剥ごう! 剥ごう! 鬼パンツ!

マスター:韮瀬隈則

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/02/09 12:00
完成日
2015/02/18 19:46

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


「昨日の依頼なのですが、事情が変わった。と、先行ハンターから連絡がありまして……」
 昨日?
 どの依頼だ。と不審げな視線を受け、某オフィス出張所の受付嬢は慌てて書類と資料を提示しなおした。ここにいる殆どのハンターの目に触れる前に成立し、先行ハンターの報告待ちの依頼だ。
「あの楽勝な山猫討伐か。近隣に亜人がいるから邪魔には気をつけるのだけが注意点だったやつだな」
 年輩のハンターがのぞき込む。俺が掲載時に居たからって、他の奴らは居なかったんだ。説明を省くんじゃないよ。と、受付嬢をコツリ。

 再掲された元依頼はこうだ。

 近隣の山間、中ほど。
 打ち捨てられた山仕事の作業小屋に、虎縞柄の大山猫が2匹住み着いた。打ち捨てられたといっても、近くには伐採林の仮置き場がある。今の季節、山仕事は行われていないが、春以降、生活圏の衝突による事故が起こる可能性は高かった。
 なにより──
 雑魔ではないかという疑念と、近隣の巣穴に棲む亜人2体への影響を考えれば。
 山小屋周辺の地図と資料が提供され、手のあいたハンター数名が現地へ向かった。

 それが昨日。
 距離と手間を考えれば、即日にでも仮報告があがる仕事だ。
 しかし、届いたのはこの地区の診療所からの言伝だという。
 症状は重いが命はある。ひとまずの安心は疑問に変わる。簡単な仕事との侮りはあってもこの惨状は、なにか想定外の事故でもあったものか。



 数時間後。
 診療所のベッド脇で、依頼を受領した何名かのハンターが先行ハンターへの事情聴取を行っていた。
 怪我は思ったよりも軽い。むしろ軽傷の域だ。現状説明はこと事務的に接する限り明瞭明白であった。

 勘の良いハンターの推察通り。
 危惧されていた亜人との複合戦闘が発生し、結果、どの討伐も果たせずに逃げ帰るのが精一杯。

「敵は2体。少なくともマトモな形のは」
 2体?
 聴取によれば、最初に敵を見つけたとき、同士討ちで自ら数を減らしてくれたものと、ハンターたちはほくそ笑んだらしい。
 ──大山猫の毛皮を纏った亜人2体。
 それが現地の敵、全てである。
 問題は──
 亜人に歪虚の影響が見えたこと。

 亜人の肌は赤または青に染まり、鬼のよう。
 赤鬼は古びた斧を持ち、その近接攻撃力は元より増していると観測された。
 青鬼に至っては、所持する棍棒から魔法のような攻撃を発したという。
 接触はハンターに不利な状況で始まった。
 実力的には勝てない相手ではない。そのまま乱戦になり、異変がおきた。

 近接戦を仕掛けたハンターの刃が、腰に巻かれた大山猫の毛皮をかすった。
 するり。と、簡単に腰から毛皮は滑り落ち──、亜人の染まった体色が薄れはじめ、それまでの異様な動きが元の亜人に近いものになった。
 普通の山猫を狩ったのち、偶然、戦意を高揚させる特殊な装備に加工されていたものか?
 迂闊にも早合点したハンター達は、もう1体の腰布も剥ぎにかかり──罠にはまった。
 雑魔は条件に恵まれない限り、死ねば消滅する。ならば、大山猫の毛皮はなぜ残ったか? ハンターの読み通り、雑魔ではなかったか、条件に恵まれ加工技術にも恵まれた?
 いや、もっと簡単な理由がある。大山猫の毛皮は生きている。正確には、大山猫雑魔は毛皮状の雑魔であり、亜人に寄生している。

「俺達は、新たな寄生先を狙う毛皮と亜人、両方の相手をすることになっちまった」
 絡みつく毛皮と敵対的な亜人。人数比と不利な状況下。よく全員帰ってこれたと相づちをうつ。
「抵抗している時に弁当の喰い残しが散らばって、その音と形にだろうか……まだ赤味青味を帯びた亜人が僅かにひるんだ。邪魔の入らない一瞬のスキに無理矢理に毛皮を引きはがして、逃げた……」
 それがやっとだった。すまん。先行ハンター達は頭を下げる。
 毛皮そのものは弱く脆い性質だったろうに、そのまま置いてきてしまった。あの作業小屋が奴らのねぐらなのだ。また亜人と毛皮の共生関係は再開されているだろう。

