ゲスト
(ka0000)
未来へ進むその前に
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2019/09/16 22:00
- 完成日
- 2019/09/23 01:26
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●エルフハイムの森・スラーインさん家
クリムゾンウェスト各地で復旧、復興作業が始まる中マリー・スラーインは、久々に故郷に帰った。
近況を両親に説明するためだ。特にナルシス関係について。これまで何やかやで、説明する機会をすっかり逸してしまっていたので。
「――と、いうわけなの。私、ナルシスくんと人生を共にしようと思うの。いいでしょ?」
娘マリーから聞かされた話は、父親にとって寝耳に水過ぎた。
彼女に好きな相手がいることも、すでにその相手と浅からぬ仲であることも、かてて加えて同棲していることも、彼は全く知らなかったのである。
だもので娘の願いを受け入れるなんて心境には到底なれなかった――まあ、前もって聞かされていたとしてもやっぱり素直に受け入れるなんて事はしなかっただろうが。
なにしろ彼は、俗に言う頑固親父なのだ。
エルフの常に習い線の細い外見であり、年も30前後と若く見えるが、実年齢はもっともっと上。外の世界へ赴いたことは一度もないし、出ようとも思わない。エルフハイムほどエルフにとってよいところはないと、素朴に信じているバリバリの保守派だ。
「な、な、な、何を言い出すのだマリー! 職を見つけて真面目にやっているのかと思っていたのに、なん、なん、なんというふしだらな! 父はお前をそんな娘に育てた覚えはないぞ!」
「ふしだらじゃないもん本気だもん! 仕事は真面目にやってるし! だからお願い結婚を認めてお父さん。ナルシスくんは人間だから寿命が短いの、私が守ってあげないと」
「そんな重大なことをいきなり聞かされて、はいそうですかと認められるか!」
「何よお父さん、人間差別するつもりなの!」
「エルフであっても一緒だばかもん! そもそも一体そのナルシスとかいう奴はどこの馬の骨なのだ、何の仕事をしているのだ」
「馬の骨じゃないわよ失礼ね。ポルトワールっていう町にあるグリーク商会っていう会社の御曹司よ。会社を継いでるのは彼じゃなくてお姉さんだけど。でもねえ聞いてお父さん、すっごく美少年なの」
「そいつの外見についてなど聞いておらん、一体何の仕事をしているのだ」
「今はバイトしてるわ」
「バイ……定職にはついておらんのか?」
「うん。でもそんなことどうでもいいの。私が養うから」
「ハア!? お前は、何を言って――おい、母さん、母さんも何か言ってやってくれ!」
マリーの母も父と一緒でそれなりの年齢なのだが、見た目が随分若い。
彼女は夫と違い外の世界を知っている。若い時は森を出たこともあるらしい。そのためか、考えが保守的ではない。開明的であり、やや――軽々しい。
「マリー、その子そんなに美少年なの?」
なんて娘に聞くぐらい。
「そうよー、エルフ界でも十分通用するほど美少年」
「あらー……それはちょっと見てみたいかもしれないわね」
ところで親子が話している部屋の片隅には、優美な花模様が彫刻されたゆりかごが置いてあった。
その中にはすやすや眠る赤ん坊2人。
長子のマリーから長く間を空けつい最近、ぴょこんと出来た双子ちゃんだ。名前はヘプティとナーリ。
マリーはこのことを大歓迎している。この慶事で父親の気持ちも相当緩んでいるだろう。ならばナルシスの話を出してもそんなに反発しないだろうと。
だがその考えは甘かった。
「何を言い出すんだね母さん! とにかく私はそんな相手との結婚は認めないし許さん! そもそもお前が森を出るのも反対だったんだ! 帰ってきたついでだ、このまま実家に留まりなさい、実家に! 自分の将来についてもう一度真剣に考えてみるんだ!」
「いいわよ別に許さないなら許さないで! 私勝手にするから!」
「勝手になどさせん! ものども出会え、出会えー!」
ちなみにスラーイン家はかなりの権勢を誇る家柄。
父親の声に応じそこかしこから、氏族の男女が現れた。
「お嬢様がご乱心だー!」
「皆のもの、加勢をせよー!」
「あっちょっとなんなのよあんたたち! 放しなさいよ、放しなさいったらー!」
というわけでマリーはあえなく捕獲。謹慎の身と相成ったのであった。
●ジェオルジ支局の朝
コボちゃんはコボちゃんハウスの近くを流れる小川で、朝の顔洗い。
少し冷たくなってきた水で顔をゴシゴシ。
「わぶるるるるる」
すっきりしたところでオフィスへ出勤。
するとそこには、ハンターの八橋杏子がいた。
職員のジュアンと何やら話し合っている。
「マリーさんが、エルフハイムの実家へ里帰りに行ったまま戻ってこない?」
「そうなんだ。ナルシスくんから聞いたところによると。もしかしたら道中何かあったのかもしれないから、そこのところ調査してもらえればと思って」
「……この機会に悪縁切ろうって思ったんじゃないの? 私、ナルシスって子と直接拘わったことはないけど、うわさなら聞いてるわよ。口ばっかり達者なヒモなんだってね」
「その可能性はないと思う。残念ながらと言っていいのかどうかわかんないけどさ……とにかくないと思う。仮に万一そうだとしても、オフィスに何の連絡もないのは変だよ。マリーああ見えて、これまで無断欠勤したことはないし」
「……分かったわ。それじゃあまあ、私たちで調べてみるから。ところでその当のナルシスくんはどこに行ったの?」
