カタコンベ ~騎士アーリア~

マスター:天田洋介

シナリオ形態
シリーズ(続編)
難易度
難しい
オプション
参加費
1,800
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2019/09/01 22:00
完成日
2019/09/15 13:57

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 グラズヘイム王国の南部に広がる伯爵地【ニュー・ウォルター】を覆っていた暗い闇は、振り払われた。
 黒伯爵を名乗る歪虚軍長アスタロトが率いていた敵は壊滅。討伐が一段落して、少なくとも戦の状況からは脱したといえる。
 差し迫る危機は去ったものの、懸案は残った。畑が荒らされただけでなく、灌漑関連の破壊が顕著。そして各地では戦いの残照が残っていた。


 マール城の一室。
 ドスガで最後に救出された司祭が、氷像から人へと戻された。その場で待機していた領主アーリアが問う前に、彼は口を開く。「カミネテこそが神敵」だと。
 その考えに至るまでの経緯と真意が、反省の司祭によって語られる。
「――暗示の飲み薬が、教会の施しの料理に混ぜられていた一件ですが…………、あれはカミネテから強制されたことなのです。そうしなければ寄付をやめると――」
 司祭はカミネテから提供されていた食材に、暗示の飲み薬が混ぜられていたことを知っていた。これまで嘘をついてきたのである。そんな毒入りの食材であっても、貧しき人々を救う手立てはこれしか残っていなかったのだと。
 もちろん、事が発覚してからは使われていない。
 アーリアがカミネテの屋敷へ訪問した際に、暗示の飲み薬のに関する責任を、カミネテの配下に背負わせた。
 特効薬がある現在、すでに暗示の薬は役に立たなかった。しかしそれ以前に、カミネテは自らが欲する優れた人々を薬で虜にしている。
 美しき女性に強き男性。それらの者達と一緒に、どこかに隠れ住んでいるらしい。
「隠れ家の場所は?」
 アーリアの問いに、司祭が「ドスガ郊外に大昔の地下の墓所『カタコンベ』があります。発掘という名目で手をつけていたので、そこだと思われます」と答えた。
(どうしたのものか……)
 ドスガへの大規模進攻作戦を行うとして、懸念が増える。第一に教会に残っている五十体前後の氷像を壊すことなく、歪虚のナアマを倒させばならなかった。
 カミネテが別行動をとっているのならば、それにも対処しなければならない。
 熟考した末、アーリアはカミネテ討伐をハンターに任せることにした。ドスガ周辺の状況を一番よく知っている実力者が、彼、彼女達だからである。
 作戦決行に間に合うよう、アーリア自らが支部へと足を運んだのだった。

リプレイ本文


 怒号と共に、大地を駆ける進撃の足音が響く渡る。
 アーリアが率いる混合軍によるドスガ攻略が開始された。割れた大地から伸びる無数の根。肌に突き刺す冷気を放ちながら、兵や騎士達目がけて撓り、襲う。
 雪だるま型を基本としたスノーラと呼ばれるゴーレムも出現して、ドスガ外縁の平野は混沌とした状況に陥っていく。マテリアルで可動する攻城兵器も使われて、ドスガを取り囲む城塞壁の門が突き破られた。

 激しい戦闘が繰り広げられる最中、アーリアからの使命を帯びたハンター一行はドスガ内へ踏みこむことはなかった。
 大きく迂回して目指したのは、スノーラこそ徘徊するものの、特に代わり映えしない平野にぽつりと存在する墓石ばかりが並ぶ墓所である。遙か昔からそういう土地であり、真下の地下には『カタコンベ』と呼ばれる地下墓所まで存在していたという。
 助けた司祭によると、そのカタコンベが改修されて、今では大商人カミネテの隠れ家になっているとのことだった。
 秘密の出入口がどこに設置されているのかはわかっている。ミグ・ロマイヤー(ka0665)が司祭が教えてくれた印付きの墓石をずらす。それに連動して近場の石塔の一部がずれて、出入口が現れた。
