ゲスト
(ka0000)
【MN】Eile mit Weile
マスター:近藤豊

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/08/24 15:00
- 完成日
- 2019/08/26 06:17
みんなの思い出
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オープニング
王国歴1019年。後に『邪神戦争』と呼ばれるようになった戦い。
多くの犠牲を生み出したこの戦いの果てに人々は今も生きている。
――だが、人々は知らない。
この戦いの裏に、語られなかった歴史の一ページがある事を。
邪神ファナティックブラッドへの攻撃を開始した連合軍。
ニダヴェリールが轟沈する最中、崑崙から離れた別宙域で異なる戦いが始まろうとしていた。
「私に艦隊を丸ごと預けるとは。連合軍は余程人手不足と見えます。
ふふ、これは私も最善を尽くさなければいけませんね」
ヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)は旗艦『ブリュンヒルデ』のブリッジから永遠の夜を見つめていた。
邪神への攻勢を強めた連合軍の側背を突く形で敵艦隊が作戦行動を開始したとの情報がもたらされた。連合軍はこの事態を受け、急遽艦隊を編成。第十三艦隊をヴェルナーへ託す事にした。辺境地域の歪虚が活発に行動しているが、それでもヴェルナーを召喚した事は人材の枯渇が深刻である事を意味していた。
「敵艦隊までの距離は?」
「およそ12000。この速度であれば四時間後に会敵します」
オペレーターからの返答にヴェルナーは思案を巡らせる。
ヴェルナーとて艦隊戦の指揮は経験がない。しかし、幸いにも書籍による知識はある。もう少し情報を収集して敵に対応したいところだが――。
「敵もこちらの存在に気付いていると考えるべきでしょうね。私が指揮に慣れるまで待ってくれるはずは……ありませんね。敵の陣形はどうなっていますか?」
「敵は戦力を三つに分け、我が艦隊の前方へ展開。敵の数はこちらの倍以上。包囲殲滅が狙いと思われます」
「包囲殲滅……敵の主力は特異なシェオル型でしたね」
ヴェルナーはオペレーターの言葉を改めて呟いた。
戦力は敵の方が上。さらに敵は特異なシェオル型という情報以外にはない。ただ、敵の動きがこちらに筒抜けという事は敵はこちらを侮っている可能性がある。
「ヴェルナー様、敵はこちらを殲滅する事が目的です。回避行動を取るべきではないでしょうか」
「…………」
ヴェルナーは部下からの提案に、沈黙を守る。
ブリッジに広がる闇を掻き分けながら、ブリュンヒルデは前へと突き進んでいく。
●
「敵艦隊、依然として進軍。回避行動は見られません」
歪虚側の艦隊にもシェオル型の指揮艦が乗り込んでいた。
彼は自らの世界を護る為に邪神と戦ってきた。仲間と共に死力を尽くし、多くの屍を乗り越えて抗い続ける。残念ながら邪神に敗れ去り取り込まれる結果となったが――。
悲劇はこれに留まらない。
「歪虚の軍勢は余程の勇者か、それとも馬鹿か。……どう見る?」
「敵に何らかの策があると考えます。簡単に墜とせる相手ならば我々もここまで苦労はしていません、閣下」
艦長席の椅子でモニターからを見つめる金髪の青年。
若さに満ちているが、それだけではない。威風堂々とした態度は軍人以上のものを感じさせた。
その青年こそ、閣下と呼ばれた――ジルヴェスター・シュティークロート中将である。
「お前もそう思うか。この歪虚は今までの敵とは異なる。十分に注意する必要がある。いつでもスキールニルに出撃体制を取らせておけ」
「閣下、既に手配しております。指示を出せばいつでも出撃可能です」
「こいつ、俺の考えを分かっていたな」
ジルヴェスターは副官のラルフ・ベーデカー大尉へ微笑みかける。
彼らはクヴァシル星系アースガルズ大帝国所属第七艦隊旗艦『トリウムフ』から指揮していた。
最大の悲劇は『彼ら自身が既に敗北しており、歪虚となっている事を知らない』のだ。
だから対峙する敵は歪虚だと信じて疑わない。自らが負ければアースガルズ大帝国は滅びる定めだと考えていたのだ。
「敵の戦力は未だに不明です。距離を詰めればダメージは免れません」
「ああ。だが、こちらも一切退く気はない。敵を射程距離に収めた時点で一斉砲撃を開始する」
ジルヴェスターは敵が誰であろうとも退く事を知らない。
それは性分でもあるが、これ以上の敗北は本国にいる『無能な』貴族どもを増長させる。未だ前線に出た事もない奴らは、適当な事を繰り返して自らの保身へ走る。
これ以上、奴らをのさばらせない為にも確実な勝利が必要なのだ。
「敵艦隊、尚も前進。中央艦隊の射程距離へ入りました」
「沈めろ。……Feuer」
ジルヴェスターは淡々と呟いた。
中央に陣取った艦隊から一気に砲撃が開始される。
続いてラルフが部下へ命令を飛ばす。
「スキールニル全機出撃。敵旗艦を索敵の上、撃破を命じます」
「……やはりお前も同じ考えか」
忠実かつ冷静なラルフは前に、ジルヴェスターは満足そうに微笑んだ。
●
――数刻前。
「全速前進。紡錘陣形で敵陣に突撃します」
「……はっ!?」
ヴェルナーの提案に統一地球連合宙軍の軍人は思わず声を上げた。
このまま前進すれば敵に包囲されて殲滅される恐れもあるのだ。普通に考えて前進はあり得ない。だが、ヴェルナーは敢えて突撃を選択した。
自殺行為だ。それが軍人の率直な感想だった。
その考えを察したヴェルナーは続けて口を開く。
「敵の包囲は完成していません。敵の数が倍に匹敵するのは敵の総数です。戦力を三分にした時点で戦力はこちらの方が上です」
「お言葉ですが、中央の艦隊に突撃する間に左右の艦隊に包囲される恐れがあります」
「だからこそ、早急に中央艦隊の旗艦を墜とさなければなりません」
ヴェルナーにとって大きな賭けだ。
