ゲスト
(ka0000)
シュリのアルバイト その1
マスター:ムジカ・トラス

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/02/08 15:00
- 完成日
- 2015/02/15 15:23
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
僕は苦境に立たされていた。背筋が凍りつくような悪寒。眼前が暗転しそうな虚脱感。
ぐうの音もでなかった。僕の背に立ち、身なりだけは整った男が、下卑た声で笑った。続いて、僕の腰にそいつの手が伸びる。ぬらり、とした指使いが伝わり、僕は固く目を閉じた。
「坊主、良い剣もってんじゃねェか……?」
「っ! それは……ッ!」
「オイオイ、坊主、お偉い学校にチクられてもいいのか? ンンン……?」
それは、胸の奥の、一番柔らかい所を締め付ける言葉だった。竦みそうになる中で、何とか声を張った。
「それだけは……それだけは、赦してください!!!」
●
グラズヘイム王立学校騎士科に通うシュリ・エルキンズについて、少し語ろう。
彼はリベルタース地方に縁のある少年だ。故郷が同地方にある。
彼は騎士団に縁のある少年だ。既に故人ではあるが、少年の父が騎士だった。
彼は、覚醒者だった。父の変わりに、護るべきを護りたいと願ったのだった。
だから彼は騎士を目指した。努力を重ねて、奨学金を得て、騎士科へと入学を果たした。
――結果として、彼は学校をよくよく休学する事になった。
父の病気。妹達の危機。そして――故郷の崩壊。
護るべきを捨てる事が出来なかった彼は、教官の了解を得てのことでは有るが、彼方此方を奔走することとなった。
運が悪ければ、と。退学も覚悟していた。だが、教官に恵まれた、と言うべきか。シュリは特に処分を下される事もなく、在学し続ける事が出来たのだった。
ただ。
元々が、一介の村人に過ぎないシュリだ。成績が優秀な者に貸与される奨学金と、授業料の減免を差し引いても、騎士科に属して王都で暮らしていく事は出来なかった。故に、彼はアルバイトをしては何とか生活費と学費を稼いでいたのだ。
――いつしかその生活が、崩れていた。
今思えばハンター達に依頼を出したのが切っ掛けだったかもしれない。
もとより吹けば飛ぶ程度だった蓄えは案の定見事に吹っ飛んだ。
騎士学校に授業料を収める為には金貸しを当たるしか無かったのである。
●
そして今。シュリ・エルキンズは草原に居た。同道したハンター達とてくてくと歩きながら、目的地へと。
シュリは決めたのだった。父から受け継いだこの剣で、この苦境を乗り切ると。そのために、ハンターになった。学生兼ハンターに。同じ騎士科の学生の中には騎士然と活動しているものもいると聞く。借金のカタに唯一の財産とも言うべき蒼剣を奪われそうになった我が身を思い、シュリは嘆息した。
「……ふ、なんとも僕らしいというか……」
――遠回りしてばかりだ。
自嘲げに笑みを浮かべると、シュリは周囲を見まわした。一見すると長閑な草原だ。だが――何かが、違う。澱みを感じさせる不気味さが滲んでいた。
「場所としては、そろそろの筈ですけど……」
その時、だ。
「ティンクルティンクルトゥルルンルン!!!」
「!?」
野太い奇声に続いて、凄まじい爆光が辺りに満ちた。情報通りだ。敵は魔術師。呪文の意味はわからないけど、魔術師。
「き、来ました……ッ!」
逆光に目を細めたシュリは蒼剣を抜きながら、左手で盾を構える。戦闘の気配に、少年の思考が回る――。
●
報酬が高かったから受けた依頼だった。
――今回の依頼は、学術都市アークエルス出身のある魔術師……の集団を、救出する事が目的です。身体強化の魔術の実験に赴いた彼らの実験が失敗してしまった結果、魔法公害に近しい凄惨な結果を引き起こしました。
魔法公害。マテリアルのバランスが不安定になった結果引き起こされる現象を指す。状況、あるいはその時々で起こる出来事は変化するが、概して言えることは『とにかく危険に過ぎる』ということだ。
マテリアルの正常化については、可及的速やかな対応が望まれる。
――実験に参加した魔術師は五名。その内一名は失踪しましたが、残る四名が現地で魔法公害に囚われているようです。
報酬の高さは、『魔法公害に近しいモノ』に触れる事か、と理解が追いついた時、状況を示す一枚の書類が示された。
曰く、面妖な衣装を纏った――。
●
閃光が止み、目が開く。戦闘時だ。敵の接近には対応しなければならない。素早く周囲に視線を巡らせたシュリは――瞬後には、愕然と口を開いていた。
「…………想像以上に汚い…………」
吐き気がした。
「ティンクルティンクルトルゥルルルン! ワシらは歪虚を斃すべく遣わされたマテリアルパワーの使い手にして正義の魔法使い! ラブリー!」
「マテリアルにかわって、お仕(大人の都合で削除されました)よ!」
「くるr(大人の都合で削除されました)!!」
「……え、っと、戦うんですか、あれ、と?」
ひらりひらりとフリルが舞う中、現実感ばっちりの老人&中年の筋張った生足が目に痛い。
「問答無用ぅゥゥゥ……ッ!」
魔法使い――緑っぽい衣装の中年、グリーンが、唸り声を上げながら大地に正拳突きを打ち込んだ――次の瞬間。
