっとであり、リアクターにスキルを割いてしまえば本体に割くスキルが減るのは目に見えて分かる事だった。
 相手が別れた直後のデウスだと分かった時点で、「爆ぜ猛るもの」と「病んだ三つ首」、どちらから倒すのかさえハッキリ定めておけば、短期決戦を望めたかも知れなかった。
 一方。だからといって定められなかったというその判断もまた間違いではないのだ。
 そしてその結果が、この先にある。


 デウスの表皮が粟立つように動き、そして、表皮を突き破るようにしてリアクター達が生まれ出てくる。
『では始めよう』
 歩みを進めるメイルストロムの巨大な全身を光の鎧が覆う。
 それと同様にザッハークも全身を光の鎧で覆った。
 このメイルストロムとザッハークの居る場所を0時とするならば、8時と4時の地点にもまた強欲竜が立っていた。
 8時の方向には腐竜として覚醒者達を追い詰めたが、元は王の間、門番として側近の1人だったネフェルティ。そしてあの最後の日に生まれ落ちたため、始めから強欲竜としての記憶しかなかったマシュ・マロ。
 4時の方向には生来の仲間思いの優しい性格が強欲竜となったった後も消えず、その為に板挟みに遭ったエジュダハ。
 また彼らを補佐するように広く円状に展開する飛龍達。
 現れたリアクターを飛龍達がブレスで焼き払い、ネフェルティ、マシュ・マロ、エジュダハもリアクターを相手取り戦うのは今まで通り。
 しかし、メイルストロムとザッハークは攻撃せず、その場に二頭、佇み続ける。
 そんな二頭を見て、デウスの無数の羽根が蠢くと一気にメイルストロムとザッハークとの距離を縮める。そして、熱波を自分中心に爆発させる。
 その衝撃に後方で控えていた覚醒者達は思わず手や盾を構えるが、衝撃が治まった後には何一つとして変わらないメイルストロムとザッハークの後ろ姿があった。
 次いで、デウスはメギドフレイムをメイルストロムに向けて放った。
 恐ろしい熱量がメイルストロムに向かうが、その熱量は全てメイルストロムの光の鎧の前で集束し、霧散する。
『ヒトの子よ、今こそ、終焉の矢を射て』
 その声に、驚愕に止まっていた覚醒者達は我を取り戻すと一斉に「爆ぜ猛るもの」本体へと文字通り飛び掛かった。

「アストラ、頼む!」
 一気に加速したアストラの背の上で、グリムバルドが符を構える。
「貫けぇっ!!」
 符は3筋の稲妻と化し、その巨体を穿つ。
 それとほぼ同時に蜜鈴もまた詠唱を用いて練り上げたマテリアルが天禄の頭上に渦を成していた。
「『彼方目指す蔓……編むは階……頂の光のその先へ……』」
 蜜鈴は真っ直ぐにデウスの中心を見る。
 最も長い距離を。
 確実にダメージが与えられる場所を。
「『猛る光、静かなる嵐、苛烈な静寂…最期の光をその魂に刻め、誰そ彼の想いに触れる吐息すら無く』」
 放たれた雷は意思を持った蛇のように超高速に、しかし迷い無くデウスを貫通し、そしてその先で浮いていたリアクターも貫いて行き、そして消えた。
 次いでサヴィトゥールの練り上げられた氷の杭がデウスの中央に刺さり、ミグのプラズマランチャーが炸裂する。
「……なぁるほど、だから飛龍達も王の傍には来なかったってことかぁ!」
 ほっほーぅ、なんて感心しながらミグは次の手に備えパネルを叩く。
 あそこに立ち続ける王龍は格好の的だろう。
 だが、その攻撃全てが光の鎧によって弾かれている。いや、消えたように見えた。
 あれは何だろうか、噂に聞く「ラストテリトリー」と似たような物なのだろうか。
「アーサーさん、行きます! さぁ行くよ、ラファル!」
 ユリアンとラファルは再び人馬一体となり、風の結界を展開すると一気にデウスへと距離を縮めていく。
 アーサーは進行上邪魔なリアクターに制圧射撃を行い道を拓く。
 ラファルとユリアンの同時攻撃は双つの月の如き軌跡を残した。
 真、ボルディア、そして旭とミィリアはシガレットの不退の祈りを受け、そして飛び出した。
「……今度はお前が決めてくれよ、旭……!」
 見送るリューは周囲の状況に目を配り、不測の事態が起きたときにいつでも何処へでも飛び出せるよう身構える。
(カートゥルが護ってくれたこの命、お前を討つ為に燃やし尽くす!)
 まずは赤の飛龍――ワティに乗った真の刺突一閃がデウスを貫く。次いでボルディアは先ほどと同様に祖霊を己が裡に呼び出し、そして振り上げるのは星神器のペルナクスではなく、ずっと共に闘ってきた相棒とも呼べる魔斧「モレク」。
「『禍狗』……『猛紅狗天焔』! 喰らえェッ!!」
 叩き付ける暴力が暴虐の炎となりデウスを抉る。
 そして再び自ら蹴り出すと下で待つ飛龍へと、今度は事前に打ち合わせた予定通り飛び下りることに成功した。

