ゲスト
(ka0000)
珈琲サロンとぱぁずと迷子
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/02/09 12:00
- 完成日
- 2015/02/18 10:20
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
昨年の暮れにポートカプールの方へ行く依頼があったと言えば、行きたかったわと店長代理のユリアが微笑む。
「久しぶりに、あの人の海を見に行きたかった」
「……いい加減、その黒い服を止めたらどうだ」
「それは、嫌」
店員のローレンツは溜息を吐いてカップを棚に片付け、ユリアは鼻歌交じりに夫の形見のゴーグルを磨く。
工場都市フマーレの商業区にそっと佇んだ喫茶店、軽食とコーヒーで休みに来る職人も珍しくいない夕暮れ時だが、珍しく客足が途切れている。
磨き終えたゴーグルを飾ると、ユリアモップを片手に客席を歩く。
西日から顔を背けると、先日新調した淡い桃色の窓の外、1人の女性が忙しなく走る姿が見えた。
「どうしたんだね、ユリア君」
掃除の手を止めたユリアに、ローレンツが声を掛ける。ユリアは何でもないと首を振って床を拭った。
●
先程走り去った女性が、足を引きずるように店に来た。
夜に軽食を摘まみに来る客がちらほらとし始めた頃、その女性は入り口近くの席で脚を投げ出すように座っている。
解れた髪が一筋頬に張り付き、ひどく疲れた顔をしていた。
「どうぞ……お疲れ様です」
コーヒーを出しながらユリアが声を掛けると、女性は溜息交じりに話し始めた。
「息子が帰ってこなくてね……探してるのよ。朝に遊びに出たっきり。お昼も食べずに何処でふらふらしてるんだか」
「遊びたい盛りなんですよ」
未だ若いといって差し支えなさそうな女性、その息子なら10にも満たない年頃だろう。お幾つですかと尋ねると、女性は肩を竦めながら、春になったら7歳と答えた。
「…………昨日ね、友達にからかわれたって言っていたの。臆病者って。それで、一晩中拗ねてたみたい。お化けも怖くない、1人で何処でも行けるんだぞって……変なところに行ってないと良いけど」
テーブルに頬杖を突いて溜息、爪先で床を擦って疲れた足を解しながら。
「きっと、見つかりますよ」
からん、ころんとベルが鳴って来客を告げる。
いらっしゃい、とユリアが顔を上げると来客は空席を探して店内を見回した。
「――あら、満席かしら。ここどうぞ。すぐに出るから」
女性が声を掛けると向かいの席に腰を下ろして、その客は額の汗を拭った。
「助かったよ。漸く荷解きを終えてね。他の奴らは飲みに行っちまったんだが、下戸でね、俺」
少し前に街に着いた商人の一団その1人だという彼は馬車に揺られて疲れた顔で漸く人心地着いたとコーヒーの香を吸い込んだ。
「……最近は、この辺まで危なっかしいね。護衛なしじゃとてもとても……昨晩もゴブリンの群に行き合ったし、この道中だけでも……はぁ」
彼の話を聞きながら、女性はふと思いついた。
「――あの、ここへ来るまでに小さな男の子見ませんでした?」
「見たよ。ネイビーのポンチョを被った子。マフラーが解けて転びそうになってたからよく覚えてる。……何だったかな、街道のお化け退治だって言って走ってたな」
紺のポンチョはあの子のお気に入りだった。今日は冷えるから、私の巻いて行きなさいって、長いマフラーを貸してやった。
街道のお化け退治?
