• 血断

【血断】針戦

マスター:電気石八生

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/08/21 07:30
完成日
2019/08/26 17:10

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●開幕
 パシュパティ砦を攻め落とした歪虚群は、落ち延びた守備隊や方々から救いを求めて集まり来た人々がたどりついた先――辺境の象徴にして鉄壁の守りを備えし要塞、ノアーラ・クンタウへと侵攻、包囲しつつあった。
 その指揮を執るブラッドリー(kz0252)は、防壁の向こうで右往左往する人々の気配を見やり、薄笑む。
「往生際は良いよりも悪いほうがおもしろくなるというもの。どうぞ、存分に踊っていただけますよう」
 それを迎え討つばかりでなく、強襲によって明日を拓かんと準備を急ぐヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)。
「あなたがたの歪んだ歌声に乗せられ、踊るだけで終わりはしませんよ。たとえ針穴ほどであろうとも、希望が存在する限りは」
 包囲と準備とは互いに抜きつ抜かれつ進められ……ついに辺境連合軍と歪虚群、両者の先陣が刃を交錯させ、決戦の幕を切って落とした。

●歪誇
 それは見据えていた。
 連合軍が歪虚群を斬り飛ばす様を。
 歪虚群が連合軍を噛み散らす様を。
 そして今こそが己の出番と、潜めていた姿を顕わしたのだ。
 全高4メートルに及ぶその体躯を鎧う黄金甲冑。それは古代クリムゾンウェストにて花開いた錬金の術でこしらえられた、騎士のための“殻”であるが。
『あの砦では後れを取ったが……今日は私が先手を打たせてもらう』
 発せられる外部音声は低く、不自然にくもぐっており、本当の声音がけして聞いたとおりのものではないことを示していた。
 丸まりかけた背を無理矢理に伸ばし、戦場を横合いから探るように見渡した騎士は、背後に控えた4体の歪虚へ命じる。
『優先すべきものは心得ていような? いや、愚問であった。凡俗コーネリアスならぬ私が手がけたおまえらだ。無様は晒すまい』
 ねじくれた肢体を不可思議な金属板で覆った4体が、その重みからよろめくように頭を垂れた。
 騎士は古代クリムゾンウェストの機導師であり、歪虚へ堕ちた後はその業(わざ)をもって人々を素にさまざまな実験と実践とを繰り返してきたシェオル型だった。
 その卑小さが災いし、取り立てられることもなく今まできたものだが――先のパシュパティ砦を巡る戦いにおいてその先陣の指揮を担うこととなり、奮起した。
 しかし、コーネリアスの遺産までもを与えられながらその務めを果たすことかなわず、以後、ブラッドリーは彼になにを任せることもありはしなかったのだ。
 この戦場で、彼は証明しなければならない。あの作戦の失敗は、コーネリアスの遺産が無価値だったからこそのものであると。それを成して、唾を吐きかけるのだ。目をかけてやっていたのに彼を蔑み、最期まで助けを求めることをしなかったカレンデュラ(kz0262)へ。
「出陣する。失くしたものを取り戻し、今度こそ得るがために」

●対抗
「やっぱり動いたわねぇ」
 防壁の上に立つゲモ・ママ(kz0256)は双眼鏡から目を離し、息をついた。
 あるハンターも推察していたが、パシュパティ砦を攻めた歪虚群の裏にはそれを操る誰かがいた。そして最後まで姿を見せなかった以上は、かならずこの決戦でもなにかをしかけてくる。本隊と連動することなく、単身で。
 あのとき歪虚本隊は“皆殺し”を助けなかったし、誰かさんの面目なんかも気にしないで出現したものねぇ。つまりはその程度の重要度だったってこと。だとしたら、この決戦で重要な任務を任されることもないし、やるならご自由にどうぞってことになるわ。
 それでも見過ごせないのは、あの“騎士”が古代クリムゾンウェストの業で産み出された代物で、まわりを固める4体がシェオル型だからだ。おそらくは騎士の中身もまたシェオル型――最低でも人並の知性を持つ存在だろうし。
 ともあれ念のため、控えといてよかったわ。
「アンタたちには別働隊としてあのシェオル型を叩いてもらうわ。数は少ないけど油断は禁物よ。それでなんとかできるようなしかけがあるんでしょうしね」
 ハンターたちに告げ、ママは奥歯を噛み締める。レヲ蔵が動けたら、こっちももうちょっと打つ手増やせたんだけどねぇ。
 天王洲レヲナ(kz0260)は現在、パシュパティ砦防衛戦で受けた深手から戦線を離脱している。命に別状はなかったが、ハンターたちの尽力なければその命はあの場で消え失せていたことだろう。
「縁の下の戦いになるけど、放っておけば本隊が危なくなるのは確実よ。みんな頼んだからね」

