ゲスト
(ka0000)
【血断】それぞれの旅立ち
マスター:大林さゆる

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/08/29 09:00
- 完成日
- 2019/09/06 03:13
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
邪神との戦いが、終わった。
数日後。
グラウンド・ゼロの片隅に、黒いマスティマの姿があった。
コックピットから降りたクドウ・マコトは、野宿をしながら過ごしていた。
「……マクスウェル……あんたには必要ないと言われそうだが、俺は……」
クドウは、黙示騎士たちのために墓を作りたいと考えていた。
勝手に墓を建てれば、様々な問題が出てくる。それは、クドウにも分かっていた。
しばらく経つと、シェオル残党を討伐していたハンターたちが、やってきた。
マクシミリアン・ヴァイス(kz0003)もいることに気付き、クドウは何か言いたげな様子であったが、互いに何も言えずにいた。
ようやく話し始めたのは、クドウだった。
「……マクシミリアン、あんたに頼みがある」
クドウは、黙示騎士たちの墓について伝えた。
「……俺の一存では、決められない。本部に報告しておく」
それから数日、音沙汰はなかった。
●
さらに数日が過ぎた。
「クドウ、待たせたな」
マクシミリアンが、クドウの元へとやってきたのだ。
「ここまで来たのか?」
クドウは少し驚いたが、すぐに理解した。
ここは、グラウンド・ゼロ。
邪神の脅威が去ったとは言え、立ち入りできるのは覚醒者であるハンターくらいだ。
「例の件だが、本部から許可が下りた。ただし、場所はグラウンド・ゼロに限ってだがな」
マクシミリアンの意外な言葉に、クドウは不可解な表情をしていた。
「念の為、もう一度、確認するが、黙示騎士たちのための墓を作ることは、OKと言うことか?」
「そうだ。さっきも言った通り、グラウンド・ゼロに限るという条件付きだ」
マクシミリアンの言葉に納得したのか、クドウは落ち着きを取り戻した。
「……黙示騎士たちの墓と言っても、立派なものまでは望んではいない。ただ、この場所に、目印になる岩を置いてやりたいだけだ」
マクスウェル、ラプラス、シュレディンガー、テセウス……彼らが生きた証を残しておきたいと、クドウは願っていたのだ。
彼らが自分のことをどう思おうと、クドウにとって黙示騎士たちは、仲間だから。
無言で作業を始めたのは、マクシミリアンだった。
思わず、クドウが駆け寄ってきた。
「何故、あんたが……?」
黙示騎士たちの墓を作るのか?
マクシミリアンは、答えなかった。
黙々と作業を続けるマクシミリアンを見て、クドウは言いようのない感情が込み上げてきた。
一息つく。
クドウもまた、何も言わず、黙示騎士たちのために岩を運ぶ作業をしていた。
●
墓の前で、クドウは瞳を閉じ、両手を合わせていた。
(マクスウェル、あんたの言葉、うれしかった。俺のことを、ただの人間だと言ってくれて)
クドウは、すでに人間ではなかった。
歪虚となり、人間と同じ環境では一緒に住めない存在となっていた。
それでも、マクスウェルは、クドウのことを『人間』と呼んでくれたのだった。
しばらくの間、クドウは、黙示騎士たちの墓を見守ることにした。
ここでずっと墓守として過ごすのも悪くないとも考えていたが、もし、自分がここから離れることになったら……。
「……俺がいなくなったら、黙示騎士たちの墓はどうなるんだ?」
「そのことだが、本部の管轄にするという案も出ている。クドウ、ここで一生を終える人生も良いとは思うが、他にやりたいことはないのか?」
マクシミリアンの問いに、クドウはしばらく思案してから応えた。
「……できれば、リアルブルーに戻りたい。まだ許されるなら、故郷の宇宙開発にも協力したい……それが、俺の夢だったからな」
歪虚となった自分が、今更、故郷リアルブルーに戻ることなど許されるはずもない。
この時、クドウは、そう思い込んでいた。
邪神との戦いが、終わった。
数日後。
グラウンド・ゼロの片隅に、黒いマスティマの姿があった。
コックピットから降りたクドウ・マコトは、野宿をしながら過ごしていた。
「……マクスウェル……あんたには必要ないと言われそうだが、俺は……」
クドウは、黙示騎士たちのために墓を作りたいと考えていた。
勝手に墓を建てれば、様々な問題が出てくる。それは、クドウにも分かっていた。
しばらく経つと、シェオル残党を討伐していたハンターたちが、やってきた。
マクシミリアン・ヴァイス(kz0003)もいることに気付き、クドウは何か言いたげな様子であったが、互いに何も言えずにいた。
ようやく話し始めたのは、クドウだった。
「……マクシミリアン、あんたに頼みがある」
クドウは、黙示騎士たちの墓について伝えた。
「……俺の一存では、決められない。本部に報告しておく」
それから数日、音沙汰はなかった。
●
さらに数日が過ぎた。
「クドウ、待たせたな」
マクシミリアンが、クドウの元へとやってきたのだ。
「ここまで来たのか?」
クドウは少し驚いたが、すぐに理解した。
ここは、グラウンド・ゼロ。
邪神の脅威が去ったとは言え、立ち入りできるのは覚醒者であるハンターくらいだ。
「例の件だが、本部から許可が下りた。ただし、場所はグラウンド・ゼロに限ってだがな」
マクシミリアンの意外な言葉に、クドウは不可解な表情をしていた。
「念の為、もう一度、確認するが、黙示騎士たちのための墓を作ることは、OKと言うことか?」
「そうだ。さっきも言った通り、グラウンド・ゼロに限るという条件付きだ」
マクシミリアンの言葉に納得したのか、クドウは落ち着きを取り戻した。
「……黙示騎士たちの墓と言っても、立派なものまでは望んではいない。ただ、この場所に、目印になる岩を置いてやりたいだけだ」
マクスウェル、ラプラス、シュレディンガー、テセウス……彼らが生きた証を残しておきたいと、クドウは願っていたのだ。
彼らが自分のことをどう思おうと、クドウにとって黙示騎士たちは、仲間だから。
無言で作業を始めたのは、マクシミリアンだった。
思わず、クドウが駆け寄ってきた。
「何故、あんたが……?」
黙示騎士たちの墓を作るのか?