「唸れ、俺の魔法ゥゥゥゥゥッ!!」
前腕筋群と上腕二頭筋、三角筋、そして大胸筋が尋常じゃないくらいに隆起、収縮した。常軌を逸した破壊力で大地が抉られ、爆散するように飛礫が上がる。
「ストーーーンバレットゥッ!!!」
「ちが……っ!?」
余りの事に――ツッコミを入れようとしたのが災いしたのだろう。回避が間に合わず、石礫を食らったシュリは後方へと弾き飛ばされた。
「KUUUUUFUUUUUUU……!」
「……ッ!」
見れば、グリーンは世紀末風味な覇気を纏いながら唸り声を上げ、右腕を抑えている。膨張していた筋肉はもはや見る影もないどころか、傷だらけだったが――その傷が、生々しい音を立てながら癒えていく。
「これが……魔法公害」
尋常ならざる光景に、シュリは背筋が凍る思いがしたものだった。そして、思ったのだ。
――これが、高額報酬の理由か、と。
「なんて……醜いんだ……」
僕は苦境に立たされていた。背筋が凍りつくような悪寒。眼前が暗転しそうな虚脱感。
ぐうの音もでなかった。僕の背に立ち、身なりだけは整った男が、下卑た声で笑った。続いて、僕の腰にそいつの手が伸びる。ぬらり、とした指使いが伝わり、僕は固く目を閉じた。
「坊主、良い剣もってんじゃねェか……?」
「っ! それは……ッ!」
「オイオイ、坊主、お偉い学校にチクられてもいいのか? ンンン……?」
それは、胸の奥の、一番柔らかい所を締め付ける言葉だった。竦みそうになる中で、何とか声を張った。
「それだけは……それだけは、赦してください!!!」
●
グラズヘイム王立学校騎士科に通うシュリ・エルキンズについて、少し語ろう。
彼はリベルタース地方に縁のある少年だ。故郷が同地方にある。
彼は騎士団に縁のある少年だ。既に故人ではあるが、少年の父が騎士だった。
彼は、覚醒者だった。父の変わりに、護るべきを護りたいと願ったのだった。
だから彼は騎士を目指した。努力を重ねて、奨学金を得て、騎士科へと入学を果たした。
――結果として、彼は学校をよくよく休学する事になった。
父の病気。妹達の危機。そして――故郷の崩壊。
護るべきを捨てる事が出来なかった彼は、教官の了解を得てのことでは有るが、彼方此方を奔走することとなった。
運が悪ければ、と。退学も覚悟していた。だが、教官に恵まれた、と言うべきか。シュリは特に処分を下される事もなく、在学し続ける事が出来たのだった。
ただ。
元々が、一介の村人に過ぎないシュリだ。成績が優秀な者に貸与される奨学金と、授業料の減免を差し引いても、騎士科に属して王都で暮らしていく事は出来なかった。故に、彼はアルバイトをしては何とか生活費と学費を稼いでいたのだ。
――いつしかその生活が、崩れていた。
今思えばハンター達に依頼を出したのが切っ掛けだったかもしれない。
もとより吹けば飛ぶ程度だった蓄えは案の定見事に吹っ飛んだ。
騎士学校に授業料を収める為には金貸しを当たるしか無かったのである。
●
そして今。シュリ・エルキンズは草原に居た。同道したハンター達とてくてくと歩きながら、目的地へと。
シュリは決めたのだった。父から受け継いだこの剣で、この苦境を乗り切ると。そのために、ハンターになった。学生兼ハンターに。同じ騎士科の学生の中には騎士然と活動しているものもいると聞く。借金のカタに唯一の財産とも言うべき蒼剣を奪われそうになった我が身を思い、シュリは嘆息した。
「……ふ、なんとも僕らしいというか……」
――遠回りしてばかりだ。
自嘲げに笑みを浮かべると、シュリは周囲を見まわした。一見すると長閑な草原だ。だが――何かが、違う。澱みを感じさせる不気味さが滲んでいた。
「場所としては、そろそろの筈ですけど……」
その時、だ。
「ティンクルティンクルトゥルルンルン!!!」
「!?」
野太い奇声に続いて、凄まじい爆光が辺りに満ちた。情報通りだ。敵は魔術師。呪文の意味はわからないけど、魔術師。
「き、来ました……ッ!」
逆光に目を細めたシュリは蒼剣を抜きながら、左手で盾を構える。戦闘の気配に、少年の思考が回る――。
●
報酬が高かったから受けた依頼だった。
――今回の依頼は、学術都市アークエルス出身のある魔術師……の集団を、救出する事が目的です。身体強化の魔術の実験に赴いた彼らの実験が失敗してしまった結果、魔法公害に近しい凄惨な結果を引き起こしました。
魔法公害。マテリアルのバランスが不安定になった結果引き起こされる現象を指す。状況、あるいはその時々で起こる出来事は変化するが、概して言えることは『とにかく危険に過ぎる』ということだ。
マテリアルの正常化については、可及的速やかな対応が望まれる。
――実験に参加した魔術師は五名。その内一名は失踪しましたが、残る四名が現地で魔法公害に囚われているようです。
報酬の高さは、『魔法公害に近しいモノ』に触れる事か、と理解が追いついた時、状況を示す一枚の書類が示された。
曰く、面妖な衣装を纏った――。
●
閃光が止み、目が開く。戦闘時だ。敵の接近には対応しなければならない。素早く周囲に視線を巡らせたシュリは――瞬後には、愕然と口を開いていた。
「…………想像以上に汚い…………」
吐き気がした。