リプレイ本文

●小者
 爆炎と爆煙とに紛れて騎士は進む。
 その雄壮なる錬金の巨体を取り巻くは、歪なる金(かね)に鎧われしシェオル型――小者ども。主の目と足との妨げになるものを先駆けて払い、あるいはその身をもって止め、己を汚して主の黄金たる輝きを守る。
 と、その小者どもが主の踏み出す先を背で塞いだ。
 騎士は苛立ちこそすれ、怒声をあげることはしない。見えていたからだ。飛来した砲弾が。

「終わったな」
 戦場の後方に重装を据えたダインスレイブ“ヤクト・バウ・PC”、そのコクピットでふふり。薄笑みをうつむけて決めたミグ・ロマイヤー(ka0665)は、わずか1秒の後に思い知った。
『バカなああああああ!?』
 一直線に騎士を貫いたはずの貫通徹甲弾が、縦に並んだ3体の小者によって受け止められていたからだ。
 ギギ。騎士の片脇に控える1体が関節を鳴らすと、それに答えるかのごとくに3体が散開し、陣を為す。こちらに対してVを描いた極短の鶴翼、防御陣を。
「悩むほどのものではないな。あやつらは防御特化型で、並ぶことで防御力が上がるのじゃろうよ」
 仲間たちへ通信を飛ばしつつ、ミグは次弾の自動装填を完了した滑空砲の砲口を小者どもへ合わせた。
 彼女の仕事は試すことだ。小者どもの完全防御が2体以下でも為せるものなのか。どれほど動き回れるものなのか。
 それだけではないがのぅ。
 刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」の開発に携わった彼女である。それに酷似した、しかも古代技術で造り出された巨人を相手取れること、昂ぶらずにはいられない。
「ミグは取り巻きどもの性能を洗い出す! 皆は適当にやってくれい!」

 その通信を受けたエルバッハ・リオン(ka2434)は、ミグの適当が「適切に当然を為す」ことだと察し、「了解しました」と返した。
 どのみちあの取り巻きの防御陣を崩さなければ、騎士に満足な攻撃は届くまい。ならば最初に狙うべきは騎士よりも小者どもだ。
『支援を開始します』
 宣告し、R7エクスシア“ウィザード”にマテリアルキャノン「タスラム」を構えさせる。長大な砲身に恥じぬ大口径から撃ち出された粒子弾が小者の1体へ突き立ち、わずかな抵抗の後、弾かれた。
 物理だけでなく、魔法への耐性も高いのですね……しかし縦に並ぶことはしませんでした。主を守るときにだけ、あの陣形を取るということでしょうか。
 その見解を仲間へ告げ、エルバッハはウィザードの魔導エンジンを最大出力へ。すでに展開済みのマジックエンハンサーにさらなるマテリアルを燃え立たせる。

