ゲスト
(ka0000)
歪虚の人形工場と秋緑の親子(前編)
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- シリーズ(新規)
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~4人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/09/11 09:00
- 完成日
- 2019/09/16 18:30
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
技術屋であるルストは、その日、間借していた屋敷から出て、リゼリオのとある商会の一室に訪れていた。
復興の仕事は幾らでもあり、そして、技術職であるルストには次々に仕事が舞い込んできて休む間もない。
「……型に流し込んで外枠を作るだけの物ですが……困りましたね」
そう言いながら項垂れるルスト。
人の形をしたマネキンのようなもの……を作る為の器械一式が行方不明になったという話だ。
ルストはその器械を作った技術者の一人であったのだ。あれは腕利きの職人と共に作った特注品なので、もう一度、作れと言われても、簡単には出来ない代物だ。
「横流しされた挙げ句に、関係者共々、邪神眷属との戦いに巻き込まれ全滅……こちらも本当に参ってしまってね」
苦笑を浮かべる商会の長。
犯人共の目星はついていたのだが、全員が死んだ後なので、品物がどこに行ったのか手がかりはなくなってしまった。
「あれだけの巨大な器械ですから、運用するにしても、すぐに分かりそうですが……」
部品だけで馬車数台分はあるのだ。
組み立てれば、大きなホールの一つ位にはなるはず。
「……なるほど。確かに……となると、リゼリオから遠くには運ばれていない可能性も?」
「それに、型を弄る訳にもいかないと思うのです。部品や材料の調達の関係もありますから、意外と近くにあるのかもしれません」
「ふむ……そういえば、古屋敷は郊外に点在していたはずか……調べてみるのも手か」
なんとか希望が見えてきたようで、商会の長は肩を撫で下ろした。
同業者の手に渡るようなら最悪なのだ。そうなる前に発見して手元に取り戻したいし、出来なければ、いっそのこと大事な部品だけでも回収したい。
「古屋敷なら、私も知り合いにあたってみますね」
ルストは間借していた屋敷の主のお爺さん――オキナ――を思い浮かべながら言った。
色々と知っている事が多い、オキナなら、何か知っているかもしれない。
「よろしくお願いします。それでは、お互い、何か情報が掴めたら、連絡し合うという事で」
商会の長はスッと手を差し出し、ルストは力強く握ったのであった。
●
ハンターズソサエティ本部でライブラリを確認していた紡伎 希(kz0174)は口元に指を当てて悩んでいた。
モニターに映る画を幾度もなく繰り返しては「うーん」と唸る。
「形が一緒という事は、何か生産されたとしか思えないのですが……」
夏前にリゼリオ郊外に出現した金属人形の事だ。
金属のようなもので造られたマネキンっぽい人形の歪虚で、どうやら嫉妬に分類される事は判明している。
硬い上にBSに対する耐性も高く、放置しておくと危険な存在であるのは確かだ。
二度ほど出現してきているが、いずれもハンター達によって撃破されている。だからと言って安心できない。次の襲撃が無いという保証はどこにでもないのだから。
「不思議なのは、リゼリオの街以外には出現していないという事……街の中というのは考えられないから、やっぱり、郊外のどこかに……?」
独り言を呟きながら、希は依頼書にスラスラとペンを走らせた。
ハンター達に依頼を出すつもりなのだ。
何か歪虚に関する情報が発見できれば、御の字だし、何も見つからなければ、それはそれで、一つの結果だ。何もしない結果、重大な事件になるようであれば、予防線を引いた方が良いだろう。
「探す方法はハンターの皆様にお任せします……っと」
この街はハンターの拠点でもあるのだ。ハンターという肩書だけでも、それなりに調査活動は出来るはずだ。
希は依頼書に書き込んだ内容を確りと見直してから、書類を手に立ち上がった。
●
リゼリオ郊外に構えた屋敷でオキナは“魔装鞘”に浄化術を行使していた。
「ふー。これで今日の分は良いじゃろう」
締め切った部屋の中なので気温は外よりも高いかもしれない。
汗を拭いながら部屋を出るオキナ。
足取りがいつもよりも重く感じられた。歳のせいだとオキナは自分に言い聞かせる。
「それにしても本当に暑い日じゃのう……魔導空調設備でもあれば、良いのじゃが……」
リアルブルーには魔法とは異なる概念の技術が発達し、それで暑さも寒さも対応しているらしいが、この古い屋敷には、そんな便利なものがあるはずもない。
希も仕事、ルストも仕事なので、暫くは一人だ。
「ん……そういえば、嬢ちゃんもルストさんも、同じ色の髪と瞳じゃな……」
