ゲスト
(ka0000)
野菜の道
マスター:神郷太郎

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/02/07 15:00
- 完成日
- 2015/02/13 22:29
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
パカラパカラ、蹄の音が連なる。
そこは通り慣れた道だった。
街から村に向かう脇街道。なだらかな丘陵の脇に森があるだけの長閑な風景だ。
しかしその日は、少しだけ様子が違った。
いつもなら顔を見せる野ウサギがおらず、森から聞こえてくるはずの野鳥の声も聞こえない。
「お父さん、何かおかしくない?」
村でとれた野菜を満載した荷馬車の御者台で、隣に座っている妻が怯えたように身を寄せてくる。
「ん、まあ、大丈夫だろう」
そう口にしたものの、自分も妻の言葉と全く同じことを考えていた。それを表に出さなかったのは、妻をこれ以上怖がらせたくなかったからだ。
「でも……」
それでも妻は不安そうだった。
手綱を片手で握り、妻の肩を抱き寄せる。
いつもなら絶対にしないことだ。おそらく自分も不安だったのだろう。
「何、もうすぐ街に着く。そうしたら何か変わったことが起きていないか役場さんか組合さんで聞いてみよう」
何か異変が起きていれば、役場か組合に何らかの情報があるはずだ。
そう妻を宥めたちょうどそのとき、ぞくりとした悪寒を覚え、周囲を見回す。
「お父さん?」
「静かに」
そう強い口調で言うと、妻の顔が泣きそうに歪む。
罪悪感を抱きつつ森に視線を向けたとき、そこできらりと光る何かを見付けた。
何だろうか――じっと目を凝らす。
緊張で、手綱を握った手に汗が滲む。
「――っ」
いた。コボルドだ。
森の中、木の陰に隠れるようにしてこちらを窺っている。
先ほど光ったのは、猟師が森の中で使って放置した金属の鏃のようだ。コボルドほどの大きさならば、矢を短槍代わりにすることもできる。
「おい、声を出すな」
妻にそう声を掛け、手綱を操って馬の歩調を早める。
パカッパカッパカッと軽やかな音。二頭の馬は思い荷車を牽きながら街道を進む。
背後から感じる視線。
背中にじんわりと汗が浮かぶ。
あれが追い掛けてきたらどうしよう。
野菜を捨てれば、もう少し速くなるだろうか。
いや、この野菜は村のみんなが丹精込めて育てたものだ、捨てるなんてとんでもない。
だが、俺たちが死んだら野菜どころの話じゃ――彼は街の門が見えるまで、妻の手を固く握り締めながらそんなことを考え続けていた。
●
オフィスの掲示板に、新たにひとつの依頼が追加された。
内容は『街道近辺に出没するコボルドの討伐』。
街と近隣の村を結ぶ街道に数体のコボルドが出現し、その往来の障害になっている。
それを討伐し、街道の安全を確保せよというものだ。
目撃情報及び足跡などからコボルドの数は最大で五体と推測され、放置された矢を短槍代わりにしている個体、太い木の枝を棍棒代わりにした個体などが確認されている。
また、コボルドたちは日中は街道近くの森に潜んでおり、獲物が通り掛かるのを待っているようだ。なお、この森の中には空き地があり、そこでもコボルドの足跡が確認されている。
このコボルドたちは別の亜人との戦いに敗れて少数がこの森に逃げ延びたものと推測される。
その際の負傷により移動速度が鈍っていたため、最初に目撃情報をもたらした夫婦は無事街まで逃げ延びることができたと考えられるが、現在ではその傷は癒えていると思われる。
この村は生産した農産物の販売を生業としており、街道の安全は村の生命線。
街も新鮮な野菜の供給が滞ることで一部物価の上昇などが起きる可能性がある。
また、コボルドたちが繁殖し、より大きな脅威となる可能性も否定できない。
以上の点から、街道の早急な安全回復が望まれる。
ハンター諸氏は事態を軽視せず、全力で事にあたって貰いたい。
そこは通り慣れた道だった。
街から村に向かう脇街道。なだらかな丘陵の脇に森があるだけの長閑な風景だ。
しかしその日は、少しだけ様子が違った。
いつもなら顔を見せる野ウサギがおらず、森から聞こえてくるはずの野鳥の声も聞こえない。
