仮面の剣士、南征へ

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
少なめ
相談期間
4日
締切
2019/08/27 07:30
完成日
2019/08/28 20:14

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

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オープニング

●リゼリオ
 ハンターオフィスの一角で、紡伎 希(kz0174)に招かれた大轟寺蒼人は、仮面の剣士と向き合っていた。
 大事な話があると言われて胸を踊らせてやってきたかと思えば、部屋で待っていたのは、驚きの再会だった。
「……で、ムラちゃんは、まだ龍尾城には戻りたくないと」
「偉くなりましたね、そんな風に人の名を呼ぶとは」
「い、いえ……失礼しました。ネムレス殿……」
 落ちかけた眼鏡を直す蒼人。
 征夷大将軍である立花院 紫草(kz0126)との再会を喜んだのも束の間、彼の口から発せられた事に、蒼人は驚いていた。
 記憶が戻ったのなら、真っ先にスメラギ(kz0158)に会いに行くと思っていたからだ。
 それどころか、ネムレスは衝撃的な言葉を告げた。
「もう一度、確認しますね……ネムレス殿は、南征を行う……という事で間違いないですね」
 エトファリカ連邦国の南側には長江へ憤怒本陣が広がっている。
 憤怒勢力は大きく減退した様子であり、その為、憤怒本陣の残党はまばららしい。
「その通りです。憤怒本陣を抜けて、溶岩城を浄化するのは、今を持って他はありません」
「溶岩城……かつて、難攻不落と謳われた獄炎の居城……」
 蒼人はボソリと呟いた。
 “龍の背骨”と呼ばれる巨大な山脈の端に位置するその城は、文字通り、溶岩の城だ。
 かつては、九蛇頭尾大黒狐 獄炎の住処であり、憤怒勢力の拠点であった。東方侵攻に合わせ、より、出撃しやすいよう、拠点を移したのが、憤怒本陣だったのだ。
 当然の事ながら、負のマテリアルで汚染されており、その影響を受けたマグマが憤怒本陣や長江の一部に流れ、汚染を広げている。
「溶岩城を浄化する事が出来れば、長江の汚染は最小限になるでしょう。そうすれば、豊かな気候の長江を東方は手にする事もできます」
「理由は分かりますが、ネムレス殿。流石に、その規模の戦いとなると……簡単には幕府軍は動かせない事をよく知っているじゃないですか」
「ですから、希さんを通じて、貴方を此処に呼んだのですよ」
 その台詞に緑髪の少女は頭を下げた。
 受付嬢である彼女がここに同席している意味は、つまり、溶岩城の制圧はハンターへ依頼を出す……という事なのだろう。
「つまり……僕の役目は、浄化なんですね」
「話が早くて助かります。これは、立花院家の勢力拡大ではありませんから。貴方なら、上手く立ち回れるはずです」
 表向きは、大轟寺家からの申出による溶岩城の攻略という事にすれば、武家と公家の勢力争いに、あまり影響はないだろう。
 大轟寺家は元々、朝廷と繋がりが深く、武家を見張るという密命を受けていた立場なのだから。
「それで、ネムレス殿は、いつ、スメラギ様とお会いになるおつもりで?」
「そうですね……もう少し、様子を見てからでも良いでしょう。情報は報告してもらって構いませんが……御せるのなら」
 微笑を浮かべたネムレスに蒼人は苦笑を浮かべた。
 間違いなく、溶岩城に一緒に来ると言い出して、人の話を聞かないだろうと思ったからだった。

●溶岩城
 負のマテリアルと混じり合った溶岩……のような巨大な岩石を、削ったり、掘り込んで造られたのが溶岩城だ。
 堀には水の代わりに汚染されたマグマが流れており、禍々しい姿は地獄と言われても違和感ないだろう。
「思ったよりも抵抗が少なかったですね」
 蒼人が額から流れる汗で濡れた眼鏡を外すと、戦闘の邪魔になると判断してか、懐に仕舞う。
 憤怒本陣から、溶岩城入り口まで、憤怒残党による迎撃は無きに等しかった。
「油断は出来ませんよ。幹部級をすべて討ち取ったとはいえ、何が出るか分かりませんからね」
 ネムレスが大太刀を構えたまま、ぽっかりと開いている入り口を見つめる。
 今の所、何か出てくる気配はみられない。奥で待ち受けているのだろうか。
「大軍で攻め寄せなくて良かったですね」
「そうだと分かっているからこそ、精鋭少数で挑んでいるのですよ」
「でした……僕は、ここで浄化班を案内した方がいいでしょうか?」
 蒼人の質問にネムレスは頷いて答える。
 負のマテリアルによる汚染と、激しい熱気で、覚醒者でなければ戦闘に悪影響が出るだろう。
 きっと、溶岩城の奥に踏み込む程、その悪影響は強くなるはずだ。
「それでは、皆さん、行きましょうか」
 爽やかな微笑をハンター達にネムレスは向けた。
 溶岩城の中がどうなっているか分からないが、巨大な獄炎が根城として使っていた位だ。複雑怪奇には造られていないだろう。
 こうして、溶岩城での戦いが始まろうとしていた。

