ゲスト
(ka0000)
【血断】道は続くよ未来へと
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 8日
- 締切
- 2019/09/05 19:00
- 完成日
- 2019/09/12 02:04
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
邪神は消え、世界の危機は去った。
さあ改めて始めよう。それぞれの物語を。
だけどその前に、ちょっとだけ後始末。
とっちらかったものを片付けてから靴を履こう。そして扉を開け踏み出そう。
光溢れる未来へと。
●南方大陸・リザードマン海浜集落
リザードマンの赤ちゃんたちは仲良く並び、大人たちと話している訪問者を見つめていた。
この訪問者は自分たちと全然違う姿形をしている。でも、何故だか親近感を感じる。
向こうもそう思っているのだろう。自分たちを見るたび嬉しそうにしている。
『…そう…歪虚が出たの……』
「シカリ、白イ精霊。足生エタ鮫ノ群レ出タ。シカシ我々、奥地ノ部族ト協力シ退ケタ。歪虚、消エタ。集落ノ家屋大分潰レタガ、マタ作レバヨイノデ問題ナイ。部族、欠ケタルモノナシ」
『……それは……よいこと……』
●バシリア刑務所
実は戦争の最中当地にも、シェオルが発生した。目も鼻も口もない、巨大な影人形のような奴が。
だけどそれは出現した直後、何をするまもなくすぐ消えてしまった――邪神消滅のタイミングにあわせて消滅したのだ。
結果、被害はゼロ。
「なんだよ、せっかく気合入れて作ったのになあ」
「ちったあどのくらいの強度なのか試したかったぜ」
そんなわけで今囚人たちは安心して文句を垂れながら、補強のための構造物を撤去している所。
そこへマゴイがやってきた。貸与していた簡易住宅回収のためだ。
その応対にスペットが出る。
『……無事だったようで……よいこと……』
「まあな。無駄骨って感じもするけどな。ユニゾンはなんもなかったんか? 南方大陸のリザードんとこも」
『……ユニゾンにはシェオルが出たけれども……撃退したので大丈夫……南方大陸のリザードマンたちも……大丈夫……確認済み……』
「ほうか。ほんなら早いところ簡易住宅持って帰りや」
『……もちろんそうするわ……ところでβ……あなたに伝えておきたいことが……』
「なんやの」
『……復元手術のため必要な……新しいあなたの頭部が……完成したわ……後は脳移植手術をするだけ……』
「ほ、ほんまか!」
『……ええ……でも手続きのための書類はまだ完成してないので……手術自体はもう少し先のことになるわね……』
●ポルトワール
会長ニケはマゴイの訪問を、愛想よく出迎える。
「この度はご協力、ありがとうございました。おかげで学院には最小限の被害もありませんでしたよ。他の貸与先は無事でしたか?」
『……ええ……ヴァリオスも……リゼリオも……ジェオルジも……保養所近隣も大丈夫だったわ……バシリア刑務所もね……』
「そうですか。目出度いことです。これから共通の敵がいなくなったことによって、国家間の緊張が高まる可能性もありますが」
言葉を切ってニケは、執務室の壁に貼られた同盟領の地図を見た。
銀縁眼鏡の奥で、灰色の瞳がきらりと光る。
「――ま、しばらくはそう心配することもないでしょう。復旧復興、新天地開拓という大目標があることですし」
そこで執務室の扉が開いた。
マルコが入ってくる。走ってきたのか息を弾ませている。
マゴイの姿を見るや姿勢を正した彼に、ニケが聞いた。
「マルコさん、授業は?」
「今日は臨時休校です。マゴイさん、この度は、簡易住宅を貸してくださって、まことにありがとうございました。おかげで――孤児院の皆は無事でした」
『……それはとても、たいへんよいこと……』
●ペリニョン村
『おー、マゴイ。この度は村に簡易住宅貸してくれてありがとうなのじゃ。おかげで村の衆、こわい思いをせずに済んだのじゃ』
『……そう……それはよいこと……』
マゴイはペリニョン村を見回した。
周囲にある緑の丘のあちこちがはげちょろになっていた。自然の枯れ方とは明らかに違う。
『……ここにも、歪虚が出たの……?』
『うむ。でっかいナメクジみたいのが押し寄せてきたのじゃ。そいつがぶわーと息をはくと草木が枯れてしまったのじゃ。でも退治するのはまあまあ難しくなかったのじゃ。動きが遅かったし、なんかしらんが急に消えてしもうたでな』
と彼女が言ったところで、もこんと地面が盛り上がった。
大きな大きな土の精霊、もぐやんが顔を出す。
『ぴょこどん、土の中の消毒はあらかたすんだべよ――おー、これはマゴイどん。お久しぶりだべ。大事無くて何よりだべ』
『……これはお久しぶり……もぐやんどん……あなたも大事無くて何より……』
そこでぴょこがおう、と綿の詰まった手を叩き合わせた。
『そーじゃそーじゃ、マゴイにも言っておかねばならんの。邪神退治された記念にの、お祝いパーテーしよーかと思うのじゃ。関係者を色々呼んでの。なんなら、お主も参加せんか?』
『……とりあえず……その案件については保留しておくわ……まだ簡易住宅の回収が終わっていないので……そちらの方を先に済ませないと……』
●辺境の片隅
山道を延々駆け上ったカチャは、ついに、生まれ故郷のタホ郷にたどり着く。
一瞬だけ息を飲む。郷のあちこちが無残に焼けただれてしまったいたからだ。
だけど次の瞬間には、はち切れんばかりの笑顔になる。
郷に残っていた人々が、ぞろぞろと出てきたのだ。皆、無傷ではない。だけど――生きている。
「おう、カチャが戻ってきおったぞ!」
「さすが神子経験者は違うのう!」
母、ケチャが出てきた。片腕を布で吊っている。
娘の姿を見るや目を見開き、娘の名を呼んだ。
「カチャ!」
カチャは直ちに駆け寄る。
ケチャは吊られていない方の手を娘の頭に乗せ、髪をわしわしと掻き混ぜた。
「生きてたのね。よかったわ。グラウンド・ゼロに行った後連絡が全然なかったから、駄目だったかもしれないって思ってたのよ」
「すいません、心配かけて。歪虚の一団と戦った後、寝込んでたもので」
「あらそうなの――で、勝ったんでしょうねもちろん?」
急に据わった目をして聞いてくるものだから、カチャも気圧される。ぴしっと背筋を伸ばす。
「はい。勝ちました。全部倒しました」
その返答にケチャは、満面の笑みを浮かべる。
「ならいいわ。お帰り、カチャ」
負けて帰ってきたとかいうことになっていたらそれこそ一大事だったな、とカチャはつくづく思う。
「お母さん、キクルとお父さんは? まだ避難先から帰ってないの?」
「ええ、でも明日には戻ってくるから。皆、無事。大丈夫。で、帰ってきたばかりで悪いけど、郷の片付けを手伝いなさい」
「うん――何があったの?」
「ドラゴン型の歪虚が出て、随分暴れ回ったのよ。倒したけど、アーマーも随分やられちゃってね。また修理に出さないと」
「……前修理したときのローン、まだ済んでなかったんじゃ……」
「そうね」
そこに、マゴイが現れた。
『……失礼……簡易住宅の回収に来たのだけれど……』
リプレイ本文
●南方大陸での一コマ
椰子の木陰でリザードマンの赤ちゃんたちは、マルカ・アニチキン(ka2542)をじいと見ていた。
「ほーら、世紀の英雄、ジルボさんですよー。みんな覚えてるかなー?」
この相手は来るたびいつも、この四角いものを見せてくる。
なぜだろう、と思いながら彼女の顔を見続ける。
「私の顔じゃなくて、ジルボさんの顔を見ないと駄目ですよ。このポートレイトはまさにかみっ……」
台詞が途切れマルカが倒れた。
その物音を聞きつけ、大人のリザードマンたちがやってくる。
「イカン、『飛ブ者』太陽ニヤラレテ頭煮エテル」
「昼日中ニ高イトコロ飛ビ回ッテイタカラナ……トリアエズ水カケロ、水」
水をかけられ蘇ったマルカは彼らへ礼を言うと共に、天竜寺 舞(ka0377)から頼まれていた伝言を伝える。
「ここより遠く離れた地で、『白イ精霊』の知り合いである精霊様たちが集いを開かれます」
「ホウ」
「その精霊様たちはこのお子様たちの話を伝え聞き、是非直に祝福をしたいと申されております」
「オオ、ソレハ名誉ナコト」