「お父さん、何かおかしくない?」
村でとれた野菜を満載した荷馬車の御者台で、隣に座っている妻が怯えたように身を寄せてくる。
「ん、まあ、大丈夫だろう」
そう口にしたものの、自分も妻の言葉と全く同じことを考えていた。それを表に出さなかったのは、妻をこれ以上怖がらせたくなかったからだ。
「でも……」
それでも妻は不安そうだった。
手綱を片手で握り、妻の肩を抱き寄せる。
いつもなら絶対にしないことだ。おそらく自分も不安だったのだろう。
「何、もうすぐ街に着く。そうしたら何か変わったことが起きていないか役場さんか組合さんで聞いてみよう」
何か異変が起きていれば、役場か組合に何らかの情報があるはずだ。
そう妻を宥めたちょうどそのとき、ぞくりとした悪寒を覚え、周囲を見回す。
「お父さん?」
「静かに」
そう強い口調で言うと、妻の顔が泣きそうに歪む。
罪悪感を抱きつつ森に視線を向けたとき、そこできらりと光る何かを見付けた。
何だろうか――じっと目を凝らす。
緊張で、手綱を握った手に汗が滲む。
「――っ」
いた。コボルドだ。
森の中、木の陰に隠れるようにしてこちらを窺っている。
先ほど光ったのは、猟師が森の中で使って放置した金属の鏃のようだ。コボルドほどの大きさならば、矢を短槍代わりにすることもできる。
「おい、声を出すな」
妻にそう声を掛け、手綱を操って馬の歩調を早める。
パカッパカッパカッと軽やかな音。二頭の馬は思い荷車を牽きながら街道を進む。
背後から感じる視線。
背中にじんわりと汗が浮かぶ。
あれが追い掛けてきたらどうしよう。
野菜を捨てれば、もう少し速くなるだろうか。
いや、この野菜は村のみんなが丹精込めて育てたものだ、捨てるなんてとんでもない。
だが、俺たちが死んだら野菜どころの話じゃ――彼は街の門が見えるまで、妻の手を固く握り締めながらそんなことを考え続けていた。
●
オフィスの掲示板に、新たにひとつの依頼が追加された。
内容は『街道近辺に出没するコボルドの討伐』。
街と近隣の村を結ぶ街道に数体のコボルドが出現し、その往来の障害になっている。
それを討伐し、街道の安全を確保せよというものだ。
目撃情報及び足跡などからコボルドの数は最大で五体と推測され、放置された矢を短槍代わりにしている個体、太い木の枝を棍棒代わりにした個体などが確認されている。
また、コボルドたちは日中は街道近くの森に潜んでおり、獲物が通り掛かるのを待っているようだ。なお、この森の中には空き地があり、そこでもコボルドの足跡が確認されている。
このコボルドたちは別の亜人との戦いに敗れて少数がこの森に逃げ延びたものと推測される。
その際の負傷により移動速度が鈍っていたため、最初に目撃情報をもたらした夫婦は無事街まで逃げ延びることができたと考えられるが、現在ではその傷は癒えていると思われる。
この村は生産した農産物の販売を生業としており、街道の安全は村の生命線。
街も新鮮な野菜の供給が滞ることで一部物価の上昇などが起きる可能性がある。
また、コボルドたちが繁殖し、より大きな脅威となる可能性も否定できない。
以上の点から、街道の早急な安全回復が望まれる。
ハンター諸氏は事態を軽視せず、全力で事にあたって貰いたい。
リプレイ本文
●
「本当に馬車借りられて良かったっスねっと!」
地面に突き刺した看板に思い切り体重を掛け、地面に押し込みながら長良 芳人(ka3874)は馬車の上にいる仲間たちに笑いかけた。
「ええ、本当に良かったですよね。最悪ボロボロの馬車でも構わないって思ってましたけど、結構ちゃんとした馬車貸してもらえましたし」
「街道にコボルドが出るって噂が立ってるからだろうね。――ほら、長良君」
芳人に笑顔で同意したのはミネット・ベアール(ka3282)、荷台に上がろうとする芳人に手を差し出したのはネイハム・乾風(ka2961)だ。
「うッス、ありがとうございます」
再び芳人を乗せ、荷馬車は街道を進み始める。
荷台にはまだ何本かの看板が残っているが、すべてに威嚇するコボルドの絵が描いてある。「改心の出来ッスよ!」と芳人が得意気になるほど、確かにそれはコボルドの特徴を良く捉えていた。
「先行したウル=ガ(ka3593)さんは?」
