ゲスト
(ka0000)
惜別の花
マスター:DoLLer

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2019/09/12 19:00
- 完成日
- 2019/09/25 10:05
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
草木は緑。咲く花は色とりどり。
四季は巡りても風は変わらず。
口さがないものも、病めるものも、大人も、子供も、ここでは共に静謐を守っている。
「異常よ」
花屋のエリンは震えて言うしかない。
石碑の立ち並ぶ場所に立ち尽くす人々。死者を前にして静かに立ち会う人々。
「初めての光景が自分の道徳、価値観に合わせた時、許容できなければそれは異常と断ずるのかね」
人が向き合うことはおかしくはないはずだ。
死した人と無機質な石碑ではなくて、邂逅できるならどんなに良い事か。それはたくさんの人の望みだろう。
一言、謝りたい。
聞けなかった言葉を聞きたい。
もう一度その姿を見たい。
そう思うから、その夢をかなえて見せよう、という老人に自分の花を託したのだった。
それは確かに成就した。
目の前で人々が立ち尽くしていた。死した人達、碑の下で眠る人々はおぼろげな姿で立っている。それはただ立っている人もいれば、親を探すように辺りを見回す子供もいれば、武器を構える兵士もいる。
それに向き合う人は現実の人間たちだ。彼らに会いに来た縁故者であり、そして、一時驚きはしていたものの、いずれその驚きも忘れ、無声映画のように動く死者の幻影を眺め続けている。動きが派手なのは死者たちの方で少しは石碑から離れて動きはするが、それぞれ決められた場所から離れることでできないようだ。生きた人々はそれを静かに眺め続けるだけ。
音は一切ない。あるのは絶えず吹き続ける風の音色くらいなものだ。
そんな光景が墓場一杯に広がっているのだから、エリンがあってはならないことだと怒り、そして気味悪く感じ、そして恐怖することも仕方ない事だった。
だが、エリンの前にいる老人はむしろエリンの反応が理解できないようだった。
「何のために人は墓場に来るのかね。会いに来たのだろう。会えるものなら会えるようにしてあげればいいではないか。エリン。君が異常だと思うのは『禁忌』に踏み込んだからだ。死者を起こしてはならない、というね。今まで願っても叶わなかった事を人は『禁忌』として、問題のすげ替えを行っただけだよ。それが安寧につながるからだが、本当は会えるものなら会いたいと願うのではないかね。ここに来る人は」
咲き誇る花は全てエリンが届けたものだ。
その花に何かしらの力を込めたのがこの老人。そしてその花が墓場に届けられることによって、この奇妙な世界は生まれ始めた。
「花が死体のマテリアルを吸って、香りと共に吐き出す。これは星にマテリアルを還すことを促進する行為でもあるよ」
「ここに来た人の顔を見て。みんな呆けた顔になって、ひたすら死者の幻影を追い続けているわ。話しもしない、ご飯も食べに行かない。どっちが死者か分からない。異常なのよ」
死者の幻影は音を立てることは無いけれど、何かを話しかけたり、叫んだり、笑ったり、泣いたりしている。表情は豊かだと思う。それが末期の瞬間に思い描いていたものなのか、マテリアルの芯にまで思い描いていたことなのか。どちらなのかはわからないが、豊かであることは間違いない。
だが、生きている人間はそれこそ同じような様相だった。
ぼうとして眺める。ただ、それだけ。
立ち去る者もいないから、この場所は人が増え続ける。
その中にふと顔見知りがいることに気が付いたエリンは、無声映画の世界へ足を踏み込んだ。
「この放出されたマテリアルが何か影響しているのかもしれない。ふむ、親和性の問題があるかもしれないね。興味深い。では異常でない方法を考えよう。薬物の改良もある、マテリアルを集めて何かに込めてみるのはどうか、方法は色々あるさ」
「私も、ここに来た人たちも、心のどこかで望んでいたかもしれないけれど。それでも……私は受け入れられない」
「君がどう思おうが自由さ。花を提供してくれたことには感謝するがね」
はた目と違って、墓場の中は濃厚な花の香りでいっぱいだった。ひと呼吸するだけで頭が急激にぼんやりとしてくる。それでもエリンは自分を強く保って一人の女性の腕を引いた。
せめて自分の知った顔だけは助けてあげたい。
女性の前に立っているのは、羊と共に朗らかに笑う少女だった。
それからこの朧気な姿であっても幻想的なほど美しい少女と、屈強な老人が手を繋いで話をしている。
「幻です。気が付いて!!」
エリンは女性の耳元で叫んで、無理やりにでも動かそうと腕と身体を、その両腕に抱いて入り口まで押してゆこうとする。
「……いいの、ほうって、おいて……わたし、てみすの言葉を聞きたいの」
「よくない!!」
良い事なんてあるものか。
エリンは怒って叫んだ。
だが、その感情の発露でひらいた気道が、空気が、甘い甘い香りを胸いっぱいにしていく。
そうすると今まで聞こえなかったものが、風が草木を撫でる細やかな音がブレて、人の声に変わっていく。
ああ、ここは賑やかだ。