マクシミリアンは、答えなかった。
黙々と作業を続けるマクシミリアンを見て、クドウは言いようのない感情が込み上げてきた。
一息つく。
クドウもまた、何も言わず、黙示騎士たちのために岩を運ぶ作業をしていた。
●
墓の前で、クドウは瞳を閉じ、両手を合わせていた。
(マクスウェル、あんたの言葉、うれしかった。俺のことを、ただの人間だと言ってくれて)
クドウは、すでに人間ではなかった。
歪虚となり、人間と同じ環境では一緒に住めない存在となっていた。
それでも、マクスウェルは、クドウのことを『人間』と呼んでくれたのだった。
しばらくの間、クドウは、黙示騎士たちの墓を見守ることにした。
ここでずっと墓守として過ごすのも悪くないとも考えていたが、もし、自分がここから離れることになったら……。
「……俺がいなくなったら、黙示騎士たちの墓はどうなるんだ?」
「そのことだが、本部の管轄にするという案も出ている。クドウ、ここで一生を終える人生も良いとは思うが、他にやりたいことはないのか?」
マクシミリアンの問いに、クドウはしばらく思案してから応えた。
「……できれば、リアルブルーに戻りたい。まだ許されるなら、故郷の宇宙開発にも協力したい……それが、俺の夢だったからな」
歪虚となった自分が、今更、故郷リアルブルーに戻ることなど許されるはずもない。
この時、クドウは、そう思い込んでいた。
リプレイ本文
グラウンド・ゼロ。
黙示騎士たちの墓前にて、彼らのために祈るハンターたちが集った。
その様子を眺めていたのは、ミグ・ロマイヤー(ka0665)だ。
クドウ・マコトが、何やら悩んでいることに気付き、ミグが声をかけてきた。
「クドウ殿も、迷える若者じゃな」
「若者……?」
クドウは、久し振りにそう呼ばれて、考え込んでいた。
ミグの容姿はクドウよりも若く見えたからだ。
「ミグは、ドワーフじゃ。孫もおる」
「……家族がいるんだな」
「そなたの悩みは察しがつく。歪虚と人はこの世の両輪という説もある。正があれば負があるように人と歪虚は対局の存在だ。じゃがそれは対立ではなく、必要な物なんじゃ。邪神が勝てばすべてが歪虚となってしまい、この世の均衡は失われたであろう」
「そのために、覚醒者たちは戦ってくれたな」
「クドウ殿には歪虚になり果てたとしても、やり遂げたいことがあったのであろう。ならば誰に恥じることもなくそれをなせばいい。歪虚という事で人々の賞賛を得ることはもはやかなわぬかもしれぬが、そなたの在り方を否定できるものはおらぬ。そういう世の中をミグたちはこれから作っていくのじゃと思う」
ミグは、若者たちの未来を信じていた。
「……俺に、できるだろうか?」
「大いに悩んで、自分なりに結論をだせば良い」
温かみのある笑みで、ミグが言った。
クドウは、不思議と肩の荷が下りたような気がした。
大伴 鈴太郎(ka6016)は、黙示騎士たちの墓があるという噂を聞きつけて、やってきた。
「……ラプラス、いざ、こうしてきてみると、何から話せば良いか……」
ふと、思い出す。以前、ラプラスが言っていたことを。
「なぁ、ラプラス、あの時、何に嫉妬してたんだ? 最初は、ただムカつくだけだったけど、エバーグリーンで言葉を交わした時から、憎いだけの敵じゃなくなってた」
ケリをつける前に話しておきたいことが山ほどあった。
「結局、ああするしかなくなっちまったけど、自分が間違ってたとは思わねぇし、お前のコトを背負ってくなんて言わねぇ。それは、お前への侮辱だと思うから」
鈴太郎にとって、ラプラスは対等のライバルでもあった。
「けど、望むモノの為、お前の未来を奪ったコトだけはゼッテー忘れねぇよ。お前の目に映るオレは、最後まで真っ直ぐ立つ敵でいられたかな? オレの目に映るお前は、何だかちょっとカッケーヤツだったよ。だから、オレも自分の中に在る『公正』を曲げずに生きてこうって……そう思う」
想いを告げた時、鈴太郎の髪を撫でるように風が吹いた。
「……そっか、オレは、前に進むだけで良いんだよな」
誰かが、自分の背中を押してくれたような気配を感じた。
一方、マクスウェルの墓前では、夢路 まよい(ka1328)が静かに両手を合わせ、想いを伝えていた。
「あのね、バニティーが言ってた……マクスウェルは歪虚になる前は、最後まで諦めずに邪神と戦ったんだね。黙示騎士になっても、諦めてなかった」
まよいは、邪神戦争の最中、仲間たちと共にマクスウェルと激しい戦いを繰り広げた。
そして。
「私達とマクスウェルは敵だったかもしれないけど……嫌いじゃなかったよ。マクスウェルはバニティーにとって大切な家族。私にも肩を並べて戦う大切な人ができたから、なんだか重なって見えちゃうのかな」
バニティーは、今、どこにいるのだろうか。
マクスウェルの後を追いかけていったバニティーだが、行方は分からなかった。
それを知る術もなかった。
「もうちょっとバニティーともお話してみたかったかな。でも、私が同じような状況に置かれたら、きっと大切な人を置いていけないと思う、から。マクスウェルは、そっちでちゃんとバニティーのこと思い出してあげて、ね?」
仲間想いのマクスウェルのことを、バニティーは兄のように慕っているように思えてならなかった。
アルマ・A・エインズワース(ka4901)は重体になりながらも、どうしてもテセウスと話がしたかった。
兄のメンカル(ka5338)が、アルマを気遣う様に弟の身体を支えながら、黙示騎士たちの墓前まで連れてきてくれたのだった。
シュレディンガーには良い印象はなかったが、彼の動機は分かるような気がした。
「テセウスに言いたいことがあるんだろう?」
アルマは、コクリと頷くと、ひまわりの花束を捧げた。
「テセウス君……お別れも言えなかったんですね、僕」
アルマにとって、テセウスは大切な友達で生徒のような存在だった。
身体の痛みよりも、心が酷く痛んだ。
「君と、もっとたくさん遊んだり、いろんなものを見たりしたかったです」
僕と、テセウスに違いはあったのだろうか?
楽しい思い出ばかりが過る。気が付けば、アルマの瞳から涙が零れ落ちた。
メンカルが、優しくアルマの頭を撫でた。
直接の関りはないが、弟がテセウスという黙示騎士と仲良くしていたのは知っていた。
(……優しい奴から死んでいく。人も歪虚も、そう変わらんか)
共に祈りながら、必死に涙を堪えようとするアルマに対して、メンカルが告げた。
「……いっそここで全部吐き出してしまっておけ、アル」
兄の穏やかな声を聞き、アルマはメンカルの胸元に抱き付き、泣きじゃくった。
「……お兄ちゃん、僕……テセウス君と、もっともっと遊びたかったです」
「……そうか」
泣きたいだけ、泣けばいい。
メンカルは、何も言わずに弟のアルマを抱き寄せた。
気持ちが落ち着くと、アルマは改めて、テセウスのために祈った。
「……おやすみなさい。ありがとう」
いつかテセウスが生まれ変われたら、また会えますように。
そう祈らずにはいられなかった。
一億分の一でも可能性があるなら……また会いたい。
アルマの横顔を見ながら、メンカルは決意していた。
我々が生き残ったことには、意味がある。弟の大切な人たちのためにも、やるべきことを少しずつ紐解いていく……そうした導きが、未来へと続くと信じて。
ラミア・マクトゥーム(ka1720)が、黙示騎士たちの墓前に歩み寄った。
「テセウス……なに一人でかっこつけてんのさ」
思い人と同じ似姿の歪虚……はじめはその姿を許せなくて。
彼の大事な生みの親であるシュレディンガーとも、確執があった時期もあり、戦うことになった。
時に剣を交え、時に怒りの声を交わし、何度か出会い、時を重ねるうちに、気持ちは随分変わった。
憎しみから、変わった感情は……自分でも、よく分からなかった。
「消えたって……クドウから聞いたけど……」
何故? どうして?