色が同じという事は、特段、珍しい事ではない。
目元とか似ているようにも見えた。親子と言っても違和感はない。
そうすると、爺さんは儂じゃなと心の中で呟く。
「……調べてみるのも手じゃが、あいにく、この屋敷から出られんしのー」
それが“魔装鞘”を保持している代償というものだ。
先の邪神眷属との戦いでは、無茶したようだが、状態に大きな変化はない。
「さて……今日は庭掃除でもするか」
重たい腰を上げるオキナであった。
技術屋であるルストは、その日、間借していた屋敷から出て、リゼリオのとある商会の一室に訪れていた。
復興の仕事は幾らでもあり、そして、技術職であるルストには次々に仕事が舞い込んできて休む間もない。
「……型に流し込んで外枠を作るだけの物ですが……困りましたね」
そう言いながら項垂れるルスト。
人の形をしたマネキンのようなもの……を作る為の器械一式が行方不明になったという話だ。
ルストはその器械を作った技術者の一人であったのだ。あれは腕利きの職人と共に作った特注品なので、もう一度、作れと言われても、簡単には出来ない代物だ。
「横流しされた挙げ句に、関係者共々、邪神眷属との戦いに巻き込まれ全滅……こちらも本当に参ってしまってね」
苦笑を浮かべる商会の長。
犯人共の目星はついていたのだが、全員が死んだ後なので、品物がどこに行ったのか手がかりはなくなってしまった。
「あれだけの巨大な器械ですから、運用するにしても、すぐに分かりそうですが……」
部品だけで馬車数台分はあるのだ。
組み立てれば、大きなホールの一つ位にはなるはず。
「……なるほど。確かに……となると、リゼリオから遠くには運ばれていない可能性も?」
「それに、型を弄る訳にもいかないと思うのです。部品や材料の調達の関係もありますから、意外と近くにあるのかもしれません」
「ふむ……そういえば、古屋敷は郊外に点在していたはずか……調べてみるのも手か」
なんとか希望が見えてきたようで、商会の長は肩を撫で下ろした。
同業者の手に渡るようなら最悪なのだ。そうなる前に発見して手元に取り戻したいし、出来なければ、いっそのこと大事な部品だけでも回収したい。
「古屋敷なら、私も知り合いにあたってみますね」
ルストは間借していた屋敷の主のお爺さん――オキナ――を思い浮かべながら言った。
色々と知っている事が多い、オキナなら、何か知っているかもしれない。
「よろしくお願いします。それでは、お互い、何か情報が掴めたら、連絡し合うという事で」
商会の長はスッと手を差し出し、ルストは力強く握ったのであった。
●
ハンターズソサエティ本部でライブラリを確認していた紡伎 希(kz0174)は口元に指を当てて悩んでいた。
モニターに映る画を幾度もなく繰り返しては「うーん」と唸る。
「形が一緒という事は、何か生産されたとしか思えないのですが……」
夏前にリゼリオ郊外に出現した金属人形の事だ。
金属のようなもので造られたマネキンっぽい人形の歪虚で、どうやら嫉妬に分類される事は判明している。
硬い上にBSに対する耐性も高く、放置しておくと危険な存在であるのは確かだ。
二度ほど出現してきているが、いずれもハンター達によって撃破されている。だからと言って安心できない。次の襲撃が無いという保証はどこにでもないのだから。
「不思議なのは、リゼリオの街以外には出現していないという事……街の中というのは考えられないから、やっぱり、郊外のどこかに……?」
独り言を呟きながら、希は依頼書にスラスラとペンを走らせた。
ハンター達に依頼を出すつもりなのだ。
何か歪虚に関する情報が発見できれば、御の字だし、何も見つからなければ、それはそれで、一つの結果だ。何もしない結果、重大な事件になるようであれば、予防線を引いた方が良いだろう。
「探す方法はハンターの皆様にお任せします……っと」
この街はハンターの拠点でもあるのだ。ハンターという肩書だけでも、それなりに調査活動は出来るはずだ。
希は依頼書に書き込んだ内容を確りと見直してから、書類を手に立ち上がった。
●
リゼリオ郊外に構えた屋敷でオキナは“魔装鞘”に浄化術を行使していた。
「ふー。これで今日の分は良いじゃろう」
締め切った部屋の中なので気温は外よりも高いかもしれない。
汗を拭いながら部屋を出るオキナ。
足取りがいつもよりも重く感じられた。歳のせいだとオキナは自分に言い聞かせる。
「それにしても本当に暑い日じゃのう……魔導空調設備でもあれば、良いのじゃが……」
リアルブルーには魔法とは異なる概念の技術が発達し、それで暑さも寒さも対応しているらしいが、この古い屋敷には、そんな便利なものがあるはずもない。
希も仕事、ルストも仕事なので、暫くは一人だ。
「ん……そういえば、嬢ちゃんもルストさんも、同じ色の髪と瞳じゃな……」
色が同じという事は、特段、珍しい事ではない。
目元とか似ているようにも見えた。親子と言っても違和感はない。
そうすると、爺さんは儂じゃなと心の中で呟く。