 誰かが先行ハンターを労った。
 腰布が生きた毛皮だなんて、想定外で大変でしたね。絡みついてくるなんて……

 様子を思い出し、その感触が蘇ったのだろう。先行ハンターは震え怯え叫んだ。
「生暖かいのが! 直前まで股間を包んでいた温もりが! 鮮烈な香りで! 顔に! 顔に!」
「しゅるしゅるとね! 服の合わせ目から触手みたいにね! ジャストフィットに締まってやさしく包み込んで、キュッとね! キュッと!」
「気が遠くなるよ! 僕、飛んじゃうよ! ママン……」
 慌てて看護士が飛んできて面会の終了を宣言する。傷に似合わぬ重態の理由、であった。

リプレイ本文


 廃道の先に古い作業小屋の屋根が見えてきた。
 小屋前はかつてを偲ぶまま未だに木々に侵食されるのを免れている。道なりには距離はあるが、木々の合間から現在の作業小屋の屋根が望める。

「なんつーか変わった化け物だけど、まぁ、亜人にとっついたのはまだマシかもなー」
 武神 守悟(ka3517)は自分の得物を手に確かめてごちる。獣より頭の働く敵は厄介ではあるが──この活動圏を縦横無尽に動く生物につかれるよりはマシだ。なにより、己の得意分野に引きずりだせる。
 ざらざらと豆の粒が鳴る。
 屋外(ka3530)が空のペットボトルへナッツを詰め替え、革紐で首から提げる。恫喝に使えるかなって……音が。確か鬼遣らいでは音を大きく立てるのだったから。
「気休めかもしれませんが、自分も鬼退治の作法の顰に倣いましたよ」
 鰯の頭を拝むほど自分はそう信心深いほうではないけれど、と、静架(ka0387)はヒイラギを加工した特製の矢をバリュスボウにセットした。
「リアルブルーでは鬼退治の時期だっていうし、ボクもそっちの方向で頑張っちゃう」
 静架の連れた柴犬と匂いを嗅ぎ合う自分の犬を撫でながら、鬼退治には猿が足りないと笑う静架に、この子じゃだめかなとモカ・プルーム(ka3411)がパルムを指差す。互いに周囲警戒にと連れてきたペットで犬猿雉を揃えれば、ゲン担ぎになるかもしれない。
 だって。アブナイ匂いがぎゅんぎゅんするのだ。
 リアルブルー伝承の鬼の歌は作者不詳で歌詞もバラバラだったけれど、必ず2番か3番に「くさいぞー」と断言されている。
「ずいぶん酷い初依頼だけど、どうしてコレを選んだのかしら?」
「日本人だから鬼退治しようとぉ……」
「山猫も? 山猫と日本人、関係ないわよね?」
「関係あるもん。猫をモフるのは日本人の本能だもん」
「モフるだけで済むの?」
「うん! クンカクンカまでが本能だよねぇ。臭いのが可愛いんだよぅ。きゅんきゅんきゅい!」
 問い詰める北条・佳奈美(ka4065)と上気して答える北条・真奈美(ka4064)の別の意味でアブナイ会話。
 ほらほらほら! 臭さにお墨付きがついちゃったよ。どうしよう。

 営林地と空き地の境、予め想定した配置に就く。
 周囲に邪魔は居ない。静架の索敵が、新たな闖入者によって被害が拡大する恐れが無いことを保障する。外出している気配は無い。二体とも作業小屋の中でしょう。屋外も周囲警戒から挟撃の危険を除外する。
 おそらくは暖を求めて住み着いた山猫と亜人。
 昨日の今日で交代で見張りはしても、出歩きはしなかったのは幸いか。