ここを抜かれれば邪神へ突入を仕掛ける連合軍やハンターに大きな影響を与える。下手をすれば作戦そのものが瓦解しかねない。その為には敵をこの宙域で撃破、もしくは釘付けにしなければならない。
たとえ、預かった艦隊を犠牲にしたとしても――。
「敵艦隊、射程距離へ入りました」
「全艦隊、砲撃準備。砲撃に続いてハンターも出撃。敵旗艦を見つけ出して下さい」
軍人も既に敵の射程距離に入っている事を察した。
正面からの砲撃戦になる。もう反対している時間はない。
踵を返す軍人を前に、ヴェルナーは一言命じた。
「始めましょう。勝利の為に……Feuer」
多くの犠牲を生み出したこの戦いの果てに人々は今も生きている。
――だが、人々は知らない。
この戦いの裏に、語られなかった歴史の一ページがある事を。
邪神ファナティックブラッドへの攻撃を開始した連合軍。
ニダヴェリールが轟沈する最中、崑崙から離れた別宙域で異なる戦いが始まろうとしていた。
「私に艦隊を丸ごと預けるとは。連合軍は余程人手不足と見えます。
ふふ、これは私も最善を尽くさなければいけませんね」
ヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)は旗艦『ブリュンヒルデ』のブリッジから永遠の夜を見つめていた。
邪神への攻勢を強めた連合軍の側背を突く形で敵艦隊が作戦行動を開始したとの情報がもたらされた。連合軍はこの事態を受け、急遽艦隊を編成。第十三艦隊をヴェルナーへ託す事にした。辺境地域の歪虚が活発に行動しているが、それでもヴェルナーを召喚した事は人材の枯渇が深刻である事を意味していた。
「敵艦隊までの距離は?」
「およそ12000。この速度であれば四時間後に会敵します」
オペレーターからの返答にヴェルナーは思案を巡らせる。
ヴェルナーとて艦隊戦の指揮は経験がない。しかし、幸いにも書籍による知識はある。もう少し情報を収集して敵に対応したいところだが――。
「敵もこちらの存在に気付いていると考えるべきでしょうね。私が指揮に慣れるまで待ってくれるはずは……ありませんね。敵の陣形はどうなっていますか?」
「敵は戦力を三つに分け、我が艦隊の前方へ展開。敵の数はこちらの倍以上。包囲殲滅が狙いと思われます」
「包囲殲滅……敵の主力は特異なシェオル型でしたね」
ヴェルナーはオペレーターの言葉を改めて呟いた。
戦力は敵の方が上。さらに敵は特異なシェオル型という情報以外にはない。ただ、敵の動きがこちらに筒抜けという事は敵はこちらを侮っている可能性がある。
「ヴェルナー様、敵はこちらを殲滅する事が目的です。回避行動を取るべきではないでしょうか」
「…………」
ヴェルナーは部下からの提案に、沈黙を守る。
ブリッジに広がる闇を掻き分けながら、ブリュンヒルデは前へと突き進んでいく。
●
「敵艦隊、依然として進軍。回避行動は見られません」
歪虚側の艦隊にもシェオル型の指揮艦が乗り込んでいた。
彼は自らの世界を護る為に邪神と戦ってきた。仲間と共に死力を尽くし、多くの屍を乗り越えて抗い続ける。残念ながら邪神に敗れ去り取り込まれる結果となったが――。
悲劇はこれに留まらない。
「歪虚の軍勢は余程の勇者か、それとも馬鹿か。……どう見る?」
「敵に何らかの策があると考えます。簡単に墜とせる相手ならば我々もここまで苦労はしていません、閣下」
艦長席の椅子でモニターからを見つめる金髪の青年。
若さに満ちているが、それだけではない。威風堂々とした態度は軍人以上のものを感じさせた。
その青年こそ、閣下と呼ばれた――ジルヴェスター・シュティークロート中将である。
「お前もそう思うか。この歪虚は今までの敵とは異なる。十分に注意する必要がある。いつでもスキールニルに出撃体制を取らせておけ」
「閣下、既に手配しております。指示を出せばいつでも出撃可能です」
「こいつ、俺の考えを分かっていたな」
ジルヴェスターは副官のラルフ・ベーデカー大尉へ微笑みかける。
彼らはクヴァシル星系アースガルズ大帝国所属第七艦隊旗艦『トリウムフ』から指揮していた。
最大の悲劇は『彼ら自身が既に敗北しており、歪虚となっている事を知らない』のだ。
だから対峙する敵は歪虚だと信じて疑わない。自らが負ければアースガルズ大帝国は滅びる定めだと考えていたのだ。
「敵の戦力は未だに不明です。距離を詰めればダメージは免れません」
「ああ。だが、こちらも一切退く気はない。敵を射程距離に収めた時点で一斉砲撃を開始する」
ジルヴェスターは敵が誰であろうとも退く事を知らない。
それは性分でもあるが、これ以上の敗北は本国にいる『無能な』貴族どもを増長させる。未だ前線に出た事もない奴らは、適当な事を繰り返して自らの保身へ走る。
これ以上、奴らをのさばらせない為にも確実な勝利が必要なのだ。
「敵艦隊、尚も前進。中央艦隊の射程距離へ入りました」
「沈めろ。……Feuer」
ジルヴェスターは淡々と呟いた。
中央に陣取った艦隊から一気に砲撃が開始される。
続いてラルフが部下へ命令を飛ばす。
「スキールニル全機出撃。敵旗艦を索敵の上、撃破を命じます」
「……やはりお前も同じ考えか」
忠実かつ冷静なラルフは前に、ジルヴェスターは満足そうに微笑んだ。
●
――数刻前。
「全速前進。紡錘陣形で敵陣に突撃します」
「……はっ!?」
ヴェルナーの提案に統一地球連合宙軍の軍人は思わず声を上げた。
このまま前進すれば敵に包囲されて殲滅される恐れもあるのだ。普通に考えて前進はあり得ない。だが、ヴェルナーは敢えて突撃を選択した。
自殺行為だ。それが軍人の率直な感想だった。
その考えを察したヴェルナーは続けて口を開く。
「敵の包囲は完成していません。敵の数が倍に匹敵するのは敵の総数です。戦力を三分にした時点で戦力はこちらの方が上です」
「お言葉ですが、中央の艦隊に突撃する間に左右の艦隊に包囲される恐れがあります」
「だからこそ、早急に中央艦隊の旗艦を墜とさなければなりません」
ヴェルナーにとって大きな賭けだ。
ここを抜かれれば邪神へ突入を仕掛ける連合軍やハンターに大きな影響を与える。下手をすれば作戦そのものが瓦解しかねない。その為には敵をこの宙域で撃破、もしくは釘付けにしなければならない。