ラミアは、悔しい気持ちがこみ上げ、と同時に瞳が涙で滲んできた。
手を合わせて、祈った。
悔しいのは、救えなかったからか、それとも、ハンターたちを助けるためにテセウスが消えてしまったからなのか。
様々な想いが渦巻き、また涙が溢れてくる。
「……シュレディンガーと仲良くね。色んなこと話してやりなよ」
ありがとう。テセウス。
忘れないよ。
ディーナ・フェルミ(ka5843)は、墓の前に立ち、鎮魂の歌を唄った。
それだけでは足りない。楽しい歌なら、喜んでくれるだろうか。
童歌なら、どうだろう。様々な種類の歌を唄い、そして『浄化の祈り』を捧げた。
ハンターたちが供えた花々も、少しの間は周囲の汚染環境から回復させることができた。
「人とまた交わろうとした、世界を善く変えようと思った、そういう想いを大事にしたいと思ったの。ここはその想いを象徴する場所だから。ここの、この想いを大事にしたいと思うなら、人も歪虚も何度だってここに集って良いと思うの」
人も、黙示騎士たちも、大切な世界や仲間を守りたかっただけなのだ。
ディーナには、そう思えたのだ。
「普通の場所でも草は生えて枯れるの。歪虚の人がここに来て草が枯れてもそれはそれなの。大事な家族なんだもの、長くここに留まって良いと思うの。それでもここが想いを寄せ合って変わって行ける起点になればと思うから、まず花や草木が生えられる準備だけはしたいと思ったの」
想いを告げた後、ディーナはもう一度『浄化の祈り』を使った。
ここを訪れるハンターたちのために。
トリプルJ(ka6653)は、持ってきた造花が風で飛ばされないように、花籠の中に石を入れていた。
「テセウス、なに勝手に消えたんだよ。良い歪虚は死んだ歪虚だけってのを地で行くつもりかあ?」
植木鉢を持込みたいとも思ったが、芽が出たばかりの花が耐えられるわけがないと考え直し、今回は造花を供えることにした。
「お前の植木鉢は、オフィスのみんなで大事に育ててるからよ。俺達がリアルブルーに帰ることになっても、他の奴らが面倒見て、そのうち公園や他の場所にも植え替えて、ゆっくりじっくり広めていくと思うからよ」
小さな芽が、やがて育ち、花を咲かせ、枯れても種を残す。そうした命の連鎖によって、テセウスの優しい心も広がっていくのだろう。
「俺らが無事に辿り着けたのは、お前のおかげだ。でもなあ……早すぎねえか、テセウス」
誰かが道標となる必要はあったのかもしれない。
「おまえとは、いろいろあったな」
愉快なヤツだった。
トリプルJは、テセウスと一緒に過ごした時間を思い出して、微かに笑っていた。
●
Gacrux(ka2726)は、何も言わずに黙示騎士たちの墓を眺めていた。
シュレディンガーのことは許せなかったが、それでも残された者には心の拠り所が必要だとも思っていた。
クリュティエのためにも。
クドウ・マコトやクリュティエが、クリムゾンウェストで暮らしていくには、その立場上、ヒトの世界では、孤独で辛い境遇に追い込まれる可能性もあるだろう。
クリュティエを残してくれたカレンデュラの想いの為にも、何かの形で支援していきたいと考えていた。
Gacruxは、この土地を開拓していくことも視野に入れていた。
土を触り、クドウに声をかけた。
「この地に食料を作るなら、正マテリアルが必要なら畑作りも一考か。負のマテリアル放出を抑え込める装飾品等が開発されれば、周囲への影響も防げそうだが」
「……その分野に関しては、俺からは、なんとも言えないな」
クドウの返答に、Gacruxは「確かに」と呟いた。
「これから世界と信用を築けばいい。何かあれば一人で抱え込まず、オフィスを頼る事です」
燐寸と香木をクドウに渡し、Gacruxは「それでは」と一礼してから立ち去った。
しばらくすると、クドウの元にオートマトンのフィロ(ka6966)がやってきた。
何やら聞きたいことがあったようだが、対面した途端、話し始めた。
「貴方には自分が死んだ記憶がありますか。契約者は、歪虚の加護を得て同じような力を振るえます。歪虚は死してなるモノ、死ぬ前であればただの契約者、上書き前の普通の強化人間と何も変わりません。貴方は本当に、死して歪虚になった自覚はおありですか」
唐突に質問されて、クドウは少し戸惑っていたが、すぐに落ち着きを取り戻した。
「随分と直球な質問だな。気を失って、目覚めたら、黙示騎士に『君は歪虚になった』と言われたが、未だに自分でも、実感が湧かないというのが正直なところだ」
「では、自覚はないとも考えられますね。クドウ様は、リアルブルーに戻られるのですか?」
「できればそうしたいが、故郷の連中が、それを許さないだろう」
「主義主張ゆえ争うのは人として当然です。それでも和解できたなら、大手を振ってお戻りになれば良いのです。人でも歪虚でも」
フィロのように素直な考えを持った者ばかりではない。
「和解できれば、だろう? それには、おそらく時間がかかる」
クドウが、溜息をつく。
「良いことばかりではないかもしれません。それでも沢山の方と関係を紡いだ貴方なら、最悪の事態は起こらないと思うのです。望みを叶えられませ、クドウ様」
フィロから、そんな言葉を聞けるとは思わなかったのは、クドウは少し驚いていた。
「まいったな。あんたが、そう言うと……調子が狂いそうだ」
「それは大変です。安静になさってください」
「いや、そういうことではなく……あんたには嫌われてたと思っていたからな。意外だっただけだ」
クドウがそう言うと、フィロは首を傾げていた。
「私は、クドウ様に、そういうことを言った覚えはありません。その点については、否定します」
「……嫌いではないということか」
クドウは、どこか安堵しているように見えた。
久我・御言(ka4137)は、クドウと同行して、黙示騎士たちの墓前で黙祷を捧げた。
その後、御言がクドウに話しかけた。
「クドウ君、調子はどうかね?」
「可もなく、不可もなく。そんなところだ」
「やはり故郷に戻りたいのかね?」
「やり残したことがあるからな。できれば、宇宙開発に関わりたいと思っている」
「宇宙開発か。良いではないか。やりたいようにするとよいだろう。私も協力は惜しまない」
「だが、リアルブルーの住民たちが、どう思うか……」
クドウは言い淀むが、御言は動じることもなく告げた。
「ならば、私はハンターとして、友として、関係者に頭を下げよう。君の願いに、それを成就させる事に力を尽くす」
「それで納得する連中は、ほとんどいないだろう。久我も、俺と同じように見られるかもしれない」
「気にすることはない。私がそうしたいから、そうするだけだ。君の感謝が得られるのであれば、いつか私が困った際には助けてくれたまえよ、戦友」
「当然だ」
クドウが、迷うことなく応える。
「リアルブルーに行くと言うのであれば連絡をくれ。いつでも駆けつけよう」
御言が手を差し伸べると、クドウは手を握り返した。
それから。
クドウは、リアルブルーへ行くための具体的な手段を考えていた。
宇宙開発に協力したい。
そのことを聞きつけたマリィア・バルデス(ka5848)が、クドウがいる場所へと姿を現した。
「クドウ、あなたは軍人だったのでしょう? 私は戻ったらまた軍に奉職するわ。貴方も帰ればいいじゃない。人を守る覚悟がある人間を軍は排斥しないわよ」
的を射た言葉に、クドウは少しずつ具体策が見え始めていた。
「私達は今まで狂気としか戦ってこなかった。貴方が契約者であれ歪虚であれ、狂気ではないしょう?分かりあえる、指示も通る、人を守る意思もある……それで何が不足なのかしら」
「軍が受け入れてくれたとしても、住民たちの感情も無視はできない」
クドウが言うことも分かるが、マリィアは、さらに対策を提案してみた。
「貴方が本当に歪虚なら、宇宙空間での作業や救助に活動限界がないことになる。それは大きなメリットでしょう? 歪虚に触れたモノがどのくらいの期間で一般人が触れなくなるか、その目安を計ることもできるようになる。貴方に意志があり力があり仲間がある以上、最悪のことはまずされないと思うわ。それ以前に貴方はまだ人間だとも思うけど」
マリィアにそう言われて、クドウは自分の弱点が、実は宇宙では利点になることに気が付いた。
「俺自身、歪虚になったと言われても実感がなかったが、宇宙空間でも作業ができるのは確かにメリットがあるな。実際、やってみないと分からないことが多いが」
「まあ、難しく考えずに、とりあえずやってみたら? じゃないと、なんにも始まらないわよ」
マリィアに促されて、クドウはリアルブルーへ帰る手立てを思案していた。
キヅカ・リク(ka0038)が、クドウと会うために訪ねてきた。
「マコト、こうやって会うのは久し振りだね。今日は、お礼が言いたくて来たんだ」