「死にたくなかった」
「ごめんなさい、お役に立てずに」
「ここに来てくれて嬉しい」
「何があっても守り続けるよ」
色んな声が、胸に響く。鼓膜を動かすのではなくて、脳裏に響く分だけ、抵抗は難しかった。
ああ、ダメだ。一度はくじけたあの時の想いが、優しくしてもらった時の喜びにも似た感動のように、心が揺さぶられる。
振り返ってはならないとわかりながらも、エリンはあまりにも響くその声に反応してしまった。
エリンもまた他の人と同じように身動きしなくなったの姿をじっかり10分は見つめて、もう元には戻らないだろうと確信した後、老人はゆっくりと立ち上がった。
「少し人間には効果があり過ぎたようだ。今度は少し加減しよう。ありがとう、貴重な経験だったよ。未来はもう少したくさんの人を癒せるようにしよう」
四季は巡りても風は変わらず。
口さがないものも、病めるものも、大人も、子供も、ここでは共に静謐を守っている。
「異常よ」
花屋のエリンは震えて言うしかない。
石碑の立ち並ぶ場所に立ち尽くす人々。死者を前にして静かに立ち会う人々。
「初めての光景が自分の道徳、価値観に合わせた時、許容できなければそれは異常と断ずるのかね」
人が向き合うことはおかしくはないはずだ。
死した人と無機質な石碑ではなくて、邂逅できるならどんなに良い事か。それはたくさんの人の望みだろう。
一言、謝りたい。
聞けなかった言葉を聞きたい。
もう一度その姿を見たい。
そう思うから、その夢をかなえて見せよう、という老人に自分の花を託したのだった。
それは確かに成就した。
目の前で人々が立ち尽くしていた。死した人達、碑の下で眠る人々はおぼろげな姿で立っている。それはただ立っている人もいれば、親を探すように辺りを見回す子供もいれば、武器を構える兵士もいる。
それに向き合う人は現実の人間たちだ。彼らに会いに来た縁故者であり、そして、一時驚きはしていたものの、いずれその驚きも忘れ、無声映画のように動く死者の幻影を眺め続けている。動きが派手なのは死者たちの方で少しは石碑から離れて動きはするが、それぞれ決められた場所から離れることでできないようだ。生きた人々はそれを静かに眺め続けるだけ。
音は一切ない。あるのは絶えず吹き続ける風の音色くらいなものだ。
そんな光景が墓場一杯に広がっているのだから、エリンがあってはならないことだと怒り、そして気味悪く感じ、そして恐怖することも仕方ない事だった。
だが、エリンの前にいる老人はむしろエリンの反応が理解できないようだった。
「何のために人は墓場に来るのかね。会いに来たのだろう。会えるものなら会えるようにしてあげればいいではないか。エリン。君が異常だと思うのは『禁忌』に踏み込んだからだ。死者を起こしてはならない、というね。今まで願っても叶わなかった事を人は『禁忌』として、問題のすげ替えを行っただけだよ。それが安寧につながるからだが、本当は会えるものなら会いたいと願うのではないかね。ここに来る人は」
咲き誇る花は全てエリンが届けたものだ。
その花に何かしらの力を込めたのがこの老人。そしてその花が墓場に届けられることによって、この奇妙な世界は生まれ始めた。
「花が死体のマテリアルを吸って、香りと共に吐き出す。これは星にマテリアルを還すことを促進する行為でもあるよ」
「ここに来た人の顔を見て。みんな呆けた顔になって、ひたすら死者の幻影を追い続けているわ。話しもしない、ご飯も食べに行かない。どっちが死者か分からない。異常なのよ」
死者の幻影は音を立てることは無いけれど、何かを話しかけたり、叫んだり、笑ったり、泣いたりしている。表情は豊かだと思う。それが末期の瞬間に思い描いていたものなのか、マテリアルの芯にまで思い描いていたことなのか。どちらなのかはわからないが、豊かであることは間違いない。
だが、生きている人間はそれこそ同じような様相だった。
ぼうとして眺める。ただ、それだけ。
立ち去る者もいないから、この場所は人が増え続ける。
その中にふと顔見知りがいることに気が付いたエリンは、無声映画の世界へ足を踏み込んだ。
「この放出されたマテリアルが何か影響しているのかもしれない。ふむ、親和性の問題があるかもしれないね。興味深い。では異常でない方法を考えよう。薬物の改良もある、マテリアルを集めて何かに込めてみるのはどうか、方法は色々あるさ」
「私も、ここに来た人たちも、心のどこかで望んでいたかもしれないけれど。それでも……私は受け入れられない」
「君がどう思おうが自由さ。花を提供してくれたことには感謝するがね」
はた目と違って、墓場の中は濃厚な花の香りでいっぱいだった。ひと呼吸するだけで頭が急激にぼんやりとしてくる。それでもエリンは自分を強く保って一人の女性の腕を引いた。
せめて自分の知った顔だけは助けてあげたい。
女性の前に立っているのは、羊と共に朗らかに笑う少女だった。
それからこの朧気な姿であっても幻想的なほど美しい少女と、屈強な老人が手を繋いで話をしている。
「幻です。気が付いて!!」
エリンは女性の耳元で叫んで、無理やりにでも動かそうと腕と身体を、その両腕に抱いて入り口まで押してゆこうとする。
「……いいの、ほうって、おいて……わたし、てみすの言葉を聞きたいの」
