戦場のアマリリス~ふるさと

マスター:深夜真世

シナリオ形態
イベント
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/09/18 07:30
完成日
2019/10/01 00:40

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●これまでのお話とこれからのお話
 ポカラという村がありました。
 同盟領の奥の奥にある田舎の村ですが、丘の上にあり石造りの建物が並ぶなど立地にそぐわない立派な場所でした。
 数年前、大型の歪虚「パルサラス」に襲われ壊滅。歪虚は建物の破壊を優先していたようでハンターの活躍もあり人的被害はほぼありませんでした。
 後日、理由が判明。
 実は、村の地中深くに歪虚「嫉妬王ラルヴァ」の腕が眠っていたのです。
 大型の樹木型歪虚が壊滅後に駐屯部隊のみ残っていた同所を急襲し、占領。根を地中に伸ばし掘り起こしてラルヴァの腕を掘り当てます。大樹歪虚はハンターの活躍により討伐されましたが、腕は回収されました。
 残された村の跡地は、建物だけではなく地中深くまで引っ掻き回されてしまいました。地下水脈やら地盤やらまで根こそぎやられた形です。
 完全な、壊滅。
 しかもこれだけにとどまらず、森の奥からさらに歪虚が攻めて来ます。
 森の奥に相当マイナスマテリアルがたまっていたのでしょう。
 しかし、ポカラ村跡地付近に留まっていた監視部隊がハンターの援軍を呼びながら抵抗を続けるうち、森の奥からラスボスである浮遊城「パレスクリスタル」がやって来ました。
 これを激しい戦闘の末、撃破。
 通常では考えられない量のマイナスマテリアル――森の奥に溜まっていたほとんどの量でしょう――が、この時消滅したのです。
 その後、森の奥から歪虚の侵攻はありません。
 この機会に、丘の上から川沿いに場所を移した新しい村として、本格的にポカラを復興させることになりました。
 旧ポカラに駐屯していたアマリリス商会のモータルは、同商会が買い取り運営するセル鉱山から旧ポカラ村民と同鉱山から有志を募り、復興作業に着手するのでした。
 新しいポカラ村は、森から木を切り出し材木として売る林業の村とする予定です。
 なぜなら、アマリリス商会代表のアマリリスことアムの正体は、新興船舶業マッケレル商会の家出した令嬢、アムアリス・マッケレルだからです。父の事業との連携はもちろん、東方との交易活性化を見越して需要の伸びる造船業への進出を視野に、村の経済面を支えるつもりなのです。
 そして、村の復興作業の第一段階である簡易住宅と役所、復興広場が完成したことで祝勝会を兼ねた復活祭が開かれることになりました。
 もちろん、ハンターたちも招待すべく、オフィスに関係者の招待案内が届くのでした。


●それぞれの物語
 そのころ、フラ・キャンディ(kz0121)は。
「フラは、これからどうするんじゃ?」
 蒸気工業都市「フマーレ」のチョコレート専門店「チョコレート・ハウス」のテラス席でフラの後見人、ジル・コバルトが聞きます。
「どうする、ってどういうこと?」
「故郷のエルフの隠れ里に戻るのか、それともこのままワシと一緒に暮らすのか」
 ココアを飲んでいたフラが聞くと、ジルは優しい瞳で言い直します。
「戻れないよね。ボク、『百人目のエルフ』として期待されて旅立ったんだから。村の代表として立派に生きて……」
「その、『立派に生きる』とは?」
「え?」
 フラ、ぐるぐる考え始めました。答えは出ないようで、難しい顔をし始めましたね。
「それじゃ、いまやってみたいことは何じゃ?」
「あの人のこと、知りたい。みんなのことも。故郷のこと教えてもらって、いつか行ってみたいな!」

 そこのころ、南那初華(kz0135)。
「リアルブルーに戻るかこっちに留まるか……それで、どう答えたの?」
 極彩色の街「ヴァリオス」の一角で自転車修理屋台を開いていた自称「戦場詩人」のダイン・グラマンが聞いています。前回の依頼のお話のようですね。
「好きでこっちに来たわけじゃないけどこっちで一生懸命やって来たし……でもお父さんとお母さんのことは心配だし……」
 街角屋台「Pクレープ」で生地を混ぜていた初華、どっちつかずな様子で答えます。
「どうしていいか分からなくて……泣いちゃって……倒れそうになったら助けてもらっちゃった」
 えへ、と顔を上げます。ちょっと涙目。
「仲間がいるっていいことだね。みんなにもどうするか聞いてみたらどう?」
「う、うん。……じゃ、ダインさんは?」
「流れ者に故郷はないさ」

 そのころ、イ寺鑑(kz0175)。
「鑑さん、招待状が届いておるぞ」
 農業推進地「ジェオルジ」のどん詰まりにある寒村「タスカービレ」の領主、セコ・フィオーリが鑑に手紙を差し出します。
「……ああ、この間の戦いの祝勝会ですか。お祝いなら特産品を持って駆けつけましょう」
 というわけで、タスカービレ特産のチクワとハウスワイン「レ・リリカ」を持参することにしました。

 そのほか、レイン魔法美術塾生にも招待状が届けられます。
 美術塾、その後指導者のレインが出資者に「一流のハンターと絵描きはもちろん、魅力的な女性にすることを教育指針にします」と説得して成功したみたいですね。生徒たちは辞めずにすんでいます。