 破れた窓と外れかけのドア。その隙間から覗く青い鬼──

「やあやあ我こそは覚醒者、モカ・プルーム也! 尋常に勝負致せい!」
 空き地にモカがまろび出て高らかに名乗りを上げる。
 杖を向けるその直前に瞬脚で移動するモカに、イラついた青鬼がドア陰からの攻撃を諦め外に出てくる。単独の敵と侮ってか、警報を放ち先行する青鬼が充分モカに気をとられた隙──!
「援護させていただきます」
「大惨事にならないように援護するのは任せて欲しいかな。って……」
 青鬼の脚部を静架、屋外の矢と弾丸が阻み……
 警戒支援を失ったドアから真奈美と佳奈美が小屋に強行突入を果たす。
「はぁう! すンごい臭い! 猫ベッドと雄ベッドが一体化なんて素敵だよぅ!」
「それどころじゃないわよね? わかってるわよね?」
 はぅう! はぁうぅ!
 ひとしきり乱闘の気配が続き、ドアが蹴り破られ赤鬼に追われた二人が敗走する。
「ひぃ! お許しください!」
 莫迦、なにいつもの癖だしてんのよ。亜人が聞くわけ無いじゃないのよ。ドタバタと嗜虐心と闘争心の両方を煽るように北条姉妹コンビが抵抗を続け、赤鬼は青鬼の警報に応える機を逃したまま、営林との境界に向け小屋前の空き地を追っていく。
「背面もらい!」
 瞬脚で空き地を駆けたモカが更にランアウトを乗せすれ違いざま! スラッシュエッジで毛皮に斬りつける。するりと毛皮がずれる。落ちる前に赤鬼が振り向きざまの斧をモカに振り下ろす。
「きゃっ!」
 連携と距離計算を甘く見ていた。モカはギリギリ射程内だった青鬼のウォーターシュートに足をとられた。それでも剥いだ。最低限の役目は果たした。
 カン! 金属同士がぶつかる硬質な乾いた音。
「あのな。女性に無体な真似すんじゃねぇ。同じ斧使い同士、俺と勝負しろってこった」
 ……ニヤリ。
 戦斧「アムタトイ」。守悟が、赤鬼の斧を受け止めていた。
 挟撃態勢はできたぜ。いったん剥いだらこっちのモンだ。毛皮の効果もあとは減退するだけ。もっとも……俺にはそんなこと関係ねぇけどな。守悟の不敵な笑み。

 支援相手が居なければ、2体連携なんて先細りになるだけ。
 まず数を減らす。
 ターゲットは御しやすい赤鬼!

 ──だが。
「え? ちょっとこれ、どうしよう?」
「戦うなら背後を狙え。コッチはお譲さん達が凝視するモンじゃねぇ!」
「それもなんだけど、毛皮が守悟さんに向かってるんだけど、どうしようって……ねぇ、ちょっと……えぇえええ!?」
 パンツを剥いたらどうなるか?
 剥ぎたてホカホカの毛皮への警戒は出来ていた。体色の残る亜人も恐れるに足らず。しかし、亜人のモロ出しの股間と開放されたばかりの臭気を孕む熱気は、森の少女には刺激が強すぎ、リアルブルー人の初仕事には新鮮すぎた。
 うら若き乙女3名が一瞬、ホットゾーンに意識を奪われた隙。その僅かな時間に、赤鬼との応酬を繰り広げる守悟の身体へ毛皮が絡み付いていた……
「えーっと、恵方巻きと比べて……いやん!」
「マナ姉……何と恵方巻きを比べているの?」
「いや……だから……守悟さんに毛皮が」
 危険な臭いの発生源が至近に2つ。ひとつは亜人の中心に存在感を示し、もうひとつは今や守悟に絡みつきその行動を阻害にかかっている。
「大丈夫だ! このくらいなら慣れている!」
 ……慣れているんだ!?
 乙女3名の連想が何か誤解してはいけない方向に目覚めかける。
 鳶の現場はなぁ、洗濯物が冬でも塩味なんだぜ? 安全靴と皮手袋の臭いを競い合いながら納豆巻きだって食える。そんな愉快な仲間と過ごしてきたんだ。知っているか? 灼熱の太陽とアスファルトが照りつける東京砂漠をよぅ……。命綱に身体を預け、下肢に食い込むハーネスの頼もしさ。ああ、忘れられるもンかよ……
 大丈夫ではなかった。鳶職一筋、武神 守悟。地の文で独白しているはずが口からダダモレだった。しかも口調が恍惚としている。乙女の興味ひきつけまくりである。
 それでも丁々発止と斧さばきをみせるあたりが只者ではない。特定の臭気耐性と混乱中の行動ベクトルが。
「ぁあん。ちょっと羨まし……危ないよぅ! 毛皮はあたしが引き受けるから!」
「何が羨ましいって? アレかしら? あの小汚いモノかしら?」
「命を託しあう仲間って火照るぅ。あたしも仲間の痛みも苦しみも分かち合いたいよぉぉお!」
 萌えシチュに北条姉妹が反応する。
 ……えーっと。これは真奈美さんが毛皮を相手にするから引き剥がして投げて、って事でいいんだよね?
(そういうことだから!)
 力強い佳奈美の頷きが、モカの問いにバッチコイと誘っている。
 守悟が一瞬、赤鬼に押し込まれ、両者の間隔がわずかに開いた。
 体色の減退が進めば新人ハンターにも勝機はある。その機を逃さず──

 佳奈美は赤鬼の股間に、必要以上に怒りを込めてチャクラムを投擲し。
 真奈美はそれを避けてたたらを踏んだ赤鬼を、ノックバックで距離を作り。
 モカは呼吸を止めて毛皮を守悟から力ずくでひっぺがして放り投げた。

