ゲスト
(ka0000)
【MN】私が幻獣になっても
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/08/22 07:30
- 完成日
- 2019/08/30 22:22
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
それは、きっと夢の中の出来事。
●
――目が覚めたら、自分の姿はいつもと異なっていた。
これだけだときっと訳がわからないだろう。
とりあえず手を見てみるとふかふかの毛で覆われていたり、あるいは羽で覆われていたり……
どう見ても人間ではない。
どう見ても、『幻獣』なのだ。
声を発してみる。……声帯は異なるが、ご都合主義で人語を話すことができるから、全部が人間でなくなったわけではないらしい。
ああ、それにしてもどうしよう。今日は今のところ予定もないし、のんびり過ごそうと思っていたのだが……
――と、
『ご主人様ー♪ おはようございますー♪』
そう言って近づいてくるのは自分とともに戦う間柄である幻獣だ。これまた都合よく幻獣の言葉を理解できるようになっているらしい。
とりあえず状況がよくわからない。仕方がないので、こういうときに頼るべきはハンターズソサエティだ。もふもふの姿のまま、幻獣を引き連れ、ハンターオフィスに向かった。
●
行った先ではまたもや混乱が起きていた。今回もまた、似たような事例で困っている人が数多いらしい。
「とりあえず今日は特別な用事がない限り、のんびり過ごしてください。多分一日も経てば元に戻ったりもするかもしれませんから」
そんな風に言われてしまうと、もうどうしようもない。
まあ、こんな日もあるさ――
そう自分に言い聞かせながら、幻獣の姿のまま、幻獣と一日を過ごすことになったのである。
それは、きっと夢の中の出来事。
●
――目が覚めたら、自分の姿はいつもと異なっていた。
これだけだときっと訳がわからないだろう。
とりあえず手を見てみるとふかふかの毛で覆われていたり、あるいは羽で覆われていたり……
どう見ても人間ではない。
どう見ても、『幻獣』なのだ。
声を発してみる。……声帯は異なるが、ご都合主義で人語を話すことができるから、全部が人間でなくなったわけではないらしい。
ああ、それにしてもどうしよう。今日は今のところ予定もないし、のんびり過ごそうと思っていたのだが……
――と、
『ご主人様ー♪ おはようございますー♪』
そう言って近づいてくるのは自分とともに戦う間柄である幻獣だ。これまた都合よく幻獣の言葉を理解できるようになっているらしい。
とりあえず状況がよくわからない。仕方がないので、こういうときに頼るべきはハンターズソサエティだ。もふもふの姿のまま、幻獣を引き連れ、ハンターオフィスに向かった。
●
行った先ではまたもや混乱が起きていた。今回もまた、似たような事例で困っている人が数多いらしい。
「とりあえず今日は特別な用事がない限り、のんびり過ごしてください。多分一日も経てば元に戻ったりもするかもしれませんから」
そんな風に言われてしまうと、もうどうしようもない。
まあ、こんな日もあるさ――
そう自分に言い聞かせながら、幻獣の姿のまま、幻獣と一日を過ごすことになったのである。
リプレイ本文
●
いつもとおんなじ、けれどもほんのちょっといつもと違う今日。
ハンターの皆さんは、あらあら不思議。
幻獣の姿になってしまいました。
そんなある一日の、様子です。
●
天央 観智(ka0896)は、目を覚ますと二三度瞬きし、そして小さく首をかしげる。
いつもと違う視線の高さ、柔らかなびろうどのようなぬくもり、その他諸々。
黒いつやつやの毛並みに身体中を包まれたその姿は、ユグディラそのもので。勿論体格もユグディラ相当、まあ簡単に言えば小さくなっている。
むろんぱっと見だけではそれほど猫と変わらないから、すぐにはわからない。それでも、今までのハンター生活でユグディラとの違いはわかる。
(これは……ただの猫ではなくて、ユグディラ、ですよね。二足歩行もできるようですし……身体がユグディラに変わってしまうなんて、いったい何が起こったのか? それは、わからないけれど……なにか不思議なことが起こったことだけは、確かなはず)
こういうとき頼りにすべきはやはりハンターオフィス。ハンターたちが集い、情報を交換するという意味で、これほど適した場所はないだろう。行ってみれば何かヒントを掴めるかもしれない。
「そう……それこそ、ナーランギさんあたりにでも、聞きに行けばあるいは……?」
なんにせよ、思い立ったら実行に移すべき。
いつもよりほんのちょっとおぼつかない足取りで、ちょこちょこと観智=ユグディラは歩き始めた。
――ナーランギはすでに亡いものであることに、気づくこともなく。。 いや、あるいはこの奇妙な世界では、その事実すら覆されているのかもしれない――?