 というわけで、当日はアマリリス商会の主要メンバーもそろいにぎやかに飲食を楽しむことになりそうです。

リプレイ本文

●昼の部
 穴が開き壊滅した旧ポカラ村の丘の下、川の近くの平原で音が響く。
 復興の槌の音だ。
 その中にハンターの姿も。
「何とかの為ならえーんやこーら、てな」
 アルト・ハーニー(ka0113)だ。
 愛用のハンマーの重さを生かし、道路となる地面に振り下ろして叩き作業をしている。村の土台となる、地盤固めという大切な作業だ。
 そこへ霧雨 悠月(ka4130)がやって来た。
「アルトさん、頑張ってるね。水分補給も忘れずに」
 差し入れの水筒を手渡す。
「壊されたんなら作り直すだけさね」
 受け取ったアルト、そう返す。
 水筒に口を付け空を仰ぐ。
 彼自身、何度埴輪を壊されて作り直したろうか――。

「先生、お願いします!」
 別の場所では作業員が木材に線を引いて場所を開けていた。
 先生、と呼ばれた人物がぬっそりと前に出てくる。
「そこですか……」
 ハンス・ラインフェルト(ka6750)である。
 左腰の聖罰刃「ターミナー・レイ」に手をやり鯉口を切る。
「ッ!」
 言葉に出ない気合とともに抜刀一閃。引かれた線に沿って綺麗に木材を斬り落としていた。
「お見事です、シャッツ」
 横から穂積 智里(ka6819)が出てきて切り落とした端切れを拾う。
 そして腰を上げた智里。
 首を巡らせ周囲を見る。
「……何だか復興してきたって感じがしますね、シャッツ」
「東方もそうやって……おや」
 言葉を返したハンス、智里の見ていた方にいる人物に気付いた。
「よし、それでいい。この建物はタスカービレの道場のようにログハウス風に造る。その程度でいい」
 そこではイ寺鑑(kz0175)が青竜紅刃流門下生の指揮をして建物を造っていた。
「あそこに居るの、イ寺さん達みたいですね、シャッツ。寄って行き……あ」
 智里が振り向いた時にはすでにハンスは歩き出していた。
 で、近寄った。
「イ寺さんはこちらへ出張道場でも?」
「ハンスさん、久し振り。……いや、そんなに人材は育ってないですから」
「人材育成ですか……」
 ハンス、空を見た。智里は横で首をひねっている。
 そこへ、ディーナ・フェルミ(ka5843)が駆け寄って来た。
「鑑さん、手伝いに来たのー」
 何やら抱えたバスケットに瓶やら弁当箱やらが入っているようでがちゃがちゃと音がする。
「ディーナ、いつもありがとう」
「にへへー。……え、怪我した人がいるの?」
 到着早々、ディーナの出番である。

 そんな光景を、フラ・キャンディ(kz0121)が少し遠巻きにしてみていた。
 手には、バスケット。中身は空だ。隣ではアマリリス商会の元石工、メイスンが先ほどまではつり作業をしていた石に座って水筒に口を付け小休止している。
「あそこはもう差し入れがあるみたい、かな?」
 そこへ弓月・小太(ka4679)が駆け寄って来た。フラと同じくバスケットを持っている。中身は、空。
「フラさん、僕の方も終わりましたよぉ」
「ええと、あらかた終わりかな? 本部に連絡しないと」
「そ、それじゃ僕が知らせて来ますねぇ」
「あ……いっちゃった。一緒に行こうとしたのに」
 走り去る小太の背中を見て残念がるフラ。
 が、追わなくてよかった。
 悠月も戻って来たのだ。
「こっちも終わったよ」
 悠月のほうも水筒を配り終わっていた。
 そしてもう一人。
「やっほー、暇潰しに私も来たわ」
 キーリ(ka4642)である。
 なお、この人はバスケットを持っていない。というか、来たばかりのようで。
「キーリさん、来てくれてありがとねっ」
「何言ってるの、フラっち。今日の私はオフなのよ」
 手伝うわけないじゃない、な感じに胸を張るキーリ。二人の間に立っている悠月は、あー、始まった、な感じで眺めている。
「えーっ。でもみんな頑張ってるのに」
 フラ、キーリのだうなーな感じのやる気をアゲようと声をかける。
「じゃ、何を手伝えばいいの?」
「あ……ええと、いま小太さんが聞きに行って……」
「何だ。それまでフラっちも待ち時間にサボってんじゃない。ゆっきーも休んでることだし」
「え?! 休んでるわけじゃないんだけど」
 悠月、とんだとばっちり。
「ぼーっと立って何もしてないじゃない」
「向こうでひと仕事終わったばかりだから」
「ほら、休んでるんじゃないの」
 ――がしゃん、がしゃん。
 ここで魔導型デュミナスがやって来た。
「何? ここでみんなしてサボってんの?」
 開けたハッチから顔を出し天竜寺 舞(ka0377)がツッコミを入れる。
「サボってんのはゆっきーとフラっちだけ」
「えーっ!」
「フラさん……」
 悠月、フラに肩ぽむ。
「ま、しっかり働いてよ。あたしはあっちに行くから」
 舞はそう言い残すとハッチを閉める。
 隈取などド派手な歌舞伎調装飾をしたデュミナス「弁慶」(ka0377unit001)が走行モードで加速する。しばらく人のいないところまで走るとアクティブスラスター、オン。宙に浮いたところで一瞬滞空。
「出力、バランサー、オールグリーン。本格的にカッ飛ぶよ!」
 コクピットで叫んだ舞、スラスターをフルバースト。
 一気に加速して建築現場に飛んでいった。