リプレイ本文


 大地の奥底から轟々と不気味な音が響き、流れ出る負のマテリアルのマグマが周囲の大気を圧迫していた。
「暑くないですか、アルマ?」
 ネムレスは身体にしがみついているアルマ・A・エインズワース(ka4901)に尋ねた。
 最奥の間はこれまでと違い、更に熱射地獄と化していたからだ。これだと、覚醒者でも行動に支障が出るだろう。
「紫草さんですー……」
 アルマは暑さに耐えるよりも甘える方が先決のようだ。
 貯水石の水を放出しても、あっという間に乾いてしまう。
 流れる汗が不快で、パタパタと手で扇ぐミィリア(ka2689)が恨めしそうに言った。
「暑いって、言うと更に酷く感じるとかあるけど……これは言っても仕方なくない!?」
 早々に用事を済ませて、帰ったら魔導冷蔵庫で限界まで冷やしたシュワシュワする飲み物を、がぶ飲みするぞと心の中で誓う。
 その隣で真剣な表情を浮かべているのは、銀 真白(ka4128)だった。
「溶岩城の浄化か……確かに、邪神が倒れ混乱を来している今が好機である事は間違いない……」
 視線をネムレスへと向ける。
 何も知らされず、紫草の帰りを待つ者もいる……が、正体を現さずに行動しているのは、彼なりの考えがあった事だろう。
「暑さでボーとする訳にはいかないでござるぅ!」
 突然、ミィリアが気合を入れ始めた。
 そんな中、宵待 サクラ(ka5561)は重たい甲冑に手を当てる。ちゃんと、効果を発揮してくれればいいが……この暑さとは属性とは無関係のようだった。
「おおう……南征って聞いたから、てっきり南大陸開拓かと思ってた……」
「ルンルン忍法を駆使して、溶岩城の憤怒残党歪虚を殲滅しちゃいます!」
 元気な様子のルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)が幾枚もの符を手にして宣言していた。
「っていうかさ、なんで歪虚なのにお城が必要なんだろ……」
「確かに……でも、東方の平和にまた一歩近づくなら、これも避けては通れない道………秋の訪れの為にも、残党は残らず殲滅何だからっ!」
 秋の訪れがどう平和に影響するかどうかよく分からないが、浄化しないといけないのは確かな事だ。
 二人のやり取りを聞きつつ、穂積 智里(ka6819)は手に持ったポーションを眺めていた。
「暑さ自体も敵……なのですね……ポーション1本じゃ足りなかったかもしれません……」
「準備は確りと、じゃな」
 余裕の表情でミグ・ロマイヤー(ka0665)が言った。
 ミグは宇宙服にも似た形状の装甲服をすっぽりと着込んでいたのだ。少しはこの環境で使える……と思う。
「そうですね。準備というと立花院大将軍も手際が良い」
「ふふん。仮面の剣士の正体など、ミグには一切興味がないがな。さあ、早く歪虚を狩ろうではないか」
 根っからの戦争屋で、かつ、重度のワーカホリックであるミグには、ネムレスの正体がどうであれ、関係なかった。
 そんな仲間達の一番後ろで天竜寺 詩(ka0396)は最奥の間に意識を向けていた。
(溶岩城の浄化、そして……その先……)
 “彼”の言葉を思い返す。
 ――共に南に広がる未開の大地へ来て欲しい。
 その“願い”に顔が火照って熱い。冷ますようにブンブンと首を振り、髪が揺れる。
 “願い”に対する答えは、詩は決まっている。だけど、今は目の前の事に集中しなければならない。
 戦いである以上、勝たなければ、生き残らなければ、先に続かないのだから。