●
もっとも、こうやって【原因】を突き止めようと動くものはさほど多くなかったようで。
銀色毛並みのユキウサギと化したソナ(ka1352)は、いつもよりもなんだかうきうきした気持ち。
「身体が小さくなって、周りのものが大きく見えるわ!」
蒼い目をぱちぱちさせて、姿見の前でくるくるっと軽やかにターンしてみせる。
「ソナ、ソナ……? だあれ、新しい家族……?」
真っ白子ウサギのユキウサギ・バーニャがほんのり甲高い愛らしい声で不思議そうに問いかけると、
「何言ってるの、私よ、ソナ!」
そう言いながらバーニャに微笑みかけてみせる。バーニャの言葉は普段理解することはできないのに、今は不思議と理解できるのだ。これもご都合主義という奴かもしれないが、ソナにとっては嬉しい事実。
「ソナ……なのぴょん?」
バーニャはおそるおそる、そう尋ねてくる。
「そうよ、バーニャ! ほら、バーニャと同じ姿!」
ソナは言うやいなや嬉しそうに飛びついた。バーニャはちょっぴり驚くもののすぐに順応したようで、
「わーい、おそろい、おそろい!」
いいながら耳をぱたぱたさせている。
「今日は夕方からお出かけしようか?」
「うん、うんっ!」
だって、暑い昼間にお出かけするより、その方が安心だもの。
それにこういう状況だからこそ、楽しみは山のよう。
わくわくしながら、家の中で二匹のユキウサギは、ぴょん、ぴょん、ぴょーん。
顔を見合わせて笑いあいながら、飛び跳ねながら、夕方からの『素敵なお出かけ』の準備をいそいそと始めた。
●
「うーん……」
一人悩んでいるのはトリプルJ(ka6653)である。
何で悩んでいるのか、というと。
「俺ぁ、自分のトーテムは鷲だと思ってたんだがなー……」
飛行する依頼をよく受け、自分のトーテムが鷲であると疑っていなかったトリプルJ。
リアルブルー出身とは言え、彼のクラスは霊闘士。だからこそ、トーテムの存在も、より身近に感じられる。そしてそんな彼が信じて疑わなかった、己のトーテム。
だが、しかし。
彼のいまの姿は――その思いに反して四つ足の獣――イェジドである。
(何でリーリーでもポロウでもなく、俺ぁイェジドなんだろうなぁ)
勿論、イェジドが嫌いというわけではない。彼の所持している幻獣はイェジドである。……というか、もっと正確に言えば、イェジドしか所持していない。変身する姿の法則があるのかどうかはわかりかねるが、もしあるとするのなら、身近な姿になるというのも納得のいく話で、
「……やっぱそれが原因なのかねぇ。んー、そんな気がしてきた」
むろん、イェジドがいやというわけでは全くない。彼が相棒として連れているのはやっぱりイェジドだし、風を切るようにして走るのは、きっと心地よかろう。
と、見慣れた影が話しかけてきた。
「……ん? ああ、マスターはイェジドになったのか」
彼の相棒たるイェジドである。名前は――あえて記すこともあるまい、彼は常にイェジドのことを「相棒」と呼んでいたのだから。
それにしても、幻獣の言葉が理解できるのは面白い。ちなみにこのイェジド、なかなか渋めのいい声である。トリプルJは頷いてみせると、
「ああ。よぉ相棒、夢かもしれんが俺は今日一日イェジドらしい……よろしくな、先輩風吹かせてくれていいんだぜ?」
冗談交じりにそんな挨拶をしてみると、相棒のイェジドはふっと鼻で笑ってみせた。
「イェジドの戦闘方法をいま教えたって、その短さじゃ意味がないでしょう。やりませんよ、無駄くさい」
そうあっさり言い放たれたが、続けてイェジドはこう言って問う。
「それよりも、あんたのその相棒呼び。どうにかしてくれませんかね、何しろユキウサギもCAMもシャパリュも、馬ですら全部があんたに言わせりゃ相棒だ。一瞬誰を呼んだのかとあんたの方を見ちまうんで、コイツは非常によろしくない」
イェジドは額にしわを寄せて――幻獣のなりだからこそわかる、微妙な変化だ――トリプルJにもの申す。彼は問われて瞬きを何度か繰り返すと、後足で器用に耳元を引っ掻いた。