 旭は不思議な程凪いだ心で魔槍の柄を握り構えた。
 正義のマテリアルを光に変え解き放つと、静かに双眸を開いた。
 ボルディアが離れた事で、飛龍達の一斉攻撃が本体へと向かっている。
「なぁ、ザッハーク。頼まれた明日の話しだけどな。そりゃもう、バッチリだ」
 負ける気など一切なかった。
 どうするのが最善手なのか、それを掴むまで時間がかかったけれど。
 この戦いに負ける気なんて、誰もミジンコほども抱いて無かった。
 ――そう、俺は信じてる。だって――
「当たり前じゃねーか」
 夢かも知れない。きっと夢なんだろう。『誰か』が見せてくれた最後の夢だ。
 全身に「救恤」の力を巡らせる。
「俺たちが、勝ったんだぜ!」
 愚直に、真っ直ぐに。正々堂々と正面切って、旭は振り上げたスローターを振り下ろすと、そこから目にも留まらぬ連撃を撃ち込み始めた。

「いい! もう大丈夫だ、旭!! またぶっ倒れてぇのか!?」
 そんな制止の声と両腕を抑えられ、旭は我を取り戻す。
「もう崩れ始めてるでござる! 大丈夫だよ、隊長」
 左の腕にはミィリアがぶら下がって、右の腕はリューが魔槍ごと抑え込んでいた。
 見れば、デウスはもう“音”を漏らすこともなく、塵へと還っていっていた。
 それを見た旭は全ての血が抜かれた様に、腕と足と言わず、全身が重くなりロジャックの上に両膝を付いた。



●-
『ご苦労だったな、リュー、アサヒ』
「ザッハークさん……ザッハークさんも、お疲れ様でした」
 傍に来たザッハークにマリエルは微笑む。
『……お前は、何という名だったか?』
「私、ですか? 私はマリエルです」
 聞いて、ザッハークは口の中で何かモゴモゴと唱えた後、咳払いなんかしてマリエルを見た。
『お前の癒しの力に今回も助けられた。……感謝する、マリエル』
 名を呼ばれ、マリエルは大きな目をこれ以上なく見開くと、春の花が咲いたように綻ばせた。
『あーぁ、ザッハーク様はお堅いんだから……「感謝する」じゃなくて、こういう時は「有り難う」って言うんですよ』
 やれやれ、と言わんばかりのエジュダハに、ザッハークは朱色の鱗を赤に染めて吼えた。
『わぁ!? 八つ当たりですかっ!? 辞めて下さいよ、大人げない!!』
 バッサバッサと羽音を立ててあっという間に二頭は駆って行ってしまった。
 そんな二頭を見て、リューとアサヒ、マリエルとミィリアは肩を揺すって笑う。
『……今回は、気を失わずに済んだか?』
「何とかギリギリ?」
「今気力だけで立ってまーす」
 リューとアサヒの顔を見て、メイルストロムは満足そうに頷いた。