 一方、小太は役所に向かっていた。
 そこでは都市整備計画会議本部が置かれていた。
「あ、あのぅ」
 小太、アマリリス商会代表のアムにフラが受けていた水分補給の任務完了を報告。
「そうですか。では、そろそろ夜の祝勝会兼復活祭の準備が必要ですので、その伝令を頼みます」
「わ、わかりましたよぉ」
 アムの隣に控えていた執事のバモスに言われ頷く小太。
「こんにちはぁ、お手伝いに来ましたぁ」
 この時ちょうど星野 ハナ(ka5852)がやって来た。
「フラさんや悠月さんたちと各所に伝令ですぅ」
「祭の準備ですかぁ。私も頑張りますよぉ。……じゃ、初華さんのところには私が伝えますねぇ」
 というわけで小太とハナが出て行く。
 入れ替わりに天竜寺 詩(ka0396)が入って来た。
「アムちゃん! 久しぶり」
「あ、詩さん。元気だった?」
 アム、詩の来訪に喜んだ。久闊の挨拶を交わし手を取り合う。
「アムちゃん探しの時からかかわったけど、アマリリス商会も大分大きくなったね」
「セル鉱山買い取ったのが大きかったわね……詩さんには、山師の持ち逃げ事件の時に特にお世話になったわ」
「そこからはアムちゃんたちが事業を軌道に乗せたんだよね」
 駆け抜けてきた冒険を振り返る。詩はその後のアムの屋敷の護衛などもこなしている。
「しばらく見ない間はどうしてたの?」
「今度エトファリカ連邦の南に広がる未開の大地へ行く事になるかもしれない……かな」
 東方での話である。
「ふうん、やっぱりそっち方面はこれから盛り上がりそうね」
 関心のある話のようで、アムは真顔であった。
「何時かアマリリス商会と取引する事があるかもしれないからその時は宜しくね」
「もちろん。頼りにしてるわ、詩さん」
 笑顔の詩。アムも笑顔で返すのだった。
「じゃあ、私は天照とメイスンさんの手伝いに行くね」
 そういって外にいるイェジド「天照」(ka0396unit001)を指差した。

 そのころ、南那初華(kz0135)は飲食店街予定地で復興の手伝いをしていた。
「えーっ。石釜って、そんなにこだわるものなのーっ!」
「そうだね。レンガを積んでおしまいじゃないみたい」
 驚く初華に静かに言う鞍馬 真(ka5819)。
 真、この辺りで作業を手伝っているようだ。
「……先に造っておかないと夜の祭でピザを焼けないそうだ」
 同行するユグディラの「シトロン」(ka5819unit004)、隣に控えて口元に手を当てて主人を見上げていたが、真の新たな言葉にこくこくと頷き初華にアピールする。
「どーしよ。メイスンさんたちの石切り場までは遠いし、ここには建築資材分しかないから余分なレンガはないし……」
「初華さん、そういう時は輸送し隊にお任せなんだよ」
 狐中・小鳥(ka5484)がちょうどやって来て初華に助け舟を出す。
「ホント? 良かった。それじゃ建築資材分を先に使って、小鳥さんの持ってきた分をその補充にしよっ」
「了解なんだよ!」
 小鳥、元気に言って駆けだそうとして……振り向いた。
「そういえば初華さん、リアルブルーの話はどうするの?」
「え?! ええと……小鳥さんは?」
「これからも輸送し隊として復興の為の物資輸送や、奏唱士隊として皆を笑顔にする為にこっちで歌っていくかな……いろんなところで」
 清々しく言い放つ小鳥。初華は目を丸めている。
「どんな時でも笑顔を忘れず、皆に笑顔を届ける為に」
 それを横目で見て、明るく続ける小鳥。
「自分が笑顔でいればきっと皆も笑顔になってくれると信じて……笑顔で元気に、時々失敗するけど、それでも前向きに生きていく」
 歌うように言葉をつなぎ、くるっと回って見せる。
 再び初華に向き直った時、にこっと笑った。
「それが私の生きる道! ……なんちゃってね♪」
「……小鳥さん、すごいよ」
 初華、涙を浮かべていた。仲の良い仲間が、まっすぐ芯も強く生きて行く様を目の前にして感動していた。
「初華さんが今後どうするにせよ、自分で決めた事ならそれが一番正しい事だと思うんだよ♪」
 言い残して仕事へと走り去る。
「ありがとう、小鳥さん♪」
 感謝の言葉と入れ替わりに誰かやって来た。
「初華、がんばってるね!」
 時音 ざくろ(ka1250)である。
「復興の手伝いって聞いてやって来たけど、こういうのっていいよね。新しく何かが生まれて、そこからまた感動や幸せがたくさん生まれるんだから」
「そうだね」
「初華もリアルブルーが故郷だよね? ざくろは、こっちの世界で暮らしていこうかなって」
「あ。……そうなんだ」
「何ていうか、ほら。日本に帰るとお嫁さん沢山で法律が……」
 聴き入った初華に、ざくろは思わずわたわたと両手を振る。
「そっち……てっきり冒険はまだこれからだ、とかかと思った」
 いいぞ、初華。もっと突っ込んでやれ!
「でも、時期を見て両親に会いに行かないとって思ってるんだけどね。沢山のお嫁さんとか……孫紹介したらびっくりされちゃうかな?」
「えええっ!」
 すっかり両親は大切にしなくちゃとか良い人感に浸っているざくろ。赤くなって頬をぼりぽりかいてる横で初華がガガン!
 この人、将来あの数の嫁さんを紹介する気かッ?! ご両親卒倒しても知らんぞ!
 なお、真はこの時初華に何か言いたそうな視線を向けていたが、長くなりそうなので作業に戻っていた。とてとてとシトロンもそのあとをついて行く。仕事熱心というかなんというか。
 真、先ほどまで作業していた仲間に伝える。
「今あるレンガを使っていいという許可をもらってきた。組み上げるのを手伝おう」
 というわけで、石釜造り開始。
 やがてあらたかた組みあがる。
「これで良し。あとは……シトロン?」
 額の汗をぬぐう真の横を抜け、シトロン石釜の内部に入っていく。小さい体なので窯の内側の出来具合を確認するのに適任だと判断し率先して行動したのだ。
「ありがとう」
 相棒の行動に微笑し感謝する真だった。