たとえ、預かった艦隊を犠牲にしたとしても――。
「敵艦隊、射程距離へ入りました」
「全艦隊、砲撃準備。砲撃に続いてハンターも出撃。敵旗艦を見つけ出して下さい」
軍人も既に敵の射程距離に入っている事を察した。
正面からの砲撃戦になる。もう反対している時間はない。
踵を返す軍人を前に、ヴェルナーは一言命じた。
「始めましょう。勝利の為に……Feuer」
リプレイ本文
――王国歴1019年。
邪神ファナティックブラッドに対し、連合軍は徹底交戦を掲げて艦隊を派遣する。
俗に言う『邪神戦争』と呼ばれる争いは、星々の生存競争と称しても差し支えない。
邪神に飲まれる前に、邪神を倒す。
人々は、その為に鬼でも悪魔にでもなる。
「試作型キャノンでいきます」
月から少し離れた場所に建造されたある企業の研究施設で、クオン・サガラ(ka0018)――アルターAは専用ドックへと急いでいた。
邪神討伐本隊から外れた位置に敵艦隊を捕捉。
既に連合軍は戦力を派遣しているが、今から月を出発してもアルターAは間に合わない。そこでマスドライバーキャノンを改良した専用カタパルトで一気に敵艦隊の元へ辿り着く算段だ。
だが、企業の研究者は明確に反対する。
「無理です。テストでも数回に一度、試験用コンテナが衝撃で破壊されています。危険過ぎる」
「……それなら心配はいらない。わたしと……アルテミスなら」
ガラス越しに愛機『アルテミス』を見つめるアルターA。
宇宙戦用の超大型起動兵器。
多数の武装を携えた移動武器庫にも等しい機体だが、アルターAはこの愛機を信じていた。それは人造精霊『アトロポス』による制御システムの存在も大きいだろう。
「わ、分かりました。急いで関係者へ通達します。機体の最終チェックをお願いします」
慌てる研究者に対して、アルターAは余裕の笑みを浮かべて答える。
「もう済んでます」
●
主戦場となった邪神交戦宙域から離れた地点に現れた歪虚艦隊。
クヴァシル星系アースガルズ大帝国所属第七艦隊は、大きく迂回する事で連合軍の中腹へ攻撃を仕掛ける作戦であった。
「敵の動きが素早いな」
旗艦『トリウムフ』のブリッジに大きく表示される戦況を見つめながら、ジルヴェスター・シュティークロート中将は率直な感想を抱いた。
敵の指揮官は想定よりも思い切りが良い。大胆だが、決して無謀ではない。
「ラルフ。左右の艦隊への通信回線を開け」
「申し訳ありません、閣下。既に敵の通信封鎖が成功しております」
「だろうな」
ラルフ・ベーデカー大尉からの報告にジルヴェスターは満足そうに微笑んだ。
仮にジルヴェスターが同じ立場であっても同じ作戦を取る。あくまでも一対一の艦隊戦に持ち込んで正面から敵を叩き潰す。左右に分散した艦隊が独自判断で合流する前に決着を付ける必要がある。その判断を瞬時に行えたのであれば勝算に値する。
「閣下、嬉しそうに見えます」
「不謹慎か?」
「いいえ。閣下は難敵と衝突した際に必ずそのようにされますから」
ラルフも敵が強敵だと意識しているようだ。
ならば、取るべき行動は決まっている。
「各艦隊には砲撃指示が伝わっているな。そのまま敵を迎え撃て。スキールニルは敵旗艦を探して撃沈だ」
ジルヴェスターの作戦に変更は無い。このまま正面から艦隊による撃ち合いを挑む。
もし、ジルヴェスターが連合軍に所属していればきっと連合軍に大きな貢献を果たしただろう。
だが、彼は知らない。
――既に第七艦隊が歪虚に呑まれた後だという事を。
「敵が歪虚である事が惜しい。そう思わせる敵だ」
●
統一地球連合宙軍所属艦隊の旗艦『ブリュンヒルデ』は、歪虚艦隊に向かって砲撃を開始していた。
「バリア展開。敵の砲撃が開始されました」
「そうでしょうね。敵もこちらの行動を想定してとみるべきです」
ブリッジの戦況図を前に考えを巡らせるヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)。
敵の包囲が完成する前に目前の艦隊を壊走させる。ここでこの艦隊を討ち果たさなければ連合軍の主力へ奇襲を掛ける事は目に見えている。
「ハンターの皆さんは?」
「予定通り敵旗艦捜索に当たっています」
「おい、そっちの状況はどうじゃ?」
ブリッジに通信が舞い込んできた。
艦隊から離れた位置に布陣したミグ・ロマイヤー(ka0665)である。
「交戦は開始しました。ミグさんは準備が整い次第砲撃を開始して下さい」
「つまり決戦兵器という訳じゃな? 砲撃屋冥利に尽きるのじゃ」
ヴェルナーにとって突撃も策の一つであるが、切り札は更に残されている。
その一つがミグが準備を進めるユニット級ガーディアンウェポン『星神砲』だ。
シャングリラ級艦に匹敵するサイズであるが、大精霊の力を宿した超大型大砲はミグの言う通り決戦兵器になり得る代物だ。
「じゃが、もう少々時間がかかる。エネルギーチャージもそうなんじゃが、目標の捕捉が厄介での」
星神砲は調整に時間がかかる。長大な砲身から放たれる一撃は威力抜群。ブリュンヒルデから観測データが送られてくるものの、双方の艦隊は既に正面から突撃している。必殺の一撃を狙うチャンスはおそらく一瞬。
だからこそ、『砲撃屋』の腕を見せどころだ。
「それにしても、歪虚にまともな簡単があるではないか。これよ、これこれ。こういう戦争がしたかったんじゃよ」
ミグは今回の戦いを渡りに船を感じていた。
気色の悪いクラゲや意味不明なシェオル型よりも正面から渡り合える艦隊同士の戦い。
やり甲斐のある相手にミグはやる気十分だ。
「……頼りにしています」
ヴェルナーはそう言いながらミグとの通信を切った。
音の消えた宇宙空間で、ミグは宇宙服に身を包み星神砲の準備を続ける。
「敵が三つに分かれたなら、これを一個の部隊で叩き潰すは常道。我らが艦長殿は、対艦戦の素人というがなかなかできる。こちらも期待しておるのじゃ」
●
「一直線に突っ込むって……大将を取って短期決戦を挑むつもりかな?