「どうでしょう、私たちがしっかり護衛をしますので、お子様たちをその宴に連れて行くわけにはいかないでしょうか――」
●懲りない面々の安否確認
バシリア刑務所についてみれば、補強物撤去作業の真っ最中であった。被害の跡らしきものは、全くない。
「おー、ルンルンやんけ。来たんか」
ああ、その声は又吉。
いつも通りのアメショー顔。ヒゲは一本も欠けてない。
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)はじいんと感慨にふける。
「みんな無事そうで良かった……これも壁とか強化したたまもの……」
「いや、ちゃうで。何か出たには出たんやけど、こっちを攻撃する前に勝手に消えたんや」
「え? そ、そうなんですか……運いいのです」
壁の強度を証明してから消えてほしかったと、ついいけないことを思ってしまうルンルン。
「おおそや、あんな、俺の顔が戻る目処たったんやで。マゴイが、移植用の頭が出来た言うてきてん」
又吉が……猫でなくなる。
そのことに彼女はショックを受け、一抹の悲しみを覚える。
だけどこれは、本人にとってはよいことなのだと思い直し、ニコッと笑って祝福する。
「わぁ、おめでとう!! ところで又吉は、ペリニョンのパーティーに来るんですか?」
「おー。一応な。会場設営の奉仕活動に参加ちゅうことで」
●タホ郷復旧お手伝い参上
タホ郷は、復旧作業におおわらわ。居残り組は言うに呼ばず、避難先から帰ってきた人々も忙しく働いている。よっぽどの年寄りと小さな子供以外は、皆。
その様を自分の目で確認したフィロ(ka6966)は、カチャに言った。
「これは……皆様が無事で本当に良かったです」
「ありがとうございます……ええ、本当に――良かったです。遠いところ、よくいらしてくださいました」
「カチャ様について何度もこちらを訪問させていただきましたから、少しでもその手助けになればと思いまして」
という前置きをしてからフィロは、タホ郷復旧についての協力を申し出た。
「少しでも修繕費が安くなる方がよろしいかと。タホ郷は冬は雪深かったですから、秋までに早く家の立て直しも必要だと思いますから」
「助かります! あの、でもそういうことなら、フィロさんに特別是非お願いしたいことがあるんですけど――」
ケチャはフィロを連れ戻ってきたカチャに、お手上げのポーズをした。焦げ付き破損したアーマーを前に。
「駄目、やっぱり素人じゃ手に負えない。あなた、直せそう?」
問われたフィロは、はい、と礼をする。
「少々お時間いただけますか?」
工作用具を手に取り、エンジン部分のカバーを開き、簡易修繕を始める。人に対してするように、アーマーへ話しかけながら。
「あらまあ、こんなところが二箇所も切れて……随分頑張られましたね……」
あちこちを繋いだり塞いだり付け直したりされたアーマーは、盛大な軋み音を出しながらも、どうにかこうにかまた立った。
ケチャが感嘆の声を上げる。
「すごいわね――こんな短い時間で直せるなんて」
「いいえ、直したと言うほどのものではございません。物を持ったり歩いたりするくらいしか、機能は回復は出来ていませんので……」
「何言ってるの、それで十分よ。天才ね、あなた」
そこへ、小さな子供たちがやってきた。親兄弟が皆忙しそうにしているので相手してもらえず、つまらないらしい。フィロに付きまとってくる。
「ねー、あそんでー」
「あそんでー」
フィロは背をかがめ彼らと目線をあわせ、微笑みかけた。
「ええ、いいですよ。何をいたしましょうか?」
郷に来たエルバッハ・リオン(ka2434)は、屋根板を打ち付けているカチャを見つけ、手を振る。
「カチャさーん!」
「あ、エルさん! どうされたんですかー」
『この間聞いた結婚生活の不満点について話をしに来ました』とはさすがに言えなかった。リナリス・リーカノア(ka5126)が、カチャのすぐ隣にいたから。
だからこの場は無難な回答に留めておく。
「ちょっと復旧のお手伝いに来まして!」
●ユニゾンのひととき
青い空青い海。白い砂浜白い花。
休み時間桟橋に並んで、カリカリを食べるコボルドワーカーたち。
ベンチに座ってそれを見守るマゴイと、それから――もう1人。
「――ワーカーとお前が宴に参加するのはいいとして、リザードマンの赤子たちも連れて行くのか?」
『……ええ……ハンターからの誘いを受けて……彼らがそう頼んできたので……』
「ソルジャーはどうする? 2人ともユニゾンから連れて行くわけにはいくまいが」
『……もちろん……それは出来ない……でも護衛として……1人は同行してもらおうと思う……』
という話の後ルベーノ・バルバライン(ka6752)は、マゴイに前回約束していた通り『αにもう一度会う方法』を教える。
「そうあれかし……その想いが足りてさえいれば英霊を作るのは難しくない。帝国はそうやって過去の偉人を複数名英霊として呼び戻した。認知する人数と期間、それでαを呼び覚ます目処は立つ」
マゴイは哀しげな顔をして言った。
『……αは長い長い間……超過勤務に次ぐ超過勤務をしてくれた……だからもうずっと休んでくれていい……そういうやり方で呼び戻しては……また仕事をさせることになってしまう……それはいけない……』
その答えにルベーノは深く感じ入った。
ああ、彼女は真実αを愛していたのだなあと。
「…………そう、か……確かにそうかも知れないな」
2人、寄せて返す波の音をしばらく聞く。
その後会話を再開させる。
『……ワーカーたちに贈り物をしてくれて……ありがとう……今回は2つも……』
「なに、礼などいらぬ。カリカリ大袋など安いものだ。前回はバタバタしていて、渡し損ねたからな――そうだ、μ、お前にも贈るものがある」
ルベーノは、鮮やかな青と白のグラデーションが施された大判のスカーフを取り出す。
「一時とはいえステーツマンの代行もするのだ、皆にそうと分かる方が良かろうよ」
渡されたスカーフをマゴイは、ふわりと身にまとった。
『……青は……きれいな色……ね…………ああ、そうだわ……ルベーノ……あなたに言っておきたい事があったわ……』
「何だ」
『……来年の春から……ウテルスの実質稼動を始めるの……あなたの遺伝情報を基にしたソルジャーが……出生することになるわ……』
●未来予想図
「喉渇いたねー。あたし飲み物とって来る」
と言ってリナリスは家屋の屋根から下りていった。
残っているのはカチャだけ。
この機を逃してはならないと、リオンが話しかける。真摯な顔付きで。
「この間カチャさん、「リナリスさんから戦闘力についての信用を得たい」と言っていましたよね」
「あ、はい、ええ……頼りないと思われてる感じするんですよねえ。いえ私の考え過ぎかもしれないんですけど」
「思ったのですが、カチャさん自身が確固たる自信を持たれれば、リナリスさんが感じる印象も変わってくるのではないかと思います」
「まあ、そうかも」
「とはいえ、その自信も虚勢では意味がありませんから、何か成し遂げた結果として備える必要があると思います。そこで提案なのですが、私の故郷の戦闘訓練を受けられてみてはどうでしょうか?」
「え? そ、そんなこと出来るんですか? その訓練はエルさんの部族に独自継承されているものでしょう?」
「ええ。でも、時々は外部志願者も受け入れてるんです。これまで完遂出来た人いませんけど」
カチャは少し考え、答える。
「行ってみてもいいです。リナリスさんに相談して、うんと言ってくれたらですけど」
リオンの口元に一瞬、「にやり」と表現したいような笑みが浮かぶ。
そこでリナリスが戻ってくる。皮袋と杯を持って。
「はいどーぞ」
リオンはカチャと一緒に杯を受け取る。
杯の中には透き通るような黄金色の蜂蜜酒。
口に含めば甘露のごとき舌触り。
「いいお酒ですね。どこから仕入れたんですか?」
「これはね-、リナリスさんが作ったんですよ。ね」
「えへへ、そうなの、あたしが作ったの。お義母様と部族の皆さんへの手土産にと思ってさ。でも思ったより評判よくて。本格的に醸造会社でも作っちゃおうかなー♪」
リオンは改めて自問自答する。自分は一体どうしたいのかと。
カチャとリナリスを引き離したいのではない。