「リク、礼を言うのは、俺の方だ」
「マコトが護ってくれたから、僕は前に進めた。ジュデッカへ立ち向かえたんだ。本当にありがとう」
リクが微笑むと、クドウはどこか照れているようにも見えた。
思わず笑い返すリク。
「そうだ、ゆっくり話したいと思ってさ。食べ物と緑茶、持ってきたんだ」
「話すのは良いが、ここはグラウンド・ゼロだ。負のマテリアルが充満している」
「あ、そうだった」
他愛無い会話が、何故かうれしかった。
「そんじゃ、気を取り直して……あのさ、マコトから見て、僕はどう見えてた?」
「お人好しだ」
「即答だな。まあ、いいや。お互い遠くまで来ちゃったね。けど、僕は良かったと思ってる。こうして出会えたから」
リクは、また会えるように願って、自分のIDカードをクドウに手渡した。
「……これは、返す。その代わり、お茶」
「ええっ、どういうことだよ。お茶が良いなら、渡すけど」
結局、IDカードは受け取ってもらえず、緑茶を渡す羽目になった。
「マコトの趣味が、よく分からないよ」
「IDカードは、リアルブルーでは身分証明書だろう。俺が持っていたら、いろいろと疑われる」
「あ、そういうことか。現実的だな、マコトは」
「リクがロマンチストなだけだろう」
「あー、僕のこと、そんな風にも見てたんだ」
こうやって、互いに話すことができるようになるなんて、思いもしなかった。
「マコトさ、リアルブルーに戻って宇宙開発に協力したいって言ってたじゃん。僕も考えてみたんだけど、未知の星の開拓なんてどうかな。それと火星開拓、かつて狂気によって支配されていた彼処は、マコトの力が必要な場所だと思うんだ」
「火星の開拓か。その前に、地球圏の復興が先になりそうだが、考えておく」
「いろいろあったけど、また会えると良いね」
リクが、片手をあげた。
「なんだ?」
「こういう時は、ハイタッチだよ」
「……こ、こうか?」
互いに手を重ねて、ハイタッチを試みるが、クドウは慣れていないのか、少しタイミングがずれていた。
そういう不器用なところも、リクはマコトらしいなと思っていた。
しばらく経つ。
リーベ・ヴァチン(ka7144)は、カイン・シュミート(ka6967)を連れて、クドウと再会した。
「お前が、クドウ・マコトだな。俺はカイン。ところで、お前って何歳?」
「こら、いきなり何、言ってる。まったく、気を遣う嫁だ」
リーベが、カインの頭を軽く叩いた。
「嫁?」
クドウは、不思議そうな顔をしていた。
「マコト、やりたいこと聞いたぞ」
リーベは、なんとか話を続けようと、話題を変えた。
「しばらくは、ここで墓守をするつもりでいたが、いずれはリアルブルーに戻るつもりだ」
クドウが応えると、リーベがうれしそうに微笑む。
差し入れに手料理とクッキーを持ってきたが、クドウは受け取ると、墓に供えた。
リーベにとって、クドウは家族のように感じていたが、弟というより息子のような存在だった。
「道なき道をも越えた先、リアルブルーに戻ったお前が宇宙と宇宙を渡る船をも造れる男になると思ってるよ」
「そうなれると良いんだがな」
クドウが、言った。
カインからすれば、リーベとクドウの関係がどういったものなのか、気になっていたが、個人的な話題を切り出した。
「歴史は好きか?」
「……宇宙の始まりは気になるな」
「無理にとは言わないが、お前から見た戦いの手記を綴ってもらえることはできるか? この戦いの記録の中には彼らなくしてありえた結果ではなかった記録は必要だ。それは彼らと一緒にいたクドウならその軌跡を綴れるんじゃと思った。千年先の誰かの役に立って欲しい。だが、したいこと優先でいいんで検討してくれ」
カインは、クドウの反応を気にしながらも、懸命に告げた。
「……分かった。できるかどうかはともかく、カインの提案は良いと思った」
「マコト、私はどう生きたいか、改めて考えてみた。私は先祖返りで龍人に生まれた。私の親は人間で、人間の子を産めなかった。だから嫉妬憤怒傲慢強欲なのさ。私の生を親の責任にさせるものか」
そう言いながら、リーベは握手を求めた。
「……」
クドウは、何か言いたげな表情で、リーベの手を握り締めた。
たとえ離れることになっても、初めて出会った時のことは忘れないだろう。
●
時折、風が吹く。
鞍馬 真(ka5819)は、グラウンド・ゼロの大地に立ち、これからのことを考えていた。
ここに集まったハンターたちが祈りや会話に専念できるように、周囲の警護も欠かさない。
自分のことを考えるよりも先に、仲間たちのことを思ってしまう。
正直に言えば、真は自分のために時間を使おうとは考えていなかった。
一人でじっくりと考えようとしても、結局、誰かのために時間を使ってしまう。
(暫くは復興に奔走するとして、その後は? 転移前の失った記憶を探す? やりたいことを探す?)
自問自答を繰り返すが、明確な答えが浮かばなかった。
「……困ったな。いざとなると、どうすれば良いのか」
真は、自分のこととなると、何をしたいのかと堂々巡りになり、途方にくれていた。
以前、強化人間の騒動があり、あの時は……。
仕方がなかったとは言え、強化人間たちを自分の手で殺して。
突入作戦で沢山の人達を見殺しにして。
(そんな私が、幸せを求めて、掴もうとするなんて、間違ってる)
ジレンマなのか、それとも。
(そうだなあ、せめて一生働き続けて、それで償う。それで良いかな)
改めて思う。
自分は、誰かのために働いている方が、前へ進むことが多いような気がしてきた。
「今は、目の前のことに集中しよう。やることはいくらでもあるから」
世界は、少しずつ動き出している。
誰かのため、仲間のためと思えば、先を見据えることができるかもしれない。
黙示騎士たちの墓。
星野 ハナ(ka5852)は、浄化作業を手伝っていた。
「私はこのままこの世界に残りますしぃ、今後も何度もグラウンド・ゼロ周りの討伐には関わっていくと思いますぅ。この人たちは自分の主義主張を貫いて亡くなりましたぁ。それがずっとこの赤茶けた世界だけを見つめるのは哀しい気がしたんですぅ」
ハナはまず、墓の周囲だけでも浄化したいと思っていたようだ。
「世界を変えようとした、自分達が変わろうとした……ならここからそれを見たって良いじゃないですかぁ。ここが草木が生える唯一のセイフティエリアになってぇ、ここから徐々にグラウンド・ゼロに緑が広がっていく……そういう未来があっても良いと思うんですぅ」
いずれ、この地が、本部の管轄になるならば、年に何度かは来られるようになるだろう。
緑や花が咲き誇るには、何年、かかるかは分からない。
少しずつでも良い。
グラウンド・ゼロに、花一杯咲き乱れることを想像して。
そういう未来があっても良い。
ハナは、そう願っていた。
その頃。
ジャック・エルギン(ka1522)は持参していた道化師の仮面を黙示騎士たちの墓の側に埋めていた。
「シュレディンガーとは、馬も合ってたみたいだしな」
カッツォ・ヴォイは、ハンターたちとの激戦の末、惑星ジュディッカの地で消滅した。
「あいつが、あの地を選んだのは、あいつなりの理由があったんだろうな」
ジャックが、静かに両手を合わせる。
仮面の男を許す気にはなれなかったが、ナナ・ナインのように人間から歪虚に堕ちるなりの「悲劇」があったのだろう。
そうした悲劇を繰り返さないようにと誓う。
(カッツォを倒しても、世界から悲劇が全てなくなる訳じゃねえ。
だがそれでも、俺はこれから先も悲劇に悲しむヤツがひとりでも減るようにハンターとして、人間として戦っていくぜ)
十三魔を倒したとしても、世界の各地では、シェオルの残党や雑魔の集団が人々の暮らしを脅かしている地域もある。ジャックは、そうした人々を守るために、これからも戦っていくのだろう。
一方。
アリア・セリウス(ka6424)は、荒野を眺めていた。
「……脚本家。あなたも結局、世界をどうしたかったの」
カッツォは消え去る時、満足そうだった。望みが叶ったのだろうか?
脚本家の出番は終わった。
ならば、次は私の舞台、夢を叶える番。
(数年に渡る戦いで掲げた誇りはひとつ。
受け継ぎ、より理想へ、よりよい明日へと導き、繋げていくこと。
この結末も、そして、未来の誰かへと世界を継承していけるように)
二つの世界の掛け橋、二つの夜空に浮かぶ月のように。
蒼の世界と紅の世界を繋ぐために。
生まれ育った故郷であるクリムゾンウエストの音楽と舞踊を、
繋がった先のリアルブルーの技術、技巧を乗せ、全く新しいものを生み出す。
悲劇に彩られたものではなく、戦火に焼かれたものでもなく。
明日へと響く、新たなる歌を。
誰でもない己に誓い。
歌に乗せて、語り継いでいく。
アリアの物語は、さらに広がっていく。
自分なら、この世界をどうしていきたいのか?