それなら旗艦狙いの大冒険だ」
超魔動冒険王「スーパーグランソード」で艦隊の中を進む時音 ざくろ(ka1250)。
敵艦隊と統一地球連合宙軍艦隊は正面から砲撃の撃ち合いとなった。コンピュータ制御により艦隊同士が正面衝突する可能性は低いが、すれ違うまでに各艦隊からかなりの数の砲撃が行われる。それは宇宙空間で様々な色のエネルギーが飛び交う事になる。綺麗にもみえるが、その一つ一つがお互いを破壊するだけのエネルギーを保持している。
ざくろはそんな中である物を目撃する。
「あれは……戦闘機?
こっちもCAMや魔導アーマーで戦うと考えれば、戦闘機がいてもおかしくないか。
でも、見つけた以上は……!」
スーパーグランソードは斬艦刀「雲山」を手に戦闘機へ肉薄。軌道を先読みして飛行機に向けて雲山を振り下ろす。
だが、戦闘機は機体を縦にして刃をすり抜ける。そしてスラスターで一気に宇宙を駆け抜ける。
「わ、結構厄介な相手かな?」
そう言っている間に戦闘機は旋回。
スーパーグランソードに向けてバルカン砲の叩き込む。
揺れる機体。決戦用に強化改修されたルクシュヴァリエなのだが、悪目立ちし過ぎて敵に捕捉されてしまったか。
飛来する戦闘機。だが、その動きは別の機体に捕捉されている。
「そこで……欲を張るから」
マスティマ『morte anjo』に乗るマリィア・バルデス(ka5848)は、プラズマキャノン「アークスレイ」の照準を戦闘機へ合わせる。
ロックオンの表示と共に打ち出される一撃は戦闘機の尾翼を貫き、そのまま撃破へと至る。
「それにしてもこの敵、おかしくない?」
撃破を確認したざくろはマリィアへ話し掛ける。
今まで相手にしてきたシェオル型はもっと黒い影に包まれたような存在で感情剥き出しだった。だが、目の前にいるのはシェオル型と呼ぶには不思議な敵だ。理性的で冷静な判断もしてくる。まるで人間を相手にしているようだ。
「私もそう感じるわ。まるで歪虚ではなく、別の星と戦っているような感覚よ。
でも、歪虚である事は間違いないみたい」
「そう。なら、躊躇はいらないね」
ざくろは正直、胸を撫で下ろした。
これで人間としての意識が残っているというのならスーパーグランソードを操縦する手も鈍ってしまう。
「この状況で彼らを救うのは難しいよね」
「……いいえ、『救う』で間違っていないわ」
「え?」
「これは私の推測だけれど。きっと彼らは歪虚になった事に気付いていない。気付いていないから、こちらが歪虚の軍勢だと信じている。シェオル型として邪神に呼び出された彼らは消滅さえ許されず、ずっと敵と戦い続けている」
これが邪神との戦いだと二人は改めて思い知らされる。
仮にここで敵艦隊を消滅させたとしても、邪神が存在する限り何度でも時間置いて復活する。それは永遠の牢獄で苦役を課せられる囚人のようだ。
「彼らをここで倒して、復活する前に邪神を倒す」
「そうか。邪神を倒せば彼らも救えるのよね。その為にも早く旗艦を探して撃破しないと……」
スーパーグランソードはスラスターを全開にして更に奥へと進んでいく。
――シェオル型。
改めてこのような存在がいるのだとマリィアは理解する。
それが、苦しく辛く憐れな存在だと。
●
「こっちが旗艦狙いなら、あっちも旗艦狙いかよ……そらそうだよな」
トリプルJ(ka6653)は刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」の中で呟いた。
既に乱戦同然の状況。差があるとすれば敵がブリュンヒルデを既に発見しているという状況だろう。旗艦を護衛していたトリプルJは攻め寄せるスキールニルの撃破に苦慮していた。
「そらよっ!」
敵の人型起動兵器に向けて超々重斧「グランド・クラッシャー・マキシマム」の刃を振り下ろすトリプルJ。
更に接近する別の機体に気付くと機体を反転。マテリアルライフル「リアマラージュR2」を至近距離から発射。人型起動兵器の胸を貫いた。
先程からブリュンヒルデに群がる敵を落とし続けているが、正直キリがない。
「ヴェルナー、敵の旗艦は見つからねぇのかよ。こっちは大忙しだ」
トリプルJからクレームにも似た声。
おそらく敵はこちらの存在に気付いて所属部隊に連絡を入れている。これから多数の敵が押し寄せてくるのが想定されるが、トリプルJ一人では限界もある。
「まだです。間もなくとは思うのですが……」
「艦長。月方向から接近する機体があります。異常なスピードです」
「援軍が来ましたか」
ヴェルナーが歓喜の声をあげる。
知り合ったリアルブルーの企業に救援要請していたのが功を奏したようだ。
飛来した機体は勢いのまま戦闘宙域へ侵入。ブリュンヒルデ近くへ到達した段階でスラスターを全開にして勢いを相殺する。
「アルテミス。作戦宙域に到着。これより、作戦行動を開始する」
「おお!?」
トリプルJの前に現れたのは100メートルを越えるサイズの機体であった。
それは突如巨大な艦が現れたのかと思えるサイズだ。
「始めよう、アルテミス。これが私達の戦いだ」
アルテミスの武装コンテナが開かれ、高機動ミサイルが発射される。
前方から近づく起動兵器はミサイルの爆風に巻き込まれる。一部戦艦をも巻き込みダメージを与える。さらにそこから漏れた艦船に対してマテリアルフレアで一掃を図る。
宇宙空間に次々と生じる爆発。それは協力な火力により敵艦隊にダメージを与える状況だ。
「マジかよ。圧倒的じゃねぇか」
「そこの機体の方」
「……あ、俺か?」
アルターAはトリプルJへ通信回線を開いた。
「すいませんが、アルテミスの護衛をお願いします。アルテミスは高火力ですが接近されると能力を十二分に発揮できません」
アルテミスは巨大な機体であるが故に敵に接近されるとヒートクローで払う事が主となる。
この状況で接近される可能性は高く、アルターAとしてもそれに貴重な時間を割きたくは無いのだ。