「……っつわれても、なぁ。それじゃあ、相棒一号、二号、とかにするか?」
そう提案してみるも、イェジドはむろん満足がいくわけもなく。
「あんた……うすうすわかってはいたけど、壊滅的に名付けの才能がないですね」
そうあきれたような目で見やると、鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
といっても、この身体はやはり走ることに長けている。幻獣の本能とでも言うべきか、いつもよりも足がうずうずして思わず森に向けて走り出してしまったが、その『ただひたすら走る』ことがこんなにも楽しいとは思っても見なかった。
(戦闘ばかりじゃなく、もっと自由に走らせてやりゃぁよかったか)
家に居る相棒とのことをぼんやり思い起こす。
だって、彼らが組んだ理由は元々戦うためだったとは言え、その生涯に闘いだけしかしないわけではない。もっと楽しいことも、嬉しいことも、分け合っていいはずなのだから。
――元の姿に戻ったら、いつも以上に丁寧にブラッシングをして森へ行こうか。
トリプルJは、そう思いながらほくそ笑む。
何気ない思い出を増やすことも、きっと悪いものではないはずだから――。
●
「バーニャ! ここで星浴をするわよ!」
日の傾く頃にソナとバーニャがたどり着いたのは、郊外の原っぱ。周囲に人影は少なく、灯りも殆どない。
「わぁい! ソナと星を見るなんてすてき!」
バーニャはぴょんぴょんと嬉しそうに、文字通り飛び跳ねる。
家から持ってきたのは毛布と水とハーブ、それに食材に調理道具などなど。
枯れ枝で火をおこすと、せっかくだからと持ってきたおばけクルミを割る。ソナは初めての経験だから、バーニャにコツを教わりながら。ハンマーの振るい方はおぼつかないけれど、協力しながら割ったクルミはとてもとても美味しそう。バターと一緒にパンに塗ったり、ロースとしてサラダにしてもいいかもしれない。
「すごいのね、見直したわ、バーニャ。……そうだわ、ユキウサギのお食事の調理方法とか教えてくれる? バーニャの好きなものとかも」
そう言うと、バーニャは嬉しそうに顔をほころばせる。
「ほんとウサ? そうならうれしいぴょん!」
無邪気にそう喜んで、目を輝かせながら自分の好物とその作り方を説明しはじめた。
(そう、何となく通じていても、直接話さないとわからないこともいっぱいあるものね)
食事を終えて、毛布にくるまって。
夜空はきらきら、星が瞬いて。
ソナとバーニャはクスクスと内緒話をしながら、ゆっくり空を眺めている。
「……だから、あの星は、ユキウサギのお守り星なのぴょん!」
「ユキウサギの星のお話もすてきね……あっ、流れ星」
「ほんとウサ! えーと、えーと」
「お願いしたの? バーニャ」
「うんっ」
たわいもない話を繰り返しているうちに、ゆっくり瞼が重くなる。
……元に戻ったら、改めて頭をなでてハグをしよう。バーニャにありがとうって言わなきゃね――
とろりと近づいてくる睡魔を感じながら、ソナはそう胸の中で呟いた。
(いつまで一緒にいられるかわからないけれど、これからもよろしくね、バーニャ)
●
今回特に、不思議現象に巻き込まれたのはGacrux(ka2726)だろう。
何しろ、目が覚めたらユグディラと大差ない大きさで、その上猫耳猫しっぽ。体型もデフォルメがきいている姿で、まるで漫画のギャグキャラクターのようだ。
しかも目が覚めたときにいたのは今まで見たことのない場所で、わらの布団にくるまっていたのだから。もぞもぞ起き上がってシャツとサスペンダーズボンをまとっているのを確認すると、とりあえず状況を確認しようと近くにあったベレー帽をかぶって外に出る。と、
「にゃんだ、お前。知らにゃい顔だにゃ。幻獣の森にこんなへんにゃ奴、いたか? 何者にゃ?」」
そう言われ、ユグディラたちに囲まれてしまった。
(えっ。……ここは、幻獣の森、?)