果てしない旅のようにも思えた。
ミア(ka7035)と白藤(ka3768)は、岩に腰をかけて、互いにこれからのことを話し合っていた。
「この先かぁ……ミアはどないするかイメージってできとる?」
「おっきな戦いは終わったけど、ミア自身は前とあんまり変わらないかニャぁ?」
「うちは、相棒の銃は手放されへんけど、傭兵としての前線からは退くつもりや。ハンターは続けていくつもりやし、仲間の危機には駆け付けたるで」
「ミアは、ハンターのお仕事で稼ぎつつ、大好きなサーカス団に身を置いて、W花形を目指して頑張るつもりニャス。サーカス団を維持していくのも大変だろうから、お金の面でもお手伝いしていきたい……ミアの居場所を、大好きなみんなが集まる大切な空間を守っていきたいニャス♪」
ミアはそう告げた後、クスクスと笑いながら話を続けた。
「それに、馬鹿ちんの代わりにミアがサーカス団のお姫さまを護らニャいとニャスな!」
思わず釣られて笑いだす白藤。
「ミアらしいな。サーカスで腕を磨くんかぁ。きっと身軽なミアは、花形も夢やない! うちは、そうやな……今、一番したい事は……傍におりたい人に、ちゃんと気持ちを伝えたいって所からやろかな」
「しーちゃん、ミアも応援してるニャス。大好きなしーちゃんとの関係も変わらない。変わるとしたら……いつか、帰る場所が同じになったりするのかニャ。ニャんて。おねえちゃんって呼べる日が…来るかニャ」
ミアが、うれしそうに微笑む。
白藤は、ミアの頭を優しく撫でる。
「きっと、うちが逃げ出さへんかったんは、隣にミアがおったから、やろうかな。ミアとも一緒におりたい。うちの大切な妹で、家族やから」
「しーちゃん、大好きニャス!」
ミアが白藤に抱き付き、頬を寄せた。
「甘えん坊さんやな、くすぐったいで、ミア」
そう言いながらも、白藤は仲間と一緒にいる未来に想いを馳せ、ミアを抱き留めた。
黙示騎士たちの墓に花を供え、ユメリア(ka7010)は祈っていた。
高瀬 未悠(ka3199)は、テセウスを想いながら、印の無い墓標を見つめていた。
(テセウスは大切な人達の未来の為に自らが消える事を厭わなかった。もしも私が同じ立場なら彼の様な決断が出来た…?)
きっと、テセウスだからできたことだろう。
言い換えれば、未悠にしかできないことがあるのだ。親友であるユメリアを守ること。
ユメリアは立ち上がり、クドウの後ろ姿を見ていた。
(クドウ様がこれから歪虚として過ごす時間はとても長いものでしょうが、長く幸せであり続けますよう……ありがとう、私と少し似た人)
そして、未悠の方へと振り返る。
「未悠さん、決戦前のお話、覚えていますか?」
「……」
無言で頷く未悠。
未だに答えが見つからない。
ユメリアは、森に入り、生きると言った。
「残った数百年の時間をあなたに捧げると誓います。
生きて生きて。未悠さんからもらった勇気を、生きる輝きの尊さを伝えます。
あなたの笑顔を最期まで見届けます」
「……嫌よ」
「未悠さん?」
「寂しくて嫌よ。たくさん遊びに行くわ。どうしても会えない時は手紙を書くわね」
未悠は、ようやく決心した。
彼女の人生の決断は、彼女にしか出来ないのだと。
ユメリアが、穏やかに微笑む。
「たまに顔を見せてくださいね。最高のお茶と花の香りをもってお待ちしています」
「何度だって会いに行くわ」
私の命が続く限り……未悠は、ユメリアに赤いゼラニウムを贈った。
花言葉は『真の友情』『君ありて幸福』。
「エルフの生はとても長いですが、長く幸せであり続けます。
あなたと出会い寄り添ってくれたから」
ゼラニウムを受け取ったユメリアは、うれしそうに微笑んでいた。
「大好きよ、ユメリア」
未悠は、彼女の顔を見つめ、それから両手を広げて、包み込むように抱きしめた。
「私も大好きです。未悠さん」
お互いの温もりの中で、この一時が永遠に刻まれることを願い、寄り添った。
黙示騎士たちの墓前にて、彼らのために祈るハンターたちが集った。
その様子を眺めていたのは、ミグ・ロマイヤー(ka0665)だ。
クドウ・マコトが、何やら悩んでいることに気付き、ミグが声をかけてきた。
「クドウ殿も、迷える若者じゃな」
「若者……?」
クドウは、久し振りにそう呼ばれて、考え込んでいた。
ミグの容姿はクドウよりも若く見えたからだ。
「ミグは、ドワーフじゃ。孫もおる」
「……家族がいるんだな」
「そなたの悩みは察しがつく。歪虚と人はこの世の両輪という説もある。正があれば負があるように人と歪虚は対局の存在だ。じゃがそれは対立ではなく、必要な物なんじゃ。邪神が勝てばすべてが歪虚となってしまい、この世の均衡は失われたであろう」
「そのために、覚醒者たちは戦ってくれたな」
「クドウ殿には歪虚になり果てたとしても、やり遂げたいことがあったのであろう。ならば誰に恥じることもなくそれをなせばいい。歪虚という事で人々の賞賛を得ることはもはやかなわぬかもしれぬが、そなたの在り方を否定できるものはおらぬ。そういう世の中をミグたちはこれから作っていくのじゃと思う」
ミグは、若者たちの未来を信じていた。
「……俺に、できるだろうか?」
「大いに悩んで、自分なりに結論をだせば良い」
温かみのある笑みで、ミグが言った。
クドウは、不思議と肩の荷が下りたような気がした。
大伴 鈴太郎(ka6016)は、黙示騎士たちの墓があるという噂を聞きつけて、やってきた。
「……ラプラス、いざ、こうしてきてみると、何から話せば良いか……」
ふと、思い出す。以前、ラプラスが言っていたことを。
「なぁ、ラプラス、あの時、何に嫉妬してたんだ? 最初は、ただムカつくだけだったけど、エバーグリーンで言葉を交わした時から、憎いだけの敵じゃなくなってた」
ケリをつける前に話しておきたいことが山ほどあった。
「結局、ああするしかなくなっちまったけど、自分が間違ってたとは思わねぇし、お前のコトを背負ってくなんて言わねぇ。それは、お前への侮辱だと思うから」
鈴太郎にとって、ラプラスは対等のライバルでもあった。
「けど、望むモノの為、お前の未来を奪ったコトだけはゼッテー忘れねぇよ。お前の目に映るオレは、最後まで真っ直ぐ立つ敵でいられたかな? オレの目に映るお前は、何だかちょっとカッケーヤツだったよ。だから、オレも自分の中に在る『公正』を曲げずに生きてこうって……そう思う」
想いを告げた時、鈴太郎の髪を撫でるように風が吹いた。
「……そっか、オレは、前に進むだけで良いんだよな」
誰かが、自分の背中を押してくれたような気配を感じた。
一方、マクスウェルの墓前では、夢路 まよい(ka1328)が静かに両手を合わせ、想いを伝えていた。
「あのね、バニティーが言ってた……マクスウェルは歪虚になる前は、最後まで諦めずに邪神と戦ったんだね。黙示騎士になっても、諦めてなかった」
まよいは、邪神戦争の最中、仲間たちと共にマクスウェルと激しい戦いを繰り広げた。
そして。
「私達とマクスウェルは敵だったかもしれないけど……嫌いじゃなかったよ。マクスウェルはバニティーにとって大切な家族。私にも肩を並べて戦う大切な人ができたから、なんだか重なって見えちゃうのかな」
バニティーは、今、どこにいるのだろうか。
マクスウェルの後を追いかけていったバニティーだが、行方は分からなかった。
それを知る術もなかった。
「もうちょっとバニティーともお話してみたかったかな。でも、私が同じような状況に置かれたら、きっと大切な人を置いていけないと思う、から。マクスウェルは、そっちでちゃんとバニティーのこと思い出してあげて、ね?」
仲間想いのマクスウェルのことを、バニティーは兄のように慕っているように思えてならなかった。
アルマ・A・エインズワース(ka4901)は重体になりながらも、どうしてもテセウスと話がしたかった。
兄のメンカル(ka5338)が、アルマを気遣う様に弟の身体を支えながら、黙示騎士たちの墓前まで連れてきてくれたのだった。
シュレディンガーには良い印象はなかったが、彼の動機は分かるような気がした。
「テセウスに言いたいことがあるんだろう?」
アルマは、コクリと頷くと、ひまわりの花束を捧げた。
「テセウス君……お別れも言えなかったんですね、僕」
アルマにとって、テセウスは大切な友達で生徒のような存在だった。
身体の痛みよりも、心が酷く痛んだ。
「君と、もっとたくさん遊んだり、いろんなものを見たりしたかったです」
僕と、テセウスに違いはあったのだろうか?