「なんだよ、旗艦に続いて護衛対象が増えるのか……よっ!」
グランド・クラッシャー・マキシマムで近づく敵を叩き切った後、蹴りで人型起動兵器だった物を遠ざける。
大きな爆風が周囲に広がる。
トリプルJの負担は増えたものの、ブリュンヒルデの危機は去ったと言って良いだろう。
「……頃合いですね。敵に向けて通信回線を開いて下さい」
ヴェルナーは指示を飛ばす。
戦いは大きく動き始めていた。
●
「敵からの入電です。『艦隊降伏されたし。撤退すれば追撃はしない』との事です」
旗艦『トリウムフ』にもたらされた一報は、ジルヴェスターに静かな怒りを引き起こす。
艦隊戦自体は五分に等しい。スキールニルから敵旗艦の発見について一報があった。
この状況を考えれば、明らかにこちらが優勢だ。
だが、敵は降伏勧告を行ってきた。どういう意図なのか。
「脅しだと思うか、ラルフ」
「いいえ。敵は何らかの策があると思われます」
「だとするなら、その策が発動する前に敵旗艦を落とすべきか。
スキールニルへ早急な敵旗艦撃破を命じろ。また各艦は敵旗艦方向へ火力を集中。早急に敵を撃破するのだ」
ジルヴェスターは徹底抗戦を決断する。
この判断が、戦局を大きく分ける事になる。
●
「敵、攻撃を開始。ブリュンヒルデへの攻撃が激化しました」
「気高い指揮官とみていましたが、やはり降伏勧告は無視しましたか。
……ミグさん。観測データは届いていますね?」
ヴェルナーはミグへ通信回線を開く。
実は既にざくろとマリィアが敵旗艦と思しき戦艦を発見していた。
ざくろはすぐに旗艦を撃破しようとしたのだが、撃破指示を出すまで待つよう伝えていたのだ。
「バッチリじゃ。いつでも発射可能じゃ」
「ざくろさん、マリィアさん。ミグさんの砲撃で敵艦隊を攻撃した後、間を置かずに敵旗艦へ襲撃を掛けて下さい。それでこの戦いは終わるはずです」
ヴェルナーは残る二艦隊を相手にするのではなく、圧倒的な火力を見せ付ける事で撤退を促すつもりのようだ。
「分かったよ。一気に敵を仕留めてみせるから」
「こちらアルターA。観測データをこちらにも回してくれ。砲撃に合わせてこちらも別角度からマテリアル波動砲を発射する」
アルターAも星神砲とは別の角度から長距離マテリアル波動砲を発射するつもりのようだ。
タイミングを僅かにずらして発射する砲撃で、敵艦隊に甚大なダメージを与えるつもりのようだ。
「……了解しました。そちらの活躍も期待しています。トリプルJさん、敵の襲撃には注意を」
「分かってるって。玉砕覚悟で突撃なんてやられたら面倒だからな」
お膳立ては、整った。
後はその時を待つだけである。
●
「今こそ見せてやるのじゃ。大精霊の加護を受けた圧倒的な砲撃を……これが星神砲じゃっ!」
ミグの操作と同時に星神砲から発射される巨大なマテリアルの塊。但し通常のマテリアル砲と異なり、凝縮されたエネルギーは貫通弾となって敵艦隊へ襲いかかる。
敵艦隊をナナメに貫く形で発射された星神砲は、敵陣を切り裂くように直線上の艦隊を次々と消滅させていく。連射力を捨て、すべてを一撃に込める。まさに抜群の破壊力である。
さらに歪虚艦隊へ第二射が襲いかかる。
「アルテミス、波動砲発射……目標、敵艦隊旗艦方向」
アルテミスに装備された最大火力のマテリアル波動砲。
発射後に大きな隙が生じるものの、その威力は艦隊の砲撃を遥かに超える。
――波動砲発射。
それは星神砲より劣る物の、敵にすれば別方向から強力な第二射が放たれたのだ。回避する暇もない。
「こりゃすげぇや」
トリプルJの眼前には迫っていた艦隊の多くが爆発していく光景であった。
まさに戦いの趨勢は決したと感じさせる状況である。
●
「味方艦隊、多数撃沈。被害状況を確認中」
「トリウムフ、被弾。第八ブロック閉鎖しました」
「スキールニル所属機と連絡が取れません」
ジルヴェスターにもたらされる報告は、先程と大きく異なっていた。
あの降伏勧告は降伏を促すのが目的ではなく、砲撃の前に味方を下げる事が目的だった。その事に気付いたのは敵の砲撃を受けた後であった。
「閣下、ここは撤退されるべきです。残りの艦隊を再編して形成を立て直すべきです」
「そうか。致し方ない。ここは撤退……」
「閣下、本艦に迫る機体が二機。敵です!」
「!」
ジルヴェスターはここで気付いた。
敵もこちらをとうの昔に発見していた事に。
すべては敵の指揮官の掌の上だったのだ。
●
「人と歪虚の差か。人は、愛し合える事……私はそう信じてる」
既に炎に包まれた戦艦に向けてアークスレイを中腹に向けるマリィア。
旗艦への進路を塞ぐ為にこの航路を取ったのであろうが、morte anjoの前では無駄な行動だ。
沈み逝く船を前にマリィアは考える。自分を人間だと信じていた歪虚は、果たして歪虚なのだろうか。苦しみを繰り返す彼らは、記憶で人を愛すれば愛した記憶が繰り返される。
そう考えていくと自分が人か歪虚なのか分からなくなってくる。
「早く帰らないと……あの邪神を倒して」
「なら、旗艦はいただくよ!」
砲撃を迂回するように飛行していたスーパーグランソード。
通常のルクシュヴァリエよりも三倍のスピードで飛行する機体であるが故、ざくろの体に大きな力がかかる。それを感じないのは、一番槍の狙うが故だろうか。
「見えた! あの船だ」
他の艦とデザインが異なる黒い船。
あれこそ、先程狙いを定めていた旗艦だ。
スーパーグランソードはスラスターを全開にさせながら、雲山の一撃を敵旗艦のブリッジへ振り下ろした。
「一刀両断、グレートスーパーリヒトカイザー!」
光の刃となって振り下ろされた一撃は敵旗艦のブリッジを破壊。
敵旗艦は、巨大な爆炎に包まれた。
――戦いは、終わった。
おそらく今回の敵のような存在は他にも存在している。
自分が歪虚になっているとの気付かず、戦い続けさせられる存在。