 エルバッハの粒子弾を追って跳び出したのは、宵待 サクラ(ka5561)が繰るR7エクスシア“九十二郎”である。
 まだどうしたらいいかよくわかんないから、とにかく行っちゃうしかないよね!
 最初から迎撃など考えていないらしい小者どもの眼前まで九十二郎を踏み込ませ、ラージブレード「マカブイン」を薙いだ。
 小者どもは十字に組んだ腕でこれを受けたが、サクラからすればまさに我が意を得たりだ。
 ご主人様から離れらんないんだから、守るしかないよね。でもそうやってかたーく守っちゃったら、すぐ動けなるんじゃない?
 サクラの思ったとおり、小者どもの体躯は強ばり、構えを解くまでにイェジド“ヴァーミリオン”の肉迫を許してしまう。
「おらぁ!!」
 ヴァーミリオンの背に跨がるボルディア・コンフラムス(ka0796)の左腕が赤熱し、炎の鎖を吐き出した。それは小者の1体へと絡みつき、絡みつき、絡みつき……文字通りの炎檻となって異形を縛めた。
 ボルディアはそのままヴァーミリオンを防御陣の内へと駆け込ませ、もがく小者を炎鎖で引きずり込みながら。
「ママんとこに帰りたいってか!? そうはさせねぇよ!!」
 これは小者ばかりでなく、騎士へも聞かせるためのセリフだ。おまえの盾1枚、抑えたぜ! こっからどうしてくれんだ騎士さんよぉ!?
 さらに。縛められた小者と他の小者との間に、百鬼 一夏(ka7308)が駆るコンフェッサー“ホットリップス”がマテリアルバルーンを割り込ませ、連携を遮った。
『助けになんて来させませんよ!』
 ホットリップスを横向かせ、バルーンの脇をすり抜けて踏み込み、前に出した右手を鎧うKBシールド「エフティーア」を、ようようと縛めより解かれた小者へと叩きつける。
 かくて拳塊に打ち据えられた小者は地を跳ねて。
 騎士の足で踏み止められた。
『おまえらは私が思うより聡い。それは認めてやらねばなるまい』
 くもぐった低音が言の葉を紡ぎ、反らした面でハンターたちを見下ろした――いや、見下した。
『しかしながら、私の叡智とそれが産み出したものには遙か及ばぬよ。黄泉路の手土産に見せてやろう』
 騎士の右手に握られた剣身に光が灯る。目を眩ませるほどでありながらどこか薄暗い、金光が。
『コーリアスをも遙かに凌ぐこの私の錬金の高みと、その秘術を尽くして生まれ変わらせてやった木偶の出来映えを』
 長大な光刃が一直線に振り下ろされ、足元の小者ごと、一夏が置いたバルーンを断ち割った。
 そして。
 今斬られたはずの小者がよろめきながら起き上がる。裂かれた背を、じわじわと再生させながら。

 光刃の軌道から大きく飛び退いたヴァーミリオンの背で、ボルディアはぎちりと犬歯を剥きだした。盾の固さは一流ってことかよ。
 マテリアルカーテンで防御を固めつつ光刃をかわした九十二郎の内、サクラは小首を傾げる。すぐ斬っちゃえば私たちだって逃げられなかったかもしれないのに、なんでわざわざ見せつけたのかな?
 そのサクラの疑問は、かすめていった光刃にホットリップスの装甲の端を溶かされた一夏の疑問でもあった。

 どうやら性格に多大な問題があるようだな。
 ポロウ“エーギル”と連動し、戦場へ滑り込む機を窺っていたメンカル(ka5338)が胸中でうそぶいた。
 あの傲岸、騎士の体ならぬ心を守る“盾”か。だとすれば、こちらにもやりようはあるというものだ。
 騎士、そして小者どもとの距離を計り、メンカルは音もなく踏み出していく。
 これから為さねばならぬことは多い。そして真なる黄金との“約束”を果たすためにも、こんなところで死んでいるわけにはいかないのだ。

●口撃
 トリガーに指をかけ、ミグは騎士へと狙いを据える。
 これまでの連続砲撃により、小者2体までの縦列では貫通攻撃が止められないことはわかったのだが。
 騎士への攻撃は未だ届いてはいない。小者どもは騎士へ及ぶ攻撃のすべてを、まさしく我が身を捨てて受け止める構えだからだ。
「あの手下ども、3体が縦列陣を組まねば範囲攻撃や貫通攻撃を止めれん――」
 と。ハンターと歪虚の本隊がぶつかりあう戦場から流れ砲弾が飛来し、着弾。戦場を揺るがせた。

 途中で途切れた通信に眉をひそめたのは、同じ遠距離攻撃支援を担うエルバッハだ。
 ミグの言うことは正しいのだろうし、消えた後半部分も推測は容易い。つまり、小者2体を減らせば騎士にまで攻撃が届くということだ。
 しかし、それが難しい。これまで幾度か騎士へマテリアル砲弾を撃ち込んできたが、そのことごとくをカットした小者の1体すら倒せていないのだから。そして。
 騎士はその影からちくちくと反撃していますが……本当にそれだけのことしかできないのでしょうか。
 どうやらあの騎士は、自分がコーリアスよりも優秀であると示したいらしい。それなのに、あの程度の行いで満足するのか?
 エルバッハの指先はなにかを探り当てているはずなのに、答はどこかに引っかかってしまっていて、出てこない。
 あの騎士にはまだなにか隠している力があるはず。注意しなくては。