……昨晩もゴブリンの群に行き合った……
青ざめた女性の肩に手を添え、ユリアは商人の男に奥のテーブルを示した。
広いテーブルには地図が貼られて、数人の客が座っている。
「あなたが子どもを見た場所と走って行った方、あと、ゴブリンの群の場所、教えて貰えないかしら?」
●
柵を潜り、塀の隙間に忍び込んで辿り着いた街道、日の落ちたそこは鬱蒼として真っ暗。
月の白々と細い光は差してこない。
風が吹く度にざわざわと不気味な音が聞こえる。
幼い少年は、長いマフラーをしっかりと巻き直し、小さな一歩を踏み出した。
街道脇の森に棲むゴブリン達。
昨夜の狩りは失敗だった。
立派な馬車を護衛に守らせた集団など、襲う物じゃ無い。
仲間を数匹やられたが、しかし、彼らの武器が1つ2つ手に入った。
街道に散らかった仲間の死体は、その内雨に流されるだろう。
暫くして少年の爪先が柔らかい何かに触れた。
暗闇に慣れきらない目は、それがゴブリンの亡骸だと分かるまでに暫くを要し、やがて森に潜むゴブリン達の耳にも高い悲鳴が届いた。
昨年の暮れにポートカプールの方へ行く依頼があったと言えば、行きたかったわと店長代理のユリアが微笑む。
「久しぶりに、あの人の海を見に行きたかった」
「……いい加減、その黒い服を止めたらどうだ」
「それは、嫌」
店員のローレンツは溜息を吐いてカップを棚に片付け、ユリアは鼻歌交じりに夫の形見のゴーグルを磨く。
工場都市フマーレの商業区にそっと佇んだ喫茶店、軽食とコーヒーで休みに来る職人も珍しくいない夕暮れ時だが、珍しく客足が途切れている。
磨き終えたゴーグルを飾ると、ユリアモップを片手に客席を歩く。
西日から顔を背けると、先日新調した淡い桃色の窓の外、1人の女性が忙しなく走る姿が見えた。
「どうしたんだね、ユリア君」
掃除の手を止めたユリアに、ローレンツが声を掛ける。ユリアは何でもないと首を振って床を拭った。
●
先程走り去った女性が、足を引きずるように店に来た。
夜に軽食を摘まみに来る客がちらほらとし始めた頃、その女性は入り口近くの席で脚を投げ出すように座っている。
解れた髪が一筋頬に張り付き、ひどく疲れた顔をしていた。
「どうぞ……お疲れ様です」
コーヒーを出しながらユリアが声を掛けると、女性は溜息交じりに話し始めた。
「息子が帰ってこなくてね……探してるのよ。朝に遊びに出たっきり。お昼も食べずに何処でふらふらしてるんだか」
「遊びたい盛りなんですよ」
未だ若いといって差し支えなさそうな女性、その息子なら10にも満たない年頃だろう。お幾つですかと尋ねると、女性は肩を竦めながら、春になったら7歳と答えた。
「…………昨日ね、友達にからかわれたって言っていたの。臆病者って。それで、一晩中拗ねてたみたい。お化けも怖くない、1人で何処でも行けるんだぞって……変なところに行ってないと良いけど」
テーブルに頬杖を突いて溜息、爪先で床を擦って疲れた足を解しながら。
「きっと、見つかりますよ」
からん、ころんとベルが鳴って来客を告げる。
いらっしゃい、とユリアが顔を上げると来客は空席を探して店内を見回した。
「――あら、満席かしら。ここどうぞ。すぐに出るから」
女性が声を掛けると向かいの席に腰を下ろして、その客は額の汗を拭った。
「助かったよ。漸く荷解きを終えてね。他の奴らは飲みに行っちまったんだが、下戸でね、俺」
少し前に街に着いた商人の一団その1人だという彼は馬車に揺られて疲れた顔で漸く人心地着いたとコーヒーの香を吸い込んだ。
「……最近は、この辺まで危なっかしいね。護衛なしじゃとてもとても……昨晩もゴブリンの群に行き合ったし、この道中だけでも……はぁ」
彼の話を聞きながら、女性はふと思いついた。
「――あの、ここへ来るまでに小さな男の子見ませんでした?」
「見たよ。ネイビーのポンチョを被った子。マフラーが解けて転びそうになってたからよく覚えてる。……何だったかな、街道のお化け退治だって言って走ってたな」
紺のポンチョはあの子のお気に入りだった。今日は冷えるから、私の巻いて行きなさいって、長いマフラーを貸してやった。
街道のお化け退治?
……昨晩もゴブリンの群に行き合った……
青ざめた女性の肩に手を添え、ユリアは商人の男に奥のテーブルを示した。
広いテーブルには地図が貼られて、数人の客が座っている。
「あなたが子どもを見た場所と走って行った方、あと、ゴブリンの群の場所、教えて貰えないかしら?」
●
柵を潜り、塀の隙間に忍び込んで辿り着いた街道、日の落ちたそこは鬱蒼として真っ暗。