Gacruxは周囲の様子に声が出ない。しかしここは言われてみればどこか以前見たことのあるようなうっそうとした森で。
「誰だと言われても……俺は人間です」
「おみゃえみたいな人間が居るわけないだろ!」
そう言われて肉球で猫耳やらをてちてちされてしまう。
「……そっかおみゃえ、『記憶そーしつ』にゃんだな! でも人間と思い込んでるにゃんて変な奴!」
ユグディラたちはそう勝手に納得したらしい。まあ、状況が全くわからないという意味では似たようなものなので、言われるままにするのが正解だとGacruxは自分を納得させた。
「どっちにしろ、新入りもお腹すいてるはずにゃ。ちょうどさっき捕ってきた魚もあるから、一緒に食べるにゃ……相談もしなくちゃならないしにゃ」
ユグディラたちはきゃいきゃいとそう言って枯れ草を集め、火をつける。どちらにしろ何か食べられるのはありがたい話だが、
「相談、とは?」
「決まってるにゃ。満月の音楽パーティに、……新入りの歓迎会にゃ!」
そう言って、ユグディラたちは嬉しそうにしっぽをぱたぱた振った。
――ところで、Gacruxは音楽や楽器に疎い。
音楽をたしなむユグディラたちの中では、確実に浮くのが目に見えてわかる。
そのことをもそもそと説明すると逆に驚かれ、
「それでもリズムに合わせてこれを叩くくらいはできるにゃ? とりあえずそれで許してやるにゃ」
渡されたのはちょっと古びたタンバリン。夜に集合と言われ、複雑な気持ちでGacruxも頷いたのだった。
そして日はとっぷりと暮れた頃。――の、ちょっと前。
音楽パーティにはダンスもあるけど踊れるかにゃ? と問われ、そう言うことにもどうにも疎いGacruxは本番前にしっかり練習をすることになってしまった。それでも、その特訓のおかげで何とか様になる程度にはなったのだから、ありがたい話である。
本番になると、森中のユグディラが集まったかのように周囲はユグディラだらけ。
「さあさあ周囲の皆様。今宵は満月の宴、歌い踊り、楽しみましょう――」
リーダー格のユグディラがそう言うと、「さ、お前がまず踊るにゃ」と背中を押されてしまう。仕方がないので、Gacruxは覚悟を決め、立ち上がってぺこりと頭を下げた。
そして伴奏に合わせて片足で右にステップしながら、タンバリンを叩く。
う、た、た、パン♪
それから耳をピコピコと動かし、後ろを向いておしりとしっぽを愛らしく振る。おおっ、と歓声が上がると、何匹かが同じように踊り出した。
スキップでステップをふんでから、くるっとターンを決め、右へ左へホップステップ。動き自体はハンターの身体能力を十二分に発揮していたGacruxとしては決して難しいものではないが、リズムに合わせるのがやはり難点だ。それでも最後にタンバリンをまたパパンと叩けば、気持ちもなんだか浮かれてくる。
はっと気づけば、後ろにユグディラたちが楽しそうに笑いながら並んでいる。ステップをふみながら、そのまま円になって、満月の宴は最高潮。
ユキウサギやキューソといった幻獣たちも楽しそうなリズムにつられてやってくる。
一晩、彼らは歌い、踊り、愉快な時間はまだまだ終わりそうもない――。
●
「……愉快そうな声が聞こえてきますね」
月の下、踊らずにいるユグディラ一匹。――いや、観智である。
ワイバーンのカイラリティとともに幻獣の森にやってきたその目的はただ一つ、今回の自称について森の賢人たるナーランギに問いかけにきたのだ。