 なんか隠してやがんだろうな。さすがにこんなもんを錬金の高みとか言わねえだろうしよ。
 ボルディアの意志を受けたヴァーミリオンが、右の前後肢でドリフト。騎士の光剣をくぐって滑り込んだ。
 これで一応は騎士と小者を分断できた形だが、炎檻を使わずに体を割り込ませたのは、騎士の攻撃がこちらへ向けられるばかりのものではないからだ。結果的に一手損なうよりも、再生能力を上回るダメージを小者へ与える。
「まずは1体、きっちり追い込むぜ!」

「聞こえなかったけど了解!」
 サクラが握り込んだ操縦桿を押し込めば、その合図を待ち受けていたように九十二郎は一気に加速し、ボルディアと対する小者へ向かった。
 聞こえていてもいなくとも、わかっている。この場でしなければならないことが連撃と追撃であることは。
 硬いだけでなく再生能力まで備えたシェオル型の小者を減らし、騎士の守りを崩す。
 そのためにこそ騎士の攻撃に耐え、小者への攻撃を重ねてきたのだ。そして。
 マテリアルを高めたエルバッハのマテリアル砲弾が、小者の背に突き立った。装甲板がわずかにひしゃげ、“手がかり”を刻まれる。
 それでも小者は振り向かない。それはわかっていたから。
『このこんちくしょー! さっさと倒れちゃえってばぁ!』
 サクラは九十二郎をまっすぐ踏み込ませ、“手がかり”目がけてマカブインの二段突きを繰り出した。
 斜め上から突かれた小者が斜めに傾ぎながらつんのめる。ボルディアの眼前に、傷ついた背を晒して。
 ああ、完璧だぜ!
 人馬ならぬ人狼一体を成した彼女とヴァーミリオンの口の端が吊り上がる。
 当然だ。騎士は二倍速で動けるようだが、すでにその手数は消費済み。そうさせるよう、傷を負いながらハンターたちは連携してきたのだから。
「うおおオオオ!!」
 ふたつの雄叫びが、炎噴く魔斧「モレク」の風切音と重なって太く縒り合わされ、ひび割れた“手がかり”を横薙ぎに打ち据えた。重刃はそのまま巡らされ、もう一度打ち込まれて――小者の背甲を微塵に砕いた。
『ぬう!?』
 6メートルを薙ぎ払う強烈な連撃を見せつけられ、騎士が思わず後退する。
 他の小者どもは当然、それに続く。
 かかった!
 肩越しに成果を確かめたボルディアが口の端を上げる。
 実際にダメージを与えたのは1体きりでも、この範囲攻撃を見せつけられた騎士は案の定、残りの小者共々退いた。
 騎士自身に分断の形を成立させるボルディアの策は、見事にはまったのだ。

 一方、地へ叩きつけられた小者は、それでも起き上がって主を追おうとしたが。
「行かせませんから!」
 一夏の四肢が目まぐるしくコクピット内を行き交い、顎先を地へこするほど低く上体を倒し込んだホットリップスのバランスを保たせ、踏み出させる。
 四つん這いの形となった小者は見た。迫り来る脚が自分の顔を打ちながら地を踏みしだく様を。そして聞いた。上から降り落ちてくる、野太い風切音を。
 オーバーハンドフックで打ち下ろされたエフティーアの拳塊が小者の背を突き抜けて地にまで届き。その動きを永遠に縫い止めた。