月の白々と細い光は差してこない。
風が吹く度にざわざわと不気味な音が聞こえる。
幼い少年は、長いマフラーをしっかりと巻き直し、小さな一歩を踏み出した。
街道脇の森に棲むゴブリン達。
昨夜の狩りは失敗だった。
立派な馬車を護衛に守らせた集団など、襲う物じゃ無い。
仲間を数匹やられたが、しかし、彼らの武器が1つ2つ手に入った。
街道に散らかった仲間の死体は、その内雨に流されるだろう。
暫くして少年の爪先が柔らかい何かに触れた。
暗闇に慣れきらない目は、それがゴブリンの亡骸だと分かるまでに暫くを要し、やがて森に潜むゴブリン達の耳にも高い悲鳴が届いた。
リプレイ本文
●
商人、そして女性から話を聞き終えたハンター達は、直ぐさまに店を飛び出した。
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)がライトを噛んで愛馬の鞍に飛び乗り、街道へと駆る。その後ろに、同じく馬を駆ったシュタール・フラム(ka0024)とジオラ・L・スパーダ(ka2635)が続く。それを追った女性を庇うように白水 燈夜(ka0236)、丹々(ka3767)、蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)も走り出した。
月の昇った夜の街を走り抜け、ハンター達は街道に至る。
悲鳴が、聞こえた。
「先に行くぜ」
声に弾かれたようにエヴァンスは一度だけ振り返って仲間に告げる。鐙を揺すり、横腹を押してライトで照らす先へ馬を急かす。
冬の夜の凍える冷たい風が頬に刺さる。
馬のしなやかな筋肉の動きが伝い、片手で手綱を取り、片手はライトを握り締めて、暗闇の中に一筋の光を伸ばす。地面から走る先へ、揺れるライトの端が何かを捕らえた。
地面の不穏な肉塊はゴブリンの死体らしく、その横で震えているのが探している子どもだろう。
辺りを警戒しながら馬の速度を緩めて声を掛ける。その少年は怯えているのか、首を振って何も答えない。
「もう大丈夫だ、安心しろ坊主――さあ、早いとこ親御さんのところに帰ると……ちょい、待ち」
光を地面の死体から逸らし、子どもと森の茂みの間を馬で遮る。
戻ろうと促しかけた時、その茂みから何かが近付くのを感じた。
街道の入り口で馬を止めたシュタールとジオラは先を睨み、馬をいなしながら走る仲間と女性の到着を待った。
全員が揃い、行こうかと街道を進む。
聞き取れない程震えた声で我が子の名を呼び続ける女性の肩を、丹々と蜜鈴が撫でた。
悲鳴はゴブリンに出会ったからか、あるいは。丹々は走る先をじっと睨んだ。
闇にさえ映える艶やかな黒を纏い、すらりと伸びた首の健康的な肌色にぽっと鱗の煌めきが浮かぶ。
優にその背丈を超える槍を握り締めた指が白み、軋む衝動に呼応するように微かな赤い光が散った。
母親を庇うように前へ走り出ると、肩越しに振り返る。
「――お母さんまで、おそわれたら、いけないよ」
ライトを向けて遠くを見詰める。見えない。まだ少し先のようだ。
「そうじゃ」
蜜鈴が頷いた。母親が息子に貸したマフラーの代わりに巻いてきたという彼のマフラーを、道中、カイチと呼ぶ犬に嗅がせてある。
匂いは嗅ぎ取ったように見えたが、少年を見つけた様子は無い。ジオラがユキと名付けて連れている犬も、少し先で同じように走っている。
「不安は解るがの、落ち着いて駆けよ。ほれ足元がおぼつかぬぞ?」
母親の手を取って先を行ったハンター達を追うように走る。冷え切った手をしっかりと握り、震える声が呼び続ける名を聞き取ろうと耳を澄ませながら。
母親の息が上がりが止まり掛けた頃、シュタールとジオラは手綱を引き、馬の歩を緩めた。
「ライトが見える。あそこだろうな」
「よし、見てくるか――いや」
シュタールが馬を走らせる、馬上で大型の銃を取る。
「伏せろ!」
叫びながら迫り、その声に少年が屈んだ所へ引き金を引く。
エヴァンスの馬を迂回して迫ったゴブリンの前に数発の鉛玉が叩き込まれ、微かに土を煙らせた。
「手前に5匹」
目視したゴブリンの前衛の数を叫ぶ。
「こっちだ!」
ジオラが馬を飛び降り、そのゴブリン達へ向かって声を上げる。獣めく咆哮はマテリアルの熱をざわめかせ、いっそそれらしい程剥く歯に牙を描き、見開く瞳を爛爛と輝かせる。
しなやかな刀を握る指で空気を薙げば、獣の毛並みと爪が浮かぶのだ。
ゴブリンの前に飛び出すと石や木の枝を構えていた内の1匹が、その眼光に射抜かれて竦む。