「ティンクルティンクルトルゥルルルン! ワシらは歪虚を斃すべく遣わされたマテリアルパワーの使い手にして正義の魔法使い! ラブリー!」
「マテリアルにかわって、お仕(大人の都合で削除されました)よ!」
「くるr(大人の都合で削除されました)!!」
「……え、っと、戦うんですか、あれ、と?」
ひらりひらりとフリルが舞う中、現実感ばっちりの老人&中年の筋張った生足が目に痛い。
「問答無用ぅゥゥゥ……ッ!」
魔法使い――緑っぽい衣装の中年、グリーンが、唸り声を上げながら大地に正拳突きを打ち込んだ――次の瞬間。
「唸れ、俺の魔法ゥゥゥゥゥッ!!」
前腕筋群と上腕二頭筋、三角筋、そして大胸筋が尋常じゃないくらいに隆起、収縮した。常軌を逸した破壊力で大地が抉られ、爆散するように飛礫が上がる。
「ストーーーンバレットゥッ!!!」
「ちが……っ!?」
余りの事に――ツッコミを入れようとしたのが災いしたのだろう。回避が間に合わず、石礫を食らったシュリは後方へと弾き飛ばされた。
「KUUUUUFUUUUUUU……!」
「……ッ!」
見れば、グリーンは世紀末風味な覇気を纏いながら唸り声を上げ、右腕を抑えている。膨張していた筋肉はもはや見る影もないどころか、傷だらけだったが――その傷が、生々しい音を立てながら癒えていく。
「これが……魔法公害」
尋常ならざる光景に、シュリは背筋が凍る思いがしたものだった。そして、思ったのだ。
――これが、高額報酬の理由か、と。
「なんて……醜いんだ……」
リプレイ本文
●
閃光に目が慣れたマーニ・フォーゲルクロウ(ka2439)は戦闘の気配に目を見開き。
「うっ……」
すぐに細めた。細い足は一見すると美脚に見えなくもないのだがとにかく汚らわしい。
清浄なるを求めて、少女の思考が巡る――。
道中は良かった。思わぬ再開に、驚きを得たものだ。
「よもやハンターになっておられようとは」
「いや、その……」
手のかかる弟のような淡い感慨を抱きそう言うと、シュリは何故か目を逸らしていた。アレはなんだったのだろう。
「学業は如何でしょう、励んでおられますか?」
「あ、はい、そこは頑張ってます!」
そこは……?
●
マーニが苦しむ一方で、アイヴィー アディンセル(ka2668)は驚愕に包まれていた。震える口元から零れそうになる悲鳴は意地でも飲み込んだ。
(あの気持ち悪い物体は一体?!)
爺と中年だ。突き抜けているとはいえ純粋なエルフの少女には不慣れであったか。
「魔術の実験に失敗ぃ……?」
冷や汗と共に溢れた言葉を聞いて、アルルベル・ベルベット(ka2730)は首肯。
「これが……魔法公害」
――これが、機導術のもたらし得るもの、か。
碧眼を細めるアルルベル。
「こんなことが起こりえるとは……私達もフリフリ衣装で対抗すべきか?」
「へ?」
無表情に呟かれた言葉に、シュリが目を剥く。
――まさか、魔法公害の影響が?
息を呑んだシュリは、周囲を見渡した。
「うーわ、こりゃヒドイねぇ。ああはなりたくないもんだわ」
鵤(ka3319)。渋い顔で言う様は道中と変わりない。飄々とした佇まいに安堵を抱く。シュリの視線がそのまま八原 篝(ka3104)へと滑った。
「……そういえば」
その服装が、気になっていたのだ。見慣れないが、よく見るとあの爺と。
「ンなわけねーだろコラ!」
「す、すみませ……じゃなくて! ご、誤解です!」
視線に気づいた篝の怒声にシュリは首を竦める。危険域かもしれない、と心のメモ帳に△をつける。
ちらりと喜屋武・D・トーマス(ka3424)を見ると。
「私? 魔法公害じゃないわよ。失礼ね」
濃厚過ぎるウィンクが返ってきた。
道中からこんな感じだったと安心していいのか、どうなのか。判断に悩む所だ。
「最近の魔術師は男女問わずあの格好が常識なのか?」
「違うと思います」
幼女の如きドワーフ、イレーヌ(ka1372)の無垢な問いをシュリが正すと、つと。淡い吐息が響いた。
「もぅ、全く。このままじゃ魔術師が誤解されちゃうわよね」
喜屋武だった。
――そういえば、この人も魔術師だった。
「なんだこれ……」
濃厚過ぎる異空間に、シュリの精神が参りそうだったが。
「兎に角」
いつからか力強い眼差しで敵を見据えるマーニが、言った。
「一刻も早く対処しましょう」
「そ、そうね!!」
仕切り直しの言葉にアイヴィーが全身全霊を以って同意を返す。
「ふ、ふふん! 実験をする前に私を呼ぶべきだったわね!」
そのままアイヴィーは老人達に指を突きつけて。
「そう、この、偉大なるアイヴィー アディンセルをね!」
ドヤァ……。
――沈黙が、耳に痛く響く頃。
声に、応じたか。
「「ヴィクトリィィィ!!」」
魔術師達が、一斉に動いた。
●
「シュリ。あなたは緑を抑えて」
「はいっ!」
拳銃を構えた篝が短くシュリに告げる中、奇怪な咆哮を上げる赤と緑が前進。金は中衛に位置し、水色は後衛に残った。進む魔術師達に、ハンター達も素早く応じた、瞬後だ。肉体強化の影響か。魔術師達が先手を取った。
「マジカル★スモーク!」
水色中年がしなを作りながら、暗雲を顕現。スリープクラウドだ。初手で放たれた黒雲は、散開寸前の面々――後衛に残ったイレーヌ、アイヴィー以外が暗雲に包まれる。
「おっと……」
「ただの気持ち悪い物体じゃないってわけね!」