 びたん。
 宙に待った毛皮は生臭い一陣の風とともに湿った音を立て真奈美にクリーンヒット、勢いそのままに絡みつく。
「……俺は懐かしい仲間と一緒に鬼と戦っていた気がする」
「うん。知ってる。それより早く相手の数を減らさないと!」
 そういえばそうだった。守悟が我に返る。モカの指差す先。青鬼と戦う静架と屋外の図る戦力減退作戦は、片方の亜人の速攻殲滅からの反転攻勢を前提に策定されている。毛皮は北条姉妹に任せ、一刻も早く赤鬼を屠り、二人の元へと加勢に行かなければ!

「やんっ! 凄っ! ……きっついよぉ!」
 引き剥がされ不随意のまま真奈美の身体に叩きつけられた毛皮は、乗っ取りのやり直しとばかりに真奈美の身体をまさぐっていた。
「んぁっ……やめて……そこは違う穴ぁ」
「何処よ? え? 言ってみなさいな。けしからん毛皮におしおきをしてあげるから。マナ姉にも同じ場所にあとでおしおきしてあげるから!」
「耳の穴の周りは駄目ぇ」
 ビシッバシッ!
 とても豆を投げる音とは思えない剛球の打撃音が周囲に響き、僅かに体色の残る赤鬼と、真奈美に纏いつく毛皮と、真奈美自身がその鋭い音に身をわななかせる。
「大丈夫……カナちゃんのお豆が痛気持ちいぃっ!」
 きっと、相方の攻撃なら耐えられるから頓着無く亜人を倒せ。そういう事だろう。
 モカは一足先に青鬼──静架と屋外の加勢に向かい、守悟は今度こそ赤鬼を仕留めるために斧を振り下ろした。


 少し時を遡る──

 赤鬼をまんまと誘引され、それでも距離を保ち更なる支援攻撃をハンター達に向けようとした青鬼の足を、静架のヒイラギ製の矢が地に縫いとめる。
 ビクリ!
 遠目からでも判るほど青鬼が引き攣る。
「単なる牽制射撃では魔法攻撃を許してしまいましたが……身体に覚えさせれば怖さを思い知るのではないかと。そう思いましてね」
 1対2。だが、歪虚の影響を二重に受けた状態の亜人だ。単純な弱み狙いだけでは隙をひねり出すのが精一杯。目に見える脅威。静架の矢が、次こそ目を射抜こうかと青鬼に見せ付けてつがえられ、屋外の首に下げられたペットボトルがじゃらり……と豆の音を響かせる。
「このまま十字砲火を食らわせられれば楽なんでしょうが……」
 屋外もアサルトライフル「ヴォロンテAC47」を誇示して青鬼に向ける。
 亜人との距離、数メートル。この距離が詰まらない限り屋外のライフルこそが牽制用。ブラフなのだ。高性能の銃だが近接が身上の屋外に、この距離を穿って青鬼を貫く自信は──無い。

(優先は、敵戦力の減退。で、変わりありませんね?)
(おそらく次は、我々を相手に魔法と射撃の打ち合いになります。万が一、1対1に陥るまえに、時間経過で減退する能力支援の元を断ってしまわないと……)
 静架と屋外のアイコンタクト。狙いは臀部。射線は恫喝をたたえ青鬼からはずさない。
 どちらに来るか……奴の視線が物語るはず。
 青鬼はハンター二人の斜め背後、赤鬼の戦況を伺い、静架の持つ弓を伺い、屋外の銃を伺い──
 先攻を期し距離を一気に詰めた十字砲火で毛皮落下に動いた屋外へ、その杖を向けてきた。
「え? こっち?」
 銃の良し悪しがわかるほど、この亜人の目は鋭くはなかった。
「ガチ近接いきます!」
 奪われ乱射されては厄介だ。屋外は咄嗟にライフルを後方に投げ捨てて、元より近接上等と得物をナイフとダガーの二刀流に切りかえる。脳内BGMが戦闘用に転調した。
「威嚇射撃……」
 静架の行動宣言をうけ、屋外はランアウトからのマルチステップ。魔法発動の所作を見切りそのまえに一際大きく脚を運ぶ。
 じゃん!
 着地にペットボトルの豆が鳴り、一瞬びくつく青鬼の腰布に斬りつけ、返す刀で引き剥ぎ奪う。成功か!?
 いや。僅かなミス。
「剥いじゃったの、素手でした……」
 嗚呼! 剥ぐなら義手のほうでと決めていたのに!