「……調べてみるのも手じゃが、あいにく、この屋敷から出られんしのー」
それが“魔装鞘”を保持している代償というものだ。
先の邪神眷属との戦いでは、無茶したようだが、状態に大きな変化はない。
「さて……今日は庭掃除でもするか」
重たい腰を上げるオキナであった。
リプレイ本文
●
とある商会の屋外で魔導洗濯機を修理していたルストを見かけ、時音 ざくろ(ka1250)が声を掛けた。
作業がちょうど一段落した所のようで、緑髪のおっさんは、ゆっくりとした動作で振り返る。
「あぁ、君か……確か、ざくろ君といったか」
「こんにちわ、ルストさん。実は、技術屋として聞きたい事があって」
そう前置きしてからざくろは事の経緯を話した。
ハンターオフィスからの依頼で、リゼリオ郊外に出没した嫉妬人形の事と、その拠点を探している事をだ。
幾度か頷きながら、ハンターの話を聞き終わったルストは険しい表情を浮かべる。
「オフィスからの依頼が出たという事は、制作機械が、嫉妬歪虚――ピグマリオ――に利用されていると見ていい訳だ」
「ピグマリオに?」
「私達の技術仲間の間では、機械や人形を操れる力を持つのが、ピグマリオという歪虚の特徴だって言われていてね」
もっとも、嫉妬歪虚の王は既に討伐されているので、事件を起こしているのは残党という事だろう。
「拠点の場所をなんとか調べられればいいけど……」
邪神を倒して、せっかく勝ち取った未来なのに、平和に過ごせないのでは意味がない。
それに、関わった事案でもある。あの人形歪虚をこのまま見過ごすわけにはいかない。
「目星としては、材料の調達が行いやすい場所かもしれないね」
「なにか見当つきますか?」
ざくろの問いにルストは首を横に振った。
相手が人外であれば、材料がどの程度の状況でも加工できるのか分からないからだ。
原材料だけでいいのか、ある程度の加工が必要なのかによって、持ち運ぶ手間の内容も変わってくる。
「まぁ、人目につかない場所であるぐらい……かな」
苦笑しているおっさんの顔を見て、ざくろはふと、紡伎 希(kz0174)が脳裏に浮かんだ。
髪も瞳も同じ色しているし、なにより、目元とかどことなく似ている気もする。
(似てる気がするんだよなぁ)
実は親戚だったりするのだろうか。
そんな事を思いながら、ざくろはポンと手を叩くと魔導カメラを手にした。
「ちゃんと聞き取りの仕事していた証拠に、一緒に撮ってもいいですか?」
「えぇ、大丈夫ですよ。ふむ……この、カメラ、帝国産かい?」
根っからの技術者っぽいルストの台詞に、ざくろは口元を緩めながら、魔導カメラを設置した。
●
オキナに会いに指示された屋敷へと足を運んだアルラウネ(ka4841)とイツキ・ウィオラス(ka6512)の二人は、屋敷の庭で芝を手入れしている翁を見つけた。
「オーキナー」
声を張り上げてアルラウネが呼ぶ。
手入れに集中していたオキナは気が付くと、腰を押さえながら、緩慢な動きで立ち上がった。
「おぉ。アルラウネの嬢ちゃんじゃないか……もう一人は、誰だったかの?」
「初めまして。イツキ・ウィオラスと申します。縁有って依頼を受け、解決に向けてお話を聴いて回っていまして、お時間いただければと」
「そういう事じゃったか。儂はてっきり、アルラウネの嬢ちゃんが里から連れ出してきた家出少女だと思ったわい」
オキナの冗談めいた台詞にアルラウネが呆れ顔をする。
「エルフだからって、誰でも出身の里が一緒な訳ないでしょ」
「儂の知っているエルフはどちらかというと森の中に引きこもっているイメージじゃからの。おっと、イツキの嬢ちゃんよ、儂の事はオキナと呼んでくれ」
ニカっと笑いながら翁は告げると、水筒を手にした。
人間にしては老人なのだろうが、袖先から見える筋肉には衰えを感じさせない。
(戦慄の機導師……と言うのは、聞いた事がありませんが。とても凄いお爺さんなのですよね)
心の中でイツキはそんな事を思った。
「それで、何の依頼の件じゃ?」
「人形制作用の器械の盗難と、その人形型の歪虚が出現した事に、何か心当たりはありませんか?」
「あの金属人形の事かの……あれは、嫉妬歪虚が絡んでいるに違いないはずじゃ」
そう断言するとオキナは園芸用の麻紐を取り出して解く。
紐の先端に適当な物を括り付けて、ポンと投げた。
「嫉妬歪虚には特殊な能力を持っている個体があってな。簡単に言ってしまえば、無機物を操作できるのじゃ」
「傲慢歪虚でいうところの【強制】みたいなもの?」
首を傾げるアルラウネにオキナは頷いた。
「【強制】はある程度の知能がある生命に有効な能力じゃ。対して、嫉妬歪虚の能力は、無機物に対して有効になる。例えば、馬は【強制】を受ける場合があるが、バイクは大丈夫じゃが、嫉妬歪虚の能力では、バイクを操作してくる場合がある」
「厄介な能力ですね」
「儂はこれを【玩具兵隊】と呼んでおる」
得意気なオキナにイツキは更に訊ねた。
「操作できる以上、その人形型の歪虚の操作主はどこにいるのでしょうか?」