イレーヌが呟き、アイヴィーが叫ぶ中、現出したばかりの暗雲が晴れる。
「お?」
抜群の耐性を見せた鵤が周囲を見渡せば、喜屋武とアルルベル、シュリが轟沈して大地に倒れ伏していた。安らかな眠り顔に、鵤は苦笑。
「あらまー……おっさん困っちゃうなぁ」
「アラブリー!」「オォォォッ!」
好機とみた赤、緑が咆哮して接近するのを横目に鵤は逡巡した。進むか。起こすか。無事だった篝、マーニに視線を送る――と、同時。
「手荒ですまないが」
呟く声に続いて、衝撃。イレーヌの法術だ。黒色の影が弾丸となり、倒れた仲間達――の至近の大地を叩く。強い振動と異音に眠っていた面々が目を覚ました。
「……っ!」
戦闘中だ。瞬後には一同の理解が追いつき、すぐに前進を再開。
「……良い夢だったのに残念ね」
「ああ――」
そんな喜屋武とアルルベルの呟きを背に残し――相対は、なされたのだった。
●
先陣は赤と緑。シュリが盾を構えたまま緑へと猛突していく。
シュリの単身での踏み込みに、緑の大胸筋が謎膨隆し、震えた――所まで見て、アルルベルは視線を逸らした。魔法公害こわい。ちょうこわい。
「……『超機導ベル☆ベル』」
ぽつり、と呟いたが胸は大きくならなかった。謎パワーも降りてこない。
――違う、そうじゃない。
ふるふると頭を振った、その眼前。赤が拳を振りかぶって荒ぶっている。
「ティンクルアラブリィッ!」
「――ッ!」
美しい、正拳突きであった。身を護るように翳した盾が鈍い音を立て、衝撃に少女の細腕が軋む。
「……無い、な。これは無い」
すらりと伸びる毛深い生足と筋張った腕に、アルルベル。
「そうだねぇ……」
苦みの籠った言葉を背に、鵤がゆらりと前に出た。
「はいはいティンクルのお相手はおっさんでぇーす」
へら、と片手を掲げ、続ける。
「そのヨボヨボな拳なら歪虚どころかひ弱な俺でも超余裕、みたいなぁ? もう何発でも愛(ププゥー!)と正義(ブフゥー!)とやらを受け取ってやるぜティンクルブッフゥー!」
鵤は笑った。げらげらと、高らかに。
言葉と嘲笑むき出しの顔芸に、赤は憤死寸前。激憤に、顔が赤黒く染まる。
「愛とマテリアルを冒涜する不届き者ェ!」
握ったその拳に、紅く情熱的な炎が宿った。
「はは、その調子その調子ぃ」
――こっちはOK、かな。
憎悪を受け流し鵤はへらり、と笑ったのであった。
●
戦場を迂回するようにマーニと篝は金に接近。
「あんたの相手はわたし達よ。気が進まないけど……ていうか他の奴らもイヤだけど」
眼前の老人を見遣りながら走る篝が言った。その表情に走る苦味に対して、金爺は笑った。
「ゴールデンチャクラムアクション!」
応答は風切り走る戦輪。しなっと腰をつきだして高らかに声を張る姿にマーニの頬が引き攣る。
――集中、です。
嫌悪感を振り払って、マーニは殷々と音を曳いて至る戦輪を見据えた。
「そこです!」
聖光で破壊を目論むが、戦輪は想像以上に硬い。遠くへと弾け飛ぶのみ。
「無駄ァ! そんな事ではワシらの魔法は負けないわ!」
そのまま続々と次の戦輪を構える金爺。
――予備もあるのですね。
小さく息を吐いた。
「あいつ、何だか危ない気配がするわ」
「そう、ですか?」
リアルブルー出身の篝には何となく引っかかるのがあるのか。マーニは篝に従ってじっと金爺を見る。
「……そうですね」
「ね」
どう見ても危険人物だ。マーニが改めて首肯すると、その応答を背に、篝が盾と拳銃を手に間合いを詰める。
篝は進みながら――後方、シュリが緑と一対一で渡り合っているのを感じ。
――あの時とは、違うわね。
逸る激情はなく、役割を果たそうと専心しているとか、と感じられた。故に。
「……私がしくじるわけにはいかないわね」
呟きを貫いて、拳銃から銃弾が吐き出された。
●
「ん、良好、良好」
イレーヌは微かに満足げな気配を滲ませて、言う。夫々の奮戦で道が開けていた。
「雄々々々々ッ!」
「――っ、」
――シュリは大変そう、だが。
緑と一人で相対するシュリに負担が集まっている気がしなくもないが、見ればマーニが気を払ってヒールを施している。勿論、イレーヌ自身も留意している、が。今は、スリープクラウド対策に抵抗の法術を施していく。
その最先。喜屋武が往った。
「私は風の魔闘士キャンディ・トム、私とゼファーに切り裂かれなさい!」
「邪悪な……!」
短剣を手にコンバットスタイルで重心を落として進む喜屋武。肉厚な身体も相まって、CANDY感は毛先ほども見受けられない。
「疾ッ!」
鋭い呼気と共に放たれた剣閃を、水色は上体を反らして回避。
「とーぅ!」
そのまま水色は高くバク宙。喜屋武の真正面でハタハタと短めのスカートが舞う。
――やっぱり女の格好はだめねぇ。
などと、沁み沁みと実感する喜屋武に、
「風の魔闘士……フ、フン、中々アレじゃない!」
「あら、アリガト」
偉大なる魔術師を自称するアイヴィーの声が降って来た。お褒めの言葉として受け取ったようだった。
満足気に頷きを返して、アイヴィーはマテリアルを編み上げる。石礫の魔術を顕現させる――その、瞬前。
――そういえば、これって。
編み上げている魔術、ストーンバレット。これは自分の手元からしか飛ばせないのか。もし、飛ばす場所を指定できるのならば――顎下から撃ちぬく事も、出来るのではないか。
――やっぱり天才だわ!