元六大龍とあって、その知識は間違いのないものだろう、そう思っての訪問だったが、
『……ずいぶんいにしえのような、つい最近のような』
ナーランギはそう言って、わずかに目を伏せる。
『これはいってみれば夏の夜の夢。おぬしも、わしも、な』
言葉を選びながら、ひどく懐かしそうに。ナーランギに出会った観智は、その表情を見ていると、何かを思い出しそうで、思い出せない。もどかしい気分になる。
『……思い出さずとも、この夢にたゆたっているのがいい』
ナーランギの言葉が、身体にゆっくりと染み渡っていく。カイラリティはほんのり気づいているのだろうか、幼い瞳にほんのり寂しさをたたえている。
「夢……ですか? 僕が夢を見ているのでしょうか。それとも……?」
観智が問いかけると、
『夢を見ているのは、このクリムゾンウェストが――だろう。ひとときの間だ、深く考えずに楽しむのがよかろうよ』
ナーランギの言葉は、ほんのり歯切れが悪いような気がする。
深い響きを帯びたナーランギの声。悲しみだけではない、ほんのり懐かしさの滲む声。
『夢が覚めれば、元の通りだ、だから――今ひとときは、難しいことは忘れればよい』
その声とともに、観智にも眠気が襲いかかる。
『ありがとう、わしに会いに来てくれて。わしは幸せ者だ――』
ナーランギのそんな声が、聞こえた気がした。
●
翌朝はきっとごく普通の朝。
ソナはバーニャを抱きしめ、トリプルJはイェジドにブラッシングをするだろう。
Gacruxは……奇妙な夢と結論づけるのかもしれない。
そして、観智は。
一粒涙を落とすのだろう。かの者の言葉の真意に気づいて。
そう、それはきっと、優しくもほんの少し寂しい夢――。
いつもとおんなじ、けれどもほんのちょっといつもと違う今日。
ハンターの皆さんは、あらあら不思議。
幻獣の姿になってしまいました。
そんなある一日の、様子です。
●
天央 観智(ka0896)は、目を覚ますと二三度瞬きし、そして小さく首をかしげる。
いつもと違う視線の高さ、柔らかなびろうどのようなぬくもり、その他諸々。
黒いつやつやの毛並みに身体中を包まれたその姿は、ユグディラそのもので。勿論体格もユグディラ相当、まあ簡単に言えば小さくなっている。
むろんぱっと見だけではそれほど猫と変わらないから、すぐにはわからない。それでも、今までのハンター生活でユグディラとの違いはわかる。
(これは……ただの猫ではなくて、ユグディラ、ですよね。二足歩行もできるようですし……身体がユグディラに変わってしまうなんて、いったい何が起こったのか? それは、わからないけれど……なにか不思議なことが起こったことだけは、確かなはず)
こういうとき頼りにすべきはやはりハンターオフィス。ハンターたちが集い、情報を交換するという意味で、これほど適した場所はないだろう。行ってみれば何かヒントを掴めるかもしれない。
「そう……それこそ、ナーランギさんあたりにでも、聞きに行けばあるいは……?」
なんにせよ、思い立ったら実行に移すべき。
いつもよりほんのちょっとおぼつかない足取りで、ちょこちょこと観智=ユグディラは歩き始めた。
――ナーランギはすでに亡いものであることに、気づくこともなく。。 いや、あるいはこの奇妙な世界では、その事実すら覆されているのかもしれない――?