 この時、小鳥は馬車を借りて輸送業務に向かっていた。
「あれ? どうしたのかな、かな?」
 途中で丘にたたずむトリプルJ(ka6653)に出会った。
「いや、ちょっとな」
 J、言葉を濁す。
 そして復興の進む村を見る。
 胸中に去来するのは、前回の初華の様子だった。
(初華が泣いた、か……)
 RBから転移してきた奴らは帰りたいヤツらばかりだと思っていた。
 両親がRBにいる初華は帰りたいに違いないと思っていた。
 ドジで頑張り屋な初華のことは気にかかっていた応援したかった。
(……違ったな)
「一人前にゃ、一人前の接し方がある」
 初華にはこっちで成し遂げたものがたくさんある、それもまたいいだろうと思ったのだが……。
 涙と抱き止めた時の重さがまた蘇った。
「……まだ一人前のちょい手前、ってやつかな」
 頭をぼりぼりかく。物思いにふけっていた時は二枚目だったが、あっというまに三枚目に戻った感じだ。
 そこへ、追加のレンガを積んだ小鳥が戻って来た。イジェドの「天照」に乗った詩と馬にまたがるメイスンも一緒だ。形を整えた石を引き、「助かりました。一人では何往復することになったか」、「力になれたならうれしいです」と話している。
 その時、小鳥がこちらに気付いた。
「あれ? どうしたのかな?」
「セリフが前と同じじゃねぇか、小鳥。ちょいと乗せてくれ」
 返事を待たずひょいと御者席の横に飛び乗るJ。二枚目である。
「言葉は同じでもさっきより安心して聞いてみたんだよ」
「そっか。小鳥は心も運べるいい輸送隊になるな!」
「そうなれればいいんだよ」
 小鳥、笑顔で元気になったJを運ぶ。

 時は遡り、デュミナスの弁慶。
 ――どしん、ざざざ……。
「到着っ!」
 舞が建物の建築が進んでいる現場に着いた。
 見回すとモータルがビルドムーバーで柱を立てる作業を中止してこちらを見ている。
 早速弁慶のハッチを開けて顔を見せる。
「よーすモータル。しばらく会わない内にまた背が伸びたんじゃない?」
「舞さん! 今日は戦闘はないですよ」
 モータル、馴染みの顔を見て笑顔。ついでに軽口をたたく。
「気にはしてたけど大変みたいだったね」
「まあね。でもこれで歪虚はいなくなったみたいだし、ようやく一安心だよ」
「力になれなかったな……その分今日は働かせてもらうよ」
 そういって舞が魔導鋸槍の機械音を響かせる。
 建材に当てるとたちまち粉砕した小片を散らし、やがてあっさりと一本採寸通りに切ってみせる。
「よし、強力な援軍だ。早めに切り上げて祭の手伝いに回るぞ!」
「おお!」
 舞の作業を意気に感じたモータル、部下の士気を上げた。
(それにしても)
 舞、それを見て物思いにふける。
(初めて会った時は確か酒蔵の中で縛られてたんだったか。それがいつの間にか立派になって。お姉さん嬉しいよ)
 村人にも信用されず一人ぼっちだった少年が、今ではこうして部下を持つ。
 そればかりか、最終決戦前に部下の身を案じ解散を命じたが、戦闘後にはちゃんとこうして戻って来ている。
「よし、あたしも負けてらんないね」
 改めて気合を入れて作業する。


●夜の部
「初華?」
 J、飲食店街予定地に着くと壁に半身に隠れつつ手招きして作業中の初華を呼んだ。
「Jさん、来てくれてたんだね」
「まーな」
 壁に隠れてそんな会話。
「その、Jさんは戻るんだよね?」
「ああ。……俺ぁ最初から、何十年かかろうがRBに帰って軍にまた奉職するのが目的だったからなぁ。帰れるようになりゃ勇んで帰るぜ?」
 そんなJに瞳を大きくして見直す初華。
「まあ泣くほど悩むなら、初華はこっちでクレープ屋続けりゃいいんじゃね? お前はこの手に、こっちでなくしたくないもの山のように掴んだんだろ?」
「うん……私、向こうで学生してたから何もないの」
 もちろん友達とかいたけどこっちにもたくさんできたし、と続ける。
「そうか。……俺もな、さっき帰りたいって頑張ってた奴に告白してきた。急すぎて駄目だろうがそりゃそれだ。1番やりたいことやりゃいいと思うぜ」
 あ、と初華。
 恋が破れた少女の瞳。
「そうよね……私なんか……」
「あー、俺もドジで頑張り屋な初華のことは好きだったからな。こっちでお前を支え続けたいって奴ぁたくさん居ると思うぜ」
「そう思う?」
「そう思うんだ。でないと前に進めねぇ。……俺も軍に戻れるかどうかは不明だが、目的はブレねぇ」
「うんっ!」
 最後に、Jは胸に秘めた決意を口にした。その姿は二枚目。男の瞳である。
 初華、元気を取り戻した。抱いた淡い恋心も、この顔を見たら仕方ないと感じたようだ。