 デウス本体の消滅と共にリアクター達も塵となって消えていくのを見つめ、真は深い息を吐いた。
「……終わった、ね」
「……あぁ、これで一つ心残りがなくなった」
 真とユリアンは顔を見合わせると拳と拳を軽く合わせた。

「マシュ・マロ、怪我はないか?」
 グリムバルドが声を掛ければ白い鱗の巨龍はふいっと顔を背ける。
「「大丈夫。あたしたちを舐めんなでち」」
「……でち?」
「「あっ……ちが、違うんっ、だからっ、もうでちとか言わないんでち。……ぎゃーっ!!」」
 大きな躯でわちゃわちゃと暴れている白龍を見て、グリムバルドは思わず声を上げて笑った。

「今度こそ最後まで、おんし等と戦えて……護ることが出来て、嬉しかった」
 そう笑む蜜鈴にネフェルティは目を伏せることで同意を示す。
「絶対ゴリゴリの武闘派だと思ってた相手が、まさかのこのキレー系……歪虚なんてなるもんじゃねえな」
 ボルディアの言い様に蜜鈴は眉間にしわを寄せたが、「でも、ホントのお前が見られて良かったぜ……えぇっと、ネ……ネッフィー!」
「いろんな意味でNGではないかのぅ、その呼び方は」
 諦め、呆れかえった声で蜜鈴が呟けば、不満げな声を上げるボルディア。そんな2人をネフェルティは穏やかな瞳で見つめていた。


「ふーむ。一件落着かの? だが、どうやったらこの夢は醒めるのじゃ?」
 ミグは己のふかふかほっぺたをギュムッと力一杯捻る。
「……フツーに痛い。……さてはこれは、誰かの心残りがなくなるまで、とかそういうオチかの?」
 ミグは、ふわりと欠伸を1つ。1人少し離れたところから皆の様子を見守ることにした。


「よォ、無事か?」
「……何とかな」
 ラファルのキャリアーの中で腰を下ろしていたアーサーに声を掛けたのはシガレット。
「あ~一体こりゃどういう因果の夢なのやら」
 そうぼやきながら「よっこらせ」とキャリアーの中に乗り移る。
「おい」
「いや、飛龍は赤龍にお返ししなきゃでしょーが」
「……あぁ、そういえばそうだったな」
 一足先に真に飛龍を渡してしまったため失念していた。
「サンキュー、メティ。助かったぜェ」
 そう言って軽く手を振って別れると、「やれやれ」と懐から紙巻煙草を取り出す。
「……ん」
 トントンと底を弾いて浮かび上がってきた1本をアーサーに向ける。アーサーは逡巡した後それを取り、火を貰う。
「……味、しねぇな」
「……そういや、ここ夢なんだった」
 味も臭いもない。それに気付いてアーサーは慌てて身を起こした。
 大きくキャリアーが揺れ、「あぶねェ!」とシガレットが縁を持って驚いた顔でアーサーを見る。

『私を討ったものですか』
「わかるのか?」
『疵痕の臭いで』

「悪い、ユリアン! ネフェルティのところまで運んでくれ!」
「え? どうしたの? ……あぁ、うん。もちろん構わないけど……くっ」
 そう応えたところで、急な眠気がユリアンを襲った。
「な、何だァ……」
 シガレットもまた縁にしがみついて、やっと立っているような状態だ。

 ぼやけていくアーサの前に、赤銅色の光が下りた。
「ネフェルティ……」
『あなたに一度お逢いしてみたかった……その夢が叶いました』
「なん、で」
『あなたのお陰で私は再び王の元へと帰ってこられました』
「そんなのは、俺だけのちからじゃ、ない」
『えぇ。でも、あなたが私を繋げて下さいました。有り難うございます』
「俺は……ただ……」
 ――あの時見た光が……
 光へと手を伸ばす。温かいその鱗に触れたような気がした。
『これからのヒトの未来が美しい物であるよう、祈っております』