アイヴィー。戦闘中の閃きは大事にしたい系魔術師である。
「その石は意思を通じ意志を貫く、穿ちなさい! アースバレット!!」
拳を下から突き上げるようにして、高らかに謳いあげる、と。
「ぐっはァ……ッ!」
普通に手の先あたりから出た。無駄にバク宙していた水色中年には無事に命中。中年はさらに空高く宙を舞って、無様に地に落ちて転がった。
魔法公害に近づいている立地だった。魔術の発動時、何かがねじ曲がる感覚を予感して、アイヴィーの背筋が凍った。何とかねじ伏せて、高らかに言う。
「……ほ、ほら、やるなら今よ!!」
「無茶するわねえ……」
喜屋武は言いながら、短剣を手に追走。水色は蜻蛉返りで応戦の構え。『先程と同様に』、喜屋武は短く短剣を振り抜く。
「無駄……ッ!?」
水色の自慢気な声は、断ち切られるように消えた。短剣の軌道から伸びるように放たれた風威――ウィンドスラッシュが、水色中年の胸板を深く、抉っていた。
「あら」
豪快な手応えとあっさりと白目を剥いて倒れた水色には、喜屋武の方が驚く程だった。所詮は魔術師、ということだろうか。
「ま、いいわ。一人確保――と」
兎角、喜屋武は中年をロープで縛り上げる事にした。異様に慣れた手つきだったが、杵柄、だったのだろうか。
●
水色が落ちる事に気づいたのは、金爺が先だった。気が逸る赤と緑は気づかない。
「くっ、下がれ、下がれ!!」
叫ぶ声も、攻め気が勝つ味方には届かないようだった。見れば、イレーヌとアイヴィーが転進している。
「――ゴールデンチャクラムゥ!」
「させません」
金爺の視線に焦りを見て取ったマーニが深く、踏み込んだ。
「ち、ィ……ッ!」
カイトシールドの突き上げを、金爺は後方へと飛ぶ事で回避しようとした――瞬前。小さな破裂音が響き、爺の足が止まった。篝の銃弾が、その足を撃ちぬいていた。溢れた鮮血が盾に落ち、勢いに呑まれ、弾ける。
「――ッ!」
盾はそのまま、金爺を打ち抜いた。
快打。しかし、決定打には至らない。金爺はすぐに体勢を整え、噛みしめるように、言う。
「……お仕置き、を……」
だが。
眼前。緑の後方からイレーヌが八角棍で頭蓋を打ち降ろし強襲。気配に振り向こうとしたようだが、赤と相対していた筈のアルルベルの銃撃で至らなかったか。
打撃の瞬間、棍を覆う紫電が奔り、緑の頭が下がる。直後、シュリが盾でその顎を打ち上げると、そのまま混戦へと雪崩れ込む。
「うん、これは中々、心地良い」
満足気なイレーヌは棍を素振りして笑っていた。
赤は――と金爺は視線を転じるが、飄々とした態度とは裏腹に防御を固めた鵤を崩せないまま、だ。
完全に先手を取られ、そのままに押し切られた、と知れた。
「……」
金爺は鳩尾を抑えながら、空を仰いだ。重く息を吐き。
「……ワシらを倒しても第二第三のマテリアルの使者が貴様r」
「撃ち抜け!」
皆まで言わせて貰えず、アイヴィーが放った石礫で金爺は昏倒した。
●
包囲された緑は保たず、雪崩れるように赤色も落ちた。
「やー、くわばらくわばら。疲れたねぇ」
最後にエレクトリックショックを用いて赤を痺れさせた鵤は大儀そうに煙草を咥える。
「どちらかというと気疲れも大きい、ですが……」
生真面目なマーニには一層堪えたのだろう。鵤の傷を癒やしながら、深い安堵の息が零れた。昏倒した爺達はロープで縛られているが、恐らく本来の姿であったであろうローブ姿に戻っている。戻る時に少しだけ生まれたままの姿を幻視した気がしたが、マーニの精神が拒絶していた。
イレーヌもまた仲間たちの傷を癒やしながら、ぽつり、と呟いた。
「しかし、残った一人は現れなかったな」
「そうだな」
同じく、周囲を警戒していたアルルベルが応じる。
「もう少しだけ続くのは遠慮したったのだが……」
そのまま、老人達を見つめて、続ける。
「リアルブルーのお約束も、私には解らなかった。ままならないものだ」
「……そうかしら?」
喜屋武が苦笑すると、アルルベルは小首を傾げる。その仕草に喜屋武の笑みが深くなる。魔闘士CANDY☆TOMと嘯く愛嬌はあるが、そういった表情の方が似合う男だった。
「あなたは、今回も大変そうね?」
「え……いや……」
困憊して座り込んでいるシュリに、篝が言葉を投げた。
「騎士になったらもっと大変だと思いますし、その……いい経験になりました」
「今日のは特別にアレだったけど、ね」
生真面目だがどこか苦い言葉に笑いが零れた。
「ハンターやってると他ではめったにできない経験も積めるし、続けてみたら?」
「……そう、ですね」
真剣な表情で考えこむシュリの横顔を横目に、篝の胸中に湧いた感情は、渾然としていた。羨ましくもあり、同時に、虚しくもあった。
シュリには目指すものがある。向かう先が、ある。翻って、転移してきたものの、故郷に帰る術に見当も付かないままに、ただ生きている自分は、どうだろう。
苦い感傷を飲み下そうとしても、それすらも上手くできやしない。そんな自分に、苦笑が零れた。
そんな胸中を知ってか知らずか。
「……この時給は正義かもしれない」
シュリは、そんなことを呟いた。
「え?」
「い、いえ、なんでもないです!」
思索に耽っていた篝には上手く聞き取れずに聞き返したが、シュリは慌てて首を振るばかりであった。
兎角。事件は一応の終着をみた。
後日、意識が戻った老魔術師達に聞いても、行方不明になった残る一名の行方は解らなかったのだが……。
『――もう少しだけ、続くのじゃよ』
閃光に目が慣れたマーニ・フォーゲルクロウ(ka2439)は戦闘の気配に目を見開き。
「うっ……」
すぐに細めた。細い足は一見すると美脚に見えなくもないのだがとにかく汚らわしい。
清浄なるを求めて、少女の思考が巡る――。
道中は良かった。思わぬ再開に、驚きを得たものだ。
「よもやハンターになっておられようとは」
「いや、その……」
手のかかる弟のような淡い感慨を抱きそう言うと、シュリは何故か目を逸らしていた。アレはなんだったのだろう。
「学業は如何でしょう、励んでおられますか?」
「あ、はい、そこは頑張ってます!」
そこは……?