●
もっとも、こうやって【原因】を突き止めようと動くものはさほど多くなかったようで。
銀色毛並みのユキウサギと化したソナ(ka1352)は、いつもよりもなんだかうきうきした気持ち。
「身体が小さくなって、周りのものが大きく見えるわ!」
蒼い目をぱちぱちさせて、姿見の前でくるくるっと軽やかにターンしてみせる。
「ソナ、ソナ……? だあれ、新しい家族……?」
真っ白子ウサギのユキウサギ・バーニャがほんのり甲高い愛らしい声で不思議そうに問いかけると、
「何言ってるの、私よ、ソナ!」
そう言いながらバーニャに微笑みかけてみせる。バーニャの言葉は普段理解することはできないのに、今は不思議と理解できるのだ。これもご都合主義という奴かもしれないが、ソナにとっては嬉しい事実。
「ソナ……なのぴょん?」
バーニャはおそるおそる、そう尋ねてくる。
「そうよ、バーニャ! ほら、バーニャと同じ姿!」
ソナは言うやいなや嬉しそうに飛びついた。バーニャはちょっぴり驚くもののすぐに順応したようで、
「わーい、おそろい、おそろい!」
いいながら耳をぱたぱたさせている。
「今日は夕方からお出かけしようか?」
「うん、うんっ!」
だって、暑い昼間にお出かけするより、その方が安心だもの。
それにこういう状況だからこそ、楽しみは山のよう。
わくわくしながら、家の中で二匹のユキウサギは、ぴょん、ぴょん、ぴょーん。
顔を見合わせて笑いあいながら、飛び跳ねながら、夕方からの『素敵なお出かけ』の準備をいそいそと始めた。
●
「うーん……」
一人悩んでいるのはトリプルJ(ka6653)である。
何で悩んでいるのか、というと。
「俺ぁ、自分のトーテムは鷲だと思ってたんだがなー……」
飛行する依頼をよく受け、自分のトーテムが鷲であると疑っていなかったトリプルJ。
リアルブルー出身とは言え、彼のクラスは霊闘士。だからこそ、トーテムの存在も、より身近に感じられる。そしてそんな彼が信じて疑わなかった、己のトーテム。
だが、しかし。
彼のいまの姿は――その思いに反して四つ足の獣――イェジドである。
(何でリーリーでもポロウでもなく、俺ぁイェジドなんだろうなぁ)
勿論、イェジドが嫌いというわけではない。彼の所持している幻獣はイェジドである。……というか、もっと正確に言えば、イェジドしか所持していない。変身する姿の法則があるのかどうかはわかりかねるが、もしあるとするのなら、身近な姿になるというのも納得のいく話で、
「……やっぱそれが原因なのかねぇ。んー、そんな気がしてきた」
むろん、イェジドがいやというわけでは全くない。彼が相棒として連れているのはやっぱりイェジドだし、風を切るようにして走るのは、きっと心地よかろう。
と、見慣れた影が話しかけてきた。
「……ん? ああ、マスターはイェジドになったのか」
彼の相棒たるイェジドである。名前は――あえて記すこともあるまい、彼は常にイェジドのことを「相棒」と呼んでいたのだから。
それにしても、幻獣の言葉が理解できるのは面白い。ちなみにこのイェジド、なかなか渋めのいい声である。トリプルJは頷いてみせると、
「ああ。よぉ相棒、夢かもしれんが俺は今日一日イェジドらしい……よろしくな、先輩風吹かせてくれていいんだぜ?」
冗談交じりにそんな挨拶をしてみると、相棒のイェジドはふっと鼻で笑ってみせた。
「イェジドの戦闘方法をいま教えたって、その短さじゃ意味がないでしょう。やりませんよ、無駄くさい」
そうあっさり言い放たれたが、続けてイェジドはこう言って問う。
「それよりも、あんたのその相棒呼び。どうにかしてくれませんかね、何しろユキウサギもCAMもシャパリュも、馬ですら全部があんたに言わせりゃ相棒だ。一瞬誰を呼んだのかとあんたの方を見ちまうんで、コイツは非常によろしくない」
イェジドは額にしわを寄せて――幻獣のなりだからこそわかる、微妙な変化だ――トリプルJにもの申す。彼は問われて瞬きを何度か繰り返すと、後足で器用に耳元を引っ掻いた。