『ようやく木偶1匹を倒したか』
 爆裂音が静まった戦場の中、騎士は鷹揚に言い捨てる。小者どもの防御陣が自らをしっかりとカバーしていることを確かめたうえで、だ。
『それも私の微々たる慢心の恩恵あってのこと。が、戯れもここまでとしよう』
 騎士の足裏よりマテリアルがあふれ出す。それはジェット噴射と化し、騎士を大きく先へと跳ばすのだろう。未だ体勢を整えていないハンターたちに、追う術はない。
「ぬ!」
 急ぎ引き金を絞りかけたミグだったが、寸手で止めた。「追う術」が、騎士の背後へ到達したことを確かめて。
「……コーリアスか」
 騎士の膝裏を蹴って跳んだメンカルが、肩装甲に手をかけて身を翻し――竜尾刀「ディモルダクス」による天誅殺の一閃で延髄を撫で斬った。
『はぁ!?』
 延髄は装甲の守りがない場所。そこを裂かれた騎士はガシャガシャすくみあがり、炎まとう攻性防壁を発動させるが。
 エーギルの惑わすホーとアクセルオーバーの加速に守られたメンカルは、熱と衝撃との狭間を悠々駆け抜けて。
「あいつは俺の弟の右腕を持っていった。それこそ俺よりも遙かな高みにいる弟のな」
 と、ここで足を止め。
「まさか、地を這うのが精いっぱいの俺ごときを、殺せないわけはないな?」
 ゆっくり振り向き、小首を傾げて。
「天才と呼ぶよりないコーリアスをも凌ぐ錬金の高みとやらを備えた、おまえが」
 口の端を吊り上げてみせた。
『わたわ私はぁ! し至高うななのだだだぁあああああ!!』
 騎士がマテリアルを噴き出し、飛んだ。戦場の先へではなく、メンカルへと。
 ――さて。引き止めることには成功したが、問題はこの後だな。

●猛傾
「ともあれ一度墜ちてもらおうかの」
 両手に備えた長い爪を地へ突き立て、その身を固定したヤクト・バウ・PCが、二門の滑空砲より貫通徹甲弾を連射した。
 小者どもがこれを捕まえようと跳ねるが、追いつけない。
『なんとゎ!?』
 結果、騎士は硬い砲弾に打たれて弾かれ、小者の1体を巻き込んで地面へ落ちた。
『しかし! 私にはシェオルたる再生能力が備わっているぅ!』
 自動で炎の防壁を発動させる――まわりにハンターはいないので、ダメージを受けたのは小者ばかりであったのだが――騎士の傷口は、ものの数秒で完全に塞がり、黄金の輝きを取り戻した。

 転機というものは、あっけなく訪れるのですね。
 ウィザードが腰だめに構えたタスラムの内、エルバッハのインジェクションで再装填されたマテリアルが圧縮される。
 粒子加速器によって横回転を与えられたエネルギーが砲弾として成形され、加速、加速、加速。
「追撃をお願いします」
 言い終えると同時、エルバッハがトリガーを引いた。
 発射の衝撃を関節部の遊びでやわらかくいなして――これをさらりとやり果せるのは、操縦士として高い技量を備える彼女だからこそだ――エルバッハは超高速で飛び行くマテリアル砲弾の行方へ視線を据える。
 これが転機で揺らいだ天秤を、私たちへ傾ける一射です。

 マテリアル砲弾が突き立ったのは、騎士のカバーへ走った2体の内、先を行く小者の膝裏である。
 足を掬われた小者は、その勢いで仰向けに倒れ、『早く私を守れぃ!』とわめいた騎士の元へ急ぐ次の小者に踏みしだかれ、起き上がるのを遅らせた。だからこそ。

『聞こえてたから了解!』
 倒れている小者をかばうような形で立った九十二郎が、上体を前へ傾げた次の瞬間。
 その背よりブラストハイロゥの光翼が伸び出し、大きく拡がった。
 サクラの眼前にはようようと起き上がってきた小者があり、背後には苛々と足を踏み鳴らす騎士と、その周りでぎくしゃくと蠢く2体の小者がある。
 通さないよ、あっちからもこっちからも! 私がみんなの“次”を守る壁になるんだから!

 騎士の元へ向かう個体の脇をすり抜け、サクラの伸べた光翼を突き抜けるヴァーミリオン。その背の上よりボルディアが、起き上がってきた小者の顔とも知れぬ顔の中心へ炎の幻影まとうモレクを叩きつけ、斬り上げた。喰らいつく火炎獣の顎――砕火。
「一気に行くぜ!!」
『はい!!』
 すでに再生が開始されている小者の傷口へねじり込まれたのは、ホットリップスのエフティーアで固められた指先だ。
 もちろんこれは攻撃などではない。攻撃を導くための、標。
『っ!!』
 機体に巡らせたマテリアルを拳に集め、文字通りの全力をもって、握り込む。
 集約されたマテリアルが拳で爆ぜ、衝撃を余さず小者へと打ち込んで――存在するかも知れぬ意識を引き裂いた。