●
マーニが苦しむ一方で、アイヴィー アディンセル(ka2668)は驚愕に包まれていた。震える口元から零れそうになる悲鳴は意地でも飲み込んだ。
(あの気持ち悪い物体は一体?!)
爺と中年だ。突き抜けているとはいえ純粋なエルフの少女には不慣れであったか。
「魔術の実験に失敗ぃ……?」
冷や汗と共に溢れた言葉を聞いて、アルルベル・ベルベット(ka2730)は首肯。
「これが……魔法公害」
――これが、機導術のもたらし得るもの、か。
碧眼を細めるアルルベル。
「こんなことが起こりえるとは……私達もフリフリ衣装で対抗すべきか?」
「へ?」
無表情に呟かれた言葉に、シュリが目を剥く。
――まさか、魔法公害の影響が?
息を呑んだシュリは、周囲を見渡した。
「うーわ、こりゃヒドイねぇ。ああはなりたくないもんだわ」
鵤(ka3319)。渋い顔で言う様は道中と変わりない。飄々とした佇まいに安堵を抱く。シュリの視線がそのまま八原 篝(ka3104)へと滑った。
「……そういえば」
その服装が、気になっていたのだ。見慣れないが、よく見るとあの爺と。
「ンなわけねーだろコラ!」
「す、すみませ……じゃなくて! ご、誤解です!」
視線に気づいた篝の怒声にシュリは首を竦める。危険域かもしれない、と心のメモ帳に△をつける。
ちらりと喜屋武・D・トーマス(ka3424)を見ると。
「私? 魔法公害じゃないわよ。失礼ね」
濃厚過ぎるウィンクが返ってきた。
道中からこんな感じだったと安心していいのか、どうなのか。判断に悩む所だ。
「最近の魔術師は男女問わずあの格好が常識なのか?」
「違うと思います」
幼女の如きドワーフ、イレーヌ(ka1372)の無垢な問いをシュリが正すと、つと。淡い吐息が響いた。
「もぅ、全く。このままじゃ魔術師が誤解されちゃうわよね」
喜屋武だった。
――そういえば、この人も魔術師だった。
「なんだこれ……」
濃厚過ぎる異空間に、シュリの精神が参りそうだったが。
「兎に角」
いつからか力強い眼差しで敵を見据えるマーニが、言った。
「一刻も早く対処しましょう」
「そ、そうね!!」
仕切り直しの言葉にアイヴィーが全身全霊を以って同意を返す。
「ふ、ふふん! 実験をする前に私を呼ぶべきだったわね!」
そのままアイヴィーは老人達に指を突きつけて。
「そう、この、偉大なるアイヴィー アディンセルをね!」
ドヤァ……。
――沈黙が、耳に痛く響く頃。
声に、応じたか。
「「ヴィクトリィィィ!!」」
魔術師達が、一斉に動いた。
●
「シュリ。あなたは緑を抑えて」
「はいっ!」
拳銃を構えた篝が短くシュリに告げる中、奇怪な咆哮を上げる赤と緑が前進。金は中衛に位置し、水色は後衛に残った。進む魔術師達に、ハンター達も素早く応じた、瞬後だ。肉体強化の影響か。魔術師達が先手を取った。
「マジカル★スモーク!」
水色中年がしなを作りながら、暗雲を顕現。スリープクラウドだ。初手で放たれた黒雲は、散開寸前の面々――後衛に残ったイレーヌ、アイヴィー以外が暗雲に包まれる。
「おっと……」
「ただの気持ち悪い物体じゃないってわけね!」
イレーヌが呟き、アイヴィーが叫ぶ中、現出したばかりの暗雲が晴れる。
「お?」
抜群の耐性を見せた鵤が周囲を見渡せば、喜屋武とアルルベル、シュリが轟沈して大地に倒れ伏していた。安らかな眠り顔に、鵤は苦笑。
「あらまー……おっさん困っちゃうなぁ」
「アラブリー!」「オォォォッ!」
好機とみた赤、緑が咆哮して接近するのを横目に鵤は逡巡した。進むか。起こすか。無事だった篝、マーニに視線を送る――と、同時。
「手荒ですまないが」
呟く声に続いて、衝撃。イレーヌの法術だ。黒色の影が弾丸となり、倒れた仲間達――の至近の大地を叩く。強い振動と異音に眠っていた面々が目を覚ました。
「……っ!」
戦闘中だ。瞬後には一同の理解が追いつき、すぐに前進を再開。
「……良い夢だったのに残念ね」
「ああ――」
そんな喜屋武とアルルベルの呟きを背に残し――相対は、なされたのだった。
●
先陣は赤と緑。シュリが盾を構えたまま緑へと猛突していく。
シュリの単身での踏み込みに、緑の大胸筋が謎膨隆し、震えた――所まで見て、アルルベルは視線を逸らした。魔法公害こわい。ちょうこわい。