楽しい思い出ばかりが過る。気が付けば、アルマの瞳から涙が零れ落ちた。
メンカルが、優しくアルマの頭を撫でた。
直接の関りはないが、弟がテセウスという黙示騎士と仲良くしていたのは知っていた。
(……優しい奴から死んでいく。人も歪虚も、そう変わらんか)
共に祈りながら、必死に涙を堪えようとするアルマに対して、メンカルが告げた。
「……いっそここで全部吐き出してしまっておけ、アル」
兄の穏やかな声を聞き、アルマはメンカルの胸元に抱き付き、泣きじゃくった。
「……お兄ちゃん、僕……テセウス君と、もっともっと遊びたかったです」
「……そうか」
泣きたいだけ、泣けばいい。
メンカルは、何も言わずに弟のアルマを抱き寄せた。
気持ちが落ち着くと、アルマは改めて、テセウスのために祈った。
「……おやすみなさい。ありがとう」
いつかテセウスが生まれ変われたら、また会えますように。
そう祈らずにはいられなかった。
一億分の一でも可能性があるなら……また会いたい。
アルマの横顔を見ながら、メンカルは決意していた。
我々が生き残ったことには、意味がある。弟の大切な人たちのためにも、やるべきことを少しずつ紐解いていく……そうした導きが、未来へと続くと信じて。
ラミア・マクトゥーム(ka1720)が、黙示騎士たちの墓前に歩み寄った。
「テセウス……なに一人でかっこつけてんのさ」
思い人と同じ似姿の歪虚……はじめはその姿を許せなくて。
彼の大事な生みの親であるシュレディンガーとも、確執があった時期もあり、戦うことになった。
時に剣を交え、時に怒りの声を交わし、何度か出会い、時を重ねるうちに、気持ちは随分変わった。
憎しみから、変わった感情は……自分でも、よく分からなかった。
「消えたって……クドウから聞いたけど……」
何故? どうして?
ラミアは、悔しい気持ちがこみ上げ、と同時に瞳が涙で滲んできた。
手を合わせて、祈った。
悔しいのは、救えなかったからか、それとも、ハンターたちを助けるためにテセウスが消えてしまったからなのか。
様々な想いが渦巻き、また涙が溢れてくる。
「……シュレディンガーと仲良くね。色んなこと話してやりなよ」
ありがとう。テセウス。
忘れないよ。
ディーナ・フェルミ(ka5843)は、墓の前に立ち、鎮魂の歌を唄った。
それだけでは足りない。楽しい歌なら、喜んでくれるだろうか。
童歌なら、どうだろう。様々な種類の歌を唄い、そして『浄化の祈り』を捧げた。
ハンターたちが供えた花々も、少しの間は周囲の汚染環境から回復させることができた。
「人とまた交わろうとした、世界を善く変えようと思った、そういう想いを大事にしたいと思ったの。ここはその想いを象徴する場所だから。ここの、この想いを大事にしたいと思うなら、人も歪虚も何度だってここに集って良いと思うの」
人も、黙示騎士たちも、大切な世界や仲間を守りたかっただけなのだ。
ディーナには、そう思えたのだ。
「普通の場所でも草は生えて枯れるの。歪虚の人がここに来て草が枯れてもそれはそれなの。大事な家族なんだもの、長くここに留まって良いと思うの。それでもここが想いを寄せ合って変わって行ける起点になればと思うから、まず花や草木が生えられる準備だけはしたいと思ったの」
想いを告げた後、ディーナはもう一度『浄化の祈り』を使った。
ここを訪れるハンターたちのために。
トリプルJ(ka6653)は、持ってきた造花が風で飛ばされないように、花籠の中に石を入れていた。
「テセウス、なに勝手に消えたんだよ。良い歪虚は死んだ歪虚だけってのを地で行くつもりかあ?」
植木鉢を持込みたいとも思ったが、芽が出たばかりの花が耐えられるわけがないと考え直し、今回は造花を供えることにした。
「お前の植木鉢は、オフィスのみんなで大事に育ててるからよ。俺達がリアルブルーに帰ることになっても、他の奴らが面倒見て、そのうち公園や他の場所にも植え替えて、ゆっくりじっくり広めていくと思うからよ」
小さな芽が、やがて育ち、花を咲かせ、枯れても種を残す。そうした命の連鎖によって、テセウスの優しい心も広がっていくのだろう。
「俺らが無事に辿り着けたのは、お前のおかげだ。でもなあ……早すぎねえか、テセウス」
誰かが道標となる必要はあったのかもしれない。
「おまえとは、いろいろあったな」
愉快なヤツだった。
トリプルJは、テセウスと一緒に過ごした時間を思い出して、微かに笑っていた。
●
Gacrux(ka2726)は、何も言わずに黙示騎士たちの墓を眺めていた。
シュレディンガーのことは許せなかったが、それでも残された者には心の拠り所が必要だとも思っていた。
クリュティエのためにも。
クドウ・マコトやクリュティエが、クリムゾンウェストで暮らしていくには、その立場上、ヒトの世界では、孤独で辛い境遇に追い込まれる可能性もあるだろう。
クリュティエを残してくれたカレンデュラの想いの為にも、何かの形で支援していきたいと考えていた。
Gacruxは、この土地を開拓していくことも視野に入れていた。
土を触り、クドウに声をかけた。
「この地に食料を作るなら、正マテリアルが必要なら畑作りも一考か。負のマテリアル放出を抑え込める装飾品等が開発されれば、周囲への影響も防げそうだが」
「……その分野に関しては、俺からは、なんとも言えないな」
クドウの返答に、Gacruxは「確かに」と呟いた。
「これから世界と信用を築けばいい。何かあれば一人で抱え込まず、オフィスを頼る事です」
燐寸と香木をクドウに渡し、Gacruxは「それでは」と一礼してから立ち去った。
しばらくすると、クドウの元にオートマトンのフィロ(ka6966)がやってきた。
何やら聞きたいことがあったようだが、対面した途端、話し始めた。
「貴方には自分が死んだ記憶がありますか。契約者は、歪虚の加護を得て同じような力を振るえます。歪虚は死してなるモノ、死ぬ前であればただの契約者、上書き前の普通の強化人間と何も変わりません。貴方は本当に、死して歪虚になった自覚はおありですか」
唐突に質問されて、クドウは少し戸惑っていたが、すぐに落ち着きを取り戻した。
「随分と直球な質問だな。気を失って、目覚めたら、黙示騎士に『君は歪虚になった』と言われたが、未だに自分でも、実感が湧かないというのが正直なところだ」
「では、自覚はないとも考えられますね。クドウ様は、リアルブルーに戻られるのですか?」
「できればそうしたいが、故郷の連中が、それを許さないだろう」
「主義主張ゆえ争うのは人として当然です。それでも和解できたなら、大手を振ってお戻りになれば良いのです。人でも歪虚でも」
フィロのように素直な考えを持った者ばかりではない。
「和解できれば、だろう? それには、おそらく時間がかかる」
クドウが、溜息をつく。
「良いことばかりではないかもしれません。それでも沢山の方と関係を紡いだ貴方なら、最悪の事態は起こらないと思うのです。望みを叶えられませ、クドウ様」
フィロから、そんな言葉を聞けるとは思わなかったのは、クドウは少し驚いていた。
「まいったな。あんたが、そう言うと……調子が狂いそうだ」
「それは大変です。安静になさってください」
「いや、そういうことではなく……あんたには嫌われてたと思っていたからな。意外だっただけだ」
クドウがそう言うと、フィロは首を傾げていた。
「私は、クドウ様に、そういうことを言った覚えはありません。その点については、否定します」
「……嫌いではないということか」
クドウは、どこか安堵しているように見えた。
久我・御言(ka4137)は、クドウと同行して、黙示騎士たちの墓前で黙祷を捧げた。
その後、御言がクドウに話しかけた。