ネイハムが御者台に座るネリー・ベル(ka2910)に先行しているもうひとりの仲間、ウル=ガの状況を尋ねる。
彼は自らが所有する馬で街道を先行し、同じように注意看板を設置している筈だった。
「さっき伝話で確認した限りでは、予定していた看板の配置は終わったみたい。今は目的地に向かってるって」
ネリーが手綱を操りながら答えると、ネリーの隣に座っているミネットが感心したように吐息を漏らした。
「早いですねー」
「彼は慣れた自分の馬を使っているからね」
ネイハムはミネットに答えつつ、自らの得物であるライフルを抱えて木箱に入った屑野菜を眺める。荷馬車を囮にするための擬装用だ。
「これでコボルドが釣られてくれると良いッスけど……」
芳人がそう呟きながら空を仰ぐ。
「長閑な良い景色ですよね! もっとのんびり見る事ができたらよかったのに」
ミネットがそう言う通り、ちらほらとちぎれ雲が漂っている以外は青の色彩が広がっているだけで平和そのものといった光景である。
しかし、彼らの向かう先は平和とはほど遠い軍場であり、彼らはハンターだった。
「まあ――それじゃ皆さん、張り切って行くッスよ!」
「おー!」
芳人の威勢の良い掛け声に、ミネットが同じくらい覇気に溢れた声で答えた。
ウル=ガはひとり森の中の樹上に潜んでいた。
先ほど仲間から届いた連絡によれば、すでに荷馬車はネイハムと芳人を下ろし、ゆっくりとした速度で街道を進んでいる。
荷馬車を降りたふたりはウル=ガと同じように森へと入り、コボルドに気付かれないようある程度距離を取って慎重に囮役の荷馬車を追い掛けている筈だ。
(来たか)
遠くから荷馬車の奏でる馬蹄と車輪の重奏が聞こえてくると、彼はより一層周囲に気を配る。
あの音を聞いてコボルドたちが動き出す可能性は高い。先手を打つためにはその姿を先に捉える必要があった。本来なら当たりを付けて罠の一つも仕掛けておきたかったが、思ったよりも森は広く、また単独でコボルドたちと鉢合わせする可能性を考えるとそれは出来なかった。
そして――森の奥から茂みをかき分けて体高一メートルほどのコボルドが姿を見せた。
コボルドたちは木の枝を牙や爪で整えただけの棍棒や矢を短槍代わりに携え、街道に現れた荷馬車をじっと見詰めている。
(……動くか?)
ウル=ガがそう思ったとき、馬車が止まった。
御者台から小さな影が降り、荷台の方へ歩いて行くのが見える。事前の予定にあった行動のひとつだ。
果たして、コボルドたちはその動きを好奇と判断した。
最初の一頭が茂みから飛び出し、続いて他のコボルドたちがそれを追い掛けるようにして飛び出して行く。
(まずは一撃)
ウル=ガは樹上を飛び移り、最後の一頭の背後に降り立った。
「――!?」
そのままグロムソードをコボルドの頭頂部に突き刺す。
コボルドは身体を痙攣させたあと、そのまま白目を剥いて絶命した。
「あちらも始まったか」
呟き、見詰める先で、コボルドとハンターたちの戦いが繰り広げられていた。
●
森から飛び出してきたコボルドたちに真っ先に気付いたのは、馬車を引く馬たちだった。
「大丈夫ですよ。私も肉食動物です。あなたが狩られる前に私があなたの敵を狩ります」
ミネットがそう言いながら荷台に飛び乗り、野菜の木箱の間に隠していた弓に手を伸ばす。
当初はネリーの銃を借りることも考えていたが、ミネットが下車しているときにコボルドが襲撃してきたためこちらの方が早いと判断したのだ。
それに馬は耳が良く、銃の音で怯えてパニックを起こす可能性も否定できない。ミネットからその話を聞き、少なくとも御者台で銃を使うのは危険だと判断した。
「先に行くわ」
ネリーがジャマダハルを携えて御者台から飛び降り、コボルドたちに向かう。
そのままコボルドたちに接敵すると、マルチステップでその攻撃を躱し、時折ジャマダハルで反撃を行う。
しかし多勢に無勢であることに変わりはなく、どちらも決定打に欠けていた。
そこに一発の銃声が響き、一体のコボルドが体勢を崩す。
「ネイハムさん!」
それは、森に潜んでいるネイハムが放った一発だった。急所を狙ったそれは惜しくも外れ、腕に命中する。
しかし銃弾を受けたコボルドの動きが鈍ったことは間違いなく、ミネットは弓を構えて弦を引いて一矢を撃ち放った。