 一夏の白虎神拳が決まった向こうでは、メンカルがエーギルと共に騎士と対している。
 惑わすホーを展開したエーギルが騎士の頭部へ急降下し、レガース「エダークス」をまとう鉤爪で顔面を掻く。
 その下方、小者の腕をディモルダクスの鍔元で受け止めたメンカルは、押し込まれた勢いに乗って地を一転し、さらに騎士を挑発した。
「そろそろ見せてくれないか? 錬金の高みとやらを」
『とやらとやらとやらあぁ!! 凡俗が下賤が凡俗があ!!』
 怒りに声音をきしませる騎士だったが、惑わされた上に狙いすら定まらぬ光刃はあらぬ軌道を行き過ぎた。
 その間に騎士の足元へ貼りついたメンカルはナイトカーテンを張る。
 こちらは引きつけておく。取り巻きのほうは頼むぞ。

●其時
 2体めの小者は、主を守ることだけを擦り込まれたがゆえの無防備を逆手に取られ、ハンターたちに討ち取られた。
『残り2体です!』
 一夏の通信がミグの義手へと力を注ぐ。
 待っておった。待ちわびておったぞ、このときを!
 照準はすでに騎士へ固定されていた。微調整をヤクト・バウ・PCへ託し、ミグは鋼の指を繰り、引き金を絞った。
『てえーっ!!』
 二門の滑空砲が同時に火を噴き、貫通徹甲弾を撃ち放つ。
 砲弾はとっさに縦へ並んだ小者の左右の脇腹を削りとりながら突き抜け、そして。
『あいとゎ!?』
 その質量をもって、メンカルに翻弄される騎士を地へ叩きつけた。
『わわわだぢによごごれををを――うちゅくしきおうごんごんが――』
『なに言ってるのかぜんぜんわかんないね!』
 ブラストハイロゥの翼で小者2体を押し止めたサクラが、土で汚れた騎士を見下ろし言い切った。
 言っていることはともかく、ずっと仲間と敵とに目を配ってきたからこそ、わかる。この騎士がどれほどの人物かを。そしてメンカルの挑発であっさり平静を失った騎士のしぐさを。
『この騎士さんとやら、盾の後ろになにか隠してるみたい! みんな気をつけて!』
『わだぢを“とやら”よばわりするにゃあああああ!!』
 弾かれるように立ち上がった騎士が盾を投げ棄て、左手首を引き抜く。
『砲じゃ! 隠し球ならぬ隠し弾じゃな!』
 左腕の空洞に刻まれたライフリングを見て取ったミグが通信を飛ばす。
『わだぢのれんきんのきわみ! こがたれんきんほうのぢからをみよおおおお!!』
「やらせるかってんだよ!!」
 ヴァーミリオンのウォークライに送られたボルディアが、高くかざしたモレクにマテリアルをくべて幻炎を滾らせ、跳ぶ。
 騎士の防御力は高い。炎檻を腕へ引っかけたとしても、防壁に弾かれて射撃姿勢を保持されるだけだ。ならば、いや、だからこそ。
 俺を全部ぶっ込んだ“重さ”でぶっ叩く!!
 筋力、重力、遠心力、マテリアル、全部を込めた砕火を叩き込んだ。
 ――待っていたのは私もです。
 ボルディアの砕火が騎士の左腕を揺るがせると同時、エルバッハがトリガーを引き絞る。
 超加速したマテリアル砲弾は空を押し分けて直ぐに飛び、射撃姿勢を取ったがゆえに固定された騎士の左腕へとめり込んだ。
 ボルディアの二連撃に加わったエルバッハの一射が騎士の腕を下へ振り落とさせ、砲口から撃ち出された錬金弾を地へと撃ち込ませる。
 これでも左腕は壊せませんか。生き汚さだけはたいしたものですね。

