ゲスト
(ka0000)
burglar burglar
マスター:墨上古流人

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~2人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/02/06 22:00
- 完成日
- 2015/02/14 06:41
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
◆
透き通るような凛とした空気が窓から部屋へと流れ込む。
隙間なく町中に張られた小夜時雨は、夜の街が生み出す下品な光をスクリーンのように映し出していた。
ここは、帝国第九師団救援部隊、フリデンルーエンの執務室。
静かでさらさらとした雨音よりも太い、ぽこぽことした水音が石作りの部屋に響く。
そのまま壁に染み入るような香り高い湯気は、師団長ユウ=クヴァールの鼻孔を心地よくくすぐっていた。
「飲む? 特別良い茶葉ってワケでもないけど」
冷える室内、静寂をぶち壊しにする激しいくしゃみをした副師団長、リベルト=アンスリウムの顔前で、
わざとらしくゆらゆらとティーカップを揺らすユウ。
煩わしかったのか、宙でがしっとユウの腕をつかむと、そのままカップを口元へ運んでがぶりと飲み干す。
「あーん、僕のー」
「うるせ。とられたくなきゃちゃんと手元でもっとけ」
腕を掴んだ際に鼻にはねた熱い雫を袖で乱暴に拭き取るリベルト。
「そうそう、それで思い出したんだけどさ」
「ちょっと出てくる」
「まぁ待ってよ。リベルトの腕を見込んでお願いするんだしさ」
「やっぱり仕事の話じゃねーか!」
席を立とうとして机に置いた手に力が入るリベルトと、
立とうとする彼の肩をがっしり掴んで座らせようとするユウの攻防がしばらく続く。
「最近CAMとか、魔導アーマー関係でお仕事が増えてたじゃん? 対外的な露出も増えてきたし」
「あぁ、でも結局実質の運用はまだ先になりそうだろ?」
「うん。で、問題になるのが魔導アーマーだと、燃料の鉱物性マテリアルの確保なんだけど……」
「嫌だ! 絶対嫌だ! どうせ採掘場がコボルドに占拠されたから蹴散らしてこいとか、エルフと交渉して代用燃料になるエルフハイムの木材を売ってもらってこいとか、そんなん押し付けるんだろ!」
「いや、モノについては手配してあるよ」
「おろ?」
がくっ、とわざとらしく肩を崩すリベルト。
彼の大げさな性格が災いしたか、そのままストン、と椅子に落ち着かせられてしまう。
「物流に精通している【馴鹿】って事務所があるんだけどさ」
「知ってる。依頼だからっつってうちの前に生ゴミの詰まった袋を山のように置いてったぞ。着払いで」
「嫌がらせでもしっかり運ぶなんて、仕事にストイックで関心だよね」
「限度があんだろ。仕返しに師団の野郎どもの洗ってないパンツと靴下送り返してやったけどな」
「それは別にいいんだけどさ、要はその【馴鹿】に鉱物性マテリアルの確保を依頼したら、なんとか工面してくれたんだ」
「やるじゃねぇか。今ちょうど魔導アーマーの実戦投入には燃料の確保が問題になってるっつー時に」
「それで、うちで魔導トラック使って運ぶつもりだったんだけど……途中で襲われちゃったらしくてさ」
「なんでそんなあっさり盗られてんだよ、今やかなり大事なシロモノだろ」
「ハンター何人か護衛につけたらしいんだけど、隙を突かれてつい、だって」
がしがしと頭を掻き、深いため息をついて机に突っ伏すリベルト。
「ありえん。師団都市で起きてる以上、下手したらうちの責任問題になるぞ。ただでさえこの街を疎ましく思ってる奴らだっているのに」
「うん、だから早急にリベルトのとこで調査して今ある場所と犯人を特定して欲しいんだ」
「……ん? ちょっと待て。そこまででいいのか?」
突っ伏したまま顔をくるりと動かして、リベルトが怪訝な顔を見せる。
「うちの責任問題になりかねないっつってんだろ? 特定してそのまま俺のとこで取り返しちまえばいいじゃないか」
「それが手っ取り早いんだけどさー……メインはハンター主導でやって欲しいんだ」
リベルトから手を離し、傍らのポットから新しく紅茶を注ぐユウ。
短い時間で、湯気は既に淡く昇る程度になってしまっていた。
「責任取らせる的なニュアンスだったらちょっと違うんじゃねーか?」
「うん、少し違うね。別に参加する各々はどういう理由で協力してくれてもいいんだけど、ソサエティ的には汚名を返上する機会ってのをあげた方が、今後うまく付き合えそうだし……僕としても親ハンター派だから、ハンター達の無限の可能性には期待してみたいんだ」
「黒い事言ったり歯が浮くような事言ったり……どっちが本心でも気味がわりぃよ」
舌打ち混じりで跳ね起き、机に腰を下ろしてから煙草に火をつけるリベルト。
「まぁ、転移門があるからハンターをすぐ呼べるってところもあるんだけどね。そのまま輸送に携わってもらってもいいし……魔導アーマーは結構ハンターの協力による興隆が大きいと思うし、今回もきっと彼らはやってくれると思うよ」