「ふうっ」
 持ち場に戻った初華、作業を再開しようとしたら隣に誰かが座った。
「ちょっといいかな?」
 真だった。
「石釜、もういいの?」
「シトロンが頑張ってくれてね」
「そうなんだ。えらいね、シトロンちゃん」
 微笑み合った後、真の口調が変わった。
「……私も、同じだよ」
「え?」
 不意に振られた言葉に初華が振り返った。
「前回倒れかけたらしいね……どうしたら良いか、わからないんだよね。帰るか、留まるか」
「うん……」
 初華、まだ自分の中にブレない何かがあるわけではない。
「私も、記憶も無いのに今更リアルブルーに戻る意味はあるのかなって。それに、ハンター以外の生き方は知らないし」
「えーっ。真さんが悩むなんて信じられない~」
 いつもまっすぐじゃない、と初華。
「目的がはっきりしてれば。……最終的にはハンターとして働き続ける未来を選ぶとは思うけどね」
「ずっと?」
「ワーカーホリックだしね。目の前にほかの道は、ない」
 切り開いてきた真の己の道がそれなのだと感じ、初華は押し黙った。
「色んな人の話を聞いて、いっぱい迷って、それから道を決めたって遅くはないよ。私みたいなおじさんと違って、きみはまだ若いのだから」
「えーっ。真さん、おじさんじゃないよぅ」
 真の冗談で初華は笑顔を見せた。

 その後、初華はまた知人を見つけた。
「初華さん、夜の準備を始めてくださいって指示が出ましたよぉ~」
 ハナである。
「あ、そか。そろそろ本格的に準備しないとね」
「初華さんはお好み焼きです? クレープですぅ?」
「今回はのんびりするー」
 この様子にハナ、少し怪訝そうにする。
「あれ、ウーナさん?」
 初華、ハナの視線から逃げたところ別の人物を発見した。
 ウーナ(ka1439)である。ミントグリーンの袖なし上着をひらめかせ、同色のビキニ衣装ミニパレオ装着な感じの軽装で……こそこそ隠れるように腰をくねらせていた。
「あ、何でもないよ」
 ウーナ、手を振ってどこかに行った。
「ほへ? 何だったんだろ」
 それはそれとして。
 新たに役所前広場ににぎやかな一団がやって来た。
「ふふ、今から楽しみだね」
 悠月が夜の準備を見てにこにこしている。
「ええと、ボクたちも何か手伝いを……」
「手伝いたくてもゴーレム連れて来てないのよね。うん」
「ここでゴーレムの出番はないような気がしますよぉ」
 フラとキーリと小太も一緒だ。
「……想えば随分歩いたな」
 ここで悠月がしんみり言った。
 目の前には復興途上の新しい町並み。
 傾いた陽の光は温かく、影は長く長く伸びている。
「あ、何か飲み物でも……」
「フラさん、そうじゃないですよぉ」
 現実的な対応をしようとしたフラを小太が止めた。
「たしかに、全員揃ってここまで来れたってのは凄いわね」
 キーリも悠月の見る光景に染まっていた。
「此処に来てよかった。親友も沢山できたしね」
 悠月、言葉を続ける。
「親友……」
 フラも遅ればせながらしっとりした気分になった。隣に小太が寄り添う。
「だから……」
 悠月、意を決したように振り返る!

 そして同じころ。
「ええと。水浴びはこっち……だったかな?」
 鑑、先に汗を流すことにしたようだ。タオル着用で水浴びの個室に入る。
「鑑さん、にゅふふ~」
 そこへタオル姿のディーナも入室。狭い中に強引に割り込み、早速上のバケツを傾ける紐を引く。
 ざばーっ、と二人が水浸し。
「ディーナ、こら」
「鑑さんあのね……」
 濡れて肌に張り付く前髪に、うるうると細められる瞳。抱き着くしかない狭い空間で、すっとディーナがつま先立ちをする。
「ディーナ……」
 艦もその気になった。優しくくびれた腰に手を回す。それを感じたディーナが小さな顎をうんと伸ばした。
「大好き」
 どーん、と祭りの開始を知らせる花火が上がったのは、二人の唇が合わさった瞬間だった。
 が、その時ッ!
「きゃーっ! 祭り始まっちゃう~」
「早く水浴びしないと!」
「レイン先生は?」
「向こうの男性用でしょ? 男女用が近いとまずいでしょ!」
「それはそうね……」
 レイン美術塾の少女たちが水浴びにやって来ていた。
「そっかー、アルトセンセ―もあっちなんだね~」
 ヌリエもいるようで。
 それはそれとして。
「鑑さん?」
「か、風邪ひかないようにしないと……」
 鑑とディーナ、もうしばらくこのままだ。