 最奥の間で待ち構えていたのは、幾体かの憤怒天狗と、多数の憤怒溶岩であった。
「この城は、亡き獄炎様の居城。人間が踏み入って良い場所ではない。即刻、立ち去れ」
 憤怒天狗の1体が、そう告げた。
 サクラは注意深く周囲を見渡すが、権威づけの装飾などは見られなかったし、憤怒歪虚が湧き出るような場所も見られない。
 ハンター達よりも一歩進み出たネムレスが大太刀の先を向けた。
「獄炎を打倒した我らは、この地を浄化しに参った」
「ならば、全力で迎えるのみだ!」
 憤怒天狗共が一斉に翼を広げる。
 城内ではあるので、飛んで仕掛けてくる可能性も高い。
「ネムレスさん、皆、油断しないで」
 詩が三味線を構え、マテリアルを演奏と共に周囲に放って、敵を威圧する。
 一方で前衛のハンター達には、ルンルンから符が飛んだ。
「ルンルン忍法ニンジャバリアー☆」
 仲間からの支援に駆け出す真白とミィリア、サクラを援護しようと、ミグが大型魔導銃をドスンと構えた。
 放たれる高速の銃弾が憤怒天狗を直撃……したはずだった。
 後ろに控えていた憤怒溶岩に吸い込まれるよう、銃弾の軌道が変わったのだ。
「……ガウスジェイルみたいな技じゃな」
 冷静に分析したミグは、意識を集中させつつ、憤怒溶岩に通じそうな銃弾を装填した。
 攻撃が狙った目標に当たらず吸い寄せられるのは、厄介な事だ。ならば、庇う存在から撃ち倒してしまえばいい。
「火力はちょっと置いてきましたです! その代わり、今日の僕は弾幕張りますですよ!」
 アルマの頭上に回転する光り輝く三角形が4つ出現すると、それぞれの頂点から光の筋が走った。
 それに合わせるように憤怒天狗が指先をアルマへと向けて負のマテリアルを放つ。押し寄せた力をアルマは全力で抵抗した。
「カウンターマジック……に似ています! でも、これならっ!」
 強力なスキルである事に違わないが、抵抗できるなら大した事はない。
「わぅ? ……これ、もっと撃っちゃっていいやつです!」
「これなら、油断しなきゃ、私程度でも何とかなるかなーって」
 デルタレイが直撃した憤怒溶岩をサクラが聖罰刃で素早く斬りつけた。
 どうやら、ガウスジェイルのような能力は憤怒天狗を優先して使っているようだ。その憤怒天狗は魔法に対してカウンターマジックに似た力で魔法を消滅させようとしている。
 憤怒らしくない戦い方のようだが、勢いはハンター達にあった。
「手数で押し切った方が良いでしょうか」
 智里もデルタレイで憤怒溶岩を攻撃する。
 今回、魔法職が多かった事は、幸運だった。憤怒天狗はカウンターマジックに似た力を使うが、それはリアクションスキルであり、使用頻度やタイミングを集中できなかったからだ。
 宙を飛んだ符が稲妻となって幾体かの憤怒溶岩に襲いかかる。ルンルンが放ったものだ。
「ルンルン忍法戌三全集陣……ババンババンと攻撃です!」
 憤怒天狗へと接近したミィリアが大太刀を高く掲げた。
「範囲攻撃なら庇い立て出来ないだろうし!」
 ガスっと踏み込んで体勢を固定させると、嵐のように強引に刀を振り回した。
 痺れるような衝撃に耐えながら、振り抜く。
「押さえておくからミィリアごと、どーんとやっちゃって! で、ござる!!」
「承知ッ!」
 真白が十翼輝鳥でマテリアルの刀身を創り出すと、意識を高め、憤怒天狗の1体を睨みつけた。
 直後、マテリアルの光が発せられ、仲間達を力強く照らした。コール・ジャスティス――征服者の力だ。
 ハンター達の活躍に応じるように、ネムレスが大太刀を振って、敵を次から次へと斬り伏せていくのであった。