「お前がそういうならいいけどよ……」
既に冷たくなったポットを掴み、直接自身の口に茶を注ぐリベルト。
「うげ、葉っぱめっちゃ入った」
「そりゃそうだよ……茶漉しは別だもの。で、この案件、やっといてくれる?」
窓の外に口の中の葉っぱを吐き飛ばし終えてから、リベルトが口元を拭い向き直る。
「そういう事ならやっとくぜ。マテリアルもいいが……何より、この街の立場が悪くなるのは見過ごせねぇ。こーゆーとこでしか生きられねぇ奴もいるんだからな」
透き通るような凛とした空気が窓から部屋へと流れ込む。
隙間なく町中に張られた小夜時雨は、夜の街が生み出す下品な光をスクリーンのように映し出していた。
ここは、帝国第九師団救援部隊、フリデンルーエンの執務室。
静かでさらさらとした雨音よりも太い、ぽこぽことした水音が石作りの部屋に響く。
そのまま壁に染み入るような香り高い湯気は、師団長ユウ=クヴァールの鼻孔を心地よくくすぐっていた。
「飲む? 特別良い茶葉ってワケでもないけど」
冷える室内、静寂をぶち壊しにする激しいくしゃみをした副師団長、リベルト=アンスリウムの顔前で、
わざとらしくゆらゆらとティーカップを揺らすユウ。
煩わしかったのか、宙でがしっとユウの腕をつかむと、そのままカップを口元へ運んでがぶりと飲み干す。
「あーん、僕のー」
「うるせ。とられたくなきゃちゃんと手元でもっとけ」
腕を掴んだ際に鼻にはねた熱い雫を袖で乱暴に拭き取るリベルト。
「そうそう、それで思い出したんだけどさ」
「ちょっと出てくる」
「まぁ待ってよ。リベルトの腕を見込んでお願いするんだしさ」
「やっぱり仕事の話じゃねーか!」
席を立とうとして机に置いた手に力が入るリベルトと、
立とうとする彼の肩をがっしり掴んで座らせようとするユウの攻防がしばらく続く。
「最近CAMとか、魔導アーマー関係でお仕事が増えてたじゃん? 対外的な露出も増えてきたし」
「あぁ、でも結局実質の運用はまだ先になりそうだろ?」
「うん。で、問題になるのが魔導アーマーだと、燃料の鉱物性マテリアルの確保なんだけど……」
「嫌だ! 絶対嫌だ! どうせ採掘場がコボルドに占拠されたから蹴散らしてこいとか、エルフと交渉して代用燃料になるエルフハイムの木材を売ってもらってこいとか、そんなん押し付けるんだろ!」
「いや、モノについては手配してあるよ」
「おろ?」
がくっ、とわざとらしく肩を崩すリベルト。
彼の大げさな性格が災いしたか、そのままストン、と椅子に落ち着かせられてしまう。
「物流に精通している【馴鹿】って事務所があるんだけどさ」
「知ってる。依頼だからっつってうちの前に生ゴミの詰まった袋を山のように置いてったぞ。着払いで」
「嫌がらせでもしっかり運ぶなんて、仕事にストイックで関心だよね」
「限度があんだろ。仕返しに師団の野郎どもの洗ってないパンツと靴下送り返してやったけどな」
「それは別にいいんだけどさ、要はその【馴鹿】に鉱物性マテリアルの確保を依頼したら、なんとか工面してくれたんだ」
「やるじゃねぇか。今ちょうど魔導アーマーの実戦投入には燃料の確保が問題になってるっつー時に」
「それで、うちで魔導トラック使って運ぶつもりだったんだけど……途中で襲われちゃったらしくてさ」
「なんでそんなあっさり盗られてんだよ、今やかなり大事なシロモノだろ」
「ハンター何人か護衛につけたらしいんだけど、隙を突かれてつい、だって」
がしがしと頭を掻き、深いため息をついて机に突っ伏すリベルト。
「ありえん。師団都市で起きてる以上、下手したらうちの責任問題になるぞ。ただでさえこの街を疎ましく思ってる奴らだっているのに」
「うん、だから早急にリベルトのとこで調査して今ある場所と犯人を特定して欲しいんだ」
「……ん? ちょっと待て。そこまででいいのか?」
突っ伏したまま顔をくるりと動かして、リベルトが怪訝な顔を見せる。
「うちの責任問題になりかねないっつってんだろ? 特定してそのまま俺のとこで取り返しちまえばいいじゃないか」
「それが手っ取り早いんだけどさー……メインはハンター主導でやって欲しいんだ」
リベルトから手を離し、傍らのポットから新しく紅茶を注ぐユウ。
短い時間で、湯気は既に淡く昇る程度になってしまっていた。
「責任取らせる的なニュアンスだったらちょっと違うんじゃねーか?」
「うん、少し違うね。別に参加する各々はどういう理由で協力してくれてもいいんだけど、ソサエティ的には汚名を返上する機会ってのをあげた方が、今後うまく付き合えそうだし……僕としても親ハンター派だから、ハンター達の無限の可能性には期待してみたいんだ」
「黒い事言ったり歯が浮くような事言ったり……どっちが本心でも気味がわりぃよ」
舌打ち混じりで跳ね起き、机に腰を下ろしてから煙草に火をつけるリベルト。
「まぁ、転移門があるからハンターをすぐ呼べるってところもあるんだけどね。そのまま輸送に携わってもらってもいいし……魔導アーマーは結構ハンターの協力による興隆が大きいと思うし、今回もきっと彼らはやってくれると思うよ」