そして、追い打ちを掛けるように風が吹き抜けていった。
「狙うなら、こっち。……もっといそうだね。伊織、探せる?」
連れていた猫を放し、白水は1冊の本を取り出した。黒曜の瞳は深い海の青に溶けて、ページを捲る瞬間に溢れた光は羽の形を得て舞い散った。
黄色の羽の光を裂いて空気を刈り取る風に、ゴブリンはそれぞれの武器を握り直して身構える。
「少々、暗いな……矮小なる光明よ、温かき御手により冥き闇を照らせ」
蜜鈴が杖を掲げて明かりを灯す。温かな光源の元、母親を背に庇いながら杖を構え直した。
「妾の側を離れるでないぞ?」
「うん。さがってて……」
丹々が肌に浮かぶ鱗を濃くし、その背に翼を負いながら槍を突き出すと、地面を蹴った。
真っ直ぐに突き付けられた槍は中央にいたゴブリンの体を引っ掻くも、弾き飛ばすには至らず、その勢いを殺されてしまう。
穂先を赤く染めた槍を構え直し、幼い龍の彼女は槍を操る。
●
瞳の赤が薄れて透き通るような琥珀に冴える。エヴァンスは好戦的な弧を描いた唇を隠しながら馬を下り、軽い得物の鞘を払う。
ハンター達の初撃に押されたようだが既に姿を現したゴブリン5匹、茂みを揺らし現れようとしている者が2匹。少年を背に庇いながら彼らに向き合った。
丹々は「アレを見ちゃったんだね」と、足下の骸を見遣る。その声が生きたゴブリンにも聞こえちゃったんだね、と。少年に目立った怪我が無い事を確かめて、更に前へ振り返って母親を示すと、彼は足を縺れさせながら走った。
その少年へ迫るゴブリンの棍棒がそれを掴む腕ごと爆ぜる。
「――いきなり飛び出すのは無しで頼む」
少年の元へと腕を伸ばし駆け出そうとする母親に、シュタールの声が響く。出立前の彼の言葉が蘇った。
請け負った以上、皆で最善を尽くす。だが……
あと少し、母親は抱き締めるための腕を広げ、数歩の距離を堪えて少年を待つ。
残った腕を少年へ伸ばすゴブリンの体を、丹々の振り抜いた槍が貫いた。
槍の長い柄を横にゴブリンの接近を遮りながら丹々は行ってと少年を促す。羽ばたきに舞う火の粉が辺りを一瞬だけ明るくした。
母親の腕の中に飛び込んだ少年と、抱き留めて蹲るその母親とを庇うように蜜鈴と白水が立つ。
蜜鈴は2人に近付こうとしたゴブリンへ向けて、白水は茂みから新たに現れた剣を構えるゴブリンへ向けて、それぞれ炎を纏う矢を放った。
「魔力の矢よ、炎を纏て彼の敵を穿て」
杖から狙い澄ましたように放った炎は、ゴブリンの腹を抉って消える。
「――寄らば穿とう、触れさせはせぬぞ」
錆の香纏う夜風が豊かな桃色の髪を揺らす。空の色をした瞳は唯冷ややかに敵を見据えた。
「……鬼魔駆逐急々如律令……」
冷たい空気を吸い込み茂みを睨む。凜と響く白水の声。放たれた炎の矢は真っ直ぐに飛び、剣を両手に構えてその切っ先を母子に向けたゴブリンへ迫る。
「ってか? や、ゴブリンは鬼じゃないか」
刀身でその炎を受けたゴブリンは衝撃に弾かれて姿勢を崩し、巡った熱に唸る。
ジオラの持つ白い刀身は幾度となく煌めき、マテリアルを介した獣の力で鎬を重ね、弾く。
きぃんと高い音が響いた。
「あの子は離れたね――排除する。こんな状況良くないからね」
土を踏む足に、柄を握る手に、敵を睨む瞳にマテリアルが巡る。混じる獣の霊が冴えていく。
マテリアルが琥珀に染めた双眸が、少年を振り返った。母親の腕の中から顔を覗かせた少年は片手を上げ、彼を励ますように笑みを深めたエヴァンスを見詰める。
「行くぜ、ゴブリン!」
低く握った刀は、切っ先をそのままに腕を引き上げ、傾いだ体ごと敵の中へ飛び込んだ。
エヴァンスが切り結んだ1匹に追い打ちを掛けるように、遠方からの炎が堕とされる。
「よっと、2発目ー……暗いとこから、なんて。それこそ……ふぅ」
お化けみたいだと、白水が本を構えて肩を竦めた。
もう1匹と切り結ぶジオラが大きく刀を薙いで鋼の触れ合う激しい音を奏でる。
「そうだ、こっちを狙え……あんたらもだ」
翻る切っ先で散らばるゴブリンを誘い、鋭い視線で威嚇する。唸ったゴブリンが剣を大きく振りかぶった。
丹々は近くに迫った1匹を槍に貫き、その槍と腕に棍棒を受ける。衝撃に袂が翻り、姿勢が崩れかかるが、まだ耐えられる。
「こわがるのは、かっこ悪くないよ」
ゴブリンを払うように腕を引き、丹々が少年へと振り返った。
槍を構え直し、次に備えて地面を蹴る。
土埃の中、抑えきれずに横をすり抜けた1匹が少年に迫り、白い腕がそれを遮った。
「触れさせはせぬ。彼の命は妾の宝じゃ」