 そして日没。
「だから……」
 悠月が言葉を紡ぐ。
 先ほどとは違い、祭り会場全体に響くような音量だ。マイクとスタンドがかがり火や照明に反射しきらりと輝く。
 ここは、祭り会場のステージの上。屋台が外周を囲む役所前広場には、作業を終えた多くの人が集まっている。
「だから! ……皆に出会えた感謝を含めて、僕にも……僕たち『リラ・ゼーレ』にも歌わせて欲しいんだ!」
 ブシュー、とステージ前の仕掛け花火が火花を上げた。
 ――ダダダン、ダダダン……。
 これを合図にフラがドラムでリズムを取り始めた。
「と、得意なのは雅楽ですがぁ」
 小太がギターでリードする。
「ほら、アンタもリラ・ゼーレでしょ。私たちの本領を発揮するんだから、舞台に上がって盛り上げるわよ」
 キーリは真とシトロンをホラホラと舞台に上げた。
「きみは何を演るんだい?」
 引き上げられた真がキーリに聞く。その横ではシトロンがベースを担当する。
「あたしはキーボードっていうの? それをほどほどにして後は踊るわ」
「それならいいさ……私はこれで」
 演奏に真の笛が加わった。
 これでメンバー集合。
 繰り返される前奏が重厚になったところで悠月が会場に呼び掛けた。
「じゃ、いくよ……この間、故郷で覚えたとっておきのをね!」
 本格的にAメロに入った!
 激しいリズム。
 力強い歌声。
 元気と勇気をわき立てる歌詞。
 小太が激しくピックを手繰りコードを追いながら小節ごとに上体を揺らす。
 フラはダダン・ダダダ……と全身を使い乱打。
 真は横笛を吹きつつ身体を揺らしスイング感を出す。
 シトロンはしっかりと曲のモティーフを奏で続ける。
 繰り返した前奏で皆が同じリズムを刻む。同じメロディーに乗る。
 あるいは、復興もふるさとも似たようなものかもしれない。
 そこに、悠月の情感をのせた声の響き。
 歌詞の思いが届くように。音域の妙が伝わるように。
 楽しく。
 激しく。
 美しく。
 激情のアクションで。
 情熱の歌唱力で。
 やがてキーボードの音が抜けた。
 キーリが空を舞ったのだ。
 おおっ、と観客が上を向く。
 空を見上げろ明日を見よ、と悠月の歌声。空に突き抜けるような怒涛の演奏がさらに盛り上げる。
 が、キーボードがない分、物足りなくなった。
 ここで、ざくろ!
「後は任せて。フラ、よろしくね」
 空いたキーボードに入る。
「みんなの故郷のために、素敵な思い出も作るよ……未来へ踏み出す為に!」
 ざくろの演奏が加わり、人々は安心してまたキーリに視線を戻した。
 時は秋。
 空に満月に近い月が上り始めている。
 そこに皆の視線を招くように、キーリが空を舞う。
 それを役所となる建物の窓からアムたちアマリリス商会のメンバーが。
 ステージからはリラ・ゼーレのメンバーが。
 屋台からはハナたちが。
 そして広場から多くの元住民たちが見上げた。
 皆が、一つの月を――同じ方を向く。
 復興に向かって。
 これからに向かって。

「すごかったね」
 役所から見ていたモータルがリラ・ゼーレの演奏を見て心を弾ませていた。
「モータル君たちもすごいよ。それに、初めて会った頃から随分逞しくなったよ」
 詩、この場を作ることになったのはモータルたちの旅だと微笑。成長した姿にうんうんと頷いている。
 が、少し口調が変わった。
「でもね、『危ない橋を渡る』って君の信条を否定はしないけど、何時か言ったように命を粗末にする事だけはしないでね。君にはもう沢山の仲間がいるんだから」
「うん……」
 詩、モータルが素直に頷いたので思わず破顔した。昔ならこうはいかなかったろう。
 ここで舞が立ち上がった。
「それじゃあたしたちも行こうか」
「え?」
 見上げるモータルにステージを差す舞。
「何時だったか花見で踊ったけど、その時よりもっと綺麗になってるからな。惚れるなよ?」
 というわけで、ステージには舞と詩が上がった。しっとりした登場に、先ほどよりぐっと音量を落とした優しい拍手が響き渡る。
 しとやかな化粧に着物姿の舞と詩。けっして派手な衣装ではない。
 やがて詩の清らかな三味線の調べとのびやかな長唄が響いた。
 それに合わせ、舞が扇をびらりと広げてひらめかせる。
 その軌跡を追う視線は哀愁を帯び、また三味線も晴れやかな調べで舞の舞踊を際立たせていた。
 優雅に、華麗に。
 これが、日本の舞踊の「鶴亀」。
 これこそが、天竜寺家の神髄。
 故郷への帰還と新たな村の繁栄を祈る舞いと調べ。
 まるで人々の心に染み渡るように。
 迷ったときに立ち返り再び立ち上がる心の支えとなるように。

「どうよ。言った通りだろ?」
「うん、良かった」
「惚れ直したろ?」
「惚れ直した惚れ直した」
 舞い終えて戻った舞のドヤ顔に、モータルは苦笑しながら頷いた。
「あーお腹空いた」
 モータルの様子に満足し食い気に走る舞。雰囲気ぶち壊しだ。
「お姉ちゃん、なんだかもういろいろ台無し……」
 そんな姉に詩、がっくり。

 さて、初華はこの時。
「あれ、アルトさん?」
 アルトとレイン美術塾生のチビッ娘、ヌリエが一緒にいるのに気付いた。
「いや、いい子でねぇ」
 アルト、ヌリエの頭をぽむぽむ。ヌリエの方は嬉しそうににこにこしている。
 あ。ヌリエ、顔を上げたぞ?
「ねえ、アルトセンセ―。これってどうしてこっちに売ってないの?」
「おでんか? そうさねぇ、リアルブルーの国の、故郷の味だからじゃないかねぇ」
 とかいいつつ自分もおでんをパクリ。
「そういえばアルトさんも帰れる立場なのね」
「そうさねぇ……でも、今後もこっちで適当に埴輪作ったり時々冒険したり、かねぇ。こっちなら生きた埴輪いるし」
「埴輪が理由……」
 初華、汗たら~。
「埴輪、面白いよねっ♪」
 ここでヌリエが無邪気に言ってくる。
「ヌリエはいい娘さねぇ……どれ、手作りのを一つあげよう」
「わあい。ありがと、センセ」
「な、なんって素直なの。埴輪なのに」
 初華、楽しそうに埴輪を受け取る姿に汗たら~。
 で、あらためてアルトがヌリエに尋ねる。
「何やら知らない間にあったようだが進路は決まったのかねぇ?」
「ボク? 美術塾、実はお嫁さん塾だったんだって。なんだかいろいろ学べていいよねっ」
 生徒の親たちの陰謀、この娘には関係なしのようで。
「ま、自分で考えて決めたなら、後は後悔しないよう頑張るだけさね」
「うんっ。だからセンセ―、これからもボクにいろいろ教えてね」
 抱き着いたヌリエを撫でてあげるのだった。