リナリスについても憎らしいとか嫌いだとか、そういう悪感情は抱けない。
(ただ――時々はおすそ分けしてくれてもいいんじゃないかなあ、とね、思うわけなんですよね……こっちは……)
複雑な彼女の心境に感づいているのかいないのか、リナリスは陽気な声でこう持ちかけた。
「ね、さっきカチャとも話してたんだけど――復旧作業がある程度片付いたらちょっと抜け出して、一緒にペリニョン行かない? 今あそこで戦勝パーティーしてるんだって」
「ペリニョン? 遠くありませんか?」
「それがそーでもないの。マゴイがパーティーの間だけって条件で、転移扉置いてくれてるから。村の外れに。ぴょこにそうして欲しいって頼まれたんだって」
●♪行こう行こうペリニョンへ♪
「ペリニョンでぴょこ様が祝勝会をするそうですよ。一緒に行きませんか、智里さん」
ハンス・ラインフェルト(ka6750)からかけられた誘いを穂積 智里(ka6819)は、二つ返事で受けた。
「ペリニョン……ええ、一緒に行きますシャッツ」
彼と彼女はこの正月、奇怪な夢によって記憶を失った。
それによって引き起こされた感情のもつれから、一時は修復不可能かと思えるほど関係が冷えきってしまっていたのである。
とはいえ今はこの通り、その最悪の状態から脱している。
智里はそれを、ことに嬉しく思う。
以前そのペリニョンへ一緒に行ったことを、彼が覚えてないとしても。今2人で手を繋いで歩けるなら、それで十分だと思えるから。
……本当はまた前のように『マウジー』と呼んでもらいたいけれど。
(でもそれはまだ、高望み、かな……)
「コボちゃん、ペリニョンでΘ達が邪神戦争戦勝記念パーティをするみたいよ? 何か御披露すると食べ放題らしいわ。ユニゾンのコボルド達も来ると思うから、一緒に行きましょう。それとも、先にユニゾンの仲間を迎えに行く?」
マリィア・バルデス(ka5848)の言葉にコボちゃん、大いに張り切る。尻尾を振ってぴょんぴょん跳ぶ。
「ゆく! ぱーてー! たべる!」
滞りなくおめかしし、空き缶三味線を背負い、ぱしぱしマリィアの膝を叩く。
「かた、のせてけ」
「はいはい」
マリィアはコボちゃんにすこぶる甘い。請われるまま早速肩車をしてやる。
小さなコボルドは胸を張り、車掌さんよろしく手を前に突き出し、出発進行の合図。
「ユニゾンへは寄らなくていいの?」
「いい。まごいもなかまも、くる。そのはなし、もうきいてる」
「あら、そうなんだ」
目の下に隈を作った星野 ハナ(ka5852)は風の便りにペリニョンで、戦勝記念パーティが開かれるという話を聞いた。
その瞬間彼女は、魔導ママチャリを駆って走り出す。ドラム缶でオートミール等数千人分の食事を日に2回作る激務を一時放棄して。
「ペリニョンで戦勝会ですぅ? 卵もお肉もお野菜も美味しい村って聞いた記憶がありますぅ。最近料理らしい料理作る機会がなかったんでうれしいですぅ」
人を追い越し馬を追い越し馬車を追い越しトラックを追いこし大爆走。
その途中、同じくチャリに乗ったディーナ・フェルミ(ka5843)と合流。
彼女もまたペリニョン村の催しを聞くや走り出した1人。
「お祭りなの、行かねばなるまいなの、にゅふふ」
「三桁人数ならまだ回せますけどぉ、4桁は本気で辛いんですぅ……ああ、料理サイコー!」
「私は食べ専なの、喉元まで喰らい尽くすの。お祭りに1台聖導士なの。酔っ払いも食べ過ぎもキュアとゴッドブレスで一発なの、喧嘩の怪我もフルリカバリーで完治なの」
会場の駐車場に飛び込めば、魔導バイクに跨ったトリプルJ(ka6653)の姿。
ハナが声をかける。
「あ、Jさんも来てたんですかぁ」
「おー。主に自由都市同盟で仕事してた割にペリニョンに行ってなかったと思ってな。ユニゾンすら行ったのにな。だからまあ、お初だがまぜて貰おうと思ってな」
●問題児たちの一幕
ペリニョン村、戦勝会会場。
盛大な花輪がすえつけられた入り口近くで、五行ヶ原 凛(ka6270)とオンサ・ラ・マーニョ(ka2329)が話している。
「皆で祝いの宴を催せるとは実に喜ばしい」
「だねー、この一年ほど急にあれこれ詰め込んで、色々色々あったもんねー。オンサちゃんは何してたの?」
「我は故郷に戻り、周辺の部族、トッツィー=ギ、シャイターン=マと共に押し寄せる歪虚の軍勢と戦っていたのだ。無論、勝利したぞ。トッツィー族の男は常に女の装いをしておるのだが、この者達の装いの優美にして絢爛豪華な事、百万の花が――」
そこまで言いかけたところでオンサは、友の様子がいつもと違うことに気づいた。
口元がもう、ゆるゆるだ。
「どうしたのだ凜? 馬鹿にうれしそうだが」
凛はくふふふふとくすぐったそうに体をよじり、パンパンと両手を叩き合わせる。
すると近くの茂みから黒蓮院 阿虎(ka6268)が飛び出してきた。
「お呼びですかお嬢様」
凛は彼の手を取りたかだかと掲げる。
「実は……この人と婚約しましたー!」
阿虎は照れつつキリっと顔を引き締め、オンサに一礼。
「初めまして。黒蓮院阿虎と申します。姫様……凛がいつもお世話になっております」
「小さい頃からあたしを世話してる家来でねー。内緒で付き合ってたんだけど、阿虎が勇気を振り絞ってお父様にお願いして婚約許してもらえたんだ♪」
「釜茹でとなってもおかしくないところですが、寛大にもお許し頂けました」
オンサは単純に友の慶事を祝った。
「ほほう、凜は婚約か。実に目出度い」
「えへ、ありがと。あたしが成人するまでは清い交際を、ってお父様に言われたけど、実はもう手を出」
アウトな事実を暴露しそうになる凜の口を、阿虎が秒速で塞ぐ。
脂汗が額から吹き出している。
「ははは……じょ、冗談ですよ。ねえ姫様?」
不服そうに頬を膨らませた凜は阿虎の手を引き、おねだりした。
「そうだ、犬やって♪ やってやってやってー」
やってくれなきゃお父様に全部ばらすぞ、とその顔には書いてある。
「ううう……わ、分かりました……」
阿虎は狩衣の前をはだけ、降参した犬のポーズをとる。
凜は彼の顔から胸、腹までを丹念に踏みつける。
「ねー、こんな情けない恰好晒して小さい子に踏まれるのってどんな気分? 何とか言いなよ♪ ざーこ♪ ざーこ♪」
係わりあいになると果てしなく面倒臭そうなので、通りがかる人は皆見なかったことにして、そそくさ会場入りしていく。
「オンサちゃんは好きな人いないの?」
「我にはそういう事はまだ早いな。寝小便も治っておらぬし……」
「大丈夫、あたしもおねしょ治ってないから♪」
警備員が走ってきた。
「ちょっちょっちょっと! 止めてくださいよ往来でそういうことするのは! お子さんも来るんですから!」
●戦勝会の始まりに、あれこれ
いち早く料理を作り終えた天竜寺 詩(ka0396)は姉の天竜寺 舞(ka0377)と、リザードマンの赤ちゃんを迎えに行った。もぐやんも誘って。
マゴイが連れてくるはずなのだ。コボルドたちと一緒に。
「えーと、この時間に会場入り口に来るっていうことだったよね」
「ああ、マルカがそう言ってた――あ、あれか?」
人だかりが出来ている。何故か一定の距離を置いて。
近づいてみれば、マゴイ、コボルドたち、リザードマンベビー。そしてルベーノとジグ。
「あれ、マゴイ色つきのスカーフつけてる。珍しいね」
マゴイは自分たちの周囲を四角い結界で囲っていた――だから人だかりが、一定の距離以上近づけないでいるのだ。
ルベーノが彼女に言っている。
「μよ、結界を解かんか? 目立ってしょうがないぞ」
『……駄目……幼児期の優良外部者に対し外部者が、突発的に一定の距離を越え急接近するのを容認することは……出来ない……それは彼らに不安を与える行為……』
どうやら幼児を同行させていることによって、警戒心がMAXになっているもよう。
舞と詩ともぐやんは説得に加わる。
「マゴイ、大丈夫だから結界外してよ。これじゃ赤ちゃんたち遊ばせられないよ」
「もぐやんに馬になってもらったら、外部者は急接近出来ないって」
『んだ。おら大きいだでな。あかんぼたちみんな乗せてやれるべよ』
マゴイは赤ん坊たちをもぐやんの頭上に転移させる。
そして、自分たちを包んでいた結界を消す。
舞はジグに近づき、こう申し出た。