「お前がそういうならいいけどよ……」
既に冷たくなったポットを掴み、直接自身の口に茶を注ぐリベルト。
「うげ、葉っぱめっちゃ入った」
「そりゃそうだよ……茶漉しは別だもの。で、この案件、やっといてくれる?」
窓の外に口の中の葉っぱを吐き飛ばし終えてから、リベルトが口元を拭い向き直る。
「そういう事ならやっとくぜ。マテリアルもいいが……何より、この街の立場が悪くなるのは見過ごせねぇ。こーゆーとこでしか生きられねぇ奴もいるんだからな」
リプレイ本文
◆
目に痛い程のカラフルな光、耳に痛いほどの種々の喧噪。
そんな夜の歓楽街、ラオネン。
広い酒場、卓上ランプの灯火が人々の声で揺れる程に賑わうその店に、
フィオナ・クラレント(ka4101)の姿があった。彼女の眼光の先では、やたらと口の回る男が、
1人の女性に声をかけまくっていた。
「悪いな、ツレだ」
ヘラヘラとしていた男の肩を掴みフィオナが声をかける。
舌打ち交じりで男は去っていくと
声をかけられていたマレーネ・シェーンベルグ(ka4094)が、
ゆっくりフィオナの方を見て、口を開く。
「さまざまなおもいがこうさしていて、このまちはとてもきょうみぶかいですの」
帝国は嫌いだがこの街は好きになれそう、というのが彼女の談だった。
「やはりそこまで大きく噂にはなっていないのか?」
「そのようですの。みなさんしんせつで、きがつけばきらきらしたおみせで、じょせいはすてきなどれすをきて、だんせいはおさけをのんだりしてましたわ」
「……どこに行っていたんだ」
「きくだけと、おもってましたが、いろいろおはなしできて、たのしかったですの」
頭を押さえるフィオナと、かくっ、と首を傾げるマレーネ。
「こちらの報告に移るぞ。あの館は元々そこにあって、たまたま周りに街が栄えるようになったと……住んでいるのは旧体制派……要は元々貴族だ。今は投資家として活動しているらしい」
「おかねもち、なんですのね」
「金持ちがセコい真似をするとは考えづらいが……いや、わからん。直接本人から聞くとしよう」
飲み物のおかわりを促してくる店員を適当にあしらい、席を立とうとするフィオナ。
「ところで……」
「なんだ?」
「こんかいのさくせんめいは、なににいたしましょう?」
「……終わってから考えろ」
◆
ギラギラとしていた街を日光が一色に染め始めていく。
決して広くはなく、お世辞にも綺麗とは言えない細い道を進んでいく幾つかの人影。
まるで既に沢山の人が座っているベンチのわずかな隙間に、肩を狭めるでもなく座り込んでいるような……
そんな不自然で豪奢な館の玄関へ、文字通り転がり込むように近づき扉へ体を預ける少年。
「あの、その……助け、助けてください!」
どん、どん、と扉を力無く叩くのは、ジョージ・ユニクス(ka0442)
体の殆どはマントで隠しているが、腕からは血を流している。
「うるせーぞ朝っぱらから!」
ジョージを弾き飛ばさんとする勢いで開いたドアからは、1人のドワーフの男が顔を出した。
「申し訳ありません……我々は美術品の商人と護衛の者です……暴漢に襲われてしまいまして……」
ジョージの横で肩で息をしながら説明をするのはアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)だ。
その二人の後ろからは、綺麗なドレスへ着替えたマレーネが顔を出す。
正面入り口からアプローチを試みるハンターの役目は、陽動だ。
館については、内部構造の予想までは不可能だったが、隠密班が突入するための入口は幾つか選定出来ていた。
あとは、時間を稼ぐだけ。
「あ? ざまぁねぇな。保護が欲しけりゃゴロツキに金を渡すか帝国師団にかけ込め」
話術で時間稼ぎを行っていたアルトだが、感触はまずまずだった。
仕方がないか……と、師団に用意してもらった簡易の業務委託書類を取り出そうとする。
突如、アルトの頭が真っ白になる。
盗みの疑いをかけられ、一斉に館から飛び出してくる敵、武器を剥き出しにして囲んだ3人へ襲いかかる。
そして、友人ミオレスカの料理をしながら無事を祈る姿―――
「大丈夫ですか……?」
ジョージの声にはっと現状へと意識を戻すアルト。
マテリアルリンクの祈りの力は、未来の失敗を警告した。
本当に盗みを働いている者達に、盗みの調査をしていると話をしてしまえば、
窮地に追い詰められた鼠のように、殺す覚悟で牙を向けるに違いないからだ。
「モーロクするほど参っちまってんのか?」
ふむ、と顎に手を当てて一考しだすドワーフ。
彼の視線は、ハンター達の容姿や、ジョージがこれ見よがしに落としたエンジェル金貨に目がいっていた。
「美術品って言ったな。俺にはわからねぇもんだが、うちの主は珍しいもんが好きなんだとよ」
自分の利にもなると思ったのか、中へ促す態度を見せるドワーフ。
懐柔は出来た、だが、ここで中に入ってしまっては、戦力を中に保持したままでは、陽動の意味がない。
(ソロソロ出番カナ……?)