「よくない!!」
良い事なんてあるものか。
エリンは怒って叫んだ。
だが、その感情の発露でひらいた気道が、空気が、甘い甘い香りを胸いっぱいにしていく。
そうすると今まで聞こえなかったものが、風が草木を撫でる細やかな音がブレて、人の声に変わっていく。
ああ、ここは賑やかだ。
「死にたくなかった」
「ごめんなさい、お役に立てずに」
「ここに来てくれて嬉しい」
「何があっても守り続けるよ」
色んな声が、胸に響く。鼓膜を動かすのではなくて、脳裏に響く分だけ、抵抗は難しかった。
ああ、ダメだ。一度はくじけたあの時の想いが、優しくしてもらった時の喜びにも似た感動のように、心が揺さぶられる。
振り返ってはならないとわかりながらも、エリンはあまりにも響くその声に反応してしまった。
エリンもまた他の人と同じように身動きしなくなったの姿をじっかり10分は見つめて、もう元には戻らないだろうと確信した後、老人はゆっくりと立ち上がった。
「少し人間には効果があり過ぎたようだ。今度は少し加減しよう。ありがとう、貴重な経験だったよ。未来はもう少したくさんの人を癒せるようにしよう」
リプレイ本文
「どっちが死んでるのか解らないっすね。ま、気持ちは解るっすけど」
神楽(ka2032)が言う通り、目立った動きをしているのが死者の幻影であり、じっとしているのが生者の方とは。なんとも笑えない。
「寄する記憶の波から零れたものを一片でも見つけてすくおうとする。遺された方はそうすることで支えに歩みを進めることができるでしょう。だから。止められない。目をそらせばもうそこに無いかもしれないほど儚いものであれば尚更のことです」
ソナ(ka1352)は少し寂しそうに目を伏せて呟いた。それは神楽への答えというより、自分へそう言い聞かせている素振りにも見え、トリプルJ(ka6653)はかぶりを振った。
「ひどい罠だ。望む人間どころか、巻き込まれた人間にすら精神的にも肉体的にも不利益を被る。すぐに死人が出るぞ」
確かに死者のことを思えば哀れにも思う。トリプルJだってそう思う。だが、それで生きた人々が、水も飲むことすらせず立ち尽くすことを是としていいわけがない。悔恨という名の枷をつけられた幽閉と変わりないではないか。
「助けよう」
トリプルJの言葉に同意してリュー・グランフェスト(ka2419)が紅い燐光が漂い始める。それは負けてはならないという闘志が形になったもの。覚醒。
だが、それよりも早くリューの横を歩んでいく姿があった。ユメリア(ka7010)だ。
リューの方が身長もあり力もある。それでもユメリアが先んじたのは、彼女が覚醒もせずに歩みを進めたからだ。
「ユメリアさん!」
ルナ・レンフィールド(ka1565)が慌てて駆け寄って止めようとした。彼女の頬から伝い、顎から垂れ落ちるものを見たら、止めずにはいられない。
「ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
制止しようとするルナへの言葉であり、そしてテミスとルーフィに向けて。
幻想に取り込まれてしまう。一刻の猶予もないとルナがSuiteを取り出した瞬間だった。
『未来に進めるように祈っている』
覚醒していないはずのユメリアに、月光が降り注ぐようにしてマテリアルの光が包み込んでいた。
私は負けない。未悠さんがいてくれる。全幅の信頼が、そして祈り手と気持ちと通じ合うことで彼女は耐えてみせる姿に、ルナははっとした。マテリアルがもし想いの欠片であるなら、こうしてつながりを見せるのなら、今目の前に広がる幻影にだって。
「ユメリアさん、想いの欠片を集めましょう。音楽は心の欠片を紡ぐものですから」
「ルナさん……」
ユメリアは静かにうなずくと、願いを込めて口を開いた。単に祈るというものではなく、この墓地を満たしながらも風に揺れる程度に乱されるマテリアルたちの力まとめるように。
ユメリアが覚醒した。ルナの覚醒から生まれる五線譜や音符に、ユメリアの音色が合わさり、壮大な音楽が響き渡る。
響け、音色よ
紡げ、奇跡を
規則・現実・断罪という名の番犬を眠らせ、
断絶した過去と今をつなげ
月の光が広がった瞬間、幻想の世界は確かに形を生み出した。
●
「幻影が……」
朧気だったそれは風と香りが見せたお遊びのようだった。老人もきっと半分はその程度の気持ちだったに違いない。
だがそれは今、マテリアルを伴った音色によって力と方向性を与えられ、覚醒してはほとんど靄のようにしか見えなかったそれはしっかりと形を伴っていた。
「ギュント。そこにいたんすね」
その中の一人、兵士の男の姿を見つけて神楽が声をかけると、その声に反応してギュントは振り返った。
「お前が庇って俺を正気に戻してくれたからアミィをギリギリ助けられたっす。お前は2重の意味で恩人っす」
その言葉に少し敬遠したような顔をしたことに、まさしく意思が通じていることを実感する。音色が漂っている間は確かに伝わるのだ。
「まったく。命を投げ捨てるなんてもったいない真似をしたと思ってたよ。金と権力でそこそこに成りあがったところで、生きていなければ無用の長物だ。つまらないことをしたよ」
あれ?