「ああ、いったんポルトワールの実家に帰ってるんだ」
●手土産なければ話にならぬ
ポルトワール、グリーク商会執務室。
ニケは万年筆を指先でクルクル回しながら、仏頂面のナルシスに言った。
「マリーさん、あんたと一緒になりたいってことを実家の方に伝えるって、帰るとき言ってたのよね」
「そうだよ」
「じゃあもう間違いなく向こうの親類縁者に反対されてるわ。頭を冷やせって。その説得で足止めされてるんだと見るけど、あんたはどう見るの?」
「……そんな説得聞くような人じゃないよ、マリーは。だからそういうことがあったとしても、そのまま振り切って戻ってくるはずなんだよね。何事もなければ」
「何事って何だと思う?」
「物理的な足止めしか考えられないね」
「ふーん。まあ、無理ないわね。あんた無職だし。私が親なら絶対止めろって思うわ。閉じ込めてでも諦めさせようって。あんたの寄生生活もこれでおしまいかしら。そのほうが先方のためになることは間違いないけど」
ナルシスは苛々したように組んだ足を解き、来客用の椅子から立ち上がった。
「どこ行くの」
「姉さんには関係ないだろ」
「そうね、でもまあ、もしかマリーさんを迎えに行くんだとしたら、本気で職に就きなさいよ。今度ばかりは口先でどうにかなると思わないことね」
扉が閉まって弟が出て行く。
ニケは満足げに一人ごちた。
「いい機会だわ」
クリムゾンウェスト各地で復旧、復興作業が始まる中マリー・スラーインは、久々に故郷に帰った。
近況を両親に説明するためだ。特にナルシス関係について。これまで何やかやで、説明する機会をすっかり逸してしまっていたので。
「――と、いうわけなの。私、ナルシスくんと人生を共にしようと思うの。いいでしょ?」
娘マリーから聞かされた話は、父親にとって寝耳に水過ぎた。
彼女に好きな相手がいることも、すでにその相手と浅からぬ仲であることも、かてて加えて同棲していることも、彼は全く知らなかったのである。
だもので娘の願いを受け入れるなんて心境には到底なれなかった――まあ、前もって聞かされていたとしてもやっぱり素直に受け入れるなんて事はしなかっただろうが。
なにしろ彼は、俗に言う頑固親父なのだ。
エルフの常に習い線の細い外見であり、年も30前後と若く見えるが、実年齢はもっともっと上。外の世界へ赴いたことは一度もないし、出ようとも思わない。エルフハイムほどエルフにとってよいところはないと、素朴に信じているバリバリの保守派だ。
「な、な、な、何を言い出すのだマリー! 職を見つけて真面目にやっているのかと思っていたのに、なん、なん、なんというふしだらな! 父はお前をそんな娘に育てた覚えはないぞ!」
「ふしだらじゃないもん本気だもん! 仕事は真面目にやってるし! だからお願い結婚を認めてお父さん。ナルシスくんは人間だから寿命が短いの、私が守ってあげないと」
「そんな重大なことをいきなり聞かされて、はいそうですかと認められるか!」
「何よお父さん、人間差別するつもりなの!」
「エルフであっても一緒だばかもん! そもそも一体そのナルシスとかいう奴はどこの馬の骨なのだ、何の仕事をしているのだ」
「馬の骨じゃないわよ失礼ね。ポルトワールっていう町にあるグリーク商会っていう会社の御曹司よ。会社を継いでるのは彼じゃなくてお姉さんだけど。でもねえ聞いてお父さん、すっごく美少年なの」
「そいつの外見についてなど聞いておらん、一体何の仕事をしているのだ」
「今はバイトしてるわ」
「バイ……定職にはついておらんのか?」
「うん。でもそんなことどうでもいいの。私が養うから」
「ハア!? お前は、何を言って――おい、母さん、母さんも何か言ってやってくれ!」
マリーの母も父と一緒でそれなりの年齢なのだが、見た目が随分若い。
彼女は夫と違い外の世界を知っている。若い時は森を出たこともあるらしい。そのためか、考えが保守的ではない。開明的であり、やや――軽々しい。
「マリー、その子そんなに美少年なの?」
なんて娘に聞くぐらい。
「そうよー、エルフ界でも十分通用するほど美少年」
「あらー……それはちょっと見てみたいかもしれないわね」
ところで親子が話している部屋の片隅には、優美な花模様が彫刻されたゆりかごが置いてあった。
その中にはすやすや眠る赤ん坊2人。
長子のマリーから長く間を空けつい最近、ぴょこんと出来た双子ちゃんだ。名前はヘプティとナーリ。
マリーはこのことを大歓迎している。この慶事で父親の気持ちも相当緩んでいるだろう。ならばナルシスの話を出してもそんなに反発しないだろうと。
だがその考えは甘かった。
「何を言い出すんだね母さん! とにかく私はそんな相手との結婚は認めないし許さん! そもそもお前が森を出るのも反対だったんだ! 帰ってきたついでだ、このまま実家に留まりなさい、実家に! 自分の将来についてもう一度真剣に考えてみるんだ!」
「いいわよ別に許さないなら許さないで! 私勝手にするから!」
「勝手になどさせん! ものども出会え、出会えー!」
ちなみにスラーイン家はかなりの権勢を誇る家柄。
父親の声に応じそこかしこから、氏族の男女が現れた。
「お嬢様がご乱心だー!」
「皆のもの、加勢をせよー!」
「あっちょっとなんなのよあんたたち! 放しなさいよ、放しなさいったらー!」
というわけでマリーはあえなく捕獲。謹慎の身と相成ったのであった。
●ジェオルジ支局の朝
コボちゃんはコボちゃんハウスの近くを流れる小川で、朝の顔洗い。