「よく来たね。じゃあ早速会場巡りといこうか。案内するよ」
彼らが離れていってから詩は、こそっとマゴイに聞いた。スペットの顔を復元する方法――脳移植――がアスカたちにも使えないものかと。延命措置として。
「――別の体を用意して。脳自体もマテリアル汚染されてるだろうから一時しのぎにしかならないだろうけど時間は稼げるかも」
マゴイは物憂げに、ゆっくり首を振った。
『……マテリアル汚染された細胞を採取しても……正常な身体を復元出来ない……不正常な身体に脳移植しても……負担の方が大きい……』
期待していたわけではない。ダメもとでも、という気持ちだった。
しかしそれでも『駄目だ』とはっきり明言されると落ち込む。アスカとジグの命を人並みに長らえさせることは出来ないのだと、思い知らされる心地がして。
「……ねえマゴイ、アスカも、この会場によこしてくれないかな。どうしても聞かせたいものがあるんだ」
『……ユニゾンにソルジャーが1人もいない状況を作ることは……法的に出来ない……』
ルベーノが、口を挟んだ。
「それは転移扉を使えば簡単に解決出来る問題だと思うぞ、μ」
ビュッフェ会場。
ディーナは並べられているものに次から次に手を伸ばしながら、Jと話している。
「ここは良い村だよな。避難民がゴロゴロいてこの先どーすんだって思う場所ばっかりじゃなくて、ちゃんと救われた場所があったんだって思えてな。こりゃ俺の甘えなんだろうが……生きて、生き延びられて良かったってここでなら素直に思えるからな」
「……うん……大変なところは多いの……でも「この先」という選択肢があることは大きいの……勝って兜の緒を締めて……頑張るしかないの……」
飲み食いしながら喋るので、彼女の言葉は途切れがちだ。
しかしてその論理は単純、かつ力強い。
アンニュイに傾きかけたJの心を、たちまち逆方向に引き戻す。
「――そうだな――うん、そうだ。さしあたっては優先すべきは、各地に蔓延る負マテの除去か。汚染されたままじゃ、何も作れないからな」
「それは……、白巫女とか…………呼んだ方が…………あれ、どこまで話したっけ?」
会場に設置されたスピーカーからアナウンスが響く。
【ご来場の皆様、ただ今より、かくし芸大会を行います――場所はビュッフェブースの前――】
「あ、俺出る予定なんだ。じゃあな」
Jが去る。
入れ替わるように、カチャ、リナリスがやってきた。
「あー、ディーナがいる♪ お隣いーい?」
「どうぞなの。タホ郷は無事だったの?」
「少し被害が出たけど、無事だったよ。村持ちのアーマーが、かなりガタガタにされちゃったけど」
「そー言えば……CAMの修理って……ユニゾンでもできそうかな…………できるなら、タホ郷のローン……減るかもって」
「そのローン、郷にじゃなく私についてるんですよね、何故か……」
「いつものことだよね♪ ねえ、ディーナはこれからどうするの? あたしはこのままハンターを続ける。今のところ一番稼げる手段だし。で、お金にも働いてもらうんだー♪」
「……お金が働く?……どういうことなの?」
「投資の勉強はじめたの♪ 危機が去って経済活動が活発になるだろうから、きっと今が狙い目。カチャと、何時までも楽しく幸せに暮らしていく為にはお金が沢山あった方がいいし――」
感極まったようにリナリスは、カチャに抱きつきキスをした。
「カチャはこれからどうしたい?」
「えーっと、私は……やっぱりハンターを続けます。未開地の開拓とかで、需要はたくさんありそうですし。何よりまずローンを完済したいですね、ローンを」
マリィアは手際よく調理を進める。
「じゃが芋とアンチョビのグラタンとか肉団子とかこういう時喜ばれそうだもの。野菜は……ビネガーが入る分カポナータの方が良いかしら――」
少し離れた調理台では智里とハンスがカリーヴルストを作っている。
「久しぶりにケバブも食べたかったですが、やっぱり1番はカリーヴルストですね。そしてここじゃ食べたい物は作らないと食べられませんから」
「シャッツはカリーヴルスト大好きですよね……ふふ。お手伝いしますね」
大皿に盛られた焼きたてのヴルストと揚げたてのポメス。
そこへハンスがカレー粉とケチャップをかけていく。どばどばと。
「カリーヴルストはヴルストとポメスが両方揃ってないと食べた気がしませんからね」
かけすぎなんじゃない? とマリィアは思ったが、他人の味付けに口を差し挟むことはしなかった
コボちゃんが調理台の端に鼻を乗せ、彼女が作ったカポナータを嗅いでいる。
「こぼ、にくがいい」
「野菜も食べなきゃ駄目よ。トマトは医者いらずっていうもの、どうせなら食べて元気になる方が良いじゃない、ふふ」
そこにコボルドワーカーズが流れ込んできた。
「こぼー」「こぼー!」「うおー!」
予期せず周囲をモフモフで埋め尽くされたマリィアは、幸福感に包まれる。
●聞いてください見てください
肉・卵・餃子・ミニハンバーグの燻製。
自作のつまみを傍らにハナは、冷えたビールをぐっと飲む。
ローストビーフ風の味付けをした肉の煮込み。抹茶・チョコ・レーズン・ナッツのクッキーおよびスコーン。
出せる力を全て出し、以上の料理を提供し終わった。
もうここからは誰はばかることなく、客として楽しむターン。
「燻煙香でお酒がすすみますぅ」
今しがた来たリオンもビールを飲んで、相槌。
「ですね」
「リオンさん、カチャさんたちと一緒じゃなくていいんですかぁ?」
「今は1人でいたいんです。色々策を練……もとい考えたいことがあるので」
かくし芸大会の幕が上がった。
ドレスにブーツ姿のマルカが出てきた。
「♪わたしの~祠のまーえでー♪」
しんみりした歌を歌う……だけかと思いきや、正面を向いた状態で前後左右に同じ体勢と速度で動き始めた。思い切り駆け足しているのに、全然その場から動かない。
――よく見れば彼女の足元でパルムも、同じ動きをしている。
かなり高度な身体パフォーマンスにざわめく観客席。
舞台袖に、ハンスと智里。
「食べたい物は食べたいから作っただけで、ここの参加は一芸だそうですよ、智里さん。私は勿論三味線ロックの予定ですが……今日は智里さんは何を披露してくれるんでしょうね?」
「……ま、またですか、シャッツ!?」
マルカの後にはJが出てきて、鮮やかなジャグリングを披露。
ボールからクラブヘそれからデビルスティックへ。切れ目のない動きで得物を持ち替え、宙に遊ばせる。
最後に口に酒を含んで火を吹き、観客を――主に家族連れを、子供たちを、大いに沸かせる。
ぴょこも大盛り上がり。マルカから貰ったおばけクルミを齧っているスペットの背をばんばん叩く。
『うほお、火を吹くのかっこいいのう! あれわしもやろうかのう、のう!』
「やめときやθ。お前の体可燃性なんやから」
そこに大きな影がさす。
もぐやんだ。
人間の邪魔にならぬよう彼は、客席の最後尾に腰掛けた。その頭にはリザードマンの赤ちゃんたちがちょこんと座っている。
ぴょこは目ざとくそれを見つけ、土で出来た体をたたっと駆け上がった。
『おー、これがリザードマンの赤ん坊かの。皆はげておるがいい子じゃいい子じゃ』
赤ん坊たちは見慣れぬ着ぐるみから頭をなでられ、目をぱちぱちさせる。
Jの後舞台に上がり三味線ロックを披露したハンスは袖に戻り、ニコニコと智里を眺めた。
「……シャッツのいじわる」
智里は上目使いに(向こうの身長が高いので、どうしてもそうなるのだ)相手を睨む。
(シャッツは私の困った顔を見るのが好きみたい。この前も始まってから一芸披露の話があって)
胸中もやもやしながら舞台に出る。
その途端、客席の片隅から熱烈な拍手が沸き起こった。
見れば一人の中年男。
智里はすぐ気づいた。それが2年前この村の見合いイベントに参加したとき絡んできた相手だということに。
どうやらあの後もまだ独身であったらしい。
横目でハンスのほうを窺えば、険悪な表情で中年男を見ていた。
もしかしてあの時も彼はこんな顔をしていたのだろうか……と思いつつ歌い始める。なんだか少し、うれしくなりながら。
ユニゾン島にいるアスカは、転移扉の手前に立っていた。
開いた扉の向こう側にあるのはペリニョン村。かくし芸大会の観覧席。
彼女は自分の傍らにいるマゴイに聞く。