「……『超機導ベル☆ベル』」
ぽつり、と呟いたが胸は大きくならなかった。謎パワーも降りてこない。
――違う、そうじゃない。
ふるふると頭を振った、その眼前。赤が拳を振りかぶって荒ぶっている。
「ティンクルアラブリィッ!」
「――ッ!」
美しい、正拳突きであった。身を護るように翳した盾が鈍い音を立て、衝撃に少女の細腕が軋む。
「……無い、な。これは無い」
すらりと伸びる毛深い生足と筋張った腕に、アルルベル。
「そうだねぇ……」
苦みの籠った言葉を背に、鵤がゆらりと前に出た。
「はいはいティンクルのお相手はおっさんでぇーす」
へら、と片手を掲げ、続ける。
「そのヨボヨボな拳なら歪虚どころかひ弱な俺でも超余裕、みたいなぁ? もう何発でも愛(ププゥー!)と正義(ブフゥー!)とやらを受け取ってやるぜティンクルブッフゥー!」
鵤は笑った。げらげらと、高らかに。
言葉と嘲笑むき出しの顔芸に、赤は憤死寸前。激憤に、顔が赤黒く染まる。
「愛とマテリアルを冒涜する不届き者ェ!」
握ったその拳に、紅く情熱的な炎が宿った。
「はは、その調子その調子ぃ」
――こっちはOK、かな。
憎悪を受け流し鵤はへらり、と笑ったのであった。
●
戦場を迂回するようにマーニと篝は金に接近。
「あんたの相手はわたし達よ。気が進まないけど……ていうか他の奴らもイヤだけど」
眼前の老人を見遣りながら走る篝が言った。その表情に走る苦味に対して、金爺は笑った。
「ゴールデンチャクラムアクション!」
応答は風切り走る戦輪。しなっと腰をつきだして高らかに声を張る姿にマーニの頬が引き攣る。
――集中、です。
嫌悪感を振り払って、マーニは殷々と音を曳いて至る戦輪を見据えた。
「そこです!」
聖光で破壊を目論むが、戦輪は想像以上に硬い。遠くへと弾け飛ぶのみ。
「無駄ァ! そんな事ではワシらの魔法は負けないわ!」
そのまま続々と次の戦輪を構える金爺。
――予備もあるのですね。
小さく息を吐いた。
「あいつ、何だか危ない気配がするわ」
「そう、ですか?」
リアルブルー出身の篝には何となく引っかかるのがあるのか。マーニは篝に従ってじっと金爺を見る。
「……そうですね」
「ね」
どう見ても危険人物だ。マーニが改めて首肯すると、その応答を背に、篝が盾と拳銃を手に間合いを詰める。
篝は進みながら――後方、シュリが緑と一対一で渡り合っているのを感じ。
――あの時とは、違うわね。
逸る激情はなく、役割を果たそうと専心しているとか、と感じられた。故に。
「……私がしくじるわけにはいかないわね」
呟きを貫いて、拳銃から銃弾が吐き出された。
●
「ん、良好、良好」
イレーヌは微かに満足げな気配を滲ませて、言う。夫々の奮戦で道が開けていた。
「雄々々々々ッ!」
「――っ、」
――シュリは大変そう、だが。
緑と一人で相対するシュリに負担が集まっている気がしなくもないが、見ればマーニが気を払ってヒールを施している。勿論、イレーヌ自身も留意している、が。今は、スリープクラウド対策に抵抗の法術を施していく。
その最先。喜屋武が往った。
「私は風の魔闘士キャンディ・トム、私とゼファーに切り裂かれなさい!」
「邪悪な……!」
短剣を手にコンバットスタイルで重心を落として進む喜屋武。肉厚な身体も相まって、CANDY感は毛先ほども見受けられない。
「疾ッ!」
鋭い呼気と共に放たれた剣閃を、水色は上体を反らして回避。
「とーぅ!」
そのまま水色は高くバク宙。喜屋武の真正面でハタハタと短めのスカートが舞う。
――やっぱり女の格好はだめねぇ。
などと、沁み沁みと実感する喜屋武に、
「風の魔闘士……フ、フン、中々アレじゃない!」
「あら、アリガト」
偉大なる魔術師を自称するアイヴィーの声が降って来た。お褒めの言葉として受け取ったようだった。
満足気に頷きを返して、アイヴィーはマテリアルを編み上げる。石礫の魔術を顕現させる――その、瞬前。
――そういえば、これって。
編み上げている魔術、ストーンバレット。これは自分の手元からしか飛ばせないのか。もし、飛ばす場所を指定できるのならば――顎下から撃ちぬく事も、出来るのではないか。
――やっぱり天才だわ!