彼らの命を助けても邪神によって再び生み出される。
彼らを救うには、ただ一つ。
邪神ファナティックブラッドを倒す事に他ならない。
「ざくろ達は邪神を討ちに行かなくちゃいけないんだ。こんな所で立ち止まる訳にはいかない」
ざくろらハンター達は、邪神との戦いへ身を投じる。
今度はジルヴェスターを救う為に。
邪神ファナティックブラッドに対し、連合軍は徹底交戦を掲げて艦隊を派遣する。
俗に言う『邪神戦争』と呼ばれる争いは、星々の生存競争と称しても差し支えない。
邪神に飲まれる前に、邪神を倒す。
人々は、その為に鬼でも悪魔にでもなる。
「試作型キャノンでいきます」
月から少し離れた場所に建造されたある企業の研究施設で、クオン・サガラ(ka0018)――アルターAは専用ドックへと急いでいた。
邪神討伐本隊から外れた位置に敵艦隊を捕捉。
既に連合軍は戦力を派遣しているが、今から月を出発してもアルターAは間に合わない。そこでマスドライバーキャノンを改良した専用カタパルトで一気に敵艦隊の元へ辿り着く算段だ。
だが、企業の研究者は明確に反対する。
「無理です。テストでも数回に一度、試験用コンテナが衝撃で破壊されています。危険過ぎる」
「……それなら心配はいらない。わたしと……アルテミスなら」
ガラス越しに愛機『アルテミス』を見つめるアルターA。
宇宙戦用の超大型起動兵器。
多数の武装を携えた移動武器庫にも等しい機体だが、アルターAはこの愛機を信じていた。それは人造精霊『アトロポス』による制御システムの存在も大きいだろう。
「わ、分かりました。急いで関係者へ通達します。機体の最終チェックをお願いします」
慌てる研究者に対して、アルターAは余裕の笑みを浮かべて答える。
「もう済んでます」
●
主戦場となった邪神交戦宙域から離れた地点に現れた歪虚艦隊。
クヴァシル星系アースガルズ大帝国所属第七艦隊は、大きく迂回する事で連合軍の中腹へ攻撃を仕掛ける作戦であった。
「敵の動きが素早いな」
旗艦『トリウムフ』のブリッジに大きく表示される戦況を見つめながら、ジルヴェスター・シュティークロート中将は率直な感想を抱いた。
敵の指揮官は想定よりも思い切りが良い。大胆だが、決して無謀ではない。
「ラルフ。左右の艦隊への通信回線を開け」
「申し訳ありません、閣下。既に敵の通信封鎖が成功しております」
「だろうな」
ラルフ・ベーデカー大尉からの報告にジルヴェスターは満足そうに微笑んだ。
仮にジルヴェスターが同じ立場であっても同じ作戦を取る。あくまでも一対一の艦隊戦に持ち込んで正面から敵を叩き潰す。左右に分散した艦隊が独自判断で合流する前に決着を付ける必要がある。その判断を瞬時に行えたのであれば勝算に値する。
「閣下、嬉しそうに見えます」
「不謹慎か?」
「いいえ。閣下は難敵と衝突した際に必ずそのようにされますから」
ラルフも敵が強敵だと意識しているようだ。
ならば、取るべき行動は決まっている。
「各艦隊には砲撃指示が伝わっているな。そのまま敵を迎え撃て。スキールニルは敵旗艦を探して撃沈だ」
ジルヴェスターの作戦に変更は無い。このまま正面から艦隊による撃ち合いを挑む。
もし、ジルヴェスターが連合軍に所属していればきっと連合軍に大きな貢献を果たしただろう。
だが、彼は知らない。
――既に第七艦隊が歪虚に呑まれた後だという事を。
「敵が歪虚である事が惜しい。そう思わせる敵だ」
●
統一地球連合宙軍所属艦隊の旗艦『ブリュンヒルデ』は、歪虚艦隊に向かって砲撃を開始していた。
「バリア展開。敵の砲撃が開始されました」
「そうでしょうね。敵もこちらの行動を想定してとみるべきです」
ブリッジの戦況図を前に考えを巡らせるヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)。
敵の包囲が完成する前に目前の艦隊を壊走させる。ここでこの艦隊を討ち果たさなければ連合軍の主力へ奇襲を掛ける事は目に見えている。
「ハンターの皆さんは?」
「予定通り敵旗艦捜索に当たっています」
「おい、そっちの状況はどうじゃ?」
ブリッジに通信が舞い込んできた。
艦隊から離れた位置に布陣したミグ・ロマイヤー(ka0665)である。
「交戦は開始しました。ミグさんは準備が整い次第砲撃を開始して下さい」
「つまり決戦兵器という訳じゃな? 砲撃屋冥利に尽きるのじゃ」
ヴェルナーにとって突撃も策の一つであるが、切り札は更に残されている。
その一つがミグが準備を進めるユニット級ガーディアンウェポン『星神砲』だ。
シャングリラ級艦に匹敵するサイズであるが、大精霊の力を宿した超大型大砲はミグの言う通り決戦兵器になり得る代物だ。
「じゃが、もう少々時間がかかる。エネルギーチャージもそうなんじゃが、目標の捕捉が厄介での」
星神砲は調整に時間がかかる。長大な砲身から放たれる一撃は威力抜群。ブリュンヒルデから観測データが送られてくるものの、双方の艦隊は既に正面から突撃している。必殺の一撃を狙うチャンスはおそらく一瞬。
だからこそ、『砲撃屋』の腕を見せどころだ。
「それにしても、歪虚にまともな簡単があるではないか。これよ、これこれ。こういう戦争がしたかったんじゃよ」
ミグは今回の戦いを渡りに船を感じていた。
気色の悪いクラゲや意味不明なシェオル型よりも正面から渡り合える艦隊同士の戦い。
やり甲斐のある相手にミグはやる気十分だ。
「……頼りにしています」
ヴェルナーはそう言いながらミグとの通信を切った。
音の消えた宇宙空間で、ミグは宇宙服に身を包み星神砲の準備を続ける。
「敵が三つに分かれたなら、これを一個の部隊で叩き潰すは常道。我らが艦長殿は、対艦戦の素人というがなかなかできる。こちらも期待しておるのじゃ」
●
「一直線に突っ込むって……大将を取って短期決戦を挑むつもりかな?