「それ、それが問題じゃ。数も距離も時間も無制限に近いほど、強力な嫉妬である可能性は高い」
何かに気が付いた様でアルラウネがポンと手を叩いた。
「そっか、だから、リゼリオの郊外のどこかに潜んでいる可能性があるんだ」
嫉妬の王であれば、街外の可能があったが、王は倒されている以上、まだ残っている輩がいるのだろう。
「リゼリオ郊外といっても広いですが、オキナはそれでも目星はあるのですか?」
「当然じゃ。いくら無機物を操作できるといっても、無から有を作り出すほどの高位でなければ、コアや素体は必要じゃろう」
「つまり、制作用の器械で作り出した人形を操作していると」
「人形を作りだすには材料が必要で、材料は外から運び入れる必要がある。という事は、人間側に協力者がいるはずじゃ。リゼリオは物流の要であって、資源を産出する所ではないからの」
これまでの説明に、流石だなと感心するアルラウネ。
後は、人目に付かずに材料を運び入れられる経路と取引している人物を、現地で調べるしかない。
土地勘ある人に訊けば、絞り込めるだろうし、取引の情報は帳簿管理がされている以上、追跡はしやすいはずだ。
「あ、そうだ。オキナは、ルストさんとノゾミちゃんの関係って何かあると思う? 似てる気がするんだけど」
素朴なアルラウネの質問にオキナは人差し指を立てた。
「儂も似ていると思ってた所じゃ。じゃが、調べるには王国に行かんと何も分からんからの」
「そうだよね」
オキナの言葉に同意しながら、アルラウネは立ち上がった。
これから、仲間達と情報を共有して、調査に行く為だ。
●
港が一望できる料亭で、瀬崎・統夜(ka5046)は希と一緒に食事をしながら、情報の確認を行っていた。
仲間のハンター達が得た情報を共有し役割を分担したり、あるいは、必要であればオフィスからの協力を得る為でもある。
「リゼリオの街にのみ現れる、金属雑魔……嫉妬は王も滅んだってのに頑張るもんだ」
「大人しくしていてくれれば良いとは思うのですが……」
「相手がやる気なら仕方ないものさ。過去に出現した後の追跡はどうなったんだ?」
瀬崎の質問に希は一枚の書類を取り出した。
追跡調査の結果、どこから敵が出現したのか、その追跡が困難で不明のままだという。
「絞り込むには情報が少ないみたいで」
「だったら、やっぱり、俺達が現地調査や聞き取りだな。現場百遍とも言うしな」
グラスを手に取りながら瀬崎は言うと、背もたれに寄り掛かった。
ルストとオキナの所に向かった仲間達が調査の手掛かりとなる情報を集めたので、後は走り回るだけだ。
「帳簿関係の方からの割り出しは、オフィスの方で手伝ってくれるという事でいいのか?」
「はい。私も含め、何人かで分担してみます。分かり次第、連絡を入れますので」
ハンターという立場は保障されている街ではあるが、やはり、公式の職員の方が、動きやすい場面もあるだろう。
「あぁ、頼む。もうひと踏ん張りだな。邪神を倒し、未来は拓かれているから」
「はい。私もやるべき事があるので」
「何かしたい事があるなら考えてみるのは良い頃合いだろう。なんかあるなら、相談に乗るぞ」
頼もしい事を告げた瀬崎に希は「うーん」と唸りながら首を傾げた。
希は受付嬢という道と、アルテミス小隊の小隊長という道、そして、【魔装】との決着が待っている。
「……きっと、人の世から絶望は無くならない。けれど、希望を抱き続ける事だってできる事を、共に手を取り合って前に進む事ができるって、そういう組織を作ろうという話がありまして……」
「それは良い事じゃないか」
「具体的にどうすればいいのかという話になると、私に何が出来るんだろうって」
ハンターオフィスに依頼が入ってきて、問題を解決する為にハンターが出向く。
これは一つの在り方として良いだろう。だが、世の中には、そもそも、依頼すら出せないような人だっている。
あるいは、助けを求める事に否定的な人もいるだろう。
「……それは確かに悩ましいな」
瀬崎は僅かな間の後にそう答えた。
結局、出来る事をやるしかないのだ。人間である以上、人間の枠から超えた事はできない。
いつかきっと、希自身が気がつく事があるだろう。それは誰かに教えてもらって理解する事ではなく、自らの気付きで分かる事なのだ。
「もう少し悩んでみて、どうしようもなかったら、俺も手伝うよ」
だから、瀬崎はそう応えるのであった。
●
広大な郊外を走り回ったざくろは地図に調べた情報を書き込んでいく。
「ロプラス、お疲れ」
大空から戻ってきた機械化怪鳥を迎える。
疲れたような鳴き声をあげる相棒を大事そうに肩の上に乗せた。
ファミリアズアイを行使して、大空から調査していたのだ。屋敷の大きさや、馬車が通った跡がないのかと確認するのは大事な事であった。
「皆からの情報も書き込んでいるけど、大体は埋まってきたかな」
「実際に屋敷の中に踏み込めれば違うだろうが……そういう訳にもいかないだろうしな」
オフィスから通信機を通じて瀬崎から連絡が入る。