「地下墓地に雪隠詰めとはみじめなものであるな。なあ、カネミテよ」
 出現した石階段を降りながら、ミグが呟く。魔導バイクは今のところ、手押しで持ちこむことにした。仲間の意見も尊重して、エンジン音を気にしたのである。
「ナアマは飛ぶけど、カミネテは飛ばないから何とかなるかなって思うの。カミネテは捕縛で良いかなって思うの」
 仲間達もディーナ・フェルミ(ka5843)と同じ意見だ。
 そこでカミネテ捕縛の線でいくことに。ちなみに照明は彼女の灯火の水晶球である。指向性があるので、遠くから見つかりにくい。また鎧の隙間に布を噛ませて、音がしにくい工夫も凝らしていた。
「カミネテは、恐らくまだ全ての手の内を見せていないだろう。敵側の情報を少しでも入手しておく必要がある。それにしても寒い。冷気の根か、もしくはスノーラでも待機させているのだろうか?」
 鳳凰院ひりょ(ka3744)も捕縛に賛成した一人である。ちなみに「後腐れなく倒してもいいのでは」といったのはミグだが、強い要望ではなく最後には消極的賛成に回っていた。
 やがて階段が終わり、地下通路へと辿り着く。古めかしい柱など、ところどころカタコンベだった痕跡は残っていたものの、床や壁は現代風に変えられていて面影はない。天井にはマテリアル応用の照明が灯っていた。伯爵地では比較的珍しい最新の設備が採用されている。
「この通路を眺めるだけでも、贅を尽くしているのがわかります。大商人として名を馳せただけはありますね。司祭さんは神敵といっていたようですが……、それはそれとしてカミネテさんは、ここで捕まえます」
 ミオレスカ(ka3496)は魔導拳銃を片手に、廊下を曲がる際には細心の注意を払う。まずは様子を窺って、銃口を向けながら先へと進んだ。
「氷像やナアマは気にはなるが、アーリアに任せて……、んっ? 何か香るな? みんなはどうだ?」
 レイア・アローネ(ka4082)が気づいた通り、周囲に香りが漂いだしていた。進むにつれて濃くなっていく。
「これか。香りの正体は」
 廊下を歩いていた南護 炎(ka6651)が覗きこんだ空間には、暗示の飲み薬となる植物型雑魔が大量に植えられていた。咲かせていた大量の花が、強烈な香りの元凶であった。
 太陽光の代わりとなる照明が使われており、またわずかながら動けるので、牢屋のような格子に囲まれて栽培されている。
 それから十数m先で通路が分岐していた。
 歩夢(ka5975)がカードを取りだして、カミネテの居場所を占う。「まあ、占いは占いだしな。あたれば儲けものってくらいの気持ちでな」といって右側を指さした。
 少し進んだところで、遠くから近づく足音に一同が気がつく。柱の陰に隠れて様子を窺ったところ、氷の剣を手にした二体のスノーラが現れる。
 レイアと南護炎がアイコンタクトでタイミングを計り、同時に飛びだした。
 レイアの魔導剣カオスウィースが武器を握るスノーラの右腕を斬り落とす。南護炎の聖罰刃ターミナー・レイは、もう一体の肩口に深い傷を負わせる。わずかな間に止めまでを完遂した。
「出入口付近の見張りは、雑魔に任せているようだな」
「この後に及んで、余裕の態度だな……」
 剣を仕舞ったレイアと南護炎が通路の奥を睨みつける。
「今の二体、まるでコンビのように思えたな」
「私もそう思ったの。きっと巡回の任務をしていたスノーラだったの。う~ん……、静かな移動に注意を払うのはここまでかな?」
 歩夢とディーナの推理は的を射ていると、仲間達も判断した。
「定期巡回中だったとすれば、ある一定の時間内に戻らなければきっと疑われるだろう」
「その通りじゃな。ミグもそう思うのじゃ」
 鳳凰院とミグが眉をひそめて、険しい表情を浮かべる。
「ここから先は一気に進みませんか? 突撃したほうが奇襲になると思いますし」
 ミオレスカの発言に、仲間達が肯定の意思を示す。無線等の連絡手段を再確認。警戒しながらの隠密行動はここまでだ。
「そうとなれば、こいつを目覚めさせるのが一番なのじゃ!」