アイヴィー。戦闘中の閃きは大事にしたい系魔術師である。
「その石は意思を通じ意志を貫く、穿ちなさい! アースバレット!!」
拳を下から突き上げるようにして、高らかに謳いあげる、と。
「ぐっはァ……ッ!」
普通に手の先あたりから出た。無駄にバク宙していた水色中年には無事に命中。中年はさらに空高く宙を舞って、無様に地に落ちて転がった。
魔法公害に近づいている立地だった。魔術の発動時、何かがねじ曲がる感覚を予感して、アイヴィーの背筋が凍った。何とかねじ伏せて、高らかに言う。
「……ほ、ほら、やるなら今よ!!」
「無茶するわねえ……」
喜屋武は言いながら、短剣を手に追走。水色は蜻蛉返りで応戦の構え。『先程と同様に』、喜屋武は短く短剣を振り抜く。
「無駄……ッ!?」
水色の自慢気な声は、断ち切られるように消えた。短剣の軌道から伸びるように放たれた風威――ウィンドスラッシュが、水色中年の胸板を深く、抉っていた。
「あら」
豪快な手応えとあっさりと白目を剥いて倒れた水色には、喜屋武の方が驚く程だった。所詮は魔術師、ということだろうか。
「ま、いいわ。一人確保――と」
兎角、喜屋武は中年をロープで縛り上げる事にした。異様に慣れた手つきだったが、杵柄、だったのだろうか。
●
水色が落ちる事に気づいたのは、金爺が先だった。気が逸る赤と緑は気づかない。
「くっ、下がれ、下がれ!!」
叫ぶ声も、攻め気が勝つ味方には届かないようだった。見れば、イレーヌとアイヴィーが転進している。
「――ゴールデンチャクラムゥ!」
「させません」
金爺の視線に焦りを見て取ったマーニが深く、踏み込んだ。
「ち、ィ……ッ!」
カイトシールドの突き上げを、金爺は後方へと飛ぶ事で回避しようとした――瞬前。小さな破裂音が響き、爺の足が止まった。篝の銃弾が、その足を撃ちぬいていた。溢れた鮮血が盾に落ち、勢いに呑まれ、弾ける。
「――ッ!」
盾はそのまま、金爺を打ち抜いた。
快打。しかし、決定打には至らない。金爺はすぐに体勢を整え、噛みしめるように、言う。
「……お仕置き、を……」
だが。
眼前。緑の後方からイレーヌが八角棍で頭蓋を打ち降ろし強襲。気配に振り向こうとしたようだが、赤と相対していた筈のアルルベルの銃撃で至らなかったか。
打撃の瞬間、棍を覆う紫電が奔り、緑の頭が下がる。直後、シュリが盾でその顎を打ち上げると、そのまま混戦へと雪崩れ込む。
「うん、これは中々、心地良い」
満足気なイレーヌは棍を素振りして笑っていた。
赤は――と金爺は視線を転じるが、飄々とした態度とは裏腹に防御を固めた鵤を崩せないまま、だ。
完全に先手を取られ、そのままに押し切られた、と知れた。
「……」
金爺は鳩尾を抑えながら、空を仰いだ。重く息を吐き。
「……ワシらを倒しても第二第三のマテリアルの使者が貴様r」
「撃ち抜け!」
皆まで言わせて貰えず、アイヴィーが放った石礫で金爺は昏倒した。
●
包囲された緑は保たず、雪崩れるように赤色も落ちた。
「やー、くわばらくわばら。疲れたねぇ」
最後にエレクトリックショックを用いて赤を痺れさせた鵤は大儀そうに煙草を咥える。
「どちらかというと気疲れも大きい、ですが……」
生真面目なマーニには一層堪えたのだろう。鵤の傷を癒やしながら、深い安堵の息が零れた。昏倒した爺達はロープで縛られているが、恐らく本来の姿であったであろうローブ姿に戻っている。戻る時に少しだけ生まれたままの姿を幻視した気がしたが、マーニの精神が拒絶していた。
イレーヌもまた仲間たちの傷を癒やしながら、ぽつり、と呟いた。
「しかし、残った一人は現れなかったな」
「そうだな」
同じく、周囲を警戒していたアルルベルが応じる。
「もう少しだけ続くのは遠慮したったのだが……」
そのまま、老人達を見つめて、続ける。
「リアルブルーのお約束も、私には解らなかった。ままならないものだ」
「……そうかしら?」
喜屋武が苦笑すると、アルルベルは小首を傾げる。その仕草に喜屋武の笑みが深くなる。魔闘士CANDY☆TOMと嘯く愛嬌はあるが、そういった表情の方が似合う男だった。
「あなたは、今回も大変そうね?」
「え……いや……」
困憊して座り込んでいるシュリに、篝が言葉を投げた。
「騎士になったらもっと大変だと思いますし、その……いい経験になりました」
「今日のは特別にアレだったけど、ね」
生真面目だがどこか苦い言葉に笑いが零れた。
「ハンターやってると他ではめったにできない経験も積めるし、続けてみたら?」
「……そう、ですね」
真剣な表情で考えこむシュリの横顔を横目に、篝の胸中に湧いた感情は、渾然としていた。羨ましくもあり、同時に、虚しくもあった。
シュリには目指すものがある。向かう先が、ある。翻って、転移してきたものの、故郷に帰る術に見当も付かないままに、ただ生きている自分は、どうだろう。
苦い感傷を飲み下そうとしても、それすらも上手くできやしない。そんな自分に、苦笑が零れた。
そんな胸中を知ってか知らずか。
「……この時給は正義かもしれない」
シュリは、そんなことを呟いた。
「え?」
「い、いえ、なんでもないです!」
思索に耽っていた篝には上手く聞き取れずに聞き返したが、シュリは慌てて首を振るばかりであった。
兎角。事件は一応の終着をみた。
後日、意識が戻った老魔術師達に聞いても、行方不明になった残る一名の行方は解らなかったのだが……。
『――もう少しだけ、続くのじゃよ』
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 八原 篝(ka3104) 人間(リアルブルー)|19才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/02/08 14:26:50 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/02/03 23:43:42 |