●――そして現実へ。

「ネフェルティ……!」
 起きたのはいつもの寝台。アーサーは無精髭の生えた顎をさすり、ため息を一つ吐いた。
「……俺も、逢えて嬉しかったぜ」
 そう、伝えてあげれば良かっただろうか。
 アーサーは右手を見つめ、そして強く握ると寝台から下りた。


「おーい、マリエルー!」
「あぁ、リューさん!」
「聞いて(よ)下さい、素敵な夢を見たん(だ)です!」
 …………
「もしかして……」
「龍の夢……?」


「あーーーーーそこで起きちまったーーーーー!!」
「でも、隊長。赤の龍のみんな、最後笑ってくれてた気がするでござるよー」
「……あぁ。良い夢……だったな」
「うん、めっちゃ良い夢でござった!」


「めっちゃ暴れられて楽しかったな!」
「……まァ、そうだろうな、お前は。んで、なんで俺もお前も木刀持って外にいんの?」
「いや、実際身体動かしてねぇから物足りねぇんで、ちった付き合えや」
「ハァ!? ヤですゥ。全力でお断りだぜェ……ってあぶなっ! 木刀投げんなっ!」


「あぁユリアン君。久しぶり……な気があんまりしないな」
「あぁ、鞍馬さん。……えぇ、俺もそう思います」
「ふふ……いや、実は夢の中で一緒だったんだよ」
「え。……あの、実は俺も……」
「「え?」」


「……あぁ、とても幸せな夢を見た。夢なれば、醒めたくなくなるほどの夢じゃ。
 だが、また幾千と夜を越え、星が巡ればまた会える日も来ようか。
 ……そうであればいいが……いや。そう信じよう」


「ふむ。しかし変わった夢じゃった。何にせよ、同行が魔導ヘリじゃ。なぜ夢なのに思い通りにならなかったのか。……まぁ過ぎた物は仕方が無い。よし、改良を加えて多少なりとも戦えるようにしよう。そうしよう」


 一つのオルゴールを手に、グリムバルドは小さく微笑んだ。
「……近いうちにまた顔出しに行くかな……」
 遥か、南の大地のを思い浮かべ、そっとオルゴールを机に置いた。


「酷い夢を見た」
 忌々しそうにそうサヴィトゥールは吐き出す。
 龍園は短い夏真っ盛りでこんなにも皆が明るい表情をしているというのに。
「……なんだか、いつもより調子悪そうだね?」
 そう問われ、額に手のひらを当てられる。
「熱は無さそうだけど……どうしたの? 珍しいね、サヴィ君が夢見るなんて。それも悪夢?」
 興味津々という顔で覗き込まれ、サヴィトゥールはますます眉間のしわを深め、だんまりを決め込むのだった。


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    人間(蒼)|20才|男性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    ロジャック
    ロジャック(ka0234unit002
    ユニット|幻獣
  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガン(ka0471
    人間(蒼)|27才|男性|闘狩人
  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤー(ka0665
    ドワーフ|13才|女性|機導師
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    バウ・キャリアー(ka0665unit009
    ユニット|飛行機
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
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    ポロウ
    ポロウ(ka0796unit008
    ユニット|幻獣
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエ(ka1664
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
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    ラファル
    ラファル(ka1664unit003
    ユニット|幻獣
  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェスト(ka2419
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    シエル
    シエル(ka2419unit004
    ユニット|幻獣
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    ミィリア(ka2689
    ドワーフ|12才|女性|闘狩人
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    十束(ka2689unit003
    ユニット|幻獣
  • 紫煙の守護翼
    シガレット=ウナギパイ(ka2884
    人間(紅)|32才|男性|聖導士
  • ヒトとして生きるもの
    蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009
    エルフ|22才|女性|魔術師
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    テンロク
    天禄(ka4009unit003
    ユニット|幻獣
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    グリムバルド・グリーンウッド(ka4409
    人間(蒼)|24才|男性|機導師
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    アストラ
    アストラ(ka4409unit004
    ユニット|幻獣

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
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    ユニット|幻獣

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鞍馬 真(ka5819
人間(リアルブルー)|22才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2019/08/22 01:26:19
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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/08/22 05:11:31