少し冷たくなってきた水で顔をゴシゴシ。
「わぶるるるるる」
すっきりしたところでオフィスへ出勤。
するとそこには、ハンターの八橋杏子がいた。
職員のジュアンと何やら話し合っている。
「マリーさんが、エルフハイムの実家へ里帰りに行ったまま戻ってこない?」
「そうなんだ。ナルシスくんから聞いたところによると。もしかしたら道中何かあったのかもしれないから、そこのところ調査してもらえればと思って」
「……この機会に悪縁切ろうって思ったんじゃないの? 私、ナルシスって子と直接拘わったことはないけど、うわさなら聞いてるわよ。口ばっかり達者なヒモなんだってね」
「その可能性はないと思う。残念ながらと言っていいのかどうかわかんないけどさ……とにかくないと思う。仮に万一そうだとしても、オフィスに何の連絡もないのは変だよ。マリーああ見えて、これまで無断欠勤したことはないし」
「……分かったわ。それじゃあまあ、私たちで調べてみるから。ところでその当のナルシスくんはどこに行ったの?」
「ああ、いったんポルトワールの実家に帰ってるんだ」
●手土産なければ話にならぬ
ポルトワール、グリーク商会執務室。
ニケは万年筆を指先でクルクル回しながら、仏頂面のナルシスに言った。
「マリーさん、あんたと一緒になりたいってことを実家の方に伝えるって、帰るとき言ってたのよね」
「そうだよ」
「じゃあもう間違いなく向こうの親類縁者に反対されてるわ。頭を冷やせって。その説得で足止めされてるんだと見るけど、あんたはどう見るの?」
「……そんな説得聞くような人じゃないよ、マリーは。だからそういうことがあったとしても、そのまま振り切って戻ってくるはずなんだよね。何事もなければ」
「何事って何だと思う?」
「物理的な足止めしか考えられないね」
「ふーん。まあ、無理ないわね。あんた無職だし。私が親なら絶対止めろって思うわ。閉じ込めてでも諦めさせようって。あんたの寄生生活もこれでおしまいかしら。そのほうが先方のためになることは間違いないけど」
ナルシスは苛々したように組んだ足を解き、来客用の椅子から立ち上がった。
「どこ行くの」
「姉さんには関係ないだろ」
「そうね、でもまあ、もしかマリーさんを迎えに行くんだとしたら、本気で職に就きなさいよ。今度ばかりは口先でどうにかなると思わないことね」
扉が閉まって弟が出て行く。
ニケは満足げに一人ごちた。
「いい機会だわ」
リプレイ本文
●出発前に
ハンターたちはエルバッハ・リオン(ka2434)の提案により、事前会議を行うことにした。
その席でルベーノ・バルバライン(ka6752)は、軋るような声を出す。
「なあ、ナルシス。俺は常々、人の恋路を邪魔する奴は鮫に喰われて死んでしまえと思っているのだが。もしもマリーの父親がマリーを軟禁していたのが確定したら、少々灸を据えても良いと思うが」
星野 ハナ(ka5852)も彼に負けず劣らず、憤懣口調。
「マリーさんの願い頭ごなしに否定してぇ、マリーさんの意志を無視して監禁してぇ、愛なんて理由になりませんよぅ。それ女性を攫って手籠にする変態と同じ理由ですからぁ」
そんな2人にリオンは強く自制を求める。
「実力行使には反対です。下手をしたらこちらが犯罪者とされる恐れがあります」
対しマリィア・バルデス(ka5848)は異議を唱える。
「相手の意志を無視する軟禁は犯罪、無断欠勤の汚名と言う実害までマリーは受けてる。その状態を解消するため実力を行使する、というのは犯罪に当たらないんじゃないかしら」
そこに杏子が入る。彼女もリオンと同じく、実力行使はまずいと考えていた。
「娘に寄生してるヒモが応援を頼んで無理やり取り返しに来た――と取られかねないわよ」
トリプルJ(ka6653)は杏子の意見を一部認めつつも、力を使うべきときは使わせてもらうと明言した。
「そもそも皆の見立てが正しいとすれば、先に向こうが実力行使してるわけだろう?」
当のナルシスは発言なし。何やら思案を巡らせている様子。
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)はそんな彼に説き聞かせる。本腰入れて仕事を探すべきではと。
「――ちゃんとお仕事しないと、たとえ今回連れ戻せたとしても、またその事でお二人に数多の試練が降り注ぐ事になると思うんです……だから、普通に仕事に縛られるのが難しいなら、自由な時間でお金を稼げる仕事、例えば……」
「例えば?」
聞き返されて詰まる。遠い目をしながら言う。
「……例えば、そんな仕事有ったら私も紹介して欲しいです、はい。まぁ、真剣に考えてください」
そこで天竜寺 舞(ka0377)が魔導カメラを取り出し、ナルシスを撮影。
「何」
「いや、ちょっと。皆、先に行ってて。後で追いかけるから」
と言い残して、場から退く。
リオンは卓上の地球連合軍用PDAを手に取り、再度自分の立場を強調する。
「私は実力行使には絶対協力しません。実力行使をした方が事後責任を問われた場合、私は、全てその方の独断行為であると主張いたします。それからこのやり取り同様マリーさんの父親との会話も、全てこのPADに録音させていただきます。後になって言った言わないで揉めたくないですから――皆さん、それでよろしいですね?」
杏子が腕組みした状態で片手を挙げる。
「異議なし。私はそれでいいわ」
他のメンバーも特に反対は唱えなかった。
議論が終わったと判断したメイム(ka2290)は、ナルシスの肩をつつく。