「これで、法を犯したことにはならなくなるわけ?」
『……もちろん……あなたはユニゾンを離れていないのだから……全く問題ない……』
「……ま、理屈的にはそうだろうけど」
その姿をルンルンが見つける。焼きもろこし片手に走り寄る。
「あっ、マゴイさん! 丁度いいところでお会いしました! あの、リザードマン集落の塔のほうは、変わりなかったですか?」
『……大丈夫……傾きが3度ほど増したけど……問題はなかったわ……』
そこにジグもやってくる。
「ワーカーの出番は次だってよ」
智里の後ステージに上がった舞と詩は、客席の後方に視線を向けた。
そこには開かれた転移扉。
向こう側にアスカがいる。
「なかなかうまいこと考えたな」
「確かに扉を越えなければ、ユニゾンにいることになるもんね」
びん、と三味線を弾き、観客席に一礼。
「それじゃあ聞いてください。天龍寺姉妹とコボルドズによる、」「『ソルジャーさん、ありがとう!』」
舞台の袖からわらわらとコボルドたちが出てきて、きちんと横列を作る。
真ん中にはコボちゃん。舞らと一緒に空き缶三味線をかき鳴らし歌い始める。
「あーりわとー、あーりわとーそーうじゃー」
それを追いかけるようにコボルドたちも歌いだす。
「「ありがとーありがとー そーうじゃー、あーりがとー」
「しーまをまもってくれて、あーりわとー」
「「しーまをまもってくれてーありがとー♪」 」
一般客はなんだかよく分からない歌詞だなと思いつつ、拍手した。
当事者であるジグとアスカだけが、歌に込められた心を本当に受け止めることが出来た。だけに――平静ではいられなくなった。
ジグは涙ぐみ髪をかき回す。
それからアスカの方を見ようとしたが、その途端扉が閉まった。
アナウンスが響く。
【ご来場の皆様、かくし芸大会の後には『叫べ! 未来への夢!』企画が予定されております。飛び入りも可能ですので、奮ってご参加――】
『……ソルジャー……アスカ……どうしたの?……』
扉を閉めうずくまったアスカは顔を覆い、震える声でマゴイに言う。
「……ねえ、マゴイ。前に言ったわよね、負のマテリアルに侵されていても、生殖細胞の段階での治療なら比較的容易だって」
『……ええ……』
「……だったら、私の遺伝情報登録させてくれない? 私の一部が私がしたかったように、ずっとここで長く生きて、年とってくれるなら、諦めがつきやすいと思うのよ。死んで行くことに……駄目ね、ジグのこと全然笑えない……こんな土壇場に来て、もっと生きたいって思うなんて……!」
●戦勝会、終了
「許しません。帰ったらたっぷりとお仕置きです。悪い子がどんな目に遭うか、よーく教えて差し上げます姫様」
「うん……いっぱい分からせてね阿虎」
「熱いのお、2人とも」
最後まで残っていた客――オンサたちが帰っていく。
後は片付け。
マルカはゴミを拾いつつ、ペリニョンから助っ人に来てくれたフィロに言う。
「すいません、郷も大変なのにわざわざここのお掃除まで、お手伝いいただきまして」
「いいえ、向こうは大体片付きましたから。よいパーティーでしたか?」
「はい。それはもう」
暗い空には一番星が輝いている。遠い未来を示すように。
「いいパーティーでした」
椰子の木陰でリザードマンの赤ちゃんたちは、マルカ・アニチキン(ka2542)をじいと見ていた。
「ほーら、世紀の英雄、ジルボさんですよー。みんな覚えてるかなー?」
この相手は来るたびいつも、この四角いものを見せてくる。
なぜだろう、と思いながら彼女の顔を見続ける。
「私の顔じゃなくて、ジルボさんの顔を見ないと駄目ですよ。このポートレイトはまさにかみっ……」
台詞が途切れマルカが倒れた。
その物音を聞きつけ、大人のリザードマンたちがやってくる。
「イカン、『飛ブ者』太陽ニヤラレテ頭煮エテル」
「昼日中ニ高イトコロ飛ビ回ッテイタカラナ……トリアエズ水カケロ、水」
水をかけられ蘇ったマルカは彼らへ礼を言うと共に、天竜寺 舞(ka0377)から頼まれていた伝言を伝える。
「ここより遠く離れた地で、『白イ精霊』の知り合いである精霊様たちが集いを開かれます」
「ホウ」
「その精霊様たちはこのお子様たちの話を伝え聞き、是非直に祝福をしたいと申されております」
「オオ、ソレハ名誉ナコト」
「どうでしょう、私たちがしっかり護衛をしますので、お子様たちをその宴に連れて行くわけにはいかないでしょうか――」
●懲りない面々の安否確認
バシリア刑務所についてみれば、補強物撤去作業の真っ最中であった。被害の跡らしきものは、全くない。
「おー、ルンルンやんけ。来たんか」
ああ、その声は又吉。
いつも通りのアメショー顔。ヒゲは一本も欠けてない。
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)はじいんと感慨にふける。
「みんな無事そうで良かった……これも壁とか強化したたまもの……」
「いや、ちゃうで。何か出たには出たんやけど、こっちを攻撃する前に勝手に消えたんや」
「え? そ、そうなんですか……運いいのです」
壁の強度を証明してから消えてほしかったと、ついいけないことを思ってしまうルンルン。
「おおそや、あんな、俺の顔が戻る目処たったんやで。マゴイが、移植用の頭が出来た言うてきてん」
又吉が……猫でなくなる。
そのことに彼女はショックを受け、一抹の悲しみを覚える。
だけどこれは、本人にとってはよいことなのだと思い直し、ニコッと笑って祝福する。
「わぁ、おめでとう!! ところで又吉は、ペリニョンのパーティーに来るんですか?」
「おー。一応な。会場設営の奉仕活動に参加ちゅうことで」
●タホ郷復旧お手伝い参上
タホ郷は、復旧作業におおわらわ。居残り組は言うに呼ばず、避難先から帰ってきた人々も忙しく働いている。よっぽどの年寄りと小さな子供以外は、皆。
その様を自分の目で確認したフィロ(ka6966)は、カチャに言った。
「これは……皆様が無事で本当に良かったです」
「ありがとうございます……ええ、本当に――良かったです。遠いところ、よくいらしてくださいました」
「カチャ様について何度もこちらを訪問させていただきましたから、少しでもその手助けになればと思いまして」
という前置きをしてからフィロは、タホ郷復旧についての協力を申し出た。
「少しでも修繕費が安くなる方がよろしいかと。タホ郷は冬は雪深かったですから、秋までに早く家の立て直しも必要だと思いますから」
「助かります! あの、でもそういうことなら、フィロさんに特別是非お願いしたいことがあるんですけど――」
ケチャはフィロを連れ戻ってきたカチャに、お手上げのポーズをした。焦げ付き破損したアーマーを前に。
「駄目、やっぱり素人じゃ手に負えない。あなた、直せそう?」
問われたフィロは、はい、と礼をする。
「少々お時間いただけますか?」
工作用具を手に取り、エンジン部分のカバーを開き、簡易修繕を始める。人に対してするように、アーマーへ話しかけながら。
「あらまあ、こんなところが二箇所も切れて……随分頑張られましたね……」
あちこちを繋いだり塞いだり付け直したりされたアーマーは、盛大な軋み音を出しながらも、どうにかこうにかまた立った。
ケチャが感嘆の声を上げる。
「すごいわね――こんな短い時間で直せるなんて」
「いいえ、直したと言うほどのものではございません。物を持ったり歩いたりするくらいしか、機能は回復は出来ていませんので……」
「何言ってるの、それで十分よ。天才ね、あなた」
そこへ、小さな子供たちがやってきた。親兄弟が皆忙しそうにしているので相手してもらえず、つまらないらしい。フィロに付きまとってくる。
「ねー、あそんでー」
「あそんでー」
フィロは背をかがめ彼らと目線をあわせ、微笑みかけた。
「ええ、いいですよ。何をいたしましょうか?」
郷に来たエルバッハ・リオン(ka2434)は、屋根板を打ち付けているカチャを見つけ、手を振る。
「カチャさーん!」
「あ、エルさん! どうされたんですかー」
『この間聞いた結婚生活の不満点について話をしに来ました』とはさすがに言えなかった。リナリス・リーカノア(ka5126)が、カチャのすぐ隣にいたから。
だからこの場は無難な回答に留めておく。