 溶岩城の暑さでハンター達の動きが鈍ってはいるが、詩という優れた回復役からの支援を受けつつ、ハンター達の攻勢は止まらなかった。
 バイクと一心同体となったミグが愛車を横滑りさせつつ、大型魔導銃の照準を憤怒溶岩に付けた。頑健に憤怒天狗を守っているが、そもそも、ミグの狙いは邪魔な憤怒溶岩であった。
「夢から覚める時が来たぞ、歪虚ども。早々に目覚めて現実に立ち返り己が敗北を味わうがいい!」
 その攻撃で憤怒天狗に近い憤怒溶岩を倒すと、アルマが嬉しそうな表情で機導術を放つ。
「僕の射線上、気を付けてくださいですー! いっぱいじゅっとするです!」
 蒼氷のような炎が幾つも出現すると、一直線に飛ぶ。
 それを射線上のネムレスは軽々と避けると、憤怒天狗へと直撃した。
「もっと、撃っていいのですよ、アルマ」
「だったら、次は二本同時に撃つのですー!」
 ネムレスの台詞にアルマは楽しそうに応える。
 そんな二人のやり取りを視界に入れながら、智里もアイシクルコフィンを撃っていた。
 戦況は完全にハンター達に傾いている。ポゼッションを使う必要もないだろう。
「あれが、東方最強のお力ですか……」
 そんな事を呟きながら、智里は次の魔法を唱える為に意識を集中させた。
 ウォーターアーマーで仲間を支援していたルンルンが指輪を身に着けている手を憤怒天狗へと向ける。ここまで来たら、一気に畳み掛けるしかない。
「ジュゲームリリカル……ルンルン忍法5WAYシュリケーン! しゅぱっと、しゅしゅっと乱れ撃ち!」
 複数本の光る矢が飛翔して、それぞれが憤怒天狗へと突き刺さる。
 堪らず、1体が空に飛び上がったが、文字通り、空渡で宙を駆けたサクラが斬り落とした。
「簡単には逃げられないんだよ」
 追い詰められた憤怒天狗共が苦し紛れに範囲魔法を放つ。
 だが、それらはミィリアや真白のラストテリトリーによって防がれていた。
 敵にとっては、範囲攻撃を撃つ以上、出来るだけ多くのハンターを巻き込もうとしていたが、ラストテリトリーを使う者から見れば、良いカモで、二人はダブル吸引機と化していた。
「戦慣れしていないようだ」
 真白がそう分析しながら、マテリアルを込めた十翼輝鳥で憤怒天狗を薙ぎ払った。
 幾度もなく死地を乗り越えてきたハンター達と、城に引きこもっていた憤怒残党では、そもそも、戦闘経験に大きな差があるようだ。
「これで、終わりでござるぅ!」
 重鞘の力も使いながら、ミィリアが桜吹雪の幻影と共に繰り出した一撃で、最後まで残っていた憤怒天狗を倒したのであった。