至近まで迫るなら殴ってやろうと握った杖を震う。ゴブリンはその動きに合わせたように、身を庇って跳ね退いた。
着地と同時に辺りの小石と手にした棍棒を投げつける。蜜鈴は咄嗟に少年と母親を庇って2人の前に出た。幾らかぶつかった礫が腕を掠め鮮血を散らす。
「この程度で妾は倒れぬぞ」
蜜鈴は微笑さえ浮かべ、ゴブリンが距離を取ったそこへ過たず炎の槍を打ち込むと、合わせるように鉛玉が降ってきた。
シュタールの放つ弾丸は炎に弾かれた体を容易く貫いてその動きを止め、尚も近付こうとするゴブリンに銃口を突き付ける。肌に灼けつく熱を感じる。繋ぎの下、この身を守る鎧の下に隠した覚醒の紋章が疼き、流星を刻む自動小銃は機導の剣へ姿を変じた。
走り込んできたゴブリンをその剣で抑える。
「弾切れと思ったか?」
棍棒を削ぎ、剣でその胸を貫いて。
「こういう使い方も出来るんでな」
丹々が抑えた1匹を弾き、残りの1匹に穂先を据える。
「……にげられないね」
爛爛と光る金の眼がゴブリンを見詰め、槍の長さを生かして大きく振り抜いた。
丹々の手の先、翻る槍が踊るようにゴブリンを狩る。
「にがさないよ」
火花の幻影が舞う中、ゴブリンはその穂先に貫かれた。
「妾はおんしらを許さぬよ」
母子の前に立つ蜜鈴が杖を振るい矢を放った。
「もう、片付くかな?」
シュタールは銃剣代わりにしていたライフルを元の形に、装填を終えると銃口を向けた。
逃げようとした1匹に気付いた白水は、そのゴブリンへ狙いを定め、炎の矢を放つ。
紙の擦れる音と共に放たれた一矢がゴブリンの体を貫いて、地面へ縫い止めるように転ばせる。
「もう一発だね」
緩く柔い息を吐いて狙い澄ます一撃を放った。
夜の帳を裂くように飛び、ゴブリンの体へ炎の衝撃を与える。
「さて、と」
ジオラとエヴァンスが抑える2匹へ視線を戻す。
邪魔が入ってしまったが、次は奴らだとページを捲る乾いた音が鳴る。
ゴブリンが数匹走った気配を感じたジオラは眼前のそれに向かって大きく刀を振るった。
「あんたは、あたしに集中してなよ」
獣の唸るような音で刀を薙ぎ、大袈裟に突き出してみせればそのゴブリンは勢いを無くす。
ぶれた剣の切っ先はジオラに向きながら、それが飛び掛かってくる様子は無い。
背後を気に掛けながら地面を蹴る。守るべき母子とは十分離れている。
たん、と軽く地面を蹴り振りかぶった刃を叩き付けた。
真二つにとまではいかないまでも深手を負ったゴブリンが剣を杖代わりに肩を喘がせる。
「しぶといな……」
「ああ、こっちもだ」
エヴァンスが頷いた。斬り掛かってきた剣を刀身に受けて、弾くように押す。ブーツの爪先が土を掘り起こす程強く踏みしめ、更にもう一歩。
柄を両手で握り締め、叩き付けるように袈裟懸けに切り下ろすと、胸から、腹からと血を零すゴブリンが濁る音で吠えた。
「中々、体力だけは有るみたいだな」
ぱらとページの捲れる音。放たれる炎の矢がゴブリンを狙う。
慣れた格好に構え尚したエヴァンスと、獣の腕を纏ったジオラがそれぞれゴブリンに斬り掛かっていった。
●
白水の腕に伊織と呼ばれた猫が飛びついてきた。何事かを伝えるように甘い声で鳴いている。その寛いだ様子に、一体の安全を察すると、白水はふうと柔く溜息を零した。
ジオラのユキも蜜鈴のカイチも膝下に寄り添って安全を伝えている。
母の腕の中漸く震えの収まった少年の頭にシュタールの手が乗せられた。濡れた円らな瞳が見上げる。その目を優しく笑った黒い瞳が見詰め返した。
「怪我は無いか? ――で、言うことがあるよな?」
少年を案じた声音が少しばかりの真面目さを帯びて。少年はこくりと頷き小さな声で「ごめんなさい」と告げた。
「子供ってのは冒険心ありきで成長するもんだ。よく頑張ったな」
「よく堪えたな……真っ暗で、怖かっただろ」
エヴァンスの声に初めて彼の顔を真っ直ぐに見上げた少年は瞠った目を瞬かせた。ジオラが慰めにとじゃれつかせたパルムに指を摘ままれ、泣いた顔がくしゃりと笑う。
「こわいのがんばろうとしたのは、ちょっと、かっこいい――もしも、また、からかわれも負けないでね。丹々がかせいに行くから!」
年の近く見える丹々の言葉に頬を染めた。
「度胸試しは結構。なれど母を嘆きへ誘う為の度胸なれば要らぬと識れ」
蜜鈴の言い回しに首を傾げながら、一言ずつゆっくりと反芻して、こくりと首を縦に揺らした。
ん、と白水が背筋を伸ばす。
「さむい……眠い……おにーさんは苦手だったよ、お化け。勇敢だったな。ん」
とぱぁず、寄って帰ろうぜ。温かくて甘いカフェオレを恋しがる。