「ナルシス君、迎えに行くに当ってマリーさんと二人で書いた宣誓書持ってきてね。あたしは手伝うから♪」
そして彼にひそひそ耳打ち。
何事かを打ち合わせ。
●初めましてお父さん
エルフハイムにあるエルフ集落の一つ。
そのうちで最も大きい住居が、マリーの実家。
リオンはまずマリー母に会い挨拶した後、来訪目的について説明した。それから、マリー父と面会したい旨を申し出た。
マリー母は彼女の要求に、快く応じてくれた。
「まあ、そうですか。遠いところからわざわざお越しいただいて――あなたがナルシスくんね。まあまあ、マリーが言った通りの子ねえ……少し待っていてくださいな」
好反応を受け訪問者一同、ほっとする。
なにしろ集落に入ってからずっと、ぴりぴりした空気を感じ続けていたもので――恐らくマリーの一件が(彼女の父親というフィルターを通して)住民全体に知れ渡っているのだろう。
エルフの住居は木と一体化する作り。どこにドアがあるのか窓があるのか、ちょっと見ただけでは見当がつけづらい。
なのでハナはタロットカードを使い、手早くマリーの居場所を占う。結果をこそっと仲間に伝える。
「マリーさん、どうも、上の方にいるみたいですぅ」
そこで扉が開いた。
マリー母と一緒にマリー父が出てきた。
出てくるや否や、ナルシス一人に狙いを定め怒鳴りつけた。
「貴様かー! 私の娘をたぶらかしおったのはー!」
どうやらハンターの存在は眼中にない様子。よっぽどナルシスについて面白からず思っているのだろう。
マリィアは、やんわり割って入る。
「私達の目的はマリーの安否確認です。街道での盗賊や歪虚の襲撃情報はありませんでした。マリーはまだこちらに居ると思います。お会いさせていただいて宜しいですか」
マリー父はじろりと彼女を見て、言った。
「会わせるわけにはいかん。マリーは自分の将来について、今一度じっくり考えておるところなのだ。そんな時に他人がガヤガヤ来て何のかんのと、口をさし挟まんでもらいたい。迷惑だ」
横柄な物言いにマリィアのボルテージは急上昇。
言葉と共に出てくるのは溜息ではない。怒気である。
「……私たちにとって、ジェオルジ支部で働くマリーは大切な仲間です。もう一度言います、私たちの依頼はマリーの安否確認です」
何か決定的なことを彼女が言いそうだと予感したリオンは、強引に話を割った。
「お父様、ちょっとよろしいですか?」
それから今一度、自分たちの立ち位置について説明する。
「私たちの依頼主はマリーさんの職場関係者です。その人から「マリーさんを早く職場復帰させてほしい。迎えに行って欲しい」という依頼を受けたからここに来たのです。まかり間違ってもそこのナルシスさんに、マリーさんを連れ戻すよう頼まれたから来たのではありません」
それを聞いたマリー父は、やや興奮を鎮めた。
「何――そうなのか?」
と傍らのマリー母に聞く。
マリー母は変わらずおっとりした調子で答えた。
「ええ、そうよ。あなたったら、私の話を最後まで聞かずに飛び出すから」
いらぬ誤解は解けたらしい。
リオンが安堵したのもつかの間、続いてマリー父はこんなことを言い出した。
「まあ、それならよい。だがその依頼主には、今しばし待つように言ってもらいたい。この小僧とのことをはっきりさせん限り、職場には戻せん」
次から次へとこの親父、勝手なことをぬかしやがる。
そんな気持ちでルベーノは、顔を険しくする。
「ふむ。お前はマリーと違って恥知らずのようだ。マリーはな、働き始めてから1度も無断欠勤したことがない働き者だ。今回の帰省もちゃんと休暇日程を申請した。お前はマリーが無断欠勤扱いされて被る社会的損害を軽視した。ハンターズソサエティなど無視してもどうとでもなると軽視した。俺はな。仲間を軽視され不当に扱われるのが1番我慢ならん質なのだ」
作用反作用の法則というのか、マリー父もまた険しい顔付きになってきた。
「無断欠勤程度問題ではない。娘にとって外での仕事など、一時のものだ。しかし結婚というのは一生ものだ。人生における重みが全く違う」
たしなめるようにマリー母が言った。
「あなた、人間は生きてもせいぜい100年よ。仮に結婚したとしても、マリーにとって一生の事とはならないわ」
そこで突如、マリー本人の声が降ってきた。
「ええっ! 本当、ナルシスくん来てるの! どこどこー!」
声がした方向をハンターたちは目で追う。
大樹の上、高い場所、優美に垂れ下がる蔦の茂みが激しく揺れている。
「ああもう、これ邪魔!」
「おやめくださいお嬢様、日除けを千切らないでくださいませ!」
蔦がぶっちぎれ落ちてきて、髪を乱したマリーが顔を出す。
氏族の者らしき女エルフが後ろでおたおたしている。
父親が声を上げる。
「これマリー、はしたないことはやめなさい!」
「何よ! お父さんの言うことなんか聞かないから! 私ナルシスくんと帰るー!」
「お嬢様、落ち着いてくださいませ!」
女エルフはマリーの腰を捕まえどうにかこうにか屋内に引き戻そうとするが、マリーがあんまり暴れるのでうまくいかない。
ナルシスが言った。上を見上げて。
「マリー、暴れなくてもいいよ。僕は一人では帰らないから」
「……ナルシスくん」
ぐす、と涙を含んで大人しくなるマリー。
(マリーさんを制御することに関してだけは一流だよね、ナルシス君)
感心しつつメイムは、マリー父に一礼。
「初めましてパパさん。これを見てね」
背負った荷物の中から出してきたのは、以前ナルシスがマリーと作った終身扶養誓約書――自由同盟憲章に沿った公文書。