 嬉々としたミグが魔導バイクに跨がる。エンジンを始動させて、さらにアクセルを空吹かし。密閉された長細い通路で反響して、凄まじい排気音が鳴り響いた。
 一分も待たずに通路の奥にスノーラの姿が。瞬く間に増えて、かなりの頭数がドタドタと足音を立てながら迫り来る。
「任せてください。この状況は願ったりです」
 ミオレスカは武器を魔導拳銃から大火弓に変えていた。
 狙い澄まして、弦を弾く。収束したマテリアルが矢に変化して、一直線に突き進んだ。通路で団子状態のスノーラ等の体躯を、次々と貫いていく。砕けた氷片が飛び散ることで、照明によっていくつもの虹が浮かびあがる。サジタリウスの威力は凄まじく、果ての壁にまで大穴が開いた。
 ハンター達は倒れているスノーラに止めを刺しながら、踏み越えながら先へと進む。冷気がより強まって、スノーラが待機する詰め所の位置が判明。両開きの扉を南護炎とレイアが蹴ることで、無理矢理にこじ開ける。
「やけに広くて天井が高いですね。ざっと三十、いや四十弱か。合体済みのスノーラもいるようです!」
 扉が開くのを待っていた鳳凰院が、矢継ぎ早にマジックアローを放つ。命中した巨躯のスノーラが衝撃で壁へと叩きつけられた。
(死者の眠りを邪魔するのは本意ではないが、逃げ込んだそなたらが悪いのだからな。容赦はせぬぞ)
 ミグは魔導バイクで詰め所へと飛びこんだ。機動戦術「ストライクフェアリー」の輝きを纏いながらの早業である。大型魔導銃オイリアンテMk3の破壊力によって、天井に頭がぶつかりそうな五m級のスノーラが一瞬で粉みじんに。氷粒が煙のように漂い、詰め所内に広がった。
「ひゅー、負けていられないな。これでも符術剣士なんでな」
 歩夢は修祓陣による結界で、仲間達の安全を確保する。屈強な仲間達でも乱戦においては、不意を突かれてしまうことがあるからだ。聖剣である星神器「カレトヴルッフ」で、襲いかかってきたスノーラを斬っていく。
(それほどは強くないな。ただ、まとまって攻められるとやはり厄介か)
 自身の判断が正しかったことを感じながら、歩夢は敵の戦闘力を優先的に奪う。倒しきるのはそれからでも遅くはなかった。
「私はここにいるの。鬼さんじゃなくて、スノーラさんこちらなの。集まったら、まとめて浴びせかけちゃうの!」
 ディーナは詰め所全体が輝きに包まれる位置取りの棚上で、セイクリッドフラッシュを放つ。可能な限り間髪入れずに連続で繰り返した。聖なる波動によってスノーラの身体が、まるで溶けるように削れていく。雪だるま型、ウサギ型、狐型、どれも曖昧な形となり、やがて瘴気へと還元していった。
 詰め所内はマイナス何十度の冷凍庫のような寒さだったが、倒していくうちにわずかずつ緩和されていった。その意味において、スノーラとの戦いは時間との勝負になる。
「隣にもいるぞ!」
 通路と反対側ある扉を開いた南護炎が叫ぶ。
「なんだと!?」
 南護炎に続いてレイアも隣室へと足を踏みいれた。即座に二人と十数のスノーラとの乱戦となった。
 極度の寒冷の中、南護炎とレイアが白い息を吐きながら刃を振るう。
 ケイオスチューンを纏ったレイアが、次々とスノーラを斬撃。石の棚を踏み台にして、天井付近まで舞いあがり、スノーラの脳天へと剣を突き立てる。
 南護炎も一之太刀に続き、終之太刀による神速の一撃を打つ。止めを刺されたスノーラが、次々と砕けていく。
 騒ぎに気がついて詰め所へ戻ってきたスノーラもいたが、ハンター達はすべてを倒しきる。
「ひとまず片付いたが、休む暇はなさそうだな」
 鳳凰院は通路向こうから届く、怒号のやり取りに気づいていた。おそらくはスノーラに頼り切りだったカミネテの手の者達が、こちらへ向かおうとしている騒ぎである。
 魔導バイクの空吹かし。そしてスノーラとの大立ち回り。これだけやれば、知られるのが普通だ。
「せっかくカミネテの手の者が、歓待の用意をしてくれておるのじゃ。こちらから訪問するのが、礼儀というものじゃろうな」