そんなことをいう人間だっただろうか。神楽がじっと見るとギュントの影はいくつも重なっては生まれ、また消える。泡のようなものに包まれていて、それによって顔つきがいくつも変わる。
「ああ……人形使いだから、いくつもの顔と人格が、混ざってたんすね」
最初に合ったギュントと、それ以降のギュントは少し違っていた。裏があったのか、それとも方向転換したのかと細かく気にする事を止めていた神楽だったが、ようやく合点がいった。
「だが、ま。英雄の真似事をできたんだ。夢見るしかなかった凡俗にすればいい方か」
「続きはやってやるっすよ。想いを引き継ぐなんてガラでもないし、力になれるか解らんすけど」
神楽の言葉にギュントは笑った。
吹っ切れたような、明るい声だった。
「ルーフィさん……」
恐る恐るソナが声をかけると、ルーフィと呼ばれた少女は振り返った。
「ソナさん」
認識もできることにソナは再会した喜びが大きくなると同時に、感じていた呵責も大きくなるのを感じた。裏腹の感情に戸惑い表情が固くなるソナにルーフィは不思議そうな顔をした。そんな彼女にルーフィは駆け寄ると、心配そうに背中をさすってくれた。
さすってくれたような気がするだけで、幻影である彼女の手の感触を感じることはないのだけれど。
「どうしたんですか?」
「長く生きられることが良いとは限らないのですが……その場にいられたなら救えたかもしれないと。救えたならもっと幸せが増えたのかもと……思ったりします。でもあなたの眠りを妨げてしまったのではないかと」
「命をかけて命を救えたことは、ようやく人を見送るだけじゃなくてすんでほっとしています」
全身全霊。言うには易いが、自分の命を顧みず人命救助に尽くしてきたルーフィの事をソナはよく知っていた。そしてその根底は、やはり贖罪だったのだろう。ルーフィを見てきた、また同じ施療関係の仕事を持つソナにとってもよくわかるものだった。
「でも、みんなに励ましてもらったのに、こんな形になってしまったことは少し申し訳なくて……だけど、身体は朽ちても心は朽ちないものだって、私は信じてますから」
そうだ。と、ルーフィは思い出したように医療道具の詰まった肩掛け鞄から、本を取り出すと、そこから銀色の栞とハンドクリームを取り出した。
「次はあなたの番」
受け取れるわけがない。
あなたはマテリアルの塊であるのに。
あなたの衣服も記憶によりマテリアルで構成された幻なのに。
「……はい」
それでもソナはそれを受け取る素振りをすると、その栞とハンドクリームはルーフィの傍から消えてなくなっていた。
渡すことができたとルーフィが感じたから、そこだけ消えてなくなったのかもしれない。そう思うと意味はあったのかもしれない。
クリームヒルトが見つめる先にいる少女を見て、リューは彼女に問いかけた。
「テミス……あんたはどんな思いであの戦いに向かったんだろう」
クリームヒルトとはずっと長い事付き合ってきたリューだが、その傍についていたテミスとはどちらかというと縁は薄い方だった。だが、クリームヒルトからも非常に信頼は厚かったこと、またリューの友人もとても彼女と仲が良かったこと、そして落命に涙を流し、可能なら今日もここに来たかったことをメッセージを頼まれているあたり、面識はなくとも縁は深いのだろうと思うし、彼女がいなければ別の誰かが犠牲になっていたことは想像に難くない。
だから、知りたい。
だから、その気持ちを預かりたい。
「決まってます。御恩を返すためです。もちろん死んでしまったことで余計に苦しませたり、悲しませてしまったことは……申し訳ないと思いますが、後悔はありません。私ができることを全力で果たして、ハンターの皆さんの力になれることは嬉しいことです」
テミスは自分の内面を吐露するような、他の幻影とは少し違っていた。きっぱりと言い切れるその目はリューとよく似ていた。命尽きたことを知ってもまったく悲しみも苦しみも脅えもしていなかった。その輝きの強さにリューの方が影を生んでしまうくらいだった。
「……失ったものは帰ってこない。冗談じゃなくて。もしかしたらもっとうまくやれたなら、あんたを救え」
紡ごうとしたリューの口をテミスは幻の手で防いだ。物理的に防ぐ力はなかったが、それは確かにリューの言葉を止めることはできた。
「それ以上はいけません。私を弱い人間か、または歪虚にさせるつもりですか?」
彼女は自分の命に誇りを持っていた。自分の選択に迷いを持っていなかった。
蠅に操られた人間を救い出すことを託されたことに全力をもってあたり、残念ながら最後の油断をつかれたことも後悔はしていなかった。
友人の顔を思い出す。