バスッ、とハンター達がいた玄関前の階段を削る黒い影。
通路の闇から現れたアルヴィン = オールドリッチ(ka2378)の御幣の先からは、
シャドウブリットの残影がまだ迸っていた。
「御嬢サン方、今宵のゴ案内はモットイイお店がアリマスヨ?」
ハンター達にだけ見えるように、ぺろっと舌を出して見せるアルヴィン。
護衛役か追手役かで立ち回る事にしていたが、
『人を集めるなら、単純にドンパチやっちまえ。この街で頭に血を登らせるのは、女か暴力が一番だ』
事前に調査した師団のアドバイスと、護衛役が多い事を踏まえて、追手となる事にした。
「なっ……?! おい! 余所でやれこの野郎!」
「オヤ、何ヤラ金目のモノがアリソウなトコロダネ」
「てめぇ……階段の修理費と土下座じゃ足りんようだな!」
ドワーフが振り返り屋敷内部に大きく声を張り上げる。
呼ばれて飛び出てきたのは、人間が4人だった。
(事前情報からドワーフは覚醒者、この人間の中に覚醒者が何人いるか……)
アルトが陽動できた人数を確認し思案する。
後は、隠密班が上手く侵入してくれることを祈るばかりだ。
◆
屋敷の側面、唯一存在する小さなベランダへ、隣の屋根から跳び移る三つの影。
カール・フォルシアン(ka3702)が静かにガラスを割り、鍵を開ける。
「穏便にいきたいところですが、目的達成が最優先です」
その後ろから、ソフィア =リリィホルム(ka2383)と狛(ka2456)が部屋へと入ってきた。
「こんな居心地よさそうな街、中々ないんですからねっ」
「ちゃんとマテリアルは返してもらわないとっすねー」
覚醒者して半獣人化した狛のしっぽを、したしたと地面を這うように揺らしながら廊下へ続くドアを開けた。
既に点されていた廊下の明かりを、カールがワイヤーウィップで火を払い微かな闇を作り出す。
わざわざ蝋燭灯りなのは、恐らくその綺麗な燭台を見せたいが為なのかもしれない。
不意に、ソフィアが廊下に飾られた大きなツボの影に二人を押し込み身を伏せる。
視線の先では、扉から数人の人間が慌ただしく出て行くのが見えた。
最後の1人が3人の方向へ向かって来ると、
ソフィアが跳びだし、相手の口を押さえて床へと組み伏せる。
手には、デリンジャー……ではなく、極普通の皮剥き器。
意味深に下腹部を見ながら、不適な笑みを浮かべるソフィア。
「鉱物性マテリアルはどこですか? 大人しく喋ってくれないと……ペロって剥いちゃいますよ?」
「あんたみたいなお嬢さんに剥いてもらえるなら、ちょっとぐらい余らせとくんだったな……」
外の若干の喧噪とは異種の、カチ、という異音が響く。
狛が駆けだすが遅かった。ソフィアの伸ばした手は掠み、床へと吸い込まれていく。
「いったーい……」
思いきり打ちつけた臀部を涙目で擦るソフィア。彼女は1階へと落ちていた。
音と罠の発動に、ソフィアの目の前の扉から人が、そして外へ駆けつけようとした幾人かが彼女を囲みだした。
「今いくっすよ!」
狛が急ぎ穴へと飛び込み、ソフィアの前に立つ。
カールも降り立ち、ナイフで切りかかってきた人間に対して機杖を突きだす。
カカッと杖の先で剣先を遊ばせ、くるりと杖で相手の手首を巻きこめば、ナイフは宙へと放られる。
一歩踏み込み、鳩尾へエレクトリックショック。迸る雷撃は男の体を硬直させた。
狛は人間の放つ拳銃の弾を野生の瞳で見切り、タランテラの甲で顔の横へと逸らす。
姿勢を低くして倒れ込むようなダッシュから、足と手で地面を突き飛ばし、宙で鉤爪タランテラを駆動させ、
幾本もの爪で切りかかる。
「ぐっ……!」
肩を抉られた男は、梁へと弾を放つ。
苦し紛れか――違う、男の猟撃士として放つ跳弾は狛の背後のソフィアへと迫る。
ソフィアは急ぎ防御障壁を展開して頭部を狙った凶弾の威力を抑える。
「お返し……っ!」
片目を瞑り視界が赤く滴るのを防ぎながら、霧散する障壁を突き破るようにデリンジャーで撃ち返す。
エルフが割って入り防御障壁を展開、威力を殺すも姿勢を崩す。
「怪我された場合ですが……後で治して差し上げますからちょっと我慢して下さいね?」
カールが覚醒者以外の人間へ機導砲を放つ。直撃を割ける為に、
人間の近くにあった銅像を破壊して牽制すると、戦えない人間は散り散りに逃げ出してしまった。
「多分あのお二人さんが守ってる扉の先に、マテリアルっすよね」
「そうだね……どうにかされちゃう前に見つけないとっ!」
時間はかけられない。狛が爪を、ソフィアがレイピアを構えて同時に敵覚醒者2人へと斬りかかった。
◆
「おい、なんだか中が騒がしいぞ」
振り返ったドワーフの後ろで、ジョージが血だらけに『しておいた』腕を淡い光で包む。
マテリアルヒーリングで傷を治したその腕で、マントの下からソードを抜き切りかかる。
「……騙して悪い、とは言いません。事情はありますが、此方も止むに止まれませんので」