「エルフハイムの名前で、これに異を唱えるのは、帝国と同盟の摩擦になるよ。マリーさんジュオルジに帰っていいよね?」
マリー父はそれを見て、目をむく。
「マリー、お前は……親に無断でなんという早まったことをするのだ!」
Jがナルシスの脇を突いた。
「ナルシス、マリーだけが最初にお前を丸ごと認めたんだろ。お前の気持ちをきちんと皆に伝えろや」
●結論的には
舞がスラーイン宅にたどり着いたときには、マリー父を説得するターンに入っていた。
マリーも同席している。
マリー母もいる。傍らに揺り籠をおいて揺すってやりながら、それとなく場に加わっている。
「――財布の範囲で遊んで何が悪い。困った時に死ぬ、それまで遊ぶ。そう割り切って人生楽しんで何が悪い。幸せの定義や受け取り方はそれぞれだ」
挑発めいたルベーノの言いように、マリー父が声を荒げる。
「女に食わせてもらおうなどという腐った料簡では話にならん!」
それに反論するJ。
「マリーの親父さん、マリーは頑張ればジェオルジの女性支部長になれそうなくらい外で働くのが向いている。ナルシスは家の中の仕事を何でもやれる――マリー達二人はアンタらと出来る仕事の向きが違うだけだ。仕事の愚痴聞いて優しく宥めてくれて、家の中のことをきちんと切り盛りして待っててくれる、マリーはそんな男を探して探して、やっとナルシスを見つけたんだ。俺から見りゃ、これも理想の夫婦の形の1つだ。あんたの愛する娘が探して見つけた男だ、認めてやっちゃくれねえか」
そしてルンルン。
「父親が娘さんの事を心配する気持ち、それはよくわかります。ただ、エルフの森に居る事が、必ずしも全ての人達の幸福に繋がるわけじゃ無いと思うんです、現に森から出て生き生きと暮らしてるエルフさんを、私は沢山知っています。そして何より、愛する人と自分の意思で無く別れさせられて、娘さんが本当に幸せになるでしょうか……私だったら、悲しんで悲しんで、3日位で死んじゃいます」
まあ、穏当な説得だ。
それに対する回答は、父として実に模範的なものだった。
「何と言われようと、ろくに稼ぐ能力もない男と添わせるわけにはいかん。子供が出来たらどうするのだ!」
ハナがフォローする。
「ナルシス君だってぇ、マリーさんが身重の時は仕事増やすと思いますぅ」
しかしあんまりフォローになってなかったようだ。
「身重の時「は」だと? いい加減にしろ! その後もずっと増やさねばらんだろうが! 子供は生んだ後、育てねばならんのだぞ! お前達はどいつもこいつも真剣さが足りん!」
マリィアは、辟易しながらマリーに囁く。
「2人の子なら、さぞや可愛い子が産まれるでしょうに。会わせなくてもいいんじゃない、こんな子不幸な親なら」
リオンの声。
「結婚についてはさておいてですね、マリーさんは支局に勤められている身です。実家に帰られるにしても、本人が退職手続きをしなければ、エルフハイムに問い合わせがいくことになります」
メイムが引き継ぐ。
「退職手続きは、本人が直にオフィスに赴かなければ出来ないんだよ。とにかく一度はジェオルジに戻らないと」
舞はさりげなくナルシスを隅へ引っ張っていく。
手渡すのは数枚の名刺。どれも自由都市同盟内にある、著名なファッションブランド店のもの。
「何これ」
「当座のあんたの就職先。あたしが売り込んできてやったんだよ。あんたのパパの写真も見せてあげたらさ、先方、『ぜひうちとモデル契約していただきたい』だって。歩合制だから行動制限はされないよ。街をぶらつくだけで好きな所へ行って好きな事をしたらいいし、商品の事を聞かれた時だけ答えたらいい。悪くない仕事だと思うけどね」
「なんでそんな七面倒くさいこと勝手に決めてきたのさ」
「本当にマリーさんに帰って来て欲しいなら少しくらい男を見せろ!」
マりー父がナルシスを呼びつけた。
「――で、今後どうするつもりなのだお前は」
ナルシスは舞から渡された名刺を示し、澱みなく答える。
「アパレル関係の仕事を始めようかと。実家の方でそういう部門を立ち上げたいという話が常から上がっておりまして。この通り、すでに取引先の目処もついておりまして」
こいつ話盛りやがった、と半眼になる舞。
メイムがすかさず援護射撃をする。あらかじめナルシスと打ち合わせしていた通り。
「さっき渡したマルカさんからの手紙に書かれてあったように、ナルシス君の実家は将来性豊かな会社、お姉さんは敏腕な社長。彼が起業するって言えば、喜んで力を貸してくれると思うんだ」
リオンは黙っておいた。
優先すべきはマリーをジェオルジに連れ帰ることなのだ。多少のハッタリは許容されてしかるべきだろう。
マリー父は得心いかぬげな顔で名刺をためつすがめつ。
「私にはそういう世界のことはよく分からんが……確かな仕事なのか? 見込みはあるのか?」
舞は彼に語りかける。しんみりと。
「あたしの妹も、好きな男と未開の大地へ行くとか言っててさ……気持ちは解るよ。でもこればっかりは身内が縛れる物じゃないんじゃない?」
妹の相手が世界最強クラスの戦闘力を持つ大将軍、ナルシスなど比すべくもない存在であるという点には、当然言及しない。
ルンルンがハンカチを目頭にあて、切々と訴える。
「パパさんだって、いきなりママさんの親御さんに、あんな定職に就いてる奴に、娘はやれるかって言われたら、それで諦められましたか?」
いまいちうまくない譬えだったが、それなりに趣旨は伝わったのだろう。
マリー父はナルシスに言った。
「お前はマリーを諦める気はないのだな?」
「はい。彼女の100年僕にください」
●GO!