もっと一緒にいたかった。もっと話をしたかった。最後まで傍にいたかった。
好きでした。もし生まれ変わりがあるなら。
そうとまで言わせた意味をリューは少し理解した気がした。
「そうだな。こうして会いに来たのは自分の為だ。俺も友人も、それからクリームヒルトの前に進む力となるように会いに来たんだった」
決して後悔を再認識しに来たわけじゃない。
「クリームヒルト……帰って来いよ。テミスはここで立ち止まることを望んじゃいない」
「……そうね。テミス。あなたと出会えて本当に良かった。助けられたわ」
リューとテミスの言葉のやり取りを胸に受けて、ようやく光を取り戻したクリームヒルトはリューの手を取った。
それぞれが幻影と言葉を交わす中、歌声に乱れが生じた。
「ユメリアさんっ」
倒れたのはユメリアだった。助けがあるとはいえ覚醒もせずに、花の香りに抗いながら歌い続けるのは無理があった。音程はどんどんとズレていく。
「無理するもんじゃないぜ」
倒れそうになったユメリアを助けたのは大樽を背負ったナイスガイ、トリプルJだった。帽子がけぶった陽光を遮る中で、彼の目は見た目よりずっと真剣で知的な眼差しだった。
そんな彼が樽から柄杓で水をすくうと、ユメリアの張り上げ続けて痛めた喉に水をそっと流し込んだ。
「俺の目的はここにいる人間を回復させることだ。誰一人不利益を被ることなく、な」
トリプルJは死者に対して興味はない。彼が言葉を交わしたいのは、そして何かをしてやりたいのは生きている人間だけだ。彼らが止まって誰が喜ぶものか。喜ぶとしたら、そんなデータが出た、ということを知ったあの老人くらいなものだろう。
だから絶対に生かせる。
トリプルJは生理食塩水を飲み下すユメリアに、トランスキュアの力を発動させた。
同時に侵食してくるユメリアの闇。
それでもトリプルJは強い笑顔をユメリアに見せて彼女を抱え上げた。
「ちょっと休んでな」
「でも……」
対話ができる機会に寄与できていると思うから。ユメリアが弱々しく抗議するのに応えたのは。
「大丈夫だ。手伝ってやるよ。俺は必要な事できたしな」
「はい、私も。手伝います。癒され救われる人がいるのなら、祈りを捧げます」
リューとソナだった。
2人は目線で会話するようにして同時に頷くと、リューはリュートを、ソナはマジックベルとユグディーベルをそれぞれの手にして、墓地に向き直った。
「お別れを言う時間くらいなら、やってやるさ」
「心がまとまるように、おまかせください」
そうして音色が引き継がれる。
「テミスさん」
曲を引き継ぎ終えたルナが声をかけると、ずっと心に溜めていた一言を紡ぎ出した。
「ありがとう」
伝わるのかどうか、それにリアクションがあるかどうかわからなくても言いたかった言葉。
その一言はとても簡単なのに、幻影となった彼女を前にすると、どうしても胸がいっぱいになって、少しいつもの声にならないけれど。それは確かに言えた。
「多くの羊たちとともに、たくさんの人を助けてくれてありがとう。ユメリアさんを助けてくれてありがとう。貴女が助けたユメリアさんに私は助けられました。でも、貴女を助けられなくてごめんなさい……平和な世界で一緒に笑い合いたかった……」
「でもこうして教えてもらいました。音楽の奇跡。これで3度目ですね」
言葉が進むにつれ、悲しみが混じってうまく言えなくなるルナを抱きしめるようしてテミスが間近で微笑みかけた。
「私の人生は平坦ではなかったけれど、でも音楽を知れたから、どんな道のりもけっして悪いものじゃないと思えました」
にこりと笑ってテミスはルナの手を取り、それから言葉を続けた。
「またあの曲聴かせてください。今度生まれ変わっても……その曲を一緒に歌えるように」
ルナは歌う。
リューの音色とソナの音色と共に。
幻影は揺れる。マテリアルが共鳴して想いがより高みへと登っていくように。
そんな中でユメリアは見た。クリームヒルトの指輪から立ち上るマテリアルの幻影が、髪の長い女性となったことを。またクリームヒルトを幼くしたような目つきの鋭い少女となったことを。
それらも含めて、幻影たちは音色と共に光の塵となって空へと、また舞っては大地へと、少しずつ、少しずつ崩れていく。
マテリアルが音色の導きを受けて、星へと還ろうとしているのだ。
「命は大海に通じ、また昇華す。泡沫は夢のごとし。また会う縁もあれば、今生の宿命足るは歩むこと也」
「貴様達は無数の骸の上に立っているのだ。その呪いから逃げようと思うな」
ユメリアと神楽はそれが誰かを把握して嘆息した。
「……はい。私はもう贖罪だけで終わりません。生きて、生きて、想いを繋げます」