それなら旗艦狙いの大冒険だ」
超魔動冒険王「スーパーグランソード」で艦隊の中を進む時音 ざくろ(ka1250)。
敵艦隊と統一地球連合宙軍艦隊は正面から砲撃の撃ち合いとなった。コンピュータ制御により艦隊同士が正面衝突する可能性は低いが、すれ違うまでに各艦隊からかなりの数の砲撃が行われる。それは宇宙空間で様々な色のエネルギーが飛び交う事になる。綺麗にもみえるが、その一つ一つがお互いを破壊するだけのエネルギーを保持している。
ざくろはそんな中である物を目撃する。
「あれは……戦闘機?
こっちもCAMや魔導アーマーで戦うと考えれば、戦闘機がいてもおかしくないか。
でも、見つけた以上は……!」
スーパーグランソードは斬艦刀「雲山」を手に戦闘機へ肉薄。軌道を先読みして飛行機に向けて雲山を振り下ろす。
だが、戦闘機は機体を縦にして刃をすり抜ける。そしてスラスターで一気に宇宙を駆け抜ける。
「わ、結構厄介な相手かな?」
そう言っている間に戦闘機は旋回。
スーパーグランソードに向けてバルカン砲の叩き込む。
揺れる機体。決戦用に強化改修されたルクシュヴァリエなのだが、悪目立ちし過ぎて敵に捕捉されてしまったか。
飛来する戦闘機。だが、その動きは別の機体に捕捉されている。
「そこで……欲を張るから」
マスティマ『morte anjo』に乗るマリィア・バルデス(ka5848)は、プラズマキャノン「アークスレイ」の照準を戦闘機へ合わせる。
ロックオンの表示と共に打ち出される一撃は戦闘機の尾翼を貫き、そのまま撃破へと至る。
「それにしてもこの敵、おかしくない?」
撃破を確認したざくろはマリィアへ話し掛ける。
今まで相手にしてきたシェオル型はもっと黒い影に包まれたような存在で感情剥き出しだった。だが、目の前にいるのはシェオル型と呼ぶには不思議な敵だ。理性的で冷静な判断もしてくる。まるで人間を相手にしているようだ。
「私もそう感じるわ。まるで歪虚ではなく、別の星と戦っているような感覚よ。
でも、歪虚である事は間違いないみたい」
「そう。なら、躊躇はいらないね」
ざくろは正直、胸を撫で下ろした。
これで人間としての意識が残っているというのならスーパーグランソードを操縦する手も鈍ってしまう。
「この状況で彼らを救うのは難しいよね」
「……いいえ、『救う』で間違っていないわ」
「え?」
「これは私の推測だけれど。きっと彼らは歪虚になった事に気付いていない。気付いていないから、こちらが歪虚の軍勢だと信じている。シェオル型として邪神に呼び出された彼らは消滅さえ許されず、ずっと敵と戦い続けている」
これが邪神との戦いだと二人は改めて思い知らされる。
仮にここで敵艦隊を消滅させたとしても、邪神が存在する限り何度でも時間置いて復活する。それは永遠の牢獄で苦役を課せられる囚人のようだ。
「彼らをここで倒して、復活する前に邪神を倒す」
「そうか。邪神を倒せば彼らも救えるのよね。その為にも早く旗艦を探して撃破しないと……」
スーパーグランソードはスラスターを全開にして更に奥へと進んでいく。
――シェオル型。
改めてこのような存在がいるのだとマリィアは理解する。
それが、苦しく辛く憐れな存在だと。
●
「こっちが旗艦狙いなら、あっちも旗艦狙いかよ……そらそうだよな」
トリプルJ(ka6653)は刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」の中で呟いた。
既に乱戦同然の状況。差があるとすれば敵がブリュンヒルデを既に発見しているという状況だろう。旗艦を護衛していたトリプルJは攻め寄せるスキールニルの撃破に苦慮していた。
「そらよっ!」
敵の人型起動兵器に向けて超々重斧「グランド・クラッシャー・マキシマム」の刃を振り下ろすトリプルJ。
更に接近する別の機体に気付くと機体を反転。マテリアルライフル「リアマラージュR2」を至近距離から発射。人型起動兵器の胸を貫いた。
先程からブリュンヒルデに群がる敵を落とし続けているが、正直キリがない。
「ヴェルナー、敵の旗艦は見つからねぇのかよ。こっちは大忙しだ」
トリプルJからクレームにも似た声。
おそらく敵はこちらの存在に気付いて所属部隊に連絡を入れている。これから多数の敵が押し寄せてくるのが想定されるが、トリプルJ一人では限界もある。
「まだです。間もなくとは思うのですが……」
「艦長。月方向から接近する機体があります。異常なスピードです」
「援軍が来ましたか」
ヴェルナーが歓喜の声をあげる。
知り合ったリアルブルーの企業に救援要請していたのが功を奏したようだ。
飛来した機体は勢いのまま戦闘宙域へ侵入。ブリュンヒルデ近くへ到達した段階でスラスターを全開にして勢いを相殺する。
「アルテミス。作戦宙域に到着。これより、作戦行動を開始する」
「おお!?」
トリプルJの前に現れたのは100メートルを越えるサイズの機体であった。
それは突如巨大な艦が現れたのかと思えるサイズだ。
「始めよう、アルテミス。これが私達の戦いだ」
アルテミスの武装コンテナが開かれ、高機動ミサイルが発射される。
前方から近づく起動兵器はミサイルの爆風に巻き込まれる。一部戦艦をも巻き込みダメージを与える。さらにそこから漏れた艦船に対してマテリアルフレアで一掃を図る。
宇宙空間に次々と生じる爆発。それは協力な火力により敵艦隊にダメージを与える状況だ。
「マジかよ。圧倒的じゃねぇか」
「そこの機体の方」
「……あ、俺か?」
アルターAはトリプルJへ通信回線を開いた。
「すいませんが、アルテミスの護衛をお願いします。アルテミスは高火力ですが接近されると能力を十二分に発揮できません」
アルテミスは巨大な機体であるが故に敵に接近されるとヒートクローで払う事が主となる。
この状況で接近される可能性は高く、アルターAとしてもそれに貴重な時間を割きたくは無いのだ。
「なんだよ、旗艦に続いて護衛対象が増えるのか……よっ!」
グランド・クラッシャー・マキシマムで近づく敵を叩き切った後、蹴りで人型起動兵器だった物を遠ざける。
大きな爆風が周囲に広がる。