ひゅう、と風を引き裂いて疾走する矢はそのままコボルドの胴体に命中し、ダメージを与える。
「ふっ」
呼気と共に現れたウル=ガが、ネリーの背を守るようにその背後に回り込み、剣を振るう。
すでにダメージを受けていたコボルドはウル=ガの攻撃から逃れようとし、さらに大きな隙を見せた。
「うりゃあっ!?」
その隙を逃さず飛び込んできた芳人が、ユナイテッド・ドライブ・ソードを大きく振りかぶって一撃を見舞う。
二度の狙撃でダメージを負っていたコボルドはそれを避けることができず、袈裟懸けの一刀を受けて倒れた。
「よし、次ッス!」
芳人はそのままネリーの援護に入り、同時に馬車と森の中からの援護射撃が続く。
「――!?」
三頭に減ったコボルドたちはネリーの動きに翻弄された結果、決定的なダメージを与えられないままウル=ガと芳人の乱入を許してしまった。
困惑しているような鳴き声で意志を交わすコボルドたちを横目に、芳人はネリーの元へ走り寄る。
「ネリーさん! 大丈夫ッスか!?」
「大丈夫」
ぶっきらぼうに答えながら、ネリーは背後から飛び掛かろうとしていたコボルドに愛銃デッドリーキッスを差し向け、放つ。
実戦によって洗練されたであろう流れるような一挙動。胴体に弾丸を食らったコボルドはそのまま吹き飛び、地面に倒れ伏したまま動かなくなった。
「残り……」
「二体!」
ネリーの言葉を芳人が継ぐ。
その言葉通り、コボルドたちは残すところ二頭となっていた。
それも手負いの二頭だ。コボルドたちはじりじりとネリーと芳人から距離を取ると、背を向け、森に向かって逃亡する。
「逃がしません!」
ミネットは弓にマテリアルを込めながら弦を引き、逃げるコボルドの頭に照準を合わせる。
精神を集中、コボルドの動きを予想し、矢をその先に送り出す。
「っ!」
集中力を限界まで練り上げた一射。
矢は閃光のように空を駆け抜け、コボルドの後頭部に命中した。
「――!!」
くぐもった悲鳴を上げ、駆けていた勢いのまま地面に転がるコボルド。
残る一頭はそのまま森へと逃げ込んだ。
「追い掛けるわ。ミネットは馬車を」
「はい!」
ネリーとウル=ガ、芳人が森の中へと向かい、ミネットが馬車を操ってそれを追う。それと同時に、ネイハムもコボルドの追跡に入った。
●
森の中は街道に較べて薄暗く、奥に行けば行くほど木々が太陽の光を遮っているようだった。
合流した五人は、コボルドの奇襲を警戒しながら森を奥へ奥へと進んでいく。
依頼では五体のみと言われていても、繁殖によって数が増えている可能性もある。慎重に慎重を重ねるのは当然の事だ。
「ミネットさん、どうッスか?」
「新しい跡があるから、たぶんこれだと思います」
そんな中で、ミネットがコボルドの移動した痕跡を見付ける。
獣道のようにも見えるが、コボルドたちが持っている粗雑な武器によって傷付けられたらしい木の幹もあった。
痕跡を追い掛けて森の中をさらに進むと、ミネットが立ち止まる。
開けた場所に出たのだ。どうやら樵夫たちが使う空き地らしい。
その空き地に、転々と血の跡が続いていた。
「ここか」
そう言ってウル=ガが指し示したのは、空き地の奥にある木々に囲まれた小さな洞だった。
洞の手前にはコボルドたちの足跡や彼らが食べたらしい小動物たちの骨が転がっており、ここがコボルドの塒であることは間違いなさそうだ。
「――――」
五人は互いに目配せすると、各々の得物が最も得意とするポジションを取って洞に近付いていく。
前衛の芳人とウル=ガが洞の両脇に立ち、タイミングを合わせて踏み込む。
「いない?」
だが、そこにコボルドの姿はなかった。
どこに行ったのか――ふたりが同時に同じ疑問を抱いた瞬間、洞の外からネイハムの鋭い声が響いた。
「ベル君、ミネット君、下がって!!」
芳人とウル=ガが慌てて洞を飛び出したちょうどそのとき、洞の脇にあった木の上からコボルドが飛び降りてきた。
狙いはネリーかミネットのようだったが、ネイハムの声に動き出していたふたりはその奇襲をすんでの所で回避した。
「――っ!!」
コボルドは奇襲を回避されたことに唸り声を上げると、すぐに短槍代わりの矢を構えてネリーに攻撃を仕掛けようとする。