「それで、許してくれたんですか?」
「まあね。定期的に起業の進み具合について報告に来いって言われたけどさ」
「そういうことなら早速、嘘を真にしなきゃね。姉さん手を貸してあげる」
満面の笑みを浮かべるニケに、ナルシスは限りなく嫌そうな顔。
「やだよ。恩に着せられるもんね」
「着せやしない――あんたが稼いで見せてくれるならね!」
ハンターたちはエルバッハ・リオン(ka2434)の提案により、事前会議を行うことにした。
その席でルベーノ・バルバライン(ka6752)は、軋るような声を出す。
「なあ、ナルシス。俺は常々、人の恋路を邪魔する奴は鮫に喰われて死んでしまえと思っているのだが。もしもマリーの父親がマリーを軟禁していたのが確定したら、少々灸を据えても良いと思うが」
星野 ハナ(ka5852)も彼に負けず劣らず、憤懣口調。
「マリーさんの願い頭ごなしに否定してぇ、マリーさんの意志を無視して監禁してぇ、愛なんて理由になりませんよぅ。それ女性を攫って手籠にする変態と同じ理由ですからぁ」
そんな2人にリオンは強く自制を求める。
「実力行使には反対です。下手をしたらこちらが犯罪者とされる恐れがあります」
対しマリィア・バルデス(ka5848)は異議を唱える。
「相手の意志を無視する軟禁は犯罪、無断欠勤の汚名と言う実害までマリーは受けてる。その状態を解消するため実力を行使する、というのは犯罪に当たらないんじゃないかしら」
そこに杏子が入る。彼女もリオンと同じく、実力行使はまずいと考えていた。
「娘に寄生してるヒモが応援を頼んで無理やり取り返しに来た――と取られかねないわよ」
トリプルJ(ka6653)は杏子の意見を一部認めつつも、力を使うべきときは使わせてもらうと明言した。
「そもそも皆の見立てが正しいとすれば、先に向こうが実力行使してるわけだろう?」
当のナルシスは発言なし。何やら思案を巡らせている様子。
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)はそんな彼に説き聞かせる。本腰入れて仕事を探すべきではと。
「――ちゃんとお仕事しないと、たとえ今回連れ戻せたとしても、またその事でお二人に数多の試練が降り注ぐ事になると思うんです……だから、普通に仕事に縛られるのが難しいなら、自由な時間でお金を稼げる仕事、例えば……」
「例えば?」
聞き返されて詰まる。遠い目をしながら言う。
「……例えば、そんな仕事有ったら私も紹介して欲しいです、はい。まぁ、真剣に考えてください」
そこで天竜寺 舞(ka0377)が魔導カメラを取り出し、ナルシスを撮影。
「何」
「いや、ちょっと。皆、先に行ってて。後で追いかけるから」
と言い残して、場から退く。
リオンは卓上の地球連合軍用PDAを手に取り、再度自分の立場を強調する。
「私は実力行使には絶対協力しません。実力行使をした方が事後責任を問われた場合、私は、全てその方の独断行為であると主張いたします。それからこのやり取り同様マリーさんの父親との会話も、全てこのPADに録音させていただきます。後になって言った言わないで揉めたくないですから――皆さん、それでよろしいですね?」
杏子が腕組みした状態で片手を挙げる。
「異議なし。私はそれでいいわ」
他のメンバーも特に反対は唱えなかった。
議論が終わったと判断したメイム(ka2290)は、ナルシスの肩をつつく。
「ナルシス君、迎えに行くに当ってマリーさんと二人で書いた宣誓書持ってきてね。あたしは手伝うから♪」
そして彼にひそひそ耳打ち。
何事かを打ち合わせ。
●初めましてお父さん
エルフハイムにあるエルフ集落の一つ。
そのうちで最も大きい住居が、マリーの実家。
リオンはまずマリー母に会い挨拶した後、来訪目的について説明した。それから、マリー父と面会したい旨を申し出た。
マリー母は彼女の要求に、快く応じてくれた。
「まあ、そうですか。遠いところからわざわざお越しいただいて――あなたがナルシスくんね。まあまあ、マリーが言った通りの子ねえ……少し待っていてくださいな」
好反応を受け訪問者一同、ほっとする。
なにしろ集落に入ってからずっと、ぴりぴりした空気を感じ続けていたもので――恐らくマリーの一件が(彼女の父親というフィルターを通して)住民全体に知れ渡っているのだろう。
エルフの住居は木と一体化する作り。どこにドアがあるのか窓があるのか、ちょっと見ただけでは見当がつけづらい。
なのでハナはタロットカードを使い、手早くマリーの居場所を占う。結果をこそっと仲間に伝える。
「マリーさん、どうも、上の方にいるみたいですぅ」
そこで扉が開いた。
マリー母と一緒にマリー父が出てきた。
出てくるや否や、ナルシス一人に狙いを定め怒鳴りつけた。
「貴様かー! 私の娘をたぶらかしおったのはー!」
どうやらハンターの存在は眼中にない様子。よっぽどナルシスについて面白からず思っているのだろう。
マリィアは、やんわり割って入る。
「私達の目的はマリーの安否確認です。街道での盗賊や歪虚の襲撃情報はありませんでした。マリーはまだこちらに居ると思います。お会いさせていただいて宜しいですか」