「一目見れて良かったっす。良い旅をするっすよ」
●
「目が覚めたか」
「……花は」
目覚めたエリンにトリプルJは幻想的な甘い香りから、現実的なくすぶった火の臭いに変わった山を指さした。それは安堵と共に寂しい光景でもあり、彼女はうつむいた。
「みんな、現実に戻ったの?」
花が人を傷つけたという事実に彼女は辛そうだった。
「大丈夫だ、ほんの少し夢を見ただけさ。誰も傷ついてなんかいない。あんたも花も悪い事は欠片も悪いことしてないさ」
こんな光景、普通の大人でも耐えられるわけがない。
トリプルJはそう思いながらも、軽くウィンクしてエリンが悲しむのを防ぎながら、この人災を引き起こした落とし前はきっちりつけてやると誓っていた。
神楽(ka2032)が言う通り、目立った動きをしているのが死者の幻影であり、じっとしているのが生者の方とは。なんとも笑えない。
「寄する記憶の波から零れたものを一片でも見つけてすくおうとする。遺された方はそうすることで支えに歩みを進めることができるでしょう。だから。止められない。目をそらせばもうそこに無いかもしれないほど儚いものであれば尚更のことです」
ソナ(ka1352)は少し寂しそうに目を伏せて呟いた。それは神楽への答えというより、自分へそう言い聞かせている素振りにも見え、トリプルJ(ka6653)はかぶりを振った。
「ひどい罠だ。望む人間どころか、巻き込まれた人間にすら精神的にも肉体的にも不利益を被る。すぐに死人が出るぞ」
確かに死者のことを思えば哀れにも思う。トリプルJだってそう思う。だが、それで生きた人々が、水も飲むことすらせず立ち尽くすことを是としていいわけがない。悔恨という名の枷をつけられた幽閉と変わりないではないか。
「助けよう」
トリプルJの言葉に同意してリュー・グランフェスト(ka2419)が紅い燐光が漂い始める。それは負けてはならないという闘志が形になったもの。覚醒。
だが、それよりも早くリューの横を歩んでいく姿があった。ユメリア(ka7010)だ。
リューの方が身長もあり力もある。それでもユメリアが先んじたのは、彼女が覚醒もせずに歩みを進めたからだ。
「ユメリアさん!」
ルナ・レンフィールド(ka1565)が慌てて駆け寄って止めようとした。彼女の頬から伝い、顎から垂れ落ちるものを見たら、止めずにはいられない。
「ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
制止しようとするルナへの言葉であり、そしてテミスとルーフィに向けて。
幻想に取り込まれてしまう。一刻の猶予もないとルナがSuiteを取り出した瞬間だった。
『未来に進めるように祈っている』
覚醒していないはずのユメリアに、月光が降り注ぐようにしてマテリアルの光が包み込んでいた。
私は負けない。未悠さんがいてくれる。全幅の信頼が、そして祈り手と気持ちと通じ合うことで彼女は耐えてみせる姿に、ルナははっとした。マテリアルがもし想いの欠片であるなら、こうしてつながりを見せるのなら、今目の前に広がる幻影にだって。
「ユメリアさん、想いの欠片を集めましょう。音楽は心の欠片を紡ぐものですから」
「ルナさん……」
ユメリアは静かにうなずくと、願いを込めて口を開いた。単に祈るというものではなく、この墓地を満たしながらも風に揺れる程度に乱されるマテリアルたちの力まとめるように。
ユメリアが覚醒した。ルナの覚醒から生まれる五線譜や音符に、ユメリアの音色が合わさり、壮大な音楽が響き渡る。
響け、音色よ
紡げ、奇跡を
規則・現実・断罪という名の番犬を眠らせ、
断絶した過去と今をつなげ
月の光が広がった瞬間、幻想の世界は確かに形を生み出した。
●
「幻影が……」
朧気だったそれは風と香りが見せたお遊びのようだった。老人もきっと半分はその程度の気持ちだったに違いない。
だがそれは今、マテリアルを伴った音色によって力と方向性を与えられ、覚醒してはほとんど靄のようにしか見えなかったそれはしっかりと形を伴っていた。
「ギュント。そこにいたんすね」
その中の一人、兵士の男の姿を見つけて神楽が声をかけると、その声に反応してギュントは振り返った。
「お前が庇って俺を正気に戻してくれたからアミィをギリギリ助けられたっす。お前は2重の意味で恩人っす」
その言葉に少し敬遠したような顔をしたことに、まさしく意思が通じていることを実感する。音色が漂っている間は確かに伝わるのだ。
「まったく。命を投げ捨てるなんてもったいない真似をしたと思ってたよ。金と権力でそこそこに成りあがったところで、生きていなければ無用の長物だ。つまらないことをしたよ」
あれ?