悴んだ指に少年が小さな手をそっと重ねた。
商人、そして女性から話を聞き終えたハンター達は、直ぐさまに店を飛び出した。
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)がライトを噛んで愛馬の鞍に飛び乗り、街道へと駆る。その後ろに、同じく馬を駆ったシュタール・フラム(ka0024)とジオラ・L・スパーダ(ka2635)が続く。それを追った女性を庇うように白水 燈夜(ka0236)、丹々(ka3767)、蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)も走り出した。
月の昇った夜の街を走り抜け、ハンター達は街道に至る。
悲鳴が、聞こえた。
「先に行くぜ」
声に弾かれたようにエヴァンスは一度だけ振り返って仲間に告げる。鐙を揺すり、横腹を押してライトで照らす先へ馬を急かす。
冬の夜の凍える冷たい風が頬に刺さる。
馬のしなやかな筋肉の動きが伝い、片手で手綱を取り、片手はライトを握り締めて、暗闇の中に一筋の光を伸ばす。地面から走る先へ、揺れるライトの端が何かを捕らえた。
地面の不穏な肉塊はゴブリンの死体らしく、その横で震えているのが探している子どもだろう。
辺りを警戒しながら馬の速度を緩めて声を掛ける。その少年は怯えているのか、首を振って何も答えない。
「もう大丈夫だ、安心しろ坊主――さあ、早いとこ親御さんのところに帰ると……ちょい、待ち」
光を地面の死体から逸らし、子どもと森の茂みの間を馬で遮る。
戻ろうと促しかけた時、その茂みから何かが近付くのを感じた。
街道の入り口で馬を止めたシュタールとジオラは先を睨み、馬をいなしながら走る仲間と女性の到着を待った。
全員が揃い、行こうかと街道を進む。
聞き取れない程震えた声で我が子の名を呼び続ける女性の肩を、丹々と蜜鈴が撫でた。
悲鳴はゴブリンに出会ったからか、あるいは。丹々は走る先をじっと睨んだ。
闇にさえ映える艶やかな黒を纏い、すらりと伸びた首の健康的な肌色にぽっと鱗の煌めきが浮かぶ。
優にその背丈を超える槍を握り締めた指が白み、軋む衝動に呼応するように微かな赤い光が散った。
母親を庇うように前へ走り出ると、肩越しに振り返る。
「――お母さんまで、おそわれたら、いけないよ」
ライトを向けて遠くを見詰める。見えない。まだ少し先のようだ。
「そうじゃ」
蜜鈴が頷いた。母親が息子に貸したマフラーの代わりに巻いてきたという彼のマフラーを、道中、カイチと呼ぶ犬に嗅がせてある。
匂いは嗅ぎ取ったように見えたが、少年を見つけた様子は無い。ジオラがユキと名付けて連れている犬も、少し先で同じように走っている。
「不安は解るがの、落ち着いて駆けよ。ほれ足元がおぼつかぬぞ?」
母親の手を取って先を行ったハンター達を追うように走る。冷え切った手をしっかりと握り、震える声が呼び続ける名を聞き取ろうと耳を澄ませながら。
母親の息が上がりが止まり掛けた頃、シュタールとジオラは手綱を引き、馬の歩を緩めた。
「ライトが見える。あそこだろうな」
「よし、見てくるか――いや」
シュタールが馬を走らせる、馬上で大型の銃を取る。
「伏せろ!」
叫びながら迫り、その声に少年が屈んだ所へ引き金を引く。
エヴァンスの馬を迂回して迫ったゴブリンの前に数発の鉛玉が叩き込まれ、微かに土を煙らせた。
「手前に5匹」
目視したゴブリンの前衛の数を叫ぶ。
「こっちだ!」
ジオラが馬を飛び降り、そのゴブリン達へ向かって声を上げる。獣めく咆哮はマテリアルの熱をざわめかせ、いっそそれらしい程剥く歯に牙を描き、見開く瞳を爛爛と輝かせる。
しなやかな刀を握る指で空気を薙げば、獣の毛並みと爪が浮かぶのだ。
ゴブリンの前に飛び出すと石や木の枝を構えていた内の1匹が、その眼光に射抜かれて竦む。
そして、追い打ちを掛けるように風が吹き抜けていった。
「狙うなら、こっち。……もっといそうだね。伊織、探せる?」
連れていた猫を放し、白水は1冊の本を取り出した。黒曜の瞳は深い海の青に溶けて、ページを捲る瞬間に溢れた光は羽の形を得て舞い散った。
黄色の羽の光を裂いて空気を刈り取る風に、ゴブリンはそれぞれの武器を握り直して身構える。
「少々、暗いな……矮小なる光明よ、温かき御手により冥き闇を照らせ」
蜜鈴が杖を掲げて明かりを灯す。温かな光源の元、母親を背に庇いながら杖を構え直した。
「妾の側を離れるでないぞ?」
「うん。さがってて……」
丹々が肌に浮かぶ鱗を濃くし、その背に翼を負いながら槍を突き出すと、地面を蹴った。