 一方、初華は首を傾げる。
「でも、どうしておでんがここに?」
 原因はすぐに分かった。
「練り物や玉蒟蒻、卵や昆布やじゃが芋、大根、肉はモツと牛スジもありますよぉ~」
 ハナの声が屋台から響く。
 で、初華に気付いたハナ、屋台を手伝いの人に任せてやって来る。
 手には味噌と辛子、カツブシ粉をかけたおでんの入った器。
「初華さん、どうぞですぅ~」
「なんでおでん?」
「そろそろあったかく一杯っていったらこっちかなぁって思ったんですよねぇ。おでんなら好きな物好きな数だけ食べられますしぃ」
「一杯?」
「あ、これは温かい甘酒ですよぉ。ノンアルコールですぅ~」
「完全に故郷を懐かしんでるみたいね~ハナさん」
 初華の言葉にハナは表情を変えた。
「初華ちゃん結局、どうするんですぅ」
「お父さんとお母さんが心配だけど……ハナさんは?」
「私はこれからもCWでハンター続けてくのでぇ、依頼があったらどんどんお願いしますぅ」
 あ。
 ハナ、周りの人にもおでんを振る舞い始めた。
 で、ディーナと鑑が歩いているのに気付いた。
「鑑さ~ん、結婚式やる時は呼んで下さいねぇ」
 遠くのディーナと鑑、にこやかに手を振っている。

 そのディーナと鑑、屋台料理を抱えて役所の裏に歩いて行った。もぐもぐしながら。
 実は先ほどまでは東方茶屋でチクワを焼いて販売などしていたのだが……。
「私、食べ専だけど……か、鑑さんが屋台するなら、手伝うの」
 ディーナ、しばらくはそんな感じで真面目に働いていた。
 が、手は動いているのだが道行く買い食い客を見ては口開けて涎垂らしかけたりぼーっとしたりする。
「ディーナ、少し休憩してきたら?」
「え、でも、え……うん、急いで買って戻ってくるの」
 鑑に言われて遊びに出ると、ダッシュで各屋台の看板料理を買って両手に抱えて戻って来たので、青竜紅刃流の門下生に鑑ともどもしばらく休憩してきてはと気を遣われたのだったり。
 でもって今、役所の裏に。
 同時に人影が立ち上がる。
「鑑さん、こっち来るの見えたから」
 そこにはウーナが待っていた。
 鑑、知ってたよと優しい瞳。
「その、ディーナちゃん、鑑センセと結婚式やるんだっけ?」
「そうなの。もっと落ち着いたら3人で結婚式したいの。来てくれるかどうかは別にして、みんなをタスカービレの温泉宿にご招待したいの。あとね、一度鑑さん達と一緒にうちの開拓村に行きたいかな。親にね、鑑さんのこと紹介したいの」
 おずおず話し出したウーナとは裏腹に、ディーナはにこぱとまくしたてる。
「三人で?!」
「あー……。故郷じゃそういうの不味いけど、ここならね。っていうかウーナ、タスカービレに戻ってこいって」
 鑑、驚くウーナの視線に照れ交じりで話し始めたが、最後は有無を言わさず言い切った。
「そりゃ戻るよ。ちゃんと帰る。でも……」
 ウーナ、視線を落とした。
「あたしの体、いじられて滅茶苦茶だからさ」
 ごにょ、とごまかした。本人証言と断片的な記憶によると、CAM操縦に特化した一種の生物兵器研究の実験体の一人だったらしい。
「私も、剣の強さを証明したくて故郷を出た間に無くなるし滅茶苦茶だよ」
「私も滅茶苦茶なの。親は宗教に走った放蕩娘って諦めてると思うの。兄妹も多かったし」
 ウーナ、二人の必死の慰めに、顔を上げて吐き捨てるように言い放った。
「そうじゃなくて体がさ……もう赤ちゃんも産めないかもしれないんだよ?! ……二人を苦しめるかも」
 ただ、最後はばつが悪そうに横を向いた。
「ウーナ」
 鑑の真剣な様子。はっと正面を向くウーナ。
「それでも、家族だよ」
「家族……その、いいの?」
「いいよ」
 ウーナ、それでも表情が硬い。
「でも……」
「ウーナは、どうしたいんだ?」
 鑑、逆に聞いた。
「……」
 ウーナは言葉が出ない。でも、口は「傍にいたいよ」と動いた。
「もう、故郷や大事な人を留守の間に失うことはしたくない。今度は、私が待つ番だ」
「でも……そんなのでも、いい…?」
「家族だ。いいに決まってる」
 そんな、が何かは問わない。
「……」
 ウーナの視線に、闘いの日々が蘇えった。遠い記憶として。口は動いたが、何と呟こうと舌かは分からない。
 これを見て鑑が言葉を重ねた。
「いつでも戻ってくればいい」
「いつでも……いつかでも?」
「ああ」
 鑑の返事に、ウーナの表情がようやく緩む。