「クドウ君、調子はどうかね?」
「可もなく、不可もなく。そんなところだ」
「やはり故郷に戻りたいのかね?」
「やり残したことがあるからな。できれば、宇宙開発に関わりたいと思っている」
「宇宙開発か。良いではないか。やりたいようにするとよいだろう。私も協力は惜しまない」
「だが、リアルブルーの住民たちが、どう思うか……」
クドウは言い淀むが、御言は動じることもなく告げた。
「ならば、私はハンターとして、友として、関係者に頭を下げよう。君の願いに、それを成就させる事に力を尽くす」
「それで納得する連中は、ほとんどいないだろう。久我も、俺と同じように見られるかもしれない」
「気にすることはない。私がそうしたいから、そうするだけだ。君の感謝が得られるのであれば、いつか私が困った際には助けてくれたまえよ、戦友」
「当然だ」
クドウが、迷うことなく応える。
「リアルブルーに行くと言うのであれば連絡をくれ。いつでも駆けつけよう」
御言が手を差し伸べると、クドウは手を握り返した。
それから。
クドウは、リアルブルーへ行くための具体的な手段を考えていた。
宇宙開発に協力したい。
そのことを聞きつけたマリィア・バルデス(ka5848)が、クドウがいる場所へと姿を現した。
「クドウ、あなたは軍人だったのでしょう? 私は戻ったらまた軍に奉職するわ。貴方も帰ればいいじゃない。人を守る覚悟がある人間を軍は排斥しないわよ」
的を射た言葉に、クドウは少しずつ具体策が見え始めていた。
「私達は今まで狂気としか戦ってこなかった。貴方が契約者であれ歪虚であれ、狂気ではないしょう?分かりあえる、指示も通る、人を守る意思もある……それで何が不足なのかしら」
「軍が受け入れてくれたとしても、住民たちの感情も無視はできない」
クドウが言うことも分かるが、マリィアは、さらに対策を提案してみた。
「貴方が本当に歪虚なら、宇宙空間での作業や救助に活動限界がないことになる。それは大きなメリットでしょう? 歪虚に触れたモノがどのくらいの期間で一般人が触れなくなるか、その目安を計ることもできるようになる。貴方に意志があり力があり仲間がある以上、最悪のことはまずされないと思うわ。それ以前に貴方はまだ人間だとも思うけど」
マリィアにそう言われて、クドウは自分の弱点が、実は宇宙では利点になることに気が付いた。
「俺自身、歪虚になったと言われても実感がなかったが、宇宙空間でも作業ができるのは確かにメリットがあるな。実際、やってみないと分からないことが多いが」
「まあ、難しく考えずに、とりあえずやってみたら? じゃないと、なんにも始まらないわよ」
マリィアに促されて、クドウはリアルブルーへ帰る手立てを思案していた。
キヅカ・リク(ka0038)が、クドウと会うために訪ねてきた。
「マコト、こうやって会うのは久し振りだね。今日は、お礼が言いたくて来たんだ」
「リク、礼を言うのは、俺の方だ」
「マコトが護ってくれたから、僕は前に進めた。ジュデッカへ立ち向かえたんだ。本当にありがとう」
リクが微笑むと、クドウはどこか照れているようにも見えた。
思わず笑い返すリク。
「そうだ、ゆっくり話したいと思ってさ。食べ物と緑茶、持ってきたんだ」
「話すのは良いが、ここはグラウンド・ゼロだ。負のマテリアルが充満している」
「あ、そうだった」
他愛無い会話が、何故かうれしかった。
「そんじゃ、気を取り直して……あのさ、マコトから見て、僕はどう見えてた?」
「お人好しだ」
「即答だな。まあ、いいや。お互い遠くまで来ちゃったね。けど、僕は良かったと思ってる。こうして出会えたから」
リクは、また会えるように願って、自分のIDカードをクドウに手渡した。
「……これは、返す。その代わり、お茶」
「ええっ、どういうことだよ。お茶が良いなら、渡すけど」
結局、IDカードは受け取ってもらえず、緑茶を渡す羽目になった。
「マコトの趣味が、よく分からないよ」
「IDカードは、リアルブルーでは身分証明書だろう。俺が持っていたら、いろいろと疑われる」
「あ、そういうことか。現実的だな、マコトは」
「リクがロマンチストなだけだろう」
「あー、僕のこと、そんな風にも見てたんだ」
こうやって、互いに話すことができるようになるなんて、思いもしなかった。
「マコトさ、リアルブルーに戻って宇宙開発に協力したいって言ってたじゃん。僕も考えてみたんだけど、未知の星の開拓なんてどうかな。それと火星開拓、かつて狂気によって支配されていた彼処は、マコトの力が必要な場所だと思うんだ」
「火星の開拓か。その前に、地球圏の復興が先になりそうだが、考えておく」
「いろいろあったけど、また会えると良いね」
リクが、片手をあげた。
「なんだ?」
「こういう時は、ハイタッチだよ」
「……こ、こうか?」
互いに手を重ねて、ハイタッチを試みるが、クドウは慣れていないのか、少しタイミングがずれていた。
そういう不器用なところも、リクはマコトらしいなと思っていた。
しばらく経つ。
リーベ・ヴァチン(ka7144)は、カイン・シュミート(ka6967)を連れて、クドウと再会した。
「お前が、クドウ・マコトだな。俺はカイン。ところで、お前って何歳?」
「こら、いきなり何、言ってる。まったく、気を遣う嫁だ」
リーベが、カインの頭を軽く叩いた。
「嫁?」
クドウは、不思議そうな顔をしていた。
「マコト、やりたいこと聞いたぞ」
リーベは、なんとか話を続けようと、話題を変えた。
「しばらくは、ここで墓守をするつもりでいたが、いずれはリアルブルーに戻るつもりだ」
クドウが応えると、リーベがうれしそうに微笑む。
差し入れに手料理とクッキーを持ってきたが、クドウは受け取ると、墓に供えた。
リーベにとって、クドウは家族のように感じていたが、弟というより息子のような存在だった。
「道なき道をも越えた先、リアルブルーに戻ったお前が宇宙と宇宙を渡る船をも造れる男になると思ってるよ」
「そうなれると良いんだがな」
クドウが、言った。
カインからすれば、リーベとクドウの関係がどういったものなのか、気になっていたが、個人的な話題を切り出した。
「歴史は好きか?」
「……宇宙の始まりは気になるな」
「無理にとは言わないが、お前から見た戦いの手記を綴ってもらえることはできるか? この戦いの記録の中には彼らなくしてありえた結果ではなかった記録は必要だ。それは彼らと一緒にいたクドウならその軌跡を綴れるんじゃと思った。千年先の誰かの役に立って欲しい。だが、したいこと優先でいいんで検討してくれ」
カインは、クドウの反応を気にしながらも、懸命に告げた。
「……分かった。できるかどうかはともかく、カインの提案は良いと思った」
「マコト、私はどう生きたいか、改めて考えてみた。私は先祖返りで龍人に生まれた。私の親は人間で、人間の子を産めなかった。だから嫉妬憤怒傲慢強欲なのさ。私の生を親の責任にさせるものか」
そう言いながら、リーベは握手を求めた。
「……」
クドウは、何か言いたげな表情で、リーベの手を握り締めた。
たとえ離れることになっても、初めて出会った時のことは忘れないだろう。
●
時折、風が吹く。
鞍馬 真(ka5819)は、グラウンド・ゼロの大地に立ち、これからのことを考えていた。
ここに集まったハンターたちが祈りや会話に専念できるように、周囲の警護も欠かさない。
自分のことを考えるよりも先に、仲間たちのことを思ってしまう。
正直に言えば、真は自分のために時間を使おうとは考えていなかった。
一人でじっくりと考えようとしても、結局、誰かのために時間を使ってしまう。
(暫くは復興に奔走するとして、その後は? 転移前の失った記憶を探す? やりたいことを探す?)