屋敷内に入っていいかどうか、希を通じて確認してもらったのだが、現状では難しいとの事だった。
間違いだったら失礼だろし。
「それと、希の方が帳簿を調べた結果だが、金属性の廃棄物を集めている行商がいると分かった。大きな船を所有したり借りた形跡はないそうだ」
「荷馬車の方に当たったけど、最近、材料となるようなものを郊外の屋敷に運んだという情報は無かったです」
イツキがリゼリオの街中で聞き取りした内容を伝えた。
聞き取りした先が荷馬車を生業とする者すべてではないだろうが、確信できる情報だと思った。
「この情報が正しければ、荷馬車を使っての移動は無かったという事になります」
「荷馬車でもなければ、大きな船でもないし、そんな金属の材料を生身の人間が持ち運べる訳でもないとない……とすれば……」
「今日のざくろくんは冴えてるっ!」
ざくろの推測にアルラウネは微笑を浮かべた。
「今日の?」
疑問形で口にしたイツキの台詞をざくろが慌てて遮る。
「つ、つまり、犯人は小船で運んでいる可能性が高いって事!」
「それなら、舟屋に近い形式の屋敷が怪しいな。必然的に川や用水路に面している事になる」
リアルブルーの日本出身の瀬崎が祖国を思い出しながら言った。
「舟屋って何?」
「お舟屋さんですか?」
アルラウネとイツキの疑問に対して、瀬崎が説明した。
「俺の祖国のある地方の漁村の建物で、一階は漁船の収容スペースで、二階が居住スペースとなっている形状なのだ。まるっきり同じという訳ではないが、似たような形の屋敷があるかもしれない」
「それ、あるよ! 大きめの用水路に隣接しているように立っている屋敷が! しかも、条件を満たすような大きさになると、一つしかない!」
興奮した様子でざくろが地図と睨めっこしながら叫んだ。
全員は集合するとざくろの案内で現地へと向かった。
古ぼけた屋敷は長大で高い塀に囲まれており、地上からだと中を確認するのは難しかった。
「……どうやら窓全部にカーテンが閉じてたり、雨戸で中が見えないみたい」
ざくろがファミリアズアイの集中から戻ると仲間に告げる。
廃屋敷ではあるが、所有者の許可なく立ち入る事は依頼上、出来ないのでこればかりは仕方ない。
「希の話によると、必要な情報が集まれば、強制的に踏み込めるらしいからな」
「今回は不自然な所を見つける事ぐらいかな……こういう時、符術師がいたら楽なんだけど……」
ないものねだりのアルラウネが符に見立てた紙キレを手にしながら言った。
「用水路に面している方向に回りますか」
イツキの提案に全員が頷くと、適当な所で用水路を越えて、ぐるっと回る。
屋敷は用水路と繋がっていた。一階部分が深く抉れるようになっており、あれなら、船で入ってそのまま陸揚げできるだろう。
「暗くてよく見えないけど……でも、“明らか”ですね」
指さしたイツキだけではなく、誰もがすぐに理解できた。
見た目、古ぼけた屋敷であるのに、用水路と繋がっている部分だけは明らかに整理され、かつ、補修の後なども見られたからだ。
「金属人形の出現位置も分からなかった訳だ。用水路から出入りが出来るなら、足跡の追跡は困難だからな」
「補修されているって事は、きっと、負のマテリアルの影響を受けて破損した所かもしれない」
瀬崎とざくろの推測にアルラウネはウンウンと頷いた。
これだけ情報が集まったのだ。あとは改めて依頼を出してくれるに違いない。
「それじゃ、オフィスに戻ろっか!」
アルラウネはざくろの腕に飛びつき、あてながら、そう宣言したのであった。
ハンター達の調査により、嫉妬歪虚の拠点ではないかという屋敷が発見された。
得られた情報から強制的な立ち入りの必要性があると判断し、後日、依頼が出される事が決定したのであった。
おしまい。
●
ざくろや仲間達の調査を支援していたUisca Amhran(ka0754)は、改めて、ルストに事の顛末を伝えていた。
「良い結果になって良かったです。私はオキナの屋敷で待っていますね」
「はい。それでいいかと……ところで、ルストさん、オキナさんの所でノゾミちゃんに会いました?」
「えぇ、しっかりとしたお嬢ちゃんでしたね」
微笑みながら答えるルスト。
「ルストさんには、故郷の村は歪虚に滅ぼされてご家族は亡くなった……と伺いましたけど、もしかして、ノゾミちゃんが亡くなったはずの娘さんじゃないか、と……」
「確かに髪と瞳の色は同じですが……特に分かるような特徴もありませんし」
色が同じというだけでは親子関係を証明するのは難しいようだ。
「あの子は過去に“義父”に虐待を受けていたんです……もし、本当の父親がいるのなら、会わせてあげたくて……」
「そんな事があったんですね……でも、仮にそうだとしても、私は、自分の夢の為に、妻子を捨ててきた男です。今更、父親とか……」
悲しそうな表情でルストはそう告白したのであった。
とある商会の屋外で魔導洗濯機を修理していたルストを見かけ、時音 ざくろ(ka1250)が声を掛けた。
作業がちょうど一段落した所のようで、緑髪のおっさんは、ゆっくりとした動作で振り返る。