来客対応の恰好だったドワーフは、防具も無く、武器も太い棒きれのみ。
刃から体を守るのは、その逞しい腕を用いる事で精一杯だった。
罠が起動し、内部にも人が集まった為、今やお互いがお互いの陽動をしているような動き方になっていた。
「やれやれだ。終わ……っていないようだな」
満を持したように、物陰からフィオナが現れる。
状況を察し、中距離から一気に踏み込む。
ジョージの横を抜け、ドワーフの丸太のような足の腱めがけウィンドナイフで切りかかる。
だがドワーフは咄嗟に足を上げて回避。そのまま杭打機のようにあげた足を突き下ろした。
フィオナの腕を折ろうとした足との間に、ヒートソードを滑り込ませる。
「殺されないだけマシだと思え。本来ならば賊にかける情けなど無いのだからな」
足は剣の鎬で地に滑り、立ち上がる勢いで逆手のウィンドナイフで顎を切る。
仰け反ったドワーフの鳩尾には、アルヴィンのシャドウブリットが喰らいついた。
マークの空いていたアルトへ敵の魔術師がマジックアローを乱射する。
だが走りながら回避、魔法の矢が捉えるのは地面、壁、隣家の窓ガラスのみ。
フィオナが駆け付けヒートソードを魔術師へと振りおろすと、杖を横にして頭部への斬撃を防がれてしまう。
「古今東西、魔術師というのは厄介だからな……」
ギリギリと力を込め、ソードと杖の推しあいが続く。
その隙に走っていたままのアルトはランアウトでスピードを増し、
隣家へ跳躍、壁を蹴り後方へ宙返り、オートMURAMASAを起動し、魔術師の頭部を捉える。
低い駆動音が近づいてくる事に気づく頃には、遅かった。
フィオナの力と落下によるアルトのMURAMASAの斬撃で、魔術師は杖ごと腕を体を斬り折られてしまった。
マレーネが開けた扉の奥では、隠密班の3人が接線の凌ぎ合いを繰り広げていた。
「ここは引き受けます! 行ってください!」
大振りの棒をいなしながら、ジョージが叫ぶ。
その隙にマレーネとアルヴィンが扉の奥へと進んでいった。
「坊主。今の言葉、お前死んだぜ」
「そちらこそ、白旗を上げるにはもう遅いですよ……僕が真に欲しいのは……この戦いのその先だ!」
上から振り下ろされた棒を剣で受け止め、体をずらし力を地面へと逸らす。
地面へ棒を打ちつけさせられたドワーフの横腹へ、勢いよく一閃。ドワーフは、自身で作った血の水たまりへと沈んでいった。
中へ入ってきたアルヴィンの姿を捉えて、エルフの機導師が間を詰めてくる。
そこへ、マレーネがおもむろに機導砲を放った。
一条の光が向かう先は、機導師ではなく、頭上のシャンデリア。
それは誰の上に落ちるでもなく、床上で粉々に砕けて、一瞬で辺りを破砕音が支配する。
「ああ、ごめんなさい。てがすべりましたの」
流石に覚醒者だろうとなかろうと呆気にとられる。
アルヴィンへ組みついた瞬間の出来事、機導師の力が一瞬緩んだ。
その隙をついてアルヴィンが、横に持ってエルフを受け止めていた杖と体をふわっと後ろへ捻ると、
敵は宙へと放られる。そのまま、右手で抑えた杖の先に勢いをため、左手で一気に杖を打ち払う。
弧を描く杖の先端は無防備な宙の敵を地面へと叩きつけた。
打ちつけられて地面で跳ねるエルフに、ぴたりと小さなアイアンサイトを合わせるソフィア。
狙うには充分の陽動と時間だ。
「地に足が着いてねーな……」
粗野な言葉は、誰の耳にも入らない。
小口径の弾丸は、男の腰骨を砕き地を滑っていった。
同時に、拳銃の弾を撃ち尽くした敵も驚き、リロードしようとしてマグを落としたため、
対峙しているカールへナイフを抜き斬りかかる。
横凪ぎの刃をカールは鞭を縦に伸ばして横腹の前で受け止める。
そのまま刃を防いでいた鞭の緊張をほどき、敵の腕ごと鞭で巻きつけ、一気に引き寄せ体制を崩す。
そこへ追いかけるように狛が跳びかかり、両手両足で敵の背中を捉える。
地面への落ちざまに振り向き突きだしたナイフが狛の肩を貫く。冷たい刃が肉を、血を立ち切り鉄の匂いが鼻を突くが、
喰らいつくように敵から離れず、手甲でフックを頭部へ殴りいれると、敵は機杖を落として狛と一緒に床へ倒れた。
「今度こそ、ようやく終わったか……」
「おわってから、かんがえろさくせん。せいこうですわ」
「あれは作戦名の事じゃない……」
頭を押さえるフィオナと、小首を傾げるマレーネ。
アルヴィンとジョージが傷だらけの隠密班を介抱しながら、一同はマテリアルがあると思わしき奥の扉へと進んでいった。
◆
「なんとか回収できて、よかったね」
第九師団執務室にて、紙の束をとんとん、と纏める副師団長リベルトの前で、1枚の報告書をペラペラと眺める師団長のユウ。
「たまたまラッキーだったんだろうな。首謀者は旧体制派と言うか、単純に超絶わがままな金持ちコレクター。今回のマテリアルも出土した場所が珍しいから欲しかった、って事らしい」