自問自答を繰り返すが、明確な答えが浮かばなかった。
「……困ったな。いざとなると、どうすれば良いのか」
真は、自分のこととなると、何をしたいのかと堂々巡りになり、途方にくれていた。
以前、強化人間の騒動があり、あの時は……。
仕方がなかったとは言え、強化人間たちを自分の手で殺して。
突入作戦で沢山の人達を見殺しにして。
(そんな私が、幸せを求めて、掴もうとするなんて、間違ってる)
ジレンマなのか、それとも。
(そうだなあ、せめて一生働き続けて、それで償う。それで良いかな)
改めて思う。
自分は、誰かのために働いている方が、前へ進むことが多いような気がしてきた。
「今は、目の前のことに集中しよう。やることはいくらでもあるから」
世界は、少しずつ動き出している。
誰かのため、仲間のためと思えば、先を見据えることができるかもしれない。
黙示騎士たちの墓。
星野 ハナ(ka5852)は、浄化作業を手伝っていた。
「私はこのままこの世界に残りますしぃ、今後も何度もグラウンド・ゼロ周りの討伐には関わっていくと思いますぅ。この人たちは自分の主義主張を貫いて亡くなりましたぁ。それがずっとこの赤茶けた世界だけを見つめるのは哀しい気がしたんですぅ」
ハナはまず、墓の周囲だけでも浄化したいと思っていたようだ。
「世界を変えようとした、自分達が変わろうとした……ならここからそれを見たって良いじゃないですかぁ。ここが草木が生える唯一のセイフティエリアになってぇ、ここから徐々にグラウンド・ゼロに緑が広がっていく……そういう未来があっても良いと思うんですぅ」
いずれ、この地が、本部の管轄になるならば、年に何度かは来られるようになるだろう。
緑や花が咲き誇るには、何年、かかるかは分からない。
少しずつでも良い。
グラウンド・ゼロに、花一杯咲き乱れることを想像して。
そういう未来があっても良い。
ハナは、そう願っていた。
その頃。
ジャック・エルギン(ka1522)は持参していた道化師の仮面を黙示騎士たちの墓の側に埋めていた。
「シュレディンガーとは、馬も合ってたみたいだしな」
カッツォ・ヴォイは、ハンターたちとの激戦の末、惑星ジュディッカの地で消滅した。
「あいつが、あの地を選んだのは、あいつなりの理由があったんだろうな」
ジャックが、静かに両手を合わせる。
仮面の男を許す気にはなれなかったが、ナナ・ナインのように人間から歪虚に堕ちるなりの「悲劇」があったのだろう。
そうした悲劇を繰り返さないようにと誓う。
(カッツォを倒しても、世界から悲劇が全てなくなる訳じゃねえ。
だがそれでも、俺はこれから先も悲劇に悲しむヤツがひとりでも減るようにハンターとして、人間として戦っていくぜ)
十三魔を倒したとしても、世界の各地では、シェオルの残党や雑魔の集団が人々の暮らしを脅かしている地域もある。ジャックは、そうした人々を守るために、これからも戦っていくのだろう。
一方。
アリア・セリウス(ka6424)は、荒野を眺めていた。
「……脚本家。あなたも結局、世界をどうしたかったの」
カッツォは消え去る時、満足そうだった。望みが叶ったのだろうか?
脚本家の出番は終わった。
ならば、次は私の舞台、夢を叶える番。
(数年に渡る戦いで掲げた誇りはひとつ。
受け継ぎ、より理想へ、よりよい明日へと導き、繋げていくこと。
この結末も、そして、未来の誰かへと世界を継承していけるように)
二つの世界の掛け橋、二つの夜空に浮かぶ月のように。
蒼の世界と紅の世界を繋ぐために。
生まれ育った故郷であるクリムゾンウエストの音楽と舞踊を、
繋がった先のリアルブルーの技術、技巧を乗せ、全く新しいものを生み出す。
悲劇に彩られたものではなく、戦火に焼かれたものでもなく。
明日へと響く、新たなる歌を。
誰でもない己に誓い。
歌に乗せて、語り継いでいく。
アリアの物語は、さらに広がっていく。
自分なら、この世界をどうしていきたいのか?
果てしない旅のようにも思えた。
ミア(ka7035)と白藤(ka3768)は、岩に腰をかけて、互いにこれからのことを話し合っていた。
「この先かぁ……ミアはどないするかイメージってできとる?」
「おっきな戦いは終わったけど、ミア自身は前とあんまり変わらないかニャぁ?」
「うちは、相棒の銃は手放されへんけど、傭兵としての前線からは退くつもりや。ハンターは続けていくつもりやし、仲間の危機には駆け付けたるで」
「ミアは、ハンターのお仕事で稼ぎつつ、大好きなサーカス団に身を置いて、W花形を目指して頑張るつもりニャス。サーカス団を維持していくのも大変だろうから、お金の面でもお手伝いしていきたい……ミアの居場所を、大好きなみんなが集まる大切な空間を守っていきたいニャス♪」
ミアはそう告げた後、クスクスと笑いながら話を続けた。
「それに、馬鹿ちんの代わりにミアがサーカス団のお姫さまを護らニャいとニャスな!」
思わず釣られて笑いだす白藤。
「ミアらしいな。サーカスで腕を磨くんかぁ。きっと身軽なミアは、花形も夢やない! うちは、そうやな……今、一番したい事は……傍におりたい人に、ちゃんと気持ちを伝えたいって所からやろかな」
「しーちゃん、ミアも応援してるニャス。大好きなしーちゃんとの関係も変わらない。変わるとしたら……いつか、帰る場所が同じになったりするのかニャ。ニャんて。おねえちゃんって呼べる日が…来るかニャ」
ミアが、うれしそうに微笑む。
白藤は、ミアの頭を優しく撫でる。
「きっと、うちが逃げ出さへんかったんは、隣にミアがおったから、やろうかな。ミアとも一緒におりたい。うちの大切な妹で、家族やから」
「しーちゃん、大好きニャス!」
ミアが白藤に抱き付き、頬を寄せた。
「甘えん坊さんやな、くすぐったいで、ミア」
そう言いながらも、白藤は仲間と一緒にいる未来に想いを馳せ、ミアを抱き留めた。
黙示騎士たちの墓に花を供え、ユメリア(ka7010)は祈っていた。
高瀬 未悠(ka3199)は、テセウスを想いながら、印の無い墓標を見つめていた。
(テセウスは大切な人達の未来の為に自らが消える事を厭わなかった。もしも私が同じ立場なら彼の様な決断が出来た…?)
きっと、テセウスだからできたことだろう。
言い換えれば、未悠にしかできないことがあるのだ。親友であるユメリアを守ること。
ユメリアは立ち上がり、クドウの後ろ姿を見ていた。
(クドウ様がこれから歪虚として過ごす時間はとても長いものでしょうが、長く幸せであり続けますよう……ありがとう、私と少し似た人)
そして、未悠の方へと振り返る。
「未悠さん、決戦前のお話、覚えていますか?」
「……」
無言で頷く未悠。
未だに答えが見つからない。
ユメリアは、森に入り、生きると言った。
「残った数百年の時間をあなたに捧げると誓います。
生きて生きて。未悠さんからもらった勇気を、生きる輝きの尊さを伝えます。
あなたの笑顔を最期まで見届けます」
「……嫌よ」
「未悠さん?」
「寂しくて嫌よ。たくさん遊びに行くわ。どうしても会えない時は手紙を書くわね」
未悠は、ようやく決心した。
彼女の人生の決断は、彼女にしか出来ないのだと。
ユメリアが、穏やかに微笑む。
「たまに顔を見せてくださいね。最高のお茶と花の香りをもってお待ちしています」
「何度だって会いに行くわ」
私の命が続く限り……未悠は、ユメリアに赤いゼラニウムを贈った。
花言葉は『真の友情』『君ありて幸福』。
「エルフの生はとても長いですが、長く幸せであり続けます。
あなたと出会い寄り添ってくれたから」
ゼラニウムを受け取ったユメリアは、うれしそうに微笑んでいた。
「大好きよ、ユメリア」
未悠は、彼女の顔を見つめ、それから両手を広げて、包み込むように抱きしめた。
「私も大好きです。未悠さん」
お互いの温もりの中で、この一時が永遠に刻まれることを願い、寄り添った。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/08/28 18:34:38 |