 ミグは魔導バイクのアクセルを吹かして急発進。通路の角を壁蹴りしながら曲がり、さらに地下へと続く坂道へ差しかかったとき、鎧と剣を装備した一団と遭遇する。
 ほぼ男ばかりで、誰もが身長二mを越えていそうな巨体ばかりだ。自警団の中から選りすぐって集められた、カミネテの親衛隊と思われる。
 ミグから少し遅れて追いついたハンター達も気づく。どの親衛隊の目も、血走っていて狂気が漂っていた。口角から泡を吹いている者が多く、何かに駆り立てられているように感じられる。カミネテへの賞賛を叫んでいる者もいた。
「この有様では……説得は無理なようですね」
「ここは倒して、道を拓くとしようかのぅ」
 鳳凰院とミグが言葉を交わす。
「あの暗示の薬なら……、あるいはこうした使い方ができるのかも知れないの」
「その意見に賛成です。おそらくはそういうことなのでしょう」
 ディーナとミオレスカが残念そうな表情を浮かべた。雑魔の体液から作られた薬によって、カミネテへの忠誠心が増しているようだ。さらに恐怖心が薄れているようにも思われる。
 坂道を少し下った辺りが十字路になっていて、左右に細い通路が繋がっていた。
「右側の通路は任せてくれ!」
「俺は左側だ!」
 レイアと南護炎が左右へと散開する。細い通路から迫る親衛隊の進攻を抑えるために。
「修祓陣はこれで最後、黒曜封印符はあと一回分。みんな、この辺りで戦うと有利だぜ! あまり離れるなよ!」
 歩夢は味方が有利になるスキルを展開した。カミネテとの戦いまで残しておきたかったが、出し惜しみはしない。今こそ使うべきだと判断したのである。
 まだ距離があるのに、ハンター達は様々なスキルによる攻撃にさらされた。カミネテ親衛隊は覚醒者で構成されているのは間違いなかった。
「そこの者共、退け! ひかれても知らぬのじゃ!」
 ミグは構わず魔導バイクを親衛隊に突進させる。それなりの幅がある通路のおかげか、親衛隊の群れが綺麗に左右へと分かれた。その一mにも満たない間を、ミグは魔導バイクで通り抜ける。
 軽い衝撃と同時に五、六人の絶叫が聞こえたような気がしたが、そんなことはどうでもよかった。アクセルターンで180度の旋回。すさかず構えた銃器で銃弾を浴びせかける。
(全員逃がしませんよ。天井の照明のおかげで、こちらからは丸見えです)
 ミオレスカは石柱をのぼって、梁の上で腹ばいになっていた。射撃において高所は非常に有利。しかも照明の影になっているおかげで、親衛隊側に気づかれた様子はない。
 親衛隊において、リーダー格と思われる人物。遠隔攻撃に長けたクラス、屈強そうな体格の者。優先順位をつけて確実に射撃で倒していく。
 その都度あがる悲鳴によって、親衛隊側が恐怖を募らせていくのが如実に伝わってきた。心理的負荷が溜まれば溜まるほど、より狂気へと導かれて判断が鈍るはず。ミオレスカはそうした福次効果を狙っていた。
(カミネテを敬っても、守っても、絶対に、いいことないの……)
 ディーナが放つセイクリッドフラッシュの輝きにより、親衛隊の生命力が削られていった。ただでさえ狂気に傾いていた親衛隊が正常な判断を失い、まるで獣のようになっていく。
(どうやらわかりやすいところに、カミネテは隠れていそうだ)
 壁沿いに立った鳳凰院は、マジックアローで襲いかかってくる親衛隊を仕留めていた。
 元々がカタコンベだけあって通路は整然としていて、迷路状態にはなっていない。また祭壇用として広めの祭場があったとすれば、カミネテが暮らすにはもってこいのはず。鳳凰院は戦いながら、次の手を考えていた。
(幅が狭いおかげで基本一対一なのは助かっている。しかし魔法攻撃は厄介。こればかりはな……)
 右側の通路で戦っていたレイアは、魔法による遠隔攻撃に苦慮している。一人では対処のしようがなかったからだ。そこへ日月護身剣を手にした歩夢が、加勢として現れる。
「坂道での戦いは充分そうなので、俺もこちらで暴れさせてもらえるかい?」
「いいところに来てくれた。柱三本分奥に、厄介な奴がいるようだ。そこまで一気に進もうじゃないか」