真っ直ぐに突き付けられた槍は中央にいたゴブリンの体を引っ掻くも、弾き飛ばすには至らず、その勢いを殺されてしまう。
穂先を赤く染めた槍を構え直し、幼い龍の彼女は槍を操る。
●
瞳の赤が薄れて透き通るような琥珀に冴える。エヴァンスは好戦的な弧を描いた唇を隠しながら馬を下り、軽い得物の鞘を払う。
ハンター達の初撃に押されたようだが既に姿を現したゴブリン5匹、茂みを揺らし現れようとしている者が2匹。少年を背に庇いながら彼らに向き合った。
丹々は「アレを見ちゃったんだね」と、足下の骸を見遣る。その声が生きたゴブリンにも聞こえちゃったんだね、と。少年に目立った怪我が無い事を確かめて、更に前へ振り返って母親を示すと、彼は足を縺れさせながら走った。
その少年へ迫るゴブリンの棍棒がそれを掴む腕ごと爆ぜる。
「――いきなり飛び出すのは無しで頼む」
少年の元へと腕を伸ばし駆け出そうとする母親に、シュタールの声が響く。出立前の彼の言葉が蘇った。
請け負った以上、皆で最善を尽くす。だが……
あと少し、母親は抱き締めるための腕を広げ、数歩の距離を堪えて少年を待つ。
残った腕を少年へ伸ばすゴブリンの体を、丹々の振り抜いた槍が貫いた。
槍の長い柄を横にゴブリンの接近を遮りながら丹々は行ってと少年を促す。羽ばたきに舞う火の粉が辺りを一瞬だけ明るくした。
母親の腕の中に飛び込んだ少年と、抱き留めて蹲るその母親とを庇うように蜜鈴と白水が立つ。
蜜鈴は2人に近付こうとしたゴブリンへ向けて、白水は茂みから新たに現れた剣を構えるゴブリンへ向けて、それぞれ炎を纏う矢を放った。
「魔力の矢よ、炎を纏て彼の敵を穿て」
杖から狙い澄ましたように放った炎は、ゴブリンの腹を抉って消える。
「――寄らば穿とう、触れさせはせぬぞ」
錆の香纏う夜風が豊かな桃色の髪を揺らす。空の色をした瞳は唯冷ややかに敵を見据えた。
「……鬼魔駆逐急々如律令……」
冷たい空気を吸い込み茂みを睨む。凜と響く白水の声。放たれた炎の矢は真っ直ぐに飛び、剣を両手に構えてその切っ先を母子に向けたゴブリンへ迫る。
「ってか? や、ゴブリンは鬼じゃないか」
刀身でその炎を受けたゴブリンは衝撃に弾かれて姿勢を崩し、巡った熱に唸る。
ジオラの持つ白い刀身は幾度となく煌めき、マテリアルを介した獣の力で鎬を重ね、弾く。
きぃんと高い音が響いた。
「あの子は離れたね――排除する。こんな状況良くないからね」
土を踏む足に、柄を握る手に、敵を睨む瞳にマテリアルが巡る。混じる獣の霊が冴えていく。
マテリアルが琥珀に染めた双眸が、少年を振り返った。母親の腕の中から顔を覗かせた少年は片手を上げ、彼を励ますように笑みを深めたエヴァンスを見詰める。
「行くぜ、ゴブリン!」
低く握った刀は、切っ先をそのままに腕を引き上げ、傾いだ体ごと敵の中へ飛び込んだ。
エヴァンスが切り結んだ1匹に追い打ちを掛けるように、遠方からの炎が堕とされる。
「よっと、2発目ー……暗いとこから、なんて。それこそ……ふぅ」
お化けみたいだと、白水が本を構えて肩を竦めた。
もう1匹と切り結ぶジオラが大きく刀を薙いで鋼の触れ合う激しい音を奏でる。
「そうだ、こっちを狙え……あんたらもだ」
翻る切っ先で散らばるゴブリンを誘い、鋭い視線で威嚇する。唸ったゴブリンが剣を大きく振りかぶった。
丹々は近くに迫った1匹を槍に貫き、その槍と腕に棍棒を受ける。衝撃に袂が翻り、姿勢が崩れかかるが、まだ耐えられる。
「こわがるのは、かっこ悪くないよ」
ゴブリンを払うように腕を引き、丹々が少年へと振り返った。
槍を構え直し、次に備えて地面を蹴る。
土埃の中、抑えきれずに横をすり抜けた1匹が少年に迫り、白い腕がそれを遮った。
「触れさせはせぬ。彼の命は妾の宝じゃ」
至近まで迫るなら殴ってやろうと握った杖を震う。ゴブリンはその動きに合わせたように、身を庇って跳ね退いた。
着地と同時に辺りの小石と手にした棍棒を投げつける。蜜鈴は咄嗟に少年と母親を庇って2人の前に出た。幾らかぶつかった礫が腕を掠め鮮血を散らす。
「この程度で妾は倒れぬぞ」
蜜鈴は微笑さえ浮かべ、ゴブリンが距離を取ったそこへ過たず炎の槍を打ち込むと、合わせるように鉛玉が降ってきた。
シュタールの放つ弾丸は炎に弾かれた体を容易く貫いてその動きを止め、尚も近付こうとするゴブリンに銃口を突き付ける。肌に灼けつく熱を感じる。繋ぎの下、この身を守る鎧の下に隠した覚醒の紋章が疼き、流星を刻む自動小銃は機導の剣へ姿を変じた。