マリー父はじろりと彼女を見て、言った。
「会わせるわけにはいかん。マリーは自分の将来について、今一度じっくり考えておるところなのだ。そんな時に他人がガヤガヤ来て何のかんのと、口をさし挟まんでもらいたい。迷惑だ」
横柄な物言いにマリィアのボルテージは急上昇。
言葉と共に出てくるのは溜息ではない。怒気である。
「……私たちにとって、ジェオルジ支部で働くマリーは大切な仲間です。もう一度言います、私たちの依頼はマリーの安否確認です」
何か決定的なことを彼女が言いそうだと予感したリオンは、強引に話を割った。
「お父様、ちょっとよろしいですか?」
それから今一度、自分たちの立ち位置について説明する。
「私たちの依頼主はマリーさんの職場関係者です。その人から「マリーさんを早く職場復帰させてほしい。迎えに行って欲しい」という依頼を受けたからここに来たのです。まかり間違ってもそこのナルシスさんに、マリーさんを連れ戻すよう頼まれたから来たのではありません」
それを聞いたマリー父は、やや興奮を鎮めた。
「何――そうなのか?」
と傍らのマリー母に聞く。
マリー母は変わらずおっとりした調子で答えた。
「ええ、そうよ。あなたったら、私の話を最後まで聞かずに飛び出すから」
いらぬ誤解は解けたらしい。
リオンが安堵したのもつかの間、続いてマリー父はこんなことを言い出した。
「まあ、それならよい。だがその依頼主には、今しばし待つように言ってもらいたい。この小僧とのことをはっきりさせん限り、職場には戻せん」
次から次へとこの親父、勝手なことをぬかしやがる。
そんな気持ちでルベーノは、顔を険しくする。
「ふむ。お前はマリーと違って恥知らずのようだ。マリーはな、働き始めてから1度も無断欠勤したことがない働き者だ。今回の帰省もちゃんと休暇日程を申請した。お前はマリーが無断欠勤扱いされて被る社会的損害を軽視した。ハンターズソサエティなど無視してもどうとでもなると軽視した。俺はな。仲間を軽視され不当に扱われるのが1番我慢ならん質なのだ」
作用反作用の法則というのか、マリー父もまた険しい顔付きになってきた。
「無断欠勤程度問題ではない。娘にとって外での仕事など、一時のものだ。しかし結婚というのは一生ものだ。人生における重みが全く違う」
たしなめるようにマリー母が言った。
「あなた、人間は生きてもせいぜい100年よ。仮に結婚したとしても、マリーにとって一生の事とはならないわ」
そこで突如、マリー本人の声が降ってきた。
「ええっ! 本当、ナルシスくん来てるの! どこどこー!」
声がした方向をハンターたちは目で追う。
大樹の上、高い場所、優美に垂れ下がる蔦の茂みが激しく揺れている。
「ああもう、これ邪魔!」
「おやめくださいお嬢様、日除けを千切らないでくださいませ!」
蔦がぶっちぎれ落ちてきて、髪を乱したマリーが顔を出す。
氏族の者らしき女エルフが後ろでおたおたしている。
父親が声を上げる。
「これマリー、はしたないことはやめなさい!」
「何よ! お父さんの言うことなんか聞かないから! 私ナルシスくんと帰るー!」
「お嬢様、落ち着いてくださいませ!」
女エルフはマリーの腰を捕まえどうにかこうにか屋内に引き戻そうとするが、マリーがあんまり暴れるのでうまくいかない。
ナルシスが言った。上を見上げて。
「マリー、暴れなくてもいいよ。僕は一人では帰らないから」
「……ナルシスくん」
ぐす、と涙を含んで大人しくなるマリー。
(マリーさんを制御することに関してだけは一流だよね、ナルシス君)
感心しつつメイムは、マリー父に一礼。
「初めましてパパさん。これを見てね」
背負った荷物の中から出してきたのは、以前ナルシスがマリーと作った終身扶養誓約書――自由同盟憲章に沿った公文書。
「エルフハイムの名前で、これに異を唱えるのは、帝国と同盟の摩擦になるよ。マリーさんジュオルジに帰っていいよね?」
マリー父はそれを見て、目をむく。
「マリー、お前は……親に無断でなんという早まったことをするのだ!」
Jがナルシスの脇を突いた。
「ナルシス、マリーだけが最初にお前を丸ごと認めたんだろ。お前の気持ちをきちんと皆に伝えろや」
●結論的には
舞がスラーイン宅にたどり着いたときには、マリー父を説得するターンに入っていた。
マリーも同席している。
マリー母もいる。傍らに揺り籠をおいて揺すってやりながら、それとなく場に加わっている。
「――財布の範囲で遊んで何が悪い。困った時に死ぬ、それまで遊ぶ。そう割り切って人生楽しんで何が悪い。幸せの定義や受け取り方はそれぞれだ」
挑発めいたルベーノの言いように、マリー父が声を荒げる。
「女に食わせてもらおうなどという腐った料簡では話にならん!」
それに反論するJ。
「マリーの親父さん、マリーは頑張ればジェオルジの女性支部長になれそうなくらい外で働くのが向いている。ナルシスは家の中の仕事を何でもやれる――マリー達二人はアンタらと出来る仕事の向きが違うだけだ。仕事の愚痴聞いて優しく宥めてくれて、家の中のことをきちんと切り盛りして待っててくれる、マリーはそんな男を探して探して、やっとナルシスを見つけたんだ。俺から見りゃ、これも理想の夫婦の形の1つだ。あんたの愛する娘が探して見つけた男だ、認めてやっちゃくれねえか」