「政治的だったり、大規模な組織的な犯行だったら、僕達ももっと大きく動かなきゃなところだったね」
「無いとも言い切れん。まだまだ課題は多いな、この街も……」
ユウの最後の一枚をひったくり、部屋を出て行くリベルト。
ユウが窓から見る景色は、相も変わらず下品に煌びやかな夜の街が広がっていた。
目に痛い程のカラフルな光、耳に痛いほどの種々の喧噪。
そんな夜の歓楽街、ラオネン。
広い酒場、卓上ランプの灯火が人々の声で揺れる程に賑わうその店に、
フィオナ・クラレント(ka4101)の姿があった。彼女の眼光の先では、やたらと口の回る男が、
1人の女性に声をかけまくっていた。
「悪いな、ツレだ」
ヘラヘラとしていた男の肩を掴みフィオナが声をかける。
舌打ち交じりで男は去っていくと
声をかけられていたマレーネ・シェーンベルグ(ka4094)が、
ゆっくりフィオナの方を見て、口を開く。
「さまざまなおもいがこうさしていて、このまちはとてもきょうみぶかいですの」
帝国は嫌いだがこの街は好きになれそう、というのが彼女の談だった。
「やはりそこまで大きく噂にはなっていないのか?」
「そのようですの。みなさんしんせつで、きがつけばきらきらしたおみせで、じょせいはすてきなどれすをきて、だんせいはおさけをのんだりしてましたわ」
「……どこに行っていたんだ」
「きくだけと、おもってましたが、いろいろおはなしできて、たのしかったですの」
頭を押さえるフィオナと、かくっ、と首を傾げるマレーネ。
「こちらの報告に移るぞ。あの館は元々そこにあって、たまたま周りに街が栄えるようになったと……住んでいるのは旧体制派……要は元々貴族だ。今は投資家として活動しているらしい」
「おかねもち、なんですのね」
「金持ちがセコい真似をするとは考えづらいが……いや、わからん。直接本人から聞くとしよう」
飲み物のおかわりを促してくる店員を適当にあしらい、席を立とうとするフィオナ。
「ところで……」
「なんだ?」
「こんかいのさくせんめいは、なににいたしましょう?」
「……終わってから考えろ」
◆
ギラギラとしていた街を日光が一色に染め始めていく。
決して広くはなく、お世辞にも綺麗とは言えない細い道を進んでいく幾つかの人影。
まるで既に沢山の人が座っているベンチのわずかな隙間に、肩を狭めるでもなく座り込んでいるような……
そんな不自然で豪奢な館の玄関へ、文字通り転がり込むように近づき扉へ体を預ける少年。
「あの、その……助け、助けてください!」
どん、どん、と扉を力無く叩くのは、ジョージ・ユニクス(ka0442)
体の殆どはマントで隠しているが、腕からは血を流している。
「うるせーぞ朝っぱらから!」
ジョージを弾き飛ばさんとする勢いで開いたドアからは、1人のドワーフの男が顔を出した。
「申し訳ありません……我々は美術品の商人と護衛の者です……暴漢に襲われてしまいまして……」
ジョージの横で肩で息をしながら説明をするのはアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)だ。
その二人の後ろからは、綺麗なドレスへ着替えたマレーネが顔を出す。
正面入り口からアプローチを試みるハンターの役目は、陽動だ。
館については、内部構造の予想までは不可能だったが、隠密班が突入するための入口は幾つか選定出来ていた。
あとは、時間を稼ぐだけ。
「あ? ざまぁねぇな。保護が欲しけりゃゴロツキに金を渡すか帝国師団にかけ込め」
話術で時間稼ぎを行っていたアルトだが、感触はまずまずだった。
仕方がないか……と、師団に用意してもらった簡易の業務委託書類を取り出そうとする。
突如、アルトの頭が真っ白になる。
盗みの疑いをかけられ、一斉に館から飛び出してくる敵、武器を剥き出しにして囲んだ3人へ襲いかかる。
そして、友人ミオレスカの料理をしながら無事を祈る姿―――
「大丈夫ですか……?」
ジョージの声にはっと現状へと意識を戻すアルト。
マテリアルリンクの祈りの力は、未来の失敗を警告した。
本当に盗みを働いている者達に、盗みの調査をしていると話をしてしまえば、
窮地に追い詰められた鼠のように、殺す覚悟で牙を向けるに違いないからだ。
「モーロクするほど参っちまってんのか?」
ふむ、と顎に手を当てて一考しだすドワーフ。
彼の視線は、ハンター達の容姿や、ジョージがこれ見よがしに落としたエンジェル金貨に目がいっていた。
「美術品って言ったな。俺にはわからねぇもんだが、うちの主は珍しいもんが好きなんだとよ」
自分の利にもなると思ったのか、中へ促す態度を見せるドワーフ。
懐柔は出来た、だが、ここで中に入ってしまっては、戦力を中に保持したままでは、陽動の意味がない。
(ソロソロ出番カナ……?)