しかし、そのために一歩を踏み出した瞬間、銃声と同時にその額に小さな穴が空いた。
愛銃『メルヴイルM38』の銃口から硝煙を棚引かせ、膝射の姿勢のままネイハムは言った。
「皆、お疲れ様……」
その言葉に緊張を解く四人。ここに、野菜の道を巡る一連の騒動は終わりを告げた。
●
「緊張の中でも動揺しない良い子ですね!」
馬車を返し、持ち主に礼を述べるミネット。
彼女は本当ならば森で一狩りしてお土産でもと思っていたが、よくよく考えて見れば一刻も早くコボルドの討伐完了を知らせるのが一番の土産だと思い直し、五人はそれぞれ自分たちが立てた看板を撤去しながら村と街へ向かい、依頼完了を報せた。
「ありがとうございます!」
その報せを受け、街道を生命線にしている村人たちは口々に感謝の言葉を述べたし、街の商人たちもホッと胸を撫で下ろした様子だった。
人々の生活に欠かせない流通。それを守ることは、時として何十、何百もの命を救うことに繋がるのかも知れない。
「本当に馬車借りられて良かったっスねっと!」
地面に突き刺した看板に思い切り体重を掛け、地面に押し込みながら長良 芳人(ka3874)は馬車の上にいる仲間たちに笑いかけた。
「ええ、本当に良かったですよね。最悪ボロボロの馬車でも構わないって思ってましたけど、結構ちゃんとした馬車貸してもらえましたし」
「街道にコボルドが出るって噂が立ってるからだろうね。――ほら、長良君」
芳人に笑顔で同意したのはミネット・ベアール(ka3282)、荷台に上がろうとする芳人に手を差し出したのはネイハム・乾風(ka2961)だ。
「うッス、ありがとうございます」
再び芳人を乗せ、荷馬車は街道を進み始める。
荷台にはまだ何本かの看板が残っているが、すべてに威嚇するコボルドの絵が描いてある。「改心の出来ッスよ!」と芳人が得意気になるほど、確かにそれはコボルドの特徴を良く捉えていた。
「先行したウル=ガ(ka3593)さんは?」
ネイハムが御者台に座るネリー・ベル(ka2910)に先行しているもうひとりの仲間、ウル=ガの状況を尋ねる。
彼は自らが所有する馬で街道を先行し、同じように注意看板を設置している筈だった。
「さっき伝話で確認した限りでは、予定していた看板の配置は終わったみたい。今は目的地に向かってるって」
ネリーが手綱を操りながら答えると、ネリーの隣に座っているミネットが感心したように吐息を漏らした。
「早いですねー」
「彼は慣れた自分の馬を使っているからね」
ネイハムはミネットに答えつつ、自らの得物であるライフルを抱えて木箱に入った屑野菜を眺める。荷馬車を囮にするための擬装用だ。
「これでコボルドが釣られてくれると良いッスけど……」
芳人がそう呟きながら空を仰ぐ。
「長閑な良い景色ですよね! もっとのんびり見る事ができたらよかったのに」
ミネットがそう言う通り、ちらほらとちぎれ雲が漂っている以外は青の色彩が広がっているだけで平和そのものといった光景である。
しかし、彼らの向かう先は平和とはほど遠い軍場であり、彼らはハンターだった。
「まあ――それじゃ皆さん、張り切って行くッスよ!」
「おー!」
芳人の威勢の良い掛け声に、ミネットが同じくらい覇気に溢れた声で答えた。
ウル=ガはひとり森の中の樹上に潜んでいた。
先ほど仲間から届いた連絡によれば、すでに荷馬車はネイハムと芳人を下ろし、ゆっくりとした速度で街道を進んでいる。
荷馬車を降りたふたりはウル=ガと同じように森へと入り、コボルドに気付かれないようある程度距離を取って慎重に囮役の荷馬車を追い掛けている筈だ。
(来たか)
遠くから荷馬車の奏でる馬蹄と車輪の重奏が聞こえてくると、彼はより一層周囲に気を配る。
あの音を聞いてコボルドたちが動き出す可能性は高い。先手を打つためにはその姿を先に捉える必要があった。本来なら当たりを付けて罠の一つも仕掛けておきたかったが、思ったよりも森は広く、また単独でコボルドたちと鉢合わせする可能性を考えるとそれは出来なかった。
そして――森の奥から茂みをかき分けて体高一メートルほどのコボルドが姿を見せた。
コボルドたちは木の枝を牙や爪で整えただけの棍棒や矢を短槍代わりに携え、街道に現れた荷馬車をじっと見詰めている。
(……動くか?)