そんなことをいう人間だっただろうか。神楽がじっと見るとギュントの影はいくつも重なっては生まれ、また消える。泡のようなものに包まれていて、それによって顔つきがいくつも変わる。
「ああ……人形使いだから、いくつもの顔と人格が、混ざってたんすね」
最初に合ったギュントと、それ以降のギュントは少し違っていた。裏があったのか、それとも方向転換したのかと細かく気にする事を止めていた神楽だったが、ようやく合点がいった。
「だが、ま。英雄の真似事をできたんだ。夢見るしかなかった凡俗にすればいい方か」
「続きはやってやるっすよ。想いを引き継ぐなんてガラでもないし、力になれるか解らんすけど」
神楽の言葉にギュントは笑った。
吹っ切れたような、明るい声だった。
「ルーフィさん……」
恐る恐るソナが声をかけると、ルーフィと呼ばれた少女は振り返った。
「ソナさん」
認識もできることにソナは再会した喜びが大きくなると同時に、感じていた呵責も大きくなるのを感じた。裏腹の感情に戸惑い表情が固くなるソナにルーフィは不思議そうな顔をした。そんな彼女にルーフィは駆け寄ると、心配そうに背中をさすってくれた。
さすってくれたような気がするだけで、幻影である彼女の手の感触を感じることはないのだけれど。
「どうしたんですか?」
「長く生きられることが良いとは限らないのですが……その場にいられたなら救えたかもしれないと。救えたならもっと幸せが増えたのかもと……思ったりします。でもあなたの眠りを妨げてしまったのではないかと」
「命をかけて命を救えたことは、ようやく人を見送るだけじゃなくてすんでほっとしています」
全身全霊。言うには易いが、自分の命を顧みず人命救助に尽くしてきたルーフィの事をソナはよく知っていた。そしてその根底は、やはり贖罪だったのだろう。ルーフィを見てきた、また同じ施療関係の仕事を持つソナにとってもよくわかるものだった。
「でも、みんなに励ましてもらったのに、こんな形になってしまったことは少し申し訳なくて……だけど、身体は朽ちても心は朽ちないものだって、私は信じてますから」
そうだ。と、ルーフィは思い出したように医療道具の詰まった肩掛け鞄から、本を取り出すと、そこから銀色の栞とハンドクリームを取り出した。
「次はあなたの番」
受け取れるわけがない。
あなたはマテリアルの塊であるのに。
あなたの衣服も記憶によりマテリアルで構成された幻なのに。
「……はい」
それでもソナはそれを受け取る素振りをすると、その栞とハンドクリームはルーフィの傍から消えてなくなっていた。
渡すことができたとルーフィが感じたから、そこだけ消えてなくなったのかもしれない。そう思うと意味はあったのかもしれない。
クリームヒルトが見つめる先にいる少女を見て、リューは彼女に問いかけた。
「テミス……あんたはどんな思いであの戦いに向かったんだろう」
クリームヒルトとはずっと長い事付き合ってきたリューだが、その傍についていたテミスとはどちらかというと縁は薄い方だった。だが、クリームヒルトからも非常に信頼は厚かったこと、またリューの友人もとても彼女と仲が良かったこと、そして落命に涙を流し、可能なら今日もここに来たかったことをメッセージを頼まれているあたり、面識はなくとも縁は深いのだろうと思うし、彼女がいなければ別の誰かが犠牲になっていたことは想像に難くない。
だから、知りたい。
だから、その気持ちを預かりたい。
「決まってます。御恩を返すためです。もちろん死んでしまったことで余計に苦しませたり、悲しませてしまったことは……申し訳ないと思いますが、後悔はありません。私ができることを全力で果たして、ハンターの皆さんの力になれることは嬉しいことです」
テミスは自分の内面を吐露するような、他の幻影とは少し違っていた。きっぱりと言い切れるその目はリューとよく似ていた。命尽きたことを知ってもまったく悲しみも苦しみも脅えもしていなかった。その輝きの強さにリューの方が影を生んでしまうくらいだった。
「……失ったものは帰ってこない。冗談じゃなくて。もしかしたらもっとうまくやれたなら、あんたを救え」
紡ごうとしたリューの口をテミスは幻の手で防いだ。物理的に防ぐ力はなかったが、それは確かにリューの言葉を止めることはできた。
「それ以上はいけません。私を弱い人間か、または歪虚にさせるつもりですか?」
彼女は自分の命に誇りを持っていた。自分の選択に迷いを持っていなかった。
蠅に操られた人間を救い出すことを託されたことに全力をもってあたり、残念ながら最後の油断をつかれたことも後悔はしていなかった。
友人の顔を思い出す。
もっと一緒にいたかった。もっと話をしたかった。最後まで傍にいたかった。
好きでした。もし生まれ変わりがあるなら。
そうとまで言わせた意味をリューは少し理解した気がした。
「そうだな。こうして会いに来たのは自分の為だ。俺も友人も、それからクリームヒルトの前に進む力となるように会いに来たんだった」
決して後悔を再認識しに来たわけじゃない。
「クリームヒルト……帰って来いよ。テミスはここで立ち止まることを望んじゃいない」
「……そうね。テミス。あなたと出会えて本当に良かった。助けられたわ」
リューとテミスの言葉のやり取りを胸に受けて、ようやく光を取り戻したクリームヒルトはリューの手を取った。
それぞれが幻影と言葉を交わす中、歌声に乱れが生じた。