「ちょっと復旧のお手伝いに来まして!」
●ユニゾンのひととき
青い空青い海。白い砂浜白い花。
休み時間桟橋に並んで、カリカリを食べるコボルドワーカーたち。
ベンチに座ってそれを見守るマゴイと、それから――もう1人。
「――ワーカーとお前が宴に参加するのはいいとして、リザードマンの赤子たちも連れて行くのか?」
『……ええ……ハンターからの誘いを受けて……彼らがそう頼んできたので……』
「ソルジャーはどうする? 2人ともユニゾンから連れて行くわけにはいくまいが」
『……もちろん……それは出来ない……でも護衛として……1人は同行してもらおうと思う……』
という話の後ルベーノ・バルバライン(ka6752)は、マゴイに前回約束していた通り『αにもう一度会う方法』を教える。
「そうあれかし……その想いが足りてさえいれば英霊を作るのは難しくない。帝国はそうやって過去の偉人を複数名英霊として呼び戻した。認知する人数と期間、それでαを呼び覚ます目処は立つ」
マゴイは哀しげな顔をして言った。
『……αは長い長い間……超過勤務に次ぐ超過勤務をしてくれた……だからもうずっと休んでくれていい……そういうやり方で呼び戻しては……また仕事をさせることになってしまう……それはいけない……』
その答えにルベーノは深く感じ入った。
ああ、彼女は真実αを愛していたのだなあと。
「…………そう、か……確かにそうかも知れないな」
2人、寄せて返す波の音をしばらく聞く。
その後会話を再開させる。
『……ワーカーたちに贈り物をしてくれて……ありがとう……今回は2つも……』
「なに、礼などいらぬ。カリカリ大袋など安いものだ。前回はバタバタしていて、渡し損ねたからな――そうだ、μ、お前にも贈るものがある」
ルベーノは、鮮やかな青と白のグラデーションが施された大判のスカーフを取り出す。
「一時とはいえステーツマンの代行もするのだ、皆にそうと分かる方が良かろうよ」
渡されたスカーフをマゴイは、ふわりと身にまとった。
『……青は……きれいな色……ね…………ああ、そうだわ……ルベーノ……あなたに言っておきたい事があったわ……』
「何だ」
『……来年の春から……ウテルスの実質稼動を始めるの……あなたの遺伝情報を基にしたソルジャーが……出生することになるわ……』
●未来予想図
「喉渇いたねー。あたし飲み物とって来る」
と言ってリナリスは家屋の屋根から下りていった。
残っているのはカチャだけ。
この機を逃してはならないと、リオンが話しかける。真摯な顔付きで。
「この間カチャさん、「リナリスさんから戦闘力についての信用を得たい」と言っていましたよね」
「あ、はい、ええ……頼りないと思われてる感じするんですよねえ。いえ私の考え過ぎかもしれないんですけど」
「思ったのですが、カチャさん自身が確固たる自信を持たれれば、リナリスさんが感じる印象も変わってくるのではないかと思います」
「まあ、そうかも」
「とはいえ、その自信も虚勢では意味がありませんから、何か成し遂げた結果として備える必要があると思います。そこで提案なのですが、私の故郷の戦闘訓練を受けられてみてはどうでしょうか?」
「え? そ、そんなこと出来るんですか? その訓練はエルさんの部族に独自継承されているものでしょう?」
「ええ。でも、時々は外部志願者も受け入れてるんです。これまで完遂出来た人いませんけど」
カチャは少し考え、答える。
「行ってみてもいいです。リナリスさんに相談して、うんと言ってくれたらですけど」
リオンの口元に一瞬、「にやり」と表現したいような笑みが浮かぶ。
そこでリナリスが戻ってくる。皮袋と杯を持って。
「はいどーぞ」
リオンはカチャと一緒に杯を受け取る。
杯の中には透き通るような黄金色の蜂蜜酒。
口に含めば甘露のごとき舌触り。
「いいお酒ですね。どこから仕入れたんですか?」
「これはね-、リナリスさんが作ったんですよ。ね」
「えへへ、そうなの、あたしが作ったの。お義母様と部族の皆さんへの手土産にと思ってさ。でも思ったより評判よくて。本格的に醸造会社でも作っちゃおうかなー♪」
リオンは改めて自問自答する。自分は一体どうしたいのかと。
カチャとリナリスを引き離したいのではない。
リナリスについても憎らしいとか嫌いだとか、そういう悪感情は抱けない。
(ただ――時々はおすそ分けしてくれてもいいんじゃないかなあ、とね、思うわけなんですよね……こっちは……)
複雑な彼女の心境に感づいているのかいないのか、リナリスは陽気な声でこう持ちかけた。
「ね、さっきカチャとも話してたんだけど――復旧作業がある程度片付いたらちょっと抜け出して、一緒にペリニョン行かない? 今あそこで戦勝パーティーしてるんだって」
「ペリニョン? 遠くありませんか?」
「それがそーでもないの。マゴイがパーティーの間だけって条件で、転移扉置いてくれてるから。村の外れに。ぴょこにそうして欲しいって頼まれたんだって」
●♪行こう行こうペリニョンへ♪
「ペリニョンでぴょこ様が祝勝会をするそうですよ。一緒に行きませんか、智里さん」
ハンス・ラインフェルト(ka6750)からかけられた誘いを穂積 智里(ka6819)は、二つ返事で受けた。
「ペリニョン……ええ、一緒に行きますシャッツ」
彼と彼女はこの正月、奇怪な夢によって記憶を失った。
それによって引き起こされた感情のもつれから、一時は修復不可能かと思えるほど関係が冷えきってしまっていたのである。
とはいえ今はこの通り、その最悪の状態から脱している。
智里はそれを、ことに嬉しく思う。
以前そのペリニョンへ一緒に行ったことを、彼が覚えてないとしても。今2人で手を繋いで歩けるなら、それで十分だと思えるから。
……本当はまた前のように『マウジー』と呼んでもらいたいけれど。
(でもそれはまだ、高望み、かな……)
「コボちゃん、ペリニョンでΘ達が邪神戦争戦勝記念パーティをするみたいよ? 何か御披露すると食べ放題らしいわ。ユニゾンのコボルド達も来ると思うから、一緒に行きましょう。それとも、先にユニゾンの仲間を迎えに行く?」
マリィア・バルデス(ka5848)の言葉にコボちゃん、大いに張り切る。尻尾を振ってぴょんぴょん跳ぶ。
「ゆく! ぱーてー! たべる!」
滞りなくおめかしし、空き缶三味線を背負い、ぱしぱしマリィアの膝を叩く。
「かた、のせてけ」
「はいはい」
マリィアはコボちゃんにすこぶる甘い。請われるまま早速肩車をしてやる。
小さなコボルドは胸を張り、車掌さんよろしく手を前に突き出し、出発進行の合図。
「ユニゾンへは寄らなくていいの?」
「いい。まごいもなかまも、くる。そのはなし、もうきいてる」
「あら、そうなんだ」
目の下に隈を作った星野 ハナ(ka5852)は風の便りにペリニョンで、戦勝記念パーティが開かれるという話を聞いた。
その瞬間彼女は、魔導ママチャリを駆って走り出す。ドラム缶でオートミール等数千人分の食事を日に2回作る激務を一時放棄して。
「ペリニョンで戦勝会ですぅ? 卵もお肉もお野菜も美味しい村って聞いた記憶がありますぅ。最近料理らしい料理作る機会がなかったんでうれしいですぅ」
人を追い越し馬を追い越し馬車を追い越しトラックを追いこし大爆走。
その途中、同じくチャリに乗ったディーナ・フェルミ(ka5843)と合流。
彼女もまたペリニョン村の催しを聞くや走り出した1人。
「お祭りなの、行かねばなるまいなの、にゅふふ」
「三桁人数ならまだ回せますけどぉ、4桁は本気で辛いんですぅ……ああ、料理サイコー!」
「私は食べ専なの、喉元まで喰らい尽くすの。お祭りに1台聖導士なの。酔っ払いも食べ過ぎもキュアとゴッドブレスで一発なの、喧嘩の怪我もフルリカバリーで完治なの」
会場の駐車場に飛び込めば、魔導バイクに跨ったトリプルJ(ka6653)の姿。
ハナが声をかける。
「あ、Jさんも来てたんですかぁ」
「おー。主に自由都市同盟で仕事してた割にペリニョンに行ってなかったと思ってな。ユニゾンすら行ったのにな。だからまあ、お初だがまぜて貰おうと思ってな」
●問題児たちの一幕
ペリニョン村、戦勝会会場。
盛大な花輪がすえつけられた入り口近くで、五行ヶ原 凛(ka6270)とオンサ・ラ・マーニョ(ka2329)が話している。