バスッ、とハンター達がいた玄関前の階段を削る黒い影。
通路の闇から現れたアルヴィン = オールドリッチ(ka2378)の御幣の先からは、
シャドウブリットの残影がまだ迸っていた。
「御嬢サン方、今宵のゴ案内はモットイイお店がアリマスヨ?」
ハンター達にだけ見えるように、ぺろっと舌を出して見せるアルヴィン。
護衛役か追手役かで立ち回る事にしていたが、
『人を集めるなら、単純にドンパチやっちまえ。この街で頭に血を登らせるのは、女か暴力が一番だ』
事前に調査した師団のアドバイスと、護衛役が多い事を踏まえて、追手となる事にした。
「なっ……?! おい! 余所でやれこの野郎!」
「オヤ、何ヤラ金目のモノがアリソウなトコロダネ」
「てめぇ……階段の修理費と土下座じゃ足りんようだな!」
ドワーフが振り返り屋敷内部に大きく声を張り上げる。
呼ばれて飛び出てきたのは、人間が4人だった。
(事前情報からドワーフは覚醒者、この人間の中に覚醒者が何人いるか……)
アルトが陽動できた人数を確認し思案する。
後は、隠密班が上手く侵入してくれることを祈るばかりだ。
◆
屋敷の側面、唯一存在する小さなベランダへ、隣の屋根から跳び移る三つの影。
カール・フォルシアン(ka3702)が静かにガラスを割り、鍵を開ける。
「穏便にいきたいところですが、目的達成が最優先です」
その後ろから、ソフィア =リリィホルム(ka2383)と狛(ka2456)が部屋へと入ってきた。
「こんな居心地よさそうな街、中々ないんですからねっ」
「ちゃんとマテリアルは返してもらわないとっすねー」
覚醒者して半獣人化した狛のしっぽを、したしたと地面を這うように揺らしながら廊下へ続くドアを開けた。
既に点されていた廊下の明かりを、カールがワイヤーウィップで火を払い微かな闇を作り出す。
わざわざ蝋燭灯りなのは、恐らくその綺麗な燭台を見せたいが為なのかもしれない。
不意に、ソフィアが廊下に飾られた大きなツボの影に二人を押し込み身を伏せる。
視線の先では、扉から数人の人間が慌ただしく出て行くのが見えた。
最後の1人が3人の方向へ向かって来ると、
ソフィアが跳びだし、相手の口を押さえて床へと組み伏せる。
手には、デリンジャー……ではなく、極普通の皮剥き器。
意味深に下腹部を見ながら、不適な笑みを浮かべるソフィア。
「鉱物性マテリアルはどこですか? 大人しく喋ってくれないと……ペロって剥いちゃいますよ?」
「あんたみたいなお嬢さんに剥いてもらえるなら、ちょっとぐらい余らせとくんだったな……」
外の若干の喧噪とは異種の、カチ、という異音が響く。
狛が駆けだすが遅かった。ソフィアの伸ばした手は掠み、床へと吸い込まれていく。
「いったーい……」
思いきり打ちつけた臀部を涙目で擦るソフィア。彼女は1階へと落ちていた。
音と罠の発動に、ソフィアの目の前の扉から人が、そして外へ駆けつけようとした幾人かが彼女を囲みだした。
「今いくっすよ!」
狛が急ぎ穴へと飛び込み、ソフィアの前に立つ。
カールも降り立ち、ナイフで切りかかってきた人間に対して機杖を突きだす。
カカッと杖の先で剣先を遊ばせ、くるりと杖で相手の手首を巻きこめば、ナイフは宙へと放られる。
一歩踏み込み、鳩尾へエレクトリックショック。迸る雷撃は男の体を硬直させた。
狛は人間の放つ拳銃の弾を野生の瞳で見切り、タランテラの甲で顔の横へと逸らす。
姿勢を低くして倒れ込むようなダッシュから、足と手で地面を突き飛ばし、宙で鉤爪タランテラを駆動させ、
幾本もの爪で切りかかる。
「ぐっ……!」
肩を抉られた男は、梁へと弾を放つ。
苦し紛れか――違う、男の猟撃士として放つ跳弾は狛の背後のソフィアへと迫る。
ソフィアは急ぎ防御障壁を展開して頭部を狙った凶弾の威力を抑える。
「お返し……っ!」
片目を瞑り視界が赤く滴るのを防ぎながら、霧散する障壁を突き破るようにデリンジャーで撃ち返す。
エルフが割って入り防御障壁を展開、威力を殺すも姿勢を崩す。
「怪我された場合ですが……後で治して差し上げますからちょっと我慢して下さいね?」
カールが覚醒者以外の人間へ機導砲を放つ。直撃を割ける為に、
人間の近くにあった銅像を破壊して牽制すると、戦えない人間は散り散りに逃げ出してしまった。
「多分あのお二人さんが守ってる扉の先に、マテリアルっすよね」
「そうだね……どうにかされちゃう前に見つけないとっ!」
時間はかけられない。狛が爪を、ソフィアがレイピアを構えて同時に敵覚醒者2人へと斬りかかった。
◆
「おい、なんだか中が騒がしいぞ」
振り返ったドワーフの後ろで、ジョージが血だらけに『しておいた』腕を淡い光で包む。
マテリアルヒーリングで傷を治したその腕で、マントの下からソードを抜き切りかかる。
「……騙して悪い、とは言いません。事情はありますが、此方も止むに止まれませんので」
来客対応の恰好だったドワーフは、防具も無く、武器も太い棒きれのみ。
刃から体を守るのは、その逞しい腕を用いる事で精一杯だった。
罠が起動し、内部にも人が集まった為、今やお互いがお互いの陽動をしているような動き方になっていた。
「やれやれだ。終わ……っていないようだな」
満を持したように、物陰からフィオナが現れる。
状況を察し、中距離から一気に踏み込む。
ジョージの横を抜け、ドワーフの丸太のような足の腱めがけウィンドナイフで切りかかる。
だがドワーフは咄嗟に足を上げて回避。そのまま杭打機のようにあげた足を突き下ろした。