 ここでハンスが声をかけた。
「落ち着いたところで失礼します。私はもう少ししたら拠点を詩天……東方に移そうかと思っていたのですが」
「あ、あれ? シャッツ?」
 智里も一緒だったが、明らかにおかしいハンスの様子に慌てている。
 鑑、それと分かって何も言わず刀の柄に手を掛けた。
「でも北征や南征があるのに完全に引っ込んでしまうのも勿体ないような気がしましてね……どうせなら一勝負、と思いましたが……やはりいいですね、イ寺さんは」
 にやりとハンスも刀の鯉口を切る。
 言わんとしていたことが伝わる幸せ。それを感じてにまりと笑む。
 やがてにらみ合った。本気だ。
「イ寺さんまで?! ディーナさんも止めて下さい~」
 慌てた智里だが、二人はすっと構えを解いていた。殺気も消えた。
「斬られた気分はどうですか?」
「その一撃、斬り墜とせたと思いますがね」
 どうやら二人は立ち合いで、撃ち合いとなったと想定したようだ。ハンスはこちらが速かった、と。鑑はその一撃を初撃で墜とした、と。
「分かりました。じゃ、続きはまた。……私は智里さんと詩天で新居を構えることにしましたので、是非一度お越しください。貴方も東方がお好きでそんな格好をしているのでしょう?」
 それだけ言って立ち去るハンス。「ええ、いずれ」と鑑。
 これで緊張は解けた。
「これ、どうぞなの~」
「えと、あの…はい。またタスカービレには行ってみたいと思ってますから。呼んで下さいね、結婚式。それに詩天に来た時は寄って下さい」
 ディーナにおでんのおすそ分けをもらいぺこりと一礼する智里。
 すぐにハンスの後を追う。
 いや、振り返った。
「……立花院家主導の南征、オフィス主導のレクエスタ、世界はまだこれから広がっていくんですから、私達がやることもやれることも、世界にはいっぱいあるんじゃないかと思います」
 改めて世界の広がりと愛する人との冒険に胸を膨らませ、微笑する。
「鑑さん。これからはずっと一緒だよ」
 ディーナはその姿を見送りながら、鑑と手をつないだ
 
 そしてほかの人々。
「それにしても、全員揃ってここまで来れたってのは凄いわね。故郷とか帰る気しないけど、ちょっぴりセンチメンタル」
 キーリがしみじみしている。
「そうだね。みんなで冒険とか舞台とか駆け抜けたよね」
 悠月はそういってお酒をくいっと飲み干した。夜風に髪をなびかせいい感じに出来上がっている。
「んー、そうねー」
 キーリもくいっ。こちらは少しセンチメンタル。
「……」
「何よ、ユッキー。不満でもあるの?」
「そうじゃないけど」
「嫌な予感がするならフラっちを見張ることね。泣き上戸なんだから」
「あ、フラさんならぁ……」
「この甘酒っての、美味しいね♪」
 小太が気に掛けてノンアルコールを飲ませていた。
「そうだ、皆も一度はリアルブルーに来なよ。僕、案内するからさ」
「ゆっきーの方が酔ってるじゃない。いきなりそんなこと言い出して」
「今夜はちょっと深めに酔ったかな? ほら、まだまだ踊り続けるつもりなんでしょ?」
「いいわね。カロリー消化」
 悠月とキーリ、皆が踊り始めた舞台へと行く。
「あの、フラさん。ちょっとあちらに行きませんかぁ。静かな場所にぃ」
 悠月はフラを誘った。
 手をつないで、二人きりで月が良く見える場所へ。
「月、綺麗だね。よく森の中で一人で見上げてたけど……」
 フラ、一人ぼっちで旅をしていた時を思い出したようだ。
 これで小太のスイッチが入った!
「あの、フラさんっ!」
 両手を握り、目を見て意を決し……。
「え、えっと、もし良ければ一緒に旅、しませんかぁ? その……東方の実家にもフラさんを紹介したいですしぃ。これから家族になる大切な人としてぇ」
「うん……」
 一瞬、これって結婚申し込みではぁ……と感じて真っ赤になりわたわたしたが、フラの小さな唇から言葉が出ると、真顔になった。
 そしてフラを抱きそっと唇を、重ねた。
 愛しさとこれまでの思い出を重ねつつ。
 フラは、ん、んと息を詰まらせながらも小太に必死に抱き着き、初めての体験に涙を浮かべていた。
「……うん。もう、一人ぼっちじゃないんだね」
 嬉しさの涙である。
 小太、もう一度唇を重ねる。

 そして初華。
「ねえ、聞いて!」
「初華さん、どうしましたぁ?」
「わ、何だ!」
 おでん屋台に駆け込みちょうどそこにいたハナとJに宣言する!
「私、こっちで頑張る。……お父さんに会いに行くんじゃなくて、お父さんが会いに来てくれればいいのよ。私がこっちで立派にやっているのを見に!」
「そうか。よし、それじゃお父さんの名前は?」
「瀬川潮。あっちで作家してるの!」
「いつかこっちに来てくれるといいですねぇ」
 Jは立ち直った初華に笑い、ハナはその日を祈るように月を見上げる。

 その月の下、宴はまだまだ続くのだった。

依頼結果

依頼成功度大成功
面白かった! 200
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • ヌリエのセンセ―
    アルト・ハーニー(ka0113
    人間(蒼)|25才|男性|闘狩人
  • 行政営業官
    天竜寺 舞(ka0377
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士
  • ユニットアイコン
    ベンケイ
    弁慶(ka0377unit001
    ユニット|CAM
  • 征夷大将軍の正室
    天竜寺 詩(ka0396
    人間(蒼)|18才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    アマテラス
    天照(ka0396unit001
    ユニット|幻獣
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 青竜紅刃流師範
    ウーナ(ka1439
    人間(蒼)|16才|女性|猟撃士
  • 感謝のうた
    霧雨 悠月(ka4130
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • メテオクイーン
    キーリ(ka4642
    エルフ|13才|女性|魔術師
  • 百年目の運命の人
    弓月・小太(ka4679
    人間(紅)|10才|男性|猟撃士
  • 笑顔で元気に前向きに
    狐中・小鳥(ka5484
    人間(紅)|12才|女性|舞刀士

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    シトロン
    シトロン(ka5819unit004
    ユニット|幻獣
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • Mr.Die-Hard
    トリプルJ(ka6653
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士
  • 変わらぬ変わり者
    ハンス・ラインフェルト(ka6750
    人間(蒼)|21才|男性|舞刀士
  • 私は彼が好きらしい
    穂積 智里(ka6819
    人間(蒼)|18才|女性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/09/17 15:58:29