そしてルンルン。
「父親が娘さんの事を心配する気持ち、それはよくわかります。ただ、エルフの森に居る事が、必ずしも全ての人達の幸福に繋がるわけじゃ無いと思うんです、現に森から出て生き生きと暮らしてるエルフさんを、私は沢山知っています。そして何より、愛する人と自分の意思で無く別れさせられて、娘さんが本当に幸せになるでしょうか……私だったら、悲しんで悲しんで、3日位で死んじゃいます」
まあ、穏当な説得だ。
それに対する回答は、父として実に模範的なものだった。
「何と言われようと、ろくに稼ぐ能力もない男と添わせるわけにはいかん。子供が出来たらどうするのだ!」
ハナがフォローする。
「ナルシス君だってぇ、マリーさんが身重の時は仕事増やすと思いますぅ」
しかしあんまりフォローになってなかったようだ。
「身重の時「は」だと? いい加減にしろ! その後もずっと増やさねばらんだろうが! 子供は生んだ後、育てねばならんのだぞ! お前達はどいつもこいつも真剣さが足りん!」
マリィアは、辟易しながらマリーに囁く。
「2人の子なら、さぞや可愛い子が産まれるでしょうに。会わせなくてもいいんじゃない、こんな子不幸な親なら」
リオンの声。
「結婚についてはさておいてですね、マリーさんは支局に勤められている身です。実家に帰られるにしても、本人が退職手続きをしなければ、エルフハイムに問い合わせがいくことになります」
メイムが引き継ぐ。
「退職手続きは、本人が直にオフィスに赴かなければ出来ないんだよ。とにかく一度はジェオルジに戻らないと」
舞はさりげなくナルシスを隅へ引っ張っていく。
手渡すのは数枚の名刺。どれも自由都市同盟内にある、著名なファッションブランド店のもの。
「何これ」
「当座のあんたの就職先。あたしが売り込んできてやったんだよ。あんたのパパの写真も見せてあげたらさ、先方、『ぜひうちとモデル契約していただきたい』だって。歩合制だから行動制限はされないよ。街をぶらつくだけで好きな所へ行って好きな事をしたらいいし、商品の事を聞かれた時だけ答えたらいい。悪くない仕事だと思うけどね」
「なんでそんな七面倒くさいこと勝手に決めてきたのさ」
「本当にマリーさんに帰って来て欲しいなら少しくらい男を見せろ!」
マりー父がナルシスを呼びつけた。
「――で、今後どうするつもりなのだお前は」
ナルシスは舞から渡された名刺を示し、澱みなく答える。
「アパレル関係の仕事を始めようかと。実家の方でそういう部門を立ち上げたいという話が常から上がっておりまして。この通り、すでに取引先の目処もついておりまして」
こいつ話盛りやがった、と半眼になる舞。
メイムがすかさず援護射撃をする。あらかじめナルシスと打ち合わせしていた通り。
「さっき渡したマルカさんからの手紙に書かれてあったように、ナルシス君の実家は将来性豊かな会社、お姉さんは敏腕な社長。彼が起業するって言えば、喜んで力を貸してくれると思うんだ」
リオンは黙っておいた。
優先すべきはマリーをジェオルジに連れ帰ることなのだ。多少のハッタリは許容されてしかるべきだろう。
マリー父は得心いかぬげな顔で名刺をためつすがめつ。
「私にはそういう世界のことはよく分からんが……確かな仕事なのか? 見込みはあるのか?」
舞は彼に語りかける。しんみりと。
「あたしの妹も、好きな男と未開の大地へ行くとか言っててさ……気持ちは解るよ。でもこればっかりは身内が縛れる物じゃないんじゃない?」
妹の相手が世界最強クラスの戦闘力を持つ大将軍、ナルシスなど比すべくもない存在であるという点には、当然言及しない。
ルンルンがハンカチを目頭にあて、切々と訴える。
「パパさんだって、いきなりママさんの親御さんに、あんな定職に就いてる奴に、娘はやれるかって言われたら、それで諦められましたか?」
いまいちうまくない譬えだったが、それなりに趣旨は伝わったのだろう。
マリー父はナルシスに言った。
「お前はマリーを諦める気はないのだな?」
「はい。彼女の100年僕にください」
●GO!
「それで、許してくれたんですか?」
「まあね。定期的に起業の進み具合について報告に来いって言われたけどさ」
「そういうことなら早速、嘘を真にしなきゃね。姉さん手を貸してあげる」
満面の笑みを浮かべるニケに、ナルシスは限りなく嫌そうな顔。
「やだよ。恩に着せられるもんね」
「着せやしない――あんたが稼いで見せてくれるならね!」
依頼結果
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相談卓 エルバッハ・リオン(ka2434) エルフ|12才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2019/09/16 15:47:45 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/09/11 07:22:56 |