 生暖かく湿った感触が屋外の素手の腕を伝い、服の合わせ目を探し這い上がる。
 慌てて踏んだたたらが意図せぬ豆の音を出す。きゅっ! と毛皮が締まり、プッ! と、何かが洩れ出る音がした。
 静架が何か叫んでいるが、屋外の頭は酷く混乱し、目は青鬼の股間に釘付けだ。
「……哀棒、地味すぎるぜ」
 亜人もオスなら毛皮もオス。漏れ出た臭腺がオスの香りを振りまく。覚悟以上のショックが屋外の思考を股間周りに固定する。
「くっ……見苦しいですね」
 流石に脳内までは慮れない静架が、屋外の茫然自失と混乱の理由を亜人の体型に呆れたせいだと推測する。それほどまでになんというか、青鬼の体型はなんだかムカつく亜人界のオマエラだった。
 これも完全減退するまでの辛抱だ。攻勢反転を機に、あのたるんだ腹と埋もれた股間にありったけの銃弾を叩き込みたい。静架にとって亜人といえど絞りを放棄した肉体は許しがたい。

 その時。
「その毛皮。いますぐ剥がれろー!」
 温存していたモカの豆つぶてが地面を鳴らす。
 瞬脚からのスラッシュエッジ。モカの渾身の増援が、屋外から毛皮を引き剥がす。
「遅れてすまん」
 守悟の声に即応し、静架の牽制射撃が亜人を止め斧撃による瞬殺につなげる。
 歪虚化していたのは幸いだった。美学に反する醜さが消え去っていくのだから。
 ──残るはモカが剥ぎ取った毛皮。
「臭っさ!」
 人間、いやエルフも超越した臭気の前では、無意識に涙がでるらしい。モカは涙目で毛皮をブンブン振り回す。隙あらば服の合わせ目からの侵入を狙う毛皮を振り払いながらも逃がすまいとする苦肉の策で、臭気が周囲に振りまかれる。
「自分に投げなさい!」
 静架の声。え? え? 静架さんもアッチの人? ああいうの好きな人?
(しかも脱いでるし! 無駄にイイ身体しているし!)
 ままよと投げられた毛皮は下着一枚の静架の引き締まった身体にへばりつき……その直後、脱いだ衣類を手袋代わりにした静架にあえなく毟り取られる。
「自分の下着は黒のシルク製ブーメランと決めています。毛皮など敏感肌の敵は滅んで頂きましょうか?」
 服を着ていなければ合わせ目から侵入され剥がす苦労もありますまい。さあ、今度こそ十字砲火を浴びせましょう。正気に戻りライフルを回収した屋外に静架が促す。
 冬の林に銃声が響いた。



「厭な事件でしたね……」
 守悟が近くの水源から汲んできた水で、屋外は洗濯に精を出す。
 応える静架とモカの声は虚ろだ。
「ショックで立ち直れない……」
 どうやらペットに嫌われたらしい。臭いが抜けるまでは抱っこはお預けだろう。
「洗っても洗っても臭いよ。バニラの香水持って来るんだったよ」
 この臭いのままじゃ街を歩けそうにない。

 そういえば最初の大山猫の歪虚化の原因を確かめたほうがいい筈だ。
「もう我慢できなぁい! 絶対怪しいのはあの小屋の猫ベッドだから!」
「マナ姉の探求心を鎮めるには舐めるような徹底調査が必要ね……」
 追求が激しすぎて、小屋が壊れんばかりに鳴動してるのは気のせいだろうか?

 うん。壊してしまおう。あの小屋は。壊れてしまったハンターたちのように、もう悲劇が起きないように。
 え? 壊れてるの元から? ……嗚呼!

依頼結果

依頼成功度成功
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MVP一覧

  • アークシューター
    静架ka0387

重体一覧

参加者一覧

  • アークシューター
    静架(ka0387
    人間(蒼)|19才|男性|猟撃士
  • 落とし穴にハマったで賞
    モカ・プルーム(ka3411
    エルフ|11才|女性|疾影士
  • 守る物・失う物
    武神 守悟(ka3517
    人間(蒼)|22才|男性|疾影士
  • 心を守りし者
    屋外(ka3530
    人間(蒼)|25才|男性|疾影士
  • 能力者
    北条・真奈美(ka4064
    人間(蒼)|21才|女性|霊闘士
  • 艶色夜顔
    北条・佳奈美(ka4065
    人間(蒼)|21才|女性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 作戦相談卓
北条・真奈美(ka4064
人間(リアルブルー)|21才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2015/02/09 01:40:29
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/02/05 06:45:17

 
 
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