 最奥の間に、ぞろぞろと浄化班の術士が入ってくる。
 浄化結界陣を組む様子を興味深そうにミグは見つめていた。
「振り返れば、あっという間に終わってしもうたの……」
 手加減はしたくないが、物足りないという感じだ。
 持ってきた銃弾も幾つも残っている。確りと準備して挑んだだからこそというものかもしれないが。
「戦闘行為も浄化になるってどこかで聞いたです。お役に立つといいですっ」
 アルマが自信満々な様子でネムレスに告げていた。
 負のマテリアルが戦闘で消失していけば、その分、浄化は早く進むだろうか。
「お見事でしたよ」
「紫草さん、そーいえば僕、守護者になったですー。今日は違うですけど」
「それはまた、一段と強くなったという事ですね」
 人外二人の会話に智里が目をパチクリとさせた。
 守護者にも匹敵……いや、同等以上の強さを持つ紫草は本当に人間なのだろうか。
「……本当にお強いんですね、立花院大将軍は。大将軍のことは、東方のバランスブレーカーだな、とは思います」
「それは買いかぶり過ぎというものですよ」
 微笑を浮かべたネムレス。
 これだけの武を持つ存在が幕府に戻れば驚異だろう。
「立花院大将軍や他領の御領主様は清濁合わせ飲まれている……ですが、詩天は真美様と水野様で清と濁を分業されています」
「真美様は心優しき方ですからね」
「水野様は詩天と言う美しい花を咲かせる為、下草を刈り、肥を撒き、目に映らぬ全ての仕事を誠心誠意努めていらっしゃいます。他領の方にはご理解いただけなくて残念です」
「立場が違えば、感じる驚異も違いますからね。理解できないのは仕方ない事ですよ」
 そう告げて、ネムレスは出口に向かって歩きだした。
 ここの浄化は、途上に過ぎないのだから。
「一体、何の為のお城だったんだろ……無駄に暑いし」
「本当に暑いのです。これ以上、服も脱げないから……忍法でなんとかならない……」
 サクラの言葉に頷きながらルンルンが自身の際どい衣服に手を掛ける。
「これから、南大陸に行くなら参加したいと思ったけど……」
「正確には大陸の南……ではないかもしれませんね」
 出口に向かって歩いていたネムレスがサクラに振り返った。
「所謂、南方大陸の一部でしょうが、私達がこれまで認識していたのは竜の背骨と呼ばれる山脈から西側の大地の事です」
「つまり……山脈の東側……この溶岩城から東南にも土地が広がっていると?」
 話を何気なく聞いていた真白が尋ねる。
 ネムレスはゆっくりと頷いた。
「この城は、人間を相手にする城ではなく、歪虚の勢力域を示すものだったかもしれません」
「居なくなってからも、こんな大迷惑な城残してくなんて、本当にねちっこくて嫌な感じって思ってたけど、そういう事なら、城がある理由が分かったでござる」
 妙に納得した様子でミィリアが何度も頷きながら、そんな事を言った。
「……あくまでも、推測ですけどね」
「でも、これで、東方自体をいろいろ改革していくには資源にもなるわけで、よりよいものを掴み取る為っていうなら、頑張り甲斐もあるってもんでござる!」
 溶岩城の浄化が進めば、長江の汚染も落ち着くのだろう。
 それは東方の復興に必ず活かされるはずだ。
「ネムレス殿は、南征がこれで終わりではない……という事ですか?」
 真剣な真白の言葉にネムレスはいつもの微笑を浮かべて応えた。
 しかし、答えたのは詩だった。
「ここの浄化が済んだら……多くの人達が、南の大地へ行けるって事……」
 溶岩城と一帯の汚染が除去されれば、覚醒者や鬼以外も、山脈を越える事が出来る。
 その先に、何があるかまだ分からない。けれど、それに行きたい“理由”がネムレスにはあるのだろう。
「そういう事で、あってるのかな?」
 首を傾げながら尋ねる詩に、ネムレスは頷くと、南方へ身体の向きを変えた。
「私達、東方の民はかつて、遥か北の地から生き残る為に……未来を紡ぎ続ける為に移動してきたと聞いています。その歩みはまだ、終わっていません」
 全員を見渡しながらネムレスはそう言った。
 それは遠い昔の話だ。
「邪神を倒した事で、この世界は、未来へ至る道を、切り拓いたといえるでしょう。ですが、道を進むのは私達自身であるべきだと、私は思うのです」
 ネムレスは詩へと視線を向け、詩もまた、見つめ返す。
 伝えなければいけない。“彼”の願いへの返事を。
「この間のお願いへのお返事だけど……私は、貴方の力になりたい。貴方を支えてあげたい」
 幕府に戻る事も、ハンターとしてリゼリオで暮らす事も、“彼”には出来た道だろう。
 だけど、そのいずれも、選ばなかった。未知なる大地へ、未来へと進む決意をしたのだ。これから幾つもの苦難が待っているに違いない。
「……この思いは、今も変わらない。だから……行くよ。貴方と一緒に南の大地へ!」
 気恥ずかしさの中、精一杯の勇気と共に“彼”に告げた詩の想いに、“彼”は仮面を外す。その顔はいつもの微笑ではなく真剣な表情だった。
 そして、詩の身体を優しく包み込むように抱きしめる。
「ありがとう」
 タチバナは深い感謝を込めて伝えたのであった。


 ――続く。

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 征夷大将軍の正室
    天竜寺 詩(ka0396
    人間(蒼)|18才|女性|聖導士
  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤー(ka0665
    ドワーフ|13才|女性|機導師
  • 春霞桜花
    ミィリア(ka2689
    ドワーフ|12才|女性|闘狩人
  • 正秋隊(雪侍)
    銀 真白(ka4128
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • イコニアの騎士
    宵待 サクラ(ka5561
    人間(蒼)|17才|女性|疾影士
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784
    人間(蒼)|17才|女性|符術師
  • 私は彼が好きらしい
    穂積 智里(ka6819
    人間(蒼)|18才|女性|機導師

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/08/27 01:05:06
アイコン 相談卓だよ
天竜寺 詩(ka0396
人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2019/08/27 01:10:06