「あぁ、君か……確か、ざくろ君といったか」
「こんにちわ、ルストさん。実は、技術屋として聞きたい事があって」
そう前置きしてからざくろは事の経緯を話した。
ハンターオフィスからの依頼で、リゼリオ郊外に出没した嫉妬人形の事と、その拠点を探している事をだ。
幾度か頷きながら、ハンターの話を聞き終わったルストは険しい表情を浮かべる。
「オフィスからの依頼が出たという事は、制作機械が、嫉妬歪虚――ピグマリオ――に利用されていると見ていい訳だ」
「ピグマリオに?」
「私達の技術仲間の間では、機械や人形を操れる力を持つのが、ピグマリオという歪虚の特徴だって言われていてね」
もっとも、嫉妬歪虚の王は既に討伐されているので、事件を起こしているのは残党という事だろう。
「拠点の場所をなんとか調べられればいいけど……」
邪神を倒して、せっかく勝ち取った未来なのに、平和に過ごせないのでは意味がない。
それに、関わった事案でもある。あの人形歪虚をこのまま見過ごすわけにはいかない。
「目星としては、材料の調達が行いやすい場所かもしれないね」
「なにか見当つきますか?」
ざくろの問いにルストは首を横に振った。
相手が人外であれば、材料がどの程度の状況でも加工できるのか分からないからだ。
原材料だけでいいのか、ある程度の加工が必要なのかによって、持ち運ぶ手間の内容も変わってくる。
「まぁ、人目につかない場所であるぐらい……かな」
苦笑しているおっさんの顔を見て、ざくろはふと、紡伎 希(kz0174)が脳裏に浮かんだ。
髪も瞳も同じ色しているし、なにより、目元とかどことなく似ている気もする。
(似てる気がするんだよなぁ)
実は親戚だったりするのだろうか。
そんな事を思いながら、ざくろはポンと手を叩くと魔導カメラを手にした。
「ちゃんと聞き取りの仕事していた証拠に、一緒に撮ってもいいですか?」
「えぇ、大丈夫ですよ。ふむ……この、カメラ、帝国産かい?」
根っからの技術者っぽいルストの台詞に、ざくろは口元を緩めながら、魔導カメラを設置した。
●
オキナに会いに指示された屋敷へと足を運んだアルラウネ(ka4841)とイツキ・ウィオラス(ka6512)の二人は、屋敷の庭で芝を手入れしている翁を見つけた。
「オーキナー」
声を張り上げてアルラウネが呼ぶ。
手入れに集中していたオキナは気が付くと、腰を押さえながら、緩慢な動きで立ち上がった。
「おぉ。アルラウネの嬢ちゃんじゃないか……もう一人は、誰だったかの?」
「初めまして。イツキ・ウィオラスと申します。縁有って依頼を受け、解決に向けてお話を聴いて回っていまして、お時間いただければと」
「そういう事じゃったか。儂はてっきり、アルラウネの嬢ちゃんが里から連れ出してきた家出少女だと思ったわい」
オキナの冗談めいた台詞にアルラウネが呆れ顔をする。
「エルフだからって、誰でも出身の里が一緒な訳ないでしょ」
「儂の知っているエルフはどちらかというと森の中に引きこもっているイメージじゃからの。おっと、イツキの嬢ちゃんよ、儂の事はオキナと呼んでくれ」
ニカっと笑いながら翁は告げると、水筒を手にした。
人間にしては老人なのだろうが、袖先から見える筋肉には衰えを感じさせない。
(戦慄の機導師……と言うのは、聞いた事がありませんが。とても凄いお爺さんなのですよね)
心の中でイツキはそんな事を思った。
「それで、何の依頼の件じゃ?」
「人形制作用の器械の盗難と、その人形型の歪虚が出現した事に、何か心当たりはありませんか?」
「あの金属人形の事かの……あれは、嫉妬歪虚が絡んでいるに違いないはずじゃ」
そう断言するとオキナは園芸用の麻紐を取り出して解く。
紐の先端に適当な物を括り付けて、ポンと投げた。
「嫉妬歪虚には特殊な能力を持っている個体があってな。簡単に言ってしまえば、無機物を操作できるのじゃ」
「傲慢歪虚でいうところの【強制】みたいなもの?」
首を傾げるアルラウネにオキナは頷いた。
「【強制】はある程度の知能がある生命に有効な能力じゃ。対して、嫉妬歪虚の能力は、無機物に対して有効になる。例えば、馬は【強制】を受ける場合があるが、バイクは大丈夫じゃが、嫉妬歪虚の能力では、バイクを操作してくる場合がある」
「厄介な能力ですね」
「儂はこれを【玩具兵隊】と呼んでおる」
得意気なオキナにイツキは更に訊ねた。
「操作できる以上、その人形型の歪虚の操作主はどこにいるのでしょうか?」
「それ、それが問題じゃ。数も距離も時間も無制限に近いほど、強力な嫉妬である可能性は高い」
何かに気が付いた様でアルラウネがポンと手を叩いた。
「そっか、だから、リゼリオの郊外のどこかに潜んでいる可能性があるんだ」
嫉妬の王であれば、街外の可能があったが、王は倒されている以上、まだ残っている輩がいるのだろう。
「リゼリオ郊外といっても広いですが、オキナはそれでも目星はあるのですか?」
「当然じゃ。いくら無機物を操作できるといっても、無から有を作り出すほどの高位でなければ、コアや素体は必要じゃろう」