走り込んできたゴブリンをその剣で抑える。
「弾切れと思ったか?」
棍棒を削ぎ、剣でその胸を貫いて。
「こういう使い方も出来るんでな」
丹々が抑えた1匹を弾き、残りの1匹に穂先を据える。
「……にげられないね」
爛爛と光る金の眼がゴブリンを見詰め、槍の長さを生かして大きく振り抜いた。
丹々の手の先、翻る槍が踊るようにゴブリンを狩る。
「にがさないよ」
火花の幻影が舞う中、ゴブリンはその穂先に貫かれた。
「妾はおんしらを許さぬよ」
母子の前に立つ蜜鈴が杖を振るい矢を放った。
「もう、片付くかな?」
シュタールは銃剣代わりにしていたライフルを元の形に、装填を終えると銃口を向けた。
逃げようとした1匹に気付いた白水は、そのゴブリンへ狙いを定め、炎の矢を放つ。
紙の擦れる音と共に放たれた一矢がゴブリンの体を貫いて、地面へ縫い止めるように転ばせる。
「もう一発だね」
緩く柔い息を吐いて狙い澄ます一撃を放った。
夜の帳を裂くように飛び、ゴブリンの体へ炎の衝撃を与える。
「さて、と」
ジオラとエヴァンスが抑える2匹へ視線を戻す。
邪魔が入ってしまったが、次は奴らだとページを捲る乾いた音が鳴る。
ゴブリンが数匹走った気配を感じたジオラは眼前のそれに向かって大きく刀を振るった。
「あんたは、あたしに集中してなよ」
獣の唸るような音で刀を薙ぎ、大袈裟に突き出してみせればそのゴブリンは勢いを無くす。
ぶれた剣の切っ先はジオラに向きながら、それが飛び掛かってくる様子は無い。
背後を気に掛けながら地面を蹴る。守るべき母子とは十分離れている。
たん、と軽く地面を蹴り振りかぶった刃を叩き付けた。
真二つにとまではいかないまでも深手を負ったゴブリンが剣を杖代わりに肩を喘がせる。
「しぶといな……」
「ああ、こっちもだ」
エヴァンスが頷いた。斬り掛かってきた剣を刀身に受けて、弾くように押す。ブーツの爪先が土を掘り起こす程強く踏みしめ、更にもう一歩。
柄を両手で握り締め、叩き付けるように袈裟懸けに切り下ろすと、胸から、腹からと血を零すゴブリンが濁る音で吠えた。
「中々、体力だけは有るみたいだな」
ぱらとページの捲れる音。放たれる炎の矢がゴブリンを狙う。
慣れた格好に構え尚したエヴァンスと、獣の腕を纏ったジオラがそれぞれゴブリンに斬り掛かっていった。
●
白水の腕に伊織と呼ばれた猫が飛びついてきた。何事かを伝えるように甘い声で鳴いている。その寛いだ様子に、一体の安全を察すると、白水はふうと柔く溜息を零した。
ジオラのユキも蜜鈴のカイチも膝下に寄り添って安全を伝えている。
母の腕の中漸く震えの収まった少年の頭にシュタールの手が乗せられた。濡れた円らな瞳が見上げる。その目を優しく笑った黒い瞳が見詰め返した。
「怪我は無いか? ――で、言うことがあるよな?」
少年を案じた声音が少しばかりの真面目さを帯びて。少年はこくりと頷き小さな声で「ごめんなさい」と告げた。
「子供ってのは冒険心ありきで成長するもんだ。よく頑張ったな」
「よく堪えたな……真っ暗で、怖かっただろ」
エヴァンスの声に初めて彼の顔を真っ直ぐに見上げた少年は瞠った目を瞬かせた。ジオラが慰めにとじゃれつかせたパルムに指を摘ままれ、泣いた顔がくしゃりと笑う。
「こわいのがんばろうとしたのは、ちょっと、かっこいい――もしも、また、からかわれも負けないでね。丹々がかせいに行くから!」
年の近く見える丹々の言葉に頬を染めた。
「度胸試しは結構。なれど母を嘆きへ誘う為の度胸なれば要らぬと識れ」
蜜鈴の言い回しに首を傾げながら、一言ずつゆっくりと反芻して、こくりと首を縦に揺らした。
ん、と白水が背筋を伸ばす。
「さむい……眠い……おにーさんは苦手だったよ、お化け。勇敢だったな。ん」
とぱぁず、寄って帰ろうぜ。温かくて甘いカフェオレを恋しがる。
悴んだ指に少年が小さな手をそっと重ねた。
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闇夜の迷子探し【相談卓】 蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009) エルフ|22才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/02/07 21:02:17 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/02/06 21:20:53 |