ウル=ガがそう思ったとき、馬車が止まった。
御者台から小さな影が降り、荷台の方へ歩いて行くのが見える。事前の予定にあった行動のひとつだ。
果たして、コボルドたちはその動きを好奇と判断した。
最初の一頭が茂みから飛び出し、続いて他のコボルドたちがそれを追い掛けるようにして飛び出して行く。
(まずは一撃)
ウル=ガは樹上を飛び移り、最後の一頭の背後に降り立った。
「――!?」
そのままグロムソードをコボルドの頭頂部に突き刺す。
コボルドは身体を痙攣させたあと、そのまま白目を剥いて絶命した。
「あちらも始まったか」
呟き、見詰める先で、コボルドとハンターたちの戦いが繰り広げられていた。
●
森から飛び出してきたコボルドたちに真っ先に気付いたのは、馬車を引く馬たちだった。
「大丈夫ですよ。私も肉食動物です。あなたが狩られる前に私があなたの敵を狩ります」
ミネットがそう言いながら荷台に飛び乗り、野菜の木箱の間に隠していた弓に手を伸ばす。
当初はネリーの銃を借りることも考えていたが、ミネットが下車しているときにコボルドが襲撃してきたためこちらの方が早いと判断したのだ。
それに馬は耳が良く、銃の音で怯えてパニックを起こす可能性も否定できない。ミネットからその話を聞き、少なくとも御者台で銃を使うのは危険だと判断した。
「先に行くわ」
ネリーがジャマダハルを携えて御者台から飛び降り、コボルドたちに向かう。
そのままコボルドたちに接敵すると、マルチステップでその攻撃を躱し、時折ジャマダハルで反撃を行う。
しかし多勢に無勢であることに変わりはなく、どちらも決定打に欠けていた。
そこに一発の銃声が響き、一体のコボルドが体勢を崩す。
「ネイハムさん!」
それは、森に潜んでいるネイハムが放った一発だった。急所を狙ったそれは惜しくも外れ、腕に命中する。
しかし銃弾を受けたコボルドの動きが鈍ったことは間違いなく、ミネットは弓を構えて弦を引いて一矢を撃ち放った。
ひゅう、と風を引き裂いて疾走する矢はそのままコボルドの胴体に命中し、ダメージを与える。
「ふっ」
呼気と共に現れたウル=ガが、ネリーの背を守るようにその背後に回り込み、剣を振るう。
すでにダメージを受けていたコボルドはウル=ガの攻撃から逃れようとし、さらに大きな隙を見せた。
「うりゃあっ!?」
その隙を逃さず飛び込んできた芳人が、ユナイテッド・ドライブ・ソードを大きく振りかぶって一撃を見舞う。
二度の狙撃でダメージを負っていたコボルドはそれを避けることができず、袈裟懸けの一刀を受けて倒れた。
「よし、次ッス!」
芳人はそのままネリーの援護に入り、同時に馬車と森の中からの援護射撃が続く。
「――!?」
三頭に減ったコボルドたちはネリーの動きに翻弄された結果、決定的なダメージを与えられないままウル=ガと芳人の乱入を許してしまった。
困惑しているような鳴き声で意志を交わすコボルドたちを横目に、芳人はネリーの元へ走り寄る。
「ネリーさん! 大丈夫ッスか!?」
「大丈夫」
ぶっきらぼうに答えながら、ネリーは背後から飛び掛かろうとしていたコボルドに愛銃デッドリーキッスを差し向け、放つ。
実戦によって洗練されたであろう流れるような一挙動。胴体に弾丸を食らったコボルドはそのまま吹き飛び、地面に倒れ伏したまま動かなくなった。
「残り……」
「二体!」
ネリーの言葉を芳人が継ぐ。
その言葉通り、コボルドたちは残すところ二頭となっていた。
それも手負いの二頭だ。コボルドたちはじりじりとネリーと芳人から距離を取ると、背を向け、森に向かって逃亡する。
「逃がしません!」
ミネットは弓にマテリアルを込めながら弦を引き、逃げるコボルドの頭に照準を合わせる。
精神を集中、コボルドの動きを予想し、矢をその先に送り出す。
「っ!」
集中力を限界まで練り上げた一射。
矢は閃光のように空を駆け抜け、コボルドの後頭部に命中した。
「――!!」