「つまり、制作用の器械で作り出した人形を操作していると」
「人形を作りだすには材料が必要で、材料は外から運び入れる必要がある。という事は、人間側に協力者がいるはずじゃ。リゼリオは物流の要であって、資源を産出する所ではないからの」
これまでの説明に、流石だなと感心するアルラウネ。
後は、人目に付かずに材料を運び入れられる経路と取引している人物を、現地で調べるしかない。
土地勘ある人に訊けば、絞り込めるだろうし、取引の情報は帳簿管理がされている以上、追跡はしやすいはずだ。
「あ、そうだ。オキナは、ルストさんとノゾミちゃんの関係って何かあると思う? 似てる気がするんだけど」
素朴なアルラウネの質問にオキナは人差し指を立てた。
「儂も似ていると思ってた所じゃ。じゃが、調べるには王国に行かんと何も分からんからの」
「そうだよね」
オキナの言葉に同意しながら、アルラウネは立ち上がった。
これから、仲間達と情報を共有して、調査に行く為だ。
●
港が一望できる料亭で、瀬崎・統夜(ka5046)は希と一緒に食事をしながら、情報の確認を行っていた。
仲間のハンター達が得た情報を共有し役割を分担したり、あるいは、必要であればオフィスからの協力を得る為でもある。
「リゼリオの街にのみ現れる、金属雑魔……嫉妬は王も滅んだってのに頑張るもんだ」
「大人しくしていてくれれば良いとは思うのですが……」
「相手がやる気なら仕方ないものさ。過去に出現した後の追跡はどうなったんだ?」
瀬崎の質問に希は一枚の書類を取り出した。
追跡調査の結果、どこから敵が出現したのか、その追跡が困難で不明のままだという。
「絞り込むには情報が少ないみたいで」
「だったら、やっぱり、俺達が現地調査や聞き取りだな。現場百遍とも言うしな」
グラスを手に取りながら瀬崎は言うと、背もたれに寄り掛かった。
ルストとオキナの所に向かった仲間達が調査の手掛かりとなる情報を集めたので、後は走り回るだけだ。
「帳簿関係の方からの割り出しは、オフィスの方で手伝ってくれるという事でいいのか?」
「はい。私も含め、何人かで分担してみます。分かり次第、連絡を入れますので」
ハンターという立場は保障されている街ではあるが、やはり、公式の職員の方が、動きやすい場面もあるだろう。
「あぁ、頼む。もうひと踏ん張りだな。邪神を倒し、未来は拓かれているから」
「はい。私もやるべき事があるので」
「何かしたい事があるなら考えてみるのは良い頃合いだろう。なんかあるなら、相談に乗るぞ」
頼もしい事を告げた瀬崎に希は「うーん」と唸りながら首を傾げた。
希は受付嬢という道と、アルテミス小隊の小隊長という道、そして、【魔装】との決着が待っている。
「……きっと、人の世から絶望は無くならない。けれど、希望を抱き続ける事だってできる事を、共に手を取り合って前に進む事ができるって、そういう組織を作ろうという話がありまして……」
「それは良い事じゃないか」
「具体的にどうすればいいのかという話になると、私に何が出来るんだろうって」
ハンターオフィスに依頼が入ってきて、問題を解決する為にハンターが出向く。
これは一つの在り方として良いだろう。だが、世の中には、そもそも、依頼すら出せないような人だっている。
あるいは、助けを求める事に否定的な人もいるだろう。
「……それは確かに悩ましいな」
瀬崎は僅かな間の後にそう答えた。
結局、出来る事をやるしかないのだ。人間である以上、人間の枠から超えた事はできない。
いつかきっと、希自身が気がつく事があるだろう。それは誰かに教えてもらって理解する事ではなく、自らの気付きで分かる事なのだ。
「もう少し悩んでみて、どうしようもなかったら、俺も手伝うよ」
だから、瀬崎はそう応えるのであった。
●
広大な郊外を走り回ったざくろは地図に調べた情報を書き込んでいく。
「ロプラス、お疲れ」
大空から戻ってきた機械化怪鳥を迎える。
疲れたような鳴き声をあげる相棒を大事そうに肩の上に乗せた。
ファミリアズアイを行使して、大空から調査していたのだ。屋敷の大きさや、馬車が通った跡がないのかと確認するのは大事な事であった。
「皆からの情報も書き込んでいるけど、大体は埋まってきたかな」
「実際に屋敷の中に踏み込めれば違うだろうが……そういう訳にもいかないだろうしな」
オフィスから通信機を通じて瀬崎から連絡が入る。
屋敷内に入っていいかどうか、希を通じて確認してもらったのだが、現状では難しいとの事だった。
間違いだったら失礼だろし。
「それと、希の方が帳簿を調べた結果だが、金属性の廃棄物を集めている行商がいると分かった。大きな船を所有したり借りた形跡はないそうだ」
「荷馬車の方に当たったけど、最近、材料となるようなものを郊外の屋敷に運んだという情報は無かったです」
イツキがリゼリオの街中で聞き取りした内容を伝えた。
聞き取りした先が荷馬車を生業とする者すべてではないだろうが、確信できる情報だと思った。