フィオナの腕を折ろうとした足との間に、ヒートソードを滑り込ませる。
「殺されないだけマシだと思え。本来ならば賊にかける情けなど無いのだからな」
足は剣の鎬で地に滑り、立ち上がる勢いで逆手のウィンドナイフで顎を切る。
仰け反ったドワーフの鳩尾には、アルヴィンのシャドウブリットが喰らいついた。
マークの空いていたアルトへ敵の魔術師がマジックアローを乱射する。
だが走りながら回避、魔法の矢が捉えるのは地面、壁、隣家の窓ガラスのみ。
フィオナが駆け付けヒートソードを魔術師へと振りおろすと、杖を横にして頭部への斬撃を防がれてしまう。
「古今東西、魔術師というのは厄介だからな……」
ギリギリと力を込め、ソードと杖の推しあいが続く。
その隙に走っていたままのアルトはランアウトでスピードを増し、
隣家へ跳躍、壁を蹴り後方へ宙返り、オートMURAMASAを起動し、魔術師の頭部を捉える。
低い駆動音が近づいてくる事に気づく頃には、遅かった。
フィオナの力と落下によるアルトのMURAMASAの斬撃で、魔術師は杖ごと腕を体を斬り折られてしまった。
マレーネが開けた扉の奥では、隠密班の3人が接線の凌ぎ合いを繰り広げていた。
「ここは引き受けます! 行ってください!」
大振りの棒をいなしながら、ジョージが叫ぶ。
その隙にマレーネとアルヴィンが扉の奥へと進んでいった。
「坊主。今の言葉、お前死んだぜ」
「そちらこそ、白旗を上げるにはもう遅いですよ……僕が真に欲しいのは……この戦いのその先だ!」
上から振り下ろされた棒を剣で受け止め、体をずらし力を地面へと逸らす。
地面へ棒を打ちつけさせられたドワーフの横腹へ、勢いよく一閃。ドワーフは、自身で作った血の水たまりへと沈んでいった。
中へ入ってきたアルヴィンの姿を捉えて、エルフの機導師が間を詰めてくる。
そこへ、マレーネがおもむろに機導砲を放った。
一条の光が向かう先は、機導師ではなく、頭上のシャンデリア。
それは誰の上に落ちるでもなく、床上で粉々に砕けて、一瞬で辺りを破砕音が支配する。
「ああ、ごめんなさい。てがすべりましたの」
流石に覚醒者だろうとなかろうと呆気にとられる。
アルヴィンへ組みついた瞬間の出来事、機導師の力が一瞬緩んだ。
その隙をついてアルヴィンが、横に持ってエルフを受け止めていた杖と体をふわっと後ろへ捻ると、
敵は宙へと放られる。そのまま、右手で抑えた杖の先に勢いをため、左手で一気に杖を打ち払う。
弧を描く杖の先端は無防備な宙の敵を地面へと叩きつけた。
打ちつけられて地面で跳ねるエルフに、ぴたりと小さなアイアンサイトを合わせるソフィア。
狙うには充分の陽動と時間だ。
「地に足が着いてねーな……」
粗野な言葉は、誰の耳にも入らない。
小口径の弾丸は、男の腰骨を砕き地を滑っていった。
同時に、拳銃の弾を撃ち尽くした敵も驚き、リロードしようとしてマグを落としたため、
対峙しているカールへナイフを抜き斬りかかる。
横凪ぎの刃をカールは鞭を縦に伸ばして横腹の前で受け止める。
そのまま刃を防いでいた鞭の緊張をほどき、敵の腕ごと鞭で巻きつけ、一気に引き寄せ体制を崩す。
そこへ追いかけるように狛が跳びかかり、両手両足で敵の背中を捉える。
地面への落ちざまに振り向き突きだしたナイフが狛の肩を貫く。冷たい刃が肉を、血を立ち切り鉄の匂いが鼻を突くが、
喰らいつくように敵から離れず、手甲でフックを頭部へ殴りいれると、敵は機杖を落として狛と一緒に床へ倒れた。
「今度こそ、ようやく終わったか……」
「おわってから、かんがえろさくせん。せいこうですわ」
「あれは作戦名の事じゃない……」
頭を押さえるフィオナと、小首を傾げるマレーネ。
アルヴィンとジョージが傷だらけの隠密班を介抱しながら、一同はマテリアルがあると思わしき奥の扉へと進んでいった。
◆
「なんとか回収できて、よかったね」
第九師団執務室にて、紙の束をとんとん、と纏める副師団長リベルトの前で、1枚の報告書をペラペラと眺める師団長のユウ。
「たまたまラッキーだったんだろうな。首謀者は旧体制派と言うか、単純に超絶わがままな金持ちコレクター。今回のマテリアルも出土した場所が珍しいから欲しかった、って事らしい」
「政治的だったり、大規模な組織的な犯行だったら、僕達ももっと大きく動かなきゃなところだったね」
「無いとも言い切れん。まだまだ課題は多いな、この街も……」
ユウの最後の一枚をひったくり、部屋を出て行くリベルト。
ユウが窓から見る景色は、相も変わらず下品に煌びやかな夜の街が広がっていた。
依頼結果
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師団長殿、質問です! ソフィア =リリィホルム(ka2383) ドワーフ|14才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/02/06 12:44:23 |
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取り返すよっ! ソフィア =リリィホルム(ka2383) ドワーフ|14才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/02/06 13:49:07 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/02/01 11:34:17 |