くぐもった悲鳴を上げ、駆けていた勢いのまま地面に転がるコボルド。
残る一頭はそのまま森へと逃げ込んだ。
「追い掛けるわ。ミネットは馬車を」
「はい!」
ネリーとウル=ガ、芳人が森の中へと向かい、ミネットが馬車を操ってそれを追う。それと同時に、ネイハムもコボルドの追跡に入った。
●
森の中は街道に較べて薄暗く、奥に行けば行くほど木々が太陽の光を遮っているようだった。
合流した五人は、コボルドの奇襲を警戒しながら森を奥へ奥へと進んでいく。
依頼では五体のみと言われていても、繁殖によって数が増えている可能性もある。慎重に慎重を重ねるのは当然の事だ。
「ミネットさん、どうッスか?」
「新しい跡があるから、たぶんこれだと思います」
そんな中で、ミネットがコボルドの移動した痕跡を見付ける。
獣道のようにも見えるが、コボルドたちが持っている粗雑な武器によって傷付けられたらしい木の幹もあった。
痕跡を追い掛けて森の中をさらに進むと、ミネットが立ち止まる。
開けた場所に出たのだ。どうやら樵夫たちが使う空き地らしい。
その空き地に、転々と血の跡が続いていた。
「ここか」
そう言ってウル=ガが指し示したのは、空き地の奥にある木々に囲まれた小さな洞だった。
洞の手前にはコボルドたちの足跡や彼らが食べたらしい小動物たちの骨が転がっており、ここがコボルドの塒であることは間違いなさそうだ。
「――――」
五人は互いに目配せすると、各々の得物が最も得意とするポジションを取って洞に近付いていく。
前衛の芳人とウル=ガが洞の両脇に立ち、タイミングを合わせて踏み込む。
「いない?」
だが、そこにコボルドの姿はなかった。
どこに行ったのか――ふたりが同時に同じ疑問を抱いた瞬間、洞の外からネイハムの鋭い声が響いた。
「ベル君、ミネット君、下がって!!」
芳人とウル=ガが慌てて洞を飛び出したちょうどそのとき、洞の脇にあった木の上からコボルドが飛び降りてきた。
狙いはネリーかミネットのようだったが、ネイハムの声に動き出していたふたりはその奇襲をすんでの所で回避した。
「――っ!!」
コボルドは奇襲を回避されたことに唸り声を上げると、すぐに短槍代わりの矢を構えてネリーに攻撃を仕掛けようとする。
しかし、そのために一歩を踏み出した瞬間、銃声と同時にその額に小さな穴が空いた。
愛銃『メルヴイルM38』の銃口から硝煙を棚引かせ、膝射の姿勢のままネイハムは言った。
「皆、お疲れ様……」
その言葉に緊張を解く四人。ここに、野菜の道を巡る一連の騒動は終わりを告げた。
●
「緊張の中でも動揺しない良い子ですね!」
馬車を返し、持ち主に礼を述べるミネット。
彼女は本当ならば森で一狩りしてお土産でもと思っていたが、よくよく考えて見れば一刻も早くコボルドの討伐完了を知らせるのが一番の土産だと思い直し、五人はそれぞれ自分たちが立てた看板を撤去しながら村と街へ向かい、依頼完了を報せた。
「ありがとうございます!」
その報せを受け、街道を生命線にしている村人たちは口々に感謝の言葉を述べたし、街の商人たちもホッと胸を撫で下ろした様子だった。
人々の生活に欠かせない流通。それを守ることは、時として何十、何百もの命を救うことに繋がるのかも知れない。
依頼結果
依頼成功度 | 普通 |
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依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談卓 長良 芳人(ka3874) 人間(リアルブルー)|20才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/02/07 00:20:48 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/02/06 22:22:13 |