「皆で祝いの宴を催せるとは実に喜ばしい」
「だねー、この一年ほど急にあれこれ詰め込んで、色々色々あったもんねー。オンサちゃんは何してたの?」
「我は故郷に戻り、周辺の部族、トッツィー=ギ、シャイターン=マと共に押し寄せる歪虚の軍勢と戦っていたのだ。無論、勝利したぞ。トッツィー族の男は常に女の装いをしておるのだが、この者達の装いの優美にして絢爛豪華な事、百万の花が――」
そこまで言いかけたところでオンサは、友の様子がいつもと違うことに気づいた。
口元がもう、ゆるゆるだ。
「どうしたのだ凜? 馬鹿にうれしそうだが」
凛はくふふふふとくすぐったそうに体をよじり、パンパンと両手を叩き合わせる。
すると近くの茂みから黒蓮院 阿虎(ka6268)が飛び出してきた。
「お呼びですかお嬢様」
凛は彼の手を取りたかだかと掲げる。
「実は……この人と婚約しましたー!」
阿虎は照れつつキリっと顔を引き締め、オンサに一礼。
「初めまして。黒蓮院阿虎と申します。姫様……凛がいつもお世話になっております」
「小さい頃からあたしを世話してる家来でねー。内緒で付き合ってたんだけど、阿虎が勇気を振り絞ってお父様にお願いして婚約許してもらえたんだ♪」
「釜茹でとなってもおかしくないところですが、寛大にもお許し頂けました」
オンサは単純に友の慶事を祝った。
「ほほう、凜は婚約か。実に目出度い」
「えへ、ありがと。あたしが成人するまでは清い交際を、ってお父様に言われたけど、実はもう手を出」
アウトな事実を暴露しそうになる凜の口を、阿虎が秒速で塞ぐ。
脂汗が額から吹き出している。
「ははは……じょ、冗談ですよ。ねえ姫様?」
不服そうに頬を膨らませた凜は阿虎の手を引き、おねだりした。
「そうだ、犬やって♪ やってやってやってー」
やってくれなきゃお父様に全部ばらすぞ、とその顔には書いてある。
「ううう……わ、分かりました……」
阿虎は狩衣の前をはだけ、降参した犬のポーズをとる。
凜は彼の顔から胸、腹までを丹念に踏みつける。
「ねー、こんな情けない恰好晒して小さい子に踏まれるのってどんな気分? 何とか言いなよ♪ ざーこ♪ ざーこ♪」
係わりあいになると果てしなく面倒臭そうなので、通りがかる人は皆見なかったことにして、そそくさ会場入りしていく。
「オンサちゃんは好きな人いないの?」
「我にはそういう事はまだ早いな。寝小便も治っておらぬし……」
「大丈夫、あたしもおねしょ治ってないから♪」
警備員が走ってきた。
「ちょっちょっちょっと! 止めてくださいよ往来でそういうことするのは! お子さんも来るんですから!」
●戦勝会の始まりに、あれこれ
いち早く料理を作り終えた天竜寺 詩(ka0396)は姉の天竜寺 舞(ka0377)と、リザードマンの赤ちゃんを迎えに行った。もぐやんも誘って。
マゴイが連れてくるはずなのだ。コボルドたちと一緒に。
「えーと、この時間に会場入り口に来るっていうことだったよね」
「ああ、マルカがそう言ってた――あ、あれか?」
人だかりが出来ている。何故か一定の距離を置いて。
近づいてみれば、マゴイ、コボルドたち、リザードマンベビー。そしてルベーノとジグ。
「あれ、マゴイ色つきのスカーフつけてる。珍しいね」
マゴイは自分たちの周囲を四角い結界で囲っていた――だから人だかりが、一定の距離以上近づけないでいるのだ。
ルベーノが彼女に言っている。
「μよ、結界を解かんか? 目立ってしょうがないぞ」
『……駄目……幼児期の優良外部者に対し外部者が、突発的に一定の距離を越え急接近するのを容認することは……出来ない……それは彼らに不安を与える行為……』
どうやら幼児を同行させていることによって、警戒心がMAXになっているもよう。
舞と詩ともぐやんは説得に加わる。
「マゴイ、大丈夫だから結界外してよ。これじゃ赤ちゃんたち遊ばせられないよ」
「もぐやんに馬になってもらったら、外部者は急接近出来ないって」
『んだ。おら大きいだでな。あかんぼたちみんな乗せてやれるべよ』
マゴイは赤ん坊たちをもぐやんの頭上に転移させる。
そして、自分たちを包んでいた結界を消す。
舞はジグに近づき、こう申し出た。
「よく来たね。じゃあ早速会場巡りといこうか。案内するよ」
彼らが離れていってから詩は、こそっとマゴイに聞いた。スペットの顔を復元する方法――脳移植――がアスカたちにも使えないものかと。延命措置として。
「――別の体を用意して。脳自体もマテリアル汚染されてるだろうから一時しのぎにしかならないだろうけど時間は稼げるかも」
マゴイは物憂げに、ゆっくり首を振った。
『……マテリアル汚染された細胞を採取しても……正常な身体を復元出来ない……不正常な身体に脳移植しても……負担の方が大きい……』
期待していたわけではない。ダメもとでも、という気持ちだった。
しかしそれでも『駄目だ』とはっきり明言されると落ち込む。アスカとジグの命を人並みに長らえさせることは出来ないのだと、思い知らされる心地がして。
「……ねえマゴイ、アスカも、この会場によこしてくれないかな。どうしても聞かせたいものがあるんだ」
『……ユニゾンにソルジャーが1人もいない状況を作ることは……法的に出来ない……』
ルベーノが、口を挟んだ。
「それは転移扉を使えば簡単に解決出来る問題だと思うぞ、μ」
ビュッフェ会場。
ディーナは並べられているものに次から次に手を伸ばしながら、Jと話している。
「ここは良い村だよな。避難民がゴロゴロいてこの先どーすんだって思う場所ばっかりじゃなくて、ちゃんと救われた場所があったんだって思えてな。こりゃ俺の甘えなんだろうが……生きて、生き延びられて良かったってここでなら素直に思えるからな」
「……うん……大変なところは多いの……でも「この先」という選択肢があることは大きいの……勝って兜の緒を締めて……頑張るしかないの……」
飲み食いしながら喋るので、彼女の言葉は途切れがちだ。
しかしてその論理は単純、かつ力強い。
アンニュイに傾きかけたJの心を、たちまち逆方向に引き戻す。
「――そうだな――うん、そうだ。さしあたっては優先すべきは、各地に蔓延る負マテの除去か。汚染されたままじゃ、何も作れないからな」
「それは……、白巫女とか…………呼んだ方が…………あれ、どこまで話したっけ?」
会場に設置されたスピーカーからアナウンスが響く。
【ご来場の皆様、ただ今より、かくし芸大会を行います――場所はビュッフェブースの前――】
「あ、俺出る予定なんだ。じゃあな」
Jが去る。
入れ替わるように、カチャ、リナリスがやってきた。
「あー、ディーナがいる♪ お隣いーい?」
「どうぞなの。タホ郷は無事だったの?」
「少し被害が出たけど、無事だったよ。村持ちのアーマーが、かなりガタガタにされちゃったけど」
「そー言えば……CAMの修理って……ユニゾンでもできそうかな…………できるなら、タホ郷のローン……減るかもって」
「そのローン、郷にじゃなく私についてるんですよね、何故か……」
「いつものことだよね♪ ねえ、ディーナはこれからどうするの? あたしはこのままハンターを続ける。今のところ一番稼げる手段だし。で、お金にも働いてもらうんだー♪」
「……お金が働く?……どういうことなの?」
「投資の勉強はじめたの♪ 危機が去って経済活動が活発になるだろうから、きっと今が狙い目。カチャと、何時までも楽しく幸せに暮らしていく為にはお金が沢山あった方がいいし――」
感極まったようにリナリスは、カチャに抱きつきキスをした。
「カチャはこれからどうしたい?」
「えーっと、私は……やっぱりハンターを続けます。未開地の開拓とかで、需要はたくさんありそうですし。何よりまずローンを完済したいですね、ローンを」
マリィアは手際よく調理を進める。
「じゃが芋とアンチョビのグラタンとか肉団子とかこういう時喜ばれそうだもの。野菜は……ビネガーが入る分カポナータの方が良いかしら――」
少し離れた調理台では智里とハンスがカリーヴルストを作っている。
「久しぶりにケバブも食べたかったですが、やっぱり1番はカリーヴルストですね。そしてここじゃ食べたい物は作らないと食べられませんから」