「ユメリアさんっ」
倒れたのはユメリアだった。助けがあるとはいえ覚醒もせずに、花の香りに抗いながら歌い続けるのは無理があった。音程はどんどんとズレていく。
「無理するもんじゃないぜ」
倒れそうになったユメリアを助けたのは大樽を背負ったナイスガイ、トリプルJだった。帽子がけぶった陽光を遮る中で、彼の目は見た目よりずっと真剣で知的な眼差しだった。
そんな彼が樽から柄杓で水をすくうと、ユメリアの張り上げ続けて痛めた喉に水をそっと流し込んだ。
「俺の目的はここにいる人間を回復させることだ。誰一人不利益を被ることなく、な」
トリプルJは死者に対して興味はない。彼が言葉を交わしたいのは、そして何かをしてやりたいのは生きている人間だけだ。彼らが止まって誰が喜ぶものか。喜ぶとしたら、そんなデータが出た、ということを知ったあの老人くらいなものだろう。
だから絶対に生かせる。
トリプルJは生理食塩水を飲み下すユメリアに、トランスキュアの力を発動させた。
同時に侵食してくるユメリアの闇。
それでもトリプルJは強い笑顔をユメリアに見せて彼女を抱え上げた。
「ちょっと休んでな」
「でも……」
対話ができる機会に寄与できていると思うから。ユメリアが弱々しく抗議するのに応えたのは。
「大丈夫だ。手伝ってやるよ。俺は必要な事できたしな」
「はい、私も。手伝います。癒され救われる人がいるのなら、祈りを捧げます」
リューとソナだった。
2人は目線で会話するようにして同時に頷くと、リューはリュートを、ソナはマジックベルとユグディーベルをそれぞれの手にして、墓地に向き直った。
「お別れを言う時間くらいなら、やってやるさ」
「心がまとまるように、おまかせください」
そうして音色が引き継がれる。
「テミスさん」
曲を引き継ぎ終えたルナが声をかけると、ずっと心に溜めていた一言を紡ぎ出した。
「ありがとう」
伝わるのかどうか、それにリアクションがあるかどうかわからなくても言いたかった言葉。
その一言はとても簡単なのに、幻影となった彼女を前にすると、どうしても胸がいっぱいになって、少しいつもの声にならないけれど。それは確かに言えた。
「多くの羊たちとともに、たくさんの人を助けてくれてありがとう。ユメリアさんを助けてくれてありがとう。貴女が助けたユメリアさんに私は助けられました。でも、貴女を助けられなくてごめんなさい……平和な世界で一緒に笑い合いたかった……」
「でもこうして教えてもらいました。音楽の奇跡。これで3度目ですね」
言葉が進むにつれ、悲しみが混じってうまく言えなくなるルナを抱きしめるようしてテミスが間近で微笑みかけた。
「私の人生は平坦ではなかったけれど、でも音楽を知れたから、どんな道のりもけっして悪いものじゃないと思えました」
にこりと笑ってテミスはルナの手を取り、それから言葉を続けた。
「またあの曲聴かせてください。今度生まれ変わっても……その曲を一緒に歌えるように」
ルナは歌う。
リューの音色とソナの音色と共に。
幻影は揺れる。マテリアルが共鳴して想いがより高みへと登っていくように。
そんな中でユメリアは見た。クリームヒルトの指輪から立ち上るマテリアルの幻影が、髪の長い女性となったことを。またクリームヒルトを幼くしたような目つきの鋭い少女となったことを。
それらも含めて、幻影たちは音色と共に光の塵となって空へと、また舞っては大地へと、少しずつ、少しずつ崩れていく。
マテリアルが音色の導きを受けて、星へと還ろうとしているのだ。
「命は大海に通じ、また昇華す。泡沫は夢のごとし。また会う縁もあれば、今生の宿命足るは歩むこと也」
「貴様達は無数の骸の上に立っているのだ。その呪いから逃げようと思うな」
ユメリアと神楽はそれが誰かを把握して嘆息した。
「……はい。私はもう贖罪だけで終わりません。生きて、生きて、想いを繋げます」
「一目見れて良かったっす。良い旅をするっすよ」
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「目が覚めたか」
「……花は」
目覚めたエリンにトリプルJは幻想的な甘い香りから、現実的なくすぶった火の臭いに変わった山を指さした。それは安堵と共に寂しい光景でもあり、彼女はうつむいた。
「みんな、現実に戻ったの?」
花が人を傷つけたという事実に彼女は辛そうだった。
「大丈夫だ、ほんの少し夢を見ただけさ。誰も傷ついてなんかいない。あんたも花も悪い事は欠片も悪いことしてないさ」
こんな光景、普通の大人でも耐えられるわけがない。
トリプルJはそう思いながらも、軽くウィンクしてエリンが悲しむのを防ぎながら、この人災を引き起こした落とし前はきっちりつけてやると誓っていた。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
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【相談卓】死者を幻視させる花 神楽(ka2032) 人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2019/09/12 06:40:30 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2019/09/08 22:30:59 |