「……っつわれても、なぁ。それじゃあ、相棒一号、二号、とかにするか?」
そう提案してみるも、イェジドはむろん満足がいくわけもなく。
「あんた……うすうすわかってはいたけど、壊滅的に名付けの才能がないですね」
そうあきれたような目で見やると、鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
といっても、この身体はやはり走ることに長けている。幻獣の本能とでも言うべきか、いつもよりも足がうずうずして思わず森に向けて走り出してしまったが、その『ただひたすら走る』ことがこんなにも楽しいとは思っても見なかった。
(戦闘ばかりじゃなく、もっと自由に走らせてやりゃぁよかったか)
家に居る相棒とのことをぼんやり思い起こす。
だって、彼らが組んだ理由は元々戦うためだったとは言え、その生涯に闘いだけしかしないわけではない。もっと楽しいことも、嬉しいことも、分け合っていいはずなのだから。
――元の姿に戻ったら、いつも以上に丁寧にブラッシングをして森へ行こうか。
トリプルJは、そう思いながらほくそ笑む。
何気ない思い出を増やすことも、きっと悪いものではないはずだから――。
●
「バーニャ! ここで星浴をするわよ!」
日の傾く頃にソナとバーニャがたどり着いたのは、郊外の原っぱ。周囲に人影は少なく、灯りも殆どない。
「わぁい! ソナと星を見るなんてすてき!」
バーニャはぴょんぴょんと嬉しそうに、文字通り飛び跳ねる。
家から持ってきたのは毛布と水とハーブ、それに食材に調理道具などなど。
枯れ枝で火をおこすと、せっかくだからと持ってきたおばけクルミを割る。ソナは初めての経験だから、バーニャにコツを教わりながら。ハンマーの振るい方はおぼつかないけれど、協力しながら割ったクルミはとてもとても美味しそう。バターと一緒にパンに塗ったり、ロースとしてサラダにしてもいいかもしれない。
「すごいのね、見直したわ、バーニャ。……そうだわ、ユキウサギのお食事の調理方法とか教えてくれる? バーニャの好きなものとかも」
そう言うと、バーニャは嬉しそうに顔をほころばせる。
「ほんとウサ? そうならうれしいぴょん!」
無邪気にそう喜んで、目を輝かせながら自分の好物とその作り方を説明しはじめた。
(そう、何となく通じていても、直接話さないとわからないこともいっぱいあるものね)
食事を終えて、毛布にくるまって。
夜空はきらきら、星が瞬いて。
ソナとバーニャはクスクスと内緒話をしながら、ゆっくり空を眺めている。
「……だから、あの星は、ユキウサギのお守り星なのぴょん!」
「ユキウサギの星のお話もすてきね……あっ、流れ星」
「ほんとウサ! えーと、えーと」
「お願いしたの? バーニャ」
「うんっ」
たわいもない話を繰り返しているうちに、ゆっくり瞼が重くなる。
……元に戻ったら、改めて頭をなでてハグをしよう。バーニャにありがとうって言わなきゃね――
とろりと近づいてくる睡魔を感じながら、ソナはそう胸の中で呟いた。
(いつまで一緒にいられるかわからないけれど、これからもよろしくね、バーニャ)
●
今回特に、不思議現象に巻き込まれたのはGacrux(ka2726)だろう。
何しろ、目が覚めたらユグディラと大差ない大きさで、その上猫耳猫しっぽ。体型もデフォルメがきいている姿で、まるで漫画のギャグキャラクターのようだ。
しかも目が覚めたときにいたのは今まで見たことのない場所で、わらの布団にくるまっていたのだから。もぞもぞ起き上がってシャツとサスペンダーズボンをまとっているのを確認すると、とりあえず状況を確認しようと近くにあったベレー帽をかぶって外に出る。と、
「にゃんだ、お前。知らにゃい顔だにゃ。幻獣の森にこんなへんにゃ奴、いたか? 何者にゃ?」」
そう言われ、ユグディラたちに囲まれてしまった。
(えっ。……ここは、幻獣の森、?)