トリプルJの負担は増えたものの、ブリュンヒルデの危機は去ったと言って良いだろう。
「……頃合いですね。敵に向けて通信回線を開いて下さい」
ヴェルナーは指示を飛ばす。
戦いは大きく動き始めていた。
●
「敵からの入電です。『艦隊降伏されたし。撤退すれば追撃はしない』との事です」
旗艦『トリウムフ』にもたらされた一報は、ジルヴェスターに静かな怒りを引き起こす。
艦隊戦自体は五分に等しい。スキールニルから敵旗艦の発見について一報があった。
この状況を考えれば、明らかにこちらが優勢だ。
だが、敵は降伏勧告を行ってきた。どういう意図なのか。
「脅しだと思うか、ラルフ」
「いいえ。敵は何らかの策があると思われます」
「だとするなら、その策が発動する前に敵旗艦を落とすべきか。
スキールニルへ早急な敵旗艦撃破を命じろ。また各艦は敵旗艦方向へ火力を集中。早急に敵を撃破するのだ」
ジルヴェスターは徹底抗戦を決断する。
この判断が、戦局を大きく分ける事になる。
●
「敵、攻撃を開始。ブリュンヒルデへの攻撃が激化しました」
「気高い指揮官とみていましたが、やはり降伏勧告は無視しましたか。
……ミグさん。観測データは届いていますね?」
ヴェルナーはミグへ通信回線を開く。
実は既にざくろとマリィアが敵旗艦と思しき戦艦を発見していた。
ざくろはすぐに旗艦を撃破しようとしたのだが、撃破指示を出すまで待つよう伝えていたのだ。
「バッチリじゃ。いつでも発射可能じゃ」
「ざくろさん、マリィアさん。ミグさんの砲撃で敵艦隊を攻撃した後、間を置かずに敵旗艦へ襲撃を掛けて下さい。それでこの戦いは終わるはずです」
ヴェルナーは残る二艦隊を相手にするのではなく、圧倒的な火力を見せ付ける事で撤退を促すつもりのようだ。
「分かったよ。一気に敵を仕留めてみせるから」
「こちらアルターA。観測データをこちらにも回してくれ。砲撃に合わせてこちらも別角度からマテリアル波動砲を発射する」
アルターAも星神砲とは別の角度から長距離マテリアル波動砲を発射するつもりのようだ。
タイミングを僅かにずらして発射する砲撃で、敵艦隊に甚大なダメージを与えるつもりのようだ。
「……了解しました。そちらの活躍も期待しています。トリプルJさん、敵の襲撃には注意を」
「分かってるって。玉砕覚悟で突撃なんてやられたら面倒だからな」
お膳立ては、整った。
後はその時を待つだけである。
●
「今こそ見せてやるのじゃ。大精霊の加護を受けた圧倒的な砲撃を……これが星神砲じゃっ!」
ミグの操作と同時に星神砲から発射される巨大なマテリアルの塊。但し通常のマテリアル砲と異なり、凝縮されたエネルギーは貫通弾となって敵艦隊へ襲いかかる。
敵艦隊をナナメに貫く形で発射された星神砲は、敵陣を切り裂くように直線上の艦隊を次々と消滅させていく。連射力を捨て、すべてを一撃に込める。まさに抜群の破壊力である。
さらに歪虚艦隊へ第二射が襲いかかる。
「アルテミス、波動砲発射……目標、敵艦隊旗艦方向」
アルテミスに装備された最大火力のマテリアル波動砲。
発射後に大きな隙が生じるものの、その威力は艦隊の砲撃を遥かに超える。
――波動砲発射。
それは星神砲より劣る物の、敵にすれば別方向から強力な第二射が放たれたのだ。回避する暇もない。
「こりゃすげぇや」
トリプルJの眼前には迫っていた艦隊の多くが爆発していく光景であった。
まさに戦いの趨勢は決したと感じさせる状況である。
●
「味方艦隊、多数撃沈。被害状況を確認中」
「トリウムフ、被弾。第八ブロック閉鎖しました」
「スキールニル所属機と連絡が取れません」
ジルヴェスターにもたらされる報告は、先程と大きく異なっていた。
あの降伏勧告は降伏を促すのが目的ではなく、砲撃の前に味方を下げる事が目的だった。その事に気付いたのは敵の砲撃を受けた後であった。
「閣下、ここは撤退されるべきです。残りの艦隊を再編して形成を立て直すべきです」
「そうか。致し方ない。ここは撤退……」
「閣下、本艦に迫る機体が二機。敵です!」
「!」
ジルヴェスターはここで気付いた。
敵もこちらをとうの昔に発見していた事に。
すべては敵の指揮官の掌の上だったのだ。
●
「人と歪虚の差か。人は、愛し合える事……私はそう信じてる」
既に炎に包まれた戦艦に向けてアークスレイを中腹に向けるマリィア。
旗艦への進路を塞ぐ為にこの航路を取ったのであろうが、morte anjoの前では無駄な行動だ。
沈み逝く船を前にマリィアは考える。自分を人間だと信じていた歪虚は、果たして歪虚なのだろうか。苦しみを繰り返す彼らは、記憶で人を愛すれば愛した記憶が繰り返される。
そう考えていくと自分が人か歪虚なのか分からなくなってくる。
「早く帰らないと……あの邪神を倒して」
「なら、旗艦はいただくよ!」
砲撃を迂回するように飛行していたスーパーグランソード。
通常のルクシュヴァリエよりも三倍のスピードで飛行する機体であるが故、ざくろの体に大きな力がかかる。それを感じないのは、一番槍の狙うが故だろうか。
「見えた! あの船だ」
他の艦とデザインが異なる黒い船。
あれこそ、先程狙いを定めていた旗艦だ。
スーパーグランソードはスラスターを全開にさせながら、雲山の一撃を敵旗艦のブリッジへ振り下ろした。
「一刀両断、グレートスーパーリヒトカイザー!」
光の刃となって振り下ろされた一撃は敵旗艦のブリッジを破壊。
敵旗艦は、巨大な爆炎に包まれた。
――戦いは、終わった。
おそらく今回の敵のような存在は他にも存在している。
自分が歪虚になっているとの気付かず、戦い続けさせられる存在。
彼らの命を助けても邪神によって再び生み出される。
彼らを救うには、ただ一つ。
邪神ファナティックブラッドを倒す事に他ならない。
「ざくろ達は邪神を討ちに行かなくちゃいけないんだ。こんな所で立ち止まる訳にはいかない」
ざくろらハンター達は、邪神との戦いへ身を投じる。
今度はジルヴェスターを救う為に。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 |