「シャッツはカリーヴルスト大好きですよね……ふふ。お手伝いしますね」
大皿に盛られた焼きたてのヴルストと揚げたてのポメス。
そこへハンスがカレー粉とケチャップをかけていく。どばどばと。
「カリーヴルストはヴルストとポメスが両方揃ってないと食べた気がしませんからね」
かけすぎなんじゃない? とマリィアは思ったが、他人の味付けに口を差し挟むことはしなかった
コボちゃんが調理台の端に鼻を乗せ、彼女が作ったカポナータを嗅いでいる。
「こぼ、にくがいい」
「野菜も食べなきゃ駄目よ。トマトは医者いらずっていうもの、どうせなら食べて元気になる方が良いじゃない、ふふ」
そこにコボルドワーカーズが流れ込んできた。
「こぼー」「こぼー!」「うおー!」
予期せず周囲をモフモフで埋め尽くされたマリィアは、幸福感に包まれる。
●聞いてください見てください
肉・卵・餃子・ミニハンバーグの燻製。
自作のつまみを傍らにハナは、冷えたビールをぐっと飲む。
ローストビーフ風の味付けをした肉の煮込み。抹茶・チョコ・レーズン・ナッツのクッキーおよびスコーン。
出せる力を全て出し、以上の料理を提供し終わった。
もうここからは誰はばかることなく、客として楽しむターン。
「燻煙香でお酒がすすみますぅ」
今しがた来たリオンもビールを飲んで、相槌。
「ですね」
「リオンさん、カチャさんたちと一緒じゃなくていいんですかぁ?」
「今は1人でいたいんです。色々策を練……もとい考えたいことがあるので」
かくし芸大会の幕が上がった。
ドレスにブーツ姿のマルカが出てきた。
「♪わたしの~祠のまーえでー♪」
しんみりした歌を歌う……だけかと思いきや、正面を向いた状態で前後左右に同じ体勢と速度で動き始めた。思い切り駆け足しているのに、全然その場から動かない。
――よく見れば彼女の足元でパルムも、同じ動きをしている。
かなり高度な身体パフォーマンスにざわめく観客席。
舞台袖に、ハンスと智里。
「食べたい物は食べたいから作っただけで、ここの参加は一芸だそうですよ、智里さん。私は勿論三味線ロックの予定ですが……今日は智里さんは何を披露してくれるんでしょうね?」
「……ま、またですか、シャッツ!?」
マルカの後にはJが出てきて、鮮やかなジャグリングを披露。
ボールからクラブヘそれからデビルスティックへ。切れ目のない動きで得物を持ち替え、宙に遊ばせる。
最後に口に酒を含んで火を吹き、観客を――主に家族連れを、子供たちを、大いに沸かせる。
ぴょこも大盛り上がり。マルカから貰ったおばけクルミを齧っているスペットの背をばんばん叩く。
『うほお、火を吹くのかっこいいのう! あれわしもやろうかのう、のう!』
「やめときやθ。お前の体可燃性なんやから」
そこに大きな影がさす。
もぐやんだ。
人間の邪魔にならぬよう彼は、客席の最後尾に腰掛けた。その頭にはリザードマンの赤ちゃんたちがちょこんと座っている。
ぴょこは目ざとくそれを見つけ、土で出来た体をたたっと駆け上がった。
『おー、これがリザードマンの赤ん坊かの。皆はげておるがいい子じゃいい子じゃ』
赤ん坊たちは見慣れぬ着ぐるみから頭をなでられ、目をぱちぱちさせる。
Jの後舞台に上がり三味線ロックを披露したハンスは袖に戻り、ニコニコと智里を眺めた。
「……シャッツのいじわる」
智里は上目使いに(向こうの身長が高いので、どうしてもそうなるのだ)相手を睨む。
(シャッツは私の困った顔を見るのが好きみたい。この前も始まってから一芸披露の話があって)
胸中もやもやしながら舞台に出る。
その途端、客席の片隅から熱烈な拍手が沸き起こった。
見れば一人の中年男。
智里はすぐ気づいた。それが2年前この村の見合いイベントに参加したとき絡んできた相手だということに。
どうやらあの後もまだ独身であったらしい。
横目でハンスのほうを窺えば、険悪な表情で中年男を見ていた。
もしかしてあの時も彼はこんな顔をしていたのだろうか……と思いつつ歌い始める。なんだか少し、うれしくなりながら。
ユニゾン島にいるアスカは、転移扉の手前に立っていた。
開いた扉の向こう側にあるのはペリニョン村。かくし芸大会の観覧席。
彼女は自分の傍らにいるマゴイに聞く。
「これで、法を犯したことにはならなくなるわけ?」
『……もちろん……あなたはユニゾンを離れていないのだから……全く問題ない……』
「……ま、理屈的にはそうだろうけど」
その姿をルンルンが見つける。焼きもろこし片手に走り寄る。
「あっ、マゴイさん! 丁度いいところでお会いしました! あの、リザードマン集落の塔のほうは、変わりなかったですか?」
『……大丈夫……傾きが3度ほど増したけど……問題はなかったわ……』
そこにジグもやってくる。
「ワーカーの出番は次だってよ」
智里の後ステージに上がった舞と詩は、客席の後方に視線を向けた。
そこには開かれた転移扉。
向こう側にアスカがいる。
「なかなかうまいこと考えたな」
「確かに扉を越えなければ、ユニゾンにいることになるもんね」
びん、と三味線を弾き、観客席に一礼。
「それじゃあ聞いてください。天龍寺姉妹とコボルドズによる、」「『ソルジャーさん、ありがとう!』」
舞台の袖からわらわらとコボルドたちが出てきて、きちんと横列を作る。
真ん中にはコボちゃん。舞らと一緒に空き缶三味線をかき鳴らし歌い始める。
「あーりわとー、あーりわとーそーうじゃー」
それを追いかけるようにコボルドたちも歌いだす。
「「ありがとーありがとー そーうじゃー、あーりがとー」
「しーまをまもってくれて、あーりわとー」
「「しーまをまもってくれてーありがとー♪」 」
一般客はなんだかよく分からない歌詞だなと思いつつ、拍手した。
当事者であるジグとアスカだけが、歌に込められた心を本当に受け止めることが出来た。だけに――平静ではいられなくなった。
ジグは涙ぐみ髪をかき回す。
それからアスカの方を見ようとしたが、その途端扉が閉まった。
アナウンスが響く。
【ご来場の皆様、かくし芸大会の後には『叫べ! 未来への夢!』企画が予定されております。飛び入りも可能ですので、奮ってご参加――】
『……ソルジャー……アスカ……どうしたの?……』
扉を閉めうずくまったアスカは顔を覆い、震える声でマゴイに言う。
「……ねえ、マゴイ。前に言ったわよね、負のマテリアルに侵されていても、生殖細胞の段階での治療なら比較的容易だって」
『……ええ……』
「……だったら、私の遺伝情報登録させてくれない? 私の一部が私がしたかったように、ずっとここで長く生きて、年とってくれるなら、諦めがつきやすいと思うのよ。死んで行くことに……駄目ね、ジグのこと全然笑えない……こんな土壇場に来て、もっと生きたいって思うなんて……!」
●戦勝会、終了
「許しません。帰ったらたっぷりとお仕置きです。悪い子がどんな目に遭うか、よーく教えて差し上げます姫様」
「うん……いっぱい分からせてね阿虎」
「熱いのお、2人とも」
最後まで残っていた客――オンサたちが帰っていく。
後は片付け。
マルカはゴミを拾いつつ、ペリニョンから助っ人に来てくれたフィロに言う。
「すいません、郷も大変なのにわざわざここのお掃除まで、お手伝いいただきまして」
「いいえ、向こうは大体片付きましたから。よいパーティーでしたか?」
「はい。それはもう」
暗い空には一番星が輝いている。遠い未来を示すように。
「いいパーティーでした」
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/09/04 22:08:44 |
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質問卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2019/08/29 19:33:41 |
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相談卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2019/09/04 14:24:15 |