Gacruxは周囲の様子に声が出ない。しかしここは言われてみればどこか以前見たことのあるようなうっそうとした森で。
「誰だと言われても……俺は人間です」
「おみゃえみたいな人間が居るわけないだろ!」
そう言われて肉球で猫耳やらをてちてちされてしまう。
「……そっかおみゃえ、『記憶そーしつ』にゃんだな! でも人間と思い込んでるにゃんて変な奴!」
ユグディラたちはそう勝手に納得したらしい。まあ、状況が全くわからないという意味では似たようなものなので、言われるままにするのが正解だとGacruxは自分を納得させた。
「どっちにしろ、新入りもお腹すいてるはずにゃ。ちょうどさっき捕ってきた魚もあるから、一緒に食べるにゃ……相談もしなくちゃならないしにゃ」
ユグディラたちはきゃいきゃいとそう言って枯れ草を集め、火をつける。どちらにしろ何か食べられるのはありがたい話だが、
「相談、とは?」
「決まってるにゃ。満月の音楽パーティに、……新入りの歓迎会にゃ!」
そう言って、ユグディラたちは嬉しそうにしっぽをぱたぱた振った。
――ところで、Gacruxは音楽や楽器に疎い。
音楽をたしなむユグディラたちの中では、確実に浮くのが目に見えてわかる。
そのことをもそもそと説明すると逆に驚かれ、
「それでもリズムに合わせてこれを叩くくらいはできるにゃ? とりあえずそれで許してやるにゃ」
渡されたのはちょっと古びたタンバリン。夜に集合と言われ、複雑な気持ちでGacruxも頷いたのだった。
そして日はとっぷりと暮れた頃。――の、ちょっと前。
音楽パーティにはダンスもあるけど踊れるかにゃ? と問われ、そう言うことにもどうにも疎いGacruxは本番前にしっかり練習をすることになってしまった。それでも、その特訓のおかげで何とか様になる程度にはなったのだから、ありがたい話である。
本番になると、森中のユグディラが集まったかのように周囲はユグディラだらけ。
「さあさあ周囲の皆様。今宵は満月の宴、歌い踊り、楽しみましょう――」
リーダー格のユグディラがそう言うと、「さ、お前がまず踊るにゃ」と背中を押されてしまう。仕方がないので、Gacruxは覚悟を決め、立ち上がってぺこりと頭を下げた。
そして伴奏に合わせて片足で右にステップしながら、タンバリンを叩く。
う、た、た、パン♪
それから耳をピコピコと動かし、後ろを向いておしりとしっぽを愛らしく振る。おおっ、と歓声が上がると、何匹かが同じように踊り出した。
スキップでステップをふんでから、くるっとターンを決め、右へ左へホップステップ。動き自体はハンターの身体能力を十二分に発揮していたGacruxとしては決して難しいものではないが、リズムに合わせるのがやはり難点だ。それでも最後にタンバリンをまたパパンと叩けば、気持ちもなんだか浮かれてくる。
はっと気づけば、後ろにユグディラたちが楽しそうに笑いながら並んでいる。ステップをふみながら、そのまま円になって、満月の宴は最高潮。
ユキウサギやキューソといった幻獣たちも楽しそうなリズムにつられてやってくる。
一晩、彼らは歌い、踊り、愉快な時間はまだまだ終わりそうもない――。
●
「……愉快そうな声が聞こえてきますね」
月の下、踊らずにいるユグディラ一匹。――いや、観智である。
ワイバーンのカイラリティとともに幻獣の森にやってきたその目的はただ一つ、今回の自称について森の賢人たるナーランギに問いかけにきたのだ。
元六大龍とあって、その知識は間違いのないものだろう、そう思っての訪問だったが、
『……ずいぶんいにしえのような、つい最近のような』
ナーランギはそう言って、わずかに目を伏せる。
『これはいってみれば夏の夜の夢。おぬしも、わしも、な』
言葉を選びながら、ひどく懐かしそうに。ナーランギに出会った観智は、その表情を見ていると、何かを思い出しそうで、思い出せない。もどかしい気分になる。
『……思い出さずとも、この夢にたゆたっているのがいい』
ナーランギの言葉が、身体にゆっくりと染み渡っていく。カイラリティはほんのり気づいているのだろうか、幼い瞳にほんのり寂しさをたたえている。
「夢……ですか? 僕が夢を見ているのでしょうか。それとも……?」
観智が問いかけると、
『夢を見ているのは、このクリムゾンウェストが――だろう。ひとときの間だ、深く考えずに楽しむのがよかろうよ』
ナーランギの言葉は、ほんのり歯切れが悪いような気がする。
深い響きを帯びたナーランギの声。悲しみだけではない、ほんのり懐かしさの滲む声。
『夢が覚めれば、元の通りだ、だから――今ひとときは、難しいことは忘れればよい』
その声とともに、観智にも眠気が襲いかかる。
『ありがとう、わしに会いに来てくれて。わしは幸せ者だ――』
ナーランギのそんな声が、聞こえた気がした。
●
翌朝はきっとごく普通の朝。
ソナはバーニャを抱きしめ、トリプルJはイェジドにブラッシングをするだろう。
Gacruxは……奇妙な夢と結論づけるのかもしれない。
そして、観智は。
一粒涙を落とすのだろう。かの者の言葉の真意に気づいて。
そう、それはきっと、優しくもほんの少し寂しい夢――。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 |