 歩夢の協力を得たレイアは、今一度心を奮い立たせた。二振りの剣が次々と親衛隊を屠っていき、やがて遠隔攻撃を仕掛けていた三人のところまで到達。接近戦なら負けるはずがなく、瞬く間に屠った。
 右側の親衛隊を殲滅後、急いで引き返す。今度は左側の通路で戦っていた南護炎への力添えを行う。
「これまでに、半分までは減らしたはず。一進一退が続いていたのだが、これで一気に攻め入ることができる!」
 南護炎はスキンヘッド男に止めを刺してから、レイアと歩夢へと振り返る。左側は銃器による遠隔攻撃が厄介な状況に陥っていた。
「うおおっ!!」
 南護炎が愛剣を上段に構えて雄叫びをあげて、そのまま突進して斬り込んだ。
 レイアは右の壁、歩夢は左の壁を蹴るようにして長距離を飛ぶ。敵の頭上をショートカットし、厄介な狙撃手複数を倒しきる。
 こうなれば南護炎、レイア、歩夢が苦戦する理由はなくなった。右側の通路にいた親衛隊は、数分の内のうちに一掃される。
 その頃、坂道の通路も大まかに片付いていた。わずかに残る親衛隊を蹴散らして、ハンター一行はさらに奥へと進攻するのであった。


 先へと進む度に、散発的な戦闘が発生していた。ハンター一行をこれ以上奥へと入り込ませないように、親衛隊やスノーラがゲリラ的な戦いを仕掛けてきたのである。
 カタコンベの構造そのものが、防衛に対して考慮されていなかった。戦い慣れたハンター側にとっては、片手間の対処以上のものではあり得ない。
 戦術知識の欠如なのか、単に楽観論が蔓延したのか。そもそも籠城用として改築が行われなかったのか。真実は、この地下の主と思われるカミネテだけが知っている。

「気がついたか? またにおいがするな」
「だが、雑魔のときとは違うようだ」
 レイアと鳳凰院が走りながら気づく。雑魔の花の香りとは違う、通路には香水のようなかおりが漂いだしていた。
 通路の遙か先で鳴り響いたのは、ミグが駆る魔導バイクのエンジン音である。数分前から後部座席に射撃が得意なミオレスカを乗せて、斥候が行われていた。
 続いて轟音と同時に床が揺れる。機導砲にアルケミックパワー等のスキルが重ねがけされたミグの砲撃によって、強固な扉に穴が開けられた。
 無線連絡によっても伝えられていたが、空吹かしの回数でも仲間なら誰でも報の意味が理解できる。カミネテを発見したとの急報だ。
 慎重さと素速さを備えながら、ミグとミオレスカが待つ魔導バイクのところまで、全員が辿り着く。
「これは悪趣味だ。それが以外の言葉が見つからない……」
「やりたい放題のようだな。カミネテ。この世のすべてでも手に入れたつもりか?」
 扉が吹き飛ばされた巨大な入り口の枠組み。その向こう側を眺めた南護炎と歩夢の呟きが、その場のすべてを表していた。
 広間は豪華絢爛な装飾に満ちている。天井からぶら下がるシャンデリアが三基。足の長い絨毯に、猛獣毛皮の敷物の数々。壁にかけられた絵画。置かれた彫刻はごく一部にしか過ぎない。
 百人近い女性達の姿があった。誰もが整った容姿をした美女ばかりが、贅を尽くした料理と共に。漂うにおいの正体は、彼女達の香水と料理である。
「また増えやがったな。どこまでしつこんだ、ハンターってのは! 俺のことなんかどうでもいいだろ? ナアマ様に見限られた俺なんて、放っておいてくれよ。ほら、地上にいけば、あのアバズレに遊んでもらえるからさ――」
 中央の座から届く、カミネテによる罵声と愚痴の数々。以前には感じられた知的な狡猾さは、欠片も残っていなかった。
 葡萄酒瓶に口を当てた赤ら顔のカミネテだが、中身が残ってなかったようで、乱暴に投げ捨てる。傍にいた女性数人が新たな葡萄酒瓶を掲げると、そのうちの一本を握って呷るように呑み干していた。
「ナアマとの間で、何があったのかはわからないが、ここまで堕ちたのか、カミネテ……」
 鳳凰院が仲間達にだけ聞こえるほどの小さな声で呟く。
「…………一つ、訊きたいことがあるの。教会の施しに暗示の飲み薬を混ぜたこと、あれはどんな思惑でやったの?」
 ディーナは問いかけながら、震える両手をぎゅっと握りしめる。