「この情報が正しければ、荷馬車を使っての移動は無かったという事になります」
「荷馬車でもなければ、大きな船でもないし、そんな金属の材料を生身の人間が持ち運べる訳でもないとない……とすれば……」
「今日のざくろくんは冴えてるっ!」
ざくろの推測にアルラウネは微笑を浮かべた。
「今日の?」
疑問形で口にしたイツキの台詞をざくろが慌てて遮る。
「つ、つまり、犯人は小船で運んでいる可能性が高いって事!」
「それなら、舟屋に近い形式の屋敷が怪しいな。必然的に川や用水路に面している事になる」
リアルブルーの日本出身の瀬崎が祖国を思い出しながら言った。
「舟屋って何?」
「お舟屋さんですか?」
アルラウネとイツキの疑問に対して、瀬崎が説明した。
「俺の祖国のある地方の漁村の建物で、一階は漁船の収容スペースで、二階が居住スペースとなっている形状なのだ。まるっきり同じという訳ではないが、似たような形の屋敷があるかもしれない」
「それ、あるよ! 大きめの用水路に隣接しているように立っている屋敷が! しかも、条件を満たすような大きさになると、一つしかない!」
興奮した様子でざくろが地図と睨めっこしながら叫んだ。
全員は集合するとざくろの案内で現地へと向かった。
古ぼけた屋敷は長大で高い塀に囲まれており、地上からだと中を確認するのは難しかった。
「……どうやら窓全部にカーテンが閉じてたり、雨戸で中が見えないみたい」
ざくろがファミリアズアイの集中から戻ると仲間に告げる。
廃屋敷ではあるが、所有者の許可なく立ち入る事は依頼上、出来ないのでこればかりは仕方ない。
「希の話によると、必要な情報が集まれば、強制的に踏み込めるらしいからな」
「今回は不自然な所を見つける事ぐらいかな……こういう時、符術師がいたら楽なんだけど……」
ないものねだりのアルラウネが符に見立てた紙キレを手にしながら言った。
「用水路に面している方向に回りますか」
イツキの提案に全員が頷くと、適当な所で用水路を越えて、ぐるっと回る。
屋敷は用水路と繋がっていた。一階部分が深く抉れるようになっており、あれなら、船で入ってそのまま陸揚げできるだろう。
「暗くてよく見えないけど……でも、“明らか”ですね」
指さしたイツキだけではなく、誰もがすぐに理解できた。
見た目、古ぼけた屋敷であるのに、用水路と繋がっている部分だけは明らかに整理され、かつ、補修の後なども見られたからだ。
「金属人形の出現位置も分からなかった訳だ。用水路から出入りが出来るなら、足跡の追跡は困難だからな」
「補修されているって事は、きっと、負のマテリアルの影響を受けて破損した所かもしれない」
瀬崎とざくろの推測にアルラウネはウンウンと頷いた。
これだけ情報が集まったのだ。あとは改めて依頼を出してくれるに違いない。
「それじゃ、オフィスに戻ろっか!」
アルラウネはざくろの腕に飛びつき、あてながら、そう宣言したのであった。
ハンター達の調査により、嫉妬歪虚の拠点ではないかという屋敷が発見された。
得られた情報から強制的な立ち入りの必要性があると判断し、後日、依頼が出される事が決定したのであった。
おしまい。
●
ざくろや仲間達の調査を支援していたUisca Amhran(ka0754)は、改めて、ルストに事の顛末を伝えていた。
「良い結果になって良かったです。私はオキナの屋敷で待っていますね」
「はい。それでいいかと……ところで、ルストさん、オキナさんの所でノゾミちゃんに会いました?」
「えぇ、しっかりとしたお嬢ちゃんでしたね」
微笑みながら答えるルスト。
「ルストさんには、故郷の村は歪虚に滅ぼされてご家族は亡くなった……と伺いましたけど、もしかして、ノゾミちゃんが亡くなったはずの娘さんじゃないか、と……」
「確かに髪と瞳の色は同じですが……特に分かるような特徴もありませんし」
色が同じというだけでは親子関係を証明するのは難しいようだ。
「あの子は過去に“義父”に虐待を受けていたんです……もし、本当の父親がいるのなら、会わせてあげたくて……」
「そんな事があったんですね……でも、仮にそうだとしても、私は、自分の夢の為に、妻子を捨ててきた男です。今更、父親とか……」
悲しそうな表情でルストはそう告白したのであった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
- Uisca=S=Amhran(ka0754)
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 時音 ざくろ(ka1250) 人間(リアルブルー)|18才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2019/09/09 23:30:52 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/09/07 20:42:59 |