 地に穿たれた穴を見下ろすことなく、騎士は再び左腕を持ち上げた。
『備えあれば憂いなし! この錬金砲には予備の砲弾が込められているぅ!』
 声音を遮るように真っ向から騎士へ突っ込んだホットリップスの内より一夏が吼えた。
『見せてあげますよ、私とホットリップスの、ほんとの本気の自尊心!!』
 口ほど高みにいるわけでもないのだろう騎士の、小型化された錬金砲。それでもこのゼロ距離から、身を捨てるくらいで止められるのか。
 当たり前の迷いはある。しかし、迷いは迷いでしかなく、行動を妨げるものではありえない。少なくとも決意した一夏にとっては。
『前が見えん! どけ! 貴重な錬金砲弾を凡俗1匹に消費できるかっ!』
 左腕を伸べたまま、右手の剣を振り回す騎士。
 ホットリップスの装甲が割れ、ちぎられた機械部がショートして爆ぜるが。
 体張るのが私の仕事! だったら体張って、突き通すだけですよ!
 握り込んだエフティーアをマテリアルのバリアが包み込み、輝かせる。
 と。
「再生が止まってるようだが、気づいてるか?」
 騎士の後頭部に差し伸べられたのは、メンカルの声音。
 一夏が真っ向から跳び込んだのは、錬金砲の射線を塞ぐためばかりではない。メンカルの隠密攻撃を呼び込むためのものでもあったのだ。
『ひっ! ぅ、ふん。かすり傷ごとき、かまう必要はない!』
「なるほどな。しかし、俺がここにいることは気にするべきかもな」
 騎士はびくりと体を巡らせ、剣を振り込んだが。
 その軌道にメンカルはいない。騎士の挙動に合わせ、肩の裏へと滑り込んでいたからだ。
「錬金の高みとやらをついに見られなかったのは残念だ」
 言い置いて、ディモルダクスの切っ先を、騎士の延髄へ突き込んだ。
『きぃやあああああああ!!』
 騎士の機体がびょんと跳ね、メンカルを振り落とそうと狂おしくもがく。そして。
『忘れてもらったら困ります!!』
 一夏の声につられて振り向いた。その左腕は今も発射姿勢にあり、まっすぐ伸びていて――砲口に、腰を据えたマテリアルフィストを打ち込まれた。
 それでも砲口は潰れない。ただし、それを支える左腕が蛇腹状に押し潰され、その長さを損なった。自動で炎の防壁が発動し、ホットリップスを弾き飛ばしはしたが、ダメージを重ねられている今、頼みの再生能力は起動しない。
『凡俗が下賤が下賤がぁあああああ!!』
『ボキャブラリー不足? さっきからおんなじこと言ってるけど』
 ミグとエルバッハの砲撃支援を受けつつ2体の小者を縫い止めるサクラが、九十二郎の内で小さく肩をすくめてみせた。

 果たして。錬金砲を損なった騎士は自らの盾ばかりか小者という盾を取り戻すこともできず、ハンターの連携攻撃を受ける。
 エーギルの惑わすホーで相殺された炎の残滓を踏み越え、ボルディアが、ホットリップスが、メンカルが三方より迫る。
『わたぢはぁ! わだぢはぁあああああ』
『至高とやらじゃろ? 何度も聞いたわ』
 ヤクト・バウ・PCの貫通徹甲弾を顔面にねじ込まれ、声音を失って。
 ハンターの連撃で崩れ落ち、最後にはウィザードのマテリアル砲弾で左肩を引きちぎられ、もんどりうって爆散した。

「埋めちまうか。処理は後でくわしいヤツに頼むってことでよ」
 残された小者を退治た後、ボルディアの提案で一同は穴を掘り、残された騎士の腕を錬金砲弾ごと埋め立てる。
 かくて大戦の内に投じられた針のごとき小戦は幕を下ろし、辺境の行方、その一端が人類の手へと引き寄せられたのだった。

依頼結果

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MVP一覧

  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤーka0665
  • 胃痛領主
    メンカルka5338

重体一覧

参加者一覧

  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤー(ka0665
    ドワーフ|13才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    ヤクトバウプラネットカノーネ
    ヤクト・バウ・PC(ka0665unit008
    ユニット|CAM
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    イェジド
    ヴァーミリオン(ka0796unit001
    ユニット|幻獣
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    ウィザード
    ウィザード(ka2434unit003
    ユニット|CAM
  • 胃痛領主
    メンカル(ka5338
    人間(紅)|26才|男性|疾影士
  • ユニットアイコン
    エーギル
    エーギル(ka5338unit003
    ユニット|幻獣
  • イコニアの騎士
    宵待 サクラ(ka5561
    人間(蒼)|17才|女性|疾影士
  • ユニットアイコン
    ココノソジロウ
    九十二郎(ka5561unit003
    ユニット|CAM
  • ヒーローを目指す炎娘
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