「んっ? そんな面倒なことしていな……いや、やった。やった、やったな! あれはよい余興だった。。たくさん入れすぎたときは、喰らった奴等がみんなフラフラになっちまってよ! まるで躍っているようだったぜ!」
 下卑た笑い声をかき消すが如く、ミグがアクセルを捻ってエンジン音を轟かせた。
「楽しくで溜まらぬのであろうな、カミネテよ。このような墓場に潜りこんで、王様気取りとはのぅ。縛につく時が来たぞ。おとなしく観念するがいい!」
「そろそろ黙って、いえ、黙らせてあげます」
 ミグとミオレスカの啖呵を切っ掛けにして、ハンター全員が堰を切ったように動いた。
 カミネテが囲う女性達は、虫も殺さぬような笑みを浮かべながらも、各自武器を隠し持っていた。レイアが飛んできた投げナイフを愛剣で弾いて、敵一同に睨みつける。
「一度しかいわない。カミネテを残して退くがいい。さもなければ――」
 レイアが言い終わらないうちに、さらに無数のナイフが宙に放たれた。鳳凰院や歩夢も加わり、躱し、落として、敵との間合いを詰める。
(仲間の作戦を信じて、俺は時間を稼ぐ!)
 鳳凰院は瞬時にリーダー格を見定めて、懐へと飛びこんだ。スキル連続発動で周囲の敵をひとまとめに倒す。聖罰刃を身体の一部として、次々と敵を戦闘不能にしていく。
「ミグさん、ここでやりたいのですが――」
「わかっておるのじゃ。いつでもこい。ミグが送り届けてやるのじゃよ」
 歩夢はミグの傍へと寄って話しかける。了承を得てからは、常に彼女の近くで戦い続けた。
「こっちにも敵はいるぞ。カミネテを倒そうとしている俺がな!」
 鳳凰院がガウスジェイルで、敵の攻撃を引き受ける。血飛沫を舞わせながらも、ひたすら耐えきった。これによって、広間における敵側の分布に大きな偏りが生じた。
「任せるの。私が盾になるの!」
 ディーナがミオレスカを守るために数歩前へとでて、セイクリッドフラッシュを連打する。懲りずに迫り来る敵の生命力を、聖なる輝きで大胆にまとめて削っていく。
「お目々がグルグルするの。でもガマンするの……」
 視界が歪んだディーナだが、冷静に対処。敵が怪しげなスキルを使ったのだが、ゴッドブレスの祝福で周囲の仲間も含めて元通りに。
 やがてミオレスカのコンバージェンスによる準備が整う。
「これで勝利への道を拓いて、導きます」
 サジタリウスの矢が、ミオレスカの大火弓オゴダイから解き放たれた。凄まじき強烈な一矢が、刹那に景色を一変させる。敵の最中に一筋の道を拓けさせた。
「今じゃ! 乗れ!」
 ミグが機動戦術「ストライクフェアリー」を施した魔導バイクに、歩夢がしがみつく。光る文様を浮かびあがらせながら、魔導バイクが拓けた道を駆け抜ける。
「ちっ!」
 魔導バイクごとカミネテにアタックを仕掛けようとしたミグだが、それは避けられてしまう。そして途中まで掴まっていた歩夢はバイクの暴れ馬状態で落ちてしまい、床へと叩きつけられる。
「なんだ、その間抜けなザマは! ここを嗅ぎつけたからどんな手練れかと思ったが、どいつもこいつも大したことないな!」
 先程まで唇を震わせて、逃げ腰だったカミネテが尊大な態度を取り始めた。
「それはどうかな?」
 歩夢はカミネテの傍へと、符を落としている。そしてもう一枚はレイアが立つ真下にあった。ニヤリと笑いつつ、龍地の巫女たる東方の奥義である八卦灯篭流しの、式を打つ。
 瞬く間に転移するレイア。
「もらったっ!」
 レイアの活人剣が決まったかと思われたとき、氷の壁が攻撃を遮った。それは瞬く間に増殖していって、カミネテの全身を包み込んでいく。
 カミネテは分厚い氷のような鎧を纏い、身長三m越えの巨躯と化した。まるで雪だるま型のスノーラに取りこまれたような姿である。
「往生際が悪いのぅ!」
 ミグが構えた大型魔導銃の高加速射撃が火を噴く。放たれた巨大な銃弾が命中して、カミネテが後ずさった。氷の鎧にはヒビが入る。
「まったくです。ですが、無駄です」
 ミオレスカがハウンドバレットで飛ばした矢が、次々に敵を貫通していく。最後はカミネテの胸へと命中。その周辺の氷の鎧がボロボロと砕け落ちた。
「そこに跪け! カミネテ!」
 南護炎はそれまでに一之太刀、終之太刀で敵の数を減らしながら前進。気息充溢による渾身の一撃を、カミネテの右膝へと見舞う。
「みなさん、かなりの怪我ですね。俺も少しだけだけど」
 仲間が全力をだせるように、倒れたままの歩夢は、星神器「カレトヴルッフ」の力を解放。ナイツ・オブ・ラウンドで全員の傷を癒やす。
「氷の鎧など、砕けてしまえ!」
 鳳凰院の試作怨讐刀「FAITH-KILLソウル」が黒い霧を纏う。ブラッドバーストの威力によってカミネテの鎧の半分が砕けた。
「逃げようなんて、卑怯者のすることなの」
 ディーナが振りおろした星神器「ウコンバサラ」によって、フォースクラッシュが炸裂。氷の鎧がすべて剥がれて、カミネテは元の貧相な姿に。それでも逃げようと、蹌踉けながら走りだす。
「逃がすわけがない。観念しろ!」
 レイアはもう一度、歩夢が仕掛けた八卦灯篭流しで転移した。そして今度こそ活人剣を決める。
 駆け寄った鳳凰院が口元に手を当てて、死んでいないことを確認した。
「そ、そんな……」
「カミネテさまー!」
 敵の女達はカミネテが死んだと思いこんだようで、全員が戦意を失う。その場に蹲り、泣き、叫きだす者もいて、目をそらしたくなる阿鼻叫喚の場と化す。
「哀れな……」
 誰かがそう呟いた。
 女達を尻目にして、ハンター一行は退却する。カミネテの身は、ミグの魔導バイクに括りつけて運ばれたのだった。


 墓石が並ぶ地上へあがったとき、ドスガのある方角から雄叫びが聞こえてきた。よく聞けば喜びに満ちている。
 無線で連絡をとると、教会においての戦いで勝利したとのことだ。凍らされていた人々は無事確保されて、一部は元の姿へ。女子供、老人については運びだしてから戻すらしい。
 ナアマについては、空を飛んで逃げられたとのこと。アーリアと合流して安全が確保されてから、詳しい事情が聞けた。
 アーリアが単騎での決闘を望んで、ナアマがそれを受けたのである。単純な作戦だが、傲慢のアイテルカイトにとっては心理的な急所といえた。それを糸口にして部下の騎士達も奮闘し、教会の凍った人々を守りきった。
「大丈夫だ。なんともない」
 怪我こそ治っていたが、アーリアの武具防具は傷だらけ。身体も酷く汚れている。激しい戦いが繰り広げられたことを物語っていた。

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参加者一覧

  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤー(ka0665
    ドワーフ|13才|女性|機導師
  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカ(ka3496
    エルフ|18才|女性|猟撃士
  • うら若き総帥の比翼
    ひりょ・ムーンリーフ(ka3744
    人間(蒼)|18才|男性|闘狩人
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • 真実を照らし出す光
    歩夢(ka5975
    人間(紅)|20才|男性|符術師
  • 覚悟の漢
    南護 炎(ka6651
    人間(蒼)|18才|男性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン カタコンベ侵攻作戦
ひりょ・ムーンリーフ(ka3744
人間(リアルブルー)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2019/09/01 16:04:50
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/09/01 00:17:33